あるもの探しの旅

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2010/06/27

食べるコーヒー「エスプレッソ・ドライ」

エルブジ × ラヴァッツァの新食感を仙台で
 @ バル・ミュゼット

 華麗なカフェ文化が息付くトリノを代表するコーヒー会社と、世界で最も予約が取れないといわれるレストランがコラボした史上初の食べるエスプレッソ「Espesso エスペッソ」にインスパイアされた新メニュー「エスプレッソ・ドライ」が、仙台市泉区桂のカフェ「Bal Musette カフェ・バル・ミュゼット」に登場しました。直訳すれば乾燥したエスプレッソといったところでしょうが、フリーズドライのインスタントコーヒーなどでは決してありません。

Espesso_cuppucino.jpg

 変化してやまないコーヒーの最先端を求めてオーナーバリスタの川口 千秋さんが昨年トリノを訪れた際、国内で半数近くのシェアを占めるイタリア最大のコーヒー会社「Lavazzaラヴァッツァ」がプロデュースする「San Tommaso 10 サン・トンマーゾ・ディエチ【Link to web site】」に立ち寄りました。1895年に創業した地番をそのまま店名にしたそのカフェレストランで出合ったのが、2012年から2年間完全休業することを今年1月に宣言し、波紋を呼んだスペイン北部カタルーニャ州「El Bulli エル・ブジ」のオーナーシェフ、フェラン・アドリアとLavazza が2002年に共同作業で創作したムース状の食べるコーヒー、Espesso エスペッソです。

【photo】イタリア・スペインの合作による史上初の食べるコーヒー「èspesso エスペッソ」。エスペッソ・カップチーノ(上写真)とエスペッソ・マッキアート(下写真)。この通りどちらもカップを倒そうと、上下逆さまにしようとも大丈夫

Espesso_macciato.jpg

 Espresso エスプレッソとイタリア語で「濃厚な」を意味する言葉 spesso スペッソを掛け合わせたEspesso は、亜酸化窒素入り専用ボンベに封入したエスプレッソに独自の調合を施し、ムース状にしたもの。さまざまな食材をムース状に加工する技術Espuma エスプーマは、奇才フェラン・アドリアが開発した調理法として知られます。Lavazza 直営のSan Tommaso 10 では、穴のあいた専用のスプーンと共にèspesso cappuccino エスペッソ・カップチーノ、èspesso macciato エスペッソ・マッキアート、èspesso alle spume aromatizzate エスペッソ・アッレ・スプーメ・アロマティザーテという3種類の味付けで楽しむことができます。

espresso_dry.jpg Bal Musette では、Lavazza の èspesso cappuccino を再現したスペイン語で「泡」を意味するEspuma 状の生クリームとエスプレッソをハーフ&ハーフにして「エスプレッソ・ドライ」という名前で提供しています。取っ手が三日月のような曲線を描く特徴的なフォルムのグラス製オリジナルカップは、五感でスペシャルティ・コーヒーの世界を楽しんでほしいと願う川口さんが、仙台市青葉区定禅寺通にショップを構えるガラス工房スガハラに発注して誕生したハンドメードのBal's table バルズテーブルと呼ばれるラインです。

【photo】ガトーショコラ(350円)のディップとしてもピッタリなエスプレッソ・ドライ(写真奥)

 川口さんによればコーヒーの味を凝縮した濃厚なエスプレッソにふわっとした食感とクリーミーさが加わったエスプレッソ・ドライは、エスプレッソが苦手だという方にも好評を博しているといいます。カッフェ同様に並外れて美味しいキッシュやフォカッチャが頂けるランチ(ドリンク付 980円)のドルチェとして、またはガトーショコラ(=トルタ・ディ・チョコラータ)のディップソース代わりとしてのみ、今のところは提供しています。今後は単品メニューとしてエスプレッソ・ドライを独立させることも検討しているそうです。

freddo_shakerato.jpg 【photo】バル ミュゼットのフレッド・シェケラート(650円)

 世界最高のレストランとの呼び声が高いエルブジのエッセンスを取り入れた独創的な固形カッフェと共に、これからの暑い季節にオススメしたいバル ミュゼットの新メニューが、イタリア伝統のCaffè freddo カッフェ・フレッド(=冷たいエスプレッソ)のひとつ「Freddo Shakerato フレッド・シェケラート」。イタリア式にほろ苦さと同時に甘さをしっかりと表現するため、エスプレッソにグラニュー糖を加え、氷と共にシェーカーに入れて10秒ほどshakerare(=シェーク)したものです。

 二粒のコーヒー豆を浮かべた細やかで分厚いクレマに覆われたフレッド・シェケラートは、自ら産地に出向いて最高品質の豆を直接買い付け、焙煎・ブレンドまで一貫して行う稀少な店、青葉区広瀬町の「Cafe de Ryuban カフェ・ドゥ・リュウバン」のカプチーノと並ぶ私の愛飲アイテムになってくれそう。ゆっくりと喉を潤しながら落ちてゆく感覚と濃厚なカッフェの豊かなアロマが、けだるい夏の日盛りを甘美な至福の時にきっと変えてくれることでしょう。

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la casa del caffè Bal Musette カフェ バル ミュゼット
住所:仙台市泉区桂4-5-2
TEL / FAX:022-371-7888
営 : 11:00~22:00 (日祝~19:00) 木曜休
URL http://www.bal-musette.com

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2010/06/06

孟宗尽くし 〈後篇〉

北限の孟宗筍を食べ尽くす@湯田川温泉

anecha2_2010.5.jpg【photo】鶴岡市羽黒町高寺は赤川対岸の谷定・滝沢・湯田川などの金峰山周辺、新潟県境の鼠ヶ関に隣接する旧温海町早田(わさだ)に次ぐ南庄内における孟宗筍の産地。5月を迎えた同町狩谷野目の産直「あねちゃの店」には、缶詰加工用の孟宗が山と持ち込まれ、一人当たりの年間消費量が日本一といわれる孟宗好きな庄内人の一面がうかがえる

 保存用の缶詰に加工するため持ち込まれる孟宗が店の外にうず高く積まれ、豊富な山菜で溢れかえる店内。全国各地にあまた産直はあれど、山菜シーズンになると山の豊かさを物語るこんな稀有な光景が毎年見られるのは、鶴岡市羽黒町の産直「あねちゃの店」です。そこから素材を調達している「アル・ケッチァーノ」初夏の人気メニュー、月山筍の生ハム巻フリット風に自宅で生ハムを巻いてフェンネルとともにオリーブオイルで揚げて塩で食する月山筍(ネマガリタケ)が出始めていることを確認し、佐藤 典子店長に「明日また来ますね」とお伝えして店を後にしました。

anecha_2010.5.jpg

 すぐ近くの「竹の露酒造場」で仕入れたのは、一升瓶入りのミネラルウオーター「月山深層天然波動水」として昨年商品化された超軟水の仕込み水です。仙台在住ながら月山・鳥海山のおかげで良水に恵まれた庄内の伏流水が飲料水のおよそ8 割を占めるという特異な事情を抱えた我が家。浄水器を設置してもなお、ダムの水では飽き足らないのです。

【photo】食の都・庄内のショールームさながらの「あねちゃの店」。天然キノコが店頭に並ぶ秋と並んで、孟宗ほかさまざまな山菜〈⇒ コチラ をクリックで拡大が揃う 5 月~6 月は、奥深いこの店が一層輝きを増すワンダーランドと化す

 水を確保したうえは、普段使いのパスタメーカー、イタリア・アブルッツォ州の「DE CECCO デ・チェッコ」と並ぶ私の二大カロリー供給元を訪れなくてはなりません。お米を購入するため、4kmほど離れた竹の露酒造場と同じ月山水系の下流域に水田がある「井上農場」に向かいました。寒さのため平年より10日ほど遅れているという田植えの手伝いで、ご主人の井上 馨さんとご長男の貴利さんはご不在でしたが、自宅に伺って二種類の特別栽培米各5 kgを入手、私が庄内系たるゆえんの四方四里はおろか、四方一里で水とコメを調達しました。

soma_takenotsuyu.jpg【photo】一般には流通しない「竹の露ササニシキ純米吟醸」

 田植え作業中にお邪魔した「月山パイロットファーム」の民田ナス特別仕様辛子漬などの入手困難な漬物類は、こちらが購入を申し出た3倍の量が入っており、いつもながら申し訳ないやら有難いやら。作付けする特別栽培米ササニシキの一部を竹の露酒造場に醸造を委託、創業者の相馬 一廣さんが、夜な夜な晩酌用に楽しまれる「竹の露 ササニシキ純米吟醸(非売品)」まで土産にと2本頂いてしまいました。こうして竹尽くしの様相をすでに呈しながら湯田川に到着した時、時刻は17時30分を回っていました。

 あわただしい日常に追い立てられる体を優しく解きほぐしてくれる独特の柔らかな湯ざわりは、入ってよし飲泉してよしの湯田川温泉ならではのものです。7年前、1年間だけの山形在任中に相当数をこなした県下の温泉の中で、最も気に入ったのが、すべての入浴施設が源泉かけ流しという贅沢極まりない湯田川のシルキーなお湯でした。ますや旅館の檜風呂で一息ついた後は、お待ちかね孟宗尽くしの夕食の時間です。

 これまで幾度となく投宿してきたますや旅館ですが、いつも夕食は外で済ませるために、宿の夕食を頂くのは今回が初めてでした。アク抜きの必要がない地物の孟宗をさまざまに調理した旬の献立が所狭しと並ぶ夕餉は、期待に違わぬものでした。
masuya_2010.5cena.jpg

◆孟宗尽くしの膳 (クリックで拡大画像を表示します)
焼物・・・サクラマス・孟宗焼
刺身・・・・鯛・タコ・さっと湯がいて冷水に浸した孟宗
・あんかけ・・・胡麻豆腐・梅そうめん・百合根
煮物・・・孟宗・鶏もも・一口こんにゃく・サヤインゲンの赤唐辛子入り醤油煮
揚物・・・孟宗・山ウド・だだちゃ豆の唐揚
焼孟宗・・・ホイル包み焼した生孟宗
・おかみ乃おへぎ三品
       孟宗・キュウリ・きくらげの胡麻ドレッシング和え
       孟宗の姫皮・山ウドのカレー風味炒め
      生わらび生姜添え
・香物・・・白菜・キュウリの浅漬
masuya_kappozake.jpg汁物・・・孟宗汁 鍋仕立て
ご飯・・・薄皮入り孟宗ご飯
・デザート・・・メロン・イチゴ

【photo】ますや旅館の「かっぽ酒」。竹の露 純米酒をお銚子代わりの竹の節に開けた穴から中に入れて燗をつける。鹿威し(ししおどし)のように斜めにされた太竹の中で竹の香りがついた燗酒を、竹の枝で作ったお猪口で頂くという孟宗の里ならでは風情ある呑みかた

 デザートを除く12 品中9 品が孟宗料理という、孟宗に始まり孟宗に終わる文字通りの孟宗尽くし。質実剛健の気風が息づく城下町・鶴岡らしい虚飾を排した料理のしつらえといい、湯田川ならではのお膳にふさわしいとお願いしたのが、「竹の露 純米酒」のかっぽ酒でした。かっぽ酒は切り出した青竹の節に一カ所穴を開けて、中に酒を入れて直火で燗をつける湯田川らしい飲み方。自前の竹林を所有するますや旅館では、青竹の香りが溶け出した燗酒を竹のお猪口で頂くという風流な演出で美酒を楽しめます。注文を受けてから若女将のご主人である齋藤 良徳 専務が竹林へと向かい、剣豪・宮本武蔵も顔負けの見事な切り口を金ノコで仕上げた孟宗竹のかっぽ酒をご用意いただきました。

 翌朝 5 時30分、山でひと仕事終えてきたという齋藤専務とともに竹林へと向かいました。目的はもちろん朝採りの新鮮な孟宗。実は20日ほど前に右足首のじん帯損傷(部分断裂)という結構な重傷を負っていたため、筍掘りを断念しようかとも思ったのですが、絶好の筍掘り日和に恵まれたため、テーピングで固めた足で竹林へと向かいました。食への探究心はいかなる痛みにも勝るのです。温泉街の南端にある山の北東斜面がますや旅館の広大な竹林です。前日の夕方のうちに、めぼしいに場所に立てておくという目印が斜面のあちらこちらに立っています。筍掘り専用の小型の鍬を手に、朝露に濡れた粘土質の滑りやすい斜面を不自由な足で登り始めました。

dig_it_moso.jpg taketori_masuya.jpg saito_senmu.jpg
【photo】4時30分から収穫を始めたというますや旅館の齋藤良徳専務は次々と孟宗(中写真)を掘り出す(右写真)ウチの娘も孟宗掘りに挑戦(左写真)

 地元鶴岡から訪れる日帰りの食事客が多い日曜日のため、4時30分に一足早く山に入ったという齋藤専務は、すでに60キロあまりの孟宗を一時間弱で収穫していました。私は右足の踏ん張りが全く利かないため、地下茎から生えている孟宗の根を掘り出すために、おのずと上半身のみの力に頼ることになります。粘土質で滑りやすい斜面の移動も思うようにはいきません。いやはや、これは腰にこたえました。もたつく私をよそに齋藤名人は次々と孟宗を掘り出し、あっという間に肩に掛けたケースが一杯になってゆくのでした。

saitou_senmu2.jpg 【photo】足元がおぼつかない私がやっとの思いで1本掘り出す間に、少なくとも5本は収穫する齋藤名人。あれよあれよという間に肩にかかるケースは孟宗で埋め尽くされていった

 それでも家族3人で1人では両手に持ちきれないほどの収穫を得て宿に戻ったのが 6 時30分すぎ。宿と隣り合わせの船見商店とその先のJA鶴岡湯田川出張所の前には人だかりができていました。ちょうど朝掘りの孟宗が持ち込まれ、宿泊客らがそれを買い求めようと集まって来ていたのです。朝7時前だというのに、整理券を配って入場制限をしているJA鶴岡の中はさながらバーゲン会場のような熱気が渦巻いていました。

 朝風呂で汗を流した後、朝食に出た汁物は昨夜の孟宗汁とは違って、厚揚げと生椎茸が入らないザク切りの孟宗だけが具として入った孟宗汁。エグミの無い湯田川孟宗の美点を味わうにはピッタリでした。masuya_asajiru.jpg金峰山を挟んで湯田川の北東側には滝沢・谷定といういずれ劣らぬ孟宗の産地があります。ここでは個人的な好みは申しませんが、庄内の孟宗と出合って7年目の経験から、産地ごと微妙な差異があるように感じます。

【photo】ひと仕事終えて戻ったますや旅館の朝食に用意される孟宗汁には、定番の厚揚げと干しシイタケが入らずに、これでもかと言わんばかりにざく切りの孟宗が。旬の産地ならではの贅沢な一杯

 まだ雪が残るうちにチッソ系肥料を散布する手入れが行き届いたますや旅館の竹林。収穫後は翌年の収穫を左右する地下茎の手入れのため、三大栄養素の補給を心掛けるのだといいます。収穫が少なかった昨年と比べ、今年は冬場の大雪で根元から竹が折れる被害が出たり、寒さが響いて孟宗の出が遅かったものの、涼しさが幸いして6月に入っても一日100キロ以上の収穫があるそうです。間もなく今年の孟宗シーズンも終わりを告げるでしょうが、年間を通してきめ細かく竹林の世話をしなければ、美味しい孟宗は採れないと齋藤さんは言葉に力を込めるのでした。

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ますや旅館
 鶴岡市湯田川乙63
 phone:0235-35-3211
 URL: http://www.yu-masuya.com/

◆ 宿泊者限定「孟宗掘り体験」 / 「おかみ乃おへぎ」については
湯田川温泉観光協会
 Phone:0235-35-4111
 URL:http://www.yutagawaonsen.com/
  1:湯田川温泉 孟宗掘り体験
  2:おかみ乃おへぎ
    でご確認を

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2010/06/05

孟宗尽くし 〈前篇〉

北限の孟宗筍@湯田川温泉

fujisawa_primavera.jpg 筍(タケノコ)という字は「竹」の「旬」と書きます。地ものの筍は、せいぜい一カ月ほどの間にだけ食することができるまさに旬の味。名産地といわれる鹿児島・福岡・京都・静岡など、その優劣はさておき、採れたての新鮮さが味の決め手となる極めつけが筍です。掘りたてを生のまま薄切りにして砂糖醤油にさっと浸して口に含むと、リンゴのように爽やかな香りが鼻腔をくすぐります。これは、はるばる産地から陸送された挙句に鮮度が落ち、外皮が黒ずんでえぐみが出た筍では到底味わえない産地ならではの醍醐味と言えるでしょう。

【photo】5月中旬に訪れた鶴岡市湯田川に隣接する藤沢地区の孟宗竹林。タケノコがニョキニョキ頭を出した竹林の先に広がっていたのは・・・(下写真へ)

fujisawa_primavera2.jpg【photo】昨年10月末に実施した「食の都・庄内 豊かな実りと癒しのバスツアー」【Link to back number】で畑を訪れた藤沢カブが、今年も種を付けるべく花を咲かせていた。ツアーにご参加頂いた方は、拡大画像が開くコチラをクリック プリーズ。ニホンミツバチが蜜を吸おうとしきりに飛び交う黄色く染まった山中の畑へワープできます

 京都出身の芸術家・料理家であった北大路魯山人(1883-1959)は、著書「魯山人味道」(中公文庫)で「関東のそれは場違い」と切り捨て、「洛西の樫原が古来第一」と述べています。日本画家・東山魁夷(1908-1999)が描いた「夏に入る」(1968 市川市東山魁夷記念館所蔵)を転写したかのような美しい竹林が残る京都府西京区樫原や塚原では、地表から頭を出す前の柔らかな「白子」と呼ばれる孟宗筍を一級品として扱います。現在の京都府西京区一帯は、都市化が進んで魯山人の時代とはすっかり趣を異にしていますが、郊外の里山に残る竹林を大切に守る人々の心は、今も脈々と受け継がれています。

 いささか贔屓目のきらいがある魯山人の意見には、世に言う京都人としての顔が見え隠れします。この考えを「短見」であると真っ向から異を唱えているのが伊藤 珍太郎(1904-1985)です。酒田市の名家に生まれ、上智大卒業後に講談社編集局勤務を経て満州に渡り、シベリア抑留ののちに昭和34年から酒田市の助役を12年務めた人物です。郷土史家・随筆家としての顔を持つ生粋の庄内人は、名著「庄内の味」(庄内の味刊行会 1974年 / 改訂版 本の会 1981年)で、孟宗筍についてこう触れています。

gusti_shonai.jpg

 孟宗は、特に味の真価をその鮮度に託しているものだから、掘りたての「地もの」の土の乾かぬうちに料理したものを味わってこそ、互いにその真価ははかられる。はるばる輸送のはてに八百屋の店先などに並べられたのでは、もはや産地はどこぞと問う要もない。 とどのつまり掘りたての味を知らずして、軽々に産地の優劣など語るなかれということです。その上で比較の味ではなく絶対の味においてこれ以上はそう望めない一流のものと断言するのが、産地としては北限にあたる南庄内の孟宗です。タケノコといえば庄内では孟宗筍を指し、単に孟宗と呼び習わします。

JAyutagawa2_10.5.jpg 【photo】故郷・鶴岡を離れ、東京で30年を過ごした藤沢周平が、食べ物の旨い土地から、さほど旨くない土地に来たことをようやく気付かせてくれたという序文を寄せた改訂版・庄内の味(上写真)
 JA 鶴岡湯田川出張所には、湯田川と藤沢・黄金・大泉といった近隣の生産農家80軒ほどが早朝に収穫した新鮮極まりない孟宗を持ち込む(下写真)

 山形大学農学部に本部を置く「山形在来作物研究会」会長の江頭 宏昌准教授は、同会が3年前に出版した「どこかの畑の片すみで」の中で、JA 鶴岡湯田川出張所に持ち込まれる朝掘り孟宗を買い求めるため、2005年5月5日朝6時15分、整理券をもらって2本の湯田川産孟宗を何とか入手、ご自宅で孟宗を使った代表的な庄内の郷土料理である孟宗汁に舌鼓を打った経験を書いておいでです。食べることが大好きと語る江頭准教授は、同書の中で庄内の孟宗は修験者が北前船で京都より持ち込んだという地元の言い伝えを紹介しています。

JAyutagawa_10.5.jpg【photo】まだ早朝7 時前だというのに、朝堀り孟宗を求めて人だかりができるJA 鶴岡湯田川出張所。温泉地で人の出入りが多い湯田川の孟宗は、知名度において抜きん出ている。日によって異なる入荷量によっては売り切れることもあるため、入場制限される販売所の前で整理券を手に待つ人たちは気が気でない面持ちで中の様子を覗き込む

 口で溶けてしまうほど繊維がキメ細かく、甘味とすこぶる高い香気があると魯山人が書いている孟宗筍。冷涼な北東北では、マダケやハチクが主流で孟宗の竹林を見ることがありませんが、宮城県でも温暖な県南の丸森で孟宗筍の狩りをした顛末をタケノコ取物語【Link to back number】としてレポしたのが一昨年。直射日光に長時間さらされずに表土が湿った粘土質、理想を言えば西日と強風の当らぬ赤土が適した孟宗筍ゆえ、生育環境の違いがもたらす味の差異を認識したのでありました。

 孟宗の産地・洛西にほど近い金閣寺を題材にした三島由紀夫の名作になぞらえれば、その時の心境とはこうでしょう。 それまでついぞ思いもしなかった想念は、生まれると同時に、破竹の勢いで力を増し、孟宗の如く大きさを増した。想念は妄想と化し竹皮に包まれた。その妄想とは、こうであった。『庄内の孟宗を喰わねばならぬ』

bosco_masuya.jpg【photo】手入れが行き届いた湯田川ますや旅館が所有する竹林

 しかしながら、昨年は旬の訪れが遅く、あっという間にそれが終わってしまった庄内。そのため孟宗の時期に訪れることが出来ずにいた5月中旬のこと。知人に宿の手配を頼まれ、湯田川温泉で定宿としている「ますや旅館」に電話をした折、今年は旬の孟宗を食べられそうもないとボヤいてしまいました。すると間もなく若女将の齋藤 生(いく)さんから山のように孟宗が届いたではありませんか。御礼の電話を差し上げる間もなく下茹でをした晩、料理上手な大女将の忠鉢 泰子さん直伝の製法で孟宗汁にして、思いもかけず旬の味を頂くことができました。
 
 孟宗の里として知られる湯田川温泉は、例年5月を迎えると孟宗尽くしの料理が並び、達人の指導のもとで孟宗掘り体験ができる「孟宗まつり」が開催されます。真冬の「寒鱈まつり」と並んで庄内系の血が騒ぐ季節の到来です。北島三郎の「♪ 祭りだ、祭りだ...(⇒ 余談だが、動画の冒頭で火花が吹き出す筒が孟宗竹に見える。これぞ孟宗まつり!?という威勢の良い歌声とともに頭の中は酒粕が効いた濃厚な孟宗汁のことで一杯。じんわり滲むヨダレに、これぞまさに妄想汁! などと、あらぬギャグも浮かんできます。行くことができなかった昨年の分まで、今年は庄内の孟宗を満喫するぞっ!! と意気込んで湯田川に向かったのが、盛りを迎える頃と事前に確認していた5月15日(土)でした。

2010.5omusubi_chikeiken.jpg【photo】鶴岡市西荒屋にある農家レストラン「知憩軒」のおむすびランチ(小鉢・コーヒー付 650円)は、前日昼までの予約なしでもOK。この日は自家栽培米コシヒカリをふんわりと握り、向かうところ敵なしの定番おむすびのほか、タケノコご飯、酒粕を使わずにあっさりと仕上げた孟宗汁、こごみ・コシアブラと和えた孟宗筍の小皿が付き、孟宗シーズン到来を感じさせてくれた

 孟宗汁を一杯100円で提供する「孟宗・山菜まつり」を開催中の「産直あぐり」をスルーして向かった先は、お馴染み鶴岡市西荒屋の農家レストラン「知憩軒」。予約無しでも頂ける「おむすびランチ」が目当てです。この日は藤沢カブの生産者、後藤勝利さんが前日ご自身の山から採って持ってきたという孟宗を調理した孟宗汁と筍ご飯が付いていました。いつに変わらぬ特別栽培米コシヒカリのおむすびの美味しさは無論のこと、昆布ダシで味付けした筍ご飯と白味噌で薄味に仕上げた孟宗汁で、孟宗に始まり孟宗に終わった庄内での二日間が幕を開けたのです。

 こうしていや応なしに夕食への期待は高まり、孟宗尽くしの妄想ばかりが雨後の筍のように次から次へと頭をもたげてくるのでした。

孟宗尽くし 〈後篇〉
北限の孟宗筍を食べ尽くす@湯田川温泉」に続く


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