あるもの探しの旅

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孟宗尽くし 〈前篇〉

北限の孟宗筍@湯田川温泉

fujisawa_primavera.jpg 筍(タケノコ)という字は「竹」の「旬」と書きます。地ものの筍は、せいぜい一カ月ほどの間にだけ食することができるまさに旬の味。名産地といわれる鹿児島・福岡・京都・静岡など、その優劣はさておき、採れたての新鮮さが味の決め手となる極めつけが筍です。掘りたてを生のまま薄切りにして砂糖醤油にさっと浸して口に含むと、リンゴのように爽やかな香りが鼻腔をくすぐります。これは、はるばる産地から陸送された挙句に鮮度が落ち、外皮が黒ずんでえぐみが出た筍では到底味わえない産地ならではの醍醐味と言えるでしょう。

【photo】5月中旬に訪れた鶴岡市湯田川に隣接する藤沢地区の孟宗竹林。タケノコがニョキニョキ頭を出した竹林の先に広がっていたのは・・・(下写真へ)

fujisawa_primavera2.jpg【photo】昨年10月末に実施した「食の都・庄内 豊かな実りと癒しのバスツアー」【Link to back number】で畑を訪れた藤沢カブが、今年も種を付けるべく花を咲かせていた。ツアーにご参加頂いた方は、拡大画像が開くコチラをクリック プリーズ。ニホンミツバチが蜜を吸おうとしきりに飛び交う黄色く染まった山中の畑へワープできます

 京都出身の芸術家・料理家であった北大路魯山人(1883-1959)は、著書「魯山人味道」(中公文庫)で「関東のそれは場違い」と切り捨て、「洛西の樫原が古来第一」と述べています。日本画家・東山魁夷(1908-1999)が描いた「夏に入る」(1968 市川市東山魁夷記念館所蔵)を転写したかのような美しい竹林が残る京都府西京区樫原や塚原では、地表から頭を出す前の柔らかな「白子」と呼ばれる孟宗筍を一級品として扱います。現在の京都府西京区一帯は、都市化が進んで魯山人の時代とはすっかり趣を異にしていますが、郊外の里山に残る竹林を大切に守る人々の心は、今も脈々と受け継がれています。

 いささか贔屓目のきらいがある魯山人の意見には、世に言う京都人としての顔が見え隠れします。この考えを「短見」であると真っ向から異を唱えているのが伊藤 珍太郎(1904-1985)です。酒田市の名家に生まれ、上智大卒業後に講談社編集局勤務を経て満州に渡り、シベリア抑留ののちに昭和34年から酒田市の助役を12年務めた人物です。郷土史家・随筆家としての顔を持つ生粋の庄内人は、名著「庄内の味」(庄内の味刊行会 1974年 / 改訂版 本の会 1981年)で、孟宗筍についてこう触れています。

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 孟宗は、特に味の真価をその鮮度に託しているものだから、掘りたての「地もの」の土の乾かぬうちに料理したものを味わってこそ、互いにその真価ははかられる。はるばる輸送のはてに八百屋の店先などに並べられたのでは、もはや産地はどこぞと問う要もない。 とどのつまり掘りたての味を知らずして、軽々に産地の優劣など語るなかれということです。その上で比較の味ではなく絶対の味においてこれ以上はそう望めない一流のものと断言するのが、産地としては北限にあたる南庄内の孟宗です。タケノコといえば庄内では孟宗筍を指し、単に孟宗と呼び習わします。

JAyutagawa2_10.5.jpg 【photo】故郷・鶴岡を離れ、東京で30年を過ごした藤沢周平が、食べ物の旨い土地から、さほど旨くない土地に来たことをようやく気付かせてくれたという序文を寄せた改訂版・庄内の味(上写真)
 JA 鶴岡湯田川出張所には、湯田川と藤沢・黄金・大泉といった近隣の生産農家80軒ほどが早朝に収穫した新鮮極まりない孟宗を持ち込む(下写真)

 山形大学農学部に本部を置く「山形在来作物研究会」会長の江頭 宏昌准教授は、同会が3年前に出版した「どこかの畑の片すみで」の中で、JA 鶴岡湯田川出張所に持ち込まれる朝掘り孟宗を買い求めるため、2005年5月5日朝6時15分、整理券をもらって2本の湯田川産孟宗を何とか入手、ご自宅で孟宗を使った代表的な庄内の郷土料理である孟宗汁に舌鼓を打った経験を書いておいでです。食べることが大好きと語る江頭准教授は、同書の中で庄内の孟宗は修験者が北前船で京都より持ち込んだという地元の言い伝えを紹介しています。

JAyutagawa_10.5.jpg【photo】まだ早朝7 時前だというのに、朝堀り孟宗を求めて人だかりができるJA 鶴岡湯田川出張所。温泉地で人の出入りが多い湯田川の孟宗は、知名度において抜きん出ている。日によって異なる入荷量によっては売り切れることもあるため、入場制限される販売所の前で整理券を手に待つ人たちは気が気でない面持ちで中の様子を覗き込む

 口で溶けてしまうほど繊維がキメ細かく、甘味とすこぶる高い香気があると魯山人が書いている孟宗筍。冷涼な北東北では、マダケやハチクが主流で孟宗の竹林を見ることがありませんが、宮城県でも温暖な県南の丸森で孟宗筍の狩りをした顛末をタケノコ取物語【Link to back number】としてレポしたのが一昨年。直射日光に長時間さらされずに表土が湿った粘土質、理想を言えば西日と強風の当らぬ赤土が適した孟宗筍ゆえ、生育環境の違いがもたらす味の差異を認識したのでありました。

 孟宗の産地・洛西にほど近い金閣寺を題材にした三島由紀夫の名作になぞらえれば、その時の心境とはこうでしょう。 それまでついぞ思いもしなかった想念は、生まれると同時に、破竹の勢いで力を増し、孟宗の如く大きさを増した。想念は妄想と化し竹皮に包まれた。その妄想とは、こうであった。『庄内の孟宗を喰わねばならぬ』

bosco_masuya.jpg【photo】手入れが行き届いた湯田川ますや旅館が所有する竹林

 しかしながら、昨年は旬の訪れが遅く、あっという間にそれが終わってしまった庄内。そのため孟宗の時期に訪れることが出来ずにいた5月中旬のこと。知人に宿の手配を頼まれ、湯田川温泉で定宿としている「ますや旅館」に電話をした折、今年は旬の孟宗を食べられそうもないとボヤいてしまいました。すると間もなく若女将の齋藤 生(いく)さんから山のように孟宗が届いたではありませんか。御礼の電話を差し上げる間もなく下茹でをした晩、料理上手な大女将の忠鉢 泰子さん直伝の製法で孟宗汁にして、思いもかけず旬の味を頂くことができました。
 
 孟宗の里として知られる湯田川温泉は、例年5月を迎えると孟宗尽くしの料理が並び、達人の指導のもとで孟宗掘り体験ができる「孟宗まつり」が開催されます。真冬の「寒鱈まつり」と並んで庄内系の血が騒ぐ季節の到来です。北島三郎の「♪ 祭りだ、祭りだ...(⇒ 余談だが、動画の冒頭で火花が吹き出す筒が孟宗竹に見える。これぞ孟宗まつり!?という威勢の良い歌声とともに頭の中は酒粕が効いた濃厚な孟宗汁のことで一杯。じんわり滲むヨダレに、これぞまさに妄想汁! などと、あらぬギャグも浮かんできます。行くことができなかった昨年の分まで、今年は庄内の孟宗を満喫するぞっ!! と意気込んで湯田川に向かったのが、盛りを迎える頃と事前に確認していた5月15日(土)でした。

2010.5omusubi_chikeiken.jpg【photo】鶴岡市西荒屋にある農家レストラン「知憩軒」のおむすびランチ(小鉢・コーヒー付 650円)は、前日昼までの予約なしでもOK。この日は自家栽培米コシヒカリをふんわりと握り、向かうところ敵なしの定番おむすびのほか、タケノコご飯、酒粕を使わずにあっさりと仕上げた孟宗汁、こごみ・コシアブラと和えた孟宗筍の小皿が付き、孟宗シーズン到来を感じさせてくれた

 孟宗汁を一杯100円で提供する「孟宗・山菜まつり」を開催中の「産直あぐり」をスルーして向かった先は、お馴染み鶴岡市西荒屋の農家レストラン「知憩軒」。予約無しでも頂ける「おむすびランチ」が目当てです。この日は藤沢カブの生産者、後藤勝利さんが前日ご自身の山から採って持ってきたという孟宗を調理した孟宗汁と筍ご飯が付いていました。いつに変わらぬ特別栽培米コシヒカリのおむすびの美味しさは無論のこと、昆布ダシで味付けした筍ご飯と白味噌で薄味に仕上げた孟宗汁で、孟宗に始まり孟宗に終わった庄内での二日間が幕を開けたのです。

 こうしていや応なしに夕食への期待は高まり、孟宗尽くしの妄想ばかりが雨後の筍のように次から次へと頭をもたげてくるのでした。

孟宗尽くし 〈後篇〉
北限の孟宗筍を食べ尽くす@湯田川温泉」に続く


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