あるもの探しの旅

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孟宗尽くし 〈後篇〉

北限の孟宗筍を食べ尽くす@湯田川温泉

anecha2_2010.5.jpg【photo】鶴岡市羽黒町高寺は赤川対岸の谷定・滝沢・湯田川などの金峰山周辺、新潟県境の鼠ヶ関に隣接する旧温海町早田(わさだ)に次ぐ南庄内における孟宗筍の産地。5月を迎えた同町狩谷野目の産直「あねちゃの店」には、缶詰加工用の孟宗が山と持ち込まれ、一人当たりの年間消費量が日本一といわれる孟宗好きな庄内人の一面がうかがえる

 保存用の缶詰に加工するため持ち込まれる孟宗が店の外にうず高く積まれ、豊富な山菜で溢れかえる店内。全国各地にあまた産直はあれど、山菜シーズンになると山の豊かさを物語るこんな稀有な光景が毎年見られるのは、鶴岡市羽黒町の産直「あねちゃの店」です。そこから素材を調達している「アル・ケッチァーノ」初夏の人気メニュー、月山筍の生ハム巻フリット風に自宅で生ハムを巻いてフェンネルとともにオリーブオイルで揚げて塩で食する月山筍(ネマガリタケ)が出始めていることを確認し、佐藤 典子店長に「明日また来ますね」とお伝えして店を後にしました。

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 すぐ近くの「竹の露酒造場」で仕入れたのは、一升瓶入りのミネラルウオーター「月山深層天然波動水」として昨年商品化された超軟水の仕込み水です。仙台在住ながら月山・鳥海山のおかげで良水に恵まれた庄内の伏流水が飲料水のおよそ8 割を占めるという特異な事情を抱えた我が家。浄水器を設置してもなお、ダムの水では飽き足らないのです。

【photo】食の都・庄内のショールームさながらの「あねちゃの店」。天然キノコが店頭に並ぶ秋と並んで、孟宗ほかさまざまな山菜〈⇒ コチラ をクリックで拡大が揃う 5 月~6 月は、奥深いこの店が一層輝きを増すワンダーランドと化す

 水を確保したうえは、普段使いのパスタメーカー、イタリア・アブルッツォ州の「DE CECCO デ・チェッコ」と並ぶ私の二大カロリー供給元を訪れなくてはなりません。お米を購入するため、4kmほど離れた竹の露酒造場と同じ月山水系の下流域に水田がある「井上農場」に向かいました。寒さのため平年より10日ほど遅れているという田植えの手伝いで、ご主人の井上 馨さんとご長男の貴利さんはご不在でしたが、自宅に伺って二種類の特別栽培米各5 kgを入手、私が庄内系たるゆえんの四方四里はおろか、四方一里で水とコメを調達しました。

soma_takenotsuyu.jpg【photo】一般には流通しない「竹の露ササニシキ純米吟醸」

 田植え作業中にお邪魔した「月山パイロットファーム」の民田ナス特別仕様辛子漬などの入手困難な漬物類は、こちらが購入を申し出た3倍の量が入っており、いつもながら申し訳ないやら有難いやら。作付けする特別栽培米ササニシキの一部を竹の露酒造場に醸造を委託、創業者の相馬 一廣さんが、夜な夜な晩酌用に楽しまれる「竹の露 ササニシキ純米吟醸(非売品)」まで土産にと2本頂いてしまいました。こうして竹尽くしの様相をすでに呈しながら湯田川に到着した時、時刻は17時30分を回っていました。

 あわただしい日常に追い立てられる体を優しく解きほぐしてくれる独特の柔らかな湯ざわりは、入ってよし飲泉してよしの湯田川温泉ならではのものです。7年前、1年間だけの山形在任中に相当数をこなした県下の温泉の中で、最も気に入ったのが、すべての入浴施設が源泉かけ流しという贅沢極まりない湯田川のシルキーなお湯でした。ますや旅館の檜風呂で一息ついた後は、お待ちかね孟宗尽くしの夕食の時間です。

 これまで幾度となく投宿してきたますや旅館ですが、いつも夕食は外で済ませるために、宿の夕食を頂くのは今回が初めてでした。アク抜きの必要がない地物の孟宗をさまざまに調理した旬の献立が所狭しと並ぶ夕餉は、期待に違わぬものでした。
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◆孟宗尽くしの膳 (クリックで拡大画像を表示します)
焼物・・・サクラマス・孟宗焼
刺身・・・・鯛・タコ・さっと湯がいて冷水に浸した孟宗
・あんかけ・・・胡麻豆腐・梅そうめん・百合根
煮物・・・孟宗・鶏もも・一口こんにゃく・サヤインゲンの赤唐辛子入り醤油煮
揚物・・・孟宗・山ウド・だだちゃ豆の唐揚
焼孟宗・・・ホイル包み焼した生孟宗
・おかみ乃おへぎ三品
       孟宗・キュウリ・きくらげの胡麻ドレッシング和え
       孟宗の姫皮・山ウドのカレー風味炒め
      生わらび生姜添え
・香物・・・白菜・キュウリの浅漬
masuya_kappozake.jpg汁物・・・孟宗汁 鍋仕立て
ご飯・・・薄皮入り孟宗ご飯
・デザート・・・メロン・イチゴ

【photo】ますや旅館の「かっぽ酒」。竹の露 純米酒をお銚子代わりの竹の節に開けた穴から中に入れて燗をつける。鹿威し(ししおどし)のように斜めにされた太竹の中で竹の香りがついた燗酒を、竹の枝で作ったお猪口で頂くという孟宗の里ならでは風情ある呑みかた

 デザートを除く12 品中9 品が孟宗料理という、孟宗に始まり孟宗に終わる文字通りの孟宗尽くし。質実剛健の気風が息づく城下町・鶴岡らしい虚飾を排した料理のしつらえといい、湯田川ならではのお膳にふさわしいとお願いしたのが、「竹の露 純米酒」のかっぽ酒でした。かっぽ酒は切り出した青竹の節に一カ所穴を開けて、中に酒を入れて直火で燗をつける湯田川らしい飲み方。自前の竹林を所有するますや旅館では、青竹の香りが溶け出した燗酒を竹のお猪口で頂くという風流な演出で美酒を楽しめます。注文を受けてから若女将のご主人である齋藤 良徳 専務が竹林へと向かい、剣豪・宮本武蔵も顔負けの見事な切り口を金ノコで仕上げた孟宗竹のかっぽ酒をご用意いただきました。

 翌朝 5 時30分、山でひと仕事終えてきたという齋藤専務とともに竹林へと向かいました。目的はもちろん朝採りの新鮮な孟宗。実は20日ほど前に右足首のじん帯損傷(部分断裂)という結構な重傷を負っていたため、筍掘りを断念しようかとも思ったのですが、絶好の筍掘り日和に恵まれたため、テーピングで固めた足で竹林へと向かいました。食への探究心はいかなる痛みにも勝るのです。温泉街の南端にある山の北東斜面がますや旅館の広大な竹林です。前日の夕方のうちに、めぼしいに場所に立てておくという目印が斜面のあちらこちらに立っています。筍掘り専用の小型の鍬を手に、朝露に濡れた粘土質の滑りやすい斜面を不自由な足で登り始めました。

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【photo】4時30分から収穫を始めたというますや旅館の齋藤良徳専務は次々と孟宗(中写真)を掘り出す(右写真)ウチの娘も孟宗掘りに挑戦(左写真)

 地元鶴岡から訪れる日帰りの食事客が多い日曜日のため、4時30分に一足早く山に入ったという齋藤専務は、すでに60キロあまりの孟宗を一時間弱で収穫していました。私は右足の踏ん張りが全く利かないため、地下茎から生えている孟宗の根を掘り出すために、おのずと上半身のみの力に頼ることになります。粘土質で滑りやすい斜面の移動も思うようにはいきません。いやはや、これは腰にこたえました。もたつく私をよそに齋藤名人は次々と孟宗を掘り出し、あっという間に肩に掛けたケースが一杯になってゆくのでした。

saitou_senmu2.jpg 【photo】足元がおぼつかない私がやっとの思いで1本掘り出す間に、少なくとも5本は収穫する齋藤名人。あれよあれよという間に肩にかかるケースは孟宗で埋め尽くされていった

 それでも家族3人で1人では両手に持ちきれないほどの収穫を得て宿に戻ったのが 6 時30分すぎ。宿と隣り合わせの船見商店とその先のJA鶴岡湯田川出張所の前には人だかりができていました。ちょうど朝掘りの孟宗が持ち込まれ、宿泊客らがそれを買い求めようと集まって来ていたのです。朝7時前だというのに、整理券を配って入場制限をしているJA鶴岡の中はさながらバーゲン会場のような熱気が渦巻いていました。

 朝風呂で汗を流した後、朝食に出た汁物は昨夜の孟宗汁とは違って、厚揚げと生椎茸が入らないザク切りの孟宗だけが具として入った孟宗汁。エグミの無い湯田川孟宗の美点を味わうにはピッタリでした。masuya_asajiru.jpg金峰山を挟んで湯田川の北東側には滝沢・谷定といういずれ劣らぬ孟宗の産地があります。ここでは個人的な好みは申しませんが、庄内の孟宗と出合って7年目の経験から、産地ごと微妙な差異があるように感じます。

【photo】ひと仕事終えて戻ったますや旅館の朝食に用意される孟宗汁には、定番の厚揚げと干しシイタケが入らずに、これでもかと言わんばかりにざく切りの孟宗が。旬の産地ならではの贅沢な一杯

 まだ雪が残るうちにチッソ系肥料を散布する手入れが行き届いたますや旅館の竹林。収穫後は翌年の収穫を左右する地下茎の手入れのため、三大栄養素の補給を心掛けるのだといいます。収穫が少なかった昨年と比べ、今年は冬場の大雪で根元から竹が折れる被害が出たり、寒さが響いて孟宗の出が遅かったものの、涼しさが幸いして6月に入っても一日100キロ以上の収穫があるそうです。間もなく今年の孟宗シーズンも終わりを告げるでしょうが、年間を通してきめ細かく竹林の世話をしなければ、美味しい孟宗は採れないと齋藤さんは言葉に力を込めるのでした。

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ますや旅館
 鶴岡市湯田川乙63
 phone:0235-35-3211
 URL: http://www.yu-masuya.com/

◆ 宿泊者限定「孟宗掘り体験」 / 「おかみ乃おへぎ」については
湯田川温泉観光協会
 Phone:0235-35-4111
 URL:http://www.yutagawaonsen.com/
  1:湯田川温泉 孟宗掘り体験
  2:おかみ乃おへぎ
    でご確認を

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