あるもの探しの旅

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2010/07/25

珠玉のパスタ、Gragnano グラニャーノ

「味の箱舟」にオンリストされるパスタ
 Fusilli Lavorati a mano 手作りフジッリ @EATALY 代官山

 オステリアとして生まれ変わった施設2Fの「オステリア・イータリー」を前回ご紹介した「Eataly 代官山」をもう少し掘り下げてみましょう。

eataly_pane.jpg【photo】ピエモンテの製粉業者Mulino Marino の石臼挽きしたオーガニック小麦と天然酵母で自家発酵させたパン生地を店内で焼き上げるベーカリーには本格的なパン釜を備える。
 パン職人Panettiere パネッティエーレの仕事ぶりはガラス越しに眺めることができる

 1,200 種類以上の食品をイタリア本国から輸入するという Eataly 代官山では、マーケットエリアで扱う品数の多さにまず圧倒されます。ワインに薬草を加えたリキュール、ベルモット製造元のCarpano 社工場跡にできた14,000平方メートルもの広大なトリノ本店のキーコンセプトにはスローフード協会が全面的に協力しています。「Comprare, Mangiare,Imparare コンプラーレ・マンジャーレ・インパラーレ(=買って, 食べて, 学んで)」という本国で成功を収めているコンセプトは代官山にもそのまま反映されています。

eataly_formaggi.jpg【photo】鮮度の良い食肉加工品・チーズ類も豊富に揃う。ものによっては試食も可能

 ピエモンテ州・リグーリア州といった北イタリアを中心にワイン400種・食肉加工品40種・チーズ80種・パスタ70種もの豊富な食材が並ぶマーケット・エリアは、そこがニッポンであることを忘れさせるほどの充実ぶり。

 日本国内でも流通する大手メーカーの量産品ではなく、高い品質を備えた小規模な生産者の製品が Eataly のほとんどを占めます。7年前に訪れたマルケ州のビーチリゾート、Senigallia セニガッリアの☆☆付きリストランテ「Uliassi ウリアッシ〈Link to website〉」と人気を二分する「La Modonnina del Pescatore マドンニーナ・デル・ペスカトーレ〈Link to website〉」の著名な料理人、モレノ・チェドローニのレシピを製品化したMarmellata マルメラータ(=ジャム)などの品も並ぶ店内に足を踏み入れた私が狂喜したのは言うまでもありません。

eataly_pasta.jpg【photo】Eataly 代官山のパスタ売り場はパスタの国イタリアさながらのラインナップ

 長さ5 mほどの陳列棚の前後左右4 面に並ぶパスタだけをとっても、ピエモンテ州では秋に白トリュフと共に食される卵黄の細麺パスタ「Tajarin タヤリン」、ジェノヴァ発祥のバジルソース、Pesto Genovese ペスト・ジェノヴェーゼのために作られたリグーリア州の「Trofie トロフィエ」、隠れ家的な仙台の新生イタリアン「CEPPA チェッパ」佐藤シェフが余りパスタ生地からよく作る不揃いな形の「Maltagliati マルタリアーティ」など、さまざまなショートパスタ、ロングパスタがズラリで目移りするほど。

 上の写真をご覧の通り2 面全てを埋め尽くし、最も幅を利かせているのが、ナポリから南東に20km下ったソレント半島の付け根にあたる人口3万人ほどの Granago グラニャーノで作られるパスタです。Città della Pasta(=パスタの町)として知られるグラニャーノは、パスタ作りにおける理想的な4つの条件を備えています。南イタリア特有の強い陽光、背後に控えるラッターリ山(標高1,444m )とポンペイを挟んで北方のヴェスヴィオ山(標高1,281m )から吹き降ろす乾燥した風、サレルノ湾の海岸線から2kmという位置にあるゆえの適度な湿度、そしてラッターリ山系の良質な硬度の低い伏流水。これらが地元カンパーニャ州などで生産される最高品質のGrano duro グラノ・ドゥーロ(=硬質小麦)を原料に、パスタ生地の表面から内側までじっくりと乾燥させる最適な環境を生むのです。

gragnano_pasta.jpg 19世紀後半、乾燥パスタの主原料となる硬質小麦の一大産地であった南イタリアから多くの移民が新大陸に移住しました。故郷の味を懐かしむイタリア系アメリカ人(⇒庄内系イタリア人を名乗る私の遠縁にあらず)にナポリ港から大量のパスタを輸出するため敷設された鉄道が、パスタの町グラニャーノの名声を高めるのに寄与しました。パスタ製造所が多く、パスタ職人通りを意味するVia dei Pastai パスタイ通りや目抜き通りのVia Roma ローマ通りには、かつてパスタを天日干しする光景が日常的に見られましたが、現在は衛生面への配慮から法律で禁止されています。

【photo】パスタ製造に理想的な環境に恵まれたグラニャーノでは、屋外でのパスタの天日干しが日常的な光景だったが、現在では見られなくなった

 乾燥パスタ作りに機械乾燥が全面的に導入された現在では、立地に関係なく大量生産が可能となりました。イタリア国内で最大のシェアを持つBarilla バリラ社は、中部イタリア、エミリア・ロマーニャ州パルマ近郊の高速A1(通称アウトストラーダ・デル・ソル)沿いに唖然とするほど巨大な工場があります。このポー川流域の肥沃な平原地帯では、乾燥パスタには用いないGrano Tenero グラノ・テネーロ(=軟質小麦)が生産されます。

don_alfonso_paccheri.JPG【photo】ホースを輪切りにしたような形のパスタ「Paccheri パッケリ」。ソレント近郊の名リストランテ「Don Alfonso 1890 ドン・アルフォンソ1890」が"平手打ち"という意味のこのパスタを特注した先はグラニャーノのパスタメーカー「Di Nola ディ・ノーラ

 イタリア国内には現在135のパスタメーカーがありますが、乾燥パスタが主流となる南イタリアのグラニャーノには、現在11社が存在しています。谷あいにあるグラニャーノでは、おのずと規模の制約を受けますが、国内生産量の4.2%を占め、年産6万トンの生き生きとした小麦の香りが残る「低温・長時間乾燥」と、ころがり抵抗の強い青銅製の鋳型で表面がざらつくよう白っぽく形成する「ブロンズダイス製法」による高品質なパスタを生み出しています。

fusilli_2.jpg【photo】イタリア食文化の精華を伝えるEataly の主力をなすパスタ、Afeltra アフェルトラ社の製品2種。Rigolosa リゴローザ 穴あきフジッリFusilli con bucoは中心が空洞になるよう作られた青銅の型で成形する(写真左)。味の箱舟に登録される IL PASTAIO DI GRAGNANO イル・パスタイオ・ディ・グラニャーノFusilli Lavorati a mano フジッリ・ラヴォラーティ・ア・マーノ(写真右)

 近年のグローバル化と小麦価格の高騰は、500年近い伝統に培われた職人技に支えられてきたグラニャーノのパスタ産業にとって逆風となっています。ここ数年、廃業に追い込まれる業者が出る中で、2003年には地元の9 社からなる「Consorzio Gragnano Città della Pasta グラニャーノ・パスタの町協会〈Link to website〉」が発足、グラニャーノ産パスタに関する普及啓蒙を行っています。協会加盟の生産者の中で仙台で入手しやすいのは、明治屋仙台一番町ストアで売られる「 Garofalo ガロファッロ」と、南イタリア随一の著名なリストランテ「Don Alfonso 1890 ドン・アルフォンソ1890〈Link to website〉」が店名を冠したパスタを特別注文する先として選んだ1555年創業の「Di Nola ディ・ノーラ 」の二社でしょうか。

【photo】 Afeltra アフェルトラ社を傘下に収める Eataly のイートインでは、レベルの高いグラニャーノ産パスタでも一目置かれる同社のパスタを提供する。一口食べれば、たちどころに格の違いを実感できるはず。

eataly_eatin.jpg スローフード協会が目利きしたEataly 代官山のグラニャーノ産パスタは、Di Nola ディ・ノーラと1848年に創業した「Afeltra アフェルトラ」のふたつ。アフェルトラについては比較的手頃な価格の赤い紙パッケージに入った「Rigolosa リゴローザ」と透明な包装フィルムの「IL PASTAIO DI GRAGNANO イル・パスタイオ・ディ・グラニャーノ」という二つのラインが揃います。初めてマーケットエリア内に設けられたイートインスペースで食べたエビとフレッシュトマトのグラニャーノ産スパゲッティに受けた衝撃は強烈でした。モチっとした腰の強い食感と小麦を噛みしめるかのような芳醇な薫りには、驚きを禁じえません。Eataly がこだわる本物の凄さは、このパスタを食するだけでもお分かり頂けるはずです。

◆グラニャーノのパスタメーカー、GENTILE社の生産の模様はコチラ。2:03 頃からフジッリ・ラヴォラーティ・ア・マーノ作りに携わる女性職人フジッライアが登場

afeltra-fusilli-a-mano.jpg グラニャーノ伝統の深遠なるパスタ文化に触れたい方は、「Fusilli Lavorati a mano フジッリ・ラヴォラーティ・ア・マーノ」をどうぞ。フジッリ専門の作り手であるFusillaia フジッライアと呼ばれる女性たちが、細長い金属の棒に手作業でパスタ生地を巻き付けて螺旋状に成形するこのパスタは、文字通り手仕事(Lavorati a mano)によって一本ごと作られています。最近では、技能と根気を要するこのパスタ作りを受け継ぐ女性が少なくなってきました。そこでスローフード協会は、古き良き伝統を今に伝える Fusilli Lunghi a Mano をプレジディオ(=味の箱舟)に指定したのです。トリノのEatalyでもこのパスタは500gで€ 9,80と高めに価格が設定されています。

◆イタリアのジャーナリスト・TVコメンテータ、アントニオ・ラブラーノ氏がグラニャーノのパスタ作りを紹介する番組にも手作業で行われるフジッリ・ラヴォラーティ・ア・マーノが登場(2:05~)

 手仕事ゆえコイル状の形自体が不揃いで、長さもまちまちになりますが、それも味わいのうち。ブロンズダイスによる機械成形が生まれる以前の伝統製法によるこのフジッリは、長さが50cmほどもあります。パスタ作りにとって理想的なグラニャーノの水と挽いた小麦を真空で撹拌・混合することで、効率優先の機械乾燥にありがちな高温・短時間乾燥がもたらす温度上昇によるグルテンの劣化が避けられます。さらに風味を失わわぬよう、45℃から50℃未満で、形状ごと24時間から52時間をかけて低温・長時間乾燥が行われたそのパスタは、全てにおいて一線を画するものに仕上がります。

 マンマが手作りしたプレジディオのパスタを半分に折ってしまうのはもったいないし、よほど胴の長い特殊な鍋でなければそのまま茹でることは叶いません。いざ買ったはいいが、どうやって茹でるかが思案のしどころです。いっそのことパッケージの裏面に記載されたServizio Clienti(=顧客サービス窓口)の電話番号081-8736080 に「Pronto...(=「もしもし」の意)」と問い合わせしようかと真剣に悩む私なのでした。


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Eataly 代官山
eataly_logo.jpg 住:東京都渋谷区代官山町20-23 代官山ラヴェリア2F
(東急東横線 代官山駅より徒歩2分)
Phone:03-5784-2736
営:マーケット 10:30‐21:30 
  イートイン 11:00‐21:00(L.O.)平日15:30-17:30休憩
  バール   11:00‐21:30
URL:http://www.eataly.co.jp/top/welcom.html

Premiato Pastificio Afeltra
Via Roma,8/20 Gragnano(NA)
Phone:(+39)081‐8736080


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2010/07/11

Osteria di Eataly オステリア・イータリー誕生

スローフード協会ご用達
Osteria del Boccondivino オステリア・デル・ボッコンディヴィーノ直伝
深谷 政宏シェフのピエモンテ料理@EATALY 代官山

esterno_slowfoood.jpg イタリア・ピエモンテ州Bra ブラにあるスローフード協会本部が入る古びた建物の棟続きに一軒のオステリアがあります。中庭に咲く藤の花がテラスに伸びる二階にある店の名は「Osteria del Boccondivino オステリア・デル・ボッコンディヴィーノ」。イタリア語で美味なものを意味するBocconeとVino(=ワイン)を掛け合わせた造語です。気取らないオステリアらしく手頃な料金で良質なピエモンテ料理を提供するこの店は、1984年12月のオープン当初から、のちにスローフード運動の母体となる「ARCI アルチ」のメンバーと深く関わってきました。

【photo】小さな村 Bra ブラの一角にあるスローフード協会本部のある二階建ての建物の入口に架かるOsteria del Boccondivino オステリア・デル・ボッコンディヴィーノの看板(右写真)

Tonno_gallina_aceto.jpg【photo】わずか€19という良心的な価格でロビオーラ・ディ・ロッカヴェラーノのトマト風味ショートパスタにドルチェとカッフェが付くオステリア・デル・ボッコンディヴィーノのセットメニュー「Colazione di Lavoro n.1」にアンティパスト(=前菜)として組み込まれる雌鳥を使った伝統料理「Tonno di gallina all'aceto balsamico トンノ・ディ・ガッリーナ・アッラ・アチェートバルサミコ」は、その名の通りツナのオイル漬けのような食感が面白い(左写真)

 カルロ・ペトリーニ会長など協会本部のスタッフが昼夜を問わず食事に訪れるこの店は、スローフード運動が目指す理念を味覚で体感するにはうってつけといえます。トリノの南方約30kmの町、カルマニョーラ産の銀毛ウサギ「Grigio di Carmagnola グリージオ・ディ・カルマニョーラ」、200年来変わらぬ製法で作られる稀少なヤギ乳主体のチーズ「Robiola di Roccaverano ロビオーラ・ディ・ロッカヴェラーノ」、牛肉のタタキ「Carne cruda カルネ・クルーダ」や皿にとぐろを巻いた状態で供される名物ソーセージ「Salsiccia di Bra サルスィッチャ・ディ・ブラ」などで生食される「Vitelli Piemontesi ヴィテッリ・ピエモンテーズィ(= ピエモンテ牛)」など、絶滅の瀬戸際にある保護すべき小規模な生産者の手になる伝統食材「Presìdio プレジディオ(= 味の箱舟)」を用いた料理がメニューに並びます。

eataly_2010.6.19.jpg【photo】中庭で新型Lancia Delta の展示会が行われる傍らのオープンカフェで人々が憩うEataly代官山。左手がマーケットゾーン、右手1Fがカフェ・パスティチェリア、エノテカ。オステリア・イータリーはその2Fにある

 今年で創刊20周年を迎えたスローフード協会が発行する美味しい料理を手頃な価格で提供する約1,700軒を網羅するレストランガイド「Osterie d'Itala オステリー・ディタリア」のみならず、さまざまなガイド本に取り上げられるこの名店で1991年から9 年にわたり研鑚を積み、つい先ごろ凱旋帰国したのが、Masa こと深谷 政宏シェフです。スローフード協会が監修して2007年にオープンした「Eataly Torino イータリー・トリノ」国外初進出のショップとして2008年9月に東京・代官山にできた「Eataly 代官山」内のレストラン「Guido per Eataly グイド・ペル・イータリー」が、このほど「Osteria di Eataly オステリア・イータリー」としてリニューアル。深谷シェフがボッコンディヴィーノ仕込みのスローフード発祥の地・ピエモンテの味を提供する店として生まれ変わりました。

masahiro_fukaya.jpg【photo】オステリア・イータリーの厨房に立つ深谷 政宏シェフ

 海外展開第一号店となった代官山のほか、現在では日本橋・八重洲に3店舗を構えるEataly。国内最大規模のイタリア食材を取り揃えるマーケットゾーンのみならず、入手困難なイタリアパンを石臼挽きしたMulino Marinoのオーガニック小麦と天然酵母で焼き上げるベーカリー、バール・パスティチェリア、日本人初のAISイタリアソムリエ協会認定ソムリエの資格を持つ林 茂CEOがセレクトしたヴィーノがずらりと揃うエノテカ、素材の良さを実感できるイートインスペースなどから構成される代官山店を訪れた6月19日(土)は、オステリアとしてのオープン初日でした。
osteria_eataly1.jpg【photo】中庭に面した側が一面ガラス張りで明るく開放的な雰囲気のオステリア・イータリーは、シンプルモダンな内装にふさわしいオステリアとして生まれ変わった(右写真)

 ここぞとばかりに食材を買い込んだマーケットゾーン前の中庭を挟んだ二階にあるオステリア・イータリーは、ガラス越しに射し込む陽光が溢れるモダンな雰囲気。真紅のヴェネツィアンガラス製シャンデリアと、ランゲ丘陵の風景写真パネルが豊穣なる北イタリアの地へと来店客を誘います。マーケットで扱う食材を使用したこの日のメニューには、プレジディオ指定を受ける岩手短角牛のほか、比内地鶏といった東北産の食材がオンリストされていました。

arneis_eataly.jpg【photo】ハウスワインはピエモンテ州Roero DOCGの作り手Castello di Santa Vittoria の白ワイン Roero Arneis と赤ワイン Nebbiolo d'Alba 。グラス(500円)カラフェ(1500円)

 期せずして11時30分の開店直後に改装後一番乗りを果たしたため、深谷シェフやフロア担当の澤口 雅史さんに話を伺うことができました。Reggero レッジェーロ(1,800円)、Piccolo ピッコロ(2,800円)、Complate コンプレート(3,800円)のランチコース3 種から、アンティパスト・パスタ・ドルチェ・カッフェがセットされたレッジェーロとVini della casa(=ハウスワイン)のヴィーノ・ビアンコ「Roero Arneis ロエロ・アルネイス」をまずはお試しとグラスでオーダーしました。

Insalada_tonna.jpg【photo】素材の味を活かしたシンプルで毎日でも食べたくなる料理を提供したいと言う深谷シェフの手になる比内地鶏を使ったインサラータ・ディ・トンナは、ボッコンディヴィーノのエッセンスを色濃く感じる
 
 アンティパストは比内地鶏をマリネした「Insalata di tonna インサラータ・ディ・トンナ」。ピエモンテ料理というと、肉の脂を多用するものを連想しますが、これは全く違います。丸ごと4時間ボイルしてから一晩冷蔵庫に置いて処理したという比内地鶏の食感は、ふんわりあくまで軽やか。見た目といい味といい紛れもなくTonno(=イタリア語でマグロの意)そのもので、言われなければ鶏肉とは思わないでしょう。ボッコンディヴィーノでは、「Tonno di gallina all'aceto balsamico トンノ・ディ・ガッリーナ・アッラ・アチェートバルサミコ」という料理が登場します。上記参照〉直訳すると「雌鳥のマグロ・バルサミコ酢風味」といったところ。雌鳥を丸ごとボイルし、一晩おいてから肉をほぐしてオリーブオイルでマリネしたもので、ピエモンテでは伝統的な調理法のひとつです。

vesuvio_eataly.jpg【photo】アスパラガスとパンチェッタのヴェズーヴィオ・オイルとチーズ風味。ヴェスヴィオ山のような形をしたこのパスタは、有史以来噴火を繰り返すこの名高い火山にほど近い山あいの町Gragannoグラニャーノで作られる

 パスタはアスパラガスとパンチェッタを細かく刻み、オイルとチーズで軽く味付けした螺旋状の円錐形をしたショートパスタ「Vesuvio ヴェズーヴィオ」。パスタ作りに理想的な環境が整ったGragnanoグラニャーノ産ショートパスタは、挽きたての小麦のように香ばしく、その格の違いを見せ付けます。ドルチェはチョコレートが添えられたミルキーなジェラート。"モカで淹れた"と但し書きのあるエスプレッソには店のサービスでピエモンテの焼き菓子が付きました。

 ミシュランガイド・イタリア版で☆評価(⇒自国フランスでの☆☆レベルを意味する)を受けるトリノのリストランテ「Guido per Eataly -Casa Vicina【Link to website】」出身の若きシェフ、Enrico Panero エンリーコ・パネッロが手掛けたこれまでのGuido per Eataly 代官山の料理は、伝統をベースに軽やかで洗練された味付けを加えたものでした。

 スローフード運動発祥の地に9年間身を置いた深谷シェフを新たに迎え入れ、オステリアとして再スタートを切ったとはいえ、これまでの方向性から大きく転換する訳ではないようです。より多くの人に良質なイタリアの味に親しんでもらうことが今回のリニューアルの目的だと澤口さんは語ります。オイルやパスタなど素材のクオリティの高さと代官山という立地を考慮すれば、コストパフォーマンスもなかなか。素材に敬意を払った深谷シェフの味付けは、好感が持てるものでした。次回は岩手短角牛を味わうとしましょう。

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Osteria di Eataly オステリア・イータリー
住:東京都渋谷区代官山町20-23 代官山ラヴェリア2F (東急東横線 代官山駅より徒歩2分
Phone:03-5784-2739
営:Pranzo 11:30‐14:30 L.O.   Cena 18:30‐21:30 L.O.
   ◆夜のコース/ Stagione・旬のおすすめ 3,000円
             Tradizione・ピエモンテ伝統料理 4,800円
              Degustazione・プリフィックス 6,000円
日曜夜・月曜定休(祝日の場合は営業・翌火曜休)
URL:http://www.eataly.co.jp/osteria/index.html
E-mail:osteria@eataly.co.jp

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2010/07/04

消えゆく山里の暮らし

幻の山里・長滝

nagataki_01.jpg 鶴岡の南西、田川地区にかつて長滝という小さな集落が存在しました。あえて過去形で語るのは集落に至る狭隘な山道が除雪されないため、冬は雪に閉ざされ往き来が困難となり、現在そこに暮らす人がないからです。住民はいないものの、荒れ果てた廃村というわけではなく、昭和50年代に集団で鶴岡の市街地に移住した人々が、かつて過ごした山での暮らしを懐かしむように、春から秋にかけて行う野良仕事のために通ってきます。

【photo】長滝へと向かう道すがら、地名の由来となった岩肌を流れ落ちる細長い滝が流れ込む谷あいの渓流沿いに建つお社

 摩耶山系の金峰山(きんぼうさん)・母狩山(ほかりさん)一帯は、かつてブナの原生林でしたが、木炭用に伐採が進み、植林された杉の二次林が今では多く見られるようになりました。それでも長滝に向かう道沿いのシダ類が生い茂った林は、原始の風景を連想させます。道沿いを流れる少連寺川の上流域の渓流が数段の長い滝のように流れる場所には小さなお社が祀られており、岩肌を流れ落ちる清冽な水とともに長滝という地名の由来と考えられます。清らかな気がみなぎるそのパワースポットを過ぎると、間もなく人の手が入った田畑の先にひっそりと佇む砂谷(いさごだに)長滝へと至ります。

nagataki_07.jpg 【photo】集落の入口に引かれた水をポリタンクに汲む子ども連れの家族

 住民の高齢化によって、地域としての機能保持ができなくなる限界集落は、日本各地に存在します。これは命の糧を生み出す農漁村をなおざりにしてきた我が国の当然の帰結です。国交省によれば住民の過半数を65歳以上の高齢者が占める限界集落は全国に7,878件あり、東北にはその一割が存在するといいます。

 暮らす人のない長滝は、もはや限界集落ではなく、廃村と呼ぶべきでしょうが、私がそこを久しぶりに訪れた今年の5月中旬、家の改築を行っている人と出会いました。長滝には鎮守の大鳥神社のほか、かつて人の暮らしがあった痕跡を残す家の苔むした土台だけが残る区画と、わずかに数軒の人家が残っています。庄内ナンバーの車で畑仕事の手伝いに来ていた小さな子ども連れの夫婦が、路肩に引かれた水を汲んでいる姿もありました。

nagataki_02.jpg 【photo】ご婦人に教えてもらった更地となった廃屋跡のスイセンが咲く水場に引かれた水は、口当たりの良い中硬水だったものの、飲むとすぐに喉が渇くので、沢水のようだった

 その水を味見しようと道端に停めていた仙台ナンバーの私の車を見て、「あら、仙台から来たの」と一人の女性が声をかけてきました。閉鎖的な山里では、ジロジロと排他的な視線を向けられることが時としてありますが、山形在任当時にも幾度となく体験したこうした敷居の低さは、北前船や出羽三山信仰で人の往来があった庄内地方ならではのことです。ひょっとすると庄内にシンパシーを持つ私が、庄内人と共通のオーラを発しているのかもしれません。60歳代とお見受けするその女性は、廃屋跡に引かれた水を指差して「こっちの水のほうが美味しいし、汲みやすいよ」と見ず知らずの私に教えてくれました。

nagataki_04.jpg【photo】1979年(昭和54)まで冬季間は分校としても使われた旧田川公民館長滝分館

 周囲の山からはキツツキが木を突く乾いた連続音や野鳥の歌声が聞こえてきます。かつて市立田川小学校冬季分校としても使われていた旧田川公民館長滝分館の前に咲く山桜に見とれていると、手前に建つ木造の建物の中から作業着姿のご夫妻が出てきました。今は空き地となった公民館の手前に建っていた家で暮らしていたというご夫妻。「サクラがきれいでしょ」と話しかけてきたお二人と軽く挨拶をして太いゼンマイを塩もみして日干しする作業のかたわら話を伺いました。

nagataki_06.jpg【photo】虫除けの網で覆われたその表情は読み取れないものの、おそらく飛びきりの笑顔でシイタケを差し出す奥様。初対面の私にかけて頂いたご厚意にもかかわらず、ご夫妻のお名前も聞かぬままお別れしてしまった

 かつて過ごした長滝の野良仕事が好きで、今も週末になると弁当を持参して日がな一日を過ごすこと。集落のはずれにとても美味しい湧水があること。かつての住民同士、今も助け合いながら田畑の仕事をしていること。私もよく利用する仙台北環状線の建設工事にご主人がかつて出稼ぎに行ったこと...。そこには「普請」という日本のムラ社会が持っていた相互扶助の精神がきちんと息付いているようでした。

nagataki_00.jpg

 庄内とは妙に水が合って頻繁に来ているんですよと語る私に「これ、持って行って」と採れたてのシイタケを二つ差し出す奥様に御礼を言ってお別れしました。今から30年以上前に途絶えた長滝での暮らしを懐かしんで足を運ぶこうした人たちのように、10年後、20年後にこの山里を耕す人がいるのだろうか?という疑念を打ち消しきれぬまま、長滝を後にしました。

【photo】耕作放棄地を少なからず目にした長滝への道すがら、山あいの田んぼでひとり黙々と仕事をする年老いた農夫の姿があった

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