あるもの探しの旅

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イタリアソムリエ協会式テイスティング 〈後編〉

多様な食とワインの組み合わせの新たな座標軸
 @ ピエモンテフェスティバル presented by 宮城・ローマ倶楽部
 

前編より続き》 
ICT_workshop1.jpg【photo】 AISイタリアソムリエ協会式試飲メソッドによるピエモンテ州のワインと宮城県産食材を用いた料理の組み合わせのコツを学んだワークショップ会場

 1980年代後半以降巻き起こった「イタ飯ブーム」のもと、良質なイタリア料理店が東京・大阪の大都市圏を中心に増殖しました。バブルの余熱を引きずっていた'90年代半ばまで、銀座8丁目の並木通りに面した支社に勤務していた私は、食の分野だけでなく(前世における)母国イタリアの多岐にわたる魅力が急速に日本に浸透してゆく様子を胸のすく思いで目の当たりにしたのです。それから15年あまりを経て、食材に恵まれた地方ならではのアプローチで頑張っているイタリアンが脚光を浴び、日本のイタリア料理シーンは多様化の時代を迎えています。

ICT_workshop2.jpg【photo】 イタリアン・クリナリー・ツアーズ社が窓口となる日本人向けソムリエ研修の責任者で、AIS 認定ソムリエの資格を有するコスタンティーノ・トモポウロス氏(左)による講習のひとこま。右は通訳を務めた同社日本窓口の渾川 駒子さん

 日本のイタリア料理は、世界最高峰のレベルにあるとイタリア人自身が語るほど完成度が高いものです。'90年代以降、イタリアで料理を学ぶ日本人が激増し、繊細な日本人の感覚でイタリア各地の料理が磨き上げられてゆきました。大都市より地方に美味しいリストランテが存在するイタリアでは、いかなる辺鄙な場所であろうと日本人が厨房で働いています。彼らは多くの場合、北から南まで数か所の店で技術を習得します。南北に長いイタリアの食文化は、地方ごとに特色ある料理とワインが表裏一体で結びついています。器用なジャポネーゼとはいえ、時間的制約や言葉の問題もあって、調理技術の習得はできてもヴィーノに関する本格的な勉強までは手が回らないのが実情のようです。

【photo】 第一次大戦後の混乱で経営が行き詰った醸造組合 Ai Vini delle Langhe を買い取ったアルフレード・プルノットが興したカンティーナPrunotto〈Link to website〉。1989年からはトスカーナの著名な Antinori 一族の当主ピエロ・アンティノリの長姉アルビエッラが三代目の経営者として運営にあたっている。透明感のある心地よい香りのロエロ・アルネイス'07
       
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 東京に次々とイタリア料理店が誕生していた当時、イタリアワインに関する広範な知識と料理との組み合わせに関する実践的なノウハウを有する J.S.A.日本ソムリエ協会認定ソムリエは、現在同協会の副会長を務める荒井 基之氏を除いて存在しませんでした。家庭の食卓を含め、カジュアルな店からエレガントな高級路線までイタリア料理がすっかり定着した現在でも、バリエーション豊富で日々の食事をより美味しくしてくれるイタリアワインの魅力が理解されていないのは、輸入ワインに占めるイタリアワインのシェアが2割にも満たない事実からも明らかです。街の規模に比して良質なイタリアワインを扱う店がごく限られる仙台にあって、宮城・ローマ交流倶楽部の主催により実現したのが、今回の催し「宮城の食材とピエモンテ産ワインのマリアージュ」です。

【photo】 自家栽培以外の購入したブドウから造られる Prunotto バルベーラ・ダルバ'07は、2年続きで理想的な収穫が得られた年。前菜から赤身の肉料理、チーズまでと汎用性が高い1本
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 宮城・ローマ交流倶楽部とスローフード宮城の招きで昨年初めて仙台を訪れた【Link to backnumber】イタリアン・クリナリー・ツアーズ社のダニエラ・パトリアルカ代表からピエモンテ料理の歴史と特色について映像を交えながら説明を受けた後、生野菜スティックをアンチョヴィソースで頂く Bagna càuda バーニャ・カウダや牛肉の赤ワイン煮込み料理 Brasato al Barolo ブラザート・アル・バローロなど、ピエモンテ料理の数々に67名が舌鼓を打った「ピエモンテ郷土料理とワインの夕べ」に先立ち行われたワインセミナーには、30名ほどが参加。一般のワイン愛好家に混じってOsteria Cucinetta オステリア・クチネッタ橋本シェフや Osteria da Kurihara オステリア・ダ・クリハラ 栗原シェフらプロの料理人の顔もありました。

 宮城の食材を使った料理とピエモンテ産ヴィーノのAbbinamento アッビナメント(=組み合わせ。日本では通常「マリアージュ」という仏語を使う)を、イタリアソムリエ協会(以下AIS と略)方式に則ったテースティング・ワークショップで披露する講師を務めたのはダニエラさんのパートナーで、AIS ソムリエの資格を持つコスタンティーノ・トモポウルス氏です。ワインと食材の味の特徴を1~10までの間で数値化し、独自のチャート表を用いて相性の良し悪しを判断するAISの手法は非常に興味深いものでした。

【photo】 名醸地 Barbaresco からNeive,Treiso 一帯の土壌はマグネシウム・マンガン・亜鉛を多量に含み、骨格のしっかりした力強いワインを生む。契約農家から購入したブドウを厳選して造るPrunotto バルバレスコ'05 はネッビオーロらしい淡いレンガ色を呈する。Barbaresco 地区で自家栽培するブドウを仕込むクリュワイン Barbaresco Bric Turot も造られる
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 イタリアではGrongo グロンゴと呼ばれ、ウナギ同様にブツ切りのフリットで食されるアナゴはまだしも、笹かまぼこを口にするのは初めてと明かしたコスタンティーノが試飲用にセレクトしたピエモンテ産ワインは、泡もの1 本・白1 本・赤3 本の計5 本。ブドウ品種は、Moscato bianco モスカート・ビアンコ、Arneis アルネイス(別名:ネッビオーロ・ビアンコ)、Dolcetto ドルチェット、Barbera バルベーラ、Nebbiolo ネッビオーロの5種類。アルト・アディジェ地方やオーストリア国境に接するチロル地方を除き、ほぼ全土で栽培されるモスカート以外はピエモンテ原産のブドウ品種を混醸せず、単一品種から造られたものばかりです。

 最初に分析するのが、グラスに注ぐ際やグラスをスワリング(=回転)させて判断する粘性の高さ・色合い・透明度など視覚から得られる情報です。そこから土壌由来のミネラルや果実エキス成分が多いか、熟成度合いはどうかといった情報を得ることができます。次に香りをかぐことで、その強さと香りの特徴を捉えます。最も大切なのが実際に口に含んで感じる味わいで、AIS式メソッドでは放射状に0~10までの数値で香りの強さ・アルコール・タンニン・酸味・甘味の強弱などを項目ごと表にプロットしてゆきます。

【photo】 Poderi Luigi Einaudi ドルチェット・ディ・ドリアーニ・ヴィーニャ・テック'07。のちにイタリア共和国第2代大統領となる23歳のルイージ青年が、1897年に故郷で自らの名前を冠して興した由緒正しきカンティーナ〈Link to website〉。若飲みに向くドルチェットの最良形が単独のDOCGに近年昇格したDogliani の地で造られる。60年前後の樹齢の古木から造られる粘性の高さが伺えるこのVigna Tecc は複雑味・ボリューム・力強さともに充分。AIS発行の評価本Duemilavini では、'07ヴィンテージは最高点に次ぐ4グラッポリ、前年'06 は最高点 5グラッポリとGambero Rosso でも最高点トレ・ヴィッキエリに輝いた
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 次に組み合わせようとする食べ物の特徴を脂肪分の量・多汁性・味の濃さ・スパイシーさ・酸味などの項目別に同じく数値化します。用意された宮城県産食材を用いた料理は、スライスした笹かまぼこにゴルゴンゾーラ・ドルチェとクリームタイプの二種類のチーズがサンドされたミルフィーユ仕立てにした一皿と、歯ごたえを残すようオリーブオイルでマリネしたパプリカ・ズッキーニ・ネギの上に香ばしく白焼きした石巻産穴子が載ったもの。

 仮にヴィーノと食べ物の各項目が全て10点満点だとすると、二つの正三角形が上下逆に対称で重なり合う形となります。料理とヴィーノの相性は、チャートの対極にある特徴を備えたもの同士が合うと判断します。例えば動物性脂肪の多い甘さを感じる料理には、円形のチャート表で反対側に項目が記された酸味がしっかりしたヴィーノか発泡性のあるスパークリングワインを、その度合いに応じて合わせるといった具合。各数値を線で結んで円形に近いほどバランスが取れたヴィーノであり、料理ということになります(⇒一番下の写真を参照願います)

【photo】 Gancia アスティ・スプマンテ NV。ほぼイタリア全土で栽培されるモスカート種から造られる甘口発泡性ワイン。比較的手頃な価格だが、発泡性ワインだけでなく、世界のデザートワインでも珠玉の1本に挙げてよい。デリケートでフローラルな香りが際立つこのスプマンテは、1850年にピエモンテ州アスティ県カネッリで Gancia 社〈Link to website〉を創業したカルロ・ガンチアが1865年に編み出した密閉タンクを用いた特殊製法で造られる
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 壇上のコスタンティーノは、まずはヴィーノを、次に料理のテイスティングをして、用意したAIS方式のチャート表にそれぞれの特徴を数値化し記入してゆきました。コスタンティーノの判断では、チーズ由来の乳脂肪分を7 ポイントと評価した笹かまぼこのミルフィーユには、アルコールの熱さと酸味を感じるバルベーラ・ダルバか、酸味と旨味が7~8ポイント程度としたロエロ・アルネイスが合うだろうという見立てでした。

ICT_workshop4.jpg 【photo】 仙台名産、笹かまぼこのミルフィユ。淡白な白身魚のすり身を使ったかまぼこの間に挟まるゴルゴンゾーラとクリームチーズが脂肪の存在を主張する

 AIS式メソッドで重視する料理とのアッビナメントを実際に試してみると、酸味のあるロエロ・アルネイスではドライトマトとバジルの風味が残ることと、チーズの風味に負けていることが確認され、悪くはないが最良の選択ではないことがわかりました。対してバルベーラ・ダルバでは互いの風味がマッチし、チーズの脂肪が消える一方で、口の中に残るタンニンが心地よく、次の一口を欲する理想的な組み合わせであることが確認できました。会場に感想を求めたコスタンティーノにうなずく一同。

ICT_workshop5.jpg 脂分のない穴子のグリルに関しては、野菜の水気と白焼きによる香ばしさが増していることから、薫り高いヴィーノが合うはずとの見立てがされ、実際に組み合わせを試みました。酸が特徴的なバルベーラ・ダルバではバランスが悪く、アルバ近郊のドリアーニ産ドルチェットでは、土壌由来のミネラル分とタンニンが強く出過ぎてしまいます。そこでベストな選択として残ったのが、プルノット社のバルバレスコでした。作り手によって多様な個性を持つバルバレスコですが、この作り手はバランスを重視したものです。2005年産とまだ若く、グラスにサーブされた直後の固さが取れたバルバレスコと穴子の相性の良さは偉大な品種ネッビオーロとしては意外なほどでした。

【photo】松島産穴子のグリルと夏野菜のマリネ

 通常は複数のカンティーナ訪問なども織り交ぜ、栽培から醸造に至るプロセスなど12 回の講座で学ぶ内容に対して、コスタンティーノにこの日与えられた時間は2時間ほど。Tomopoulos という名から推察するに彼の遠い祖先にあたるであろう古代ギリシャ人が "ブドウの大地" を意味する「エノトリア・テルス」と名付けたほど恵まれた栽培環境にあるイタリア半島で育つ多種多様なブドウを、個性的な作り手が伝統と革新を織り交ぜた手法で造るイタリアワイン。そんな vini italiani の魅力を充分に伝えるのは2時間では impossibile (=無理)だとコスタンティーノは言っていたようですが、いえいえどうして。

ICT_workshop3.jpg 【photo】AIS式試飲メソッドの特徴である料理との相性をみる独自のチャート表で自身のテイスティング結果について解説するコスタンティーノ

 セミナーに参加したJ.S.A.シニアワインアドバイザーでもある仙台市青葉区のチーズ専門店オー・ボン・フェルマン 安達 武彦オーナーは、J.S.A.との違いが鮮明なAIS方式に初めは戸惑いも感じたようですが、次第に「こうした手法もあるのか」と、見識を新たにしたようです。イタリアン・クリナリー・ツアーズ社日本窓口の渾川(にごりかわ)駒子さんによると、AIS方式はJ.S.A.ソムリエから「お客様に接する上で新たな座標を見出すことができる」と総じて好意的に受け入れられているとのこと。

 Vino rosso italiano が全身に流れる私は、あまたのヴィーノの洗礼を受けており、呑むリエの資格は十分すぎるほど。それでも体系立ててアッビナメントについて実演がなされた今回の催しは新たな発見に満ちたもので、探究心が改めてメラメラと燃え上がりました。この上はレストランでの実地研修を含め、6 ヶ月に及ぶ実際の研修をトリノで受けるしかなさそうですが、まずは不撓不屈・堅忍不抜の精神で日々の稽古を怠らず、一意専心の気持ちを忘れず不惜身命を貫く覚悟を固めたのでした。どすこい、どすこい。
今宵もごっつあんです。 (*`´)_Y cin cin!!

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