あるもの探しの旅

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イタリアソムリエ協会式テイスティング 〈前編〉

多様な食とワインの組み合わせの新たな座標軸
 @ ピエモンテフェスティバル presented by 宮城・ローマ交流倶楽部

 およそ400年前、仙台藩主・伊達政宗は、スペインとの交易を目的に支倉常長ら慶長遣欧使節を欧州に派遣します。帆船サン・ファン・バウティスタで太平洋を渡り、メキシコを経由してスペイン国王フェリペ3世やローマ教皇パウルス5世と常長らが謁見した史実から、宮城県とイタリア・ラツィオ州ローマ県は姉妹県の関係にあります。「宮城・ローマ交流倶楽部」(会長:西井 弘 弘進ゴム株式会社取締役会長)Link to website】は、イタリアとの相互交流を行う民間団体です。daniela_hiroshi_nishii.jpg同倶楽部の主催で先月初旬、仙台国際ホテルを会場に「ピエモンテフェスティバル」が催されました。「宮城の食材とピエモンテ産ワインのマリアージュ」と題するワークショップで披露されたイタリアソムリエ協会Associazione Italiana Sommeliers 以下、略称のAISと表記)式試飲メソッドで、料理とヴィーノが互いを高めあうイタリア食文化の美点を改めて体感してきました。

【photo】イタリアソムリエ協会公認ソムリエ資格取得のための日本人向け研修プログラムの窓口となるイタリアン・クリナリー・ツアーズ社代表のダニエラ・パトリアルカさんから名誉ソムリエの称号を受ける西井 弘 宮城・ローマ交流倶楽部会長

 日本ソムリエ協会(略称 J.S.A.)が認定するソムリエ試験のテイスティング実技は、Degustation デギュスタシオンなる舌を噛みそうな仏語が正式な呼称です。そこでワインの香りや味わいの例えに用いられるのが、鉛筆・コショウ・カカオ・杉・バラ・新樽由来のバニラ香など。こうした馴染みのあるモノはまだしも、完熟した黒スグリ・レッドカラント・キイチゴ・リコリス(スペイン甘草)・熟成による濡れ落ち葉や土の香りとなると、簡単には思い浮かばない方が多いのでは? これはワインを単体で評価するワインジャーナリズムが発達している英国や仏国を規範とする J.S.A.の方針によるものです。

bagna_cauda_rc.jpg【photo】現代の名工、中村 善二 仙台国際ホテル総料理長が監修したピエモンテフェスティバルで供されたバーニャ・カウダのアンチョヴィには石巻産のイワシを使用したという

 夏野菜をたっぷりと使ったカポナータ(=南仏のラタトゥイユでは用いないビネガーと砂糖を加えた南イタリア料理)、スティック状の冬野菜をアンチョビ・ニンニクとオリーブオイルなどから作る温製ディップソースで頂くバーニャ・カウダ、分厚い赤身の牛肉を塩・胡椒でシンプルにグリエしたビステッカ、白身魚をアサリやトマト・ケイパーなどと水煮するアクアパッツァ、そして各種パスタ料理やリゾットなどなど...。こうしたイタリアンに関しては、ヴィーノがないと嚥下(えんげ)機能が著しく低下して咽喉を通らなくなるラテン体質な私は、一介の「呑むリエ」に過ぎません。イタリア人がそうであるように、美酒が食事をより一層美味しくしてくれれば、それで十分。イタリアの片田舎にあるトラットリアでは、地元の人たちがカラフェに入ったその地方産のハウスワインで食事とおしゃべりに興じている光景に出合います。

Mr.nakamura_rc.jpg【photo】ピエモンテならではの贅沢な肉料理「Brasato al Barolo ブラザート・アル・バローロ(=牛肉のバローロ煮込み)」をサーブする中村 善二 仙台国際ホテル総料理長

 一見、無頓着に地元のヴィーノを選んだかのように見えるイタリア人たちの食卓にも、食事とワインのマッチングには、最低限のお約束は存在します。なにせ幼少の頃から水で薄めたヴィーノで舌のトレーニングを積んでいる人たちのこと。体感的に料理の味付けの濃淡とヴィーノのボディをあわせる彼らの鉄則からすれば、魚介や野菜の入った軽やかで繊細な冷製パスタには、強靭なタンニンが口腔を覆うアリアニコ種から造られるTaurasi タウラージなどフルボディの偉大な赤ワインでは釣り合いません。食事とヴィーノの産地を同一地方で合わせる彼らのセオリーからすれば、白トリュフの濃厚な香りに満たされるスクランブルエッグに、南イタリア屈指の高貴な白品種フィアーノ種を持ってきたのではお互いの美点を掛け算で高め合うことはないでしょう。

sommelier_franciacorta.jpg【photo】スローフード協会主催のSalone del gusto サローネ・デル・グストで行われたフランチャコルタのセミナーで参加者にサービスするAIS公認のソムリエ(右)とソムリエール(左)

 Enologia(=ワイン学)とGastronomia(=日本語では美食学と訳されるガストロノミー)を組み合わせた Enogastronomico エノガストロノミコという言葉が存在するイタリアにおいては、ワインと食事は常に一体のものとして考えられてきました。ゆえにイタリアのソムリエ資格試験においては、ワインのみならず食べ物も視覚・嗅覚・味覚を駆使して体系的に特徴を把握します。日本のようにワインを多彩な言葉を用いて表現するのではなく、食事との相性・組み合わせに重点を置くのです。こうしたイタリアソムリエ協会方式は、ワインを本来の食中酒として楽しむ一般のワインラヴァーにとって、極めて使える技能となるはずです。

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 ミラノ北西部、モンツァ通りにある日本料理店「木村」【Link to website】(⇒寿司ブームに沸くイタリアでも、中国系移民の経営によるこうした怪しげな日本料理店の何と多いことよ!! この店もサイトのBGMは中国語ゆえ、店名も看板にあるKimura ではなく、Mùcún ムーツンと中国読みするやも? )の向かいに本部があるAISは1965年の創設。4年後に発足した世界ソムリエ協会 Association de la Sommellerie Internationale (略称:A.S.I. 本部:パリ。Moët & Chandon社がスポンサードする同協会は後にイタリア主導のワールドワイド・ソムリエ・アソシエーション Worldwide Sommelier Association 略称:W.S.A. と分裂。現在J.S.A.日本ソムリエ協会はA.S.I.に加盟。45カ国で構成されるA.S.I.会長には、J.S.A.会長でプリンスホテルシェフソムリエの小飼 一至氏が2007年に就任。A.S.I.副会長は'95年に同団体が主催するコンテストで優勝した田崎 真也氏)の立ち上げにも主導的な役割を果たしました。

【photo】毎年50名のソムリエがイタリア全州のヴィーノを試飲、Grappolo (ブドウの房)の数でヴィーノを評価するイタリアソムリエ協会発行のワイン評価本Duemilavini (上写真)

 分派した格好のW.S.A.には日本を含めて英・米・独・露など14カ国が参加しています。AIS には国内20州全てに支部があり、さらに町単位の支部が存在します。日本にも支部があるAISは全世界で40,000人の会員を擁します。主な活動としては、柱となるイタリアワインの啓蒙普及活動とソムリエ育成のほか、2000年以降毎年版を重ねているワイン評価本「Duemilavini ドゥエミッラヴィーニ」の発行が挙げられます。11冊目となる2010年版では、1,792ページに渡って1,592 の醸造所が取り上げられています。AISのソムリエが 2万本以上のヴィーノを試飲、最高位の5 Grappoli チンクエ・グラッポリ(=5つのブドウ房)には279 醸造所の319銘柄が輝いています。

vini_rc7.3.2010.jpg【photo】史上初めてイタリア人と接した日本人、支倉常長の偉業にちなんで発足した「宮城・ローマ交流倶楽部」が主催したピエモンテワイン・ワークショップで試飲したヴィーノ。北イタリアらしい繊細な個性を持ち合わせたこれら5 本については、次回ご紹介

 日本のワイン消費量のおよそ半数はフランスワインで占められます。国内消費が主で海外進出が遅れたイタリアワインはその半分にも満たない2 割弱に過ぎません。2009年のデータでは、世界のワイン総輸出量の21.5%を占めるイタリアが頭一つ抜け脱して第一位。シェア16.5%で2位に食い込んだスペインに続くのがフランスで14.5%。にもかかわらず半数をフランスからの輸入で賄う日本と世界の実情との明確な違いの背景として、同じ目標のために国を挙げて行動するのが不得手なイタリア人特有の資質(笑)のみが災いしているのではないようです。世界的に消費が伸びているカリフォルニアやチリ、オーストラリアといったニューワールド産ワインの市場拡大がさほど進まず、旧態然としたブランド志向が根強い日本人のワイン消費傾向が数字から浮き彫りになってきます。冷涼な気候ゆえに赤ワインの自国生産がほとんど出来ない世界最大のワイン輸入国ドイツや、世界第二位のワイン消費国であるアメリカとフランス語を公用語とするケベック州がある隣国カナダですら、イタリアワインのシェアがフランスワインを上回っているという事実だけを述べておきましょう。
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【photo】多種多様なイタリアワインの概要を知るにはうってつけの中川原まゆみさんの著作2点。主要100品種ガイド土着品種で知るイタリアワイン(左)イタリアワイン・スタンダード110(右)

 急速な経済成長による富裕層の登場で、フランスワインの輸入量に関しては、もはや日本の数字を上回った中国は、ワイン消費のみならずブドウの作付けも右肩上がりで増えています。こうした新興の生産国を含めて世界中で最も栽培されているブドウ品種は赤がカベルネ・ソーヴィニヨン、白はシャルドネです。栽培環境を選ばない汎用性の高いこの二つのブドウ品種は、当然イタリアでも栽培されますが、画一的なニッポンのお米のようにコシヒカリに右倣えでは、個性と多様性の国イタリアらしくありません。万年雪に覆われた北の山岳地帯の斜面からアフリカ大陸にほど近い灼熱のシチリア南端の島々まで、起伏と変化に富んだ地形と気候のもと20州全てでブドウが栽培されます。資料によって数は異なりますが、その種類は400を超え、各地の風土に順応して変異したクローンまで細分化すれば優に2,000はあるともいいます。

 郷土料理の良き伴侶として愛されてきたイタリアワインは、その多様性ゆえに理解することが難しいといわれ、ワイン消費に関しては後発国の日本での普及を妨げる一因となってきました。その上、Barolo・Barbaresco の原料となる北イタリア随一の高貴なブドウ品種Nebbiolo ネッビオーロは、Nebbia (=霧)に霞むランゲ丘陵以外のブドウ畑では、本来の強靭で妖艶な魅力あるワインとなることはありません。Brunello di Montalcino など中部トスカーナで最良の結果を生むSangiovese サンジョヴェーゼは、晩熟型のため、収穫期に気候が安定しない地域ではリスクが高くなります。原産地以外への旅が出来ないイタリア品種は、やはり産地で食事とともに味わってこそ、その魅力が初めて理解できるのでしょう。

m_nakagawara.jpg【photo】美食の都・ボローニャを拠点に、イタリアワインの魅力を紹介する活動を展開する中川原まゆみさん
〈撮影:渡邉 高士 氏〉

 今回のセミナーに登場した5 品種を含め、イタリア固有の主要100品種で作られるヴィーノを紹介する中川原まゆみさんの労作「主要100 品種ガイド 土着品種で知るイタリアワイン」(産調出版刊)は、百花繚乱のイタリアワインを理解する上で格好の一冊です。初出から2年を経て改訂版を出した昨年、中川原さんは州別にヴィーノの特色を表す日本でも入手可能な110本と、その良き伴侶となる郷土料理110種のレシピを紹介した「イタリアワイン・スタンダード110」(インフォレスト刊)を上梓します。

 イタリア料理好きが高じ、東京でレストランを開業するも、さらに高みを目指すため、2001年3月単身イタリアに渡った中川原さんは、イタリアン・クリナリー・ツアーズ社が現在日本での窓口となる AIS ピエモンテとの共催による6カ月のソムリエ研修プログラム【⇒詳細はコチラに参加します。同年9月、日本人女性初のイタリアソムリエ協会公認の上級資格、Sommelier Professionista ソムリエ・プロフェッショニスタを取得。AIS主催のPremio Internazionale del Vino 2008(インターナショナル・ワイン・アワード2008)で最優秀レストラン&ワインリスト賞に輝いた1,800種に及ぶ壮麗なワインが記載された131ページのワインリスト〈clicca qui 〉を備えたエミリア・ロマーニャ州の名リストランテ「Paolo Teverini 」のソムリエールとして活躍、現在は輸出業のかたわら執筆活動を続けています。

 と、ここまで前置きだけで本題のテイスティングまで一向にたどり着かないまま、中川原さんの本でイタリアワインに関する予習をして頂いたところで、当日の模様は後編にて... (^_^; A

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コメント

だいぶご無沙汰しております!相変わらず楽しいご紹介拝見してますよ。ピエモンテとの関わりが続いているのはとても感慨深いですね~。

ところで、ちょっとしたニュース。近日中に広瀬通の路面にイタリアンが新規オープンするそうです。CUOCOはTOSCANAで長年修行されていたそうで・・。
もう少し情報集めてみます!

シニョール・ポレンタさま

 お久しぶりです。かつてBARBARESCO の醸造元が集ったピエモンテの夕べのような集いが仙台のような地方の都市で行われるのは、とても意義深いと思います。ダニエラさんは、親日家だけあって、Buon Ricordo がらみでも来月来仙するとか。そういえばイル・デスティーノには、安達シェフが食べ歩きで蒐集したお皿が飾られていますね。

 さすがは業界(?)だけあって、もう情報が流れているのですか。噂のその店は、Firenze のドゥオモ近くにあるリストランテLa Giostra でCapo Cuocco だったLuigi Hirose さんの店Ristorante da Luisi です。「日本人で最もTartufo bianco を食べたのは自分だ!!」と語るだけあって、8年間、その店で働いてこられたツワモノです。ジオストラの伊語サイトのFoto gallery の最後に登場しているLuigi さんがその方です⇒ http://www.ristorantelagiostra.com/frameset.html

 晩翠通にほど近い広瀬通に面したビル1Fにできる店の前を今日通りかかったら、まだ内装工事中でした。9月オープンとのことです。隣にはCOLNAGO やDE ROSA などイタリア系Bicicletta も取り扱うショップがオープンしています。どちらも気鋭の空間プロデューサーOGATA 氏が手掛けた店ですので、そちらも覗いてみて下さい。

ラクリマモッロディダルバ、おいしそうですね。
最新記事で取り上げておいでのこのブドウ。中川原さんの著作でも紹介されていました。
見つけたら飲んでみたいです。

▼ Lacrima様

コメントありがとうございます。
中川原さんの労作は多様性を知る上でとても勉強になりますよね。
ラクリマ・モッロ・ディ・ダルバは生産量が少ない上、この作り手はインポーターが変わったので、最近のvinはあまり日本に入ってきていないようです。ゆえに見つけたら即GETです。

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