あるもの探しの旅

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期待度高し、AeroPress

Not Clover, but Clever. it's AeroPress.
スペシャルティ・コーヒーの醍醐味を手軽に味わう新世代ツール
「AeroPress エアロプレス」

What is AeroPress ? より続き 

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 ヨーロピアンスタイルの深煎り豆は表面が黒光りしていますが、あの光沢を生み出すのがコーヒーの香りと旨味が溶け込んだコーヒーオイルです。コーヒーの抽出法で最も普及しているペーパーフィルターでは、コーヒーオイルまで漉し去ってしまいます。そもそもペーパーフィルターではエスプレッソのように蒸気の圧力で一気に抽出する豆の持ち味を存分に味わう凝縮感を出せません。挽きたての新鮮な豆でもペーパーの匂いがコーヒーに移るリスクも出てきます。

【photo】 4分の抽出時間を要するフレンチプレスは、余分な雑味を生むリスクを伴う

 高品質のスペシャルティコーヒーに適した抽出器具として推奨されてきたフレンチプレスは、19世紀半ばには存在したという原型にもとに1929年にミラノ出身のアッティリオ・カリマーニとジュリオ・モネッタが特許を取得したものです。フレンチプレスと呼ばれるようになったのは、1958年にイタリア人実業家ファリエッロ・ボンダニーニによって改良型が発売され、それが1960年代にフランス家庭で広く普及したことによります。

aeropress_00.jpg 【photo】 これがAeropress の主要パーツ。川口バリスタが推奨するのは、取扱説明書とは上下逆のこのセッティング

 家庭ではBialetti に代表されるマキネッタ(モカポット)《Link to backnumber 》 やカフェ・ナポレターナ 《Link to backnumber 》で、バールではプロ仕様のマシンで香り豊かなエスプレッソを楽しむ国イタリアでではなく、フランスで普及したがためにイタリアンプレスとはならなかったのですね。イタリアでは空港にあるカフェでもレベルの高いエスプレッソを飲むことができますが、パリのシャルル・ド・ゴール空港でマシン抽出されたエスプレッソの水っぽさには、ほとほと閉口しました。

aeropress_01.jpg【photo】上写真と同じ天地逆セッティングで抽出準備に入る川口バリスタ

 エスプレッソマシン、モカポット、フレンチプレスはいずれも細かい穴やメッシュ状の金属フィルターを通してコーヒーを抽出するため、極細挽きの豆ではコーヒーに粉っぽさが出ます。蒸らしを含めて4 分程度の抽出時間を要するフレンチプレスは、不快な苦味や酸味が入り混じった雑味が感じられることもあります。ゆえにアメリカンに代表される浅煎り豆を荒挽きしたあっさりとした仕上がりを好む方は慣れ親しんだペーパーフィルター派が多いようです。


aeropress_02.jpg 【photo】まずは挽いたコーヒー豆15g(一人分)をいれ

 真空状態のシリンダー内でコーヒー抽出を行う独自のバキュームプレスによって、アフターの重ったるさが無く、スペシャルティコーヒーの持ち味をくっきりと描き出してみせるプロ向けマシン、Clover 1s は、2008年に Starbucks が製造元のClover Equipment 社を買収した今となっては、1台$1,100 という価格もあって、プロのバリスタに普及する可能性が摘まれてしまいました《Link to backnumber 》。そこに登場した救世主が、2005年に米国の発明家アラン・アドラー氏によって開発されたコーヒープレス器具「AeroPress エアロプレス」です。

aeropress_03.jpg【photo】 煮沸後80℃まで湯冷まししたお湯を200cc注ぐ

 1984年にアドラー氏が開発したドーナツ型のフライング・リング「Aerobie® Pro Ring」は、406mという飛行距離の世界記録を樹立しています。スタンフォード大学工学部で Aero dynamics (=空気力学)の講師を務めるアドラー氏が、AEROBIE 社を設立後の2005年に開発したのがAeroPressでした。空力の専門家がなぜにコーヒー抽出の分野に進出したかは謎ですが、開発当初は、フライング・リングと同じアウトドア用品を扱うショップで売り出されました。それがスペシャルティコーヒーの世界で認知が遅れる原因となりました。

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 畑違いの発明家が編み出したシンプルな構造の道具にいち早く注目した人こそ、「What is AeroPress ?」でご紹介したノルウェー・オスロのカフェ「Tim Wendelboe 」のオーナーバリスタ、ティム・ウエンデルボーでした。2004年の世界バリスタチャンピオンシップで優勝したトップバリスタは、空気力学の専門家が生み出した抽出ツールにコーヒーの新たな可能性を見出したのです。

【photo】コーヒーにお湯を行き渡らせるイメージで、静かにお湯全体をかき混ぜる

 今年6月、エアロプレスの抽出技術を競う世界大会が開催されたロンドンに乗り込み、世界最高峰の技を見てきたカフェ・バルミュゼットの川口 千秋バリスタ。その言葉を借りれば、最も Easy に、Quick に、Cheap に Clover 1s のクリアな味を再現できるのが、AeroPress なのだといいます。バルミュゼットでの販売価格が4,000円そこそこという比較的手頃な価格、簡単な抽出法、後処理も楽チンと、三拍子揃ったそれは、確かに魅力的なツールに映ります。川口さんが淹れたカップの味を確認、これを逃してはClever (=賢い)な選択ではあるまいと購入を即断したのでした。
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【photo】 円形のペーパーフィルターを装填したスクリューキャップを装着した状態

 六角形のパッケージに収まった本体を構成するパーツは、口径60 mm ほどの透明な樹脂製シリンダー2 種とペーパーフィルターを装填するスクリュー式フィルターキャップだけと、極めてシンプル。付属品はお湯を注いでコーヒーを撹拌する専用棒、メジャースプーン、円形のペーパーフィルターなど数点のみ。英文の取扱説明書では、シリンダーのパーツをChamber (=外筒・空洞) と Plungner (=ピストン状の突き棒)と表現しており、その構造は注射器と似ています。エアロプレスというだけに、手押しの自転車用空気入れと基本構造は同じです。Chamber の先端に装着する黒いスクリューキャップには、3 mm 大の穴が97個空いており、側面には等間隔で17 の四角い穴が穿たれています。

aeropress_06.jpg 【photo】 本体をひっくり返してカップにセット、Plungner 部分に手で圧力をかけて中に押し込む。この際、横から見ると、熱可塑性エラストマ製の黒いゴム状の先端部分とお湯の間にある空気層が液面を押し込むのが分かる〈clicca qui

 開発当初のモデルにはポリカーボネートが本体素材として使われていました。ポリカーボネートには、FDA 米国食品医薬品局が生態系や健康への影響を指摘する内分泌かく乱化学物質ビスフェノールA(略称:BPA)が含まれており、それが高温のお湯に溶解することが知られています。そのため、世界各国の安全基準に準拠させるため、2009年8月以降の現行モデルには、安全性が確認されているコポリエステル樹脂が使われるようになりました。Plungner 先端部分の素材は、ゴムのような弾性を備えた熱可塑性エラストマ、フィルターキャップなどの黒いパーツはポリプロピレン製となります。(注:バルミュゼットで取り扱うのは後者)

【photo】抽出を終えたらキャップを外し、ペーパーフィルターとコーヒーをダストボックスへ。キャップの側面に穿たれた17の四角い空気穴〈clicca qui 〉から逃げ出す空気と共に、旨味と香気成分が溶け込んだコーヒーオイルがカップの中に漏れ出すのでは? というのが、川口バリスタの見解

 近未来に予測される日本での本格デビューに備え、取扱説明書をもとに川口氏が推奨する抽出法をご紹介します。空気の圧力をもってしてコーヒーを抽出するその段取りは、至って単純明快なものです。


How to AeroPress≫ 
● コーヒー豆: 一人分15g (ペーパードリップと同等か、わずかに細か目に挽く)  
● お湯: 80℃のお湯を200cc (本体には1~4 カップまでの湯量を示すマーキングが施されていますが、後述する注意点2の理由により、メジャーカップ使用がベター。苦味や酸味の抽出が強くなるため、沸騰したお湯は不可)
● 所要時間: 1 分 (本体をカップにセットし、お湯をゆっくりと注ぎ、あらかじめ入れておいたコーヒー豆を10秒ほど蒸らしてから、20秒~30秒でプレスし終わるまで)
● 抽出を終えたら、スクリューキャップをはずし、ペーパーと粉をワンタッチでポイ。キャップとシリンダー内をさっと水洗い。 以上。

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注意点1 : 川口氏の横顔が写る前回紹介した動画に登場する英国「Has Bean Coffee」社のスティーブ・レイトン氏は、せっせと粉の撹拌を行っていますが、これはNG。お湯を粉全体に行き渡らせるイメージで、あくまでgentleに 

注意点2 : スティーブ・レイトン氏は取扱説明書通りに、ペーパーフィルターを装填したキャップを下にしてお湯を注ぎます。カップのクオリティを追求する川口バリスタが推奨するのは、器具を上下逆にセットし、挽いた豆を入れてからお湯を注ぐ方法。これによって、蒸らしが不十分なために濃度不足のコーヒーがカップに自然落下することが防げます。

【photo】 今日バルミュゼットで味わったAeroPress で抽出したシングルオリジンは、中米エルサルバドルのサンタ・リタ農園産のアラビカ豆100%の一杯。原種のティピカ種から突然変異で生まれたこのブルボン種は隔年収穫のため、産出量が限られる稀少な豆。強すぎない自家焙煎によって、豆本来のピーチなどのフルーティさ、フローラルな持ち味が際立つ。
 フカフカのクリーミーなキッシュとパニーニサンド〈clicca qui 〉を食べているところに「ところで新たな面白い話がありましてね」と言いながら、にじり寄ってきた川口バリスタ。昨日お目見えしたという新たなツールの説明を興味津々で聞くワタシ。次々と入荷するネタに、「Caffè カッフェ」だけではなく、いっそ「caffè Bal Musette」 カテゴリーを設けようかしらん、という思いが去来するのだった

 ひと足早く火がついた欧州と米国での需要が逼迫しているためか、AeroPress はAmazon.co.jp ですら品切れで、日本では入手困難な状況にあります。私が知る限り、今のところ国内で唯一、この最新にして最強のツールを扱うのはバルミュゼットのみ。ペーパーフィルターが350枚セットされたパッケージは4,380円。補充用のペーパーフィルターは680円で入手できます。当面の在庫確保は問題なしとのこと。 善は急げっ!! 

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la casa del caffè Bal Musette カフェ バル ミュゼット
住 所 : 仙台市泉区桂4-5-2
Phone / Fax : 022-371-7888
営 : 11:00~22:00 (日祝~19:00) 木曜休
URL :http://www.bal-musette.com  
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コメント

ブラボー! たいへんよくできました。エアロプレスの説明をこれほどまでに完璧になされた記事はこれから先も世に出てくることはないかもしれませんね。これからもおいしいコーヒーを求めてエアロプレスで最後までプシュゥッと行きますよぉ

▼haraiso21 様

 ご愛読、そしてコメありがとうございます。お約束のレポ後編、いつものように幾分手間取りましたが、在庫状況などの確認のため、文中最後にある通り、当記事アップ当日の昼時間帯にマエストロの店に伺いました。その折、シルバーのLa Marzocco がスペックアップを果たしたばかりという新ネタを「掴まされました」(笑)。

 金曜日に店を訪れたキーパーソンと共同で装着・チューニングを行ったという2つのパーツは、バリスタの抽出技術によることなく、エスプレッソの乳化を安定して行えるのだそうです。興味深いことに、その部品には日本の金型製造技術が活かされているといいます。

 そちらもどうぞ詮索してしてみてください。

 

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