あるもの探しの旅

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豊穣なる山の恵み〈前編〉

大自然に抱かれた深閑の山里・大鳥

lago_otori_2004.9-1.jpg【photo】東大鳥川沿いのダート道を泡滝ダムまで車で進み、朝日連峰登山口から山に分け入る。およそ2 時間で大鳥小屋に至り、やがてタキタロウが潜むという大鳥池が、その名の由来となった羽根を広げた鳥というより、クマの全身毛皮のような姿をみせる

 幻の怪魚「タキタロウ」が棲む大鳥池で知られる鶴岡市大鳥地区。あまたの恵みを庄内平野南部の田畑にもたらす水量豊かな赤川水系も、ここ上流域では東西の大鳥川と呼ばれる二筋の急峻な流れとなります。仙台在住の作家・熊谷 達也氏が、過酷な大自然の掟に立ち向かうマタギの生きざまを描いた直木賞受賞作「邂逅の森」(文春文庫)の舞台となった広大なブナ林が奥地へと続いています。その源流域は、以東岳(1771m)を主峰とする朝日連峰で、新潟・山形の県境となっています。

otori_takaoka2010.jpg【photo】東西ふたつの大鳥川が出合う河合橋にて。この東大鳥川を遡ると周囲の山々をその碧い水面に映し出す大鳥池へと至る

 タキタロウ公園オートキャンプ場が整備された大鳥は、朝日連峰への玄関口として、また渓流釣り愛好者にとっての拠点となる山里です。この地は落人の村とされ、平安末期から鎌倉にかけて伊豆伊東荘(現在の静岡県)を拠点とした武将・工藤祐経が曾我兄弟に仇討ちされた1193年、その弟大学は伊豆に逃れたのち、一族郎党20名ほどを引き連れ、人里離れた山深い大島の地で集落を創始しました。そのため工藤姓が多い大鳥は、庄内地域でも独特の言葉が残ります。その経緯は、飯田 辰彦 著「淡交ムック ゆうシリーズ 美しき村へ 日本の原風景に出会う旅」(2007年 淡交社 刊)に詳しく紹介されています。

kabutozukuri_oohari.jpg【photo】大鳥へと向かう道すがら、旧朝日村大針地区付近で、もはや住む人がいない一軒の兜造りの多層民家がそぼ降る雨に濡れていた。雪深いこの地域では、上階の窓から冬は出入りしていた。そうした記憶もこの廃屋とともに朽ち果ててゆく

 2月上旬、深い根雪に埋もれる大鳥では、「マタギの里 白銀の世界 in 大鳥」という冬祭りが催されます。またの名を「うさぎ祭り」。...ん? うさぎ祭り@マタギの里?? 庄内浜各地で真冬に行われる「寒鱈まつり〈Link to backnumber 〉」ならば、ここ数年毎年訪れていますが、今年1月に初めて知ったうさぎ祭りの内容は、実に興味をそそるものでした。雪上でカンジキを履き、追っ手と捕らえ手に別れて雪穴に潜む野ウサギを追い込む「巻き狩り」を行うというのです。マタギ体験(⇒素人対象ゆえ、猟銃は当然のこと用いない)の後、ウサギ汁がどぶろくと共に振舞われるという、マタギ文化の片鱗に触れる願ってもない機会ではありませんか。激しく心惹かれたのですが、残念ながら都合が折り合わず参加を見送ったのでした。今年こそっ!!

kuma_tsume.jpg【photo】 旧朝日村時代の2004年(平成16)にオープンした「産直あさひ・グー」では、山菜・キノコ・トチモチなどの山の幸とともに、地元で捕獲されたツキノワグマの毛皮や爪、果てはオスの生殖器にある××骨といった珍品まで売っている

 大鳥のみならず、朝日連峰の山懐に抱かれた山形県西置賜郡小国町や旧東田川郡朝日村(現鶴岡市)、隣接する新潟県旧岩船郡朝日村(現村上市)周辺の山間地には、今もマタギ村があり、狩猟文化が息づいています。日本で唯一、鷹狩りを伝承する「最後の鷹匠」こと松原 英俊氏が暮らすのは、大鳥からほど近く、養蚕の痕跡を残す4層からなる兜造りの多層民家で知られる旧朝日村田麦俣集落。1960年代の記録では、全54世帯のうち、32戸が多層民家で暮らしていたとのこと。独特の様式美を備えた多層民家は、展示のため鶴岡の致道博物館に移築された旧渋谷家(国重文)ほか、現在は「民宿かやぶき屋」として使われる1棟と隣接する旧遠藤家(県重文)の2棟だけが田麦俣に残るのみとなりました。

maitake_kudo.jpg【photo】「産直あさひ・グー」では希少価値の高い天然マイタケも良心的な価格で入手できる。これは青嵐舎を営む篠さんご夫妻の奥様・育さんのお父様、キノコ名人の工藤 朝男さんが採った天然マイタケ(500g 2,000円)

 かつて六十里越街道の宿場として人の往来があった田麦俣周辺には、今も狩猟文化が受け継がれています。この季節、R112 沿いにある「産直あさひ・グー」では、「沖田ナス〈Link to backnumber 〉」生みの親である小野寺 政和さん・太さん親子の沖田ナス粕漬や、天然物のキノコ類と共に、ツキノワグマの爪や牙などがお守りとして、まるごと一頭分の毛皮(90,000円)が、あなたのお部屋をワイルドに演出するインテリアアイテムとして売られています。

 2年前、鶴岡在住の食通から、あそこは料理上手だから一度行ってみてと勧められたのが、山里の小さな宿「青嵐舎」でした。篠 清久さん・育さんご夫婦が営む青嵐舎のことは、TV朝日系列で2004年(平成16)に放映された「人生の楽園」で得た知識があり、その存在は認識していました。初めてそこを訪れたのが昨年秋。キノコご膳を頂き、知人の言葉通りであることを確認、ふたたび青嵐舎を訪れたのは、木々がようやく色付きはじめた10月10日(日)のこと。事前にキノコの出揃い具合を確認し、再訪の機会をうかがっていました。この季節、大鳥を訪れる目的は、人里離れた豊かな山の恵みであるキノコを存分に味わうためにほかなりません。

kuyohisa_iku_shino.jpg【photo】照れながらも青嵐舎の前で撮影に応じて頂いた篠さんご夫妻。おっとりしたご主人と、気丈な奥様の掛け合い漫才を織り交ぜたおもてなしと、山里ならではの豊かな食事で心まで満たされ、またここを訪れたいと思わせてくれるはず

 故郷を離れること23年、東京でフリーのライター稼業をしていた育さんは、親戚から譲り受けた古民家の部材で自宅兼民宿を建てることを決意します。ユニークなのが、ご主人との出会い。東京育ちで不動産会社に勤務していた清久さんは、雑誌に掲載された山が好きな民宿経営のパートナー募集という育さんの投稿を目にします。縁あってご結婚されたお二人が開業にこぎつけたのが2004年の初夏。それは春遅い大鳥の山々で、木々の芽吹きと同時に山菜が一斉に出揃う季節です。萌えたつ青葉の季節に吹く爽やかな風を意味する「青嵐」が、お二人の新たなスタートとなる宿の名となりました。

   seiransha_dining2.jpg seiransha_dining.jpg
【photo】朝食が用意されるのは、存在感のある太い梁が渡された青嵐舎のダイニングルーム(左写真)。明治以降、盛んに行われた養蚕の記憶を留める糸車や、階上への梯子などが室内に配置される(右写真)

 宵の竹灯籠まつりと屏風まつりが珍しく同時開催中だったその日は、「味匠 喜っ川」での塩引鮭調達を主目的に新潟・村上〈Link to backnumber 〉を経由して大鳥に向かいました。その道筋には本来3つの選択肢があります。まずは朝日連峰を横断する険しいダート道が延々と続く朝日スーパー林道。もうひとつは新潟県内では内陸部を進むR7を経て鼠ヶ関・鶴岡市街に至る一般的なルート。そして景勝地「笹川流れ」を経由して日本海沿いを北上、鼠ヶ関の手前でR7に合流するコースです。

arasawa_zuidou.jpg【photo】大鳥鉱山で採掘される鉱石を搬出するため、1954年(昭和29)に竣工したトンネルのひとつ、荒沢ダムの脇を通る笹根隧道(全長425m)。素掘り区間もある荒沢隧道(同682m)ともども、薄暗い洞内にはしばしば霧が立ち込め、荒れ果てた舗装面は滴り落ちた地下水が小川となって流れている。すれ違いが困難な3.5m という幅員のため、のちに待避所が洞内に設けられた

 距離的に最も近い朝日スーパー林道は、山形県側で頻繁に起こる土砂崩れのため、しばしば通行止めとなります。事前に青嵐舎の斜め向かいにある旅館「朝日屋」に電話でスーパー林道が通行止めであることを確認していたため、その日は笹川流れを経由することにしました。たとえ遠回りでも、そのルートは、道すがら日本海の逸品を入手できるからです。後日ご紹介するユニークな鮮魚店や塩工房に寄り道しながら、西方から迫り来る真っ黒な雨雲に追われるようにして古い隧道を抜けて宿に着いた時、時刻は16時15分を回っていました。

sapori_monti_seiran.jpg【photo】青嵐舎の玄関先には、実りの秋を迎えた豊かな山の恵みがあふれていた

 ご夫婦とともに宿の玄関先で出迎えてくれたのは、愛猫のミューと豊かな山の実りの数々。アケビ、百合根、ヤマグリ、ヤナギシメジ、マスタケ、ブナハリタケ、マイタケ、モダシ・・・。すべて背後に広がる山の豊かさを物語る天然物です。独特の香りが心地よい高野槇(コウヤマキ)のお風呂で一息つき、ご主人自慢のMarantz 製スーパーオーディオCDプレーヤーで、バッハのゴルドベルク変奏曲を聞くうち、にわかに窓の外を驟雨が襲い始めました。グレン・グールド奏でるピアノとフォルテモで屋根を叩く雨音が心地よい旋律となって、穏やかな時が流れてゆきます。

libri_seiransha.jpg【photo】 2 階には客室のほか、こうしたマタギの里らしい蔵書類やCDが用意された談話スペースがあり、思い思いの時間を過ごせる

 数多い蔵書の中から、大鳥に関する記述がある本や、宿を訪れた著者のサインがある邂逅の森に目を通すうち、「食事の準備ができました」と階下から声が掛かりました。100年以上を経たという古民家の部材を使った太い梁が架かる和屋には、マタギであり、キノコ名人でもある育さんの父・工藤 朝男さんと、清久さんが山から採ってくる豊穣なる山の恵みを活かした心尽くしの料理が用意されていました。

 店で売っているものではなく、地元・大鳥で採れたものを提供するというのが、青嵐舎の揺るがぬ信念です。聞けばその日の朝、朝男さんは山中で30kgを越える巨大天然マイタケ(!! )を発見、背負いきれず、半分ほどを持ち帰ったのだとか。そんな山の豊かさを雄弁に物語る料理と、食後に待っていた山里ならではのとっておきのお楽しみについては、また次回

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山里の小さな宿 青嵐舎

鶴岡市大鳥字高岡55-18
Phone : 0235-55-2508
U R L : http://www14.plala.or.jp/seiransya/
E-mail : seiransya@zpost.plala.or.jp
宿 泊 : 1泊2食付 かたくりコース 8,700円
            すみれコース 7,500円(※ 登山 ・ 釣り ・ ツーリング向け)
      素泊まり   5,000円
      洗面用具・タオル・パジャマ類は持参、館内禁煙
      大鳥池・以東岳周辺ガイド 日当10,000円より応相談

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