あるもの探しの旅

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豊穣なる山の恵み〈後編〉

♪ キノコの山は食べ盛り@青嵐舎

 さまざまにアレンジされたキノコ料理がふんだんに並ぶ青嵐舎の「秋の実りご膳」を初めて頂いたのは、昨年の10月11日(日)。店で売られている物ではなく、女将である篠 育さんの父・工藤 朝男(ともお)さんとご主人の清久さんが山中に分け入って採ってくる山の幸に手を加え、訪れる人に提供するのがポリシーです。植林された二次林ではなく、ほとんどを人の手が加えられていない自然林のもとで育まれる大鳥の天然キノコや原木キノコは、人工的な栽培キノコとの違いは歴然でした。

kudou_mamma.jpg【photo】青嵐舎周辺を散策しながら立ち寄った工藤朝男商店では、お母様の昭子さんが前日ご主人が運びあぐねた30kgの天然マイタケの残りを切り分けていた。貴重なその天然マイタケをお土産にと頂いてしまった。もっけでした~ (^0^ )

 地元で食料品店を営む朝男さんは、今年74歳を迎える現役のマタギです。狩猟を趣味で行うハンターではありません。その違いとは・・・。マタギ文化研究所顧問でもある朝男さんは、「山の恵みはその半分を頂くのがちょうどいい」と、大鳥に移住してきた清久さんに語っていたそうです。自然が本来備えている恢復力を損なわぬよう、節度をもって接しさえすれば、人間は末永くその恩恵に浴することができるという意味です。都会育ちの清久さんにとって、山の掟(おきて)のもとで生きてきた義父は、知恵袋であり、師匠にあたる存在です。

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 各地で相次ぐクマの人里への出没は、彼らの主なエサとなるブナやミズナラの実が猛暑の影響で不作だからだといわれます。人的被害を避けるため、やむなく駆除されるクマは人間のエゴが生んだ異常気象の被害者そのものに映ります。山の全てを知り尽くしたマタギは、日々の糧を与えてくれる大いなる自然に対し、畏敬の念をもって節度ある採取を行う縄文的な狩猟採集文化を受け継ぐ人々です。弥生時代、農耕文化の登場によって忘れ去られたかにみえる狩猟文化は、東北の山村で生き続けてきました。

【photo】勝手知ったる山中でナラの樹にビッシリと生えたキノコを採取する工藤 朝男さん

 育さんが庭の花を摘みに行ったら、数メートル先の茂みにクマがいたとか、店の前の道をクマが歩いていたなどと事もなげに語る工藤 昭子さん。大鳥の人々は野生の領域で暮らすたくましさを備えています。ゆえに大鳥では、クマが出没してもニュースになりません。生態系を破壊し、資源を枯渇に追いやる貪欲な現代文明とは対極にあるその暮らしぶりを知るには、青嵐舎の蔵書にもあった「マタギ 矛盾なき労働と食文化」(田中 康弘著・枻(エイ)出版社刊)が格好の一冊となるでしょう。著者は秋田県阿仁町のマタギ村を16年に渡って通いつめ、豊富な写真と共にマタギの姿を丹念に紹介しています。

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【photo】毎年5月にクマの冥福を祈る熊まつりを執り行う小国町の道の駅「白い国おぐに」では、地元でシシと呼ばれるツキノワグマの熊汁(1杯500円)を味わうことができる

 新潟・村上を経由して大鳥へと向かったその日、飯豊・朝日連峰が連なる山形県西置賜郡小国町にある道の駅「白い国おぐに」で、味噌仕立ての熊汁を昼食に頂いていました。たっぷりのダイコン、ゴボウとともに野生的な歯応えのシシ(クマ)肉が申し訳程度に(笑)入っています。ツキノワグマは、栄養を蓄えた冬から春先が最も脂が乗って肉質が良い時期なので、2年前のGWに頂いた脂が乗ったマタギ汁より淡白な印象なのは致し方ないこと。シシを分け与えてくれた山ノ神に感謝しつつ、野生モードにスイッチして大鳥へと向かったのでした。

 それでは1年ぶりとなる青嵐舎の背後に広がる豊穣なる山の恵みをご紹介しましょう。

《食中酒》
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【photo】 酒器は村上漆器一合徳利。鶴岡・大山の加藤嘉八郎酒造 特別純米「大山」をぬる燗で(左写真) 2本目は羽黒の銘酒・亀の井酒造「くどき上手」純米吟醸を冷やで味わう(右写真)

《前菜》
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【photo】自家製がんもどきと天然マイタケの煮物(左写真) もって菊の酢の物クルミ和え(右写真)

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【photo】 マスタケのバター含め煮 のし梅とサーモン・チーズのミルフィユ仕立て もち米とクルミのアケビ巾着(左写真) 自家製くるみ豆腐(右写真)

《椀物・香物》
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【photo】百合根とズワイガニの葛餡かけ(左写真) 大根の山ブドウ漬け・アオミズの茎と巨大な実・キュウリのおひたし(右写真)

《焼魚・和え物》
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【photo】イワナ塩焼き(左写真) もだし(ナラタケ)の和え物(右写真)

《和え物・洋皿》
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【photo】ブナハリタケの和え物(左写真) ヤナギシメジのデミグラスソース(右写真)

《ご飯・吸い物》
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【photo】むかごご飯(左写真) 原木ナメコ・もだし・ブナハリタケのキノコ汁(右写真)

《果物・デザート》
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【photo】旨さにビックリ、茹でヤマグリ(左写真) ヤマブドウのシャーベット(右写真)

 ご覧の通り、これでもかと山の幸が登場しました。そのいずれもが滋味深く、洗練された味付けがなされていました。山里の豊かさを味わってもらおうと、厨房で奮闘していた育さんが、やがて黒い液体が入った瓶を手に席に加わりました。ご自身が採種された熟する前のクルミを青い外皮のまま半分に割り、アルコール度数96度の世界最強ウオッカとして知られる「Spirytus スピリタス」をベースに、砂糖とスパイスを加えて漬け込んだ自家製酒だといいます。2ヶ月ほど漬け込むうちに真っ黒に変色し、アルコール度数がクルミの水分で幾分和らぐのだそう。

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【photo】今シーズン初めて挑戦したという青グルミ酒。極めて美味ゆえ、その真っ黒な外見にたじろぐなかれ。このファースト・ヴィンテージ・ボトルは、島村 奈津さんがお持ち帰りになった

 じっくりお話しするのは初めての育さんでしたが、興の赴くまま話題は多岐に及びました。聞けば翌週、スローフード山形の世話役である山菜屋《Link to website 》の遠藤 初子さんが、ノンフィクション作家の島村 奈津さんと共に宿泊する予定になっているとか。お二人を存じ上げている私も「ご一緒にどうですか?」と育さん。願ってもないステキなお誘いでしたが、ウイークデーであったため、残念ながら再訪は叶いませんでした。

nocino_malpighi.jpg【photo】モデナで調達した青グルミの酒「Nocino ノチーノ」。ベースとなるアルコール度数が24度のリキュールに未熟な青い Noce ノーチェ(=クルミの伊語)を加える「Nocello ノチェロ」とは違い、ベースが40度から80度の強烈な酒ゆえ、口当たりは良いが、飲みすぎは禁物

 勧められるまま、都合4 種類の自家製リキュールをご馳走になりましたが、私が最も気に入ったのが、青グルミ酒です。甘くほろ苦いコクのあるその味には覚えがありました。イタリアには、消化促進のための Digestivo ディジェスティーヴォ(=食後酒)が数多く存在します。そのひとつが、青グルミを仕込んで造る 「Nocino ノチーノ」。エミリア・ロマーニャ州モデナの伝統製法で造る「アチェート・バルサミコ・トラディツィオナーレ」製造元 Malpighi マルピーギ社をかつて訪れた際、ペロっと試飲して気に入り、50年熟成のバルサミコとともに買い求めたのがノチーノでした。よもや大鳥でイタリアの味と出合うとは、驚き桃の木クルミの木!! 翌週、青嵐舎を初めて訪れた島村さんも、すっかり自家製ノチーノを気に入り、一瓶を持ち帰ったのだといいます。

 育さんとの楽しい語らいは深夜まで続きました。懐が深い山里・大鳥の魅力に触れるなら、ぜひ、青嵐舎お手製の秘蔵酒をお供にされますよう。

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青嵐舎と大鳥の日々を綴る清久さんのブログも要・チェック !
山里便り http://blog.goo.ne.jp/mataginodesi

青嵐舎 (旅館・オーベルジュ(その他) / 鶴岡市その他)
夜総合点★★★★ 4.5

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