あるもの探しの旅

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I Profumi di Capri

カプリ島の香り、
Carthusia カルトゥージア

 はや立冬を過ぎ、冬の足音がヒタヒタと近づいています。山々はすでに晩秋から冬の装いに移ろいつつあります。こうして寒くなってくると、暖かな陽光降り注ぐ南イタリアへの憧憬が募ってきます。これは私のDNAに刻まれた前世の記憶によるものに相違ありません。そんな時、ナポリ湾に浮かぶ美しい島・カプリ島へ誘う淡い白日夢に浸るのにもってこいなアイテムを今回は取り上げます。

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 フランスの作家マルセル・プルーストの自伝的色彩が強いとされる長編小説「失われた時を求めて」は、主人公の「私」が、叔母が差し出した紅茶に浸したプチット・マドレーヌを口に含んだ途端、幼ない頃に夏の休暇を過ごした街の記憶が鮮明に蘇るという書き出しで始まります。ゆえに失われた記憶が香りによってフラッシュバックすることをプルースト効果と呼ぶのだそうです。

【photo】貝殻のような文様がつく伝統的な焼き菓子、プチット・マドレーヌ

 ヒトの五感の中で、最も記憶と密接に結びついているのは嗅覚です。これは脳内における香りの伝達経路が、味覚・聴覚・視覚・触覚とは異なることが原因だといわれます。鼻から入った香りの分子は、鼻の奥にある嗅覚細胞で取り込まれ、神経を伝わる信号へと変化します。それは大脳辺縁系と呼ばれる脳で最も奥深い位置にある部位、嗅球で感知されます。

Grottazzurro_Capri.jpg【photo】パスタソースの商品名になるほど日本では有名なカプリ島の「青の洞窟」。天気晴朗で運よく小型ボートで洞窟内に入れたとしても、船頭たちは頼みもしないのに、オオ・ソレ・ミオやサンタルチアを歌い続け、数艇の船頭の唄が洞内に反響しあう。海水全体が青色発光ダイオードのように輝く世にも美しい光景を前にして、興醒めすることおびただしい

 大脳辺縁系は新皮質が発達したヒトへ進化する以前の原始的な部位で、すぐ近くにある喜怒哀楽や摂食をコントロールする扁桃体ともども、動物としての本能的な働きをつかさどります。その大脳辺縁系には、出来事の記憶がインプットされる海馬があることから、嗅覚と記憶にまつわる不思議は起こるのかもしれません。

via_camerelle.jpg【photo】GUCCI,FENDI,BRUNELLO CUCINELLI,D&Gなど高級ブランドが軒を連ねるカプリ島のvia Camerelle カメレーレ通り。目の保養のみならず、所有欲を激しく揺さぶるアイテムがショーウインドーに並ぶここでは、自制心と清水の舞台から飛び降りる決断力がともに肝要

 世界のセレブが集うリゾート、カプリ島を初めて訪れたのが15年前の夏。ナポリから連絡船が着く港マリーナ・グランデから、フニコラーレ(=ケーブルカー)に乗って着く先は島の表玄関となるCapri カプリの町です。観光客で賑わうウンベルト1世広場から延びるVittorio Emanuele ヴィットーリオ・エマヌエーレ通りや交差するCamerelle カメレーレ通りといったメインストリートには、高級ブランド店がズラリと並びます。その中に島に自生する花や果実などの天然由来成分を使ったフレグランスを製造する工房兼ショップが点在します。喧騒を抜け、島の南岸に面したアウグストゥス庭園からはコバルトブルーのサレルノ湾に浮かぶIsole Faraglioni ファラリオーニ岩島の奇観が望めるでしょう。

Isola_Faraglioni.jpg【photo】カプリ島からわずかに離れた群島ファラリオーニ

 高揚した心持ちで過ごした甘美な時間の記憶が蘇る香りが、カプリ島のフレグランス「 カルトゥジア」です。2年前の夏、この世で最も香(かぐわ)しい場所としてフィレンツェの「Officina Profumo-farmaceutica di Santa Maria Novella オフィチーナ・プロフーモ・ファルマチュウティカ・ディ・サンタ・マリア・ノヴェッラ」(=サンタ・マリア・ノヴェッラ薬局)に関して述べた「典雅なイタリアの遺香 ~ i profumi di antica Italia《Link to backnumber 》」の最後で名前だけ登場しています。仙台市青葉区のセレクトショップ「Antelope アンテロープ」で取り扱うカルトゥジアは、このフレグランスの名前の由来となったCarthusio カルトジオ会派のサン・ジャコモ修道院と深いつながりがあります。

san_giacomo_capri_fiore.jpg【photo】現在は博物館と図書館としても使われるサン・ジャコモ修道院は、ブーゲンビリアやランタナといった南国の花が咲き乱れるアウグストゥス庭園に隣接して建つ

 1380年、当時ナポリ王国を支配していたアンジョ(アンジュー)家の女王、ジョヴァンナ1世がカプリ島を訪れます。3日間の滞在先となったのは、カプリに隠遁した帝政ローマ第2代皇帝ティベリウスが造った離宮跡に自身が1371年から3年を要して秘書官のジャコモ・アルクッチに建てさせた「Certosa di San Giacomo チェルトーザ・ディ・サン・ジャコモ(=サン・ジャコモ修道院)」でした。島に咲く美しい花々を生けて女王を歓待した修道院長は、女王が去った後に花器の水から妙なる甘い香りが漂ってくることに気付きます。それは夏にピンクの花を咲かせる石灰岩質を好む野生のカーネーション「garofano silvestre ガロファノ・シルヴェストレ」に由来する香りでした。

vista_Anacapri_.jpg【photo】島全体が石灰岩質の岩場からなるカプリ島最高峰のソラーロ山頂へは、島で2番目に賑やかなアナカプリの街からリフトが通っている。高所恐怖症の方にはオススメしないが、山頂からは360度のパノラマが広がる。東のカプリ方向の先にファラリオーニ岩島を望む

 キリスト教の教義に基づいた施療・投薬を行うこともあった中世期の修道院では、先述したドメニコ会のサンタ・マリア・ノヴェッラがそうだったように、信仰に生きる修道士が慈善事業として薬草栽培を行っていました。科学万能の現代人からすれば、胡散臭いイメージが付きまとう錬金術ですが、錬金術師が科学の発展に寄与した功績は看過できないものがあります。当時の最先端をゆく薬学の現場は修道院であり、そこからカプリ島では初の香水が生まれました。

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【photo】 クラシックで端正なボトルフォルム。カプリの記憶を呼び覚ますカルトゥージアのオードトワレより3種。Mediterraneo,Via Camerelle,Io Capri (写真左より) 各50mℓ/ 12,600円(税込) 

 その後、修道院は時の変遷を経る中で改築を繰り返す一方、サラセン人による破壊やナポレオン支配のもとでは閉鎖の憂き目に遭います。1948年、修道院の蔵書の中から当時の処方が記された文書を発見した修道院長は、バチカンの許諾とトリノの化学者に協力を得て、久しく忘れ去られていた香水の復元に成功しました。修道院の前に造られた小さな工房は、修道会の名にちなんで Carthusia カルトゥジアと名付けられます。

showroom_carthusia_augustus.jpg【photo】サン・ジャコモ修道院前にあるカルトゥージアの工房兼ショップ

 島で最も高いソラーロ山(589m)で採れるローズマリーや、ジョヴァンナ1世ゆかりのガロファノ・シルヴェストレなど、島に自生する植物を主原料に天然由来成分だけで造られるフレグランスは、少量生産ゆえ希少性が高く、2002年までは島内の3ショップほか、ソレントとナポリの直営店だけで扱われてきました。アルコールの揮発性で香り立ちを高めたEau de Parfum、Eau de Toilette 以外に、植物性オイルと天然ワックス成分を練り固めた半固形タイプで香りが長時間持続するSolid Perfum もラインナップ。アルコール成分が苦手な皮膚が敏感な方でも優雅に香り立つフレグランスをお使いいただけます。

tre_carthusia.jpg【photo】強烈な陽射しを跳ね返す真っ白な漆喰で覆われたカプリのパラッツォのようなカルトゥージアのパッケージ。中央のVIA CAMERELLE はカプリ島のカメレーレ通りの陶器製の街路名表示をそのまま用いている

 カプリ島でも人気のリキュール「Limoncello リモンチェッロ」の原料となる大振りなレモンの葉とグリーンティが爽やかな「Mediterraneo メディテラネオ」は男女兼用で。カプリのメインストリートの名を冠したVia Camerelle ヴィア・カメレーレは女性用というものの、ベルガモットとビターオレンジにスパイシーなマリンノートがベース。その爽やかな香りはメンズユースもOK。完熟したイチジクと紅茶の生き生きとした活動的な香り「Io Capri イオ・カプリ」は男性向け。その日の気分で使い分けるお気に入りはこの3種類です。

 有名ブランド系の場合はことさらそうですが、フレグランスはイメージ戦略上、ボトルなどのパッケージデザインにも手を抜きません。Carthusia の製品は、香りと同様に、ニンフや人魚などが描かれたカプリ島らしいパッケージがまた魅力的です。イタリアの街では辻々の建物の壁面に、通りの名が刻まれた大理石板や白地に青い文字の陶板が埋め込まれています。
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【photo】フニコラーレを登りきったCapri の駅前で。島内の街区表示は全てこのデザインで統一されている

 カプリ島では、いかにも南イタリアらしい明るい色使いの陶製サインが使われており、リゾート気分を盛り上げてくれます。Via Camerelle のパッケージは、その陶製サインのデザインがそのまま使われており、私をカプリ島へと誘います。Carthusia は、いずれもカプリの植物をベースにしたものとくれば、思いは一層募るばかり。その香りに包まれている限り、遥か遠い美しい島への思いは決して断ち切ることができないのでしょう。

 そして今月26日(金)。現存する世界最古の薬局として知られるフィレンツェのオフィチーナ・プロフーモ・ファルマチュウティカ・ディ・サンタ・マリア・ノヴェッラ(=サンタ・マリア・ノヴェッラ薬局)が、仙台市青葉区一番町4丁目にオープン予定です※追記を参照願います。この世で最も香(かぐわ)しい場所とされるショップが、遂に仙台上陸。今度は宝石箱のようなルネッサンスの街フィレンツェへの恋慕が募りそうだ...。

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antelope アンテロープ
住所:仙台市青葉区大町1-2-17-103
営:12:00-19:30 不定休
phone:022-724-1023

※ 追記11/23:サンタ・マリア・ノヴェッラ薬局 仙台店のオープンは年明けにずれ込む見込み。詳しくはコチラを参照のこと
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