あるもの探しの旅

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2010/12/26

待望のピッツァ・ナポレターナ@仙台

新生「Pizzeria Padrino 」で
 県内随一のPizza Napoletana を

 皿の上だけでは、生命を健全に維持する食べ物の背景は見えてきません。自宅に居ながら食材が届くお取り寄せもまた同様です。実際に産地や料理の本場に足を運び、背景にある風土や歴史を知り、人と接することで、それまでは気にもとめなかったことが初めて見えてきます。

spacca_napoli1.jpg【photo】無秩序でも魅力的なナポリを象徴するSpacca Napoli スパッカ・ナポリ地区

 Viaggio al Mondo ~あるもん探しの旅~では、主観に基づく断定が氾濫する飲食店情報サイトのような個人的価値観を振りかざして飲食店の優劣を語ることをしていません。これは上から目線が鼻につく赤い装丁の某レストランガイド本が、☆の数で店をランク付けする手法を良しとしない私の考えによるものです【注1】。以上の原則をもってしてもなお、是非ご紹介したいピッツェリアを、今回は期待を込めて取り上げます。

 喧騒渦巻くナポリの下町で生まれた庶民の味ピッツァ。仙台におけるナポリピッツァ草分けの「Pizzeria de Napule ピッツェリア・デ・ナプレ」が、小麦をオーガニックに切り替えて以降、一番町に店があった頃から追求していた本場と寸分違わぬ食感が変わってしまいました。香坂ピッツァイオーロの不在が恒常化して以降、これぞ!と納得できる店が、仙台と名取・富谷など近郊には長いこと存在しませんでした。砂をかむような空白期間に終わりを告げる本物のピッツァ・ナポレターナを従来よりぐっとリーズナブルに【注2】味わえるピッツェリアが、このほど仙台に登場しました。以下、実食による速報レポです。

taihei_isawa.jpg【photo】薪窯を前に意欲を語る勝山企業 伊澤 泰平社長

 先月30日、東北No.1のリストランテを目指す「Padrino del Shozan パドリーノ・デル・ショーザン」を会場に催された「宮城・ローマ交流倶楽部」のクリスマスパーティで、勝山企業の伊澤泰平社長とお会いしました。パーティがはねた後、リストランテの入口に設置されたひときわ目を引くピッツァ窯が、いかに性能が良く、いかに造作にこだわったかを30分以上に渡ってご説明頂きました。芸術的な板金加工で注目される宮村浩樹氏〈Link to website〉が手掛けた窯は、本場でも滅多にお目にかかれないような、一見の価値があるゴージャスで美しい窯です。

 宮村氏の見事な職人技が光る銅製の天蓋と煙突、打ち出しによる「PADRINO」の銘板が正面を飾るその窯は、ナポリで最も信頼される薪窯工房「Gianni Acunto ジャンニ・アクント〈Link to website 〉」による完全オーダーメード。ピッツァを載せる炉床には熱伝導が穏やかなソレント近郊の粘土を用い、6人の職人が窯ひとつを4~5日かけて仕上げます。この窯を東北で使っているのは、知る限りにおいて宮城調理製菓専門学校併設の実習カフェ・ピッツェリア「Il Viale イル・ヴィアーレ」を除けば、鶴岡「穂波街道 緑のイスキア《Link to backnumber》」のみ。今年8月オープンした弘前「ピッツェリア・ダ・サスィーノ」では、同社の技術を受け継ぐジャンニの弟マリオのブランド「Mario Acunto マリオ・アクント〈Link to website〉 」 を導入しています。日本では輸送コストが上乗せされるイタリア製を導入せず、コスト面から日本製の窯を使ったり、自作する場合すらありますが、耐久性や性能では、やはりイタリア製に及びません。

acunto_napoli.jpg

 「窯の中に手を入れてみて下さい」という伊澤社長に促され、開口部を覆う銑鉄製の蓋を外した窯に手を入れてビックリ。昼の営業終了後の15:30過ぎに火を落としたという窯の中は、6 時間あまりを経てなお、サウナどころの熱さではなく、一瞬で手を引っ込めてしまいました。「この断熱と保温性能の素晴らしさこそイタリア窯の良さです」と伊澤社長。リストランテを兼ねるピッツェリアでは、朝一番に前夜の余熱でパンを焼いてしまうというのも頷けます。

takehiko_chiba@padrino.jpg

 伊澤社長は「ナポリの庶民の味であるピッツァが手頃な値段であるように、もうすぐ素材のクオリティとピッツァの美味しさはそのままに、価格の大幅見直しをしますよ!! 期待してください」と語りました。今から2010年前、救世主の誕生を心待ちにしたベツレヘムの羊飼いの心境はかくありなんと、リニューアルした「Pizzeria Padrino ピッツェリア・パドリーノ」を先週から今週にかけて2度訪れました。まずは自分の舌でナポリを代表するピッツァ、マルゲリータとマリナーラを実食するためです。

【photo】調達しうる最高の素材と窯で本場仕込みのピッツァ・ナポレターノを提供する千葉 壮彦ピッツァイオーロ

 窯を預かるのは、本場ナポリで2年半腕を磨いた登米出身の千葉壮彦(たけひこ)ピッツァイオーロ。聞けば2000年(平成12)から2年間、ピッツェリア・デ・ナプレで、香坂師匠からナポリ仕込みの味をたたき込まれたのだそう。後半の1年間は、店に寝泊りして基礎を固めたそうです。「冬は良かったのですが、夏は大変でした」と千葉さん。そりゃ、そうでしょう。体の芯から暖まる遠赤外線を発する薪窯の暖房完備のもとで寝なければならないのですから(笑)。

takehiko_chiba2@padrino.jpg ペルージャでの語学研修の後、千葉さんは単身ナポリに渡ります。2003年に誕生し、のちに国内外に95店舗を展開するまでに急成長した「Fratelli la Bufala フラテッリ・ラ・ブファーラ」のナポリと近郊のカセルタにあるグループ店舗で働きます。ピッツェリア・パドリーノの生地に同じ小麦の配合を取り入れたという名店「Di Matteo ディ・マッテーオ」でも2ヵ月腕を磨き、都合2年半、本場で研鑚を積みました。2002年冬に帰国後は、古巣のピッツエリア・デ・ナプレを経て、五反田の「Galibardi ガリバルディ」を立ち上げた後、日本におけるピッツァ・ナポレターナの第一人者、渡辺 陽一氏の店「パルテノペ恵比寿」の厨房で南イタリア料理もマスターします。

【photo】生地の向きを変えながら、窯の中の対流熱で一気に焼き上げる

 期待を胸に訪れたピッツェリア・パドリーノは、チケット前払いのセルフサービスによるカジュアルなシステムを取り入れています。9時に薪で火入れした窯の炉床は理想的とされる450℃~485℃を維持するよう目を配ります。小麦粉は名だたるピッツァイオーロが厚い信頼を寄せ、ナポリにおけるシェアが7割を超えるという製粉メーカー「Antimo Caputoアンティモ・カプート〈Link to website〉」のピッツァ専用小麦粉、小麦の芯の部分を細挽きしたRinforzato tipo"00" リンフォルザート(通称Sacco rosso サッコ・ロッソ=赤袋)とPizzeria ピッツェリア(通称Sacco blu=青袋)の二種を配合して使用します。

【photo】窯の目の前でアツアツを味わえる至福のピッツァ・マルゲリータ

margherita_padrino.jpg テイクアウトにも対応しますが、ピッツァは焼き立てが一番。チケットを購入して南欧の雰囲気を漂わせる開放的なテーブル席で頂くとしましょう。サイズはS(直径14cm)M(20cm)L(28cm)の3つ。ナポリでは、おおよそ28cm がスタンダードな大きさとなります。ナポリピッツァの代名詞ともいえるマルゲリータの重要なファクターであるモッツァレラ・ブファーラ(水牛乳のモッツァレラチーズ)とフィオール・ディ・ラッテ(牛乳のモッツァレラ)は、発祥の地カセルタで伝統製法による少量生産を貫く「Caseificio Ponticorvo カセイフィチョ・ポンティコルヴォ〈Link to website 〉」から出荷後24時間以内に日本へ届く鮮度の高いものを、週3回空輸で取り寄せているそうです。

 能書きはこのぐらいにして、お味のほうが気になるところ。窯を目の前にしたポールポジションで焼き立てを味わえるのがうれしい限り。ナポリのピッツァ好きたちは、なるべく窯に近い席に陣取り、ピッツァが運ばれてくると、それまで身振り手振りを交えて夢中になっていたおしゃべりを止めて食べ始めます。日本で言えばカニを食べる時の真剣さに似ているかもしれませんね。最初に頂いたマルゲリータ、後日頂いたオレガノが香ばしい生地と絡み合うマリナーラともに、非の打ち所がなく一気に食べ切ってしまいました。

marinala_padrino.jpg【photo】マリナーラ。チーズを用いず、生地の上にトマトソース・ニンニク・オレガノ・バジルをトッピングするナポリ伝統のピッツァ。このようにピッツァ・カッターでカットされた上でサーブされる

 現状ではカトラリーが簡易なプラスチック製のため、本場とは違ってカッターで6つに切り分けてサービスされます。私が頂いたLサイズは、6等分してあっても一口では食べきれないため、更に半分に切り分け、中心からコルニチョーネと呼ばれる盛り上がった縁へ向かってクルクルと生地を巻いて頂きました。嬉しいことに価格が手頃なので、小ぶりなSサイズならば、2種類の異なるピッツァを時間差でオーダーしてもいいでしょう。

banco_padrino.jpg

 私が頂いたマルゲリータ、マリナーラともにピッツァ・ナポレターナの風味を忠実に伝えるものでした。千葉ピッツイオーロによれば、オリジナルメニューの「ヴェルデ・ポッロ」(マリナーラ+サニーレタス・エンダイブ・トレビス、トマト、ローストチキン、マヨネーズドレッシング、パルミジャーノ)と「パルミジャーナ」(マルゲリータ+メランザーネとミートソースのグラタン)も是非味わってみて下さいとのこと。まずは私が頂いた基本の2品から、お熱いうちにBuon appetito ~♪

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URL:http://www.shozankan.com
 
<メニュー一例>
マリナーラ :S500円 M700円 L1,000円
マルゲリータ:S600円 M850円 L1,200円
ヴェルデ・ポッロ / パルミジャーナ:S710円 M1,000円 L1,500円
※テイクアウトは上記と同額。リストランテからもピッツァはオーダー可能

【注釈1】 八つ当たり気味の本音炸裂トークは「ルチアーノ・サンドローネ訪問記」冒頭部分を参照願います 

【注釈2】スパッカ・ナポリ地区にある名店 Di Matteo では、マリナーラ2.5エウロ、マルゲリータ3エウロ、小腹が空いた時に食べる生地を揚げただけのPizza fritta は1エウロ。軽食がとれるBar(バール)以外のイタリアの飲食店では、少なくとも一食につき20エウロ以上の出費が必要だが、ピッツェリアは例外。一皿で完結する食事を意味する「Piatto unico ピアット・ウニコ」を手軽に食べることができるピッツェリアは庶民の味方である

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2010/12/18

酷暑を乗り越えた「初ゆき」の味

感慨もひとしお、
  鳴子の米「ゆきむすび」

2008.12.16.jpg【photo】成人一人を半年養うコメがとれる60㎡ほどの鬼首岩入の後藤 錦信(かねのぶ)さんの田んぼ。田植え交流会参加者による不揃いな作付け跡が残る。収穫を終えた12月半ば、寒風が吹き抜けてゆく耕作放棄地が隣接する後藤さんの田んぼは、白雪に覆われようとしていた

 ここ数日来の寒波到来により、今週15日が仙台における今年の初雪となりました。平年の初雪が11月22日頃だといいますので、観測史上3位の遅い記録だそうです。山間部を除いて里雪はまだ降っていなかった鶴岡でも、その日初雪が降りました。異例づくめだった今年の天候は、灼熱と化した夏の記憶がさめやらぬまま、もうすぐ暮れようとしています。

yukimusubi_2010.jpg【photo】今年も届いたゆきむすびの袋にはこう記してある...「農は地域の暮らしの基本です。つくる人、食べる人、暮らす人、みんなの力で支え、守り育てていきましょう」

 先日、「鳴子の米プロジェクト」に参画する農家が作る予約分の「ゆきむすび」15kg が例年より少し遅れて届きました。今年は猛暑の影響でコメの生育が早く、昨年私も一家で参加した稲刈り交流会が9月18日(土)に急遽行われるという案内のハガキが直前に自宅に届きましたが、都合がつかず参加できませんでした。じっくりと天日干しさせる鳴子の米プロジェクトのゆきむすびは、美味しさも格別です。

 担い手農家の手取りを補完するという鳴り物入りで導入された戸別保証制度が、一層の米価落ち込みにより、米作農家の淡い希望を打ち砕く結果となった今年。私たちの命をつなぐ糧の作り手が持続可能な価格(玄米1俵24,000円/ 5kg 2,000円)で、食べる人が生産者を買い支えることで、過疎と高齢化で耕作放棄地が広がる一方の山間地のコメ作りを応援しようという鳴子の米プロジェクトの存在価値が、皮肉な形でより一層高まったように思えます。

naruko_taue2009.jpg【photo】2009年(平成21)5月30日、そぼ降る霧雨の中行われた田植え交流会に参加した生産者を代表して挨拶に立たれた曽根 清さん(写真右)

 耐冷性の強い低アミロース米ゆきむすびが、まだ東北181号と呼ばれていた2006年(平成18)、3軒の農家が10アールずつ試験栽培に挑戦します。

 その一人が栗駒山系のブナ林を流れる雪解け水が直接流れ込む鬼首(おにこうべ)でも最深部にある岩入(がにゅう)地区の曽根 清さんでした。岩入は、海抜400mの冷涼な山あいにあり、日照も少ないために熱帯原産のコメには厳しい栽培環境にあります。いもち病と稲が実を結ばない青立ちが頻発する鬼首では、収量が少ない上、美味いコメは決して出来ないと揶揄され、曽根さんは忸怩(じくじ)たる思いでいたといいます。

yukimusubi2_taue2009.jpg【photo】田植え後の交流会では、朝早くからお母さんたちが準備したゆきむすびの彩り豊かなおにぎりなど、野良仕事の合間に食べる「小昼(こびる)」が参加者に振舞われた

 プロジェクトの発案者で民俗研究家の結城 登美雄先生の勧めに応え、最初に立ち上がった農家が曽根さんでした。試験栽培で手応えを感じた曽根さんは、一軒でも多くの稲作農家が参画するよう、地区を回ってプロジェクトの意義を説いて歩きます。

 22軒の農家が参加した2年目には、メンバーの田んぼを訪れては水管理や土づくりの助言を行い、200俵の収穫に結び付けます。

 その年の10月に発足した作り手部会の会長に就任、12月には「ゆきむすび」という名が決まりました。

 農閑期に湯治に訪れる地元の農家にお返しがしたいとコメをまとめ買いした鳴子温泉の旅館関係者や一般の購入者を招いての田植え交流会や稲刈り交流会に必ず顔を出した曽根さん。「初めて人から美味いと褒められるコメが出来た」と嬉しそうに語っていた曽根さんの笑顔を見ることはもう出来ません。

 連日の猛暑が鬼首を襲った今年8月20日、曽根さんは帰らぬ人となりました。享年73歳。

 私が曽根さんと最後にお会いしたのが、昨年の田植え交流会が行われた5月30日。今にしてみれば、胃がんの手術を受けた後で少しお痩せになったものの、交流会にも元気な姿を見せていました。肝臓への転移から今年7月末に再入院。プロジェクト5年目の今年、38軒まで増えた農家が暑さの中で精魂を傾けて育てているコメの出来を最期まで気にかけていたそうです。

yukimusubi2_2010.jpg【photo】夜間でも下がらない気温のため、過呼吸状態となった米がデンプン質を消費し、中に空気のすき間が生じた。例年以上に白濁したゆきむすびが、異常だった今年の夏を物語る

 ゆきむすびは、うるち米ともち米の中間的な性格を有しています。一般に登熟期の気温が高いと玄米のアミロース含有率がより低下して白濁が進みます。記録的な猛暑となった今年、夜間でも気温が下がらない平地では、お米が白濁して割れやすく脆い米となる高温障害によって、二等米比率が高まり、米価低迷に拍車をかけました。

 鳴子の米プロジェクトでは農家の手取り額をあらかじめ保証しているため、設定された価格に変更はありません。米という字が示す通り、農家が掛ける八十八の手間には変わり無いのですから。

 平場ほどではないにせよ、夏でも冷涼な鬼首とて例外ではなく、今年は特異な年だったようです。5度目の収穫を待つことなく逝った曽根 清さんの名前も見られる裏書きには、暑さのために粘りが増したことが記されています。通常の2割減の水で炊いた今年のゆきむすびは、例年以上にもちもち感が高く、そのまま頂くのはもちろん、炊き込みご飯やうるち米と混ぜて炊くのに適しているように思います。

【photo】殖酸農法の水苗代で作られる酒田市横代の坪池兵一さんのカラドリの小芋の味噌煮(写真右奥)と鶴岡市藤沢地区の在来種・藤沢カブの自家製浅漬け(写真左奥)と今シーズン初めて頂いた鳴子の米・ゆきむすび。いずれも耳を傾けるべき物語を持っている

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 今から10年ほど前、国道398号線から山中で枝分かれするダート道を抜けて偶然通りかかったのが、初めて訪れた岩入地区でした。黄金色に色つき始めた田んぼが山あいに広がる光景に、標高の高い山中でコメ作りが行われていることに驚きを覚えたことを記憶しています。

 過酷な条件にあっても実を結ぶゆきむすびのように、人の輪を拡げている鳴子の米プロジェクト。農地を保全し、絶ち切られた作り手と食べ手の関係を修復しようという試みの価値は普遍的なもの。互いに支えあって山里でコメ作りを続けてゆく人たちを応援する私の気持ちもまた不変です。

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特定非営利活動法人 鳴子の米プロジェクト
事務局:宮城県大崎市鳴子温泉字要害34
Phone:0229-84-7367

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2010/12/11

Io sono il feticismo di cuoio 私、革フェチなんです。

魅了してやまない、頬ずりしたくなる革の質感
Peroni のコインケース

matsunomikai_101127.jpg

 右写真は、ある会合で先だって伺った仙台市太白区の割烹で頂いたアマダイのお茶漬けです。ふんわりとした食感の白身もさることながら、パリッと香ばしく鱗焼きした皮の美味しさが際立っていました。かつて取り上げた新潟・村上「味匠 喜っ川」鮭の酒びたしの皮もそうですが、香ばしく火入れした魚の皮の美味しさは、魚好きならご存知かと思います。とはいうものの、今回は魚の皮フェチについてではなく、本題の前置きであった前回「革フェチまんじゅう」の核心について述べます。まんじゅうの核心=アンコとはいえ、およそ食べ物に関する内容ではないことは、あらかじめ申し上げておきます。

 仙台銘菓、玉澤総本店の黒砂糖まんじゅう。形といい、色あいといい、大きさといい、葛による照りが食欲をそそるお饅頭を連想させずにおかないのが、イタリア・フィレンツェの伝統技法を受け継ぐ皮革職人が作る一個のコインケースです。芸術振興に尽力したメディチ家の庇護のもとで誕生した芸術の域に達するようなフィレンツェ伝統工芸品のひとつが、Cuoio artistico fiorentino(工芸皮革細工)。

 マーブル文様紙を組み合わせた皮革ステーショナリー工房「Giulio Giannini e Figlio ジュリオ・ジャンニーニ・エ・フィリオ〈Link to website 〉」、所有欲を激しくそそる妖しい輝きを放つ「Il Bussetto イル・ブセット」、そして今回取り上げる「Peroni ペローニ」のような皮革細工だけでなく、この街の路地裏には珠玉の伝統工芸品を扱う工房が数多く存在します。 

feticismo di cuoio.jpg【photo】革フェチである確かな証しとなる庄イタの私物の一部。マーブル文様紙の内張りが魅力を倍増させるジュリオ・ジャンニーニのペンケース(写真左)、フィレンツェ銘菓 黒砂糖まんじゅう 。もとい、Peroni ペローニのコインケース(写真手前)と名刺入れ(写真奥)。多彩なカラーバリエーションの中から選んだのは、故意に色ムラを出すBriar ブライヤー仕上げのブラウン

 イタリアプロサッカーリーグ・セリエA2004-05シーズンに中田 英寿が在籍した「フィオレンティーナ」のホームスタジアムStadio Artemio Franchi スタディオ・アルテミオ・フランキのすぐ近く、ほとんど観光客は足を運ばないフィレンツェ市街地北部のカンポ・ディ・マルテ駅から歩いて15分ほどのVia Guglielmo Marconi グリエルモ・マルコーニ通りにひっそりと工房を構える「Fratelli Peroni フラテッリ・ペローニ」。Fratelli(=兄弟)という名が示す通り、この工房はピエロとロベルトのペローニ兄弟によって、1956年に創業しました。

peroni-briar.jpg 【photo】心地よく手に馴染む一枚皮から出来ているかに見える縫い目ひとつない艶やかな曲面のフォルム。開けばフタがコインの受けになり、使い勝手もすこぶる良いPeroni のコインケース

 3代続く皮革職人であった父の跡を継ぐため、兄ピエロは15歳からルネサンス時代の技術を受け継ぐ工房で修行の道へ進み、弟ロベルトもほどなく続きました。ピエロの息子であるマウリッツィオとマルコが工房に加わり、ロベルトが第一線を退いた現在は、ピエロを含めて8名の職人が500年以上続く熟練の技を受け継ぎ、およそ1,000種類もの製品を完全ハンドメードで生み出しています。

 Peroni の技術の粋が集約されているのが、継ぎ目のない一枚皮から造られたかのように仕立てられるPorta monete(コインケース)です。

 全製品の8 割が輸出されるPeroni を代表する人気商品で、豊富なカラーバリエーションを展開するコインケースは、とりわけ日本で需要が高いのだといいます。私のお気に入りは色ムラを出すよう仕上げた風合いがヴィンテージな雰囲気を醸し出すBriar と呼ばれるラインのアンティークブラウンのもの。クロコダイルやオストリッチ、リザードといった高級稀少素材も扱うPeroni ですが、生後1~2年のカーフスキンを用いた主力商品Linee standard のなかでも、とりわけ表情豊かな逸品です。

marco peroni.jpg【photo】500年前とほとんど変わらぬ手法で本の装丁作業を行うマルコ・ペローニ

 ひとつのコインケースを仕上げるための33 に及ぶ工程は、手間ひまを惜しまない職人技のなせるものです。世界最高水準の植物性タンニンを用いたなめし技術が受け継がれ、トスカーナ州ピサ県のアルノ川沿いの街、Santa Croce sull'Arno サンタ・クローチェ・スッラルノで加工された傷ひとつ無い珠玉の皮だけを使用します。型抜き・裁断・成型・染色・ツヤ出しといった一連の工程は一貫して手作業で行われます。縫い目すらない受けとフタは、驚くことに始めは別々のパーツとして作業が進行します。

 革は柔軟性を出すために、まず一度お湯に浸してから木型にはめ込んで乾燥させます。木製の台座の上で型抜きされた革を細釘で固定しながら工具で引き伸ばし、大まかな成型を行います。革が馴染むまでおよそ8 時間置いてから周辺部を切り除き、加熱したコテで滑らかな曲面を描く表面を丹念に仕上げてゆきます。隙間が出ないようぴったりとフタが閉じるよう、型通りに仕上がったところで、受けとフタの接合に移りますが、ここからが職人技の見せどころ。接着する部分をナイフで削り、接合部が全体と厚みが同じになるよう処理を施してからニカワで接着。接合部を木槌で叩いて馴染ませ、一体感を生みだします。

decora porte.jpg【photo】本の装丁でも使われる熱した鉄コテを用い、23金の金箔を圧着させて文様をつけたクラシックなPeroni のコインケース

 染色は合成染料ではなく、環境負荷の少ない植物性の染料を使用します。これによって、使い込むほどに艶に深みが増し、独特の風合いが生じるのだといいます。さまざまなカラーバリエーションがあり、丸みを帯びたフォルムとあいまってキュートな印象を与えるビビッドなイエローやピンクが作られる一方、クラシックな雰囲気を醸し出す金箔で伝統的な文様をフタに刻印した端正なモデルもあり、古都フィレンツェらしさを感じさせます。

peroni-briar_tutti.jpg【photo】豊富なカラーバリエーションから、一生ものとなる好みのひとつを選びたい

ルネッサンス期に確立した手法で作られた豪奢な装丁がなされた書物などの修復と、その技術を取り入れた新たな製品作りを行うプロジェクト「Museo Museo」にも協力するPeroni。彼らは伝統に固執するだけでなく、フィレンツェで毎年1月と6月に開催される世界最大規模のメンズモード展示会「Pitti Imagine Uomo」にGianfranco Ferré、Fendi、Gucci などのトップブランドとコラボした新作を出品しています。500年以上変わらぬ伝統の技が惜しげもなく注ぎ込まれたPeroni のコインケースは、完全ハンドメイドゆえ、ひとつとして同じ物は存在しません。だからこそ愛着がわくのですね。
 
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Fratelli Peroni フラテッリ・ペローニ
Piero e Maurizio s.n.c.
Adress:Via Guglielmo Marconi, 82, 50131 Firenze
Phone: +39 055 572520 • fax :+39 055 561029
URL:http://www.peronifirenze.it/home.ita.php
e-mail:info@peronifirenze.it.

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