あるもの探しの旅

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酷暑を乗り越えた「初ゆき」の味

感慨もひとしお、
  鳴子の米「ゆきむすび」

2008.12.16.jpg【photo】成人一人を半年養うコメがとれる60㎡ほどの鬼首岩入の後藤 錦信(かねのぶ)さんの田んぼ。田植え交流会参加者による不揃いな作付け跡が残る。収穫を終えた12月半ば、寒風が吹き抜けてゆく耕作放棄地が隣接する後藤さんの田んぼは、白雪に覆われようとしていた

 ここ数日来の寒波到来により、今週15日が仙台における今年の初雪となりました。平年の初雪が11月22日頃だといいますので、観測史上3位の遅い記録だそうです。山間部を除いて里雪はまだ降っていなかった鶴岡でも、その日初雪が降りました。異例づくめだった今年の天候は、灼熱と化した夏の記憶がさめやらぬまま、もうすぐ暮れようとしています。

yukimusubi_2010.jpg【photo】今年も届いたゆきむすびの袋にはこう記してある...「農は地域の暮らしの基本です。つくる人、食べる人、暮らす人、みんなの力で支え、守り育てていきましょう」

 先日、「鳴子の米プロジェクト」に参画する農家が作る予約分の「ゆきむすび」15kg が例年より少し遅れて届きました。今年は猛暑の影響でコメの生育が早く、昨年私も一家で参加した稲刈り交流会が9月18日(土)に急遽行われるという案内のハガキが直前に自宅に届きましたが、都合がつかず参加できませんでした。じっくりと天日干しさせる鳴子の米プロジェクトのゆきむすびは、美味しさも格別です。

 担い手農家の手取りを補完するという鳴り物入りで導入された戸別保証制度が、一層の米価落ち込みにより、米作農家の淡い希望を打ち砕く結果となった今年。私たちの命をつなぐ糧の作り手が持続可能な価格(玄米1俵24,000円/ 5kg 2,000円)で、食べる人が生産者を買い支えることで、過疎と高齢化で耕作放棄地が広がる一方の山間地のコメ作りを応援しようという鳴子の米プロジェクトの存在価値が、皮肉な形でより一層高まったように思えます。

naruko_taue2009.jpg【photo】2009年(平成21)5月30日、そぼ降る霧雨の中行われた田植え交流会に参加した生産者を代表して挨拶に立たれた曽根 清さん(写真右)

 耐冷性の強い低アミロース米ゆきむすびが、まだ東北181号と呼ばれていた2006年(平成18)、3軒の農家が10アールずつ試験栽培に挑戦します。

 その一人が栗駒山系のブナ林を流れる雪解け水が直接流れ込む鬼首(おにこうべ)でも最深部にある岩入(がにゅう)地区の曽根 清さんでした。岩入は、海抜400mの冷涼な山あいにあり、日照も少ないために熱帯原産のコメには厳しい栽培環境にあります。いもち病と稲が実を結ばない青立ちが頻発する鬼首では、収量が少ない上、美味いコメは決して出来ないと揶揄され、曽根さんは忸怩(じくじ)たる思いでいたといいます。

yukimusubi2_taue2009.jpg【photo】田植え後の交流会では、朝早くからお母さんたちが準備したゆきむすびの彩り豊かなおにぎりなど、野良仕事の合間に食べる「小昼(こびる)」が参加者に振舞われた

 プロジェクトの発案者で民俗研究家の結城 登美雄先生の勧めに応え、最初に立ち上がった農家が曽根さんでした。試験栽培で手応えを感じた曽根さんは、一軒でも多くの稲作農家が参画するよう、地区を回ってプロジェクトの意義を説いて歩きます。

 22軒の農家が参加した2年目には、メンバーの田んぼを訪れては水管理や土づくりの助言を行い、200俵の収穫に結び付けます。

 その年の10月に発足した作り手部会の会長に就任、12月には「ゆきむすび」という名が決まりました。

 農閑期に湯治に訪れる地元の農家にお返しがしたいとコメをまとめ買いした鳴子温泉の旅館関係者や一般の購入者を招いての田植え交流会や稲刈り交流会に必ず顔を出した曽根さん。「初めて人から美味いと褒められるコメが出来た」と嬉しそうに語っていた曽根さんの笑顔を見ることはもう出来ません。

 連日の猛暑が鬼首を襲った今年8月20日、曽根さんは帰らぬ人となりました。享年73歳。

 私が曽根さんと最後にお会いしたのが、昨年の田植え交流会が行われた5月30日。今にしてみれば、胃がんの手術を受けた後で少しお痩せになったものの、交流会にも元気な姿を見せていました。肝臓への転移から今年7月末に再入院。プロジェクト5年目の今年、38軒まで増えた農家が暑さの中で精魂を傾けて育てているコメの出来を最期まで気にかけていたそうです。

yukimusubi2_2010.jpg【photo】夜間でも下がらない気温のため、過呼吸状態となった米がデンプン質を消費し、中に空気のすき間が生じた。例年以上に白濁したゆきむすびが、異常だった今年の夏を物語る

 ゆきむすびは、うるち米ともち米の中間的な性格を有しています。一般に登熟期の気温が高いと玄米のアミロース含有率がより低下して白濁が進みます。記録的な猛暑となった今年、夜間でも気温が下がらない平地では、お米が白濁して割れやすく脆い米となる高温障害によって、二等米比率が高まり、米価低迷に拍車をかけました。

 鳴子の米プロジェクトでは農家の手取り額をあらかじめ保証しているため、設定された価格に変更はありません。米という字が示す通り、農家が掛ける八十八の手間には変わり無いのですから。

 平場ほどではないにせよ、夏でも冷涼な鬼首とて例外ではなく、今年は特異な年だったようです。5度目の収穫を待つことなく逝った曽根 清さんの名前も見られる裏書きには、暑さのために粘りが増したことが記されています。通常の2割減の水で炊いた今年のゆきむすびは、例年以上にもちもち感が高く、そのまま頂くのはもちろん、炊き込みご飯やうるち米と混ぜて炊くのに適しているように思います。

【photo】殖酸農法の水苗代で作られる酒田市横代の坪池兵一さんのカラドリの小芋の味噌煮(写真右奥)と鶴岡市藤沢地区の在来種・藤沢カブの自家製浅漬け(写真左奥)と今シーズン初めて頂いた鳴子の米・ゆきむすび。いずれも耳を傾けるべき物語を持っている

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 今から10年ほど前、国道398号線から山中で枝分かれするダート道を抜けて偶然通りかかったのが、初めて訪れた岩入地区でした。黄金色に色つき始めた田んぼが山あいに広がる光景に、標高の高い山中でコメ作りが行われていることに驚きを覚えたことを記憶しています。

 過酷な条件にあっても実を結ぶゆきむすびのように、人の輪を拡げている鳴子の米プロジェクト。農地を保全し、絶ち切られた作り手と食べ手の関係を修復しようという試みの価値は普遍的なもの。互いに支えあって山里でコメ作りを続けてゆく人たちを応援する私の気持ちもまた不変です。

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特定非営利活動法人 鳴子の米プロジェクト
事務局:宮城県大崎市鳴子温泉字要害34
Phone:0229-84-7367

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