あるもの探しの旅

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肝入・今野家の正月飾り

石巻市北上地方の切紙(きりこ)

konnoke_jyutaku.jpg【photo】東北歴史博物館構内に移転・復元されたチューモン(上写真)の奥にホンヤ(下写真)などが配置される今野家住宅

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 今回は「南三陸の新春を飾るきりこ」で触れた「東北歴史博物館」に移築・公開されている県指定有形文化財「今野家住宅」に見る正月飾りをご紹介します。

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 今野家は、北上川河口域に広大なヨシ原が広がる旧桃生郡橋浦村の肝入(きもいり・村の責任者)を江戸時代に代々務めた家柄。建坪72坪の大きなホンヤ(母屋)は1769年(明和6)建造の寄棟造りで、かつては90cm の厚さにヨシを積み重ねた茅吹き屋根の民家です。宮城県多賀城市にある東北歴史博物館に移転・復元された今野家住宅では、1月20日(木)まで、北上町の農家が新年を祝う伝統的な正月飾りを展示しています。

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【photo】 サケ・メバル・マコガレイなどの干魚が下がる「カケザカナ」

 玄関から屋内に入ったドマ(土間)は、村内に配っていた味噌に用いる大豆を茹でる大きなカマド、炊飯用のカマドなどが配置された作業場。その壁には、サケ・カレイ・スケソウダラ・クロソイ・メバルといった12本の魚の干物に縄飾りを施した「カケザカナ」が吊るされています。これは年の瀬に浜の漁師が肝入である今野家に持って来た魚を食用にとっておいたもの。届けられる順番に吊るしてゆくので、年によってその種類は異なり、昨年は干しダコも混ざっていたそうです。

 usubuse.jpg usubuse2.jpg 【photo】筵(むしろ)の上にコメとお供え餅を置き、上下逆にした臼を被せ、若水の入った手桶を乗せた「ウスブセ」に巻いた注連縄には、煮干が一匹挟んである

 その前には、枡に入れた米の上にお供え餅を置き、注連縄(しめなわ)を回したコメ搗(つ)き臼を上下逆にして、邪気を除くとされる井戸から汲んだ若水(わかみず)を入れた手桶を上に乗せた「ウスブセ」が祀られています。

 竹を簾の子状に敷き詰めた台所の壁では、かつて釜神様が睨みをきかせていました(現在は東北歴史博物館に展示)。その場所の上には、囲炉裏の自在カギをかたどった切紙「カマドガミ」と8本の幣束「ハチホンベイ」が並んでいます。カマドガミはその名が示す通り、火難避けや魔除けの意味で竈(かまど)神を祀るものですが、ハチホンベイは今野家に切紙を納めている河北町皿貝の大日靈(おおひるめ)神社でも由来は不明だそうです。

【左photo】カマドガミ(右)とハチホンベイ(左)
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【右photo】馬が曳く馬鍬をかたどったタノカミ

 畳敷きのチカザシキとトーザシキは、もっぱら代官や役人の接遇に使う部屋で、住人の生活の場となったのは板敷きの4室。土間から上がった囲炉裏があるオカミに通じる上り框(あがりがまち)であるハットシの上には、かつて農耕馬が曳いた代掻きの農具「馬鍬(まんが)」をかたどった「タノカミ(田の神)」を輪通しの注連縄と共に飾ります。

 居間であるオカミには、四方を取り囲むように注連縄が張られています。奥のコザシキとの仕切り壁には神棚があり、当主が肝入の業務を行う部屋・ナカマとの仕切り壁の柱には「トシガミ(年神)」が7日に取り払われるまで飾られます。アカマツの三蓋飾りに先細りの注連縄「ゴボウ(牛蒡)」に「ヨダレ」と呼ばれる4枚重ねの幣束を組み合わせたトシガミには、下半分に赤い布をまとわせており、その姿は巫女の装束を連想させます。

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【photo】どこかしら巫女の装束を思わせるトシガミ(左) 沿岸地域の農家ならではの切紙(きりこ)エビス・ダイコク(右) ※各Photoクリックで拡大

 神棚の右隣りには前回「南三陸の新春を飾る きりこ」でご紹介した気仙沼の切紙とは形状が異なる「エビス・ダイコク」が飾られます。和紙で切り出す意匠は、末広の扇・枡・鮒・鯛など。追波湾に面した沿岸地域の農家ならではの、豊穣と大漁の願いが込められています。その両脇にはモミジの枝に小さなダンゴや打出の小槌・千両箱・鯛・大福帳などの飾り付けで、福が舞い込んだ様子を表す「メンダマギ」が飾られています。

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【photo】エビス・ダイコクとメンダマギを飾り付け、正月を迎えた今野家の神棚

 天照大御神(あまてらすおおみかみ)の別称である大日靈神を祀る大日靈神社では、12月15日頃から今野家のほか、およそ500軒の氏子に「オショウガツサマ」を毎年頒布するのだといいます。各家庭では、その切紙を神棚に載せ、大晦日に今野家では、1升分のコメを神社へのお返しにしていました。

 idogami.jpg secchin.jpg 【photo】イドガミ(井戸神・左写真) 向かって左側が当主専用、右側が家族用に分かれていた雪隠にも正月飾り。祀るのは、当然「♪ キレイなトイレの女神様 ?? 」(右写真)

 敷地内には、馬屋と倉庫を兼ねた寄棟造り茅葺のチューモンの他、井戸や独立した造りの風呂などが復元されています。それぞれにオショウガツサマが飾られており、日本人が年の初めに八百万(やおよろず)の神々をお迎えしていたことが判ります。今野家住宅に展示される正月飾りは、今も北上で暮らす末裔・今野 勝實 氏が持参し、飾り付けも行います。都市部では、正月の風情が失われてゆく中、南三陸・石巻地域に伝わる独特の正月飾りは、なかなか興味深いものがありました。

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東北歴史博物館
住:多賀城市高崎1-22-1
Phone:022-368-0101
開館:9:30~17:00 (冬期間は~16:00)月曜休館
常設展観覧料:一般400円 小・中・高校生無料
URL:www.thm.pref.miyagi.jp/


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コメント

突然のメール、大変失礼いたします。
私は、「RQ聞き書きプロジェクト」というボランティアグループの久村美穂と申します。
(http://kikigaki-pj-memokko.blogspot.com/)
いつも美しいブログ、楽しみに拝見しております。

私どもは、昨年8月より、南三陸・気仙沼のみなさんの自分史を聞き取って書き起こすという
ボランティア活動を行っており、現在までに40名を超えるみなさまにお話を伺って自分史としてまとめ、お渡ししてまいりました。現在も関東地方に在住するメンバーを中心に週末ごとに現地に通って活動を続けております。

小さい頃の遊びや、この地方の伝統文化に彩られた祝い事や行事、自然の美しさなど、津波で形は失ってもいまなお人々の記憶に残るこの地域の豊かな歴史が浮かび上がり、私どもも改めてこの地へのみなさんの愛着や思いを胸に刻む日々です。

お話を伺っているかたは、60代以上の方が9割で、ほとんどの方はパソコンやインターネットには無縁のお年寄りですので、津波で失われた写真の代わりに、インターネット上の写真をお借りしてお見せし、懐かしい思い出を呼び起こす助けにさせていただいたことも何度もあり、そのたびにとても喜んでいただけました。
こちらのの美しいお写真も、非常にすばらしく、何度かみなさんにお目にかけ、「こんなにきれいに撮って残して下さる方がいるんですね」とみなさん驚かれていました。

実は、聞き取った自分史をこのたび、6月下旬より順次、WEBサイトで公開する運びとなり、
その何枚かを、こちらのWEBサイトに掲載させていただけないかというお願いでご連絡申し上げました。(もちろん、出店や、リンク先を明記したうえで)

公開サイトでは、南三陸の文化の素晴らしさと、そこに生きる方の暮らしを通して「こんなところに行ってみたい」「もっと知りたい」「これは次の世代に語り継ぎたい」と思っていただくことができると思っております。
ぶしつけなお願いとは存じますが、ご検討いただけますと幸いに存じます。

不明な点等ございましたら、ご連絡ください。どうぞよろしくお願い申し上げます。

▼久村美穂さま

 ご連絡を頂きありがとうございます。

 「南三陸の新春を飾る『きりこ』大漁を願う祈りの造形」と、続編の「肝入・今野家の正月飾り 石巻市北上地方の切紙(きりこ)」でご紹介したのは気仙沼市本吉町大谷と石巻市北上町橋浦の切紙でした。ともに昨年の震災で多くの命が奪われ、町の姿を大きく変えてしまったことが無念でなりません。昨年夏、南三陸町のベイサイドアリーナで、吉川由美さんがコーディネートされた志津川地域の切紙が多数展示されていましたが、そちらも見事なものでした。
 海とともに生きる南三陸地域ならではの文化である「切紙」に感銘を受けていた者として、何らかのお役に立つのであれば本望です。どうぞ素材としてお使いください。

このたびは掲載に対しご理解とご協力をいただき本当にありがとうございます。切り子に関しては、別の場所になりますが、南三陸町志津川の上山八幡宮の宮司様の実演と切り子実物を拝見する機会に恵まれ、その伝統とゆるぎない美しさに感銘を受けました。
吉川由美さんの展示も素晴らしいですね。知られざる宝として、この切り子に関することは全国のみなさんにお伝えしていきたいと思います。
本当にありがとうございました。

RQ聞き書きプロジェクトは自分史公開サイトをオープンしました
おかげさまをもちまして、昨年8月から始まった「聞き書きプロジェクト」。その活動の成果である被災者の皆さんの「自分史」を掲載するサイトを7月1日に一般公開いたしました。
このサイトは、お話を聞かせて下さった方、そのご家族のみなさま、地域のみなさんなど、話し手の方の人生に関わったすべての人、それも今この時代に生きている人もそうでない人、みなさんの記憶で出来ています。また、本文中に引用した写真や画像の多くを、この地を思い出の地として愛している個人・団体の方から許可を得てお借りしています。その地域に生きてきた、また訪れた全ての人の財産と位置付け、大切に守り育てて行こうと考えております。
お借りしております画像にはクレジットをいれさせていただきました。改めまして、ご協力いただきましたことに、この場を借りて幾重にも御礼申し上げます。今後ともよろしくお願い申し上げます。

▼久村美穂さま
http://kikigaki.rq-center.jp/jibunshi/y-tanaka/
サイト拝見しました。スーちゃん、伊里前の方なのですね。家人が本吉の出身なあので、歌津には被災前も被災後も何度か足を運びました。

多賀城市の東北歴史博物館に展示されたいたカケザカナと気仙沼市大谷のキリコに、新たな生命が吹き込まれたような気がします。

失われてしまった浜の暮らしぶりを確かな記録として残しておこうという皆さまの取り組みによって、一人でも多くの方が、沿岸地域の本来の姿を知って頂ければと思います。

サイトをご覧いただきありがとうございました。
切り子は東北沿岸地域の工芸芸術だと思っております。同じような切り絵芸術は世界中にあるかと思いますが、信仰、産業と庶民の手に身近であることがやはり素晴らしいと思うのです。本吉と歌津は昔から姉妹のように文化的にも行き来があったところと聞いておりますので、お家の方のお話にもスーちゃんと共通するところがあるかもしれません。このような文化遺産を通じていろんな地域の人の心がつながればいいなと心から思います。

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