あるもの探しの旅

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Super Shonai(スーペル・ショーナイ)

知る人ぞ知るメルロ100%の逸品

 ブドウ品種の多様性を縮図で見るようにバリエーション豊かな品種のワインが生産されるイタリア。いち早く国際市場を意識したヴィーノ・ロッソを生み出した産地といえば、トスカーナ州西部、Maremmaマレンマ海岸地域にあるBolgheri ボルゲリを忘れるわけにはいきません。700年以上前から名醸地として名を馳せていたChianti Classicoキアンティ・クラシコ、Montepliciano モンテプルチアーノ、19世紀後半から頭角を現したMontalcino モンタルチーノといった内陸の産地とは環境が全く異なるティレニア海沿いの海洋性気候のもとで、世界最高水準にあるワイン群が生まれています。

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【photo】湿地帯が広がる典型的なマレンマ海岸の風景

 ボルゲリ一帯は、近年までマラリア蚊が発生する湿地帯だったために開発の手が及ばず、イタリア国内ですら、「Maremmano マレンマ馬」の産地としてしか認知されていなかったといいます。そんな辺境の地がワイン産地として世界の檜舞台に突如として登場したのが、1978年のロンドンでのこと。英国の権威あるワイン情報誌「Decanter」が催した試飲会に11ヵ国33本のカベルネ・ソーヴィニヨンが出品され、ヒュー・ジョンソンら名だたる評論家が頂点に選んだのが、名前すら知られていなかった「Sassicaia サッシカイア」'72ヴィンテージでした。

strada_bolgheri.jpg【photo】古代ローマが敷設したピサとローマを結ぶアウレリア街道の名残りを「via Aurelia 」という別名に残す国道1号(Strada Statale 1)をSan Guidoサングイードで内陸側の脇道へ。このBolgheriボルゲリへと伸びる5kmほどの直線道路の両側には、ノーベル文学賞を受賞した19世紀の詩人ジョズエ・カルドゥッチが愛した糸杉の並木が続く

 Sassi(=小石)だらけの土地を意味するそのワインの造り手は、20世紀最高の競走馬として語り継がれる「Ribot リボー」の馬主であったマリオ・インチーザ・デッラ・ロケッタ侯爵が所有する「Tenuta San Guido テヌータ・サン・グイード」。第二次大戦前に旅先で出合ったボルドーワインをえらく気に入った侯爵が、ボルドー原産のブドウ、カベルネ・ソーヴィニヨン(以下CS)とカベルネ・フラン(以下CF)をボルゲリに所有する2,500haもの広大な領地のCastagneto Carducci カスタニェート・カルドゥッチというコムーネの一角に植えたのが1944年。最初は自家消費用に1ha のみを植えたに過ぎませんでした。

vini_bolgheri_98.jpg 【photo】GAJAやAntinori など、国内外から進出が相次ぐボルゲリと南隣りのスヴェレート。成長著しいこの地域でシンデレラ・ストーリーを打ち立てたワインたち。女性醸造家エリザベッタ・ジェペッティが運営するファットリア・レ・プッピレが、ジャコモ・タキスの監修のもとで誕生させたSaffredi サッフレディ'98、伝説の'85vinに匹敵する可能性を秘めるサッシカイア'98、ワインスペクテイター誌が2001年度に世界の頂点に選んだオルネッライア'98、ワインアドヴォケイト誌が100点を献上したレディガッフィ'00。いずれも我がセラーで睡眠中(写真左より) 

 競走馬の生産とオリーブ栽培が主で、趣味の域で始めたブドウ栽培に、次男のニコロとともに1968年から参画したのが、昨年第一線を退いた著名な醸造家ジャコモ・タキス博士でした。二人は当時としては常識外れの1ha当たり30hℓ以下という低収量に抑えたCS85%・CF15%の比率でブドウを混醸、熟成にはそれまで主流であったスロベニアオークの大樽ではなく、フランス産225ℓ容量のバリック樽を導入します。

cantina_orenellaia1.jpg【photo】 無国籍な雰囲気を色濃く漂わせるオルネッライア。当時はGambero Rosso から「インターナショナルだ」と酷評されたものの、7割を国外に輸出するという製品はいずれも高い評価を受ける

 VDT(Vino da tavola=テーブルワイン)からIGT、DOC、頂点のDOCGまでのランクに分けられるイタリアワイン法の規定に捕らわれない品種や醸造法で造られる高品質なVDTを総称する「Super Tuscan スーパー・タスカン(イタリア語では Super Toscana スーペル・トスカーナ)」の象徴として、高まる一方のサッシカイアの名声とともに、後に続いた「 テヌータ・デッラ・オルネッライア」「Le Macchiole レ・マッキオレ」や、20kmほど南にある小村Suveretoスヴェレート近郊の「Tua Rita トゥア・リータ」「Fattoria Le Pupille ファットリア・レ・プッピレ」などの成功により、新興地ボルゲリの国際的な評価は高まるばかり。

ornelloornellaia.jpg【photo】「オルネッライア」の名前の由来となったOrnello(=トネリコ)の大木が、ティレニア海を望むブドウ畑に囲まれてぽつんと立つ

 世界で最も影響力のあるといわれるワイン評論家ロバート・パーカーは、主宰する「Wine Advocate」誌1997年2月号において、'85年ヴィンテージのサッシカイアに対し、イタリアワイン初となる100点満点を献上します。同ヴィンテージは、'96年に非営利法人「Grand Jury Européen グラン・ジュリ・エウロパン」が行ったブラインドテイスティングで、ラトゥール、ラフィット、マルゴーら五大シャトーはおろか、最も高価なボルドーであるペトリュスをも打ち破り、第一位に輝きます。

azienda_ornellaia.jpg 【photo】緩やかな傾斜を描くオルネッライアの畑は、表層部が石灰岩質の鉄分を含んだ粘土質、基底部が水はけの良い砂というブドウにとって理想的な土壌に恵まれている

 大方のニューワールド産ワインには無い複雑味があり、高貴かつ厳格。なれども和食とイタリアン中心の自宅ごはんと共に楽しむには、あまりに重苦しく埃っぽく、時としてカビ臭い(と、私は感じる)ボルドー。かたやボルゲリで生産されるボルドー品種のヴィーノは、母国とは一線を画する明確な個性を持っています。ボルゲリのCS、CFは、熟成を経てなお若々しく親しみやすい優美な香りを備え、ヴィーノ単独で楽しむのは勿論、食事と合わせる場合でも守備範囲の広さが身上です。

cellar_ornellaia.jpg【photo】空調の行き届いた清潔極まりないオルネッライアの熟成庫。フラッグシップのオルネッライアは新樽と一年樽で14-18ヶ月、メルロのマッセトは100%新樽で24ヶ月の熟成

 「Tignanello ティニャネロ」「Solaia ソライア」を生んだ名門「Marchesi Antinori マルケージ・アンティノリ」を率いるピエロを兄に持つロドヴィコ・アンティノリ侯爵が、世界に通用するプレミアムワインを造ろうと醸造所テヌータ・デッラ・オルネッライアを興したのが1980年。そこは母方が姻戚関係にあるテヌータ・サン・グイードに隣接する土地でした。カリフォルニアで多大な業績を残していたロシア人醸造家アンドレア・チェリチェフを招聘、ポムロルの土壌とカリフォルニアの気候に近いボルゲリに適したCS、CF、メルロ(以下M)、ソーヴィニヨン・ブランなど、ボルドー原産品種ばかりを植樹します。'86年に完成した現在の醸造所に伝統的なイタリアらしさが微塵も感じられないのも、目指す先が国際市場であったがゆえでしょう。
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【photo】熟成中のバリック樽から、Masseto 用のメルロをサンプルとして抜き出し、試飲を勧めてくれた才能あるドイツ人醸造家アクセル・ハインツ。その名の通り、彼の起用によって、オルネッライアの品質向上が一段と加速した

 '99年にカリフォルニアの大手ワイナリー「Robert Mondaviロバート・モンダヴィ」が資本参加('05に撤退)、米国の「Wine Spectator」誌が毎年発表するWine of the year で、'98ヴィンテージが2001年に世界の頂点に選ばれた翌年、ロドヴィコが経営から退きました。現在運営に当たるのは、モンダヴィとのジョイント・ヴェンチャーで話題を呼んだ「Luce ルーチェ」を軌道に乗せていたフィレンツェの名門貴族「Marchesi de' Frescobaldi マルケージ・デ・フレスコバルディ」。モンダヴィ撤退後、フレスコバルディ家による単独経営となった'05年にミュンヘン出身の才能ある若き醸造家アクセル・ハインツを迎え入れ、CS55%・M27%・CF13%・Petit Verdotプチヴェルド5%という基本セパージュに落ち着いた近年の「Ornellaiaオルネッライア」の完成度と安定感は特筆すべきものです。
 
 海風により、年間を通して温暖な気候に恵まれ、砂礫交じりの粘土質土壌のボルゲリで、近年最も成功を収めているブドウ品種がメルロです。偉大なワインに共通するフィネスを備えたオルネッライアの「Masseto マセット」、レ・マッキオレの「Messorio メッソリオ」、トゥア・リータの「Redigaffi レディガッフィ」・・・。元祖スーペル・トスカーナといわれるサッシカイアが築いたボルゲリの名声をより一層高めたこれらの立役者たちは、CSよりタンニンが少なくまろやかで早熟なメルロ(以下M)の聖地と考えられてきたジロンド河右岸域Pomerol ポムロル産の希少性ゆえ高値を呼ぶ「Le Pin ル・パン」や「Petrus ペトリュス」の実力に比肩するまでになりました。

masseto_06.jpg【photo】「イタリア版ポムロール」ともいわれるメルロ100%の「Massetoマセット」。天候に恵まれたこの'06ヴィンテージは、ワインアドヴォケイト誌で、ほぼパーフェクトである99点のハイスコアをマーク

 設立当初より特別顧問として迎えられた仏国の著名な醸造コンサルタント、ミシェル・ロランは、当初ブレンド用に植えた7haの区画「Masseto マセット」で収穫されるメルロの品質が目覚しいものであったため、単独でのボトリングを指示します。区画の名を冠したそのワインは、樹齢が上がると共に品質の向上が著しく、初ヴィンテージとなる'87年以降、最新ヴィンテージ'06年がWine Advocate 誌で99点、'04年は97点、Wine Spectator 誌が'01年に100点を付けるなど、非の付けどころのない評価をほしいままにしています。あえて欠点を申すなら、上昇の一途をたどる市場価格ぐらいでしょうか(笑)。そう遠くない将来、ボルゲリとスヴェレート一帯は、メルロの新たな聖地として、ワインラヴァー垂涎の地となることでしょう。

 愛好家なら知らぬ人の無い傑出したヴィーノばかりが登場したところで、話題は急転直下、知る人ぞ知る日本が生んだメルロワインの逸品に移ります。とはいえ、国産最高峰といわれる長野県塩尻市桔梗ヶ原地区の「メルシャン 桔梗ヶ原メルロ」がお題ではなく、タイトルにある通り「Super Shonai(スーペル・ショーナイ)」が今回の主役です。あらかじめお断りしておきますが、このスーペル・ショーナイ、ごく初期のサッシカイアがそうであったように、自家消費用に造られる超・限定の非売品につき、一般には入手不可能である点をお含み下さい。
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【photo】佐久間良一さん・みつさんの畑で実を結んだメルロ

 顆粒が小さいため、醸造用の品種であることが明らかなブドウを山形県東田川郡櫛引町の佐久間 良一さん・みつさんの畑で目にしたのが今から8年前のこと。日々厨房に立ち、料理人としての本分を貫いていた頃のアル・ケッチァーノ奥田シェフに「こちらが契約しているブドウ生産者の畑です」と情報誌「ALPHA」の取材で案内された時のことです《 Link to backnumber 》。

 日本で一般的な棚式栽培で育つ佐久間さんのブドウ畑を改めて訪れた際、みつさんからそのブドウが県内のワイナリーに醸造を委託しているメルロであることを伺いました。醸造用の品種とはいえ、ブドウに変わりはありません。庄内産メルロの味やいかにと、生食用に毎年少量を収穫させて頂いています。山寄りにある旧櫛引町は夜間に海風が対流して吹き降ろすために昼夜の寒暖差が生じ、ブドウ栽培に適した土地です。夏季の日照時間が日本でも屈指の多さである庄内地方は、芽吹きが早いゆえ春先の霜害さえ注意すれば、早熟な品種であるメルロに有利な条件を備えているのです。

 同じ畑で育つ大玉ブドウの果粒と比較すれば、1 / 5 にも満たない大きさでしかなく、種無しにするジベレリン処理も施さないメルロだけに、房からつまんで食べる際に若干せわしないのが文字通り玉にキズですが、そんな些細なことはなんのその。糖分が十分に乗ったメルロは生食しても極めて美味しいブドウです。'98ヴィンテージ生まれの我が娘は、何故かこのメルロがお気に入り。私から受け継ぐDNA がそうさせるのでしょうか??

vina_sakuma.jpg【photo】期待以上のパフォーマンスを発揮した佐久間さんが2006年に収穫したメルロで仕込んだワイン

 本来の用途を伺っていたので、ワインの存在は知っていながら、少量生産ゆえ実際に口にしたのが最近のこと。降雨量が多い我が国では、生食用のブドウは雨除けを施した棚式栽培が主流です。棚式は収量が見込めるため、生産効率からも農家から歓迎されました。

 対してスーペル・トスカーナのように国際市場を意識したワイン醸造用のブドウは、房の数を減らして葉に日光がよく当たるように剪定しながら垣根式で栽培されるのが一般的。イタリアでも棚式栽培と構造が同じPergola ペルゴラ仕立てまたはTendone テンドーネ仕立てで有機栽培するブドウを使い、白ワイン用のTrebbiano トレッビアーノに至っては、今なお足踏みによる破砕を行う、"自然派"などという軽佻なジャンル分けを拒絶するような並外れた「Montepulciano d'Abruzzo モンテプルチァーノ・ダブルッツオ」を作り出す「Emidio Pepe エミディオ・ペペ」のような例外はありますが、今では少数派となりつつあります。

super_shonai_toscana.jpg【photo】スーペル・トスカーナ「マッセト'98(中央)」とスーペル・ショーナイ「佐久間良一さんの秘蔵ワイン'06(右)&'08(左)」

 しかるに棚式栽培のメルロ100%のワインはどうだったのか?「今、'06年はいいカンジになってっからね~」と頂く時に佐久間さんが仰っておられた言葉通り、いや、予想をはるかに上回るその出来には正直驚かされました。リーデルのボルドーグラスから立ち上がる香りは、まさにメルロそのもの。ゆっくりと黒味がかったガーネットの液体をスワリングすると、豊富なミネラル分をうかがわせる筋が幾重にもグラスの内側を垂れてゆきます。青臭さや鋭いエッジのきいた酸味など微塵もなく、しっとりと見事なまとまりを見せてくれます。

 おお、これは素晴らしい! かつてSuper Tuscan なる造語を生んだワインジャーナリストであれば、このメルロに「Super Shonai スーパー・ショーナイ」の称号を与えることでしょう。熟成のピークを過ぎ、枯れ果てたオールドヴィンテージ以外の良いワインほど、抜栓した翌日の2日目、3日目が美味しいことがよくあります。実力を見込んだ佐久間さんのメルロでも過度の酸化を防ぐためバキュバンを施してから、日を改めて頂きました。すると、初日より更に厚みが増し、ましてやフィニッシュが腰砕けになることもなく、長い余韻を残し、「さすがスーペル・ショーナイ」と唸らせる期待通りの変化を見せてくれました。もう一本残っている'08ヴィンテージにも大きな期待が広がります。

 そういえば、このワインのエチケッタ(=ラベル)、どことなくMesseto に似ていませんか?

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