あるもの探しの旅

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2011/05/22

この樹なんの樹 実のなる樹

リンゴの里・津軽に
 日本最古の西洋リンゴ果樹を訪ねて

iwakisan_appleroad.jpg【photo】一面のリンゴ畑が見事なまでに広がる通称「アップルロード」から望む残雪の岩木山
 
 本州を北上した桜前線が、津軽海峡を渡って北海道へと渡る頃、岩木山の裾野は白い花をつけたリンゴの木々で覆いつくされます。日本で生産されるリンゴの半数近くは、津軽平野で作られています。5月半ば、残雪を頂く津軽富士を背景に、可憐な純白の花をつけたリンゴ畑が広がる光景は、北国に遅い春の訪れを告げる風物詩です。

ing_family.jpg【Photo】 4年間の弘前滞在中に弘前教会を創設、東奥義塾で英語や自然科学を教え、リンゴ栽培の普及にも尽力し「Johnny Appleseed」のニックネームで呼ばれたJohn Ing ジョン・イング(左)と家族(1875年)

 平安時代に中国から入ってきた在来の和リンゴは、盆飾りなど仏事に用いられる「リンキ」以外、ほとんど見かけなくなりました。現在栽培されているのは、明治以降に欧米から導入された西洋リンゴが主流です。その苗木は5年ほどで収穫が可能となり、樹齢30年ぐらいまでの成木が収穫適期。収量が落ちる老木となっても、手入れさえ怠らなければ50年は収穫ができますが、樹の寿命は80年がせいぜいだといいます。

 品種改良のサイクルが早まった近年では、20年で植え替えを行うこともあるそうです。にもかかわらず、樹齢130年を越えるリンゴにおける泉 重千代 【注】 のような日本最長寿の西洋リンゴがあるというので、訪れたのが青森県五所川原市に隣接するつがる市。2005年(平成17)の市町村合併前は、西津軽郡柏村と呼ばれていた同市柏桑野木田地区にある「津軽長寿園」で目指す古木は待っていてくれました。

entrance_chojyuen.jpg【photo】「津軽長寿園」は、JAつがる柏リンゴ貯蔵所のすぐ近く。いつの間にか居ついたという数十匹のネコがお出迎え

 殖産興業が国策とされた明治初期。海外からさまざまな野菜や果樹が日本へ輸入されます。栽培の適否や害虫の駆除法の研究などを通して、優れた種子を確保しようと全国各地で試験栽培が行われます。のちの東京農工大学の母体となる旧・内務省勧業寮で試作されたリンゴの苗木のうち3本が、初めて青森県にもたらされたのが1875年(明治8)。人類史上最長寿の122歳まで生きたフランス人女性ジャンヌ・ルイーズ・カルマンが生まれた年です。

 その年の暮れ、私立東奥義塾の創設者である菊池九郎が招聘したアメリカ人宣教師ジョン・イング(1840-1920) が、クリスマスのお祝いでリンゴを塾生ら招待客にご馳走し、これが青森の人々が初めて西洋リンゴの味を知った端緒だとされています。文献によって諸説あるものの、種を入手した九郎が、実弟の三郎に苗木を育てさせたと伝えられています。

tsugaru_chojyu1.jpg【photo】多くの見学者を迎え入れる津軽長寿園ゆえ、根の保護のための柵が設けられた3本のリンゴの古木は、2.5haの園内で育つ若木の中で圧倒的な存在感を示す

 津軽の農家で接木によるリンゴ栽培が始まったばかりの1878年(明治11)、古坂乙吉は菊池三郎から苗木を入手し、20アールほどの広さでリンゴを植え付けます。それから133年。現在は乙吉の曾孫にあたる古坂 徳夫さん(60)がリンゴの世話をしています。幾度かの病害虫の大発生や、大正・昭和・平成と時代が移ろう中で改良された品種へ植え替えが行われ、当時から残るリンゴは3本だけとなりました。

chyojyu_benishibori.jpg【photo】真紅に色付く実の形状から「玉簪(たまかんざし)」を略して「たまかん」とも呼ばれる北米カナダ原産の「紅絞」。導入当時、青森で栽培が推奨された明治7大品種のひとつ。北海道開拓使長官・黒田清隆によって、1871年(明治4)日本へ導入された ※ Photoクリックで拡大

 台湾をはじめとする環太平洋地域に輸出され、海外でも高級品として名声を得るに至った青森リンゴの黎明期から時代の変遷を見届けてきた古木は、現在も樹勢が衰えず、秋には3本あわせて60箱(20kg換算)分の収穫があるといいます。徳夫さんは、老人福祉施設に「長寿りんご」を毎年贈るなど、多大な貢献をしたとして2003年(平成11)に青森県りんご勲章を受章した兄・卓雄さんが4年前に急逝したため、(財)青森県りんご協会に技師として勤務しながら、リンゴの世話をしてきました。

chyojyu_iwai.jpg【photo】「祝」は「大中(だいなか)」の別名を持つ北米原産の青リンゴ。「紅絞」と同様に明治7大品種として普及。地方によってさまざまな呼称だったものを、大正天皇の成婚を祝って翌1900年(明治33)にこの名に統一されたPhotoクリックで拡大

  徳夫さんが職を退いた現在、奥様の俊子さんと朝に夕にと面倒を見るリンゴの古木は、「紅絞(べにしぼり)」2本、「(いわい)」1本。 高さ7m以上、幹の周囲3m、20m四方に太い枝を伸ばして若木を圧倒する存在感を示す3本の古木は、1960年(昭和35)に県指定文化財に登録されています。

fiore_benishibori.jpg【photo】春遅い津軽にも暖かな陽射しが降り注ぐ季節を迎えた5月初旬、133年もの歳月を経てなお膨らみ始めた赤い蕾。数年前の台風で折れてしまったという幹の傷跡が残る「紅絞」が、生命の逞しさ、力強さを物語る

 昨年の猛暑や春先の低温による成育の遅れによって、主力の「ふじ」を中心に開花数が今年は平年より少ないとのこと。宿命ともいえる病害虫との闘いや、厳しい冬の風雪を乗り越えてきた古木は、今から20年前、収穫を控えた津軽のリンゴをことごとく落果させ、倒木・枝折れなど空前の被害をリンゴ農家にもたらした平成3年台風19号の暴風にも耐え抜きました。人それぞれにさまざまな想いが去来する今年の春。再び花開いたリンゴは、訪れる人に静かな感動を呼び起こすことでしょう。

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津軽長寿園
 住 : 青森県つがる市柏桑野木田千年226
 Phone : 0173-25-2057

 【注釈】
 泉 重千代 (いずみしげちよ・1865-1986)・・・鹿児島県奄美群島徳之島生まれの元世界最長寿人物。ギネスブック 認定の120歳という年齢は今もって男性としては世界最長寿の記録。長寿世界一となって以降、インタビューで好きな女性のタイプを聞かれ、「年上の女性」と応じた天然系の秀逸なギャグは、南海の仙人と呼ばれたこの人を語る際に欠かせないエピソード

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2011/05/07

La felicità di una tazza di caffè (コップ一杯の幸せ)

おいしさが溢れ出すカフェ・ラッテ。
えっ? 200円なの!?  @Cafe de Ryuban

 3.11東日本大震災では、暮らしに欠かせないライフラインが軒並み大きな打撃を受けました。仙台圏の都市ガスもその例外ではありません。地元最大のガス事業者である官営の「仙台市ガス局」だけで対応するには、余りに甚大な被害ゆえ、その復旧には、旭川から宮崎まで全国51のガス事業者で編成された延べ8万人に及ぶ復旧応援隊が、昼夜を問わず作業にあたりました。
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【Photo】店頭のケースにはシングルオリジン(=単一農園)やブレンドの厳選ビーンズ〈clicca qui〉がズラリ。装いを新たにしたCafe de Ryuban

 インフラが停止した地震直後の数日に及んだ急場をしのぐ間は、苦労して確保したカセットコンロや比較的復旧が早かった電気を熱源としたため、火力が強いガスの炎で調理した料理など望むべくもありませんでした。仙台では周辺部から復旧作業が行われたため、中心部にガスの火が戻るまでには、ほぼ1ヵ月を要したのです。流出した家屋を除く復旧対象の約32万9千軒について、5月4日までに開栓作業が完了しました。駆けつけて下さった復旧隊の皆さん、本当にお世話になりました。

 到底3月とは思えぬ寒さが続き、電気も戻らぬロウソクのもとで、口にできたにしても、せいぜいおにぎりやカップラーメンだった震災発生から一週間を経た当時、営業を再開した飲食店で頂く温かい食事が、どれほど疲弊したココロを癒してくれたかしれません。ガスの停止によって、通常営業ができないまでも、一杯の香り豊かなカッフェで、ささやかな憩いのひと時を提供してくれたのが、昨年11月に「秋のカプチーノ」でご紹介した「Cafe de Ryuban カフェ・ドゥ・リュウバン」です。

ryuban_marzocco.jpg【photo】カフェ・ドゥ・リュウバンでは、ドリップコーヒー以外のエスプレッソ系ドリンクは、プロフェッショナルユースの最高峰マシン、イタリア製の「La Marzocco GB-5」で抽出する

 コーヒー豆の焙煎に使われる焙煎機(ロースター)の熱源はガスが主力です。そのため、自家焙煎を行うカフェでは、新鮮な自前のコーヒー豆がほとんど提供できなくなりました。私がコーヒー豆の調達をしているショップのひとつカフェ・ドゥ・リュウバンでも、通電後は電動のエスプレッソマシンLa Marzoccoが健在でしたが、ガスの炎が消えた間は、ショップ自ら焙煎したビーンズが提供ができない状態となりました。

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【photo】震災発生以降、紙コップで提供されるようになったカフェ・ドゥ・リュウバンのカフェ・ラッテ。ベースのエスプレッソはLa Marzoccoで抽出したスペシャルティなブレンデッド・ビーンズ、ミルクのクレマには若芽をかたどったラテアート。200円という低価格がにわかに信じ難いハイクオリティな一杯。こりゃ参りました(右写真)

 「(あらかじめ挽いたコーヒー豆がパック詰めされた)カフェポッドなど、カッフェ好きにとっては邪道のツールだっ!!」と10年以上使っているDe'Longhi の普及版エスプレッソマシン「Bar14」と共に、今や自宅カッフェのメインツールとなった「AeroPress エアロプレス《Link to back number 》」用の豆を購入するため、Cafe de Ryuban に伺ったのが3月末。

blackburn_tanzania.jpg【Photo】タンザニア・ブラックバーン農園のシングルオリジン(深煎り)1,260円/200g

 そこではスペシャルティコーヒーの我が国における草分けで、國井 竜士オーナーの師匠・堀口 俊英氏が代表を務める「珈琲工房HORIGUCHI 〈Link to website〉」で焙煎した豆を販売していました。以前は店内でコーヒーを頂けるテーブル席があったのですが、かつてのカフェスペースは豆の選別や発送などを行う作業場に。店頭はコーヒー豆とテイクアウトで提供するドリンク類(日替わりドリップコーヒー、ウインナー・コーヒー、エスプレッソ、カフェ・ラッテ)の販売カウンターというスタイルに変わっていました。

 通常はネット通販でしか入手できないホリグチコーヒーのビーンズが入手できるというので、深煎りのフレンチロースト(1,115円/200g)を購入。豆の持ち味が存分に味わえるAeroPressで淹れたカッフェの期待に違わぬ美味しさはモチロンですが、私が驚いたのがテイクアウト限定で提供されるドリンク類のコストパフォーマンスです。

 紙コップで提供される「カフェ・ラッテ」と生クリーム入り「ウインナー・コーヒー」は200円、日替わりドリップコーヒー「本日のコーヒー」とデミタスサイズの「エスプレッソ」、エスプレッソをお湯で薄めた「エスプレッソ・アメリカーノ」に至っては、缶コーヒーより安い100円という超・お手軽価格。私の定番だったふんわりとしたフォームドミルクを加えたイタリアンスタイルのカプチーノはメニューから消えていましたが、同じエスプレッソベースにミルクを加えたカフェ・ラッテをオーダーしました。

cuore_ryuban.jpg【photo】ココロなごむハート形のラテアート。ちょっと幸せになれる土曜朝のカフェ・ラッテ

 ガスが復旧した4月13日以降は、無事クオリティの高い自家焙煎に戻り、ベースとなるエスプレッソは、4年来使って扱いを熟知した2連式のエスプレッソマシン「La Marzocco GB-5」で淹れた一級品。しかもラテアートまで施されています。滑らかな陶器製カップで味わう本来のスタイルではないにせよ、豆のケース脇にはスツールも置いてあるので、イタリアの「Barバール」感覚で淹れたてを店内で頂くことも可能です。13年ぶりといわれるコーヒー生豆価格の高騰が続く中、たった1コインないし2コインで贅沢な気持ちに浸れます。 

 昨日、國井さんのブログでリリースされましたが、Open以来10年続けてきたカフェをやめ、今後はコーヒー豆のローストと小売をメインにしてゆくとのこと。しかしながら震災発生以降導入したドリンクのテイクアウトは続けるそうなので、まずはひと安心。豆のクオリティからすれば、恐らくは仙台のみならず、日本屈指のコストパフォーマンスのコーヒーを味わえるショップへと変貌したCafe de Ryuban。 決して損はさせません。お試しあれ。

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Cafe de Ryuban カフェ・ドゥ・リュウバン
住所:仙台市青葉区広瀬町4‐27‐102
Phone:022-264-4339
URL:http://www.cafederyuban.com 
営:10:00-19:00 年末年始・お盆を除き無休
ブログ:Ryubanの日記
     http://blog.livedoor.jp/cafederyuban/

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