あるもの探しの旅

« この樹なんの樹 実のなる樹 | メイン | Colletta per Giappone (イタリアから届いた義援金) »

海の男は不屈だった@気仙沼

絶品サンマ佃煮の復活を祈って

kesennuma_myojinmaru.jpg【Photo】津波によって陸上に打ち上げられ、5月23日にクレーン船でようやく海に戻された女川港船籍の遠洋マグロ延縄船「第3明神丸」(379トン・左)と、船首を除いて焼けただれた漁船(右)。写真奥が気仙沼市魚町周辺。4月9日撮影

 発生から3ヵ月が過ぎた東日本大震災。巨大津波が襲った三陸沿岸の被災地では、津波の爪痕と同様、心に受けた傷から必死に立ち直ろうとしています。23年分のゴミに相当するといわれる瓦礫の撤去は、2割ほどが仮置き場に移送されたに過ぎず、順次入居が始まった仮設住宅も、必要数の半分に過ぎない中で、被災者は生活再建に向けた長い道のりを歩み始めようとしています。

sakanamachi_2011.4.9.jpg【photo】被災後1ヵ月になろうとする4月9日、瓦礫と化した人の暮らしの痕跡や重油タンクが無残に散乱する気仙沼市魚町。この駐車場の右隣りにケイの建屋がある

 高濃度の放射能を含んだ冷却水が漏れ出して海洋汚染の懸念が高まる原子炉のメルトダウンという重大な事実を発表しなかった東京電力の姿勢には、怒りを通り越して呆れるばかり。国策として原発建設を推し進めた当事者である野党を含め、党内ですら政争に明け暮れる為政者たちは、復興の道筋すら示されず、焦燥感に駆られる被災者の声に耳を傾けるつもりはないのでしょうか。

 被災前、私が気仙沼を訪れると必ず買っていたものがあります。それは有限会社ケイの「網元逸品 さんまつくだ煮」。最初にその味を知ったのは、ご縁あって気仙沼市魚町に事務所を訪ねた5年ほど前。気仙沼湾に面した海岸沿い建つ加工場を備えた事務所兼住宅は、1897年(明治30創業)に創業した「菅長水産」時代のもの。

 かつて幾艘もの漁船を率いた網元の正月の神棚(下写真)。「開運福禄寿」や気仙地方特有の漁網をかたどった切り子が祀られる。今も海とともに生きる菅原啓さん、義子さん夫妻が営むケイの事務所でご馳走になったのがきっかけです。

kei-kamidana2015.2.26.jpg
【Photo】遠洋マグロ漁船の一大拠点であった気仙沼港。燃料の高騰や漁獲量の減少などで往時の1/3以下に減船を強いられた。出港する大型サンマ船などを、乗組員の家族や市民が豊漁と航海の安全を祈って盛大に見送る「出船送り」の風習が昨年5月に復活。活気ある街を取り戻そうという試みが行われていた矢先、未曾有の災害が気仙沼を襲った(下写真:2011年1月撮影。被災2ヶ月前の気仙沼漁港)

kesennuma_2011.1.2 (2).jpg

【Photo】魚を知り尽くした元・網元が作るさんまつくだ煮。絵心のある奥様の血を引く娘さんが描いた「あみもとあみちゃん」が美味しさと笑顔の輪を広げる(右写真)

kei_sanma1.jpg 国内有数の遠洋マグロ延縄漁業拠点として栄えた気仙沼の海で生きてきた人らしく、青地に白い漁船のイラストをあしらった詰め合わせ用の青い箱は、素朴な手作り感溢れるもの。

 「どうぞ召し上がってみて」という義子さん。商品化して間もない2005年(平成17)、毎年大阪で開催される「全国水産加工たべもの展」に出品したケイのさんまつくだ煮は、水産物佃煮部門で最高賞の農林水産大臣賞、次点の水産庁長官賞に続く大阪府知事賞を受賞しています。全国から選りすぐった約3,000点の中から認められた気仙沼の逸品を勧められて遠慮する手はありません。

kei_sanma2.jpg【Photo】手描きのパッケージと同様に素朴だけれど、たまらなく美味しいケイのさんまつくだ煮味付けは、醤油味と味噌味(写真)のほか醤油味ごぼう入が加わり全3種類。味付けに使う無添加の味噌・醤油を作っていた市内の老舗「平野本店」が、津波被害を免れたのが救い

 なるほど、それはそれまで食べた中では、間違いなくダントツに美味しく、それでいてどこか懐かしさを覚えるサンマの佃煮でした。天然素材だけを使う旨味が詰まった骨まで柔らかい佃煮は、常温でも温めても、最高のご飯のおかずとなります。そんな正直な感想をつい言ったものですから、同行した社の後輩ともども、温かいご飯まで奥様に持ってきていただき、すっかり恐縮したものです。

 漁場として世界でも稀な好条件が揃った三陸の海。気仙沼はリアス海岸特有の入り組んだ地形の湾口に気仙沼大島があるため、波静かな天然の良港です。毎年秋、滋養豊富な親潮に乗って養分をたっぷりと体内に蓄えながら三陸沖を南下してきたサンマを集魚灯で集め、魚体へのダメージが少ない棒受網漁ですくい上げるよう捕獲します。

kei_sugawara.jpg【Photo】気仙沼ならではのさんま佃煮の傑作は、こうして海の男が工房でじっくりと時間と手間をかけて作り出す。(上写真) 被災後初めて伺った当日はお会いできなかったものの、後日NHK仙台放送局の番組「被災地からの声」に登場、「あんまり頑張らずに頑張ります」と語った菅原 義子さん(右下写真・NHK番組画面より)yoshiko-sugawara.jpg

 ケイで用いるサンマは水揚げ後すぐに氷漬けされ、マイナス40度で冷蔵されます。こうして鮮度を保ったサンマに下処理を加え、「すぐそこで作ってもらっているのよ」という醤油・味噌をベースに、みりん・日本酒・生姜・唐辛子で味を整え、照りを出す水飴を加えてじっくりと愛情込めて煮込みます。

 私のお気に入りは味噌味。旨味の塊のような味付けは真似のできない美味しさです。すっかり入れ込み、気仙沼魚市場前の海鮮市場「海の市」や、同市八日町の「横田屋本店《Link to Website》 」で購入するだけでなく、時には事前に菅原さんにお願いして業務用の大容量パッケージを事務所で譲って頂いたりもしました。

sugacho_suisan.jpg【Photo】気仙沼湾の目の前に建つケイ本社兼住宅。津波は建物2階の天井部分まで押し寄せ、菅原さんご夫妻は従業員ともども3階に逃れ命拾いをした

 気仙沼大島が防潮堤の役割を果たしたとはいえ、今回の津波は気仙沼市街地では、海抜12mの地点まで達しました。もともと水産会社だったケイの事務所は、観光桟橋がある気仙沼湾の最深部に位置し、海に面した場所にあります。電気が復旧してからTVで目にしたのが、鳴り響く警告音と避難を呼びかける防災無線の中、台風で増水した濁流のように気仙沼湾内に流入する津波の模様でした。その衝撃的な映像に安否が気になったのが菅原さんご夫妻のことでした。

 県がまとめた避難者名簿には名前が見当たらず、電話回線が遮断して安否が分からないまま、不安な気持ちでいた3月中旬、建物の2階まで押し寄せた津波を3階に避難して難を逃れた気仙沼市魚町の菅原啓という76歳の人物のコメントが、新聞に掲載されていることをネットで知りました。魚町近辺で3階建ての建物で命拾いをした同姓同名のほかの人物がいるとは思えません。この小さな記事でご主人の無事を確信しました。

messagio_sugawara.jpg【Photo】ご夫妻の無事を知らせる走り書き

 震災発生から1ヵ月近くを経た4月9日(日)、避難所へ生活物資を届けるために被災後初めて気仙沼入りした足でケイの事務所を訪れました。ダンボール紙にご夫妻の無事を知らせる走り書きのメッセージがあるそこにご夫妻はお留守でしたが、家を流されて3階で一緒に暮らしているという親戚の方から、被災当時の模様と、あみもとあみちゃんのようにいつもお元気な奥様が、事業再開に向けて張り切っていることを伺って安心しました。

 被災見舞いに伺ったにもかかわらず、津波に浸からなかった佃煮を私に下さる始末で、お渡ししようとしたお代は、どうしても受け取って頂けませんでした。事務所の泥かきをしている所に伺って、なんとも申し訳ないことをしました。

 同社のさんま佃煮に惚れ込み、人気の駅弁「宮城まるごと弁当」の一品として扱っていた弁当製造業の「株式会社こばやし」(仙台市宮城野区)でも、動き出したケイの事業再開に合わせて絶品のさんまつくだ煮を具材に復帰させる予定とのこと。

 幾度となく荒海を乗り越えてきた網元ご夫妻のこと。再びあの味と出合える日がまた来ることでしょう。

baner_decobanner.gif

コメント

三陸のどこの海をみても、おいしいものばかり、少しずつでもいいので復活をこころから祈ります!!

▼とのさき様

昨日は三陸への冷蔵庫7台のお届け、たいへんお疲れ様でした。

三陸ならではのこだわりのある小規模なこうした産品にも、ぜひ目を向けて欲しいという一心で、今回のご紹介をしました。

菅原ご夫妻のさんまつくだ煮は本当に美味しいので、ぜひお試し下さい。

「あるもん探しの旅」はお気に入りに登録し、拝見しています。
仙台在住のものですが、庄内系イタリア人様の東北を愛する心、伝わってきます。
今回の震災では、東北自慢の沿岸部が大きな被害を受け、とてもショックですが、頑張って復興させましょうね。
これからも素敵なレポートをお願いします。
(佐藤久一さんの記事が中でも良かったです)

▼たろー様
 BOOKMARK登録の上ご愛読いただいているとのこと、ありがとうございます。仙台市内は震災前と変わらぬ賑わいを取り戻しましたが、東部道路を越えると、まだ生々しい震災の傷跡が残っており、そのコントラストにかえって胸が痛みます。

 多くの恵みをくれる豊かな海とともにある三陸を、世界に冠たる災害に強い地域として復興さねばなりません。これからも明日への希望の光を探す私の旅は続きます。

魚の缶詰ファンとしては、ケイさんの「さんまつくだ煮」、ぜひ食べてみなくては。
あみもとあみちゃんのキャラもかわいいですね。
どこかでお目にかかってるような気がするのですが、はたしてどこだったか…。

復活を待ち望みたいと思います。

▼はやさか様

コメントを頂きありがとうございます。魚の缶詰といっても奥が深いですよね。アンチョヴィやシーチキンといったお馴染みさんもあれば、世界一臭い食品とされるのはニシンの缶詰でしたし。

別項をいつか設けようかと思っていた脂が乗った石巻産の金華サバの缶詰がありましたが、今回の震災で今年秋の漁がどうなるのか心配です。

ケイのサンマ佃煮は、缶詰ではありませんが、復活に向けて意欲満々の奥様が、恐らく今頃はご主人を叱咤激励しているはずです(笑)。復活の時が訪れたなら、是非ぜひ醤油味・味噌味とも味わってみてください。

ご縁あって、さんまの佃煮購入致しました。期待をはるかに上回る美味しさに、只々驚いています。本当に絶品ですね。

▼神戸より様

コメントおよび実食レポートありがとうございます。

関西の雑誌「あまから手帖」の酸いも甘いも知り尽くした中本編集長からも絶賛されたケイのさんまつくだ煮を気に入って頂いたようでご紹介した甲斐がありました。

仮設の小さな加工場で製造を再開した菅原さんご夫妻のさんまつくだ煮を、これからもどうぞご贔屓になさってください。

Luglio 2018
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        

archive.gif

Copyright © KAHOKU SHIMPO PUBLISHING CO.