あるもの探しの旅

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銀しゃりには「醤油の実」のみ!

大吟醸入り嘗め味噌を褒めちぎる、の巻

 今回は久しぶりに本拠地・庄内ネタを一席。

tanisada_2011.jpg【Photo】今年の孟宗筍は谷定孟宗で締めくくった。繊細な谷定孟宗を知らずして孟宗筍を語るなかれ。厚揚げ・椎茸・孟宗に白味噌と酒粕を同量加えて煮込み、トロミが加わった二日目が美味の極み

 鶴岡市谷定(たにさだ)にある佐久間 豊さんの竹林で採れた孟宗が届いたのが6月第2週。その特徴はキメ細かく繊細で柔らかな食感と繊細な香り。金峰山の北側にあり、赤土の粘土土壌の谷定が、いかに孟宗筍にとって理想的な環境にあるかは、食すればすぐに分かります。鶴岡市大山の酒蔵「出羽乃雪」の酒粕を加え、庄内の初夏を告げる味として定番の孟宗汁にして頂きました。

tsuyahime_shoyunomi.jpg【Photo】朝ガユの習慣が上方から北前船で庄内にもたらされ、相伴としての「醤油の実」(右写真)を進化させた

 その食卓に華を添えたのが「醤油の実」です。熊本・長野・新潟などでは昔から調味料としてではなく、そのまま食する「嘗め味噌」のひとつ「醤油の実」が作られてきました。米どころ庄内でも、醤油の実は庶民の味として長く親しまれてきたのです。名著「庄内の味」を著した伊藤珍太郎によれば、かつて醤油の実は、醤油を醸造する際、一番仕込みの醤油を絞ったモロミに食塩水と油を混ぜて二番醤油を作った後の捨てカスの副産物で、底辺の「貧しい味」(「改訂 庄内の味」昭和56・本の会刊)だったと記しています。

kaoru_etsu_inoue.jpg ところが、鶴岡市渡前(わたまえ)の井上 馨さん・悦さん夫妻の手になるそれは、大吟醸酒を惜しげもなく使う贅沢な逸品。お米だけでなく、冬はとりわけ葉の厚さとみずみずしさが生食で味わえる小松菜を、夏には溢れんばかりの旨みが詰まった樹熟トマトと茶豆をお世話になっている井上さん。入手困難な抗生物質不投与の発酵鶏糞を鹿児島から取り寄せて土作りに活用、防虫にはインドセンダンや木酢液を、活力剤には海藻・ハチミツ・サトウキビなど独自のエキス溶剤を用い、安全性と食味を追求しています。専業農家として、地域でもいち早く自前の大型精米施設と玄米低温貯蔵施設を導入、消費者との直取引による農業経営に取り組んできました。

【Photo】5月上旬、花を咲かせた小松菜のようにいつも明るい井上 馨さん・悦さん夫妻(上写真) 例年より2週間ほど遅れた今年の田植えは5月下旬。昨年30haの圃場の一部をハウス用地に転用したが、井上農場の屋台骨はコメ作り(下写真)

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 山形県内でも内陸とは全く異なる庄内が、いかに美味の宝庫かはこれまで何度も述べてきましたが、井上さんの手にかかると、そのいずれもが、一味もふた味も違ってきます。四季を通してお邪魔する特権として、ただでさえ美味しい旬の味を、もぎたて・取れたてで味わうことができるわけです。昨年<拙稿2010.6「孟宗尽くし」参照>に引き続き、今年も孟宗尽くしを堪能した湯田川温泉からの帰路に伺った今回は、昨年末に訪れて以来、震災のため、これまでで最も長い半年もの空白をおいての訪問となりました。

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【Photo】月山(左写真奥)のブナ原生林帯が水源となる赤川上流の梵字川から直接引いた滋養豊富な雪解け水(左写真)を井上農場では農業用水として使用。 健全で肥沃な井上農場の穀倉地を潤してゆく豊かな水・水・水・・・(右写真)

 その日は、井上さんが取り組む「消費者ふれあい交流レベルアッププロジェクト」が、山形県が一次産業者支援のために設けた「現場の創意工夫プロジェクト」に採択されたことを、地元紙「荘内日報」で報じられた翌日でした。専業農家として跡を継いだ長男の貴利さんや、手伝いの親類の方たちと井上さんは田植えの真っ最中でした。指定銘柄の「はえぬき」を購入した折に、今年も頂いたのが、今年は期待の新銘柄「つや姫」を用いたという自家製の「醤油の実」です。

inoue_tsuyahime.jpg【Photo】旧・藤島町で誕生した山形を代表する水稲「はえぬき」(左)と「つや姫」(右)

 例年4月から5月の農繁期に仕込むという門外不出・井上家秘伝の醤油の実は、ざっと以下の通りに作ります。

 1:大豆と小麦をそれぞれ炒り、大豆のカラをはねた後、コメを加えてふかし、手でほぐしてから麹菌を加える。

 2:もろみを一晩寝かせてから、米麹を加え、大吟醸酒(←酒の銘柄は毎年ご主人の馨さんの一存で決まる^0^)と醤油を各2升ずつ加える。

 3:15リットルの仕込み樽2つに分けて蔵で寝かせること2週間するとトロミが出てくる。その間、樽を毎日かき混ぜ続け、もろみを呼吸させる。

 醤油の実は、自家製が当たり前だという庄内では、醤油ではなく塩水を用いたり、酒を少なめにして味醂を用いるなど、各家庭の味があるのだといいます。 

gokaku_kiganmai.jpg【Photo】一昨年の12月末、中学受験を控えた娘に井上さんから贈られた「合格祈願米」は、地元の野田ノ目文殊堂でお祓いを受けた霊験あらたかなはえぬき。その甲斐あってか、志望校に合格。めでたしめでたし

 今回頂いた醤油の実は、1990年(平成2)、旧藤島町(現鶴岡市)山ノ前地区にある山形農業試験場庄内支場(現・山形県農業総合研究センター農業生産技術試験場庄内支場)で誕生し、現在は井上農場でも主力品種となる「はえぬき」ではなく、同支場で誕生した自家製「つや姫」を使用したものだといいます。

 大豆は旧藤島町で栽培するため、JA鶴岡が商標を持つ「だだちゃ豆」の名は語れないものの、私が昨年食した中では最も美味しいと感じたご長男の名に由来する「たかくんの茶豆」を晩秋まで畑に取りおいた大豆。

 加えた大吟醸酒は、2004年(平成16)春のお披露目に居合わす幸運に恵まれた「くどき上手」で知られる「亀の井酒造」が醸した純米大吟醸「藤島」と、酒田の「初孫 大吟醸」。醤油も鶴岡の造り醤油屋「増坂イチヤマ醤油店」の醤油と、地の材料を使ったのだそう。

 伊藤珍太郎が指摘する通り、庄内で愛されてきた醤油の実は「常住ふだんの食事の友(「改訂 庄内の味」)であるがゆえ、飽きが来ない味に当地において磨き上げられてきたものです。「庶民の手でろ過されて永く伝承されているうちに納得のゆく味に定着(同)」した醤油の実は、炊き立てのはえぬきの風味を倍増させ、立ち上る大吟醸の香りが一層食欲をそそるのでした。

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 「はえぬきで作った醤油の実を次に来る時まで取っておくからね」と今日電話で話した悦さん。真っ赤に熟れたもぎたてトマトを頂きに伺いながら、来月また鶴岡へと伺う楽しみができました。

【Photo】2003年(平成15)夏、トマトの美味しさに初めて目覚めたのが、赤く熟するまで収穫せず、酸味と甘味ではちきれそうな井上農場の樹熟トマト。ハウスでもぎたてをかぶりつくのが最高っ!!

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井上農場
住 : 鶴岡市渡前字白山前14
Phone & Fax : 0235-64-2805
URL : http://www11.ocn.ne.jp/~inoue-fm/index.html

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