あるもの探しの旅

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酪農県の誇り、岩泉ヨーグルト

もうひとつの世界が認めた東北のこころ

IMG_2848-1.jpg【photo】昔ながらの山里の暮らしが息付く「バッタリー村」こと岩手県久慈市山形町荷軽部。放牧される牛が厩舎で過ごす冬に与える飼料用デントコーンと牧草が山あいの耕作地で育つ。岩手北東部では、3年に一度は冷害に見舞われ、栽培技術が向上する大正時代までは稲作が困難であった。五穀豊穣の五穀が、水稲・麦・アワ・小豆・大豆の5種類を指すように、弥生時代にコメが伝来する以前より、人々の命を支えた雑穀の豊かな文化が育まれた

2007_10kuji.jpg【Photo】内陸へ物資を運ぶ古道「塩の道」が通っていた山あいに開かれた久慈市山形町の牧草地で放牧される黒毛和牛と短角牛

 東北で酪農が盛んな地域といえば、旧南部藩が治めた岩手県北部の北上山地周辺を真っ先に思い浮かべます。農業生産の9割を酪農が占め、市町村単位では全国で2番目に酪農を営む戸数が多い葛巻町は、8,000の人口に対し、乳牛の数が11,000頭あまり。伊達62万石を支えた水田と屋敷林「イグネ」が平地に広がる旧仙台藩領の岩手県南部とは明らかに異なる傾斜地が多い北の風土のもとで、山の恵みを活かした炭焼きと牛飼いを生業とする循環型の暮らしが営まれてきました。

 農林水産統計によれば、肉用牛・乳牛とも飼育数が全国で最も多いのは、延べ面積が広い北海道。岩手は栃木に次いで乳牛飼育数全国3位、肉用牛は鹿児島・宮崎・熊本に続く5番目。一戸当たり平均飼育数は、全国平均で前年比微減の乳牛67.8頭・肉用牛38.9頭。県別では経営規模が大きい北海道が、乳牛107.5頭・肉用牛178.3頭と桁違いに多いのに対し、岩手は各34.7頭・14.9頭という少なさ(H22年度調べ)。山間地という地理的palazzo_kimoiri.jpg制約ゆえですが、言い換えれば、目が届く範囲の牛を手塩にかけて育てていることを意味します。

【Photo】7棟の南部曲り家を移築、江戸の山里を再現した「遠野ふるさと村」最大の古民家は、地元・附馬牛(つきもうし)の庄屋が暮らした江戸末期の家。写真右手が住居、左手は厩舎(右写真)

早坂高原【岩泉町】.jpg【Photo】標高900m前後の山間地になだらかな草原が広がる岩泉町早坂高原。冷涼な高原性の気候のもとで放牧される日本短角種(左写真)

 高原に開かれた牧草地「野場(やば)」では、春の訪れとともに牛の放牧が始まります。その群れは種付け用の牡牛1頭に対し、雌牛が40頭前後。牧草地を思い思いに移動しながらひと夏を過ごした牛たちは、晩秋に人里の厩舎へと戻され、自然交配によって春先に生まれた子牛が、母牛と共に野に放たれます。この冬季舎飼ないしは夏山冬里の暮らしのなかで生まれた人家と厩舎がL字型で一体となった「南部曲り家」は、牛馬を家族と同じく大切に扱うこの地域特有の住居形態です。

 久慈・野田・普代・宮古など三陸沿岸から内陸部の盛岡や鹿角へと続く「塩の道」を通り、塩や海産物を運ぶ賦役についたのが、在来の南部牛。黒毛和牛とともに、この地域で数多く飼育される日本短角種〈Link to backnumber 〉のルーツとなった牛を曳いた牛方が、山中で歩みを進めながら口ずさんだ牛方節をもとに作られたのが、「♪ 田舎なれども 南部の国は 西も東も 金の山」 と唄われる南部民謡「南部牛追唄」です。

 ホルスタイン種が葛巻町や岩泉町などに導入されたのは明治20年代後半。以来、酪農は農業生産額のほとんどを占める基幹産業として地域と暮らしを支えています。1976年(昭和51)には、のちに環境共生型の町おこしで目覚しい成果をあげる「葛巻町畜産開発公社」が発足。1984年(昭和59)岩泉で入植以降、畜舎に牛を戻さない日本初の通年昼夜放牧や、国産飼料だけによる牛の飼育をいち早く導入した中洞 正氏が、「中洞牧場」(2008年「しあわせ乳業」に社名変更)で森林資源維持にも寄与する山地(やまち)酪農を実践するなど、可能性に富む酪農が行われています。

袖山高原2-1.jpg【Photo】「ミルクとワインとクリーンエネルギーの町」を標榜する葛巻町のシンボル、風力発電の風車が回る袖山高原に放牧されるホルスタイン

 山林面積が町全体の93%で、森林の年間酸素排出量が400万人分の年間呼吸量に該当する107万1212トンに達する岩泉。1992年(平成4)に「酸素一番宣言」を行うほど、大気中の酸素量が多いのがこの町。豊かな森の2/3を占める広葉樹林が恵まれた水資源をもたらす素晴らしい環境のもとで牛たちは育ちます。2004年(平成16)には、町が事業主体となった第3セクター「岩泉乳業」が設立され、各町内の酪農家が出荷する高品質の原乳を使用した乳製品を製造・出荷しています。

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 生乳を全て岩泉乳業に出荷する沢中地区の阿部 隆一さん(53)は、脱サラしたお父様の跡を継いだ二代目。飼養するホルスタインは、徐々に頭数を増やし、現在38頭。奥様の恵美子さん・お母様の良子さんの3人で牛の世話をしています。飼料は自家調達するイネ科の牧草が中心で、全体の7割を占める粗飼料類の自給率は100%を達成。スノーブランドの信用を失墜させた食中毒事件で注目された生乳の衛生管理の信用度を知る指針となる細菌数は、国が定めた安全基準の1/2に過ぎない15,000/mℓという確かな品質。

 「基本に忠実なだけです」と控えめに語る隆一さんですが、酪農家同士の情報交換などを通し、品質を高めることに日々余念がありません。高タンパクの濃厚飼料を給餌する割合を高めて確保する搾乳量の全国平均が一頭当たり8,500kgといわれるなか、阿部さんは年間7,000kg余りに留め、牛に無理をさせません。牛にとって、岩泉は宮沢賢治が言うところの理想郷「イーハトーブ」にほかならないようです。

iwaizumi_plant_nuovo.jpg【Photo】今年5月下旬に完成した岩泉乳業のヨーグルト製造専用工場

 そんな恵まれた環境のもとで育つ牛から搾った生乳の風味を活かすよう、岩泉乳業では牛乳製造工程において一般的な120℃~150℃で2~3秒の超高温瞬間滅菌ではなく、85℃で15分間殺菌を行う高温保持殺菌を採用しています。これはタンパク質の熱変成によって牛乳本来の味を失わないため。脂肪球を破砕しないノンホモジナイズ製法で75℃15分の殺菌を行い、甘味の強い生クリーム成分がビン上部浮いてくる「くずまき高原牛乳」、63℃30分低温殺菌のしあわせ乳業「四季むかしの牛乳」ともども、牛乳本来の味を知る意味で、一度は試してみる価値はあります。

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 私が美味しさにハマっているのが、2006年夏に岩泉乳業が発売した「岩泉ヨーグルト」。同社には「岩泉のむヨーグルト」や生乳100%を発酵させたカップ入り「岩泉プレーンヨーグルト」もありますが、イチオシはたっぷり2kg容量(1,200円)とジャストサイズな1kg(800円)の2種類がラインナップされる業務用の加糖タイプ(右写真)。クリーミーでまったりとした口どけ、ほのかな酸味と優しい甘さの黄金比率、記憶の奥底に刻まれた離乳前の幸せが蘇る(?)おっぱいの香り...。そのいずれもがこれまで食べてきたヨーグルトには無かったものです。原料表示に生乳・砂糖・乳製品(=乳酸菌)とある通り、素材は至ってシンプル。加糖してはいますが、生乳由来の甘さを感じる程度で、甘さにしつこさはありません。

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 保存料や食感を良くする増粘剤のペクチン・香料など食品添加物を加えず、この素晴らしい風味を生み出す要因は、原料乳の厳しい品質管理と発酵過程にあります。85℃15分間殺菌された生乳を35℃まで温度を下げ、種菌となる乳酸菌を加え、容器に充填の上、18時間をかけてじっくりと発酵を待ちます。一般的には、40℃の状態で4~6時間程度の発酵で酸度が0.8%程度に達した時点で、温度を一気に10℃ほどに下げて、乳酸菌の発酵活動を止めてしまいます。冷蔵状態でも乳酸菌の活動はわずかに進みますので、店頭に製品が並ぶ時点で酸度1%前後の食べ頃を迎えるのです。

 じっくり時間をかけて製造される岩泉ヨーグルトは、1/3 の時間で作られる大手の観点からすれば、はなはだ非効率的(笑)。なれど、家族同様に牛を大切にする酪農に生きる地域の皆さんでなければ、この味は出せないはず。地元の後押しや口コミでその美味しさが伝わり、売り上げは右肩上がりだといいます。昨年は需要に供給が追い付かず、品薄状態が続きました。そのため今年5月に生産設備を増設し、増え続ける需要に応えています。

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 今年5月、ベルギーに本部がある品質認証機関「モンドセレクション」は、岩泉ヨーグルトと岩泉のむヨーグルトに食品部門の金賞を授与しました。これは透明度世界一に認定される地中湖がある岩泉町の鍾乳洞「龍泉洞」で採取した伏流水を同町の第三セクター「岩泉産業開発」が製品化した「龍泉洞の水」が2001年に最高金賞に輝いたのに続く受賞です。食品の評価は、味・香り・外観・アロマ・舌触りなど官能上の基準と、成分・パッケージ・調理法なども加味した客観評価を照らし合わせて最低8人の専門審査員が100点満点で評価するのだといいます。金賞は出品されたなかから、平均総合点80点以上の製品に対して与えられます。

 岩泉乳業に生乳を全量出荷している前出の阿部 隆一さんは、今回の受賞は、生産者にとっても励みになると語ります。古くは日清製菓のココナッツサブレが金賞受賞を、最近ではサントリーのプレミアムモルツが最高金賞受賞をPRしたことで有名になったためか、日本からの出品ばかりが多いモンドセレクションが認めるまでもなく、その美味しさは以前からこのヨーグルトを愛用していた私が太鼓判を押します。そう、Viaggio al Mondo セレクション最高金賞として。
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岩泉ヨーグルト
製造元:岩泉乳業株式会社
Phone:0194-22-3800
URL:http://www.iwaizumilk.co.jp/cm/index.html
※ 仙台周辺では、スーパーモリヤ系列のビッグハウス富谷店・八乙女店・大野田店・小牛田店・築館店で岩泉ヨーグルト(1kg)と岩泉のむヨーグルト(750mℓ)を、それぞれ580円・295円の売価で扱う。
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