あるもの探しの旅

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2011/08/28

ばんつぁん市 I'll be back.

まだ見ぬ憧れの君は年上の...
 @大崎市岩出山

karinto_okubo.jpg 仙台からR4を北上、県下で唯一の村となった大衡で枝分かれするR457を色麻・加美と進むと、旧岩出山町(現大崎市)となります。米沢から移った伊達政宗が仙台に居城を構える前、本拠地としていた岩出山は、落ち着いた城下町の面影を残します。一斗缶に入った「おおくぼのかりんとう」でも有名ですね。

【Photo】大久保製菓の定番かりんとう。ごま・黒ごろもの2種類が入ったこの一斗缶(2,100g)のほか、ビニール袋入り(400g)も。R47「あ・ら・伊達な道の駅」(大崎市池月)ほか、R457を町内に入り最初のT字路角にある店頭に一斗缶を山積みしている坪田菓子店などで取り扱う

door_k'santique.jpg【Photo】エッチングガラスのエレガントな文様が気に入って岩出山にあったころのK'sアンティークで購入した19世紀末英国製パイン材ドア。現在はキッチンの扉として納まっている ※click to enlarge

 5年ほど前、仙台市泉区に移転した庄イタご用達のアンティーク家具を扱うショップが、以前は岩出山にあったので、当時は毎月のようにルートとなるR457を通っていました。その頃からずぅ~っと気になっていた店と呼ぶには、いささか気が引けるような年季の入った建物が道沿いにあります。看板には「ばんつぁん市」とあり、毎週水曜・土曜のみ営業とだけ最初の頃は書かれていたように思います。しかしながら、そこが開いているところに出くわしたことは一度たりともありません。
 
 高齢化が進む農村だけに、閉鎖されたまま放置されているのかとも思い、岩出山町民のアンティークショップ・オーナーKさんにその店のことを尋ねると「すごいよあそこは」という返答が帰ってきました。どのようにスゴいのかはこの目で確かめたわけではないので、その言葉の意味するところは謎のまま。これまで宮城県の農業は、米作中心だったため、在来作物の宝庫・庄内のように地域性のある特徴的な産直施設に出くわしたことがないというのが偽らざる私の本音。

bantsuan_ichi.jpg 【Photo】土壁が落ち、和製アンティークのような佇まいを見せていた(?)かつての「ばんつぁん市」。R457(写真左)沿いに建つ

 お姉さんを指す庄内弁が店名となった「あねちゃの店」(鶴岡市羽黒町狩谷野目)も特色ある産直が居並ぶ庄内でも屈指の"濃い"店ですが、宮城県北の方言で、おばあさんを意味する「ばんつぁん市」は、決して負けていません。キュウリはキュウリ、ジャガイモはジャガイモと臆目もなく売っている没個性な産直には事欠かない宮城にあって、異彩を放つ強烈なインパクトがありすぎるネーミングではありませんか(笑)。古びた納屋を利用した素っ気ない店が気になりつつも、ついぞそこに足を踏み入れることはありませんでした。

 岩出山に足繁く通っていた当時から、よく立ち寄っていたのが色麻町R457沿いの自然食レストラン「Rice Field ライスフィールド」です。浦山利定さんが自然農法で育てるササニシキと自家製野菜や山の恵みを中心にしたオーガニック料理を頂くことができます。27日(土)、毎年これを食べないと夏の訪れを感じなくなくなった夏限定「トマトとナスの冷製スパゲッティ」を今季初めて堪能、土曜日で営業しているはずのばんつぁん市を目指しました。

ricefield_pomodorimeranzani.jpg ricefield_urayama.jpg【Photo】色麻町「Rice Field ライスフィールド」の夏季限定メニュー「トマトとナスの冷製スパゲッティ」は、ご覧の通り夏の陽射しをたっぷりと浴びた具材がてんこ盛り(800円・左写真)
気さくに常連客との会話に応じるオーナー浦山さん(右写真)は、フレンチの鉄人・坂井宏行シェフと見まごう風貌の持ち主。仙台市役所前の勾当台市民広場で毎月開催される「朝市夕市ネットワーク」定期市にも出店、自然栽培のコメなどを販売

sign_bantsuan.jpg ばんつぁん市に着いたのが13時すぎ。久々に訪れた店の前は道路が新たに整備され、立て看板が少し増えていました。変わらないのはこれまでと同様店を閉めていたこと。おかしいなぁ、と思いつつ、「毎週水・土曜日 午前6:00~午 :00 ちょこっと寄ってがいん!(=「ちょっと立ち寄っていって!」を意味する宮城県北の方言)」という看板に促されるように敷地の奥に建つお宅へと足を踏み入れました。

 窓が開かれた居間の網戸越しに聞こえてくるのは、楽しげな女性たちの声。声の感じからそれなりにお年を召された女性たちであろうことが窺えました。こちらから中に声を掛けると、網戸越しに振り向いたのは3人のおばあちゃん。御簾(すだれ)越しに会話する平安貴族のような(?)状況です。

 「恐れ入りますが、ばんつぁん市は今日お休みでしょうか?」
 
 網戸越しゆえ、紗がかかって表情まではよく見えませんが、一番奥にいらした方があっけらかんと答えて言うには
 
 「朝からやってたけど、もう今日は終わりました」

bantsuan_ichi2.jpg その言葉で私はおおよその事情を察しました。夜がまだ明けやらぬうちに農作業は始まります。朝6時から営業とだけ看板にある通り、売り切れ次第終了なのです。お三方は、ばんつぁん市を支えるメンバーなのでしょう。おばんつぁんたちは、午前中で生き甲斐でもある店を閉め、昼下がりの茶飲み話に花を咲かせていたのです。

【Photo】店の周囲が小ぎれいになり、縦看板が設置されたばんつぁん市 ※click to enlarge

 産直施設は全国にさまざまありますが、朝6時から始まり、午前中で終わってしまう店は、そうは無いでしょう。無駄足になったにもかかわらず、楽しげに談笑するおばんつぁんたちの様子に、私まで愉快になりました。あのパワフルさなら、またいつでも訪れることができるはず。日本軍の侵攻でコレヒドール島を撤退するマッカーサー、ないしはシュワルツェネッガー演じるターミネーターの心境に至ったのでした。

 「また出直します(≒ I shall return.ないしはI'll be back.)」そう言い残してそこを後にしました。冬ごもりに入る11月末までに、店の奥に談話スペースがあるのを目にしたあの店で、まだ見ぬおばんつぁんの君と逢瀬を果たすため、光源氏のようにいそいそと足を運ぶつもりです。

 いづれの御時にか、おばんつぁん、あまたさぶらひたまひけるなかに、いとやむごとなき庄内系にはあらぬが、すぐれてときめきたまふ。
Genji_emaki_TAKEKAWA_Large.jpg【Photo】ばんつぁん市には未到達ながら、御簾(みす)越しに繰り広げられた平安貴族の恋物語「源氏物語」さながらの状況を体験した夏の終わりの昼下がり... 

国宝「源氏物語絵巻」より「竹河」/ 徳川美術館所蔵


【注】女性を放っておかない典型的なイタリア男カサノヴァのようなプレイボーイの日本における代表格といえば光源氏(ローラースケートを履いていない方)。紫式部風に締めくくりましたが、庄イタは光源氏ほど女性の守備範囲は広くはなく、ましてや倒錯的な過熟女趣味はありません(爆)

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ばんつぁん市
住:大崎市岩出山下野目南原95
Phone:0229-72-3206
営:5月~11月 6:00~なくなり次第終了
水曜・土曜日
Pあり(普10台)
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2011/08/20

めっちゃこい鵜渡川原キュウリ

瓢箪(ヒョウタン)から胡瓜(キュウリ)な出合い
 @酒田市亀ヶ崎

 酒田市亀ヶ崎にあるフレンチレストラン「Nico(ニコ)」に昼の予約を入れた7月半ばのこと。そこは庄内浜をはじめとする豊富な地元の食材を積極的に使い、フランス料理のエッセンスを取り入れた郷土料理という、誰も成し得なかった独自の世界観を確立した故・佐藤久一の高い理想を皿の上に体現してみせた太田 政宏さんの次男・舟二さんが3年前に独立した店です。若きサラブレッドの店をこれまでに4回訪れていますが、この日は予約した時刻より若干早く着いたため、店の脇に車を停めました。

udogawara_niizeki.jpg【Photo】酒田市亀ヶ崎で新関 貴美子さんが栽培する鵜渡川原キュウリの畑(上写真)
8人の組合員が1シーズンに合計6tを出荷する鵜渡川原キュウリは、長さ5cm~10cm未満のうちに収穫する(下左写真) 採種用の目印を付けられた鵜渡川原キュウリ。熟して褐色に変化した表面に無数のひび割れが生じている。長さは15cmほど(下右写真)

 udogawara_4.jpg udogawara_3.jpg

 店の周辺には、脂身こそが豚肉の醍醐味と身をもって教えてくれるヘルシーなコメ育ち金華豚が購入できる「平田牧場本店」のほか、立ち寄り先が数軒あるため、「レストラン欅」が地階にある産業会館周辺と並んで酒田市中心部でも庄イタ出没率が高いエリアです。この時、密かに目論んでいたのが、訪れた時期が旬の真っ盛りを迎えていた亀ヶ崎地区在来のキュウリの畑を探すことでした。

udogawara_2.jpg【Photo】黄色い花の花床と子房部が肥大してキュウリの実を結ぶ。雨が多い年は収量が目減りするという

 車を停めた駐車場のすぐ隣りには、住宅地の一角に残る浮島のような耕作地がありました。灌漑設備を備えたビニールハウス数棟はさておき、私の関心を惹いたのは覆いを取り払って露地栽培されているキュウリと思しき4畝(うね)。ちょうど大人の背丈ほどに組まれた逆U字型の支柱をのぞいて見ると、うりざね型の小ぶりで色の淡いキュウリが実を付けていました。中には採種のため、目印を付けたまま取り置かれた長さ15cmほどの無数のひび割れが表面に生じた個体もあります。

 それはまさしくお目当ての「鵜渡川原(うどがわら)キュウリ」でした。予約時刻より早く到着しゆえの瓢箪から駒、瓢箪からキュウリな出合いです。3年前の「沖田ナス」〈Link to backnumber〉もそうでしたが、これも庄内で培った嗅覚のなせる神業。そこは1991年(平成3)に会員8名で発足した「ミセスみずほの会」のメンバーで、現在代表を務める新関 貴美子さんが所有する畑でした。ご子息の店で食事をしておいでだった太田さんにご挨拶ができたその日の翌日、再び立ち寄った畑で収穫作業中だった新関さんからお話を窺うことができたのは二重の幸運といえましょう。

kimiko_niizeki.jpg【Photo】庄内地方の女性が農作業の折に着用するハンコタンナ姿の新関 貴美子さん。今年からミセスみずほの会代表を務めている

 砂丘地帯を進むR112と幹線道路R7を結び、酒田市役所へと続く羽州浜街道に抜ける表通りに面して店が続く亀ヶ崎。今でこそ宅地化されたこの一帯は、1929年(昭和4)に酒田町に編入される以前は、飽海郡鵜渡川原村と呼ばれていました。最上川河口右岸のそこは、現在も河口域に群生が見られる葦原が広がり、その名が示す通り、水鳥が羽根を休める牧歌的な風景だったのでしょう。貴美子さんが新関家に嫁いで来た当時の亀ヶ崎は、まだ畑が一面に残っていたそうです。

udogawara_shukaku.jpg【Photo】収穫したばかりの鵜渡川原キュウリ

 鵜渡川原という旧地名は、江戸末期に京都伏見から北前船で庄内に伝播した素朴な風合いの土人形「鵜渡川原人形」に残ります。もうひとつが鵜渡川原キュウリ、ないしは隣町の大町でも作られていたゆえ「大町キュウリ」ともいわれた在来野菜です。舌を巻く名文をもってして郷土・庄内の食の魅力を綴った故・伊藤珍太郎の著書「改訂版 庄内の味」(S56・本の会刊)によれば、酒田に急速な宅地化の波が訪れた1973年(昭和48)当時、80歳以上の高齢者は、少なくとも江戸期から栽培されてきたこのキュウリを大町キュウリと呼んでいたのだといいます。

 よって、当時すでに畑が姿を消した大町こそが、シベリアから渡来した鵜渡川原キュウリの本拠地だったのだろうと伊藤珍太郎は記しています。畑で赤くなるほど熟れたものをキュウリもみにすると、淡白味と熟成味が渾然となった至上の味を体験できると語るこの通人が、民田ナス〈Link to backnumber〉と並ぶ夏の味としているのが、鵜渡川原キュウリです。経済発展がすべてに優先した高度成長の真っ只中だったその頃、伊藤珍太郎は次第に姿を消しつつあったこのキュウリの行く末を案じています。果たせるかな、現在このキュウリを栽培するのは作付けが減る一方だった1991年(平成3)に発足した「ミセスみずほの会」の8人だけとなりました。

mogamikyuuri.jpg 【Photo】今年7月上旬、袋詰めされて店頭に並ぶ鵜渡川原キュウリ(500g 300円 / 写真提供:みどりの里 山居館

 パキパキしたすがすがしい独特の食感がある一方で、生食では甘さよりほろ苦さが勝り、収量が上がらず、収穫翌日には黄変してしまうほど鮮度の落ちが早いという気難しい一面を持ち合わせた鵜渡川原キュウリ。ミセスみずほの会では、「めっちぇこきゅうり」の名称で商標登録をし、自家採種による栽培を行っています。めっちぇことは酒田の言葉で小さくてかわいらしいという意味。地元で愛されてきためっちぇこいキュウリへの愛着を感じさせる秀逸なネーミングですよね。

udogawara_asazuke.jpg【Photo】めっちぇこきゅうりで自作した浅漬。すがすがしい歯応えが秀逸

 鵜渡川原キュウリは、4月中旬に播種、6月上旬に定植し、下旬から翌月末までが収穫期。栽培から加工・出荷まで厳しい品質管理のもとで生産を行うミセスみずほの会では、500g入りの青果品として、また浅漬・辛子漬・ビール漬・粕漬に加え、最近ではピクルスへの商品化にも取り組んでいます。収穫する大きさは5~7cmほどに限定され、当然ながら規格外が少なからず生まれます。品質の劣化を避けるため、朝夕2回行われる収穫後は、すぐに出荷・加工へと回さなくてはなりません。

udogawara_kasuzuke.jpg
 
 今年で発足から20年を迎えた会のメンバーは、採算性だけでは決して語ることのできない故郷の味を守ろうと、決意を新たにしています。めっちぇこきゅうりは、酒田市内に10店舗を展開する「ト一屋」と「みどりの里 山居館」に加え、鶴岡市「つけもの処本長」では、山形大農学部教授を務め、在来野菜研究の先鞭をつけた故・青葉高が提唱した「酒田きゅうり」の名前で入手することができます。みどりの里 山居館には、市北部の西荒瀬地区でこの種を守ってきた齋藤 隆介さんが出荷する姿かたちが鵜渡川原キュウリとほぼ同一の「もがみきゅうり」も店頭に並びます。

【Photo】昨年12月、みどりの里 山居館で購入したミセスみずほの会メンバー池田けい子さんお手製の粕漬け。手間をかけた分、美味しさはまた格別(上写真) 現在では見られなくなった地這い栽培による鵜渡川原キュウリを収穫する農婦(下写真・「改訂版 庄内の味」より)

jiue_udogawara.jpg 最後に伊藤珍太郎が庄内の味で書き記した逸話をご紹介しておきましょう。その昔、鵜渡川原キュウリは、スイカやメロンのように支柱を立てず地面に直接ツタを這わせて栽培されていました。日照時間が長い夏の庄内にあって、ジリジリと焼け付く大地の生気をじかに吸い取るよう育てられていたのです。試みに支柱を与えて育てたところ、味は格段におちてあった(原文ママ)とあります。

 支柱を用いるトンネル栽培法は、技術が確立された1970年(昭和45)頃から導入されています。収穫時に中腰を強いられる地這い栽培から、作業性の向上がはかられて以降、もはや味の原型は幻となったのかもしれません。

 仮にそうだとしても、滅びる寸前だった特徴ある酒田の味はそうすることで守られたのです。昨年ご紹介した「外内島キュウリ〈Link to backnumber〉」と同様、特色あるこの長い歴史の生き証人と、それをを受け継ぐ人の思いに触れることができたことは、この夏の何より得がたい収穫だったと思っています。 

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ミセスみずほの会による
  めっちぇこキュウリの漬け方指南

 ◆その1/ 浅漬
    鵜渡川原キュウリ 500g 塩20g 砂糖50g
 ◆その2/ 辛子漬
    上記に 辛子20g 酒50ccを追加
 ◆その3/ ビール漬
    上記1 に ビール100ccを追加
 ◆その4/ 粕漬
    1 を水出しして水分を除き、砂糖と酒粕で漬け込む
   2~3週間後に一度酒粕を取り除き、再び砂糖と粕で漬けると約1ヵ月で完成

● ト一屋 URL: http://www.toichiya.co.jp/
● みどりの里 山居館 URL: http://www.sankyokan.jp/
● つけもの処 本長 URL: http://www.k-honcho.co.jp/
問合せ先:JA庄内みどり めっちぇこきゅうり部会
 Phone:0234-24-7511(酒田支店)
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2011/08/13

不死鳥のごときブドウ

桔梗さんは津波に屈しない

20110812kahoku.jpg

 3月11日から5ヶ月を経た今月11日、福島と県境を接する宮城県亘理郡山元町では、町主催の合同慰霊祭が行われました。その模様が、昨日の河北新報朝刊で報じられています。

 16,600人の町民のうち、710名が死亡、7名が行方不明となった山元町。1,600名が参列した慰霊祭で「お別れの言葉」を述べた遺族代表2人のうちのひとりが、同町で1902年(明治35)に創業し、宮城県内唯一の自家詰めワイナリー「桔梗長兵衛商店」の当主で津波の犠牲となった桔梗 幸博さん(54)の奥様、理恵さんでした。

uva_kikyo.jpg【Photo】
震災発生から5ヵ月目を迎えた8月11日、同町山下中学校体育館でしめやかに行われた山元町合同慰霊祭(上写真)
ワイナリー周辺に咲く花を描くのが好きだったよし子さんが描いたブドウの絵(左写真)。基礎だけが残る玄関跡に落ちていたので、屋根が残る醸造所に移しておいた

 ご主人と義母のよし子さん(79)を今回の震災で亡くした理恵さんは、「2人の無念を思うと涙が止まらないが、生かされた命を大切にし、精一杯生きてゆきたい」と言葉を詰まらせながら祭壇に向かって呼びかけました。

 当日、同じく合同慰霊祭を行った亘理町から山元町にかけての津波が襲った耕作地では、土壌の除塩作業に協力しあう人の姿を多く目にしました。汚れちまった悲しみに覆い尽くされた被災地にも、かつての日常を取り戻そうという人々の努力によって、少しずつ変化が生まれています。

uva_yamamoto.jpg【Photo】桔梗長兵衛商店(写真中央奥)に納入するブドウを育てていた契約畑には新たな苗が植えられていた

 その日、被災後初めて訪れた桔梗長兵衛商店は、記憶の中にあるかつての姿と重ね合わせるのが不可能なほど様相が変わっていました。うず高く積まれた瓦礫置き場の向かいにある桔梗さんのお住まいは基礎部分が残るだけで、醸造施設だけがかろうじて姿を残すのみ。

 花好きだったよし子さんのスケッチブック・充填機・ビンなどが砂に混じって散乱する内部は、あの日から時間が止まったかのよう。宮城県内唯一の歴史あるワイナリーを襲った過酷な現実を目のあたりにし、改めて胸が締め付けられます。犠牲となったお2人のご冥福を祈って手を合わせました。

【Photo】桔梗屋の葡萄液ことブドウジュース

succo_uva.kikyo.jpg 道路を挟んだ海側に目を転じると、自衛隊が整地し、持ち主が土壌の除塩を行ったのでしょう、まばらに植えられたブドウの若木が育つ一角がありました。枝の剪定や蔓の誘引など、きちんと手入れがされています。自宅の片付け作業中だった畑の持ち主に声を掛けて話を伺うことができました。ワインと並ぶ桔梗長兵衛商店の看板商品だった葡萄液に加工する北米原産のブドウ「コンコード」を代々栽培してきたというご主人。被災した現在は仮設住宅に入居しながら、ブドウの世話をしているのだそう。宮城では唯一、栽培が綿々と行われてきたこの地域ならではのブドウに対する愛着を感じさせてくれました。

 そして桔梗さんのことに話が及ぶと、思いもかけない言葉を私は耳にしたのです。

  「桔梗さんが育てていたブドウが何本か残っているよ」

uva2_yukihiro.jpg 先ほどまでいた醸造所から見た桔梗さんの畑もまた、津波によって根こそぎにされていました。そこは、もはや雑草が繁茂する荒地としか目に映りません。予想だにしない言葉に促され、足を踏み入れたかつての畑は、雑草の根元が津波が運んだ塩分を含む海砂で覆われています。砂浜に生える草のような雑草は、膝まで埋まるほどの丈に伸びていました。

【Photo】破壊された醸造所(写真奥)に隣接する桔梗さんのブドウ畑。一面の雑草が生い茂る荒地と化したと思いきや...

uva_yukihiro.jpg uva3_yukihiro.jpg【Photo】津波の直撃を受け、塩害の影響があるにもかかわらず、強靭な生命力で試練を耐え抜いた桔梗さんのブドウ。青々とした葉を付けて実を結び、不死鳥のように枝を伸ばす先の空には、桔梗さんの不屈の遺志を表すかのようにハート型の雲がかかっていた

 根をしっかりと張った古木ゆえ、たとえ津波で根こそぎにされず残っていても、塩害で立ち枯れしているのだろう。そう思いつつ歩みを進めた私は、ブドウの樹の前で目を疑いました。なんとブドウは青々とした葉を付けていたのです。もはや世話をする人がいなくなったため、枝と蔓が複雑に絡まりあってはいますが、中には小さな緑の房を結んだ樹すらあります。

 「よくぞ耐え抜いて...」思わず私はブドウに語りかけていました。生活のすべてを無残に破壊し、醸造家の命まで奪った大津波。過酷な状況を不死身の生命力をもってして乗り越え、逞しく生き抜いたブドウを前にして、さまざまな想いが去来しました。

 合同慰霊祭で理恵さんが誓った通り、大学で醸造を専攻する娘さんら残された家族4人で精一杯これからの人生を歩んでいくことでしょう。天国に召された幸博さんとよし子さんが、その歩みを先代と幸博さんが大切に育ててきたブドウの葉陰からきっと見守ってくれるはずです。

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2011/08/07

手前味噌な醤油の実

銀しゃり+吟醸+大吟醸
作ってみました、醤油の実。

 SNS などのバーチャルな人間関係を否定はしませんが、庄イタは根がアナログゆえ、顔を突き合わせたお付き合いには到底かなわないと信じる者の一人です。まして人が生きてゆく上で欠かせない食を通した繋がりは、いかなる時も揺るがぬ強固なもの。それを実感させてくれるのが、傾聴に値するストーリーを持つさまざまな生産者とのご縁で繋がった我がホームグラウンド庄内です。

watamae-gassan.jpg【Photo】吹き抜ける風に緑の稲穂がざわざわと揺れる夏の庄内平野。井上農場近くの鶴岡市渡前から東方に古来より死者の霊が集うとされた月山を望む。卯年御縁年の今年9月、庄イタは俗世を離れ、羽黒山伏最高位「松聖(まつひじり)」星野 尚文大先達のもと、開祖・蜂子皇子が修験を積まれた由緒正しき霊場・出羽三山に体験入山予定(上写真)

sunset_agricola.inoue.jpg【Photo】先月末、井上農場で東京八丁堀にある「てんぷら小野」の二代目・志村 幸一郎さんをお招きしてガーデンパーティが催された。名人が揚げる岩ガキ・ドジョウなど夏の庄内の恵みを堪能しつつ見上げた西の空。夏の庄内が黄昏時にみせる色彩の魔術に癒された(上写真)

2009.1.25@inoue.jpg 知己を得た2003年(平成15)以来、安全性と美味しさを追求する尊いお仕事ぶりに接するにつけ、我が家の定番銘柄となった特別栽培米「はえぬき」をお世話になっているのが鶴岡市渡前の井上農場さん。お米を譲っていただく際には、種々情報交換のため、農場主である井上 馨さん・悦さんご夫婦のもとを直接伺うようにしています。

【Photo】大雪となった2009年1月25日朝、初めて食べる人が小松菜の概念を変える比類なきジューシーな小松菜の収穫をハウスで行う井上夫妻(左写真)。被災直後、500把以上を無償で避難所に提供したことを先日人づてに知った。そんなことはおくびにも出さないのがまた井上さんらしいところ

sicilian_rouge.jpg 井上農場の耕作地19haでは、コメのほか小松菜・トマト・枝豆・ジャガイモなど転作作物も育てています。お米を購入すると、それら旬の作物をお土産に頂くのが常です。先日伺った折には、今年初めて栽培に挑戦しているシチリア原産の新品種「シシリアンルージュ」と中玉トマト「ハニーエンジェル」を収穫させて頂きました。旨みがぎっしり詰まるまで樹熟させるトマトは、最高の活力剤となります。

【Photo】生食でも充分美味しいシシリアンルージュは、オイルで炒めると甘味が増幅。ホールで缶詰にされる加工用トマトの代名詞サン・マルツァーノとは一味違うパスタに仕上がる

 海洋深層水成分を使ったプラントミネラル栽培など、理詰めで農業に取り組む井上さんのお米や生鮮野菜には、全国に多くのファンがいます。生鮮産品のみならず、地元業者に製造を委託する割れが生じた規格外のトマトを活用したジャムやゼリーといった加工品にも意欲的。大玉トマト「桃太郎」のシーズン最後は、畑に残った青トマトを軽いカレー風味のピクルスに仕上げますが、これがまたウマいんだっ!!
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【Photo】鶴岡市大山の菓子店「福田屋」さんに製造を委託した新商品トマトゼリー(左写真)の中には、丸ごと中玉トマトが入っている(中写真)。 甘酸っぱいカレーの香りとシャキッとした歯応えが後を引くピクルスに加工する青トマトのスライス(右写真)

 大吟醸酒を使う井上家お手製の逸品で味を覚えたゆえ、市販品ではどうにも物足りないのが「醤油の実」です。昨年市場に本格デビューした新品種「つや姫」の米麹を使った醤油の実を頂いたのが6月。そのレポート〈Link to backnumber 〉で触れた通り、第二弾として、はえぬきの醤油の実も用意するという嬉しい知らせが届いていました。

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【Photo】温度管理が難しい米麹(左写真)の製造は、町内長沼地区の麹屋に委託。悦さんも加入するJAたがわ婦人部の皆さんが大豆を蒸して殻むきを行った上で麦と混ぜる

 快晴に恵まれた7月18日、海の日の休日を利用して庄内へと遠征しました。岩ガキを目当てに遊佐町吹浦を目指す道すがら、井上さんのもとを訪れました。購入したはえぬきと共に悦さんが差し出したのは、醤油の実の完成品ではなく、はえぬきの米麹でした。好みの醤油と大吟醸で自家製の醤油の実作りに挑戦してみたら? というわけです。

        shoyu_nomi@shikomi.jpg shoyu_nomi.jpg
【Photo】醤油と酒を加えた直後(左写真) 室温で毎日こうしてかき混ぜて発酵を促すと、10日ほどでとろみが出て来て食べ頃になる(右写真)

 おぉ、これはハンドメイド大国のイタリアで前世を送った庄内人にシンパシーを持つ仙台人(⇒ちとややこしいか?)のハートをくすぐる心遣い。ここはオリジナルに敬意を表して、仕込みに用いる大吟醸は庄内の蔵が醸した酒にするつもりでした。冷温下に置いた米麹に加える酒と醤油を同量加え、混ぜてからは室温に置き、もろみを毎日かき混ぜるよう悦師匠から指示を受けました。

 吹浦に向かう足で、旬を迎えた在来野菜「鵜渡川原キュウリ」の粕漬けを調達しようと立ち寄ったのが、酒田市の山居倉庫敷地内にある産直「みどりの里 山居館」。お目当ての鵜渡川原キュウリは置いていませんでしたが、店内の一角にある地酒専門店の「木川屋」さんで購入したのが地元酒田の銘酒「初孫大吟醸」です。醤油は最初から決めていたので、これで材料は揃いました。

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【Photo】もろみ作りに使った残りの初孫大吟醸は、仕込みの成功を祈りつつ、こうして呑み干された(左写真) 吟醸つながりで、仕込みに使ったのは全国醤油品評会で最高賞の農林水産大臣賞をこのところ毎年のように受賞している宮城の逸品、加美町今野醸造の「吟醸」(右写真)

 後日レポするご縁を感じさせる出会いがあった酒田から自宅に戻り、すぐ取り掛かった仕込みで使った醤油が、宮城県加美町の「今野醸造」さんの醤油「吟醸」。そう、井上農場の銀しゃり+今野醸造の吟醸+初孫大吟醸という勝利の方程式です。師匠の言いつけ通り160mℓずつの醤油と大吟醸酒を加えたもろみをかき混ぜながら寝かせること約2週間。液体にとろみが出てきたところでご飯に載せて味見をしてみました。

buonissimi_shoyunomi.jpg う・う・う・うま~っ!!

 初めてにしては出色の仕上がり、と悦に入ったのも束の間。仙台市青葉区一番町のJAみやぎ産直レストラン「COCORON(ココロン)」産直コーナーで最近扱うようになったという醤油に目がとまりました。まばゆい金ラベルのその醤油は、「老松」銘柄で知られる亘理町亘理の永田醸造「老松十一代 大吟醸」。昨年10月に開催された全国醤油品評会で濃口醤油部門にエントリーした170点から4本だけが選ばれた最高賞、農林水産大臣賞を受賞したという特級濃口醤油です。

oimatsu_daiginjyo.jpg【Photo】庄内産と宮城産の材料で仕込んだ庄イタ家初はえぬき自家製醤油の実。銀しゃりは井上農場のはえぬき(上写真) 亘理町 永田醸造の11代目永田 洋代表取締役常務が手掛けた「老松十一代 大吟醸」(右写真)

 我が家の定番醤油「吟醸」と似て非なる大吟醸。うーむ、これは気になる。まずは味見のため、さっそく購入。井上農場の銀しゃり+老松十一代 大吟醸+庄内の酒蔵が醸した大吟醸という鉄板醤油の実に来年は挑戦するぞ! と野望は広がる・・・。

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井上農場
住 : 鶴岡市渡前字白山前14
Phone & Fax : 0235-64-2805
URL : http://www11.ocn.ne.jp/~inoue-fm/index.html

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2011/08/06

これぞ言霊(ことだま)

マカロンの摩訶不思議

piatto2011_8.jpg 昨年10月に新創刊したPiatto ピアットは、来月号から大幅に誌面を刷新します。リニューアル直前の今月の特集は、山形・福島と続いた「かわいっぴん」シリーズ第3回。これまでは伝統に新たな感覚を加えた工芸品や生活雑貨を取り上げてきましたが、今回は従来の路線に新たな視点を加え、震災被害から立ち上がり歩みを続ける宮城の逸品をセレクトしました。

 かわいい食べ物といえば、意匠を凝らしたケーキをまず連想します。甘いものの食べ歩きだけでなく、休日は家族のために自ら菓子作りを買って出るというスイーツ男子こそ、Piattoの前身にあたるマンスリーマガジンALPHAの頃からお世話になっているディレクターのゴーゴー氏。

 当時のスタッフブログで明かされたDolce Vita (=甘い生活)ぶりはコチラ。
 http://blog.kahoku.co.jp/alpha/staff/archives/2010/07/post_59.html
 http://blog.kahoku.co.jp/alpha/staff/archives/2010/08/post_67.html

alpha_2002.2.jpg 甘いものに目がないゴーゴー氏イチオシだったのが、3月の震災で店舗を襲った津波により、一階部分が浸水、製造機械類が使えなくなったため、7月初旬まで休業を余儀なくされた宮城県多賀城市「Kazunoli Mulata」の看板商品マカロンです。この店、ALPHA2002年2月号「あま~い生活」では、「フランス菓子シセイドウ」という旧店名時代に取材しています。当時からマカロンは人気がありましたが、クレームブリュレと並ぶ私のオススメだったモンブランを9年前は取り上げました。

【Photo】当時編集を担当していた私以外にも「この表紙、超・懐かしい~~っ!!」と仰る方もおいでかと。ALPHA2002年2月号

 撮影を終えた現場では、準備したマカロンを囲んで、編集スタッフ全員で試食しました。自宅から遠方のため、3年前に店名が Kazunoli Mulata と変わって以降は訪れることがなかったこの店。定番の10種類に加え、季節ごとに限定の2種類が加わり、全12種類がラインナップされるマカロンは、予約必須の人気で午前中には売り切れるのだとか。「あんまり美味しいんでボクはいっぺんに全部食べちゃうんです」と熱く語るゴーゴー氏に唖然としながら、しばしマカロン談義に花を咲かせました。

【Photo】前世イタリア人のみならずフランス人もその味に感嘆するという Kazunoli Mulata のマカロン。化粧箱入りプレミアム・マカロンBOX(12個入)

kazunoli_mulata.jpg 私が頂いたのはイチゴとピスタチオ。素材の風味が活きた優しい甘さのクリームとアーモンドが香るサックリとしたメレンゲ生地のハーモニーが絶妙です。この上は、コーヒー・抹茶・ココナッツ・ショコラ・キャラメル・レモン・ゴマ・ショコラ&カシスなど、ほか10種類のお味が気になるところ。これは即予約せねば、と思ったのでした。

kazunoli2_mulata.jpg 翌7月14日(木)の朝は、多賀城在住のプランナーSさんと別件で打合せが入っていました。「先日営業を再開した近所の人気店から今朝買って来ました」と切り出したSさんの手には、Kazunoli Mulataの12個入りマカロンがしっかりと握られていたではありませんかっ!!

 これぞ言霊(ことだま)の成せる奇跡。どうやら今年の運はこれで使い果たしたみたいです。

【Photo】今月号でご紹介した仙台市太白区秋保のガラス工芸作家、鍋田 尚男さんの夏らしい涼しげな皿とマカロンの饗宴。「棚からボタ餅」ならぬタナボタ・マカロン。うまかった~。


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Kazunoli Mulata カズノリ ムラタ
住:宮城県多賀城市町前3-2-25 (ホテルキャッスルプラザ向い)
Phone:022-362-7767
URL: http://www.kazunoli-mulata.com/
村田和範オーナー・パティシェのブログ ムラタ山荘 http://blog.goo.ne.jp/kazunoli_2008
営: 平日 9:30~19:30
   日曜・祝日 9:30~19:00
定休:毎週火曜日・月半ば水曜日 / 1月と8月に連休あり

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