あるもの探しの旅

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めっちゃこい鵜渡川原キュウリ

瓢箪(ヒョウタン)から胡瓜(キュウリ)な出合い
 @酒田市亀ヶ崎

 酒田市亀ヶ崎にあるフレンチレストラン「Nico(ニコ)」に昼の予約を入れた7月半ばのこと。そこは庄内浜をはじめとする豊富な地元の食材を積極的に使い、フランス料理のエッセンスを取り入れた郷土料理という、誰も成し得なかった独自の世界観を確立した故・佐藤久一の高い理想を皿の上に体現してみせた太田 政宏さんの次男・舟二さんが3年前に独立した店です。若きサラブレッドの店をこれまでに4回訪れていますが、この日は予約した時刻より若干早く着いたため、店の脇に車を停めました。

udogawara_niizeki.jpg【Photo】酒田市亀ヶ崎で新関 貴美子さんが栽培する鵜渡川原キュウリの畑(上写真)
8人の組合員が1シーズンに合計6tを出荷する鵜渡川原キュウリは、長さ5cm~10cm未満のうちに収穫する(下左写真) 採種用の目印を付けられた鵜渡川原キュウリ。熟して褐色に変化した表面に無数のひび割れが生じている。長さは15cmほど(下右写真)

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 店の周辺には、脂身こそが豚肉の醍醐味と身をもって教えてくれるヘルシーなコメ育ち金華豚が購入できる「平田牧場本店」のほか、立ち寄り先が数軒あるため、「レストラン欅」が地階にある産業会館周辺と並んで酒田市中心部でも庄イタ出没率が高いエリアです。この時、密かに目論んでいたのが、訪れた時期が旬の真っ盛りを迎えていた亀ヶ崎地区在来のキュウリの畑を探すことでした。

udogawara_2.jpg【Photo】黄色い花の花床と子房部が肥大してキュウリの実を結ぶ。雨が多い年は収量が目減りするという

 車を停めた駐車場のすぐ隣りには、住宅地の一角に残る浮島のような耕作地がありました。灌漑設備を備えたビニールハウス数棟はさておき、私の関心を惹いたのは覆いを取り払って露地栽培されているキュウリと思しき4畝(うね)。ちょうど大人の背丈ほどに組まれた逆U字型の支柱をのぞいて見ると、うりざね型の小ぶりで色の淡いキュウリが実を付けていました。中には採種のため、目印を付けたまま取り置かれた長さ15cmほどの無数のひび割れが表面に生じた個体もあります。

 それはまさしくお目当ての「鵜渡川原(うどがわら)キュウリ」でした。予約時刻より早く到着しゆえの瓢箪から駒、瓢箪からキュウリな出合いです。3年前の「沖田ナス」〈Link to backnumber〉もそうでしたが、これも庄内で培った嗅覚のなせる神業。そこは1991年(平成3)に会員8名で発足した「ミセスみずほの会」のメンバーで、現在代表を務める新関 貴美子さんが所有する畑でした。ご子息の店で食事をしておいでだった太田さんにご挨拶ができたその日の翌日、再び立ち寄った畑で収穫作業中だった新関さんからお話を窺うことができたのは二重の幸運といえましょう。

kimiko_niizeki.jpg【Photo】庄内地方の女性が農作業の折に着用するハンコタンナ姿の新関 貴美子さん。今年からミセスみずほの会代表を務めている

 砂丘地帯を進むR112と幹線道路R7を結び、酒田市役所へと続く羽州浜街道に抜ける表通りに面して店が続く亀ヶ崎。今でこそ宅地化されたこの一帯は、1929年(昭和4)に酒田町に編入される以前は、飽海郡鵜渡川原村と呼ばれていました。最上川河口右岸のそこは、現在も河口域に群生が見られる葦原が広がり、その名が示す通り、水鳥が羽根を休める牧歌的な風景だったのでしょう。貴美子さんが新関家に嫁いで来た当時の亀ヶ崎は、まだ畑が一面に残っていたそうです。

udogawara_shukaku.jpg【Photo】収穫したばかりの鵜渡川原キュウリ

 鵜渡川原という旧地名は、江戸末期に京都伏見から北前船で庄内に伝播した素朴な風合いの土人形「鵜渡川原人形」に残ります。もうひとつが鵜渡川原キュウリ、ないしは隣町の大町でも作られていたゆえ「大町キュウリ」ともいわれた在来野菜です。舌を巻く名文をもってして郷土・庄内の食の魅力を綴った故・伊藤珍太郎の著書「改訂版 庄内の味」(S56・本の会刊)によれば、酒田に急速な宅地化の波が訪れた1973年(昭和48)当時、80歳以上の高齢者は、少なくとも江戸期から栽培されてきたこのキュウリを大町キュウリと呼んでいたのだといいます。

 よって、当時すでに畑が姿を消した大町こそが、シベリアから渡来した鵜渡川原キュウリの本拠地だったのだろうと伊藤珍太郎は記しています。畑で赤くなるほど熟れたものをキュウリもみにすると、淡白味と熟成味が渾然となった至上の味を体験できると語るこの通人が、民田ナス〈Link to backnumber〉と並ぶ夏の味としているのが、鵜渡川原キュウリです。経済発展がすべてに優先した高度成長の真っ只中だったその頃、伊藤珍太郎は次第に姿を消しつつあったこのキュウリの行く末を案じています。果たせるかな、現在このキュウリを栽培するのは作付けが減る一方だった1991年(平成3)に発足した「ミセスみずほの会」の8人だけとなりました。

mogamikyuuri.jpg 【Photo】今年7月上旬、袋詰めされて店頭に並ぶ鵜渡川原キュウリ(500g 300円 / 写真提供:みどりの里 山居館

 パキパキしたすがすがしい独特の食感がある一方で、生食では甘さよりほろ苦さが勝り、収量が上がらず、収穫翌日には黄変してしまうほど鮮度の落ちが早いという気難しい一面を持ち合わせた鵜渡川原キュウリ。ミセスみずほの会では、「めっちぇこきゅうり」の名称で商標登録をし、自家採種による栽培を行っています。めっちぇことは酒田の言葉で小さくてかわいらしいという意味。地元で愛されてきためっちぇこいキュウリへの愛着を感じさせる秀逸なネーミングですよね。

udogawara_asazuke.jpg【Photo】めっちぇこきゅうりで自作した浅漬。すがすがしい歯応えが秀逸

 鵜渡川原キュウリは、4月中旬に播種、6月上旬に定植し、下旬から翌月末までが収穫期。栽培から加工・出荷まで厳しい品質管理のもとで生産を行うミセスみずほの会では、500g入りの青果品として、また浅漬・辛子漬・ビール漬・粕漬に加え、最近ではピクルスへの商品化にも取り組んでいます。収穫する大きさは5~7cmほどに限定され、当然ながら規格外が少なからず生まれます。品質の劣化を避けるため、朝夕2回行われる収穫後は、すぐに出荷・加工へと回さなくてはなりません。

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 今年で発足から20年を迎えた会のメンバーは、採算性だけでは決して語ることのできない故郷の味を守ろうと、決意を新たにしています。めっちぇこきゅうりは、酒田市内に10店舗を展開する「ト一屋」と「みどりの里 山居館」に加え、鶴岡市「つけもの処本長」では、山形大農学部教授を務め、在来野菜研究の先鞭をつけた故・青葉高が提唱した「酒田きゅうり」の名前で入手することができます。みどりの里 山居館には、市北部の西荒瀬地区でこの種を守ってきた齋藤 隆介さんが出荷する姿かたちが鵜渡川原キュウリとほぼ同一の「もがみきゅうり」も店頭に並びます。

【Photo】昨年12月、みどりの里 山居館で購入したミセスみずほの会メンバー池田けい子さんお手製の粕漬け。手間をかけた分、美味しさはまた格別(上写真) 現在では見られなくなった地這い栽培による鵜渡川原キュウリを収穫する農婦(下写真・「改訂版 庄内の味」より)

jiue_udogawara.jpg 最後に伊藤珍太郎が庄内の味で書き記した逸話をご紹介しておきましょう。その昔、鵜渡川原キュウリは、スイカやメロンのように支柱を立てず地面に直接ツタを這わせて栽培されていました。日照時間が長い夏の庄内にあって、ジリジリと焼け付く大地の生気をじかに吸い取るよう育てられていたのです。試みに支柱を与えて育てたところ、味は格段におちてあった(原文ママ)とあります。

 支柱を用いるトンネル栽培法は、技術が確立された1970年(昭和45)頃から導入されています。収穫時に中腰を強いられる地這い栽培から、作業性の向上がはかられて以降、もはや味の原型は幻となったのかもしれません。

 仮にそうだとしても、滅びる寸前だった特徴ある酒田の味はそうすることで守られたのです。昨年ご紹介した「外内島キュウリ〈Link to backnumber〉」と同様、特色あるこの長い歴史の生き証人と、それをを受け継ぐ人の思いに触れることができたことは、この夏の何より得がたい収穫だったと思っています。 

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ミセスみずほの会による
  めっちぇこキュウリの漬け方指南

 ◆その1/ 浅漬
    鵜渡川原キュウリ 500g 塩20g 砂糖50g
 ◆その2/ 辛子漬
    上記に 辛子20g 酒50ccを追加
 ◆その3/ ビール漬
    上記1 に ビール100ccを追加
 ◆その4/ 粕漬
    1 を水出しして水分を除き、砂糖と酒粕で漬け込む
   2~3週間後に一度酒粕を取り除き、再び砂糖と粕で漬けると約1ヵ月で完成

● ト一屋 URL: http://www.toichiya.co.jp/
● みどりの里 山居館 URL: http://www.sankyokan.jp/
● つけもの処 本長 URL: http://www.k-honcho.co.jp/
問合せ先:JA庄内みどり めっちぇこきゅうり部会
 Phone:0234-24-7511(酒田支店)
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コメント

私も酒田きゅうりは粕漬けが大好物。
暑い盛りはもろきゅうをかじってキュウリビズで乗り切り、秋以降に出回る粕漬けは上喜元や菊勇の酒肴に。
これに限ります。

▼ 最上川の河童さま

庄内地方を先週18日に襲った大雨では、酒田市周辺で被害が出たようですが、こうしてコメントをお寄せ頂いているという事は、「川流れ」にはならなかったのでしょう。

 さて、河童様のみならずとも、ジリジリした陽射しが注ぐあっちぇ庄内の夏には、クールダウン効果が高いキュウリは欠かせません。まして日露戦争に従軍した兵士が中国東北部から持ち帰ったとされる鵜渡川原キュウリなら、ありがたみもまた格別。

 最上川河口だけでなく、赤川を遡れば外内島キュウリが、小国川を遡れば與治兵衛キュウリなど個性ある地域文化の宝が味わえる庄内はさぞ棲み心地がよいことでしょう(笑)。

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