あるもの探しの旅

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トスカーナが呼んでいるぅ~

罪作りで目の毒な本
FINE WINEシリーズ「トスカーナ」

NBCtoscana.jpg 【Photo】トスカーナ州を中心に90人以上の醸造家が美しい写真とともに登場する「FINE WINE シリーズ トスカーナ」。ワインの生産現場にある造り手の顔が見えるだけでなく、ブドウが育つ大地に吹き抜ける風の香りが感じられる一冊(右写真)

 ワインジャーナリズムが発達した英国で最も権威ある評価機関が「The Institute of Masters of Wine(略称:IMW)」。IMWが認定するワインのスペシャリスト「マスター・オブ・ワインには、世界中で299人のみが認定されているに過ぎません。その一人が1940年にLAで生まれ、現在は英国を拠点にワインジャーナリストとして活動するニコラス・ベルフレージ氏です。

 1970年代からイタリアワインの魅力にとりつかれ、英国の著名なワイン評価本「Decanter」誌や、ワイン関連書籍としては世界最多の累計部数を誇る英国きってのワイン評論家・ヒュー・ジョンソン氏の「Pocket Wine Book」で、イタリアワインに関する評価を担当していたこともありました。

NB1_toscana.jpg【Photo】風が吹き抜ける音しか聞こえない典型的なモンタルチーノの風景の中に佇む醸造所「Camiglianoカミリアーノ」。1957年に現オーナーであるゲッツィ家が入手した建物は、中世期には物見台として使われたという。そこは100haにも及ぶ屈指の広大なブドウ畑に囲まれている(「FINE WINE シリーズ トスカーナ」より)

 多種多様なイタリアワインに造詣が深いベルフレージ氏が2009年にロンドンの出版社「Fine Wine Editions」が発行するワインガイド「Finest Wine」のひとつとして出版したのが「The Finest Wines of Tuscany and Central Italy(=トスカーナと中部イタリア極上のワイン)」。いずこを切り取っても絵のように美しいトスカーナの風景や、醸造家たちの姿を写真に納めたのが、英国在住の写真家ジョン・ワイアンド氏です。

 本書はシャンパーニュを代表する造り手「ルイ・ロデレール」が創設した「International Wine Writers'Awards インターナショナル・ワインライター・アワード」9つのジャンルのうち、芸術性の高い仕事に対して贈られる「The Artistry of Wine」を2010年度に受賞しています。その和訳版「FINE WINEシリーズ トスカーナ」が日本で出版されたのが昨年11月。

NB2_toscana.jpg【Photo】歴史ある名酒「ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチアーノ」を産するモンテプルチアーノ郊外に建つサン・ピアージョ教会は、周囲の風景に溶け込むルネサンス様式の美しい聖堂(「FINE WINE シリーズ トスカーナ」より)

 前回の訪問から5年のブランクを置いて、重篤な禁断症状が出ている庄イタのイタリア欠乏症。その対症療法としてトスカーナ州モンテプルチアーノで2番目に古い1,000年近い歴史を刻むカンティーナ「Contucci コントゥッチ」の扉が表紙となったこの本を出版直後に購入しました。以来、あたかも極上のワインを味わうようなワクワク感を、この美しい写真集のようなワインガイドはページをめくるたびに体験させてくれます。

 国内での名声のみならず、ここ数年で国外でもワイン産地として脚光を浴びるようになったトスカーナ。高まる一方の需要と人気を反映するかのように、ここ15年ほどで価格上昇が最も著しいイタリアワインがトスカーナ産赤ワインだと言ってよいでしょう。しかしながら本書では、変貌著しいトスカーナワインの魅力の神髄は、著名な米国のワイン評論家ロバート・パーカーが95点以上の評価をつけて国際市場で引く手あまたとなる高級ワインではなく、多くのイタリア人が日々の糧とともに楽しむ85点前後のワインにこそあることを序説で押さえています。この点に関しては私も意を同じくするところです。

 本書で登場するのは、イタリアで最も著名ながら、1970年代半ばまで横行していた過剰生産の悪弊で、ボルドーやブルゴーニュを至上とするワインスノッブの人々から白眼視されたものの、いまや変貌を遂げたキアンティ・クラシコ、クラシコゾーン以外では最も熟成能力のあるキアンティを産するRufinaルフィーナを含むフィレンツェ東部・西部、シンデレラワインが次々と登場するマレンマなどの海岸地域、バローロと並び称される高級ワインの代名詞ブルネッロを生むモンタルチーノからオルチア渓谷沿いに絵画のような風景が続くモンテプルチャーノ、そして塔の街サン・ジミニャーノなど。
 
NB3_toscana.jpg【Photo】著者ニコラス・ベルフレージも絶賛するイタリアきっての素晴らしいデザートワインである「Vin San Giustoヴィン・サン・ジュスト」。陰干ししたブドウの果汁を6年間の眠りにつかせる樽を前に揃ったマルティーニ・ディ・チガラ兄弟。右から無愛想なフランチェスコ、エリザベッタ、私を快く迎え入れてくれたルカ(「FINE WINE シリーズ トスカーナ」より)

 登場する生産者のヴィーノの多くは日本にも入ってきており、実用書としての役割を十分に果たします。醸造家の言葉と写真が並ぶ本書を眺めているだけで心はトスカーナへとトリップしてゆくかのよう。すでに確固たる地位を築いていたオルネッライアをさらなる高みに引き上げたアクセル・ハインツ氏や、アヴィニョネージと並ぶ珠玉の極甘口ワイン「Vin San Giustoヴィンサンジュスト」を心行くまで試飲させてくれたルカ・マルティーニ・チガラ氏、昨年仙台に来てくれたキアンティ・クラシコ協会会長のマルコ・パッランティ氏ら、お会いしたことがある醸造家たちの懐かしい顔も登場します。

 ヴィーノを飲みながら彼らの言葉を読み返しているうち、醸造所を訪問して肉声を聞いているような錯覚すら覚えます。そんな儚い酔いから醒めた時、思うに任せない籠の鳥のような境遇を恨むとともに、かえって禁断症状が悪化することを承知の上で、手に取らずにはいられなくなる、とっても罪作りな本なのです。

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FINE WINEシリーズ トスカーナ
ニコラス・ベルフレージ(著) 水口 晃 (監修) 佐藤志緒 (翻訳)
出版社: 産調出版 320ページ
本体価格:3,400円(税別)


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