あるもの探しの旅

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ありったけの竹の露 =前篇=

Whole lotta ♥ HAKURO-SUISHU.
「竹の露酒造」再訪 in 「鶴岡食文化女性リポーター」オフ会 潜入レポ

 「鶴岡食文化女性リポーター」オフ会に混ぜてもらうお膳立てをして下さった山菜卸問屋「遠藤商店Link to Website」の遠藤初子さんから、竹の露酒造場に3時集合とのお達しがあり、酒蔵めぐりスタンプラリーを切り上げて大山を立ったのが2時前。

TAKE2012._1.jpg【Photo】2年続きの大雪となった羽黒の冬。搾り作業真っ最中の「竹の露酒造場」で私たちをまず出迎えてくれたのは、この蔵を代表する銘柄「白露垂珠」・「はくろすいしゅ」の数々

 鶴岡食文化女性リポーターは、ユネスコ食文化都市の登録を目指す鶴岡市が、季節ごと多彩な表情を見せる山・海・里をフィールドとするフードツーリズムを創出しようという社会実証実験です。食に関する宝庫・鶴岡の海の幸・山の幸、特色ある在来作物や旬の郷土料理などを単にPRするだけでなく、現場に出向いて生産者や料理人から来歴や背景を聞き出し、その背景の物語を共有しようというもの。市民目線で鶴岡の食文化の魅力をブログやFacebook・Twitterなどソーシャルメディアを通じて発信しています。

TAKE2012.2_2.jpg【Photo】試飲用に用意された「白露垂珠」の大方は、割り水で調整していない新酒鑑評会仕様の純米大吟醸。含んだ酒を吐き出す容器が用意されたのも鑑評会と同様。その容器には目もくれず、真剣な表情で原酒を呑み干してゆくタフなメンバー揃いなのだった

 「Viaggio al Mondo~あるもん探しの旅」のキモである"足もとの地域資源に光を当て、輝きを放たせよう"というコンセプトとの親和性を感じるこの取り組み。事業が始まった2011年度は、藤沢カブの生産者・後藤勝利さんのお姉様であり、映画「よみがえりのレシピ」に登場した田川カブ生産者で田川赤かぶ漬グループ代表の武田彦恵さんを昨年10月に、厳冬期に採取の旬を迎える天然岩ノリの漁場である鼠ヶ関の漁師・佐藤準さんと同地域協議会の五十嵐一彦さんのもとを今年1月に訪れています。

take_hikitsuna.jpg 鼠ヶ関の反省会を兼ねるというこの日のオフ会。乗せて頂いた遠藤さんが運転する大型の商用バンは、「雪の降るまちを」の舞台となった鶴岡市街でリポーターメンバー4名を順次ピックアップしながら、つい10日ほど前にも水を汲みに来た「竹の露酒造場」へと到着しました。ほどなく佐藤・五十嵐のお2人も鼠ヶ関から加わり、オフ会メンバー7名+庄イタで計8名が勢揃いです。

【Photo】屋根の積雪はゆうに1mを超える。雪景の中に佇む竹の露酒造場。合掌部に掛けられた「引縄」は、羽黒山神社で大晦日に行われる「松例祭」の大松明引きで使われた引綱を組み直し、家の魔除けとして奉納される

 1858年(安政5)創業というこの蔵。代表社員の相沢政男・こづえ夫妻の"習うより舐めろ"というご厚意で、清酒鑑評会の出品仕様の加水していない白露垂珠の試飲から。卓上にズラリと並ぶは、鑑評会への出品番号タグが付いただけでラベルレスな純米大吟醸の無加水原酒ばかり6本、通常出荷向け加水調整済み4本からなるヨダレものの計10本の一升瓶。壮観なラインナップを前に、早くもアドレナリンが分泌されてきました(笑)。和らぎ水は仕込み水を瓶詰めで商品化した「月山深層天然波動水」。

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【Photo】明治から大正にかけて庄内の先人が生んだ品種「亀ノ尾」(左)と「京之華」(右)(左写真) 70年前に誕生した「京之華」(左)と心白部の大きさなどの見た目はさして変わらない「出羽の里」(右)(右写真)竹の露では蔵元・蔵人自らコメ作りも行う

 思い思いに試飲を始めた私たちに、相沢さんは庄内で誕生した酒米の説明からまず始めました。

 ササニシキ・コシヒカリ・ひとめぼれ・あきたこまち・つや姫など、近代日本が生んだ優良うるち米のルーツにあたり、酒米として近年価値が見直されている「亀ノ尾」。東北が大冷害に襲われた1893年(明治26年)秋、東田川郡立谷沢村(現庄内町)中村地区の青立ちした早生種「惣兵衛早生」の中で3本だけ黄金色の穂を垂れた稲をもとにLink to Backnumber阿部亀治(1868~1928)が育成した品種です。

dewa_33.jpg【Photo】コンピューター制御による精米技術が進んだ今日では、かつては成しえなかった精米率10%台前半という、コメの心白部を欠損させることなく表層部から9割近くまで削り落とすことも可能になった。竹の露酒造場では、酒米の品質向上をはかることで、7割程度の精米歩合をもって、酒造りに適した特性を持つ心白部だけを残し、頂点を狙える酒造りを行っている。精米前(左)と精米率33%(右)の出羽燦々

 西田川郡京田村(現鶴岡市中野京田)の育種家・工藤吉郎兵衛(1860~1945)は、亀ノ尾の直系品種として生み出した2つの品種「亀白」と「京錦1号」から1924年(大正13)に人工交配した東北初の酒造好適米「酒之華」を創出。翌年には兵庫から取り寄せた「山田錦」の先祖である「新山田穂」と酒之華の交配に着手、1931年(昭和6)に新品種「京之華(竹の露では「京ノ華」と表記)」と命名。1940年(昭和15)には、京之華を1921年(大正10)に秋田県国立農事試験場陸羽(りくう)支場で我が国初の人工交配で育成された「陸羽132号」と交配した酒造好適米「国之華」を生み出します。

take2012.2_5.jpg【Photo】加圧して醪(もろみ)を搾る一般的な方法ではなく、布袋に醪を詰め、竹竿に吊るした袋から自然に滴り落ちる贅沢な造りが雫酒。杜氏が育てた「出羽燦々」を精米率40%まで磨き、仕込みタンクから1升瓶換算で100本~150本程度しか造れない「純米大吟醸 白露垂珠 吊雫原酒 出羽燦々20BY」。低温貯蔵によって適度に練れた旨みが後を引く

 独自に編み出した人工交配技術で、38もの新品種を編み出した吉郎兵衛。そのひとつで戦後の食糧難の時代に多収性から重宝された「日の丸」は、農事試験場の技師で同郷の加藤茂苞(しげもと)を介して入手した一大穀倉地帯の北イタリアから取り寄せた稲との交配により吉郎兵衛が育成した日本初の外国品種との交配種です。この日試飲した6本にも使われ、山形での作付が近年増加している酒造好適米「出羽燦々」を育成した山形県農業試験場のような官主導ではなく、こうした民間育種が盛んだった背景には、「沈潜の風」を尊しとする勤勉な庄内人気質があるように思います。

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【Photo】種籾を選抜してゆく中で、吸水が遅く、35%以上に磨き上げても破砕しにくい理想的な酒造好適米に進化したという自家栽培の出羽燦々。精米率33%の出羽燦々から醸した逸品2種。相沢さん、正直に申し上げます。あまりに旨さが沁みわたるので、3杯ずつ呑み干してしまいました m(_ _)m

 次に蔵元が触れたのは仕込み水のこと。3年前の秋に実施した「食の都・庄内 豊かな実りと癒しのツアー Link to Backnumber」で詳細に触れているのでここでは割愛しますが、このph7.7の弱アルカリ性、硬度19mg/ℓの無菌超軟水は、シリカ(SiO2・微粒二酸化ケイ素)成分を39mg/ℓ 含みます。これは粘土層に上下を挟まれたケイ素からなる石英質の砂礫層から汲み上げているため。美容液で使われる成分だけに、肌の保湿効果や、コラーゲンの再生・維持が期待できるのだといいます。

take2012.2_8.jpg【Photo】上水道の水源が美味しいと評判だった地下水から月山ダムを水源とする塩素消毒した水に切り替わるのを契機に井戸を掘削。地下300mの水晶地層帯で遭遇したのが、この月山水系の伏流水。22℃と水温が高いため、1週間をかけて冷却・濾過するタンク。貯蔵後半になると、タンクの中には、あたかも水が存在しないかのように透明度が増してくる

 水道の蛇口からこの水が出てくるという羨ましい蔵元のお顔は、男性ながらスベスベのもち肌。女将のこづえさんのお肌もぷるんぷるん。"使用後"のお二方の美肌ぶりに、いやがおうでも説得力が高まるというもの。「肌が滑らかになるので手にとって擦り込んでみて」という蔵元の言葉に促された女性メンバーは、歓声を上げながらその効果を実感。呑んでよし、肌磨きに用いてよし。めでたしめでたし。

take2012.2_10.jpg 全国新酒鑑評会で山田錦以外の酒米を使った酒を審査する第1部に於いて、6年連続金賞受賞という記録を打ち立てたこの蔵。精米率33%まで磨き上げた出羽燦々を丹念に仕上げた吟醸麹と卓越した匠の技で仕込んだ鑑評会仕様の白露垂珠が備えた芳醇淡麗な旨さは、もはや必然の成り行きかと。

【Photo】高温過乾燥状態のもとで麹を狙い通りの突破精(つきはぜ)状態に仕上げる杉材で造られた麹室(上写真)。1升分の蒸米が入る柾目の杉製「麹蓋(こうじぶた)」を用い、蔵座敷に泊まりがけで蔵人が二昼夜付ききりの世話をする。コメの表面のみならず内部にも菌糸が多く繁殖し、旺盛な糖化力で低温下にある酒母の発酵を促し、旨味と引き(キレ)が相まった白露垂珠ならではの個性が生まれる
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 説明で興味を引いたのが、精米歩合がわずか77%の白露垂珠。2005年(平成14)に純米酒の精米歩合規定が規制緩和で撤廃されて以降、それまで軽んじられてきた精米率70%に満たない普通酒の一角に、米を磨く割合を2割程度に留めた精米率80%前後の「低精白酒」と呼ばれる清酒が登場しています。酒造りにおいて雑味の元となる米の表層部分を2割程度しか除去しないことを意味する精白率33%(=精米率77%)の「無濾過純米 白露垂珠 ミラクル77 2009BY」は、昨年8月にスローフードジャパンと酒文化研究所の主催で行われた「第3回燗酒コンテスト」に出品した全国158蔵元の254銘柄のうち、720mℓ1,000円以下の部で金賞に輝いた36銘柄のひとつに選ばれました。燗をつけた白露垂珠の実食レポートは次回ご報告。

【Photo】後味がスッキリした辛口ゆえ、食中酒に適した「無濾過純米 白露垂珠 ミラクル77こく辛 出羽の里 2010BY」は、燗映えのする酒。地元の契約農家が、特別栽培で育てた原料米を2割強しか磨かず、白露垂珠でありながら1,800mℓ 2,100円(税込)というリーズナブルさ(上写真)  醪を搾ったばかりの原酒が流れ出る圧搾機を前に、思わずヨダレも流れ出る(下右写真)醸造所内には神棚と魔除けの引縄が奉られ、酒袋を吊る雫酒タンクには注連縄も(下左写真)

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 仕込み水を濾過して適温に下げる6基の貯蔵タンクと酒米を蒸し上げる大型ベルト式横型連続蒸米機について説明を受けた後、2階にある麹室と蔵人が仕込中に寝食を共にする蔵座敷を見学。階下に戻って蛇腹状のろ過布に醪(もろみ)を送り込んで清酒を圧搾する圧搾機では、瑞々しい新酒が搾られるさまに一同目が釘付けに。

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【Photo】羽黒山神社に奉納する御神酒は、古式に倣って醪に焼酎を加える「柱造り」。出羽三山の神々に柏手を打ってから、発酵中の酒母をすくい上げる相沢政男さん(左写真)発酵が進行中のため、ピリっとした炭酸ガスの刺激が醪の香りを際立たせる(右写真)

 蔵見学の最後は、酒母(もと)が入った発酵タンクへと移動です。そこには1基だけ注連縄を張られたタンクがありました。それは羽黒山神社から発注を受けたお神酒を仕込むタンクなのでした。一同柏手を打った上で、蔵元がタンクからすくい上げた酵母の作用で発酵中の醪を味わうという、山伏見習いとしては願ってもない幸運に恵まれました。

take2012.2_15.jpg【Photo】蔵元が汲み上げた御神酒に群がる女性リポーターの皆さん

 コメ作りから蔵人が行う「地の酒」にこだわる酒造りの現場を見学した仕上げは、竹の露フルコース食事会場へと移動です。4杯のカクテルから始まったこの日、最終的に何種類の酒を味わったのか記憶が定かではありませんが(笑)、失速せずラストスパートをかけてゆきます。


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コメント

木村さん
物凄いリポートをありがとうございました。記憶だけで整理がついてないことだらけでしたので助かります。貴重な資料をありがとうございます。

▼相沢政男様

過日は楽しく美味しい時間をありがとうございました。本醸造年度もめでたく皆造、仕上がりも良好とのことで何よりと存じます。

工藤吉郎兵衛の業績については、蔵元のご説明に沿って農文協から出版されておられる鶴岡出身の菅 洋 東北大学名誉教授が著した「育種の原点」など資料の資料にあたりました。

ゆえに大作となり、しげ庵さんまで辿り着かなかった次第です(笑)。急ぎ仕上げますが、後篇はさっくりと参ります。

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