あるもの探しの旅

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どうせなら真っ当な新酒を

ボージョレ・ソードー掃討作戦2012
淡麗水口ボージョレよりも芳醇旨口の新酒はいかが

 今年もボージョレ・ソードー(⇒騒動)の季節がやって参りました。売らんかな根性むき出しの商戦では、やれ"100年に一度の出来"だ、やれ"今年も最高の当たり年"だのと毎年のように喧伝されます。

地球上で唯一オフヴィンテージが存在しない奇跡のブドウ産地・ボージョレ〟と褒め殺しに打って出たのが昨年秋。すべからく世界中を見たわけではありませんが、ニッポンのボージョレ・ヌーボー商戦ほど不自然で異様なものはありません。

primeur_2012.JPG【Photo】さまざまな取引先から回ってくる購入案内にお付き合いで購入したボージョレ・ヌーボーが、ボージョレ・ソードー掃討作戦中の庄イタのデスク上を除いてオフィスに並ぶニッポンの11月第3木曜日。この極めて日本的なお付き合いシステムは、してやったりの産出国フランスよりも多くのボージョレ・ヌーボーを購入している日本の突出ぶりを下支えしている

 たとえば楽天市場のボージョレ・ヌーボー特設サイトLink to Websiteで引用されている「奇跡の雫」なる誇大表現ひとつをとっても、「こりゃ閻魔様に舌を抜かれるぞ」と呆れるような不当表示まがいの売り文句が並びます。

 ●カの一つ覚えのようにグレートヴィンテージを吹聴する大方の酒販業界に俄然闘志をかき立てられる庄イタ。オバマvs ロムニーの米国大統領選で繰り広げられたネガティブキャンペーンほどの大仕掛けではないものの、ボージョレ・ソードー掃討作戦を本年も決行します。よろしければご一緒に・・・。Boooo...q(`ε´q)

beaujolais2012.jpg【Photo】ボージョレワイン委員会が作成したポスターが全国の酒販店・百貨店の店頭に貼り出された。こうした巧みな販促活動はフランスのお家芸

 今年の販売解禁日となった11月15日(木)午前零時、ボージョレ商戦に力を入れている仙台市内の某大手流通店舗でカウントダウンイベントが実施されました。深夜にもかかわらず約300人が集まり、もはや恒例行事と化したこの催しに参加した40代女性は「毎年買っている」と語り、50代女性は「いつでもある熟成ワインではなく、今しか飲めないフレッシュなボージョレは毎年買っている」のだそう。

 あくまでワインは嗜好品ゆえ、好みはさまざま。渋味と一般に表現されるタンニンが苦手な方が存在するのは理解できます。ワイン入門編で試してみるのも悪くはないでしょう。

 しかしです。庄イタが仙台駅構内を移動中、店頭でブルゴーニュの名門メゾン「Louis Jadot ルイ・ジャド」の上級ヌーボー「Beaujolais Villages Primeur 2012 ボージョレ・ヴィラージュ・プリムール2012」を試飲販売していました。興味をそそられ、一口だけ試飲してみました。「付き合いで数本購入したけど飲まない」として頂いたLouis Josephなる造り手のヴィラージュ・ヌーボー2008のお粗末さ加減でフラストレーションが溜まる急性ヌーボー中毒になったのが4年前のこと。

louis_jadot_primeur.jpg【Photo】短命なプリムール(ヌーボー)にしては珍しく、平年作ならば3年程度の保存がきくというルイ・ジャドのボージョレ・ヴィラージュ・プリムール。天候不順の今年は酸が立った痩せぎずな印象で、明らかに若飲み向きの仕上がり

 それ以来のヌーボー(=プリムール)でしたが、声望高きこの造り手にしてなお、伝え聞く"100年に1度の厳しい天候"(←どうしてもボージョレにはこうした表現がついて回るのは何故?)を反映し、線の細さは否めません。

 通常のワインとは製法が異なるヌーボー特有の未熟なバナナ香とベリー系の酸味が立ち、お世辞にもバランスが良いとは言えず、平板な構成の味に複雑さは全く感じられません。自然派ワイン愛好者に支持されるフィリップ・パカレのヌーボーも置いてありましたが、ともに4,000円ほどの価格。中身と価格が釣り合っているとは到底思えず、その場を立ち去りました。 

 "ワインの味がするワイン"を多くの人が知っている欧州圏では淘汰され、需要が見込めないワインの水割りのようなお味のボージョレ・ヌーボーを美辞麗句で飾りたて、燃料費高騰の中で決して安くはない空輸運賃や倉庫経費とマージンを上乗せしてワイン文化が根付いて歴史が浅い日本向けボージョレ売らんかな商法。

 その手に乗ってなるものかと、2008年のボージョレ商戦が始まった9月、Viaggio al Mondo ~あるもん探しの旅「今年も当たり年?今年も当たり年? ボジョレー・ソードーは日本固有のお祭り」で啓発を始めて4年。

 たっぷりと皮肉を込めて「手を出すのはおやめになった方が賢明ですよ~」と書き連ねても、一時の異常なブームが去って減少傾向だった売り上げが、過去2年はゾンビのごとく漸増傾向に転じています0rz 。不偏不党を掲げるマスコミも、よせばいいのにボージョレ・ヌーボー解禁ばかりを依然としてニュースで取り上げます0rz 0rz 。

languedoc_nouveau2012.jpg【Photo】おフランスの新酒がそんなにお好きなら、こんな選択肢はいかが? 南仏の太陽を浴びたラングドック地方の生産者「Domaine La Tour Boisée ドメーヌ・ラ・トゥール・ボワゼ」が日本向けに造るヌーボー。メルロとシラーの果皮と果汁の接触時間を長くとることで、ボージョレよりも厚みのあるボディと複雑な味わいを実現。ボージョレワイン委員会が目の敵にする低価格ボージョレのようなペットボトル入りでなくても、1,000円前後の良心的な実勢価格。オーストリアの新酒「Heuriger ホイリゲ」同様、11月上旬には店頭に並ぶので、ボージョレを出し抜けるなどいいことずくめ。もっと早く新酒を楽しみたいなら10月に市場に出始めるイタリアの「Novello ノヴェッロ」を。それでも遅いという方は、春に出回る南半球の新酒を!!

 河北新報11月15日(木)付夕刊のコラム「河北抄」は、ヌーボー解禁にちなんだ内容でした。自身を律する意味で一節をご紹介すると、「今夜はフランス人にとって歴史であり、魂でもある飲み物に酔いしれる人が多いだろう」と記されています。そこが未開の地ガリアと呼ばれていた古代ローマ時代、属州となった蛮族の民にブドウ栽培とワイン醸造法を伝えた古代ローマ人のDNAを前世では受け継いでいた私ですが、蛮族の末裔であるプライド高きフランス人のため、以下の真実だけはここで確認しておきます。

 現地の醸造家から発せられる情報では、4月になっても氷点下5度の寒波に見舞われ、深刻な霜害が発生。6月の大規模な降雹と7月末まで雨降りと低温が続いた天候不順のため、平年作の4割程度と史上稀にみるブドウの不作に見舞われた今年のボージョレ地方。そのため収量の確保が極めて困難となりました。

 昨年実績で59,901ヘクトリットル(=750mℓ換算で790万本)と、全ヌーボー輸出量の半数以上を占めるブッチギリの大得意先である日本向け新酒を商売として確保せねばならない事情があります。(【備考】 輸入量第2位:3.1億人が暮らす米国が18,524hℓ=同240万本、第3位:寒冷な気候ゆえ白ワイン用品種が主で、ブルゴーニュ原産のピノ・ノワールと同品種をSpätburgunder シュペートブルグンダーという名で南部で栽培するも、適地適作とはいかないお味に仕上がるドイツ9,901hℓ=同130万本。その一方、自国では日本向けより少ない53,563hℓが消費されるに過ぎない。人口1.2億の日本の尋常ではない突出ぶりが目につく。※データ出典:Iri Secodip 2011
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【Photo】FIFAサッカーワールドカップ2002で仙台をキャンプ地に選んだイタリアナショナルチーム滞在中、選手スタッフのためにパン作りを担当したのが、仙台市若林区のブーランジェリー「ジャンヌダルク・フィスエペール」。のちに数種類のドライフルーツを生地に入れたこの「ワインパン」(⇒食べかけでスミマセンm(_ _)mを考案する際、イメージしたのがボージョレ・ヌーボー(笑)。11月とはいえ、セラーの手持ち在庫にヌーボーなど決して存在しない庄イタが合わせたのは、ピエモンテ州の作り手「Marziano e Enrico Abbona マルツィアーノ・エ・エンリコ・アボナ」のNebbiolo d'Alba Bricco Barone 2006。料理に寄り添うイタリアワインの美質が発揮される鉄板の組み合わせ

 1980年から辻調理師専門学校フランス校が設置されたリヨン郊外の城郭「シャトー・ド・レクレール」にはSicarex Beaujolais(シカレックス・ボージョレ)というボージョレ地区のブドウ栽培を専門に研究する団体が存在します。辻調フランス校講師を兼務する同団体のベルトラン・シャトレ技術主任は、2012ヴィンテージ収穫直前の「9 月最初の10 日間は雨が降らなかった」とプレスリリースで強調、「心地よく、偉大なフィネスのあるワイン」に仕上がったと胸を張ります。果たしてそうでしょうか??

 数十年に及ぶ熟成の過程で、真に偉大なワインのみが備えるフィネス(⇒高貴さ・優美さ)を感じさせる良質なワインが生まれる産地として、フランスで思い浮かぶのが、アルザス、ローヌ、ボルドー、そして名醸地が連なるCôte-d'Orを擁するブルゴーニュ北部。そうした選択肢がある普通の味覚を持つフランス人の多くが、10年以上の熟成に耐えるクリュ・ボージョレは別にして、11月第3木曜日を心待ちにして特殊な製法で促成醸造される軽く平板な飲み口のボージョレ・ヌーボーに酔いしれるとは到底思えません。

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 前出の名言(ここでは「迷」を当てた方が良い)を吐いたシャトレ氏は〝井の中の蛙〟でボージョレ地方のブドウ品種「Gamay ガメイ」の軽いワインしか飲んだことがないのでは?と勘ぐりたくなります。

 圏域人口が1000万人を超え、40万以上の外国人が暮らす大都市パリのみならず、美食の都リヨン(人口170万)にだって、美食とは無縁のMマークのファストフードチェーンがそれぞれ15店舗ずつ存在しますし、味に敏感とされるラテン系民族でも、人の味覚は所詮さまざまですから...。

【Photo】狭隘な「ボージョレ・ヌーボー通」から、もっと豊かなワイン愛好家への扉を開くなら、たとえばこの1本1,200円(税込)で同価格帯のヌーボーより遥かに美味しい「朝日町ワイン ロゼ 中口」は最適の1本 

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 モヤモヤがスッキリしたところで、庄イタにとってはネコ跨ぎアイテム以外の何物でもないヌーボー解禁日に購入したのは、過剰在庫を抱えるイタリアワインではなく、コストパフォーマンスの点で日頃は親しむ機会がない国産ワイン。

 頻繁に物販催事が行われる仙台市役所前の勾当台市民広場で対面販売をしていたのが、1,000円台前半のリーズナブルな価格設定がされた「朝日町ワイン」。試飲した中で、最もコスパに優れると思われた「朝日町ワイン ロゼ 中口2011」(1,200円)を選びました。

 今年で10回目を迎えた国産ワインのコンクール「Japan Wine Competition 2012」では、この2011ヴィンテージは銅賞でしたが、3倍以上の価格差がある大手酒造会社系列ワイナリーの製品を抑えてロゼ部門最高賞を過去に4度獲得している実力派です。
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【Photo】ボージョレ・ヌーボー商戦真っただ中の11月上旬、酒田で限定発売されたばかりの酒田酒造の生詰「上喜元 翁」とどちらを開けるか迷った挙句、選んだのは同じく地元限定のレア物「〆張鶴しぼりたて生詰原酒」

 運んだばかりで味がまだ荒れているはずの朝日町ワインは少し落ち着かせてから開けるとして、完全スルーのヌーボー解禁日に庄イタが家飲みしたのは、意表を突いて日本酒の新酒。11月9日に蔵出しされたばかりのフレッシュな「〆張鶴しぼりたて生詰原酒」が、ボージョレ解禁で世間が浮かれる宵の相伴となりました。

 典型的な淡麗辛口酒と評される〆張鶴。仙台では一般にプレミア価格で販売されますが、地元の新潟県村上市では、最も廉価なアル添の普通酒「花」(税別1,725円/1.8ℓ)が晩酌用に愛飲されます。この地元限定酒は、「酒道楽 工藤」で入荷当日に入手したもの。さらりとした特別本醸造「雪」や純米吟醸「純」、吟醸「特撰」などとは明らかにタイプが異なる濃厚かつ芳醇旨口な飲み口が印象的。普通酒「花」の原酒ということで加水していないため、表記アルコール度数は20%と高め。冷やまたはオンザロックがお勧めです。

shimehari_luna_fiore.jpg【Photo】発酵により鮭の旨味を引き出した村上「喜っ川」《2007.11拙稿「鮭を極める哲人『味匠 喜っ川』の深遠なる世界」参照》の鮭の酒びたし。〆張鶴「花」に浸し、旨味の掛け算をして食するのが地元流の食べ方

 炭素濾過もしていないといいますから、世の飲み助が憧れる搾ったばかりの「ふなぐち」に極めて近いトロリとした飲み口。米のうま味たっぷりで、メロンのような風味もあり至福の時が過ごせます。一升瓶で2,240円、四合瓶1,020円(税別)と、ペットボトル入りボージョレ・ヌーボーと同価格帯にして、はるかに飲みごたえ十分。しかもアルコール度数が高いので、すぐに気持ち良くなれる(笑)。吉野家の牛丼じゃありませんが「うまい・安い・早い」と三拍子揃っており、なんとも嬉しい限り。「早い・安くない・うまくない」某新酒の季節が巡ってきたら、日本酒度でいえば+20度以上の超辛口に味付けしてみた今回の内容を思い出して下さいね。

Pinocchio-lier.jpg 今年のボージョレ・ヌーボーを「偉大なフィネスがあり、アロマの複雑さが見事なワインと」強弁するシカレックス・ボージョレのベルトラン・シャトレ技術主任の鼻が、嘘を重ねたピノッキオみたいにならないことを祈りつつ、庄イタは怒りの鉾を収めます。これにてボージョレ・ソードー掃討作戦2012、任務完了。

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