あるもの探しの旅

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Le Maschere Veneziane ヴェネツィアの仮面

p.sanmarco@aquaalta.jpg【Photo】パラッツォ・ドゥーカレ(総督宮)の華麗なヴェネツィアン・ゴシック様式の柱廊にラグーナの海水がひたひたと押し寄せる。ヴェネツィアで一番低い場所である「Piazzetaピアッツェッタ(小広場)」は、アックア・アルタが発生すると最初に冠水が始まる。そんな時はヴェネツィア市によって、主要な通りや広場に120cmかさ上げする高床式の通路パッセレーレが設置される

venezia_nebbia-001.jpg 世界中から押しかける観光客でごった返すヴェネツィアから、異郷人の姿が比較的まばらになる季節が冬。人の手で海上に築かれたこの街は、晩秋から4月初頭にかけて幾度となく「Acqua altaアックア・アルタ(=高潮)」に見舞われてきました。リアルト橋周辺や表通りは別にして、迷路のように入り組んだヴェネツィア特有の細い通路「Calleカッレ」からは、日が落ちると次第に人の気配がなくなってゆきます。海霧のヴェールに包まれ、ひっそりと静まり返った水の都は束の間、その素顔を見せてくれるかのよう。

【Photo】宵刻のサン・ポーロ地区。「Rioリオ」と呼ばれる小運河に架かる橋から人の気配が消えた冬のヴェネツィアに霧が立ち込める

 地中海貿易の覇権をめぐって都市国家ジェノヴァやアマルフィとの競争を制したヴェネツィア共和国。アドリア海の真珠と称えられる華麗な文化を開花させたヴェネツィアは、21世紀を迎えた現在、ひとえに観光だけで命脈を保っているかのようです。繁栄を謳歌した往時の残照を今も放つ海洋都市が、絶頂期を迎えたのが15世紀。オリエントのエッセンスが随所に見られるサン・マルコ寺院がそうであるように、西洋と東方が融合した歴史的遺構や文化遺産の数々は、今も多くの人を魅了します。

fasnacht_luzern2.jpg【Photo】1333年に創建されたヨーロッパ最古の屋根付き木造橋「カペル橋」で知られ、カトリック教徒が多いスイス中部のドイツ語圏に属する古都ルツェルンでは、カーニバルは「Fasnachatファスナハト」と名を変える。変装した楽隊が奏でるファスナハトに欠かせない吹奏楽曲「グッゲンムジーク」とあいまって、冬の化身である恐ろしい形相の化け物たちが、けたたましくカウベルを鳴らしながら我が物顔で旧市街を練り歩く(上写真)

maschera1-veneziana.jpg そのひとつが、キリスト教の最も重要な祭日である復活祭から数えて46日前の「灰の水曜日」に始まる肉食を控える節制の期間「四旬節」前に、大いに飲み食いをしてハメを外したことに端を発するカーニバル(謝肉祭)。ヨーロッパのカトリック文化圏では、冬の邪気を追い払う祭として代々行われてきました。

maschera2-veneziana.jpg【Photo】南ドイツ・シュヴァルツバルト地方のゲルマン民話を再現したアレマン風ファスネットの素朴で賑々しいカーニバルとは対照的に、文豪ゲーテが恋い焦がれた太陽が冬でも顔を出すことが多いヴェネツィアでは、アドリア海の真珠といわれた栄華を謳歌した都市にふさわしく、あくまで仮面の異形たちもエレガントで美しい

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 今シーズンは1月26日から2月12日の18日間にわたって開催されたのが、ヨーロッパでは最も有名であろうヴェネツィアのカルナヴァーレ(カーニバル)。開催期間中に例年300万人もの観光客がヴェネツィアを訪れることから、下手をすると地盤沈下を加速させる要因になるのでは?と庄イタがいらぬ懸念をするほど。

 ヴェネツィアの観光客数は年間およそ2,000万人。その6.6%をカルナヴァーレの18日間だけで迎え入れる計算になります。このヴェネツィア最大の呼び物の起源は遠く12世紀まで遡ります。ナポレオンとオーストリアの統治下にあった18世紀に中断し、第二次大戦後の復興期を経て観光行事として復活したのが1979年。ヴェネツィアの観光産業は完全に売り手市場ゆえ、ただでさえ物価やホテルの宿泊代が高止まりの傾向にあります。ベニスの商人の末裔たちは、書き入れ時のカルナヴァーレ期間中、輪をかけて強気になるわけです。

maschera4-veneziana.jpg いかに物価が高騰しようと、たとえ観光客で溢れかえろうと、水の都が一段と輝きを放つ祝祭の時期にまた訪れたいと願う庄イタ。なれど安倍政権発足後の円安傾向もあって、夢がまた遠のいたと溜息をつくばかり。あぁ、どうせなら、ドゥーカレ宮と牢獄を結ぶ名高い「Ponte dei Sospiri(溜息の橋)」で深い溜息をつきたい・・・。

【Photo】14世紀中葉、シチリアから欧州に上陸したペストによって、欧州の全人口の1/3とも2/3ともいわれる2,000万~3,000万が犠牲となった。サンポーロ区に建つフラーリ聖堂で自身の傑作である聖母被昇天の祭壇画とともに永遠の眠りに就く壮麗な墓碑があるヴェネツィア派最大の画家ティツィアーノが、1576年8月に命を落としたのも前年から猛威をふるっていたペスト禍。カナル・グランデ(大運河)河口に建つバロック様式の「サンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会」は、当時の人口の1/3にあたる5万人の命を奪ったペストの流行が終焉したことを聖母に感謝して1630年に建築が決まった。皮肉にも健康を意味する「Salute」という言葉が選ばれたこの教会の献堂式が行われた1687年から間もない17世紀末から18世紀にかけてもペストは再び流行する。ペスト患者専門に治療を行ったのが特異な装束に身を包んだペスト医師。当時のペスト医師に扮したカルナヴァーレ参加者(上写真左側)

Maschera-Pietro_Longhi.jpg カルナヴァーレ期間中は、映画「犬神家の一族」に登場した犬神佐清(スケキヨ)さながらの無表情な仮面、あるいは山形県飽海郡遊佐町の奇習「アマハゲ」に紅白歌合戦で美川憲一が特注する衣装のように(?)きらびやかなパフォーマーたちが、立錐の余地がないほど観光客で埋め尽くされるサンマルコ広場などに集い、街中が独特の華やいだ雰囲気に包まれます。

【Photo】ヴェネツィア生まれの風俗画家ピエトロ・ロンギの代表作「香水売り」。マント姿の男女の顔を隠すのがBauttaバウッタ。昨年春、宮城県美術館で開催されたヴェネツィア展で公開された

 その中には16世紀のヴェネツィアで民衆や貴族に愛された仮面劇「コンメディア・デッラルテ」に起源を持つ仮面や、17世紀に貴族たちが賭博などに興じた社交場「リドット」で着用を義務つけられたマスク「Bauttaバウッタ」、カラス天狗のように長い嘴をもった「Medico della Pesteメディコ・デッラ・ペステ(=ペスト医者)」といった伝統ある仮面も見受けられます。会期中に行われる仮面と衣装の美しさを競うコンテストで、高下駄姿の鞍馬山から駆けつけたと思われる赤い面の天狗がエントリーしていたのが昨年のこと。 

  il_bautta.jpg medico_peste.jpg【Photo】ナポリ喜劇に欠かせない道化「Pulcinellaプルチネッラ」のポストカードとともに購入した「il Bauttaバウッタ」(左)、眼鏡をかけ尖った嘴の中に伝染防止に効果があると信じられていた香草・ハーブ類を詰め、患者に触れずに診察する木製の杖を手にした「Medico della Pesteメディコ・デッラ・ペステ」(右)

 話変わって、仙台市青葉区役所裏で期間限定のアンティーク・セレクトショップを出店していた「+R」で、先月イタリア製ポストカードを購入しました。仙台のこの手のショップは、フランスに心酔したオーナーが多く、庄イタとは趣味が合いません(^0^;)。そんな仙台にあって珍しいことにヴェネツィアで買い付けてきたというポストカードには、北イタリア発祥のコメディア・デッラルテや、カルナヴァーレとも結びつきが強いヴェネツィアの仮面劇に登場する役柄が描かれていました。

【Photo】DIYによる接着作業Link to backnumberと、業者による配線と取り付けを終え、久しぶりに庄イタ家に里帰りしたムラーノグラスのシャンデリアの明かりが灯った。元通りのイタリアンな空間に戻った部屋には、最近もうひとつヴェネツィアにちなんだアイテムが加わった

rampadari_pestemedico.jpg 絵の作者は風俗画家のモリス・サンド(1823-1889)。作曲家のフランツ・リストやショパンと浮名を流し、男装の麗人としても知られる19世紀フランスの女流作家、ジョルジュ・サンドの長男です。画家はフランス人でも、描かれているのはイタリアの伝統的習俗。その出典はモリス・サンドの代表的な画集のひとつ「Masques et bouffons comédie italienne(1862)」。額装して左右の壁にシンメトリーで飾ったのは、ヴェネツィアゆかりのバウッタとメディコ・デッラ・ペステ。そして先月末、やっとムラーノグラスのシャンデリアが戻ってきました。こうして以前にも増して国籍と所在不明になった我が居室。

めでたしめでたし。


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