あるもの探しの旅

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2013/05/12

芽吹きの森の湧水@二口渓谷

自然の息吹に触れる春の奥秋保
  蔵王水系の湧水を訪ねて【初級編】

 天候に恵まれた今年の大型連休中、宮城県南エリアの東北自動車道を走行された方は、白銀に輝く蔵王連峰を目にされたことでしょう。脇見運転はいけませんが、蔵王を最も間近にする区間が白石から村田にかけて。村田JCTの分岐で山形方向へ進路をとり、北蔵王の分水嶺となる笹谷峠の山塊が迫る宮城川崎ICから山形蔵王ICの間は、カーブと登り下りが続く山岳道路となります。笹谷峠の通行事情が劇的に改善した笹谷トンネルの開通は1981年(昭和56)。2002年(平成14)には片側2車線の自動車専用道路に改良されました。こうして宮城と山形の県域を越えた相互交流が進んだ現在、山形自動車道を平日は1日76便の高速バスが仙台市と山形市とを往復しています。

mt.zao.jpg【Photo】雪を頂く蔵王連峰。宮城・山形両県にまたがる峰々は多くの水の恵みをもたらす

 笹谷トンネル開通以前の旧R286は見通しの悪い狭隘な峠道のため大型車は通行不能で、山岳観光道路蔵王エコーラインや船形連峰を越えて加美町と尾花沢を結ぶR347鍋越峠と同様、冬季は全面閉鎖されます。山形自動車道以外に宮城から奥羽山脈を越えて山形へ通年通行が可能なのは、白石から七ケ宿街道R113を経由して高畠・米沢方面を結ぶルート、そして石巻-酒田間の太平洋ー日本海最短コースでもある鳴子温泉郷から最上街道R47経由で新庄を目指すルート、そして仙台-東根・天童間の関山峠を経るR48の3ルート。

秋保大滝_2013.5.jpg 全国生産の7割を占めるサクランボの代表品種「佐藤錦」発祥の地である山形県東根市などに向かう行楽の車で6月に大渋滞が引き起こされるR48は、第2代仙台藩主・伊達忠宗が1660年(万治3)に開削した峰伝いの関山街道が端緒です。馬の通行もままならない難所だった関山峠を越える通称「峰渡りの道」に車両の通行が可能となる隧道が穿たれ、当時は関山新道と呼ばれた旧道が開削されたのが1882年(明治15)。山形道の完成前は、R48関山街道と1937年(昭和12)に全通した仙山線が仙台-山形間の動脈でした。

【Photo】釣鐘型の特異な形をした仙台神室岳(かむろだけ)北麓の二口側に源を発する名取川。その上流域にある落差55mの日本三大名瀑「秋保大滝」

 こうした交通インフラが整備される以前、伊達領と最上領の城下町を結ぶ最短コースとして人馬が往来したのが二口街道です。860年(貞観2)に慈覚大師(円仁)が開山した立石寺(山寺)に通じるこの古道は、役行者が吉野から蔵王権現を勧請して以降、山岳信仰の場となった蔵王連山と出羽三山へと向かう信仰の道でもありました。仙台の奥座敷、秋保温泉郷から二口渓谷に向かう道程には、都落ちした源義経の後を追って来るもこの地で果てたと伝わる静御前の墓など、苔むした石碑が数多く残っています。国境警護と荷運びの任にあたった足軽22世帯が、往来を監視しやすいよう街道に沿って列をなして住まった遺構を残す野尻集落などは、往時を偲ばせます。

鳳鳴四十八滝.jpg ニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝は、若き日にウイスキー作りを学んだスコットランド・ローランド地方のスタイルである柔らかいタッチのウイスキー造りに適した水を探し歩き、あまたの候補から広瀬川上流の支流・新川(にっかわ)の水に白羽の矢を立てたことは良く知られた逸話。その清流は第四紀小火山群のひとつ面白山に源があります地質図リンク。宮城峡蒸留所では実際の蒸留には川水ではなく新川沿いで汲み上げた伏流水を使用しています。究極の食中酒「伯楽星」で知られる新澤醸造店は、震災被害で廃業した歴史ある酒蔵・まるや天賞の醸造施設を譲り受ける形で仕込み蔵を大崎市三本木より移転。蔵王水系の伏流水が豊富な川崎町の新天地で伯楽星はより一層輝きを増したように思います。

【Photo】新川川(にっかわがわ)と広瀬川の合流地点から間もなくのR48沿いにある「鳳鳴四十八滝」。秋には滝見台から「ゴリラ山」の名で親しまれる鎌倉山と色付いた広葉樹と渓流との競演が二口峡谷(右下写真)と同様、仙台市中心部から車で40分ほどで見ることができる

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 奥羽山脈の分水嶺に端を発する広瀬川の上流域に沿って道が続くR48に対し、名取川の源流域沿いに道が開かれた二口街道。その名の由来は、山寺への道筋と、最上氏が築いた城下町であった現在の山形市を結ぶ街道に枝分かれするゆえだといいます。片側二車線の舗装路は秋保ビジターセンターから先は狭隘な未舗装区間となり、海抜934mという最高地点の高さもあり冬季は県境を挟んだ往来が困難となります。仙台市と山形市、しかも秋保温泉郷と山寺という観光地を最短で結ぶルートではありますが、満足な整備がされぬまま今日に至っており、崩壊したのり面の補修が完了した2011年(平成23)の秋、12年ぶりに通り抜けが可能になりました。

banji_2013.5.4.jpg【Photo】ブナやナラなどの広葉樹が淡い新緑の芽を出したばかりの二口の森と表磐司。今年初めて訪れた5月上旬は彩りにまだ欠けていたが、来週あたりは新緑が見ごろに。紅葉の季節もまた素晴らしい

 この眠れる観光ルート最大のクライマックスは高さ150mほどの切り立った岩肌が3km近く連続する国名勝「磐司岩」でしょう。二口一帯は面白山と同様、大東岳などの噴火によって、中新世から第四紀にかけて形成された火山性の固い岩盤からなります。磐司岩に見られる安山岩質角礫凝灰岩質の断崖は、長年にわたる風雨の浸食によって地表に表れた岩が垂直に削り取られた柱状節理が見られます。

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【Photo】芽吹き始めたばかりの二口渓谷に楚々とした彩りを添える山桜(左) 白や淡い紫の花で二口に春の訪れを告げるキクザキイチゲ(右)

 二口渓谷の右岸は「日陰磐司」、対峙する左岸は「表磐司」、大東岳側は「裏磐司」と呼ばれ、その特異な光景は磐神信仰やマタギの祖とされる磐司磐三郎伝説を生みました。レストハウスや植物園が整備された国名勝・秋保大滝付近までは訪れる人が多いのですが、すぐ先の釜淵などの渓谷美や多くの動植物が生息する緑あふれる自然美に癒されずに帰るのはもったいないというもの。

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【Photo】渓流沿いの苔むしたブナには大きなウロが(左) ブナやナラなどの手つかずの広葉樹林帯が動植物の多様な生態系を育む森からは絶えずこうした清冽な水が流れ下る(右)

 遠出を控えた今年の大型連休中、穏やかな陽気に恵まれた5月4日(土)、ようやく山桜が咲き始めた淡い新緑の二口渓谷を訪れました。前回はムラーノグラスの補修に関する助言を得るため、秋保大滝近くに工房を構えるガラス工芸作家鍋田尚男さんのもとを雪の中を訪れて以来となりますLink to backnumber。補修完了のお礼を申し上げたところで、地元事情に明るい鍋田さんに、二口を訪れるといつも汲んで帰る湧水がある磐司橋まで行けるかを尋ねたところ、大丈夫とのこと。

banji_shimizu2013.5.jpg【Photo】冬を越えた湧水の水場には、足もとをすくわれた大きなブナの倒木が2本。やがて命脈が尽き、土に還るであろうこの倒木から、新たな森の生命が芽吹く日がやってくる

 県境はまだ冬季閉鎖中であることを告げる標柱の立つ磐司橋のたもとに湧き出でる伏流水は、良質の水が得られるブナやナラをはじめとする原生林に覆われた土壌から浸透してきます。その水源は1,000mを超える山々が連なる蔵王連峰に降った雪や雨が火山性の岩盤でろ過されて湧出してくる口あたりの良い軟水です。長い冬の眠りから覚めた生き物が活動を始め、山桜が花を咲かせ木々が芽吹く季節を迎えた生命の揺籃のごとき二口の湧水は、いつにも増して体を目覚めさせるものでした。

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【Photo】ブナの森に湧く伏流水は2系統。左手の水場は1本(左)、水量の多い右手は3本のパイプ(右)が整備され、水が汲みやすい。シーズンには多くの人が水を汲みに訪れるので、ボトルの入れ替えとキャップの蓋を閉める手間がかかり、余計に時間を要するペットボトルではなく、容量の大きなポリタンクで効率的に水汲みをするのが公共のマナー

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【Photo】(株)ざおうハーブ(旧・グリーンアトリエひらきゅう)のドライハーブティ「レモンバーベナ」は蔵王町内の直売所「わいわいハウス」のほか、仙台市内の取り扱い飲食各店・サンモール一番町「みやぎフードキッチンCOCORON」などで購入可(左) 汲んで来たばかりの蔵王水系の二口の森の伏流水が、蔵王で育ったハーブティを珠玉の癒しをくれる一杯に変えたカップは硬質なガラスや磁器製ではなく、イタリア中部ウンブリア州オルヴィエート窯の伝統的な陶器(右)

 蔵王水系の湧水の美味しさをもっとも端的に体感できたのが、同じ宮城蔵王の風土で育ったハーブ苗の生産・加工品販売を手掛ける(株)ざおうハーブの「蔵王グリーンハーブティ レモンバーベナ」との組み合わせ。数年前に取り扱うようになった仙台市大町のイタリアン「francescaフランチェスカ」で初めて飲んだ時に美味しさに目覚め、県から委嘱された商品モニターのサンプルとして登場した折にはベタ褒めの感想を戻したハーブティです。心地よいレモンとミント系のすがすがしい香り。そして極上の緑茶のようなまろやかな口当たり。

 うっとりとするような珠玉の癒しの一杯に、夢見心地のひとときを過ごしたのでした。
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◆二口磐司の湧水
 ばんじ山荘前の秋保ビジターセンターから二口林道を二口キャンプ場・姉妹滝を経て、左手に見ていた名取川に架かる「磐司橋」に至る。橋を渡ってすぐ左手
 (所要時間:秋保ビジターセンターから車で約15分)

   
より大きな地図で 宮城蔵王周辺の湧水MAP を表示

(株)ざおうハーブ
 蔵王グリーンハーブティー レモンバーベナ
 レモンの香りが素晴らしいハーブティーの女王。ティーカップ約30杯分¥525
 URL:http://www.zaoherb.com/


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