あるもの探しの旅

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ビアンキスタ、面目躍如。

サン・ミケーレ・アッピアーノ醸造責任者
ハンス・テルツァー氏解説による試飲会@仙台

 時間が若干遡りますが、6月上旬、イタリア屈指の白ワインを生産する協同組合組織「San Michele Appianoサン・ミケーレ・アッピアーノ(独語表記St.Michael-Eppan)」で醸造責任者を務めるハンス・テルツァー氏が、輸入元「モンテ物産(株)」の招きで来日しました。テルツァー氏は、権威あるワイン評価本のひとつ「ガンベロ・ロッソ」が1997年度最優秀エノロゴ(醸造家)10名の1人に選んだ人物。サン・ミケーレ・アッピアーノも2000年に同誌によって最優秀カンティーナ(醸造所)に選出されています。

hans_terzer.jpg【Photo】参加者を前にサン・ミケーレ・アッピアーノのワイン造りを語るハンス・テルツァー氏

 とりわけ世評の高い「Sanct Valentinサンクト・ヴァレンティン」シリーズのピノ・グリージョやソーヴィニヨン・ブランといった数々の傑作ヴィーノ・ビアンコ(白ワイン)を生み出すテルツァー氏は「Bianchista ビアンキスタ」の異名を持ちます。ワイン造りにおける氏のモットーは"La qualità non conosce compromessi(=品質のためには妥協しない)"。土壌や畑の向きに適したブドウ栽培の戸別指導も行う屈指のビアンキスタ自身の解説による試飲会は千載一遇。プラハをイメージした中欧の薫り漂う「ホテルモントレー仙台」での業務店向け試飲会を主催したモンテ物産仙台支店の小嶋啓介支店長にお誘い頂き、勇んで参加しました。

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 アルプスを挟んでオーストリアと国境を接する特別自治州トレンティーノ=アルト・アディジェが、フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州と並ぶイタリアきっての優れた白ワイン産地であることを、イタリアワインラヴァーであれば知らぬ人はいないでしょう。サンジョヴェーゼとネッビオーロを双璧とする赤ワインは良く知られるイタリアですが、およそ20種のブドウ品種が栽培されるこの地では、赤と白の生産比率は1対2と白ワインが主力。

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 ライチ・ピーチ・ローズ・キンモクセイ・蜂蜜などの特徴的な芳香を備えた「ゲヴェルツトラミネール」は、作付面積が広いフランス・アルザス原産と思われがち。なれど「トラミネール・アロマティコ」の品種名で呼ばれ、素晴らしいヴィーノ・ビアンコを生むれっきとしたアルト・アディジェ原産のブドウです。ご存知でしたか?

【Photo】オーストリアと国境を接するアルト・アディジェでは、耳に届く言葉は多くがドイツ語。一部東部地域で話されるラディン語を例外として、この特別自治州の公用語はイタリア語とドイツ語。上地図クリックで拡大 対して州都Trentoトレント(人口11.5万)を擁する南部トレント自治県は、伝統的にイタリア語文化圏に属する。ブドウ畑の間に延びる道沿いに立つ標識は、ドイツ語のWeinstraßeが上、strada del vinoというイタリア語は下に併記される(下写真)

weinstrase.jpg 州北部のボルツァーノ自治県は、第一次世界大戦の終結までオーストリア・ハンガリー帝国に帰属していたため、イタリア語は通じるものの、住民の2/3はドイツ語を日常的に話す土地柄。県都Bolzanoボルツァーノ(人口10万・独語名:Bozenボーツェン)市民の表情からもラテン系とは異なるオーストリアの雰囲気を感じます。

 ドイツ語でSüdtirol、イタリア語ではAlto Adigeと呼ばれるこの地方。イタリアらしからぬ壁絵で装飾された建物や、白壁と木組みのドイツ風の家もちらほら。イタリアでは例外的に路上にゴミが見当たらず、街中の落書きも比較的少なめ。カフェのメニューにはザッハトルテ。仮に目隠しをされて連れて来られたなら、ドイツ人ほどはいかつくない道行く人々が交わす言葉から、多くの人がそこをオーストリアと勘違いするかも。

bolzano_platz.jpg【Photo】ボルツァーノ市庁舎前広場。絵描きや染色屋などの姿を描いた壁絵や南ドイツ風の装飾がある建物が軒を連ねる

 国内最大規模のクリスマス市が、11月下旬から駅にほど近いPiazza Walther(ヴァルター広場。独語名:Waltherplatz)で開催されます。広場の中心には12世紀末に活躍したドイツの詩人ヴァルテル・フォン・デア・フォーゲルヴァイデ像があります。ムッソリーニ率いるファシスト党政権下には町外れに追いやられる憂き目を見たこのネオロマネスク様式の台座に立つ石像だけでなく、広場の名前にも歴史の変遷が刻まれています。

bolzanoDuomo.jpg【Photo】ヴァルター広場に立つヴァルテル・フォン・デア・フォーゲルヴァイデ像。屋根のダイヤ柄の文様にウイーンのシュテファン寺院との共通点を見るゴシック様式のドゥオーモ。高さ65mの尖塔はボルツァーノのランドマーク

 1808年に広場の造営を命じた初代バイエルン王マクシミリアンは自身の名を冠し「マクシミリアン・プラッツ」としますが、オーストリア帝国ヨハン大公にちなんだヨハネス・プラッツに変更されます。20世紀初頭に現在と同じヴァルテル・フォン・デア・フォーゲルヴァイデ・プラッツと変わるも、イタリア併合後にヴィットーリオ・エマヌエーレ3世広場に変わり、再び現在の偉大な詩人の名に落ち着きます。こうした紆余曲折にも、この街が歩んだ複雑な歴史が見て取れます。

 周囲を山に囲まれた海抜260mの盆地に町が開けたボルツァーノは、年間300日以上は乾燥した好天に恵まれます。3000m級の岩山が連なるドロミテアルプスが、北からの冷気の侵入を遮るため、真夏の日盛りはイタリアで最も暑いといわれる盆地のフィレンツェと双璧をなす酷暑に見舞われることも。対して夜間はドロミテ山塊から吹き下ろす冷気によって生じる寒暖差で、ブドウに理想的なアロマが生じるのです。

Alpe di Siusi.jpg【Photo】欧州最大の牧草地が標高1700m~2200mの高地に息をのむような大パノラマを描いてみせる「Alpe di Siusiアルペ・ディ・シウジ」の絶景。ボルツァーノからオーストリア国境のブレンナー峠を結ぶ独語の「Autobahnアウトバーン」と伊語「Autostradaアウトストラーダ」が併記される高速A22とケーブルカーを使えば余裕で日帰り可能。緑のじゅうたんの彼方は標高3181mの「Sassolungoサッソ・ルンゴ」と右手に「Sassopiattoサッソ・ピアット」(2955m)

 州全体の85%が急峻な岩肌の山岳や森林・牧草地で、海抜200m~1000mのブドウ栽培に適した土地には限りがあります。そのためブドウ栽培農家1軒あたりの耕作面積は大きくありません。ゆえにアルト・アディジェでは多額の投資が必要となる自前の醸造設備を生産者自身が持つことなく、伝統的に組合組織が発達しました。

Cantina S. Michele Appiano.jpg【Photo】ボルツァーノ市街からAppiano sulla Strada del Vino(=アッピアーノ・ワイン街道)の別名で呼ばれるSS42(国道42号線)を南西方向に進み、アディジェ川を越えてAppiano-Eppan地区へ。独語で醸造協同組合を意味する「Kellerei Genossenschaft(ケラーライ・ゲノッセンシャフト)St.Michael」と壁面に浮彫文字があるサン・ミケーレ・アッピアーノ。イタリア語の名を頼りに醸造所を探しても、通り過ぎてしまうかもしれない

 ボルツァーノ周辺のブドウ生産農家350軒が組合員として加盟する1907年設立のサン・ミケーレ・アッピアーノのほか、歴史あるゲヴェルツトラミネールの原産地、Termenoテルメーノ(独語名:Traminトラミン)で1898年に創業し、現在は290の生産者がいる組合組織「Cantina Termenoカンティーナ・テルメーノ(独語名:Kellerei Traminケラーライ・トラミン)」、200のブドウ農家が加盟する1908年創業の「Cantina Bolzanoカンティーナ・ボルツァーノ(独語名Kellerei-Bozenケラーライ・ボーゼン)」、など、州全体で生産されるワインは75%が協同組合によるものです。

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【Photo】講習会でのフリー試飲コーナーに並んだサンクト・ヴァレンティン・シリーズより。(左から順に)「ゲヴェルツトラミネール2011」、「ピノ・ビアンコ2009」、18℃にキープしたステンレスタンクでの14~21日間の発酵によって澱となった酵母を除去せず、そのままタンクで6~8ヵ月静置するシュール・リー熟成を行う「ソーヴィニヨン・ブラン2011」。素晴らしい天候に恵まれたと醸造家が太鼓判を押した最新2012年ヴィンテージから、総量の12%を大きさの異なる大小のオーク樽熟成を採用。とはいえ、カリフォルニアのようなあざとい樽香は感じず、ラベルデザインの変更とともに、これまでの繊細なクリーンさに複雑味が加わった印象の「ソーヴィニヨン・ブラン2012」

 全生産量の7割が白ワインというサン・ミケーレ・アッピアーノでは、古代ローマ時代まで遡るブドウ栽培の歴史を有する南チロル原産の赤品種「スキアーヴァ」が創業当時の主力でした。これはアルプス以北の冷涼な旧オーストリア領内では、赤ワイン用ブドウの栽培適地がなかったため。オーストリア・ハンガリー帝国の崩壊に伴うイタリアへ編入による世相の混乱で、第一次大戦前の4割までに激減したこの地のブドウ栽培が、徐々に持ち直すのは'50年代に入ってから。オーストリアやスイスなど近隣国向けにバルク売りされていたスキアーヴァに代表される赤ワイン用品種から白ワイン用ブドウへの植え替えが進んだ"80年代に、量から質への大転換がなされたといえます。

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【Photo】講習会試飲アイテムより。醸造所の名にちなんだSt.Michael(大天使聖ミカエル)をあしらったエチケッタにデザインを一新、定番商品化した「ラーン・ソーヴィニヨン2012」は、海抜500m近辺の冷涼な環境を好むこの品種の特徴である青草に加え、完熟によるハチミツやリンゴの風味。リリース後3~5年の熟成が可能(左)。バリック樽だけで樽熟するサンクト・ヴァレンティンとは異なり、18ヵ月の熟成期間は同じながら、樹齢の若いブドウと大樽も70%併用する「ピノ・ネーロ・リゼルヴァ2009」。ポルチーニ茸・生マッシュルームやベリー系のニュアンスも。北イタリアのピノ・ノワールらしい目の込んだベルベットのようなエレガントさが低めの適温でサーヴされたことで際立った。「6~7年の熟成で更に味わいが向上するだろう」とはテルツァー氏の弁(右)

 ボルツァーノのブドウ栽培農家に生まれ、農学校で醸造を学んだテルツァー氏がサン・ミケーレ・アッピアーノで働き始めたのが1977年のこと。350の組合員は、2~3haの畑を所有する専業農家から、わずか0.2ha程度の畑でブドウ栽培を行う兼業農家まで、その営農スタイルはさまざま。総面積が380haに及ぶ組合員の畑で収穫されたブドウのなかでも、より品質が高いブドウを高値で買い取り、組合員の意識向上につなげています。収穫時期の異なるブドウを標高や土壌ごと適地で栽培することで労力の分散をはかり、成熟を見計らいながら収穫がなされます。年産2万ヘクトリットルに上る安定感のある高品質なワインが、イタリア国内のみならず北米や日本などへも輸出されるようになったのは、低温輸送が確立した1990年以降。

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【Photo】ファーストヴィンテージの1995年がまだ熟成途上にあるように、卓越した熟成能力を備えた「サンクト・ヴァレンティン・ピノ・ネーロ2009」。ワイン単体でメディテーション・ワインとしても楽しめる複雑味のある優美なフルボディ。この出来でブルゴーニュ産のピノ・ノワールならば、倍付けの価格となるであろう参考上代4928円はご立派(左)。完熟メロン・洋梨・アップルマンゴーなどのフルーツ系とバタートーストの香り。2年目・3年目のオーク樽と各1/3の割合で使用する新樽由来のバニラ香が嫌みなく溶け込む。素晴らしい資質をグラスの中で垣間見せるのに時間を要するため、"猫の足"と形容される「サンクト・ヴァレンティン・ピノ・グリージオ2010」は、10年以上の熟成が可能(右)

 古代ギリシャ人が「Enotria Tellusエノトリア・テルス」(=ワインの大地)と賞賛したブドウ栽培に適したイタリア。その最北部ながら、豊富な日照のもとでゲルマンの勤勉さと緻密さが出逢うトレンティーノ=アルト・アディジェは、真の理想郷かもしれません。自社ブランドではベーシックラインにあたる青いエチケッタの「クラシック」は年産9,120ヘクトリットル。千円台のお手頃価格で入手可能です。1986年に登場し、サン・ミケーレ・アッピアーノの名声を不動のものとした「サンクト・ヴァレンティン」は年産3,040ヘクトリットル。国内実勢価格が三千円台から五千円ほど。1994年がファーストヴィンテージで、二千円台から三千円と両者の中間にあたる年産3,840ヘクトリットルの「セレクション」が新たに取り扱いアイテムとして加わりました。そのお披露目も兼ねたモンテ物産主催の試飲会には、東北6県すべてから料飲関係者が集結しました。

st.michael-appan_deg.jpg テルツァー氏解説のもとで試飲したアイテムは以下の赤3本白4本の合計7種。
・ メロール・シャルドネ 2012
・ ラーン・ソーヴィニョン 2012
・ ピノ・ネーロ・リゼルヴァ 2009
  (以上:セレクション・シリーズ)
・ サンクト・ヴァレンティン・ソーヴィニョン 2012
・ サンクト・ヴァレンティン・ピノ・グリージョ 2010
・ サンクト・ヴァレンティン・ピノ・ネーロ 2009
・ サンクト・ヴァレンティン・カベルネ・ソーヴィニョン 2006
  (以上:サンクト・ヴァレンティン・シリーズ)

merol_chardonnay.jpg【Photo】初お披露目となった「メロール・シャルドネ2012」。ブドウ畑全体のおよそ7%にあたる10アールの区画「Merolメロール」は海抜420mにあり、土壌は氷河由来の土砂堆積層。380haに及ぶ全区画の中でも暖かい場所ゆえ、完熟には暑さが必要なシャルドネを植えている。こうしたスケールメリットを生かした適地適作も高品質の一要因

 この他サンクト・ヴァレンティン・ゲヴェルツトラミネールなど、モンテ物産取り扱いのサン・ミケーレ・アッピアーノのラインナップほぼ全てが取り揃えられ、思い思いに試飲できました。メロール・シャルドネ2012とラーン・ソーヴィンヨン2012という初お披露目のセレクションシリーズの品質の高さを確認したことは勿論、欧州でも最高のソーヴィニョン・ブランと目されるサンクト・ヴァレンティン・ソーヴィニョンの醸造法を切り替えた2ヴィンテージを比較できたのはとりわけ幸運でした。会場で試飲し尽くしたいずれ劣らぬ試飲アイテムの中で、最も琴線に触れたのが「サンクト・ヴァレンティン・ピノ・グリージョ2010」。美辞麗句を書き連ねても形容しきれない美酒の感想は上記キャプションを参照願います。

 南チロルの清涼な環境のもと、高低差や畑の向きなど変化に富んだ地形を生かして多品種が栽培されるトレンティーノ=アルト・アディジェ。より高みを目指して切磋琢磨する生産者との信頼関係の上に成り立つサン・ミケーレ・アッピアーノのワイン造り。畑とセラーで並外れた手腕を発揮する醸造家の言葉から、風土の個性を感じさせる壮麗なヴィーノが生まれる秘訣を見た思いで講習会場を後にしました。
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【Photo】直営ワインショップ外観
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San Michele Appiano
St.Michael-Eppan

 Via Circonvallazione 17-19
 I-39057 Appiano sulla Strada del Vino
  (BZ) ITALIA
 URL: http://www.stmichael.it/en/


◆醸造所見学:月~金/ 8:00-12:30  14:30-18:30  
         土/ 8:00-12:00 (5月~10月/14:00-17:00)
◆ワインショップ:月~金/ 9:00-13:00  14:30-19:00
          土/ 9:00-13:00 (5月~10月/15:00-18:00)

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コメント

透明感の高いこのワイナリーのソーヴィニヨン・ブランで、北イタリアに目覚めました。
一般の愛好家も参加できるこうした醸造家の説明のもとで試飲ができる講習会があれば、日本ではブルゴーニュのシャルドネが幅を利かせる白ワインの世界の多様性を知る機会になるでしょうね。

びあん子さま

コメントをお寄せ下さり、ありがとうございます。

個性的でノーブルながら親しみやすさがあるイタリアの赤ワインを愛する私のセラーにも、繊細な北イタリアの白ワインは欠かせません。

モンテ物産さんが主催したこの試飲講習会は、業務店向けでしたが、ほかにも良質なワインを数多く扱うMottoxさんなど、一般向けに有料ではありますが試飲会を実施しているインポーターさんもいらっしゃいますね。どちらにせよ「習うより慣れろ」が、世界各国で作られるワインの奥深い世界(の片鱗)を知る近道かと。

料飲店でもワインに関しては幅広い品揃えをしてくれると嬉しいのですが、ここ数年、特定ジャンルに偏ったケースが散見されます。そういった残念なワインリストやセラーを目の当たりにするにつけ、「客に選択の自由を!!」 と思われてなりません。

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