あるもの探しの旅

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ゆきむすび 田植え交流会2014 〈後編〉

命の糧を作る人と支える人が、
 かくも美しき山里で座を囲む小昼の楽しみ

ゆきむすび 田植え交流会2014 〈前編〉より続き

 9年目を迎えた鳴子の米プロジェクト。前回はプロジェクトのシンボルであるコメ「ゆきむすび」が、まだ系統名の「東北181号」と呼ばれていた2006年、最初に試験栽培をした3人のひとりである高橋正幸さんのもとに、作り手と支え手が集った交流会前半の田植えの模様をご紹介しました。

nuruyu_onikobe20080611.jpg【Photo】ここ寒湯(ぬるゆ)は、今年の交流会が行われた中川原と岩入(がにゅう)に挟まれた東北181号が初めて試験栽培された地区のひとつ。田植えを終えて間もない6月。水鏡に映るのは、雪解け水や栗駒山系の伏流水の恵みをもたらす山々

 鬼首のコメには、忘れがたい記憶があります。岩手・秋田・宮城の3県にまたがる栗駒山の標高1,126(イイフロ)m地点に乳白色をした強酸性の湯が湧き出でる雲上の名湯、須川温泉から仙台に戻るには、ブナやナラの原生林の間を縫うように進むR398を通ります。須川からは湯浜峠を経て花山湖に向かうのが通常ルート。

1126_former-sukawa.jpg【Photo】岩手・宮城内陸地震で損傷し、取り壊されたのが、「須川高原温泉」の名物だったこの「千人風呂」。一つの源泉の湯量では国内2位となる毎分6,000ℓもの豊富な湯量を活かした大露天風呂「大日湯」のほか、かつて温泉プールだった場所に新たな内湯が設けられ、今も変わらぬ素晴らしい湯をすべて源泉掛け流しで満喫できる

 最大震度6強の揺れが襲ったことで、大規模な山体の崩落が発生するなどして、観光面で今も尾を引く痛手を受けた岩手・宮城内陸地震が発生する4年前の2004年9月末。走り慣れたコースから、山頂付近が色付き始めた栗駒を背にしてカーナビをもとに鬼首・鳴子方面に抜ける通称「鎌内林道」こと県道248号線入ったのは、ちょっとした気まぐれだったように思います。

kamauchi-rindo.jpg【Photo】栗駒の豊かな自然のありようを象徴するブナやナラの原生林を抜け、R398から鳴子・鬼首方面への近道となる鎌内林道。比較的フラットなダート路の先には予期せぬ光景が待ち受けていた

 当時は前輪に225/45R、後輪に245/40R17の扁平タイヤを装着した足回りが固く車高の低い車でしたが、ダート道とはいえ路面の凹凸は少なく、通過に手こずることはありません。山中を速度を上げずに進むことしばし。ほの暗い森を抜け、突然視界が開けました。そこには、頭を垂れた稲穂が夕陽を受けて輝く田んぼが、道に沿った狭い平地に開かれていました。

 「こんな山奥でコメ作りをしているなんて...。」鬱蒼とした森の中を進む 山道を下ってきた後だっただけに、より一層、驚きと畏敬の念を抱かせる光景が私の目の前にありました。やがて人家も現れたそこは鬼首岩入(がにゅう)地区。そう、それから4年の時を経て「ゆきむすび」と後に名付けられるコメ、東北181号が初めて植えつけられた地だったのです。

fiori-onikobe-2014.5.25.jpg【Photo】コメ作りをやめた耕作放棄地に搾油のため植えられた菜の花が、大地を鮮やかな黄色に染める。ミツバチやクマバチが蜜を求めて舞う一角で、小昼の準備をする生産農家など事務局メンバー

 
 鳴子の米プロジェクトは、消費者が安心して食せる冷害に強いコメを、米価低迷にあえぐ農家が、継続して作ってゆける手取り額を確保しようとする試みです。そのため相互の信頼と顔が見える関係性を重んじています。農器具の調達・維持などの必要経費を差し引いた金額が、米作農家に毎年渡るよう、1俵あたりの農家の手取り額18,000円を保証する60kg24,000円で消費者が買い支えることが肝要。

 長期凋落傾向から一転、東日本大震災後のコメ不足から、米価に幾分持ち直しの機運がありました。しかしながら、長びくデフレで生活者の価格志向は否応なく強まりました。そのため、5kg2300円超の高値を維持してきたコシヒカリなどの銘柄米を敬遠し、9割近くを米国やカナダ・豪州産の輸入に頼る小麦を原料とするパンや麺類に乗り換えることで生活防衛に走った都市生活者は少なくありません。

yamaga-shun-ichi2014.jpg【Photo】「山が旬の市」を運営するお母さんたちが持ち寄った地場産品を買い求める交流会参加者

 干ばつや洪水被害などの異常気象が地球規模で頻発する昨今。市場原理で動く食料、わけても主食となる穀物を安定して供給することは、安全保障上からも、国の根幹をなす1丁目1番地の課題。国が飢えては高品質な自動車や精密機器は輸出できません。日本の主食であるコメ離れは耕作放棄地を広げる大きな要因です。生産農家の高齢化が著しい鬼首もその例外ではありません。コメ作りをやめた農地は荒れ放題となり、耕作適地として復活させるには、膨大な手間が必要となります。

 
 庄イタが交流会に参加する一番の目的は、水稲の栽培環境としては厳しい山あいにある鬼首で、作り手の皆さんと農作業を共にする機会であること。これは、ともすると、コメの銘柄や産地や食味の優劣にばかり目が行きがちな都市生活者にとって、血となり肉となる大切な命の糧を育む尊い仕事を人任せにする、いわば他人ごとから、我がこととして実感する契機ともなるはずです。

kobiru-2014.5.jpg【Photo】力を合わせてともに田植えを終えた作り手と支え手、そして小昼を用意して下さったお母さんたちによる交流会恒例の自己紹介タイム

 交流会の大きな楽しみが、作業を終えた皆で座を囲み、農家のお母さんの手料理を食する「小昼(こびる)」の時間です。梅雨の走りを感じさせる曇天のもとで交流会が行われたこの日。鬼首は変わりやすい山の気候ゆえ、2009年に参加した時と同じく屋内での小昼の方が無難との声も上がったそうです。それでも見ごろを迎えた菜の花畑で食事を共にした方が、より美味しかろうということで、予定通り屋外での小昼となったとのこと。

 気まぐれな山の天気をも味方につけ、そんな懸念をも吹き飛ばす心掛けのよいメンバーが、この日は揃ったようです。その何よりの証拠に、花盛りの菜の花に囲まれた小昼は、雨に降られることもなく、和やかな笑顔に満ちたひと時となりました。

kobiru1-2014.5.jpg【Photo】さまざまに工夫を凝らして味付けされ、おむすびのために作られた専用の木桶に盛り付けされたゆきむすびのおにぎり

 小昼の場としてご用意頂いたのは、山あいを見渡す限り黄色に染める菜の花畑に囲まれた一角。そこに地場産品を扱う産直「やまが旬の市」を運営するお母さんたちが用意して下さった山の幸を使った手料理と、鬼首在住の県内で唯一の桶職人、金田孝一さんの手になる桶に入ったゆきむすびのおむすびが運ばれて来ました。いつもながら、食べてしまうのが勿体ないほど美しく盛り付けられたおむすびの数々。

kobiru2-2014.5.jpg【Photo】麹南蛮味噌焼おにぎりの付け合わせとしてピカ一の美味しさだったのが、甘口味噌で味付けされたタケノコの水煮。味噌づかいが文字通りミソとなって素材の旨味が増幅。素朴ながらも滋味深い味わい

 プロジェクト発足当時は、大崎市鳴子総合支所に勤務し、本庁勤務となった今も世話役として活躍する安部祐輝さんの進行で小昼が始まりました。上野健夫理事長のご挨拶から、今年の田植え交流会が行われた水田の持ち主である高橋正幸さんまで、恒例の作り手・支え手相互の自己紹介から。飾らない笑いの輪が広がってゆきます。こんな互いに顔の見える近しい関係が、多くの共感を呼んだ鳴子の米プロジェクトを支えています。

yukimusubi-doburoku.jpg【Photo】発酵食造りが盛んな「ふつふつ共和国」を標榜する大崎市の面目躍如。ゆきむすびで仕込んだ「ゆきむすび 鬼のどぶろく」(alc.12%~13%未満/ 容量:300ml/ 750円)

 緑が目にも鮮やかなハウチワカエデやツバキが彩りを添えるおむすびは、王道の梅干し海苔のほか、麹南蛮味噌焼おにぎりに加え、きなこ、ショウガといった味付けも。地域に活力と潤いを与えたコメの美味しさを、さまざまな具材と組み合わせて表現すお母さんたちの創意工夫には感心するばかり。でんぷん質の粘性が高い低アミロース米、ゆきむすびのモチモチした食感は、ご飯が冷たくなった弁当やおにぎりでも、作り手の熱い思いと同様に美味しさが失われることはありません。

 もうひとつ交流会で庄イタが楽しみにしているのが、ゆきむすびで仕込んだどぶろく。それが目当てで、プロジェクト事務局が用意した温泉街から出るマイクロバスを利用したのです。作り手の席には一升瓶も登場し、そこだけは農作業後の軽い食事を意味する小昼というより、田植えを終えた謝意を田の神に捧げる祝宴「早苗饗(さなぶり)」さながらの盛り上がり。

onokobe-kagura2014.5.jpg【Photo】興が乗るまま、郷土の伝統芸能「鬼首神楽」の一節をご披露頂いた鳴子の米プロジェクト作り手部会長の後藤錦信さんは、大正期に発足した歴史ある鬼首神楽保存会の会長でもある

 濃醇なコメの旨味が凝縮したどぶろくの酔いも手伝って、ほんのりと赤らんだ顔もちらほら。初めのうちは「神前以外では、おいそれとはお披露目しないんだよ」と言っていたのが作り手部会長の後藤錦信さん。やがて求めに応じ、独特の言い回しによる伝統郷土芸能「鬼首神楽」の一節を披露して下さいました。

 宴たけなわ座が盛り上がったところで、そろそろお開きの時間です。

 秋には稲刈り交流会と、天日干し作業の補助を行う杭掛け交流会が実施されます。実りの季節の再会を誓って散会となりました。9種類の多彩な泉質の温泉が湧く鳴子温泉郷の名湯で骨休めしてから家路へと就いたためか、翌日以降も筋肉痛が全く残らなかったこと。そして産直「山が旬の市」のお母さんたち手作りの産品と地場野菜が荷台に積まれた軽トラックの移動販売で購入したキノコと山菜の和え物が、極めて美味であったことを申し添えておきます。
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特定非営利活動法人 鳴子の米プロジェクト事務局
住:宮城県大崎市鳴子温泉字要害字馬場3-3
Phone:0229-29-9436(土・日・祝日を除く平日9時~16時)
Mail:komepro181@yahoo.co.jp

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