あるもの探しの旅

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今年の女鶴餅は自家製もあっさげ

お年取り前夜@村上・鶴岡・酒田・遊佐 「2014 呑み納めレポート」より続き

食べ納め@酒田L'Oasis ロアジス
「女鶴」と血統を受け継ぐ新品種「酒田まめほの香」


 1年を締めくくる恒例の食べ納めは、今回もあらかじめ予約していた酒田・清水屋マリーン5「L'Oasisロアジス」へ。(昨年のくだりは拙稿「新春縁起藤沢カブ」〈2014.1〉参照)

gran-chef-Ota2013.1.jpg【Photo】年回りが幾つも離れた後輩の指導にあたる傍ら、厨房の第一線で活躍する太田政宏グランシェフ(写真中央。月刊誌Piatto2013年3月号特集「日本海ひな街道」取材時に撮影)

 今でこそ定着した〝地産地消〟という言葉はおろか、概念すら存在しなかった1970年代初頭。豊かな山海の美味に恵まれた庄内地方ならではの〝フランス風郷土料理〟と称される誰もなしえなかった新境地を、故・佐藤久一氏との共同作業で開拓したグランシェフ、太田政宏さんが、厨房の指揮を執ります(拙稿「佐藤久一さんのこと」〈2008.3〉参照)

l'oasis2014-1.jpg【Photo】アミューズ。由良寒ダラのカクテル仕立て。マッシュポテトと生クリームを和えた優しい味付けとフワフワの食感が夢見心地へと誘い、新たな美味との出合いへの期待を高める。庄内豚のパテとピクルス、鴨のスモーク

 第一線から一度は身を引くも、ロアジス開業と同時に現場復帰。生涯現役を宣言し、後進の指導に当たりながら満70歳を超えて活躍する太田さんは、まさに料理人の鏡。輝かしい実績もさることながら、庄イタが心底から尊敬する方なのであります。

l'oasis2014-2.jpg【Photo】オードブル。庄内浜産ホウボウの洋風天ぷら フレッシュなトマトソースとエシャロット風味。ほのかな衣の塩味が絶妙

 1年ぶりに訪れた店内は、上方の影響を受けた酒田言葉で語らう人々で賑わっていました。年の瀬を迎えて店内は満席。その様子は、日本随一のフランス料理と賞賛された「ル・ポットフー」伝説の揺籃期を見るよう。

l'oasis2014-3.jpg【Photo】3種類から選べるスープ。旬を迎えたガサエビのマリニエール。庄イタが高校時代に酒田東急インに移転後のル・ポットフーで食した記憶が今も鮮明な一皿

 なぜならそこは、伝説の原点となるも、1976年(昭和51)に発生した酒田大火で焼失した清水屋デパートが建っていた場所。しかもJR酒田駅前に建設された東急イン(現・ホテルイン酒田駅前)に移る以前にル・ポットフーがあったのと同じ5階フロア。料理を待つ間、ふと40数年前にタイムスリップしたかのような感覚に捉われました。

l'oasis2014-4.jpg【Photo】メイン。庄内浜産黒メバルと温製小松菜、ホタテ貝柱と天使のエビのポワレ

 新奇さをてらわず、王道をゆくオーセンティックなフレンチなればこそ、違いが際立つ太田さんの円熟した味に魅了されたことは申し添えるまでもありません。

l'oasis2014-5.jpg【Photo】デセール。紅玉のキッシュ、ショコラとイチゴのアイスクリーム

 「お越しになる時は、いつも混んでいてあまりお構いできずに申し訳ありません」と仰るフロア係三川美和子さんや、忙しく立ち振る舞う厨房から、わざわざ見送りにいらして頂いたグランシェフに恐縮しつつ、お礼を申し上げて失礼しました。

 残すは新年を迎えるにあたっての最重要ミッション。酒田女鶴本女鶴を入手することです。

sakatameduru-yakihaze.jpg【Photo】仙台雑煮の庄イタ家における必須アイテム2点。餅は渡部正宏さんが天日乾燥した酒田女鶴の丸餅。津波で甚大な被害を受けた北上川河口に位置する石巻・長面湾の焼きハゼ。干しズイキと羅臼昆布との合わせ出汁で上品なコクと深みを出す

 古来より、歳神様をお迎えする神と人との交歓の儀式でもあった正月には、鏡餅をお供えし、白米が貴重品だった藩制時代にあっても、統制外だった糯米から作るお餅が庶民の食卓に上る最高の贅沢でした。

 伊達政宗の命を受けた川村孫兵衛による北上川の大規模改修により、新田開発が進み、港湾整備がなされた石巻から海路で運ばれた伊達藩領のコメは、江戸の米相場を左右する大きな影響力を持っていました。

 幕末まで幾度となく見舞われた飢饉への備えから、伊達藩は米作に重きをおきました。現在の宮城県北や岩手県一ノ関市周辺にかけての穀倉地帯では、庶民による餅食文化が花開きました。

 これは反面、コメ以外の特産品開発に無頓着だったがため、伊達藩では味噌のような一部例外を除いて商品経済が発達しなかったという作家・司馬遼太郎の「街道をゆく」における分析は、正鵠を得ていると庄イタは考えます。

Carnaroli-riso.jpg【Photo】頭を垂れた稲穂が風に揺れる季節。どこのコメどころかと思いきや、看板にはリゾットに最適なコメ「CARNAROLI(カルナローリ)」の表示が???

 曾祖父の代まで遡ると、地元で世界農業遺産指定に向けた機運が高まる沃土「大崎耕土」の心臓部にあたる涌谷(わくや)町で広大な水田を有する地主だったという庄イタのルーツ。孫兵衛による改修前は、暴れ川だった迫川・江合川・旧北上川に挟まれた涌谷町や美里町にかけて現在広がる美田は、天賦のものではなく、先人の努力の結晶にほかなりません。

primavera-riso.jpg【Photo】雪解け水を張った水田は、稲の植え付け前の季節にだけ出現する水鏡と化し、残雪を頂く山並みを映し出す。どこぞや東北で春先に出現する田園風景と思いきや、ここはイタリア屈指の米どころピエモンテ州ヴェルチェッリ県

 イタリアの代表的な水田地帯であるピエモンテ州ノヴァーラNovaraとヴェルチェッリVercelli周辺からミラノ西方のロンバルディア州の田園風景に、妙に懐かしさを覚えるのは、そんな出自や前世から受け継ぐDNAが影響しているのでしょう。

mezuru.jpg mamehonoka.jpg【Photo】女鶴(左写真手前)と酒田女鶴の血統を引く新品種「酒田まめほの香」(右写真手前)

 かつて出合ったことのない素晴らしい食味に驚愕した糯米「酒田女鶴」を知ったのが2009年(平成21)。作り手である酒田市吉田の渡部正弘さん・由美子さんとの幸運な出会いがあったのが2年後の産直山居館でのこと。その収穫作業の真っ最中に伺ったのが翌2012年10月。

 講談社勤務の編集者から、のちに酒田市助役に転じた伊藤珍太郎の名著「庄内の味」に記述があり、存在だけは知っていたのが酒田女鶴の原種「女鶴」。

nunome2014.12.jpg【Photo】血筋を絶やすことなく女鶴を植えつけてきた堀芳郎さんの圃場。純白の根雪に覆われた田んぼを吹き抜けてゆく北風が肌を刺す

 効率化の波にのまれて消えていった幻の品種が、その持てる美点を最も発揮するとされた飽海郡北平田村(現酒田市)円能寺に隣接する布目(ぬのめ)で今日まで命脈を繋ぐことができた恩人・堀芳郎さんとのご縁をたぐり寄せるように出会ったくだりは拙稿「酒田女鶴と本女鶴〈2012.10〉」を参照願います。

meduru.jpg【Photo】蒸しあげたばかりの女鶴。「女鶴の餅の肌も雪のように白かったならばさらにたいへんなものであろうとおもうが、見た目において多少のひけ目はあってもこの餅、舌にのせてからはあまりに優秀である」(伊藤珍太郎著「改訂・庄内の味」〈1981「本の会」刊〉より)

 もはや代えがきかない女鶴の素晴らしい食感を、R18な表現で例えるならば、雪国育ちの日本女性のしっとりとキメ細やかで滑らかな玉の肌。女鶴を搗(つ)きあげた餅の吸い着くような粘りとコシ・伸びは尋常ならざるものがあります。

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【Photo】女鶴は自宅で蒸し上げ、餅やパン生地を自家製できる自動生地捏ね機で楽チン餅つき(上写真)。産直あさひグーで購入したヤマグルミを使い、胡桃餅として正月の食卓を飾った(下写真)

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 久々に伺った渡部さんのもとには、2007年(平成19)から庄内バイオ研修センターで開発に取り組み、渡部さんの実験圃場で収穫したという糯米「酒田まめほの香(酒田糯14号)」の餅がありました。

 2004年(平成16)に新潟で品種登録された赤糯米「紅香」に酒田女鶴を交配し、それぞれの特徴である枝豆の香りと女鶴の血をひく優れた食味を兼ね備えた新品種なのだといいます。

mamehonoka-mochi.jpg【Photo】2015年度からの本格市場参入を目指し、種苗法に基づく品種登録申請を昨年行った「酒田まめほの香」(左写真)

 納屋には精米した糯米があり、その香りはまさに枝豆。旬は重ならないので冷凍物かフリーズドライのだだちゃ豆で炊き込みご飯にしたり、茶豆を挽いた「づんだ」と和えてづんだ餅にすれば香りが増幅しそうです。旬が重なるホッコクアカエビ(甘エビ)や数の子との食べ合わせは鉄板でしょう。

mamehonoka-zoni.jpg【Photo】渡部さんから頂いた酒田まめほの香の丸餅を仙台雑煮で試食。酒田女鶴から受け継いだ粘りと滑らかな舌触り。枝豆の残り香がほのかに漂う。最大の特徴である枝豆の香りは、焼いたままで食すると、さらに強く感じる(右写真)

 物々交換の良き伝統が残る庄内の生産者の例に倣って、酒田女鶴と豆ほの香餅の代金を受け取ろうとしない渡部さん。このままでは申し訳ないので、産直で別途購入することにしました。

 ご自身が育てた酒田まめほの香を手渡すよう、渡部さんから頼まれてお邪魔したのが堀芳郎さん宅。女鶴の餅つきをするのは例年30日だと伺っていました。過去2年は菓子折の箱に入った丸餅を物々交換で頂いていましたが、今回は最大のミッション達成のため、精米のまま女鶴を購入させて頂くことに。

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 里雪で畑が覆われる前の昨年11月上旬、酒田市飛鳥の後藤博さんから根付きのままで譲って頂き、今も庄イタ宅の庭に植えてあるのが「平田赤ネギ」(拙稿〈2007.9〉参照)。前日、鶴岡市みどり町「クックミートマルヤマ」で山伏ポーク(拙稿〈2014.7〉参照)のバラ肉しゃぶ用スライス(右下写真)を確保していました。

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 十三浜のワカメ(拙稿〈2012.4〉参照)を含め、これまで皆さまに幾度となくお勧めしてきた〝天下無敵の豚しゃぶ〟の具材となる冬場が最も美味しくなる小松菜を入手するために寄ったのが、鶴岡市渡前の井上農場です。周囲を雪に囲まれながらも幾分温かさを感じるビニールハウス内では、馨さん・悦さん夫妻が小松菜の収穫を行っておいででした。

inoue-nojyo2014.12.jpg【Photo】井上農場ではご自宅に隣接した納屋で小松菜の袋詰め作業中だったご長男貴利さんから庄イタ家定番のコメ「はえぬき」5kgと小松菜5把を購入。近くのビニールハウスでは、奥様が小松菜の収穫中。「悦さーん」と背後からお名前を呼ぶと、驚いたように振り向いた悦さん。庄イタの姿を認めると、いつもの飛びきりの笑顔で迎えてくれた

 独特な石油系の香り漂う特徴的な泉質が気に入って、10年以上通い続けているのが長沼温泉の日帰り入浴施設「ぽっぽの湯」。ご近所住まいでもないのに欠かさず所有している入浴回数券で心身ともにリフレッシュ。

Gassan2014.12.28.jpg【Photo】井上農場のビニールハウスを裏手に回ると、神々しい輝きを放つ月山が雪原の先に一望のもと

 純白の衣を纏った月山に見送られながら帰宅した後、取りかかったのが餅作りです。自宅には堀さん宅のように杵と臼はありませんが、生地こね機「レディースニーダーKN-30」にお出まし願いました。搗(つ)きたての女鶴は胡桃餅で、雑煮で食したのが酒田女鶴と酒田まめほの香。堀さんや渡部さんのような整った仕上がりには程遠くとも、得がたい美味しさに変わりはありません。ご縁に感謝。

自家製もあっさげ」という今回のタイトルの意味が最後まで謎だった方への脚注 ☞ 「・・・さげ」は、上方では「・・・さかい」という表現の影響を受けた庄内地方の言い方。「あっさげ」とは「あるから」「あるので」の意味。角餅文化の東日本では珍しく西日本の丸餅を食する庄内ならでは言い回し

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