あるもの探しの旅

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2015/07/26

Pasta? Not Pasta?

パスタか? パスタではないか?

パスタの聖地にジャッジを挑んだ勇猛果敢な新商品


Viaggio al Mondo ~あるもん探しの旅~」では、いわゆるマスプロダクツを滅多に取り上げません。

 数少ない例外は、'08年「今年も当たり年?」、同「ボジョレー後日談&自然派ワインよもやま話」、'11年「ボジョレー騒動はさておき...」、'12年「どうせなら真っ当な新酒を」と、ネガティブキャンペーンを展開してきたボジョレー・ヌーボー。

 ブドウの出来の如何に関わらず収穫は解禁日(11月第3木曜)優先。炭酸ガス浸潤による特殊な製法によるアルコール発酵期間はわずか4~5日で、世間一般のワインの造りとは全く異質。ワイン評論の第一人者ヒュー・ジョンソンに言わせれば〝雑な造りの、(酸が)鋭くアルコールが強すぎるものがあまりに多い(「ポケットワインブック」)〟。

 ボージョレーワイン委員会(Inter Beaujolais)、インポーター、大手小売店などのステークホルダーが、そのお寒い品質とは裏腹に、噴飯ものの美辞麗句を並び立て、金額ベースで全輸出先の半数を占める大・大得意先の日本各地で繰り広げる厚顔無恥な解禁商法への義憤に駆られてのこと。

cupnoodle-pastastyle.jpg【Photo】カップヌードル初のパスタ製品「カップヌードル パスタスタイル」。ボロネーゼ(左)ボンゴレ(右)メーカー希望小売価格¥198(税別)

 日本語を解さないイタリア人観光客が、大胆にもEspressoとパッケージに表記された紅茶(午後の紅茶)と日本茶(伊右衛門)に手を出し〝Mamma mia!!(=なんてこった!!)〟と公共の場で吐き出す事態を避けるため、老婆心から注意喚起をしたのが、「Attenzione, questo non è espresso.」(2011.12)。

 前回Sai che buono? に登場したSaiKeBonと同様に、庄イタが無性にイジりたい衝動に駆られる新商品「カップヌードル パスタスタイル」が、日清食品から6月29日に全国発売となりました。

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【Photo】上蓋をめくった状態。ボロネーゼのかやくはフリーズドライの味付け豚肉そぼろ・玉ネギ・ニンジン。ボンゴレは味付けアサリ・赤唐辛子。添付の粉末ソースと調味オイルを取り出し、熱湯を注いで待つこと5分。湯切りしてソースとオイルを和える

 創業者の安藤百福(1910-2007)氏が〝食足世平(しょくたりてよはたいらか)〟の精神で、世界初のインスタントラーメン「チキンラーメン」を1年を要した試行錯誤の末に発明したのが1958年(昭和33)。厚生省が発表したこの年の厚生白書では、日本人の25.9%が栄養不足であり、食生活の改善が急務であると指摘されていました。

 インスタントラーメンの生みの親である百福氏は、2005年に野口聡一宇宙飛行士とともに国際宇宙ステーションに雄飛した宇宙食ラーメンの開発を陣頭指揮。会長職に就いてなお生涯現役を貫き、満96歳で急性心筋梗塞で亡くなりました。健康と長寿の秘訣を問われると、週2回のゴルフと、創業以来毎日欠かさず昼食で食べていたチキンラーメンを理由に挙げていたのだといいます。

cupnoodle-pastastyle2.jpg【Photo】カップヌードルの2倍超の太さで新開発したストレート麺は、表面のもっちりした食感とプリッとした歯切れが特徴だというが...

 カップヌードル パスタスタイルは、1971年に誕生し、カップ麺をワールドワイドな商品に成長させた「CUP NOODLE」で培った特許技術である多層構造の麺生地を切り出し、過熱蒸気で小麦のデンプン質をアルファ化し、植物油で揚げたストレート乾麺。カップヌードルブランド初のパスタに位置付けられています。

 ペペロンチーノ以外は、ナポリタンとタラコ味という日本独自の味付けで展開する同社としての先行ブランド「Spa王」は、湯切り1分の生麺タイプ。乾麺を5分間湯煎するパスタスタイルは、イタリア伝統のボンゴレとボロネーゼの2種類。Spa王とは別ジャンルの商品ということなのでしょう。

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【Photo】〝PASTA〟ではなく〝PASTA STYLE〟とした日清食品の意図はいかに。イタリア人による惨憺たるアンケート結果を受けた急遽の変更なのか、それとも深い意味はないのか、実食してその理由を探ってみては?

 何故にパスタスタイルを今回のお題にしたかは、特設サイトの意表を突いた新発売キャンペーンの内容に尽きます。

【特設サイトURL】  http://www.cupnoodle.jp/pastastyle/

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Q. カップヌードル パスタスタイルをパスタとして認めてもらえますか?

 カップ麺のパイオニア日清食品が、乾燥パスタ発祥の地とされるイタリア・カンパーニャ州ナポリ県グラニャーノを舞台に、社の威信を賭けた新製品の出来栄えに聖地のお墨付きを得るべく、いかにも無謀な  ...もとい、大胆な作戦に打って出ました。

 持参したカップヌードル パスタスタイルをグラニャーノの住民157名に食べてもらい、パスタか、パスタではないか、二者択一の質問を投げかけます。

pastastyle-donna2.jpg【Photo】「パスタか、パスタではないか。」乾燥パスタ発祥の地グラニャーノの街頭で、全身がパスタで出来た温厚誠実なイケ麺インタビュアーMr.Pasta Judge (上写真左)が、舌の肥えた人々に感想を求めるも...

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 【Photo】リサーチ冒頭に登場するのはPanetteriaパネッテリーア(パン屋)の女性。申し訳ないけどという表情で一言「Non né Pasta, no.(=パスタじゃないわ。違う)」

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 絶品が揃うグラニャーノ産パスタとの比較において、即席麺の仕上がりは言わずもがな。〝もうすこしがんばりましょう〟のボンゴレに比べれば、味付けだけはまずまずだと庄イタがジャッジしたボロネーゼで挑戦した冒頭から暗雲が垂れ込めます。

 味覚は人それぞれ。なかには「Pasta!」という声も聞かれますが、Non né Pasta! を連発される完全アウェーのままインタビューは続き、果てはこんなフレーズも...。

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【Photo】顔をしかめて「Mamma mia!(=なんてこった!)」とは手厳しい。ほかにも「出直してこい!」「ゴムっぽい、違う」など辛辣な声も飛び出す始末

【Movie】パスタスタイルの品質に絶大な自信を抱いてパスタの聖地に乗り込んだMr.Pasta Judge (46歳)が、グラニャーノの人々の反応に一喜一憂。困惑と悲哀の表情を浮かべるプロモーション動画

 グラニャーノ産のパスタが、いかに別格の存在であるかについては「珠玉のパスタ、Gragnano グラニャーノ」(2010年7月)で、当時は代官山に日本の旗艦店があったEataly のご紹介と共に詳細を述べているので参照願います。

 パスタの味にはうるさいグラニャーノの人々による判定は、パスタだ ⇒ 14% パスタじゃない!! ⇒ 86% と完膚なきまでの完敗。

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 2001年2月9日、イタリア共和国カルロ・アツェリオ・チャンピ大統領は、〝乾燥パスタにはsemola di grano duro (=荒挽きデュラム小麦粉)と水だけを用いること〟と定めた大統領令に署名。現在もイタリア国内で販売される乾燥パスタには、この規定が適用されます。

 カップヌードル パスタスタイルのパッケージに表記された油揚げ麺の原材料は以下の通り。小麦粉・植物油脂・食塩・醤油・卵粉・大豆食物繊維。

 すでにこの時点でアウト!! なのですが(笑)、イタリアらしからぬ(?)厳格な大統領令を知ってか知らでか、グラニャーノ入りしたMr.Pasta Judge らロケ隊を待ちうけていたのは、厳しい結果でした。

 そこで創業者の孫である安藤徳隆氏が率いる日清食品が下したのは、以下の決断。

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アンケート結果を気にせず発売に踏み切る(^_^;

 ワールドワイドな展開をはかるカップヌードルブランド。前回「Sai che buono?(=どんだけ旨いか知ってる?)」で触れた欧州向け生産拠点であるハンガリー工場の生産ラインで、CUP NOODLES PASTA STYLEを生産し、パスタとは認めてもらえなかったイタリアでも日本と同様に発売するのでしょうか?

 イタリア・グラニャーノでの挫折をバネに、発売に合わせて公開された特設サイトでは、日本のユーザーに向けたアンケートを絶賛実施中。(画像クリックでサイトにリンクします)

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 グラニャーノ産パスタの購入機会が増えつつあるニッポンの判定は、本日のところ以下の通り。 パスタだ! ⇒ 28% パスタじゃない!! ⇒ 72% 肯定派がイタリアの倍の数字ですが、やはり微妙な評価と言わざるをえません。

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 事の真相はいかに。見逃せないのが回答者が下した判定に対するMr.Pasta Judge のリアクション。

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 「パスタだ!」判定へのMr.Pasta Judge のリアクション例(上)。「パスタじゃない!」評価への哀感漂う反応例(下)。〝もう一度ジャッジする〟を何度かクリックすると、異なるパターンが登場して結構楽しめます。

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 判官贔屓の日本人の心理をついた自虐マーケティング戦略に伸るか反るか。

Giudizio_Universale-Vasari-Zuccari.jpg ブルネレスキ設計によるフィレンツェのドゥオーモの天蓋内部にジョルジョ・ヴァザーリとフェデリコ・ツッカリが描いたフレスコ画「最後の審判」(部分)を唐突に登場させ、カップ麺にまつわる異例の連作を締めくくるとします。

 さて、あなたの審判はいかに。レッツ、ジャッジ!?

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2015/07/20

Sai che buono? (=どんだけ旨いか知ってる?)

SaiKeBonZenPastaに見るイタリアの日本ブーム

 今回と続編となる次回Pasta? Not Pasta? は、「Viaggio al Mondo~あるもん探しの旅」としては、少し異例の内容となります。例外的にマスプロダクツを取り上げる理由は、イタリア関連であること。そしてどちらもイジリたくなる商品であるがため。

 週刊「モーニング」(講談社)に連載中の料理漫画「クッキングパパ」と日清食品Spa王のコラボ商品「荒岩流イカスミブラック」が発売されたのが今年5月。

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【Photo】生麺タイプのSpa王「荒岩流イカスミブラック」メーカー希望小売価格¥230(税別)

 うえやまとち氏の原作では、プロはだしの料理の腕を持つサラリーマン荒岩一味(かずみ)が、出張先のローマのリストランテで、思わずお代わりしてしまった絶品のイカスミパスタと出合います。そのレシピを一味が再現したというのが、本商品のミソ。

 熱湯を注いで1分後に湯切りし、調味オイルとシ―ズニングスパイスを加えれば、ハイ出来上がり。そんな超カンタン調理にしては、味付けはそこそこ健闘しています。なれどそこはインスタント食品。額面通りに受け取ることが難しいことは、皆さまもお察しの通りです。

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【Photo】熱湯を注いでわずか1分でボナペティート。ガーリックオイルをベースに炒めたタマネギやアンチョビとイカスミのコクが加わる。原作通りにローマで1,2を争う味かどうか、ローマっ子にジャッジして欲しいかも

 ローマは人口280万を擁する大都会ゆえに、一通りピンキリの料理を食することができます。イカスミのパスタはヴェネツィアが発祥とされます。売り手市場感ありありの観光客相手の店ではなく、(数は少ないが)地元っ子推奨の店か、シチリアなど南イタリアの海沿いで食するのが定石かと。

 何につけ地域性が強いイタリアのこと。ローマでパスタ料理といえば、カルボナーラかアマトリチャーナを食するのが王道。ナポリとフィレンツェで研鑽を積んだ廣瀬竜一さんが仙台市青葉区で営む「Ristorante da LUIGI リストランテ・ダ・ルイジ」を、ローマから東北大学に1年間の留学を終える間際の男子大学生が訪れたときのこと。

Che cosa prende?(=何が食べたいですか?)」という廣瀬シェフの問いに対して「L'amatriciana per favore.(=アマトリチャーナ ヲ オネガイシマス。)」と応じた彼。

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【Photo】ローマの郷土料理「ブカティーニ・アッラ・アマトリチャーナ」。ASローマ所属の元イタリア代表フランチェスコ・トッティ選手も大の好物

 アマトリチャーナの具材は、香ばしく炒めた豚の頬肉の塩漬ベーコン「グアンチャーレ」と刻んだ玉ねぎ。中心に穴が開いた太めのロングパスタ「ブカティーニ」にトマトソースを絡め、ペコリーノチーズのコクが加わるのが定番です。

 アマトリチャーナを口にしたイタリア人留学生は、人目も憚らず涙をポロポロと流し始めたのだそう。異郷で出合った郷里の料理にきっとマンマの味を思い出したのでしょう。いかにも家族の結びつきが強いイタリア人らしいエピソードですね。

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【Photo】ゼロカロリーをアピールし、健康志向のイタリア人に支持される「Zen Pasta ゼンパスタ」  そのイタリアで、乾燥しらたきをパスタ風に仕上げた「Zen Pasta ゼンパスタ」が、ダイエット食として女性を中心に食品スーパーなどで売り上げを伸ばしています。

 Zen PastaZen は、商品のパッケージングからもわかる通り、禅からきています。それもそのはず。Zen Pasta を売り出したイタリア人の奥様は日本人女性。アニメ・コスプレといった日本のサブカルチャーのみならず、食文化がイタリア流にアレンジして受け入れられているのです。

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【Photo】ロングパスタSpaghetti di KonjacZen Pasta ゼンパスタのアレンジ例。ショートパスタのリガトーニバージョン「Rigataki リガタキ」も。その正体は〝乾燥しらたき〟

 ヒットの余勢をかってリゾット用「Risino リジーノ」(⇒名詞または形容詞+inoで「小さい・可愛らしい」を意味する)が登場するなど、ここ数年日本食ブームのイタリア。

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【Photo】Zen Pasta のお米バージョンRisino のイタリア人によるアレンジ例。リゾットに適したイタリア産のカルナローリ米ではなく、コンニャクが材料とはいえ、どう見てもピリ辛チャーハン

 マンマの愛情が込もった手料理で育ち、もともとが料理の味にはうるさいお国柄のイタリアではありますが、背に腹は代えられない場合のため、食品スーパーの棚にはViva la MammaKnorrRisotteria などのPiatti Pronti (インスタント食品)が一応は存在します。

 カレー味とチキン味の即席麺「idea per Noodles」を手掛けるのが、ピエロ・デッラ・フランチェスカの故郷、トスカーナ州Sansepolcro サンセポルクロで創業し、日本市場には2013年に復帰した「Buitoni ブイトーニ」。

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 同社がidea per Noodlesのバリエーションで手掛けたソース焼きそば「Yakisoba Gusto Classico ヤキソバ・グスト・クラシコ」(上写真左)が、どれほど伝統的な浪速風コテコテ路線なのか、ネーミングを含めて妙に心惹かれたりします(笑)。

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 海外展開に積極的な「味の素」の欧州における食品製造を担うポーランド味の素社では、何故に親方なのかが意味不明なカップ麺「OYAKATA NOODLES®」(上写真右)を醤油・味噌・塩・とんこつ・カレーの5種類を取り揃えて欧州各国で販売中。

 1971年(昭和46)に世界で初めてカップ麺を製品化したのが日清食品。同社ハンガリー工場で製造したCUP NOODLES がイタリア国内でも売られてはいますが、ラーメンはポピュラーな存在ではありませんでした。

【Photo】発祥の日本では単数形のCUP NOODLE。海外では複数形でCUP NOODLES

 和食がユネスコ世界文化遺産に登録された昨年、イタリアの総合食品メーカーSTAR S.p.A.社から、初のMade in Italy なカップ麺が登場しました。

 その名は、Sai che buono?(=どんだけ旨いか知ってる?)がネーミングの由来だという「SaiKeBon サイケボン」。

【Movie】親方ラーメンをイタリアなど欧州各国で販売する味の素との提携により誕生したイタリア初のカップ麺「SaiKeBon」。その誕生を鳴り物入りで告知するファンキーなTVCM。日本では人によってカップヌードルをフォークで食する一方、イタリア人の日本への理解の深まりを窺わせるのが、ロングパスタをすする日本人観光客には眉をしかめるイタリア人が、箸でラーメンを〝すすっている!!

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【Photo】味の素とSTAR S.p.A.の提携で製品化された初のイタリア製カップラーメン「SaiKeBon」ラインナップ。在伊の日本人からは「具が入っていない!」「薄味だ!」との声が上がるも、大阪がモデルと思われる漢字やドン.キホーテのネオンきらめく夜の繁華街に突如ワープするTVCM(下動画)を引っ提げ、新たにYakisobaも加わった

【Movie】SaiKeBon第二弾Yakisoba のTVCM。ソース焼きそばまでズルズルしているのには少し違和感を覚える(笑)。街角の雰囲気がSF映画の金字塔「ブレードランナー」に登場する2019年のロサンゼルスを思わせる??

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 「Unione Bonsaisti Italianiイタリア盆栽協会」には、イタリア全土で77の支部が存在し、2,000名以上の会員が加入しています。

 風変わりなSaiKeBonという商品名の〝Sai〟や〝Bon〟という言葉の響きは、イタリア人に盆栽を連想させ、東洋的でエキゾチックな雰囲気なのでしょう。

Nudolini Orientali(=東洋の麺)〟という触れ込み通り、Pollo con Salsa di Soia(=鶏肉しょうゆ)味の袋入りパッケージ(右写真)には「アジア風ヌードル」と「鶏肉しょうゆ風味」の筆文字が並びます。

 その外見から、小泉八雲の怪談に登場する壇ノ浦で滅亡した平家一門の亡霊から身を守らんと、全身に般若心経を写経された耳なし芳一を想起したのは、果たして庄イタだけでしょうか?

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【Photo】名優中村賀津雄(のちの嘉葎雄)が盲目の琵琶法師を、芳一の両耳を奪い去る平家の亡霊役を霊界の事情に明るい丹波哲郎が演じた1965年公開のオムニバス映画「怪談」(小林正樹監督)第3話「耳無し芳一の話」より

 韓国系・中国系企業も進出するイタリアカップ麺市場の現状を押さえた上で、次回「Pasta? Not Pasta?」では、パスタの聖地グラニャーノに大胆な殴り込みをかけた日本製品の登場です。

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2015/07/18

中 洞 牧 場 牛 乳

健やかで幸せな牛から おいしい牛乳

自然と共生する「日本の山地(やまち)酪農


 JR盛岡駅から東へ、R455を田野畑村方向、ないしはR106を宮古市に向かって車で2時間余り。目指す「中洞牧場(なかほらぼくじょう)」は、岩手県下閉伊郡岩泉町の山林を切り開いた真っただ中にあります。

1-yamachi001.jpg【Photo】年間を通して放牧するため、牛舎が存在しない中洞牧場。牧草ではなく回復力が旺盛な野芝が生えている。春先の淡い緑(上)が盛夏には濃い緑の野芝に覆われる(下)

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 中洞牧場では、365日昼夜を問わず広さ50haの急峻な山あり牧草地ありの自然豊かな環境のもと、現在88頭の牛を完全放牧により飼育しています。

power_alive_tadashi-nakahora.jpg 1984年(昭和59)の創業から6年後の1990年(平成2)、年間昼夜通して屋外で牛を飼育する「中洞式山地(やまち)酪農」を確立したのが、1952年に岩手県宮古市で生まれた牧場主の中洞正さん。

 中洞さんが2006年から客員教授を務める母校の東京農業大学在学中、植物生態学者で昭和40年代から野芝を牛の飼料に活用する日本型山間酪農を提唱していた猶原恭爾(なおはらきょうじ)氏と出会います。

【Photo】「黒い牛乳」(2009.7幻冬舎メディアコンサルティング刊)などの著作を通して、牛と人と自然の持続可能な未来を提示し、日本の酪農のあり方に警鐘を鳴らす中洞氏の最新刊「中洞正の生きる力」(2013.9六耀社刊)

 岩泉と隣接する岩手県下閉伊郡田野畑村で「田野畑山地酪農牛乳」を生産する「熊谷牧場くがねの牧」熊谷隆幸さんや「吉塚牧場志ろがねの牧」吉塚公雄さんも中洞さんと同様、猶原博士の薫陶を受けた教え子です。

1-winter-nakahora.jpg【Photo】冬の中洞牧場。乳が張った牛たちは、朝の搾乳時刻になると自ら搾乳所に集まってくる。搾乳を終えた牛たちは山へと戻って思い思いの時間を過ごし(上写真)、夕刻には再び搾乳所に集まって来る(下写真)

1-yamachi032.jpg 山地酪農の聖地ともいうべきそこは、標高710m~860mで真冬には氷点下20℃にもなる北上山地。苦手な暑さをしのぐ夏毛から冬毛に生え換わった牛たちは寒さにはめっぽう強く、たとえ吹雪の日でも窪地や物陰に身を寄せ合って夜を明かします。

 1日2回(朝6時30分と夕刻4時)の搾乳時間になると、乳が張った牛たちは「お乳搾って~」といわんばかりに山から搾乳所に列をなして自発的に集まってきます。搾乳するのはジャージー牛(オス)とホルスタイン(メス)の自然交配により仔牛を生んで間もないF1交雑種が主で、その数はシーズンによって異なりますが、30頭前後。

nakahora-jyasi.jpg【Photo】巨乳好きならたまらないはずのサービスショット(´`)。ガンジー種もいる中洞牧場の主力はジャージー種。仔牛を生んで10カ月間は乳が出る。草や藁といった人間の食料とならない飼料から牛乳を生みだす牛は、人類の歴史の中で大きな役割を果たしてきた

1-DSCF5991.jpg 日本で飼育される乳牛は99%が白黒まだら模様のホルスタイン種です。体がひとまわり小さな中洞牧場のジャージー種から搾乳できる量は、泌乳量が多いホルスタインの3分の2ほどの年間4,000ℓ程度。

 1997年(平成9)に製品化プラントまで自作してしまった中洞牧場では、中洞さんを含めて現在12名の牧場スタッフほか数名の研修生が、生乳の加工から商品の出荷までを一貫して行います。

 アジア最大級の食品・飲料見本市FOODEX JAPAN 2013において実施された「ご当地牛乳グランプリ」には、日本各地から48点の味自慢の牛乳がエントリー。「中洞牧場牛乳」を含む5点が最高金賞に選出されました。

 1,592名の審査員によるネーミング・パッケージデザイン・商品のこだわり審査に加え、最高金賞5点の中で唯一、5段階評価による試飲審査で満点を獲得したのが、中洞牧場牛乳でした。その違いの理由はどこにあるのでしょう。

nakahora-jyasi2.jpg【Photo】牛が排泄する堆肥は、草食ゆえにチッソ・リン酸・カリウムを豊富に含む。そのため中洞牧場では一切の化学肥料を必要としない。放牧される乳牛の頭数が適正なため、回復力が旺盛な野芝で植生が安定している

 〝牛が健やかで幸せであること〟を中洞さんは真っ先に挙げます。現在の日本の酪農では、草食動物である牛に穀物を与えるのが一般的。1951年(昭和26)に定められた乳等省令(乳及び乳製品の成分規格等に関する省令)では、無脂乳固形分8.0%以上、乳脂肪分3.0%以上を牛乳と規定しています。

 ところが1987年(昭和62)に大手乳業メーカーの要請を受けた全農とホクレンなど農協関連の集乳団体が、買い取る生乳の乳脂肪率を3.2%から3.5%へ引き上げます。同時に規定に満たない生乳の買い取り価格を半値にしたことが大きく影響しています。日本の酪農家の9割以上は、こうした大手組織に生乳を出荷しています。

nakahora-holstinef1.jpg【Photo】中洞牧場の健康な牛は獣医や人の手を借りることなく仔牛を出産し、仔牛は半日もすると母牛の後を追いかけるようになる

 ホルスタインの場合、青草を食べる放牧では乳脂肪値3.5%は得られません。青草や稲藁など自給可能な粗飼料ではなく、多くを米国からの輸入に依存するトウモロコシや大豆粕など高カロリーの濃厚飼料が必須の存在となります。これを契機に広大な牧草地は不要となり、牛の運動量を抑制する牛舎飼いが普及しました。

1-camui_oxx.jpg バイオエタノール燃料としてのトウモロコシの需要拡大と円安による飼料代の高騰により、日本の酪農経営は非常に厳しい状況に置かれています。

【Photo】種牛の責務である世継ぎを設けるため、発情したメスのご機嫌をとりつつ「モ~、大変」と日々奮闘。中洞牧場の明日を担うオスのジャージー種「カムイ」

 とあるTV番組で、米国の某有名プレミアアイスクリームブランドが、原材料に採用した乳脂肪率4.0%の牛乳を生産する北海道東の農協が紹介されていました。一頭ごとの数値チェックによる給餌管理は、放牧と穀類を6割以上含む配合飼料を併用していました。

Y-ko.jpg 草食動物である牛に高カロリーな濃厚飼料を過剰に与えると胃潰瘍が頻発します。さらにケージ飼いの牛は足が弱るため、家畜としての寿命はせいぜい5-6年。20年といわれる天寿を全うすることなく一生を終えます。(参考:中央酪農会議HP

 獣医による人工授精で牛が人間の管理下で誕生する一般的な酪農とは違い、自然分娩で誕生する中洞牧場の仔牛は、母牛から生後すぐに引き離されることもありません。乳離れするまでの2ヶ月間は仔牛が飲んだ残りを人が頂くのです。本来、自然界では牛は少なくとも20年は生きるといわれる動物。

【Photo】中洞さんと現在の中洞牧場の最高齢1999年8月生まれの「Y子」。命名の理由は、生まれたばかりの頃の顔のブチがアルファベットの「Y」だったから

 中洞さんは獣医が「老衰死」と死亡診断書に記載する牧場は、日本中探してもウチぐらいだろうと笑います。一頭ごとに名前をつける中洞牧場における最高齢記録は、19歳で仔牛を生んだ雌「ボス」。現在の最高齢は8月で満16歳になる「Y子」。中洞さんに言わせると、一番の別嬪さんなのだそう。

1-19nerBoss.jpg【Photo】5~6年で家畜としての役割を終え、肉牛として出荷される日本の酪農では、仔牛を2回生むのがせいぜい。2013年の秋、中洞牧場では19歳のメス牛「ボス」が、15頭目となるであろう仔牛を生んだ

 自然交配・自然分娩による中洞牧場では、牛たちは広大な敷地で青草や灌木の葉を食(は)み、時に急斜面を移動しつつ、牛の生体リズムに合わせた生活を送ります。人が最低限の伐採を行うと、片っぱしから牛たちが枝の葉を食べ、次に下草を食べてゆきます。(中洞氏は牛による「舌草刈り」と呼んでいる)

1-yamachi038.jpg【Photo】枝打ちした広葉樹の葉は、急斜面を登ってきた牛たちのご飯に早変わり。葉が無くなった枝は運搬が楽になり、作業効率が上がって一石二鳥なのだという

 ストレスフリーな中洞牧場で暮らす牛たちは、草を食べ続けるために第一胃が発達して胴体が幅広いのが外見上の特徴。こうした健康な牛が排泄する堆肥は、自然に生えてくる生命力が強い野芝の養分となり、次第に大地を覆ってゆきます。

1-19er-boss2.jpg【Photo】泌乳量を高めるため、高カロリーな配合飼料を与えて牛に負担を強いる日本の酪農では例外中の例外と言ってよい19歳で仔牛を生んだメス牛「ボス」の搾乳

 安価な輸入材に押されて林業が衰退し、日本の山林の多くは管理が行き届かず荒れ果てています。保水力が弱まった山は土砂災害を誘発しています。

 世界の飢餓人口は8億人以上。ヒトの食糧となるトウモロコシではなく、食料資源として競合しない野芝と乾草を飼料とする山地酪農。中洞牧場の取り組みは、放置されたままの国土の7割を占める山林と共生し、資源低投入型の持続可能な酪農の在るべき姿を提示しているように思います。

 中洞牧場では、生乳に摂氏65℃で30分の低温保持殺菌を施します。これは生乳の味を大切にするため。同様に生クリーム成分である脂肪球を砕かないノンホモジナイズ製法のため、中洞牧場牛乳は静置しておくと、上からバター状の脂肪球、生クリーム、牛乳の三層に分かれてきます。

1-DSCF6030.jpg 草食の証であるうっすら黄色がかった中洞牧場牛乳を、軽く振って一口飲んでみましょう。哺乳類のDNAを細胞レベルで歓喜させる豊かなコク、生クリーム由来の甘い香り、スッキリ爽やかな後味に感動すら覚えるはず。

 乳脂肪率が高い牛乳=美味しい牛乳だと思っておいでの方は、乳脂肪分3.0%以上との記載に驚きを禁じ得ないでしょう。水分が多い夏草を食べる季節は、それが自然の摂理。自家調達する干し草を雪の上で与える冬期間は、数値が3.5%近辺まで変化します。

【Photo】前回「Il dolce e l'amaro スウィート & ビター〈後編〉」において既報の通り、仙台藤崎本館地下2Fで中洞牧場牛乳を取り扱う(720mℓ1,180円 500mℓ 810円 130mℓ 270円)

 日本で流通する9割以上の牛乳は、処理効率と殺菌効果の高い120℃以上で1-3秒の超高温瞬間殺菌を採用しています。どうやら高乳脂肪率信仰に支配された日本の消費者は、加熱により牛乳のタンパク質が変性して焦げた味をコク、ねっとりとしたしつこさを濃厚な旨味だと勘違いしているようです。

Leonardo_da_Vinci_attributed_-_Madonna_Litta.jpg 〝牛の血液から生成される牛乳を人間が飲むこと自体が不自然〟を筆頭に、〝乳糖不耐症が多い日本人はタンパク質を分解する消化酵素を持ち合わせていない〟とか、〝乳糖が骨粗鬆症を引き起こす〟など、納得しうる論拠に乏しい牛乳悪者論がネット上を中心に散見されます。

 牛の乳を人間が飲むのが不自然なる説が正しければ、乳離れ後の赤ちゃんがタンパク源を得るために残された唯一の道は、人食い人種。

 〝極端な情報に振り回されず、偏った食スタイルを見直し、バランスのとれた食生活を送るべき〟との正鵠を得た意見に救いを見る庄イタであります。

 永遠の都ローマを紀元前753年に建国した双生児ロムルスとレムスは、テヴェレ川に捨てられ、オオカミの乳で育ちました。これは神話の域を出ませんが、食事もワインもイタリア偏重の生活スタイルを変えるつもりは毛頭ございません。(^ ^;

【Photo】レオナルド・ダ・ヴィンチ作「授乳の聖母」(〈右上〉サンクトペテルブルク・エルミタージュ美術館所蔵) 作者不詳「カピトリヌスの雌狼」(〈下〉ローマ・カピトリーノ美術館所蔵 ※近年の研究により、紀元前5世紀エトルリア時代の作という定説が覆り、中世説が有力となった)

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中 洞 牧 場

住:岩手県下閉伊郡岩泉町上有芸字水堀287
・Phone:050-2018-0112
・URL: http://nakahora-bokujou.jp/index.html
・事業主体:農業生産法人 株式会社 企業農業研究所
       株式会社 山地酪農研究所
・見学随時:詳細はコチラ参照
・問い合わせ:https://nakahora-bokujou.jp/bokujou/mail.cgi

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