あるもの探しの旅

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中 洞 牧 場 牛 乳

健やかで幸せな牛から おいしい牛乳

自然と共生する「日本の山地(やまち)酪農


 JR盛岡駅から東へ、R455を田野畑村方向、ないしはR106を宮古市に向かって車で2時間余り。目指す「中洞牧場(なかほらぼくじょう)」は、岩手県下閉伊郡岩泉町の山林を切り開いた真っただ中にあります。

1-yamachi001.jpg【Photo】年間を通して放牧するため、牛舎が存在しない中洞牧場。牧草ではなく回復力が旺盛な野芝が生えている。春先の淡い緑(上)が盛夏には濃い緑の野芝に覆われる(下)

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 中洞牧場では、365日昼夜を問わず広さ50haの急峻な山あり牧草地ありの自然豊かな環境のもと、現在88頭の牛を完全放牧により飼育しています。

power_alive_tadashi-nakahora.jpg 1984年(昭和59)の創業から6年後の1990年(平成2)、年間昼夜通して屋外で牛を飼育する「中洞式山地(やまち)酪農」を確立したのが、1952年に岩手県宮古市で生まれた牧場主の中洞正さん。

 中洞さんが2006年から客員教授を務める母校の東京農業大学在学中、植物生態学者で昭和40年代から野芝を牛の飼料に活用する日本型山間酪農を提唱していた猶原恭爾(なおはらきょうじ)氏と出会います。

【Photo】「黒い牛乳」(2009.7幻冬舎メディアコンサルティング刊)などの著作を通して、牛と人と自然の持続可能な未来を提示し、日本の酪農のあり方に警鐘を鳴らす中洞氏の最新刊「中洞正の生きる力」(2013.9六耀社刊)

 岩泉と隣接する岩手県下閉伊郡田野畑村で「田野畑山地酪農牛乳」を生産する「熊谷牧場くがねの牧」熊谷隆幸さんや「吉塚牧場志ろがねの牧」吉塚公雄さんも中洞さんと同様、猶原博士の薫陶を受けた教え子です。

1-winter-nakahora.jpg【Photo】冬の中洞牧場。乳が張った牛たちは、朝の搾乳時刻になると自ら搾乳所に集まってくる。搾乳を終えた牛たちは山へと戻って思い思いの時間を過ごし(上写真)、夕刻には再び搾乳所に集まって来る(下写真)

1-yamachi032.jpg 山地酪農の聖地ともいうべきそこは、標高710m~860mで真冬には氷点下20℃にもなる北上山地。苦手な暑さをしのぐ夏毛から冬毛に生え換わった牛たちは寒さにはめっぽう強く、たとえ吹雪の日でも窪地や物陰に身を寄せ合って夜を明かします。

 1日2回(朝6時30分と夕刻4時)の搾乳時間になると、乳が張った牛たちは「お乳搾って~」といわんばかりに山から搾乳所に列をなして自発的に集まってきます。搾乳するのはジャージー牛(オス)とホルスタイン(メス)の自然交配により仔牛を生んで間もないF1交雑種が主で、その数はシーズンによって異なりますが、30頭前後。

nakahora-jyasi.jpg【Photo】巨乳好きならたまらないはずのサービスショット(´`)。ガンジー種もいる中洞牧場の主力はジャージー種。仔牛を生んで10カ月間は乳が出る。草や藁といった人間の食料とならない飼料から牛乳を生みだす牛は、人類の歴史の中で大きな役割を果たしてきた

1-DSCF5991.jpg 日本で飼育される乳牛は99%が白黒まだら模様のホルスタイン種です。体がひとまわり小さな中洞牧場のジャージー種から搾乳できる量は、泌乳量が多いホルスタインの3分の2ほどの年間4,000ℓ程度。

 1997年(平成9)に製品化プラントまで自作してしまった中洞牧場では、中洞さんを含めて現在12名の牧場スタッフほか数名の研修生が、生乳の加工から商品の出荷までを一貫して行います。

 アジア最大級の食品・飲料見本市FOODEX JAPAN 2013において実施された「ご当地牛乳グランプリ」には、日本各地から48点の味自慢の牛乳がエントリー。「中洞牧場牛乳」を含む5点が最高金賞に選出されました。

 1,592名の審査員によるネーミング・パッケージデザイン・商品のこだわり審査に加え、最高金賞5点の中で唯一、5段階評価による試飲審査で満点を獲得したのが、中洞牧場牛乳でした。その違いの理由はどこにあるのでしょう。

nakahora-jyasi2.jpg【Photo】牛が排泄する堆肥は、草食ゆえにチッソ・リン酸・カリウムを豊富に含む。そのため中洞牧場では一切の化学肥料を必要としない。放牧される乳牛の頭数が適正なため、回復力が旺盛な野芝で植生が安定している

 〝牛が健やかで幸せであること〟を中洞さんは真っ先に挙げます。現在の日本の酪農では、草食動物である牛に穀物を与えるのが一般的。1951年(昭和26)に定められた乳等省令(乳及び乳製品の成分規格等に関する省令)では、無脂乳固形分8.0%以上、乳脂肪分3.0%以上を牛乳と規定しています。

 ところが1987年(昭和62)に大手乳業メーカーの要請を受けた全農とホクレンなど農協関連の集乳団体が、買い取る生乳の乳脂肪率を3.2%から3.5%へ引き上げます。同時に規定に満たない生乳の買い取り価格を半値にしたことが大きく影響しています。日本の酪農家の9割以上は、こうした大手組織に生乳を出荷しています。

nakahora-holstinef1.jpg【Photo】中洞牧場の健康な牛は獣医や人の手を借りることなく仔牛を出産し、仔牛は半日もすると母牛の後を追いかけるようになる

 ホルスタインの場合、青草を食べる放牧では乳脂肪値3.5%は得られません。青草や稲藁など自給可能な粗飼料ではなく、多くを米国からの輸入に依存するトウモロコシや大豆粕など高カロリーの濃厚飼料が必須の存在となります。これを契機に広大な牧草地は不要となり、牛の運動量を抑制する牛舎飼いが普及しました。

1-camui_oxx.jpg バイオエタノール燃料としてのトウモロコシの需要拡大と円安による飼料代の高騰により、日本の酪農経営は非常に厳しい状況に置かれています。

【Photo】種牛の責務である世継ぎを設けるため、発情したメスのご機嫌をとりつつ「モ~、大変」と日々奮闘。中洞牧場の明日を担うオスのジャージー種「カムイ」

 とあるTV番組で、米国の某有名プレミアアイスクリームブランドが、原材料に採用した乳脂肪率4.0%の牛乳を生産する北海道東の農協が紹介されていました。一頭ごとの数値チェックによる給餌管理は、放牧と穀類を6割以上含む配合飼料を併用していました。

Y-ko.jpg 草食動物である牛に高カロリーな濃厚飼料を過剰に与えると胃潰瘍が頻発します。さらにケージ飼いの牛は足が弱るため、家畜としての寿命はせいぜい5-6年。20年といわれる天寿を全うすることなく一生を終えます。(参考:中央酪農会議HP

 獣医による人工授精で牛が人間の管理下で誕生する一般的な酪農とは違い、自然分娩で誕生する中洞牧場の仔牛は、母牛から生後すぐに引き離されることもありません。乳離れするまでの2ヶ月間は仔牛が飲んだ残りを人が頂くのです。本来、自然界では牛は少なくとも20年は生きるといわれる動物。

【Photo】中洞さんと現在の中洞牧場の最高齢1999年8月生まれの「Y子」。命名の理由は、生まれたばかりの頃の顔のブチがアルファベットの「Y」だったから

 中洞さんは獣医が「老衰死」と死亡診断書に記載する牧場は、日本中探してもウチぐらいだろうと笑います。一頭ごとに名前をつける中洞牧場における最高齢記録は、19歳で仔牛を生んだ雌「ボス」。現在の最高齢は8月で満16歳になる「Y子」。中洞さんに言わせると、一番の別嬪さんなのだそう。

1-19nerBoss.jpg【Photo】5~6年で家畜としての役割を終え、肉牛として出荷される日本の酪農では、仔牛を2回生むのがせいぜい。2013年の秋、中洞牧場では19歳のメス牛「ボス」が、15頭目となるであろう仔牛を生んだ

 自然交配・自然分娩による中洞牧場では、牛たちは広大な敷地で青草や灌木の葉を食(は)み、時に急斜面を移動しつつ、牛の生体リズムに合わせた生活を送ります。人が最低限の伐採を行うと、片っぱしから牛たちが枝の葉を食べ、次に下草を食べてゆきます。(中洞氏は牛による「舌草刈り」と呼んでいる)

1-yamachi038.jpg【Photo】枝打ちした広葉樹の葉は、急斜面を登ってきた牛たちのご飯に早変わり。葉が無くなった枝は運搬が楽になり、作業効率が上がって一石二鳥なのだという

 ストレスフリーな中洞牧場で暮らす牛たちは、草を食べ続けるために第一胃が発達して胴体が幅広いのが外見上の特徴。こうした健康な牛が排泄する堆肥は、自然に生えてくる生命力が強い野芝の養分となり、次第に大地を覆ってゆきます。

1-19er-boss2.jpg【Photo】泌乳量を高めるため、高カロリーな配合飼料を与えて牛に負担を強いる日本の酪農では例外中の例外と言ってよい19歳で仔牛を生んだメス牛「ボス」の搾乳

 安価な輸入材に押されて林業が衰退し、日本の山林の多くは管理が行き届かず荒れ果てています。保水力が弱まった山は土砂災害を誘発しています。

 世界の飢餓人口は8億人以上。ヒトの食糧となるトウモロコシではなく、食料資源として競合しない野芝と乾草を飼料とする山地酪農。中洞牧場の取り組みは、放置されたままの国土の7割を占める山林と共生し、資源低投入型の持続可能な酪農の在るべき姿を提示しているように思います。

 中洞牧場では、生乳に摂氏65℃で30分の低温保持殺菌を施します。これは生乳の味を大切にするため。同様に生クリーム成分である脂肪球を砕かないノンホモジナイズ製法のため、中洞牧場牛乳は静置しておくと、上からバター状の脂肪球、生クリーム、牛乳の三層に分かれてきます。

1-DSCF6030.jpg 草食の証であるうっすら黄色がかった中洞牧場牛乳を、軽く振って一口飲んでみましょう。哺乳類のDNAを細胞レベルで歓喜させる豊かなコク、生クリーム由来の甘い香り、スッキリ爽やかな後味に感動すら覚えるはず。

 乳脂肪率が高い牛乳=美味しい牛乳だと思っておいでの方は、乳脂肪分3.0%以上との記載に驚きを禁じ得ないでしょう。水分が多い夏草を食べる季節は、それが自然の摂理。自家調達する干し草を雪の上で与える冬期間は、数値が3.5%近辺まで変化します。

【Photo】前回「Il dolce e l'amaro スウィート & ビター〈後編〉」において既報の通り、仙台藤崎本館地下2Fで中洞牧場牛乳を取り扱う(720mℓ1,180円 500mℓ 810円 130mℓ 270円)

 日本で流通する9割以上の牛乳は、処理効率と殺菌効果の高い120℃以上で1-3秒の超高温瞬間殺菌を採用しています。どうやら高乳脂肪率信仰に支配された日本の消費者は、加熱により牛乳のタンパク質が変性して焦げた味をコク、ねっとりとしたしつこさを濃厚な旨味だと勘違いしているようです。

Leonardo_da_Vinci_attributed_-_Madonna_Litta.jpg 〝牛の血液から生成される牛乳を人間が飲むこと自体が不自然〟を筆頭に、〝乳糖不耐症が多い日本人はタンパク質を分解する消化酵素を持ち合わせていない〟とか、〝乳糖が骨粗鬆症を引き起こす〟など、納得しうる論拠に乏しい牛乳悪者論がネット上を中心に散見されます。

 牛の乳を人間が飲むのが不自然なる説が正しければ、乳離れ後の赤ちゃんがタンパク源を得るために残された唯一の道は、人食い人種。

 〝極端な情報に振り回されず、偏った食スタイルを見直し、バランスのとれた食生活を送るべき〟との正鵠を得た意見に救いを見る庄イタであります。

 永遠の都ローマを紀元前753年に建国した双生児ロムルスとレムスは、テヴェレ川に捨てられ、オオカミの乳で育ちました。これは神話の域を出ませんが、食事もワインもイタリア偏重の生活スタイルを変えるつもりは毛頭ございません。(^ ^;

【Photo】レオナルド・ダ・ヴィンチ作「授乳の聖母」(〈右上〉サンクトペテルブルク・エルミタージュ美術館所蔵) 作者不詳「カピトリヌスの雌狼」(〈下〉ローマ・カピトリーノ美術館所蔵 ※近年の研究により、紀元前5世紀エトルリア時代の作という定説が覆り、中世説が有力となった)

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中 洞 牧 場

住:岩手県下閉伊郡岩泉町上有芸字水堀287
・Phone:050-2018-0112
・URL: http://nakahora-bokujou.jp/index.html
・事業主体:農業生産法人 株式会社 企業農業研究所
       株式会社 山地酪農研究所
・見学随時:詳細はコチラ参照
・問い合わせ:https://nakahora-bokujou.jp/bokujou/mail.cgi

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