あるもの探しの旅

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Italian Film Noir di Persol

フィルム・ノワールの世界へと誘うサングラス


 男性は無論のこと、紫外線対策に余念がない女性でも、つい見落としがちなのが瞳へのダメージではないでしょうか。紫外線によって水晶体に濁りが生じ、視力を失う恐れがある白内障は、40代から発症するケースもあるといいますから、気を抜けません。

 瞳孔の周辺を縁取る虹彩(こうさい)は、その模様と色あいは人によって異なり、二つとして同じパターンは存在しません。なかには左右で瞳の色が異なるオッドアイ(虹彩異色)の持ち主であるデヴィッド・ボウイや奥菜恵さんのような珍しい事例も。

odd-occhio-gatto.jpg【Photo】一般に「金目銀目」とも呼ばれる左右で瞳の色が異なる先天性オッドアイ(虹彩異色)のネコちゃん。飼い主がカラーコンタクトのマニアにはあらず

 濃褐色の瞳の持ち主が多いアジア系やアフリカ系、そしてシチリア人は、眩しさや紫外線に対する耐性が、淡い色より強い傾向にあります。一方で北イタリアに見られる淡褐色やグリーン系、そして北欧に多い碧眼は、生まれつき眩しさを感じやすいといいます。  

 8月上旬までは、ジリジリとした太陽の季節だった今年の夏。自転車や車で外出する際に大活躍したのが、ハンドメードによる質感の高さで知られるイタリアン・ハイエンドアイウエア・ブランド「Persol ペルソール」のサングラスです。

Persol_PO0714.jpg【Photo】スティーブ・マックイーンが着用した折り畳み式サングラスを忠実に再現したPersol の限定モデル「714SM」(Color:Light Havana

 カメラマンをしていたオダルド(1886-1942)とジュゼッペ(1890-1965)のラッティ兄弟が、北イタリア・ピエモンテ州トリノのカステッロ広場から延びるローマ通りの一角で1875年から営業していたOttica Berry (ベリー眼鏡店)を買収したのが1910年。

Protector-Persol.jpg【Photo】複葉機が空の主役だった時代に登場した風圧に耐えるよう伸縮バンドで固定し、スモークガラスを装着したラッティ眼鏡店のゴーグル「Protector(左写真)

 写真家としてのラッティ兄弟が、おもに第一次大戦中に撮影した写真は、トリノのランドマーク「Mole Antonelliana モーレ・アントネリアーナ」内の国立映画博物館のアーカイブに収蔵されています。

 ジュゼッペが第一次世界大戦のさなか撮影に訪れたトリノ空港で、パイロット達から操縦中に眩しさを感じるという話を耳にします。ジュゼッペが光学に対する知識を生かし、自ら開発した飛行用の防眩ゴーグルを発売したのが1917年。

 1903年にライト兄弟が人類初の有人動力飛行に成功して以降、飛行技術の進歩は急速に進みます。14の国際特許を取得したProtector は、1924年にイタリア空軍に、3年後にはスイス空軍に、のちにアメリカ空軍にも採用されます。そのシンボルマークは、幸運をもたらす鳥とされるLa Cicogna(=コウノトリ)でした。

1000-Miglia-1930-Alfa.jpg【Photo】1930年のミッレ・ミリアで優勝したAlfa Romeo 6C 1750GS Spyder Zagato。土埃が舞うダートを猛スピードで疾走するドライバーにとって、ゴーグルは必需品だった

 ラッティのゴーグルは、モータースポーツの分野でも活躍します。時まさに1927年に始まったカーレース「Mille Miglia ミッレ・ミリア」の草創期。ブレシア-ローマ間およそ1,000マイルを2日間で往復するこの伝説の自動車レースは、初回こそOfficine Meccaniche が上位を独占しますが、2年目以降は1500cc6気筒エンジンで最高時速140kmに達した6C や、世界初のアルミ製8気筒エンジン8C で参戦したAlfa Romeo が、第二次世界大戦による中断を挟んで以降はFerrari が輝かしい戦績を残します。

Persol-logo.jpg 1938年に立ち上げた独自ブランド「Persol ペルソール」は、イタリア語で〝Per il Sole〟(英語〝For the Sun〟)に由来するもの。その名が示す通り、Persol を語るとき、防眩のためのサングラスは欠かせない存在なのです。

【Photo】Persol のロゴ(右)は、その原点であるProtector のロゴ(上写真)を踏襲している

Quality-Technology-Persol.jpg 顔の形状に合わせてテンプル(フレームで耳に掛ける部分)の角度が変化し、側頭部への圧迫を軽減するパーツを左右2カ所ずつ組み込んだ特許技術「Meflecto」のほか、厳選した純度の高い石英を用いた強化クリスタルガラスや、4層構造のイエロー・ブラウンと称されるUVカットガラスを1920年代に世界で初めて開発。

【Photo & Movie】ステンレス製の芯に円柱状シリンダーを左右のテンプル2カ所ずつ組み込み、可動性を確保したPersol 独自の機能〝Meflecto〟が、かけ心地の良さを約束する



 こうした優れた技術が認められ、アメリカ空軍、NASA アメリカ航空宇宙局、ヒマラヤに挑む登山家、パリ・ダカールラリーなど、過酷な使用環境のもとで確かな実績を今日まで積み上げてきました。

Lenses-Persol.jpg【Photo】Persol が誇る高純度シリカを使用した強化ガラスレンズ。目に有害な紫外線をシャットアウトする効果が特に高いのが、そのイメージカラーとも言えるイエローブラウンと呼ばれる茶系

 サングラスのレンズにプラスチックではなく、表面にキズがつかない強化ガラスを使っているのは、Persol 以外にはRey-Ban だけ。流行のサイクルごと毎年のようにサングラスを買い替えるファッショニスタは別として、オーセンティックなスタイルを長く愛用したい向きには嬉しい仕様です。 

freccia-persol.jpg【Photo】左右一対の腎臓をモチーフにしたBMW のキドニーグリルと同様、Persol のアイコンとなるのが、古代ローマ兵が使った剣からインスピレーションを得たヒンジのデザイン

 古代ローマ兵が使用した短剣「グラディウス」をかたどった「Freccia(=「矢」を意味する伊語)」と呼ばれる特徴的なヒンジ(蝶番)の形状には、30種以上のバリエーションが生み出されました。これがデザイン上でのPersol のアイデンティティを担っています。

mastroyanni-persol.jpg 1961年公開の映画「Divorzio all'italiana(邦題:イタリア式離婚協奏曲)」でマルチェロ・マストロヤンニが着用したモデルが「649(上写真)。スティーブ・マックイーンが「The Thomas Crown Affair(邦題:華麗なる賭け)」で着用した折り畳み式モデルは「714」。007シリーズ、ミッション・インポッシブル、ターミネーター2 など数多くの映画にPersol は登場します。

 昨年、ジョージ・クルーニーが挙式のため訪れたヴェネツィアでは「3074S」を着用。アレッサンドロ・デル・ピエロやフィリッポ・インザーギ、ジュリア・ロバーツ、トム・クルーズなど世界のセレブに愛されるハイエンド・アイウェアとしての高い評価と揺るがぬ名声を得ています。

persol_a_mano.jpg【Photo】たゆまぬ技術革新とイタリア伝統の手技とが融合するPersol 。直接身につけるアイテムだけに、その使い勝手の良さや質感の高さを実感すると、もはや手放せなくなる

 1995年4月、Persol は世界シェアの8割を占める眼鏡メーカー「Luxottica ルックスオッティカ」グループの傘下となります。ミラノを拠点とするLuxotticaは、Rey-BanOakleyVogue などの商標権を有し、BVLGARI, PRADA, ARMANI, CHANEL といったスーパーブランドからライセンス生産を委託されています。

【Movie】Persol のブランドイメージを築いた名作モデル「714」復刻版の製造工程。手作業による組み立てと丹念な仕上げの一端を紹介する3分の動画

 綿花とパルプを材料とするアセテート繊維から作られるセルロイドフレームは、体温に近い触感で肌触りの優しいアレルギーフリーな素材です。手仕事で磨きあげられるフレームや蝶番の滑らかな艶と触感の良さはフルハンドメードならでは。先進技術を取り入れながら、時にクラシックな雰囲気も漂わせる質感の高い仕上がりは定評あるところです。

1-Vintage-Persol-Bahia.jpg【Photo】Persol Luxotticaの傘下となった翌月の1995年5月、庄イタが水の都ヴェネツィアで購入した〝Persol Ratti 〟の刻印入りBahia バイーア

 庄イタとPersol との出合いは、レンズとフレームからなる現在の眼鏡が13世紀に発明されたヴェネツィアで1995年に買い求めたゴールドフレームの「Bahia バイーア」でした。Persol が現在の名声を築く礎となった軽量の複層ガラスレンズが、ボートやゴンドラで水の都を移動する際、水面に乱反射する5月のまばゆい陽光を和らげてくれました。

bahia-persol&PO7034.jpg【Photo】Persol を代表するレンズカラーといえばイエローブラウンと称される茶系。弾力性のあるテンプルが顔にフィットするBahia バイーア(上左手前)の後継として選んだのがFilm Noir Edition フィルム・ノワール・エディションの3074S(上右奥・下写真)

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 ヴィンテージ市場で現在も熱烈な崇拝者がいる創業の地トリノで作られていた証である〝Persol Ratti〟の刻印が入ったBahia を随分と愛用しましたが、昨年登場したモデル「Film Noir Edition フィルム・ノワール・エディション」がお気に入りに加わりました。

persol-filmnoir3.jpg【Photo】Film Noir Edition のデザイン上での最大の特徴は、Persol のアイデンティティとなる蝶番の形状が、Persol Ratti の時代に存在した「Phoenix フェニックス」(下写真)をリバイバルで取り入れている点

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 Film Noir は、ハンフリー・ボガート主演「The Maltese Falcon(邦題:マルタの鷹)」など1940年代から1950年代にかけてのハリウッド製モノクロ犯罪映画の総称。光と影の陰影を誇張した映像、身の破滅を招くファム・ファタール(=運命の女)の存在、虚無的な雰囲気といった共通点が挙げられます。

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 庄イタ的にフィルム・ノワールといえば、いささか時代がかったハリウッド映画ではなく、フレンチ・フィルム・ノワールの代表格ジャン・ピエール・メルヴィル監督作品。なかでも1967年制作の仏伊合作による映画ながら、今なおいぶし銀の輝きが色褪せぬ「Le Samouraï サムライ」を挙げずにはおけません。その全編を覆い尽くすトーンは、ひんやりとした金属的な青みがかったダークグレー。

 パリの殺風景なアパルトマンの一室で、籠飼いする一羽の小鳥と暮らす殺し屋ジェフ・コステロ。Borsalino ボルサリーノと思しきソフト帽、Aquascutum アクアスキュータムのダブルトレンチコートがよく似合う殺しのプロを演じた当時32歳のアラン・ドロンにとっても、よほどお気に入りの役だったのか、香水など自身のブランドをSamouraï と名付けています。

【Movie】ハリウッド製フィルム・ノワールにありがちなB級映画の雰囲気を醸し出しているのはご愛嬌。まぎれもなく仕上がりはS級なFilm Noir Edition のイメージムービー

 2013年にモスクワで開催されたG20(20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議)に参加した麻生太郎 副総理・財務大臣の服装をご記憶でしょうか。斜めに被ったボルサリーノであろう黒のソフト帽に白いロングマフラーをあしらったファー襟の黒いコート姿は強烈でした。

 〝外遊〟気分だったためか、いささか気合いが入りすぎた感が否めず、「マフィアもどき」とまで一部でいわれた麻生氏のファッションを、ウォールストリート・ジャーナルは、〝Gangster-style(ギャングスター・スタイル)〟と報じました^ ^;)。

 かたや時計は黒革のBaume & Mercier ボーム&メルシエ、目深に被ったボルサリーノ、律儀にボタンとベルトをキリリと締め、襟を立てたベージュのトレンチや、フォーマルなチェスターフィールドコートに身を包んだ殺し屋ジェフのほうが、はるかに端正で趣味が良い着こなしだと庄イタも思います。

samourai-metro.jpg【Photo】依頼主の裏切りで銃で右腕を狙撃されたトレンチコートに代わってLe Samouraï 後半で、ジェフはシックな黒のチェスターフィールドを着用

 極端にセリフが少なく、感情を表に出さないジェフ。ジタンの紫煙をくゆらす寡黙な殺し屋の人物像を語る時、いつもどこか遠くを見ているようで、凍りつくようなジェフの目は口ほどに物を言います。ましてそこは低い雲が垂れこめ、雨がそぼ降るパリが舞台。Le Samouraï では、サングラスは一切登場しません。

 殺しに赴く折には、必ず路上駐車中のCitroën DS21を狙います。おもむろに合鍵100本ほどの束を懐から取り出し、慌てず騒がず1本ずつシリンダーに差し込んでゆくシーンが非常に印象に残ります。馴染みのオヤジが闇で営むガレージに車を持ち込み、偽造ナンバープレートに付け替え、そこで拳銃も調達。

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 とはいえジェフは無法の限りを尽くす極悪非道の輩ではなく、まして生活が破綻している訳でもありません。サムライさながらの禁欲的な行動規範を貫く姿が描かれます。たとえば、信号待ちでシトロエンの隣に並んだファセル・ヴェガ・カブリオレのキュートな女性が運転席から送る視線に気づいていながら、そ知らぬ顔で車を発進(上写真)。(⇒女性へのサービス心旺盛なイタリア男なら絶対にありえない!!

 ナイトクラブの経営者マルテを殺害し、現場から立ち去るところに偶然通りかかったピアニスト・ヴァレリー(カティ・ロジェ)に顔を見られてしまうジェフ(下写真)。〝コート姿の若い男〟という従業員らの目撃証言をもとに警察が拘束した容疑者の面通しで、ピアニストはジェフを犯人ではないと証言します。

le-samourai-valerie.jpg 愛人のジャーヌ(ナタリー・ドロン)にジェフが依頼したアリバイ工作の証言に疑いを抱く刑事。容疑を捨てきれない警察がジェフを徹底して監視する中、前金で新たな殺しを依頼されたジェフは、再び単身ナイトクラブに赴く。

 ステージに歩み寄り、演奏中のヴァレリーを無言でじっと見つめるジェフ。しばしの間を置いて右ポケットから6連式のリボルバーを取り出し、銃口を向ける。
 「Pourquoi, Jef ? (=どうして、ジェフ ? )」
事態を飲み込めず、少し困惑したような表情を浮かべるヴァレリー。
 「On m'a payé pour ça. (=仕事なんだ。)」
4発の銃声が鳴り響き、そして待ち受ける予想だにしない結末...。

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 生き方を全うせんがため、隠忍の恋に殉じたジェフにとって、ヴァレリーはまさにファム・ファタールにほかなりません。銃を構えるジェフを見つめるヴァレリーの表情(上写真)に、庄イタまでが胸をズッキューンと撃ち抜かれてしまうのです。

 残念ながら日本ではDVDが絶版となっており、アラン・ドロンの最高傑作との評価すらあるこの作品を容易に観ることはできません。YoutubeLe Samouraï と検索すると、ヒットします。雨降る秋の夜長はフレンチ・フィルム・ノワールの巨匠が遺したブルーグレーな武士道の美学に浸ってみてはいかが?

persol-filmnoir2.jpg【Photo】不死鳥が羽ばたくFilm Noir Edition 。そのイメージカラーともいえるブラックフレームのDETECTIV 3074S も捨てがたい。迷った挙句、最後に選んだのはソフトな印象を与えるHAVANAカラー

 PersolFilm Noir Edition のサングラスでは「GANGSTER ギャングスター」と「DETECTIV ディテクティブ(=探偵)」の2つのラインからレンズとフレームの色を選択できます。メガネ用のフレームは「Femme fatale ファム・ファタール」と「Reporter レポーター(=事件記者)」という映画の配役さながらのネーミング。

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 庄イタが選んだのは、ハードボイルドな印象のブラックフレームではなく、HAVANAと呼ばれるハバナ・ブラウン。Film Noir Editionと記されたスクエアなウェリントン型セルフレームに、自然な色再現が期待できる茶系のレンズを組み合わせたDETECTIVモデル「3074S(下写真)

detectiv3074S.jpg 購入後に気づいたのですが、これはジョージ・クルーニー @ Veneziaと全くのお揃いだったよう。そんなオチはさておき、太陽光の乱反射を軽減するPersol 独自の偏光レンズPolar を通して見る影射す光景は、フィルム・ノワールの世界そのものなのかもしれません。


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