あるもの探しの旅

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山に聞き 牛に聞く

中 洞 牧 場 牛 乳
健やかで幸せな牛から おいしい牛乳
自然と共生する「日本の山地(やまち)酪農」
〈2015.7.18拙稿〉【 続 編 】

nakahora1-2015.7.13.jpg【Photo】今年は10月6日に初霜が降りたという中洞牧場。夏の盛り、爽風が吹き抜けてゆく山の稜線など、牛は思い思いの居心地の良いお気に入りの場所で青草を食む

 この夏に出合い、ススキの綿毛が秋風に揺れる季節へと移り変わった今、改めて噛みしめ直している言葉を今回のタイトルとしました。そう、あたかも牛の反芻のように。

casa-nakahora.jpg【Photo】中洞牧場の事務作業、牧場長の中洞夫妻・社員・研修生の住まい、見学者の宿泊などの役割を果たす研修棟(上写真・黒屋根の建物)完成記念として入口の壁に掲げられているのが、額装された下写真の言葉

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 盛岡から東へ車でおよそ2時間。すでに朝は氷点下の冷え込みになっているという岩手県下閉伊郡岩泉町で、年間を通して屋外で牛を放牧する山地酪農を実践。並外れた美味しさを体験できる牛乳と乳製品を生産する「中洞(なかほら)牧場」で、2012年6月に完成した研修棟の入口にこの言葉は掲げられていました。

 牧場長の中洞 正さんからサイン入りで頂戴した最新刊「山地酪農家 中洞正の生きる力」(六曜社刊)にも同じ言葉が記されています。

autograph-nakahora.jpg【Photo】最新刊の表紙裏にスラスラとサインをして頂き、落款を捺印された途端、中洞さんは頭をかきながら「あ゛っ~、押す向きを間違えちゃった」(笑)

 庄イタが中洞牧場を訪れたのは好天に恵まれた7月中旬。抜けるような青空からは真夏の日差しが降りそそいでいました。北上山地の標高710m~860mに拓かれた中洞牧場ですが、まだ昼前だというのに、車の温度計が示す外気温は、28℃を越えていました。

 日本の酪農ではごく一般的な濃厚飼料を与えるためのケージ飼いする牛舎が存在しない中洞牧場。生体リズムで乳が張ってくる朝夕2回、群れで行動する牛たちは総面積50haにおよぶ広大な牧草地から自発的に搾乳所へと集まってきます。

 通常、いずれ出荷する家畜には名前を付けません。牛には出生後すぐに10桁の数字からなる個体認識番号を記した耳標(じひょう)と呼ばれる黄色いタブが付けられるだけです。

 中洞牧場はその点でも違います。「大島優子」(!!)「悦子」「ゆかり」「すず」といったヤマトナデシコ系に加え、ニュージーランド生まれのジャージー牛は、青い目を連想させる「バーバラ」や「ニコール」。我が郷里・ピエモンテ州ランゲ丘陵の森の良い香りが漂ってきそうな「トリュコ」だっています。「きなこ」「みたらしこ」といった和風スイーツ系の「黒蜜」もいますが、「壇蜜」はいませんでした。

yco-e-nakahora.jpg【Photo】1999年8月生まれで現在16歳で最年長のY子。中洞さんが歩み寄ると、顎を中洞さんの膝に預け、安らいだ表情を浮かべ(⇒そう庄イタには見えた)、瞑目したままじっと動かなくなった

 こうした名前は、搾乳をはじめとする牛の世話や、製品の加工、灌木の伐採など、牧場の運営・管理作業を住み込みで行う社員や研修生が名付け親となって付けたものです。南部曲がり屋の一つ屋根の下で牛馬を家族同様に扱ってきたこの地方の伝統が、そうさせるのかもしれません。

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 広大な牧草地を中洞さんの案内のもと車で巡る中洞牧場の見学ツアーは、山を切り開いた地形そのままの急斜面もありスリル満点。運動豊富でいずれ劣らぬアスリート揃いの牛たちは、急斜面をものともせず移動し、食べ頃の野シバが生えている場所で時間を過ごすのだといいます。

nakahora2-2015.7.13.jpg 離乳後に独り立ちしたばかりのつぶらな瞳の仔牛ですら、トゲのある野バラほかアジサイ・ワラビなど食用として適さない植物には草食動物の本能から口をつけません(上写真)。ちょうど今頃の10月半ばには牧草を食べ尽くすため、採草地から採取した乾草やサイレージが飼料に切り替わります。
nakahora6-2015.7.13.jpg すると青草の水分とカロテン由来の緑がかった青白い色のさらっとした飲み口から、乾草中心の給餌によって乳脂肪分が増加し、色が黄色く濃厚な味に変化します。それでも超高温殺菌によるタンパク変性が起きない中洞牧場牛乳の飲み口は、後味に重ったるさが残りません。FOODEX JAPAN 2013において実施された「ご当地牛乳グランプリ」で、実質的な頂点に輝いた中洞牧場牛乳の卓越した風味に関しては既報の通りです。

【Photo】中洞牧場の研修棟に到着してすぐ出していただいたウエルカムドリンク。前日に搾乳して殺菌したコップ1杯のジャージー乳。温めて飲むとまた格別とはいうものの、牛たちを眺めながら頂くひんやり冷たい牛乳の美味しいのなんのったら!!

 牧場を巡る見学ツアーの途中、中洞さんは何度か車を停めてさまざまな話をして下さいました。牧場訪問直後のレポート「中洞牧場牛乳」では触れなかった内容を今回はご紹介します。

nakahora3-2015.7.13.jpg【Photo】牧草地の境界線に立つ中洞さん。1984年に11頭のホルスタインとともに入植した当初は、境界の先に広がるような灌木とクマザサなどが生い茂る手つかずの土地だったという

 牛を野に放つと木の葉や野草を食べながら徐々に日当たりの良い空間ができ始めます。上写真にある境界の手前側に生えている再生力に優れた在来の野シバが表土を覆うまでに3年ほどを要し、それで植生は安定します。

 一般的な日本の酪農では欠かすことのできない濃厚飼料の原料となる輸入穀物で常に問題視されるのが、遺伝子組み換えやポストハーベスト農薬。そうした不安要素とは無縁の無施肥・無農薬で育つ青草や自家製の乾草を食べる健康な牛の排泄物は、野シバの良き養分となります(下写真)

nakahota7-2015.7.13.jpg 放牧を初めて30年以上、外来種のカモガヤなど生育が早いために牧草地で導入されるイネ科の植物には投与される場合が多い化学肥料に頼らずとも、中洞さんは自然の摂理に寄り沿いつつ、牛と人の共同作業で緑なす健全な放牧地を作り上げてきたのです。

 野シバの上を歩いてみると、上質なカーペットのように弾力があり、フカフカであることに気付きます。これは長い年月をかけて幾層にも重なったランナーから出る根がびっしりと表土を覆っている証拠です。中洞さんの説明では、A3判の用紙大の面積に生えている野シバの根を繋ぎ合わせると、その長さはなんと20mから30mにも達するのだといいます。

nakahora4-2015.7.13.jpg【Photo】野シバは地上と地中にランナー(葡伏茎)を横に延ばしながら根を地中深くまで張って次第に大地を覆ってゆく。冬は枯れるが、春になると新芽を出して幾層にもそれが重なり合うことでバリアの役割を果たして他の植物の侵入を阻む

 その保水力たるや、ブナにも引けを取らぬ相当なものでしょう。温暖化が原因とされる地球規模の気象の極端化によって、局地的な豪雨による土砂災害が頻発しています。表土が流出しやすい傾斜地の土壌保全に果たす野シバの力は想像を遥かに超えていました。

jimin-koyaku.jpg【Photo】3年前の年末総選挙で自民党が掲げた選挙公約ポスター(大笑)。当時政権の座にあった民主党への批判票で圧勝した自民党のどなたか、お得意の「丁寧な説明」をして下さいな

 およそ食糧自給の重要性など念頭にない経団連や産業界の後押しを受け、日本の食を支える心ある人々が被る損失は、補助金で穴埋めしようという安易な瀬踏みをしている現政権によって、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に参加する道筋がつきました。

 秘密裏に進んだ妥結実態が次第に明らかになるに従って、一次産業従事者からは将来への不安の声が上がっています。現状でも歯止めがきかない耕作放棄地の拡大が懸念される中で、放牧地への転用を期待する声も聞かれます。

 安心して口にできる乳製品を届けたいという一心で歩み続けてきた中洞さんの30年におよぶ足跡は、資源に乏しい日本が、これから歩むべきひとつのロードマップと言えるのではないでしょうか。

nakahora-curry.jpg 見学終了後は、中洞さんと共同生活を送る牧場のスタッフの胃袋も満たす「牧場カレーライス」(上写真・1000円)を中洞牧場長とともに食しました。これは中洞牧場から岩手畜産流通センターに出荷され、食肉に加工された牛肉を使っているのだそう。面倒を見てくれた人たちの労働の糧となることで、牛は最後まで役目を立派に果たしてくれているのです。

nakahora-ice-milk.jpg 食後は中洞さんのご好意で地元の和グルミと絶品ミルクの風味、隠し味の生醤油の香りが混然一体となって調和する限定品カップアイス(上写真)がデザートで登場。これがまた結構なお味で。

 中洞さん、牧場の皆さん、ご馳走さまでした~。(^0^ 
大変お世話になりました。 m(_ _)m

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中 洞 牧 場

住:岩手県下閉伊郡岩泉町上有芸字水堀287
・Phone:050-2018-0112
・URL: http://nakahora-bokujou.jp/index.html
・事業主体:農業生産法人 株式会社 企業農業研究所
       株式会社 山地酪農研究所
・見学随時:詳細はコチラ参照
・問い合わせ:https://nakahora-bokujou.jp/bokujou/mail.cgi


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