あるもの探しの旅

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Pizzoccheri al citron giapponesi

柚子切りは J.S.バッハ 無伴奏チェロ組曲とともに


Hoya-soba2014akagawa.jpg【Photo】鶴岡市宝谷(ほうや)。8月の朝。白い花を咲かせたソバの蜜を吸いに来た小さな蜂。蕎麦どころ山形県下において、玄ソバ産出量が最も多いのが鶴岡市。「ふるさとむら宝谷」では、地元産の蕎麦粉を打った「宝谷そば」を食することができる

 庄イタにとって、現在の主食はイタリアン。なれど過去において、蕎麦食いを極めた男といえば、誰あろう、私なのです。

 そう豪語するには、理由があります。まずはピエモンテ州で生を受けた前世において、隣接するイタリア最北部、ロンバルディア州北部ソンドーリオ県Valtellina ヴァルテッリーナ地方に、十字軍の時代から根付いているソバ食文化に(おそらく)触れた原体験があってこそ。

 ミラノの北、コモ湖からアルプス側へとさらに北上したヴァルテッリーナ地方は、寒冷な気候と痩せた土壌ゆえに小麦の栽培が困難な土地柄。ソバの実を挽いた平打ちのショートパスタ「Pizzoccheri ピッツォッケリ」を食します。〈2008.1拙稿「すったもんだのお年越し」,2010.1拙稿「ソムリエfromトリノ」参照〉

Morbegno_sondorio.jpg【Photo】コモ湖へと流れ込むアッダ川上流域。アルプスの急峻な山あいにV 字型渓谷が形づくられ、そこにわずかな平地が東西に広がっている。こうしたヴァルテッリーナ地方の典型的な風景は、山あいに平地が開ける信州や山形内陸と相通じる
 
 ヴァルテッリーナと似通った風土が、世界最大のソバ産出国であり、消費国たるロシア。蕎麦粥の「каша カーシャ」は、ロシア版おふくろの味。そば粉クレープ「galetteガレット」は、フランス北部ブルターニュの郷土食。アジア地域では、そば粉を用いる「平壌冷麺(ピョンヤンネンミョン)」の本場である朝鮮半島ほか、ネパールなど標高2000mを超えるチベット高地でも、香辛料とともに韃靼(だったん)ソバを食します。

raksi-yeti.jpg 蛇足ながら、気仙沼が誇るネパール・インド料理の名店「Yetiイエティ」<2012.9「Yeti イエティ@気仙沼」参照>オーナーの小野一太さんから、ヒマラヤ登山で訪れたネパール土産として頂いた蒸留酒が「raksi ロキシー」。昨年の地震で大きな被害が出たカトマンズ周辺の先住民族や、山岳民族の家庭では、専用の器具を用いて自家蒸留します。原料には、山間地では貴重な白米ではなく、多くの場合、ヒエやソバなどの雑穀を用いるとのこと。

【Photo】無造作なペットボトル詰めパッケージが、何よりの自家製の証。Yeti オーナーの小野さんから頂いたネパールの庶民にとっては身近な蒸留酒「ロキシー」。琥珀色の焼酎はストレートで馬子にも衣裳な江戸切子の酒器でクイッとな

 蕎麦食いを極めたと自認するもう一つの理由は、蕎麦好きだった父に連れられ、中学に通い始めた頃から、仙台では蕎麦どころと喧伝される山形内陸部で蕎麦屋巡りのお供を重ねたがゆえ。大学生活や支社勤務で通算10年以上を過ごした東京生活でも、都内ほか松戸小淵沢・信州などの名店を訪れたものです。

 最新の統計である2014年(平成26)の国内そば生産高では、北海道が作付面積21,600ha・収穫量13,000tで第1位。作付面積では4,880haの山形県が第2位、長野県が4,060haで続きます。収穫量では第2位の長野県が2,560t。第3位は茨城県で2,120t。山形県は僅差の2,100tで4番目となります。

 仙台と隣接する村山地域を中心にハシゴすることも珍しくなかった「そば街道」。そうして長年にわたって続けた蕎麦屋通いから、きっぱりと決別したのが2003年(平成15)。同じ山形県でありながら、内陸とは異次元の多彩な食体験ができることを実感した食の都・庄内と出合うまでのことでした。

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【Photo】「♪ 冬が来れば思い出す」 更科の一番粉に絡むふんわりとした柚子の香りが季節を感じさせる変わり蕎麦「柚子切り」。ロケ地:山形市「手打 梅蕎麦」(ゆず切り 1,200円)

 もはや食傷気味の蕎麦ではありますが、それでも寒い季節に食したいのが、季節の変わり蕎麦「柚子切り」です。その味を覚えたのが、JR山手線目黒駅東口近くのビルの谷間に暖簾を掲げていた今はなき「目黒一茶庵」。

 一茶庵系ならではの変わり蕎麦の極めつけが、年間を通して目黒一茶庵では定番だった柚子切り。辛口のつけ汁と好相性の香り高くコシの強い蕎麦を、仕舞屋(しもたや)風の座敷で、せんべい座布団と小ぶりな卓袱台で頂くという、気取らない雰囲気までがご馳走だったように思います。

 庄イタにとってはセンチメンタルジャーニーに他ならない目黒近辺では、目黒通りからプラチナ通りに左折すると、およそ30年前の開店当初から通っていた「利庵(としあん)」があります。運が良ければ、目黒一茶庵よりも上品な印象の柚子切りを、行列が絶えないその店で食することができるでしょう。

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【Photo】山形市上町「手打蕎麦 竹ふく」。更科粉に柚子を練りこんだ柚子切りと上品なもりそばの組み合わせ「二色せいろ」(950円)。単品の「柚子切り」(1,030円)も

 角が立った極太の手打ち田舎蕎麦ゆえに、数本ずつ噛むように食し、うすもり(1人前)板蕎麦を食べ進めるうちに顎が疲れてくるのが、山形県村山市「あらきそば」。個人の好みですが、のど越しも重要な蕎麦の風味のファクターだと考える庄イタ。あらきそばに限らず、板蕎麦の多くは、つけ汁が甘い点も致命的。ゆえに山形営業所に勤務した1年間で訪れたのは一度のみで、その後は足が向かなくなりました。

 山形市の「手打蕎麦 竹ふく」は、「神田まつや」などで修業した主人が打つ江戸風蕎麦。蔵王の伏流水を打ち水とする地粉「でわかおり」を主体に、玄そば10割につなぎ1割未満の十一(といち)の細打ちで、あくまでものど越し爽快。辛口でスッキリしたつけ汁と上品な更科蕎麦との組み合わせの妙は、神田まつやに相通じるところ。

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【Photo】この1月末、久方ぶりに訪れた山形市東原町「手打 梅蕎麦」。山形産と北海道産の玄そばの更科粉・一番粉・二番粉を調合。とても十割とは思えない極細に仕上げてもコシがあり、辛めのつゆとの馴染みが良い。もりそばと柚子切りとの組み合わせ「二色せいろ」(1,000円)

 定番のもりそばに加え、桜・青紫蘇・菊・柚子と四季ごとの変わり蕎麦も同時に味わえる「二色盛り」がお勧めです。とりわけ12月~2月に供される柚子切りは、冬ならではの醍醐味といえる逸品。今シーズン初訪問の竹ふくで二色せいろを食した1月末、久方ぶりにハシゴをしたくなりました。出がけの〆は蕎麦猪口で蕎麦湯を1杯半。

 その足で向かったのが、竹ふく店主・山川敦司さんの実家が営む「手打 梅蕎麦」です。2003年10月からの半年間、梅蕎麦から徒歩2分の〝食住近接〟の場所に住んでいました。その年のGW明けに遠征した旧・櫛引町で、当時全くの無名であった「アル・ケッチァーノ」を発掘していました。<2007.6拙稿「庄内系転生伝説 プロローグ」参照>

 往時は庄内に軸を置き、野に山に、そして厨房で刻苦勉励していた奥田シェフ (遠い目)。その水先案内のもと、いのちを支える食を介した得がたい出会いを重ねて庄内系へと変容。山形内陸各地のそば街道巡礼からは足を洗って5か月が経過していました。2004年4月に仙台へと戻ってからも、柚子切りの季節には年1回ペースでリピートしていたのが、変わり蕎麦を供する竹ふくか梅蕎麦のいずれかでした。

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【Photo】柚子切りを始めたことを電話で確認し、梅蕎麦を訪れた2006年11月末。柚子切りの「二色せいろ」。極細の度合いが今年(上写真)と比べ、それほどでもなかったことがわかる

 ところが5年ほど前、神田やぶそばの「せいろう」を思わせるほど、梅蕎麦の盛りが妙に少なくなりました。必然的に梅蕎麦からは足が遠のきましたが、今回は竹ふくで二色せいろを食した後だったので、かえって極薄盛りで好都合。そう踏んで久方ぶりのハシゴ蕎麦を決行したのです。
    

【Movie】少年時代のパブロ・カザルス(1876-1973)が、バルセロナの楽器店で古い楽譜を発見するまでは、久しく世に知られることがなかったヨハン・セバスチャン・バッハの「無伴奏チェロ組曲」。ひときわ味わい深いこの演奏は、母国の旧ソ連を追われ、艱難辛苦を乗り越えた生きざまが音に深みを与える当代屈指のチェリスト、ミシャ・マイスキーによるもの。愛器モンターニャは、1720年ヴェネツィア製

 変わらぬ店構えの暖簾をくぐると、まず耳に入ってくるのが店内に流れるJ.S.バッハ無伴奏チェロ組曲第一番。私がこの店と出合った13年前から、梅蕎麦のBGMは唯一無二。心の奥底に響くこの名曲です。(動画を再生しつつ読み進むと、疑似体験が可能かと)

 店主・山川純司さんが打つ香り高くコシの強い細打ち蕎麦は、以前よりもさらに極細へと進化し健在でした。この時季の変わり蕎麦は柚子切りであることは織り込み済み。チェロの旋律に浸りながらテーブル席で待つことしばし。運ばれてきた二色せいろは、嬉しいことにかつてのボリュームを取り戻していました。

ume-sobayu.jpg【Photo】蕎麦の茹で汁だけでなく、相当の割合でそば粉を溶かし込み、白濁したトロ~っと粘性が高いゲル状を呈する梅蕎麦の蕎麦湯。徳利や猪口は山形市千歳山に文化年間より伝わる平清水焼

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 人の声に最も近いといわれるチェロの内省的な響き。無伴奏組曲のはずが、極細ゆえの心地よいのど越しを堪能すべく、ズズズ・・・と威勢よく蕎麦をすする庄イタが奏でる調べが合いの手となり、サラバンドと重なります。

 そこにはフーガト短調のように複数の旋律が重なり合うことで調和を生み出すポリフォニーが成立していたのです。それは大バッハもびっくりポンな対位法なのでありました。

 米国の前衛音楽家ジョン・ケージ(1912-1992)や、Starless And Bible Black におけるキング・クリムゾンのような偶然性が生み出すインプロビゼーション(即興演奏)の妙といえなくもありません。

 梅蕎麦での楽しみが、〆の蕎麦湯です。茹で湯とは別誂えで、そば粉を加える梅蕎麦の白濁した蕎麦湯は、ポレンタの濃厚スープか煮詰まったポタージュを噛みしめるかの如き食感。旨し蕎麦の余韻まで味わえます。

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 ドイツ・チューリンゲン地方で存命中、J.S.バッハは、作曲家としてよりも教会オルガンの即興演奏家として知られました。

 蕎麦を食するズズズ・・・という音と、無伴奏チェロ組曲第一番との不協和音とも、和音とも受けとれる即興が繰り広げられる梅蕎麦。少なくとも梅蕎麦の蕎麦湯に関しては、きっとバッハも「Wunderbar ! ブンダバー! (=素晴らしい!と感心してくれることでしょう。

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手打蕎麦 竹ふく
住:山形市上町2-3-1
Phone:023-643-8003
URL: http://www.ab.auone-net.jp/~takefuku/
営:11:30-15:00 水曜定休
24席 禁煙 無料P(10台分)あり

手打 梅蕎麦
住:山形市東原町3丁目5-10
Phone:023-622-8377
営:11:30-14:30 火曜定休 年始休
URL:なし
24席 禁煙 無料P(11台分)あり

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