あるもの探しの旅

« Giugno 2016 | メイン | Agosto 2016 »

2016/07/31

吉岡宿はパラディーゾでござる!

映画「殿、利息でござる!」後日譚

 

Paradiso:パラディーゾ【イタリア語】楽園、天国、景勝の地

 今をさかのぼること250年前。時は江戸中期の1766年(明和3)から1773年(安永2)。世界に目を転ずれば、平等主義・人民主権などを掲げる啓蒙思想が欧州各地で広まりをみせていた時代。

 1769年、ジェノヴァ共和国からフランスに統治権が移行直後のコルシカ島で、のちに絶対君主制を市民が打破したフランス革命(1789)後の欧州を軍事力で席巻したナポレオン・ボナパルトが誕生。英国の植民地下にあったアメリカでは、独立宣言(1776)への布石となったボストン茶会事件(1773)が発生した頃。

risou_de_gozaru.jpg

©2016「殿、利息でござる!」製作委員会 tono-gozaru.jp

 かたや極東ジパング。ところは仙台藩第7代藩主、伊達重村の治世下の陸奥国吉岡宿。財政難に陥った藩に対し、庶民が現在の価値にして3億円を貸し付け、幕末まで金利を地域で分配し続けたという実際にあった前代未聞の出来事を映画化した「殿、利息でござる!」を皆さまご覧になったでしょうか。

 5月7日に仙台先行公開されたこの作品。同14日の全国劇場公開以降、各地でロングランを続け、興行収入は7月末に13億を突破。10月5日(水)のブルーレイ・DVD発売に向けた予約も好調なのだそう。

 配役は、身を挺して宿場を救った穀田屋十三郎役が阿部サダヲ。前代未聞の奇策を発案した知恵者の茶師・菅原屋篤平治は瑛太が演じ、竹内結子が居酒屋の未亡人女将♥とき、両替商を兼ねる造り酒屋の実家・浅野屋と同じ造り酒屋の穀田屋へ養子に入った十三郎の父・先代の浅野屋甚内を山﨑努、母きよは草笛光子、家業を継いだ十三郎の弟・甚内は妻夫木聡。

harukaze-shimoyo-kangetsu.jpg

©2016「殿、利息でござる!」製作委員会 tono-gozaru.jp

 仙台藩主・伊達重村役として起用され、物語の大詰めでスクリーンに登場するや、客席から歓声やざわめきが起きるフィギアスケーター・羽生結弦さんの映画初出演ながら堂に入った演技も話題を呼びました。

 監督は中村義洋氏。仙台市在住の作家・伊坂幸太郎氏の小説「アヒルと鴨のコインロッカー」や「ゴールデンスランバー」、リンゴ農家の木村秋則さん役を阿部サダヲが演じた「奇跡のリンゴ」など東北ゆかりの作品を手掛けてきました。

mushi_no_giapponesi.jpg 吉岡宿は、仙台藩の財政援助がある直轄地ではなかったため、奥州街道の要衝として人馬を提供する伝馬役(てんまやく)の重い負担に苦しんでいました。そのため課役に耐えきれず、夜逃げや住人の離散が後を絶たない存亡の危機にあったのです。

 窮状を打開するため、とことん生活を切り詰め、さらには私財まで投げ打ち、足掛け8年をかけて用意した一千両(約3億円)を仙台藩に貸し付け、その利息100両を毎年分配することで吉岡宿を救った穀田屋十三郎(1720-1777)ら9人の篤志家らに光を当てた評伝「無私の日本人」(文春文庫)が映画の原作。著者は歴史家の磯田道史氏です。

【Photo】庶民に儒学の心を説いた中根東里、幕末の女流歌人・大田垣蓮月とともに〝いまどうしても記しておきたい〟という思いに駆られた磯田氏によって、平成の世に蘇った穀田屋十三郎。「無私の日本人」文庫版の装丁に描かれるのは、七ツ森の山並み。山のようにブレない先人の気概と生き方に心が動かされる一冊

settte-monti.jpg【Photo】奥羽山脈の一角となる標高1,500mの船形山(上画像右奥)は、「御所山」とこの山を呼ぶ山形と宮城との県境となる分水嶺。宮城側、南川ダム周辺には名前に岩を意味する「倉」の字が入った笹倉山など標高500~300m前後の小高い7つの連山があり、総称の「七ツ森」の名で親しまれている。写真提供:宮城県観光課

kuhonji-sekihi.jpg 仙台城下から北へ25kmほど。宮城県黒川郡大和町吉岡は、東北自動車道大和ICからほど近く、多くの車両が行き交うR4が旧宿場を迂回するように通っています。

 酒田湊まで続いていた出羽仙台街道と松島街道とが奥州街道と交差する吉岡宿は、江戸時代後期の1821年(文政4)と1879年(明治12)に発生した二度の大火に見舞われます。そのため、9名の篤志家が守った宿場町の面影をかろうじて留めるのは、上町・仲町周辺の旧奥州街道沿いのごく一部。

【Photo】九品寺の山門前に立つ宝暦7年(1757)建立の道標。南無地蔵菩薩と刻まれた左右には「右せんだいみち 左まつしまみち」という道案内が判読できる

 区割り以外に往時と変わらないのは、船形山を背に特徴的な山容を連ねる七ツ森の姿と、伊達家ゆかりの古刹、臨済宗「天皇寺」や、穀田屋を屋号とする高平家や菅原屋篤平治の菩提寺、浄土宗「九品寺」の山号「蓮台山」を掲げる山門前の苔むした石碑など(下画像)

kuhonji-sanmon.jpg

 九品寺の境内には、子宝に恵まれなかった菅原屋篤平治・なつ夫妻が眠る墓碑の脇に地元の有志が寄付を集め、2003年(平成15)に建立した「国恩記顕彰碑」(下画像)があります。

kokuonki-kenshohi.jpg

 穀田屋十三郎は〝私がしたことを人前で語ってはならない。我が家が善行を施したことなど、ゆめゆめ思うな。何事も驕らず、高ぶらず、地道に暮らせ〟と家族に言い残し、念願が叶った4年後の1777年(安永6)、58歳でこの世を去りました。

 奥ゆかしい東北人ならではのエエ話やなァ(T-T。

 高平家には高さ20cmほどの裃と髷姿の十三郎の座像(下画像提供:穀田屋)を収めた「お堂っこ様」が伝わっており、新たな年を迎えるごと、家族そろって拝礼するのを習わしとしています。

odo-cco-sama.jpg

 磯田道史氏が「無私の日本人」を執筆する際、下敷きとなったのが、全6巻からなる「吉驛國恩記(よしおかこくおんき・国恩記)」。

 九品寺にほど近い曹洞宗「龍泉院」の住職・栄洲瑞芝(えいしゅうずいし)が、辛苦を乗り越えた9人の善行を後世に伝え、心ある者が精神を受け継ぐことを願って編纂した歴史書です。

 国恩記は、穀田屋十三郎ら9名が存命中だった1773年(安永2)から1781年(天明元年)まで8年がかりの聞き取りに基づいて記されました。9人の精神が末永く伝わるよう、漆箱や袱紗(ふくさ)で幾重にも包み、防虫対策の上、土用の時季に風通しをするなど、事細かに保管の仕方まで指示してあります。

shikishi-isoda.jpg【Photo】「無私の日本人」執筆取材のため、旧吉岡宿で穀田屋十三郎の子孫が営む酒販店「穀田屋」を訪れた磯田道史氏が、店頭で書き記した色紙。そこに選んだのは、穀田屋十三郎が最晩年に言い残した含蓄あるこの言葉。9名の功績を聞くに及んだ藩から下賜された報奨金、1名につき2両2分(浅野屋は3両3分)も、9人はすべて宿場のために分配した

 古文書から歴史を冷静に分析し、埋もれた史実を明らかにすることを常とする歴史学者磯田道史氏をして、公益のため尽力した穀田屋や浅野屋らの生きざまを記した国恩記に目を通していて、感涙を禁じえなかったといいます。

honjin-i.jpg 映画「殿、利息でござる!」宮城県先行公開に合わせ、尊い共助の心で旧吉岡宿上町にあった本陣跡に「吉岡宿本陣案内所(上画像・Phone:080-8236-2008 ・営:9:30~16:00 火曜定休/年末年始休 ※8月末まで無休)が開設されました。

 5月7日の開設以来、7月末時点でおよそ8,000名が訪れたという本陣案内所。常駐するスタッフの説明を聞きながら、展示される関係資料の理解を深められるほか、マップ(下画像)を片手に街並みを散策してはいかがでしょう。

mappa-yoshioca.jpg

 吉岡宿の街並みのロケ地が、庄イタにとっては庭に等しい月山の麓スタジオセディック庄内オープンセットであることを忽ちに見抜いた映画には、茶畑のシーンが幾度か登場します。

 伊達藩が茶の栽培を奨励したこともあり、宅地化が進んだ現在では思いもつきませんが、富谷町明石・成田から、小野・宮床・吉田など大和町にかけての地域は、伊達藩における茶の一大産地でした。

sign-sugawaraya.jpg

 優れた茶師であった菅原屋篤平治。茶を献上した京都九条家から〝春風の香ほりもここに千代かけて花の浪こす末の松山〟という和歌とともに授かった「春風」「薫香」「千世」など、5つの茶銘を螺鈿(らでん)で額装し、仙台藩ご用達の菅原屋の店頭を飾っていた看板(上画像)が、当時の宿場の雰囲気を今に伝えます。

kokudaya-201606.jpg

 映画の最後で紹介されている通り、250年の歳月が流れた現在、吉岡宿を救った9名の篤志家の子孫で唯一、旧宿場に現存するのが穀田屋(上画像)

 十三郎の時代は造り酒屋でしたが、現在は子孫の高平和典さんが酒販店を営んでおいでです。造り酒屋を起源とする穀田屋の店内には、磯田道史氏が訪れた際の〝一粒の花の種は ...〟の一節を記した色紙や映画ゆかりの品が展示されています。

 有機農法で栽培した宮城県産の酒造好適米「蔵の華」を用い、船形山系伏流水を仕込み水とし、加美町の山和(やまわ)酒造店に醸造を委託しているオリジナル特別純米酒「七ツ森の四季」(720mℓ・1,296円)を買い求めました。

quattoro-stagioni-settemonti.jpg

 藩主重村から直々に酒銘を授かった3つの酒「春風」「霜夜」「寒月」は、宿場を救う浄財一千両の1/3(約1億円)を負担したことで破産寸前となった浅野屋が売り出しました。藩主ゆかりの酒は、巷の評判を呼び、浅野屋は持ち直したといいます。

 甚内は、その後も私財を投じて橋を架け、道普請でも宿場に貢献。天明大飢饉(1782-1788)に際しては食料支援を行うなど救済に尽力。75歳まで9名の中では最も長生きをし、1802年(享和2)9月に亡くなった甚内の最期の願いは〝戒名は(位が高い)居士ではなく、先に逝った皆と同じ信士に〟というもの。

 かくして九品寺にある9名の法名碑には、誰よりも多額の寄進を寺に対して行った檀家総代の甚内に僧侶が用意した戒名「善誉院慈慶信士」ではなく「善誉慈慶信士」と刻まれています。いやはや...(T-T。

harukaze-tono.jpg

 上町の本陣正面にあった浅野屋は、明治12年の大火後に廃業。跡地には現在「瀬戸医院」が建っています。浅野屋の廃業で途絶えた殿様ゆかりの酒が、映画公開を機に蘇りました。

 1952年(昭和27)、宮城県塩竃市で創業した「酒のやまや」傘下の大和蔵酒造が製造する大吟醸「殿の春風」(720mℓ・2,160円)は、町内の酒販店「馬場商店」「浅多商店」、酒のやまや各店またはJR仙台駅1階およびS-PAL地階の酒類販売店で。

 純米吟醸「殿の霜夜」(720mℓ・1,940円)、純米「殿の寒月」(720mℓ・1,620円)は、宮城県栗原市金成の「萩野酒造」が商品化。左党ならずとも羽生君ファンには見逃せないのでは? 

riso-cokkie02.jpgriso-cokkie01.jpg

 店を訪れた日曜日限定で穀田屋で扱っているのが、はす向かいの洋菓子店「梅香亭」が商品化したココア風味のクッキー「殿、利息ッキーでござる」(110円)。

 月~土は梅香亭でお買い求めのほど。何故なら、バナナ風味のパウンドケーキ「大和んバナナ」や「七ツ森盛りクッキー」など、おかしなお菓子と出合えますので(^0^;

shokuji-de-gozaru.jpg

 大和んバナナと双璧をなすネーミングセンスを利息ッキーでも発揮した梅香亭や、吉岡宿本陣案内所正面の「とんかつ やぐら」がブームに乗り遅れてはならじと編み出した「殿、食事でござる 千円定食」(上画像)には思わず苦笑。

 苦心の末に庶民が用立てた千両を元手に支配者から金利を頂くことで存続した旧吉岡宿の衆の知恵者ぶり健在を見届け、吉岡宿から旧出羽仙台街道・R457を2里(8km)ほど北上、目指すは加美郡色麻町の自然食レストラン「RICEFIELDライスフィールド)」。

RICEFIELD2016.jpg【Photo】ライスフィールドという名の通り、店の前は田んぼ(上画像)。キュートなワンコが愛嬌を振りまく店内には心地よいBGMとゆったりした時間が流れる(下画像)

wanco-ricefield.jpg

RICEFIELD ライスフィールド・住:宮城県加美郡色麻町大下新町13−3 ・Phone:0229-65-3430 ・営:11:30~21:00 水曜・第二火曜日定休 <2011.8拙稿「ばんつぁん市 I'll be back.」参照>

ricefield-shop.jpg【Photo】無施肥・無農薬自然栽培によるササニシキ玄米ご飯と餡かけふっくら豆腐ハンバーグの定番セット(下画像:税込880円)ほか、カラダが喜ぶ大地の恵みを食することができる

hamburg-ricefield.jpg 今の季節の狙い目は「トマトとナスの冷製パスタ(下画像:ミニサラダ付き930円)。真夏の太陽を浴び、素材の力がみなぎる真っ赤に熟した露地トマトと茄子がゴロゴロとふんだんに入り、大葉の香りがアクセントとなる夏季限定の逸品です。庄イタが10年以上愛してやまないこのメニュー。

pomodoro-meranzane-ricefield.jpg

 冷製に適した細目のロングパスタを使うようになった昨シーズンから、絶妙なアルデンテに食感がバージョンアップ。相性が良いひんやり夏野菜と和洋折衷の味付けが織りなす一体感もまた従来以上に向上しています。夏を元気に乗り切るパワーを充填できる一皿。美味しいですよ~。ぜひぜひ(^^。

baner_decobanner.gifブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村 

2016/07/19

この味、摘果されてこそ

辛味がすがすがしいメロン子の辛子漬け @ 庄内


 あすは檜(ヒノキ)になろう、あすは檜になろうと一生懸命考えている木よ。でも、永久に檜にはなれないんだってそれであすなろうと言うのよ。

井上靖「あすなろ物語」(新潮文庫)より

 作家・井上靖の半自伝的小説「あすなろ物語」。第一章「深い深い雪の中で」には、親元を離れて血縁関係がない祖母・りょうと二人で中伊豆・天城の土蔵の中で暮らす13歳の少年・鮎太と、りょうの姪で19歳の冴子とのこんなやり取りが描かれます。

aomori_hiba-osorezan.jpg

【Photo】下北半島と津軽半島には、青森ヒバの約8割が密生する。霊場恐山へと向かう道すがらの冷水(ひやみず)峠。5月初旬でも山肌に残る雪と鬱蒼としたヒバの自然林が周囲に広がる冷水峠に湧き出す「恐山冷水」。862年(貞観4)の慈覚大師による開山以来、霊界との境界へと入る手水として、そして険しい道のりを越えて霊場詣でをする人々の喉を潤してきた

「翌檜(アスナロ)」はヒノキ科の常緑樹。「青森ヒバ」の別名で知られる北方系の変種「ヒノキアスナロ」は、下北半島や津軽半島に広く分布しており、青森県の県木となっています。

 あすなろ物語において、天城温泉に逗留していた東京の大学生・加島との叶わぬ恋を精算するため、心中して果てた冴子が鮎太に語るのは、抗うことができない人の運命の悲哀。

 森羅万象、物事に始まりがあれば、いつか訪れる終わりは不可避なもの。生きとし生けるものには、すべからく遅かれ早かれ逃れることができない生命の終焉が待ち受けています。

urban-delicious-tekka.jpg

【Photo】「アムさんメロン」〈2016.6拙稿「フェロモンメロン」参照〉が先陣を切る「つがりあんメロン」5品種のうち、7月末からお盆前が出荷の最盛期となる主力ネット系品種「アーバンデリシャス」(奥)。トンネルの外まで伸びたツタの先端部に遅咲きした花のため摘まれる運命にあるメロンの幼果(手前)・ロケ地:青森県つがる市木造町出来島メロンロード

 それは動物だけでなく、植物とて同じ。芽が出て花が咲き、受粉して実を結び、やがて種が母なる大地と結ばれることで、次なる世代へといのちの循環が繋がってゆきます。

 そうした起承転結、いわば生命の摂理を全うできない存在が、ヒトが美味しく口にするために摘まれる果実や野菜です。

shonai_melon.jpg

【Photo】庄内砂丘メロンの緑肉系代表品種が「アンデスメロン」・ロケ地:山形県酒田市浜中(上画像)。直径10cmにも満たない幼果の段階で摘まれたアンデスメロンのメロン子(下画像)。熟すと表皮を覆う網目(ネット)が入っておらず、最近ではあまり見かけなくなった「プリンスメロン」のような外見。

 受粉前の蕾や花のまま人の手で摘まれるのが、リンゴ、梨、柿、桃など。〈2008.6拙稿「♪ リンゴの花びらが~ リンゴの花びらドルチェは、はじらう乙女 francesca の味」,2009.4拙稿「『芽出し』と『芽摘み』の春」参照〉

 そして幼果のうちに間引きされるのが、剪定されてから摘房されるブドウ、青ミカンとして流通する柑橘、そして今回取り上げる摘果メロン「小メロン」です。

bambinomelon.jpg

 風味を良くするため、メロン1株に多くても4玉以上を残さない庄内では、ただ廃棄するのではなく漬物加工用となる摘果したメロンを「メロン子」と呼びます。作物に対する愛情を感じる呼称ですよね。

 トロ~リ、ジューシーな果肉の完熟メロンとは異なり、メロン子の魅力は、すがすがしい青いウリの風味とパリっとした食感。

shonai-melon2016.jpg

【Photo】庄内砂丘メロンの主産地、酒田市浜中。庄内空港と日本海沿岸東北自動車道のすぐ近く。冬の強烈な季節風による飛び砂被害を防ぐクロマツの人工防砂林に守られるように露地トンネル栽培される砂丘メロンの畑

 夏季にオホーツク海高気圧の勢力が増すと、東北地方の太平洋側に長雨と冷涼な夏の元凶となる北東の季節風「東風(やませ)」が吹き付けます。その影響を受けない日本海側の豊富な日照量と、昼夜の寒暖差が大きく水はけのよい庄内砂丘は、メロン栽培にうってつけ。

 さらに庄内きっての酒どころ鶴岡市大山〈2012.2拙稿「大山新酒・酒蔵まつりpart.1 および part.2」参照〉が南隣にあり、赤川河口の北には銘酒「初孫」蔵元「東北銘醸」があることからも分かるように、砂丘一帯は灌漑設備を必要としないほどの良質な地下水脈に恵まれています。南北35kmに及ぶ庄内砂丘の規模は日本最大。全国で4番目の生産量を支えるメロンの一大産地です。

objet_melon.jpg

【Photo】庄内空港ビルを出て日本海沿岸道方向に右折してすぐに出迎えてくれる砂丘メロンのオブジェ。多彩な食材に恵まれた食の都庄内には、このほか庄内柿・あつみ豚・刈屋梨・温海蕪といった産物の巨大オブジェがロードサイド各所に設置されている

 庄内・津軽・茨城などメロンの主要産地以外では馴染みが薄いかもしれない摘果メロンには、ネット系品種に見られる登熟過程で果皮を覆ってゆく網目がありません。

 摘果されたメロンは、そのまま廃棄されるだけでなく、庄内地方では漬物用として出荷されるケースも少なくありません。主な食べ方は、試験前に庄イタが得意だった一夜漬け(^^; 、皆さまが暑さのあまりそうならぬことをお祈りするビール漬けや、冷酒にピッタリの「竹の露」や「上喜元」など地元の酒粕で漬け込んだ粕漬けなど。

!cid_776DE8EE-CA2A-43E9-8AE7-3B5E62F87605.jpg

【Photo】国内消費のほぼ全量をカナダからの輸入に依存しているオリエンタルマスタード(和がらし)。その原料となるのがカラシ菜。独自に編み出した輪作体系による資源低投入型有機農業を実践する鶴岡市三和「月山パイロットファーム」では、漬物の加工用に自家採種によるカラシ菜の栽培を行っている。5月半ば。残雪の月山を背景に人の背丈よりも高いカラシ菜の花が咲き揃う <画像提供:東海林 晴哉 氏>

 摘果メロンのほか、キュウリや丸ナスなどに関して庄内ならではの食べ方が「辛子漬け」です。それに欠かせないのが、山形県東田川郡庄内町跡(あと)地区や鶴岡市「月山パイロットファーム」で自家採種による栽培が行われているアブラナ科の「カラシ菜」。

!cid_ED2D0CBA-574A-4181-AB48-7FC9CF387C76.jpg

【Photo】月山パイロットファームでは最も手が掛かる和がらしの収穫~加工までを全て人の手で行う。6月末。蒸し暑さと土埃との闘いでもある刈り取り・実落とし作業をしたカラシ菜の種子は、大きさ1mm~2mmほど。種子を脱穀した後、梅雨の晴れ間を見計らって天日干しを行うことで、祖先から受け継いだ和がらし本来の風味を味わうことができる <画像提供:東海林 晴哉 氏>

 その種子を脱穀後に天日干しして作られるのが「和がらし」(下画像)です。ピリっとした和辛子の風味が爽やかな「メロン子の辛子漬け」は、ご飯や冷たい麺類は勿論、ビールや冷酒との相性も抜群。

 仙台朝市・今庄青果本店でも6月~7月にかけては入手可能な庄内産のメロン子を使った辛子漬けの代表的なレシピをご紹介しましょう。

wa-karashi2016.jpg

【材料】
 メロン子 1kg
 塩 50g
 砂糖 100g
 和がらし粉 50g
 酒または焼酎 100cc

cuttedmelon.jpg

【作り方】

・メロン子を縦に4~8等分にカットする(小さいうちは種子部分はそのままでもOK)

・あらかじめよく混ぜ合わせた塩・砂糖・和がらし粉をメロン子にからませ、日本酒または焼酎を加える

・ビニール袋に入れて2日ほど冷蔵庫に置くと美味しい漬物の完成。

musterdmelon.jpg

 それではボナペティ~ト♥
 
baner_decobanner.gifブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

2016/07/02

召しませ、ジュンサイ²タリアン

つるん、プルン。ジュンサイの里@秋田県三種町


 4月下旬から9月初旬にかけて収穫期を迎えるのが、天然の透明なジュレに包まれたハゴロモモ科(スイレン科)の水生植物「ジュンサイ(下画像)です。

junsai.jpg

 生ジュンサイの収穫が最盛期となるのが6月中旬から7月半ばの頃。第226代ローマ教皇グレゴリウス13世が16世紀に制定し、世界中に広まったグレゴリオ暦には6月31日(語呂合わせで〝ジュンサイ=JUNE 31)〟は存在しないため、半ば強引に1日振り替えた7月1日が「ジュンサイの日」だってご存知でしたか?

 1957年(昭和32)に着工した干拓事業により、男鹿半島の付け根に琵琶湖に次ぐ大きさで広がっていた汽水湖「八郎潟」に、JR山手線の内側に匹敵する面積の耕作地が出現。秋田県南秋田郡大潟村が誕生しました。

junsai2.jpg

 大潟村の外周に残る八郎湖の北東側に位置する秋田県山本郡旧琴丘町・旧山本町・旧八竜町の3町が2006年(平成18)に合併して誕生した三種町(みたねちょう)は、ジュンサイ生産量が国内生産の8割以上を占めるダントツの日本一。

 その生育には、白神山地や出羽丘陵を水源とする池沼と根を張る適度な水深(50~80cm)が欠かせません。水田からの転用を含め、町内には200を越すジュンサイ沼があり、小舟を棒で操りながら、一株ごと手摘みで収穫を行う生産者の姿が田園風景に溶け込んでいます。

katashi-takamatsu2016.jpg

【Photo】水と緑豊かな三種町森岳地区。幼葉の大きさが5.6cmを超えると商品価値が落ちるため、ジュンサイの収穫は時間との勝負。作業は早朝から夕刻まで続く。ふらりと立ち寄ってお話を伺った生産者の髙松隆司さんのジュンサイ沼。6月27日にNHK総合TVで放送され、7月15日に再放送予定の「鶴瓶の家族に乾杯」で、ジュンサイ好きだという俳優の綾野剛さんが三種町を訪れた中で、髙松さんが奥様と登場するよもやのデジャヴ(下画像)が発生。これもこのところ冴えわたる庄イタの神通力のなせるスゴ業か!?

TakashiTakamatsu.jpg

 食用とするのは、楕円形をした幼葉の若芽と葉柄のごく小さな部分。幼葉の大きさが3cm以内・茎が1cm以内の小ぶりなものが最良とされ、7月初旬に最盛期を迎えるゼリー状の粘膜が多い「一番芽」は、とりわけ珍重されます。

junsai1.jpg

 ジュンサイは組成の9割を水分が占めており、水のキレイさは生育にとっての必須条件。生活排水や除草剤の混入による水質悪化により、ジュンサイは数を減らしています。

 生産者の高齢化と後継者不足もあいまって、1990年代初頭と比べ産出量が1/3に減少するなど、希少性は高まるばかり。地物が比較的安価に入手可能な地元以外、安価な中国産に比べて希少価値が高い国産のジュンサイは、今や高級食材の仲間入りをしています。

2014junsaitsumi.jpg

【Photo】5月中旬から8月中旬まで体験可能な三種町のジュンサイ摘みは、今シーズンから同町鹿渡「道の駅ことおかサンバリオ」内の「観光情報センター」で受け付ける(Phone:0185-88-8819 / 受付 9:00~17:00)。山の養分を含んだ伏流水を引いた申し分のない条件を備えた志戸田友彦さんの圃場「里山志戸田園」(予約制 / 9:00~16:00)

 味に癖がなく、プルプル&つるんとした食感が独特なジュンサイは、下茹でした上で冷やして酢の物やお吸い物の具として頂くのが一般的。

 手延べによるツルツル&シコシコした喉越しの「稲庭うどん」や、半殺しにした「あきたこまち」を手で丸めた「だまこもち」(= 球体きりたんぽ)と「比内地鶏」を鍋仕立てにした「森岳(もりたけ)じゅんさい鍋」の具材としても見逃せません。

 赤飯、納豆、茶わん蒸しに砂糖を入れる甘口好みの秋田県民は、ジュンサイを黒蜜で味付けし、和菓子感覚で食することも。

junsaitsumi2014.jpg

【Photo】ジュンサイ摘み採り体験料金は、大人(中学生以上) 1,800円、子ども(小学生)1,000円(2016年7月現在)。水面を覆う葉をかき分けながらの摘み採り体験は、年齢性別に関係なく夢中になること請け合い。採ったジュンサイは持ち帰ることができる。雨具ほか紫外線と暑さ対策、そして水分補給をお忘れなく

 庄内系の血が騒ぐ孟宗・岩ガキ・寒ダラ・だだちゃ豆など、季節ものは旬を外さないのが鉄則。涼を呼ぶ食感が魅力のジュンサイもまた同様です。

 一度は訪れてみたかった三種町での生ジュンサイ摘みを初めて体験したのが、一昨年の8月18日(上画像)。もはやシーズン終盤ではありましたが、それでも2時間で1kg以上の収穫がありました(下画像)

junsai-2-2014.jpg

 その折に地場の素材を取り入れたイタリア料理をコースで食べさせてくれた「農園りすとらんて herberry ハーベリー」再訪を主目的に、ベストシーズンに遅れをとってはならじと、2年ぶりとなる三種町を訪れたのが、週末の都合がついた6月上旬。

 昼にマリナーラを食した真のナポリピッツァ協会認定店「コジコジ 秋田山王店」と、月刊専門料理6月号(柴田書店刊)で特集された全国の厳選イタリア料理店50店で、唯一秋田から登場した大仙市「リストランテ giueme ジュエーメ」を翌日訪れるのも秋田遠征の動機となりました。

zuppa-junsai2-2014.jpg

【Photo】和食のイメージが強いジュンサイに潮の香りのアオサを加え、コク出しにアサリのブロードをベースにスープ仕立てにしたherberry のスペチャリテ「森岳産生ジュンサイとアオサのズッパ(2014 ver)」は、いわば水を味わう料理

herberry2016.jpg

【Photo】herberryの客席からは大きなガラス窓越しの外の眺めが目を楽しませてくれる。驟雨に洗われた白い花を咲かせたニセアカシアの木々に囲まれた庭園。料理に使うハーブやブルーベリー、ブドウ、花々などが彩りを添える景色もご馳走のうち(上画像)

pudding-herberry2014.jpg

【Photo】5月から11月の搾乳期に数量限定で登場する「ヤギのプリン」。2014年の初訪店時は、Richard Ginori の伝統柄フィレンツェのプレートで登場。繁忙時を除き、好みのWEDGWOOD のカップ&ソーサーを選んで心豊かに食後の一杯を楽しめる

 herberryでは、目の前の農園で栽培する野菜・ハーブ・ベリー類のほか、ニワトリとヤギを飼育。卵と授乳期にはヤギ乳も自家調達します。この春からは巣箱を用意して日本ミツバチを飼育。ハニーハントにも挑戦中。

herberry2014.jpg

【Photo】厨房を預かる秋田市出身の山本智さん・津軽出身で接客とドルチェ担当の眞紀子さん夫妻。退職後に横浜から三種町に移住。2011年(平成23)7月にオープンした店舗兼住宅の広~い敷地には〝自産店消〟を掲げる夫妻が飼育する「メイ」と「さつき」ファミリーのヤギ小屋も建つ(下画像)。ヤギは自家製チーズやドルチェの材料となるミルクだけでなく、畑で使う堆肥ももたらしてくれる

mei&satsuki.jpg

 旬を迎えた産地ならではの〝ジュンサイ²タリアン〟は今回も健在でしたが、収穫のピークには少し早かったよう。狙い目だったジュンサイのフルコースは、次回にお預けとなりました。

 ★教訓:急いては事を仕損じる(π_π)。

antipasti-herberry2014.jpg

【Photo】リチャード・ジノリのイタリアンフルーツに盛り付けされた2014年盛夏のアンティパスト。(上から時計回りに)白キスのエスカベーシュ、サーモンオレンジマリネのクリームチーズ、八森港 舌平目のチーズパン粉ソテー、三種町さくらだ畜産 和牛タリアータ 旬のブルーベリーソース風味、炙り鴨のオレンジソース、アスパラガスのさっぱりディップ風味、八竜砂丘メロンとパルマハム

 会社務めをしていた当時、海外に出張した折に買い揃えたという名窯「リチャード・ジノリ」のプレートが次々と登場するherberry で頂いたスタンダードコース(5,400円)の内容をご紹介しましょう。

・インサラータ:
 八峰町八森港(はっぽうちょうはちもりこう)で揚がったマゾイ(キツネメバル)のカルパッチョ ピンクペッパーの香り 新たまねぎのサラダ仕立て
insalata-herberry2016.jpg

・スープ:
 三種町森岳 生ジュンサイとアオサのズッパ(2016 ver
zuppa-junsai2016.jpg

・アンティパスト・ミスト:
 男鹿沖 ミズダコの柔らか煮・セロリのさっぱりドレッシング、
 かわい農場 中ヨークシャー交雑豚ロースのロースト・セージバター風味、
 アスパラと海老のキッシュ
herberry-antipasti2016.jpg

・お口直し:
 五城目 ラズベリーと白ワインのコンポート・ゼリー寄せ
herberryrasberry2016.jpg

・プリモピアット:
 桜田畜産 和牛テールの煮込みリガトーニ・リガーテ
primo-herberry2016.jpg

・セコンドピアット:
 トキシラズのムニエル・ジュンサイと白いんげんのジェノヴェーゼ風味、
 カポナータ
tokishirazu-genovese2016.jpg

・ドルチェ & ハーブティー
dolce-herbalte.jpg

 この日は最寄の宿泊施設が改装中で、車で20分以上離れた森岳温泉に投宿しました。よって前世イタリア人には選択の余地がないフランス産ワインだけが記載されたワインリストは一瞥するも、庄イタの夕食には付き物のヴィーノではなくサン・ペレグリーノの炭酸水で通したのでした。

 コースの締めは、好みのウエッジウッドのカップ&ソーサーをチョイスするコーヒー or 紅茶 or ハーブティー。別腹発動のドルチェが「ジュンサイの和風ティラミス」(下画像)

tiramisu-herberry2016.jpg

 ジュンサイをトッピングし、きな粉を盛ったマスカルポーネと黒蜜風味のスポンジ生地との間には、ジュンサイが挟まっています。黒蜜&きな粉の相性の良さは無論のこと、とろ~り、ぷるん、つるん、プチンと、口の中でめまぐるしく入れ替わる食感の変化が、なんとも楽しい一品でした。

 希望コースを伝える予約の際、食材の希望やアレルギーの有無などをお伝えした上で伺うのが得策。車で10分とかからない近場には、先月リニューアルしたばかりの素泊可能な温泉宿泊施設「砂丘温泉 ゆめろん」があります。アグリツーリズモやオーベルジュ感覚で、ゆったりと食事を楽しめるお店です。

*****************************************************************

herberry-casa.jpg農園りすとらんて herberry ハーベリー
 住:秋田県山本郡三種町大口西山根170
 Phone:0185-85-3232
 営:・Pranzo / Cafe: 11:00~16:00 
    ※14:00以降のカフェ利用を除き要予約
   ・Cena :18:30~ ※2日前まで要予約: 3,240円・5,400円・8,640円~
    月曜・火曜定休(祝日は営業) Pあり 禁煙
 URL http://www.herberry.biz/

baner_decobanner.gifブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

Agosto 2016
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      
Copyright © KAHOKU SHIMPO PUBLISHING CO.