あるもの探しの旅

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この味、摘果されてこそ

辛味がすがすがしいメロン子の辛子漬け @ 庄内


 あすは檜(ヒノキ)になろう、あすは檜になろうと一生懸命考えている木よ。でも、永久に檜にはなれないんだってそれであすなろうと言うのよ。

井上靖「あすなろ物語」(新潮文庫)より

 作家・井上靖の半自伝的小説「あすなろ物語」。第一章「深い深い雪の中で」には、親元を離れて血縁関係がない祖母・りょうと二人で中伊豆・天城の土蔵の中で暮らす13歳の少年・鮎太と、りょうの姪で19歳の冴子とのこんなやり取りが描かれます。

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【Photo】下北半島と津軽半島には、青森ヒバの約8割が密生する。霊場恐山へと向かう道すがらの冷水(ひやみず)峠。5月初旬でも山肌に残る雪と鬱蒼としたヒバの自然林が周囲に広がる冷水峠に湧き出す「恐山冷水」。862年(貞観4)の慈覚大師による開山以来、霊界との境界へと入る手水として、そして険しい道のりを越えて霊場詣でをする人々の喉を潤してきた

「翌檜(アスナロ)」はヒノキ科の常緑樹。「青森ヒバ」の別名で知られる北方系の変種「ヒノキアスナロ」は、下北半島や津軽半島に広く分布しており、青森県の県木となっています。

 あすなろ物語において、天城温泉に逗留していた東京の大学生・加島との叶わぬ恋を精算するため、心中して果てた冴子が鮎太に語るのは、抗うことができない人の運命の悲哀。

 森羅万象、物事に始まりがあれば、いつか訪れる終わりは不可避なもの。生きとし生けるものには、すべからく遅かれ早かれ逃れることができない生命の終焉が待ち受けています。

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【Photo】「アムさんメロン」〈2016.6拙稿「フェロモンメロン」参照〉が先陣を切る「つがりあんメロン」5品種のうち、7月末からお盆前が出荷の最盛期となる主力ネット系品種「アーバンデリシャス」(奥)。トンネルの外まで伸びたツタの先端部に遅咲きした花のため摘まれる運命にあるメロンの幼果(手前)・ロケ地:青森県つがる市木造町出来島メロンロード

 それは動物だけでなく、植物とて同じ。芽が出て花が咲き、受粉して実を結び、やがて種が母なる大地と結ばれることで、次なる世代へといのちの循環が繋がってゆきます。

 そうした起承転結、いわば生命の摂理を全うできない存在が、ヒトが美味しく口にするために摘まれる果実や野菜です。

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【Photo】庄内砂丘メロンの緑肉系代表品種が「アンデスメロン」・ロケ地:山形県酒田市浜中(上画像)。直径10cmにも満たない幼果の段階で摘まれたアンデスメロンのメロン子(下画像)。熟すと表皮を覆う網目(ネット)が入っておらず、最近ではあまり見かけなくなった「プリンスメロン」のような外見。

 受粉前の蕾や花のまま人の手で摘まれるのが、リンゴ、梨、柿、桃など。〈2008.6拙稿「♪ リンゴの花びらが~ リンゴの花びらドルチェは、はじらう乙女 francesca の味」,2009.4拙稿「『芽出し』と『芽摘み』の春」参照〉

 そして幼果のうちに間引きされるのが、剪定されてから摘房されるブドウ、青ミカンとして流通する柑橘、そして今回取り上げる摘果メロン「小メロン」です。

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 風味を良くするため、メロン1株に多くても4玉以上を残さない庄内では、ただ廃棄するのではなく漬物加工用となる摘果したメロンを「メロン子」と呼びます。作物に対する愛情を感じる呼称ですよね。

 トロ~リ、ジューシーな果肉の完熟メロンとは異なり、メロン子の魅力は、すがすがしい青いウリの風味とパリっとした食感。

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【Photo】庄内砂丘メロンの主産地、酒田市浜中。庄内空港と日本海沿岸東北自動車道のすぐ近く。冬の強烈な季節風による飛び砂被害を防ぐクロマツの人工防砂林に守られるように露地トンネル栽培される砂丘メロンの畑

 夏季にオホーツク海高気圧の勢力が増すと、東北地方の太平洋側に長雨と冷涼な夏の元凶となる北東の季節風「東風(やませ)」が吹き付けます。その影響を受けない日本海側の豊富な日照量と、昼夜の寒暖差が大きく水はけのよい庄内砂丘は、メロン栽培にうってつけ。

 さらに庄内きっての酒どころ鶴岡市大山〈2012.2拙稿「大山新酒・酒蔵まつりpart.1 および part.2」参照〉が南隣にあり、赤川河口の北には銘酒「初孫」蔵元「東北銘醸」があることからも分かるように、砂丘一帯は灌漑設備を必要としないほどの良質な地下水脈に恵まれています。南北35kmに及ぶ庄内砂丘の規模は日本最大。全国で4番目の生産量を支えるメロンの一大産地です。

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【Photo】庄内空港ビルを出て日本海沿岸道方向に右折してすぐに出迎えてくれる砂丘メロンのオブジェ。多彩な食材に恵まれた食の都庄内には、このほか庄内柿・あつみ豚・刈屋梨・温海蕪といった産物の巨大オブジェがロードサイド各所に設置されている

 庄内・津軽・茨城などメロンの主要産地以外では馴染みが薄いかもしれない摘果メロンには、ネット系品種に見られる登熟過程で果皮を覆ってゆく網目がありません。

 摘果されたメロンは、そのまま廃棄されるだけでなく、庄内地方では漬物用として出荷されるケースも少なくありません。主な食べ方は、試験前に庄イタが得意だった一夜漬け(^^; 、皆さまが暑さのあまりそうならぬことをお祈りするビール漬けや、冷酒にピッタリの「竹の露」や「上喜元」など地元の酒粕で漬け込んだ粕漬けなど。

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【Photo】国内消費のほぼ全量をカナダからの輸入に依存しているオリエンタルマスタード(和がらし)。その原料となるのがカラシ菜。独自に編み出した輪作体系による資源低投入型有機農業を実践する鶴岡市三和「月山パイロットファーム」では、漬物の加工用に自家採種によるカラシ菜の栽培を行っている。5月半ば。残雪の月山を背景に人の背丈よりも高いカラシ菜の花が咲き揃う <画像提供:東海林 晴哉 氏>

 摘果メロンのほか、キュウリや丸ナスなどに関して庄内ならではの食べ方が「辛子漬け」です。それに欠かせないのが、山形県東田川郡庄内町跡(あと)地区や鶴岡市「月山パイロットファーム」で自家採種による栽培が行われているアブラナ科の「カラシ菜」。

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【Photo】月山パイロットファームでは最も手が掛かる和がらしの収穫~加工までを全て人の手で行う。6月末。蒸し暑さと土埃との闘いでもある刈り取り・実落とし作業をしたカラシ菜の種子は、大きさ1mm~2mmほど。種子を脱穀した後、梅雨の晴れ間を見計らって天日干しを行うことで、祖先から受け継いだ和がらし本来の風味を味わうことができる <画像提供:東海林 晴哉 氏>

 その種子を脱穀後に天日干しして作られるのが「和がらし」(下画像)です。ピリっとした和辛子の風味が爽やかな「メロン子の辛子漬け」は、ご飯や冷たい麺類は勿論、ビールや冷酒との相性も抜群。

 仙台朝市・今庄青果本店でも6月~7月にかけては入手可能な庄内産のメロン子を使った辛子漬けの代表的なレシピをご紹介しましょう。

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【材料】
 メロン子 1kg
 塩 50g
 砂糖 100g
 和がらし粉 50g
 酒または焼酎 100cc

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【作り方】

・メロン子を縦に4~8等分にカットする(小さいうちは種子部分はそのままでもOK)

・あらかじめよく混ぜ合わせた塩・砂糖・和がらし粉をメロン子にからませ、日本酒または焼酎を加える

・ビニール袋に入れて2日ほど冷蔵庫に置くと美味しい漬物の完成。

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 それではボナペティ~ト♥
 
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