あるもの探しの旅

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2018/11/30

祝・解禁!(なーんちゃって)

孤独な闘い2018
vs.仇敵ボージョレ・ヌーボー


 Booooo...q(`ε´q)

 2012年以来の大ブーイングと共に、仇敵との戦闘開始を告げるゴングが鳴りました。

 久方ぶりに相まみえる相手は、2004年がピークとなった輸入量104万ケースから昨年は半分以下の49万ケースまで落ち込んだのだというフランス・ブルゴーニュ地方南西部ボージョレ地区で栽培されるガメイ種を仕込んだ新酒ボージョレ・ヌーボー。

BeaujolaisNouveaux1981.jpg【Photo】域内消費型からの脱却を狙ったボージョレ生産組合では、60年以上にわたって新酒のPRポスターを制作してきた。救世主キリスト誕生の場面をもじった1981年バージョンは、まだ国内向けの感が強い

 1976年(昭和51)にヌーボーの輸入を開始したのが、宣伝上手で知られる某大手洋酒メーカー。大手広告会社と手を組んで繰り広げたイメージ戦略が奏功し、本来のワインの味を知っている自国や周辺国では広範な需要が見込めない1970年代末に作られ始めた粗製乱造品は、日本で市民権を得てゆきます。

 〝日付変更線に近く、ヌーボーを世界で一番早く飲める〟とか〝初物好きだから〟とか〝「旬」に敏感な繊細な感性の持ち主〟などとブチ上げ、ワインに馴染みが薄かった日本マーケットでのプロモーション活動に特に力を入れてきたのが、酒販業界とヌーボーをドル箱(☞統一通貨ユーロ導入前はフラン箱?)にしてきた生産者組合です。

 その背後に控えるのが、フランス政府直轄で1969年から駐日仏大使館に事務所を設置し、国費を投じた巧みな販促活動で自国食品の輸出促進業務を行ってきた「フランス食品振興会(SOPEXA)」。

Beaujolais Nouveaux2011.jpg【Photo】女性を意識し、国外での受けを狙ったデザインにシフトしている2011年バージョンのポスター

 ここ数年2,500万本前後で推移する全産出量のおよそ半数の1,300万本ほどが輸出に回されるボージョレ・ヌーボーの50%以上にあたる670万本(2015年実績)を日本が輸入しています。これは170万本を輸入する2位のアメリカ合衆国以下を大きく引き離し、ブッチギリの独走状態。

 日本の総人口が1.2億人で、アメリカ合衆国が日本の倍以上の3.2億人ですから、アメリカの4倍ものヌーボーを輸入している日本の尋常ではない突出ぶりが目立ちます。

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 14世紀末、ブルゴーニュ公国の豪胆公フィリップ2世が、世界で最も高価なワインを産出するVosne-Romanée ヴォーヌ・ロマネ村を頂点にLa Tâcheラ・ターシュなど、金満家向けの銘醸畑が存在するCôte-d'Or コート・ドール地域で栽培する赤ワイン用ブドウ品種を高貴品種のピノ・ノワールに限定する法令を発布。

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 その結果、多産ながら品質では劣る地ブドウのガメイはブルゴーニュ公国から駆逐され、コート・ドールとは異なる花崗岩土壌が広がる南部のボジョレー地区で地元の日常消費用に栽培されるようになります。

moulin-a-vent.jpg ボジョレー地区でも土壌が幾分か異なる北部の「Moulin a Ventムーラン・ナ・ヴァン」左画像Morgon モルゴン」右下画像Fleurie フルリ」「Chénas シェナス」など10箇所の単一畑(Cru クリュ)では、わずか2~3日という短期間のステンレスタンク密閉促成発酵で仕上げるマセラシオン・カルボニック製法ではない通常の造りで数年の熟成が可能なワインを産出します。


morgon.jpg ボージョレ地域のこうしたクリュワインのエチケット(ラベル)には、産地名である「Beaujolais ボージョレ」の記載が一切見られません。これは、ワインを常飲する消費者がボージョレ産ワインに抱くマイナスイメージを考慮している事情があると庄イタは考えています。

 よほどのガメイ好きでもなければ、敢えてクリュ・ボージュレを極めてボージョレ通を目指す必然性は見当たらないというのが、フツーの飲み手の本音かと。

 一般のワインが出回る前に稼ごうと狙ったマーケティングの産物であるヌーボーの売り手は、その味を〝フレッシュ&フルーティー〟と称します。聞こえこそ悪くありませんが、独特なバナナフレーバーが漂う薄っぺらでお寒い中身とはおよそ不釣り合いな価格が日本で横行するには理由があります。

Beaujolais Nouveaux.lyon.jpg【Photo】ボージョレ地区から15kimほどと、最も近い都市であるLyon リヨンの街頭で新酒の仕込みには使用しない使い古しの樽を転がす新酒解禁のデモンストレーションを繰り広げる生産者団体のメンバー

 ニュージーランド、フィジー共和国、バヌアツ共和国、マーシャル諸島など、日付変更線により近い国がある事実を曲げてまで、売らんかな魂胆むき出しの売り手側は、原価に航空運賃・倉庫料・中間マージン+αを上乗せし、現地価格では2€~6€ほどの安酒を2,500円前後で売るのですから、さぞオイシイ商売なのでしょう。

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 世界のワインマーケット事情に明るい米国のワイン評論家ロバート・パーカーjr.は、南北54km東西13kmのボージョレ地区にひしめくブドウ生産者2,700軒が産出する莫大な量のボージョレ・ヌーボーを〝フランスで最も成功した輸出品〟と評しています。

 その最右翼であろうルイ・ヴィトンは、ブランドを象徴するモノグラム柄さながら判で押したように人と同じモノを持つ右に倣え方式への抵抗感がゼロな日本市場の売り上げが全世界の4割を占めます。近年の拡大路線による品質低下を指摘されながらも2018年の売り上げがバブル期を上回る過去最高を記録。LVブランド崇拝者が存在する限り、高止まりする価格に見合った品質を今もなお保持しているのか、ボージョレ・ヌーボーと比べれば〝●っても鯛〟の部類に入るのでしょうか?

 パーカー氏が〝The Nouveau hysteria(ヌーボー・ヒステリー)〟という表現を自著「Parker's Wine Buyer's Guide」の中で使っているヌーボー商戦から遠く距離を置いている庄イタの目には、11月第3木曜日の深夜零時を挟んで繰り広げられる一連のヌーボー商戦が「ボージョレ騒動」としか映りません。

【Movie】新酒解禁に合わせて、劣勢にある国内市場に向けたPR活動も怠らないのが、日本におけるサクセストーリーを盾に生産者を動員するボージョレ・ワイン委員会。オープンバスや2CVで隊列を組み、パリの目抜き通りでの派手な街宣活動を繰り広げる

 ちゃんとしたワインを愛飲する庄イタ。複数の取引先から職場に舞い込むボージョレ・ヌーボーの斡旋で、数本をお付き合いで購入した分を持て余すからと同僚から貰ったことが2度あります。

 寝かせても意味がないので、2本ともすぐに開けたものの、全て飲み切るのが苦痛だった上、フラストレーションがたまる悪循環に陥りました。いずれも料理酒としての末路をたどった経験から、自身はお付き合い購入には頑ななまでに応じてきませんでした。

 大阪支社でご縁が深まった取引先から昨年購入したのはボージョレ・ヌーボーではなく、我が郷里ピエモンテが誇る銘酒「Barolo バローロ」(笑)。

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【Photo】取引先の支店長からお薦め頂いたのが、最も偉大なバローロを生むSerrralunga d'Alba セッラルンガ・ダルバ地区で1956年に創業。現在はレストランを併設し、伝統に培われた丁寧な造りを貫き、年を追うごとに評価を上げている造り手「Schiavenza スキアヴェンツァ」の単一畑「Prapò プラポー」2012ヴィンテージ

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 そんな庄イタが目に余る商業主義と繰り広げてきた孤独な闘いの戦歴を振り返ると...。

 2008年「今年も当たり年? ボジョレー・ソードーは日本固有のお祭り
    「ボジョレー後日談&自然派ワインよもやま話
 2011年「ボジョレー騒動はさておき...
     地球上で唯一オフヴィンテージが存在しない奇跡のブドウ産地・ボジョレー
       vs.解禁日に飲んだ今年のヴィーノ

 2012年「どうせなら真っ当な新酒を

 たっぷりと皮肉を込めて毒を吐き続けた地道な啓発が浸透したのか、国産ワインの市場拡大とあいまってニッポンのボージョレ・ヌーボー消費は年を追うごとに冒頭に述べた通り縮小傾向にあります。

 「ようやく良識ある日本のワイン市場が醸成されてきたぞ...。」と安堵し、怒りの矛を収めたのが2013年以降。

 ところがどっこい。〝夢よ再び〟と衰退の一途をたどるヌーボー市場をテコ入れせんとする悪の枢軸(どこかで聞いたような...)による(イラクでは存在が確認されなかった)大量破壊兵器ならぬ大量生産品を売り込まんとする美辞麗句がゾンビのごとく今年も市場に出回りました。

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 いかなる天候でもネガティブな情報を決して発信しない生産者団体「Inter Beaujolais(ボージョレ・ワイン委員会)」の9月27日付プレスリリースには、「フルボディでリッチ、滑らかで複雑味がある」という今年のヌーボーの出来に関する見出しが躍ります。

 その本文にいわく「2018年は歴史に残る作柄」。理想的な天候に恵まれ、健全で凝縮したブドウが収穫され「2017・2015・2009と肩を並べる歴史的なヴィンテージ」とあります。さらに作り手によっては「偉大なフィネスを備えている」とまで吹聴しています。

 「またかよ...」いささかウンザリしつつ、出遅れた感はありつつも、一つ覚えのように繰り返されるあこぎなヌーボー商法に妨害電波を発しておきましょう。

george-dubueuf2018.jpg 過去のネガティブキャンペーンで繰り返し述べたように、ヌーボー商戦には誇大な表現がついて回るのが常。まともなワインを常飲する立場からすると、噴飯物の表現が満載のプレスリリースは、トランプ米大統領が槍玉に挙げるフェイクニュースそのものです。

 2018年ヴィンテージが優良年だとしても、それは通常の仕込みを行うワインに当てはまる話。マセラシオン・カルボニックという特殊な促成醸造を行い、リリースから3~4か月で飲み切るべきヌーボーは、天候に恵まれたにしても奥深い複雑味や風味の劇的な向上が見込めるわけではありません。

Maseration-Beaujolais Nouveaux.jpg【Photo】通常の赤ワインの仕込みでは、除梗したブドウを破砕し、2週間から2カ月ほどを要してマセラシオン(=発酵)を行う間に果皮から果汁に浸潤する要素でワインの複雑味が増す。ボージョレ・ヌーボーは除梗後のブドウをそのままステンレスタンクに投入。密閉した環境でアルコール発酵が始まると炭酸ガス(=カルボニック)が発生し、酸欠状態が生まれる。わずか2~3日で一次熟成が停止。平板で薄っぺらくシンプルなお味のヌーボーが出来上がる

 ましてや適切な保管状況で20年以上の歳月を経ることで、妖艶で味わい深い熟成をする一部の偉大なワインだけが備える〝Finesseフィネス〟という言葉を軽々に用いては、土づくりや冬場の剪定、顆粒を傷めないための手摘みによる収穫、一粒ごとの厳格な選別など、量より質を求めるブドウ栽培から醸造に至るまでの膨大な手間と労力を惜しまない良心的な作り手に対して失礼極まりない話です。

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 大統領選をめぐるロシア疑惑や他国との軋轢を顧みない自国第一主義に基づく政策が、どれだけ綻(ほころ)びが出ようと、あるいは繰り返し〝謙虚に丁寧に〟と口先で言っておきながら、真相について説明責任を果たそうとはせず、選任した閣僚の一部が大臣としての資質を問われる体たらくだったとしても、時の政権には一定の固定支持層が存在します。

beaujolais2018_newspaper.jpg それと同様にどれだけ庄イタが警鐘を鳴らそうと、ボージョレ・ヌーボーへの出費を惜しまなぬ人々は存在します。いい加減にもう片棒担ぎをやめればいいのに、旬の風物詩的な扱いで新聞やテレビもボージョレ・ヌーボー解禁をニュースとして取り上げる状況に変化の兆しはありません。

 新聞倫理綱領にある通り、メディアは正確かつ公正でなければなりません。良識ある報道機関の皆さん、行き過ぎた商業主義の片棒担ぎはいい加減やめませんか。

 そしてヌーボーに群がる皆さん、そんなに初物がお好きなら、(庄イタは絶対に手を出しませんが)ボージョレ・ヌーボーと同じ製法で10月30日に市場に出回り始めるイタリアの新酒「Novello ノヴェッロ」はいかがでしょう。ボージョレより半月早く出し抜ける快感も味わえますよ。

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【Photo】米国籍の兄弟が1978年にトスカーナ州モンタルチーノで設立した「Banfi バンフィ」は国際品種シラーにガメイ!!)を混醸するのはレアケース。コスパが高いCORVOコルヴォで知られるシチリア州「Duca di Salaparuta ドゥーカ・ディ・サラパルータ」、シュワシュワで甘酸っぱいランブルスコの造り手「Donelli ドネリ」といった大規模な作り手が、サンジョヴェーゼやネロ・ダヴォラなど主にイタリア品種のブドウを使用し、(ほぼ日本向け限定で)余技として生産するノヴェッロ

 さらには季節が半年先行し、今年の3月から4月に収穫されたブドウを6か月間セラーで熟成させた南半球の2018年産ワインも既に市場に流通しています。

 例えばボージョレ・ヌーボーの1/4以下のお手頃プライスでありながら、間違いなくヌーボーよりも上質であろうチリの首都サンティアゴに醸造所を構える作り手「Santa Carolina サンタ・カロリーナ」が、中部セントラルヴァレー地区で栽培するブドウから作る「カベルネ ソーヴィニヨン/シラー2018」は、500円前後の良心的な値付けがされています。

 チリ最大手の醸造所「Concha y Toro コンチャイトロ」傘下の「Viña Maipo ヴィニャ・マイポ」の「カベルネ・ソーヴィニヨン&メルロー 2018」も実勢価格が700円以下で賢明な選択といえます。

 どちらも堅苦しいウンチクやワインスノッブとは無縁なお値段。ボージョレ・ヌーボーの現地価格と同価格帯でも、コストパフォーマンスは遥かに上をゆきます。

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【Photo】解禁日の11月15日(木)には呼び込みの売り子を立てていた西宮市内の食品スーパー。ヌーボーよりも上質との触れ込みのヴィラージュ・ヌーボーですら、解禁日から半月を経た11月末には哀れ在庫処分セール品と化していた

 皮肉にもこうして2011年「ボジョレー騒動はさておき...」で槍玉に挙げた〝ボージョレの帝王〟ことジョルジュ・デュブッフを日本に紹介したS社の取り扱い商品2種類をボージョレ・ヌーボーに代わる賢明な選択肢として挙げたのは、幾分バッシングをやりすぎた感がある戦歴の贖罪だと受け止めていただいても結構です。

 久方ぶりにボコボコにしばきまくったボージョレ・ヌーボー掃討作戦2018。積もり積もった鬱憤が晴れたところで、今年のところはこのぐらいにしといたるわ、ワレ。

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 次回はヌーボー解禁前夜、庄イタが白トリュフ解禁を祝して大阪ミナミで空けたワインについて語ります。乞うご期待❣

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2018/11/11

香り立つデニム〈後編〉

専用フレグランス付きテーラード・ジーンズ
JACOB COHËN ヤコブ・コーエン


 その香りは、濃密にしてエキゾチックかつノーブル。

 嗅覚中枢を心地よくくすぐる馥郁たる芳香は、ウオッシュの濃淡が異なる2本のインディゴブルーのジーンズから漂ってきます。

 魅惑的な香りの主は、比類なき着心地の良さを生み出すイタリア伝統の立体裁断の技術を駆使したハンドメードによる〝テーラード・ジーンズ〟を標榜する「JACOB COHËN ヤコブ・コーエン」。

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 仕立ての良いテーラードジャケットとの組み合わせを前提にデザインされており、スリムなスキニータイプは別にして、ルーズなフォルムが一般的な作業着ベースの粗野なイメージのアメリカンジーンズとは全くの別物。

 レディース・メンズを問わず、JACOB COHËN のジーンズには全て製造段階で同じ香りづけがなされます。

 それは東南アジア原産でシソ科の花木「Patchouli パチョリ」の葉から抽出した精油ほかを独自に調合した〝INDIAN WOOD〟という香り。パチョリは古代ギリシャ・ローマ時代から香料や媚薬としても知られてきたといいます。

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 フィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ教会に所属するドミニコ会修道士が13世紀に行った救済事業が母体の現存する世界最古の薬局「Officina Profumo Farmaceutica di Santa Maria Novella サンタ・マリア・ノヴェッラ薬局」にもパチョリという名のオーデコロンがあります下左側

 和装にも似合いそうなそのハーバルでオリエンタルな落ち着いた香りのトップノートで連想したのは墨汁や太田胃散(笑)。

patchouli_SMN.jpgPatchouli Patch Eau de toilette.jpgPatchouli Patch-box.jpg

 庄イタがよりINDIAN WOOD との相似を感じるのは、パリで1976年に誕生した「L'Artisan Parfumeur ラルチザン・パフューム」が1978年に発表したオード・トワレ「パチュリパッチ」です上右側。フローラルでウッディな香りと植物由来のホワイトムスクやコケの香りが複雑に絡み合います。

indianwood-jacob.jpg プロフェッショナルな調香師、あるいは映画「羊たちの沈黙」に登場する絶対嗅覚の持ち主レクター博士でもなければ、JACOB COHËNから立ち上る個性的なINDIAN WOODの重層的な香りとサンタ・マリア・ノヴェッラのパチョリやラルチザン・パフュームとの共通点を直ちに見いだすことは難しいかもしれません。

 デニム地から力強く立ち上がるINDIAN WOODは、あくまで甘美ながら爽快さも感じられます。奥底にパチョリのニュアンスを嗅ぎ当てた庄イタなのでした。

 〈後編〉では個性際立つ香りを纏(まと)ったMade in ITALY ならではのジーンズ JACOB COHËN について語ります。

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 日本ではEDWIN系列のAmericanino アメリカニーノ、Outsider アウトサイダーなどのカジュアルなブランドをイタリア北東部ヴェネト州パドヴァ県の人口3,500人ほどのポンテロンゴという街で立ち上げた実業家でTato タトの愛称で呼ばれたAdolfo Bardelle アドルフォ・バルデッレは、1985年に新たなボトムスのブランドを立ち上げます。

 JACOB COHËN ヤコブ・コーエンという新ブランド名は〈前編〉で回顧した国籍を問わず広く愛されるジーンズ生みの親である二人のアメリカ移民、ヤコブ・デービスとリーバイ・ストラウスの成功譚に敬意を込めたもの。

 〝JACOB〟はヤコブ・デービスのファーストネームであり、〝COHËN〟はリーバイ・ストラウスの出自であるユダヤでは一般的な姓であり、元来は司祭を指すヘブライ語です。

nicola bardelle.jpg JACOB COHËNが世界へと飛躍する立役者となったのが、父が立ち上げたブランド再興に2003年から着手し、従前とは比較にならないほど価値を高めた息子のNicola Bardelle 二コラ バルデッレでした上画像

 ニコラが初めて手がけたストレートモデル「610」下画像は、ローマから世界24か国に展開し、セレブな顧客に愛されるメンズプレタポルテの名門「Brioni ブリオーニ」で取り扱われるも、ほぼ無名のブランドへの発注は、わずか700本に留まります。

 順風満帆なブランド再出発とはいかなかったものの、細部に至るまでの並外れた品質とデザイン性の高さから、目の肥えた顧客の心を捉えて離さなくなるまでに要した時間は長くはなかったのです。

jacob-cohen610.jpg 才気に恵まれ、新たなデニムの価値を創造したニコラ。一躍時代の寵児となりましたが、2012年8月、家族と共に滞在していた南フランスの保養地サントロペで交通事故のため急逝します。享年45。

 不慮の死を遂げたニコラ亡きあと未亡人となった妻ジェニファーがクリエーティブディレクターに就任。一流ブランドが軒を連ねるモンテナポレオーネ通りと同様、ファッショナブルなショップが集中するミラノ・スピーガ通りにルームフレグランスや子ども服・シューズなどの新展開を含む旗艦店を今年5月に出店するなど、JACOB COHËNの勢いは止まりません。

 他にはない個性を磨き、品質を徹底して高めることで独自の地位を確立したニコラの開拓者精神は、色褪せることのない魅力と共に一着の中で生き続けています。

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Jacob Cohen-2016.jpg イタリアン・プレミアムジーンズといえば、1979年の初コレクションからジーンズに注力し、若年層に支持されるDIESEL ディーゼル、1981年からジーンズを手掛けたGIORGIO ARMANI ジョルジョ・アルマーニが代表的な老舗どころでしょうか。

 JACOB COHËNが再始動した2003年以降、Pantaroni Torino(☞「トリノのスラックス」の意)の略語をブランド名にしたボトムス専業のPT01ピーティーゼロウーノから派生したPT05ピーティーゼロチンクエ、JACOB COHËNの路線を狙ったRICHARD J. BROWN リチャード・J.ブラウンtramarossaトラマロッサSIVIGLIA シヴィリアなど、あまたのフォロワーが登場した後にあっても、JACOB COHËNは際立った存在であり続けています。

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 その理由のいくつかを挙げてみましょう。

 染色・織り・縫製の全てにおいて高い技術を持つ職人技が世界に認められた岡山県児島のジーンズは、遺伝子の複数形 Genes【dʒíːnz ☞ ジーンズ】と組み合わされ〝Kojima Genes〟の名を世界に馳せています。

 現在、JACOB COHËNの製造を一手に引き受ける「Giada SpA ジャーダ社」は、ヴェネト州アドリアとシチリア州ブロンテに工房を構えます。岡山製やイタリア製デニム生地を厳選。ジーンズの顔となるステッチ入りバックポケットの工程では、効率的に裁断から刺繍までを一貫して行える信頼性が高い日本製の多頭式電子刺しゅう機を導入しています。

 このような日本との縁が浅からぬハード面のこだわりのみならず、手先が器用な女性たちが活躍する熟練の縫い子の技術を併用する縫製には番手の細い糸をモデルごと色を変えて使用します。イタリア伝統の立体裁断でカッティングされた一点ごと手作業によるアイロン成形でクセ取り仕立てを行い、股下に無駄なシワが寄らない無類の履き心地と膝下を絞ったテーパードなシルエットの美しさを両立させているのです。

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 手仕上げされる立体的なシルバーメタルのロゴが浮かび上がるなど、実にバリエーション豊富なパッチには、時にシリアルナンバーが刻印されます。希少素材ヘアハイド(ハラコ)を色違いで使用するほか、シュリンクレザーや型押し、さらには良質のレザーにハンドペイントを施すなど、モデルごとの表情は多種多彩。

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 タックボタン上画像や前編で経緯に触れたヤコブ・デービスがリーバイス社との連名で1873年に特許を得たリベット下画像は、ジュエリーを手掛ける工房にモデルごとに風合いやデザインを発注します。

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 ベルトのバックルが上にずれ上がらぬよう、ピンを通すループがフロントトップのタックボタンホールの下に縫い込まれるのは、テーラドなスラックスと同じ仕様下画像

 バックポケット用のブランド名入りの質感が高いバンダナもモデルによって色柄の組み合わせを変えるなど、死角のないディテールへの目配りにはつくづく感心します。

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 着用すれば外見上は見えない箇所における主張も怠りません。

 多くのモデルで採用されるのが、ジッパーではなくクラシックなボタンフロントです。一点づつメッキ加工が施され、風合いが変わるモデル名の刺繍の裏にはブランドポリシーが縫い込まれています。

 Go to bed with a dream Wake up with a purporse
 (☞ 夢を抱いて眠り、目的をもって目覚めよ)

 フロントポケット内側の袋状になった左右のスレーキもモデルごとに柄や色が異なり、JACOB COHËNのモノづくり哲学を記した履く人に向けたメッセージと取り扱いについての指示を超細番手の糸でスレーキにタグを縫いこむ念の入れようです。

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 そこにいわく〝Understand yourself. Think of yourself. And then go your own way. Whatever ties to the circumstance you have, and whatever conditions you are in keep your way and remember to smile. The JACOB COHËN product philosophy.
(☞〝自分を理解せよ。自身について考えよ。そして自ら歩め。どんな事情があったにせよ、どんな体調であっても、自分の生き方を貫き笑顔を忘れるな〟)

 モデルによって開きはありますが、定番の「J622」や「J688」は並行輸入ものでも3.5万円以上、正規代理店を介するショップにおける限定モデルに至っては7万円前後~の価格帯となります。

 そんな実勢価格も相まって、酸いも甘いも知り尽くした世代こそが似合うのであって、その価値を見いだす眼力が問われる逸品を青二才が着こなすには、どうやらハードルが高いようです。

 JACOB COHËNの愛用者ならばお馴染みであろうブランドのアイコンとなる香りINDIAN WOODは、ギリシャ産などを試行錯誤の末に理想の仕上がりを得たエジプト産の軽石でブリーチをかけた後の水洗い工程で生地に付けられます。

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 こうして完成する微妙な風合いを損なわぬよう、洗う頻度を極力減らすよう指示。洗濯にあたっては、裏返してネットに入れ、色移り防止のため単独で洗い、直射日光を避けることが必須となります。

 洗濯によって失われる香りを蘇らせるため、通常モデルにも付属する補修用の糸と共に、リミテッドエディションとプレミアムエディションにはシルバーメタリックのアトマイザー入り専用フレグランスが小袋に入ってきます。

 フレグランスだけを手に入れたいJACOB COHËN 愛好者は少なからず存在するようで、ほぼ常時ネットオークションで10mℓ容量のINDIAN WOODが売買されています。

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 テーラードジーンズを標榜するJACOB COHËNゆえ、直営ショップで購入したジーンズは専用BOXに収まって購入者へと手渡されます。

 どうです?JACOB COHËNの魔法にかかったことがないと仰るアナタも興味が湧いてきたでしょ?

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 今年の初夏、セレクトショップ「Strasburgo 京都LAQUE 四条烏丸店」で購入したJ622セカンドプレミアムエディション「FLORENCE」は、関西では〝着倒れの街〟の異名を持つ京都と姉妹都市である芸術の都フィレンツェをイメージしたモデル。ハンドペイントによるデフォルメされたフィレンツェの市章ユリがイタリアンカラーで描かれている1点ものです。

 パッチと共柄のバンダナやタックボタンが白で統一されて季節感を演出した夏場は、セリエAの強豪SSCナポリのレプリカユニフォームや赤穂さくらぐみで購入したスタッフTシャツをタックアウトで、秋口はナポリ伝統のハンドメード技術を受け継ぐシャツ専業メーカー「Finamore フィナモレ」をタックインで着る機会が多かった季節も変わり目に差し掛かっています。

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 本国イタリアでは、上着を含めたトータルな商品展開を図っており、2016年3月にオープンした関西における旗艦店である大阪梅田の「JACOB COHËN ハービスPLAZA」上画像には、ボトムスだけでなく、上着からTシャツ、バッグやベルトといった小物に至るアイテムが揃います。

 アイテム数が最も多いのはジーンズゆえ、ショップの入り口付近にはINDIAN WOODのかぐわしい香りが立ち込めており、思わず足を踏み入れたくなる仕掛け。

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 そうしてチェックした今シーズンは、J688やJ622シリーズで1960年前後にイギリスから世界の若者に伝播したムーブメント「モッズ」をテーマに英国空軍の青白赤トリコロールカラーのラウンデルやタータンチェックなど、ブリティッシュテイストを取り入れたコレクションを展開しています。

 付属品がなく装飾がシンプルなPWシリーズよりは値が張りますが、せっかくならディテールに凝るJシリーズ、それもリミテッドエディションクラスを手に入れたいもの。

 立冬を過ぎ、コートを羽織るまではジャケット+パンツスタイルで外出する機会が増えます。そこでハービスPLAZA店で物色したのが、J622よりも股上が1.5cm深く上着との相性が良いJ688モデル 。

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 ツイード素材のテーラードジャケットとの相性を考慮し、探したのはワンウオッシュ程度のやや濃いめのインディゴブルーデニムで、膝下からテーパードがかかった日本人にも着こなしやすいシルエットの688が第一候補です。

 いくつか比較した中で、赤いステッチとコインポケットやモスグリーンのハラコパッチに配されたロイヤルタータンが効いたJ622モデル、そしてポケットとウエスト外側部分に入った破線状の極太ステッチが目を引き、JACOB COHËNとしては珍しく内側に2本のループステッチが入った「J688 HEAVY STITCH COMFORT」の二者択一となりました。

 先述したJACOB COHËNのブランド哲学ではありませんが、庄内系イタリア人として自我が覚醒する遥か以前、ブリテッシュ系プログレ少年だった庄イタ。'70年代にティーンだった女子に人気があった英国エジンバラ出身のアイドルポップグループで、(脳天気なアメリカ的楽曲ともども、どう贔屓目に見ても趣味が劣悪に思えた)タータンチェックのステージ衣装に身を包んだ「ベイ・シティ・ローラーズ」に対して抱いていた悪い印象と重なりパス(笑)。

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 そうしてJ688 HEAVY STITCH COMFORTに白羽の矢を立てた次第。

 良質なクロコダイル型押しで、渋い光沢を放つ皮パッチには、通常リミテッドエディション以上のモデルに使用されるシルバーメタリックのロゴが輝きを放ちます。

 さらにJ688 HEAVY STITCH COMFORTはリミテッドでもプレミアムでもありませんが、シーズン毎に特に力を入れたモデルを示すこのセカンドプレミアムエディションには、補修用の糸巻と共にINDIAN WOODのフレグランスボトルが袋に忍んでいるのです。

 これは買いでしょう。

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 裾上げにあたっては、吉田育次店長のサジェスチョンもあり、付属の金茶色の糸ではなくコインポケットに施されたJの刺繍と同系の赤い糸を指定。差し色を強調するダブルチェーンステッチ処理を施した仕上がりにも納得です。

 こうして庄イタを魅了するJACOB COHËNとの運命の赤い糸は、ますます強固なものとなりました。

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