あるもの探しの旅

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祝・解禁!(なーんちゃって)

孤独な闘い2018
vs.仇敵ボージョレ・ヌーボー


 Booooo...q(`ε´q)

 2012年以来の大ブーイングと共に、仇敵との戦闘開始を告げるゴングが鳴りました。

 久方ぶりに相まみえる相手は、2004年がピークとなった輸入量104万ケースから昨年は半分以下の49万ケースまで落ち込んだのだというフランス・ブルゴーニュ地方南西部ボージョレ地区で栽培されるガメイ種を仕込んだ新酒ボージョレ・ヌーボー。

BeaujolaisNouveaux1981.jpg【Photo】域内消費型からの脱却を狙ったボージョレ生産組合では、60年以上にわたって新酒のPRポスターを制作してきた。救世主キリスト誕生の場面をもじった1981年バージョンは、まだ国内向けの感が強い

 1976年(昭和51)にヌーボーの輸入を開始したのが、宣伝上手で知られる某大手洋酒メーカー。大手広告会社と手を組んで繰り広げたイメージ戦略が奏功し、本来のワインの味を知っている自国や周辺国では広範な需要が見込めない1970年代末に作られ始めた粗製乱造品は、日本で市民権を得てゆきます。

 〝日付変更線に近く、ヌーボーを世界で一番早く飲める〟とか〝初物好きだから〟とか〝「旬」に敏感な繊細な感性の持ち主〟などとブチ上げ、ワインに馴染みが薄かった日本マーケットでのプロモーション活動に特に力を入れてきたのが、酒販業界とヌーボーをドル箱(☞統一通貨ユーロ導入前はフラン箱?)にしてきた生産者組合です。

 その背後に控えるのが、フランス政府直轄で1969年から駐日仏大使館に事務所を設置し、国費を投じた巧みな販促活動で自国食品の輸出促進業務を行ってきた「フランス食品振興会(SOPEXA)」。

Beaujolais Nouveaux2011.jpg【Photo】女性を意識し、国外での受けを狙ったデザインにシフトしている2011年バージョンのポスター

 ここ数年2,500万本前後で推移する全産出量のおよそ半数の1,300万本ほどが輸出に回されるボージョレ・ヌーボーの50%以上にあたる670万本(2015年実績)を日本が輸入しています。これは170万本を輸入する2位のアメリカ合衆国以下を大きく引き離し、ブッチギリの独走状態。

 日本の総人口が1.2億人で、アメリカ合衆国が日本の倍以上の3.2億人ですから、アメリカの4倍ものヌーボーを輸入している日本の尋常ではない突出ぶりが目立ちます。

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 14世紀末、ブルゴーニュ公国の豪胆公フィリップ2世が、世界で最も高価なワインを産出するVosne-Romanée ヴォーヌ・ロマネ村を頂点にLa Tâcheラ・ターシュなど、金満家向けの銘醸畑が存在するCôte-d'Or コート・ドール地域で栽培する赤ワイン用ブドウ品種を高貴品種のピノ・ノワールに限定する法令を発布。

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 その結果、多産ながら品質では劣る地ブドウのガメイはブルゴーニュ公国から駆逐され、コート・ドールとは異なる花崗岩土壌が広がる南部のボジョレー地区で地元の日常消費用に栽培されるようになります。

moulin-a-vent.jpg ボジョレー地区でも土壌が幾分か異なる北部の「Moulin a Ventムーラン・ナ・ヴァン」左画像Morgon モルゴン」右下画像Fleurie フルリ」「Chénas シェナス」など10箇所の単一畑(Cru クリュ)では、わずか2~3日という短期間のステンレスタンク密閉促成発酵で仕上げるマセラシオン・カルボニック製法ではない通常の造りで数年の熟成が可能なワインを産出します。


morgon.jpg ボージョレ地域のこうしたクリュワインのエチケット(ラベル)には、産地名である「Beaujolais ボージョレ」の記載が一切見られません。これは、ワインを常飲する消費者がボージョレ産ワインに抱くマイナスイメージを考慮している事情があると庄イタは考えています。

 よほどのガメイ好きでもなければ、敢えてクリュ・ボージュレを極めてボージョレ通を目指す必然性は見当たらないというのが、フツーの飲み手の本音かと。

 一般のワインが出回る前に稼ごうと狙ったマーケティングの産物であるヌーボーの売り手は、その味を〝フレッシュ&フルーティー〟と称します。聞こえこそ悪くありませんが、独特なバナナフレーバーが漂う薄っぺらでお寒い中身とはおよそ不釣り合いな価格が日本で横行するには理由があります。

Beaujolais Nouveaux.lyon.jpg【Photo】ボージョレ地区から15kimほどと、最も近い都市であるLyon リヨンの街頭で新酒の仕込みには使用しない使い古しの樽を転がす新酒解禁のデモンストレーションを繰り広げる生産者団体のメンバー

 ニュージーランド、フィジー共和国、バヌアツ共和国、マーシャル諸島など、日付変更線により近い国がある事実を曲げてまで、売らんかな魂胆むき出しの売り手側は、原価に航空運賃・倉庫料・中間マージン+αを上乗せし、現地価格では2€~6€ほどの安酒を2,500円前後で売るのですから、さぞオイシイ商売なのでしょう。

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 世界のワインマーケット事情に明るい米国のワイン評論家ロバート・パーカーjr.は、南北54km東西13kmのボージョレ地区にひしめくブドウ生産者2,700軒が産出する莫大な量のボージョレ・ヌーボーを〝フランスで最も成功した輸出品〟と評しています。

 その最右翼であろうルイ・ヴィトンは、ブランドを象徴するモノグラム柄さながら判で押したように人と同じモノを持つ右に倣え方式への抵抗感がゼロな日本市場の売り上げが全世界の4割を占めます。近年の拡大路線による品質低下を指摘されながらも2018年の売り上げがバブル期を上回る過去最高を記録。LVブランド崇拝者が存在する限り、高止まりする価格に見合った品質を今もなお保持しているのか、ボージョレ・ヌーボーと比べれば〝●っても鯛〟の部類に入るのでしょうか?

 パーカー氏が〝The Nouveau hysteria(ヌーボー・ヒステリー)〟という表現を自著「Parker's Wine Buyer's Guide」の中で使っているヌーボー商戦から遠く距離を置いている庄イタの目には、11月第3木曜日の深夜零時を挟んで繰り広げられる一連のヌーボー商戦が「ボージョレ騒動」としか映りません。

【Movie】新酒解禁に合わせて、劣勢にある国内市場に向けたPR活動も怠らないのが、日本におけるサクセストーリーを盾に生産者を動員するボージョレ・ワイン委員会。オープンバスや2CVで隊列を組み、パリの目抜き通りでの派手な街宣活動を繰り広げる

 ちゃんとしたワインを愛飲する庄イタ。複数の取引先から職場に舞い込むボージョレ・ヌーボーの斡旋で、数本をお付き合いで購入した分を持て余すからと同僚から貰ったことが2度あります。

 寝かせても意味がないので、2本ともすぐに開けたものの、全て飲み切るのが苦痛だった上、フラストレーションがたまる悪循環に陥りました。いずれも料理酒としての末路をたどった経験から、自身はお付き合い購入には頑ななまでに応じてきませんでした。

 大阪支社でご縁が深まった取引先から昨年購入したのはボージョレ・ヌーボーではなく、我が郷里ピエモンテが誇る銘酒「Barolo バローロ」(笑)。

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【Photo】取引先の支店長からお薦め頂いたのが、最も偉大なバローロを生むSerrralunga d'Alba セッラルンガ・ダルバ地区で1956年に創業。現在はレストランを併設し、伝統に培われた丁寧な造りを貫き、年を追うごとに評価を上げている造り手「Schiavenza スキアヴェンツァ」の単一畑「Prapò プラポー」2012ヴィンテージ

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 そんな庄イタが目に余る商業主義と繰り広げてきた孤独な闘いの戦歴を振り返ると...。

 2008年「今年も当たり年? ボジョレー・ソードーは日本固有のお祭り
    「ボジョレー後日談&自然派ワインよもやま話
 2011年「ボジョレー騒動はさておき...
     地球上で唯一オフヴィンテージが存在しない奇跡のブドウ産地・ボジョレー
       vs.解禁日に飲んだ今年のヴィーノ

 2012年「どうせなら真っ当な新酒を

 たっぷりと皮肉を込めて毒を吐き続けた地道な啓発が浸透したのか、国産ワインの市場拡大とあいまってニッポンのボージョレ・ヌーボー消費は年を追うごとに冒頭に述べた通り縮小傾向にあります。

 「ようやく良識ある日本のワイン市場が醸成されてきたぞ...。」と安堵し、怒りの矛を収めたのが2013年以降。

 ところがどっこい。〝夢よ再び〟と衰退の一途をたどるヌーボー市場をテコ入れせんとする悪の枢軸(どこかで聞いたような...)による(イラクでは存在が確認されなかった)大量破壊兵器ならぬ大量生産品を売り込まんとする美辞麗句がゾンビのごとく今年も市場に出回りました。

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 いかなる天候でもネガティブな情報を決して発信しない生産者団体「Inter Beaujolais(ボージョレ・ワイン委員会)」の9月27日付プレスリリースには、「フルボディでリッチ、滑らかで複雑味がある」という今年のヌーボーの出来に関する見出しが躍ります。

 その本文にいわく「2018年は歴史に残る作柄」。理想的な天候に恵まれ、健全で凝縮したブドウが収穫され「2017・2015・2009と肩を並べる歴史的なヴィンテージ」とあります。さらに作り手によっては「偉大なフィネスを備えている」とまで吹聴しています。

 「またかよ...」いささかウンザリしつつ、出遅れた感はありつつも、一つ覚えのように繰り返されるあこぎなヌーボー商法に妨害電波を発しておきましょう。

george-dubueuf2018.jpg 過去のネガティブキャンペーンで繰り返し述べたように、ヌーボー商戦には誇大な表現がついて回るのが常。まともなワインを常飲する立場からすると、噴飯物の表現が満載のプレスリリースは、トランプ米大統領が槍玉に挙げるフェイクニュースそのものです。

 2018年ヴィンテージが優良年だとしても、それは通常の仕込みを行うワインに当てはまる話。マセラシオン・カルボニックという特殊な促成醸造を行い、リリースから3~4か月で飲み切るべきヌーボーは、天候に恵まれたにしても奥深い複雑味や風味の劇的な向上が見込めるわけではありません。

Maseration-Beaujolais Nouveaux.jpg【Photo】通常の赤ワインの仕込みでは、除梗したブドウを破砕し、2週間から2カ月ほどを要してマセラシオン(=発酵)を行う間に果皮から果汁に浸潤する要素でワインの複雑味が増す。ボージョレ・ヌーボーは除梗後のブドウをそのままステンレスタンクに投入。密閉した環境でアルコール発酵が始まると炭酸ガス(=カルボニック)が発生し、酸欠状態が生まれる。わずか2~3日で一次熟成が停止。平板で薄っぺらくシンプルなお味のヌーボーが出来上がる

 ましてや適切な保管状況で20年以上の歳月を経ることで、妖艶で味わい深い熟成をする一部の偉大なワインだけが備える〝Finesseフィネス〟という言葉を軽々に用いては、土づくりや冬場の剪定、顆粒を傷めないための手摘みによる収穫、一粒ごとの厳格な選別など、量より質を求めるブドウ栽培から醸造に至るまでの膨大な手間と労力を惜しまない良心的な作り手に対して失礼極まりない話です。

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 大統領選をめぐるロシア疑惑や他国との軋轢を顧みない自国第一主義に基づく政策が、どれだけ綻(ほころ)びが出ようと、あるいは繰り返し〝謙虚に丁寧に〟と口先で言っておきながら、真相について説明責任を果たそうとはせず、選任した閣僚の一部が大臣としての資質を問われる体たらくだったとしても、時の政権には一定の固定支持層が存在します。

beaujolais2018_newspaper.jpg それと同様にどれだけ庄イタが警鐘を鳴らそうと、ボージョレ・ヌーボーへの出費を惜しまなぬ人々は存在します。いい加減にもう片棒担ぎをやめればいいのに、旬の風物詩的な扱いで新聞やテレビもボージョレ・ヌーボー解禁をニュースとして取り上げる状況に変化の兆しはありません。

 新聞倫理綱領にある通り、メディアは正確かつ公正でなければなりません。良識ある報道機関の皆さん、行き過ぎた商業主義の片棒担ぎはいい加減やめませんか。

 そしてヌーボーに群がる皆さん、そんなに初物がお好きなら、(庄イタは絶対に手を出しませんが)ボージョレ・ヌーボーと同じ製法で10月30日に市場に出回り始めるイタリアの新酒「Novello ノヴェッロ」はいかがでしょう。ボージョレより半月早く出し抜ける快感も味わえますよ。

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【Photo】米国籍の兄弟が1978年にトスカーナ州モンタルチーノで設立した「Banfi バンフィ」は国際品種シラーにガメイ!!)を混醸するのはレアケース。コスパが高いCORVOコルヴォで知られるシチリア州「Duca di Salaparuta ドゥーカ・ディ・サラパルータ」、シュワシュワで甘酸っぱいランブルスコの造り手「Donelli ドネリ」といった大規模な作り手が、サンジョヴェーゼやネロ・ダヴォラなど主にイタリア品種のブドウを使用し、(ほぼ日本向け限定で)余技として生産するノヴェッロ

 さらには季節が半年先行し、今年の3月から4月に収穫されたブドウを6か月間セラーで熟成させた南半球の2018年産ワインも既に市場に流通しています。

 例えばボージョレ・ヌーボーの1/4以下のお手頃プライスでありながら、間違いなくヌーボーよりも上質であろうチリの首都サンティアゴに醸造所を構える作り手「Santa Carolina サンタ・カロリーナ」が、中部セントラルヴァレー地区で栽培するブドウから作る「カベルネ ソーヴィニヨン/シラー2018」は、500円前後の良心的な値付けがされています。

 チリ最大手の醸造所「Concha y Toro コンチャイトロ」傘下の「Viña Maipo ヴィニャ・マイポ」の「カベルネ・ソーヴィニヨン&メルロー 2018」も実勢価格が700円以下で賢明な選択といえます。

 どちらも堅苦しいウンチクやワインスノッブとは無縁なお値段。ボージョレ・ヌーボーの現地価格と同価格帯でも、コストパフォーマンスは遥かに上をゆきます。

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【Photo】解禁日の11月15日(木)には呼び込みの売り子を立てていた西宮市内の食品スーパー。ヌーボーよりも上質との触れ込みのヴィラージュ・ヌーボーですら、解禁日から半月を経た11月末には哀れ在庫処分セール品と化していた

 皮肉にもこうして2011年「ボジョレー騒動はさておき...」で槍玉に挙げた〝ボージョレの帝王〟ことジョルジュ・デュブッフを日本に紹介したS社の取り扱い商品2種類をボージョレ・ヌーボーに代わる賢明な選択肢として挙げたのは、幾分バッシングをやりすぎた感がある戦歴の贖罪だと受け止めていただいても結構です。

 久方ぶりにボコボコにしばきまくったボージョレ・ヌーボー掃討作戦2018。積もり積もった鬱憤が晴れたところで、今年のところはこのぐらいにしといたるわ、ワレ。

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 次回はヌーボー解禁前夜、庄イタが白トリュフ解禁を祝して大阪ミナミで空けたワインについて語ります。乞うご期待❣

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