あるもの探しの旅

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2016/01/17

Nostalgia del paese

ノスタルジアな絵地図で妄想里帰り


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【Photo】スイス(C.H.)・フランス(F)と国境を接するピエモンテ州とヴァッレ・ダオスタ自治州。両州各地の建築や名産品、観光資源を細密なイラストで表した1950年代にイタリアで作成された絵地図 (W237mm×H310mm)

 このヴィンテージマップは、旧市街の四方をルネッサンス期の城壁が囲むトスカーナ州の古都Lucca ルッカで購入したもの。地図の裏面には、1950年代から60年にかけて作成されたことを示す古書店による証明書(右下)が貼付されています。

certificato-garanzia.jpg ピエモンテの州都トリノのモニュメントとして登場するのが、市街地郊外の高台に建つスペルガ聖堂と、16世紀に欧州の覇権を競ったフランスを撃破し、サヴォイア公国の首都をトリノに定めたエマヌエーレ・フィリベルトの銅像。

 さらにFiat の生産工場「Lingotto リンゴット」<2007.7拙稿「そしてトリノ」参照>で、トリノの自動車産業が華やかりし1950年代から60年代に生産されたモデルFiat1100。スイスやフランスとの国境を越える鉄道を疾走するのは蒸気機関車。こうしたアイコンからも、およそ半世紀前の時代背景がうかがえます。

 この絵地図を眺めていて浮かんできたのが、1918年(大正7)に発表された室生犀星(1889-1962)の「抒情小曲集」に収められた「小景異情その二」でした。

    ふるさとは遠きにありて思うもの
    そして悲しくうたふもの
    よしや
    うらぶれて異土の乞食となるとても
    帰るところにあるまじや
    ひとり都のゆふぐれに
    ふるさとおもひ涙ぐむ
    そのこころもて
    遠きみやこにかへらばや
    遠きみやこにかへらばや

map-con-frame.jpg 文学の道を志して上京後も、室生犀星が抱き続けたのが故郷金沢への複雑な感情。元加賀藩士の父と女中との間に生まれ、生後間もなく養子に出された金沢は、血の通った親の愛情を知らずに育った犀星を暖かく迎え入れてくれる地ではありませんでした。

 そんな近親憎悪にも似たアンビバレンスな思いを抱かせるでもなく、庄イタにとってのイタリアは、降りたつたび、そこが異郷であることなど微塵も感じさせません。帰りたい。でも帰れない・・・。

 年末年始にふるさとへ帰省をされた方でも、曜日まわりの関係で、今年はお正月休みが例年になく短かったと感じておいでの方が多いのでは?

 生まれ故郷にひとかたならぬ愛着を持つ郷土愛の権化のごときイタリア人。その常として、郷里には強い帰巣本能が働くもの。庄イタの場合は、その対象が前世のピエモンテほかイタリア各地であり、現世における第二の故郷である庄内地方だったりするわけです。

 さりとて、年末年始に久しく訪れていないイタリアを満喫するに足る長期の休みをとることなど、現実には仕事の関係で夢のまた夢。そんな籠の鳥である庄イタが、遠く離れた故郷を懐かしむに十分な風物が多数ちりばめられたのがこの絵地図。

 芸術の国イタリアでは多くの家庭がそうするように、絵画には似つかわしい額装を施します。この絵地図とて例外ではなく、そうして彼の地へと思いを馳せるのです(上写真)。いざ、地図の旅へ。行け! 我が思いよ。黄金の翼に乗って。

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【Photo】Fiat1100、市街地郊外の高台に建つスペルガ聖堂、サン ・ カルロ広場のエマヌエーレ・フィリベルト像の3点セットはピエモンテ州の州都Torino トリノ(左上)  ランゲ丘陵の銘醸地の中で最も名高いBarolo バローロは、白トリュフが香るAlba アルバ近郊の小さな村。スプマンテ発祥の地がCanelli カネッリ(右上)  Cuneo クーネオ一帯のランゲ丘陵の森は、欧州きっての良質なヘーゼルナッツと栗の名産地(左下)  Biella ビエッラはイタリア繊維産業の中心地(右下)

 魅力が地に満ち、幸福が天から降臨する稀有な国・イタリアは言うに及ばず、ここ数年、歳末の恒例だった庄内&新潟村上への爆買いツアーにすら出向けなかったこの年末年始。地図中に登場するピエモンテゆかりの産品を愛で、里帰りの妄想に少しだけ浸れました。

gianduiotti.jpg【Photo】トリノ生まれのヘーゼルナッツ風味のチョコレート「Gianduiotto ジャンドゥイオット」(中)と、少し小ぶりな「Gianduiottino ジャンドゥイオッティーノ」(左)は、一個づつ金紙に包まれている。〈2007.8拙稿「チョコレートの街トリノ」参照〉  H27年産「ゆきむすび」〈2008.10拙稿「鳴子の米プロジェクト 稲刈り交流会」参照〉の現地受け取りのため、12月末に訪れた鳴子への道すがら立ち寄ったのが「あ・ら・伊達な道の駅」。ROYCE'コーナーで購入した北海道生まれの生チョコ・ジャンドゥイオット風味(右)

 例えばローストすると比類なき芳香を放つクーネオ県特産のヘーゼルナッツを練りこんだジャンドゥイオット。ナターレ(=クリスマス)に北イタリアで食する菓子パンドーロやパネトーネにぴったりなのが、Moscato d'Asti モスカート・ダスティ。

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【Photo】バニラがほのかに香るヴェローナ発祥の八角形をした円錐型のクリスマス菓子「Pandoro パンドーロ」。内袋から取り出す前に粉砂糖を加え、全体にまぶすようにシェイクしてから食するのがコツ

 1990年代半ばに飼育頭数が激減し、スローフード協会が小規模な生産者による保護すべき地域の伝統食材「Ark アルカ(味の箱舟)」に指定する「Razza piemontese ピエモンテ牛」。白毛でコレステロール値が低いこの希少な牛肉の入手はかなわずとも、黒毛和牛の霜降りのような過剰な脂肪がない赤身の旨味が凝縮した赤毛の「いわて山形村短角牛」を盛岡で調達。(2008.6拙稿「元気いっぱい! 放牧牛」参照)〝おせちもいいけど、ピエモンテ料理もね〟ということで、ワインの過剰在庫を抱えるTaverna Carlo タヴェルナ・カルロでピエモンテ風煮込みに仕立てました。

pandoro-moscato.jpg【Photo】上品なマスカット香が特徴のアスティ特産の微発泡性白ワイン「Moscato d'Asti モスカート・ダスティ」が、まさに鉄板の組み合わせ

 ピエモンテ牛と同様、アルカ認定されている日本短角種。噛めば噛むほど滋味深い短角牛の頬肉煮込みにピタピタと合ったのが、ピエモンテ人が愛してやまない「Dolcettoドルチェット」100%のヴィーノ・ロッソ。その極め付けが、土壌の異なる3か所の畑に由来する複雑味と目が詰まった重厚さがあり、しなやかな味わいのバランスに優れた「Dogliani Superiore Vigna Tecc ドリアーニ・スーペリオーレ・ヴィーニャ・テック」2011年ヴィンテージ。

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【Photo】多くの場合はミディアムボディで汎用性が高い赤品種ドルチェットが、持てるポテンシャルを最大限に発揮するのが、2011年にDOCGに昇格したエリア「Dogliani ドリアーニ」。10kmほど北のDOCGバローロ産地では、ネッビオーロを植える最も条件の良い南斜面の畑で育った完熟ドルチェット100%のヴィーノ・ロッソ「ドリアーニ・スーペリオーレ」。作り手はイタリア共和国第二代大統領を務めたルイージ・エイナウディ(1874-1961)が、政界引退後に興した醸造所「ポデーリ・ルイージ・エイナウディ」

 ドルチェットだけでは終わらないのが庄イタ。日頃は整理がつかないTaverna Carloのセラーから取り出したのが、冬場が最もおいしく感じるネッビオーロの精華Barolo バローロです。どれにしようかな~♪と、目移りする良作年ストックのうち〝そろそろ試してみてもいいかも棚〟より両手で一つかみ(下写真)。ボトルを立てて滓を落ち着かせアイドリング状態に。

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 こうして不摂生を重ねた年末年始明け。年初までの暖冬モードが一変、今週から厳しい寒波に見舞われています。かくなる上は酒と薔薇で体脂肪を蓄え、冬を乗り切るロードマップ作戦を展開中 (*^-^)ノY☆Yヾ(^-^*)。そんな他愛のないオチで今回は締めましょう。

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2015/10/11

Composta di fico con buon vino del casa

イチジクのコンポートと実力発揮のイタリアワイン


 イチジクが旬を迎えています。旧約聖書「創世記」では、楽園エデンで無垢な日々を送っていたアダムとイブが、蛇にそそのかされ、リンゴとイチジクのいずれかと考えられる禁断の果実を食べたことで、人は知恵を得たとされています。

 互いの裸体を恥じた2人が身につけたのは、かつて武田久美子が写真集My Dear Stephanieで、世の男性諸氏の目を丸くさせた貝殻ビキニではなく、(^ ^; イチジクの葉でした(⇒リンゴの葉はあまりに小さいゆえ当然かと)。知恵を手に入れた代償として楽園を追放された人類にとって、初めての衣装はイチジクだったのですね。

Otranto-cattedorale-faciata.jpg【Photo】ビザンティン帝国の拠点として聖地エルサレムへ向かう巡礼者や十字軍が行き交ったのが、イタリア最東端に位置する港町プーリア州Otranto オートラント。11世紀にノルマン人が初期キリスト教聖堂の遺跡があった地に創建したロマネスク様式の「Cattedrale 大聖堂」(上写真)

Cacciata-Paradiso-catedrale-Otranto.jpg【Photo】ロマネスク彫刻が施された柱頭を頂く円柱がアーチを支えるオートラント大聖堂の身廊部で見逃してならないのが、床一面に敷き詰められたキリスト教や土着の多神教から題材をとった生命の樹を中心とする12世紀のモザイク画。その一部、このアダムとイブが手にする禁断の果実は、まさにイチジク(上写真)

iwagaki-fukura2015.7.jpg  紀元前9400年頃にはヨルダンでイチジクが栽培されていた痕跡が発見されており、最も初期に食用とされた作物のひとつと考えられます。トルコ・エジプト・アルジェリアなど、イタリアを含む地中海沿岸で盛んに栽培されているイチジクですが、庄イタの行動エリアでイチジク産地といえば、その北限とされる秋田県にかほ市を挙げずにはおけません。

【Photo】今年7月19日、遊佐町吹浦で食した金浦産天然岩ガキ。ここ数年で最も岩ガキの身入りが良かったこの夏。殻付き特大(600円)を注文し、ヨダレを流しながら待つことしばし。ご覧の通りプックリとメタボな大トロ状態の身を口に含むと...。 口の中はトロけるようなハーレムと化し、その甘い至福の余韻はいつ果てるともなく延々1時間は続いた

 山形県最北の遊佐町と県境を接するにかほ市を毎年欠かさずに訪れているのは、滋養豊富な鳥海山の伏流水が育んだ岩ガキを食さんがため。2005年(平成17)、仁賀保町・象潟町と合併し、にかほ市の一部となった旧金浦町ほか、象潟・小砂川・吹浦と産地が密集するこの地域の岩ガキが旬を迎える夏だけでなく、鳥海山の南裾野には名水スポットが数多く存在しており、年間を通して庄イタの出没率が高いエリアです。

kaneura_onsuiro2007.jpg【Photo】獅子ヶ鼻湿原付近から湧出する膨大な量の伏流水は、夏でも水温7℃前後。太陽熱で水温を上げるため、浅く広く作られた金浦温水路 <拙稿「日本初の温水路 先人の英知が遺した日本初の太陽光温水装置『上郷温水路群』@ 秋田・象潟」2009.8参照>

 真夏でも手を切るほど冷たい鳥海山の伏流水を主に水田の農業用水として活用するため、先人が苦労して整備した日本初の温水路群の現地リサーチのため、にかほ市大竹地区を過去にも訪れています。そこはイチジク生産が盛んな土地でもありました。

s-suke69_nikaho.jpg【Photo】イチジク栽培の北限とされる秋田県にかほ市大竹地区の「いちじく屋 佐藤勘六商店」(http://ichijiku-ya.com/ )の看板商品「いちじく甘露煮」は、この地方の伝統的な味付け。R7道の駅象潟「ねむの丘」でも入手可

 旧金浦町大竹地区を中心に1世紀の歴史があるこの地のイチジク栽培。昭和40年代に栽培が本格化したのがホワイトゼノア種。寒冷地でも栽培可能で、小ぶりながら風味がよく型崩れしにくいため、完熟前に収穫して保存食として主に甘露煮に加工してきました。

 ところが、カミキリムシによる食害によって、この20年ほどで栽培面積が半減。現在およそ40の生産農家の高齢化もあいまって生産者数も激減しています。事態打開のため、生産者や地元の加工業者・自治体などで構成される「にかほ市いちじく振興会」が一昨年に発足。「プロジェクト九(←「イチジク」と読ませる)」と銘打った新たな販路拡大に向けた取り組みが始動しました。3軒の農家が鳥による食害防止ネットで木を覆って完熟させた生食用ホワイトゼノアの出荷も昨年から始まっています。

 生活のあらゆるシーンが多分にイタリアナイズされた庄イタとしては、イタリアでもポピュラーな果実であるイチジクをコンポート(赤ワイン煮)で食するのが常道(下写真)。その相伴はヴィーノ・ロッソをおいてほかにはありません。

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 先日訪れた仙台市青葉区国分町のワインバー「土筆」では、新潟・佐渡産のイチジクのコンポートにリコッタチーズを載せ、生ハムで包み込んだ一品が登場。酸味・甘味・塩味が絡み合い、北イタリアのエレガントなピノ・ネロ100%のヴィーノ・ロッソと絶妙なアッビナメントを体感できました。

 かたや、ワインセラーに常時300本以上のイタリアワインのストックを抱える仙台市青葉区某所の闇リストランテ「Taverna Carloタヴェルナ・カルロ」でも、この時季の定番はイチジクのコンポート。シナモンスティック・スターアニス(八角)・クローブ(丁子・チョウジ)で香り付けしたコンポートは、フレッシュチーズと軽めのヴィーノ・ロッソとの相性が抜群。

 コンポートの仕込みに用いるのは長期熟成に向くそれなりの価格のセラーアイテムではありません。そこで登場するのが、階段下のパントリーに無造作に置かれた「CO-OP ITALIA イタリア生協連合会」と「日本生協連」が提携し、日本市場では2011年から発売されているヴィーノ・ロッソ。ブドウ品種はサンジョヴェーゼが主体となります。

vino-rosso-coop-italia.jpg パルマハム、パルミジャーノ・レッジャーノ、アチェート・バルサミコ・トラディショナーレなど、珠玉の食材が揃う美食の州エミリア・ロマーニャ州で1963年に発足した生産協同組合「Cevico チェヴィーコ」。4,500軒あまりのブドウ生産者、15の醸造所が加盟するイタリア国内屈指の規模の生産組合です。

 イタリアワイン法で最上位にあたるDOCG(統制保証原産地呼称)を白ワインとして初めて認定された「Albana di Romagna アルバーナ・ディ・ロマーニャ」ほか、加盟する複数の醸造所が、DOC(統制原産地呼称)・IGT(典型的生産地表示)クラスのヴィーノを厳格な品質管理のもとで年間10万トン生産しています。

coop-italia-bianco.jpg CO-OP ITALIA では1紙パック入りを主力としてベストセラーを続けるというだけあって、デーリーユースにピッタリなイタリアの王道をゆく安定感のある味わい。日本市場には750mℓ 容量ボトルで輸入されています。みやぎ生協での実勢価格はなんと500円台。

 魅了される香りや多彩なニュアンスを感じる複雑味、長い余韻といった卓越したワインが持ち合わせる美質を求めるのは無理でも、守備範囲が広そうな親しみやすい「だし」系の旨味が広がります。たかがワンコイン+αの安ワインと侮るなかれ。気取らずにワインと共に日本の食卓を彩るのには、こうしたミディアム・ライトボディタイプはむしろ好都合。ヴィンテージ表記はありませんが、コストパフォーマンスに優れたチャーミングなヴィーノです。

 トレッビアーノ種が主体という白(左上写真)も試しましたが、赤はアルコール度数が11%、白は10.5%と低めなので、良い意味でスルスルと飲めてしまいます。イタリア人のソウルフードと言っても良いシンプルなトマトソースのパスタや白身肉には鉄板でしょうし、家族で囲む毎日の食卓で本領を発揮するイタリアワインの魅力が十分味わえます。

 今年も判で押したように決まり文句のグレート・ヴィンテージを吹聴し、11月第3木曜の解禁日に向けた商戦真っ最中の「某ージョレ・●ーボー」なんかより、よほど胸を張ってオススメできる魅力的な酒質を備えています。

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2014/09/23

沖田ナス&ヴィーノ。アッビナメント検証は続く。

揺るがぬサンジョヴェーゼ優位。そして
オルチャ渓谷にひっそりと佇む修道院への追慕


1-DSCF4090.jpg 「沖田ナスにはキアンティ・クラシコ」で、意外な好相性を発見した沖田ナスとキアンティ・クラシコ・リゼルヴァ。フルーツタウン櫛引・西荒屋での大玉ブドウ狩りの道すがら、産直「あさひ・グー」で買い求めた沖田ナスの自家製浅漬けが出来上がったので、今回は目先を変えてキアンティ・クラシコの骨格を成すサンジョヴェーゼ(グロッソ)と国際品種を混醸したトスカーナ産ヴィーノ・ロッソを取り出して組み合わせを試してみました。

【photo】沖田ナス自家製浅漬けとヴィーノとのアッビナメント第2ラウンドは、メルロ+カベルネ・ソーヴィニョン+シラーをメインに、15%程度のサンジョヴェーゼ・グロッソを混醸したヴィーノ・ロッソ「サンタンティモ・ロッソ」で検証。その相性やいかに

 Taverna Carloのセラーから取り出したるは、DOCG(統制保証原産地呼称)「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」のエリア内で栽培されたメルロ、カベルネ・ソーヴィニョン、シラーに樹齢の若いサンジョヴェーゼ・グロッソを加えて醸すヴィーノに対して1996年に新たに誕生したDOC(統制原産地呼称)「Sant'Antimoサンタンティモ」ロッソ。

fanti-brunello97-.jpg【photo】19世紀初頭から醸造所を所有するファンティ家。長期熟成のポテンシャルを秘めたブルネッロ・ディ・モンタルチーノ1997には手を触れず、ブドウとオリーブが育つ畑からはロマネスク様式の鐘楼を望むことができる修道院の名にちなんで名付けられた「サンタンティモ」のロッソ2004を抜栓

 造り手は「Tenuta Fanti テヌータ・ファンティ」。世紀のヴィンテージとセンセーションを引き起こした1997年産のブルネッロ・ディ・モンタルチーノが、ブラインドテイスティングにより20点満点で評価を行うワイン評価本L'Espresso「Vini d'Italia2003年版」で、イタリア全土の赤ワインで第3位に当たる17.5点のハイスコアを叩き出して一躍注目されました。

 評価対象となった14,000本の頂点となる19ポイントはモンテプルチアーノの雄「Avignonesiアヴィニョネジ」ヴィン・サント1992。375mℓ瓶でわずか2,995本しか生産されなかった稀少な1本と共に、Taverna Carloのセラーで眠りにつく世評高きブルネッロ・ディ・モンタルチーノ'97。こうしたお宝には手を付けず、沖田ナス浅漬けとのアッビナメント第2幕は、キアンティ・クラシコとはタイプが異なり国際品種を85%使用したサンタンティモ・ロッソに相伴を委ねました。

etichetta-santimo.jpg【photo】ブルネッロを含めて現在はモダンなデザインに変更されたファンティのヴィーノ。「サンタンティモ・ロッソ」2004年のエチケッタには、糸杉とロマネスクの鐘楼を備えた修道院が描かれる

 その結果は、メルロ+カベルネ・ソーヴィニョン+シラーがメインで、樹齢の若いサンジョヴェーゼの割合が15%に満たないサンタンティモ・ロッソでは、沖田ナスとの相性は今ひとつ。これは国際品種にはないサンジョヴェーゼの大きな美点である良質な酸味がベースにあるキアンティ・クラシコでは、ほのかな沖田ナスの甘味と青みがかった香りとが重なって見事に調和するということ。沖田ナスとの相性では、サンジョヴェーゼの優位は揺るぎのないものでした。

 ゲルマン的な秩序とは対極の自由(⇒無秩序ともいう)を好むイタリア人を法律の縛りから開放すると、いかに素晴らしい仕事をするかを立証した「スーパー・トスカーナ」と比べ、国際品種メインでありながら若干おとなしい印象のサンタンティモ・ロッソ。今回、庄イタの印象に残ったのは、ヴィーノと沖田ナスの組み合わせの妙ではなくヴィーノのエチケッタ。そこには1本の糸杉と聖堂が描かれています。サンタンティモという名前といい、描かれた聖堂といい、その絵には心当たりがありました。

 イタリアきっての名醸地といえば、ピエモンテとトスカーナが互いに譲らぬ頂点を競います。イタリア全土で50番目となる世界遺産に今年認定されたのが、我が郷里「ピエモンテの葡萄畑の景観:ランゲ・ロエロ・モンフェラート」。万年雪を頂くアルプスの山並みを見はるかすブドウ畑の丘陵が広がるランゲ地方から比べれば、前回取り上げたフィレンツェの南に広がるキアンティ・クラシコのエリアは、「Collinaコッリーナ」と呼ばれる標高500m前後の小山の連なりと表現したほうがしっくりきます。

Monticchiello_Pienza.jpg【photo】世界文化遺産オルチャ渓谷。16世紀中葉のローマ教皇パウルス3世が偏愛した「Vino nobile=高貴なワイン」という名の歴史あるワインを産出するモンテプルチアーノとピエンツァ間にある村、モンティッキエーロに向かう糸杉の道(上写真)

 トスカーナの田園風景といっても、その姿は多様。オリーブとブドウの畑が山あいの森の間にパッチワーク状に点在するキアンティ・クラシコエリアからシエナを越えて南下すると、道沿いに列をなす糸杉が風景のアクセントとなる見渡す限りの牧草地が広がる世界文化遺産オルチャ渓谷へと至ります。

penza_vista2006.jpg【photo】当Viaggio al Mondo が参加している人気ブログランキングのアイコン画像として使っているのが、モンティッキエーロのすぐ北にある小さな礼拝堂。遥か地平から昇る朝日を受けて輝く霧がたなびく早朝、そこでは息をのむこんな光景と出合える

 360度の視界が開けるそこは、どこを切り取ってもそのままポストカードになりそう。太古は海の底にあり、塩分を含む土壌ゆえ13世紀までは不毛の地だったオルチャ。人々は700年あまりの時をかけ、荒野を絵のように美しい牧草地や耕作地に変えたのです。

1-Sant Antimo.jpg【photo】19世紀に誕生した銘酒Brunelloブルネッロの産地、モンタルチーノ中心部から南へ8キロあまり。12世紀の華美な装飾を排したロマネスク様式の聖堂には、グレゴリオ聖歌が響き、白衣姿の修道士が静かな祈りを捧げる〈clicca qui

 名醸地モンタルチーノの誇りであるブルネッロをグラスで試飲しながら購入できる「Enoteca La Fortezza」と地元っ子が多いトラットリアでモンタルチーノの夜を堪能した翌朝。宿を早めに引き払い、霧に包まれた道をFIAT PUNTOで南に向かいました。目ざすはモンタルチーノのチェントロから8キロほど離れた「Sant'Antimoサンタンティモ」の村はずれにある12世紀なかばに完成したロマネスク様式の美しい聖堂を備えた「Abbazia di Sant'Antimoサンタンティモ修道院」。

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【photo】明るい白石灰岩造りの聖堂の入口やファサードは未完。入口の壁面を支える左側の円柱では、頭が一つ、体が二つの化けネコ(?)が愛嬌たっぷりにお出迎え(右写真)聖堂の身廊部。ロマネスク様式の柱に光が射す(左写真)

 今回開けたサンタンティモ・ロッソの造り手、テヌータ・ファンティの醸造所前を通り過ぎると、谷間の草原とブドウ畑の中に建つ白亜のサンタンティモ聖堂が見えてきます。聖堂に隣接した修道院では、修道士たちが神への祈りを捧げる日々を送っています。

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【photo】時代が下って登場するゴシックやバロック・ロココの華美さとは無縁のロマネスク様式の聖堂内部。イタリア版の"陰翳礼賛"と呼ぶべき光と影が劇的な対比効果を生みだす聖堂を静謐が支配する

 後陣や身廊上部に穿たれた窓からは、朝日が光の筋となって聖堂内部に射してきます。そこでは朝の祈祷を終えた修道士たちが修道院に引き揚げるところでした。やがて人気(ひとけ)の無くなった聖堂内部は静寂を取り戻し、13世紀の素朴なキリスト磔刑像としばしの間、向き合うことができました。
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2014/09/20

沖田ナスにはキアンティ・クラシコ

庄内系イタリアンなワインのアンティパスト@Taverna Carlo

 個性豊かな在来作物の宝庫である庄内地方に「沖田ナス」を普及させたきっかけを作った小野寺政和さんとの偶然のなせる遭遇について記したのが6年前の夏。
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 在来系のナスとして知名度が高い「民田ナス」よりも沖田ナスは外皮が軟らかく、ナスにありがちなエグミを感じさせません。庄イタが食したあらゆるナスの中で、食味の良さは「萬吉ナス」の澄み切った味に次ぐものです。鶴岡市沖田地区に最も近い産直「あさひ・グー」では、秋口にかけて収穫したての沖田ナスのほか、浅漬け、ビール漬け、辛子漬け、粕漬けなどの加工品が並びます。
2014okita-nasu.jpg 発酵食品である漬物と醸造酒の相性の良さには体験的に気付いており、かねてよりタヴェルナ・カルロでは実践してきました。いまや「カマンベール+いぶりがっこ+日本酒」のコンビネーションは広く知られています。ワインラヴァーを自任する庄イタとしては、「カマンベール+いぶりがっこ+スモーキーなシャルドネやコクのあるピノ・グリージョなどの白ワイン」を合わせたいところ。

castello_fonterutoli_99.jpg【photo】「まだ少し早いかな?」と思いつつ抜栓したキアンティ・クラシコ・リゼルヴァ「Castello Fonterutoliカステッロ・フォンテルートリ」'99ヴィンテージ。案の定、熟成の途上にあることは口に含んだ途端に判明。岩手県山形村短角牛の相伴として、今年の春に開けてしまったのが、明らかな"お手付き"だったフラッグシップは現在ストック切れ(右写真)

【photo】かかる状況下、セラーから一掴みしたカステッロ・ディ・フォンテルートリのストックより。(下写真左から)フィネスを感じるマイ・フェイバリッツ「Siepiシエーピ」'98、今回'08ヴィンテージを開けた「Ser Lapoセル・ラーポ」'07、若飲みできるスタンダード・クラスでもハイレベルな「キアンティ・クラシコ」'06〈click to enlarge

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 辛味が心地よい「藤沢カブ」の甘酢漬けとサンジョヴェーゼ50%+メルロ50%で上質なフィネスを感じさせるお気に入りの1本、シエーピとの酸味つながりな意表を突いた組み合わせの良さを記したのは、7年前に遡る2007年6月の「藤沢周平の故郷の味」。

 1970年代までは藁づとに包まれた安酒のイメージが強かったキアンティ。フィレンツェとシエナの間に広がる生産地域の中核をなし、さまざまな個性を備えるキアンティ・クラシコの品質向上に早い時期から取り組んだのが1435年創業の名門「Castello di Fonterutoliカステッロ・ディ・フォンテルートリ」です。

 つい先日、シエーピとは異なるカステッロ・ディ・フォンテルートリのヴィーノ・ロッソと沖田ナスとの香りつながりな最良のアッビナメント(=組み合わせ。マリアージュ)を見出しました。

 それはキアンティ・クラシコ・リセルヴァSER LAPO 2008。現在で24代目となるマッツェイ家のSER LAPOセル・ラーポ(1350-1412)が、1398年12月16日に記した公式文書に「キァンティ」という名が初めて登場していることから、キァンティの祖といわれる偉大な祖先に敬意を表して1983年から作られています。

mazzei-stampa.jpg【photo】エチケッタには、誉れ高きマッツェイ家の紋章を刻印した赤い封蝋とセル・ラーポが残した手書き文字があしらわれる(右写真)。E de' dare, a dì 16 diciembre, fiorini 3 soldi 26 denari 8 a Piero di Tino Riccio,per barili 6 di vino di Chianti ....li detti paghamo per lettera di Ser Lapo Mazzei =「マッツェイ家のセル・ラーポは、この書面をもって、キアンティ・ワイン6樽の対価として12月16日に3フローリン26ソルド8デナロ(⇒それぞれ中世フィレンツェ共和国の通貨単位)をピエロ・ディ・ティーノ・リッチョに支払うよう指示する」という1398年の記述(下写真)scrittaSerLapo.jpg

 イタリアワイン界で引く手あまたの天才醸造家、(光栄にも私と同じ名前の)カルロ・フェリーニが手掛けるカステッロ・ディ・フォンテルートリのキアンティ・クラシコ3種の中では、ミドルレンジに当たるヴィーノです。1990年代前半には日本市場でも流通しており、その味は長らく記憶に残るものでした。

 ノーマルのキアンティ・クラシコやリゼルヴァとは違って、セル・ラーポは取り扱うインポーターが無くなって、長らく日本で姿を見ることはありませんでした。現在は首都圏を中心に9店舗を展開する「Eataly」の独占販売となっています。実勢価格で3千円そこそこと、デイリーユースにも無理のない値付けがされています。

SerLapo-okita2.jpg【photo】キアンティ・クラシコ・リゼルヴァ・セル・ラーポ2008と小野寺政和さん・太さん親子が育てた沖田ナス浅漬けの和洋折衷な組み合わせ@Taverna Carlo

 セル・ラーポは、例年ちょうど今頃の9月中旬に収穫が始まる樹齢10年~20年のサンジョヴェーゼ90%、9月上旬に収穫されるメルロー10%というセパージュ。標高220m~510mの間に広がる石灰岩土壌の畑で手摘みされたブドウは、除梗・破砕後にステンレスタンクで28℃~30℃に管理され、15~18日間のマセレーション(果皮と種を除かぬまま果汁に浸すこと)を行い、225ℓ容量のフレンチバリック樽(半数が新樽)で12カ月、瓶詰め後5カ月の熟成を経てリリースされます。

 今回抜栓したのは2008年ヴィンテージ。軽く10年は熟成するポテンシャルのヴィーノゆえ、更に作柄の良い2006年や2007年には手を触れず、まずまずの年だったこの年から開けた次第。サンジョヴェーゼ特有のスミレ香が心地よく、新樽由来の適度なロースト香がインクや黒ブドウ由来のスグリ、ビターチョコレートなどの複雑な構成要素の中に、血筋の良さを感じるカルロ・フェリーニらしさが綺麗に溶け込んでいます。フラッグシップに当たる「Castello Fonterutoli 」ほど目の詰まった凝縮感はありませんが、ミディアム~フルの体躯を備えています。

 イタリアワインの在庫が豊富なタヴェルナ・カルロには、この夜、南チロル地方アルト・アディジェ産のアロマティックな「Gewürztraminerゲヴュルツトラミネール/ Cantina Traminカンティーナ・トラミン'13」も抜栓して3日目で選択肢としてはありました。しかしフローラルでアロマティックな白ワインが好相性とは思えず、キアンティ・クラシコ・リセルヴァにお出まし願いました。

SerLapo-okita.jpg 主張しすぎないソフトなタンニンと上品なバランスの良さが身上のセル・ラーポ。抜栓後2日目で、初日よりも空気に触れた分、香りが開いています。そこで実感したのが、オーク樽熟成を経たキアンティ・クラシコ・リゼルヴァと沖田ナス浅漬けとの相性の良さ。キアンティ・クラシコの屋台骨となるサンジョヴェーゼのアロマと綺麗な酸味が、沖田ナスの青い印象の香りと重層的に響き合います。「これは素晴らしい組み合わせだっ!

【photo】醸造所を昼に訪れ、テラス席を希望すれば、カステリーナ・イン・キアンティの眺望とトスカーナの伝統料理を蔵出しのヴィーノとともに楽しめるカンティーナ直営の「Osteria di Fonterutoliオステリア・ディ・フォンテルートリ」。イタリア人も驚く好相性な沖田ナスの浅漬けをメニュー化するよう強く進言したいが、如何?

 仙台市北部郊外にあるJAみどりの直営の「元気くん市場」には、一ノ蔵農社など松山・美里町周辺の生産者直送の在来ナス「仙台長ナス」が置いてあります。添加物オンパレードの市販の漬け物を良しとしないタヴェルナ・カルロでは、夏の名残りのこの季節、沖田ナスだけでなく仙台長ナスの自家製浅漬けも登場します。ただし仙台長ナスではナス特有の苦み・エグミが残るため、それを洗い流すにはやはり日本酒ですね。

 キアンティ・クラシコを沖田ナスの浅漬けと組み合わせるのは、いわば変化球勝負。肉厚の遊佐町産パプリカ、玉ネギ、トマト、セロリなどの野菜と一緒に素揚げした沖田ナスを煮込んだシチリアンな「カポナータ」では、直球で相性の良さを実感できたことも申し添えておきます。
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2014/07/21

山伏ポーク

Taverna Carlo タヴェルナ・カルロ
或る夜のテーブルより

 食の都・庄内は品質の高い豚肉の宝庫でもあります。庄内地域全体では、大小80の生産者が年産8万頭を出荷しています。地元産の飼料用米で育ったヘルシーな「こめ育ち豚」〈拙稿:「応援しよう!こめ育ち豚」(2009.7)参照〉に関しては、とんかつと豚肉料理 平田牧場仙台ファーストタワー店がオープンした2009年7月に既報の通り。無敵のコストパフォーマンスも相まって庄イタがイチ押しするのが「山伏ポーク」。ゴールドでもプラチナでもない知る人ぞ知るこの銘柄豚は、修験と信仰の山、月山・羽黒の麓で育ちます。

kobaecha-2014.9.jpg【Photo】頭を垂れた稲穂が黄金色に染まる実りの季節。月山山系の裾野を進む庄内こばえちゃラインの沿道からは、鶴岡・三川・酒田方面と鳥海山の眺望が手に取るよう。あまたの食材に恵まれた食の都・庄内では、蕎麦を決して売りにしないものの、山形県内では鶴岡市が最多の産出地となるソバの白い花が咲く標高が高い地域で、山伏ポークは飼育される。鶴岡市羽黒町川代付近にて

yamabushi-shabu-2014.6.jpg 「庄内こばえちゃライン」の愛称で呼ばれる庄内東部広域農道からは、豊饒なる庄内平野と日本海が眼下に一望のもと。山伏豚は、月山の裾野に延びる庄内こばえちゃライン沿いの鶴岡市羽黒町地域の清涼な環境のもとで育ちます。その優れた肉質は、月山水系の滋養豊かな水と抗菌剤を使用しない穀物主体の配合飼料で180~190日をかけ、出荷に適した体重110kgまで肥育されることで育まれます。

【Photo】夏を元気に乗り切るため、積極的に食卓に取り入れたいのが豚しゃぶ。居並ぶ銘柄豚の中から庄イタがイチオシは山伏ポーク。新鮮な山伏ポークは、全くと言ってよいほどアクが出ない。ほんのり甘い脂と香りのよいキメ細やかな赤身のハーモニーが秀逸なバラ肉をぜひ!

 真っ白な良質の脂身とキメ細やかな肉質の山伏豚の魅力が発揮される部位の一つが、ほんのり甘く香りのよい脂身と淡いピンク色のシルキーなキメ細かい赤身との黄金比率を味わえるバラ肉。その美点を活かす山伏豚しゃぶで最強の共演者「平田赤ネギ」〈拙稿(2007.9)参照〉を得た山伏ポークは、飛ぶ豚、もとい飛ぶ鳥をも落とす無敵の風味で食べる人を魅了します。それは冷しゃぶとて同様。冬場が旬となる濃厚なネギの芳香が甘味に昇華する平田赤ネギとの共演は叶わぬものの、肉厚の「十三浜ワカメ」〈拙稿(2012.4)参照〉が脇を固め、堂々の主役ぶり。

yamabushi-roast-2014.6.jpg【Photo】肩ロース500gに対して岩塩7g、潰したホワイトペッパー3g、ニンニクスライス2片、ローリエ3枚で15時間マリネ。火を通しすぎないようローストすれば、たとえ藤沢カブはなくとも、雪がしんしんと降り積もるあの夜の感動が蘇るアル・ケッチァーノ風山伏豚のロースト

 バラ肉のカロリーを気にされる方でも、しゃぶしゃぶと湯煎して脂肪分を洗い落とすので安心。100gの豚肉には一日の必要量の半分を賄えるほどのビタミンB1が豊富に含まれています。ビタミンB類は糖質の代謝に関与してエネルギーを作り出すため、夏バテ予防にピッタリ。東北も梅雨明けまでカウントダウンとなったこれからの季節、独自の配合飼料を与えることでコレステロール分を通常比で2割カットしたという山伏豚の冷しゃぶで夏を乗り切りましょう!!

 肉の味がわかる方ならば、リピート必至の山伏豚との出合いは、もう10年以上前に遡ります。鮮烈な印象を残したのは、2004年(平成16)の暮れも押し迫った大雪の中、鶴岡「アル・ケッチァーノ」で食した在来作物フルコースの最後に「新作です」と奥田シェフが運んできた「山伏豚肩ロースマリネのロースト藤沢カブの焼畑仕立て」。料理の背景が見事なまでに表現されたその一皿で感涙に打ち震えた体験の顛末は、「奇蹟のテーブル」に記した通り。如才ないオーナーシェフがメディアの寵児と化し、店が変貌する以前の話で、ほぼ月3回の頻度で仙台から通っていた頃の事です。

rodano2004-con-yamabushi.jpg【Photo】山伏豚ローストには、ゲヴルツトラミネール+リースリング+シャルドネという珍しいセパージュの南トスカーナ・スヴェレート産ヴィーノ・ビアンコ「Lodanoロダーノ2004」をチョイス。「REDIGAFFIレデガッフィ」で知られるTUA RITAが年産3千本を極少生産

 鶴岡市羽黒町の養豚農家が生産する(ランドレース×大ヨークシャー)×デュロックの三元交配による銘柄豚「高品質庄内豚」の中でも、鮮度が良く、肉塊が程よい大きさで身肉がしまっている個体に限定される山伏ポーク。かつて羽黒農協が所有していたこの銘柄を、1981年(昭和56)から独占的に扱うのが、元々は羽黒町でお兄さんと一緒に養豚農家を営んでいたという鶴岡市みどり町の精肉店「クックミートマルヤマ」の丸山完さん。

 余談ですが、調理師免許を持つ二代目の浩孝さんは、先日まで鶴岡まちなかキネマで公開されたドキュメンタリー映画「ある精肉店のはなし」上映実行委の中心的役割を果たした行動派の一面を持っています。

kan_maruyama.jpg【Photo】店を継いだご子息の浩孝さんが商品化するも、委託製造先の事情で残念ながら現在は休止中で復活が待たれる「庄内カレー」を手にするクックミートマルヤマの丸山完代表

 山形県下の養豚農家として、法人化にいち早く取り組み、生産と販売を分業化。当初から自動給餌器を取り入れ、豚舎への第三者の立ち入りを制限するなど、衛生面に配慮した生産現場は兄が、販売は弟の完さんが担当。現在の店舗がある鶴岡市みどり町に直売所を出したのが1971年(昭和46)。以来、丸山精肉店、クックミートマルヤマと店名は変わりましたが、品質第一を貫く姿勢は、確かな目利きによる仕入れと店頭での丁寧な仕事ぶりから伺うことができます。

 ご自身もかつては生コンのミキサーで飼料の配合をした経験をお持ちで、生産者の立場を心得ている丸山さん。1995年(平成7)に当時の庄内1市7町1村の農協が広域合併した「JA庄内たがわ」発足当時、広域化したことによる庄内豚の品質のバラツキに危機感を覚え、独自に設けた厳しい基準に沿った肥育を実践する羽黒地域の生産者のみに仕入れ先を限定しています。

ja-n-japan-feeds.jpg【Photo】山伏ポークの飼料を生産する「JA全農北日本くみあい飼料石巻工場」(写真中央)は、宮城県石巻港に面しており、震災の津波で大打撃を受け、被災直後は飼料の生産・供給が全面停止。周辺はいまだ津波の爪痕が痛々しいが、白煙を上げる日本製紙石巻工場(写真左奥)ともども現在は復旧し、山伏ポークの変わらぬ美味しさを支えている〈撮影:2014年3月〉

 庄イタが山伏ポークと出合った当時は、意識の高い12軒の養豚農家が山伏豚として店頭に並ぶ高品質庄内豚を生産していました。安定した供給が可能な輸入食肉の増加と、生産者の高齢化によって、生産農家の数は現在6軒にまで減少しています。これは山伏豚に限った話ではなく、私が庄内系にメタモルフォーゼした2003年(平成15)、山形県内で240戸だった養豚農家は昨年の農水省統計では120戸に半減。全国ベースでは過去10年で9,430戸が5,570戸に減少。みやぎ野ポークの産地、宮城県に至っては460戸が165戸まで激減しています。〈*注1〉参照

s-miali-selvatica2005.5.30.jpg【Photo】毎年5月を迎える頃、「スタジオセディック(旧「庄内映画村」)」庄内オープンセットに隣接する自然豊かな月山山麓の100ha近い広大な放牧地で委託放牧される丸山光平さんの緬羊たち。「放牧を始めたよ」という知らせを受た2005年(平成17)5月上旬、月山高原牧場では、ストレスフリーな環境のもとで羊たちが草をはんでいた

 遺伝子組み換え(GMO)やポストハーベスト農薬への不安が拭いきれない飼料で育つ外国産食肉は、国産と比べて安価ではあります。山伏ポークはNON-GMO、ポストハーベストフリーのトウモロコシや大豆を主体とする原料だけを使用する「JA全農北日本くみあい飼料(株)」石巻工場で生産される飼料を生育に合わせて与えられ育ちます。そのため、東日本大震災で同工場が津波で被災して以降、指定配合飼料による給餌ができず、山伏ポークの名が店頭から消えた時期がありました。食の信頼を裏切る事例に事欠かない時代にあって、こうした真摯な姿勢は、さすがですね、丸山さん。

maiali-haguro_2012.8.jpg【Photo】ジンギスカンブームが去った1980年代後半には羽黒町内で唯一の緬羊生産者となった丸山光平さんの羊舎ですくすくと育つサフォーク。いわゆる羊臭さを感じさせない素晴らしい肉質は、未体験の方には未知のもの。もはや異次元の美味しさは決して他の追従を許さない

 山伏ポークと並ぶクックミートマルヤマの看板が、食の都・庄内にして唯一無二、孤高の風味を誇る緬羊(めんよう)を飼育する丸山光平さんが代表を務める月山高原花沢ファームの羽黒緬羊。品種は英国原産のサフォーク種です。冬季を除き、一般向けに羽黒緬羊を扱うのもまたクックミートマルヤマだけ。春に月山高原牧場で放牧され、秋に山を下りる間、自然交配で種付けされたサフォーク羊のベビーラッシュは翌春。月齢12カ月に満たないラムは肉が柔らかですが、丸山さんが出荷するのは、摂取した餌による肉質の向上が顕著に表れる月齢15カ月前後のフォゲットが中心。

haguro-miale-al.che.jpg【Photo】「行ってみたいから案内して」というメンバーに付き添いで5年ぶり(!)に訪れた鶴岡アル・ケッチァーノにリクエストし、西田シェフが調理して下さった「羽黒緬羊のシンプルロースト」。初めてこの肉を食したメンバーは一様に「こんなヒツジの肉は初めて」と予想通りのリアクション

 青草中心の飼料では、クセの少ないラムでさえ特有の臭みが必ず残ります。丸山光平さんは、出荷前になると穀類中心の給餌に切り替え、稲ワラや庄内ならではのとある飼料を与えることでこの問題を克服しました。それは加工用に大量に発生し、廃棄されていた特産の「だだちゃ豆」の莢(さや)。給餌の様子を見せて頂いたことがありますが、羊たちはだだちゃ豆の莢を一心不乱についばみながら、口々に「ウメェ~」。

 生産履歴がつまびらかな国産肉を食することで、日本国内の食料生産者を支えることになります。鮮度を大切にするため、注文した部位を目の前でスライサーにかけてくれるクックミートマルヤマのような精肉店は貴重な存在。意欲的な生産者と二人三脚で品質向上に努めるこうした小売店と繋がることは、食の安心・安全に無頓着ではいられない私たちには心強い味方です。生産者と小売店と消費者が近しい関係にあることを感じさせてくれるこの店に、庄イタはこれからも通い続けることでしょう。

【備考】スライサーで冷しゃぶ用に薄くスライスして頂いた山伏ポークのバラ肉と、ロースト用の肩ロースの調理事例ロケ地は、ワインセラーに常時300本近いイタリアワインのストックを抱える仙台市青葉区某所の超穴場「Taverna Carlo タヴェルナ・カルロ」。食材調達に費やす労力は厭わないが、ボルドーやブルゴーニュのストックが圧倒的に少ないため、赤い表紙の某グルメ評価本の覆面調査員からは見向きもされない(爆)
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クックミートマルヤマ
住:鶴岡市みどり町20-35
Phone:0235-23-5246 FAX:0235-25-7724
営:9:00~22:00 日曜定休
1kgより代引きで宅配可。送料別途。
URL: http://www.tawarayasan.com/umai/cmm/index.htm

〈*注1〉 「農林水産省畜産統計調査」による全国での豚の飼養頭数は、2003年(H15)9,725,000頭⇒2013年(H25)9,685,000頭。ほぼ半減している生産戸数と比して飼養数は、ほぼ横ばい。山形における飼養頭数は181,900頭(H15)⇒160,400頭(H25)宮城は233,100頭(H15)⇒211,800頭(H25)と各1割減。この数字から読み取れるように、養豚農家一戸あたりの平均飼養頭数が1,031.3頭(H15)⇒1,738.8頭(H25)と大規模集約化が進んでいる。
東北6県で目を引くのが福島県の推移。同年比での生産戸数は210戸(H15)⇒113戸(H23.2月調査)⇒81戸(H25)。飼養頭数が226,600頭(H15)⇒184,200頭(H23.2月調査)⇒141,400頭(H25)。過去10年で生産戸数が62%減、飼養頭数も6割ほどに減少。それもそのはず。東京電力福島第一原発から20km圏内で飼育されていた牛3,500頭、豚3万頭、鶏68万羽、馬100頭の多くは畜舎で餓死し、事故後に警戒区域や立ち入り制限区域とされた地域で今年1月までに人の手で安楽死処分された牛は1,692頭、豚は3,372頭にのぼる。飼い主の無念はいかばかりだろうか
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