あるもの探しの旅

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2017/02/11

聖ダンデロの被昇天(2) Assunzione di San-Dan-Deloseguito

妙なる芳香で天にも昇る心持ち〈後編〉
@ヤマガタ サンダンデロ

 2016年シーズンは、解禁当初から不作が続いたアルバ産白トリュフ。12月の最終盤に至ってやっと産出量が持ち直しました。

 白トリュフを愛してやまない庄イタを、白トリュフ天国へと導く大天使ジョルジョが、堪能するのに十分なサイズの白トリュフを携え、年が改まってすぐ日本に再降臨してくれました。

 365分の1の確率で東京出張と重なった2017年(平成29)1月12日(金)の夜、銀座「ヤマガタ サンダンデロ」を会場に催されたピエモンテ料理の会で供されたメニュー(下画像)は以下の通り。

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 ジョルジョが音頭をとった乾杯の1杯は、ピエモンテ州クーネオ県ネイヴェに醸造所とブドウ畑を有する作り手Dante Rivetti ダンテ・リヴェッティの「Brut Metodo Classico Millesimato Ivan ブリュット・メトード・クラシコ・ミッレジマート・イヴァン(下画像)Metodo Classicoとは、読んで字のごとく伝統製法の意味。

 瓶詰めしたワインに酵母入りシロップを添加し、再発酵させることで発生する炭酸ガスを液体に溶け込ませる発泡性ワインの製法が瓶内二次発酵です。

 物騒かつ意味不明な「発砲」ともども、フランス産の発泡性ワインを指すCrémantクレマンとの誤用が散見されるシャンパーニュや、ミラノが州都となるロンバルディア州ブレシア県の風光明媚なイゼーオ湖の南畔地域で産出する高品質なD.O.C.GFranciacorta フランチャコルタ」は、手間の掛かるこの製法によるもの。

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 細やかな泡立ちが持続し、芳醇な香りが心地よいイヴァンは、高価なヴィンテージ・シャンパーニュと同じ36カ月を要する瓶内二次発酵後に澱引きし、コルクを打って6カ月の瓶熟成後にセラーから出荷されます。使われるブドウ品種はピノ・ネロ。ブルゴーニュ原産の高貴品種ピノ・ノアールは、イタリアではこう呼ばれます。

 白トリュフが主役となる豪奢なコース料理のプロローグを飾ったのが、ご覧の通り盛りだくさんなアンティパスト(下画像)

 ジョルジョが持参した生ソーセージ「Salsiccia サルシッチャ」2種、お手製バニェット・ヴェルデほか、ロビオラチーズと自家菜園ハーブのペースト、ズッキーニのブルスケッタ3種、リグーリア特産のオリーブ「タジャスカ」のオイル漬やヘーゼルナッツ。

antipasti2017.1-san-dan-delo.jpg ピエモンテ産D.O.P.(=保護指定原産地表示)チーズは、熟成期間が異なる牛乳製「Toma トーマ」や山羊乳製「Robiola di Roccaverano ロビオラ・ディ・ロッカベラーノ」など5種類。

 盛り合わせの中には、北海道大樹町で飼育する水牛の乳から、鮮度が命のフレッシュタイプのチーズ作りをしている竹島英俊さんの貴重なモッツァレラ・ディ・ブッファラとその製造過程で出るホエー(乳清)を原料とするリコッタ(上画像右上の2点)も。

 食肉としても美味な水牛の乳は栄養価が高く、カンパーニャ州ナポリ近郊のカゼルタやサレルノ周辺で飼育されます。その数は多くはなく、貴重な存在です。

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 日本では唯一の水牛乳によるフレッシュチーズ作りを宮崎県で行っていた竹島さん。2010年(平成22)に県内で発生した口蹄疫の影響で、やむなく全頭を殺処分し廃業を余儀なくされました。挫折を乗り越え、鶴岡での充電期間を経て今日に至っています。

 アスティ県モンフェラートで4代続く醸造所Tenuta Olim Bauda テヌータ・オリム・バウダは、ピエモンテで飲んだD.O.C.G 昇格前の「Barbera d'Asti superiore Le Rocchette バルベーラ・ダスティ・スーペリオーレ・レ・ロッケッテ」2004年ヴィンテージが印象に残り、ボトルからエチケッタ(上画像)を剝がして持ち帰った作り手。

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 今回、エレガントな「Chardonnay D.O.C. i Boschi 2013シャルドネ・イ・ボスキ」2013年とともに味わったアンティパストの中では、22年熟成のロビオラ・ディ・ロッカベラーノは特筆に値します。(下画像)

 22年の歳月を重ねた山羊乳チーズの色合いは、出来立ての純白から黄色に変化。固形からゲル状に変容したトロ~リとした食感。乳由来の甘味は消え、強い塩味・ほのかな酸味が入り混じった重層的な旨味へと変化。コクと強烈な香りが、口腔と鼻腔とを満たし、長~い余韻を残します。

vecchia-robiola22anni.jpg 2皿目「活ホタテのオーブン焼き」が運ばれてくると、トリュフとスライサーを手にしたジョルジョが、各テーブルを回り始めました。

 ジョルジョは庄イタの脇に立つや、遺留品の臭いを警察犬に嗅がせる捜査官さながらにスライスしたての白トリュフの塊を庄イタの鼻先に持ってくるスペシャルサービスをしてくれたのです。

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 それはまさに天にも昇る心持ち。現世で日本人として生を享けるおよそ1世紀前、祖国統一の気運が燃えさかったRisorgimento リソルジメント(=イタリア統一運動・1815-1871)末期、ガリバルディ率いるCamicie Rosse(赤シャツ隊)に身を投じ、前世で授かった命を捧げた(と、自身では信じて疑わない)庄イタ。

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【Photo】赤シャツ隊を率いて祖国統一を成し遂げた英雄ジュゼッペ・ガリバルディ()。イタリア国旗を手にしたViaggio al Mondoのプロフィール紹介写真と構図が似ているのは、単なる偶然か、あるいは必然か。オフに着用するアウターは、赤シャツ隊の制服と同じ配色(

 来世では、再び前世における郷里ピエモンテで、トリュフ犬に生まれ変わったとしても本望かも。(実際のトリュフ狩りでは、発見した白トリュフをトリュフ犬が食べてしまう寸前、トリュフハンターがエサを与えて犬の気をそらし、トリュフを横取りする)

 ただし、庄イタから輪廻転生したトリュフ犬は、白トリュフが地中から発する魅惑的な香りを探知すると、きっとマタタビに惚(ほう)けて喉をゴロゴロ鳴らすネコ気質な犬に突如変身。仕事そっちのけで白トリュフの法悦に浸るデクノボウなワンコに相違ありません。(下想像図)

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【Photo】ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ「Estasi di santa Teresa d'Avila 聖テレジアの法悦」(1647-1652 ローマ:サンタ・マリア・デッラ・ヴィットーリア教会コルナロ礼拝堂)16世紀のスペインに実在した修道女テレジアが天使と遭遇した神秘体験を超絶技巧を駆使して大理石で具象化した盛期バロック期の傑作

 ご主人様と職務に忠実なトリュフ犬が掘り出し、トリュフハンターが手に入れた白トリュフは、時間が経過するにつれて水分と共に香り成分が揮発してしまいます。

 ジョルジョによれば、仕入れ時点の重さ185gが、会合当日には160gまで減っていたとのこと。イタリアで食するアルバ産白トリュフのクラクラするような香りを120%とすると、正直60%程度の印象だったのはやむなしでしょう。

 それでも採れたては嗅覚の針が振り切れるほどの強烈な香りを発する白トリュフ。たとえは悪いですが、腐っても鯛。前世の記憶を覚醒させるに十分なのでありました。

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 イタリア共和国全20州の中で、海に面していないのは5つ。中部ウンブリア州以外は、国境をスロベニア・オーストリア・スイス・フランスの各国と接する北部に集中し、その一つとなるのがピエモンテ州。

 この日4皿目に登場した卵を練り込んだ手打ち細麺「Tajarin al Tartufo タヤリン・アル・タルトゥフォ」ほか、「Fonduta チーズフォンデュ」、リゾット、肉を使った郷土料理に白トリュフを用いるのがピエモンテでは定番。ジョルジョのみならず庄イタにとっても海鮮系の具材は意表を突くカップリングでした。

 卓上のメニューを見た時、否応なく期待値が高まったこの創作料理。後日、土田シェフに確認したところ、全国を股に駆ける奥田シェフが、とある関西のフレンチレストランで出合った料理がベースとのこと。

 築地直送の新鮮なホタテのヒモで出汁をとり、白ワインを加えて煮込んだ生クリームソースが、生ウニがトッピングされた香ばしいホタテと白トリュフとの絶妙な一体感を生み出していたように感じました。

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【Photo】知らぬ人のないサンドロ・ボッティチェッリ「 La Nascita di Venere ヴィーナスの誕生」(1482-1485頃 フィレンツェ:ウフィッツィ美術館蔵)ギリシア神話によれば美の化身ヴィーナスは海の泡から生まれた。春の妖精ホーラが裸身を恥じる女神に淡い朱色のヴェールを掛けようとする場面を描いた人類の至宝

 土田シェフによって貝殻の中に出現していたのは、かぐわしい白トリュフと生ウニで装ったホタテが泡立つ乳の海に浮かぶ小宇宙。それは庄イタにサンドロ・ボッティチェッリの「ヴィーナスの誕生」(上画像)を彷彿とさせたのでした。

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 妻フローラを伴った西風の神ゼフュロスのごとくホタテに新たな息吹を吹き込んだのは土田シェフ。さすれば春に咲く花が散りばめられたヴェールをヴィーナスにまとわせようとするニンフは、(ビジュアル的には違いますが)トリュフと愛嬌を振りまくジョルジョという寸法。

 郷里では魚介系の料理がほとんど食卓に登場しないピエモンテーゼ、ジョルジョを驚愕せしめた白トリュフ料理1皿目。産地でも高嶺の花である白トリュフを惜しげもなく使った2皿目は、典型的な白トリュフの食し方である「タヤリン・アル・タルトゥフォ」(下画像)。1皿目が革新ならば、2皿目は伝統への回帰といったところでしょうか。

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【Photo】タヤリン・アル・タルトゥフォ。卵黄を小麦粉に練り込み、幅2-3mmに切り分けた手打ちロングパスタ「Tagliolini タリオリーニ」をピエモンテ州では、「Tajarinタヤリン」と呼ぶ。秋を迎えたピエモンテで代表的な食べ方が、白トリュフをすりおろしたこの料理

 メニューに記載がなかった3皿目「Vitello Tonnato ヴィテッロ・トンナート」は、もともとアンティパストの一品として用意された料理です。(下画像左上)

 ところがチーズやブルスケッタなどが所狭しと並んだボリューミーな1皿目では盛り付る場所が確保できずに出番を失ったのです。こうして単品で供され、日の目を見たのでした。

 そこに「1杯お味見にどうぞ」とフロアを預かる久保副店長からテヌータ・オリム・バウダ「Nebbiolo d'Alba San Pietro ネッビオーロ・ダルバ・サン・ピエトロ」2012ヴィンテージがサービスで出てきました。

 蒸し焼きした庄内産仔牛の冷製にジョルジョが味付けしたツナをベースにタマネギやニンニクで味を整えたソースが加わったピエモンテ伝統の郷土料理とは、さすがの好相性。

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 典型的なピエモンテ料理であるイノシシの赤ワイン煮込み「Brasato ブラザート」(上画像右下)がセコンド・ピアットに控えていたため、相性を考えてオーダーしたのは、ダンテ・リヴェッティのD.O.C.G.Barbaresco Micca バルバレスコ・ミッカ2006」(上画像右上)。〝産地を訪れた年のワインは出来る限り飲んでみっか〟という自身の不文律に沿ったチョイスです。

 もう一つの選択肢だったのが、D.O.C.G.Baloro Léglise バローロ・レッリーゼ2007」(上画像左下)。相席となった新宿中村屋にお勤めというNさんのご厚意で一口グラスで味見させて頂き、より厳格で力強いバローロらしさを確かめた果報者なのでした。

 秋の収穫期にバルバレスコ村を訪れた2006年のような作柄に恵まれた年は、ネッビオーロの特徴となるタンニンが落ち着き、複雑味が増して飲み頃を迎えるまで時間を要する場合もあります。

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【Photo】2006年10月末。天使のようなグラッパ職人ロマーノ・レヴィとイタリアワイン界の巨人アンジェロ・ガヤの醸造所を訪れた鼻血が出そうなくらい中身が濃かった1日。世界で最も美しいブドウ畑の眺めだと地元の人々が胸を張る銘醸畑が広がるBarbarescoバルバレスコ村の景観は、2014年に世界文化遺産として登録された。Neive ネイヴェの市街地から2kmほど進むと、ネッビオーロが大半を占めるブドウ畑の中に浮かぶ浮舟のようなバルバレスコ村が見えてきた(画像右奥)

 しばしば〝イタリアワインの女王〟と形容されるD.O.C.G.バルバレスコ。伝統的な大樽による造りで、収穫から丸10年を経た2006年ヴィンテージは、熟成して角が取れてきたネッビオーロならではの深みのある味わいに魅了されました。

 翌日から日本橋人形町で開催される「山形・鶴岡の餅文化を味わう会」準備のため、鶴岡から出張しておいでだった「山菜屋.com」を運営する遠藤初子さん。旧知の間柄である遠藤さんと同じテーブルとなったこの日。

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【Photo】出てのお楽しみな〈Speciale piatto〉とだけメニューに記載された一皿がコレ。一味もふた味も違う山の幸を取り扱う山菜屋.comの遠藤さん手配による鶴岡朝日地区産の山栗のリゾット。一般に流通する燻蒸した栗の3倍近い糖度を有するのは、冷蔵保存するがゆえ。手作業による厳しい選別を行うことで無燻煙による栗本来の味を堪能できる

 風味が濃い山栗を鶴岡から送った当のご本人を目の前にして食するリゾット。それは数多くの生産者や食の匠とのご縁ができ、1皿の有難みを実感できた往時のアル・ケッチァーノ系列の店ならではの醍醐味でもありました。

 リグーリア州内陸部サヴォーナ県サッセロに本拠がある菓子メーカーAmaretti Virginia製の杏子風味のサックリした歯応えの伝統菓子「Amarettiアマレッティ」、鶴岡市羽黒産ブルーベリージャムとピエモンテ産ヘーゼルナッツのトルタ、そしてジョルジョが好きだという獺祭の酒粕ジェラートの3品がデザートで登場。

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 締めのカッフェを頂きながら、ジョルジョは思い出話に花を咲かせました。醸造所が1年で最も忙しい収穫期に訪れたバルバレスコの帝王こと、Anjelo Gaja アンジェロ・ガヤの醸造所訪問が、実はノーアポで、先方が困惑しながらも「ジョ、ジョルジョか...。」と、固く閉ざされた緑のゲートを開けて渋々会ってくれた件。

 そして新潟・村上経由で訪れたイル・ケッチァーノで、白トリュフを食べ損ねた件(前々回「Compagna di Piemonte = ピエモンテ同窓会 =」参照)。その珍道中ぶりとジョルジョの気さくな人柄に、テーブルでご一緒した女性たちからも笑いがこぼれます。

 鎌倉でのピエモンテ同窓会に続き、白トリュフの香りに包まれ、ひと時の昇天を果たした庄イタ。ココロの郷里ピエモンテと庄内への渇望感を癒された一夜となりました。

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2017/02/04

聖ダンデロの被昇天 Assunzione di San-Dan-Delo

妙なる芳香で天にも昇る心持ち〈前編〉
@ヤマガタ サンダンデロ

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【Photo】水の都ヴェネツィアの心臓部にあたるサン・ポーロ地区。14世紀に聖母マリアに献堂された「Basilica di Santa Maria Gloriosa dei Frari サンタ・マリア・グロリオーザ・デイ・フラーリ聖堂」主祭壇に安置された盛期ルネッサンス期ヴェネツィア派の巨匠ティツィアーノ・ヴェチェッリオ筆「Assunzione di Maria in Cielo 聖母マリア被昇天」(1516-1517)

 カトリックの教義「聖母の被昇天」を想起させる今回のタイトル。敬虔な教徒の方は、「はて、聖ダンデロなる聖人はいたっけ?」と訝(いぶか)しんでおいでかもしれません。

 第14代ローマ皇帝ハドリアヌスが、自身の霊廟として135年に造営に着手、のちに要塞化された「Castel Sant'Angeloサンタンジェロ」(下画像)と響きが似ているサンダンデロ。イタリア語表記でSan-Dan-Delo は、聖母マリアのように魂が身体もろとも神のもとに召された聖人ではありません。

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 しかし東京銀座にある「YAMAGATA San-Dan-Delo ヤマガタ サンダンデロ」で昇天の奇蹟は確かに起きたのです。

 例年1月2日早朝から仕事があるためか、曜日まわりの関係なのか、あっという間に過ぎ去った感がある正月休み明け6日のこと。

 鶴岡で出会ってから13年以上の付き合いになり、現在はヤマガタ サンダンデロの厨房を預かる土田学シェフ(下右側)Facebookに1枚の画像がアップされました。

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 官能的な白トリュフの香りに恍惚とした表情を浮かべる土田シェフの隣でお茶目に写っているのは、ここ数年、秋になると庄イタの夢枕に立ち続けた゛白トリュフの精〟ことジョルジョ・チリオ氏。〈2017.1前稿「Compagna di Piemonte = ピエモンテ同窓会 =」参照〉

 今期は当初から不作が続き、例年以上に高値を呼びました。それがシーズン最終盤になって産出量が持ち直し、高騰していた価格が幾分こなれてきたというのです。そこで昨年11月、鎌倉に持参した白トリュフの10倍以上はあろうかという巨大なアルバ産白トリュフ(下画像)を携え、再び年明けに日本へとやって来ました。

 そうしてジョルジョが懇意にしている鶴岡「al.ché-cciano アル・ケッチァーノ」の支店ヤマガタサンダンデロを会場に、白トリュフを使ったピエモンテ料理の会が1月12日(金)に催されることとなったのです。

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【Photo】一見、置きすぎてシワが寄ったジャガイモ(笑)。早合点し、うっかり茹でてしまおうものなら、後の祭りのアルバ産白トリュフ

 2009年(平成21)春、山形県が東京・銀座に開設したアンテナショップ「おいしい山形プラザ」2Fに県のたっての要請を受けて出店したことから、庄イタ的には「山形+算段+出ろ」と読み解いている同店〈2008.9拙稿「結束を再確認 生産者の会、ふたたび。@ il.ché-cciano」参照〉

 拡大路線に拍車がかかった結果、肝心な鶴岡の店は遠来の客が多い週末においてすらオーナーシェフの不在が常態化(下事例)。庄イタにとってはCry wine and sell vinegar(=羊頭狗肉)な「居ね・ケッチァーノ」と化してしまいました。

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 最も最近では2014年(平成26)6月中旬の土曜日、局アナを務める大学の後輩を案内したいという取引先の社長に懇願され、4年ぶりに席を予約。あらかじめ西田料理長に予算をお伝えし、お任せコース料理の相伴に預かりました。

 時季的にリクエストした鳥海モロヘイヤのケッカソース風味が定番の地物岩ガキや、素材の持ち味が際立つローストを指定した羽黒綿羊といった素材の素晴らしさは相変わらず。ご一緒した初訪店のお2人も納得の美味しい料理ではありました。(下画像/一部抜粋)

 なれど店主はその日も厨房には不在。驚きやワクワク感が伴わない落差を良く知る庄イタにとってはコピー・アンド・ペーストな印象は拭えません。飲食店として守るべきSincerityの欠如は、いかんともしがたいのでした。

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 心に響く料理で感動に打ち震え、余人の及ばぬ異次元へと誘われる変幻自在な食体験ができたかつての姿は今いずこ。局アナ氏がハンドルを握った帰路の車中で、頭の中でリフレインしていたのは、小学校の大先輩・土井晩翠が作詞し、ジャーマンロックの雄スコーピオンズ もカバーした名曲「荒城の月」。

 以来、姿勢に疑問を抱かざるを得ない旗艦店から足は再び遠のいたまま、今日に至っています。

 世の東西を問わず、料理の実像を深く知るには、その土地を訪れるのが一番。それは地元愛に溢れる誠実な店で味わい、背後にある風土と作り手を知ってこその話。

 庄イタと同じく往時のアル・ケッチァーノを良くご存じで、昨年末、久方ぶりに鎌倉で再会した雑誌「四季の味」前編集長・八巻元子さんも指摘されておいでだったこの定義。普遍的な真理であると確信しています。

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【Photo】白トリュフをたっぷりと使った一皿目が出たところでジョルジョに促され、厨房から出てきた土田シェフ。海鮮と白トリュフというピエモンテではありえない意表を突いた組み合わせを見事にやってのけ、ジョルジョから賞賛された。あっぱれ

 皮肉なことにその真実に気付かせてくれたのは、アル・ケッチァーノにほかなりません。2003年(平成15)春、何ら予備知識を持たず偶然に立ち寄った庄内弁で゛大切なものは足元にあったよね〟という意味を店名に込めたその店。〈2007.6拙稿「庄内系転生伝説 プロローグ~庄内系イタリア人の物語」参照〉

 風変わりな〝地場イタリアン〟なる看板を掲げ、地元のごく一部の人々を除けば、ほぼ無名であったアル・ケッチァーノ。当時は求道者のごとく料理に打ち込み、苦境に立つ生産者の支えとして奔走していた店主氏。その右腕として、草創期から影で店を支えたのが土田シェフです。

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【Photo】2000年(平成12)3月のアル・ケッチァーノ開店以来、苦楽を共にした共同経営者Aさん夫妻が、2008年3月末をもって店を去ることとなり、お別れを兼ねた晩餐に伺った夜。パティシェの本間さんが担当したメッセージ入りドルチェの盛り付けは、ドルチェ担当チーフでもあった土田料理長(当時)

 北庄内地域の言い回しで〝山形産なんでしょ〟という意味の銀座店は、2009年の開店以来、土田シェフが厨房を預かっています。2011年以降、過去3度の訪店経験から判断して、ハズレはありません。

 会費10,000円(飲み物代別)で土田シェフから提示された予定メニューをご紹介するとー

 Antipasti misti :前菜 ピエモンテの前菜盛り合わせと北海道・竹島さんのチーズ
 ・Primo Piatto :第一の皿 タヤリンの白トリュフクリーム
 ・Primo Piatto :第二の皿 リゾット 
 ・Secondo Piatto : メインディッシュ 魚料理か肉料理(奥田シェフ次第)
 ・Dolci :ドルチェ デザート盛り合わせ
 ★ ジョルジョが二つの料理に白トリュフを目の前で削ります!(^_^)v

 なんとも魅力的な内容ではありませんか。しかしながら、仕事が立て込む金曜日の19時から会がスタートし、翌土曜日が朝9時から出勤だったことから、当初は参加を見送っていました。

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【Photo】テーブルを回り、料理に白トリュフをスライスするジョルジョ。たちまちにして漂い始める強烈な芳香。鼻先で直接香りを嗅がされ理性を失い、皿の上で手を動かし続けるジョルジョに向かって「Don't Stop!!」と思わず口を突いて出た。その時、庄イタの目には、白トリュフの官能的な芳香漂う天国へと誘う天使の輪が放つ後光、そして背に生えた羽根の幻影がありありと見えた(... ような気がする。まばゆい後光を発するのは別な理由かも^^)

 ところが12日(金)に急きょ東京出張が入り状況が一変。会の2日前に土田シェフにお願いし、すべり込みで1席確保してもらった次第。予定では、当日はオーナーシェフが駆けつけるとの触れ込みでした。が、やはりというべきか、会の最後まで彼が顔を見せることはありませんでした。

 寒気の流れ込みで厳しい冷え込みとなった仙台を早朝に出発。六本木と神田神保町で都合3件の相手先を回り、夏に仙台で開催を予定している催事に関する打ち合わせを終えたのが5時過ぎ。

 夕闇迫る古本街をしばし物色後、地下鉄で向かったのが銀座。サンダンデロから徒歩で移動可能な東京駅発の最終新幹線で仙台に戻る手筈を組んでいました。

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【Photo】出張先でも小ネタには目ざとく反応。異業種混成チームからなる出張メンバーが、朝の集合場所としたのが、かの六本木ヒルズ。東京メトロ南北線の六本木一丁目駅から徒歩で移動中、路地裏で紛れもない六本木ヒルズと遭遇。モチロン完全スルー(笑)

 サンダンデロの厨房をのぞくと、土田シェフや調理スタッフの傍らでは、今回も蝶ネクタイでビシっとキメたジョルジョがアンティパストの仕込み中。

 入口で手を振る庄イタを認めると、「Chimura サ~ン, Graaaandeeee (グラ~ンデ~ ≒ 素晴らしい)」と感激を露わにして近寄ってきました。

 Grande(=長身な)ジョルジョとの2カ月ぶりの再会を祝し、グランデな男同士、イタリア式にハグで挨拶。ジョルジョの肩越しに目が釘付けとなったのが、直径がゆうに10cm以上はあるグラ~ンデなTartufo bianco(白トリュフ)。

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 「Quanto costa ? (=これはおいくら?)」という庄イタの下世話な質問にジョルジョは一言「Poco, poco. (=安い安い)」 ...てなわけ無かろうと、土田シェフに確認したジョルジョが購入時点で185gだったというトリュフの仕入れ値は、1個 €800!!!
 
 これは日本円換算で¥96,000也。シーズン当初よりは幾分値下がりしたとはいえ、さすがはグラム当たり単価が世界一高い食品といわれるアルバ産白トリュフなのでありました。

 メニューのみご紹介となった今回に続く後編では、Arcangelo Giorgio(=大天使ジョルジョ)とAngelo Tsuchida(=天使ツチダ)の導きにより、庄イタが白トリュフ天国へと昇天した一部始終をご紹介します。

to be continued.

 
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2017/01/15

Compagna di Piemonte = ピエモンテ同窓会 =

旧交を温め、白トリュフに耽溺す

 年が改まり、昨年11月に神奈川県鎌倉市JR大船駅近くの「アトリエキッチン鎌倉」で開催された「白トリュフとピエモンテ料理の夕べ」。

 魅惑的な響きと香り漂う集いの場となったアトリエキッチン鎌倉に揃ったのは、イタリア大使館の書記官や料理研究家など、20名以上の多彩な顔触れ。その中に懐かしい顔もありました。

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【Photo】2006年10月31日の朝。カネッリでの一週間を過ごしたRupestrで同行メンバーとともにセルフタイマー撮影した1枚。10年の時を経て、八巻さん(左から6番目)、ジョルジョ(中央)、西川さん(右から3番目)と庄イタ(左端)が再び集った

 まずはピエモンテ州アスティ県カネッリのアグリツーリズモ「Rupestrルペストゥル」オーナーシェフ、ジョルジョ・チリオ氏。竹灯籠に灯を点す点灯ボランティアを共に行った「宵の竹灯籠まつり」で新潟・村上を案内後、鶴岡を経て翌日仙台駅まで送った2007年10月以来の再会です。

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【Photo】2007年10月。サケが大好物というジョルジョを伴い、宵の竹灯籠まつりの折に訪れたのが新潟県村上市。古風な町屋造りの商家が建ち並ぶ鮭の町・村上をそぞろ歩きしながら立ち寄ったのが「イヨボヤ会館」や、梁と組み柱が4間幅の吹き抜け天井を支える築200年の「吉川酒舗」など。「味匠 喜っ川」で、いつになく神妙な面持ちで、芸術作品のごとき鮭の加工品を試食するジョルジョ。塩引きや酒びたし用に鮭を干している店舗奥に案内すると、両手を広げて感激を露わにした

 今シーズンは白トリュフが不作で量の確保が難しく、例年以上に貴重な白トリュフをピエモンテから携えての来日となりました。

 そして2006年10月末にイタリア・トリノで開催された「テッラ・マードレ2006」と「サローネ・デル・グスト」の取材旅行でご一緒した雑誌「四季の味」前編集長の八巻元子さん、フードライターの沖村かなみさん、盛岡在住の税理士でジョルジョから〝Azzuco アズーコ〟とピエモンテ訛りの(?)ファーストネームで呼ばれる西川温子(あつこ)さん。

piatto2012_04morioka.jpg ジョルジョとのご縁を繋いで下さった西川さんには、仙台圏で29万部を発行する月刊誌Piatto2012年4月号の巻頭特集「春の日帰りトリップ・盛岡女子旅」の地元ナビゲーターとしてご登場頂き、震災後の無事を確認していました(画像左側)

 一方、ジョルジョ、八巻さん、沖村さんとは、イタリアでご一緒した翌年の秋、西川さんも含めて鶴岡「イル・ケッチァーノ」で同窓会よろしく会食しています。

 その時もジョルジョは白トリュフを持参しており、心ゆくまでピエモンテの妙なる香りを満喫できるはずでした。

 ところが、ここで述懐する事件が起きたため、忘れがたい一夜として今も記憶に残るイル・ケッチァーノでのピエモンテ同窓会 第1章を振り返ると...。

 カネッリにある醸造所「Gancia ガンチア」の辛口スプマンテ「Carlo Gancia Metodo Classico Brut(上段左)で乾杯。お任せコース一皿目の定番「ワラサと満月の海の塩」(上段中央)以降は大皿取り分けで魚料理5皿が立て続けに運ばれてきました。

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 続いてパスタ料理3皿・ピザ1枚・アクアパッツァが次々と登場(下画像4点)。こんな大盤振る舞いが続き、肝心の真打ち白トリュフの登場を待ち焦がれるうち、胃袋の物理的な許容量は限界に到達しつつありました。

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 ジョルジョの発案でRupestr滞在中に催されたガラディナーで、テッラ・マードレ2006に招聘された奥田政行シェフが60名を超える参加者にメインディッシュとして提供したのと同じ「庄内牛の牛タン・ゴボウの香りの煮込み」(下段左)に続き、3皿目の肉料理「米沢牛のタリアータ・山ブドウのヴィンコットソース風味」(下段右)が出た後、厨房から「この後ドルチェを召し上がりますか?」とコース終了を意味する打診がありました。

 その問いかけに唖然として顔を見合わせたが、テーブルを囲んだ一同。

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 その頃から料理人としての本分以外に割く時間と労力がキャパを遥かに越え、オーバーワークで極端に疲弊していたオーナーシェフ氏。肝心の白トリュフを使った料理をなんと出し忘れたのです。ガーン....。(0д0!!)

 パサパサの状態で厨房から出てきた店主の様子からも、気力・体力ともに万全ではないことは明らか。悪びれるかのようにエヘヘ...と頭をかくシェフを前にすると、誰もが彼を叱責する気すら萎えてしまったのでした。

 満腹のあまり、ドルチェはおろか締めのカッフェすら、誰もこの夜はオーダーしなかったように記憶しています。この目でジョルジョが厨房に預けるところまでを確認した白トリュフを、私たちは一片たりとも口にすることはできませんでした。Mamma mia !!(=なんてこったい!!

。゚+(。ノдヽ。)゚+。。・゚・(*ノД`*)・゚・。(oTT) piangereeee (TTo)。・゚・(*ノД`*)・゚・。+(。ノдヽ。)゚+。゚

 心ここにあらずで質の低下が顕著となった某店からは次第に足が遠いた一方、涙なくしては語れないよもやの展開で食べ損ねた我が郷里の超高級食材、白トリュフへの思慕は募るばかり。

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 秋のトリュフ狩りシーズンを迎えると、大ぶりな白トリュフを手にした白トリュフの精が、庄イタの夢枕に立つようになりました(上画像 / イメージ図)

 悶々とした日を送る中で、西川さんから今回の企画開催を知らされました。そこに前回〝目の保養だけじゃねぇ...。〟で述べた通り、旧友から送られてきたピエモンテ土産のレシピ本に載った白トリュフのリゾットが、リベンジへと庄イタを駆り立てたのです。いざ鎌倉!

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【Photo】大船駅西口から徒歩3分のアトリエキッチン鎌倉へと向かう道すがら。店の前を流れる柏尾川に架かる電線に留まる鵜(ウ)の群れ。庄イタの目には、ウ長調の「白トリュフ序曲」の譜面であるかのように映った

 庄イタにとっては、期せずして〝ピエモンテ同窓会 第2章〟の場となったアトリエキッチン鎌倉を主宰する和田茂幸さんは、自然豊かな鎌倉市北西部に自家菜園を所有。畑とキッチンスペースを舞台に幅広い世代の食育に資するさまざまな催しを企画・運営しておいでです。

 Facebookを通じ、会費7,000円で事前に提示された白トリュフとピエモンテ料理の夕べのメニューは以下の通り。

 ・前菜:ペペロナータ(パプリカ)など自家製野菜ブルスケッタ3種
 ・チーズ:ロッカベラーノ産山羊のチーズ モスカートのモスタルダ添え
 ・パスタ:タリオリーニ 卵黄と白トリュフ添え
 ・メイン:肉ときのこの煮込み料理
 ・ドルチェ:ビスコッティなど
 ・自家製ワイン3種(シャルドネ、ドルチェット・ダスティ、モスカート・ダスティ)

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【Photo】東の空から昇ってきた晩秋の朝日に輝く朝霧が立ち込めたRupestr のブドウ畑。果樹園なども含めた耕作面積はおよそ3ha。海抜450mの高台にあるブドウ畑から北方に目線を転じた遥か先には、万年雪を頂くヨーロッパアルプスの山並みが連なる

 宿泊客を迎え入れるアグリツーリズモに改装する以前、1994年にブドウの古い品種名を名前にしたレストランとして開業したRupestr。ジョルジョは「ピエモンテの葡萄畑の景観」として2014年にユネスコ世界文化遺産に登録された地元カネッリの大手ワイナリー「Gancia ガンチア」で醸造の仕事に就いていました。

 自家製ヴィーノほか、フルーツのシロップ漬け「モスタルダ」、イタリアンパセリ・オリーブオイル・アンチョヴィなどで作るピエモンテ風ソース「バニェット・ヴェルデ」など、Rupestr製瓶詰め食品も当日は購入可とのご案内でした。とはいえ、何につけ段取り通りには物事が進まないのがイタリアです。

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 またも短命政権に終わったレンツィ元首相が推し進めた民営化が思うように捗らないイタリアの郵政公社Posteitaliane の国際郵便でカネッリから発送した販売用の荷物は指定通りの期日に届かずじまい。

 よって、Rupestr 滞在時、美味しさに刮目した微発泡性でほんのり甘いマスカット風味の「Moscato d'Asti モスカート・ダスティ」(上右側)を購入しようという目論見は、こうしてあえなく水泡に帰したのでした。Mamma mia !!!

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 一度や二度、計画が狂った程度で凹んでいては、飛びぬけて陽気なジョルジョがそうであるように、筋書きのないドラマが日常となるイタリアでは生きてゆけません。

 気を取り直し、白トリュフとピエモンテ料理の夕べの模様をさっくりとご紹介しましょう。

【Photo】夢か現(うつつ)か幻か。幾度となく夢枕に立った白トリュフの精が、庄イタの眼前に現る!!の図。概して内省的な人が多いといわれるPiemontese(=ピエモンテ人)らしからぬジョルジョ。突き抜けた陽気さから、Napoletano(=ナポリ人)に勘違いされるばかりか、そのウェット感が皆無の明朗快活さゆえ、Americano(=アメリカ人)ともいわれるのだとか(苦笑)

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 開始時刻まで幾分か早めに到着したアトリエキッチン鎌倉では、ジョルジョや八巻さんらが仕込みの真っ最中(上画像)

 自ら栽培した白ブドウ「シャルドネ」のみを使用し、数年前にRupestrの地下に完成させた醸造施設で醸すジョルジョとはおよそイメージがかけ離れた(笑)エレガントでスッキリした印象のヴィーノ・ビアンコでまずは乾杯。

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 蝶ネクタイ姿でビシっと決めたジョルジョが、冒頭にゆる~く挨拶。立食形式で肩が凝らないカジュアルな雰囲気のもとで会合はスタートしました。

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 少し熟成させた山羊乳チーズ「ロビオラ・ディ・ロッカヴェラーノ」、ズッキーニやパプリカのブルスケッタ、黒ダイコンなど鎌倉産西洋野菜のバーニャカウダ、鶏肉のキノコソース煮込など、ジョルジョがマンマのクリスティーナから受け継いだ優しい味付けがなされたお手製料理が皿盛りで登場。

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 うやうやしくジョルジョが取り出した白トリュフは、卵と白トリュフを練り込んだピエモンテの乾燥パスタ「Tajarin タヤリン」に混ぜ込んでの提供となりました(下画像)

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 本来はスライサーで白トリュフを目の前でシュリシュリしてもらい、料理にかけてもらうのが最もトリュフの香りが立つ食べ方です。今季はシーズン当初から白トリュフが不作のため価格が高騰。量の確保が困難だったため、あまねく参加者に白トリュフを楽しんでもらおうというジョルジョの配慮です。

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 それでもお代わりを所望した参加者には2皿目が行き渡る量は用意されていました。古代ローマに起源が遡るというレディ・ファーストを流儀とする庄イタは、最後に鍋にこびりついた残りをパンですくって食べるピエモンテ式食べ方を実践(上画像)

 次に予定にはなかった料理が登場。加熱すると甘味が出るポロネギ(リーキ)の旨味がジンワリ広がるリゾットです(下画像)。滋味深く優しいジョルジョの味付けに、ピエモンテ滞在中、我が家代わりに温かく迎え入れてくれたRupestrで過ごした日々が蘇ります。

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 前稿でご紹介した旧友から送られてきたRiso Gallo社発行のレシピ本101 Risotti dei migliori ristoranti del mondo.(=世界の至高のレストランのリゾット101皿)に推挙したいリゾットに続く〆のドルチェは、モスタルダが付け合わされたピエモンテの素朴な焼き菓子2種類とパンナコッタ(下画像)

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 Rupestr 滞在中、道案内をしている自覚があるのかないのか、どこへ向かうにもジョルジョは猛スピードで先導するのが常。遅れを取ってはならじと大型ワゴン車でタイヤを鳴らしつつ爆走しなくてはなりませんでした。

 時として立ち込める濃霧で前方の視界が悪い中、車酔いとも戦っていたはずの同乗者を含め、強いられる緊張から解放されたのがRupestrでジョルジョが用意する食事だったのです。

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【Photo】(左から)料理研究家の山内千夏さん、今回も元気いっぱいだったジョルジョ、同窓会メンバーの西川温子さん、同じく沖村かなみさん、同じく八巻元子さん、庄イタ

 前世の記憶を呼び覚ます白トリュフとジョルジョの手料理で、郷里への里心がむしろ募った感すらあったこの集い。年が改まってから、自分はなんと果報者なのだろうと実感した後日談がありました。それはまたいずれ。

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2017/01/06

目の保養だけじゃねぇ...。

夢か現(うつつ)か幻の食材か

 2017年の第一弾は、酉年の幕開けを告げるイタリア語で雄鶏を意味するGallo(ガッロ)にちなんだ話題から。

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【Photo】籠の鳥状態に置かれた禁断症状を和らげてくれたブラ土産。ブラ中心部、ポレンツォ通りにある菓子店兼サードウェーブ系カフェ「Bottega delle Delizie ボッテーガ・デッレ・デリツィ」のチョコレート3種。(Photo上下とも時計回りに)特産のヘーゼルナッツのクリームを約30%の割合でチョコレートに配合した「ジャンドゥーヤ」、ヘーゼルナッツクリームの割合が多い「ノチオーラ」、定番のアーモンドではなくピエモンテではへーゼルナッツを使うヌガー「トロンチーノ」をそれぞれチョコでコーティング

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 心地よい香りと希少性ゆえに高値を呼ぶ白トリュフが旬を迎えた(9月中旬~12月中旬ごろ)さなかにピエモンテ州クーネオ県Bra ブラ周辺と、ミラノおよびロンバルディア州北部の湖水地方を11日間に渡って訪れた学生時代の旧友から、ピエモンテ菓子とともに一冊の本が送られてきました。【下画像】

 見るべき場所、食べるべき店、飲むべきヴィーノに関して事前に情報提供をしたお返しに気を使ってくれたのです。ありがたや、ありがたや。

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Guida Gallo 9a edizione  101 Risotti dei migliori ristoranti del mondo.

 手元に届いたのは、リゾットを主力とする加工食品メーカーRiso Gallo社が、2013年に9版目として発行したリゾットのレシピ本です。

 同社はアドリア海の女王として君臨したヴェネツィア共和国と地中海交易の覇権を競った歴史に彩られたジェノヴァで創業。海洋交易に活路を見いだした都市国家の気風そのままに1856年の当初より南米市場を開拓。

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 1926年には稲作が盛んなロンバルディア州パヴィーア県に本拠地を移転。イタリア産米を中心とする多彩な商品を取り揃える食品メーカーとして経営規模を拡大し、今日に至っています。

【Photo】リーゾ・ガッロ社の商品ラインナップの中では、リゾットに最適なリセルヴァ・ガッロ・リーゾ・カルナローリ

 このレシピ本で紹介されているのが、イタリア全土から選りすぐったリストランテ50軒と世界各国から厳選した51軒のイタリアンレストランで提供する101のリゾット。

 4日間のピエモンテ滞在中、誕生日を迎えた友人に、Fossano フォッサーノで連泊したホテルから贈られたのだといいます。

 各レストランとシェフのプロフィール紹介が、イタリア語と英語で併記され、巻末にリゾットのRicette(レシピ)が記載される構成になっています。

 紹介されるリゾットは、どれも美味しそう。とりわけ庄イタの唾液腺を制御不能にしたのが、Risotto alla Nocciola Tonda Gentile delle Langhe IGP, Araguani in purezza e tartufo bianco. (ピエモンテ州南部ランゲ丘陵で産出する最高級ヘーゼルナッツ「トンダ・ジェンティーレ」のリゾット・ベネズエラ産ピュアチョコレート「アラグアニ」と白トリュフ風味)【下画像】

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 こちらはヴァッレ・ダオスタ特別自治州出身のシェフ、ミルコ・ザーゴ氏のスペチャリテ。イタリア名誉市民権を有する若かりし頃のロバート・デ・ニーロを碧眼にしたような風貌の持ち主です。

 プーチン大統領も常連だというロシア・モスクワのリストランテ「Syr」が2001年にオープンした当初から厨房を任されているザーゴ氏の料理人としての原点はピエモンテ料理。

 ナッツ系のフレーバーとタナロ川沿いの石灰質土壌由来のミネラリーさが特徴となるヴィーノ・ビアンコ「Roero Arneis ロエロ・アルネイス」を冷やし過ぎずに大きめのグラスで合わせたいこの一皿。ランゲ地方の伝統食材を惜しげもなく使用した逸品です。

 記載されたレシピ(4人分)をざっとおさらいすると...。

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 1.トンダ・ジェンティーレ【上画像】(400g)を1,200mℓの鶏のブロードに3時間浸す
 2.軽く炒めたカルナローリ米(240g)バター(40g)バニラビーンズ(少量)をブロード
   で加熱

 3.白ワイン「ロエロ・アルネイス」(40mℓ)を加え、乳化してとろみが出たら火を止める
 4.白ワイン(ないしはブドウの搾りかす)を塗り込んで熟成させたテストゥンチーズ
   (60g)、バター(40g)と塩コショウ(適量)で味を整える

 5.ヘーゼルナッツペースト(12g)と同量のピュアカカオで風味付け
 6.懐事情が許す限り、破産しない程度に白トリュフを思う存分にスライス!!

 こんなレシピの記載内容から完成形の味を想像するだけでも幸せな気持ちになる料理です。

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 ページをめくっていくと、Isola d'Asti イゾラ・ダスティ「Il Cascinalenuovo イル・カシナーレヌオーヴォ」【上画像】や、Canelli カネッリ「San Marco サン・マルコ」【下画像】など、庄イタが訪れたピエモンテ州のリストランテも料理とともに登場します。

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 スローフード協会が隔年で開催、東北から生産者や料理人が参加した「テッラ・マードレ」と「サローネ・デル・グスト」の取材で、2006年に訪伊した際〈2007.6拙稿「Terra Madre テッラ・マードレに参加して」「Salone del Gusto サローネ・デル・グスト体感レポート」参照〉、ご一緒した懐かしいメンバーと再会する機会が、ちょうど10年の時を経て巡ってきました。

 それは、神奈川県鎌倉のJR大船駅近くにある「アトリエキッチン鎌倉」で催された「白トリュフとピエモンテ料理の夕べ」と題された会合でのこと。

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 目の保養となるレシピ本を眺めてヨダレをダダ漏れさせるだけや、同行が特別に許されたトリュフ狩り【上・下画像】の記憶の糸をたぐり寄せ、白トリュフの香りを反芻する白日夢に溺れるだけでは到底気が済みません。

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 夢を現(うつつ)とすべく、白トリュフの芳香に誘われて〝いざ鎌倉〟とばかりに馳せ参じた当日の模様は、次回さっくりとレポートします。

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2016/09/10

巨大スケール 縦横無尽

「殿、利息でござる!」「ティファニーで朝食を」「シン・ゴジラ」と映画に関連づけた話題が続いたこの夏。その最後を締めくくるのは、桁外れの大きさの宇宙船で来襲し、地球を植民地化しようとする地球外生命体に結束して立ち向かう人類の闘いを描いた作品です。

迫力の3Dで迫り来る侵略者もタジタジのピッツァ
& 棟方志功に見る青森ねぶたの色彩


cooking-kingdom2016.6.jpg 「TOHOシネマズ仙台」がキーテナントで6~9Fを占める仙台PARCO2の1F飲食フロアには「サルヴァトーレ クオモ& バール」が東北初出店(下画像)

 7月1日(金)のグランドオープン前日に行われたプレス内覧会には、日本にナポリピッツアを広めた功労者でナポリ出身のサルヴァトーレ・クオモ氏も駆けつけ華を添えていました。

 そうして期せずしてトートバッグに忍ばせていた料理王国6月号の表紙(右画像)をちらつかせながら、落合務シェフと並んで写るクオモ氏とご対面。

©CUISINE KINGDOM

 2003年にナポリで開催されたピッツァ職人の技能を競う世界最高峰の大会「Pizzafest」において、イタリア人以外で初の最優秀賞に輝いた大西 誠氏も、生地づくりや薪窯の技術指導のため、数日間は仙台にいらっしゃる予定であることを店の方から聞き出しました。

 上杉「ピッツエリア・パドリーノ・デル・ショーザン」、楽天コボスタ内「穂波街道 赤のイスキア」、塩竃「ラ・ジータ」、定禅寺「ダ・ジェンナーロ」、台原「イル・ピッツァイオーロ」といった庄イタをうならせる本場ナポリの味を仙台に居ながらにして味わえるピッツェリアが増えつつある仙台圏。

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 一方で、東京・中目黒「ダ・イーサ」で、山本尚徳さん(下画像)の手になるサックリ&モチモチの食感が素晴らしいピッツア生地が、何故に世界一なのかを体感するなど、日々の鍛錬も怠りません。

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 マルゲリータ・レッジーナ協会主催「Trofeo città di Napoli ナポリ・ピッツア選手権」において、2007年と2008年に世界一に輝いたのが、当時、南青山の名店「Napule」のピッツイオーロだった山本さんでした。

marinala-daisa.jpg【Photo】異次元の食感で魅了する生地の旨さは特筆もの。Pizzera e Trattoria da Isa ダ・イーサのマリナーラ(1,500円)

 2003年世界チャンプ・大西氏のマルゲリータS.T.G.を新潟で食して以来の願ってもない機会ゆえ〈2013.10拙稿「すわ119番」参照〉、開店初日のランチに再訪した折には、ピッツアが冷めかねない通常メニューのランチビュッフェには目もくれず、大西さんが焼き上げたマリナーラ(下画像・S1,300円・M1,500円)を所望したのです。

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 内覧会の翌週末、再びPARCO2に足を運んだ一つの理由は、多店舗展開による個々の質の劣化という飲食店が陥りがちな悪弊に関して、サルヴァトーレ クオモ&バールが、その例外であるかどうかを見極めんがため。

 注文したカルボナーラが、熱々を食したいピッツアと同時に運ばれてくるなど、現場のオペレーション面ではオープンして間もないハンデを差し引かねばなりません。今後に期待しましょう。

☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆(´・_・)*:..(.☪ฺ)☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆

 ピッツアに換算したなら数億食分はあろうかという大きさの宇宙船(下画像)が地球に来襲するIMAX®3D版の「インデペンデンス・デイ:リサージェンス」を鑑賞するのが、もう一つの仙台PARCO2を訪れた目的でした。

resergence-mothership.jpg【Photo】前作では直径24kmの設定だったエイリアンの宇宙船。新作では格段にスケールアップした母船が登場。映画「インデペンデンス・デイ:リサージェンス」より ©2016 Twentieth Century Fox Film Corporation

 20年前に人類が結束して撃退したエイリアンが、遥かにスケールアップして再び地球を襲う「インディペンデンス・デイ:リサージェンス」。

 北米大陸を覆いつくすほどの巨大な宇宙船(下画像)の大きさのみならず、製作費についても1億6千5百万ドル(約165億円)の巨額を投じたSF超大作です。

indipendenceday-1.jpg【Photo】地球の重力を操作する技術を備えたエイリアンは、世界の主要都市を破滅に追い込む。映画「インデペンデンス・デイ:リサージェンス」より ©2016 Twentieth Century Fox Film Corporation

 20年前に公開された第一作「インデペンデンス・デイ」では、ベトナム戦争の退役軍人ラッセル・ケイスが、ミサイルを装填した戦闘機ごと体当たりして母船を破壊。地球制服を目論むエイリアンと人類との死闘の末に地球を救いました。

 前作では湾岸戦争でパイロットとしての従軍経験がある設定だった米国大統領ホイットモアが、前作のラッセルと同じく自らの命と引き換えに人類を救う元大統領役を新作で演じます。

indipendenceday2.jpg【Photo】地球制服を目論む巨大で強力な侵略者に対し、人類はいかに立ち向かうのか。映画「インデペンデンス・デイ:リサージェンス」より ©2016 Twentieth Century Fox Film Corporation

 前作より遥かに巨大化したエイリアン母船に対し、武力による徹底抗戦を挑むアメリカ。新作でもアメリカ独立記念日の7月4日が人類が勝利を収める日という設定がなされています。英雄の登場を待望し、世界の盟主たらんとする米国らしさが炸裂するこの作品。

 トランプ候補に拍手喝采するアメリカ市民のメンタリティと共通する〝善〟対〝悪〟の単眼的な図式化は、イスラム原理主義やテロとの戦いを主導する第二次世界大戦の戦勝国・米英仏の根底に流れる発想と相通じるように感じます。

IndependenceDay-queen.jpg【Photo】巨大なエイリアンの女王と繰り広げる死闘の結末やいかに。映画「インデペンデンス・デイ:リサージェンス」より ©2016 Twentieth Century Fox Film Corporation

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 IMAX®デジタルシアターの巨大スクリーンに投影される空を覆いつくす巨大な宇宙船や、体長118.5mに巨大化したシン・ゴジラが引き起こした大きさの感覚に関する麻痺に追い打ちをかけたのが、既報の八戸三社大祭に加え、青森ねぶた、そして五所川原立佞武多と続いた夏祭りのハシゴでした。

oirase2016.8.jpg【Photo】鬱蒼とした樹間からこぼれる木洩れ日と、十和田湖から流れ出る豊かな水流とが、多彩な緑のコントラストを描き出す奥入瀬渓流「石ヶ戸の瀬」

 八戸から青森市への移動ルートに選んだのは、山岳コースのR103。寄り道した緑したたる樹間を変化に富んだ渓流美が続く「奥入瀬渓流」のハイライトとなる「石ヶ戸」~「銚子大滝」間、約8kmでマイナスイオンをたっぷりと浴び、まずはココロの洗濯。

choshi_otaki.jpg【Photo】雪解け水で水かさが増える春先は最大幅20mにもなり、落差7mの高さを水しぶきをあげて流れ落ちる「銚子大滝」は、奥入瀬渓流の本流では唯一の滝。轟音を響かせる滝を前に思い起こしたのが、5年前の9月、羽黒山伏修行の折に湯殿山での瀧行だった〈2011.12拙稿「修験道体験@出羽三山」参照〉

 広葉樹林帯からブナの森を縫うように走るR103。次第に標高が上がると、八甲田山が北限となるアオモリトドマツの森へと植生が変わってきます。標高890mのいで湯「酸ヶ湯温泉旅館」の名物、総ヒバ造りの「千人風呂」で身を清めてから青森市に到着しました。

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 大型ねぶたの運航が開始される19時10分までは時間の余裕がありました。そこで訪れたのが、世界的な板画家・棟方志功(むなかたしこう・1903~1975)の業績を展示する「棟方志功記念館(上画像)

munakatashiko-saku_konin.jpg 青森市で鍛冶屋の三男として生まれた棟方志功は、18歳で文芸誌「白樺」の表紙に描かれていたゴッホの「ひまわり」と出合い衝撃を受けます。「わだばゴッホになる」と画家の道を志します。1939年に発表した代表作「二菩薩釈迦十大弟子」で国内における名声を確立。1956年のヴェネツィア・ビエンナーレ版画部門で日本人初の国際版画大賞を受賞するなど、ここで改めてご紹介するまでもなく、海外でも広く認められた偉大な芸術家です。

【Photo】モノトーンの板画に裏側から色を滲ませる裏彩板画の作例。1962年(昭和37)「弘仁の柵」

 ねぶた祭を愛した志功は、郷里を離れた後も、跳人(はねと)として祭りに参加したそうです。志功が生命の象徴として好んで取り上げた丸顔で豊満な女性像に見られる裏彩板画の色合いは、躍動感に溢れるねぶたの配色を彷彿とさせます。

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【Photo】開幕を告げる打ち上げ花火に続き、血沸き肉踊る青森ねぶた祭の主役・大型ねぶたの先陣を切って出世大太鼓の勇壮な響きが近づいてくる

haneto2016.jpg【Photo】扇子持の合図で動くねぶたの曳き手、跳人と囃子が一体となって青森の夏の夜を焦がす

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画像提供:(公社)青森観光コンベンション協会

 黄昏時に聞かれる虫の鳴き声が、ヒグラシからスズムシへと変わり、過ぎ去った夏の感傷に浸るビデオクリップが秀逸なドン・ヘンリーの名曲「The Boys of Summer」が似つかわしい季節となりました。

 次回、「躍動、縦横無尽。青森ねぶた祭&五所川原立佞武多(たちねぷた)の偉容」で、笛・太鼓・手振り鉦が奏でるお囃子と、通りを練り歩くねぶたが宵闇を熱くする青森・津軽の短い夏を回顧します。

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2016/07/02

召しませ、ジュンサイ²タリアン

つるん、プルン。ジュンサイの里@秋田県三種町


 4月下旬から9月初旬にかけて収穫期を迎えるのが、天然の透明なジュレに包まれたハゴロモモ科(スイレン科)の水生植物「ジュンサイ(下画像)です。

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 生ジュンサイの収穫が最盛期となるのが6月中旬から7月半ばの頃。第226代ローマ教皇グレゴリウス13世が16世紀に制定し、世界中に広まったグレゴリオ暦には6月31日(語呂合わせで〝ジュンサイ=JUNE 31)〟は存在しないため、半ば強引に1日振り替えた7月1日が「ジュンサイの日」だってご存知でしたか?

 1957年(昭和32)に着工した干拓事業により、男鹿半島の付け根に琵琶湖に次ぐ大きさで広がっていた汽水湖「八郎潟」に、JR山手線の内側に匹敵する面積の耕作地が出現。秋田県南秋田郡大潟村が誕生しました。

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 大潟村の外周に残る八郎湖の北東側に位置する秋田県山本郡旧琴丘町・旧山本町・旧八竜町の3町が2006年(平成18)に合併して誕生した三種町(みたねちょう)は、ジュンサイ生産量が国内生産の8割以上を占めるダントツの日本一。

 その生育には、白神山地や出羽丘陵を水源とする池沼と根を張る適度な水深(50~80cm)が欠かせません。水田からの転用を含め、町内には200を越すジュンサイ沼があり、小舟を棒で操りながら、一株ごと手摘みで収穫を行う生産者の姿が田園風景に溶け込んでいます。

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【Photo】水と緑豊かな三種町森岳地区。幼葉の大きさが5.6cmを超えると商品価値が落ちるため、ジュンサイの収穫は時間との勝負。作業は早朝から夕刻まで続く。ふらりと立ち寄ってお話を伺った生産者の髙松隆司さんのジュンサイ沼。6月27日にNHK総合TVで放送され、7月15日に再放送予定の「鶴瓶の家族に乾杯」で、ジュンサイ好きだという俳優の綾野剛さんが三種町を訪れた中で、髙松さんが奥様と登場するよもやのデジャヴ(下画像)が発生。これもこのところ冴えわたる庄イタの神通力のなせるスゴ業か!?

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 食用とするのは、楕円形をした幼葉の若芽と葉柄のごく小さな部分。幼葉の大きさが3cm以内・茎が1cm以内の小ぶりなものが最良とされ、7月初旬に最盛期を迎えるゼリー状の粘膜が多い「一番芽」は、とりわけ珍重されます。

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 ジュンサイは組成の9割を水分が占めており、水のキレイさは生育にとっての必須条件。生活排水や除草剤の混入による水質悪化により、ジュンサイは数を減らしています。

 生産者の高齢化と後継者不足もあいまって、1990年代初頭と比べ産出量が1/3に減少するなど、希少性は高まるばかり。地物が比較的安価に入手可能な地元以外、安価な中国産に比べて希少価値が高い国産のジュンサイは、今や高級食材の仲間入りをしています。

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【Photo】5月中旬から8月中旬まで体験可能な三種町のジュンサイ摘みは、今シーズンから同町鹿渡「道の駅ことおかサンバリオ」内の「観光情報センター」で受け付ける(Phone:0185-88-8819 / 受付 9:00~17:00)。山の養分を含んだ伏流水を引いた申し分のない条件を備えた志戸田友彦さんの圃場「里山志戸田園」(予約制 / 9:00~16:00)

 味に癖がなく、プルプル&つるんとした食感が独特なジュンサイは、下茹でした上で冷やして酢の物やお吸い物の具として頂くのが一般的。

 手延べによるツルツル&シコシコした喉越しの「稲庭うどん」や、半殺しにした「あきたこまち」を手で丸めた「だまこもち」(= 球体きりたんぽ)と「比内地鶏」を鍋仕立てにした「森岳(もりたけ)じゅんさい鍋」の具材としても見逃せません。

 赤飯、納豆、茶わん蒸しに砂糖を入れる甘口好みの秋田県民は、ジュンサイを黒蜜で味付けし、和菓子感覚で食することも。

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【Photo】ジュンサイ摘み採り体験料金は、大人(中学生以上) 1,800円、子ども(小学生)1,000円(2016年7月現在)。水面を覆う葉をかき分けながらの摘み採り体験は、年齢性別に関係なく夢中になること請け合い。採ったジュンサイは持ち帰ることができる。雨具ほか紫外線と暑さ対策、そして水分補給をお忘れなく

 庄内系の血が騒ぐ孟宗・岩ガキ・寒ダラ・だだちゃ豆など、季節ものは旬を外さないのが鉄則。涼を呼ぶ食感が魅力のジュンサイもまた同様です。

 一度は訪れてみたかった三種町での生ジュンサイ摘みを初めて体験したのが、一昨年の8月18日(上画像)。もはやシーズン終盤ではありましたが、それでも2時間で1kg以上の収穫がありました(下画像)

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 その折に地場の素材を取り入れたイタリア料理をコースで食べさせてくれた「農園りすとらんて herberry ハーベリー」再訪を主目的に、ベストシーズンに遅れをとってはならじと、2年ぶりとなる三種町を訪れたのが、週末の都合がついた6月上旬。

 昼にマリナーラを食した真のナポリピッツァ協会認定店「コジコジ 秋田山王店」と、月刊専門料理6月号(柴田書店刊)で特集された全国の厳選イタリア料理店50店で、唯一秋田から登場した大仙市「リストランテ giueme ジュエーメ」を翌日訪れるのも秋田遠征の動機となりました。

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【Photo】和食のイメージが強いジュンサイに潮の香りのアオサを加え、コク出しにアサリのブロードをベースにスープ仕立てにしたherberry のスペチャリテ「森岳産生ジュンサイとアオサのズッパ(2014 ver)」は、いわば水を味わう料理

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【Photo】herberryの客席からは大きなガラス窓越しの外の眺めが目を楽しませてくれる。驟雨に洗われた白い花を咲かせたニセアカシアの木々に囲まれた庭園。料理に使うハーブやブルーベリー、ブドウ、花々などが彩りを添える景色もご馳走のうち(上画像)

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【Photo】5月から11月の搾乳期に数量限定で登場する「ヤギのプリン」。2014年の初訪店時は、Richard Ginori の伝統柄フィレンツェのプレートで登場。繁忙時を除き、好みのWEDGWOOD のカップ&ソーサーを選んで心豊かに食後の一杯を楽しめる

 herberryでは、目の前の農園で栽培する野菜・ハーブ・ベリー類のほか、ニワトリとヤギを飼育。卵と授乳期にはヤギ乳も自家調達します。この春からは巣箱を用意して日本ミツバチを飼育。ハニーハントにも挑戦中。

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【Photo】厨房を預かる秋田市出身の山本智さん・津軽出身で接客とドルチェ担当の眞紀子さん夫妻。退職後に横浜から三種町に移住。2011年(平成23)7月にオープンした店舗兼住宅の広~い敷地には〝自産店消〟を掲げる夫妻が飼育する「メイ」と「さつき」ファミリーのヤギ小屋も建つ(下画像)。ヤギは自家製チーズやドルチェの材料となるミルクだけでなく、畑で使う堆肥ももたらしてくれる

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 旬を迎えた産地ならではの〝ジュンサイ²タリアン〟は今回も健在でしたが、収穫のピークには少し早かったよう。狙い目だったジュンサイのフルコースは、次回にお預けとなりました。

 ★教訓:急いては事を仕損じる(π_π)。

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【Photo】リチャード・ジノリのイタリアンフルーツに盛り付けされた2014年盛夏のアンティパスト。(上から時計回りに)白キスのエスカベーシュ、サーモンオレンジマリネのクリームチーズ、八森港 舌平目のチーズパン粉ソテー、三種町さくらだ畜産 和牛タリアータ 旬のブルーベリーソース風味、炙り鴨のオレンジソース、アスパラガスのさっぱりディップ風味、八竜砂丘メロンとパルマハム

 会社務めをしていた当時、海外に出張した折に買い揃えたという名窯「リチャード・ジノリ」のプレートが次々と登場するherberry で頂いたスタンダードコース(5,400円)の内容をご紹介しましょう。

・インサラータ:
 八峰町八森港(はっぽうちょうはちもりこう)で揚がったマゾイ(キツネメバル)のカルパッチョ ピンクペッパーの香り 新たまねぎのサラダ仕立て
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・スープ:
 三種町森岳 生ジュンサイとアオサのズッパ(2016 ver
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・アンティパスト・ミスト:
 男鹿沖 ミズダコの柔らか煮・セロリのさっぱりドレッシング、
 かわい農場 中ヨークシャー交雑豚ロースのロースト・セージバター風味、
 アスパラと海老のキッシュ
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・お口直し:
 五城目 ラズベリーと白ワインのコンポート・ゼリー寄せ
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・プリモピアット:
 桜田畜産 和牛テールの煮込みリガトーニ・リガーテ
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・セコンドピアット:
 トキシラズのムニエル・ジュンサイと白いんげんのジェノヴェーゼ風味、
 カポナータ
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・ドルチェ & ハーブティー
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 この日は最寄の宿泊施設が改装中で、車で20分以上離れた森岳温泉に投宿しました。よって前世イタリア人には選択の余地がないフランス産ワインだけが記載されたワインリストは一瞥するも、庄イタの夕食には付き物のヴィーノではなくサン・ペレグリーノの炭酸水で通したのでした。

 コースの締めは、好みのウエッジウッドのカップ&ソーサーをチョイスするコーヒー or 紅茶 or ハーブティー。別腹発動のドルチェが「ジュンサイの和風ティラミス」(下画像)

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 ジュンサイをトッピングし、きな粉を盛ったマスカルポーネと黒蜜風味のスポンジ生地との間には、ジュンサイが挟まっています。黒蜜&きな粉の相性の良さは無論のこと、とろ~り、ぷるん、つるん、プチンと、口の中でめまぐるしく入れ替わる食感の変化が、なんとも楽しい一品でした。

 希望コースを伝える予約の際、食材の希望やアレルギーの有無などをお伝えした上で伺うのが得策。車で10分とかからない近場には、先月リニューアルしたばかりの素泊可能な温泉宿泊施設「砂丘温泉 ゆめろん」があります。アグリツーリズモやオーベルジュ感覚で、ゆったりと食事を楽しめるお店です。

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herberry-casa.jpg農園りすとらんて herberry ハーベリー
 住:秋田県山本郡三種町大口西山根170
 Phone:0185-85-3232
 営:・Pranzo / Cafe: 11:00~16:00 
    ※14:00以降のカフェ利用を除き要予約
   ・Cena :18:30~ ※2日前まで要予約: 3,240円・5,400円・8,640円~
    月曜・火曜定休(祝日は営業) Pあり 禁煙
 URL http://www.herberry.biz/

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2016/05/14

正真正銘、これぞトリュフチョコレート!!

アルバの薫り高きトリュフ入りトリュフチョコ


 2010年10月にオープンした旧店舗近くにこの春移転し、装いを一新した福島市「Osteria delle Gioie オステリア・デッレ・ジョイエ」。

 信仰するバッカス神との対面をウフィツィ美術館以来、久方ぶりに果たした「カラヴァッジョ展」、異才ぶりに圧倒された「若冲展」と続いたGW期間中の東西美術展巡り。その締めくくりとして、福島県立美術館で開催された「フェルメールとレンブラント 17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち 」を鑑賞がてら、1カ月半ぶりに店を訪れました。

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Osteria-Gioie.jpg【Photo】移転前のダークグリーンの外壁とオレンジ色の扉から、黒を基調としたシックな外装に生まれ変わったファサードとエントランス(右)。 外扉を開けると、ワインボトルをかたどった内扉が出迎えてくれる(左)。 旧店舗より広くなった店内はカウンタ-席をセンターに配し、明るく開放的な雰囲気

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sugopo-modoro@gioie.jpg【Photo】昨年11月、旧店舗で食したランチコース「Degustazione 」のプリモピアット「自然放牧豚の自家製サルシッチャと自家製サンマルツァーノトマトソース・ペコリーノ風味リガトーニ」(上写真)の味に魅了され、帰り際に購入した「Sugo al pomodoro fresco con San Marzano フレッシュサンマルツァーノトマトのソース 我が家風」(左写真)。イタリアの家庭と同じく夏の収穫期にまとめて製造、瓶詰めする

 サンマルツァーノトマトの自家製ソースしかり、ラグーしかりの滋味あふれる味付けで、いつに変わらぬ身も心も満たされるコストパフォーマンスの高いランチコース「Degustazione デグスタッツィオーネ」(税込2,940円)を頂きました。

 会計を済ませたところに厨房から出ていらした梅田勝実シェフとご挨拶を交わし、5月25日に開催する生産者交流イベント「自由で自然な仲間のマルシェ ナチュラ・フクシマ」について教えていただいた折のこと。

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【Photo】(3月中旬から5月初旬にかけてのDegustazione コースより。左上から順に)イタリア種の黄色いニンジンポタージュ、アンティパスティ・ミスティ(奥州いわいどりレバーのブルスケッタ、プロシュット、白いんげん豆、赤ダイコンとヘーゼルナッツ、イタリア風卵焼き、カポナータ、ニンジンのマリネ)、熊本産アサリのポモドーロソース・レモンの香りスパゲティ(⇒ 絶品!)、ふるや農園自然放牧豚肩ロースのグリッア、ピスタチオのジェラート・ブラッドオレンジのソルベ、SIMONELLI で淹れるLAVAZZA

 横目でレジカウンターのガラスケースの中に鎮座する「トリュフ入りチョコレート(下写真)の存在を見逃さないトリュフ犬顔負けの庄イタなのでした。

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 シニョーラ梅田から「お味見にどうぞ」と渡されたトリュフチョコからは、庄イタの嗅覚細胞に深く染みついた特徴的な白トリュフに通じる芳香が包み越しに立ち昇ってきます。

 人間の五感において記憶の最も奥底に刻まれるのは嗅覚。ある香りを嗅いだ途端に、遠い過去のシーンが突如として蘇った経験をお持ちの方は、少なくないかと。

 めくるめく香りに誘われるように、5粒入りパッケージ(税込1,260円)を所望。その時イメージしたのは、定番のNebbiolo ネッビオーロ、それも極めつけの作り手との組み合わせ(下写真)

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 熟成によって現れる妖艶なトリュフ香が顕著なバローロを醸すのが、「Giuseppe Rinaldi ジュゼッペ・リナルディ」。

 獣医の資格を有する 5代目当主のBeppe ベッペことジュゼッペ・リナルディ氏は、地元バローロでは、郷土史家としても知られる舌鋒鋭いキャラの濃い人物。申請手続きをすれば容易に取得できるはずの認証機関による有機認定には全く無頓着。

 2人の娘との共同作業で祖父の代から受け継ぐ4カ所のブドウ畑8haから、土着品種の良さを認識させてくれる「Freisaフレイザ」、「Ruché ルケ」ほか、「Dolchettoドルチェット」、「Barberaバルベーラ」などの黒ブドウから年産平均3.8万本のヴィーノ・ロッソを生産します。

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 単一畑Le Coste レ・コステ産ネッビオーロ15%に、同Brunate ブルナーテ産のネッビオーロをブレンドする「Brunate ブルナーテ」、単一畑Cannubi San Lorenzo カンヌビ・サン・ロレンツォ, 同Ravera ラヴェーラ, レ・コステの3つを瓶詰め前にブレンドする「Tre tine トレ・ティーネ」のクリュ・バローロ2種が、生産量全体の半数を占めます。

 世に名高い名醸地を1980年代から2000年代初頭にかけて席巻したモダニズムの嵐など、5代目にとってはどこ吹く風。先人が培った伝統に敬意を払い、1カ月を要する一次発酵には足踏み破砕の名残りとなる上部開放式の木製樽「Tini ティーニ」を、発酵後の熟成には、ファシズム期に普及したクロアチア東部・Slavonija スラヴォニア地方産オーク材を使った2,000ℓクラスの大樽「Botte ボッテ」を用います。(下写真)

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no-barrique-no-bel.jpg 225ℓ 容量のオーク樽(通称 Barrique バリック)は、ワインとの接触面積が多い分、木質由来の甘いバニラ香がワインに反映され、土地や作り手の個性が薄れる側面も。よって近年では地元では「Fustoフスト」と呼ばれる500~600ℓ容量のオーク樽やボッテの良さが見直され、地域性と伝統への回帰が顕著となっています。

 なるほど熟成庫の壁には、親戚筋にあたるバローロ村の伝説的な作り手「Bartolo Mascarello バルトロ・マスカレッロ」の先代が手書きした秀逸なマニフェスト「No Barrique No Berlusconi」(=反バリック樽, 反ベルルスコーニ)の有名なエチケッタ(ラベル)が掲げられています(右写真)

 バローロ5大クリュでは最北のLa Mora ラ・モーラ村は、優美で比較的早くからアプローチしやすいタイプのバローロとなります。深みのある偉大なバローロへと変貌してゆく単一畑ブルナーテで収穫されたブドウの発酵には、1世紀以上に渡って使われてきた栗材とオーク材を組み合わせた黒光りするひと際大きな専用樽を使用します。(上動画の1分20秒過ぎから登場)

 DOCGバローロに関しては、イタリアワイン法が規定する法定熟成期間36カ月を上回る樽熟42カ月が、ジュゼッペ・リナルディにおけるスタンダード。

 バローロ村の北東15kmと至近のピエモンテ州クーネオ県Alba アルバの街では、トリュフシーズンの秋に「Fiera Internazionale del Tartufo Bianco d'Alba(白トリュフ祭り)」が毎年開催され、黒トリュフでは到底代えがきかない魅惑的な香りに魅了された人々が世界中から集います。

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 アルバ市街地の北を流れるタナロ川を挟んで川向かいにあたるPiobesi d'Alba ピオベシ・ダルバには、グラッパの蒸留元として、またグラッパ入りチョコでも名高い「Sibona シボーナ」があります。

 そのグラッパとも相性が良かろうサマートリュフを練り込んだ正真正銘のトリュフチョコ製造元「TartufLanghe タルトゥフランゲ」もまた、ピオベシ・ダルバに製造所を構え、パスタやペースト類など、トリュフを使った加工食品を世に送り出してきました。

 タルトゥフランゲの自信作、フリーズドライ加工した夏トリュフ入りのトリュフホワイトチョコ「Dulcis Tuber Plalina con Tartufo(下写真)には、熟成してこそ真価を発揮するバローロではなく、早飲みが可能なDOCLanghe Nebbiolo ランゲ・ネッビオーロ2011」を合わせてみました。

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 醸造所の前に広がる3haのクリュ「ラヴェーラ」の樹齢が若いブドウを用いるDOC ランゲ・ネッビオーロは、大樽による熟成期間18カ月。平均年産はわずか5,500本。熱烈な信者が多いバローロよりも希少性は高いかもしれません。

 完璧な仕上がりとなった前年ほどではないにせよ、夏の猛暑と収穫期の好天で優良な2011年ヴィンテージは、ネッビオーロの特性といえる強靭なタンニンが意外なほどソフト。若飲みできるワインは、ともすると抜栓後のヘタリも早いのですが、大樽で時を重ねたヴィーノは、そんなことはありません。時間をかけて変化してゆくさまをじっくりと味わえます。

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 樹齢が高いネッビオーロ、特にバローロほどの高貴な複雑味はないにせよ、出汁がきいた旨味をたっぷりと堪能でき、エレガントな血筋の良さは十分に感じられます。インパクト重視でグイグイ押しまくるのではなく、ジ~ンワリ心に沁みる寄り添い型ヴィーノ・ロッソ。

 重量ベースでは0.3%の含有量ながら、芳醇で濃厚な香りが特徴の夏トリュフ(Tuber Aestivum Vitt.)がしっかりと存在感を示し、ピエモンテ産ヘーゼルナッツの風味が、かすかな塩味を伴ったホワイトチョコと相まって、予想通りランゲ・ネッビオーロ2011との良好なカップリングが成立します。

 国家財政は火の車で、公務員の仕事ぶりはいい加減でも、人生を謳歌する名人たるイタリア人の仕事って、何故にこうも味わい深いのでしょうね。

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logo_gioie.jpgOsteria delle Gioie オステリア・デッレ・ジョイエ
 ・住:福島市鳥谷野字二ツ石12-3
 ・Phone:024-529-6656
 ・営:11:30-14:00 L.O. 18:30-20:30 L.O.
 ・水曜日・第二火曜日定休 Pあり カード可 禁煙
 ・URL:https://www.facebook.com/OsteriaDelleGioie/?fref=ts


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2016/05/02

延長戦 三番勝負

Gli abbinamenti tre vini contro formaggio la Rossa
Formaggio CigliegioAtto さくらチーズ 第四幕


 桜前線の北上に合わせてお届けして参りました桜の香り漂うチーズに関する話題。加熱したモッツアレラチーズのように、伸ばしに伸ばしてきましたが、いよいよ今回が最終章となる第4 弾です。

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【Photo】種自体が国指定天然記念物に指定される「鹽竈桜(しおがまざくら)」。国府が置かれた多賀城の鬼門となる北東に位置する宮城県塩竈市「志波彦神社・鹽竈神社」。その境内には60本ほどの八重咲きのサトザクラの一種、鹽竈桜があり、うち27本が天然記念物に指定されている。ソメイヨシノに遅れること10日ほどで、30~50枚の花弁が手毬状に花開く見ごろを迎える。4月24日に催された今年の鹽竈神社花まつりにて

 ピエモンテ州南部、リグーリア州にほど近いアルタ・ランゲ地方産の山羊乳チーズ「La Rossa ラ・ロッサ〈2016.4拙稿「Formaggio CigliegioAtto II 】 さくらチーズ 第二幕」参照〉と、Vini Bianchi との組み合わせ三番勝負で消費しきれなかった残り1/4は、熟成が一段と進んでいます。

 そんな山羊乳チーズの特徴であるピリっとした風味が加わり、表面のオレンジ色が濃くなり、香りが一段と強くなって購入当初は感じられた桜葉の香りを覆い隠してきました。

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 チーズに限らず日本で流通する加工食品には、食品衛生法で賞味期限の表示義務があります。その日付が迫りつつある状況ではありましたが、そもそも賞味期限とは、美味しく食することができる期日の目安にすぎません。

 多種多様な微生物や菌の活動によって熟成が進む(=風味が変化する)ナチュラルチーズは、加熱して菌が死滅するプロセスチーズとは違い、誤解を恐れずに言えば、食べ頃はあっても厳密な賞味期限など存在しないに等しい発酵食です。

 日を追うごと濃厚さが増したLa Rossa から想起した延長戦の組み合わせは、フルボディのヴィーノ・ビアンコを筆頭格に、渋味として感じるタンニンが強くない赤ワインや濃密なデザートワインなど。

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 1本目に選んだのは、南チロル地方屈指の優れた作り手「San Michele Appiano サン・ミケーレ・アッピアーノ」。

 その最上級ライン「Sanct Valentin サンクト・ヴァレンティン」の単一品種から作られる辛口白ワイン全5種類の中でも、特に傑出している「Pinot Grigio ピノ・グリージオ2010」。(左写真)

 第三幕で最良の組み合わせだった「Graminè グラミーネ2013」と同じトレンティーノ・アルト・アディジェ特別自治州の同じブドウ品種から作られており、比較の意味でキャスティングした次第。

 ロゼのような色合いのグラミーネは個性が際立つ演技派でしたが、オーストリアと国境を接し、ハプスブルグ帝国時代はオーストリアに併合されていたため、現在も優勢な独語表記ではSt.Michael-Eppan ザンクト・ミカエル・エッパンとなるサン・ミケーレ・アッピアーノは、いわば誰もが認める二枚目スター的なキャラ。ブドウ品種が同じでも、造り手によって個性が全く異なる見本のよう。

 アルト・アディジェ地方の中核となる街、ボルツァーノ周辺のブドウ生産農家350軒が組合員として加盟する協同組合組織に関しては、2013年6月に醸造家ハンス・テルツァー氏をお招きし、仙台で行われた試飲会レポートで詳報しています。〈2013.8拙稿「ビアンキスタ、面目躍如。」参照〉

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  試飲会で気に入って3本まとめ買いした時の印象から、キンキンには冷やさず、香りをたたせるため、あえて赤ワイン用の大ぶりなグラスを選びました。

 白の専門家〝Bianchista ビアンキスタ〟の異名を持つ醸造家が理想とするブドウの個性がピュアに伝わるボリューミーで密度の高い白ワインの世界観が、余すところなく表現されています。

 グラスからは熟れたマスクメロンやアップルマンゴーのゴージャスな香りが立ち上がってきます。スモーキーなニュアンスがあるピノ・グリージオと、熟成が進んだLa Rossa との相性は、極めて申し分ありません。

 スケールの大きなフルボディのサンクト・ヴァレンティン・ピノ・グリージオ2010ヴィンテージは、長熟に耐える白品種としてのピノ・グリージオの可能性を雄弁に物語る出来栄え。
 
 単体でもワインと対話するメディテーションも可能な素晴らしいヴィーノゆえ、ついスルスルとグラスが進みます。我に返って下した組み合わせ評定は、言わずもがなの★★★。

 さらに熟成が進み、一段と風味が増してきたLa Rossa には、もはや赤ワインが似つかわしいように思えました。

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〝コクや香りなど味わいの特徴を合わせるべし〟とは、前回述べたアッビナメントの常道。

 そこで取り出したのが、アドリア海にほど近い中部イタリア・マルケ州アンコーナ県Morro d'Alba モッロ・ダルバ周辺だけで栽培されるブドウ品種「Lacrima Nera ラクリマ・ネラ」から醸したヴィーノ・ロッソ2本(左写真)。エチケッタをご覧の通り、作り手はいずれも「Marotti Campi マロッティ・カンピ」。

 共働学舎さくらとのアッビナメントでは、ラクリマを泡仕立てにしたスプマンテと組み合わせましたが、泡ものとの相性は今ひとつ。〈2016年3月拙稿「さくらの便りは北の国から」参照〉 捲土重来を期してラクリマのスティルワインに候補を絞り、アッビナメント延長戦第2ラウンドに臨みました。

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 完熟すると実割れしやすく、裂け目から果汁が滲み出すさまが、涙(伊語:Lacrima )に似ているため、ラクリマと名づけられたというこの品種。

 そのリスクが高まる9月下旬まで収穫を控え、最適なタイミングで手摘みしたブドウを2-3年落ちのフレンチバリック樽で12ヵ月熟成後、6ヵ月の瓶熟を施す(一般に上級ラインを意味する)Superiore スーペリオーレ(上写真左側)という選択肢も手元にあるにはありました。
 
 La Rossa との相性を考慮し、最終的に選んだのは、「Lacrima di Morro d'Alba Rubico ラクリマ・ディ・モッロ・ダルバ・ルビコ2013」。

 こちらは、収穫したブドウの8割は通常のアルコール発酵を施しますが、2割を房のまま密閉したタンクで醗酵させる(イタリアの新酒ノヴェッロに用いる)炭酸ガス浸漬法で醸してから圧搾し、両者をブレンド後にステンレスタンクで6ヵ月、瓶熟2ヵ月の熟成を経て出荷されるカジュアルなタイプです。

 ピエモンテ州モンフェラート原産とされ、食事との汎用性が高い黒ブドウ「Dolcetto ドルチェット」と風味が似ているアロマティックな希少品種ラクリマ〈2011.11拙稿「ボジョレー騒動はさておき...」参照〉。前回のスプマンテでは、★評価に留まったものの、相手を変えた二度目の桜チーズとのアッビナメント結果はいかに。

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 ヴィーノが樽を使っていない分、ストレートに感じられる品種の特徴であるバラの甘い香りが、刺激的なチーズの風味をマイルドに和らげてくれます。スプマンテでは阻害要因となった泡がない分、組み合わせの妙が生かされ、評定は及第点の★★。

 延長戦の最後は、北イタリアのデザートワインで締めましょう。桜はバラ科の植物であることから、選んだのはバラの花を意味する「La Rosa ラ・ローザ2006」。

 ラ・ロッサにラ・ローザ。単なる語呂合わせです(^ ^;ゞ。

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 La Rosa は、赤用に混醸されるケースが多い黒ブドウ「Molinaraモリナーラ」と、微発泡のMoscato d'Asti が第三幕1本目で登場した白ブドウ「Moscato モスカート」を収穫後、潜在アルコール度数が18度に達する12月まで陰干してから圧搾。年明けの春に瓶詰めされます。

 醸造所でブドウの陰干しを目の当たりにした2003vinを今年開けた「Vin San Giusto ヴィン・サン・ジュスト」のように、6年に及ぶ樽熟期間に60%まで凝縮する珠玉のデザートワインと比べれば、あっさりした仕上がりです。

 ガルダ湖の南東、アディジェ川流域の盆地に醸造所を構える「Cavalchina カヴァルキーナ」という作り手によるものです。

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 今年50 回目を迎えたイタリア最大のワイン見本市「Vinitaly ヴィニタリー」が毎年4月に開催されるヴェローナを擁するヴェネト州のD.O.Cゾーンでいえば、そこは同郷の「Soaveソアーヴェ」の名声に隠れがちな佳酒「Bianco di Custoza ビアンコ・ディ・クストーザ」や、軽やかな赤「Bardorinoバルドリーノ」を産出する地域です。

 凝縮したブドウを圧搾して得られる天然の甘味と綺麗な酸味が絡み合うこのデザートワインと、刺激的な風味の山羊乳チーズとの組み合わせには、美味しいものには目がないイタリア人もそうするように、媒介役となる蜂蜜を加えた方が良さそうでした。

 ラベルに「Sapore pungente accostalo ai formaggi (=刺激的なチーズの風味を和らげる)」と記されたトスカーナ産クリの花蜜Miele Castagno (上写真)を取り出しましたが、後味に苦味が残り、熟成した山羊乳チーズとの相性はよくありません。

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 そこで引っ張り出したのが、共働学舎さくらにも使った盛岡・藤原養蜂場の石割桜一番蜜。

 国指定天然記念物に指定される石割桜や、桜の名所として親しまれる盛岡城址に近いビルに設置した巣箱の蜜蜂が集めた花蜜はメープルシロップを煮詰めたような上品な風味で、心地よい甘い香りが広がります。

 チーズのコクはそのままに、鋭角的な刺激を蜂蜜が優しく包み込んでゆきます。そこに加わるLa Rosa の適度な甘味と酸味。
 
 チーズ、ヴィーノ(⇒桜はバラ科)、蜂蜜の全てが桜というキーワードでつながり、色合いまで揃って三位一体の調和を生み出します。

 「che Buono !♪ (=なんて美味いんだっ!♪)」と感嘆しつつ、庄イタが下した評定は、最高点に星半分オマケして★★★

石割桜2.jpg

【Photo】盛岡地方裁判所前庭の真っ二つに割れた周囲21mの花崗岩の裂け目からは、高さ10m・根回り4.3mの樹齢380年と推定されるエドヒガンザクラ「石割桜」が生えている。例年4月中旬に開花するが、過去40年で最速だった昨年と同じ4月8日に今年は開花した。国指定天然記念物

 お届けして参りました桜にちなんだチーズとヴィーノのアッビナメント劇場全4幕。こうして大団円を迎えたのでした。 

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2016/04/21

いざ、紅白三番勝負。

Gli abbinamenti tre vini bianchi contro formaggio la Rossa.
Formaggio Cigliegio Atto さくらチーズ 第三幕


vino_rosso_Sanitatis.jpg 日々の食卓を豊かにする佳酒があれば、それで良しとする〝ノムリエ〟の庄イタが、尊敬の念を抱く職業のひとつがソムリエです。

【Photo】ローマ・パンテオン脇の路地奥にある「Biblioteca Casanatense カサナテンセ図書館」所蔵の養生訓「Tacuina sanitatis 」(14世紀)に収められた赤ワインの効能に関する挿絵

 広範な知識に基づく的確な助言、サーヴ時に最良の状態を引き出す温度管理、ヴィンテージごとにピークが異なるワインの秘めたる香りを開かせる抜栓のタイミング...。

 改まった雰囲気のレストランで現場経験を積んだプロフェッショナルならではのサービスと、深いワインへの愛情とその美点を引き立たせようというという情熱、一期一会の時間を提供しようという心遣いを感じる接客。そんな立ち振る舞いには感心するばかり。

Degustazione-del-vino.jpg ソムリエが首から下げるTastevin タストヴァン(左写真)は銀製が正式とされ、これは権謀術策渦巻く中世ヨーロッパにおいて、ヒ素による毒殺を未然に防ぐための名残りだといいます。
 
 かたや一介のノムリエにすぎない庄イタは、山梨・勝沼産ワインを好きなだけ飲み比べできる「ぶどうの丘」をかつて訪れた際、試飲用に購入する〝なんちゃってタストヴァン〟(代金1,100円。持ち帰り可)しか持ち合わせておりません(^0^;。

 ソムリエ教則本的には、チーズに限らず食事とワインのabbinamento アッビナメント(=組み合わせ、マリアージュ)には、いくつかの法則が存在します。

 一般論として、(白身肉には白ワイン、赤身には赤ワインといった風に)食材とワインの色合いを合わせるべし。それぞれの産地を合わせるべし。コクや香りなど味わいの特徴を合わせるべし。チーズとの組み合わせに迷ったら、とりあえず赤ワインを合わせてみるべし。

Cheese2013_0922.jpg

【Photo】スローフード協会が主体となってお膝元のピエモンテ州クーネオ県ブラで開催するチーズの祭典「CHEESE」で用意されるプログラムのひとつMaster of Food 。フレッシュ・硬質・スモークなどタイプの異なるチーズとワインとの相性に関するレクチャー

 こうした基本を踏まえた正攻法では、塩気のある食べごたえがある青カビ系には同じ産地のしっかりとした赤がピッタリ。(例:熟成した北イタリア産Gorgonzola piccante ゴルゴンゾーラ・ピカンテ(下写真)には、北イタリアのAmarone アマローネまたはBarbaresco バルバレスコ。南仏のRoquefort ロックフォールならばChaor カオールないしはBordeaux ボルドー)

golgonzola-cheese2013.jpg

 ブルーチーズとの組み合わせの変則技として、コクがある芳醇な甘口デザートワイン(例:Recioto di Soave レチョート・ディ・ソアーヴェ、Passito di Pantelleria パッシート・ディ・パンテッレリーア、 Vin santo ヴィンサントなど)を合わせると、塩味が穏やかに中和され、見事な調和を生み出します。

 ワインとチーズに限らず、漬物と日本酒といった発酵食品同士の組み合わせは、基本的に相性が良い場合が多いもの。最良のカップリングがなされた時は、互いを高めあう素晴らしい出合いとなることでしょう。

marco-bartori@tsukushi.jpg

【Photo】シチリア沖の孤島パンテッレリーア島産デザートワイン。2014年、栽培法が世界無形文化遺産に登録された地面を這うような形状に仕立てたブドウ「Zibibbo ジビッボ(別名:Moscato di Alessandria モスカート・ディ・アレッサンドリア)」を収穫後、8月の日差しのもとで乾燥。凝縮した甘味の雫を堪能できるPassito di Pantelleria BUKKURAM Sole d'Agosto パッシート・ディ・パンテッレリーア・ブックラム・ソーレ・ディ・アゴスト2012(右) 酒精強化のマルサラ酒に用いる品種「Grilloグリッロ」をアルコール発酵後50hℓの樽で20年以上熟成させたVecchio Samperi Ventennale ヴェッキオ・サンペーリ・ヴェンテンナーレは、複雑な辛口(左)。いずれもチーズとの相性が良い ※ ロケ地:「土筆

 さくらの季節に連作で取り上げている「La Rossa ラ・ロッサ」は、山羊乳を使ったチーズ。一般的に山羊乳のチーズは、山羊乳由来の個性的な風味があります。組み合わせるワインは、爽やかな酸味を感じる若いうちは青草のニュアンスが好相性であろう「Sauvignon Blanc ソーヴィニョンブラン」を。シャープで濃密なコクが加わる熟成した山羊乳チーズには、カリンやナッツの風味がある「Fiano フィアーノ」など、ボディがある白やタンニンが強すぎない軽めの赤でもOK。

vini-bianco-la-rossa.jpg

 このイタリア版さくらチーズを購入したばかりの頃は、桜葉の甘い香りが山羊乳の酸味を和らげ、ベースとなったクセの少ない「Robiola ロビオラ」のフレッシュタイプに桜の香りが乗っている印象でした。

moscato2014-vajra.jpg La Rossa の熟成度合いに合わせて抜栓するヴィーノ(上写真)を用意。1ラウンドに選んだのが、「Giuseppe Domenico Vajra G.D.ヴァイラ」のD.O.C.G.Moscato d'Asti モスカート・ダスティ2014」。

 名醸地Barolo バローロ屈指の好条件に恵まれた畑を所有する作り手による爽やかな微発泡性のヴィーノ・ビアンコです。

 前回、プロフィールをご紹介したLa Rossa はピエモンテ州ランゲ丘陵南部アルタ・ランガ地方産のチーズ。ゆえに〝産地を合わせるべし〟という鉄則に沿った選択ですね。

 ワインに関する嗜好が庄イタとほぼ合致するオンラインショップ「にしのよしたか」を運営する西野嘉高氏が店主を務める大阪市生野区の観光名所になっている生野コリアタウンにほど近い「西野酒店」を訪れて購入したうちの1本です。

guido-abbinamenti-vajra.jpg

 10℃~12℃が飲用適温であること、そして果物との組み合わせほか、全卵+卵黄に砂糖とモスカート・ダスティを加えて撹拌したカスタードクリーム状のZabaione ザバイオーネ、ヘーゼルナッツのタルトといったピエモンテの郷土菓子が、推奨するアッビナメントとして、バックラベルに記載されます(上写真)

DSCF7626.jpg マスカットの豊かなアロマが香るモスカート・ビアンコ種は、愛好する白ブドウ品種のひとつ。アルコール度数が6%程度に達した時点で発酵を止め、微発泡性に仕立てるモスカート・ダスティの産地ピエモンテ州アスティからアルバにかけての地域では、ロビオラに合わせることが少なくありません。

 バローロの作り手として高い評価を受けるG.D.ヴァイラの現当主、アルド・ヴァイラ氏は、1881年に創設された「La Scuola Enologica di Alba アルバ醸造学校」で1985年まで教鞭をとっていた知性派。

 微発泡ゆえのヴェルヴェットのごとき口当たりと、心地よいモスカートの甘い香りが、La Rossaの塩味を包み隠してくれます。比較的あっさりした若めのRobiola ロビオーラのトロ~っとした食感と、ほのかに香る桜の香りとの相性は★★判定。

 第2ラウンドは、打って変わって個性派の出番。

tag-longaliva.jpg 共働学舎「さくら」とドンピシャの好相性だったPasquale Petrera パスクアーレ・ペトレーラ「Fatalone Teres ファタローネ・テレス2014」を購入した青葉区広瀬町「Wine Store ブドウの木」オーナー・ソムリエ奥山和茂さんのセレクトです。
 
 山羊乳100%チーズながら、酸味を打ち消す桜の香りが漂うLa Rossa の特徴をお伝えすると、トレント自治県にある醸造所「Longariva ロンガリーヴァ」のIGT(=典型的地域表示付)Graminè グラミーネ2013」を推奨いただきました。

 Longariva は、ロミオとジュリエットの街ヴェローナから、オーストリア国境のブレンナー峠を目指して高速A22を北上したラガリーナ渓谷に位置する街、ロヴェレートでマルコとロザンナのマニカ夫妻が1976年に創業した醸造所です。

Vallagarina-torentino.jpg

【Photo】ドロミテの山並みが北方に迫り、背後にはイタリア最大の湖沼ガルダ湖が控えるトレンティーノ地方。オーストリアと国境を接するトレンティーノ・アルト・アディジェ特別自治州は秀逸な白ワインの産地。アディジェ川沿いから急峻な岩山に続く傾斜地に、この地域伝統のブドウ棚「pergola ペルゴーラ」(=パーゴラ)で白ブドウが栽培される

 Graminè は、イタリア語と併用される公用語ドイツ語が優勢なアルト・アディジェ地方では、ドイツ語表記で「Ruländerルーレンダー」となる白ブドウ品種「Pinot Grigio ピノ・グリージョ」100%のヴィーノ。

gramine-longariva.jpg

 ロゼに近い透き通った独特の色合いは、破砕したブドウ果汁の醸しの段階で、品種名の由来となったグレー(伊語:Grigioがかった淡い赤銅色の果皮とのマセレーション(=醸し発酵)を時間をかけて行うため。

 グラスから立ち上がる完熟した白桃や上品な花の香りから察する予想に反して味わいはドライ。品種の特徴である分厚いボディを備えており、飲み応えもあります。

 角が取れた酸味にしろ、コクとして認識される土壌由来のミネラリーさにしろ、突出した要素がなく、飲み口はあくまでも滑らか。アフターに心地よい余韻が長く残ります。「う~む、これは印象的」

 同郷で組み合わせるセオリーからすれば、ピエモンテとトレンティーノの距離は決して近くはありませんが、気候的には同じ冷涼な北イタリア。次第に山羊乳ならではのコクが増してきたLa Rossaとの組み合わせはバランス良好。カップリングとしては期待を上回る最上ランク★★★を献上です。

 耳障りの良い〝自然派〟なるキーワードを掲げ、日本のワインマーケットを席巻してゆく状況に率直な疑問を呈した(2008年11月拙稿「ボジョレー後日談&自然派ワインよもやま話」参照) 経緯がある庄イタ。個性的な風味のワインを数多く取り揃える某インポーターが取り扱うだけに、いささか構えて開けたのですが、これは〝当たり〟でした。

giacosa-arneis06.jpg 第3ラウンドは、ピエモンテ州クーネオ県ネイヴェに醸造所を構え、地元では誰もが偉大な作り手として尊敬する「Bruno Giacosa ブルーノ・ジャコーザ」が復活させた白品種「Arneis アルネイス」100%のD.O.C.G.Roero Arneis ロエロ・アルネイス2006」。

 作り手の見極めと品質管理において信頼できるインポーター「AVICO アビコ」社が輸入したピエモンテの優良ヴィンテージ2006年を指名買いしたものです。

 庄イタが自ら課している鉄則が〝産地を訪れたヴィンテージを確保すべし〟。

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【Photo】早熟なアルネイスの収穫はとうに終え、黒ブドウのバルベーラや収穫期を迎えたネッビオーロなどのブドウの葉が色づいた2006年10月末のロエロ。1杯のグラスを通して、10年前に訪れたこのブドウ畑へとタイムスリップできるのもワインの愉しみ

 熟成が進み、一段とコクが増したLa Rossa の塩気を、硬質なミネラル感と、時間を置いて温度が上がり始めてから開いてくる完熟リンゴや清楚な花のニュアンス、後味として残る嫌みのない苦味が和らげてくれます。

 率直な感想としては、アンティパストからオイル系パスタ、そしてグリルした鳥や豚肉といった料理と合わせたいワイン。抜栓直後は★★かと思った相性は、次第にボディの厚みと複雑味を増した最終ジャッジでは、★半分を積み増して★★+判定。

antipastimisti-gioie2016.3.jpg

【Photo】ロエロ・アルネイスの規範とされるジャコーザにふさわしいのは、例えばこんな美味しいアンティパスト。 (奥から順に) 鶏白レバーのブルスケッタ、福島県郡山市田村町ふるや農園の放牧豚プロシュット、トスカーナ風インサラータ、春キャベツのピューレ、イタリア風卵焼き、紅白ダイコンのピクルス、カポナータ ※ロケ地:福島市 「 オステリア・デッレ・ジョイエ

 山羊乳チーズとの相性が良いとされるVini Bianchi(=白ワインの複数形)と、La Rossa(=赤)とのアッビナメント紅白三番勝負の模様を今回はお届けしました。

 三番勝負を終えた時点で、まだ1/4が残っていたLa Rossa は、山羊乳らしいワイルドな風味が増す一方、桜の香りは風前の灯となり、購入直後とは別物へと変貌してきました。時間無制限アッビナメント延長戦の実況中継は、また次回。

to be continued...


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2016/04/09

Formaggio Cigliegio Atto II さくらチーズ 第二幕


Robiola di capra in foglia Cigliegio


 前回は北海道から一足早い桜の便りとなるチーズ、共働学舎「さくら」を取り上げました。盛岡では早くも石割桜が開花。過去40年で最速だった去年と同じペースで桜前線が北東北に到達し、仙台で満開宣言が出された今回は第二幕。

 西ヨーロッパ各地にチーズ作りを広めた古代ローマ以前に起源を持つイタリア版さくらチーズの話題をお届けします。

formaggi-Taccuino_Sanitatis.jpg【Photo】ローマ・パンテオン脇の路地を入った先にある「Biblioteca Casanatense カサナテンセ図書館」所蔵の養生訓「Tacuina sanitatis 」(14世紀)に収められた中世のチーズ作りの様子

 仙台市泉区「グリーンマート桂店」のチーズ売り場には、数こそ多くはありませんが、時として希少な輸入チーズがお目見えします。

 先日、そこを物色していて目に留まったのが、さくらと同じような小さな円筒形をしたチーズを濃緑色の葉で包み、赤い紐で縛った「La Rossa ラ・ロッサ」。

 「ムムッ、チーズのこんなパッケージングには見覚えがあるぞっ!

Ciliegia_Cerise2.jpg それもそのはず。La Rossa(下写真 / 税込1,975円)は、美味の宝庫である我が郷里ピエモンテ州南部、Alta Langa アルタ・ランガ地方産なのでした。

 それは牛・羊・山羊のいずれかの乳を用いる小ぶりなチーズを指す「Robiola ロビオーラ」の中でも、最も数が少ない山羊乳100%のチーズを、ピエモンテに自生する桜の葉を塩蔵し、包み込んだ変わり種です。

【Photo】「Tacuina sanitatis 」に収録の14世紀イタリアにおけるサクランボ狩りの模様

la-rossa-formggio.jpg

 2006年(平成18)に製品化された当初は日本から空輸した桜の葉を使用していたというLa Rossa。日伊合作によるこのチーズが誕生する契機を作ったのが、ナチュラルチーズの輸入販売会社「フェルミエ」代表で、欧州各地のチーズに関する多くの著作がある本間るみ子さん。

formaggi-italiani-RHomma.jpg ヨーロッパのナチュラルチーズに魅了された本間さんがフェルミエ社を立ち上げたのが、ちょうど30年前。設立当初チーズは絶対にフランスに限ると考えていた本間さんが、イタリアのチーズの奥深い魅力に開眼したのは、彼の地を訪れるようになってからだといいます。

【Photo】作り手に会うため訪れたイタリア全土から、バリエーション豊かな19 のチーズを紹介する本間るみさんの著作「チーズで巡るイタリアの旅」〈駿台曜曜社1999年刊〉。 ランゲ丘陵や山岳地域を中心に伝統製法によるチーズが数多いピエモンテ州とヴァッレ・ダオスタ自治州には、冒頭の1章を割り当て、写真入りで5つのチーズを紹介。かぐわしい香りが届くような内容で旅情をかきたてられる

 正式な名前がないマンマの味的な自家製を含めると、イタリア全土に存在するチーズの数を正確に把握するなど、どだい無理な話。個性派揃いのチーズに限らず、製法や道具に対して画一的な衛生基準を求め、域内の市場拡大を狙ったEU 統合には功罪両面があり、本来の製法、つまるところ本物の味が失われていった側面も。

mappa-formaggi-DOP.jpg

 農産・畜産・海産物の生産・加工・調整の全工程が、特定の地域内で規定に沿って行われなければならないD.O.P (保護指定原産地表示)や、工程のいずれかが該当すれば認定を受けられるI.G.P (保護指定地域表示)に認定される50種近いFormaggi (チーズの複数形)が各地に存在しています(上写真)

IGP-logo.jpgDOP-logo.jpg 食に対する飽くなき情熱にかけては目を見張るものがあるイタリアは、製法や産地などに関してEU が定める厳格な規定をクリアした製品が最も多いお国柄。
 
【Photo】D.O.P (左)I.G.P (右)認定マーク

 フレンチレストランがそうであるように、食事の締めくくりに(飲み残した)ワインとともにチーズを食するのがフランス。イタリアでもそうした食ベ方をしますが、むしろ(魚介系を除く)料理の素材としてチーズが活用されることが多いように思います。

 パスタ料理にブロックごとすりおろすハードチーズはいわずもがな。たとえば北部のリゾットやポレンタの味付けのほか、パンとともに食するフォンデュータ、中部ならばピアディーナやカルボナーラ、そして南部ではナポリピッツァやインサラータ・カプレーゼと、枚挙に暇(いとま)がありません。

gianni_paula_lorena.jpg【Photo】ジャンニ(中央)とパオラ(右)の娘ロレーナ(左)、息子のフランチェスコほか、9名のスタッフで運営されるCORA Formaggi で生産する多彩なチーズの一例

 リグーリア州との境界が5kmほど南に迫るピエモンテ州南部、小高い山々と丘陵地帯が広がるアルタ・ランガ地方の小さな村Monesiglio モネジーリオにLa Rossa の作り手であるCORA Formaggi 社はあります。この地域の女性たちは、自家用や地元消費用に山羊乳のチーズを何世代にもわたって作ってきました。

con-staff_cravette.jpg

【Photo】イタリアの食とワインに関して最も影響力がある出版社「ガンベロ・ロッソ」が、その味がIndimenticabile (=忘れられない)で、最も美味しい山羊乳で作るロビオーラチーズだというお墨付きを与えたのが、CORA Formaggiの「Robiola del Castello ロビオーラ・デル・カステッロ」。2014年からは原料のミルクは、全て自社の飼育場「La Cravette」で生産。飼育場を支えるスタッフとコーラ夫妻

 ともにアルタ・ランガ地方で生まれ育ち、1985年に若くして結ばれたジャンニ・コーラとパオラ・フラッキア夫妻。二人が趣味で自宅用に手作りしていたチーズの本格的な製造に乗り出したのが1998年。近隣の生産者から牛乳や羊乳を仕入れるほか、2014年には自前の飼育施設「La Cravette ラ・クラヴェッテ」でヤギ300頭の自家飼いを開始。以前にも増して搾乳したての新鮮なミルクの調達が可能となりました。

SF0147630.jpg【Photo】スローフード運動発祥の地、ピエモンテ州ブラで隔年開催される乳製品の多様性に触れることができる国際イベント「Cheese 」には、このCastagno (=クリ)の葉で包み込んだチーズ「Castagneto」のような小規模な生産者による多種多様なチーズが一堂に会する

 燻製のほか、塩水や蒸留酒に浸したイチジク・クリ・ブドウ・クルミなどの葉で包み込んだり、さまざまなハーブ、干し草、トリュフ、殺菌効果がある灰、ワインの醸造過程の副産物である発酵したブドウ果皮などで表面を覆うことで、風味付けや保存性を高めた個性豊かなチーズは、イタリアやフランスを中心に欧州各国に多数存在します。

 La Rossa の原型となるチーズ「Robiolaロビオラ」は山羊乳製。古代ローマ以前の先住民族ケルト人まで歴史が遡る「Robiola Di Roccaverano ロビオラ・ディ・ロッカヴェラーノ」は、ロンバルディア州ヴァレーゼ県の山岳地域で作られる「Formaggella del Luinese フォルマッジェラ・デル・ルイネーゼ」と並び、D.O.P 認定チーズでは数少ない山羊乳チーズとなります。

SF0149356.jpg【Photo】ピエモンテ州アスティ県Roccaverano からクーネオ県にかけての丘陵地帯がD.O.P エリアとなるチーズ「ロビオラ・ディ・ロッカヴェラーノ」。50%以上の山羊乳の使用が義務付けられており、季節によっては牛乳と羊乳の混入が規定上では可能。新鮮なうちは寄せ豆腐のような外観だが、熟成が進むと黄色から赤っぽく変化。味わいもまた変わる

 ジャンニとパオラは、製法を受け継ぐ農家を訪ね歩いたり、文献を通してチーズ作りの技術を磨きました。彼らが使用するのは、2月から11月にかけての最も風味がよい山羊の乳。

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【Photo】CORA Formaggi の原料乳生産を担う「La Cravette ラ・クラヴェッテ」で飼育するヤギの中で頭数が最も多いのは、原産地であるスイスの地域名に由来する「Saanen ザーネン種」

 ピエモンテ伝統の葉包みチーズですが、加工に適した葉を確保し、殺菌してから一個ずつ手で包み込む手間がかかるため、近年ではあまり見られなくなりました。

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【Photo】La Cravetteではスイスアルプス地域原産のヤギ「Camosciate delle Alpi カモシアーテ・デッレ・アルペ種」も飼育する

 スローフード協会では、本部があるピエモンテ州Bra ブラを会場に、チーズと乳製品の祭典、その名もズバリ「Cheese チーズ」を1997年から隔年で開催しています。昨年9月のCheese 2015には、3日間の会期中に世界中から27万人が参加するブラを挙げての一大イベントに成長しています。

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【Photo】 目移りするほどのチーズをはじめとする伝統食材が勢ぞろいしたCheese 2015。トスカーナ州南部ピエンツァ近郊で作られる「Pecorino ペコリーノ」を、クルミの葉を敷き詰めたテラコッタ製の壷で追熟させた「Riserva Foglia Noce リセルヴァ・フォーリア・ノーチェ」ほか、羊乳チーズがてんこ盛り

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 伝統を重んじ、品質向上のための労を惜しまないCORA Formaggi は、2013年に開催されたCheese2013で、地域性豊かな秀れた作り手が対象となる「Locale del buon formaggio」に選出されています。

locale_buon_formaggio_2013.jpg

【Photo】 レンネット(凝乳酵素)を加えた山羊乳の成型作業を行うパオラさん

 フェルミエ社の本間さんが、Cheese 2003 を視察した足で、当時すでに取引があったCORA Formaggi の工房を訪れたのが、2003年9月末のこと。

 そこにはチーズを包む目的でグラッパに漬け込まれたさまざまな木の葉がありました。CORA Formaggi では、木の葉で熟成・風味付けする伝統的な製法によるチーズ作りの合間に、野山から葉を集め、洗浄してからグラッパで殺菌する作業を自前で行っていました。

 ジャンニとパオラは、桜・笹・柏・柿などの葉を和菓子や寿司に取り入れる文化が日本で培われてきたことを本間さんから教わります。
 
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【Photo】近隣の野山に自生する西洋サクランボの木から採取した桜葉は、水で洗浄してから塩蔵。La Rossa のためだけに使われる

 そこでイタリアに自生する「Ciliegia(西洋サクランボ)」の葉を塩蔵して山羊乳チーズと組み合わせてはどうか、という話の展開から、伝統を踏まえた新たなチーズ作りに向けた挑戦が始まります。

 脂肪酸が多い山羊乳のチーズは、フランスの「Chèvre シェーヴル」、イタリアの「Caprino カプリーノ」、スイスの「Ziegenkäseツィーゲンケーゼ」など、タイプは多様。程度の違いはありますが、酸味を感じるのが一般的。

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 試行錯誤の末に出来上がった試作品は、桜葉の甘い香りが素材由来の酸味を和らげ、桜餅(上写真は青葉区北目町「村上屋餅店」謹製)を彷彿とさせる香りがかすかに漂う上々の出来栄えでした。

 2年目からは桜餅のように葉ごと食べることができるよう、西洋サクランボの葉よりも芳香性が強い日本のオオシマザクラの葉を空輸。チーズの中に刻んだ葉を含ませることで、より桜のニュアンスが強く出た仕上がりとなりました。2013年からは再びピエモンテの桜葉を使用しています。

wrapping_rossa_chiliegio.jpg

【Photo】日伊合作によるCORA Formaggi 社のLa Rossa。直径10cm×高さ4cmほどの山羊乳100%のロビオラを、自ら集めた地元の桜葉で一つずつ包み込み、10日から15日の熟成を経て出荷される。賞味期間は45日

 La Rossa は、山羊乳チーズの常で日を追うごとに風味が変化するため、まずはフレッシュなうちに御開帳。イタリアの桜葉は、日本のそれとは違って硬く食用には不向き。うっすらと赤っぽい外皮に覆われた白いロビオラの中身は、とろ~りクリーミーな食感。

 繊細なヤマトナデシコのような共働学舎の「さくら」と比較すると、塩味が強く、山羊乳チーズらしい酸味は感じません。しっかりしたミルクの風味の余韻に桜の残り香が重なります。

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 クセがない優しい味わいの牛乳製のさくらとはタイプを変えて試みたヴィーノとLa Rossa のアッビナメント(上写真)に関しては、長くなるので【 Atto】第三幕にて。

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2016/02/13

Bravissime Monte Bianco

ハートまでトロけるモンブランはいかが?


 この冬、仙台ではジェラートが熱い。Viaggio al Mondo には昨年6月に登場した青葉区一番町の「GELATI BRIO ジェラーティ・ブリオ」が、その発信地です。

〈2015.6拙稿「Il dolce e l'amaro スウィート & ビター 〈後編〉」参照〉


 ジェラテリアにとってはシーズンオフにあたるこの季節。ジェラーティ・ブリオのショーケースには、定番のシチリア産ピスタチオや岩手・中洞ミルクジェラートほか、果実系では柑橘類やリンゴを主とする旬のラインナップが並びます。

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【Photo】山形県舟形町産ブラウンマッシュルーム+ブラックチョコレート風味「Fungo & Choco フンゴ&チョコ」(右)。同ホワイトマッシュルーム+ホワイトチョコレート(左)のカップリングも(シングル¥ 380・ダブル¥ 450・トリプル¥ 520)

 原価率を著しく押し上げるに違いないマニア垂涎の某レアもの樽熟グラッパを仕込みで使うケースもあるチョコレート系やナッツ系ジェラートも充実。そんなこの季節ならではのフレーバーとともに、付け合わせとしてお試し頂きたいのが、外はサクサク、中はモチモチ&フワフワの香ばしく軽い食感の「ポップオーバー」です。

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【Photo】冬季限定のポップオーバーとの組み合わせを楽しむ真冬のジェラート。熱々&フワフワと、ひんやり&トロ~リ冷たい組み合わせが目新しい。

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【Photo】新食感スイーツとして人気上昇中のポップオーバーは、店内のオーブンで毎日45分をかけて焼き上げる自家製。ジェラートと交互に召し上がれ(Mサイズ ¥ 200 Sサイズ ¥100)

 そして何よりも、この冬に食べ逃しては一生の不覚!! に相違ない皿盛りのTorta Gelato トルタ・ジェラート(=ジェラートケーキ)が、ジェラーティ・ブリオのスペチャリテとして密かに登場しているのをご存知でしょうか ?

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 3月中旬までのイートイン限定の皿盛りトルタ・ジェラートが、「Tiramisù ティラミス(上写真・税込¥750)と、「Monte bianco モンテ・ビアンコ(下写真・税込¥890)のツートップ。

 クリスマスシーズンに数量限定で登場し、好評を博したというトルタ・ジェラート。開店した2014年の冬から登場したティラミスに関しては、食べる前から想像がある程度つき、実食した印象も期待にたがわぬ結構なお味でした。

 辛党・甘党の二刀流を標榜する庄イタのイチオシは、この冬デビューの新作モンテ・ビアンコ(下写真)。この投稿を最後まで読み終えた皆様が抱くであろう期待値を、少なくとも150%は上回る美味しさに悶絶すること請け合いです。

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 そもそもMonte Bianco モンテ・ビアンコとは、イタリア・フランス国境に聳えるMont Blanc モンブラン(4,810m)のイタリア語名。1789年のフランス革命以前は、15世紀初頭から山全体がサヴォイア公国の領地でした。

 1792年、武力による領土拡大の野望を抱いたナポレオン・ボナパルトが、首都をトリノに置いたサヴォイア公国の流れをくむサルデーニャ王国第3代国王ヴィットーリオ・アメデオ3世に対し、欧州最高峰モンブランを含むサヴォワ(伊語:サヴォイア)地域や、ニースの割譲を迫ります。

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【Photo】ヴァッレ・ダオスタ自治州の温泉保養地「Pre-Saint-Didier プレ・サン・ディディエ」は、古代ローマ時代から属州ガリアへと通じる要衝の地。背後に標高4,000m級のモンブラン(モンテ・ビアンコ)山塊が迫る海抜1,000mを超える高地に温泉が湧出する保養地。山側の2kmほど先が、モンブラン観光の起点となるCourmayeur クールマイユール

 1796年のパリ条約によって、サヴォワはフランス領とされますが、皇帝ナポレオン1世失脚後のウィーン会議(1814-1815)によって、パリ条約の無効が宣言されます。その結果、サヴォワ県全体がサルデーニャ王国に返還されます。

 イタリア王国成立後の1861年、初代イタリア国王ヴィットーリオ・エマヌエレ2世とナポレオン3世との間で、モンブラン山頂に国境線を引くことで妥協が成立。現在に至るまで、モンブラン山頂は両国の領地という玉虫色の定義がなされています。

 こうした歴史的な経緯を踏まえ、日本ではモンブランの名で広く認識されているこの名峰を、イタリア式のモンテ・ビアンコと呼ぶべきと考える前世イタリア人の庄イタ。さて、皆さまいかがでしょうか。 以下、紛らわしいので山をモンブラン、ジェラートはモンテ・ビアンコと表記しますが、庄イタ的には、どちらもモンテ・ビアンコ以外の何物でもありません)

【Movie】本格的な登山を志すのでなければ、モンブラン観光には、フランスと国境を接するクールマイユールから出るケーブルカー「Skyway」が便利。高所恐怖症の方には厳しいかもしれない360°のパノラマを楽しみつつ、往復40€(18歳-64歳。年齢による各種割引あり)で万年雪に覆われたモンブラン山頂が、すぐ眼前に迫る標高3,466m地点のプント・エルブロネへと難なく到達が可能

 フランス語表記のMont Blanc 、イタリア語表記のMonte Bianco のいずれもが〝白い山〟を意味するこの山は、山頂付近を分厚い氷塊に覆われています。ゆえに夏と冬では標高がメートル単位で異なるのだといいます。そうした自然のメカニズムに加え、自然環境に影響を与えているのが、一向に止まらない地球温暖化です。

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【Photo】モンテ・ビアンコのベースとなるジェラートは、ピエモンテ州クーネオ県特産のヘーゼルナッツを使ったNocciola ノチオーラ。ポップオーバーとの相性も良好。モンテ・ビアンコで使用するマロンのジェラートは、専用のオリジナルレシピによるもの

 ここ数年、アルプスの氷河が溶け出し、アルピニストを生命の危機にさらす雪崩が頻発するようになってきました。異常気象を誘因する温室効果ガスを排出しない移動手段が自転車。宮城県民にとって喫緊の課題である脱メタボに向けた「みやぎカイゼンプロジェクト」推進にも繋がる一石二鳥のツールでもあります。

 もともと仙台は東北でも積雪が少ない土地柄。ましてや路面の凍結が少ない今年。体内の内燃機関を活性化させる街乗りに適したBianchi Lupo号で駆ける機会を減らさぬよう、心がけています。

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 そんな庄イタのカロリー燃焼のための努力を水の泡と帰する甘い罠(?)の極め付け、モンテ・ビアンコ。ティラミスもそうですが、トルタ・ジェラートは注文を受けてから一皿ずつの手作り。店主でジェラタイオの磯部智広さんによる作業過程を、カウンター奥のガラス越しに眺めていると、否応なしに期待感は高まります。(上写真)

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 ベースは冬場の定番ジェラート、Nocciola ノチオーラ(=ヘーゼルナッツ)。その上にピエモンテ産の栗を原料とするマロングラッセを刻んで挟み込むように、別誂えのラム酒が香る大人の栗ジェラートをドッキング。握りこぶし大に盛りつけされたジェラート×2には、絞り袋に入ったバニラ香る濃厚マロンペーストをぐーるぐると半回転(上写真)

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 残り半周にはフワフワの生クリームをたっぷりとトッピング(上写真)。最後の仕上げにはバージンスノーのように粉糖をサーラサラ(下写真)

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 付け合わせには甘酸っぱい洋ナシのコンフィチュールが箸休め的に添えられます(下写真)。皿の上で繰り広げられる多彩なマロンの風味とヘーゼルナッツ、そして生クリームの饗宴。やがて訪れるのは、めくるめく至福の時。それではボナペティート。

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 完成形。まさにこれは万年雪を頂く山頂を挟んで、北西フランス側はメール・ド・グラース氷河と雪原が広がり、南東イタリア側には切り立った岩壁がそびえ立つモンブランの山容そのもの。

 世界の登山家を魅了する名峰が連なるヨーロッパアルプス。その最高峰モンブラン。そして世の美味しいもの好きを魅了してやまない(はずの)冬季限定 トルタ・ジェラートの最高峰、モンテ・ビアンコ@ジェラーティ・ブリオ。

 ひと匙ごとに幸福が訪れるモンテ・ビアンコは、ボリューミーで食べごたえも十分。半分まで食べ進んだところで、皆様にもお裾分け(下写真)。ハイ、あーん

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 どうです? 今すぐにでも食べたくなるでしょ ? ココロの奥底まで満たされるはずの一皿を召し上がられた後は、落とした頬っぺたの持ち帰りをお忘れなく(^ ^。

 1911年にモンブラン登頂を果たし、13年後に世界初のエベレスト登頂に挑んだのが、英国の登山家ジョージ・マロリー(1886-1924)。山頂付近で消息を絶つ前年、「どうしてエベレストを目指すのか?」というニューヨークタイムズ紙記者の問いかけに答えたマロリーの言葉はあまりに有名です。

Because it's there.(=何故なら、そこにエベレストがあるから)〟

 たとえ貴方がダイエット中だろうと、ここは理性をかなぐり捨ててモンテ・ビアンコ攻略に取り掛かりましょう。庄イタがお薦めする理由は至って単純明快です。

 何故なら、そこにモンテ・ビアンコがあるから。

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GELATI BRIO ジェラーティ・ブリオ

・住:仙台市青葉区一番町1-6-23 shuon 358 ビル1F
・Phone:022-302-5669

logo_brio.jpg・12月~2月末まで冬季短縮営業
   (火~金) 12:00~19:00 (土) 10:00~19:00
    (日・祝) 10:00~18:00  月曜定休(2/15~18 臨時休)
・3月より通常営業
   (火~木) 11:00~20:00  (金) 11:00~21:00
   (土) 10:00~21:00  (日) 10:00~20:00  月曜定休
    禁煙 バンコ(カウンター)6席 テラス4卓12席   Pなし
・URL:https://www.facebook.com/GELATI.BRIO


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2015/06/28

Il dolce e l'amaro スウィート & ビター 〈後編〉

GELATO Artigianale e Caffè IzzoGELATI BRIO

Il dolce e l'amaro スウィート & ビター〈前編〉
GELATO Artigianale @ GELATI BRIO より続き


1-1435249079793.jpg 東北北部も梅雨入り。蒸し暑さを感じる日が増えるこれからの季節。美味しいクールダウンの選択肢として、押えておきたいのが、仙台中央通りに3年前の春フランチャイズストアが進出したSegafredo Zanetti Espressoのイタリア版かき氷「Granitaグラニータ」。

 そして庄イタ的には絶対に外せないのが、古今東西、性別年齢を問わず人を笑顔にする稀有な食べ物「Gelatoジェラート」。アイスクリームは乳脂肪分8%以上。対してジェラートは味付けにもよりますが5%前後。「体型維持を心掛けていても、クリーミーな誘惑には弱くて...」と仰る方にとってもビタミン類やたんぱく質などの栄養価が高いジェラートはヘルシーな心強い味方です。

【Photo】エスプレッソ・グラニータ(¥430)は、エスプレッソ&ミルクにクラッシュアイスを加えたイタリア夏の定番フローズンドリンク。セガフレード・ザネッティ・エスプレッソ仙台中央通り店では、エスプレッソにチョコレートを加えたメッツォメッツォ(¥430)、ブラッドオレンジ(¥440)ほか、期間限定のグラニータも

 18,000年前の旧石器時代、スペイン北部のアルタミラや15,000年前のフランス・ラスコーで洞窟に壁画として描かれた野牛は、あくまでも狩猟の対象でした。10,000年前のメソポタミアで初めて人は山羊の乳を飲んだと考えられています。牛を農耕用の家畜としたのが8,500年前のトルコから西アジア地域。

latte-nakahora.jpg 紀元前400年前後と推定されるブッダの臨終後、弟子が師の教えを古代インド語で記した大般涅槃経には、現代のヨーグルトやチーズと考えられる乳製品の存在を窺わせる以下の記述があります。

〝牛から乳を出し 乳より酪を出し 酪より生蘇を出し 生蘇より熟酥を出し 熟酥より醍醐を出す 醍醐は最上なり〟「醍醐味(だいごみ)」の語源となった牛乳を得ることで、人類の栄養状態は向上し、今日の繁栄を築く要因となりました。

【Photo】牛乳の醍醐味を知るならばコレ。中洞牧場牛乳(次回詳報)

 旧約聖書「出エジプト記」では、預言者モーゼは約束の地である理想郷カナンを〝乳と蜜が流れる地〟と表現しています。これは家畜の乳と蜂蜜が、エジプトで迫害を受けるユダヤの民をパレスチナへと駆り立てるだけの当時から非常に価値あるものであったということ。

AltamiraBison.jpg 【Photo】世界文化遺産スペイン・アルタミラ洞窟壁画(部分)。旧石器時代に野を駆けていた野牛を巧みな筆致で描いたのは、パブロ・ピカソの遥か遠い祖先

 紀元前4世紀にマケドニアを建国したアレクサンドロス大王(BC356-BC323)や、葡萄酒は嗜まなかったといわれるユリウス・カエサル(BC100‐44)も、氷雪に乳や蜂蜜や果物を加えて食することを好んだといいます。

 唐(618-907)の時代に、現在もモンゴルなど中央アジアで親しまれるKumis(馬乳酒)を凍らせた菓子の製法を東方見聞録の中で伝えたのがマルコ・ポーロ(1254‐1324)。このようにアイスクリームやジェラートの起源には諸説あります。

1-giolitti_roma_2003.jpg【Photo】カエサルが礎を築いた永遠の都ローマで屈指の人気を誇るジェラテリアが、1900年創業の「Giolitti ジオリッティ」。年中客足が途絶えることがなく、全体でこの3倍以上はあるショーケースには、選択に困るほど多種多様なジェラートがズラ~リ。2つの味が選べるPiccolo(S)で2.5エウロ。cassa(レジ)で先払いし、カウンターでレシートを提示し、coppa(カップ)かcono(コーン)を選択してフレーバーを選ぶシステム。生クリームのトッピングが無料なので、con panna(コン・パンナ)と告げる。〝Veni,vidi,vici(来た、見た、勝った)など、明瞭簡潔な表現を好んだ名文家カエサルが、この店を訪れたなら、こう言ったに違いない。「Veni,vidi, .........emi. ⇒来た、見た、(うーん......... さんざん迷った末に)買った」

 パドヴァ大学で教鞭を執っていたマルクアントニオ・ズィマーラ(1475-1535)が、火薬の原料となる硝石を加えて水を冷却する方法を発見したのが16世紀初め。

 サンタ・トリニタ聖堂のファサードやボーボリ庭園を設計したほか、フィレンツェを拠点に自然科学の分野で多才ぶりを発揮したベルナルド・ブォンタレンティ(1531-1608)は、美食家でもありました。ブォンタレンティは、セミフレッド(=半冷凍)に仕立てたズコットをメディチ家の求めに応じて創作したと伝わります。

getato_kisetsu.jpg 1533年、オルレアン公(後のアンリ2世)との婚礼に臨むカテリーナ・デ・メディチに随行した菓子職人ルッジェーリが、席上アーモンド風味のソルベ(=シャーベット)を披露。それまでは手づかみで料理を食べていた当時のフランス王族は、洗練されたその味に魅了され、上流階級の間で氷菓子が広まります。

 もともと政略結婚だったため、アンリ2世はカテリーナに対しては冷淡で、関係は氷のように冷え切っていました。世界に冠たる中華思想の持ち主であるフランス人から嫉妬されたルッジェーリは、奸計を巡らされ、やがてフィレンツェへと追いやられます。スウィート&ビターな人生の栄華は、シャーベットが溶けゆくように儚いもの。

【Photo】中洞牧場牛乳が次回番外編のテーマゆえ、比較のためにパティスリー・グラス・キセツでオーダーした「蔵王ミルク」&「生姜レモン」〈上写真〉、前編のGELATI BRIOでは辛口プロセッコと共に味わった「アルフォンソマンゴー」&ずんだ味の「枝豆」〈下写真〉。各ダブル(¥390)

gelato-kisetsu2.jpg さて、ジェラート発祥の国イタリアには、現在およそ35,000軒のジェラテリアが存在するのだといいます。OEMの既製品を仕入れたり、濃縮果汁や製菓用ペーストを使用するケースも存在しますが、味にうるさい地元っ子の支持が高いのは、旬の果物や新鮮な牛乳から毎朝手作りされるジェラートを提供するGelateria artigianaleジェラテリア・アルティジャナーレ

 そんなジェラートを提供するジェラテリアが、昨夏相次いで仙台に登場しました。

 仙台第二合同庁舎並びの本町定禅寺通り沿いに昨年7月オープンした「Pâtisseries Glaces Kisetsuパティスリー・グラス・キセツ」。

 パティスリーと看板にある通り、フランス発祥のエクレール(エクレア)に加え、ジェラート(こちらの店ではアイスクリームを指すフランス語「グラス」を標榜)も自家製で提供する、といったほうが正確かもしれません。

 日替わりで6種類が店頭に並ぶジェラートのうち、これまで庄イタが食したゲランドの塩、蔵王ミルク、生姜レモン、枝豆などは香味があっさりした印象。シングル360円・ダブル390円・トリプル420円という価格設定からして、こちらは複数の味を試すのが得策かと。

(エクレアに関しては、40年以上にわたって愛される「とびばいさ甘座」のモカエクレアをおいて他に経験則を持ち合わせておりません。よって今回は華麗にスルー。(^^)ゞ)

gelatibrio2.jpg そしてもう一軒。サンモール一番町から南町通りを越え、東北大学片平キャンパス方向に南下した一角に昨年8月登場したのが「GELATI BRIOジェラーティ・ブリオ」(上写真)です。

 こちらのジェラートは、KIDS(12歳以下限定)200円・シングル380円・ダブル450円・トリプル520円という価格帯。存在感のあるレバーマシンで淹れるナポリスタイルの本格エスプレッソ・ダブル「Caffè Doppio」(¥400)やアイスカフェラッテ「Caffè Lattefreddo)」(¥450)などの一部カッフェには、以下の通りジェラートとのセット料金が適用されます。(シングル600円・ダブル680円・トリプル740円。エスプレッソ・シングルの場合-100円)
 gelati-brio4.jpg【Photo】GELATI BRIO のショーケースは7連×2列。下写真のような果物を丸ごと練り込むジェラート・アッラ・フルッタやミルク系など、最大で14フレーバーの色とりどりなジェラートが味わえる。まったりとキメ細やかで目が詰まった滑らかな食感は、生地の絶妙な空気含有量に由来するもの

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 福島市で育ち、仙台で10年ほど暮らしたオーナーの磯部智広さん。日本初のイタリアンスタイル・バール・ジェラテリアとして玉川高島屋S・C内に1986年に開業した「アンティカ」で、ジェラタイオ(=ジェラート職人)やバリスタとしての腕を磨きました。

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【Photo】「マスカルポーネ」がおまけでトッピングされたValrhonaのクーベルチュールを使った「Choco」が、スペイン・バレンシア地方アルマンサ産の赤ワインの香りと混然一体となって溶けあう(左)  グリーンキウイとバナナのフレーバー「キバナ」。アルゼンチン・パタゴニア地方でイタリア系移民が世界最南端のブドウ栽培地域に1909年に設立した国内最古のワイナリーHumberto Canale。伝統的なブドウ品種トロンテスのアフターに苦味を伴う特徴的な蜂蜜のような芳香が漂う(右)

 ジェラートとの相性を想定し、知人のソムリエにセレクトを依頼して取り揃えているのが、肩肘を張らずに楽しめるグラスワイン各種(泡・赤・白¥500~)。グラスワインを傾けつつ味わうジェラート。これがまた目からウロコの新境地!!この夏、庄イタの新たなマイブームを呼びそうな予感が。ビールはMessina(¥600)とNastro Azzuro(¥700)の2種類を用意。イタリアには少なくないバール・ジェラテリアのスタイルを踏襲しています。

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【Photo】親しい間柄同士なら好みのフレーバーを分けあうのも楽しい。赤肉のレノンメロン「Melone」(+50円)とダークチェリー「Amarena」(左)、ド定番「ピスタチオ」(+100円)&実山椒「Pepe Giapponese」のダブルに、ワンスプーンお味見で酸っぱい杏「Albicocche」がおまけ(右)

 香りの良い稀少なシチリア産を店内でローストする「ピスタチオ」、トリノ伝統のヘーゼルナッツ風味チョコレート「ジャンドゥーヤ」、美食の街ボローニャ発のFABBRI で知られるダークチェリーをシロップに漬けこんだ「アマレナ」などは、ジェラートが国民食ともいえるイタリアの定番フレーバー。

gerati-brio1.jpg インドの最高級品種「アルフォンソマンゴー」や季節ごとのフルーツを練り込んだ各種ジェラーティ・アッラ・フルッタ、栗カボチャとルッコラ「ズッコラ」、新タマネギ「Cipolla」などのスペチャリテも加わります。

 仙台味噌とチョコレートが出合った「Choco&Miso」ほか、(今季は商品化に至らなかったものの)仙台せりのようなご当地フレーバーにも挑戦。鶴岡の生産者と繋がっただだちゃ豆がこの夏登場予定とのこと。これは期待できそうですね。

【Photo】屋外のテラス席ほか店内はカウンターのみ。ジェラートはカップが基本。庄内砂丘産のアンデスメロンを使用した「Melone」と「マスカルポーネ」のダブル(¥450)

 そして是非ともお試し頂きたいのが、たったひと匙で夢見心地へと誘ってくれる岩手「中洞(なかほら)牧場」のジャージー乳「ミルク」(+100円)。哺乳類のDNAを根源からくすぐってやまない良質なクリームの香りに魅了されます。

 仙台では藤崎の地下2F生鮮コーナーで、2013年のご当地牛乳グランプリで最高金賞を受賞した中洞牧場牛乳(720mℓ1,180円 500mℓ 810円 130mℓ 270円)を先月から取り扱い始めました。素材そのものを味わうのも結構ですが、類い稀なミルクの風味を凝縮させたジェラートをお召し上がりになれば、中洞ジャージー牛乳の格の違いを実感できるはず。

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【Photo】「アフォガート」(¥550)のカップリングは、誰が何と言っても中洞ミルク+Izzoのカッフェ(左)。セルフの後掛けゆえ、それぞれを少し味わってからお好みによりグラニュー糖を加えたエスプレッソをタラ~リするか、苦さの中に甘味を秘めたカッフェ・ナポレターノと組み合わせるかはお好みで

 そしてミルキーなジェラートに熱いエスプレッソを注ぐスウィート&ビターなイタリアンドルチェ「Affogato al caffèアッフォガート(・アル・カッフェ)」はいかがでしょう。GELATI BRIOでは、中洞ジャージーミルクと極めつけのカッフェとの共演による甘くほろ苦い大人の味との出逢いが待っています。イタリア語のaffogatoは溺れた状況を指す形容詞。底なし沼のごとき大人だけの悦楽に溺れてみるのも悪くないかと。

gelatibrio3.jpg【Photo】焙煎したコーヒー豆の雑味を封じ、旨味だけを引き出す最適な抽出圧が得られるよう設計された専用レバー式エスプレッソマシンを操作する磯部智広さん。或る時はジェラタイオ、また或る時はバリスタ。バールのバンコ(立ち飲み)感覚で頂くカッフェは、いずれも庄イタ納得の味(上・下写真)

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 コーヒー市場を席巻するスターバックスなどシアトル系の上陸すら許さないイタリア。エスプレッソの本場ナポリのバールを彷彿とさせる厚くキメ細かい褐色のクレマに覆われた「Izzoイッツォ」のエスプレッソをベースに少量のフォームドミルクを加えたマッキアート(¥350)、氷と砂糖を加えてシェークする夏の定番シェケラート(¥500)など、エスプレッソベースのドリンク類も秀逸な出来栄えです。
 
Shakerato-brio.jpg Izzo Caffè は1979年にポンペイ近郊で創業。同じくナポリ発祥の「Passalacquaパッサルアックア」(1948年創業)や「KIMBOキンボ」(1963年創業)と比べて歴史は浅いものの、創業者のヴィンチェンツォ・イッツォ氏はコーヒー好きが高じ、焙煎所を立ち上げるだけでは飽き足らず、自社のコーヒー豆に最適な抽出を可能にするレバー式エスプレッソマシンまで自作してしまったマニアックな人物。

【Photo】フルボディのエスプレッソ・ドッピオにたっぷり目のグラニュー糖。個人的な好みでミルクを少々追加。ロックアイスを加えてシェーク10秒。ひんやり冷たいフローズン・エスプレッソ「Caffè shakeratoカッフェ・シェケラート」の出来上がり

 昨年10月、ポンペイ遺跡の近くにあった本社工場が、放火とみられる火災で全焼する不幸な出来事がありました。現在はナポリとローマを結ぶ高速A1アウトストラーダ・デル・ソル沿いのローマから1時間ほどの町で事業を再開。カンパーニャ州からラツィオ州へと拠点を移しましたが、カッフェのスタイルはエスプレッソの聖地であるナポリの王道から、いささかもブレてはいません。

1-DSC_0724.jpg【Photo】エスプレッソとフォームドミルクの二層からなる「Caffè macchiatoカッフェ・マッキアート」。温めたミルクをエスプレッソに加えるカフェラッテより豆の持ち味が感じられる。イタリア人がするようにスプーン1.5杯程度グラニュー糖を加えると、より美味に

 時流に流されない普遍的なエスプレッソ&バール文化を確立している南イタリアのエスプレッソに顕著なのは、強靭なボディと長い余韻を残す深煎り豆の甘い香り。そこに欠かせないのがロブスタ種。世界のコーヒー生産の2/3を占めるアラビカ種は、多様な個性が際立つスペシャルティコーヒーのように、ウイスキーに例えればシングルモルトのような存在。


caffe-brio.jpg かたや主演を演じる華やかさはなくても、エスプレッソ・ナポレターノの名脇役がロブスタ種。アラビカ種をベースに、深いコクと香りを閉じ込める豊かな泡立ちを生み出すロブスタ種を加えた9種類の豆が、心地よい和音を響かせるブレンデッドウイスキーのように調和するIzzoのカッフェ。

 たとえミルクが加わっても、いささかも魅力が色褪せないのは、分厚い褐色の微細なクレマに覆われたエスプレッソがあってこそ。レバー式マシンが創造する深遠なるカッフェ・ナポレターノの真髄をご体験あれ。

【Photo】このクオリティと味わいにして、その価格はイタリア本国とさして変わらぬ1杯200円。Bravissimo!!

 売り切れ必至のミルクジェラート@GELATI BRIO。並み外れた美味しさは、早朝から仕込みを始める磯部さんの誠実な仕事あってこそは言わずもがな。いまだ解き明かされぬもう一つの鍵、素材となるジャージー牛乳が、いかなるものかを探るため、延長戦突入の次回は、岩手県岩泉町の中洞牧場を訪れます。 

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logo_brio.jpgGELATI BRIO ジェラーティ・ブリオ

・住:仙台市青葉区一番町1-6-23 shuon 358 ビル1F
・Phone:022-302-5669
・営:(火~木) 11:00~20:00  (金) 11:00~21:00
   (土) 10:00~21:00  (日) 10:00~20:00  月曜定休
    禁煙 バンコ・カウンター6席 テラス4卓12席   Pなし
・URL:https://www.facebook.com/GELATI.BRIO

ジェラーティ ブリオジェラート / あおば通駅広瀬通駅仙台駅

●夜総合点★★★★ 4.5 ●昼総合点★★★★ 4.0

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2015/01/23

聖ジェンナーロの奇跡

 昨年末から〝Viaggio al Mondo~あるもん探しの旅〟では、皆さまをアマルフィ海岸を巡る避寒旅行へとお誘いして参りました。そして次なる目的地はナポリ。

 南イタリア欠乏症が重症化する一方の庄イタ。「これじゃ〝無い物ねだりの旅〟じゃん!!」との謗(そし)りを受けかねませんが、仙台に居ながらにして、南イタリア気分に浸ることができる素敵な新スポットゆえ、つい図に乗って踏鞴(たたら)を踏んでしまうわけで...。(^○^;\

まだ続く避寒の旅
まんまナポリ@ダ・ジェンナーロ

 過去100年で最も寒いというこの冬のイタリア。特に南部の寒さが厳しく、最南端のカラブリアやシチリアですら年末年始にかけて50cm以上の積雪を記録しました。ナポリの年越しでは、風物詩である闇夜を切り裂く爆音を発する大型爆竹「Cipolla(チポッラ⇒「玉ネギ」の意)」の暴発などで250名が負傷。現地メディアによれば、これでも昨年比で100名減。例年になく少ない数字といいます。これも思わぬ寒波の恩恵といえるかも?

Acunto-piace.jpg 避寒の旅に訪れたはずが、予期せぬ寒さに震える彼の地。かくなる上は、薪火の遠赤外線で体の芯から温まってはいかがでしょう。そこで恋しくなるのが薪窯で焼き上げたアツアツのナポリピッツァ。

da-gennaro-facciata.jpg 「Pizzeria Padrino del Shozan」と比肩しうるピッツェリア・ナポレターナが、仙台圏では久しく見当たらない状況が続いていました。そんな閉塞状況を打破する新星が彗星のごとく現れたのが昨年5月。東京エレクトロンホール宮城の脇道沿いに建つ店の扉は、まさにナポリに通じる〝どこでもドア〟。

 その名は「Pizzeria e trattoria da Gennaroダ・ジェンナーロ」。ピッツァの本場ナポリの守護聖人、聖ジェンナーロ(聖ヤヌアリウスとも。下写真)の名を冠した本格 ピッツエリア兼トラットリアです。

【Photo】ビルの狭間に忽然と登場したピッツエリア・エ・トラットリア「ダ・ジェンナーロ」外観(右写真)

San-Gennaro1.jpg カトリック教国のイタリアでは、365日ごと、町ごと、職業ごと、シチュエーションごとに守護聖人が定められています。有名どころでは、Basilica di San Pietroサン・ピエトロ大聖堂があるローマの守護聖人は聖ペテロ(イタリア名:ピエトロ)と聖パウロ(同:パオロ)、ヴェネツィアは聖マルコ、2月14日は聖ヴァレンタイン(同:ヴァレンティノ)、体を弓矢で射ぬかれても落命しなかった聖セバスティアヌスは兵士の守護聖人。

 皆さまお気づきの通り、庄イタの精神構造は、彼の国で過ごした前世の名残りを色濃く留めております。幼児ながら耐え難い重さのキリストを背負い大河を渡り切った聖クリストフォロは、旅の守護聖人。

 そのため乗り継いできたマイカーのダッシュボードには、お守りとなる聖クリストフォロのメダイオンが輝いています(右下写真)。
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 ナポリの西隣にあるPozzuoliポツオリは、女優ソフィア・ローレンが幼少期を過ごした町です。キリスト教が迫害を受けていた西暦305年9月15日、ナポリ近郊ベネヴェントの司祭ジェンナーロが、そこで馘首され殉教しました。遺骸がナポリのカタコンベに埋葬されて以降、ジェンナーロはナポリの守護聖人となりました。

 蛇足ながら日本の守護聖人は、聖フランシスコ・ザビエルと聖母マリア。これは日本にキリスト教を伝えたイエズス会の宣教師ザビエルが鹿児島に上陸した8月15日が、被聖母昇天の祭日だったことにちなんだもの。

francesco-Saverio.jpg【Photo】1549年8月15日、布教のためフランシスコ・ザビエルが日本に第一歩を記した鹿児島市にある記念碑は、戦災で焼失した明治期に建立された聖堂の一部。来訪400年を記念して1949年8月15日にローマ法王庁から寄贈された(上写真)

 13世紀に着工したドゥオーモ内にバロック様式で17世紀に設けられた「サン・ジェンナーロ礼拝堂(Cappella di San Gennalo)」には、ガラス製の容器に納められた聖人の血液と頭骨の聖遺物が今に伝わります。

 司祭によって容器内の乾燥した血液が液状化する奇跡を、多数の参列者が固唾をのんで見守る儀式が、毎年5月と9月の聖ジェンナーロの祭日に執り行われます(上Movie)。血液が凝固したまま液状化しない場合は凶兆とされ、ナポリに災禍が起こると信じられています。コワイデスネ~。

atsushi-takagi.jpg【Photo】愛用の薪窯の前に立つ髙木篤さん

 髙木篤ピッツァイオーロは、南青山のAntica Pizzeria e Trattoria「Napuleナプレ」で4年間基礎を学び、6カ月の在ナポリ留学後、赤坂Cucina meridionale「La Scogliera スコリエーラ」と渋谷Taverna & Bar ITALIANO「Tharrosタロス」で仕上げを2年。サルデーニャ料理のスペシャリスト・馬場圭太郎シェフのもと、徹頭徹尾、南イタリア一筋の華麗なキャリアをお持ちです。仙台ご出身の高木さんが南青山のナプレにいらした頃、庄イタも2度ほど店を訪れたことがあり、ご縁を感じたものです。

 外からガラス越しに見える本場ナポリ製「ジャンニ・アクント(GIANNI ACUNTO)」の薪窯に次いで、ドアを開けてまず目に留まるのが、今シーズン、セリエAで首位に立つ強豪ユヴェントスをPK戦の末で撃破し、国内最強クラブ戦「コッパ・イタリア」で通算5度目の優勝を果たしたSSCナポリの応援旗。ときにSSCナポリのユニフォーム姿で窯の前に立つ髙木さんは、熱狂的カルチョファンを指す〝Tifosoティフォーゾ〟さながら。

entrata-da-gennaro.jpg さらにご立派なのが、ワインリストです。都市国家が群雄割拠した歴史を持つイタリアでは「カンパニリズモ(Campanillismo)」(⇒教会の鐘(Campanille)が聞こえる程度の生まれ育った地域をこよなく愛するイタリア人一般の傾向を指す言葉)と出合うことが珍しくありません。郷土愛の強さは、食にも反映されるのが普通。高級店を除いてEnotecaエノテカ(=ワインショップ)や飲食店ではその地域のワインしか置いていないのが当たり前。

entrata2-da-gennaro.jpg ダ・ジェンナーロのワインリストにオンリストされるのは、カンパーニャ・シチリア・サルデーニャの南3州だけという潔さ。これはまさにイタリア式。ここはどこ?(笑)。

 暖かみのあるテラコッタ風フロアでワンポイントとなる花柄の彩色タイル(上写真)が愛らしいエントランスから、右手に厨房を目にしながら通路を抜けた先が、光に満ちたホールです。

 「Vietri sul Mareヴィエトリ・スル・マーレ」は、サレルノに隣接した陶芸が盛んな彩りに溢れた街です。そこで髙木さんが作風を気に入った工房に制作を発注したのが、ホール壁面の彩色タイルに描かれたポジターノ(下写真)。それが南イタリア気分を盛り上げ、いやが上にも美味との出合いへの期待感が高まります。

positano-da-gennaro.jpg ホールのカウンター上には、店名の由来となった聖ジェンナーロの人形が鎮座し(右下写真)、カウンター周辺にはナポリ人の化身である仮面をつけた道化「プルチネラ(Pulcinella)」や、その下半身がナポリではお守りとなる赤い唐辛子から転じた水牛の角を使った「プルチコルノ(Pulcicorno)」も(左下写真)

  Pulcicorno.jpg San-Gennaro2.jpg

 喧噪と活気に満ちたナポリの下町スパッカ・ナポリ地区にプレセピオ・ナポレターノの職人街、サン・グレゴリオ・アルメーノ通り(Via San Gregorio Armeno)があります。その一角に工房を構える髙木さんの友人マルコから、大きさから察するに、明らかに値が張るこれら調度品類を、開店祝いの〝トモダチ価格〟で調達したのだそう。

paccheri-gamberri-rossi.jpg【Photo】優しい風味の自家製トマトソースに絡めた「赤エビとトマトソースのパッケリ」。大きさが半端ではないナポリ発祥のショートパスタ「パッケリ(Paccheri)」。その名が平手打ち(=pacca)に由来すると理解していた庄イタ。髙木シェフによれば「修道服の袖に由来する「マニケ・ディ・フラーテ(maniche di frate)」という別名も存在するという。 うーむ、また一つ無益な雑学が増えてしまった...

 ナポリの混沌とした下町に漂う猥雑さを取り去り、アマルフィ海岸を代表する高級リゾート地ポジターノのエッセンスを加えたようなダ・ジェンナーロで頂くことができるのは、南イタリアの郷土料理と、本場と同じ30cmサイズのこれぞまさにナポリピッツァ。そのキモとなるのは生地の美味しさです。

cetara-daGennaro.jpg【Photo】ナポリピッツァの代名詞「マルゲリータ」に用いる3つの具材、トマトソース・モッツァレラチーズ・バジルに、赤タマネギ・黒オリーブ・マグロオイル漬をトッピングした「チェターラ」

 髙木さんにとってのお手本は、ナポリ屈指の名店。例を挙げると、地元を含めて初めてとなる支店を2012年1月末、恵比寿に進出させた「ダ・ミケーレ(l'Antica Pizzeria da Michele)」ほか、「イル・ピッツァイオーロ・デル・プレジデンテ(il pizzaiolo del presidente)」、「ジーノ・ソルビッロ(Gino Sorbillo)」、「カパッソ(Capasso)」のマルゲリータなのだそう。

 そう言われてみればピッツァ生地の〝外パリ中モチ〟の鉄則は順守しつつ、髙木さんが目指す食べ疲れしない感じは、食感の〝軽さ〟にしっかりと表現されています。

cicinielli-daGennaro.jpg【Photo】スライスしたニンニクとトッピングのシラス干しの塩味が、チーズを使わないトマトソース風味の生地やオレガノとバジルと一体になって香るナポリ発祥の「チチニェッリ」

 サラダ・自家製パン・コーヒーがセットされたお得な平日限定ランチは、ピッツァ3種(1,300円)とパスタ2種(1,100円)から選択可。夜は南イタリア料理のアラカルトとコース(3,000円~)を南3州のヴィーノとともに。ちなみにcafféにはナポリっ子の支持が高い「Passalacquaパッサルアクア」でも力強いタイプの「メハリ(MEHARI)」を使用しています。(価格は2015年1月現在)

 ここ数年、香ばしい薪窯ならではのナポリピッツァを提供する新店が仙台圏でも増えつつあります。そうしたニューフェースの中では、冒頭で挙げたピッツェリア・パドリーノ・デル・ショーザン以外の選択肢として、納得のクオリティであることを各店のピッツァを実食した庄イタが保証します。

salsiccia-da-Gennaro.jpg【Photo】天井が高く解放感のあるダ・ジェンナーロ。マルゲリータに自家製サルスィッチャをトッピングした「ピッツァ・サルスィッチャ」

 KOBOスタ宮城で東北楽天の主催試合が行われる日だけ営業する鶴岡「穂波街道・緑のイスキア」分店「赤のイスキア」を例外とすれば、パドリーノ・デル・ショーザン以外でも仙台で本物と出合える環境が整いました。

 ナポリピッツァの真の美味しさを求め、東北では前述した鶴岡市「イスキア」ほか、盛岡市「ピアーチェ」、秋田市ないし十文字町「コジコジ」、さらに青森・三沢市「マッシモ」まで遠征してきた庄イタにとって、選択の幅が広がったのは嬉しい限り。まずは皆さまも聖ジェンナーロの奇跡のお味をお試しあれ。

sign-da-gennaro.jpg**************************************************
Pizzeria e Trattoria ナポリピッツァと南イタリア料理

da Gennaro ダ・ジェンナーロ

・住: 仙台市青葉区国分町3-4-26
・phone: 022-281-8271  ・fax:022-281-8272
・営:・Pranzoランチ11:30~14:00 L.O. ・Cenaディナー18:00~22:00L.O. 
   月曜休(→祝日の場合は火曜休)
・Vietato Fumare 禁煙  ・ピッツァのテークアウト可 ・カード可 ・幼児OK ・Pなし 
・URL: http://www.da-gennaro.com


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2015/01/04

Quintaluna クインタルーナ

 2015年の幕開けを飾る話題も、南イタリア・サレルノからお届けします。
サーバ変更後の前々回の更新から発生している文中にリンクタグが貼れない状況は打開できておりませんが、本年も〝Viaggio al Mondo~あるもん探しの旅〟をご愛顧下さいますよう、皆さまどうぞよろしくお願いいたします。

「Regimen Sanitatis Salernitanumサレルノ養生訓」
発祥の地の絶品パスタ

 温暖な気候の地中海沿岸では、海の幸とオリーブオイル・ガーリックなどの香味野菜・ハーブ類を多用する食文化が育まれました。健康的な「地中海式ダイエット」が女性の注目を浴びた時期が日本でもありましたね。

 イタリア・ギリシャ・スペイン・モロッコの4カ国が申請した「地中海料理」は、和食に先立つこと4年前の2010年11月、ユネスコ無形文化遺産に登録されています。

caprese-alla-mozzarella.jpg【Photo】モッツァレラチーズ、トマト、バジルにオリーブオイルを加えた「インサラータ・カプレーゼ」。〝カプリ島のサラダ〟という名の通り、ナポリを州都とするカンパーニャ州発祥の郷土料理

 地中海料理においては、魚介類・穀類・乳製品・旬の野菜や果物をバランス良く摂取し、肉類は少なく、油脂はオリーブオイルが中心。適量のワインとともに、食卓を囲むゆったりとした語らいの時間、栽培・生産・加工に関する伝統文化も無形文化遺産への登録要件に含まれている点を見逃してはなりません。

insalata pomodorini rucola alici marinate polpo nocciole Giffoni.jpg【Photo】カタクチイワシとタコのルッコラとプチトマトのサラダ仕立て サレルノ地域特産のヘーゼルナッツ風味

 こうした食文化は、心臓疾患の原因となる動物性脂肪を多く摂取するアルプス以北の食文化との近似性があるピエモンテなど北イタリアの食習慣ではなく、ナポリを州都とするカンパーニャ州など、シチリア・プーリア・バジリカータなど南イタリア各州ならではの所産です。

fontanaSG-olio.jpg【Photo】エキストラ・ヴァージン・オリーブオイル「Fontana San Giovanni フォンターナ・サン・ジョヴァンニ」。サレルノ県ブッチーノ近郊で、オリーブ生産農家として400年以上の歴史を持つファルコ家は、標高250m近辺の畑180haで、レッチーノなど6品種のオリーブを栽培。完熟した実だけを選別し、収穫後16時間以内にコールドプレスを行うため、生き生きとした風味が感じられる。刺激・苦味が少なくまろやかな味わい。生野菜や白身魚との相性が良い。仙台市泉区の「ベスト・オブ・サレルノ」で取り扱う

 ヒポクラテスを祖とする西洋医学。古代ギリシャ・ローマ時代を経てヨーロッパ最古の医学校「スクオーラ・メディカ・サレルニターナ(Scuola Medica Salernitana)」がサレルノで創設されたのが8世紀のこと。

 自然科学の停滞期と考えられる中世期においては、医学の分野で先んじていたイスラム医学に基づき、11世紀から13世紀にかけてサレルノ医学校でラテン語により体系化されたのが、「Regimen sanitatis salernitanumサレルノ養生訓)」として知られる生活習慣病予防のための健康指南書です。その書き出しは・・・。

 curas tolte graves (くよくよせず)irasci crede profanum (怒ることなく)
 parce mero, coenato parum, non sit tibi vanum (ワインと夕食は適量を)
 など、冒頭から現代にも通じる長寿のコツが記されます。
 医者いらずで過ごすための3つの要素は
 mens laeta, requies, moderata diaeta.(朗らかな心、休息、正しい食生活)

  quintaluna-fontana-s.giovanni.jpg仙台市泉区にショールーム兼店舗を開設した「ベスト・オブ・サレルノ」では、その名が示す通り、サレルノが誇る高品質なパスタやオリーブオイルといった食品ほか、革製品など選りすぐりの商品を取り扱います。商品を実食した庄イタが、自信を持ってお勧めするのは「Quintalunaクインタルーナ」の各種パスタ

 硬質小麦の産地が近く、パスタ製造に理想的な環境が揃う「Gragnanoグラニャーノ」に負けず劣らず、高品質のパスタ製造にとって欠かせない良質な水と気候などの好条件に恵まれた地がサレルノです。

 パスタ製造メーカー最大手のBARILLA社が量産向けに開発したテフロン加工を施した鋳型で成形すると、表面がツルツルしたパスタとなります。対してクインタルーナでは、摩擦係数の高い伝統的な青銅製の鋳型(ブロンズダイス)製法を採用。これにより麺表面に細かい凹凸が生まれ、ソースが良く絡みます。良質なデュラム小麦の芳香と、低温長時間乾燥がもたらすコシの強いアルデンテな食感は、まさに一級品。

scialatielli.jpg【Photo】ブロンズダイスによる低速成形により、パスタ表面に無数の凹凸があるため、白っぽく見えるクインタルーナ。その形状がイタリア人のように自由奔放で画一的ではないシャラティエッリ(上写真)、ソースの絡みを良くする縦筋入りのペンネ・リガーテではなく、筋のないこのペンネ・リッシェでも、表面のザラつきによりソースがしっかり絡む(下写真)

penne-riche.jpg

 クインタルーナのパッケージには〝pasta artigianale a lenta lavorazione(=丹念な職人技のパスタ)〟と記されます。以前ご紹介したEATALYが主力商品として販売する「IL PASTAIO DI GRAGNANO イル・パスタイオ・ディ・グラニャーノ」や、イタリア全土のワイン1,500種以上をラインナップする横浜馬車道IL CALICEイル・カリーチェなどで扱う「FAELLAファエッラ」も、素晴らしい品質を誇ります。なれど価格もまたそれなり。

 かたや2012年に設立された新ブランドゆえ、現状では知る人ぞ知るクインタルーナ。ベスト・オブ・サレルノでは1袋500g入り税抜き650円で販売中です(2015.1現在)。オープン以来、売り上げ数No.1を快走、リピーターが増殖中とのこと。

scialatielli-mare.jpg【Photo】アマルフィ一帯では地元の豊富な海の幸とともに「Scialatielli al frutti di mareシャラティエッリ・アル・フルッティ・ディ・マーレ」が定番。レシピをTaverna Carloで再現するも、本場ではトッピングの具材として活躍するスカンピ(手長エビ)は入手困難につき省略!!(上写真)

caffe-sanpietro.jpg サレルノ養生訓に従い、地域性や伝統を重んずる「Mastroberardinoマストロベラルディーノ」や「Feudi di San Gregorioフェウディ・ディ・サン・グレゴリオ」などのヴィーノを相伴に、エスプレッソやフォームドミルクを加えたマッキャートで食事を締めくくれば、寒波に凍える日本に居ながらにして、心は陽光溢れる南イタリアへ。

【Photo】昨年チャリティ出店したベスト・オブ・サレルノでご馳走になったのが、サレルノ「カッフェ・サン・ピエトロ(Caffè San Pietro)」のポッドカフェ。少量で濃縮した旨味を抽出するのが南イタリア流。家庭用マシンでバールの味を再現するのは至難の業

 サレルノ発の色鮮やかな陶板画を皮切りに、昨年12月からアマルフィ海岸一帯を巡って参りました。厳しい寒さが続きますが、避寒旅行気分を味わって頂けたでしょうか。

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Best of Salerno ベスト・オブ・サレルノ

住: 仙台市泉区歩坂町67-25ロイヤルプラザ103 (株)minekenショールーム内
phone: 022-204-4385 営: 10:00~12:00 13:00~17:00 火曜・日曜・祝日定休
URL: http://www.bestofsalerno.com
E-mail: info@minekentosou.co.jp


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2014/10/13

再見。石窯ピザOzioオッツィオ

 大粒のブドウが旬を迎える頃、鶴岡のフルーツタウン櫛引でのブドウ狩りと併せてクリア必須のミッションが庄イタには存在します。それは庄内産ブドウをふんだんに使ったピッツァを仙台市青葉区国見の「石窯ピザOzioオッツィオ」で食すること。

 山形県酒田市出身の石川淳さんと仙台市出身の雄子さん夫妻が営むオリジナルピザとパスタ料理の店Ozio。ご主人の郷里である庄内や、かつて店があった山元町など、生産者から直送される旬の素材を取り入れた、まさに庄内系イタリアンな創作メニューを提供しています。

   yuko-ishikazwa.jpg yun-ishikawa.jpg
【photo】Ozio(=イタリア語で「のんびりした時間」の意)という店名にある通り、ゆったりした時間が流れる山元町が気に行って店を構えたという石川さんが、縁あって仙台に移転して2年半。山元時代からの馴染み客に加えて新たなファンを開拓している淳さん(右)と雄子さん(左)ご夫妻。トンボ玉作家の顔も持ち合わせる雄子さんは、トンボ玉工房「Morelloモレロ」を主宰し、Ozioでは制作体験を組み込んだコース設定も

 今年7月にハードカバー改訂版が出版された労作「土着品種で知るイタリアワイン」は、個性豊かなイタリアワインを知るには好適な一冊です。その著者であり、イタリア・ボローニャを拠点にワインジャーナリスト兼コンサルタントとして活躍するのが中川原まゆみさん。

 中川原さんは、3年前、東日本大震災の発生を受け、ジャーナリスト仲間や親しい生産者たちに、被災したイタリアンレストランのための義援金を呼びかけました。仲介を依頼された庄イタが総額11,515ユーロを橋渡しした先5軒のひとつがOzioでした。《Link to back number

jun_yuko-ishikawa.jpg【photo】自作した石窯の前で仲睦まじく立ち働く石川ご夫妻は息もぴったり。木の温かみを感じるログハウスで、創作ピザを召し上がれ

 宮城県亘理郡山元町の海岸近くにあったOzioは、3.11の津波で壊滅。かつての場所は町によって災害危険区域に指定され、現地再建を断念せざるをえませんでした。そこに手を差しのべたのが、庄イタも良く存じ上げている東北福祉大学の某氏。山元にあった店に以前から通っていたという、この大学関係者の好意により、同大国見ケ丘第一キャンパスの一角を新出発の地として紹介されます。

 そこは1997年に仙台市宮城野区港地区で開催された第8回JAPAN EXPO「国際ゆめ交流博覧会」にスロヴェニア館として出展したログハウスを移築した東北福祉大学スロベニア記念館。石川さん夫妻が2か月近くをかけて自作した石窯が完成した2012年4月、13カ月あまりの空白を経て店は再開を果たしました。

ozio_kunimi.jpg【photo】アドリア海に面したイタリアの隣国スロヴェニアのログハウスを活用したOzio外観。東北福祉大の学生食堂を兼ねるとはいうものの、一般客の利用も当然OK

 外パリ・中モチの生地の美味しさが命ともいえるナポリピッツァとは異なり、フカフカの生地に旬の素材をトッピングしたOzioのピザ。庄イタが愛するナポリピッツァと方向性は違いますが、遊佐町産パプリカなど、ご主人の郷里である庄内や山元町時代から繋がっている生産者から届く旬の新鮮素材を使ったオリジナルメニューは、パスタを含めてどれも魅力たっぷり。

 鮮度の良い生野菜や生ハムなどのアンティパスティ・ミスティに日替わりで3種から選べるピザorパスタ+セットドリンクの平日限定ランチセット(1,350円)がお薦め。いつも美味しいデザートが付く「欲張りセット」(1,650円)も。

   insalata_ozio.jpg pesca-proschutto-ozio.jpg
【photo】平日限定ランチセットと欲張りセットのサラダは、ご覧の通りの充実ぶり(左写真)。ランチセットは3種のピザとパスタ料理からの選択制。9月末に食したのは、庄内産白桃と生ハムの冷製スパゲッティーニ(右写真)

 そんなOzioで、昨年もこの季節に食したのが「庄内産いろいろぶどうのピッツァ」。先月末に訪れた時は6種類のブドウを使用しており、チーズはコクを出すため、モッツァレラだけでなくゴーダなど複数をブレンドするとのこと。半分にカットしたブドウがゴロゴロとトッピングされた今シーズンも、深まる秋の味覚を堪能させて頂きました。

pizza-uva-ozio.jpg
【photo】庄内産いろいろぶどうのピッツァ。この日は6種類のブドウをトッピング。その出元を聞いてビックリ!!! w(゚0゚*)w

 あまたの食材が揃う食の都・庄内で、ブドウ産地と言えば、昼夜の寒暖差が大きく、昔は暴れ川だった赤川の氾濫原ゆえの砂礫土壌を拓いた鶴岡市西荒屋。ブドウのみならず果樹栽培が盛んな西荒屋地区の「産直あぐり」に出荷している生産者は89にも上ります。

 帰りしなに石川ご夫妻と会話を交わして驚いたのが、庄イタが慌ただしく日帰りでブドウ狩りに訪れた翌週、石川さんたちも西荒屋の佐久間良一さん・みつさんのもとでブドウ狩りをしていらしたとのこと。予期せぬ形で素材の答え合わせができました。

 いやー、世間は狭い。

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石窯ピザOzio(オッツィオ)
住:仙台市青葉区国見ヶ丘6-149-1 東北福祉大学スロベニア記念館 1F
営:11:00-14:00L.O./17:00-20:30L.O. 水・木曜定休
Phone:022-343-6672 
Pあり 禁煙
URL: http://www.ozio.info/ozio/baner_decobanner.gif 

2014/06/29

La porchetta è pronto

ポルケッタ、焼き上がりました。
@仙台勝山館ビュッフェ・デリ仙台三越

 四方を海に囲まれた日本では魚食文化が発達しました。かたや三方を海に囲まれたイタリアにも魚食文化は存在しますが、欧州全体を見渡すと肉食文化が主流。

porchetta.jpg【Photo】仔豚をこんがり丸焼きにした「ポルケッタ」売りの屋台。切り分けてパンに挟んだパニーノなら3.5エウロ(=約490円)のワンコイン感覚。ローマ郊外にて
 

 冷蔵技術が未発達だった時代は、塩蔵や発酵、燻製によって食品の保存性を高める狙いもありました。ラテンのあくなき食に関する欲求は、さまざまな肉を加工した食品をイタリア各地で生みだしてきました。

2003.Otto-3.jpg【Photo】マルケ州セニガッリアのメルカート脇でスィニョーラが店番をしていたポルケッタの屋台(上写真)。空腹ではなかったため、パニーノにはせず、そのままをオーダー。ハーブの香りと適度な塩味が利いたパンチのある味付け。脂身の少ない赤身とパリっとした皮がクセになるおいしさ(下写真)

03.Ottobre-3senigallia.jpg 豚の後ろ足のモモ丸ごと一本を加工する生ハムは「サン・ダニエレ」と「パルマ」が二大看板でしょう。非加熱の生ハムは、モモ肉の「スペック」のほか、首と肩の「コッパ」、稀少で高価な「クラテッロ」、カルボナーラの具となる「グアンチャーレ」など多彩。同様に非加熱のソーセージ「サルスィッチャ」、ミラノのレシピが有名な「サラメ」、バラ肉のベーコンに相当する「パンチェッタ」、肉と脂身を温燻するボローニャ発祥の「モルタデッラ」など、枚挙にいとまがありません。

 首都ローマを擁するラッツィオ州、ペルージャが州都のウンブリア州、アドリア海に面したアンコーナを州都とするマルケ州など、おもに中部イタリアで親しまれる料理が、今回のお題となる「ポルケッタ」です。

本来のポルケッタは、仔豚の丸焼きを指します。ポルケッタは、リストランテやバール、あるいは家庭で食するというよりは、ポルケッタ売りの屋台で売られる気取らない料理です。食べ方はパンに挟んだ「Paninoパニーノ(複数形⇒「Paniniパニーニ」)」がポピュラー。

【Movie】ポルケッタの街として知られるラッツィオ州アリッチャで1940年に創業したLeoni Randolfoにおける伝統製法によるポルケッタ作りの模様

 イタリア半島の先住民族であるエトルリア人の時代まで起源が遡るとする説もありますが、文字を持たなかった民族ゆえ真偽のほどは定かではありません。時代が下って帝政ローマ期にはすでに存在していたポルケッタ。ローマからアッピア街道を下り、ローマ法王の夏の避暑地として知られる丘陵地帯カステッリ・ロマーニにある小さな街、「Aricciaアリッチャ」は、その本場として知られています。

 ローマで気軽に飲める白ワインとして親しまれるのが「Frascatiフラスカーティ」。その産地にほど近いアルバーノ湖対岸にあるアリッチャの街に伝わるレシピで作られるポルケッタは、伝統的な手法に則って限られた地域で生産される食品や農産物に対し、EU欧州連合が定めた商標「I.G.P.(Indicazione Geografica Protetta.=保護指定地域表示」認証を受けています。

shozan_porchetta.jpg【Photo】リストランテ・パドリーノ・デル・ショーザン矢島広之料理長が素材を厳選。仙台勝山館三越店ビュッフェ・デリに新登場したポルケッタ

 I.G.P.指定を受けたアリッチャのポルケッタに用いる仔豚は例外なくメスのみ。屠畜した豚の肋骨や背骨をナイフを使った手作業で取り除いてから、身の内側に塩・黒コショウ・ニンニク・ローズマリーを擦り込みます。時に御頭つきのまま、スノコ状に胴体を巻き、丸ごと大きな串に掛けてじっくりと時間をかけて焼き上げます。皮にはナイフで穴が開けられるため、焼成の間と粗熱が取れる間に、相当量の脂が落ちるため、しつこさを全く感じなくなります。

 「Fraschettaフラスケッタ」と地元で呼ばれる気軽な居酒屋のメニューに欠かせないのが、「Porchetta di Ariccia I.G.P.」。アリッチャでは例年9月を迎える頃、街に通じるローマ時代の水道橋を模して19世紀に造られた3層からなる陸橋Ponte di Ariccia からバロックの天才建築家・彫刻家ベルニーニが設計したキージ宮前の広場にかけて、数多くの屋台が並ぶ「Sagra della Porchettaポルケッタ祭り」が行われ、会場ではパニーノをほおばる人出で賑わいます。
shozan-porchetta2.jpg
【Photo】仙台勝山館三越店ビュッフェ・デリでは、ポルケッタを100g前後に切り分け、土曜・日曜のみの週末限定で販売する

 庶民の味、ポルケッタが、仙台三越定禅寺通り館地下1階の「仙台勝山館三越店ビュッフェ・デリ」に6月7日(土)から新登場しました。「リストランテ・パドリーノ・デル・ショーザン」矢島広之料理長が、ウンブリア州ペルージャでの修行時代に慣れ親しんだ本場の味を再現したのだといいます。

 ポルケッタに使用するのは余分な脂が少なくキメ細やかな肉質の「宮城野ポーク」のバラ肉。味付けには、自然豊かなイタリア・サルデーニャ島の天日干し製法で精製される海塩、西東京市にある「ニイクラファーム」のセージやローズマリーなどのハーブ類、青森県田子(たっこ)産ニンニクを使っているのだそう。素材選びには決して妥協しない矢島シェフらしいですね。

shozan-porchetta3.jpg【Photo】バラのような形のローマ伝統のパン「ロゼッタ」風のパンに挟んだ矢島シェフ特製の厚切りポルケッタ。これにカプチーノが加われば、気分はもうローマの休日

 これぞ!!というポルケッタにこれまで出合えなかった仙台で、懐かしいイタリアの味が楽しめるようになりました。今のところ土日週末限定で、テークアウトのみ。刻みタマネギやパセリをオリーブオイルで和えた専用ソース付きで100gあたり648円。日本では入手が難しいチャバッタやロゼッタなどのイタリアパンは無理でも、そのままフォカッチャ系のパンに挟んでパニーノで食べるのが一番かと。

 Buon appetito~♪
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取り扱い:仙台勝山館 三越店(ビュッフェデリ
住: 仙台市青葉区一番町4丁目8−15仙台三越 B1F
Phone(直通): 022-224-2850
営:10:00-19:00 ポルケッタは土日のみ数量限定

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2014/04/13

Ti piace la pizza napoletana?(=ナポリピッツァはお好き?)

庄イタ流 避寒術 vol.2
ナポリピッツァ紀行@盛岡Piace

capitalism_SATOYAMA.jpg 森林資源活用による新たな社会価値創造を提唱し、ベストセラーとなった「里山資本主義」の著者である地域エコノミスト・藻谷浩介氏の講演を聞く機会がありました。

 五輪招致成功に湧く東京では、2000年から2010年までの10年で、現役世代の人口比率が頭打ちから減少へと転じ、65歳以上の人口比率が加速度的に増加しています。団塊の世代が退職年齢を迎え、介護施設への入所がままならない待機高齢者問題が首都圏では深刻化しています。その一方、東北では、過去10年で高齢化の進展に歯止めがかかりました。人口減少で未来の展望が描けない地方、活力ある首都圏という構図は、もはや過ぎ去ったと藻谷氏は強調します。

 生きるために不可欠な食料燃料を金銭で調達することに何ら疑問を挟まず、繁栄を謳歌してきた戦後ニッポン。物流が麻痺して水と食料と燃料が消えた2011年3月11日からの数日間。関東以北では、戦後の食糧難を乗り越え、高度成長を成し遂げて以降、初めて生存を脅かされる情況に追い込まれたはずです。いかに手元に現金があろうと、それは役に立たず、営々と築き上げた社会システムが、いかに脆弱であるかが露呈しました。

 最たる例がコンビニエンスストア。発注システムの機能停止で震災後アッという間に店頭から食品が消え、その後は内側から盗難防止の目張りをして店を閉めたまましばらく機能停止に陥ります。震災から1カ月ほどの間、仙台で頼りになったのは個人経営の専業店や小さな食品スーパーです。

co-op-miyagi-tomizawa2011.3.16.jpg【Photo】2011年3月16日みやぎ生協富沢店。頻発する強い余震と雪が舞う中、食料を求めて整然と並ぶ人々(画像提供:みやぎ生活協同組合 出典「河北新報震災アーカイブ」)

 震災発生当時、宮城県内で48店舗を展開していた「みやぎ生協」は、名取市閖上と石巻の店舗を津波で閉鎖する打撃を受けつつも、延べ500名以上を派遣した「コープこうべ」ほか全国の生協組織の物心両面の支援を得て、被害が甚大だった沿岸部などの災害時応急物資協定を結んでいた県内22自治体に緊急物資と希望を届けました。

 グループを挙げた支援体制で生活物資を調達、震災発生からわずか2日で営業を再開したダイエー仙台店には、寒空のもと、カセットコンロ用ボンベや食料を求め、多い時には勾当台公園付近まで1km以上にも及ぶ長蛇の列ができました。目指す日用品売り場には、当時入手が困難を極めた生鮮品・牛乳・ボンベなどが揃っていました。

 藻谷氏が提唱する里山資本主義と対極にある「マネー資本主義」の行き着く果てがリーマンショックと、そこからギリシャ・スペイン・イタリアに飛び火したユーロ危機です。マネーゲームに明け暮れる拝金主義と無縁の人々は、そうした騒動には動じない強さを備えています。
longest_day_kahoku.jpg
 藻谷氏が物流と情報が途絶する逼迫した情況下でも、秩序が保たれた理由として著作中で挙げ、講演でも述べられたのが、東北の食料自給率の高さ。水と食料とエネルギーの一大消費地である東京の縮図的な仙台ですら、親類縁者に農家が存在する場合が多く、主食のコメに関しては送られたストックで急場をしのげたというのです。このほど文庫化された「河北新報のいちばん長い日」にある通り、震災発生直後から不夜城と化した勤務先でも、限られた量ながらコメが集められ、女性社員が中心となり組織された「おにぎり部隊」によって、泥だらけになって取材の最前線に向かう記者の兵糧が確保されました。

 水と食料と再生可能エネルギー資源の宝庫でもある東北。研究者の間ですら日本では起こり得ないと考えられていたM9.0の破壊エネルギーにより、震度6強(宮城野区)の揺れに見舞われた仙台では、津波浸水域を除き、都市ガス以外の社会インフラは震災後1週間でほぼ復旧しました。中心部の地盤が強固なうえ、1978年(昭和53)に発生した宮城県沖地震(M7.4)後の法改正で建築物の耐震基準が強化されており、はからずも都市機能の強靭さを実証した格好です。

 講演の冒頭、旧長州藩出身の自分が東北に来て偉そうなことを語るのは気が引けると語り、会場の失笑を誘った藻谷氏。安全保障上の観点から、国家中枢機能の仙台への一部移転を提唱しました。同郷人である安倍首相は、生きる糧を海外に依存する環太平洋連携協定(TPP)に活路を求める経済界におもねり、ご執心の対外的な脅威への備えに比べ、首都圏での防災対策は、とても万全とは言えません。

onagawa2014.3.15.jpg【Photo】今年3月16日に行われた復幸祭前日の宮城県女川町。ここにJR石巻線女川駅と町役場があった。今は大型工事車両が行き交い、復興に向けた槌音が響く。女川町では、この一帯を嵩上げし、水産加工施設ゾーン、旧「マリンパル女川」周辺の海沿いはメモリアル公園として整備予定

 現政権がいかに被災地復興の加速化を標榜するも、東京五輪の誘致は、復興の足かせとなる人手不足と建築資材の高騰という事態を招いています。消費増税後の休日に日本橋三越で書籍や食品など総額で約4万円の買い物パフォーマンスをTVカメラの前でしてみせた安倍首相。これはサラリーマンの平均的な小遣い1カ月分に相当します。その重みを果たして宰相は理解しているのでしょうか。...いささか愚痴を並べすぎたようです。この辺で口直しを。

ponte_kaiun_primavera.jpg【Photo】♪春のうららの北上川...。そんな鼻歌が出そうな春の陽気のもと盛岡でもソメイヨシノが本日開花。北上川に架かる開運橋と冬の名残りを留める岩手山。目指すPiaceは駅から開運橋を渡ってまもなく右手

 安価な輸入材に押され、日本の里山の多くは放置されたまま荒れ放題です。そうした森林資源活用によるエネルギー安全保障の必要性と地方活性化を提唱する藻谷氏に倣って、岩手最北にあたる洋野町の薪を熱源とするナポリピッツァの話題に急転直下変わります。
 
piace_morioka.jpg全国の県庁所在地で、冬の平均気温が札幌に次いで低いのが盛岡。1月と2月の平均最低気温が-5℃台、寒波到来時には放射冷却によって-10℃台まで、過去には-20℃以下にまで冷え込んだことも。そんな盛岡を避寒目的でこの冬2回訪れました。それは「Piace ピアーチェ」のナポリピッツァを熱々で頬張るためです。

 オーナー・ピッツァイォーロ八柳達彦さんが郷里で開業したこのピッツェリアは、2001年10月のオープン。2010年に北上川に架かる開運橋にほど近い現在の場所に移転したのち、2011年(平成23)9月に東北で2番目、世界では373番目となる「真のナポリピッツァ協会」認定店となりました。
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 同協会日本支部支部長で、日本初の認定店「さくらぐみ」西川明男氏、副支部長「パルテノペ」渡辺陽一氏と審査を行ったのが、ナポリ本部の主任技術指導員であるガエターノ・ファツィオ氏。八柳さんは開業前にナポリ沖・イスキア島にあるガエターノ氏の店「Da Gaetanoダ・ガエターノ」で、半年間腕を磨きました。認定以来、シリアルナンバーの入ったカードを添えて師匠仕込みのピッツァを提供しています。

【Photo】ピアーチェのピッツァには、通し番号入りのカードが添えられる。認定番号にちなみ「3」と「7」がついた末尾番号は次回来店時に特典あり(右)

piace1_morioca.jpg【Photo】ナポリピッツァの美味しさの決め手となる生地の味を左右する水・酵母・小麦の配合具合を、長年の経験と勘で気温や湿度に合わせ微妙に調整する。小麦粉は世界で最も精製管理がしっかりしているといわれる国産と、本国のピッツァイォーロの支持が高いナポリの製粉会社「CAPUTO」の高精製率「tipo00(ドッピオゼロ)」の「Rinforzato(通称:サッコ・ロッソ)」を混合(左)

 JR盛岡駅から徒歩6分、車で訪れたなら複合商業施設「Cross Teraceクロステラス」の立体駐車場へ。そこからは店はもうすぐ。時間に余裕があればビルを素通りする手はありません。1F産直「賢治の大地館」は岩手各地の良質な産品が揃います。

piace3s_morioca.jpg イタリア・マルケ州のオーガニック製品生産組合「La Terra e il Cielo」など、国内外の安全で高品質な食品を扱う産直「ちいさな野菜畑」、「青龍水」や「大慈清水」といった伏流水の水場がある鉈屋町から、歴史ある町並みが残る紺屋町近辺、そしてハニーハント気分が楽しめる「藤原養蜂場」ともども、賢治の大地館は盛岡中心エリアの要チェックポイントです。

 クロステラスビル西口前の横断歩道を渡り、開運橋方向に歩みを進めると、窯で燃える薪火の香りが漂うPiaceはもう目の前。通りに面してガラス張りのPiace。ゆえに作業台に向かいGianni Acunto製薪窯の前に立つ八柳さんの姿を外から目にすることができるでしょう。

【Photo】薪の火加減に常に目を配り、対流熱で上昇する炉床温度は450度近辺に。火の通り具合を確認しながら、時おりパーラでピッツァの向きを変える八柳達彦ピッツァイォーロ(上写真)。ナポリピッツァの最大の魅力である生地の風味を知るには、トマトソースにモッツァレラチーズをトッピングせず、オレガノとニンニク風味の伝統的なナポリ生まれのマリナーラ(27cm・1050円)を(下写真)

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 昨年12月の訪問時は、昼の開店時刻11時より少し早く到着したので、八柳さんとあれこれ言葉を交わしました。ナポリで生まれ、世界中で愛されるナポリピッツァの本当の美味しさをそのままに、素材に恵まれた盛岡で多くの人に味わってほしい。そう八柳さんは語ります。

piace10morioca.jpg【Photo】ナポリピッツァの定番「ピッツァ・マルゲリータ」。ミニサラダとドリンクがセットされるランチメニューでは女性でも一枚いけそうな24cmの大きさでジャスト1000円。本場レベルの27cmにサイズアップされる単品オーダーは1300円

 庄イタと同様、かつて仙台の「ピッツェリア・ナプレ」で初めてナポリピッツァと出合ったという八柳さん。その言葉には、薪が燃え出すと摂氏500度に達する窯の炉内と同じくらい熱い思いが込められています。それでいて語り口は、表面がカリッと焼き上がったピッツァのコルニチョーネ(額縁)の内側のようにモチモチ柔らかいソフトなもの。

 八柳さんの話を伺いながら、庄イタの目線は、作業台の壁面に設えられた神棚の下へ。炉内の対流熱でピッツァを調理する際に向きを変えたり窯への出し入れに使う柄のついた器具「パーラ」と協会発行の認定証との間には、現在よりもスリムだった修行当時のガエターノ師匠の写真が飾ってあります。

 2012年3月、月刊誌Piattoの盛岡プチトリップ特集の取材スタッフを案内して食事に伺った時は、協会による審査時にガエターノさんが訪れた際の写真なども並んでいました。それも恩師への敬愛の情の表れなのでしょう。今年2月にお邪魔する前は、正月を控えた昨年末の訪問だっただけに、二次発酵させ熟成中の生地が「師匠へのお供え餅みたいですね」という庄イタのボケた突っ込みに苦笑いする八柳さんなのでした。

piace_caffe.jpg 日曜以外の月~土は、ミニサラダとドリンクがサービスされるランチメニューがあり、通常サイズの27cmより小さめ24cmサイズのピッツァ3種(マルゲリータほか)と旬のパスタ3種が選べます。ナポリから週3日空輸される水牛モッツァレラを使った協会認定店ならではの「マルゲリータD.O.C.」(2000円)もお試しを。

 そうそう、エスプレッソには前回軽くご紹介したナポリのロースター「Passalacqua パッサルアックア」の豆を使用していることを申し添えておきます。次回"Arriva a Napoli !? 白日夢@Caffè Passalacqua"では、堂々のナポリロケ敢行予定。

Continua / to be continued

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piace11morioca.jpgPizzeria Piace ピッツェリア・ピアーチェ

・住:盛岡市大通3-6-23
・Phone/Fax:019-624-1234
・営: 11:00~15:00(L.O.)14:30
   17:00~22:00(L.O.)21:30
・定休:日曜日  ・完全禁煙  ・カード不可
・2500円以上の飲食で、クロステラスパーキングまたはダイヤパーキングの30分サービス券進呈

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2014/03/23

庄イタ流 避寒術 vol.1

Ritorni a per sempre(=Return to Forever) 
ナポリの神髄、Passalacqua

 九州ではソメイヨシノが開花したという知らせが届いても、例年にない厳しい寒さが続く仙台。春分の日を迎えた週明けからは、やっと春めいた気温になるという週間予報が出ており、長かった冬の出口がようやく見えてきました。

 それにしても今年の冬は寒かったですね~。シベリア寒気団が居座るなか、2月に太平洋側を二度にわたって通過した南岸低気圧は、78年ぶりの35cmという積雪を仙台にもたらしました。真冬でも積雪の少ない仙台にしては珍しく、しばらく溶けないままで路肩に残っていた雪のため車道の幅が狭まっていました。そのため路面に積雪がない限りは通勤の足として使っているBianchiに乗る機会が少なく、カラダが幾分なまり気味の今シーズン。

positano_terazza.jpg【Photo】時間と懐に余裕があれば、南イタリアへの避寒旅行はいかが。そんな時はアマルフィ海岸の宝石と呼ばれるPositanoポジターノの青い海を見下ろすこんなテラス席へ。陽光降り注ぐ眼下の絶景を明るい南欧風の色彩で楕円形の陶板にハンドペイントで表現したピッツェリア・パドリーノ・デル・ショーザン特注の彩色タイル

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 北風が身にしみる仙台に居ながらにして、温暖な南イタリアのリゾート気分に浸れるのが、勝山館の角を左折、北一番町通り沿いに昨年夏にオープンした「Pizzeria padrino del Shozan ピッツェリア・パドリーノ・デル・ショーザン」です。Link to backnumber

 大振りなレモンがたわわに実り、輝く蒼い海と切り立った急峻な岩肌に張り付く家並みが美しいコントラストを描く冬でも温暖なイタリア屈指のリゾート地、Positanoポジターノ。その郊外にある家族経営の陶器工房「Ceramiche Casola」に発注したハンドペイントの彩色タイル材を随所にちりばめた内外装の店では、ちょっとしたヴァカンツァ気分が味わえます。

piz_padrino.jpg【Photo】エントランスの壁面を飾るのは、ピッツァの故郷、ナポリ湾の風景。ハンドペイントによる特注品であることを示す手書きサインが記されている(上)  陽光溢れるナポリ湾をイメージした青系のタイルで装飾されたピッツェリア・パドリーノ・デル・ショーザンの薪窯(下)

piz1_padrino.jpg 勝山館1Fの「Ristorante Padrino del Shozan リストランテ・パドリーノ・デル・ショーザン」エントランス前で営業していた4年前から使用していたシックかつゴージャスな窯と同じナポリの工房「Gianni Acunto ジャンニ・アクント〈Link to website 〉」製の石窯は、明るいブルーのタイルモザイクでお色直しされました。それは震災発生直後、全国から駆けつけたピッツァイォーロの協力を得て8回実施されたナポリピッツァの炊き出しで、たくさんの笑顔を石巻に届けてくれた薪窯です。

piz5_padrino.jpg【Photo】通りに面したテラス席の内側テーブル席のスペース壁面の彩色タイル画(上) シラスをトッピングしたナポリ伝統のマリナーラ、「チチニェリ」(1,300円)。もはや向かうところ敵なしの絶品。お熱いうちにブォナペティート~♪(下)

piz6_padrino.jpg 2012年6月、石巻での8回目の炊き出しにイタリアから参加したマエストロ・ピッツアイォーロ、ガエターノ・ファツィオさんが、教え子である千葉壮彦チーフ・ピッツアイォーロと被災地に向けて贈った「BUONA FORTUNA(=幸運を祈ります)」という手書きのメッセージが窯の正面を飾ります。凝った内外装だけでなく、ピッツァを始めとするフード類の味も折り紙つき。昨年、秋田の「cosicosi(コジコジ)」が加わり、東北で4店舗となった〈*注1〉ピッツァ発祥の地ナポリに本部を置く「Associazione Verace Pizza Napoletana(真のナポリピッツァ協会)」が本場の味と認めた「VERA PIZZA」認定店の看板に偽りはありません。

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【Photo】一昨年のカプート杯でブロンズメダルを獲得した証しのトロフィーが輝くカウンターに立つ千葉壮彦マエストロ・ピッツアイォーロ(右)

 今シーズンから「コボスタ宮城」となった楽天イーグルスのホームスタジアム一塁側フードストリートで、鶴岡「穂波街道 緑のイスキア」が、試合開催時間帯だけ営業する「赤のイスキア」を除けば、現在のところ仙台圏では唯一、ナポリで食するピッツァと寸分違わぬ、いや、下手なイタリアのピッツェリアよりもオススメできるピッツェリアだと断言します。リニューアルを機に、ピッツァのバリエーションが増え、南イタリアのアンティパストや「ババ」、スフォリアテッラに似た「コーダ・ディ・アラゴスタ」などドルチェ類も拡充しました。

piz7_padrino.jpg【Photo】1台ごとハンドメードされ、エスプレッソマシンのロールスロイスと称される「La Marzoccoラ・マルゾッコ」。安定した抽出温度を保つ2連モデル「FB/80」(左)

 アンティパスト類に合わせるよう、カンパーニャ州を中心にラインナップが増えたヴィーノともども見逃せないのが、カッフェ。ナポリっ子の支持を集める「Passalacquaパッサルアックア」の豆で淹れたカッフェを頂くことができるようになりました。しかし豆だけでは、ナポリで飲む「Barバール」の味を再現できません。マシンはフィレンツェ発祥の「La Marzoccoラ・マルゾッコ」社が 創業80周年を記念してリリースした「FB/80」がカウンターに鎮座します。

piz9_padrino.jpg【Photo】ナポリのカッフェ好きの間ではKIMBOと並んで支持の高いロースター、Passalacqua。アラビカ種とロブスタ種の絶妙なブレンドによるボディのある豊かな味わいは、まごうことなきナポリスタイル。ハンドペイントされたカップもポジターノの「Ceramiche Casola」製(右)

 研究熱心なバリスタ兼ソムリエの三瓶友和さんによるチューニングが加えられたLa Marzocco FB/80で淹れたカッフェは、昨年夏のリニューアル直後と比べて、焙煎豆の風味を凝縮させたストロングタイプの正統派ナポリスタイルの純血度が増しています。ここは迷わずイタリア式にエスプレッソ・シングルならスプーン2杯、ダブルのドッピオなら3~4杯のグラニュー糖を入れて頂きましょう。

piz11_padrino.jpg【Photo】バリスタ兼ソムリエの三瓶友和さん(左)

 北欧が主な発信地となったスペシャルティ・コーヒーが、コーヒーの最先端を行くような捉え方が、ここ何年か日本でもされています。なれど、豆の美味しさを高圧の蒸気で抽出するエスプレッソでも、特に凝縮感が高い南イタリア・ナポリのカッフェは、決して流行に流されることのない永遠不滅のスタイル。その神髄を伝えるPassalacquaの一杯は、南イタリア気分を味わえるピッツェリア・パドリーノ・デル・ショーザンでの時間を、より印象的にしてくれます。ナポリピッツァとカッフェとの至福の出合いがあなたを待っているはずです。

Continua / to be continued

〈*注1〉・東北の「VERA PIZZA」認定店(2014年3月現在・認定順)・・・鶴岡市「穂波街道 緑のイスキア」、盛岡市「Piace ピアーチェ」、仙台市「ピッツェリア・パドリーノ・デル・ショーザン」、秋田市「cosicosi コジコジ」
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Pizzeria Padrino del Shozan ピッツェリア・パドリーノ・デル・ショーザン

住:仙台市青葉区上杉2-1-50 仙台勝山館
Phone:022-213-9220
営:11:30~14:00 (LO) 15:00 クローズ
   17:30~21:00 (LO) 22:00 クローズ
  月曜定休(祝日の場合は翌日) ※2014年4月からは年末年始を除き無休
●エスプレッソ シングル300円 ドッピオ450円 ●マッキャート400円
●カプチーノ450円 など

URL: http://www.shozankan.com/pizzeria/
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2014/01/30

ビジュアル系インパナータ

肉汁への誘(いざな)

 正月休み明けからフルスロットルで多忙な日が続いており、更新が滞ってしまいました。こんな忙しい時にはココロの栄養補給が欠かせません。

 ということで、今回はあっさりと手短にビジュアル勝負で参ります。この画像が持つ強烈な誘因効果で、再訪を目論む庄イタの席が確保できなくなることを恐れるため、あえて店名は伏せることをご了承願いますm(_ _)m。

 背景に店のロゴがぼんやりと見える福島市の某イタリアンで、すぐにそれとわかる鳥の羽根がエチケッタに描かれたBruno Rocca ブルーノ・ロッカのヴィーノとともに食した「仔牛肉のインパナータ」。香ばしくカラッと揚がった衣にサックリとナイフを入れると、ドンピシャの加減で火の通ったキメ細やかな繊維質から溢れるがごとく滲み出す肉汁肉汁肉汁...。

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 モ~タイヘン。忙中「歓」あり。

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ロケ地:上記理由により今回はナイショ。(近日公開予定)baner_decobanner.gif

2013/11/30

イタリアン・ハイブリッド

 電気自動車のネックとなる長時間の充電が不要で、タンクに充填した水素と空気中の酸素を取り入れてモーターを動かす燃料電池車。H2Oだけを排出、現在のテクノロジーでは最も環境負荷が少ない燃料電池車が実用化されるまでの繋ぎとして、ニッポンが技術を先導するのがハイブリッド車です。かのフェラーリですら、今年3月に開催されたジュネーヴ・ショーでハイブリッドモデル「LaFerrariラフェラーリ」をコンセプトモデルではなく市販車として発表しました。

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 800馬力(!)を発生する6,262ccV型12気筒自然吸気エンジンを搭載、ブレーキ時に発生する熱エネルギーを回収・蓄積・再利用し、163馬力を生むF1で培った独自のHY-KERSシステムをドッキング。合計963馬力(!!)で駆ける軽量なカーボンモノコックボディは、0‐100km/h加速が3秒以下と、強烈な加速Gに堪えうるコルセットを首に装着した方が安心してアクセル全開にできそうな驚異のスペック。

 最高速度が350km(!!!)まで達するというこの赤い跳ね馬。走行状況に応じ、スポイラーやアンダーパネル類が自動可変するアクティブ・エアロダイナミクスを採用した、いわば(心の底から信頼を寄せるにはいくばくかの不安がよぎる)イタリアン・ハイテクノロジーの塊です。

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 生産数499台限定に対し、購入希望者が殺到したというマラネロ初のハイブリッドモデルの気になるお値段は、100万ユーロ。本日の為替レートに換算して1台1億3900万也(税別)。ポキッと折れそうなドアミラーの形状を見るにつけ、ついて回る維持費の不安を払拭すべく、正規ディーラーからフェラーリの新規登録車を購入すれば、7年間は無料メンテナンスを受けられるワランティ・パッケージが2年前から全世界同時にスタートしています。

kosui_crema-golosone.jpg たとえ設計に破たんはなくても、生産の過程で生来のユルさが介在するため、個体差が大きいことが珍しくないのがイタリア車(通称:イタ車=痛車)。堅牢なバイエルン製のドイツ車も3台乗り継いだ庄イタですが、うっかりイタ車に手を出した過去において〝痛い目〟〈2009.3拙稿「場の空気に関する一考察」参照〉に遭っています。

 動画のようなアドレナリン全開な走りにはおよそ似つかわしくないエコカー減税が適用されても、納車は来年4月以降が確実ゆえ消費税だけで1,100万円が飛んでいく勘定( ̄▽ ̄;)。1等・前後賞あわせて賞金7億円が当たる年末ジャンボ宝くじでも当たらない限り、最大の不安要因である懐事情については、まったくもって問題解決の見通しは立っておりません。

 と、いうことで、高嶺の花に終わりそうなイタリアン・ハイブリッドカーについては早々に切り上げ、ここでもうひとつのイタリアつながりのハイブリッドな話題をば。

capperetti_dakekimi.jpg 宮城県名取市相互台にあるマンマの味が楽しめるイタリアン「イル・ゴロゾーネ」で、風味の良い和梨「幸水」のシーズン限定で登場するスペチャリテが、「幸水とパンチェッタのクリームソーススパゲッティ」(上写真)。

 加熱して食感がまったりと変化した幸水と、シャキシャキした生のままの二つの食感が異なるダイス状にカットした幸水に、パンチェッタの旨味と塩味が加わって、フレッシュクリームの甘味が絡んで、えも言われぬハイブリッドな一体感が生まれます。この秋に味わったパスタ料理では、青森のイタリアン「アル・チェントロ」のペースト状にした嶽きみの香りと甘味が炸裂する「嶽きみのカッペレッティ」(左写真)と双璧をなす美味しさ。


 イタリア本国でも何年か前、某有名リストランテのシェフが突如カレーに目覚め、キワ物以外の真っ当なイタリア料理では禁じ手に等しいカレー粉を使った創作料理がイタリア人の間で評判を呼んだとのこと。

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 歌と食べることをこよなく愛する北イタリア・ロンバルディア州Paviaパヴィーア在住のオーナー、ローズィ夫妻の指令で、この秋初めてメニューにオンリストされた「カレー風味クリームソースの手打ちタリアテッレ」(右写真)を、このほどランチタイムに初体験。料理についていつも的確に表現してくれるフロア係の千葉さんオススメとあって、未体験の領域に挑戦した次第。
 
 運ばれてきたタリアテッレを一口食べた正直な感想は、「これはパスタなのか? それとも洋風カレーうどんなのか??」。日本人にはどこか懐かしいカレー風味が、デュラム小麦の香りと絡んでくるインドとイタリアの摩訶不思議なハイブリッド。

 いわば「鯖節から取った和風だし抜き中辛バーモントカレー味きしめん」(笑)。

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 本格インド料理では「ナーランダ」@酒田〈2009.9拙稿「象潟の岩ガキ」参照〉の味を愛し、「Yeti」@気仙沼〈2012.9拙稿「Yeti イエティ@気仙沼」参照〉の味を愛し、混沌としたインドそのままの雰囲気が体感できる(近いうちにとくとご紹介したい)JAY」@山形市の味も愛する庄イタ。

【Photo】夏は盆地特有の酷暑に見舞われるため、すぐ近くの冷やしラーメンを売りにしている店には長蛇の列ができる山形市。かたや吉祥寺と仙台「JAYMAL」で伝説を残したインド料理研究家の由利三さんの料理を味わえる「JAY」入り口。40歳以上の男性だけに適用される厳格なドレスコードがあるので気をつけたい

 前世を含めて積み重ねてきた食遍歴の経験値では推し量ることのできない違和感がどうしても残ります。頭の中で整理をつけようと、2度、3度とカレー風味クリームソースのタリアテッレを口に運んでも、それは払拭されません。

 そこで、いてもたってもいられず、ブロックでサーヴされるパルミジャーノ・レッジャーノをたっぷりと摺りおろしてくれるよう懇願しました。するとインド風チャレンジメニューには一体感が生まれ、慣れ親しんだイタリア料理へと変化して、すんなりとお腹に収まってくれました。

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 それにしてもインドとイタリアが合体したこのパスタ料理。ランチタイムは前菜+ドルチェ+ドリンクがセットされ1,470円也。

 これから先の1日3食、毎食お代わりをし、歯が抜け落ち、嚥下能力が低下した超・後期高齢者になってからは流動食に加工して食べ尽くし、果ては点滴に混ぜてまでしても、マラネロ製の世界一高価なハイブリッド車1台を購入できる対価には到底及びません。

 料理は奥が深いですね。

 いやー、いい勉強になりました m(_ _)m

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リストランテ「イル・ゴロゾーネ」
住: 宮城県名取市相互台1-10-1
Phone:022-386-6271
営:11:30-14:30  17:30-21:00 月曜定休 P有り

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2012/07/01

必食!! トニオ風コース料理

jojo_S.jpg この夏、杜の都を彩る旬な話題が、仙台出身の漫画家・荒木飛呂彦氏の原画展「ジョジョ展in S市杜王町」(会期:7月28日(土)~8月14日(火) 於:せんだいメディアテーク)Link to Website。熱狂的なファンが存在する荒木氏の代表作「ジョジョの奇妙な冒険」の原画を中心とする企画展です。被災地復興のために貢献したいという荒木氏の意向で、10月下旬に開幕する東京に先駆けて国内初の大規模な原画展が荒木氏の郷里で実現します。

【Photo】キービジュアルは荒木飛呂彦氏が書き下ろしたオリジナルイラスト。5月6日河北新報朝刊の終面をセンセーショナルに飾った ©LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

 仙台市職員の荒木ファンが母体となり、組織されたプロジェクトメンバーが実現に向け始動。私も主催団体である実行委に縁あって参画し、開幕に向けて準備を進めています。原画展と関連した周辺企画もその一つ。現在「ウルトラジャンプ」(集英社)で連載中のジョジョの奇妙な冒険第8部「ジョジョリオン」に登場する「ごま蜜団子」のモデルとなった岩手県一関市の「菓匠松榮堂」が製造販売する「ごま摺り団子」をジョジョ展仕様にパッケージを変更、荒木氏による食べ方指南書を付けて会場のみで発売するというもの。ネット上などでのファンの反響は大きく、1,000個限定のごま密団子(8個入り700円)が確実に入手できる「ごま蜜団子付きチケット(大人2,000円)」が、本日ローソンチケット(Lコード28888)から発売となりました。

padrino_shozan.jpg【Photo】調理から給仕までトニオ一人で賄うため2卓しかテーブルがないトラットリア・トラサルディとは違い、エレガントでゆったりとしたリストランテ・パドリーノ・デル・ショーザン。能舞台を備えた緑豊かな庭園が、非日常感を演出するテーブルに彩りを添える

tonio_shozan.jpg【Photo】リストランテ・パドリーノ・デル・ショーザンでジョジョ展inS市杜王町開催期間中限定で食することができるトニオ風コース・要予約

 もうひとつ関心を呼んでいる食関連企画が、「リストランテ・パドリーノ・デル・ショーザン」が会期中限定で提供する「トニオ風コース料理」。ジョジョの奇妙な冒険第4部に登場する天才イタリア人シェフ、トニオ・トラサルディの料理をベースにアレンジしたスペシャルコース(税・サ10%別 6,500円)を同展のチケット・半券を提示の方のみ味わうことができます。矢島広之シェフに打診したところ、かねてよりジョジョの奇妙な冒険の愛読者であったあことが判明、伊澤泰平社長にコラボを即断即決でOKを頂きました。

 ジョジョの世界観を再現したと語る矢島シェフが考案したコースをご紹介すると、ナポリから毎週空輸されるミルキーかつジューシーな水牛モッツァレラチーズを使ったアンティパスト「ナポリ産水牛モッツァレラチーズとフルーツトマトのカプレーゼ ニイクラファーム直送無農薬バジルのジェノヴェーゼ」、プリモピアット「魚介類の娼婦風スパゲッティーニ」、セコンドピアット「骨付き仔羊のソーテー リンゴヴィネガー風味のマスタードソース」、ドルチェ「カボチャのプリン ラム酒風味のジェラート添え」というラインナップ。

caprese2_shozan.jpg【Photo】ナポリ産水牛モッツァレラチーズとフルーツトマトのカプレーゼ ニイクラファーム直送無農薬バジルのジェノヴェーゼ(右)

 客の両手を見ただけで身体の不調が分かり、料理でそれを直す特殊能力「幽波紋(スタンド)」を備えたトニオの店「トラットリア・トラサルディ」を訪れた4部の主人公である東方仗助(ひがしかた じょうすけ)と友人の虹村億泰(にじむらおくやす)。キリマンジャロの5万年前の雪解け水だというミネラルウオーターは、ひと口飲んだだけで「ンまーい!」と感動するほどの甘露。睡眠不足気味だった億泰は、眼球が委縮するほど大量の涙をドボドボと流した揚句に眠気が吹っ飛ぶ体験をします。

puttanesca_shozan.jpg【Photo】魚介類の娼婦風スパゲッティーニ(左)

 "サイモンとガーファンクルのデュエット!  ウッチャンに対するナンチャン!..."などと億泰が表現した絶妙の組み合わせ「モッツァレッラチーズとトマトのサラダ」を食して肩こりが解消、ヴェネツィアの娼婦が仕事の合間の僅かの時間で作れるよう編み出したとされるプッタネスカこと「娼婦風スパゲティー」では虫歯が治り、鶴岡市羽黒町のめん羊肥育家・丸山光平さんが、だだちゃ豆の鞘を与えて育てる特有のクセがない絶品の羽黒仔羊を使えば美味さが倍増であろう「子羊背肉のリンゴソースかけ」で腹痛が治まり、デザートの「プリン」で頑固な水虫が治ってしまいます。

agnello_shozan.jpg【Photo】骨付き仔羊のソーテー リンゴヴィネガー風味のマスタードソース(右)

 究極の薬膳ともいえるトニオの料理。原作では、客の体調や症状に合わせて料理をアレンジし、料理を通して客を快適で心地よくすることに生甲斐を感じるトニオの店には、メニューは存在しません。作品の舞台となった架空の都市「杜王町」は仙台がモデルとされています。「河北ウイークリーせんだい」6/21号紙上で、トニオ風コースの提供が初めて紹介されました。杜王町を訪れた全国のジョジョファンの皆さんには、チケット・または半券提示で席を予約の上、作品の世界観を味わって頂ければと思います。

pudding_shozan.jpg【Photo】カボチャのプリン ラム酒風味のジェラート添え(左)

 取材に伺った役得が、撮影用ではなく、実際に提供する味付けを施したドルチェをいち早く味わえたこと。スプーン一口ごとに糖度の高いカボチャの甘みと生クリームの風味、そしてカラメルソースの深いコクが混然一体となり、まったりとした食感とともに長~い余韻を残します。ラム酒が香る大人の味付けのバニラ風味ジェラートとのコンビネーションも抜群!!! トニオの絶品料理に感激した億泰は、大声で「うンマアアイ!!」と連発しますが、格調高い店の雰囲気をブチ壊すので、ぐっと堪えてくださいね(笑)。

 それでは皆様、会場でお待ちしております。

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リストランテ・パドリーノ・デル・ショーザン
 住:仙台市青葉区上杉2-1-50(勝山館 1階)
 予約Phone: 022-222-7834(10:00~)
 トニオ風コース提供期間 / 2012年7月28日(土)~8月14日(火) 月曜定休
  ランチ:11:30~15:00(LO 14:00) ディナー:17:30~22:30 (LO 20:30)
  URL:http://www.shozankan.com/padrino-del-shozan/event.html#jojo

ジョジョ展in S市杜王町
 会 期:2012年7月28日(土)~8月14日(火) 会期中無休
 会 場:せんだいメディアテーク (仙台市青葉区春日町2-1)
 チケット:大人1,500円(前売1,300円) 高校生以下800円(前売600円) 未就学児童無料
       数量限定「杜王新報」付前売券 大人1,600円 高校生以下900円
       数量限定「ごま密団子」付チケット 2,000円
       ※お求めは全国のローソンに設置のLoppi で 【Lコード】28888
       ローソンチケットオペレーター予約・問合せ
             0570-000-777(10:00~20:00)
        ※チケットは日時指定なし。期間内のお好きな日時でご来場下さい
 主 催:ジョジョ展 in S市杜王町実行委員会・仙台市
 協 賛:松栄堂
 特別協力:LUCKY LAND COMMUNICATIONS
 協 力:集英社
 URL:http://www.jojo-morioh.com/
◆杜王新報...荒木飛呂彦先生のインタビュー、超多忙な某人物との対談、仕事場紹介、S市杜王町おススメスポットMAPなど、ジョジョファン必見の内容が収録された16ページの仙台展限定タブロイド紙。ウルトラジャンプで既報通り、当日会場でも400円で発売(数量限定)
【ジョジョ展 in S市杜王町実行委員会事務局】
 問い合わせPhone: 022-378-0175
 (受付:平日10:00~17:30 土日祝10:00~15:00)


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パドリーノ デル ショウザンイタリアン / 北四番丁駅勾当台公園駅北仙台駅
夜総合点★★★★ 4.0
昼総合点★★★☆☆ 3.5

2012/05/27

1年ぶりの青森美味巡礼

花の命は短くて...。2012春

 GW直前までは平年を下回る肌寒い陽気が続いていた東北各地。例年にない雪解けの遅れにより、稲作には平年と比べて2週間程度の遅れが出ています。本州最北の青森で田植えが始まったのは、5月の第2週に入ってから。植え付けの最盛期は、幾分とも水が温み始める3週目となりました。

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【Photo】岩木山と花ざかりの弘前城公園

 東北では2年ぶりの桜といわれた今年。事実、私も昨年は桜の記憶が全く飛んでいます。これは私に限ったことではなく、周囲でも多くの人が口を揃えてそう言います。震災による混乱の渦中にあった昨年は、被災地では誰もがそれどころではありませんでした。長かった冬の終わりを実感し、花鳥風月を愛でる心のゆとりを取り戻すため、2年ぶりの桜を愛でに連休後半は「弘前さくらまつり」開催中の弘前へと向かいました。

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【Photo】ライトアップされた夜桜があでやかに咲き誇る夜の弘前城公園

 桜の盛りに一度は訪れることを強くお勧めしたいのが、49.2haの園内に2,600本もの手入れが行き届いたソメイヨシノを中心に50種類の桜が咲き乱れる弘前城公園です。ニッポンに生まれて良かったと誰もが実感するであろう見事な桜との2年ぶりの再会は、一番の楽しみでした。とはいえ、美味との出合いのためなら野を越え山を越えることを厭わない私が、喰い気をなおざりにして満足するはずはありません。

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 そこで選ぶべきは、いま東北で最も注目に値する青森イタリアンです。その両雄たる「Osteria Enoteca Da Sasinoオステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ)」(弘前市)と、「AL CENTROアル・チェントロ)」(青森市)の2店を桜の時期にあわせて予約したのは、当然の成り行きでした。

 5年前の8月、リンゴの自然栽培に挑んだ木村秋則さんのもとを訪れた日〈拙稿「奇跡のリンゴ」2009.9参照〉に初訪問、翌年5月の再訪で確信を深めた上でViaggio al Mondoでご紹介したオステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ〈拙稿「自給率100%のレストラン」2008.5参照〉。オーナーシェフである笹森通彰さんは、同年7月にオンエアされたTBS系「情熱大陸」や専門誌・一般情報誌など各メディアから注目され、全国から訪れる食通を唸らせています。

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【Photo】1年間封印していた昨年3月10日夜@オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノのアンティパスト2皿 / 真ダラの白子のすり身をふっくら香ばしく焼き上げた「鱈のスフォルマティーノ 菊芋のピューレ」(左) 素材感の組み合わせが活きる「藤崎町産ホワイトアスパラガスのソテー 家飼いウコッケイ半熟卵と自家製フォルマッジョ」(右)
 

 東北新幹線が青森まで延伸した一昨年12月、青森駅近くに開業した複合商業施設「A‐FACTORY」2Fに「Galetteria Da Sasino ガレッテリア・ダ・サスィーノ」をJR東日本の依頼により出店、それに先駆けてジャジー牛乳の自家製モッツァレラを使うナポリピッツァの店「Pizzeria DA SASINOピッツェリア・ダ・サスィーノ」を弘前市内にオープンさせています。

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【Photo】プリモピアット2皿 / 自家菜園のカボチャとお米のトルッテリーニ(左) 大鰐町産青森シャモロックのクレスペッレ(=クレープ)(右)

 店舗を増やし拡大路線に転じた飲食店が、質の低下に陥るお決まりの轍を踏むことなく、業態が異なる新店は、信頼の置けるスタッフに任せる賢明さを持ち合わせていた笹森シェフ。ご自身は以前と変わらずオステリアに身を置き、全てを取り仕切っています。食べ手である客がいてこそ成り立つ飲食店の道義として当然のことながら、いかに名前が売れようと料理人の本分を貫き、いささかのブレもない「じょっぱり」の面目躍如たるサスィーノ再訪は、必須のミッションなのでありました。

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【Photo】セコンドピアット / 七戸健育牛サーロインのビステッカ(左) ドルチェ / ウコッケイ卵のティラミスとレモンのソルベ(右)
  
 そして私の中では昨年最大の発見だったAL CENTRO。翌日起こる事態を知る由もない昨年3月10日、東北新幹線延伸に関連した仕事で青森に出張しました。オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノを夜に予約していたため、昼に初見参したこの店。東通村で暮らす祖母に栽培を任せている野菜など地元の素材を中心に"手間を惜しまず 手を加えすぎない"という葛西 淳オーナーシェフが創意を凝らしたセンスが光る料理は、鮮烈な印象を残しました。

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【Photo】アル・チェントロのランチコース(Pranzo-b 2,800円) 付きだし / 豚肉のさまざまな部位を使う自家製ソプレッサータ、キッシュなどのアンティパスティ・ミスティと呼んで差し支えない内容(左) アンティパスト / 下北産タコのテッリーナと古代小麦ファッロ、ポモドーリセッキ(右)

 「ちゃんと出張先で仕事してんのかよ!!」とのごもっともなツッコミは、どうかなさらぬよう(笑)。14ヵ月ぶりの"じょっぱりイタリアン"を再訪することなくしては、青森を訪れる意義が半減するというもの。笹森シェフへの事前のヒアリングで、桜が見頃を迎えるであろうGW後半で予約を入れました。さらに今回は、本州最北端の地・大間まで足を延ばすことを画策。そう、築地市場経由で銀座の寿司屋で食そうものなら、ウン万円の出費を覚悟せねばならぬマグロ界のエース、世に名高い大間のクロマグロ(ホンマグロ)が目当てです。

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【Photo】プリモピアット / ファッロを練り込んだ自家製パッパルデッレ 春野菜と県産黒豚のラグー(左) 絶妙な火加減がもたらすカリカリの皮とジューシーな白身。陸奥湾の天然ヒラメのクロッカンテ(右)

 ところが、あれもこれもと欲張ったのが災いしたのでしょうか、出発前にギックリ腰をやらかした上、3日間の青森滞在中は、雨続きのあいにくの天候。加えて計算外だったのは、それまでの寒さが一転、GW直前に気温が一気に上昇したこと。これにより、平年より遅れると予想されていたソメイヨシノは4月27日に開花、5月1日には満開が宣言されました。そこに花散らしの雨が連休後半は降り続いたため、3日にAL CENTROで葛西シェフの料理を味わうべく前泊した強風と雨の青森市でも、弘前の桜がいかなる状態であるかが、気がかりでした。

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【Photo】ドルチェ / イタリア版のクレームブリュレ、「クレマコッタ」ないしは「クレマカタラーナ」。サルディーニャでは「クレマ・ブレチャータ」と名前を変える  Bevande / カッフェ

hotokegaura2012.5.4_.jpg【Photo】下北半島の霊場「恐山」ともども、この世のものとは思えない「仏ヶ浦」の奇観。大間まで足を延ばすのであれば、青森市から4.5時間を要するとこを覚悟の上で、車でのアクセスを

 相変わらずの雨模様となった4日朝、具合の思わしくない腰をかばいつつ北緯41度線を越え、奇岩が連なる景勝地・仏ヶ浦を経て訪れたのは、大間漁港すぐ近くの「浜寿司 Link to Website」。大将の伊藤晶人さんは、大間伝統の近海一本釣りで捕えるクロマグロでも、スジ目の少ない150 kg超級の高級品しか扱わないのだといいます。

oma_2012.5.4.jpg【Photo】「こヽ本州最本端の地」と刻まれた石碑が建つ大間崎の先は、クロマグロの漁場である津軽海峡にウミネコが群れ飛ぶ津軽海峡

 産地でとことんクロマグロを堪能しようと、はるばる訪れた大間です。ここは大間鮪丼 特上(1人前3,900円)を奮発。5月は漁期ではないものの、冷凍技術の進歩により、赤身からしてすでに異次元領域へと誘う大間産ホンマグロは期待に違わぬ旨さ。しつこさを感じさせない上質な脂が乗った中トロ、さらにノリノリの大トロに至っては・・・。画像を見てヨダレを垂らしておいでの皆さまご想像通り(笑)。

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【Photo】シャリが見えないほど豪勢に盛られた大間クロマグロの赤身・中トロ・大トロ(右写真)が存分に味わえる浜寿司の「大間鮪丼 特上」(左写真)

 幸福ではなく"口福"と表現したくなるクロマグロの余韻に浸りながら3時間を要して訪れたオステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ。アペリティーヴォ(=食前酒)ともなる1杯目は、自家製ワイン醸造挑戦2年目の「Sasino Bianco 2011」をオーダーしました。自家製ヴィーノの予想以上のバランスの良さに、笹森シェフが食材自給率100%を達成する日が、そう遠くないことを確認できたのは、この日持ち込みした「Brunello di Montalcino Pian delle Vigne1997 / Antinori」の素晴らしい熟成ぶりとともに望外の収穫となりました。

   brunello97_antinori.2012.5.4.jpg sasino_bianco2012.5.4.jpg 

 連休中とあって、満席でフル回転する厨房とフロアの両方を忙しく行き来しながらも、シェフ本人がきちんと手をかけてくれた料理は、いつもながらの完成度の高さ。前回は自家製リモンチェッロ(下右写真)を呑みながら、店が引けた後もシェフと語り合ったのですが、今回は23時までライトアップされる夜桜が、昼間とはまた違った妖艶な姿を見せてくれるはず。締めのカッフェ(下左写真)だけで食後酒を封印、一縷の望みを抱いて弘前城公園へと急ぎました。

caffe_sasino2012.5.4.jpg Limoncello_sasino2011.3.11.jpg

 しかーし、「もはやこれ以上、多くを求めるな」ということなのでしょうか。お濠には、散った桜が浮かぶ「花いかだ」が見られたものの、もはや盛りを過ぎたソメイヨシノは、すでにそのほとんどが枝先にはなく、そぼ降る雨に濡れながら地面を桜色に染めていました。まだ見ごろだったシダレザクラを愛でながら城内を散策して30分ほどで照明が落ち始め、2012桜シーズン@弘前は儚く散ったのでした。

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AL CENTRO アル・チェントロ
住:青森市長島2-15-2
Phone: 017-723-5325
営:‎11:30~14:30(L.O. 14:00)
   18:00~22:00(L.O. 21:00) 日曜定休   
URL:http://www.al-centro.jp/

AL CENTROイタリアン / 青森駅

夜総合点★★★★ 4.0
昼総合点★★★★ 4.0

大間 浜寿司
住:青森県下北郡大間町浜町69-3
Phone:0175-37-2739 不定休
営:17:30~22:00 (※昼は要予約)
URL:http://www4.ocn.ne.jp/~oma/index.html

Osteria Enoteca Da Sasino
オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ

住:弘前市本町56-8 グレイス本町2F
Phone:0172-33-8299
営:11:30-13:30(L.O.) 18:00-21:00(L.O.) 日曜定休
URL: http://www.dasasino.com/

オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノイタリアン / 中央弘前駅弘高下駅

夜総合点★★★★★ 5.0


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2012/04/22

パスタに見る日伊の差異

(伊語表記)
Tempi di Cottura:Decidete voi secondo la cottura...Lasciteli al Dente
(日本語訳) 
調理時間:アルデンテかどうか、自分で判断して下さい

fusilli1_a_mano.jpg【Photo】パスタの聖地カンパニア州Gragnanoグラニャーノで「Fusillaiaフジッライア」と呼ばれる女性たちが細長い棒にパスタを1本ずつ転がしながら巻き付け、螺旋状に成形する根気の要る手仕事で作る「フジッリ・ラヴォラーティ・ア・マーノ」。形も長さもさまざま

 スローフード協会が、絶滅の危機に瀕する守るべき食材「プレジディオ(味の箱舟)」に指定するパスタとして以前ご紹介した「Fusilli Lavorati a Mano フジッリ・ラヴォラーティ・ア・マーノ」Link to backnumber。一本ずつ手巻きされ、長さ50cmほどにもなる螺旋状に仕上げる超・ロングパスタに関する後日談を、ショートパスタのごとく短かめにお伝えします。

 何を今更とお思いかもしれませんが、マ・マーやSHOWAなど、日本製のパスタには、例外なく5分・9分・11分などと茹で時間がパッケージ表面に明記されます。乾燥パスタでイタリア国内トップシェアを誇り、日本法人もある「Barillaバリラ」、日清フーズが取り扱うNo.2の「DE CECCO ディ・チェコ」、エスビー食品が販売する「AGNESIアネージ」など、イタリア製パスタのパッケージにも、6min,12minと、決め打ちで茹で時間が記されます。

fusilli2_a_mano.jpg【Photo】スパイラル状の曲線を描くフジッリ・ラヴォラーティ・ア・マーノ。表面にはブロンズダイス成形特有のザラ付きがあり、生地の押し出し成形時に中心に空く穴とあいまってソースがよく絡むが、まずはさておき低温長時間乾燥ゆえの小麦本来の香りを噛みしめたい

 イタリア料理がすっかり定着した最近では、日本でも輸入パスタの選択肢が増えました。パスタの街Gragnanoグラニャーノ産乾燥パスタの中で明治屋が取扱う「Garofaloガロファロ」のバックラベルには、「標準ゆで時間」という表現が使われ、少し幅が出ます。「Divellaディヴェッラ」「Voielloヴォイエロ」「Martelliマルテッリ」などもまた同様。

 ところが、東京圏で増殖中のイタリア食材専門店「Eatalyイータリー」で扱うグラニャーノで1848年に創業した老舗「Afeltra アフェルトラ」製パスタの表記は一味違います。調理時間を意味するTempo di Cotturaは、9/11min,8/11min など3分程度の幅があるのです。これは、好みの硬さをこまめに確かめるよう、作り手の自主性を求める個人主義のヨーロッパらしさであり、南イタリアならではの"緩さ"の表れともいえます。

fusilli7_a_mano.jpg【Photo】A Mano(=手作り)ゆえ、てんでバラバラでまとまりのないフジッリ・ラヴォラーティ・ア・マーノとは対照的に、機械成形されて行儀のよい規則正しい螺旋形をしたフジッリ・コン・ブーコ。その名が示す通り、中心にはBuco(=穴)が空いている

 その極みが、プレジディオに登録されるフジッリ・ラヴォラーティ・ア・マーノ。青銅製の金型で押し出しながら成形する一般的な乾燥パスタとは異なり、手で成形するこのロングパスタは、一本ずつ姿形が異なります。バラバラで型にはまらないそのさまは、まるでイタリア人(笑)。そんなパスタを食す前から、まず面食らうのが( ̄ ̄;)、バックラベルの調理時間表記です。

 同じ穴あきフジッリでも機械成形の「Fusilli con buco フジッリ・コン・ブーコ」は、9-11分と茹で時間が指定される一方、フジッリ・ラヴォラーティ・ア・マーノのパッケージには具体的な茹で時間の記載はありません。そこには今回の副題と日本語訳にある通り、Decidete voi secondo la cottura...Lasciteli al Denteと記されるのみ。これでは埒が開かないと輸入元のEatalyジャパンが作成したバックラベルの調理方法がコレ。

ricetta_fusilli_mano.jpg 茹で時間が15-25分。・・・10分も幅があるなんて...((((((( ;゚Д゚)))。緻密なドイツ人やマニュアル通りに動く生真面目な日本人には、なんともアバウトかつアンビリーバボーな指示に戸惑いが隠せないはず。

amerigo_clema_parmiggiano.jpg そこで慌てず騒がず対応するのが大人というものですぞ。この緩さを受け入れる人間的な幅がある方は、個性を尊重し臨機応変なイタリア向きです(笑)。15分を過ぎた頃合いを見計らって噛んでみてちょうど良いと感じたのが23分。

【Photo】イタリアきっての美食の街ボローニャ郊外Savigno サヴィーノにある「トラットリア・ダ・アメリゴ」併設の食品店「La Dispensa da Amerigo」のみならず、リバティ様式で統一されたこの有名トラットリアのレシピによるソース類やチーズペーストなどの食品はEataly各店でも購入可能

 味付けは、同じくEatalyで調達した近郊パルマで作られるパルミジャーノ・レッジャーノに地元エミリア・ロマーニャで冬季間採取される希少な白トリュフTartufo Bianchetto を少量加えたチーズペーストのソースにしました。スローフード協会が創刊したガンベロ・ロッソや、非スノッブを標榜するIL MANGIAROZZOなど、多くのレストランガイドで高い評価を受けるボローニャ郊外「Trattoria da Amerigo トラットリア・ダ・アメリゴ」Link to Website のレシピによるものです。

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【Photo】ラグーやチーズなどの濃いめの味付けでもしっかりとした存在感を示すフジッリ。千両役者同志を組み合わせた料理の相伴は、わずか5haの畑で栽培されるサンジョヴェーゼ90%+カベルネ・ソーヴィニヨン10%を、天才醸造家ルカ・ダットーマが持てる技量を惜しげもなく注ぎ込んで混醸したトスカーナ産ヴィーノ・ロッソ「Gaglioleガッリオレ'99」。シルキーで上質なタンニン。豊かな香り。そして長い余韻。セラーでの眠りから目覚めたこのヴィーノが、熟成の極みに差し掛かかりつつあることを黒ずんだエチケッタが物語る

 濃厚なクリームソースに負けない生半可ではないパスタの弾力と小麦の香り。小麦と水だけで作られるパスタをして、これだけの違いを生むグラニャーノの凄さ。多様な形状を持つパスタひとつにも、お国柄が表れるものですね。

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2012/01/31

第1回 Salone del Piatto レポート

◆大晦日に山伏修行をアップしたまま、新年を迎えても一向に更新されないため、修行のため再び山籠りに入ったとか、あまりの寒さで冬眠に入ったとの噂が流布されかねないので、今年初となる新ネタをば一席。本年もよろしくお付き合いのほどお願いします。

salonepiatto_10.jpg 仙台圏で発行している情報誌「Piatto」で好評連載中の「Invito al Piatto 一皿への誘い」。誌面でご紹介したお料理を、読者の皆さんに実際に召し上がっていただく「Salone del Piattoサローネ・デル・ピアット」第1回目は、昨年12月号で登場した「Ristorante da LUIGI リストランテ・ダ・ルイジ」ご協力のもと、1月10日(月)に開催されました。

 当日は、オーナーシェフの廣瀬竜一さんが、フィレンツェの人気店「ラ・ジオストラ」でマスターしたウサギ料理「Conglio al Forno Piansana con Polenta ウサギの洋ナシ詰めポレンタ添え」をメインとするコース料理をご堪能いただきました。今回はその模様のご報告です。

【Photo】厨房に立つ廣瀬竜一シェフ

salonepiatto_01.jpg 欧州きっての名門ハプスブルグ家公認料理人という称号を持つ廣瀬シェフに冒頭ご挨拶いただき、いやがおうにも期待が高まる中、お店からご用意いただいたスプマンテで「Salute!(=乾杯)」の掛け声とともにサローネは幕を開けました。

【Photo】店を貸し切って行われた第1回Salone del Piatto から

 アンティパストは2皿。
プロローグは、ふんわりと優しい磯の香りが漂う「ウニのムース」と、焼き目をつけて香ばしさと甘みを増幅させた上にフレッシュなオリーブオイルのフレーバーでまとめた冬野菜「カブのグリル」(下左写真)

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 ローマから東へ50kmほど離れたラッツィオ州Serroneセッローネにある「Terenzi テレンツィ」という作り手が有機栽培した地品種パッセリーナの白ワイン「Passerina del Frusinate パッセリーナ・デル・フルシナーテ」がサーヴされる頃に運ばれてきたのは、色とりどりの料理を盛り付けると、絵の具を解いたパレットのように見える皿に6品が並ぶという、芸術の都フィレンツェで研鑽を積んだ廣瀬さんらしい「アンティパスティ・ミスティ」(上右写真)

 右写真右上から時計回りにご紹介すると、アジのマリネ・ヴェネツィア風、新潟産アマダイのカルパッチョ、ホウレンソウ(緑)・カリフラワー(白)・ニンジン(赤)のイタリアン・トリコローレなスフォルマート、ローマ法王のクロスティーノ、ポルチーニ茸のクロスティーノ、センターがパルマ産生ハムの6品。Crostino Papa こと「ローマ法王のクロスティーノ」は、26年の長きにわたりローマ法王の要職を務め、2005年にこの世を去った前法王ヨハネ・パウロ2世の長寿の秘訣だったという逸話が残ります。この料理を召し上がられた皆さんも、寒さ厳しい冬を元気にお過ごしのことでしょう。

 当初ご案内した予定メニューではリストになかったスープが次に登場しました。とろりとした食感と素材の香りが口腔を満たす群馬県下仁田町特産の冬野菜、下仁田ネギにズワイガニがアクセントとなった塩味の「下仁田ネギのズッパ」(下左写真)です。こうした冬ならではの味覚を楽しめる料理って楽しいですよね。

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 プリモピアットはリゾットとラヴィオリ2種。
藩制時代は御譜代町だった青葉区大町にある上村豆腐店の木綿豆腐をリコッタチーズ代わりに使った「ムジェッロ風ラヴィオリ」(写真奥手右)と「ホウレンソウのラヴィオリ」(同写真奥手左)、「ホタテと冬野菜のリゾット」。廣瀬シェフは、あれも食べたい、これも食べたいという欲張りなお客様には、こうしてパスタとリゾットを組み合わせて出してくれます。食いしん坊にとっては何とも嬉しい心遣いです。

 セコンドピアットは、お待ちかね「ウサギの洋ナシ詰めポレンタ添え」。ラ・フランスとスペイン産のしっかりとした肉質のウサギが好相性です。Piatto取材の折には風味付けにたっぷりと使われていた褐色のソース「フォンド・ブルーノ」ですが、この日は控え目。付け合わせのポレンタも焼き色を付けずに出てきたので、よりラ・フランスの風味を感じました。

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 この料理と抜群の相性だったのが、北イタリア・ピエモンテ州の代表的な品種ネッビオーロを使った赤ワイン「Roeroロエロ」。著名なバローロやバルバレスコと比べ、白トリュフで有名な町アルバ北西に位置するロエロは、10年ほど前までは、ワイン産地としてほとんど知られることのなかった土地です。

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 そんな状況を打破しようと品質向上に邁進したのが、この日用意された作り手「Matteo Correggia マッテオ・コレッジャ」でした。耕作中、不慮の事故により若くして命を落としたマッテオの遺志を継ごうと醸造所を引き継いだ未亡人を栽培や技術面で支援したのが、マッテオの友人であり、自身の醸造所「ラ・スピネッタ」を一躍スターダムに引き上げた敏腕醸造家ジョルジョ・リヴェッティ氏でした。そんな胸がいっぱいになるワインで満ち足りた時を過ごす皆さんのお腹もそろそろ一杯。宴の最後を飾ったのが、「ティラミス」とハプスブルグ家直伝「ザッハトルテ」(右写真)。しっかりとしたコース料理の後でも、全く重さを感じさせないこの絶品ドルチェを皆さん残さずペロリと完食!!

ふぅ~、ごちそうさまでした。

salonepiatto_09.jpg こうしてすっかりお世話になったリストランテ・ダ・ルイジを後にしたスタッフが、「もう1杯だけ呑もう」と向かったのが、徒歩1分の至近距離にある「エノテカ・イル・チルコロ」でした。3月号で告知するので、まだ詳細は内緒ですが、実はこちらのお店で2月20日(月)に第2回Salone del Piattoが開催されるのです。すでに満腹の一同、食欲は皆無ながら、美酒はベツバラ(笑)。私が選んだトスカーナ州モンタルチーノ産の名醸ワイン「ブルネッロ」と呼んでも差し支えのないサンジョヴェーゼ・グロッソで醸した「Anteoアンテオ」でグラスを重ね、ひたすら美味しい夜はいつ果てるともなく更けてゆくのでした。


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リストランテ ダ・ルイジイタリアン / 勾当台公園駅広瀬通駅あおば通駅
夜総合点★★★☆☆ 3.5
昼総合点★★★☆☆ 3.5


2011/12/10

「Salone del Piatto」へのお誘い

私も参加します。
スペシャル・ディナー会「サローネ・デル・ピアット」
@Ristorante da LUIGI

◆来年1月10日(火)、Piatto12月号でご紹介した料理「ウサギの洋ナシ詰め」をセコンド・ピアットとするフルコースを特別料金でお召し上がり頂けるディナー会「Salone del Piatto」を開催します。 残席あとわずか、ぜひご参加下さい◆

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 料理人渾身の一品や、思い入れの深い料理をご紹介するPiattoで好評連載中の「Invito al Piatto 一皿への誘い」。最新12月号でご登場願ったのは、広瀬通りに面した仙台市青葉区国分町にある「Ristorante da LUIGI リストランテ・ダ・ルイジ」です。オーナーシェフの廣瀬竜一さんは、ナポリで修業した後、フィレンツェのシンボルとも言うべきサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂から500mほどの距離にある人気店「Ristorante La Giostra リストランテ・ラ・ジオストラ」でトスカーナ料理をマスターしました。

 ルネッサンス芸術の祖ジョットが1334年に設計した高さ84mの鐘楼が建つ側のドゥオ-モ広場を進み、パッツィ宮の前からVia dell'Oriuolo(オリウオロ通り)を進んだ先の四叉路にあるリストランテ・ラ・ジオストラ。フィレンツェのチェントロという場所柄、フィリップ・ノワレ、ジョン・トラボルタ、フランコ・ゼフィレッリなど、多くのセレブが訪れるといいます。オーナーは、オーストリア・ハプスブルグ家の末裔ゆえに、敬意と親しみを込めて「Principe プリンチペ(皇太子)」と呼ばれたディミトーリ・クンツ・ディアスブルゴ・ロレーナ氏。腕を見込まれ料理長に就任した廣瀬さんは、プリンチペから初めて「ハプスブルグ家公認の料理人」という称号を許されます。

luigi_reception.jpg プリンチペからは、料理のみならず生き方についても多くを学んだと語る広瀬さん。2009年3月に人生の師と仰いだプリンチぺが急逝した後、郷里の仙台に戻りました。その年の12月、せんだいメディアテーク・オープンスクエアを会場に開催されたインテリア・空間デザイナーである尾形欣一氏のエキシビジョンのレセプションで、イタリア好きの私に是非にと尾形さんからご紹介されたのが廣瀬さんご夫妻でした。

【Photo】イタリア滞在当時の廣瀬シェフが、フィレンツェ郊外にあるブドウ棚の下で食事ができるレストランをモデルにしたというリストランテ・ダ・ルイジ。開店に先立って2010年8月28日に催されたオープニングレセプションにて

 広瀬さんは、ヨーロッパ文化への造詣が深い尾形さんに店舗デザインを依頼、遊び心いっぱいの白亜の空間のもとで正統トスカーナ料理を提供する現在の店を昨年9月にオープンします。お招き頂いたオープニングレセプション以降、何度か足を運んでいますが、数少ない私が苦手な食材であるレバーを使ったクロスティーニ・トスカーニは必食。トーストしたパンにレバーペーストをのせたお馴染みのアンティパストですが、プリンチペのレシピによるリストランテ・ダ・ルイジのクロスティーニは、ニンジンなどの野菜をたっぷりと混ぜており、レバー特有の臭みが全くありません。

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【Photo】ある日のリストランテ・ダ・ルイジのテーブルから。典型的なトスカーナ料理のひとつ、レバーのクロスティーニ・トスカーニ(左写真・写真手前)を含むアンティパスティ・ミスティ
(右写真・手前から)既成概念が崩れる廣瀬さんのトルタ・ザッハー、ティラミス

 
 ハプスブルグ家の血を引くプリンチペから薫陶を受けた廣瀬さんオリジナルの「Torta Sacher トルタ・ザッハー(ザッハ・トルテ)」もこの店を語る上で欠かせません。発祥とされるウィーンのホテル・ザッハーのザッハ・トルテは、とてつもなく甘く、1ピースを食べただけで鼻血が出るかと思うほどですが、広瀬さんがチョコレートに加水しながら1ホールづつ手作りするトルタ・ザッハーの軽やかな味わいは、個人的には元祖のズシリと重い味付けよりもはるかに好みです。

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 来年1月10日(火)18:30から始まるPiatto主催による初のディナー会「Salone del Piatto サローネ・デル・ピアット」では、最新号のInvito al Piatto でご紹介した「ウサギの洋ナシ詰め」を含むコース料理をお楽しみ頂けます。臭みが少なくロースがしっかりとした肉質の良いスペイン産ウサギのオーブン焼きには、洋ナシの女王とも呼ばれる山形産ラ・フランスがスライスされて組み合わされます。フレッシュなラ・フランスがみずみずしいソースの役割を果たしますが、ベースのビーフに玉ネギやニンジンなどの野菜を加えた褐色のソース「フォンド・ブルーノ」と香り付けのフェンネルシードが味に深みと幅を与えます。

【Photo】ウサギの洋ナシ詰め

 サローネ・デル・ピアットでは、アンティパスト2皿・プリモピアット(パスタまたはリゾット)・セコンドピアット(当日は「ウサギの洋ナシ詰め」)・ドルチェの料理5品と、お飲み物をご用意致します。通常は5,500円のディナーコースですが、サローネ・デル・ピアットの初回を飾るということで、廣瀬シェフに特別の計らいをいただき、今回のみ特別価格4,500円でのご提供となります。

guado98_tasso@luigi.jpg【Photo】Salone del Piatto当日は、プラス2,000円で料理とのアッビナメント(=組み合わせ・マリアージュ)を意識したワイン4種をグラスでサービス。注ぎ足しでは物足りない方は、別途料金でボトルオーダーも可(※写真のVino Toscanoはありません)

 美味しい料理にはヴィーノが欠かせないと仰るワイン好きの方には、この日の料理にあわせてセレクト頂く4種のグラスワインをプラス2,000円でご用意致します。こんなオイシイ話を見逃すわけにはいきませんヨ!!。全20席のテーブル席は皆様にお譲りし、厨房と向かい合ったカウンター席で庄イタもご一緒させて頂きます。おかげさまで20日の申込み締切りを待たず、残席わずかとなりました。お一人様もOKゆえ、どうぞご参加ください。

第1回 Salone del Piatto サローネ・デル・ピアット
 【日 時】 2012年1月10日(火)18:30~
 【会 場】 Ristorante da LUIGI(リストランテ・ダ・ルイジ)
 【参加費】 4,500円(通常価格5,500円) ※ 現金にてお支払い下さい
 【定 員】 20名様限定(お申し込み多数の場合は抽選)
 アンティパスト2品・プリモピアット・セコンドピアット・ドルチェ・お飲物
 ※プラス2,000円でお料理に合わせたグラスワイン4種をご用意

◆エントリーは下記バナーから専用ページへと進み、「お申し込みはこちら」のボタンから、エントリーフォームにてお申し込み下さい。【12月20日(火)締切】
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Ristorante da LUIGI リストランテ・ダ・ルイジ
住: 仙台市青葉区国分町1丁目8-14 仙台協立第2ビル1F
  (地下鉄広瀬通駅より徒歩8分)
Phone: 022-263-7855
営:11:00~15:00(L.O.14:00) 18:00~22:00(L.O.21:00)
木曜定休 テーブル席全20席 全日禁煙
(※廣瀬シェフによれば、Rolling Stones御一行が来店した場合のみ喫煙可とのこと)


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2011/11/03

il Clistero dello fico

サンマのタリオリーニ &
イチジクとマスカルポーネのドルチェで深まる秋を堪能
@CEPPA(チェッパ)

※イタリア語が堪能な方でなくとも、タイトルの意味は最後にお分かりになるかと。

antipast_ceppa.jpg【Photo】ふんわり火を入れた岩手県産いわい地鶏とマコモタケのこんがりロースト ブロッコリーソース風味 @CEPPA

 離陸したものの、高みに至らぬ水平飛行が続いたマッシュしたカボチャを絡めたシンプルなマルタリアーティをこれまで唯一の例外に、いつも納得の料理を出してくれるのが、仙台市青葉区本町にあるイタリア料理店「CEPPA(チェッパ)」です。一昨年のオープン当初から何度か足を運びながら、佐藤篤シェフが一人で店を切り盛りするゆえ、軌道に乗るまでは当Viaggio al Mondoでのご紹介を控えてきました。

 通りから見える看板を出さず、ビルの2階にあり、表通りから外れたロケーションゆえ、ちょっとした隠れ家的なこの店。昼から気の利いたZuppa ズッパ(=スープ)やアンティパスト、手打ちパスタ、そしてドルチェを頂くことができます。仙台の南隣り、名取市下余田にある佐藤シェフのご実家は、恵まれた地下水を利用した特産のセリを栽培する農家。ゆえにセリをハーブとして使ったムール貝のズッパなどの料理はお手のものです。

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 聞けば、「アロマフレスカ」「カーザ・ヴィニタリア」「エッセンツァ」「カッフェ・アロマティカ」など、次々と人気店を手掛け、日本のイタリア料理界をリードする原田慎次シェフのもとで研鑽を積んだのだといいます。イタリア人も一目置くトーキョー・イタリアンの人気店で腕を磨いた佐藤シェフが、「いわい地鶏とマコモタケのローストブロッコリーソース」がアンティパストとして登場した先日のランチタイムに私を唸らせた2品をサックリとご紹介します。

【Photo】定番の塩焼きもいいけど、こんな意外な組み合わせはいかが? 思いのほかシンプルな調理法なので自作にもチャレンジしたい「秋刀魚とトマトのタリオリーニ」@CEPPA

 まずは「秋刀魚とトマトのタリオリーニ」。秋刀魚とトマトの意外な組み合わせが絶妙のハーモニーを生むシンプルなれど目からウロコな一品。(ウロコがない)秋刀魚の皮面をしっかり焼いた秋刀魚に少量のアサリのブロードとジューシーなフレッシュミディトマトを加えれば、スライスしたトマトのジュレもまたソースになる仕掛けです。適度にほぐして麺になじませ、香り付けにディルを散らせばイタリアンカラーのパスタ料理の完成です。

 材料はフツーに入手できるものばかりなので、ご自宅でも挑戦しやすい一品かと。生パスタにこだわる佐藤シェフは、卵入りの手打ちタリオリーニを使っていましたが、スパゲッティーニやフェデリーニなど入手しやすい細めの乾燥パスタでもいけるでしょう。お供には難しいことは考えず、トレッビアーノやマルヴァジアといったポピュラーなブドウ品種を使ったイタリア産の気軽な白ワインが合うはずです。

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【Photo】ソルベの上に鎮座したイチジクにナイフを入れると、中から桃太郎でもイチジク太郎でもなく、トロリとしたマスカルポーネチーズが現れる。「イチジクのマスカルポーネ風味」@CEPPA

 その日のドルチェは、イタリアではこの季節ポピュラーな果物イチジクを使ったものでした。イチジクの果汁を凍らせたソルベの上に、コロンとした花イチジクが乗っています。ナイフを入れると、赤い果肉の中にはトロリとしたフレッシュチーズが詰め物として入っていました。

【Photo】中部イタリア・ウンブリア州の古都オルヴィエートのドゥォーモ。イタリアンゴシックの最高傑作といわれる聖堂のファサード左側には、蛇にそそのかされてイチジクの実を口にするアダムとイブの浮彫りなど、14世紀初頭にロレンツォ・マイターニと弟子が完成させた旧約聖書の逸話が表現される.。アダムとイブが口にした禁断の果実は、リンゴではなくイチジクだったというのがイタリアでは一般的な考え方(下写真)
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 爽やかな完熟イチジクの風味と、ミルキーなマスカルポーネチーズの穏やかな甘さが、満ち足りた食事の充足感を更に高めてくれます。佐藤シェフによれば、イチジクのお尻からマスカルポーネを注入したのだとか。外見上は穴が見当たらないイチジクの中にどうやってチーズを入れたのかをシェフに確かめたかった私は、その答えを聞くやいなや、昼食を共にした後輩の女性社員2名から顰蹙を買うイチジクつながりな禁断のギャグを口走ってしまいました。

 「それって、文字通りのClistero dello fico じゃないですかっ!!


 敢えてここではイタリア語表記にした箇所は、実際になされた会話では当然のこと日本語でした。ご参考まで単語の意味のみ列記しますと・・・

 ・clistere  (=浣腸・ここは語尾変化でclistero)
 ・dello (=男性名詞の冠詞) 
 ・fico (=イチジク)

 これで意味不明だったタイトルの意味がめでたく判明、clistero dello fico の効能のようにスッキリしたでしょ?

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CEPPA (チェッパ)
住:仙台市青葉区本町1-9-23 アートスリービル 2F
Phone:022-263-7113
営:11:30~13:30  18:00~20:30(L.O.)
  日曜・第3月曜定休
  店内禁煙・カード不可 


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CEPPAイタリアン / 広瀬通駅あおば通駅勾当台公園駅
夜総合点★★★☆☆ 3.5
昼総合点★★★☆☆ 3.5

2011/10/02

アドリア海の恵み「ブロデット」

Piatto2011.10.jpgPiatto10月号こぼれ話 ver.2
「Invito al Piatto 一皿への誘い」
魚介類のブロデット アドリア海風

 月が改まった昨日、毎月第一土曜日に発行されるマンスリーマガジン「Piatto ピアット」10月号が発行されました。特集テーマは「女性目線のステキを見つける デザインのある暮らし」。パナソニック リビングショウルーム仙台で撮影が行われた表紙は、今月も高以亜希子さんにモデルを務めて頂きました。相変わらずおキレイな高以さんの次に私の目を引いたのは、Web Piattoこぼれ話で触れたALESSI社のレモンスクイーザーもそうですが、ディスプレーに使われていた1本のワインには驚かされました。

【Photo】Piatto10月号表紙(上写真) ※Web Piattoは http://piatto.kahoku.co.jp/piatto/

pesce_vineger.jpg そのイタリア・マルケ州産「Pescevino ペッシェヴィーノ」は1996年ヴィンテージ。本来は淡い若草色に輝くはずのヴィーノですが、室温に長期間置かれ、飲み頃をとうに過ぎているため、すっかり変色していました。中身は隣りに置いてある「Maille マイユ」のワインヴィネガーと同じような酢に変わっていることでしょう。エチケッタにはBianco delle Marche(=マルケ州の白)とあるので、間違いなく白ワインなのですが、ここまで激しく変色したワインを見ることはまずありません。

【Photo】一見Rosato(=ロゼ)かと思うようなPescevino。ショウルームのように特別な場合を除き、一般家庭では冷暗所でワインを保管し、飲み頃を過ぎる前に抜栓したいもの

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 さて、シェフとっておきの一皿をご紹介する「Invito al Piatto 一皿への誘い」連載第2回目は、東北No.1リストランテを目指す「リストランテ・パドリーノ・デル・ショーザン」矢島 広之料理長にご協力頂きました。出身地である栃木と東京都内で研鑽を積んだ矢島シェフが、2005年にイタリアへと渡った地が「イタリアの緑の心臓」と呼ばれる中部ウンブリア州の古都Perugia ペルージャ。ウンブリアは地中海に面したイタリア半島では数少ない海に面していない州です。

【Photo】料理への熱い思いを語るパドリーノ・デル・ショーザン料理長・矢島広之シェフ

 地域性が強いイタリアだけに、各地に特徴的な料理が存在し、いわゆるイタリア料理は存在しないとさえいわれます。狩猟が盛んなウンブリア州では、これからの季節、山鳩などのジビエや黒と白が共に採取されるトリュフをよく口にします。こうした内陸ならではの食生活が続くと、日本人なら魚介類が恋しくなるもの。アペニン山脈を越えれば、なだらかな丘陵地が続くマルケ州はすぐ隣。そこには輝くアドリア海の魚介を使った美味しい食事が待っています。

pesceria_senigallia.jpg【Photo】マルケ州アンコーナ県Senigalliaセニガッリアには、古代ローマ時代の円形劇場跡の建物に魚市場が立つ。目の前に広がるアドリア海の新鮮な魚がふんだんに並ぶ

 矢島シェフにお勧め頂いたのは、この地域を代表する魚介料理「Brodettoブロデット」。アドリア海沿岸のこの地域では、お馴染みの魚介スープ「ズッパ・ディ・ペッシェ」をこう呼びます。新鮮な魚介をたっぷりと使うこの料理は、異郷で暮らす矢島シェフの心をよほど捉えたのでしょう。この料理には私にも懐かしい思い出があります。

【Photo】ロレートの料理学校で講習を受けたのがブロデットの調理法だった(下写真)

loreto_scuola.jpg 2003年(平成15)10月にマルケ州アンコーナ県Loreto ロレートにある州立の料理学校を訪れました。有機農業を通じた民間交流を行うため、マルケ州を訪れた鶴岡アル・ケッチァーノ奥田シェフ一行に同行取材を行う中で、その日は同校の講師を務める地元のシェフからマルケ州の郷土料理を教えてもらったのです。

【Photo】同校の講師を務めるアンコーナ県Arcevia アルチェヴィアのリストランテ「Pinocchio ピノッキオ」のシェフ、ロモーロ・ディ・オルチァ氏(左)と有機農産物生産者組合「La Terra e il Cielo ラ・テッラ・エ・イル・チェッロ」代表のブルーノ・セバスチャネッリ氏(右)が講習の模様を見守る(下左写真)  ホテルマンの養成コースもある学校ゆえ、食事のテーブルセッティングも生徒たちが行ってくれた(下右写真)
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【Photo】ロレートの料理学校でご馳走になったブロデット・アンコーナ風(下写真)

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 講習後の食事で豚の丸焼き「Porchetta ポルケッタ」などと共に供されたのがブロデットでした。マルケ州でも地域ごとさまざまな味付けがなされるこの料理。ムール貝やスカンピ(=手長エビ)などの鮮魚だけでなく、タラの干物「Stoccafissoストッカフィッソ」も具材に使われています。魚介のブロードとトマトがコクのある風味を生むアンコーナ風の味付けがなされ、定番のabbinament アッビナメント(=組みあわせ)となるこの地域の白ワイン「Verdicchio castello di jesi ヴェルディッキオ・カステッロ・ディ・イエージ」とではなく、地元の力強い赤ワイン「Rosso Conero ロッソ・コーネロ」と十分に渡り合うのでした。

Brodetto_padrino.jpg 【Photo】火を通す時間を素材ごとに変え、理想的な食感を生むよう矢島シェフのアレンジが加わった一皿。2名から要予約のこの大皿盛りは2名分で6,000円

 矢島シェフは高級魚のキチジをメインにこの日のブロデットを仕上げて下さいました。撮影中に立ち込める芳醇な香りの素晴らしいこと。それだけでワインを頂けそうな勢いです(笑)。あくまでも取材のため、目の前に出された「甲州ワイン牛のビール煮込みソース自家製タリアテッレ」ともども料理には口をつけず、特別にご案内いただけるという1970年代から1990年代の稀少なワインが眠るワインセラーへと後ろ髪を引かれる思いで移動したのでした。

【Photo】暗証コードを知る限られた者だけが入ることが出来るパドリーノ・デル・ショーザンの壮麗なワインセラー(左写真) 私がこれまで飲んだワインの中で、鳥肌が立つほどの感動を覚えた数少ないワインのひとつCh. d'Yquem'83が更なる熟成を重ねるほか、20世紀屈指のグレートヴィンテージ1990年産のボルドー五大シャトーが揃い踏み(右写真)
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 世界的な潮流の中で、実績を築いてきたフレンチからイタリアンにリニューアルして2年あまり。今後はイタリアワインも充実させたいと成澤政道マネージャー兼シェフソムリエは語ります。
I shall return!!baner_decobanner.gif
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Ristorante Padrino del Shozan
リストランテ・パドリーノ・デル・ショーザン

住:仙台市青葉区上杉2-1-50
Phone:022-222-7834
営:11:30~15:00(L.O.14:00)
  17:30~22:30(L.O.20:30) 月曜定休(祝日の場合は翌日休)
URL:http://www.shozankan.com/padrino-del-shozan/ 

2011/09/25

仙台初「真のナポリピッツァ協会」認定店が誕生

Complimenti !! Pizzeria Padrino
 おめでとう!! ピッツェリア・パドリーノ

atessaAVPN.jpg【Photo】9月21日にピッツェリア・パドリーノで行われた「真のナポリピッツァ協会」認定審査の模様。 いつも通りの鮮やかな手さばきでAcunto のピッツァ窯を扱う千葉 壮彦ピッツァイオーロ

 昨年の実食レポート Link to backnumberで、仙台圏で唯一「Verace Pizza Napoletana =真のナポリピッツァ」を味わえる店であることを確認、今年7月に「アクロバットもスゴイんです」Link to backnumberで予見した通り、仙台市青葉区の「Pizzeria Padrino ピッツェリア・パドリーノ」が、宮城初の「Associazione Vera Pizza Napoletana アソチアツィオーネ・ヴェラーチェ・ピッツァ・ナポレターナ(以下、真のナポリピッツァ協会)」認定店として登録されました。Bravissimo!!
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【Photo】千葉さんが焼き上げたピッツァを前に仕上がりをチェックするガエターノ・ファツィオ氏(中央)、西川 明男氏(左)、渡辺 陽一氏(右)

 真のナポリピッツァ協会による本審査が行われたのは、9月21日(水)。9月16日~18日に東京汐留のイタリア街で開催された「ナポリピッツァフェスタ2011」のため、ナポリの協会本部から来日したマッシモ・ディ・ポルツィオ会長代行ら4名の役員のうち、主任技術指導員を務めるガエターノ・ファツィオ氏と、同協会日本支部長で日本第1号認定店である兵庫県明石市のピッツェリア・リストランテ「さくらぐみ」西川 明男氏、副支部長で東京広尾にあるピッツェリア「パルテノペ」の渡辺 陽一氏の3名が審査に当りました。

atessa2_AVPN.jpg【Photo】審査する側、審査される側ともに真剣な表情。脇から審査の成り行きを見守るのは、オーナーである仙台勝山館の伊澤 泰平社長

 EUが伝統的な製法による食品に対して与える統一規格「Specialità Tradizionale Garantita 伝統的特産品保証」に認定されるナポリピッツァ。イタリアではシチリアの伝統的な操り人形劇「Pupi プーピ」や男声4名によるサルデーニャの牧羊歌「Canto a tenore カント・ア・テノール」が、日本からは能楽や歌舞伎が登録されているユネスコの「無形文化遺産」への登録を目指す動きもあります。現在世界20カ国で370店以上が認定を受ける真のナポリピッツァ協会認定店への登録に際しては、厳格な国際規約に沿って審査が行われます。

atessa4_AVPN.jpg 【Photo】3代続くイスキア島のリストランテ・ピッツェリア「Da Gaetano ダ・ガエターノ」のオーナー・ピッツァイオーロ、ガエターノ・ファツィオ氏。この道50年以上、真のナポリピッツァ協会では主任技術指導員を務めるマエストロが焼き上げたばかりのピッツァの仕上がり具合を実食して確認

 これまで東北ブロックでは唯一の登録店だった鶴岡「穂波街道 緑のイスキア」Link to Backnumberに続く登録店を目指してこのほど審査を受けたのは、事前審査をパスしていた岩手県盛岡市の「Piace ピアーチェ」と ピッツェリア・パドリーノの2店。20日に審査が先行して行われたピアーチェが、東北で2番目の認定店と認められた翌21日、台風15号が仙台に最接近する荒れ模様の中で審査が行われました。

 東日本大震災の影響で、春に予定していた来日を急遽取り止めたガエターノ氏。これまで数多くのピッツァイオーロ(Pizzaiolo=ピッツァ職人)を志す日本人をイスキア島にある自身の店「Da Gaetano ダ・ガエターノ」で受け入れてきた親日家でもあるガエターノ氏は、多くの命が失われた今回の震災に話が及ぶと、ポロポロと涙を流しました。2004年に認定店となった広島の「Pizza Riva ピッツァ・リーヴァ」の審査終了後、本人のたっての希望で原爆ドームを訪れた際も、目を真っ赤に泣き腫らしていたといいます。マエストロはイタリア人らしく情に厚い方なのですね。

Complimenti_ciba.jpg【Photo】審査対象の9項目中、最高得点のOttimoが8つというハイスコアを達成。通常は後日送られて来る真のナポリピッツァ協会認定店としての証しであるプルチネッラの看板が事前に用意された。世界で374番目の認定店であることを示す遠し番号が入った看板がマエストロ・ガエターノから即日交付された

 私の事前リサーチでは、控えめな言葉ながら、自信のほどをのぞかせていた千葉 壮彦(たけひこ)ピッツァイオーロ。審査員の矢継ぎ早の質問が飛び、射るような視線を浴びる中で行われた本審査では、9項目中8項目で最高点の「Ottimo オッティモ」、修正が容易な具材の分量に関してのみ次点の「Buono ブォーノ」というほぼ満点の結果で見事合格。晴れて世界で374番目となる真のナポリピッツァ認定店の称号を得たのです。

atessa5_AVPN.jpg【Photo】真のナポリピッツァ協会が認定店に対して発行する認定証

 審査に当たったガエターノ氏は、「世界中どこに行っても、これだけの高い評価を与えることは、そうあることではない。この結果は、彼が真剣にピッツァと向き合っていることの証しである」と千葉さんを褒めたたえました。

 ピッツェリア・パドリーノのオーナー企業「仙台 勝山館」Link to Websiteのグループには、「宮城調理製菓専門学校」Link to Websiteがあります。その研修施設カフェ・ピッツェリア「IL VIALE イル・ヴィアーレ」は、ピッツエリア・パドリーノと同じく、ナポリのピッツァイオーロから信頼の厚い「Gianni Acunto ジャンニ・アクント」製の石窯を備えています。今後同校には、真のナポリピッツァ協会本部から派遣されたピッツァイオーロが、生徒への技術指導に定期的に訪れるのだそう。そうして本場の空気を感じる機会は、得がたい経験となるはずです。

marinara_2011.9.21.jpg【Photo】認定後初のオーダーは、念願が叶ったオーナーの伊澤 泰平社長にお譲りし、2番目の客として注文した私の定番であるナポリ伝統の香ばしいピッツァ「マリナーラ」

 まずは当面の目標を達成した千葉さん。今回の認定を機に、宮城調理製菓専門学校で学ぶ後進の指導に当たりたいと抱負を語ります。この夏、仙台駅前に進出したナポリピッツアを標榜する店の残念な出来に落胆させられるなど、本場ナポリの味を忠実に再現するピッツェリアの空白地域だった宮城。(私のような?)一部のマニアだけでなく、広く一般の人にナポリピッツァに親しんでもらえるよう頑張りたいと次なるステップに向けて意欲を見せます。

 薪の香りが香ばしいモチっとしたナポリ直伝の生地の美味しさを味わって頂きたいこの店。新たなる目印は、認定店の証しであるピッツァを窯に入れる木製の道具パーラを手にしたナポリの道化プルチネッラの看板。そこには世界共通の通し番号374が記されています。千葉さんは、その番号にピッツァを食べてくれた皆(37)が幸せ(4)になってほしいという願いを込めながら、これからも窯の前に立ち続けます。
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atessa6_AVPN.jpg「真のナポリピッツァ協会」認定店
Pizzeria Padrino ピッツェリア・パドリーノ
 住:仙台市青葉区上杉2-1-50 勝山館1F
 Phone:022-222-7834
 営:昼11:30~15:30 夜17:30~20:30
   月曜定休(祝日の場合は翌日休)
 メニューはコチラ
 URL:http://www.shozankan.com
 

2010/12/26

待望のピッツァ・ナポレターナ@仙台

新生「Pizzeria Padrino 」で
 県内随一のPizza Napoletana を

 皿の上だけでは、生命を健全に維持する食べ物の背景は見えてきません。自宅に居ながら食材が届くお取り寄せもまた同様です。実際に産地や料理の本場に足を運び、背景にある風土や歴史を知り、人と接することで、それまでは気にもとめなかったことが初めて見えてきます。

spacca_napoli1.jpg【photo】無秩序でも魅力的なナポリを象徴するSpacca Napoli スパッカ・ナポリ地区

 Viaggio al Mondo ~あるもん探しの旅~では、主観に基づく断定が氾濫する飲食店情報サイトのような個人的価値観を振りかざして飲食店の優劣を語ることをしていません。これは上から目線が鼻につく赤い装丁の某レストランガイド本が、☆の数で店をランク付けする手法を良しとしない私の考えによるものです【注1】。以上の原則をもってしてもなお、是非ご紹介したいピッツェリアを、今回は期待を込めて取り上げます。

 喧騒渦巻くナポリの下町で生まれた庶民の味ピッツァ。仙台におけるナポリピッツァ草分けの「Pizzeria de Napule ピッツェリア・デ・ナプレ」が、小麦をオーガニックに切り替えて以降、一番町に店があった頃から追求していた本場と寸分違わぬ食感が変わってしまいました。香坂ピッツァイオーロの不在が恒常化して以降、これぞ!と納得できる店が、仙台と名取・富谷など近郊には長いこと存在しませんでした。砂をかむような空白期間に終わりを告げる本物のピッツァ・ナポレターナを従来よりぐっとリーズナブルに【注2】味わえるピッツェリアが、このほど仙台に登場しました。以下、実食による速報レポです。

taihei_isawa.jpg【photo】薪窯を前に意欲を語る勝山企業 伊澤 泰平社長

 先月30日、東北No.1のリストランテを目指す「Padrino del Shozan パドリーノ・デル・ショーザン」を会場に催された「宮城・ローマ交流倶楽部」のクリスマスパーティで、勝山企業の伊澤泰平社長とお会いしました。パーティがはねた後、リストランテの入口に設置されたひときわ目を引くピッツァ窯が、いかに性能が良く、いかに造作にこだわったかを30分以上に渡ってご説明頂きました。芸術的な板金加工で注目される宮村浩樹氏〈Link to website〉が手掛けた窯は、本場でも滅多にお目にかかれないような、一見の価値があるゴージャスで美しい窯です。

 宮村氏の見事な職人技が光る銅製の天蓋と煙突、打ち出しによる「PADRINO」の銘板が正面を飾るその窯は、ナポリで最も信頼される薪窯工房「Gianni Acunto ジャンニ・アクント〈Link to website 〉」による完全オーダーメード。ピッツァを載せる炉床には熱伝導が穏やかなソレント近郊の粘土を用い、6人の職人が窯ひとつを4~5日かけて仕上げます。この窯を東北で使っているのは、知る限りにおいて宮城調理製菓専門学校併設の実習カフェ・ピッツェリア「Il Viale イル・ヴィアーレ」を除けば、鶴岡「穂波街道 緑のイスキア《Link to backnumber》」のみ。今年8月オープンした弘前「ピッツェリア・ダ・サスィーノ」では、同社の技術を受け継ぐジャンニの弟マリオのブランド「Mario Acunto マリオ・アクント〈Link to website〉 」 を導入しています。日本では輸送コストが上乗せされるイタリア製を導入せず、コスト面から日本製の窯を使ったり、自作する場合すらありますが、耐久性や性能では、やはりイタリア製に及びません。

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 「窯の中に手を入れてみて下さい」という伊澤社長に促され、開口部を覆う銑鉄製の蓋を外した窯に手を入れてビックリ。昼の営業終了後の15:30過ぎに火を落としたという窯の中は、6 時間あまりを経てなお、サウナどころの熱さではなく、一瞬で手を引っ込めてしまいました。「この断熱と保温性能の素晴らしさこそイタリア窯の良さです」と伊澤社長。リストランテを兼ねるピッツェリアでは、朝一番に前夜の余熱でパンを焼いてしまうというのも頷けます。

takehiko_chiba@padrino.jpg

 伊澤社長は「ナポリの庶民の味であるピッツァが手頃な値段であるように、もうすぐ素材のクオリティとピッツァの美味しさはそのままに、価格の大幅見直しをしますよ!! 期待してください」と語りました。今から2010年前、救世主の誕生を心待ちにしたベツレヘムの羊飼いの心境はかくありなんと、リニューアルした「Pizzeria Padrino ピッツェリア・パドリーノ」を先週から今週にかけて2度訪れました。まずは自分の舌でナポリを代表するピッツァ、マルゲリータとマリナーラを実食するためです。

【photo】調達しうる最高の素材と窯で本場仕込みのピッツァ・ナポレターノを提供する千葉 壮彦ピッツァイオーロ

 窯を預かるのは、本場ナポリで2年半腕を磨いた登米出身の千葉壮彦(たけひこ)ピッツァイオーロ。聞けば2000年(平成12)から2年間、ピッツェリア・デ・ナプレで、香坂師匠からナポリ仕込みの味をたたき込まれたのだそう。後半の1年間は、店に寝泊りして基礎を固めたそうです。「冬は良かったのですが、夏は大変でした」と千葉さん。そりゃ、そうでしょう。体の芯から暖まる遠赤外線を発する薪窯の暖房完備のもとで寝なければならないのですから(笑)。

takehiko_chiba2@padrino.jpg ペルージャでの語学研修の後、千葉さんは単身ナポリに渡ります。2003年に誕生し、のちに国内外に95店舗を展開するまでに急成長した「Fratelli la Bufala フラテッリ・ラ・ブファーラ」のナポリと近郊のカセルタにあるグループ店舗で働きます。ピッツェリア・パドリーノの生地に同じ小麦の配合を取り入れたという名店「Di Matteo ディ・マッテーオ」でも2ヵ月腕を磨き、都合2年半、本場で研鑚を積みました。2002年冬に帰国後は、古巣のピッツエリア・デ・ナプレを経て、五反田の「Galibardi ガリバルディ」を立ち上げた後、日本におけるピッツァ・ナポレターナの第一人者、渡辺 陽一氏の店「パルテノペ恵比寿」の厨房で南イタリア料理もマスターします。

【photo】生地の向きを変えながら、窯の中の対流熱で一気に焼き上げる

 期待を胸に訪れたピッツェリア・パドリーノは、チケット前払いのセルフサービスによるカジュアルなシステムを取り入れています。9時に薪で火入れした窯の炉床は理想的とされる450℃~485℃を維持するよう目を配ります。小麦粉は名だたるピッツァイオーロが厚い信頼を寄せ、ナポリにおけるシェアが7割を超えるという製粉メーカー「Antimo Caputoアンティモ・カプート〈Link to website〉」のピッツァ専用小麦粉、小麦の芯の部分を細挽きしたRinforzato tipo"00" リンフォルザート(通称Sacco rosso サッコ・ロッソ=赤袋)とPizzeria ピッツェリア(通称Sacco blu=青袋)の二種を配合して使用します。

【photo】窯の目の前でアツアツを味わえる至福のピッツァ・マルゲリータ

margherita_padrino.jpg テイクアウトにも対応しますが、ピッツァは焼き立てが一番。チケットを購入して南欧の雰囲気を漂わせる開放的なテーブル席で頂くとしましょう。サイズはS(直径14cm)M(20cm)L(28cm)の3つ。ナポリでは、おおよそ28cm がスタンダードな大きさとなります。ナポリピッツァの代名詞ともいえるマルゲリータの重要なファクターであるモッツァレラ・ブファーラ(水牛乳のモッツァレラチーズ)とフィオール・ディ・ラッテ(牛乳のモッツァレラ)は、発祥の地カセルタで伝統製法による少量生産を貫く「Caseificio Ponticorvo カセイフィチョ・ポンティコルヴォ〈Link to website 〉」から出荷後24時間以内に日本へ届く鮮度の高いものを、週3回空輸で取り寄せているそうです。

 能書きはこのぐらいにして、お味のほうが気になるところ。窯を目の前にしたポールポジションで焼き立てを味わえるのがうれしい限り。ナポリのピッツァ好きたちは、なるべく窯に近い席に陣取り、ピッツァが運ばれてくると、それまで身振り手振りを交えて夢中になっていたおしゃべりを止めて食べ始めます。日本で言えばカニを食べる時の真剣さに似ているかもしれませんね。最初に頂いたマルゲリータ、後日頂いたオレガノが香ばしい生地と絡み合うマリナーラともに、非の打ち所がなく一気に食べ切ってしまいました。

marinala_padrino.jpg【photo】マリナーラ。チーズを用いず、生地の上にトマトソース・ニンニク・オレガノ・バジルをトッピングするナポリ伝統のピッツァ。このようにピッツァ・カッターでカットされた上でサーブされる

 現状ではカトラリーが簡易なプラスチック製のため、本場とは違ってカッターで6つに切り分けてサービスされます。私が頂いたLサイズは、6等分してあっても一口では食べきれないため、更に半分に切り分け、中心からコルニチョーネと呼ばれる盛り上がった縁へ向かってクルクルと生地を巻いて頂きました。嬉しいことに価格が手頃なので、小ぶりなSサイズならば、2種類の異なるピッツァを時間差でオーダーしてもいいでしょう。

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 私が頂いたマルゲリータ、マリナーラともにピッツァ・ナポレターナの風味を忠実に伝えるものでした。千葉ピッツイオーロによれば、オリジナルメニューの「ヴェルデ・ポッロ」(マリナーラ+サニーレタス・エンダイブ・トレビス、トマト、ローストチキン、マヨネーズドレッシング、パルミジャーノ)と「パルミジャーナ」(マルゲリータ+メランザーネとミートソースのグラタン)も是非味わってみて下さいとのこと。まずは私が頂いた基本の2品から、お熱いうちにBuon appetito ~♪

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URL:http://www.shozankan.com
 
<メニュー一例>
マリナーラ :S500円 M700円 L1,000円
マルゲリータ:S600円 M850円 L1,200円
ヴェルデ・ポッロ / パルミジャーナ:S710円 M1,000円 L1,500円
※テイクアウトは上記と同額。リストランテからもピッツァはオーダー可能

【注釈1】 八つ当たり気味の本音炸裂トークは「ルチアーノ・サンドローネ訪問記」冒頭部分を参照願います 

【注釈2】スパッカ・ナポリ地区にある名店 Di Matteo では、マリナーラ2.5エウロ、マルゲリータ3エウロ、小腹が空いた時に食べる生地を揚げただけのPizza fritta は1エウロ。軽食がとれるBar(バール)以外のイタリアの飲食店では、少なくとも一食につき20エウロ以上の出費が必要だが、ピッツェリアは例外。一皿で完結する食事を意味する「Piatto unico ピアット・ウニコ」を手軽に食べることができるピッツェリアは庶民の味方である

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2010/07/25

珠玉のパスタ、Gragnano グラニャーノ

「味の箱舟」にオンリストされるパスタ
 Fusilli Lavorati a mano 手作りフジッリ @EATALY 代官山

 オステリアとして生まれ変わった施設2Fの「オステリア・イータリー」を前回ご紹介した「Eataly 代官山」をもう少し掘り下げてみましょう。

eataly_pane.jpg【photo】ピエモンテの製粉業者Mulino Marino の石臼挽きしたオーガニック小麦と天然酵母で自家発酵させたパン生地を店内で焼き上げるベーカリーには本格的なパン釜を備える。
 パン職人Panettiere パネッティエーレの仕事ぶりはガラス越しに眺めることができる

 1,200 種類以上の食品をイタリア本国から輸入するという Eataly 代官山では、マーケットエリアで扱う品数の多さにまず圧倒されます。ワインに薬草を加えたリキュール、ベルモット製造元のCarpano 社工場跡にできた14,000平方メートルもの広大なトリノ本店のキーコンセプトにはスローフード協会が全面的に協力しています。「Comprare, Mangiare,Imparare コンプラーレ・マンジャーレ・インパラーレ(=買って, 食べて, 学んで)」という本国で成功を収めているコンセプトは代官山にもそのまま反映されています。

eataly_formaggi.jpg【photo】鮮度の良い食肉加工品・チーズ類も豊富に揃う。ものによっては試食も可能

 ピエモンテ州・リグーリア州といった北イタリアを中心にワイン400種・食肉加工品40種・チーズ80種・パスタ70種もの豊富な食材が並ぶマーケット・エリアは、そこがニッポンであることを忘れさせるほどの充実ぶり。

 日本国内でも流通する大手メーカーの量産品ではなく、高い品質を備えた小規模な生産者の製品が Eataly のほとんどを占めます。7年前に訪れたマルケ州のビーチリゾート、Senigallia セニガッリアの☆☆付きリストランテ「Uliassi ウリアッシ〈Link to website〉」と人気を二分する「La Modonnina del Pescatore マドンニーナ・デル・ペスカトーレ〈Link to website〉」の著名な料理人、モレノ・チェドローニのレシピを製品化したMarmellata マルメラータ(=ジャム)などの品も並ぶ店内に足を踏み入れた私が狂喜したのは言うまでもありません。

eataly_pasta.jpg【photo】Eataly 代官山のパスタ売り場はパスタの国イタリアさながらのラインナップ

 長さ5 mほどの陳列棚の前後左右4 面に並ぶパスタだけをとっても、ピエモンテ州では秋に白トリュフと共に食される卵黄の細麺パスタ「Tajarin タヤリン」、ジェノヴァ発祥のバジルソース、Pesto Genovese ペスト・ジェノヴェーゼのために作られたリグーリア州の「Trofie トロフィエ」、隠れ家的な仙台の新生イタリアン「CEPPA チェッパ」佐藤シェフが余りパスタ生地からよく作る不揃いな形の「Maltagliati マルタリアーティ」など、さまざまなショートパスタ、ロングパスタがズラリで目移りするほど。

 上の写真をご覧の通り2 面全てを埋め尽くし、最も幅を利かせているのが、ナポリから南東に20km下ったソレント半島の付け根にあたる人口3万人ほどの Granago グラニャーノで作られるパスタです。Città della Pasta(=パスタの町)として知られるグラニャーノは、パスタ作りにおける理想的な4つの条件を備えています。南イタリア特有の強い陽光、背後に控えるラッターリ山(標高1,444m )とポンペイを挟んで北方のヴェスヴィオ山(標高1,281m )から吹き降ろす乾燥した風、サレルノ湾の海岸線から2kmという位置にあるゆえの適度な湿度、そしてラッターリ山系の良質な硬度の低い伏流水。これらが地元カンパーニャ州などで生産される最高品質のGrano duro グラノ・ドゥーロ(=硬質小麦)を原料に、パスタ生地の表面から内側までじっくりと乾燥させる最適な環境を生むのです。

gragnano_pasta.jpg 19世紀後半、乾燥パスタの主原料となる硬質小麦の一大産地であった南イタリアから多くの移民が新大陸に移住しました。故郷の味を懐かしむイタリア系アメリカ人(⇒庄内系イタリア人を名乗る私の遠縁にあらず)にナポリ港から大量のパスタを輸出するため敷設された鉄道が、パスタの町グラニャーノの名声を高めるのに寄与しました。パスタ製造所が多く、パスタ職人通りを意味するVia dei Pastai パスタイ通りや目抜き通りのVia Roma ローマ通りには、かつてパスタを天日干しする光景が日常的に見られましたが、現在は衛生面への配慮から法律で禁止されています。

【photo】パスタ製造に理想的な環境に恵まれたグラニャーノでは、屋外でのパスタの天日干しが日常的な光景だったが、現在では見られなくなった

 乾燥パスタ作りに機械乾燥が全面的に導入された現在では、立地に関係なく大量生産が可能となりました。イタリア国内で最大のシェアを持つBarilla バリラ社は、中部イタリア、エミリア・ロマーニャ州パルマ近郊の高速A1(通称アウトストラーダ・デル・ソル)沿いに唖然とするほど巨大な工場があります。このポー川流域の肥沃な平原地帯では、乾燥パスタには用いないGrano Tenero グラノ・テネーロ(=軟質小麦)が生産されます。

don_alfonso_paccheri.JPG【photo】ホースを輪切りにしたような形のパスタ「Paccheri パッケリ」。ソレント近郊の名リストランテ「Don Alfonso 1890 ドン・アルフォンソ1890」が"平手打ち"という意味のこのパスタを特注した先はグラニャーノのパスタメーカー「Di Nola ディ・ノーラ

 イタリア国内には現在135のパスタメーカーがありますが、乾燥パスタが主流となる南イタリアのグラニャーノには、現在11社が存在しています。谷あいにあるグラニャーノでは、おのずと規模の制約を受けますが、国内生産量の4.2%を占め、年産6万トンの生き生きとした小麦の香りが残る「低温・長時間乾燥」と、ころがり抵抗の強い青銅製の鋳型で表面がざらつくよう白っぽく形成する「ブロンズダイス製法」による高品質なパスタを生み出しています。

fusilli_2.jpg【photo】イタリア食文化の精華を伝えるEataly の主力をなすパスタ、Afeltra アフェルトラ社の製品2種。Rigolosa リゴローザ 穴あきフジッリFusilli con bucoは中心が空洞になるよう作られた青銅の型で成形する(写真左)。味の箱舟に登録される IL PASTAIO DI GRAGNANO イル・パスタイオ・ディ・グラニャーノFusilli Lavorati a mano フジッリ・ラヴォラーティ・ア・マーノ(写真右)

 近年のグローバル化と小麦価格の高騰は、500年近い伝統に培われた職人技に支えられてきたグラニャーノのパスタ産業にとって逆風となっています。ここ数年、廃業に追い込まれる業者が出る中で、2003年には地元の9 社からなる「Consorzio Gragnano Città della Pasta グラニャーノ・パスタの町協会〈Link to website〉」が発足、グラニャーノ産パスタに関する普及啓蒙を行っています。協会加盟の生産者の中で仙台で入手しやすいのは、明治屋仙台一番町ストアで売られる「 Garofalo ガロファッロ」と、南イタリア随一の著名なリストランテ「Don Alfonso 1890 ドン・アルフォンソ1890〈Link to website〉」が店名を冠したパスタを特別注文する先として選んだ1555年創業の「Di Nola ディ・ノーラ 」の二社でしょうか。

【photo】 Afeltra アフェルトラ社を傘下に収める Eataly のイートインでは、レベルの高いグラニャーノ産パスタでも一目置かれる同社のパスタを提供する。一口食べれば、たちどころに格の違いを実感できるはず。

eataly_eatin.jpg スローフード協会が目利きしたEataly 代官山のグラニャーノ産パスタは、Di Nola ディ・ノーラと1848年に創業した「Afeltra アフェルトラ」のふたつ。アフェルトラについては比較的手頃な価格の赤い紙パッケージに入った「Rigolosa リゴローザ」と透明な包装フィルムの「IL PASTAIO DI GRAGNANO イル・パスタイオ・ディ・グラニャーノ」という二つのラインが揃います。初めてマーケットエリア内に設けられたイートインスペースで食べたエビとフレッシュトマトのグラニャーノ産スパゲッティに受けた衝撃は強烈でした。モチっとした腰の強い食感と小麦を噛みしめるかのような芳醇な薫りには、驚きを禁じえません。Eataly がこだわる本物の凄さは、このパスタを食するだけでもお分かり頂けるはずです。

◆グラニャーノのパスタメーカー、GENTILE社の生産の模様はコチラ。2:03 頃からフジッリ・ラヴォラーティ・ア・マーノ作りに携わる女性職人フジッライアが登場

afeltra-fusilli-a-mano.jpg グラニャーノ伝統の深遠なるパスタ文化に触れたい方は、「Fusilli Lavorati a mano フジッリ・ラヴォラーティ・ア・マーノ」をどうぞ。フジッリ専門の作り手であるFusillaia フジッライアと呼ばれる女性たちが、細長い金属の棒に手作業でパスタ生地を巻き付けて螺旋状に成形するこのパスタは、文字通り手仕事(Lavorati a mano)によって一本ごと作られています。最近では、技能と根気を要するこのパスタ作りを受け継ぐ女性が少なくなってきました。そこでスローフード協会は、古き良き伝統を今に伝える Fusilli Lunghi a Mano をプレジディオ(=味の箱舟)に指定したのです。トリノのEatalyでもこのパスタは500gで€ 9,80と高めに価格が設定されています。

◆イタリアのジャーナリスト・TVコメンテータ、アントニオ・ラブラーノ氏がグラニャーノのパスタ作りを紹介する番組にも手作業で行われるフジッリ・ラヴォラーティ・ア・マーノが登場(2:05~)

 手仕事ゆえコイル状の形自体が不揃いで、長さもまちまちになりますが、それも味わいのうち。ブロンズダイスによる機械成形が生まれる以前の伝統製法によるこのフジッリは、長さが50cmほどもあります。パスタ作りにとって理想的なグラニャーノの水と挽いた小麦を真空で撹拌・混合することで、効率優先の機械乾燥にありがちな高温・短時間乾燥がもたらす温度上昇によるグルテンの劣化が避けられます。さらに風味を失わわぬよう、45℃から50℃未満で、形状ごと24時間から52時間をかけて低温・長時間乾燥が行われたそのパスタは、全てにおいて一線を画するものに仕上がります。

 マンマが手作りしたプレジディオのパスタを半分に折ってしまうのはもったいないし、よほど胴の長い特殊な鍋でなければそのまま茹でることは叶いません。いざ買ったはいいが、どうやって茹でるかが思案のしどころです。いっそのことパッケージの裏面に記載されたServizio Clienti(=顧客サービス窓口)の電話番号081-8736080 に「Pronto...(=「もしもし」の意)」と問い合わせしようかと真剣に悩む私なのでした。


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Eataly 代官山
eataly_logo.jpg 住:東京都渋谷区代官山町20-23 代官山ラヴェリア2F
(東急東横線 代官山駅より徒歩2分)
Phone:03-5784-2736
営:マーケット 10:30‐21:30 
  イートイン 11:00‐21:00(L.O.)平日15:30-17:30休憩
  バール   11:00‐21:30
URL:http://www.eataly.co.jp/top/welcom.html

Premiato Pastificio Afeltra
Via Roma,8/20 Gragnano(NA)
Phone:(+39)081‐8736080


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2010/07/11

Osteria di Eataly オステリア・イータリー誕生

スローフード協会ご用達
Osteria del Boccondivino オステリア・デル・ボッコンディヴィーノ直伝
深谷 政宏シェフのピエモンテ料理@EATALY 代官山

esterno_slowfoood.jpg イタリア・ピエモンテ州Bra ブラにあるスローフード協会本部が入る古びた建物の棟続きに一軒のオステリアがあります。中庭に咲く藤の花がテラスに伸びる二階にある店の名は「Osteria del Boccondivino オステリア・デル・ボッコンディヴィーノ」。イタリア語で美味なものを意味するBocconeとVino(=ワイン)を掛け合わせた造語です。気取らないオステリアらしく手頃な料金で良質なピエモンテ料理を提供するこの店は、1984年12月のオープン当初から、のちにスローフード運動の母体となる「ARCI アルチ」のメンバーと深く関わってきました。

【photo】小さな村 Bra ブラの一角にあるスローフード協会本部のある二階建ての建物の入口に架かるOsteria del Boccondivino オステリア・デル・ボッコンディヴィーノの看板(右写真)

Tonno_gallina_aceto.jpg【photo】わずか€19という良心的な価格でロビオーラ・ディ・ロッカヴェラーノのトマト風味ショートパスタにドルチェとカッフェが付くオステリア・デル・ボッコンディヴィーノのセットメニュー「Colazione di Lavoro n.1」にアンティパスト(=前菜)として組み込まれる雌鳥を使った伝統料理「Tonno di gallina all'aceto balsamico トンノ・ディ・ガッリーナ・アッラ・アチェートバルサミコ」は、その名の通りツナのオイル漬けのような食感が面白い(左写真)

 カルロ・ペトリーニ会長など協会本部のスタッフが昼夜を問わず食事に訪れるこの店は、スローフード運動が目指す理念を味覚で体感するにはうってつけといえます。トリノの南方約30kmの町、カルマニョーラ産の銀毛ウサギ「Grigio di Carmagnola グリージオ・ディ・カルマニョーラ」、200年来変わらぬ製法で作られる稀少なヤギ乳主体のチーズ「Robiola di Roccaverano ロビオーラ・ディ・ロッカヴェラーノ」、牛肉のタタキ「Carne cruda カルネ・クルーダ」や皿にとぐろを巻いた状態で供される名物ソーセージ「Salsiccia di Bra サルスィッチャ・ディ・ブラ」などで生食される「Vitelli Piemontesi ヴィテッリ・ピエモンテーズィ(= ピエモンテ牛)」など、絶滅の瀬戸際にある保護すべき小規模な生産者の手になる伝統食材「Presìdio プレジディオ(= 味の箱舟)」を用いた料理がメニューに並びます。

eataly_2010.6.19.jpg【photo】中庭で新型Lancia Delta の展示会が行われる傍らのオープンカフェで人々が憩うEataly代官山。左手がマーケットゾーン、右手1Fがカフェ・パスティチェリア、エノテカ。オステリア・イータリーはその2Fにある

 今年で創刊20周年を迎えたスローフード協会が発行する美味しい料理を手頃な価格で提供する約1,700軒を網羅するレストランガイド「Osterie d'Itala オステリー・ディタリア」のみならず、さまざまなガイド本に取り上げられるこの名店で1991年から9 年にわたり研鑚を積み、つい先ごろ凱旋帰国したのが、Masa こと深谷 政宏シェフです。スローフード協会が監修して2007年にオープンした「Eataly Torino イータリー・トリノ」国外初進出のショップとして2008年9月に東京・代官山にできた「Eataly 代官山」内のレストラン「Guido per Eataly グイド・ペル・イータリー」が、このほど「Osteria di Eataly オステリア・イータリー」としてリニューアル。深谷シェフがボッコンディヴィーノ仕込みのスローフード発祥の地・ピエモンテの味を提供する店として生まれ変わりました。

masahiro_fukaya.jpg【photo】オステリア・イータリーの厨房に立つ深谷 政宏シェフ

 海外展開第一号店となった代官山のほか、現在では日本橋・八重洲に3店舗を構えるEataly。国内最大規模のイタリア食材を取り揃えるマーケットゾーンのみならず、入手困難なイタリアパンを石臼挽きしたMulino Marinoのオーガニック小麦と天然酵母で焼き上げるベーカリー、バール・パスティチェリア、日本人初のAISイタリアソムリエ協会認定ソムリエの資格を持つ林 茂CEOがセレクトしたヴィーノがずらりと揃うエノテカ、素材の良さを実感できるイートインスペースなどから構成される代官山店を訪れた6月19日(土)は、オステリアとしてのオープン初日でした。
osteria_eataly1.jpg【photo】中庭に面した側が一面ガラス張りで明るく開放的な雰囲気のオステリア・イータリーは、シンプルモダンな内装にふさわしいオステリアとして生まれ変わった(右写真)

 ここぞとばかりに食材を買い込んだマーケットゾーン前の中庭を挟んだ二階にあるオステリア・イータリーは、ガラス越しに射し込む陽光が溢れるモダンな雰囲気。真紅のヴェネツィアンガラス製シャンデリアと、ランゲ丘陵の風景写真パネルが豊穣なる北イタリアの地へと来店客を誘います。マーケットで扱う食材を使用したこの日のメニューには、プレジディオ指定を受ける岩手短角牛のほか、比内地鶏といった東北産の食材がオンリストされていました。

arneis_eataly.jpg【photo】ハウスワインはピエモンテ州Roero DOCGの作り手Castello di Santa Vittoria の白ワイン Roero Arneis と赤ワイン Nebbiolo d'Alba 。グラス(500円)カラフェ(1500円)

 期せずして11時30分の開店直後に改装後一番乗りを果たしたため、深谷シェフやフロア担当の澤口 雅史さんに話を伺うことができました。Reggero レッジェーロ(1,800円)、Piccolo ピッコロ(2,800円)、Complate コンプレート(3,800円)のランチコース3 種から、アンティパスト・パスタ・ドルチェ・カッフェがセットされたレッジェーロとVini della casa(=ハウスワイン)のヴィーノ・ビアンコ「Roero Arneis ロエロ・アルネイス」をまずはお試しとグラスでオーダーしました。

Insalada_tonna.jpg【photo】素材の味を活かしたシンプルで毎日でも食べたくなる料理を提供したいと言う深谷シェフの手になる比内地鶏を使ったインサラータ・ディ・トンナは、ボッコンディヴィーノのエッセンスを色濃く感じる
 
 アンティパストは比内地鶏をマリネした「Insalata di tonna インサラータ・ディ・トンナ」。ピエモンテ料理というと、肉の脂を多用するものを連想しますが、これは全く違います。丸ごと4時間ボイルしてから一晩冷蔵庫に置いて処理したという比内地鶏の食感は、ふんわりあくまで軽やか。見た目といい味といい紛れもなくTonno(=イタリア語でマグロの意)そのもので、言われなければ鶏肉とは思わないでしょう。ボッコンディヴィーノでは、「Tonno di gallina all'aceto balsamico トンノ・ディ・ガッリーナ・アッラ・アチェートバルサミコ」という料理が登場します。上記参照〉直訳すると「雌鳥のマグロ・バルサミコ酢風味」といったところ。雌鳥を丸ごとボイルし、一晩おいてから肉をほぐしてオリーブオイルでマリネしたもので、ピエモンテでは伝統的な調理法のひとつです。

vesuvio_eataly.jpg【photo】アスパラガスとパンチェッタのヴェズーヴィオ・オイルとチーズ風味。ヴェスヴィオ山のような形をしたこのパスタは、有史以来噴火を繰り返すこの名高い火山にほど近い山あいの町Gragannoグラニャーノで作られる

 パスタはアスパラガスとパンチェッタを細かく刻み、オイルとチーズで軽く味付けした螺旋状の円錐形をしたショートパスタ「Vesuvio ヴェズーヴィオ」。パスタ作りに理想的な環境が整ったGragnanoグラニャーノ産ショートパスタは、挽きたての小麦のように香ばしく、その格の違いを見せ付けます。ドルチェはチョコレートが添えられたミルキーなジェラート。"モカで淹れた"と但し書きのあるエスプレッソには店のサービスでピエモンテの焼き菓子が付きました。

 ミシュランガイド・イタリア版で☆評価(⇒自国フランスでの☆☆レベルを意味する)を受けるトリノのリストランテ「Guido per Eataly -Casa Vicina【Link to website】」出身の若きシェフ、Enrico Panero エンリーコ・パネッロが手掛けたこれまでのGuido per Eataly 代官山の料理は、伝統をベースに軽やかで洗練された味付けを加えたものでした。

 スローフード運動発祥の地に9年間身を置いた深谷シェフを新たに迎え入れ、オステリアとして再スタートを切ったとはいえ、これまでの方向性から大きく転換する訳ではないようです。より多くの人に良質なイタリアの味に親しんでもらうことが今回のリニューアルの目的だと澤口さんは語ります。オイルやパスタなど素材のクオリティの高さと代官山という立地を考慮すれば、コストパフォーマンスもなかなか。素材に敬意を払った深谷シェフの味付けは、好感が持てるものでした。次回は岩手短角牛を味わうとしましょう。

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Osteria di Eataly オステリア・イータリー
住:東京都渋谷区代官山町20-23 代官山ラヴェリア2F (東急東横線 代官山駅より徒歩2分
Phone:03-5784-2739
営:Pranzo 11:30‐14:30 L.O.   Cena 18:30‐21:30 L.O.
   ◆夜のコース/ Stagione・旬のおすすめ 3,000円
             Tradizione・ピエモンテ伝統料理 4,800円
              Degustazione・プリフィックス 6,000円
日曜夜・月曜定休(祝日の場合は営業・翌火曜休)
URL:http://www.eataly.co.jp/osteria/index.html
E-mail:osteria@eataly.co.jp

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2009/07/25

トロける夏の誘惑 イタリア編

Vacanze dolce @ sud Italia
  南イタリアのヴァカンスはひんやり甘いドルチェとともに

cocomeri.jpg【photo】真っ赤な果肉を連想させる赤いパラソルの露店でスタンド売りされるイタリアのスイカ、 Cocomero コッコメーロ(Anguria アングリーアとも呼ぶ)。この手の店は切り分けて売ってくれる場合もある。「Lo taglierà in pezzi? ロ タッリエーラ イン ペッツィ?=切り分けてくれますか?」と聞いてみよう。ジリジリした太陽が照りつける南イタリアは、 スイカの名産地

 オールイタリアロケを行った映画「アマルフィ 女神の報酬【Link to website】」の派手なPRのおかげで、すっかり南イタリアへの里心がついてしまった今年の夏(笑)。開局50周年記念事業作品としてCX系の放送局では主題歌となったサラ・ブライトマンの「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」に乗せて大量のスポットCMが投入されました。盲目のイタリア人テノール、アンドレア・ボッチェリが1995年のサンレモ音楽祭で初演したこの曲の原題は「Con Te Partirò コン・テ・パルティロ」。ズバリ「君と旅立とう」という意味です。あ゛ーっ、イタリアのまばゆい太陽が、輝く青い海が、美しい大地が、美味しいヴィーノや食べ物の数々が、私を呼んでいるぅーー!!!!
villa_rufollo_ravello.jpg【photo】映画の舞台として、日本でも一気に知名度が上がった"世界で一番美しい町"こと、世界遺産のAmalfi アマルフィから内陸側に7kmの急なカーブが続く坂道の先にある小さな村Ravello ラヴェッロ。「Villa Cimbrone ヴィッラ・チンブローネ」と並ぶ絶景スポット、かつてリヒャルト・ワーグナーの住居ともなった「Villa Rufolo ヴィッラ・ルフォロ」のテラスから望むアマルフィ海岸とサレルノ湾(上写真)/ アマルフィ海岸の急斜面で栽培されるレモンを絞った果汁をたっぷり使用するグラニータ・ディ・リモーネには砂糖もたっぷり(下写真)

Granita_limone.jpg 肌にまとわり付く湿気がうっとうしい日本とは違い、サラリと乾燥した地中海性気候のイタリアでも、体温を越えるような灼熱に見舞われる夏は、ともすると意識がボーッとしてきます。湿気が少ない分、抜けるように青い空からは強烈な陽射しが降り注いできます。発泡性のミネラルウオーターなしでは、体が干上がってしまいそう...。そんな時、ナポリの海岸通りなどで目にするゴロゴロと山積みされた露天売りのスイカに激しく心惹かれますが、連れが大人数でもない限りは、旅先でまるごと一個を攻略するには相手が大きすぎます(笑)。アスファルトが溶け出しそうな夏のイタリアでは、Gelato ジェラートやシチリア発祥のレモン風味が効いたGranita di Limone グラニータ・ディ・リモーネ(=レモンシャーベット)、Granita di Anguria グラニータ・ディ・アングリーア(=スイカシャーベット)など天然果汁を用いた氷菓子を乾いた体が要求します。イタリア仕様の砂糖の甘さが気になる左党の方は、グラニータ・ディ・リモーネにリモンチェッロを加えてもらうなど、ベストマッチなリキュールをプラスすればOKです。イタリア版かき氷ともいうべきグラニータは、酷暑で遠のいた意識をシャキッとさせてくれます。

【photo】ビーチに繰り出したグラニータの露店は人気の的。砂浜でかきこむGranita fragora グラニータ・フラゴーラ(イチゴのグラニータ)でリフレッシュ。一見かき氷と同じだが、「練乳がけ」は存在しないし、日本のかき氷に使われるシロップのドギツイ赤や緑に舌は染まらない granita_fragora.jpg 

 日焼けした肌へ憧れるイタリア人バカンス客で賑わう南イタリアのビーチで見かけるグラニータの移動式屋台は手押しのため、売り子は比較的若い男性の二人組みがほとんど。砂に足を取られながらビーチで屋台を引くには、相応の体力も必要です。対して砂浜ではなく路肩に立つグラニータの屋台にいるのは、50代以上の男性が多いように思います。グラニータで忘れていけないのは、以前「Bar バール」【Link to back number】で取り上げたローマのカフェ「Tazza d'Oro タッツア・ドーロ」の「Granita di caffè con panna グラニータ・ディ・カッフェ・コン・パンナ」です。ローマで一番美味しいとの呼び声が高いカッフェをシャリシャリに凍らせ、ホイップクリームをたっぷりとトッピングしたもの。ザラついた感じがしないキメ細やかな氷のカッフェをスプーンで頂くと、ひとときの涼と共に口の中で薫り高いエスプレッソとクリームの甘さが溶け出し、甘くほろ苦い「これぞイタリアンDolce vita!」という幸せな時間を過ごせます。

granita_tazza_d'oro.jpg【photo】古代ローマが残した建築史の奇跡、パンテオン近くにある「タッツア・ドーロ」。世界中から観光客が訪れるローマ有数の観光スポットにある店だが、夏の定番「グラニータ・ディ・カッフェ・コン・パンナ」(€ 2.50)(右写真)は、根強いローマっ子の支持を集める

ナヴォーナ広場に面した「トレ・スカリーニ」の絶品ジェラート「タルトゥフォ」もぜひ! (下写真)
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 暑さで消耗した体力を回復させるには、甘いものが一番。ここはGelato ジェラートの甘い誘惑にトロけてみましょう。タッツア・ドーロを左に出た角を北上すると、ほどなく恐らくはローマで最も有名なGelateria Psticceria ジェラテリア・パスティッチェリア(ジェラート店菓子店)の「Giolitti ジオリッティ」があります。店内では白い制服に身を包んだGelatiere ジェラティエーレ(ジェラート職人)が立ち回り、1900年創業の歴史を感じさせるクラシックな雰囲気が漂います。今月イタリアで行われたG8では、オバマ米大統領の二人の娘が同店を訪れ、ブラックベリーとバナナのジェラート作りを教わり、合計6kgの自作ジェラートを持ち帰っています。タッツア・ドーロを出て右折、バロック彫刻の天才、ベルニーニ作「四大河の噴水」で名高いナヴォーナ広場にあるバール「Tre Scalini トレ・スカリーニ」には、シロップ漬けのチェリーを忍ばせた濃厚なチョコレートのジェラートにホイップクリームをのせたTartufo タルトゥフォという魅力的な選択肢もあります。いずれも有名店だけに夏場は観光客に占拠されるのが玉にキズ。ならばタッツア・ドーロをロトンダ広場側に出て Via della Rotonda をしばらく南下すると、テヴェレ川に架かるガリバルディ橋の手前にローマっ子の評判が高いBar Gerateria バール兼ジェラテリア「Pica Alberto ピーカ・アルベルト」があります。Zabaione ザバイオーネやこの店オリジナルのシナモン風味のお米が入った食感が面白いRiso alla cannella リーゾ・アッラ・カネッラは、観光スポットにありがちな量産ジェラート特有のgranita_catania1994.jpg不自然な強い粘りやどぎつい着色がなく、控えめな甘さで好感が持てます。"Gelati artigianali"(=職人気質のジェラート)は、店を切り盛りする 仏頂面のオジ様が手作りしているのが妙にアンバランスかも。サマータイムの夏は21時をまわる時間帯まで明るいイタリアゆえ、石畳の照り返しが強烈な真昼を避けてジェラテリアをハシゴするのも一興です。

【photo】 シチリア東海岸、カターニアのビーチに登場したグラニータ売りの二人組み。シチリア名産の大ぶりなレモンを日よけにぶら下げ、足をとられながら屋台を引く姿は、どう見ても体力勝負。売り子の彼らも売り物が欲しくなるだろうに・・・(上写真)

【photo】Giolitti ジオリッティからテイクアウトしたジェラートを手に、近くにあるパンテオン前のロトンダ広場への道を急ぐも、夏のローマでは見る見るジェラートが溶けてくる(下写真)

melting_gelato_panteon.jpg 甘くトロけるイタリアでのヴァカンスは今年も白日夢に終わりそうなので、今年4月に日本初上陸のジェラテリアを東京新宿にオープンさせた「GROM グロム」【Link to website】への訪問をせめて果たしたいところ。北イタリアを中心に国内23店舗、N.Y・パリへも展開を進める店ながら、最高の素材を無添加で仕上げるジェラートが北イタリアを中心に人気を呼んでいます。しかしながら、人口過飽和な東京ゆえ、長蛇の列ができているとの噂も(×_×;)。と、いうわけで次回は、もはや亜熱帯性気候と化した東京の酷暑の中を並ばなくても済む、秋田発の移動式ジェラテリア・ジャッポネーゼこと「ババヘラ」のレポートです。(⇒何という落差・・・)
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2009/06/14

東北初「真のナポリピッツァ」誕生

Verde Ischia ヴェルデ・イスキア
穂波街道 緑のイスキア

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 またひとつ「食の都・庄内」に国内外から真価を認められる新たな魅力が加わりました。この春、鶴岡市羽黒町にあるピッツェリア「穂波街道 緑のイスキア」が、ピッツァ発祥の地、ナポリに本部を置く「Associazione Verace Pizza Napoletana アソチアツィオーネ・ヴェラーチェ・ピッツァ・ナポレターナ(以下、真のナポリピッツァ協会)」から、本場ナポリの味を伝える店として、東北初の認定を受けたのです。

【Photo】「真のナポリピッツァ協会」認定店の目印は、このプルチネッラの看板。店ごと登録順に通し番号が発行される。古参の認定店であることを示す登録番号10を掲げるナポリ湾に面したサンタルチア地区にある庶民的な老舗リストランテ・ピッツェリア「Marinoマリーノ」

 ピッツァ専門店 Pizzeria ピッツェリア(イタリア人は「ピッツェーア」と発音)にとって、栄誉な真のナポリピッツァ協会認定店となるには、同協会が定めた厳格な基準をクリアしなければなりません。世界共通の通し番号入りの認定証が交付される認定店には、噴煙を上げるヴェスヴィオ火山とピッツァを薪窯に出し入れする際に使う柄のついたヘラ状の道具「Pala パーラ」を手にした協会のシンボル、ナポリの古典劇に登場するsalita_s.anna_brandi.jpg黒マスクに白装束姿の道化「プルチネッラ」が描かれた VERA PIZZA Napoletana と記された看板を掲げることが許されます。穂波街道 緑のイスキアは、4月20日に大阪で行われた交付式で、世界で296番目、日本では30番目の認定証が贈られました。

【Photo】ピッツァ・マルゲリータを編み出した「Brandi ブランディ」(写真左の旗が掲げられた店)は、王宮前広場にあるエレガントなカフェ「Gambrinus ガンブリヌス」脇の路地を入ってすぐの場所にある。真のナポリピッツァ協会非加盟ながら、発祥店の誇りをかけた絶品との呼び声が高いマルゲリータ(下)を求めていつも客足が絶えない

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 一口にピッツァと言っても、地域ごと独自の文化が息づくイタリアでは、厚みのある四角いピッツァを切り分けて量り売りする Pizza al Taglio ピッツァ・アル・タッリオや生地を揚げた Pizzetta ピッツェッタなど、スタイルはさまざま。バジル・チーズ・ラルドを使ったMastunicola マストゥニコーラなるピッツァの原型が17世紀に、18世紀半ばにはトマトソースを載せた生地に火を通す現在のスタイルが登場したピッツァ発祥の地ナポリでは、生地の美味しさが際立つカリッとした外側と、モチッとした内側の食感が命です。ナポリと並ぶピッツァ文化の両雄と目される首都ローマでは、パリパリしたクリスピータイプの薄い生地が特徴のPizza Romana ピッツァ・ロマーナが主流となります。ことピッツァに関してローマvsナポリの好みを申せば、私は断然ナポリ支持派。ふっくら盛り上がった生地の外周部分「Cornicione コルニチョーネ」のモチモチした食感はナポリピッツァだけのものです。

di_matteo.jpg【Photo】ナポリ中心部ドゥオーモ近くのVia Tribunali トゥリブナーリ通りにある42号認定店「Di Matteo ディ・マッテーオ」のマルゲリータ。'94年のナポリサミットでビル・クリントン米大統領がお忍びで訪れた店として知られる。当時の村山富市首相は、歓迎夕食会の席上、急性胃腸炎でダウンし入院。ローマで酩酊騒動を引き起こした中川大臣といい、日本の閣僚にはイタリアの食事が鬼門?

 1984年、ナポリの名だたるPizzaiolo ピッツァイオーロ(ピッツァ職人)らが中心となって旗揚げした真のナポリピッツァ協会は、Pizza Napoletana ピッツァ・ナポレターナの伝統技術を守り、後世にそれを伝えるための綿密なDisciplinare(=規約)【pdf】を作成しました。2006年9月には日本支部【Link to Website】が設立され、第二次大戦後にBrandi_Napoli.jpgイタリア南部からの移民が伝えたピッツァを独自に変化させたアメリカ経由でもたらされたピザパイ文化が根強い日本において、ナポリ本来のピッツァの姿を伝える啓蒙活動を行っています。

【Photo】1989年、マルゲリータ誕生100周年を記念する大理石のプレートが発祥の店 Brandi 外壁に掲げられた。120周年にあたる今年、協会による記念事業が行われる

 宅配で届くピザには、テリヤキチキンやプルコギ(!)、コーンやパイナップル(!!)などの具がさまざまにトッピングされ、もやはそれは国籍不明のピザ風ミートパイ状態。極めつけはイタリア人が聞いたら卒倒しそうなマヨネーズソース(!!!)にお決まりのタバスコを振りかけ、あらかじめ切れ目の入ったそれを手でほおばるのが日本に定着しているピザの食べ方です。便利な宅配ピザを否定はしませんが、これらはナポリピッツァとはおよそかけ離れたもの。ゆえに前世イタリア人の私は、世間一般に使われる「ピザ」という和製英語にどうしても違和感を覚えます。近年、本場で修業した日本人ピッツァイオーロが作る薪窯の薫りが香ばしい生地を味わう「ナポリピッツァ」を提供する店が増え、ようやく本来のピッツァが市民権を得てきました。

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【Photo】真のナポリピッツァ協会は、電気やガスなどの熱源を窯に使用することを一切認めていない。薪や木屑を燃やして摂氏450℃~485℃に窯の内部を保つようピッツァイオーロに求めている。窯の床面で焼かれるピッツァは1分あまりで出来上がる。この穂波街道 緑のイスキアのピッツァ窯には、審査で店を訪れたガエターノ師匠の熱い心意気を示す「心の底から幸運を祈ってるよ」という意味のハート型メッセージ〈clicca qui〉が書き加えられた

 日本的なピザはさておき、まずは良質の水と食材の宝庫・庄内に誕生した東北初の協会認定店のピッツァがいかなるものか味わってみましょう。最初にお断りしておきますが、Brandi がそうであるように、認定店でなければ本格ナポリピッツァが味わえない訳では決してありません。認定を受けようとする店が協会に申請の上、対価を支払って審査・認定を受ける認定店ではありませんが、鶴岡市役所裏手の馬場町にある「pizzeria Gozaya (ゴザヤ)」でも、本場よりは幾分小さめなジャポネーゼ仕様ながら、オーナー兼ピッツァイオーロの三浦 琢也さんが薪窯で焼き上げる真っ当なナポリピッツァが頂けます。ピッツァ・ナポレターナお約束の"外パリ中モチ"な香ばしい生地は、紛れもないナポリピッツァそのもの。ナポリピッツァの代名詞ともいえるマルゲリータで500kcal、同じくマリナーラで350kcal ほどと意外に低カロリーなので、胃袋のキャパに自信がある方は、真のナポリピッツァのハシゴにチャレンジしてみては如何? ゲプッ...scusi.

verde_ischia.jpg【Photo】店で提供するお米や野菜は、27年以上に渡って無農薬で土を作ってきた庄司さんの田んぼや畑で採れる安全なもの。その田畑に囲まれて建つ「穂波街道 緑のイスキア」

 鶴岡市中心部から赤川に架かる三川橋を越えると、R345の両側には豊かな穀倉地帯が広がってきます。波打つ穂波の中にぽつんと浮かぶイタリア国旗を掲げる孤島のような白い総二階建ての店、穂波街道 緑のイスキアの原点は、東京から羽黒の農家に嫁いだ庄司 祐子さんが、ご主人の渡さんと農業法人「J・FARM」を立ち上げ、自家製の有機野菜とアイガモ農法で栽培するコメの直売所を開店させた1994年(平成6)に遡ります。 ほどなく始めたのが、まだその頃は東北はもちろん全国でも珍しかった農場直営のレストラン「穂波街道」でした。当時は畑で採れた野菜を使ったカレーなどの親しみやすい料理を提供していた穂波街道が、最初の転機を迎えたのが、2年後に鶴岡ワシントンホテル料理長を辞したばかりの現「アル・ケッチァーノ」オーナーシェフ、奥田 政行氏を料理長として迎え入れ、イタリア料理店としてメニューを一新したことでした。庄司さんが自家栽培したハーブやオーガニック野菜を取り入れたイタリアンはやがて評判を呼び、素材にこだわる本格イタリアンとして、観光ガイドブックで紹介されるようになります。

vista_aragonese.jpg【Photo】古代ローマが礎を築き、ゴート族・アラブ・ノルマン支配の後、15世紀半ばにナポリを支配していたアラゴン家のアルフォンソ王によって、陸地と通路が渡されて要塞化されたCastello d'Ischia イスキア城(下写真)より望む緑に覆われたイスキア島。手前の町はIschia Ponte イスキア・ポンテ。庄司建人さんが修行したピッツェリアDa Gaetano はここからすぐ近く

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 2000年(平成12)春に奥田氏が独立した後も農家イタリア料理店として営業を続けていた穂波街道に、私が最初に伺ったのが山形エリアを仕事で担当していた2003年(平成15)初夏のこと。レストランに隣接する庄司さんの田んぼでは、アイガモやフランスガモたちが雑草をついばんでいました。当時の穂波街道で印象的だったのは、風に揺れる稲穂がどこまでも続く豊かな庄内の原風景に惚れ込んだ庄司さんの想いを込めた店名にふさわしい無農薬の健全な土から生まれるコメの美味しさです。数十種のハーブを栽培する畑の前には、農家レストランの体験メニューとして用意されたピッツァを焼くための小さな手製の窯も作られていました。

kenji_gaetano_ischia.jpg【Photo】旧東欧圏バルカン半島の付け根にあたるアルバニア出身の青年二コーラとイスキア島のDa Gaetano で修行中の建人さん

 その頃、東京で学生生活を送っていた祐子さんのご子息 建人(けんじ)さんが、ナポリピッツァの美味しさと出合い、ピッツァイオーロを志します。本場で腕を磨こうと決意した建人さんは、真のナポリピッツァ協会で主任技術指導員を務めるガエターノ・ファツィオ氏の店、「Da Gaetano ダ・ガエターノ」【Link to Website】があるイスキア島へと旅立ちます。ガエターノ氏は、これまでも数多くのピッツァイオーロを志す日本人を迎え入れてきた親日家でもありました。その中には、2003年にナポリで開催された「ピッツァ世界選手権」の個人部門で初めてイタリア人以外で優勝した「ピッツァ サルヴァトーレ・クオモ」(東京)のプリモ・ピッツァイオーロ 大西 誠氏も含まれます。(同店は2006年にチームテクニカル部門でも最高賞を獲得した) 15人のスタッフ中10人がイタリア人以外という国際色豊かなダ・ガエターノで、飲み込みの早い建人さんは、師匠の技術をわずか2カ月で習得して日本へ帰郷、母が営む店にプリモ・ピッツァイオーロとして迎えられました。店の中心にイタリア製の薪窯を据え、南イタリア風の白を基調とした内装のピッツァがメインとなるピッツェリア「穂波街道 緑のイスキア」として2007年11月にリニューアルします。

shinsa_honamikaido.jpg【Photo】今年3月に行われた本審査の模様。手前の赤いセーターを着た恰幅の良い後姿の男性がガエターノ・ファツィオ氏。

 真のナポリピッツァ協会日本支部によって行われる事前の書類審査と実地審査を経て、イタリア本部が派遣する協会役員によって行われる本審査に臨んだのが今年3月12日。建人さんの師であり協会の主任技術指導員を務めるガエターノ・ファツィオ氏、同協会日本支部長で1997年に日本初となる92号認定店となった兵庫県赤穂市のピッツェリア「さくらぐみ」オーナー兼ピッツァイオーロ【Link to Website】西川 明男氏、同支部副支部長で東京広尾と恵比寿の店が日本で3番目・4番目の認定店指定を受けたピッツェリア「パルテノペ」総料理長【Link to Website】渡辺 陽一氏ら3名が審査に当たりました。師匠と弟子の関係とはいえ、協会が定める厳格な規定に沿ったピッツァであるかを厳しくチェックされるため、そこに私情を挟む余地などありません。前出のDisciplinareにある通り、ナポリ周辺のカンパーニア州産と定められたモッツァレラチーズほか原材料や海塩に限るとされる調味料の産地はどうか、厳密に規定されている生地の配合具合・発酵と成型具合など素材の管理はどうか、必ず薪を使わなければならない窯の温度管理は的確か、35cm以下とされるピッツァのサイズや火の通り具合は均一か、定められた道具を使っているか、などなど。審査の厳しい視線や取材のカメラを前に緊張したと語る建人さんですが、焼きあがった完成度の高いピッツァに、ガエターノ師匠ら3人の審査員は高い評価を与え、晴れて東北初の認定店として認められました。

mare_forio.jpg【Photo】イスキア島西部の港町Forioフォリオ郊外。切り立った緑の森と水辺で戯れる人々が集う小さな砂浜

 あふれんばかりに陽光が降り注ぐナポリ湾の沖合いに浮かぶ美しい島々で最も大きな Isola d'Ischia イスキア島。海沿いの町を除く島の中央部には手つかずの自然が残っています。そのため「l'isola del verde(伊語で「緑の島」の意)」ともそこは呼ばれています。船着場がある島の表玄関 Ischia portoイスキア・ポルトからは、映画「イル・ポスティーノ」の舞台となったプロチーダ島がすぐ目の前。その彼方にはヴェスヴィオ火山の稜線を見晴るかすことができるはず。目線を南東に転ずれば、紺碧のティレニア海の水平線上に切り立った岩肌が露出する高級リゾート地カプリ島を望むことができるでしょう。外国人観光客がほぼ一年中絶えることのないカプリ島に比べれば素朴な漁村の一面も垣間見せるイスキア島を訪れるのは、温泉目当てのドイツ人を除けば、イタリア国内からのケースが多いようです。
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【Photo】多くのヴィッラが並ぶチェルノッビオの船着場前に建つヴィッラ・エルバ・ヌオヴァ。中庭を挟んで建つヴィッラ・エルバ・ヴェッキアでヴィスコンティは4時間を越える畢生の大作「ルートヴィヒ」の編集を手掛けた

 そんな一人が映画監督のルキーノ・ヴィスコンティ(1906-1976)です。若き日のアラン・ドロンを起用した「若者のすべて(1960年作品)には、尖塔が立ち並ぶミラノのドゥオモ屋上で撮影された場面が登場します。14世紀、この後期ゴシック様式の聖堂建造に着手したのは、ルキーノの祖先であるミラノ公国の領主ジャン・ガレアッツォ・ヴィスコンティでした。ダヴィンチが15世紀に要塞化したミラノのスフォルツァ城をかつて所有していたのもヴィスコンティ一族。そんなミラノきっての有力貴族の血を引く巨匠は、一族の寄進で造られた町エミリア・ロマーニャ州グラッツァーノ・ヴィスコンティにある城館や湖水地方コモ湖畔などに所有する別荘を仕事場としても使っていました。大作「Ludwig ルートヴィヒ(1972年作品)制作中に発症した脳血栓で半身不随となった体で編集作業を行ったのは、コモ湖畔の高級ホテルとして有名な「Villa d'Este ヴィッラ・デステ」がある街Cernobbio チェルノッビオに母方のエルバ家が所有していた二つの壮麗な別荘「Villa erba ヴィッラ・エルバ」でした。

IschiaLaColombaia.jpg 【photo】ヴィスコンティが愛したかつてのヴィッラ「La Colombaia」は、2006年に博物館として生まれ変わった

 オペラや舞台の演出にしろ、映画作りにしろ、決して妥協を知らぬ完全主義者だったヴィスコンティは、芸術家たちが集う場として、また仕事を離れてプライベートな時間を過ごす場として、イスキア島西部の港町Forioフォリオの町はずれに建つ別荘を購入します。地中海に面した高台にある館は「La Colonbaia ラ・コロンバイア(=伊語で「鳩小屋」の意)」と呼ばれ、ルキーノは夏だけでなく時間を見つけては足繁く緑に覆われた館に通ったのだといいます。1982年(昭和57)に初版が、そして一昨年復刻版が出版された篠山紀信の写真集「ヴィスコンティの遺香」には、撮影当時は生前そのままに保存されていた別荘の貴重な姿が収録されています。巨匠が揃えたアールデコ、アールヌーボーの内装で統一された建物は、生誕100年を迎えた2006年に政府の肝いりで設立された「Fondazione La Colombaia di Luchino Visconti ラ・コロンバイア財団」によって、撮影で使用された衣装などを展示するヴィスコンティ博物館として生まれ変わりました。その裏庭には、永遠の安息を得る地としてそこに葬られることを望んだヴィスコンティの華麗な足跡とは不釣合いなほど質素な墓がありました。

tomba_visconti.jpg【photo】イタリア屈指の名家の血を引くヴィスコンティが眠るのは、お気に入りだったイスキア島の別荘「La Colombaia」のひっそりとした裏庭だった

 イスキアといえば、全国から訪れる悩みを抱えた人々を迎え入れ、おむすびに象徴される心を込めた手料理で生きる力を取り戻す支えとなる宿泊施設を青森県弘前市で主宰する佐藤 初女さんを思い起こす方もおいででしょう。初女さんの自宅を改装して造った癒しの空間は、「森のイスキア」と名付けられました。命名の由来は、何不自由ない満ち足りた暮らしをしていながら、ある日突然何もかもが嫌になり、生きる意欲を失った一人のイタリア人青年の逸話に基づくのだといいます。生きる目的を失った無気力な日々を送るうち、青年はふと思い立ってナポリの富豪だった父親に少年の頃連れて行かれたイスキア島を訪れます。喧噪を離れた島の中心部にある廃墟となった教会に単身滞在した青年は、自身をじっくりと見つめ直します。美しい島の自然風景に癒された彼は再び生きる力を取り戻し、やがて日常生活に帰ってゆきました。初女さんは、折れそうになった人の心を癒やし、立ち直る力を得る糧として、ご自身の言葉をお借りすれば、"ごはんが息をできるように"今日も優しくおむすびを握ります。

 人の心を癒す初女さんの愛情が込もったおむすびは特別にせよ、おむすびは日本人のソウルフードともいえましょう。現世では日本人ながら、前世はイタリア人だった私にとっては、おむすび同様に郷愁をそそるソウルフードのひとつが、ピッツァ・ナポレターナです。東北初の真のナポリピッツァ協会認定店誕生!との情報を入手し、穂波街道を再び訪れたのは、かつてそこから巣立った奥田シェフプロデュースの銀座店「ヤマガタ サンダンデロ」旗揚げを祝う生産者による壮行会に参加を求められた4月11日(土)昼過ぎのことでした。年間通して温暖な気候に恵まれ、グランブルーの海に抱かれた南イタリアの理想郷、イスキア島のVillaヴィッラ(=別荘)を彷彿とさせる明るい内装のピッツェリアにそこは生まれ変わっていました。早口でまくしたてるイタリアのWebラジオ放送が流れる店内には、イスキアのゆったりとした時間が流れているかのよう。

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【photo】生地には大手製粉メーカーに籍を置くパルテノペ 渡辺 陽一氏が配合する国産小麦粉とナポリ産小麦粉を使い分け、ナポリ産トマトソース(左)とナポリ東方45kmのサレルノ近郊から毎週空輸されてくる新鮮な水牛乳モッツァレラ・チーズ(右)を使う

 私が注文したピッツァD.O.Cをカウンターの中で手際よく仕上げてゆく建人さんの手元を頼もしげに見つめるのは店長の祐子さん。その目線に温かさを感じるのは、お母様なるがゆえでしょう。こうした親子・兄弟など家族で店を営むスタイルは、イタリアでよく見かけます。建人さんはあれこれ話を聞き出そうとする私と会話しながらも、窯を何度かのぞき込んでは焼き加減を確認します。燃え盛る薪に近いほうが先に焼けるので、金属製のパーラでピッツァを半回転させ、全体がこんがりキツネ色になったところで、協会が定める鉄製のパーラで焼きあがったピッツァを窯から取り出しました。そして建人さんは私の前世がイタリア人だと言葉の端々から悟ったのか、さりげなく「切ってお出ししていいですか?」と私に問いかけたのです。お、そこまで本場流にこだわるのかっ!

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【photo】全てハンドメードで造られるナポリ窯の最高峰「Gianni Acunto ジャンニ・アクント」の窯にピッツァを入れるのは木製(左)、向きを変えて窯から取り出すのは鉄製のパーラ(右)

 前出の協会が定める規約には、La verace pizza napoletana va consumata appena sfornata(=真のピッツァ・ナポレターナは焼き立てのうちに食べるべき)と明文化されています。食べ方にまで注文を出す本場ナポリでは、窯に近いかぶりつきのテーブルに陣取った地元のナポレターノたちは、切らずに出されたアツアツのピッツァをナイフとフォークを使って食べてゆきます。ズボラな私は、厳しい審査員の目が無いことをいいことに、建人さんのご厚意に甘えて、Prego.(=どうぞ)と答えていました。いずれピッツァは熱いうちに頂くのが店に対する礼儀です。撮影も早々にナイフで食べやすい大きさにピッツァをさらに切り分けてほおばると、喧騒と活気に満ちたナポリ下町の香りが口腔いっぱいに広がるのでした。

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【photo】カウンター脇から建人さんの仕事ぶりを見つめる祐子さん(上左)ピッツァD.O.C(上右)協会から授与された296の通し番号入りサインボードを手にする建人さん(下)

numero_296.jpg ナポリから1万kmも離れた地で、ナポリ文化そのものであるピッツァの味をよくぞ再現した!と師匠を納得させたそのピッツァは、身も心も(→「mi」とは言ったものの、ここでは「i=胃」を指すニュアンスが強いです、ハイ満たしてくれる、一皿で完結する料理を意味するまさに「Piatto unico ピアット・ウニコ」でした。26歳にしてピッツァ職人としての腕を認められた建人さんは、鶴岡にある本格的なピッツェリア同士、Gozayaの三浦さんとコラボでナポリピッツァの魅力を多くの人に知ってもらえる何か面白い仕掛けをしたいと語ります。緑に囲まれたピッツェリア、穂波街道ヴェルデ・イスキアは、今後どんな展開を見せてくれるのでしょうか。まずはともかく、Complimenti (おめでとう) Kenji!

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「真のナポリピッツァ協会」認定店
ピッツェリア「穂波街道 緑のイスキア」
  住所)鶴岡市羽黒町押口字川端37
     Phone 0235-23-0303  Fax 0235-57-4185
  イートイン・デリバリー:平日11:00-14:00 L.O 17:30-20:30 L.O
       土日祝11:00-14:30 L.O 17:30-21:00 L.O 火曜定休
  URL:http://www.midorinoischiak.com/
  Menu:ピッツァ・マルゲリータ 1,785円 ピッツァD.O.C(ドック)2,310円  
       食の都・庄内ならではの食材を活かした南イタリア料理も充実!!

◆「l'Isola del Verde(=緑の島)」こと、イスキア島およびDa Gaetano‎ はこちら
               
    
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ピッツェリア 緑のイスキアピザ / 鶴岡駅
夜総合点★★★★ 4.0
昼総合点★★★★ 4.0

追記
 2009年6月11日(木)、ナポリでピッツァ・マルゲリータ生誕120周年の記念イベントが行われた。世界中で愛されるマルゲリータの名前の由来となったのは、イタリア国民から広く敬愛されたサヴォイア家のマルゲリータ王妃(1851-1926)。マルゲリータを最初に考案したBrandiには、この日120周年を記念するプレートが贈られた。王妃に扮した女性が馬車でうやうやしく登場、ピッツァにかぶりつくパフォーマンスも行われた。一歩間違えれば"共食い"に見えなくもないマルゲリータの感想を求められられた"なんちゃってマルゲリータ王妃"は「Buono(=おいしい)」「Ottimo(サイコー)」とわかりやすいコメント。仮面姿のプルチネッラが振る舞い餅ならぬ"振る舞いピッツァ"で盛り上げに一役買ったお祝いムードに沸く当日の模様はこちら
    


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2008/05/19

食料自給率100%のレストラン

行くべし弘前!! 「ダ・サスィーノ」

Cellar2007.8.jpgAntipastimisti2007_10.jpg【photo】クオリティの高いイタリアワインが揃うダ・サスィーノの「ワインセラー」兼「自家製食肉加工品熟成庫」兼「自家製チーズ熟成庫」兼「その他もろもろ実験室!?」

 味を追求し安全で美味しい素材の調達のために信頼の置ける農家と契約するだけではなく、自身で畑を持つ料理人が最近では珍しくなくなってきました。私が「食WEB研究所」の「飲食店ブログ」にお招きした仙台市太白区向山にあるイタリアン「AL FIORE アル・フィオーレ」の目黒シェフのように、自ら畑に足を運んで無農薬自然栽培や有機栽培で育てる野菜類だけでなく、生ハムなどの食肉加工品まで自作してしまう料理人も登場しています。

【photo】ベストマッチな自家製イチジクとともに味わう自家製ハム類7種(右写真)

 しかしながら"餅は餅屋"と言うとおり、畑仕事は作物と常に向き合う農家の野菜や果物にいささか分がありそうなのもまた事実。日本在来の野菜は別にして、西洋野菜や生ハム類を気候風土が異なる日本で作ると、どうしても本場とは風味が異なる仕上がりになりがちです。特に、20ヶ月前後の熟成期間を要する生ハムのような食肉加工品を湿度が高い日本で自家製造するには、雑菌の繁殖を抑える細心の注意と加工技術が必要となります。

FormaggiSasamori2007_10.jpg

【Photo】自家製チーズを切り分ける笹森シェフ

 地方にある飲食店が進む一つの指針を示してくれる1軒のレストランが青森県弘前市にあります。イタリアンレストラン「Osteria Enoteca Da Sasino オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ」。オーナーシェフの笹森 通彰(みちあき)さんは、1973年(昭和48)岩木町(現弘前市)生まれ。仙台・東京・イタリアでの数年間の修行を経て、郷里の弘前に戻ったのが2003年(平成15)。弘前大付属病院前の路地を入ってすぐの場所に現在の店を開いたのが同年8月。スタート当初は、笹森さんが修行中に口にした本場イタリアの輸入食材を使った本格イタリアンを志向しましたが、弘前ならではの特色を打ち出せずにいたそうです。その頃、かつて笹森さんが修行した仙台のイタリアン「Vino il Salotto」(当時)のオーナー鳥山さんから、「ウチにいたヤツが祖父母がやっている畑のある郷里で店を出したから、行ってみて」 と誘い水をかけられていました。その年の夏といえば、今でこそ「食の都 庄内」と呼ばれるものの、当時はその価値が全く認知されていなかった彼の地の凄さに開眼した頃。Formaggi2007_10.JPG当時はまだ無名ながら無類の輝きを放っていた鶴岡「アル・ケッチァーノ」と、店を支える珠玉の素材を提供する生産者の取材のため、仙台から足が向くのは月山の先ばかり。昨年の夏まで弘前へは、ついぞ向かわずじまいでした。

【photo】白カビ系から黒カビ系・青カビ系、セミハードタイプとさまざまな自家製チーズと付け合せの自家製モスタルダ

 そんな私がダ・サスィーノ初見参を果たしたのは2007年(平成19)8月のこと。TBS系全国ネットの某TV番組放映後、それまで毎月複数回のハイペースで訪れていたアル・ケッチァーノが迷走し、私の足がそこから遠のいていた時期でした。ランチを"フレンチの街 弘前"が誇る名店「レストラン山崎」で頂き、その足で向かったのが、病害虫に弱いリンゴを「奇跡」といわれる自然農法で栽培する弘前のリンゴ農家、木村 秋則さんのもとでした。このとき畑で2時間じっくりと伺った木村さんの今日に至る波乱万丈な逸話は機会を改めて〈Link to back number〉。

 その夜に出合ったダ・サスィーノ 笹森シェフの自給自足への取り組みと、運ばれてくる料理が私に与えた驚きは予想をはるかに超えるものでした。以降、木村さんのリンゴがたわわな実を結んだ10月と、冬を挟んで可憐なリンゴの花が咲き揃った今年5月にも畑の様子を確かめながら、ダ・サスィーノに通いつめるまでに。アルファ・ブレラを駆って片道310kmの移動を厭わせない理由とは・・・。

Antipastimisti2007_8.jpg【photo】2007年8月、初めて店を訪れた際に「イタリア本国で食べるプロシュット類と変わらぬ美味さでこりゃイケル!」と舌を巻いたフィノッキオーナやソプレッサータ、コッパ、バルバリー鴨の生ハム、プロシュット・クルードといった全て自家製によるハム各種とお約束の組み合わせのマスクメロンもまた自家製。いやはや恐れ入りました(左写真)


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【photo】ピエモンテ州の優良カンティーナ「Braida ブライダ」のオーナー、ラファエッラ・ボローニャ女史から開店記念に贈られたという同醸造所のフラッグシップ・ワイン「Bricco dell'Uccellone ブリッコ・デルッチェローネ」の3 リットルボトルの木箱に納まる自家製プロシュット・クルードはこのとき熟成22ヶ月目。こうしてブロックが客の前でスライスされる(右写真)

 笹森さんの転機となったのは、食肉加工技術が高度に発展したイタリアで習得した技術を遺憾なく発揮して作るProsciutto プロシュット(=生ハム)などのハム作りでした。フェンネルの芳香が心地よいキアンティ地方のサラミ「Finocchiona フィノッキオーナ」や、甘味のある豚の首肉を使う「Coppa コッパ」、塩とハーブで下処理した豚モモをスモークする北イタリアのアルト・アディジェ地方発祥の「Speck スペック」、頭の部位を使い、コリコリした食感が楽しめる「Sopressata ソプレッサータ」などの材料には、地場産の黒豚や隣町の鯵ヶ沢「岩木山麓いのしし牧場」で飼育される絶品のイノシシ、青森産のバルバリー鴨などを使います。それらの素材を加工して作る非加熱のプロシュット・クルードや Lardo ラルド(=脂身を加工・熟成させたもの)は、いまや本場モノと見まごう完成度であることは、口にすればお分かり頂けるはず。アンティパストでブロックから切り立てで提供されるそれら鮮度抜群の自家製ハムやラルドは、スライスしてから時間が経過した輸入物のパック詰め生ハムなどとは比較にならない風味のよさ。地場産シャモロックのレバーをTerrina(=テリーヌ)にして、陰干しブドウで造られるイタリアの極甘口ワイン「Vin santo ヴィン・サント」で風味付けした甘美な一品に至っては、悶絶すること請け合い。
Terrina2007_10.JPG

【photo】大鰐産シャモロックレバーのパスティッチョ・ヴィンサント風味

 地元で飼育されるジャージー種の牛乳を使って仕込むゴルゴンゾーラやカマンベールなどのチーズ類は、凝固剤をイタリアやフランスから取り寄せて作ります。相当のヴィーノ好きであることが伺えるイタリアワインのセレクションが眠る店内のワインセラーで熟成されるこれらのチーズも、熟成が進んで食べ頃を迎えたものが提供されます。弘前市街を望む岩木山の裾野にある実家の畑で育てる野菜や果実はおろか、イタリアの代表的なワイン醸造用ブドウであるネッビオーロやサンジョヴェーゼほか数種のブドウも栽培。自宅で飼育するウコッケイの卵や蜂蜜、アンチョビに至るまで、店で使う素材は自家調達のほか、青森原産の優れた食味をもつ地鶏「シャモロック」や、近海で揚がる魚介類を含めて地元産がほとんど。味に妥協を許さない笹森さんは、地元産の素材のほかに脂と赤身の食味が良い島豚「アグー種」を沖縄から取り寄せたり、日本中のグランシェフがこぞって使う山形・庄内町にある「スパール」の山澤 清さんが日本で唯一飼育するピジョン鳩なども使用しています。

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【photo】カボチャのトルテリーニ・セージとケシの実ソース ズッキーニの花フリット添え

 詰め物をした「Tortellini トルテリーニ」や太めの平麺「Pappardelle パッパルデッレ」、トスカーナ州シエナのパスタで、うどんのような食感が面白い「Pici ピィチ」などの手打ちパスタ類がラインナップされ、充実したプリモピアットも楽しみのひとつ。徹底した自給自足への取り組みは、店の背景となる広い畑と、発酵食品類なら何でも手作りしてしまう店内のワインセラー兼熟成庫を舞台に発揮される飽くなき探究心があって初めてできること。なかば本気で素材の自給率100%を目指すと決意を語ります。自宅の周りにある畑と店内の熟成庫でおおかたの素材を調達してしまうゆえ、恐らくはフードマイレージazienda_sasamori.jpgが日本一低いであろうダ・サスィーノ。最近ではユニークな笹森さんの仕事ぶりがメディアに取り上げられることが増えてきました。そんな状況下にあって、こうしてご紹介するのをちょっと躊躇しましたが、地方ならではのアプローチで頑張っている姿にエールを送りたいと思います。

【photo】畑の一角ではサンジョヴェーゼなどのイタリア品種をメインにブドウの木が育つ。ワイン醸造免許取得のための準備も怠りない。左奥のハウス内では、オリーブやLimone(レモン)Calciofi(アーティチョーク)なども栽培する

 今回も満ちたりた時間をくれたダ・サスィーノを振り返ると、外壁に掛かるテラコッタ製のバッカスが笑顔で見送ってくれました。

Entorata2008.5.jpg
 
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Osteria Enoteca Da Sasino
オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ

弘前市本町56-8 グレイス本町2F
PHONE:0172-33-8299
URL: http://www.dasasino.com/
日曜定休 / 営 11:30-13:30(L.O.) 18:00-21:00(L.O.) 

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2007/10/05

アウトグリルの朝ごはん

 当「食WEB研究所みやぎ」で好評展開中の「朝ごはんを撮ろうキャンペーン」。
朝ごはんは一日の活力を生み出す大事なもの。なにかと忙しい朝ですが、自分のカラダとアタマの調子を整える大切な栄養はキチンと摂りましょう&撮りましょう!!(笑) 事務局では雫石プリンスホテルの宿泊券ほか賞品も"それなりに"用意しているようなので皆さんもドシドシご応募くださいね! ※キャンペーン内容はこちらをクリック  《このキャンペーンは終了しました
      
 ということで、私もキャンペーン趣旨に賛同して、ピエモンテのアグリツーリズモ Rupestr の甘~い朝ごはんLink to backnumber を先にご紹介しました。イタリアの朝ごはん第二弾として、今回は少し趣を変えた朝ごはんをご紹介します。

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【Photo】車でイタリアを旅するのならば、ぜひ活用したいアウトグリル。セルフとはいえ食事はバリエーション豊かでそれなりに美味しい。エミリア・ロマーニャ州のビーチリゾート Rimini リミニ近くのアウトグリル内のレストラン「Ciao チャオ」での遅い朝食。既製品のドレッシングが存在しないイタリアでは、Insalata インサラータ(=サラダ)には、エキストラ・ヴァージン・オイルとアチェート・バルサミコをかけて食べる

アドリア海に面した中部イタリア Marche マルケ州を10月初旬に訪れた際のこと。前日まで滞在した教会の宿泊施設を引き払い、州都 Ancona アンコーナの西方10キロにあるアンコーナ・ファルコナーラ空港へ移動。にわか雨が降り出す中、予約していたレンタカーをピックアップしました。自動車の旅の魅力は、意の趣くままに行動範囲が広がること。世界一高いといわれる日本よりもよほど手頃な通行料で利用できる高速道路網が整備されたイタリアでは、車での移動が何かと便利です。当然ですがイタリアのレンタカーは、左ハンドルで大多数がマニュアルシフト。私が普段乗っているイタ車は同じ仕様ゆえ、日本に居ながらイメージトレーニングはバッチリ !

 起伏に富んだ丘陵地が続くマルケから、初期キリスト教時代やビザンティン様式のモザイクで有名な世界遺産の町 Ravenna ラヴェンナを目指して一路アウトストラーダ A14号線を FIAT Punto で北上。稀代の美食家でも知られた作曲家 Rossini ロッシーニの故郷 Pesaro ペーザロを過ぎると、美味しい物の宝庫エミリア・ロマーニャ州の肥沃な平原が広がってきます。走り始めて90キロほどすると左手彼方の岩山に要塞のような山上都市サン・マリノ共和国が見えてきます。そこは気ままな一人旅。その威容に惹かれ、ふらっと寄り道しようかと時計を見ると、すでに11時。「おっと、朝食がまだだっけ」。すぐにお腹の虫が鳴き始めました。

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【Photo】Autostrada del Sole アウトストラーダ・デル・ソーレ(=太陽の道)の愛称で呼ばれるイタリアの大動脈・高速 A1。トスカーナ州 Arezzo アレッツォに向かう途中で立ち寄ったアウトグリル。上下線どちらからも利用できるよう、片側 2車線のアウトストラーダを跨いで建っている。車上荒し対策のため駐車する際には、外から見える場所に荷物を置かないのが鉄則。取り合わない方がよろしい怪しげな物売りが寄って来たりもするので、ご用心、ご用心

 そんな時に重宝するのが、Autostrada アウトストラーダ(=高速道路)に併設された 「Autogrill アウトグリル」です。"アウトグリルとは何ぞや?"という方もおいででしょう。日本の高速道路にあるサービスエリアに近い存在ですが、内容の充実ぶりは日本のそれの比ではありません。1993年に民営化され、'95年からは大手服飾企業 Benetton ベネトン系列の持ち株会社 Edizione Holding エディツィオーネ・ホールディングが運営しています。高速道路網が発達したイタリア全土 900箇所に展開、年間延べ 4億1,500万人が利用。フランス・スペインなど欧州各国のみならず、北米や南米諸国・豪州・インドなどの空港・高速道路を中心に飲食サービスを提供する世界最大規模のグループ企業なのです。イタリア国内では、傘下にセルフサービスのレストラン「Ciao」、ピッツェリアの「Spizzico」、バール形式のカフェ「A cafè」など多様なスタイルの店舗を展開しています。

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【Photo】ジョルジョに案内され、トリノ郊外にあるサヴォイア家が狩猟用に建てた離宮「 Parco Regionale La Mandria」を訪れた夜。初代イタリア国王ヴィットリオ・エマヌエーレ2世が愛用した館の中を見学後、ナイトサファリツアーが幕を開けた。離宮の広大な敷地は自然公園になっている。闇を照らすサーチライトを備えた観察用ワゴン車に乗り込み、生息するイノシシやシカなどの野生動物を観察した。暗闇から現れる動物に大はしゃぎのジョルジョをよそに、猛烈な睡魔に襲われた一行はほぼ皆が爆睡。夜11時すぎにツアーを終えて Canelli に向かったが、皆を乗せたクルマの常任ドライバー(⇒当然、私)は、濃霧による視界不良の中、頭にも霞がかかり始めた。もはや居眠り運転寸前でアウトグリルのサインを認めて先行するジョルジョのプジョーにパッシング数回。立ち寄ったそこでオーダーしたのが眠気覚ましの Espresso doppio エスプレッソ・ドッピオ(=ダブル)と、店員のお兄ちゃんが温めてくれたこのパニーニ。どちらもおいしかったぁ~

 イタリア国内のアウトグリルで特筆すべきは、セルフサービスながら、店員と対面で温かい食事を 24時間頂くことができること。Barバールよりもフードメニューが充実しており、それなりに美味。深夜のドライブで小腹が空いた時などにつまめるパニーニ類も、温めて提供してくれます。地域性豊かな国イタリアらしく、地方ごとに特色あるフードメニューを取り揃えているのも魅力。併設されるショップには、チーズやパスタ・生ハムなど地域の特産品や菓子類・ドリンク・地図・CDなどが、わんさと並びます。なかには土産用にフルボトルワインを置いているアウトグリルも少なからず存在します。高速道路でアルコールを売っている事に驚かれるかもしれませんが、さすがにその場で飲んでいるイタリア人は見かけません。

 デミサイズのワインがセルフで選ぶ食べ物と共に用意されていることもあります。白ワインの産地 Orvietoオルビエートのアウトグリルに立ち寄った際のこと。私はその時バスで移動中でしたので、心おきなく芳醇な白ワイン Orvieto Classico と軽い食事を楽しめました。
 当然ですが、イタリアでも飲酒運転はご法度であることを最後に申し添えておきましょう。

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【Photo】Rimini 近くのアウトグリルで頂いたブランチのレシート。パン 35チェント、サラダ 2.40エウロ、牛肉のワイン煮込み 9.1エウロ、カップチーノ 80チェント、しめて 12エウロ 65チェント。味にうるさいイタリア人たちを相手にしている施設なので、まずハズレはない

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2007/09/11

甘~い生活の始まり

これぞDOLCE VITA 甘い生活

 イタリアの朝は、甘美に始まります。

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【photo】ピエモンテ州 Canelli カネッリ郊外のアグリツーリズモ(=農家民宿) Rupestr ルペストゥルの朝ごはん

 ダイニングテーブルの上に用意されるのは、Rupestr オーナーお手製のサクサクしたビスケット類が山盛り。加えて自家製のサクランボ・モモ・イチジク・マルメロなどの Marmellata マルメラータ(=ジャム)が添えられます。これは「ごはん」というより、日本人の感覚で表現すると、ほとんど「3時のおやつ」(爆)。

 朝から元気全開のオーナー、ジョルジョ・チリオ氏が大きな声で「Buongiorno!」の挨拶とともに大きめのコーヒーカップでカフェラッテをサーブしてくれます。その温かなカフェラッテに入れるのは、レモンの絵が手描きされたシュガーポットの砂糖をスプーンで2杯。

      rupestr2s-.jpg

 ひんやりとした秋の空気が心地良いピエモンテの朝。窓の外は乳白色の朝もやに包まれた Rupestr の色付いたブドウ畑。北の彼方にはヨーロッパアルプスの白い山並み。日常の喧騒とかけ離れたゆったりとした時間が流れてゆきます。 あぁ、シ・ア・ワ・セ。

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2007/08/10

チョコレートの街 トリノ

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【Photo】テッラ・マードレに集った世界の料理人たちをピエモンテの料理人がもてなす目的で開催されたレセプション会場で。トリノのシンボル「モーレ・アントネッリアーナ」をかたどった精巧な飴細工

 Cioccolato チョッコラート(=チョコレート)を抜きにしては語れない街、それがトリノです。トリノでは年間8万5千トンのチョコレートが生産され、8億5千万ユーロ(=約1,360億円)の歳入をこの街にもたらしています(2002年データ)。トリノがヨーロッパのチョコレート文化発展に果たしてきた役割は、とても大きなものでした。

 チョコレートの原料となるカカオ豆は南米大陸が原産地。インカやアステカでは、焙煎したカカオ豆をペースト状にして、バニラビーンズや唐辛子・香辛料を加えて飲料として飲んでいました。1528年、圧倒的な武力をもってアステカを征服したスペインのエルナン・コルテスは、さまざまな略奪品とともにカカオ豆を時のスペイン王カルロス一世に献上します。こうしてヨーロッパに初めてカカオ豆がもたらされました。

cioccolatacalda.jpg しかし、アステカで飲まれていた「ショコラトル(xocolatl )」というカカオ飲料は、インディオの言語ナワトル語で苦いを意味する「ショコク(xococ)」と、水を指す「アトル(atl )」が組み合わされた呼び名通り、カカオ豆由来の苦味が強いものでした。そのためスペイン人の口には合わなかったようです。間もなくカカオに砂糖を加えて口当たりをよくする工夫がなされ、一気にスペインの王族たちにホットチョコレートは広まってゆきました。

【Photo】「チョコラータ・カルダ」=温かいチョコレートの名前通り、この濃厚なホットチョコレートドリンクは冬場のトリノに欠かせない

 近世から19世紀初頭のヨーロッパでは、甘いものは贅沢品でした。よって、新大陸から伝わったこの飲み物は、王族や貴族などの特権階級だけが楽しんでいました。スペイン王室と婚姻関係を持ったハプスブルグ家やブルボン家にもホットチョコレートは伝わりましたが、製法は対外的には秘匿されていたのです。(脚注1参照)

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【Photo】出帆の地・石巻市月の浦の高台より大海原を見つめて建つ支倉常長のブロンズ像

 ここに仙台藩祖・伊達政宗が派遣した慶長遣欧使節団が、スペインで日本人として初めてチョコレートを口にしたのではないか?という仮説が生まれます。石巻郊外「月の浦」を出港後、メキシコ経由で一年近くを要して1614年にスペインに上陸した使節団。一行に同行したスペイン人宣教師ルイス・ソテロの故郷セビリアで大歓迎を受けた彼らは、意気揚々と首都マドリッドに入ります。翌年早々に国王フェリペ3世との謁見も実現、一行を率いた支倉常長は、国王列席のもとそこで洗礼を受けています。

 残念ながら、常長が記した滞欧日記が今日では散逸してしまったため、あくまで推測の域を出ませんが、国王は表向き使節団を歓迎していたので、延々8カ月に及んだ使節のマドリッド滞在中、彼らがチョコレートドリンクを口にしたとしても不思議ではありません。進取の気性に富んだ政宗が遣わした伊達者にふさわしい逸話ですね。

filibertemanuele.jpg【Photo】トリノ サン・カルロ広場の中央に建つエマヌエーレ・フィリベルトのブロンズ像(上)と肖像画(下)

Emanuelo_Filiberto.jpg 話をトリノに戻しましょう。サヴォイア公エマヌエーレ・フィリベルトは、1550年前後に繰り広げられた対フランス領土戦争でスペイン軍を指揮します。その折にスペイン王カール5世からホットチョコレートを勧められて口にしたようです。美食家であったフィリベルト公は、そのエキゾチックな飲み物を気に入り、1563年、サヴォイア王国のトリノ遷都を祝って「cioccolata チョッコラータ」と今でも呼ばれ親しまれているホットチョコレートを市民たちに振舞いました。1587年、フィリベルト公の息子カルロ・エマヌエーレ一世と、スペイン王フェリペ二世の娘カテリーナ・ミカエーラの婚礼の席でも参列者たちにホット・チョコレートが出されたといいます。

 チョコレートの歴史において転換点となったのが1678年。夫カルロ・エマヌエーレ二世が亡くなった後、サヴォイア公国を摂政として統治していたマリーア・ジョヴァンナ・バッティスタ(下写真)が、ジオ・アントニオ・アッリという菓子職人にチョコレートの製造と一般向けに販売する権利を6年に限って認めたのです。これをきっかけに、多くのチョコレート職人がトリノへと集まりました。(脚注2参照)

madama.jpg それまで特権階級が独占していたチョコレートは、トリノからサヴォイア公国の領土だったスイス・フランス東部へと広まってゆきます。こうして大衆向けにチョコレートが作られるようになり、トリノで修行した職人たちによって、現在チョコレート産業が盛んなスイス・ベルギー・パリなどでチョコレート文化が花開いてゆくのです。

 18世紀、チョコレート文化の中心都市となったトリノからは、ヨーロッパ一円に毎日340キログラムものチョコレートが輸出されていました。

 ピエモンテ州ランゲ地方では「丸々と太った紳士」を意味するTonda Gentile とも呼ばれる特産の Nocciole ノッチオーレ(=へーゼルナッツ)

 そのペーストとチョコレートを混ぜたトリノ発祥のチョコレートとして、一個ずつ金銀の包装紙で被われた「Giandujotto ジャンドゥイオット」(複数形で Giandujotti ジャンドゥイオッティとも呼ばれる)を忘れてはなりません。このチョコレート菓子の誕生の経緯には、かのナポレオン・ボナパルトが絡んでいます。

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【Photo】ノッチオーレ(写真右)とジャンドゥイオッティ

 産業革命による経済成長が著しかった大英帝国の囲い込みのため、ナポレオン一世は1806年にヨーロッパ諸国に対し、英国とその植民地との交易を禁じる「大陸閉鎖令」を発令しました。イギリス側も対抗措置としてフランスに対する海上封鎖を実施。そのため大西洋を越えて新大陸から輸入される原料のカカオ豆が激減、わずかに確保された豆の価格も暴騰しました。それによって、当時フランスの支配下にあったサヴォイア王国の首都トリノでは、チョコレート産業が大きな打撃を受けたのです。

 とはいえ、甘美なチョコレートを渇望する声は衰えませんでした。やがてミケーレ・プロシェという菓子職人が、地元ピエモンテ・ランゲ地方の特産だったヘーゼルナッツを粉末にして、チョコレートに混ぜた代用品を生み出します。「必要は発明の母」を地でゆく滑らかな口どけを持つこの菓子は、1865年のカーニバルの際、CaffarelLink to Websiteによってカーニバルのキャラクターの名前に由来する Gianduiotti ジャンドゥィオッティという名で売り出されました。

 現在では DOC (=原産地統制呼称)で規定された25%以上のピエモンテ産ヘーゼルナッツやイタリア産アーモンドを材料に使用した製品だけにジャンドゥイオットの呼称が許されています。

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【Photo】Caffarel の「ジャンドゥィオ1865」のパッケージ(写真右)にはカーニバルのキャラクター Gianduiotti が描かれている。写真左はNocciolatoノッチョラートと呼ばれるヘーゼルナッツ入りのチョッコラート。リバティ様式のエレガントなパッケージが目を引く

nutella.jpg その組み合わせをペーストにした「Nutella ヌテッラ」はトリノの南、Alba アルバに本社がある菓子の多国籍企業「Ferrero フェッレロ」 Link to Website(伊語のみ)〉が1964年に売り出し、世界ブランドに成長しました。Dolce Vita ドルチェ・ヴィータ(=甘い生活)な朝に欠かせないヌテッラは、パンに塗って、あるいはビスコッティにつけて食べられ、ASローマのFWフランチェスコ・トッティなど、男女問わず熱烈なファンが多いといいます。

rocher.jpg 日本にはオーストラリア製のヌテッラが輸入されているので、豪州発祥だとお思いの方が多いのでは?同社は世界で最も売れているチョコレート菓子だというヘーゼルナッツを使用した丸い形の Rocher ロッシェをはじめとする多彩なチョコレート製品のラインナップを揃えます。

 老舗のPeyrano ペイラーノLink to Websiteや、日本では輸入元の明治屋の要らぬ配慮からか、ヴェンチと名乗っている Venchi ヴェンキLink to Websiteなどの大手から、イタリアにおけるアール・ヌーボー様式を指す Stile Liberty (=リバティ様式)の内装が見事な Baratti&Milano バラッティ&ミラノなどのカフェ、そして小規模な菓子工房に至るまで、数多くのチョコレートが今もトリノで作られています。

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【Photo】チョコレートの街トリノでは、さまざまなCioccolato が作られている

 そんなチョコレートの街トリノが一層チョコレートの甘い香りに包まれるのが、毎年春先に開催されるチョコレートの祭典「CioccolaTÒ チョコラート」です。ネーミングの由来はChiccolato チョッコラートと Torino の語呂合わせですね。

 年々規模を拡大し2007年で5回目の開催を迎えたこのイベント。トリノにチョコレートをもたらした恩人エマヌエーレ・フィリベルト公の騎馬像が建つサンカルロ広場や、ヨーロッパ最長の1km にも及ぶポルティーコ〈2007.7拙稿「そしてトリノ」参照〉で囲まれたヴィットリオ広場や市内各所のPasticceria パスティチェリア(=菓子店)、カフェなどが参加して行われました。
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【Photo】Torineseトリネーゼ(=トリノっ子)は老若男女問わずドルチェには目がない。パスティチェリアでは誰もが目を輝かせる

 地元ピエモンテを始め、世界中のチョコレート職人が優れた菓子作りの技を披露したのはもちろん、プロの料理人が料理の素材としての可能性を案したり、子ども向けのワークショップや工場見学など、多彩なプログラムが組まれまます。2007年は10日間の会期中、およそ90万人がこの催しに参加して、5.2トンに及ぶチョコレートが売買され、1万杯のチョコレートドリンクが飲まれました。 こうした食に関するイタリア人の関心と意識の高さには、いつも感心させられます。

 当初は"飲むもの"だったチョコレートの原型を窺わせる飲み物が「Cioccolata calda チョッコラータ カルダ」(=温かいチョコレートの意)。1828年にオランダのバンホーテン社がカカオ豆の脂肪成分(カカオバター)を取り除いて製品化した現在のココアよりも、濃厚なトロトロのホットチョコレートと表現すればよいでしょうか。

cioccolata-calda.jpg 寒い時季にBarバールの定番メニューとして登場するのが「チョッコラータ」。使用するチョコレートの種類別(ビター・ミルク・ホワイトなど)はもちろん、グラッパ・ウイスキー入りのほか、ココナッツ、マロングラッセ・ミックスベリー・ザバイオーネ入りなどの豊富なメニューが目白押し。冬にイタリアを訪れたならば、ぜひお試しを。

 チョコレート好きにオススメしたいのがトリノ市内の観光案内所(9:30AM9:30PM)で扱っている「ChocoPassチョコパス」。このカードを提示すると、協賛パスティチェリアやクラシックなカフェでチョコレートやジャンドゥィオッティの試食ができます。一定額以上の買物をすると5%~10%の割引サービスが受けられる場合も。

chocopass2007.jpg 24時間有効の10回券(10エウロ)と48時間有効の15回券(15エウロ)の2種類があります。対象店舗が多い48時間券のほうがバリエーション豊かなトリノのチョコレート文化に触れることができますが、日曜日や午後の早い時間帯と6月末から9月にかけてのヴァカンスシーズンは、店に行っても閉まっていたなんてこともあるので要注意です。

 美しくディスプレーされたチョコレートの買いすぎと食べすぎにはくれぐれもご用心を。なぜなら燃料代が高騰する昨今、エアライン各社は重量制限にシビアになってきています。航空荷物が重量オーバーの場合、数万単位のけっこうな追加料金を支払わなければなりません。スーツケースの重量超過にはお気をつけ下さい。その点、食べ物が美味しい上に甘いもの天国のトリノは危険な街かもしれません。体重の超過で後々泣かないためにも、ご用心ご用心 (^_ ^)


【注1】おそらく最も名が通ったチョコレートケーキは「ザッハトルテ」だろう。ハプスブルグ家のお膝元・ウィーンで1832年に誕生したこのケーキ、現代の私たちの感覚ではかなり甘いと感じるはず。ウィーンに本店がある「DEMELデメル」が仙台の藤崎に出店している。地元ではサッハトルテと濁らずに発音されるこの濃厚なチョコトルテ。産みの親フランツ・ザッハーの味を受け継ぐのは「Hotel Sacherホテル・ザッハ 」。15年以上前にホテル・ザッハで味わったザッハトルテの甘さの記憶は今も強烈に残っている

【注2】カルロ・エマヌエーレ二世とマリーア・ジョヴァンナ・バッティスタの間に誕生したのがヴィットリーオ・アメデオ2世。世界遺産に登録されているトリノの王宮群を建て、サルデーニャ王国の国王となるなど、サヴォイア公国の基盤整備に尽力した人物だ。幼少のころ胃腸が弱かった息子のために、母は宮廷医と相談の上、パン職人に消化の良い食べ物を考案するよう命じる。職人 Antonio Brunero アントニオ・ブルネロは上質の小麦を極細挽きにして焼き上げるカリカリとした歯ごたえの細長いパンを生み出した。それが Grissini グリッシーニである。自らを"Madama Reale マーダマ・レアーレ(≒本当の夫人)"と称し、野心家でもあったこの王女は、チョコレート産業とグリッシーニの誕生にかかわり歴史に名を残したのである

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2007/06/21

チンクエ・テッレの絶品シーフード

リストランテ サン・ジョヴァンニ@カサルッツァ・リグーレ

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【Photo】海岸線から少しアペニン山脈沿いに入った小さな街カサルッツァ・リグーレ。小高い山の先にはリグーリア湾が広がる

 高速A12を Chiavali キアヴァリで降り、陽光あふれる海岸線から若干内陸に入った Casarza Ligure カサルッツァ・リグーレという小さな町にあるリストランテ「San Giovanni サン・ジョヴァンニ」に着いたのは、11時すぎ。ここで、リグーリアの東端の都市 La Spezia ラ・スペツィアの先にある別のリストランテを予約していたジョルジョと西川さんとは、しばしのお別れです。そこからはガイド役不在のまま、半日を過ごすことになりました。実はこの日の昼食は、各 Guida(=レストラン評価本)において、東リビエラで随一の評価を受けるリストランテ「Ca'Peo」でとりたかったのですが、当時はシェフを務めるお母さんの体調が優れずに休業中。

 そこで、イタリアの料理評価本「l'Espresso」や「Accademia Italiana della Cucina」などで、魚料理が美味しいとの理由で評価が高い「San Giovanni サン・ジョヴァンニ」を、数軒の候補の中から、いわば"勘"で代役に立てました。ことの経緯はともかく、結果的にこの選択は大正解だったのです。帰国後、「サン・ジョヴァンニの料理が一番だった」と言うメンバーすらいたのですから。到着早々に見舞われた強烈な先制パンチさながらのピエモンテ料理に、すっかり根を上げた面々にとって、それは正に体が欲した料理だったのです。四方を海に囲まれた私たち日本人のDNAが、新鮮な魚介を切実に求めていました。
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【Photo】リストランテ「サン・ジョヴァンニ」の名前の由来となったサン・ジョヴァンニ・バティスタ教会は7世紀~8世紀に創建されたロマネスク様式。リストランテの裏庭から鐘楼が見える

 リストランテ「サン・ジョヴァンニ」は、小柄で気さくなお母さんのピヌッチャ・ノヴァロさんがシェフで、娘さんがフロア係という家族経営の店です。白い外壁が青い空に映えるその店の敷地には、オリーブやミモザが植えられています。ピヌッチャさんのお母さんだという、肝っ玉母さんといった風情で魚を抱えるジュゼッピーナさんの絵が掛けられた明るい店内は、いかにもリビエラの開放的な雰囲気を漂わせていました。
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【Photo】店のエントランスにて日伊のグランシェフ揃い踏み。奥田シェフとピヌッチャ・ノヴァロさん

 テーブルについた私たちは、「今日はアンティパストとプリモピアットを魚介系中心でいきましょう」と示し合わせた上で、胃腸を癒す料理のチョイスを奥田シェフにお任せしました。メニューと睨めっこのシェフの脇では、私がワインリストと睨めっこ。"料理とワインは一心同体"が信条の私が選んだのは、これから訪れるチンクエ・テッレの急斜面を段々畑に切り開いて栽培される地ブドウ、Boscoボスコ種を主体にVermentinoヴェルメンティーノ種、Albarolaアルバローラ種を混醸した辛口のDOC白ワイン、その名もずばり「Cinque Terreチンクエ・テッレ」。ものは試しと異なる生産者の2本をオーダーしました。そこから前日とはガラリと変わった地中海の幸あふれる饗宴が幕を開けたのです。

【以下、空腹時は閲覧をお勧めしないPhoto が続きます】
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 さっぱりした軽い酸味が心地よい「カタクチイワシのエスカベーチェ」と、ピンクペッパーがアクセントになった「茹でサーモンのサラダの盛り合わせ」(上写真)、優しい歯ごたえと上品な薄味で一同狂喜した「茹でイカのシンプルサラダ」(下写真)は軽くレモンを絞って。

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 「トマトのスライスに刻みルッコラ・マグロの燻製包み」(上写真)はサンダニエレの生ハムのように、まったりとした食感とスモークの香りが香ばしいマグロと、ルッコラやフレッシュトマトが口の中で渾然一体。これまた一同悶絶。からっと揚がったキツネ色の衣をまとって登場したのは、「小麦粉の詰め物をしたムール貝のフリット」(下写真)。小ぶりなムール貝の旨みが詰め物の小麦粉に滲み出て、素材のおいしさを増幅します。

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 揚げ物の次は口をさっぱりさせる「カタクチイワシと玉ネギ、レーズンのマリネ」(上写真)が登場。「殻付きムール貝のムース仕込みトマトソース煮込み」(下写真)と、7品いずれもが新鮮な素材の良さを引き出す伝統と革新の技が冴えるアンティパストばかり。

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 オーダーしたチンクエ・テッレDOC2種。最もブドウの生産量が多い集落とはいえ、Riomaggiore リオマッジョーレのブドウ生産組合のワインCosta de sèra di Riomaggiore'05は年産わずか4,000本。ふんわりと柔らかに香りが広がってイイ感じ。 対照的にキリリとしたTerre di Levanteは、チンクエ・テッレで集落が唯一海に面していないCorniglia コルニーリア産。典型的なリグーリア料理と地元の辛口ワイン「チンクエ・テッレ」が見事にピタピタと好相性を見せてくれました。隣りあう州同士でも、内陸のピエモンテと海に開かれたリグーリアでは、かくも劇的に料理の質が違うものかと実感させられます。

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 多彩なバリエーションでオーダーされたプリモピアットは、タジャスカ種のオイル特有の繊細なナッツ系の香りが活きた「バジルペーストとフレッシュトマト和え半生イカのポレンタ」(上写真)から、続々と運ばれてきました。素材の旨みが凝縮したコッテリとしたブロードの「イカのリゾット」(下写真)には、モチモチした歯応えのスペルト小麦Farroファッロ(注)が使われていました。

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 コクのある海の幸たっぷりのソース「スコーリオのリングイーネ」(上写真)、「イカスミ入りタリオリーニの魚介の軽いトマトソース」(下写真)

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 「ジェノヴェーゼ・ソースを軽くまとったイカのスパゲティ」(上写真)、「トロフィエのペスト・ジェノヴェーゼ風味」(下写真)と、平らげたプリモは全6品。いずれの皿も適度にメリハリが効きながらも、調和がとれたしつこくない味付け。疲れ気味の胃とカラダが一気に生き返りました。

幸福な余韻に浸るメンバーの心境を詠んで一句。「おいしさや、腹に染み入る 海の幸」

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 皿に山盛りで運ばれてきたのは摘みたての黒ブドウ(上写真)。ドルチェのティラミス(下写真)とレモンソルベには、スローフード協会からプレシディオ指定されているチンクエ・テッレ産の有名なデザートワイン、「Sciacchetrà シャッケトラ」を合わせたくなり、一杯だけグラスでオーダーしました。30年に及ぶ熟成も可能というシャッケトラは、DOCチンクエ・テッレに使用するブドウを陰干しして作られます。目のくらむような切り立った斜面で栽培される収量の少ないブドウ100キロから、わずか25リットルも作れないために、高価なデザートワインとなります。小さなワイングラスに注がれたシャッケトラを皆でちびちび回し飲みしましたが、似たような製法で作られる同価格帯の良質なヴィンサント・トスカーナと比較して、若干複雑味が足りず、線が細い印象でした。しかし、料理はどれも素晴らしく、充分に満足のゆくものでした。

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 「フルーツを食べたい」という女性陣のリクエストで、キウイ・バナナ・ラズベリーのマチェドニアと爽快な酸味のレモンソルベも追加。タイプは違えど二日続きの充実した昼食をカッフェと共に終えました。

 面倒見が良く気のおけないピヌッチャさんは、「ペスト・ジェノヴェーゼを本場リグーリアで手に入れよう」という私たちの買い物にまで付き合ってくれました。超ベテランのバリスタが渋~く切り盛りしている近所のバールでお礼のカッフェをピヌッチャさんに一杯ご馳走した後、チンクエ・テッレで最も風光明媚といわれるVernazzaヴェルナッツァに向かったのが15時頃。直線距離にして26キロほどの距離ですが、そこから先の長かったことといったら!地図を頼りに行程のほとんどを山中の曲がりくねった道を駆け抜けたため、つづら折りの道が続く尾根の高みから絶海に浮かぶ孤島さながらの佇まいのヴェルナッツァを目にするまで、およそ一時間半を要したのです。

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Ristorante San Giovanni
リストランテ サン・ジョヴァンニ
住所 Via Monsignor Podestà 1.CASARZA LIGURE (GE)
    HP なし/ TEL 0185-467244
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【注】
イタリアでは Farro と呼ばれる古代より人類が栽培してきた穀物がスペルト小麦。肥料や農薬の力を借りずとも、過酷な環境下での栽培にも耐える。反面、品種改良をされていない分、収量は少なく、殻が固く製粉に手間取るために栽培量を減らしてきた。小麦の栄養分の多くは、脱穀の際に取り除かれる殻や胚芽に存在する。しかしスペルト小麦は粒自体に栄養分が含まれるため、製粉後も栄養素が失われない。こうした長所が見直され、無農薬栽培に取り組む生産者たちによって再評価の機運が高まっている。そのまま Zuppa スープや Risotto リゾットにすると、プリプリした食感が楽しめる。栄養価が高いため、ファッロ100%で製麺したパスタの需要がイタリアで高まっている


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2007/06/11

白トリュフの魔力

 2006年秋のイタリア訪問のきっかけは、Slow Food協会が主催した「テッラ・マードレ2006」に料理人として招聘された山形県鶴岡市にある庄内ベジ・イタリアン「アル・ケッチァーノ」の奥田 政行シェフに「取材を兼ねてどうです、今回も一緒に? 」と誘われたから。というのは表向きで、アッシー君としての実績をシェフに見込まれたからに他なりません。

 詳細は機会を改めてご紹介しますが、2003年に奥田シェフがイタリア・マルケ州のオーガニックフェスティバルに招かれて料理を提供した際もイタリアに同行した私。宿泊先だった教会の神父が所有するワゴン車のキーを突然預けられ、食材の仕入れはもちろん、伝統食材の生産現場見学のために遥かモデナやパルマまで車で延べ数千キロを駆け回ったのですから。

 時として上がる同乗者の悲鳴をよそに、一向にスローにならない私の運転を評して「ジェットコースターみたいだ」と、つぶやいたのは同店の青柳マネージャー。(^0^;)お得意のスローとはいえない速さ(注1)で、スローフード協会の公式行事以外にも、ピエモンテ州ほかイタリア各地を今回も駆け巡りました。

◆「禁断の白トリュフ」

 2006年10月24日早朝4時過ぎのパリ・シャルル・ド・ゴール空港ターミナル。搭乗したエールフランスの空港職員の勘違いでトランジットの待ち時間に通されたのは、ビジネスクラス専用のサロンでした。そこに用意された飲み物やお菓子にあらかた手を付け、(「お土産~♪」と言ってマドレーヌを鷲づかみにしたのは、どこのシェフでしたっけ?)予期せず優雅なひとときを過ごしました。広大な空港をトリノまでの乗り継ぎ便の搭乗ゲートまで移動した後、朝7時30分とはいえ、まだ真っ暗なパリを離陸。朝焼けに染まるアルプス上空を越え、ほどなく霧の間に滑走路が垣間見えてきたトリノ空港に着陸したのが、定刻の8時45分でした。

Aeroporto.jpg.jpg【PHOTO】秋のトリノ周辺は霧が立ち込める事が多い。機上から垣間見たトリノ市街。万年雪を頂くアルプスがすぐ間近かに迫る

 そこで私たちを飛び切りの笑顔で出迎えてくれたのは、ピエモンテでの宿泊先となったアグリツーリズモ「Rupestr(ルペストゥル)」のオーナー、Giorgio Cirio ジョルジョ・チリオ氏。同年3月に奥田シェフの店で会って以来の再会です。いざ、予約していたレンタカーをピックアップして出発進行!と思ったものの、空港でローマから合流する予定だった私の友人が、機材故障のため到着が大幅に遅れるトラブルが発生。"ハプニングも旅の醍醐味"というプラス思考で空港を2時間あまり散策した後、巨大なFIATのワゴン車にスーツケースをぎゅうぎゅう詰めにして、ジョルジョが運転するプジョーの先導のもと、トリノ市内を経由してからモンフェラート丘陵の間を走る高速A21をスプマンテの産地として有名なアスティの手前まで疾走。アスティ県にある90キロほど南東にある町、カネッリに向かいました。

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【PHOTO】トリノからアスティへと向かう高速A21を激走するジョルジョの年季の入ったプジョー306。イタリアの高速道路における一番左側の車線は追越し車線である。定員一杯でスーツケースまで満載したジャッポネーゼが運転する車を先導しながらも、ジョルジョは終始ビュンビュン飛ばすのだった。(後部座席から青柳店長が激写)

 今回のツアーの同行メンバーは、奥田シェフほか青柳 孝フロアマネージャーと佳子夫人、同店の若手料理人・佐藤 渓治君と原田 健治君のアル・ケッチァーノ関係者5人。そしてRupestrの常連で仲介の労と通訳をお願いした盛岡在住の税理士・西川 温子さん、私と同じく奥田シェフに誘われて参加した料理雑誌「四季の味」の八巻 元子編集長と、私の友人を含めて車の定員いっぱいの総勢9名での移動となりました。

 スタートが遅れたため、途中で立ち寄る予定だったサレジオ会の創設者でカトリックの聖人ドン・ボスコゆかりの地、Castelnuovo Don Bosco カステルヌオーヴォ・ドン・ボスコへは後日立ち寄ることに変更。"まずは腹ごしらえ"と、メンバーが向かったのは、イタリアの各Guida(=レストラン評価本)での高評価はもちろん、イタリアのレストランには点が辛いといわれるミシュランのレッドガイドでも一つ星を獲得しているカネッリのリストランテ「SAN MARCO サン・マルコ」。奥様のマリウッチャさんがシェフ、ご主人のピエール・カルロさんがソムリエ兼フロアマネージャーというフェレッロ家による経営スタイルは、家族の結びつきが強いイタリアのリストランテではよくある形態です。人口一万人ほどのカネッリの町にあるこのリストランテでも、二人の日本人がその日は厨房で働いていました。ワインに目がない私が事前にWebサイトでチェックして「ココで食べたい!」と一目ぼれしたのは、地元ピエモンテ産ワインがズラリと並んだ地階のセラールーム「La Tavernetta」。その部屋を予約してもらうようジョルジョにお願いしてあったので、私たちが通されたのは、まさにその部屋の大きなテーブルでした。

      cuccina.jpg【PHOTO】この日SAN MARCO の厨房には、外国人のための教育研修機関「ICIF」でイタリア料理を学ぶ二人の日本人スタッフがいた

tavernetta.jpg【PHOTO】ピエモンテ州ランゲ地区の名醸ワインがズラリ。SAN MARCO のセラールーム「La Tavernetta」でゴキゲンなジョルジョと奥田シェフ

 テーブルには、一般的なスティック状のものと、薄く延ばした細長い形状の自家製だというグリシーニや大きなポルチーニ茸や野菜類が美しくセッティングされ食欲をそそります。

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【PHOTO】テーブル上のディスプレー。白い野菜がカルド・ゴッボ・ディ・ニッツァ・モンフェラート(上写真)自家製グリッシーニ2種類。グリッシーニ発祥の地はトリノだそうな(下写真)

 まずは、ジョルジョがチョイスしたカネッリにあるカンティーナ(=ワインの醸造元)CONTRATTOの辛口スプマンテで、彼の「カンパーイ」の流暢な日本語の発声のもと旅の無事を祈って乾杯。

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【PHOTO】CONTRATTOSPUMANTE'02は、長雨による厳しいヴィンテージを反映してか、残念ながら泡立ちや複雑味、奥行きがいまひとつ。かつてこのカンティーナの醸造責任者を務めた経歴のあるジョルジョも物足りなさ気だった

 予約したお任せコースは、フェンネル(=ういきょう)のクリームとフォアグラ、ジャガイモと自家製ソーセージ、豚の頬皮のサラミ・ポレンタ(注2)挟みフリットなどの5品のアンティパスト(前菜)で始まりました。

antipasti.jpg【PHOTO】動物性脂肪を多用するピエモンテ料理にしては比較的軽めの味付けから。アンティパストは大皿で登場

 そこに先ほどまで厨房にいた日本人スタッフの中村さんが、小学生の握りこぶし大ほどの大ぶりなタルトゥフォ・ビアンコ(=白トリュフ)を皿に6個ほど載せて登場。すると、えもいわれぬトリュフの芳香が部屋中に漂い始めました。いわく「グラム単位の計り売りになります。いかがされますか?」。

 野暮な質問はやめてくれ~。据え膳食わぬは何とやら。魅惑的な匂いをかがされたワンコ同然の私たちは、ピエモンテが誇る超・高級食材、白トリュフの産地に、しかも旬の真っ盛りに日本からわざわざ来ているのですから、頼まないはずがありません。きちんとグラム単価の説明を受けたかどうかは、視線がトリュフに集中するあまり記憶が定かではありません。それでも極めて高価な食材である事は充分知っているつもりで、メンバー相談の上オーダーしました。

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【PHOTO】トリュフを手に登場した日本人スタッフ中村君。私たちの視線は皿の上に釘付け

 テーブルにもディスプレーされている野菜「Cardo Gobbo di Nizza カルド・ゴッボ・ディ・ニッツァ」は、カネッリの北東8キロほどにあるNizza Monferratoニッツァ・モンフェラート周辺の砂の多い土壌で作られるアザミの一種。生育途中で一ヶ月ほど茎の部分を土中に埋めて白化させる伝統的な栽培法でスローフード協会からプレジディオ指定を受けています。

contartufo.jpg【PHOTO】ポルチーニのトルティーナ・フォンドュータソースと温製カルド・ゴッボ・ディ・ニッツァ

 そのカルド・ゴッボ・ディ・ニッツァを温製の付け合せにした「ポルチーニのトルティーナ・フォンデュータソース」には、シェフのマリウッチャさんが登場し、専用のおろし具で白トリュフをおろし始めました。その途端、先ほどまで部屋の中に漂っていた芳香が一段と強く立ちこめはじめたのです。

            mauriccia.jpg【PHOTO】あっけにとられている私たちにの脇に立ち、白トリュフをたっぷりとスライスするシェフのマウリッチャ・フェレッロさん

 白トリュフの最大の魅力である馥郁たる香りは、黒トリュフとは比べ物にならないほど強く、取引価格もイタリア産黒トリュフの3倍以上はします。その芳香は収穫された後、時間の経過と共に水分ともども失われてゆきます。日本に空輸された白トリュフをリゾットで食べたことがありますが、その時に感激した香りすら、比較にならないほど嗅覚を強く刺激する心地よい香りです。あわせるワインはジョルジョにお任せで、バローロやバルバレスコにも使われるピエモンテの代表的なブドウ品種、ネッビオーロをABBONAという作り手が仕込んだミディアムボディのNEBBIORO D'ALBA BRICCO BARONE'03

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【PHOTO】NEBBIORO D'ALBA BRICCO BARONE '03ネッビオーロ・ダルバ / ブリッコ・バローネ'03

 そこから、豪奢な白トリュフの饗宴が始まりました。まずは、持ち味の繊細極まりない肉質は地元で味わう生食でこそわかるという、これまたプレジディオ指定を受けたピエモンテ牛のタタキ料理「カルネ・クルーダ」。

carnecruda.jpg【PHOTO】ピエモンテ牛のタタキ「カルネ・クルーダ」

 次にピエモンテ州の伝統的パスタ、ピエモンテ訛りで「タヤリン」と呼ばれる小麦と卵黄で作る手打ち細麺パスタ「タリオリーニ」、肉やチーズ・野菜を詰め物にするキョウザのような形のラザニア「アニョロッティ・ダル・プリン」。

tayarin.jpg【PHOTO】タヤリンとアニョロッティ・ダル・プリン

 そしてピエモンテでもフランス国境に近い標高1,800メートルに位置するアルプス山中の村、クーネオ県カステルマーニョの澄んだ空気のもとで2年の熟成を経て作られる希少価値の高いチーズ「カステルマーニョ」をからめたニョッキ。

gnocci.jpg【PHOTO】 カステルマーニョチーズ風味のニョッキ

 これらの皿には、料理を覆いつくさんばかりのトリュフが贅沢にすりおろされました。料理自体の香りと味わいが、トリュフの放つフェロモンたっぷりの芳香によって増幅され、妙なる響きを口から鼻腔にかけて奏でるさまは、今でも鮮烈に記憶しています。かつては媚薬としても珍重され、今日でも世界の食通が鵜の目鷹の目で追い求めるアルバ産白トリュフ。料理の画像だけで、あの香りを皆さんにご紹介できないのが、返す返すも残念

 私たちが訪れた直後の2006年11月、アルバで行われたオークションで、香港の実業家が慈善団体へ寄付をするため自身が主催したチャリティディナー用に3個あわせて1.5キログラムになる大きな白トリュフを12万5千ユーロ(=約1,900万円)で落札したといいます。そんな白トリュフの魔力に魅入られた一行は、トリュフをすりおろすスライサーの手をせわしなく動かすカメリエーレ(=給仕)にSTOPをかける理性を、その時すでに失っていました。

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【PHOTO】仔ヒツジのリブロース・バローロソース

 メインディッシュ「仔ヒツジのリブロース・バローロソース」には、ピエモンテらしいしっかりとした味付けに負けないフルボディのワインが、ソムリエによってデキャンタージュされてサーブされました。バローロ・ボーイズ(注3)と呼ばれる優れた新世代の作り手PAOLO SCAVINOBAROLO'01は、'96年から6年間も連続したピエモンテのグレートヴィンテージ最後の年。さすがは秀逸な造り手の優良年だけあって、味わいの構成バランスが取れた良くできた印象のワインでした。

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【PHOTO】PAOLO SCAVINOパオロ・スカヴィーノのBAROLO'01。評価の高い畑指定のクリュものではないバローロでもさすがの味わい

 幸福な充足感に浸る私たちに、アスティ県の南端ランゲ地区ロッカヴェラーノで作られるプレシディオの山羊乳チーズ、「ロビオーラ・ディ・ロッカヴェラーノ」とアルバ産の「ロビオーラ・ディ・アルバ」が運ばれてきました。前者は熟成が進み山羊乳特有の酸味が薄れた香りが強いもの。後者は牛乳も混ぜたフレッシュなタイプで、熟成の度合いによって同じシェーブルチーズでも印象が全く異なりました。

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【PHOTO】(上写真/右側から)ロビオーラ・ディ・ ロッカベラーノとロビオーラ・ディ・アルバ(下写真)メレンゲほかピエモンテの焼き菓子数種

 この後に続いたドルチェは、ドライフルーツやナッツ類が入ったヌガー菓子「トローネ」とチョコレート、シチリアのマルサラ酒を使ったピエモンテ発祥のカスタード「ザバイオーネ」が添えられたクレームブリュレ、メレンゲと素朴な焼き菓子が美しく盛られた3皿。

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【PHOTO】(上写真)トローネとトリュフチョコ(下写真)クレームブリュレ・ザバイオーネソース

 強烈な芳香を放つ白トリュフを使ったフルコースをたっぷりと頂いたため、胃の物理的要因もさることながら、心因的な充足感から、ドルチェを口に運ぶのを躊躇するメンバーがほとんど。バローロの生産者として名高いMICHELE CHIARLOの食後酒「バローロ・キナート」(注4)で胃をすっきりさせ、何とかドルチェもほぼ完食しました。トリノまでの空路、2度提供された機内食の内容に閉口していた私たちは、イタリア到着早々、何とも贅沢極まりない食事よって、長いフライトの疲れを一気に回復したのでした。

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【PHOTO】MICHELE CHIARLOミケーレ・キアルロのBAROLO CHINATOバローロ・キナートは食後に楽しむDigestivoディジェスティーヴォ(食後酒)

 締めくくりのエスプレッソで豪奢なフルコースの余韻に浸っていると、食事の途中で用事のため中座していたジョルジョが戻ってきました。最初の見学先となる伝説のグラッパ職人ロマーノ・レヴィさんのもとを訪れる約束の時間が迫っていたのです。精算をお願いした伝票を見ると、料理代金が500エウロ(イタリアでは「ユーロ」を「エウロ」と発音します)、ワイン3種類5本で184エウロ、カフェ20エウロ、ミネラルウォーター18エウロ、タルトゥフォ218グラム×単価3.6エウロ=784.80エウロで、しめて1,506エウロ。出発時の為替レートは1エウロ=約153円だったので、23万円余りということになります。電卓をたたきながらも、にわかに一人当たり2万3千円という数字を信じられません。イタリア人が手書きした数字は独特のクセがあり、日本人には読みにくいため、ジョルジョに念のため確認しましたが、残念ながら間違いありません。ガ・ガ・ガーン ( ̄ロ ̄lll)・・・

 おいしい料理の後の幸福なマッタリモードに浸っていた私たちは、その時初めてトリュフの魔力に気付いたのです。西川さんには「到着早々のランチだから軽めに」とお願いし、ジョルジョもPiccolo Pranzo(=軽い昼食)と予約したのに、友人であるジョルジョの予約だったため、どうやら店側が品数をサービスしてくれたようです。☆付きリストランテの質の高い料理内容からして、料理の代金は安いくらいだったと、後にジョルジョは言っていたそう。想定外だったのは、事情通のジョルジョが不在にしている間、スライサーでトリュフを惜しげもなく振舞うカメリエーレに誰もストップをかけることなく、トリュフだけで12万円あまりが私たちのお腹にいつしか吸い込まれていったこと。(TT)/~~ 代金をクレジットカードでまとめて支払った私の友人は、到着初日の昼食で、早くも利用限度額を意識せざるを得なくなってしまい、なんとも気の毒でした。

 日本人が思い描くイタリア料理は、オリーブオイルやトマトソースで味付けされた魚介中心の南イタリアの食事かもしれません。しかし、フランスと地理的に近く、内陸に位置するピエモンテの料理は、肉食が中心で味付けに動物性の脂やバターを使用するため、ともすると重く感じられると聞いていました。SAN MARCOで出されたのは、まごう事なきピエモンテ料理。それでも女性シェフらしい細やかさと、サヴォイア王朝の都だった歴史を持つトリノの洗練された文化の影響からか、洗練された味付けが印象的でした。

リストランテ サン・マルコ
 * 住所:Via Alba 136 14053 CANELLI(AT)
 * URL:www.sanmarcoristorante.it

【注1】 イタリアの一般道における制限速度は、市街地が時速50キロ、郊外で90キロ、高速は130キロと法律で決められている。しかしその実態は・・・高齢ドライバーを除く大方のイタリア人は、市街地を出れば、そこはサーキット場と考えている。郊外の一般道における巡航速度は130キロを下回ることは稀。日本のように60キロほどで走ろうものならビュンビュン追い越されるはずだ。郊外の交差点は、ほとんどが合理的なロータリーになっており、信号機だらけの日本のように、ストップ&ゴーで燃費を悪化させる弊害はない。もっとも信号があってもローマ以南では、信号を守るドライバーのほうが珍しいかもしれない。それでいて暗黙のルールは存在し、運転の上手なドライバーも多いため、とてもスムーズに走れる(と、思う)。「WHEN IN ROME , DO AS THE ROMANS DO = 郷に入っては、郷に従え」が身上の私は、イタリア式の流儀にのっとって走っただけである。(・・・って開き直りだろうか?)

【注2】トウモロコシの粉を水で溶いて弱火にかけ、40分から1時間以上(事情通によれば、本人が納得するまでらしい)、ひたすらかき混ぜてトロトロになるまで煮込む北イタリアの伝統的な家庭料理。パイオーロと呼ばれるポレンタ専用の銅製の鍋もある。北イタリア各地で、さまざまに味付けがされ、特に小麦の栽培が困難な土地のやせた山間地でよく食べられる。最近は時間がかかる本来のものではなく、3分ほどで出来上がるインスタント製品も出回っている。
 
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2005年3月に庄内を訪れたイタリア・マルケ州アルチェヴィアのSindaco(=町長)シルヴィオ・プルガトーリ氏ら訪問団のメンバーの一人アルフィエーロ・ヴェルディーニ氏から贈られた年季もののパイオーロ

【注3】名醸地ピエモンテでは、1980年代初頭までは、大手の酒商がワインの販売権を独占しており、「ワインの王」バローロや「ワインの女王」バルバレスコにおいても、ブドウ生産者が栽培から醸造まで一貫して行う「生産者元詰め」は、ジャコモ・コンテルノやバルトロ・マスカレッロなどの20軒ほどの事例を除いて行われていなかった。酒商によって買い叩かれたブドウ生産者は、いきおい多産に走り、ブドウとワインの品質低下を招いた。そのような状況を打破するべく、'80年代中頃にブルゴーニュのような畑の区画指定「クリュ」の概念や、ブドウの少量生産、バリックによる熟成といった手法を導入した次世代が登場した。彼らが生み出したバローロやバルバレスコは、ブドウ生産地として本来恵まれた土地であったピエモンテの世界的名声を一気に回復させた。それら新たな手法でワイン元詰め生産を行ったピエモンテの生産者第二世代の総称が「バローロ・ボーイズ」

【注4】ほぼピエモンテ州内のみで食後酒として飲まれるほろ苦く甘い酒。南米アンデス原産のキナの木の樹皮に含まれるキニーネというマラリアの特効薬となる成分や数種類のハーブやスパイスをブドウ果汁由来のアルコールに溶かし込み、バローロを加え補糖したデザートワイン。作り手によって味はさまざま。

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2007/06/08

Salone del Gustoサローネ・デル・グスト体感レポート

◆File2:スローフード運動の理念を体現した「サローネ・デル・グスト」

Salone_logo.jpg テッラ・マードレの会場「オーバル」に隣接する広大な「リンゴット」国際展示場では、「Salone del Gusto サローネ・デル・グスト(=「味のサロン」の意)」が催されました。10回目を迎えた当イベントのスローガンは、「GOOD,CLEAN,FAIR (=おいしく、きれいで、正しい)」

 こちらは、20ユーロの入場チケットを購入すれば、一般参加者も入場可能です。幕張メッセで開催される日本最大の食の見本市「FOODEX JAPAN」の出展ブース数はサローネより多いものの、あくまで業者向けの商談の場・見本市の性格が強いもの。一方、スローフード協会は、サローネを広く一般消費者に門戸を開放しています。

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【Photo】広大なサローネ・デル・グストの会場。世界各国の個性ある伝統食品が並ぶ "Slowfood archives"
  
 かようにサローネ・デル・グストは単なる食の見本市ではなく、スローフード運動が目指す生物多様性のあり方と、味覚・環境・社会的公正さを備えた質の高い健康な食の世界を、訪れた人が多面的に体感できる場なのでした。事実、初開催となった10年前は、食品メーカーや小売店などの商工業者出展の割合が75%だったのに対し、第一次産業に携わる人々の出展が25%の割合だったものが、今回はその割合が生産者出展75%・商工業者出展25%に逆転していたのです。

ViaDolci.jpg【Photo】来場者でごった返すサローネ会場。甘党にはたまらない菓子類がずらりのVia dei Dolci (=お菓子通り)。チョコレート作りが盛んなトリノの老舗 Venchi ほか、ほとんど全てのブースで試食が可能。生き方そのものがDolce vita (=甘い生活)なイタリア人が作るドルチェだけに、さすがに美味 "Slowfood archives"

 そこでは開場時間の11時から23時までの間、胃袋と気力が続く限り、食の五大陸一周旅行を堪能できるのです。ワインやオイル、チーズや食肉加工品、トリノ名産のチョコレートなどイタリアを代表する伝統的産品の300あまりのブースや、世界各国の特色ある食品が広大な会場にぎっしりと並び、一日で会場のすべてを食べつくし、学ぶことなど、とても不可能なスケールです。

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【Photo】イタリア・トスカーナ州アレッツオ県のアルノ川沿いのヴァルダルノ地方で作られるプレジディオ指定された独特の製法によるパンチェッタ「Valdarno Tarese」のブース

 「Ark アルカ(味の箱舟)」認定産品のなかでも、特に重要で良質な食材はスローフード協会から「Presidio プレジディオ」(=庇護・防衛の意)指定を受けます。私が訪れた2006年大会からは、個性豊かなプレジディオが、大陸別に展開するブースが300ほど設けられました。そこにはスウェーデンのトナカイの干肉や、チベット高地で飼育されるヤクの乳のチーズなどの、さまざまな国籍の生産者がおり、いわば異文化と触れ合う坩堝(るつぼ)さながらの様相を呈していました。

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【photo】パスタ製造が盛んなアブルッツォ州の小麦粉挽き職人のパスタワークショップには、同州のみならず、イタリアを代表するワイン醸造家、ジャンニ・マシャレッリ氏も登場、講座に華を添えた

  特色ある世界中の伝統食品・飲料に関するワークショップが会期中に行われ、そこでは英語の同時通訳による生産者自身や生産組合などの関係者らの解説を聞きながら、試食・試飲ができました。私が参加したのは、ふたつの講座。まずはイタリア中南部アブルッツォ州の小麦粉挽き職人ニコラ・ディ・ラッロ氏が、小麦粉を手ごねして作るパスタ「マッケローニ・アッラ・ムニャイア」 (注1)の製造過程を実演し、打ち立てのパスタを試食するというもの。

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【Photo】小麦粉挽き職人ニコラ・ディ・ラッロ氏による「マッケローニ・アッラ・ムニャイア」作りの実演。熟練のラッロ氏の手つきは日本人からみれば"うどん打ち"そのもの

 コシのある麺にトマトソースが軽めに絡めてあり、小麦の香りが活きた仕上がり。アブルッツォならではの素朴なパスタと共に出されたのは、2006年に亡くなった伝説的なワイン生産者、エドアルド・ヴァレンティーニ氏亡き後、同州のリーダーと目される著名な醸造家ジャンニ・マシャレッリ氏の赤ワインでした。ワインと共に登場したのが、アブルッツォのみならずイタリアでも屈指の醸造家、ジャンニ・マシャレッリご本人でした。イタリア人らしいビシっとしたスーツ姿の同氏の登場は事前のリリースには一切記載されておらず、私にとってはうれしい誤算です。

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【Photo】 日本人にとっての醤油味のように、イタリア人の味覚において最もベーシックな味付けとなるトマトソースによるシンプルな味付けでパスタを味わった。醤油とダシで頂く讃岐うどんと同じく、パスタのコシと小麦の香りが際立った「マッケローニ・アッラ・ムニャイア」

 フレンチオークのバリック樽100% (注2) でモンテプルチアーノ種のブドウを36カ月間長期熟成をさせるフルボディのD.O.C.赤ワインMarina Cvetic Montepulciano d'Abruzzo'03。マシャレッリ氏がアブルッツオ州キエーティ県マルッチーナに1978年から所有していたブドウ畑に新たに興したマリーナ夫人の名前を付けた醸造所、Azienda agricola Marina Cveticからの初リリースとなるモンテプルチアーノ種100%で仕込んだI.G.T.赤ワインRosso colli Aprutini ISKRA'03の2種類が用意されました。

 前者はプルーンのような上品な香りでクラシックな造り。エレガントさも持ち合わせています。スロベニア語で"閃光"や"きらめき"を意味するという後者は、よりバリックが効いたモダンでインパクト重視な味わい。タイプは違えど、フルボディでいずれも極めて魅力的。醸造家ご本人の解説を聞きながら試飲できるとは願ってもない機会。 ん~、至福のひととき。

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【Photo】Marina Cvetic Montepulciano d'Abruzzo'03Rosso colli Aprutini I.G.T ISKRA'03。記録的な夏の灼熱がイタリアを覆った年ながら、アドリア海沿岸のマルケ州とアブルッツオ州はブドウの作柄に恵まれた。輪郭を際立たせるイタリアらしい酸味もあり、さすがはマシャレリと唸らせる出来。スローフード協会が発行するワイン評価本「Vini d'Italia 2007・通称Gambero Rosso ガンベロ・ロッソ」で、前者は最高評価のTre bicchierri トレ・ビッキエリと、コストパフォーマンスに優れたワインに与えられるアスタリスクマークを共に獲得。後者はファーストヴィンテージながら、次点に当たるDue bicchierri ドゥエ・ビッキエリの評価をされた

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【Photo】ジャンニ・マシャレッリ氏と。マシャレリのトップキュベ "Villa Gemma"の'97年産は、「Vini d'Italia 2001」に掲載された全イタリアワイン12,000本あまりの頂点"ワイン・オブ・ジ・イヤー"に選ばれた。「Villa Gemma'97を持っていますよ」と、この稀代の醸造家に伝えると、トークセミナー中の近寄りがたい雰囲気を漂わせる鋭い眼光のエネルギッシュな表情から一変、破顔一笑のもと親しげに写真に納まってくれた。これが2年後の8月に急逝したジャンニとの最後の一枚となろうとは・・・

 もうひとつのワークショップは、エミリア・ロマーニャ州パルマ北東40キロのポー川沿いにあるジベッロ村で作られるプレジディオ指定の生ハム「Culatello di Zibello クラテッロ」 (注3) 。有名なパルマ産プロシュット(=生ハム)が年産900万本なのに対し、クラテッロがわずか年産5万本なのは、豚の尻から脛にかけてのごく限られた部位しか使用せず、しかも冬場にポー川の発する霧が肉の熟成に欠かせない要素になるという完全手作りなるがゆえ。需要が増えた最近は、輸出向けに本来の部位以外の肉を使用し、製造過程で一部機械を使用する製品も出回っているといいます。

 今回クラテッロ協会マッシモ・スピガローリ会長の解説で12カ月、20カ月、24カ月、36カ月の熟成期間別に試食に出されたのは、会長自身の加工場で製造された間違うことなき伝統的製法による逸品。ここでは北イタリアのトレンティーノ・アルト・アディジェ州産の辛口発泡ワイン「スプマンテ」が5種類出されました。

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【Photo】クラテッロ協会加盟の製品に張られるラベルを掲げる男性の左側がクラテッロ協会マッシモ・スピガローリ会長

 熟成期間が長いほど肉に乳酸系の発酵臭が加わり、味わいに複雑さと深みが増してゆくのがよく分かります。特に36カ月熟成を経たものは、地元エミリア・ロマーニャでも希少。かつて冷蔵技術がなかった時代、ヨーロッパの食肉加工文化は必要に迫られて発達した側面もあります。長い伝統が培ったイタリアの食肉加工技術は、イタリア屈指の美食の里といわれるエミリア・ロマーニャ州で、独自の発展を遂げたのです。ジベッロ村の自然環境を活かす人智が生み出したクラテッロの深い味わいには唸らされました。

12mesie20mesi.jpg【Photo】フレッシュ感が残る12ヶ月熟成(左) 味に幾分深みが出る20ヶ月熟成(右)

24mesie36mesi.jpg【Photo】24ヶ月熟成は更に複雑味が増す(左) 色合いが変化し、乳酸系の発酵感が強い36ヶ月熟成は全く別物。至高の味となる(右)

 そのワークショップ会場で出会ったのが、神奈川出身の茂垣綾介さん(25歳)。2003年春に渡伊し、料理修行からサラミなど肉の加工に転進したのが一年前。スピガローリ会長が経営する会社では半年ほどクラテッロ作りを学んでいるといいます。イタリアのリストランテでは、実に多くの日本人が料理修行のために働いていますが、彼は異色といってよいでしょう。

mogaki.jpg【Photo】サローネ会場で修行先のクラテッロを手にする茂垣 綾介氏。隣りは公式行事がなく、この日はリラックスモードで会場を回っていたアラン・デュカス御大。そこはさすがにプレス慣れしたもので、しっかりとカメラ目線でポーズをとってくれた。世界のトップフレンチシェフは実に如才がないのだった

 日本からはサローネ・デル・グストに築地の寿司店「寿司岩」がブース出店していたほか、「テアトロ・デル・グスト(=味覚の劇場)」と銘打たれた催しでは、江戸前握りの実演も。京都吉兆の徳岡邦夫総料理長は、湯葉と胡麻豆腐を使った懐石料理を紹介していました。世界中の有名シェフの調理の様子が間近に見られ、試食もできるこの催事のチケットは全てあっという間に売り切れたようです。

 昭和40年代から古酒を手がけてきた岐阜の蔵元「達磨正宗」の昭和54年産の古酒と鮎の熟れ寿司の組み合わせを試みるという日本人にとってもマニアックな?ワークショップや、静岡産有機栽培緑茶と和菓子のワークショップもあり、日本の食文化にスポットライトが当てられる局面もありました。

 メイン会場の州都トリノを離れたピエモンテ各地では「Gli Appuntamenti a Tavola(=食卓へのいざない)」という28ものディナーが催されました。ピエモンテ州が誇る高級食材・白トリュフの産地、クーネオ県アルバや、バローロ・バルバレスコといった名醸地のブドウ畑が広がるランゲ地方のリストランテや歴史的建造物を会場に、世界各国から選ばれた料理人が、伝統料理を振舞いました。ホスト国イタリアからも、アマルフィ近郊の名店「ドン・アルフォンソ1890」ほか各種Guida(=レストラン評価本)で高い評価を受けるシェフたちが腕を振るったのは申すまでもありません。

 主だったサローネ・デル・グストの催しをざっとご紹介しましたが、食いしん坊な私には、体と胃袋が幾つあっても足りない5日間でした。

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【注1】
アドリア海に面したアブルッツォ州では、パスタ製造が盛ん。日本でも有名なDE CECCO(イタリアでは「デ・チェッコ」と発音)やDue Pastori(ドゥエ・パストゥーリ)が本拠地を構える。こうした乾麺のほか、アブルッツォ州では、「マッケローニ・アッラ・キタッラ」という伝統的な手打ちパスタが有名。Chitarraとはイタリア語でギターのこと。弦を張った専用の道具(下写真)で生地を押し切るため、麺が四角い。

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ちなみにワークショップでラッロ氏が作ったマッケローニ・アッラ・ムニャイアは、同州南部に伝わる類似のパスタで、生地に使用したのは、デュラム小麦ではなく普通の小麦だった

【注2】
ワインの醸造過程において、ボリュームと風味付けのために樫(オーク)材の樽を使用する。一般に225リットル容量のものをバリックと呼ぶ。ワイン醸造用バリックの主な産地、アリエやトロンセなどフランス産のものは、タンニンなどのエキス成分を多く含む。一方アメリカ産のバリックは木の香りが強い。よって、カリフォルニアワインは樽香が一般に強くなる。形成過程で内側を火であぶるため、その焙煎具合もワインの仕上がりを左右する。ローストが強いと焦げた香りがワインにつく。新樽は成分が強く、一回使用した樽は、樽由来の成分が幾分穏やかになる。よって、生産者は樽の産地やロースト具合、熟成期間をいろいろと組み合わせてワインを作り出す。「新樽100%」とは、全て新樽を使用して仕込んだということ

【Photo】クラテッロ協会による審査を受けたブロック製品にのみ付けることが許されるタグ。流通市場では、ほぼパック詰めのスライス製品に限定される日本では望むべくもないが、これが本物の証

curatello.jpg【注3】
パルマやサンダニエレ産の生ハムは豚のモモからスネにかけての骨付き肉から作られる。かたやクラテッロは、骨抜きにした豚肉の尻(Culo=クーロ)からモモにかけての最上の部位のみを使用する。完成品で3キロあまりの重量しかできないクラテッロは、一本9キロ前後のパルマ産生ハムとほぼ同額。つまり3倍の値がつく。伝統的製法では、脂肪を削ぎ落とした豚肉を岩塩・コショウ・ガーリックパウダーなどで下処理。三日間の冷蔵後、細心の注意を払って再び塩を加え、白ワインで表面をさらす。これら一連の作業を終えてから、洗浄処理した膀胱に詰めた上で、ひもで網目に縛って円筒状に成形する。それを10ヶ月以上、湿度がこもったロフトと地階で自然熟成させる。

こうした製法のため、熟成過程で劣化する場合もあり、一級品はより希少性が高まる。EU統合により、画一的な衛生管理が求める動きもあり、本来のクラテッロに出会ことが困難になりつつある

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