あるもの探しの旅

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2017/08/28

至福のデザートワイン

祝・Wine Adovocate 誌100点獲得 !
超レア。アヴィニョネジ ヴィンサント飲み比べ


 身も心もあま~くトロける「デザートワイン」はお好きでしょうか?

 北イタリアで過ごした前世を含めずとも、数限りなくワインとの出合いを経験してきた庄イタ。フィネス(⇒「洗練された高貴さ」といった意味のワインへの賛辞)を感じるヴィーノ・ロッソに負けず劣らず、いや、それ以上に色めき立つのが、甘美な夢見心地へと誘ってくれるデザートワインなのです。

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【Photo】前稿「イタリア瓶属 大移動 」で、日本国内には一握りのストックしか残っていないであろうQuorum Barbera d'Asti'99と並べてチラ見せした「BUKKURAM Passito di Pantelleria D.O.C. ブックラム・パッシート・ディ・パンテレッリア」。作り手は「Marco de Bartoli マルコ・デ・バルトリ」。グラスから立ち上がる濃密な香りを皆さまにお届けできないのが残念!!

 日本では、赤白問わずワインを飲み慣れた筋金入りのワインラヴァーでも、極甘口と聞くと及び腰になる向きが少なくないと思います。

 かたや、蜂蜜や香草を加えて葡萄酒を嗜んだ古代ローマから脈々と続く食文化を培ってきたイタリアにおいて、甘い苦いを問わずDigestivo ディジェスティーヴォ(食後酒)は欠かせない存在。

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【Photo】シチリア島の南東沖に浮かぶ火山島パンテレッリア島で造られるBUKKURAM Passito di Pantelleria 。強烈な日差しと強風が吹きすさぶもと、エジプト原産のブドウ「Zibibbo ジビッボ」を8月初旬に収穫後、4週間天日干し。マスカット由来の贅沢な香りが凝縮した庄イタが偏愛するデザートワインのひとつ(ロケ地:青森市長島「Al Centro」)

 イタリア語で男性名詞のdigestivoは、形容詞では〝消化を助ける〟という意味。元来は消化促進を目的に食事の最後に薬草入りの比較的アルコール度数が高いリキュールを少量クイッと飲むものでした。

 イタリア各地には、さまざまなリキュールが存在し、広く愛好されています。日本でもソーダ割が食前酒としてポピュラーな「CAMPARI カンパリ」のようなビター系リキュールの最右翼は、世界で最も苦い酒といわれる「Fernet Brancaフェルネット・ブランカ」。カンパリと同様ミラノが発祥です。

 形容詞では〝苦い〟を意味する「Amaroアマーロ」と呼ばれるジャンルの苦味が主体となるリキュールは、糖分抜きの薬用養命酒+煮詰めたソルマックのイタリア版カクテルといった風情です。(☜ どんな味やねん!)

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【参考】フェルネット・ブランカほどは苦み走ってはおらず、比較的アプローチしやすいアマーロがモンテネグロ。2014.5拙稿「Digestivo(=食後酒)は適量を。<後編> Tanti tanti digestivi.~5月X日はディジェスティーヴォの日~」参照

 アマーロではイタリア国内シェアNo.1の「Montenegro モンテネグロ」は、40種類の薬草・スパイスを調合。シチリア生まれの「Averna アヴェルナ」などを含め、酸いも甘いもくまなくリキュールを飲み尽くすなど、プロフェッショナルなバーテンダーといえども土台無理な話でしょう。

 例えば、アドリア海に面したマルケ州アンコーナ県を訪れた際、デザートと共に供されたのが、中部イタリアを代表する赤ワイン用ブドウ品種サンジョヴェーゼにサクランボの一種、サワーチェリーを砂糖と漬け込んだ「Vino di Visciole ヴィーノ・ディ・ヴィショレ」。存在すら知らず、初めて口にするその美味しさに魅了されました。

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 ユニークなところでは、フランチェスコ修道会が発祥とされる「Nocino ノチーノ」。熟す前の6月にクルミを収穫、ウロのまま純粋アルコールにシナモン・丁子・砂糖などと漬け込みます。

 ノチーノの本場とされるモデナと同じくオニグルミが自生する仙台では、無農薬栽培されたレモンを一定量確保できた時、レモンの果皮をアルコールに漬け込む「Crema di Limoncello クレマ・ディ・リモンチェッロ」と同様に自家製を楽しんでおりました。

【Photo】収穫したての青グルミをアルコールに漬け込んだ翌日の状態(右)と、前々年に自作したノチーノ(左)。そのうち仕込みの顛末をご紹介します 

 多種多様なイタリアン・リカーのみならず、先日、〝ジャパニーズ・ピザ〟を食べに行きましょうと某グルマン氏に誘われて伺った大阪ミナミのお好み焼き「おかる」の流れで、大人が集う隠れ家的な東心斎橋のバー「Old Course」で頂いた3年熟成した琥珀色のレアものアブサンもまた絶品なのでした。

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【Photo】大阪ミナミのバーOld Courseで頂いたアブサン「Vieux Pontarlier ヴィユー・ポンタリエ」2種。スイス国境にほど近いフランス・ポンタルリエで1915年のアブサン禁止法以前から続く蒸留所「Les Fils d'Emile Pernot エミール・ペルノ」製。厳選した地元のニガヨモギ、スペイン産アニスシード、プロヴァンス産フェンネルなどを調合。加水して飲まなかったため、美しいグリーンに変化する前のベースとなる65度のアブサン(左)を3年間オーク樽で熟成させた琥珀色の3ans(右)は、オーナー・バーテンダーの安岡啓介氏曰く「この先いつ入手できるか分からない」超限定品。馥郁たるその香りは、アブサンとは全くの別物

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 百花繚乱の食後酒の中から、一つだけ晩餐を締めくくる一杯を選ぶとすれば、とっておきのデザートワインを指名することでしょう。

 口に含んだ途端、押し寄せる百花蜜のごとき蜂蜜のさまざまなニュアンスや、完熟メロン・完熟白桃・ナッツ・カラメルソース・焦がしバター・カカオ成分70%のチョコレートなどの風味が渾然一体となって響きあいます。 

 有名どころは、仏ボルドー地方Sauternesソーテルヌ地区、ハンガリー・Tokaj トカイ地方、ドイツ・ライン河流域やモーゼル河流域のトロッケンベーレンアウスレーゼといった世界三大貴腐ワイン。

 ボトリティス・シネレア菌(貴腐菌)がブドウに付着すると、果皮には菌糸による極小な穴が無数に穿(うが)たれます。そこから水分が蒸発し、干しブドウ状態となった白ブドウを数回に分けて一粒ずつ選別しながら手摘みするのです。雨がちな年はブドウが腐敗し、作り手の努力が水泡に帰することも。貴腐ワインが高値を呼ぶ理由は、こうしたリスクと隣り合わせにある稀少性と、ブドウ畑に投下される膨大な労力とによります。
 
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【Photo】プリムール(⇒ 蔵出し前に予約購入すること)で入手したシャトー・ディケム'98。歳月を重ねることで、リリース当初の淡い飴色が次第に深みを増してゆくのは、いつの日かこのバースデーヴィンテージのボトルを開ける娘の人生に共通する(のかもしれない) 

 とは言っても、ソーテルヌの頂点に立つ「Château d'Yquemシャトー・ディケム」は、所有する東京ドーム24個分以上に匹敵する113haの広大なブドウ畑から、ブランド大好きな日本を上得意先とするLVMHLouis Vuitton Moët Hennessy)グループ傘下の潤沢な財力に物を言わせ、750mℓ容量ボトルで平均6万5千本程度、多産な年は10万本以上を生産します。

 アルプス以北の国々のように川沿いに立ち込める霧が成長を促す貴腐菌の力によるのではなく、太陽の国イタリアでは、デザートワインを造る場合、陰干ししたブドウから凝縮したワインを造る「Passitoパッシート」という手法が用いられてきました。

 トスカーナ州で陰干しブドウから造られるのが、聖なるワインという意味の「Vinsanto ヴィンサント」。なかでもVino Nobile di Montepulciano D.O.C.G. ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチアーノの優良生産者として名高い 「Avignonesi アヴィニョネジ」は、極めつけの造り手です。

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 今回も過去ネタで恐縮ですが、話は9ヵ月前に遡ります。

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 横浜・馬車道のイタリアワイン専門店「il Calice イル・カリーチェ」で、アヴィニョネジの稀少なヴィンサントを2種類グラスで飲めるという、庄イタにとっては願ってもない機会がありました。

 用意されたのは、白ブドウ「マルヴァジア」と「トレッビアーノ・トスカーノ」を収穫後3~4ヵ月陰干ししてから除梗・圧搾し、密閉した50ℓ容量のオーク樽で10年の歳月をかけて造られる「Vin Santo di Montepluciano D.O.C ヴィンサント・ディ・モンテプルチアーノD.O.C 」(下画像左側)。

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 そして黒ブドウ「プルニョーロ・ジェンティーレ(≒ サンジョヴェーゼ)」を2月まで陰干ししてから同様の製法で作られ、高価かつ入手困難な「Occhio di Pernice Vin Santo di Montepluciano D.O.Cオッキオ・ディ・ペルニーチェ・ヴィンサント・ディ・モンテプルチアーノD.O.C 」(上画像右側)。

 いずれも圧搾した果汁を清澄し、幾度も使いまわしをする栗材の樽へと移す際、樽の底に残る代々受け継がれてきたMardeマードレと呼ばれる酵母の澱を混ぜてから密閉します。

 その酵母が神品と呼ぶにふさわしい琥珀色の濃密な液体へと10年の歳月をかけて昇華してゆく手助けをするのだといいます。

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【Photo】1999年ヴィンテージからエチケッタのデザインを一新するも、その造りは先人が培った伝統を忠実に受け継いでいるヴィンサント・ディ・モンテプルチアーノ2000 vin

 優良年に限り仕込みを行うアヴィニョネジのヴィンサントは、北米向けに2000年vinで1,500本が出荷された100mℓ瓶を除き、ハーフボトル(375mℓ)で年産1,000本前後しか市場に出回りません。ゆえに目にする機会が極めて限られる逸品です。

 日本における正規輸入元のモンテ物産が扱う2000vinのヴィンサントが参考価格41,990円、オッキオ・ディ・ペルニーチェは 54,510円。これはボルドー特別一級の栄誉に浴するシャトー・ディケムが市場に出回り始める価格の倍以上。世界一高価なワインといわれるエゴン・ミューラーのような優良生産者の手になるトロッケンベーレンアウスレーゼほどではありませんが、極甘口ワインの最高峰の一つに違いありません。

 妙なる香り。夢見心地へと誘う素晴らしい味わい。非のつけどころを見出すのが困難なこの1本の難をあえて言うなら、もう少し懐に優しい値段であってほしいことでしょうか(苦笑)。

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【Photo】収穫したブドウを6カ月陰干しすることで重量の90%を占める水分が揮発。外気に晒された屋根裏部屋での10年の樽熟成の間に50ℓ容量ギリギリに充填した液体は、わずか8ℓほどに目減りするという。これぞまさに神の雫!!

 同様の製法を6年熟成に置き換えた珠玉のヴィンサントを少量生産するのが「San Giusto a Rentennano サン・ジュスト・ア・レンテンナーノ」。キアンティ・クラシコゾーン南端の古都シエナにほど近いガイオーレ・イン・キアンティ地区にある醸造所をブドウの収穫を終えたばかりの10月に訪れた時、窓を開け放った醸造所の最上階に案内され、竹の簾に房ごと広げられたブドウや使いこまれた熟成樽を前にマードレの役割について説明を受けました。

 素晴らしい風味のヴィンサントをテイスティングしながら、熟成の鍵を握るマードレから連想したのが、代々注ぎ足しをする老舗うなぎ屋秘伝のタレ(笑)。真剣な表情で庄イタに説明を続けるルカ・マルティーニ・チガラ氏にそんなギャグが通じるわけもなく、言葉を飲み込んだのでした。

 その中でルカ氏が素晴らしいと絶賛していたのが、ほかならぬアヴィニョネジのオッキオ・ディ・ペルニーチェ・ヴィンサント・ディ・モンテプルチアーノだったのです。

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【Photo】黒ブドウから造られるヴィンサントは〝ヤマウズラの瞳〟という意味の「オッキオ・ディ・ペルニーチェ」という呼称で呼ばれる。庄イタが試飲した2000年ヴィンテージは、世界で最も影響力があるワイン評価本Wine Adovocate 誌において「イタリア国内外を問わずライバルなど存在しない」と絶賛され、98点を獲得。翌2001年vinは、1990年vin以来のパーフェクトスコア100点評価を受けた

 それはもはや液体にして液体にはあらず。濃密な琥珀色の飲む宝石と呼ぶにふさわしいトローリ高い粘性を備えています。

 きっちりグラスに15mℓずつ注がれた液体をグラスの中でスワリング(⇒ 空気に触れさせて香りを開かせるべくグラスを回すこと)すると、グラスの内側に張り付いた半液体の動きはスローモーションを見ているかのよう。

avignonesi-odp1.jpg 【Photo】白ブドウから造るヴィンサントよりも更に色合いの濃さが増すオッキオ・ディ・ペルニーチェ・ヴィン・サント・ディ・モンテプルチアーノ2000vin
 
 値段が値段だけに、なかなか手が届かない高嶺の花をグラス1杯2,000円と2,500円で味わうことができた貴重な機会。いずれも極甘口とはいえ、ただ甘ったるいのではなく、雑味のない純粋な甘味と酸味が共存しており、ベタつくことはありません。

 アヴィニョネジのヴィンサントは、観光ガイド本に紹介されている一般的なヴィンサントの飲み方であるヴィスコッティ類を浸して飲むシロモノではありません。

 サン・ジュスト・ア・レンテンナーノのヴィンサントもそうですが、もはや神秘体験に等しいアヴィニョネジのヴィンサントと巡り合う幸運に恵まれた時は、フルオーケストラの響きのように幾重にも押し寄せる万華鏡のごとき甘味とめくるめく香りに身を委ね、心ゆくまでワインと対話をするのが良ろしいかと。

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2017/07/23

イタリア瓶属 大移動  

神様 仏様 モンテ物産様

 20世紀が生んだ天才物理学者アインシュタイン(1879‐1955)が唱えた相対性理論は、庄イタごときの頭脳では全くもって理解不能です。

elektrodynamik-bewegter.jpg【Photo】偉大な物理学者の業績に触れる知的冒険を目論んで購入するも、今のところ睡眠導入剤としての活用法しか見出していないアインシュタイン最初の論文「Zur Elektrodynamik bewegter Körper (動いている物体の電気力学)」の邦訳と解説からなる岩波文庫「相対性理論」内山龍雄訳・解説(1988年刊)

 1905年、ドイツの学術誌に発表された画期的な論文の概略をかいつまんで言えば、人間や物体が超高速で移動すると、時間の経過にズレが生じ、時計の進みが遅くなり、物体の長さが縮み、重量が増すと提起。前世紀までのニュートン力学から大転換を果たした学説(...のようです)。

 容易には理解しがたい相対性理論を庄イタが咀嚼(そしゃく)しうるか否かは置いておくとして、そういわれてみれば、身長自体が縮む変化は認められずとも、不慣れな新任地では常に物腰は低く低姿勢。食い倒れの街へと赴任して以来、ロードバイク通勤を封印しており、体重が微増傾向にあります。

 時間の経過が遅れる現象に関しては、居心地の良いリストランテで、美味しい料理とヴィーノ、さらにステキな女性が隣にいれば、時計の針が止まったかのように時間が過ぎるのを忘れてしまうことぐらいでしょうか。経験則からしてイメージ可能なのは、せいぜいこのレベル。トホホ...。

 ついでに白状すると、大阪から4回シリーズでお届けした「土佐日記風 会津日記」は、昨年12月23日~25日の連休に会津を訪れた内容。そしてお題が〝皆殺し〟と皆さまも中学校の歴史授業で暗記したはずの西暦375年に始まったゲルマン民族大移動を想起させる今回は、今年3月の出来事です。

Quanten-AlbertEinstein.jpg【Photo】ドイツ南部の都市ウルム出身の物理学者アルベルト・アインシュタインによる相対性理論発表から100年目を記念し、2005年に故国で発行された切手

 かくもViaggio al Mondoにおける時計の進みは遅れています。仙台空港から大阪・伊丹空港までの移動が、時間のズレが生じるほどの毎秒30万kmに迫る光速飛行であった感覚はないのですが。

(いや、待てよ。1時間20分を要したフライトの間、ANAの敏腕パイロット氏は、1周するのに4万kmを要する地球を14億4千万周したのやもしれぬ。ムムム...)

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 と、いうわけで話の舞台は再び仙台へ。

 かつては購入価格やヴィンテージの優劣を色分けしたExcelのワインリスト (下表・部分) を作成。飲み頃を迎えたワインを管理していたのも今は昔。凝り性でも大雑把なO型性格が災いし、ここ数年、リストの更新は停止し、ほぼ放置状態です。

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〝ワインとの出合いは、人の出会いと同じ。一期一会〟と自己弁護をしつつ衝動買いを重ねた結果、消費≦補給となった自宅セラーの在庫は最大時で400本ほどに達していました。

 ゆえに異動の内示を受け、身柄と共に関西へ移動させる家財の中で、ワインの棚卸し&梱包こそが、転勤にあたって最大の難関なのでした。

 セラー3台の在庫である合計約280本、階段下収納にストックしていた専用段ボールに入っていたワイン約150本の棚卸しに着手する前段として、まずは移動に耐える梱包材の確保が急務。春まだ浅い3月ゆえ、仙台では気温上昇による熱劣化の懸念はありませんが、破損のリスクを考えると梱包はしっかりとせねばなりません。

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【Photo】アンモニア気化熱で冷却するため、コンプレッサー方式のような作動音や熟成の妨げとなる振動が発生しないワインセラー3号(庄イタが親しみを込めて名付けたニックネームは、酒神バッカスと結ばれし女神「Ariadnē アリアドーネ」)。端正なルックスの身の丈は庄イタの身長と同一。ワインフルボトルを最大206本も受け入れてくれる包容力が魅力

 会社が指定する引っ越し業者から支給された梱包材は、段ボール箱と大きなバウムクーヘン状の緩衝エアセルマット(通称:プチプチ)。

 1本づつエアセルマットで梱包し、段ボール箱にワインを詰め込むだけでは、破損のリスクが高いことは明らか。試しに1箱分だけ梱包したところ、エアセルマットを適当な大きさに切り取って350本以上を梱包するのは、気が遠くなるような手間を必要とする作業であることを痛感したのです。

 そんな非効率極まりない荷造りでは、梱包作業の合間にエアセルマットをプチプチと指先で潰したくらいでは、蓄積し続ける膨大なストレスの発散には到底なり得ません。

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【Photo】引っ越し業者支給の緩衝エアセルマットで1本ごとワインを梱包、箱詰めを試みる之図(手前)。作業効率の悪さからこの方法は早々に断念した。荷造りが容易な中仕切りがあるモンテ物産のオリジナル段ボール箱(写真上部)ほか、断熱性が高い発泡スチロール製容器が6本分内蔵されたPECK Milanoなど、おもに通販で購入したワインが入ってきた箱には、長期保存に適したセラーに入りきらない在庫150本ほどを収容。室温変動が少ない階段下にストックしていた

 そこで方針転換。宮城県塩竃市が発祥で、酒販店では国内最大手のチェーン店舗をいくつか見てみましたが、ここ数年のイタリアワインの品揃えと同様、目ぼしい段ボールは皆無。

 次に某ワイン専門店から取り寄せたボトルが入っていた緑色の段ボール箱を実費で譲ってもらえないか、時折立ち寄っていた仙台店に出向きましたが、取り付く島もない対応なのでした。Mamma mia!

 それならばと電話したのが、明治屋仙台ストアで購入したワインが入っていた12本入り段ボールに社名が記載されていたイタリア食材の専門商社「モンテ物産」でデスク業務を担当するSさん。

trattoria-alpha2001.2.jpg【Photo】alpha情報館シリーズ企画「もっと知りたい!イタリアン Trattoria alpha」掲載例(2001年2月号)。モンテ物産さま協力のもと毎回一つのイタリア食材を掘り下げてご紹介。庄イタの趣味のページといわれていた

 モンテ物産㈱仙台支店さまには、仙台圏で発行していた月刊誌「alpha情報館」で長期連載したイタリア食材の紹介企画でお世話になったことがあります(上画像)

 サン・ミケーレ・アッピアーノで醸造責任者を務めるハンス・テルツァー氏が業務店向け講習会を仙台で行った際、当時のO仙台支店長からお誘いいただき、講習会にプレス特別枠で参加。〈2013.8 拙稿「ビアンキスタ、面目躍如」参照〉

 震災直後にイタリア在住のワインジャーナリスト中川原まゆみさんから被災店舗への義援金の申し出を頂いた折にも仲立ちの労をS同支店長にお願いしたことも。〈2011.6 拙稿「Colletta per Giappone (イタリアから届いた義援金)」参照〉

 そうした折々に窓口となって下さったのが、20年来の知り合いであるSさんでした。電話口で差し迫った事情をお話しし、資材費と送料を当方負担で段ボールを譲っていただけないか切々とお願いしたところ、配送部署に交渉してみますとのこと。

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【Photo】一度は隘路に陥ったワインの荷造り。事態打開の決め手となった救世主・モンテ物産さまから専用段ボール箱と中仕切り材20セットが届いた。最大36本を収容するセラー1号(ニックネーム「Romolo ロモロ」ラテン語読みでロムルス)と2号(ニックネーム:「Remoレモ」ラテン語読みでレムス。ともに永遠の都・ローマ建国伝説に登場する双生児)にストックしていた72本は、難なく6箱に収容。めでたし、めでたし

 その時、庄イタがストックする同社取り扱いのイタリアワイン、Bertani Amarone della Valpollicella classico'90 やら、Avignonesi Vin Santo'92 やら、La Spinetta Barbaresco vigneto Starderi'97など、移動対象のお宝ワイン名を挙げ、同社に対する個人的な貢献をアピールするのも忘れないのでした。

 そんな交渉術が奏功したか、12本(1ケース)用段ボール箱を中仕切り材と共に送料負担だけで配送センターから20セットを拙宅あてに直送しますとのありがたいお返事をいただいたのです。Complimentiiiiii!!!!!!!!

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 こうして届いた梱包材で作業効率は飛躍的に向上。ストックしていたことを忘れていた猿酒のごとき掘り出し物がセラーの奥底から出てくる中、トントン拍子で作業は捗ったのでした。

 とはいうものの、夜中まで続く膨大な量の荷造りで、段ボールとの摩擦により指先の指紋は消え、皮は剥けて荒れ放題に。ハンドクリームが手放せなくなり、寝不足が続く3月14日のホワイトデーには、Sさんに感謝の意を込めてピスタチオ風味のイタリア菓子「Waferini ワッフェリーニ」をお届けした義理堅い庄イタなのでした。

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 そして話の舞台は仙台から関西へ。

 モンテ物産さまのおかげで1本たりとも破損することなく、ワインたちは西宮の新居に無事到着。家一軒分の家財の荷ほどきとの並行作業で、新居から至近の桜の名所・夙川(しゅくがわ)沿いに咲き揃った桜が散ってしまった4月25日過ぎまでには、同じ造り手や産地を固めるなど、整然と体系だててセラーに収容しました。

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 当然のこと、そこには階段下収納にあったワイン150本が存在しているわけです(上画像)Ariadnēへの移し替えの際、誤ってボトルを割ってしまったことが悔やまれるArnaldo Caprai Montefalco Sagrantino 25 Anni '06はやむなしとして、関西では観測史上最も暑いことが予想される今年の夏を乗り切るには、なるべく早期に手持ち分を飲み切った方が得策。

 たとえ熱帯夜でも、まだ空けるには勿体ない'97vinなど、さらに熟成可能なヴィーノ・ロッソを抜栓しなくてはなりません。

 はなはだ不本意ながら、そうした扱いとなっている例が、Quorum クオルム'99(下画像)Braida, Michele Chiarlo, Coppo, Prunotto, Vietti,そして珠玉のグラッパを世に送り続けてきたBertaが手を携え、地ブドウであるバルベーラから至高のヴィーノ・ロッソを造る目的で立ち上げたコンソーシアムは、アスティ地域の古い呼称「Hastae ハスタエ」と名付けられます。

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 著名なワイン評論家、ロバート・パーカーをして、自身のキャリアにおける最良のバルベーラと言わしめた素晴らしい出来となったデビュー作、Barbera d'Asti Quorum '97を3本購入する幸運に恵まれるも、'05vinを最後に、売り上げを後進の育成に寄贈したコンソーシアムは解散。日本国内ではもはや流通していないと思っていた超レアもの '99vin(上画像)を昨年5月に2本確保して以降、ヴィーノ・ロッソの購入を極力控えていました。

 これはひとえに過剰在庫を減らすためですが、'93年にPet Shop Boysがカバーした Go West が頭の中でリフレイン。現状を上回る在庫を抱えた状況で西へと向かうことは避けるべきという、虫の知らせもあった気がします。

 在庫削減の例外として、イタリアワイン好きならば、ご存知の方が少なくないであろう「にしのよしたか」を運営する西野嘉高氏が店主を務める大阪市生野区「西野酒店」を再訪、ブルゴーニュに引けを取らない最高峰のシャルドネVie di Romans Chardonnay '15を購入がてら、セラー収容作業で割ってしまったArnaldo Caprai の代替とはならずとも、メルロ&カベルネソーヴィニョンを混醸したレアもののOutsider 2010で早逝した大器の穴埋めをしたのでした。

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 大阪着任後、支社から最寄の地下鉄淀屋橋駅に向かってわずか200mほどの土佐堀通り沿いに「Picco ピッコ」という店があるのに気づきました。

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 足を踏み入れた店内には、見覚えのあるイタリアワインがズラリと並んでいます。なんと!! そこは東京と大阪に1店舗ずつしかないモンテ物産の直営アンテナショップなのでした。広い広い大阪の街にあって、なんという巡りあわせでしょう。

 店頭価格から常時2割引(誕生月は3割引)となる会員証の発行を済ませ、日本では最も入手しやすいナポリスタイルのカッフェ、KIMBO エスプレッソ・ナポレターノとマルサラ酒の優秀な作り手Florioが、西方70kmの沖合にチュニジアを望み、シチリアから100kmの大西洋上の孤島パンテレッリア島で造る酒精強化デザートワインMorci di Luce '11 を購入(下画像)

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 強烈な太陽と強風に晒される過酷な条件下、パンテレッリア島では、2014年に世界無形文化遺産に登録された独特なブドウ栽培法vite ad alberello を伝統的に行っています。「Muscat of Alexandria (マスカット・オブ・アレキサンドリア)」という英語名が示す通り、古代ローマ帝国領だったエジプト原産のブドウ「Zibibbo ジビッボ」を収穫後、4週間日干しして水分を蒸発させ、エキスが凝縮したデザートワインが作られます。

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 その一つ、Marco de Bartoli が手掛ける重層的で甘美な長い余韻を残すBUKKURAM(上記Quorum'99の左)は、食事を締めくくる至高の一杯となるでしょう。

 Piccoには仕事帰りに時おり立ち寄っていますが、購入を手控えているヴィーノ・ロッソではなく、クマゼミの鳴き声が体感温度をヒートアップさせる大阪の夏に飲みたいフランチャコルタやヴィーノ・ビアンコ(下画像)だけを調達していました。

 同社扱いのイタリア食材やヴィーノが30%OFFのお買い得価格となる半期に一度のセールが先週21日(金)に行われました。パスタの聖地グラニャーノ産シャラテッリ〈2010.7拙稿「珠玉のパスタ、Gragnano グラニャーノ」参照〉KIMBO エスプレッソ・ナポレターノ3パック、フランチャコルタ1本、ヴィーノ・ビアンコ2本をゲット。

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 自らに課してきた〝産地を訪れた年のワインは入手すべし〟という鉄則に基づき、手を伸ばした禁断の果実が、限定特価7,000円+税で出ていたE. Pira e Figli Barolo Connubi'06

 銘醸地バローロでも、とりわけ素晴らしいワインを生む畑カンヌビ。仙台から持ってきたストック分では、明治屋仙台店で2本購入したグレートヴィンテージ'96vinのうちの1本が、今もセラー2号Remoの中で抜栓される日を待っています。

 前述の通り、更新停止状態のワインリストを紐解くと、2022年頃まで熟成を続ける偉大なこのヴィーノ・ロッソを、当時としてのセール価格4,500円で入手していたようです。

 ユーロ導入以降、銘醸地トスカーナやピエモンテ産で顕著なイタリアワインの高騰傾向から、現行ヴィンテージの実勢価格は10,000円前後。

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 それは伊達家家臣の末裔という設定で宮城県の観光PR動画に登場した「お蜜」こと壇蜜さんが、夏でも涼しいと囁いた仙台でさえ、この時季には食指が伸びなかったフルボディのヴィーノ・ロッソです。

 ですが、'96vin ほどの特値ではないにせよ、間違いなくこれはお買い得。逡巡したものの、再び禁制の品に手を出してしまいました。

 関西へ移動した段ボール内の精鋭たちが、体温に等しい36℃に迫る暑さで375(皆殺し)となっては元も子もありません。かといってエアコンを終日つけっぱなしにするのも抵抗があります。

 いよいよ夏本番。待ったなしの在庫削減の取り組みは、こうして一進一退を繰り返しているのです。

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Italian shop Picco イタリアンショップ ピッコ

 ・住:大阪市中央区北浜3丁目1-18 島ビル1階
 ・Phone e Fax:06-6209-0522
 ・営:11:00 ~ 18:00 土日祝休み
 ・URLhttp://www.montebussan.co.jp
 ・Mailpicco-osk@montebussan.co.jp

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2016/05/14

正真正銘、これぞトリュフチョコレート!!

アルバの薫り高きトリュフ入りトリュフチョコ


 2010年10月にオープンした旧店舗近くにこの春移転し、装いを一新した福島市「Osteria delle Gioie オステリア・デッレ・ジョイエ」。

 信仰するバッカス神との対面をウフィツィ美術館以来、久方ぶりに果たした「カラヴァッジョ展」、異才ぶりに圧倒された「若冲展」と続いたGW期間中の東西美術展巡り。その締めくくりとして、福島県立美術館で開催された「フェルメールとレンブラント 17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち 」を鑑賞がてら、1カ月半ぶりに店を訪れました。

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Osteria-Gioie.jpg【Photo】移転前のダークグリーンの外壁とオレンジ色の扉から、黒を基調としたシックな外装に生まれ変わったファサードとエントランス(右)。 外扉を開けると、ワインボトルをかたどった内扉が出迎えてくれる(左)。 旧店舗より広くなった店内はカウンタ-席をセンターに配し、明るく開放的な雰囲気

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sugopo-modoro@gioie.jpg【Photo】昨年11月、旧店舗で食したランチコース「Degustazione 」のプリモピアット「自然放牧豚の自家製サルシッチャと自家製サンマルツァーノトマトソース・ペコリーノ風味リガトーニ」(上写真)の味に魅了され、帰り際に購入した「Sugo al pomodoro fresco con San Marzano フレッシュサンマルツァーノトマトのソース 我が家風」(左写真)。イタリアの家庭と同じく夏の収穫期にまとめて製造、瓶詰めする

 サンマルツァーノトマトの自家製ソースしかり、ラグーしかりの滋味あふれる味付けで、いつに変わらぬ身も心も満たされるコストパフォーマンスの高いランチコース「Degustazione デグスタッツィオーネ」(税込2,940円)を頂きました。

 会計を済ませたところに厨房から出ていらした梅田勝実シェフとご挨拶を交わし、5月25日に開催する生産者交流イベント「自由で自然な仲間のマルシェ ナチュラ・フクシマ」について教えていただいた折のこと。

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【Photo】(3月中旬から5月初旬にかけてのDegustazione コースより。左上から順に)イタリア種の黄色いニンジンポタージュ、アンティパスティ・ミスティ(奥州いわいどりレバーのブルスケッタ、プロシュット、白いんげん豆、赤ダイコンとヘーゼルナッツ、イタリア風卵焼き、カポナータ、ニンジンのマリネ)、熊本産アサリのポモドーロソース・レモンの香りスパゲティ(⇒ 絶品!)、ふるや農園自然放牧豚肩ロースのグリッア、ピスタチオのジェラート・ブラッドオレンジのソルベ、SIMONELLI で淹れるLAVAZZA

 横目でレジカウンターのガラスケースの中に鎮座する「トリュフ入りチョコレート(下写真)の存在を見逃さないトリュフ犬顔負けの庄イタなのでした。

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 シニョーラ梅田から「お味見にどうぞ」と渡されたトリュフチョコからは、庄イタの嗅覚細胞に深く染みついた特徴的な白トリュフに通じる芳香が包み越しに立ち昇ってきます。

 人間の五感において記憶の最も奥底に刻まれるのは嗅覚。ある香りを嗅いだ途端に、遠い過去のシーンが突如として蘇った経験をお持ちの方は、少なくないかと。

 めくるめく香りに誘われるように、5粒入りパッケージ(税込1,260円)を所望。その時イメージしたのは、定番のNebbiolo ネッビオーロ、それも極めつけの作り手との組み合わせ(下写真)

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 熟成によって現れる妖艶なトリュフ香が顕著なバローロを醸すのが、「Giuseppe Rinaldi ジュゼッペ・リナルディ」。

 獣医の資格を有する 5代目当主のBeppe ベッペことジュゼッペ・リナルディ氏は、地元バローロでは、郷土史家としても知られる舌鋒鋭いキャラの濃い人物。申請手続きをすれば容易に取得できるはずの認証機関による有機認定には全く無頓着。

 2人の娘との共同作業で祖父の代から受け継ぐ4カ所のブドウ畑8haから、土着品種の良さを認識させてくれる「Freisaフレイザ」、「Ruché ルケ」ほか、「Dolchettoドルチェット」、「Barberaバルベーラ」などの黒ブドウから年産平均3.8万本のヴィーノ・ロッソを生産します。

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 単一畑Le Coste レ・コステ産ネッビオーロ15%に、同Brunate ブルナーテ産のネッビオーロをブレンドする「Brunate ブルナーテ」、単一畑Cannubi San Lorenzo カンヌビ・サン・ロレンツォ, 同Ravera ラヴェーラ, レ・コステの3つを瓶詰め前にブレンドする「Tre tine トレ・ティーネ」のクリュ・バローロ2種が、生産量全体の半数を占めます。

 世に名高い名醸地を1980年代から2000年代初頭にかけて席巻したモダニズムの嵐など、5代目にとってはどこ吹く風。先人が培った伝統に敬意を払い、1カ月を要する一次発酵には足踏み破砕の名残りとなる上部開放式の木製樽「Tini ティーニ」を、発酵後の熟成には、ファシズム期に普及したクロアチア東部・Slavonija スラヴォニア地方産オーク材を使った2,000ℓクラスの大樽「Botte ボッテ」を用います。(下写真)

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no-barrique-no-bel.jpg 225ℓ 容量のオーク樽(通称 Barrique バリック)は、ワインとの接触面積が多い分、木質由来の甘いバニラ香がワインに反映され、土地や作り手の個性が薄れる側面も。よって近年では地元では「Fustoフスト」と呼ばれる500~600ℓ容量のオーク樽やボッテの良さが見直され、地域性と伝統への回帰が顕著となっています。

 なるほど熟成庫の壁には、親戚筋にあたるバローロ村の伝説的な作り手「Bartolo Mascarello バルトロ・マスカレッロ」の先代が手書きした秀逸なマニフェスト「No Barrique No Berlusconi」(=反バリック樽, 反ベルルスコーニ)の有名なエチケッタ(ラベル)が掲げられています(右写真)

 バローロ5大クリュでは最北のLa Mora ラ・モーラ村は、優美で比較的早くからアプローチしやすいタイプのバローロとなります。深みのある偉大なバローロへと変貌してゆく単一畑ブルナーテで収穫されたブドウの発酵には、1世紀以上に渡って使われてきた栗材とオーク材を組み合わせた黒光りするひと際大きな専用樽を使用します。(上動画の1分20秒過ぎから登場)

 DOCGバローロに関しては、イタリアワイン法が規定する法定熟成期間36カ月を上回る樽熟42カ月が、ジュゼッペ・リナルディにおけるスタンダード。

 バローロ村の北東15kmと至近のピエモンテ州クーネオ県Alba アルバの街では、トリュフシーズンの秋に「Fiera Internazionale del Tartufo Bianco d'Alba(白トリュフ祭り)」が毎年開催され、黒トリュフでは到底代えがきかない魅惑的な香りに魅了された人々が世界中から集います。

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 アルバ市街地の北を流れるタナロ川を挟んで川向かいにあたるPiobesi d'Alba ピオベシ・ダルバには、グラッパの蒸留元として、またグラッパ入りチョコでも名高い「Sibona シボーナ」があります。

 そのグラッパとも相性が良かろうサマートリュフを練り込んだ正真正銘のトリュフチョコ製造元「TartufLanghe タルトゥフランゲ」もまた、ピオベシ・ダルバに製造所を構え、パスタやペースト類など、トリュフを使った加工食品を世に送り出してきました。

 タルトゥフランゲの自信作、フリーズドライ加工した夏トリュフ入りのトリュフホワイトチョコ「Dulcis Tuber Plalina con Tartufo(下写真)には、熟成してこそ真価を発揮するバローロではなく、早飲みが可能なDOCLanghe Nebbiolo ランゲ・ネッビオーロ2011」を合わせてみました。

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 醸造所の前に広がる3haのクリュ「ラヴェーラ」の樹齢が若いブドウを用いるDOC ランゲ・ネッビオーロは、大樽による熟成期間18カ月。平均年産はわずか5,500本。熱烈な信者が多いバローロよりも希少性は高いかもしれません。

 完璧な仕上がりとなった前年ほどではないにせよ、夏の猛暑と収穫期の好天で優良な2011年ヴィンテージは、ネッビオーロの特性といえる強靭なタンニンが意外なほどソフト。若飲みできるワインは、ともすると抜栓後のヘタリも早いのですが、大樽で時を重ねたヴィーノは、そんなことはありません。時間をかけて変化してゆくさまをじっくりと味わえます。

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 樹齢が高いネッビオーロ、特にバローロほどの高貴な複雑味はないにせよ、出汁がきいた旨味をたっぷりと堪能でき、エレガントな血筋の良さは十分に感じられます。インパクト重視でグイグイ押しまくるのではなく、ジ~ンワリ心に沁みる寄り添い型ヴィーノ・ロッソ。

 重量ベースでは0.3%の含有量ながら、芳醇で濃厚な香りが特徴の夏トリュフ(Tuber Aestivum Vitt.)がしっかりと存在感を示し、ピエモンテ産ヘーゼルナッツの風味が、かすかな塩味を伴ったホワイトチョコと相まって、予想通りランゲ・ネッビオーロ2011との良好なカップリングが成立します。

 国家財政は火の車で、公務員の仕事ぶりはいい加減でも、人生を謳歌する名人たるイタリア人の仕事って、何故にこうも味わい深いのでしょうね。

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logo_gioie.jpgOsteria delle Gioie オステリア・デッレ・ジョイエ
 ・住:福島市鳥谷野字二ツ石12-3
 ・Phone:024-529-6656
 ・営:11:30-14:00 L.O. 18:30-20:30 L.O.
 ・水曜日・第二火曜日定休 Pあり カード可 禁煙
 ・URL:https://www.facebook.com/OsteriaDelleGioie/?fref=ts


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2016/05/02

延長戦 三番勝負

Gli abbinamenti tre vini contro formaggio la Rossa
Formaggio CigliegioAtto さくらチーズ 第四幕


 桜前線の北上に合わせてお届けして参りました桜の香り漂うチーズに関する話題。加熱したモッツアレラチーズのように、伸ばしに伸ばしてきましたが、いよいよ今回が最終章となる第4 弾です。

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【Photo】種自体が国指定天然記念物に指定される「鹽竈桜(しおがまざくら)」。国府が置かれた多賀城の鬼門となる北東に位置する宮城県塩竈市「志波彦神社・鹽竈神社」。その境内には60本ほどの八重咲きのサトザクラの一種、鹽竈桜があり、うち27本が天然記念物に指定されている。ソメイヨシノに遅れること10日ほどで、30~50枚の花弁が手毬状に花開く見ごろを迎える。4月24日に催された今年の鹽竈神社花まつりにて

 ピエモンテ州南部、リグーリア州にほど近いアルタ・ランゲ地方産の山羊乳チーズ「La Rossa ラ・ロッサ〈2016.4拙稿「Formaggio CigliegioAtto II 】 さくらチーズ 第二幕」参照〉と、Vini Bianchi との組み合わせ三番勝負で消費しきれなかった残り1/4は、熟成が一段と進んでいます。

 そんな山羊乳チーズの特徴であるピリっとした風味が加わり、表面のオレンジ色が濃くなり、香りが一段と強くなって購入当初は感じられた桜葉の香りを覆い隠してきました。

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 チーズに限らず日本で流通する加工食品には、食品衛生法で賞味期限の表示義務があります。その日付が迫りつつある状況ではありましたが、そもそも賞味期限とは、美味しく食することができる期日の目安にすぎません。

 多種多様な微生物や菌の活動によって熟成が進む(=風味が変化する)ナチュラルチーズは、加熱して菌が死滅するプロセスチーズとは違い、誤解を恐れずに言えば、食べ頃はあっても厳密な賞味期限など存在しないに等しい発酵食です。

 日を追うごと濃厚さが増したLa Rossa から想起した延長戦の組み合わせは、フルボディのヴィーノ・ビアンコを筆頭格に、渋味として感じるタンニンが強くない赤ワインや濃密なデザートワインなど。

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 1本目に選んだのは、南チロル地方屈指の優れた作り手「San Michele Appiano サン・ミケーレ・アッピアーノ」。

 その最上級ライン「Sanct Valentin サンクト・ヴァレンティン」の単一品種から作られる辛口白ワイン全5種類の中でも、特に傑出している「Pinot Grigio ピノ・グリージオ2010」。(左写真)

 第三幕で最良の組み合わせだった「Graminè グラミーネ2013」と同じトレンティーノ・アルト・アディジェ特別自治州の同じブドウ品種から作られており、比較の意味でキャスティングした次第。

 ロゼのような色合いのグラミーネは個性が際立つ演技派でしたが、オーストリアと国境を接し、ハプスブルグ帝国時代はオーストリアに併合されていたため、現在も優勢な独語表記ではSt.Michael-Eppan ザンクト・ミカエル・エッパンとなるサン・ミケーレ・アッピアーノは、いわば誰もが認める二枚目スター的なキャラ。ブドウ品種が同じでも、造り手によって個性が全く異なる見本のよう。

 アルト・アディジェ地方の中核となる街、ボルツァーノ周辺のブドウ生産農家350軒が組合員として加盟する協同組合組織に関しては、2013年6月に醸造家ハンス・テルツァー氏をお招きし、仙台で行われた試飲会レポートで詳報しています。〈2013.8拙稿「ビアンキスタ、面目躍如。」参照〉

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  試飲会で気に入って3本まとめ買いした時の印象から、キンキンには冷やさず、香りをたたせるため、あえて赤ワイン用の大ぶりなグラスを選びました。

 白の専門家〝Bianchista ビアンキスタ〟の異名を持つ醸造家が理想とするブドウの個性がピュアに伝わるボリューミーで密度の高い白ワインの世界観が、余すところなく表現されています。

 グラスからは熟れたマスクメロンやアップルマンゴーのゴージャスな香りが立ち上がってきます。スモーキーなニュアンスがあるピノ・グリージオと、熟成が進んだLa Rossa との相性は、極めて申し分ありません。

 スケールの大きなフルボディのサンクト・ヴァレンティン・ピノ・グリージオ2010ヴィンテージは、長熟に耐える白品種としてのピノ・グリージオの可能性を雄弁に物語る出来栄え。
 
 単体でもワインと対話するメディテーションも可能な素晴らしいヴィーノゆえ、ついスルスルとグラスが進みます。我に返って下した組み合わせ評定は、言わずもがなの★★★。

 さらに熟成が進み、一段と風味が増してきたLa Rossa には、もはや赤ワインが似つかわしいように思えました。

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〝コクや香りなど味わいの特徴を合わせるべし〟とは、前回述べたアッビナメントの常道。

 そこで取り出したのが、アドリア海にほど近い中部イタリア・マルケ州アンコーナ県Morro d'Alba モッロ・ダルバ周辺だけで栽培されるブドウ品種「Lacrima Nera ラクリマ・ネラ」から醸したヴィーノ・ロッソ2本(左写真)。エチケッタをご覧の通り、作り手はいずれも「Marotti Campi マロッティ・カンピ」。

 共働学舎さくらとのアッビナメントでは、ラクリマを泡仕立てにしたスプマンテと組み合わせましたが、泡ものとの相性は今ひとつ。〈2016年3月拙稿「さくらの便りは北の国から」参照〉 捲土重来を期してラクリマのスティルワインに候補を絞り、アッビナメント延長戦第2ラウンドに臨みました。

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 完熟すると実割れしやすく、裂け目から果汁が滲み出すさまが、涙(伊語:Lacrima )に似ているため、ラクリマと名づけられたというこの品種。

 そのリスクが高まる9月下旬まで収穫を控え、最適なタイミングで手摘みしたブドウを2-3年落ちのフレンチバリック樽で12ヵ月熟成後、6ヵ月の瓶熟を施す(一般に上級ラインを意味する)Superiore スーペリオーレ(上写真左側)という選択肢も手元にあるにはありました。
 
 La Rossa との相性を考慮し、最終的に選んだのは、「Lacrima di Morro d'Alba Rubico ラクリマ・ディ・モッロ・ダルバ・ルビコ2013」。

 こちらは、収穫したブドウの8割は通常のアルコール発酵を施しますが、2割を房のまま密閉したタンクで醗酵させる(イタリアの新酒ノヴェッロに用いる)炭酸ガス浸漬法で醸してから圧搾し、両者をブレンド後にステンレスタンクで6ヵ月、瓶熟2ヵ月の熟成を経て出荷されるカジュアルなタイプです。

 ピエモンテ州モンフェラート原産とされ、食事との汎用性が高い黒ブドウ「Dolcetto ドルチェット」と風味が似ているアロマティックな希少品種ラクリマ〈2011.11拙稿「ボジョレー騒動はさておき...」参照〉。前回のスプマンテでは、★評価に留まったものの、相手を変えた二度目の桜チーズとのアッビナメント結果はいかに。

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 ヴィーノが樽を使っていない分、ストレートに感じられる品種の特徴であるバラの甘い香りが、刺激的なチーズの風味をマイルドに和らげてくれます。スプマンテでは阻害要因となった泡がない分、組み合わせの妙が生かされ、評定は及第点の★★。

 延長戦の最後は、北イタリアのデザートワインで締めましょう。桜はバラ科の植物であることから、選んだのはバラの花を意味する「La Rosa ラ・ローザ2006」。

 ラ・ロッサにラ・ローザ。単なる語呂合わせです(^ ^;ゞ。

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 La Rosa は、赤用に混醸されるケースが多い黒ブドウ「Molinaraモリナーラ」と、微発泡のMoscato d'Asti が第三幕1本目で登場した白ブドウ「Moscato モスカート」を収穫後、潜在アルコール度数が18度に達する12月まで陰干してから圧搾。年明けの春に瓶詰めされます。

 醸造所でブドウの陰干しを目の当たりにした2003vinを今年開けた「Vin San Giusto ヴィン・サン・ジュスト」のように、6年に及ぶ樽熟期間に60%まで凝縮する珠玉のデザートワインと比べれば、あっさりした仕上がりです。

 ガルダ湖の南東、アディジェ川流域の盆地に醸造所を構える「Cavalchina カヴァルキーナ」という作り手によるものです。

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 今年50 回目を迎えたイタリア最大のワイン見本市「Vinitaly ヴィニタリー」が毎年4月に開催されるヴェローナを擁するヴェネト州のD.O.Cゾーンでいえば、そこは同郷の「Soaveソアーヴェ」の名声に隠れがちな佳酒「Bianco di Custoza ビアンコ・ディ・クストーザ」や、軽やかな赤「Bardorinoバルドリーノ」を産出する地域です。

 凝縮したブドウを圧搾して得られる天然の甘味と綺麗な酸味が絡み合うこのデザートワインと、刺激的な風味の山羊乳チーズとの組み合わせには、美味しいものには目がないイタリア人もそうするように、媒介役となる蜂蜜を加えた方が良さそうでした。

 ラベルに「Sapore pungente accostalo ai formaggi (=刺激的なチーズの風味を和らげる)」と記されたトスカーナ産クリの花蜜Miele Castagno (上写真)を取り出しましたが、後味に苦味が残り、熟成した山羊乳チーズとの相性はよくありません。

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 そこで引っ張り出したのが、共働学舎さくらにも使った盛岡・藤原養蜂場の石割桜一番蜜。

 国指定天然記念物に指定される石割桜や、桜の名所として親しまれる盛岡城址に近いビルに設置した巣箱の蜜蜂が集めた花蜜はメープルシロップを煮詰めたような上品な風味で、心地よい甘い香りが広がります。

 チーズのコクはそのままに、鋭角的な刺激を蜂蜜が優しく包み込んでゆきます。そこに加わるLa Rosa の適度な甘味と酸味。
 
 チーズ、ヴィーノ(⇒桜はバラ科)、蜂蜜の全てが桜というキーワードでつながり、色合いまで揃って三位一体の調和を生み出します。

 「che Buono !♪ (=なんて美味いんだっ!♪)」と感嘆しつつ、庄イタが下した評定は、最高点に星半分オマケして★★★

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【Photo】盛岡地方裁判所前庭の真っ二つに割れた周囲21mの花崗岩の裂け目からは、高さ10m・根回り4.3mの樹齢380年と推定されるエドヒガンザクラ「石割桜」が生えている。例年4月中旬に開花するが、過去40年で最速だった昨年と同じ4月8日に今年は開花した。国指定天然記念物

 お届けして参りました桜にちなんだチーズとヴィーノのアッビナメント劇場全4幕。こうして大団円を迎えたのでした。 

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2016/04/21

いざ、紅白三番勝負。

Gli abbinamenti tre vini bianchi contro formaggio la Rossa.
Formaggio Cigliegio Atto さくらチーズ 第三幕


vino_rosso_Sanitatis.jpg 日々の食卓を豊かにする佳酒があれば、それで良しとする〝ノムリエ〟の庄イタが、尊敬の念を抱く職業のひとつがソムリエです。

【Photo】ローマ・パンテオン脇の路地奥にある「Biblioteca Casanatense カサナテンセ図書館」所蔵の養生訓「Tacuina sanitatis 」(14世紀)に収められた赤ワインの効能に関する挿絵

 広範な知識に基づく的確な助言、サーヴ時に最良の状態を引き出す温度管理、ヴィンテージごとにピークが異なるワインの秘めたる香りを開かせる抜栓のタイミング...。

 改まった雰囲気のレストランで現場経験を積んだプロフェッショナルならではのサービスと、深いワインへの愛情とその美点を引き立たせようというという情熱、一期一会の時間を提供しようという心遣いを感じる接客。そんな立ち振る舞いには感心するばかり。

Degustazione-del-vino.jpg ソムリエが首から下げるTastevin タストヴァン(左写真)は銀製が正式とされ、これは権謀術策渦巻く中世ヨーロッパにおいて、ヒ素による毒殺を未然に防ぐための名残りだといいます。
 
 かたや一介のノムリエにすぎない庄イタは、山梨・勝沼産ワインを好きなだけ飲み比べできる「ぶどうの丘」をかつて訪れた際、試飲用に購入する〝なんちゃってタストヴァン〟(代金1,100円。持ち帰り可)しか持ち合わせておりません(^0^;。

 ソムリエ教則本的には、チーズに限らず食事とワインのabbinamento アッビナメント(=組み合わせ、マリアージュ)には、いくつかの法則が存在します。

 一般論として、(白身肉には白ワイン、赤身には赤ワインといった風に)食材とワインの色合いを合わせるべし。それぞれの産地を合わせるべし。コクや香りなど味わいの特徴を合わせるべし。チーズとの組み合わせに迷ったら、とりあえず赤ワインを合わせてみるべし。

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【Photo】スローフード協会が主体となってお膝元のピエモンテ州クーネオ県ブラで開催するチーズの祭典「CHEESE」で用意されるプログラムのひとつMaster of Food 。フレッシュ・硬質・スモークなどタイプの異なるチーズとワインとの相性に関するレクチャー

 こうした基本を踏まえた正攻法では、塩気のある食べごたえがある青カビ系には同じ産地のしっかりとした赤がピッタリ。(例:熟成した北イタリア産Gorgonzola piccante ゴルゴンゾーラ・ピカンテ(下写真)には、北イタリアのAmarone アマローネまたはBarbaresco バルバレスコ。南仏のRoquefort ロックフォールならばChaor カオールないしはBordeaux ボルドー)

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 ブルーチーズとの組み合わせの変則技として、コクがある芳醇な甘口デザートワイン(例:Recioto di Soave レチョート・ディ・ソアーヴェ、Passito di Pantelleria パッシート・ディ・パンテッレリーア、 Vin santo ヴィンサントなど)を合わせると、塩味が穏やかに中和され、見事な調和を生み出します。

 ワインとチーズに限らず、漬物と日本酒といった発酵食品同士の組み合わせは、基本的に相性が良い場合が多いもの。最良のカップリングがなされた時は、互いを高めあう素晴らしい出合いとなることでしょう。

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【Photo】シチリア沖の孤島パンテッレリーア島産デザートワイン。2014年、栽培法が世界無形文化遺産に登録された地面を這うような形状に仕立てたブドウ「Zibibbo ジビッボ(別名:Moscato di Alessandria モスカート・ディ・アレッサンドリア)」を収穫後、8月の日差しのもとで乾燥。凝縮した甘味の雫を堪能できるPassito di Pantelleria BUKKURAM Sole d'Agosto パッシート・ディ・パンテッレリーア・ブックラム・ソーレ・ディ・アゴスト2012(右) 酒精強化のマルサラ酒に用いる品種「Grilloグリッロ」をアルコール発酵後50hℓの樽で20年以上熟成させたVecchio Samperi Ventennale ヴェッキオ・サンペーリ・ヴェンテンナーレは、複雑な辛口(左)。いずれもチーズとの相性が良い ※ ロケ地:「土筆

 さくらの季節に連作で取り上げている「La Rossa ラ・ロッサ」は、山羊乳を使ったチーズ。一般的に山羊乳のチーズは、山羊乳由来の個性的な風味があります。組み合わせるワインは、爽やかな酸味を感じる若いうちは青草のニュアンスが好相性であろう「Sauvignon Blanc ソーヴィニョンブラン」を。シャープで濃密なコクが加わる熟成した山羊乳チーズには、カリンやナッツの風味がある「Fiano フィアーノ」など、ボディがある白やタンニンが強すぎない軽めの赤でもOK。

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 このイタリア版さくらチーズを購入したばかりの頃は、桜葉の甘い香りが山羊乳の酸味を和らげ、ベースとなったクセの少ない「Robiola ロビオラ」のフレッシュタイプに桜の香りが乗っている印象でした。

moscato2014-vajra.jpg La Rossa の熟成度合いに合わせて抜栓するヴィーノ(上写真)を用意。1ラウンドに選んだのが、「Giuseppe Domenico Vajra G.D.ヴァイラ」のD.O.C.G.Moscato d'Asti モスカート・ダスティ2014」。

 名醸地Barolo バローロ屈指の好条件に恵まれた畑を所有する作り手による爽やかな微発泡性のヴィーノ・ビアンコです。

 前回、プロフィールをご紹介したLa Rossa はピエモンテ州ランゲ丘陵南部アルタ・ランガ地方産のチーズ。ゆえに〝産地を合わせるべし〟という鉄則に沿った選択ですね。

 ワインに関する嗜好が庄イタとほぼ合致するオンラインショップ「にしのよしたか」を運営する西野嘉高氏が店主を務める大阪市生野区の観光名所になっている生野コリアタウンにほど近い「西野酒店」を訪れて購入したうちの1本です。

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 10℃~12℃が飲用適温であること、そして果物との組み合わせほか、全卵+卵黄に砂糖とモスカート・ダスティを加えて撹拌したカスタードクリーム状のZabaione ザバイオーネ、ヘーゼルナッツのタルトといったピエモンテの郷土菓子が、推奨するアッビナメントとして、バックラベルに記載されます(上写真)

DSCF7626.jpg マスカットの豊かなアロマが香るモスカート・ビアンコ種は、愛好する白ブドウ品種のひとつ。アルコール度数が6%程度に達した時点で発酵を止め、微発泡性に仕立てるモスカート・ダスティの産地ピエモンテ州アスティからアルバにかけての地域では、ロビオラに合わせることが少なくありません。

 バローロの作り手として高い評価を受けるG.D.ヴァイラの現当主、アルド・ヴァイラ氏は、1881年に創設された「La Scuola Enologica di Alba アルバ醸造学校」で1985年まで教鞭をとっていた知性派。

 微発泡ゆえのヴェルヴェットのごとき口当たりと、心地よいモスカートの甘い香りが、La Rossaの塩味を包み隠してくれます。比較的あっさりした若めのRobiola ロビオーラのトロ~っとした食感と、ほのかに香る桜の香りとの相性は★★判定。

 第2ラウンドは、打って変わって個性派の出番。

tag-longaliva.jpg 共働学舎「さくら」とドンピシャの好相性だったPasquale Petrera パスクアーレ・ペトレーラ「Fatalone Teres ファタローネ・テレス2014」を購入した青葉区広瀬町「Wine Store ブドウの木」オーナー・ソムリエ奥山和茂さんのセレクトです。
 
 山羊乳100%チーズながら、酸味を打ち消す桜の香りが漂うLa Rossa の特徴をお伝えすると、トレント自治県にある醸造所「Longariva ロンガリーヴァ」のIGT(=典型的地域表示付)Graminè グラミーネ2013」を推奨いただきました。

 Longariva は、ロミオとジュリエットの街ヴェローナから、オーストリア国境のブレンナー峠を目指して高速A22を北上したラガリーナ渓谷に位置する街、ロヴェレートでマルコとロザンナのマニカ夫妻が1976年に創業した醸造所です。

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【Photo】ドロミテの山並みが北方に迫り、背後にはイタリア最大の湖沼ガルダ湖が控えるトレンティーノ地方。オーストリアと国境を接するトレンティーノ・アルト・アディジェ特別自治州は秀逸な白ワインの産地。アディジェ川沿いから急峻な岩山に続く傾斜地に、この地域伝統のブドウ棚「pergola ペルゴーラ」(=パーゴラ)で白ブドウが栽培される

 Graminè は、イタリア語と併用される公用語ドイツ語が優勢なアルト・アディジェ地方では、ドイツ語表記で「Ruländerルーレンダー」となる白ブドウ品種「Pinot Grigio ピノ・グリージョ」100%のヴィーノ。

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 ロゼに近い透き通った独特の色合いは、破砕したブドウ果汁の醸しの段階で、品種名の由来となったグレー(伊語:Grigioがかった淡い赤銅色の果皮とのマセレーション(=醸し発酵)を時間をかけて行うため。

 グラスから立ち上がる完熟した白桃や上品な花の香りから察する予想に反して味わいはドライ。品種の特徴である分厚いボディを備えており、飲み応えもあります。

 角が取れた酸味にしろ、コクとして認識される土壌由来のミネラリーさにしろ、突出した要素がなく、飲み口はあくまでも滑らか。アフターに心地よい余韻が長く残ります。「う~む、これは印象的」

 同郷で組み合わせるセオリーからすれば、ピエモンテとトレンティーノの距離は決して近くはありませんが、気候的には同じ冷涼な北イタリア。次第に山羊乳ならではのコクが増してきたLa Rossaとの組み合わせはバランス良好。カップリングとしては期待を上回る最上ランク★★★を献上です。

 耳障りの良い〝自然派〟なるキーワードを掲げ、日本のワインマーケットを席巻してゆく状況に率直な疑問を呈した(2008年11月拙稿「ボジョレー後日談&自然派ワインよもやま話」参照) 経緯がある庄イタ。個性的な風味のワインを数多く取り揃える某インポーターが取り扱うだけに、いささか構えて開けたのですが、これは〝当たり〟でした。

giacosa-arneis06.jpg 第3ラウンドは、ピエモンテ州クーネオ県ネイヴェに醸造所を構え、地元では誰もが偉大な作り手として尊敬する「Bruno Giacosa ブルーノ・ジャコーザ」が復活させた白品種「Arneis アルネイス」100%のD.O.C.G.Roero Arneis ロエロ・アルネイス2006」。

 作り手の見極めと品質管理において信頼できるインポーター「AVICO アビコ」社が輸入したピエモンテの優良ヴィンテージ2006年を指名買いしたものです。

 庄イタが自ら課している鉄則が〝産地を訪れたヴィンテージを確保すべし〟。

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【Photo】早熟なアルネイスの収穫はとうに終え、黒ブドウのバルベーラや収穫期を迎えたネッビオーロなどのブドウの葉が色づいた2006年10月末のロエロ。1杯のグラスを通して、10年前に訪れたこのブドウ畑へとタイムスリップできるのもワインの愉しみ

 熟成が進み、一段とコクが増したLa Rossa の塩気を、硬質なミネラル感と、時間を置いて温度が上がり始めてから開いてくる完熟リンゴや清楚な花のニュアンス、後味として残る嫌みのない苦味が和らげてくれます。

 率直な感想としては、アンティパストからオイル系パスタ、そしてグリルした鳥や豚肉といった料理と合わせたいワイン。抜栓直後は★★かと思った相性は、次第にボディの厚みと複雑味を増した最終ジャッジでは、★半分を積み増して★★+判定。

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【Photo】ロエロ・アルネイスの規範とされるジャコーザにふさわしいのは、例えばこんな美味しいアンティパスト。 (奥から順に) 鶏白レバーのブルスケッタ、福島県郡山市田村町ふるや農園の放牧豚プロシュット、トスカーナ風インサラータ、春キャベツのピューレ、イタリア風卵焼き、紅白ダイコンのピクルス、カポナータ ※ロケ地:福島市 「 オステリア・デッレ・ジョイエ

 山羊乳チーズとの相性が良いとされるVini Bianchi(=白ワインの複数形)と、La Rossa(=赤)とのアッビナメント紅白三番勝負の模様を今回はお届けしました。

 三番勝負を終えた時点で、まだ1/4が残っていたLa Rossa は、山羊乳らしいワイルドな風味が増す一方、桜の香りは風前の灯となり、購入直後とは別物へと変貌してきました。時間無制限アッビナメント延長戦の実況中継は、また次回。

to be continued...


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2016/03/20

さくらの便りは北の国から

桜が香る〝春待ちチーズ〟共働学舎「さくら」
× バラ香るロゼ・スプマンテ+α


 仙台市街地中心部を南北に貫く東二番町通りを挟んで、仙台市役所の筋向かいが青葉区役所。その裏手にチーズ専門店「Fromagerie & Café Au Bons Ferments オー・ボン・フェルマン(下写真)はあります。

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 Viaggio al Mondo では、「Sale dolce サーレ・ドルチェ(=甘い塩)」と称されるエミリア・ロマーニャ州チェルヴィアの天日塩を取り上げた折〈2008.7 拙稿「こっちの塩は甘いぞ」参照〉と、ソメイヨシノが開花した直後、仙台では最も遅い積雪記録となった降雪について記した「桜と名残り雪」でご紹介しました。〈2010.4 拙稿「桜と名残り雪」参照〉

 花便りで驚いたのが、仙台市宮城野区の榴岡天満宮で、昨年12月25日に梅が開花したこと。天満宮によれば、ここ数年、梅の開花は2月下旬から3月上旬だったといいます。極端な暖冬が自然の営みにも影響していたのですね。

Au_Bons_Ferments2.jpg【Photo】国内外のさまざまなタイプのチーズを取り揃えたある日のオー・ボン・フェルマン。フランスチーズ鑑評騎士のショップオーナー足立武彦さんは、シニアワインアドバイザーの資格も有し、店内でワインとチーズの組み合わせを体感できる催しを定期的に実施している

 そんな暖冬傾向が一変したのが、年が改まった1月中旬から。連日寒い日が続いた仙台では、梅の見頃が続いています。そんな春まだ浅い3月。スギ花粉症の方にとっては、ありがたくない花粉前線も東北まで北上。咽喉や目鼻の不快感に苛まれるじっと我慢の季節が今年もやって参りました。

 三寒四温を繰り返し、やがて寒さに震える季節が終わります。ウグイスの初鳴きを観測した仙台でも週後半からは寒さが緩み、春近しを感じる陽気となりました。日本気象協会による桜の開花予想では、総じて昨年に続き、今年も早咲きのようです。

kobai-hakubai.jpg【Photo】接ぎ木されて一株となった早咲きの紅梅と、遅咲きの白梅とが凍える寒さの中で咲き揃う。オー・ボン・フェルマンからほど近い勾当台公園の一角で見つけた小さな春の足音(2016.3.12 撮影)

 イタリアかぶれの庄イタをしても、ニッポンに生を受けて良かったと思うのが、間もなく訪れる桜の季節。うららかな陽気のもとで愛でるソメイヨシノは、こと長い冬を越す東北の地においては、春を迎えた喜びの象徴にほかなりません。

 冬から春への境となる春分の日は、昭和23年に施行された「国民の祝日に関する法律」では〝自然をたたえ、生物をいつくしむ〟日と定義されています。

 昼と夜の長さが同じになる春分の日は、年によって日が変わります。今年は本日3月20日で、日曜日と重なるため、翌日が振替休日となります。連休で得をした気分になるのは、やはり精神構造がイタリア人ゆえでしょうか。

hitome-senbon2015.jpg【Photo】1922年(大正12)に植樹されたソメイヨシノやシロヤマザクラなど、1,200本ほどの桜並木が見られる「一目千本桜」。阿武隈川の支流・白石川沿いに8kmにわたって続く宮城県南きっての桜の名所。父親が小さな男の子を乗せた車を曳く姿がほほえましい親子を見守る満開の桜(2014.4.12 撮影)

sakura_logo2.jpg カトリック国のイタリアでは、キリストの生誕を祝う「Nataleナターレ(クリスマス)」と同様、主の復活を祝う「Pasquaパスクア(復活祭)」は、重要な意味を持つ祝日。敬虔なキリスト教徒にとっては、すべからく万人に訪れる誕生より以上に十字架からの復活は、意味深い奇蹟と考えられるわけですね。

 春分の日を過ぎた最初の満月の夜が明けた日曜日がパスクアと定められており、春分の日と同じ移動祝日で、今年は3月27日。月の満ち欠けの関係から、来年は4月16日がパスクアと、振れ幅が大きい祝日でもあります。

 啓蟄を過ぎ、風ぬるむ季節の訪れを待ち焦がれる今の時季、毎年いち早く春の息吹を届けてくれるのが、ほんのりと桜の香りがするチーズ「さくら(下写真)

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 繊細な日本人の感性が生んだこのチーズは、北海道上川郡新得町の農事組合法人「共働学舎新得農場」で生産されます。1月初旬から、桜の季節が終わる5月下旬にかけての季節商品となります。

 十勝平野の最北部に拓かれた共働学舎新得農場には、自閉症や引きこもりなど、心身にハンディを抱え、一般社会に居場所を見つけられない人々が集います。そこでは日々の糧を生み出す家畜とともに、自然の摂理に沿った農作業を行うおよそ70名が、自給自足による共同生活を送っています。

 林業とソバ栽培が盛んな新得町にあって、西に日高山脈、北に大雪連峰を望む総面積70haほどの南東向き斜面に拓かれた新得農場では、有機農法による野菜・そば栽培なども行いますが、生産活動の主力は酪農。

 付加価値が高いチーズ生産ほか、ブラウンスイス種の肉牛・ホエー豚などの飼育に取り組んでいます。現在はブラウンスイス85頭とホルスタイン10頭から、朝夕2回の搾乳が行われます。

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【Photo】広大な十勝平野の北部、新得町は昼夜の寒暖差を生かしたそば栽培に適している。約6,300人の人口に対して、飼育される牛の頭数は33,000以上!!

nozomu_miyajima_libro.jpg 開設以来、農場主を務めるのは宮嶋 望氏(65)。米国内でチーズ生産量が最も多いウィスコンシン州にある農場「Vogel Farm 」での2年間の実地研修後、酪農学を専攻したウィスコンシン大学マディソン校を卒業。1978年(昭和53)に入植しました。

 6頭の乳牛からスタートし、翌年モッツァレラから着手したチーズ作りは、1984年(昭和59)に本格稼働。お手本となったのは、酪農やチーズ生産に関して工業化が進んだ米国ではなく、地域の伝統に培われた欧州各地のチーズ作りでした。

【Photo】共働学舎の理念を記した宮嶋氏の最新刊「いらない人間なんていない」(いのちのことば社2014/6刊)

 1998年(平成10)、79点が出品した「第1回 ALL JAPAN ナチュラルチーズコンテスト」(主催:中央酪農会議において「ラクレット」が最高賞を受賞。2004年(平成16)には、スイス・フランス・イタリア3ヵ国で構成する「Caseus Montanus (山のチーズ委員会)」主催の「山のチーズオリンピック」ソフトチーズ部門で、さくらが金賞に輝きます。

 共働学舎新得農場は、競争社会からドロップアウトした人々が集い、生きがいを感じる仕事を通して、自分の居場所と、もう一人の自分を見いだす場でもあります。そのありようは、色も形も異なる花たちが、共働学舎という一本の木に、それぞれのペースで花開いてゆくかのよう。そんな作り手たちの姿と、さくらとが、重なります。

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【Photo】半地下の床下に炭を敷き詰め、札幌軟石を積み上げた共働学舎新得農場のチーズ熟成庫。成形した凝乳の塊を塩水に浸し、熟成庫に移して後も、時おり塩水を染み込ませた晒(さらし)で磨きながら寝かせること3ヵ月。スイスでは表面を溶かしてジャガイモに塗って食するセミハードチーズ「ラクレット」が完成する

 トッピングされた一輪のエゾヤマザクラは、ヨーロッパの人々に日の丸を連想させ、エキゾチックな桜のフレーバーが、遠い日本を想起させるのでしょう。さくらは、国内はもとよりチーズの本場ヨーロッパで催される各種コンテストで、数々の受賞歴を積み重ねてきました。

 春先限定のさくらは、表皮までホロホロとした淡雪のようにしっとり柔らかな食感。桜餅に通じる和の香りに牛乳の甘さ、薄味の塩気、そしてヤギ乳から作るシェーブルチーズに似たほのかな酸味が加わります。出荷までの熟成期間を10日程度に留め、繊細な風味を残しています。

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 全体を覆う白い粉は、味噌の仕込みで用いる酵母「ジオトリカム・カンディダム」によるもの。カビではなく、この酵母を用いる製法で作られる共働学舎のチーズが、「プチ・プレジール」(上写真)

 プチ・プレジールを桜葉で香り付けし、熟成が進み過ぎない段階で一輪のヤマザクラを添えたソフトタイプのチーズが、さくらです(下写真)

 さくらのベースとなるPetit plaisir の意味は、フランス語で「小さな喜び」。さくらには、冬のモノクローム世界から芽吹きの季節を迎える今の時季に似つかわしい、ほんのり桜色のロゼがイメージ的にぴったりです。

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 今シーズン初のさくらは、共働学舎の各種チーズを取り扱うオー・ボン・フェルマンで例年通り購入。アドリア海に面したイタリア中部マルケ州のごく限られた地域だけで栽培されるブドウ「Lacrima ラクリマ」から醸したスプマンテを合わせてみました。

 ラクリマは、顕著なバラの香りが特徴となるアロマティックなブドウです。桜はバラ科の植物。バラの香りとの親和性は高いだろうという読みでした。ただ、果皮に割れが生じやすく、収穫時期の見極めが難しいため、栽培が難しい品種とされます。〈2011.11拙稿「ボジョレー騒動はさておき...」参照〉

 素晴らしいDOCG 白ワイン「Verdicchio dei Castelli di Jesi Riserva ヴェルディッキオ・デイ・カステッリ・ディ・イエージ・リセルヴァ」 の造り手である「Marotti Campi マロッティ・カンピ」は、通常DOC 赤ワイン「Lacrima di Morro d'Alba ラクリマ・ディ・モッロ・ダルバ」を醸すこのブドウを、アロマ感を活かすシャルマ方式(密閉タンク方式)で、発泡性のある辛口スプマンテに仕上げました。

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【Photo】イタリア中部マルケ州アンコーナ県のごく一部だけで栽培されるバラの薫香を漂わせる品種「ラクリマ」。個性的なこのブドウをスプマンテに仕立てたのが、モッロ・ダルバ地区の造り手「マロッティ・カンピ」。バラ科の桜の香りが魅力のさくらとの相性はいかに

 淡いピンクの色調からイメージする品種特有のバラ香との相性はまずまず。時間と労力を要する瓶内二次発酵を行うため、いきおい高価となるシャンパーニュやフランチャコルタのように持続性が高い細やかな泡の立ち上がるシルキーさはありません。泡の感触が食感に障(さわ)るうえ、渋みのもととなるタンニンを意外と感じるため、ガンベロロッソ式3段階評価では★で第1ラウンドを終了。

 半分ほど残ったさくらには、蜂蜜のワンダーランド「藤原養蜂場」で購入した「盛岡石割桜一番蜜」を少しだけ垂らしてみました。その途端、さくら本来の香りが数倍増しとなり、一気に花開いたのです。予定外の第2ラウンドは寺内大吉さんの採点(⇒昭和世代はご存じかと)でも1.5ランクアップで★★ の満点に迫る組み合わせとなりました(下写真)

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 さくらと合わせるため、自宅にストックしていたヴィーノとのアッビナメント(組み合わせ・マリアージュ)を試みるべく、今季2個目のさくらを買い求めようと、仕事帰りに再び訪れたオー・ボン・フェルマン。店内では、さくらと3種類の産地が異なるロゼとの組み合わせを体感するショップイベントの真っ最中でした。

 テーブル席では6名ほどが、淡いピンク色のグラス3杯と切り分けたさくらを前に、真剣な面持ちでロゼとさくらの相性を確かめています。自転車で移動中だったため、同好の輪に加わることはできません。「そっちがグラス3杯なら、こっちはボトル3本返しだっ!」 堺雅人ばりの意気込みを胸に、家路を急ぎました。

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【Photo】赤と比べて圧倒的に数少ないロゼの自宅ストック。(右から順に)「Cerasuolo Montepulciano d'Abruzzo チェラスオーロ・モンテプルチァーノ・ダブルッツォ1999」、「Dolcedorme Rosé ドルチェドルメ・ロゼ 2014」、「Principessa Cerasuolo プリチペッサ・チェラスオーロ2014」。特別な日に飲みたいアブルッツォの巨人「Valentini ヴァレンティーニ」はお飾り(^ ^; 。結局選んだのは左端のヴィーノ・ロッソ

 当初考えていたアッビナメントの本命は、カラブリア州の作り手「Ferrocinto フェッロチント」が、長期熟成型の偉大な「Taurasi タウラージ」を生む南イタリアの赤品種「Aglianicoアリアニコ」から醸したロゼ。畑の標高が400m以上と高く、南らしからぬエレガントな造りが魅力。

 対抗は2013年に新潟市西蒲区に誕生した「カンティーナ・ジーオセット」を起業した瀬戸潔さん(54)が、山形の契約農家が生産するスチューベンをチャーミングに仕上げた1本。第1ラウンドでは、さくらの繊細な風味を覆ってしまうタンニンの存在が気になったため、結局は知り合いのソムリエが推奨するプーリア州のヴィーノ・ロッソを選んでみました。

 捲土重来を期す第3ラウンド。挑戦者はイタリア半島のかかとの位置にあたるプーリア州産「Fatalone Teres ファタローネ・テレス2014」。本来は高い熟成能力を備えた力強い赤ワインとなる品種「Primitivo プリミティーヴォ」を、15℃から18℃程度に冷やして飲む造りをあえて狙った変則パターンです。

fatalone-sakura2.jpg 「Ridge」や「Clos du Val」など、成功を収めているカリフォルニアの「Zinfandel ジンファンデル」と同一品種であることが、20世紀後半のDNA検査で判明したプリミテーヴォ。色が濃いロゼ風に仕立てたファタローネ・テレスとの組み合わせは、いわば変化球勝負。

 州都Bariバーリから、どこまでも平坦な地形が続く内陸側へ40kmあまり南下した「Gioia del Colle ジョイア・デル・コッレ」は、良質な赤ワイン産地。円錐形の石積み屋根が特徴の住居「トゥルッリ」で名高い「Alberobello アルベロベッロ」の西方約30km の海抜365mの丘陵地にブドウ畑を所有する「Pasquale Petrera パスクアーレ・ペトレーラ」。

 イタリアにおけるオーガニック認証機関の先駆けであるICEAから有機認定を受けているパスクアーレ・ペトレーラ醸造所の信条は、ブドウの樹を人と同じように慈しむこと。自らが欲することをブドウにも同じように与えるため、常に細心のケアを怠りません。

 太古そこが海底だったことを物語る貝の化石が出てくる石灰岩と粘土の赤黒い土壌。ヴィーノ・ロッソとしては淡く、ロゼとしては濃い微妙な色合い(上写真)は、発酵前に果汁に果皮を浸すマセレーションを、ロゼと同程度の30時間に留めたスキンコンタクトによるもの。樹齢25年ほどのプリミティーヴォが完熟する10月後半に収穫後、樽は用いずステンレスタンクで12ヵ月、瓶内3ヵ月の熟成を経て、リリースされます。

 「Negroamaro ネグロアマーロ」種をメインとするイタリアン・ロゼの発祥とされるDOC Salice Salentino サリーチェ・サレンティーノ」を含め、お値打ち品が多いこの地域では、夏の日中は40℃越えが珍しくありません。5代前の創業者ニコラ・ペトレーラが好んだという、冷やして飲むロゼ風の仕上がりのヴィーノ・ロッソです。

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 青葉区広瀬町のワインショップ「Wine Store ブドウの木(下写真)で、さくらとの組み合わせを前提に、選択のお手伝いをして下さったのが、オーナー・ソムリエの奥山和茂さん。

tag-fatalone.jpg セラーに200種前後を取り揃えるワインには、奥山さんがプロフィールを記したタグ(右写真)が1本ごとついています。

 ワインは店内のカウンターやテーブル席でフード類と共に頂くことができます。家飲み用には、表示価格の25%引きで購入可能(6本以上の場合30%OFF)。 よって店頭価格3,440円のファタローネ・テレスの購入価格は2,580円でした。

 比較的手頃な価格帯のヴィーノ・ロッソですが、安ワインにありがちな単調さやヌケ感は皆無。ふくよかな果実の旨味が伸びやかに広がります。渋味のもととなるタンニンは希薄で、飲み口は滑らか。

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 パスクアーレ・ペトレーラ醸造所の地下セラーには、クラシックやヒーリング音楽が流れています。えもいわれぬ心地よさを感じさせる癒しの秘術は、ワインがそこで体得するのかもしれません。

 ファタローネ・テレスは過剰な自己主張をせず、繊細なさくらの風味がより引き立つよう、優しくエスコートするかのよう。ファタローネの名は、2代目フィリッポ(左写真)のニックネームにちなんだもので、il Fatalone とは、俗にいう〝女たらし〟のこと(笑)。

 ただでさえ情熱的なイタリア男をして、そう言わしめるのですから、フィリッポは相当お盛んだったのでしょう( ^0^;)。自家製のヴィーノ・ロッソと牛乳を500mℓずつ飲むことを朝の日課としていたフィリッポ。98歳で天寿を全うした日とて、その例外ではなかったといいます。そんな酒とバラの人生を謳歌したフィリッポの精神と、作り手のブドウへの愛情がこの1本に体現されているように感じました。

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 北の大地に春の訪れを告げる桜が香り立つ共働学舎のさくら。そこに集う心に悩みを抱える人たちのように遅咲きのさくらに寄り添い、引き立て役を果たしてくれたFatalone Teres 2014 vinには、アッビナメント★★に加え、あっぱれ助演男優特別賞を献上したいと思います。

【Photo】共働学舎のさくらに添付の栞(しおり)に描かれた一輪の桜

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Fromagerie & Café Au Bons Ferments
 フロマージュリー&カフェ オー・ボン・フェルマン
 住:仙台市青葉区上杉1丁目4-10 庄建上杉ビル1F
 Phone : 022-217-2202
 営) 12:00~22:00 月曜定休

Wine Store ブドウの木
 住:仙台市青葉区広瀬町3-48
 Phone : 022-796-2293
 営) ・ダイニングバー 13:00~22:00 L.O.  ・カフェ13:00~17:00 日曜定休


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2016/01/17

Nostalgia del paese

ノスタルジアな絵地図で妄想里帰り


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【Photo】スイス(C.H.)・フランス(F)と国境を接するピエモンテ州とヴァッレ・ダオスタ自治州。両州各地の建築や名産品、観光資源を細密なイラストで表した1950年代にイタリアで作成された絵地図 (W237mm×H310mm)

 このヴィンテージマップは、旧市街の四方をルネッサンス期の城壁が囲むトスカーナ州の古都Lucca ルッカで購入したもの。地図の裏面には、1950年代から60年にかけて作成されたことを示す古書店による証明書(右下)が貼付されています。

certificato-garanzia.jpg ピエモンテの州都トリノのモニュメントとして登場するのが、市街地郊外の高台に建つスペルガ聖堂と、16世紀に欧州の覇権を競ったフランスを撃破し、サヴォイア公国の首都をトリノに定めたエマヌエーレ・フィリベルトの銅像。

 さらにFiat の生産工場「Lingotto リンゴット」<2007.7拙稿「そしてトリノ」参照>で、トリノの自動車産業が華やかりし1950年代から60年代に生産されたモデルFiat1100。スイスやフランスとの国境を越える鉄道を疾走するのは蒸気機関車。こうしたアイコンからも、およそ半世紀前の時代背景がうかがえます。

 この絵地図を眺めていて浮かんできたのが、1918年(大正7)に発表された室生犀星(1889-1962)の「抒情小曲集」に収められた「小景異情その二」でした。

    ふるさとは遠きにありて思うもの
    そして悲しくうたふもの
    よしや
    うらぶれて異土の乞食となるとても
    帰るところにあるまじや
    ひとり都のゆふぐれに
    ふるさとおもひ涙ぐむ
    そのこころもて
    遠きみやこにかへらばや
    遠きみやこにかへらばや

map-con-frame.jpg 文学の道を志して上京後も、室生犀星が抱き続けたのが故郷金沢への複雑な感情。元加賀藩士の父と女中との間に生まれ、生後間もなく養子に出された金沢は、血の通った親の愛情を知らずに育った犀星を暖かく迎え入れてくれる地ではありませんでした。

 そんな近親憎悪にも似たアンビバレンスな思いを抱かせるでもなく、庄イタにとってのイタリアは、降りたつたび、そこが異郷であることなど微塵も感じさせません。帰りたい。でも帰れない・・・。

 年末年始にふるさとへ帰省をされた方でも、曜日まわりの関係で、今年はお正月休みが例年になく短かったと感じておいでの方が多いのでは?

 生まれ故郷にひとかたならぬ愛着を持つ郷土愛の権化のごときイタリア人。その常として、郷里には強い帰巣本能が働くもの。庄イタの場合は、その対象が前世のピエモンテほかイタリア各地であり、現世における第二の故郷である庄内地方だったりするわけです。

 さりとて、年末年始に久しく訪れていないイタリアを満喫するに足る長期の休みをとることなど、現実には仕事の関係で夢のまた夢。そんな籠の鳥である庄イタが、遠く離れた故郷を懐かしむに十分な風物が多数ちりばめられたのがこの絵地図。

 芸術の国イタリアでは多くの家庭がそうするように、絵画には似つかわしい額装を施します。この絵地図とて例外ではなく、そうして彼の地へと思いを馳せるのです(上写真)。いざ、地図の旅へ。行け! 我が思いよ。黄金の翼に乗って。

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【Photo】Fiat1100、市街地郊外の高台に建つスペルガ聖堂、サン ・ カルロ広場のエマヌエーレ・フィリベルト像の3点セットはピエモンテ州の州都Torino トリノ(左上)  ランゲ丘陵の銘醸地の中で最も名高いBarolo バローロは、白トリュフが香るAlba アルバ近郊の小さな村。スプマンテ発祥の地がCanelli カネッリ(右上)  Cuneo クーネオ一帯のランゲ丘陵の森は、欧州きっての良質なヘーゼルナッツと栗の名産地(左下)  Biella ビエッラはイタリア繊維産業の中心地(右下)

 魅力が地に満ち、幸福が天から降臨する稀有な国・イタリアは言うに及ばず、ここ数年、歳末の恒例だった庄内&新潟村上への爆買いツアーにすら出向けなかったこの年末年始。地図中に登場するピエモンテゆかりの産品を愛で、里帰りの妄想に少しだけ浸れました。

gianduiotti.jpg【Photo】トリノ生まれのヘーゼルナッツ風味のチョコレート「Gianduiotto ジャンドゥイオット」(中)と、少し小ぶりな「Gianduiottino ジャンドゥイオッティーノ」(左)は、一個づつ金紙に包まれている。〈2007.8拙稿「チョコレートの街トリノ」参照〉  H27年産「ゆきむすび」〈2008.10拙稿「鳴子の米プロジェクト 稲刈り交流会」参照〉の現地受け取りのため、12月末に訪れた鳴子への道すがら立ち寄ったのが「あ・ら・伊達な道の駅」。ROYCE'コーナーで購入した北海道生まれの生チョコ・ジャンドゥイオット風味(右)

 例えばローストすると比類なき芳香を放つクーネオ県特産のヘーゼルナッツを練りこんだジャンドゥイオット。ナターレ(=クリスマス)に北イタリアで食する菓子パンドーロやパネトーネにぴったりなのが、Moscato d'Asti モスカート・ダスティ。

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【Photo】バニラがほのかに香るヴェローナ発祥の八角形をした円錐型のクリスマス菓子「Pandoro パンドーロ」。内袋から取り出す前に粉砂糖を加え、全体にまぶすようにシェイクしてから食するのがコツ

 1990年代半ばに飼育頭数が激減し、スローフード協会が小規模な生産者による保護すべき地域の伝統食材「Ark アルカ(味の箱舟)」に指定する「Razza piemontese ピエモンテ牛」。白毛でコレステロール値が低いこの希少な牛肉の入手はかなわずとも、黒毛和牛の霜降りのような過剰な脂肪がない赤身の旨味が凝縮した赤毛の「いわて山形村短角牛」を盛岡で調達。(2008.6拙稿「元気いっぱい! 放牧牛」参照)〝おせちもいいけど、ピエモンテ料理もね〟ということで、ワインの過剰在庫を抱えるTaverna Carlo タヴェルナ・カルロでピエモンテ風煮込みに仕立てました。

pandoro-moscato.jpg【Photo】上品なマスカット香が特徴のアスティ特産の微発泡性白ワイン「Moscato d'Asti モスカート・ダスティ」が、まさに鉄板の組み合わせ

 ピエモンテ牛と同様、アルカ認定されている日本短角種。噛めば噛むほど滋味深い短角牛の頬肉煮込みにピタピタと合ったのが、ピエモンテ人が愛してやまない「Dolcettoドルチェット」100%のヴィーノ・ロッソ。その極め付けが、土壌の異なる3か所の畑に由来する複雑味と目が詰まった重厚さがあり、しなやかな味わいのバランスに優れた「Dogliani Superiore Vigna Tecc ドリアーニ・スーペリオーレ・ヴィーニャ・テック」2011年ヴィンテージ。

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【Photo】多くの場合はミディアムボディで汎用性が高い赤品種ドルチェットが、持てるポテンシャルを最大限に発揮するのが、2011年にDOCGに昇格したエリア「Dogliani ドリアーニ」。10kmほど北のDOCGバローロ産地では、ネッビオーロを植える最も条件の良い南斜面の畑で育った完熟ドルチェット100%のヴィーノ・ロッソ「ドリアーニ・スーペリオーレ」。作り手はイタリア共和国第二代大統領を務めたルイージ・エイナウディ(1874-1961)が、政界引退後に興した醸造所「ポデーリ・ルイージ・エイナウディ」

 ドルチェットだけでは終わらないのが庄イタ。日頃は整理がつかないTaverna Carloのセラーから取り出したのが、冬場が最もおいしく感じるネッビオーロの精華Barolo バローロです。どれにしようかな~♪と、目移りする良作年ストックのうち〝そろそろ試してみてもいいかも棚〟より両手で一つかみ(下写真)。ボトルを立てて滓を落ち着かせアイドリング状態に。

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 こうして不摂生を重ねた年末年始明け。年初までの暖冬モードが一変、今週から厳しい寒波に見舞われています。かくなる上は酒と薔薇で体脂肪を蓄え、冬を乗り切るロードマップ作戦を展開中 (*^-^)ノY☆Yヾ(^-^*)。そんな他愛のないオチで今回は締めましょう。

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2015/11/14

高貴な香り漂うお部屋はいかが?

Rosso Nobile da Dr. Vranjes


 秋真っ盛り。庄イタの郷里ピエモンテ州ランゲ丘陵には、すぐ目の前の視界をも遮るほど濃い霧のヴェールが立ち込めます。

 すると凡百の黒トリュフとは比較にならぬほど鮮烈な「Tartufo Biancoタルトゥフォ・ビアンコ(白トリュフ)」のクラクラするような馥郁たる香りが記憶の奥底から蘇ってくるのです。(2007.6拙稿「白トリュフの魔力」参照)

Tartufo_bianco@rupestr.jpg【Photo】ピエモンテ州アルバ近郊で産する白トリュフの香り立ちは尋常ならざるもの。こうして部屋の一角に香るオブジェとして置いておきたいが、たちまちにして破産することは必定 (T T)

 稀少性が極めて高く、日本での業務用仕入れがキロ50万円前後と、グラム当たりの単価が世界一高い食材といわれるアルバ産白トリュフ「Tartufo Bianco Pregiato タルトゥフォ・ビアンコ・プレジャート」。

  名高いトリュフ祭り「La Fiera Internazionale del Tartufo Bianco d'Alba」に世界中から多くの人が訪れるアルバに名声では及ばぬものの、トスカーナ州やエミリア・ロマーニャ州などのごく一部でも「Tartufo Bianchetto タルトゥフォ・ビアンケット」ないしは「Tuber Albidum Pico トゥベル・アルビドゥム・ピコ」と呼ばれる種類の白トリュフが産出されます。

 白トリュフが地中に潜むポプラやナラの樹が生い茂った森には、トリュフ犬を従えたトリュフハンターが繰り出します。100gあたり200ユーロ近くの値が付くこともある高価な白トリュフの亜種を求め、ここ掘れワンワン。

tartufi-hunt.jpg【Photo】ピエモンテ州アスティ県カネッリ近郊の某所。キノコ採り同士が決して場所を明かさないのは日本もイタリアも同じ。前世イタリア人でも一応は異邦人ゆえ、トリュフハンターが早朝に行うトリュフ狩りへの同行が叶った。この優秀なトリュフ犬は、鼻を利かせて探し始めてから5分ほどで見事に白トリュフを探りあてた(下写真)

hunted-tartufo.jpg そんな今の季節、トスカーナ州ピサ県「San Miniato サン・ミニアート」や同シエナ県「San Giovanni d'Asso サン・ジョヴァンニ・ダッソ」ではトリュフ祭りが開催されます。モンタルチーノやモンテプルチアーノといった名醸地にほど近いサン・ジョヴァンニ・ダッソに繰り出したいのは山々ですが、今年も白トリュフフレーバーのオイルで彼の地に思いを馳せて我慢するとしましょう。

  気を取り直して今回の本題へ。前々回はオリエンタル・フローラルなメンズユースとしても許容範囲と思われる少し甘いザクロをイメージした香りで、秋の装いへと衣替えしました。身につける香りに続いての話題は、部屋の香りの模様替え。

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 プライベート空間に漂う心地良い香りは、満ち足りた時間を運んでくれます。今回取り上げる「Dr. Vranjes ドットール・ヴラニエス」は、歴史と伝統美に彩られたフィレンツェに工房を構えるブランドです。

 1088年に創立された欧州最古の総合大学、ボローニャ大学で化学・薬学を専攻した創業者のパオロ・ヴラニエス氏は、ボローニャ出身。1983年にルームフレグランスに特化したDr. Vranjes を旗揚げします。

 Dr. Vranjes のブランドイメージを築いたルームフレグランス「アロマディフューザー」のフォルムは、フィレンツェのドゥオーモ「Cattedrale di Santa Maria del Fiore サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂」のクーポラ(=天蓋・丸屋根 / 下写真)をモチーフとしたもの。

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【Photo】高さ82mの「Campanile ジョットの鐘楼」最上部まで414段の階段を登りつめた者だけが間近にする事が許される大聖堂の威容。初期ルネサンスに偉大な足跡を残した建築家であり彫刻家でもあったブルネレスキの設計。画期的な二重構造のクーポラ最上部は地上91m。464段の階段も踏破するW登頂は、よほどの健脚と強心臓の持ち主以外には到底無理

 バンブースティックをボトルに差し込むタイプのルームフレグランスが、最近では珍しくなくなりました。香りを揮発させるスティックの本数で香りの強弱を調整する方式の先駆けとなったのがDr. Vranjes なのだそう。

 仙台PARCOにショップがある「TOMORROWLAND」で定番として取り扱うのが、天然エッセンシャルオイルを使用するドットール・ヴラニエスのルームフレグランス「Acqua アクア(=水)」,「Aria アリア(=空気)」,「Ginger & Lime ジンジャー・ライム」,「Green Flowers グリーンフラワー」、そしてイタリアで人気が高い「Melograno (=ザクロ)」(下写真)の5種類(各250ml 税込 ¥8,640 / 500ml 税込 ¥14,040)。

dr.vranjes_melograno.jpg 身につける香りには、自然由来の香料成分を調合したサンタ・マリア・ノヴェッラのザクロを選ぶ香りフェチな庄イタですが、ルームフレグランスとして、ずーっと以前から気になっているのが、Dr. Vranjes の最高級ラインで、赤ワインをイメージしたのだという「ROSSO NOBILEロッソ・ノービレ)」。その香りを公式HPの表現を借りてご紹介すると ...。

 トップノートはストロベリーとブラックベリーを基調とし、シトラスのアロマが見事に調和する。その後、スミレとバラの柔らかく醸成したノートと繊細で気品あるタンニンがユニークなハーモニーを奏でる。

 シトラスは白ワインで時おり感じる柑橘系の香りですが、イタリアを代表する醸造用ブドウの一つが「Sangiovese サンジョヴェーゼ」です。キアンティ・クラシコやブルネッロ・ディ・モンタルチーノ、カルミニャーノなどを生みだすこの品種から醸したワインの風味を、あたかもソムリエが表現するような言葉が並びます。

melograno_Dvranjes.jpg 通常はフィレンツェのドゥオーモのクーポラをかたどったボトルにスティックを立てて使うのですが (上写真)、ロッソ・ノービレには、ワインの香りを開かせるための空気との接触面積を大きくとった形状の刻印入りデカンターと、バンブースティックではなく本物のブドウの枝8本がセットされたスペシャルパッケージが用意されます。

 ワイン好きの目には、その佇まいが極めて魅力的に映ります。(下写真)

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 訪れた場所、記憶、感情に訴えかける香りなのだというロッソ・ノービレ。「ワインは味わいの素晴らしさだけではなく、目を喜ばせ、香りとそこから始まる会話を愉しませるものである」とは調香師のパオロ・ヴラニエス氏の弁。人生を楽しむ達人たちが暮らすスローフード発祥の国イタリアならではのアイテムですね。

 9月から11月初旬にかけてイタリア各地のブドウ産地を巡ると、醸造所からは収穫したブドウを圧搾する香りが漂ってきます。フィレンツェ周辺のキアンティ地方や、シエナ南方のモンタルチーノ、モンテプルチァーノ(下写真)など、田園風景が美しいサンジョヴェーゼの名醸地トスカーナ州のブドウ産地では、10月下旬に収穫が終了。現地情報によると2015年はAmazing な出来だそう。

citta-di-montepluciano.jpg 今年リリースされた2010年産ブルネッロ・ディ・モンタルチーノが、評価本で軒並み高スコアを連発し、センセーションを巻き起こしています。天候不順のため、サンジョヴェーゼ・グロッソから造られる最上級のブルネッロの生産を諦め、セカンドラインのロッソ・ディ・モンタルチーノしか生産しなかった醸造所もあった前年とは対照的な2015ヴィンテージ。いやが上にも期待は高まります。

sangiovese-vendemmia.jpg【Photo】収穫の季節を迎えたモンテプルチァーノのブドウ畑。バッカス神の祝福を受け、たわわに実を結んだサンジョヴェーゼの亜種「Prugnolo Gentile プルニョーロ・ジェンティーレ」

 750mℓ 容量のワインフルボトルと同サイズで、香りの持続期間が6~8ヵ月だという、Dr. Vranjes ロッソ・ノービレのスペシャルパッケージ。本国価格€ 160に対して日本国内での正規価格は35,000円(税別)。うーむ。これは費用対効果について熟慮のしどころ。

 そこで選択肢の一つとして浮上してくるのが、直訳すると〝モンテプルチァーノの高貴なワイン〟を意味する歴史あるヴィーノロッソ「Vino Nobile di Montepulciano ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチアーノ」。香りの素晴らしさは両者互いに譲らぬとして、〝置いて眺めるだけ〟VS〝おいしく飲める〟という点が最大の差異となるでしょう。

azinone-poliziano.jpg【Photo】「Avignonesi アヴィニョネージ」と並び称される珠玉のヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチァーノの造り手が「Poliziano ポリツィアーノ」。さほど人手をかけずとも最良のブドウが収穫できるという奇跡のような畑のクリュものが「Asinone アジノーネ(上写真)。日本ではリリース時点で6,500円前後。ファーストヴィンテージは1983年でDr. Vranjes の創設と奇しくも一致。庄イタのセラーで熟成を続ける1997年や2007年のようなグレートヴィンテージにこの特別なワインが到達する熟成の高みを想像するだけで幸せな気持ちに浸れる

vista-Montepulciano.jpg【Photo】DOCGヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチアーノの生産地域は海抜250m~580m。遠くエトルリア時代からサンジョヴェーゼが栽培されており、発祥の地とする説もある

 ワイングラスから立ち上ってくるのは、サンジョヴェーゼの亜種「プルニョーロ・ジェンティーレ」の魅惑的なかぐわしい香り。すると牧草地と糸杉が織りなす360度の絶景が広がる世界遺産「Val d'Orcia オルチャ渓谷」から、トラジメーノ湖からアレッツォまで広がるDOCGヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチアーノの心臓部「Val d'Chiana キアーナ渓谷」への夜間飛行が、たった1杯のグラスで叶うのです。

San-Biagio-Montepulciano.jpg【Photo】小高いモンテプルチアーノの街を囲む城壁を出て訪れたいのが、ルネサンス様式の優美な佇まいをみせる「Chiesa di San Biagio サン・ビアージョ教会」。メディチ家出身の教皇クレメンス7世が建築家アントニオ・ダ・サンガッロ・イル・ヴェッキオに命じて1518年に着工し、1528年に献堂式が行われた。マドンナ・ディ・サン・ピアージョとも呼ばれる

 ゆえにヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチァーノのほうが、コストパフォーマンス的により魅力的に思えてしまう庄イタ。なにやら山口瞳のお酒にまつわる名エッセー「酒呑みの自己弁護」的なオチになってしまいました。
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2015/10/11

Composta di fico con buon vino del casa

イチジクのコンポートと実力発揮のイタリアワイン


 イチジクが旬を迎えています。旧約聖書「創世記」では、楽園エデンで無垢な日々を送っていたアダムとイブが、蛇にそそのかされ、リンゴとイチジクのいずれかと考えられる禁断の果実を食べたことで、人は知恵を得たとされています。

 互いの裸体を恥じた2人が身につけたのは、かつて武田久美子が写真集My Dear Stephanieで、世の男性諸氏の目を丸くさせた貝殻ビキニではなく、(^ ^; イチジクの葉でした(⇒リンゴの葉はあまりに小さいゆえ当然かと)。知恵を手に入れた代償として楽園を追放された人類にとって、初めての衣装はイチジクだったのですね。

Otranto-cattedorale-faciata.jpg【Photo】ビザンティン帝国の拠点として聖地エルサレムへ向かう巡礼者や十字軍が行き交ったのが、イタリア最東端に位置する港町プーリア州Otranto オートラント。11世紀にノルマン人が初期キリスト教聖堂の遺跡があった地に創建したロマネスク様式の「Cattedrale 大聖堂」(上写真)

Cacciata-Paradiso-catedrale-Otranto.jpg【Photo】ロマネスク彫刻が施された柱頭を頂く円柱がアーチを支えるオートラント大聖堂の身廊部で見逃してならないのが、床一面に敷き詰められたキリスト教や土着の多神教から題材をとった生命の樹を中心とする12世紀のモザイク画。その一部、このアダムとイブが手にする禁断の果実は、まさにイチジク(上写真)

iwagaki-fukura2015.7.jpg  紀元前9400年頃にはヨルダンでイチジクが栽培されていた痕跡が発見されており、最も初期に食用とされた作物のひとつと考えられます。トルコ・エジプト・アルジェリアなど、イタリアを含む地中海沿岸で盛んに栽培されているイチジクですが、庄イタの行動エリアでイチジク産地といえば、その北限とされる秋田県にかほ市を挙げずにはおけません。

【Photo】今年7月19日、遊佐町吹浦で食した金浦産天然岩ガキ。ここ数年で最も岩ガキの身入りが良かったこの夏。殻付き特大(600円)を注文し、ヨダレを流しながら待つことしばし。ご覧の通りプックリとメタボな大トロ状態の身を口に含むと...。 口の中はトロけるようなハーレムと化し、その甘い至福の余韻はいつ果てるともなく延々1時間は続いた

 山形県最北の遊佐町と県境を接するにかほ市を毎年欠かさずに訪れているのは、滋養豊富な鳥海山の伏流水が育んだ岩ガキを食さんがため。2005年(平成17)、仁賀保町・象潟町と合併し、にかほ市の一部となった旧金浦町ほか、象潟・小砂川・吹浦と産地が密集するこの地域の岩ガキが旬を迎える夏だけでなく、鳥海山の南裾野には名水スポットが数多く存在しており、年間を通して庄イタの出没率が高いエリアです。

kaneura_onsuiro2007.jpg【Photo】獅子ヶ鼻湿原付近から湧出する膨大な量の伏流水は、夏でも水温7℃前後。太陽熱で水温を上げるため、浅く広く作られた金浦温水路 <拙稿「日本初の温水路 先人の英知が遺した日本初の太陽光温水装置『上郷温水路群』@ 秋田・象潟」2009.8参照>

 真夏でも手を切るほど冷たい鳥海山の伏流水を主に水田の農業用水として活用するため、先人が苦労して整備した日本初の温水路群の現地リサーチのため、にかほ市大竹地区を過去にも訪れています。そこはイチジク生産が盛んな土地でもありました。

s-suke69_nikaho.jpg【Photo】イチジク栽培の北限とされる秋田県にかほ市大竹地区の「いちじく屋 佐藤勘六商店」(http://ichijiku-ya.com/ )の看板商品「いちじく甘露煮」は、この地方の伝統的な味付け。R7道の駅象潟「ねむの丘」でも入手可

 旧金浦町大竹地区を中心に1世紀の歴史があるこの地のイチジク栽培。昭和40年代に栽培が本格化したのがホワイトゼノア種。寒冷地でも栽培可能で、小ぶりながら風味がよく型崩れしにくいため、完熟前に収穫して保存食として主に甘露煮に加工してきました。

 ところが、カミキリムシによる食害によって、この20年ほどで栽培面積が半減。現在およそ40の生産農家の高齢化もあいまって生産者数も激減しています。事態打開のため、生産者や地元の加工業者・自治体などで構成される「にかほ市いちじく振興会」が一昨年に発足。「プロジェクト九(←「イチジク」と読ませる)」と銘打った新たな販路拡大に向けた取り組みが始動しました。3軒の農家が鳥による食害防止ネットで木を覆って完熟させた生食用ホワイトゼノアの出荷も昨年から始まっています。

 生活のあらゆるシーンが多分にイタリアナイズされた庄イタとしては、イタリアでもポピュラーな果実であるイチジクをコンポート(赤ワイン煮)で食するのが常道(下写真)。その相伴はヴィーノ・ロッソをおいてほかにはありません。

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 先日訪れた仙台市青葉区国分町のワインバー「土筆」では、新潟・佐渡産のイチジクのコンポートにリコッタチーズを載せ、生ハムで包み込んだ一品が登場。酸味・甘味・塩味が絡み合い、北イタリアのエレガントなピノ・ネロ100%のヴィーノ・ロッソと絶妙なアッビナメントを体感できました。

 かたや、ワインセラーに常時300本以上のイタリアワインのストックを抱える仙台市青葉区某所の闇リストランテ「Taverna Carloタヴェルナ・カルロ」でも、この時季の定番はイチジクのコンポート。シナモンスティック・スターアニス(八角)・クローブ(丁子・チョウジ)で香り付けしたコンポートは、フレッシュチーズと軽めのヴィーノ・ロッソとの相性が抜群。

 コンポートの仕込みに用いるのは長期熟成に向くそれなりの価格のセラーアイテムではありません。そこで登場するのが、階段下のパントリーに無造作に置かれた「CO-OP ITALIA イタリア生協連合会」と「日本生協連」が提携し、日本市場では2011年から発売されているヴィーノ・ロッソ。ブドウ品種はサンジョヴェーゼが主体となります。

vino-rosso-coop-italia.jpg パルマハム、パルミジャーノ・レッジャーノ、アチェート・バルサミコ・トラディショナーレなど、珠玉の食材が揃う美食の州エミリア・ロマーニャ州で1963年に発足した生産協同組合「Cevico チェヴィーコ」。4,500軒あまりのブドウ生産者、15の醸造所が加盟するイタリア国内屈指の規模の生産組合です。

 イタリアワイン法で最上位にあたるDOCG(統制保証原産地呼称)を白ワインとして初めて認定された「Albana di Romagna アルバーナ・ディ・ロマーニャ」ほか、加盟する複数の醸造所が、DOC(統制原産地呼称)・IGT(典型的生産地表示)クラスのヴィーノを厳格な品質管理のもとで年間10万トン生産しています。

coop-italia-bianco.jpg CO-OP ITALIA では1紙パック入りを主力としてベストセラーを続けるというだけあって、デーリーユースにピッタリなイタリアの王道をゆく安定感のある味わい。日本市場には750mℓ 容量ボトルで輸入されています。みやぎ生協での実勢価格はなんと500円台。

 魅了される香りや多彩なニュアンスを感じる複雑味、長い余韻といった卓越したワインが持ち合わせる美質を求めるのは無理でも、守備範囲が広そうな親しみやすい「だし」系の旨味が広がります。たかがワンコイン+αの安ワインと侮るなかれ。気取らずにワインと共に日本の食卓を彩るのには、こうしたミディアム・ライトボディタイプはむしろ好都合。ヴィンテージ表記はありませんが、コストパフォーマンスに優れたチャーミングなヴィーノです。

 トレッビアーノ種が主体という白(左上写真)も試しましたが、赤はアルコール度数が11%、白は10.5%と低めなので、良い意味でスルスルと飲めてしまいます。イタリア人のソウルフードと言っても良いシンプルなトマトソースのパスタや白身肉には鉄板でしょうし、家族で囲む毎日の食卓で本領を発揮するイタリアワインの魅力が十分味わえます。

 今年も判で押したように決まり文句のグレート・ヴィンテージを吹聴し、11月第3木曜の解禁日に向けた商戦真っ最中の「某ージョレ・●ーボー」なんかより、よほど胸を張ってオススメできる魅力的な酒質を備えています。

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2014/09/23

沖田ナス&ヴィーノ。アッビナメント検証は続く。

揺るがぬサンジョヴェーゼ優位。そして
オルチャ渓谷にひっそりと佇む修道院への追慕


1-DSCF4090.jpg 「沖田ナスにはキアンティ・クラシコ」で、意外な好相性を発見した沖田ナスとキアンティ・クラシコ・リゼルヴァ。フルーツタウン櫛引・西荒屋での大玉ブドウ狩りの道すがら、産直「あさひ・グー」で買い求めた沖田ナスの自家製浅漬けが出来上がったので、今回は目先を変えてキアンティ・クラシコの骨格を成すサンジョヴェーゼ(グロッソ)と国際品種を混醸したトスカーナ産ヴィーノ・ロッソを取り出して組み合わせを試してみました。

【photo】沖田ナス自家製浅漬けとヴィーノとのアッビナメント第2ラウンドは、メルロ+カベルネ・ソーヴィニョン+シラーをメインに、15%程度のサンジョヴェーゼ・グロッソを混醸したヴィーノ・ロッソ「サンタンティモ・ロッソ」で検証。その相性やいかに

 Taverna Carloのセラーから取り出したるは、DOCG(統制保証原産地呼称)「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」のエリア内で栽培されたメルロ、カベルネ・ソーヴィニョン、シラーに樹齢の若いサンジョヴェーゼ・グロッソを加えて醸すヴィーノに対して1996年に新たに誕生したDOC(統制原産地呼称)「Sant'Antimoサンタンティモ」ロッソ。

fanti-brunello97-.jpg【photo】19世紀初頭から醸造所を所有するファンティ家。長期熟成のポテンシャルを秘めたブルネッロ・ディ・モンタルチーノ1997には手を触れず、ブドウとオリーブが育つ畑からはロマネスク様式の鐘楼を望むことができる修道院の名にちなんで名付けられた「サンタンティモ」のロッソ2004を抜栓

 造り手は「Tenuta Fanti テヌータ・ファンティ」。世紀のヴィンテージとセンセーションを引き起こした1997年産のブルネッロ・ディ・モンタルチーノが、ブラインドテイスティングにより20点満点で評価を行うワイン評価本L'Espresso「Vini d'Italia2003年版」で、イタリア全土の赤ワインで第3位に当たる17.5点のハイスコアを叩き出して一躍注目されました。

 評価対象となった14,000本の頂点となる19ポイントはモンテプルチアーノの雄「Avignonesiアヴィニョネジ」ヴィン・サント1992。375mℓ瓶でわずか2,995本しか生産されなかった稀少な1本と共に、Taverna Carloのセラーで眠りにつく世評高きブルネッロ・ディ・モンタルチーノ'97。こうしたお宝には手を付けず、沖田ナス浅漬けとのアッビナメント第2幕は、キアンティ・クラシコとはタイプが異なり国際品種を85%使用したサンタンティモ・ロッソに相伴を委ねました。

etichetta-santimo.jpg【photo】ブルネッロを含めて現在はモダンなデザインに変更されたファンティのヴィーノ。「サンタンティモ・ロッソ」2004年のエチケッタには、糸杉とロマネスクの鐘楼を備えた修道院が描かれる

 その結果は、メルロ+カベルネ・ソーヴィニョン+シラーがメインで、樹齢の若いサンジョヴェーゼの割合が15%に満たないサンタンティモ・ロッソでは、沖田ナスとの相性は今ひとつ。これは国際品種にはないサンジョヴェーゼの大きな美点である良質な酸味がベースにあるキアンティ・クラシコでは、ほのかな沖田ナスの甘味と青みがかった香りとが重なって見事に調和するということ。沖田ナスとの相性では、サンジョヴェーゼの優位は揺るぎのないものでした。

 ゲルマン的な秩序とは対極の自由(⇒無秩序ともいう)を好むイタリア人を法律の縛りから開放すると、いかに素晴らしい仕事をするかを立証した「スーパー・トスカーナ」と比べ、国際品種メインでありながら若干おとなしい印象のサンタンティモ・ロッソ。今回、庄イタの印象に残ったのは、ヴィーノと沖田ナスの組み合わせの妙ではなくヴィーノのエチケッタ。そこには1本の糸杉と聖堂が描かれています。サンタンティモという名前といい、描かれた聖堂といい、その絵には心当たりがありました。

 イタリアきっての名醸地といえば、ピエモンテとトスカーナが互いに譲らぬ頂点を競います。イタリア全土で50番目となる世界遺産に今年認定されたのが、我が郷里「ピエモンテの葡萄畑の景観:ランゲ・ロエロ・モンフェラート」。万年雪を頂くアルプスの山並みを見はるかすブドウ畑の丘陵が広がるランゲ地方から比べれば、前回取り上げたフィレンツェの南に広がるキアンティ・クラシコのエリアは、「Collinaコッリーナ」と呼ばれる標高500m前後の小山の連なりと表現したほうがしっくりきます。

Monticchiello_Pienza.jpg【photo】世界文化遺産オルチャ渓谷。16世紀中葉のローマ教皇パウルス3世が偏愛した「Vino nobile=高貴なワイン」という名の歴史あるワインを産出するモンテプルチアーノとピエンツァ間にある村、モンティッキエーロに向かう糸杉の道(上写真)

 トスカーナの田園風景といっても、その姿は多様。オリーブとブドウの畑が山あいの森の間にパッチワーク状に点在するキアンティ・クラシコエリアからシエナを越えて南下すると、道沿いに列をなす糸杉が風景のアクセントとなる見渡す限りの牧草地が広がる世界文化遺産オルチャ渓谷へと至ります。

penza_vista2006.jpg【photo】当Viaggio al Mondo が参加している人気ブログランキングのアイコン画像として使っているのが、モンティッキエーロのすぐ北にある小さな礼拝堂。遥か地平から昇る朝日を受けて輝く霧がたなびく早朝、そこでは息をのむこんな光景と出合える

 360度の視界が開けるそこは、どこを切り取ってもそのままポストカードになりそう。太古は海の底にあり、塩分を含む土壌ゆえ13世紀までは不毛の地だったオルチャ。人々は700年あまりの時をかけ、荒野を絵のように美しい牧草地や耕作地に変えたのです。

1-Sant Antimo.jpg【photo】19世紀に誕生した銘酒Brunelloブルネッロの産地、モンタルチーノ中心部から南へ8キロあまり。12世紀の華美な装飾を排したロマネスク様式の聖堂には、グレゴリオ聖歌が響き、白衣姿の修道士が静かな祈りを捧げる〈clicca qui

 名醸地モンタルチーノの誇りであるブルネッロをグラスで試飲しながら購入できる「Enoteca La Fortezza」と地元っ子が多いトラットリアでモンタルチーノの夜を堪能した翌朝。宿を早めに引き払い、霧に包まれた道をFIAT PUNTOで南に向かいました。目ざすはモンタルチーノのチェントロから8キロほど離れた「Sant'Antimoサンタンティモ」の村はずれにある12世紀なかばに完成したロマネスク様式の美しい聖堂を備えた「Abbazia di Sant'Antimoサンタンティモ修道院」。

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【photo】明るい白石灰岩造りの聖堂の入口やファサードは未完。入口の壁面を支える左側の円柱では、頭が一つ、体が二つの化けネコ(?)が愛嬌たっぷりにお出迎え(右写真)聖堂の身廊部。ロマネスク様式の柱に光が射す(左写真)

 今回開けたサンタンティモ・ロッソの造り手、テヌータ・ファンティの醸造所前を通り過ぎると、谷間の草原とブドウ畑の中に建つ白亜のサンタンティモ聖堂が見えてきます。聖堂に隣接した修道院では、修道士たちが神への祈りを捧げる日々を送っています。

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【photo】時代が下って登場するゴシックやバロック・ロココの華美さとは無縁のロマネスク様式の聖堂内部。イタリア版の"陰翳礼賛"と呼ぶべき光と影が劇的な対比効果を生みだす聖堂を静謐が支配する

 後陣や身廊上部に穿たれた窓からは、朝日が光の筋となって聖堂内部に射してきます。そこでは朝の祈祷を終えた修道士たちが修道院に引き揚げるところでした。やがて人気(ひとけ)の無くなった聖堂内部は静寂を取り戻し、13世紀の素朴なキリスト磔刑像としばしの間、向き合うことができました。
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2014/09/20

沖田ナスにはキアンティ・クラシコ

庄内系イタリアンなワインのアンティパスト@Taverna Carlo

 個性豊かな在来作物の宝庫である庄内地方に「沖田ナス」を普及させたきっかけを作った小野寺政和さんとの偶然のなせる遭遇について記したのが6年前の夏。
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 在来系のナスとして知名度が高い「民田ナス」よりも沖田ナスは外皮が軟らかく、ナスにありがちなエグミを感じさせません。庄イタが食したあらゆるナスの中で、食味の良さは「萬吉ナス」の澄み切った味に次ぐものです。鶴岡市沖田地区に最も近い産直「あさひ・グー」では、秋口にかけて収穫したての沖田ナスのほか、浅漬け、ビール漬け、辛子漬け、粕漬けなどの加工品が並びます。
2014okita-nasu.jpg 発酵食品である漬物と醸造酒の相性の良さには体験的に気付いており、かねてよりタヴェルナ・カルロでは実践してきました。いまや「カマンベール+いぶりがっこ+日本酒」のコンビネーションは広く知られています。ワインラヴァーを自任する庄イタとしては、「カマンベール+いぶりがっこ+スモーキーなシャルドネやコクのあるピノ・グリージョなどの白ワイン」を合わせたいところ。

castello_fonterutoli_99.jpg【photo】「まだ少し早いかな?」と思いつつ抜栓したキアンティ・クラシコ・リゼルヴァ「Castello Fonterutoliカステッロ・フォンテルートリ」'99ヴィンテージ。案の定、熟成の途上にあることは口に含んだ途端に判明。岩手県山形村短角牛の相伴として、今年の春に開けてしまったのが、明らかな"お手付き"だったフラッグシップは現在ストック切れ(右写真)

【photo】かかる状況下、セラーから一掴みしたカステッロ・ディ・フォンテルートリのストックより。(下写真左から)フィネスを感じるマイ・フェイバリッツ「Siepiシエーピ」'98、今回'08ヴィンテージを開けた「Ser Lapoセル・ラーポ」'07、若飲みできるスタンダード・クラスでもハイレベルな「キアンティ・クラシコ」'06〈click to enlarge

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 辛味が心地よい「藤沢カブ」の甘酢漬けとサンジョヴェーゼ50%+メルロ50%で上質なフィネスを感じさせるお気に入りの1本、シエーピとの酸味つながりな意表を突いた組み合わせの良さを記したのは、7年前に遡る2007年6月の「藤沢周平の故郷の味」。

 1970年代までは藁づとに包まれた安酒のイメージが強かったキアンティ。フィレンツェとシエナの間に広がる生産地域の中核をなし、さまざまな個性を備えるキアンティ・クラシコの品質向上に早い時期から取り組んだのが1435年創業の名門「Castello di Fonterutoliカステッロ・ディ・フォンテルートリ」です。

 つい先日、シエーピとは異なるカステッロ・ディ・フォンテルートリのヴィーノ・ロッソと沖田ナスとの香りつながりな最良のアッビナメント(=組み合わせ。マリアージュ)を見出しました。

 それはキアンティ・クラシコ・リセルヴァSER LAPO 2008。現在で24代目となるマッツェイ家のSER LAPOセル・ラーポ(1350-1412)が、1398年12月16日に記した公式文書に「キァンティ」という名が初めて登場していることから、キァンティの祖といわれる偉大な祖先に敬意を表して1983年から作られています。

mazzei-stampa.jpg【photo】エチケッタには、誉れ高きマッツェイ家の紋章を刻印した赤い封蝋とセル・ラーポが残した手書き文字があしらわれる(右写真)。E de' dare, a dì 16 diciembre, fiorini 3 soldi 26 denari 8 a Piero di Tino Riccio,per barili 6 di vino di Chianti ....li detti paghamo per lettera di Ser Lapo Mazzei =「マッツェイ家のセル・ラーポは、この書面をもって、キアンティ・ワイン6樽の対価として12月16日に3フローリン26ソルド8デナロ(⇒それぞれ中世フィレンツェ共和国の通貨単位)をピエロ・ディ・ティーノ・リッチョに支払うよう指示する」という1398年の記述(下写真)scrittaSerLapo.jpg

 イタリアワイン界で引く手あまたの天才醸造家、(光栄にも私と同じ名前の)カルロ・フェリーニが手掛けるカステッロ・ディ・フォンテルートリのキアンティ・クラシコ3種の中では、ミドルレンジに当たるヴィーノです。1990年代前半には日本市場でも流通しており、その味は長らく記憶に残るものでした。

 ノーマルのキアンティ・クラシコやリゼルヴァとは違って、セル・ラーポは取り扱うインポーターが無くなって、長らく日本で姿を見ることはありませんでした。現在は首都圏を中心に9店舗を展開する「Eataly」の独占販売となっています。実勢価格で3千円そこそこと、デイリーユースにも無理のない値付けがされています。

SerLapo-okita2.jpg【photo】キアンティ・クラシコ・リゼルヴァ・セル・ラーポ2008と小野寺政和さん・太さん親子が育てた沖田ナス浅漬けの和洋折衷な組み合わせ@Taverna Carlo

 セル・ラーポは、例年ちょうど今頃の9月中旬に収穫が始まる樹齢10年~20年のサンジョヴェーゼ90%、9月上旬に収穫されるメルロー10%というセパージュ。標高220m~510mの間に広がる石灰岩土壌の畑で手摘みされたブドウは、除梗・破砕後にステンレスタンクで28℃~30℃に管理され、15~18日間のマセレーション(果皮と種を除かぬまま果汁に浸すこと)を行い、225ℓ容量のフレンチバリック樽(半数が新樽)で12カ月、瓶詰め後5カ月の熟成を経てリリースされます。

 今回抜栓したのは2008年ヴィンテージ。軽く10年は熟成するポテンシャルのヴィーノゆえ、更に作柄の良い2006年や2007年には手を触れず、まずまずの年だったこの年から開けた次第。サンジョヴェーゼ特有のスミレ香が心地よく、新樽由来の適度なロースト香がインクや黒ブドウ由来のスグリ、ビターチョコレートなどの複雑な構成要素の中に、血筋の良さを感じるカルロ・フェリーニらしさが綺麗に溶け込んでいます。フラッグシップに当たる「Castello Fonterutoli 」ほど目の詰まった凝縮感はありませんが、ミディアム~フルの体躯を備えています。

 イタリアワインの在庫が豊富なタヴェルナ・カルロには、この夜、南チロル地方アルト・アディジェ産のアロマティックな「Gewürztraminerゲヴュルツトラミネール/ Cantina Traminカンティーナ・トラミン'13」も抜栓して3日目で選択肢としてはありました。しかしフローラルでアロマティックな白ワインが好相性とは思えず、キアンティ・クラシコ・リセルヴァにお出まし願いました。

SerLapo-okita.jpg 主張しすぎないソフトなタンニンと上品なバランスの良さが身上のセル・ラーポ。抜栓後2日目で、初日よりも空気に触れた分、香りが開いています。そこで実感したのが、オーク樽熟成を経たキアンティ・クラシコ・リゼルヴァと沖田ナス浅漬けとの相性の良さ。キアンティ・クラシコの屋台骨となるサンジョヴェーゼのアロマと綺麗な酸味が、沖田ナスの青い印象の香りと重層的に響き合います。「これは素晴らしい組み合わせだっ!

【photo】醸造所を昼に訪れ、テラス席を希望すれば、カステリーナ・イン・キアンティの眺望とトスカーナの伝統料理を蔵出しのヴィーノとともに楽しめるカンティーナ直営の「Osteria di Fonterutoliオステリア・ディ・フォンテルートリ」。イタリア人も驚く好相性な沖田ナスの浅漬けをメニュー化するよう強く進言したいが、如何?

 仙台市北部郊外にあるJAみどりの直営の「元気くん市場」には、一ノ蔵農社など松山・美里町周辺の生産者直送の在来ナス「仙台長ナス」が置いてあります。添加物オンパレードの市販の漬け物を良しとしないタヴェルナ・カルロでは、夏の名残りのこの季節、沖田ナスだけでなく仙台長ナスの自家製浅漬けも登場します。ただし仙台長ナスではナス特有の苦み・エグミが残るため、それを洗い流すにはやはり日本酒ですね。

 キアンティ・クラシコを沖田ナスの浅漬けと組み合わせるのは、いわば変化球勝負。肉厚の遊佐町産パプリカ、玉ネギ、トマト、セロリなどの野菜と一緒に素揚げした沖田ナスを煮込んだシチリアンな「カポナータ」では、直球で相性の良さを実感できたことも申し添えておきます。
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2014/05/25

Digestivo(=食後酒)は適量を。<後編>

Tanti tanti digestivi.

5月X日はディジェスティーヴォの日
Digestivo(=食後酒)は適量を。<前編>より続き

 熟したブドウを酵母の働きでアルコール発酵させた天賦の飲み物がワインであることは論を俟(ま)たない事実。ですが、フランス・ドイツ・ルクセンブルグ・英国といった欧州の一部の国や北米オレゴン・日本などの寒冷な地域では、ブドウが完熟しない場合、糖分を発酵前のモスト(もろみ)に添加して必要なアルコール度数を得る「シャプタリザシオン(Chaptalization:仏語)」が慣習として行われています。


【Movie】収穫後、除梗・破砕したブドウを皮ごと入れたステンレスタンクから発酵前の果汁をバットに移し、砂糖を加えるシャプタリザシオン(補糖)のルクセンブルグにおける事例© European Union, 2014

 産地やヴィンテージの持ち味を曖昧にする補糖がワイン法で禁止されているイタリアで、例外的に完熟ブドウの糖分を更に高める目的で行われるのが、傷みが出ないよう手摘みしたブドウを陰干しする「アパッシメント(Appassimento=乾燥)」。乾燥したブドウは酵母がアルコールに変換する糖分割合が高く、多くは「Vinsantoヴィンサント」など、極甘口のデザートワインとなります。

1-san_gervasio-vinsanto96.jpg【Photo】幾多の伝説を生んだ天才醸造家カルロ・フェッリーニが醸造コンサルタントとして就任した1996年、カステッリーナ・イン・キアンティで創業間もない「サン・ファビアーノ・カルチナイア」が初めて造り、市場には流通しなかったプロトタイプともいうべきロングネックのヴィンサント'96(上写真)を「闘うワイン商」こと川頭義之氏の好意で相伴に預かったのが2012年7月。長~い余韻を伴うそのピュアで甘美なとろけるようなエッセンスの完成度たるや!! 通常のボトルで初リリースされた翌'97はトスカーナのグレートヴィンテージ。ともに眠りについているセラーアイテムをいつ呑もうかしらん~♪

 キアヴェンナスカ(=ネッビオーロ)種を用いる「Valtellina Sfursatヴァルテリーナ・スフルサート」と同じく、陰干ししたブドウを辛口に仕上げる「Amarone della Valpolicellaアマローネ・デッラ・ヴァルポリッチェラ」を産するヴァルポリッチェラ地区気鋭の生産者「L'Arcoラルコ」が、ワインバー「Bonne Placeボンヌ・プラス」で5杯目に登場したこの夜。ここ十数年では最も作柄が良かった2007ヴィンテージのアルコール度数は15.5%。グラスを重ねるうち次第に気持ち良くなってきました。そろそろDigestivoディジェスティーヴォ(=食後酒)で締めにかかるタイミングです。

torcolato_golgonzola.jpg【Photo】手作業で縄のれん風に絡ませたブドウを吊り下げ、陰干しすること4ヵ月。貴腐菌が付着した房を含む糖分が凝縮したヴェスパイオーラ種から作られるトルコラート。厳選した貴腐ブドウのみを用いた稀少なリゼルヴァクラスの「Acinobili」とゴルゴンゾーラとの至福のアッビナメント(abbinamento:伊語。組み合わせ・マリアージュ)

 ちなみに5杯目に登場したアマローネと同じ品種から造られる甘口デザートワインが、「Recioto della Valpolicellaレチョート・デッラ・ヴァルポリッチェラ」。同じヴェネト州ヴァルポリッチェラ県でガルガネーラ種をメインとする「Recioto di Soaveレチョート・ディ・ソアーヴェ」が、ヴィチェンツァ県では、完熟するとVespa(=蜂)を呼び寄せるほど甘くなるヴェスパイオーラ種から「Torcolatoトルコラート」が造られます。特に「Maculanマクラン」の手掛ける「Acininobiliアキニノービリ」は、夢見心地へと誘う琥珀色をした珠玉の一滴。あぁ・・・。甘美な記憶に浸る庄イタを現実に引き戻したのは、ソムリエの荒川さんのこんな囁きでした。

antica-carpano.jpg 「70年代のヴェルモットがあります」 

【Photo】ヴェルモットがトリノで産声を上げた1786年当時のラベルと製法を踏まえた「Carpano Antica Formulaカルパノ・アンティカ・フォーミュラ」(写真左)。陶芸の盛んなファエンツァの陶器職人による意匠を受け継ぐクラシックなパッケージで知られるシロップチェリー「Amarena Fabbriアマレーナ・ファッブリ」を添え、アペリティーヴォに。これは@ボンヌ・プラスではなく、成田―マルペンサ空港経由でミラノにやむなく宿泊した折、Pinacoteca di Brera(ブレラ美術館)にほど近い宿Carlyle Brera Hotelのラウンジにて、旅のアペリティーヴォの1杯。Salute!

 「Vermouthヴェルモット」とは、複数の薬草とスパイスを加えたワインのこと。1786年にアントニオ・ベネデット・カルパーノが、トリノで製法を編み出した「Carpanoカルパーノ」(当時のレシピをそのまま再現した「Antica Formula」は、現在Fratelli Brancaが製造)、大手ではモータースポーツでお馴染みのCinzanoMartiniが知られています。ヴェルモットは、"とりあえずビール"を必要としない庄イタにとっては、少量のソーダを加えると爽やかなアペリティーヴォ(=食前酒)となります。熟成によって複雑味が増す長命なワインは別として、40年近くを経たヴェルモットは経験した事のない珍品です。荒川さんの誘い水に即応してしまいました。

rosso_antico.jpg

【Photo】ディジェスティーヴォ1杯目@ボンヌ・プラス。70年代のデッドストックものヴェルモット〈click to enlarge

 5種類のワインに32種類のハーブを加えたという「Rosso Antico」。本来はアルコール度数が16~18度あるヴェルモットですが、口に含んだ印象では、アルコール分をほとんど感じません。このボトルが、いかなる状態で40年近い時を過ごしてきたのか分かりませんが、劣化した印象はなく、溶け込んでいる薬草成分の風味だけが残ります。珍品に興味を示し、お裾分けした同行者も頷いた庄イタの感想はこうでした。

「この味はソルマックだわ」( ̄▽ ̄;)

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【Photo】ディジェスティーヴォ2杯目。フェルネ‐ブランカ〈click to enlarge

 さっくりと二日酔い対策を済まし、2杯目のディジェスティーヴォとして、この夜初めて庄イタから指名したのが「Fernet-Brancaフェルネ-ブランカ」。1845年にミラノで誕生したイタリアではポピュラーな苦味系リキュールです。これもデッドストックのようで、現在のラベルとは雰囲気が異なります。五大陸から集めたという27種のハーブ・スパイスを秘伝の製法で組み合わせ、オーク樽で1年熟成させています。その味はあくまで苦く、庄イタはOKですが、イタリア人でも好みが分かれるところ。健胃薬としても用いられたというのも頷けます。これぞ良薬口に苦し。

 2杯続けての薬草酒ドーピングにより、もはや怖いものなし。3杯目となるディジェスティーヴォとして、荒川さんにお勧め頂いたのは下のカルヴァドスとコニャックの2本。ブドウが原料となる蒸留酒であるブランデーで注目すべきは、ヴィンテージ・アルマニャックとコニャックです。庄イタが食指を伸ばしたのは25年物のコニャック。(写真左)

Paul_giraud.jpg【Photo】ディジェスティーヴォ3杯目。25年熟成のコニャック(写真左)は口当たりが良くスルスルと飲み進み、グラスに注いだカットは撮り忘れ(^ ^;)

 このコニャックの造り手は、コニャックの白眉とされるグラン・シャンパーニュ地方で昔ながらの製法でコニャックを造り続ける「Paul Giraudポール・ジロー」。大手のような工業製品化されたコニャックではなく、19世紀の創業時よりブドウの栽培から原料のワイン醸造、そして蒸留に至るまで、頑ななまでに伝統製法を貫く数少ない生産者です。25年に及ぶ長期熟成により、40度のアルコール度数を感じさせない角のとれた「Extra Vieuxエクストラ・ビュー」の魅力は円熟味。

DomPerignon.jpg【Photo】ディジェスティーヴォ4杯目。ドン・ペリニョン'04click to enlarge

 まだ顔に飲み足りないと書いてあるのか、荒川さんが次に出してきたのは、日本では最も名を知られたシャンパーニュであろう「Dom Pérignonドン・ペリニョン'04」。シャンパーニュならずともヴァン・ムスー、スプマンテなどの泡ものはディジェスティーヴォというよりも、アペリティーヴォで頂くのが普通です。きっと他のテーブルで開いた残りが回ってきたのかもしれません。いずれにせよ、この展開は"棚からぼた餅"ならぬ"棚からドンぺリ"。きめ細やかに幾筋も立ちあがり続ける泡、シルキーかつクリーミーな飲み口は、さすがの完成度。

 9杯目に意表を突いたシャンパーニュが登場したことで、クローザーとなるディジェスティーヴォなのか、スターターのアペリティーヴォを飲んでいるのかが怪しくなってきました(苦笑)。時の過ぎるのを忘れてグラスを重ねてきましたが、すでに深夜1時30分を回っていました。ひと思いで昇天できる本当の締めの一杯をお願いする潮時です。

jaques_prieur.jpg【Photo】アペリティフには申し分のないドンぺリニョンの登場で、リスタート!? いやいや、既に午前様。今度こそ〆る決意のディジェスティーヴォ5杯目。マール・ド・ブルゴーニュ・オルダージュ'91〈click to enlarge

 本拠地があるムルソーほか、ブルゴーニュの名醸地にグランクリュ、プルミエクリュクラスの畑を所有する「Domaine Jacques Prieurドメーヌ・ジャック・プリュール」。ナディーヌ・ギュブラン女史が醸造責任者に就いて以降、昔日の輝きを取り戻しています。なれど、ピノ・ノアール愛好家に人気が高いワインは常に売り手市場。ブランド信仰を持たぬコスパ重視の庄イタには高嶺の花に映ります。

 マールはそうしたブドウを搾った残りの果皮から作る蒸留酒。イタリアのグラッパと同じです。オーク樽で15年熟成した琥珀色の「Marc de Bourgogne Hors d'Ageマール・ド・ブルゴーニュ・オル・ダージュ」は日本での流通量は極めて限られます。ワインよりもレア度は高くとも、(下世話な話で恐縮ですが)需要と供給のバランスゆえか、福沢諭吉先生でもお釣りが戻ってくる程度の値付けがされているようです。

 アルコール度数の高いコニャックとマールを、ドン・ペリニョン'04を挟んで飲み干し、ようやく締めの一杯を空けた気持ちになれました。アマローネに続く6杯目をディジェスティーヴォにしたつもりが、食後酒だけで5杯。ワインと合計して都合10杯。心地よさのあまり、つい長居をしてしまった次第。荒川さん、今回は勉強になりました。ありがとうございます。m(_ _)m でもディジェスティーヴォをこんな延々と飲み続けてはイケマセンね。反省してます。
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Bonne Place ボンヌ・プラス

住:仙台市青葉区一番町4-3-1 2M4・3ビル
Phone:022-211-7702
営:18:00-翌3:00 日曜定休
URL: http://www.espe-rance.com/bonneplace/

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2014/05/11

Digestivo(=食後酒)は適量を。<前編>


  5月X日はディジェスティーヴォの日

 旧知のソムリエ泉田氏が仙台市青葉区で営むワインバー「Bonne Placeボンヌ・プラス」を訪れた夜のこと。全てお任せで頂いた都合10杯の中には、「狭く」そして「ディープ」を旨とする庄イタの趣味嗜好をご存じの皆様ならば、「おや、珍しい」と思われるに相違ない銘柄も含まれるはず。
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【Photo】ショーケース的ワインセラー@ボンヌ・プラス

 それでもアレルギー反応を引き起こした頂き物のボージョレ・ヌーボーとは違い、中毒症状を引き起こすことはありませんでした。挙句カウンター席で6時間近くを過ごした前半のみを今回は綴ります。

 カウンターを預かるソムリエの荒川侑さんとはこの夜が初顔合わせ。自宅セラーの95%がイタリアワインというこちらの嗜好は伝えず、二杯目以降も基本はお任せで、赤・白・泡のざっくりした希望だけをお伝えして出てきたワインを頂くことにしました。

arpent-des-Vaudons.jpg【Photo】アペリティフはトゥレーヌのソーヴィニヨン・ブラン 

 Aperitivo(アペリティーヴォ=食前酒)には、同行した呑み助氏が泡ものを所望し、「白のスティルワインを」とお願いした庄イタに出されたのは、フランス・ロワール地方のソーヴィニヨン・ブラン「L'arpent des Vaudonsラルパン・デ・ヴォドン」。SancerreサンセールでもPouilly-Fumèピュイイ・フュメでもなく、掘り出し物が多いTouraineトゥレーヌの若き造り手である「Domaine Jean-François Mérieauジャン・フランソワ・メリオー」による自然派らしからぬ綺麗でスッキリとした爽やか系。この品種特有の青草の香り(ネコの●シッコの香りとも評される)はごく柔らかな印象。

chablis_jennes.jpg【Photo】2杯目は20年近く口にしていなかったシャブリ

 オードブル1皿目の「ツブ貝とキノコのソテー ブルギニョン風」には、シャブリ最大手の生産組合「La Chablisienneラ・シャブリジェンヌ」の「Chablis la pierrelèeシャブリ・ラ・ピエレレ2011」が出てきました。シャブリと名がつくシャルドネを口にしたのは、遥か以前、ベルギーの首都ブリュッセルでシーフードに定評のある店で、ブロン種の生ガキの相伴としてプルミエ・クリュを飲んで以来。比較的軽めながら、泥灰と石灰岩土壌に由来するシャブリの特徴であるミネラリーで硬質な味わい。どちらかと言えばフローラルな白ワインを嗜む機会が多いゆえ、こうしたタイプは久々。

DSC_0119.jpg【Photo】3杯目。ジュヴレ・シャンベルタン

 オードブル2皿目「桜肉のカルパッチョ 黒ニンニクのシャンティ トリュフの香り」には、ブルゴーニュのGevrey-Chambertinジュヴレ・シャンベルタン。造り手は定評あるDomaine Michel Magnienドメーヌ・ミッシェル・マニャン。名高い特級畑シャルム・シャンベルタン東隣の区画les Seuvreesレ・スーヴレの樹齢40年以上のブドウに用いられる樹齢の高いブドウから醸したVieille Vignes ヴィエイユ・ヴィーニュ2010。鉄っぽい凝縮した果実味が広がるまだ若いヴィンテージであるため、熟成したピノ・ノワールや、タイプが似ているネッビオーロの官能性を備えるには至っておりませんが、内包する酒質の良さは伝わります。

DSC_0121.jpg【Photo】4杯目。ビッグヴィンテージ2006年のブルネッロ・ディ・モンタルチーノ

 メインディッシュは、ほぼレアに火入れされた「黒毛山形牛(A5)サーロインのロティ赤ワインソース」。日本短角種と同様、きめの細かい赤身が魅力のキアーナ牛を分厚く捌き、軽く炭火を通すビステッカが、鉄板の組み合わせとなるブルネッロ・ディ・モンタルチーノが相伴となりました。家族5人で目が届く2.5haの自家畑で、自然農法で栽培するサンジョヴェーゼ・グロッソを収穫後、発酵にはセメントタンクを、熟成には大樽を用いる伝統的な製法を貫く作り手「Il Paradiso di Manfrediイル・パラディーソ・ディ・マンフレディ」。ヴィンテージは良作年の誉れ高き2006年。

 3杯目のジュヴレ・シャンベルタンまでは、5月になっても朝夕は涼しく冷たい雨が降る日が少なくない北緯48度の北フランスを彷徨っている気分でした。しかし、ブルネッロの登場で、アルプスを越えて陽光が降り注ぐ風光明媚な南トスカーナに戻ってきたかのよう。

buonconvento-montalcino.jpg montalcino2003-1.jpg【Photo】シエナからSR2を南下、ブォンコンベントの分岐を右のモンタルチーノ方向へと南下すると、イル・パラディーソ・ディ・マンフレディのエチケッタに描かれた姿そのままの丘陵の上に築かれたモンタルチーノの街が見えてくる(左写真)。やがて現れるのが、このイル・パラディーソ・ディ・マンフレディへの分岐に立つロードサイン。名だたるモンタルチーノの醸造所がズラリ〈click to enlarge

orcia maggio1996.jpg【Photo】モンタルチーノからモンテプルチアーノへ。ワイン好きには外せない名醸地巡りルートとなるSR2沿いのSan Quirico d'Orciaサン・クイリコ・ドルチアにある有名な糸杉の浮島。5月を迎えると緑の色合いを増すオルチア渓谷に咲き乱れる赤いポピーに陽春の日射しが微笑みかける

 ロメオとジュリエットの舞台、ヴェローナにほど近いヴァルポリチェッラ地区における辛口赤ワインの最高位が「Amarone della Valpolicellaアマローネ・デッラ・ヴァルポリッチェラ」。収穫後に陰干ししたコルヴィーナ種を主軸にロンディネッラ種とモリナーラ種を混醸、凝縮した力強さと複雑味を備えた長命かつ個性的なヴィーノとなります。この造り手「L'Arcoラルコ」は柔らかく香り立つ偉大なヴィーノを造り出した故ジュゼッペ・クインタレッリのもとで研鑽を積んだルーカ・フェドリーゴが立ち上げたカンティーナです。

l'arco_amarone.jpg【Photo】5杯目。力強く深みのあるアマローネ・デッラ・ヴァルポリッチェラ

 ラルコのアマローネは、瞑目してグラスを重ねるのに相応しい師匠譲りの奥深さと複雑味を備えています。伝統的なスロヴェニアン・オークの大樽を用いたアマローネの製法にフレンチバリックを導入した「Dal forno Romanoダル・フォルノ・ロマーノ」のパワー路線とは明確に異なるスタイル。プルーンやカカオなどニュアンスを含み、デリケートなヴァルポリッチェラともども、ジンワリとこみ上げてくる出汁のきいたイメージのクインタレッリを愛した庄イタゆえ、そのスタイルを受け継ぐラルコのアマローネは、当然のこと好みです。

 ロワールのソーヴィニヨン・ブランに始まり、スロヴェニアン・オークの大樽を用いるマンフレディとラルコという双璧で頂点に至った感の荒川さんの組み立て。画像はおさえていませんが、パスタも食べたいという連れの希望でオーダーした「ベーコンとパルミジャーノのアマトリチャーナ・スパゲッティーニ」で、お腹の具合もちょうどいい具合に。

 リストランテではエスプレッソで〆る庄イタですが、その前にお願いするのが、Digestivoディジェスティーヴォ(=食後酒)です。イタリア語ではdigerire(=消化する【動詞】)、digestione(=消化【名詞】)と言い、そこから派生した単語でしょう。個性豊かな食後酒となるリキュールがイタリアには多数存在しています。満ち足りた食卓を囲んだ家族や友人との語らいの時間をさらに豊かに演出してくれる食後酒は、スローフード運動を生んだイタリア人、そして庄内系イタリア人にも欠かせないのです。

 さまざまな食後酒が入り乱れて登場する後半戦「Tanti tanti digestivi」に続く。

continua / To be continued.

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Bonne Place ボンヌ・プラス

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2013/10/06

ワイン ヴァンヴィーノ フクシマ

winevinvino_frier.jpgこれは楽しいゾッ!!
ワイン・フードとも
豊富な選択肢で内容充実。
ワインの祭典@福島市


 澄み切った秋空から、まばゆい日差しが降り注いだ9月29日(日)、歩行者天国として開放された福島駅前通り商店街で「ワイン ヴァンヴィーノ フクシマ2013」が開催されました。会場となったJR福島駅東口の目抜き通りには、イタリアン・フレンチ・スペイン・トルコなど、多彩な21の飲食ブースが勢揃い。グラス売りで国内外のワイン・シェリー・シードル・グラッパなどのほか、各ショップのセレクトによるフード類も用意され、延べ1万人以上の来場者で賑わいを見せました。

 震災で疲弊した福島の活性化と福島のワイン文化・食文化の発展を目的として、2011年9月に8店舗が参加してスタートしたこの催し。春と秋に開催された昨年までは、復興庁福島復興局が現在入居する福島駅東口の複合ビル「AXC(アックス)」が会場でした。4回目の開催を迎えた今年は、福島駅前通り商店街の設立50周年を記念事業として、同商店街振興組合が主催。前回の9店舗から一気に21店舗へとスケールアップした会場は、芳醇なワインの香りに包まれました。

winevin_01.jpg【Photo】ワイン ヴァンヴィーノ フクシマ2013の会場となった福島駅前通り商店街。地元の老舗百貨店「中合(なかごう)(写真右手)も開催に向け全面協力、通りはいつもの週末の数倍の人出で終日賑わった

 仙台でも年に数回開催される複数のワインインポーターによる業務店向け合同試飲会は、あくまで商談が目的。そのため会場には必ず吐き出し用ポットが用意されます。ゆえに、味覚と嗅覚は若干なりとも麻痺してくるかもしれませんが、その気になれば百本単位でワインを試飲できます。

winevin_03.jpg【Photo】相双・阿武隈地域からの避難生活を福島市で送る農家のお母さんたちが運営する産直「かーちゃん ふるさと農園 わいわい」の野菜ピクルス。シャキシャキした歯応えと爽やかな酸味が素材を引き立てる。新鮮な野菜を加工したピクルスの相伴は、ボルドーブレンドによるイタリア・ヴェネト州の名品「カーポ・ディ・スタート・エティケッタネラ

 一方、ワイン ヴァンヴィーノ フクシマは、一般市民を対象にしており、純粋にワインを楽しむのが目的。プラ製のグラスを一個200円で購入すれば、1杯あたり60mℓ目安でグラス売りされるワインを購入できるシステム。その価格帯は100円~10,000円(⇒ ロマネ・サン・ヴィヴァン1998/ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ)と幅広い選択肢が用意されました。

winevin_06.jpg 前回まではワイン愛好家に向けたチケット制の催しでしたが、福島市の玄関口にあたる駅前商店街が会場となった今回。日頃からワインに親しんでいる人だけではなく、日曜日の買い物に訪れた子ども連れやカップル、ベビーカーを押したママ友同士など、幅広い客層が参加し、グラス片手にたくさんの笑顔が溢れました。

winevin_7S.jpg【Photo】各ブースではワインに合わせるフード類も用意。自家製塩麹に漬け込んだアオスタ風蝦夷鹿のロースト、チリエ風鴨腿肉コンフィ、トリッパのフィレンツェ風煮込、ノルチア風熟成プロシュット、キアンティ風フォカッチャが一皿1500円で味わえる本格的なアンティパスティ・ミスティ(左写真)が長蛇の列を呼んだ「オステリア・デッレ・ジョイエ」(上写真)では、ワインに加えてかつてピエモンテ州ネイヴェにある蒸留所を訪れたこんなレアものグラッパも30mℓワンショット2,000~3,000円で提供

 こうした催しが福島で行われていることは、昨年から噂に聞いていましたが、参加するのは今回が初めて。午前10時40分に福島駅に到着し、すぐに庄イタが行動に移したのは、開店準備中の各店ブースを一巡することでした。事前にWebサイトでワインリストフードメニューがアップされてはいましたが、店の前に並ぶワインの銘柄を改めて確認し、すっきりめの白ワインで喉を潤してから、フルボディの赤ワインに至るまで、飲む順番をざっと組み立てるのです。また、そうすることで、メニューの文字面だけは読み取れない各ショップの持ち味や個性、いわば"こっちの水は甘いぞ""というオーラの強弱を感じることもできますから。

winevin_09.jpg【Photo】スローフード運動発祥の地でスローフード協会本部があるピエモンテ州ブラで1年おきの奇数年に開催される「Cheese」には、小規模な生産者が伝統的な製法で造るチーズが世界から一堂に会する。「Cheese2013」で買い付けしたチーズが呼び物となった「クチーナ・ルスティカ ラ・セルヴァティカ」のブース(左写真)

 フード類に関する一番のお目当ては、9月20日~23日までイタリア・ピエモンテ州Braブラで開催されたチーズの祭典「Cheese2013」を訪れた福島市「クチーナ・ルスティカ ラ・セルヴァティカ」の安齊朋大(ともひろ)シェフが現地で調達したチーズ類。300種以上のチーズが存在するイタリア国内は無論のこと、各国の伝統製法で作られた小規模な作り手による個性豊かなナチュラルチーズは、スローフード協会の眼鏡にかなったものばかり。開幕20分前にいち早く会場入りしたのは、日本では入手困難な希少性の高いチーズを食べ逃してなるものかという一心からでした。

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【Photo】クチーナ・ルスティカ ラ・セルヴァティカ安齊朋大シェフ(右写真)に見繕ってもらった白ワイン用と赤ワイン用のチーズ(各1,000円)。手前から時計回りにサフラン風味の羊乳チーズ、ボッタルガ(からすみ)を練り込んだ羊乳チーズ、ヴィナッチャ(ブドウの搾りかす)と灰に漬けた「バラディン」、牛と羊の混入フレッシュでクリーミーな「ロビオラ・ボシナ」は白ワインと(左写真)。 胡椒入り「ぺコリーノ・ペペ」、コク深い「モリテルノ」、カカオ豆とラム酒の香り「カルブル」、ヴェネト州の銘酒アマローネに漬け込む「ウブリアーコ」は赤ワイン用

 前日イタリアから帰国し、ブラから持参したチーズを前に準備に余念がない安齊シェフに話しかけたところ、こちらを一瞥して「庄内系さんですよね」と笑顔で一言。私とはこの日初対面でしたが、安齊シェフはViaggio al Mondoの読者でいらしたのです。 いきなり素性が知れて面喰らいましたが、それはそれ。時間が許す限り、そして体力・気力が続く限り、ワインの祭典を満喫するつもりでした。

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【Photo】口開けの1杯目は「北の巨匠」と称される醸造家ジャンフランコ・ガッロがイタリア最北部フリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州で手掛ける「Vie di Romans Chardonnay ヴィエ・ディ・ロマンス・シャルドネ2010」(800円)。美しい酸味を基軸にクリスタルのように透き通った豊かな果実味とボリュームを備え、長~い余韻を残す。直筆サイン入りの5リットル容量の巨大ボトル入りゆえ、猪苗代「クッチィーナ・インコントラ」平山真吾シェフ(左写真)が、カラフェからサーヴしたこの珠玉のワインは20年は熟成を続ける。マグナム以上の大きなボトルはワインの熟成がゆっくりと進み、長い時間を要して到達する高みも通常の750mℓフルボトルより、より高みへと至る。「フルボトル6.5本分の巨大なボトルを収穫後わずか3年で開けるのは勿体ないなぁ」と思いつつ、北の巨匠は期待に違わぬ美味しさで魅了した

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【Photo】2杯目@ラ・セルヴァティカ。世界遺産の塔の町サン・ジミニャーノ原産で、レオナルド・ダ・ヴィンチが愛飲した歴史あるこのブドウ品種を手掛ける「Panizziパニッツィ」は1989年に出来た比較的新しい造り手ながら品質は折り紙付き。「Vernaccia di San Gimignano Riserva ヴェルナッチャ・ディ・サン・ジミニャーノ・リゼルヴァ2009」(1,000円)。12ヵ月間のバリック熟成をしながらも嫌みな樽香はなく、ナッツや柑橘系にエキゾチックな苦味が加わる。10年近い熟成も可能(左写真)。 3杯目@福島市「アルソーニ」。"イタリアワインの帝王"こと「GAJAガヤ」が、メルロやカベルネの聖地として脚光を浴びるトスカーナ州ボルゲリで1996年に取得した醸造所「Ca'Marcanda カ・マルカンダ」。2009年初ヴィンテージの白ワイン「Vistamare ヴィスタマーレ2009」(1,500円)。ティレニア海を遠望する畑で育つ白品種ヴェルメンティーノとヴィオニエの混醸。このファーストヴィンテージからしてその名に恥じぬ高次元で調和する絶妙のバランス。有無をも言わさぬさすがの旨さに脱帽(右写真)

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【Photo】4杯目から赤ワイン@クッチィーナ・インコントラ。東京から駆けつけたインポーターAltolivello アルトリヴェッロ伊東長敏社長にお願いしたトスカーナ州ピサ県で天才醸造家ルカ・ダットーマがエノロゴを務める「SanGervasioサンジェルヴァジオ」の「Rossoロッソ2006」(600円)。サンジョヴェーゼを主体にメルロとカベルネをブレンドしたミディアムボディのコストパフォーマンスが良いワイン。良年ならではの伸びやかで溌剌とした風味は、赤ワイン用に見繕っていただいたチーズにも好相性(左写真) 5杯目@ラ・セルヴァティカ。2011年から単独のDOCGとして認められ、ドルチェットが堂々の主役を張るピエモンテ州ドリアーニ。かつて安齊シェフが訪れた思い入れのある造り手だという「Quinto Chionettiクイント・キオネッティ」の「Dolcetto di Dogliani Briccolero ドルチェット・ディ・ドリアーニ・ブリッコレーロ2010」(800円)。醸造はステンレスタンクだけを使い、一切の工程で樽を用いない稀有な存在。ブドウ由来の若々しいベリー系の香りと豊かなタンニン。ボリューミーな味わい(右写真) 

 あらかじめ決めていたもう一つの要チェックポイントが、福島市「オステリア・デッレ・ジョイエ」オーナーシェフの梅田勝実さんが用意する北イタリアおよび中部イタリアの地方料理。梅田シェフとは2年前の11月、イタリアからいわゆる自然派と呼ばれる醸造元15社を招いて仙台市内5店舗で同時開催された「ヴィナイオッティマーナ2011」の2次会場でお会いしていました。梅田シェフは自然派ワインに傾倒しておいでのようで、11本全てがそちら系の濃いラインナップ。味にばらつきが多く、造りが多少とも個性的ゆえ、庄イタは積極的にアプローチしないこのジャンルですが、気になるワインが数本置いてありました。「前菜盛り合わせ」は赤ワインとの相性が良さそうだったので、序盤はチーズから攻めることにしました。

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【Photo】6杯目@オステリア・デッレ・ジョイエ。1980年の自家詰め開始よりウンブリア州モンテファルコでビオディナミ農法を実践する孤高の造り手が「Paolo Beaパオロ・ベア」。風味を凝縮させるための低収量と選別を徹底、自然酵母の使用、そして清澄濾過を行わずにボトリングされる「Montefalco Sagrantino モンテファルコ・サグランティーノ2003」(1,500円)は、プルーンのニュアンスを強く感じ、元来厳格なタンニンを備えたサグランティーノにしては意外なほど柔和な表情を湛える。25anniで有名なアルノルド・カプライとは方向性が異なるが、この品種の可能性を示す(左写真)。 7杯目@ヴィヴィフィカーレ(福島市)。ヴェネト州ヴェネツィア北方の造り手「Conte Loredan Gasparini コンテ・ロレダン・ガスパリーニ」のフラッグシップ「Capo di Stato Etichetta nera カーポ・ディ・スタート・エティケッタ・ネラ'97」(800円)。公式晩餐会で出されたこのワインに感銘を受けた元フランス大統領シャルル・ド・ゴールが、国家元首を意味する「Capo di Stato」と名付けた逸話が残る。カベルネ・ソーヴィニヨン+カベルネ・フラン+メルロ+マルヴェックというボルドーブレンドの深みと複雑味を感じる隠れた名品。しかもグレートヴィンテージ'97!!(右写真)

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【Photo】8杯目@オステリア・デッレ・ジョイエ。"No Barrique,No Berlusconi"という辛辣なエチケッタを残した伝説のバローロ生産者「Bartolo Mascarello バルトロ・マスカレッロ」。バローロ・ボーイズの活躍で脚光を浴びたクリュの概念やバリック樽を否定し、伝統的なセメントタンクでの発酵と大樽熟成による造りを生涯貫いた。娘マリア・テレーザが醸造所を引き継いだ今も、カンヌビ・ロッケなど4つのバローロ地区最良の区画に所有する畑で栽培するネッビオーロから単一のBaroloを造る。この2007年(1,500円)は前年に続く優良年で、厳格さは残しつつも抜栓後4時間を経て柔らかさもあり、素晴らしい資質を遺憾なく発揮(左写真) 9杯目@オステリア・デッレ・ジョイエ。締めくくりはトスカーナ州シエナ東方のカステルヌオーヴォ・ベラルデンガのChianti Colli Senesiキアンティ・コッリ・セネージ地区に位置し、ジョヴァンナとステファーノ夫妻による「Pacinaパーチナ」のデザートワイン「Vinsanto del Chianti ヴィンサント・デル・キアンティ2005」(600円/30mℓ)。消毒用ボルドー液以外を用いない農法で育てた白ブドウのマルヴァシアとトレッビアーノを収穫後に陰干し、寒暖差が激しい屋根裏部屋などで5年以上熟成させると、ブドウの純粋かつ官能的な甘味が抽出された琥珀色のエッセンスへと昇華、贅沢な余韻に浸れる(右写真) 

 時間が経つのを忘れ、気がつけば4時間30分あまり会場をウロウロしていた庄イタ。ヴィンサントをお願いしたオステリア・デッレ・ジョイエでは「たくさんご注文頂いて♪」と奥様からサン・ペルグリーノの炭酸水の差し入れも頂戴してしまいました。そろそろ中合の地階へ移動して家族への福島土産を購入しなくてはなりませんが、午前中にラ・セルヴァティカのブースに立ち寄った際、ワインリストに記載された「Etlivin.s.r.l秘蔵のイタリアワイン」(1,500円)なる存在が気になっていました。そこには日本でイタリアワインが現在ほどの地位をマーケットで築く以前の'85年、イタリア専業のインポーターとして創業した「Etlivinエトリヴァン」の佐々木玲子さんがおいでした。

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 佐々木さんは、秘蔵のイタリアワインこと木箱入りマグナムボトルの「Linsieme l'Italia del Vino decennale selezione Fattorieリンシエメ・リタリア・デル・ヴィーノ・デッチェナーレ・セレツィオーネ・ファットリ」(左写真)という長たらしい名前のヴィーノがいかなるものかを説明して下さいました。かの「Sassicaiaサッシカイア」を生んだ醸造家、故ジャコモ・タキスが、イタリア各州の優れた造り手のワインをブレンド、1999年に2,265本だけマグナムボトルに瓶詰めした超レア物なのだといいます。バックラベル(右写真)にはブレンド用にワインを提供した32のそうそうたる顔ぶれの生産者名が列記され、しかもイタリアではGrande Annata(=グレートヴィンテージ)として名高い1997年がズラリ。

 日本市場では流通せず、国内では存在しえない貴重なボトルが目の前にありました。ここを素通りしては一生の不覚。末代まで禍根を残すことになります。条件反射のように「一杯飲ませて下さい」と口走り、残り少なくなった千円札を2枚差し出す庄イタなのでした。バルベーラ+ネッビオーロ+モンテプルチアーノ+サンジョヴェーゼ+ネレッロマスカレーゼ+カンノナウ+その他モロモロという、通常ではありえない「ちゃんぽん」に等しい組み合わせが破綻をきたさずに綺麗に熟成を重ね、しっとりとした落ち着いた表情で魅せてくれたのは、さすが稀代の醸造家ジャコモ・タキスの手腕なのでしょう。

winevin_26.jpg【Photo】太陽が少し傾き始める16時を迎えてなお、多くの参加者で盛り上がりを見せる会場。ムルソーやニュイ・サン・ジョルジュなど、ブルゴーニュの醸造所から提供されたワインが出品されたオークションの売り上げは、福島復興のための基金に寄付される。後ろ髪を引かれる思いで会場を後にした

 恐らくは一期一会となるワインとの出逢いを最後に果たしたワイン ヴァンヴィーノ フクシマ。集客目標として掲げた3,000人を結果的に3倍以上も上回る成功を収めた今回の催しにあたり、尽力された皆さんに心より敬意を表します。次回開催の折に仕事が入らなければ、必ずや駆けつけることをお誓いします。I shall return.
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2013/08/10

ビアンキスタ、面目躍如。

サン・ミケーレ・アッピアーノ醸造責任者
ハンス・テルツァー氏解説による試飲会@仙台

 時間が若干遡りますが、6月上旬、イタリア屈指の白ワインを生産する協同組合組織「San Michele Appianoサン・ミケーレ・アッピアーノ(独語表記St.Michael-Eppan)」で醸造責任者を務めるハンス・テルツァー氏が、輸入元「モンテ物産(株)」の招きで来日しました。テルツァー氏は、権威あるワイン評価本のひとつ「ガンベロ・ロッソ」が1997年度最優秀エノロゴ(醸造家)10名の1人に選んだ人物。サン・ミケーレ・アッピアーノも2000年に同誌によって最優秀カンティーナ(醸造所)に選出されています。

hans_terzer.jpg【Photo】参加者を前にサン・ミケーレ・アッピアーノのワイン造りを語るハンス・テルツァー氏

 とりわけ世評の高い「Sanct Valentinサンクト・ヴァレンティン」シリーズのピノ・グリージョやソーヴィニヨン・ブランといった数々の傑作ヴィーノ・ビアンコ(白ワイン)を生み出すテルツァー氏は「Bianchista ビアンキスタ」の異名を持ちます。ワイン造りにおける氏のモットーは"La qualità non conosce compromessi(=品質のためには妥協しない)"。土壌や畑の向きに適したブドウ栽培の戸別指導も行う屈指のビアンキスタ自身の解説による試飲会は千載一遇。プラハをイメージした中欧の薫り漂う「ホテルモントレー仙台」での業務店向け試飲会を主催したモンテ物産仙台支店の小嶋啓介支店長にお誘い頂き、勇んで参加しました。

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 アルプスを挟んでオーストリアと国境を接する特別自治州トレンティーノ=アルト・アディジェが、フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州と並ぶイタリアきっての優れた白ワイン産地であることを、イタリアワインラヴァーであれば知らぬ人はいないでしょう。サンジョヴェーゼとネッビオーロを双璧とする赤ワインは良く知られるイタリアですが、およそ20種のブドウ品種が栽培されるこの地では、赤と白の生産比率は1対2と白ワインが主力。

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 ライチ・ピーチ・ローズ・キンモクセイ・蜂蜜などの特徴的な芳香を備えた「ゲヴェルツトラミネール」は、作付面積が広いフランス・アルザス原産と思われがち。なれど「トラミネール・アロマティコ」の品種名で呼ばれ、素晴らしいヴィーノ・ビアンコを生むれっきとしたアルト・アディジェ原産のブドウです。ご存知でしたか?

【Photo】オーストリアと国境を接するアルト・アディジェでは、耳に届く言葉は多くがドイツ語。一部東部地域で話されるラディン語を例外として、この特別自治州の公用語はイタリア語とドイツ語。上地図クリックで拡大 対して州都Trentoトレント(人口11.5万)を擁する南部トレント自治県は、伝統的にイタリア語文化圏に属する。ブドウ畑の間に延びる道沿いに立つ標識は、ドイツ語のWeinstraßeが上、strada del vinoというイタリア語は下に併記される(下写真)

weinstrase.jpg 州北部のボルツァーノ自治県は、第一次世界大戦の終結までオーストリア・ハンガリー帝国に帰属していたため、イタリア語は通じるものの、住民の2/3はドイツ語を日常的に話す土地柄。県都Bolzanoボルツァーノ(人口10万・独語名:Bozenボーツェン)市民の表情からもラテン系とは異なるオーストリアの雰囲気を感じます。

 ドイツ語でSüdtirol、イタリア語ではAlto Adigeと呼ばれるこの地方。イタリアらしからぬ壁絵で装飾された建物や、白壁と木組みのドイツ風の家もちらほら。イタリアでは例外的に路上にゴミが見当たらず、街中の落書きも比較的少なめ。カフェのメニューにはザッハトルテ。仮に目隠しをされて連れて来られたなら、ドイツ人ほどはいかつくない道行く人々が交わす言葉から、多くの人がそこをオーストリアと勘違いするかも。

bolzano_platz.jpg【Photo】ボルツァーノ市庁舎前広場。絵描きや染色屋などの姿を描いた壁絵や南ドイツ風の装飾がある建物が軒を連ねる

 国内最大規模のクリスマス市が、11月下旬から駅にほど近いPiazza Walther(ヴァルター広場。独語名:Waltherplatz)で開催されます。広場の中心には12世紀末に活躍したドイツの詩人ヴァルテル・フォン・デア・フォーゲルヴァイデ像があります。ムッソリーニ率いるファシスト党政権下には町外れに追いやられる憂き目を見たこのネオロマネスク様式の台座に立つ石像だけでなく、広場の名前にも歴史の変遷が刻まれています。

bolzanoDuomo.jpg【Photo】ヴァルター広場に立つヴァルテル・フォン・デア・フォーゲルヴァイデ像。屋根のダイヤ柄の文様にウイーンのシュテファン寺院との共通点を見るゴシック様式のドゥオーモ。高さ65mの尖塔はボルツァーノのランドマーク

 1808年に広場の造営を命じた初代バイエルン王マクシミリアンは自身の名を冠し「マクシミリアン・プラッツ」としますが、オーストリア帝国ヨハン大公にちなんだヨハネス・プラッツに変更されます。20世紀初頭に現在と同じヴァルテル・フォン・デア・フォーゲルヴァイデ・プラッツと変わるも、イタリア併合後にヴィットーリオ・エマヌエーレ3世広場に変わり、再び現在の偉大な詩人の名に落ち着きます。こうした紆余曲折にも、この街が歩んだ複雑な歴史が見て取れます。

 周囲を山に囲まれた海抜260mの盆地に町が開けたボルツァーノは、年間300日以上は乾燥した好天に恵まれます。3000m級の岩山が連なるドロミテアルプスが、北からの冷気の侵入を遮るため、真夏の日盛りはイタリアで最も暑いといわれる盆地のフィレンツェと双璧をなす酷暑に見舞われることも。対して夜間はドロミテ山塊から吹き下ろす冷気によって生じる寒暖差で、ブドウに理想的なアロマが生じるのです。

Alpe di Siusi.jpg【Photo】欧州最大の牧草地が標高1700m~2200mの高地に息をのむような大パノラマを描いてみせる「Alpe di Siusiアルペ・ディ・シウジ」の絶景。ボルツァーノからオーストリア国境のブレンナー峠を結ぶ独語の「Autobahnアウトバーン」と伊語「Autostradaアウトストラーダ」が併記される高速A22とケーブルカーを使えば余裕で日帰り可能。緑のじゅうたんの彼方は標高3181mの「Sassolungoサッソ・ルンゴ」と右手に「Sassopiattoサッソ・ピアット」(2955m)

 州全体の85%が急峻な岩肌の山岳や森林・牧草地で、海抜200m~1000mのブドウ栽培に適した土地には限りがあります。そのためブドウ栽培農家1軒あたりの耕作面積は大きくありません。ゆえにアルト・アディジェでは多額の投資が必要となる自前の醸造設備を生産者自身が持つことなく、伝統的に組合組織が発達しました。

Cantina S. Michele Appiano.jpg【Photo】ボルツァーノ市街からAppiano sulla Strada del Vino(=アッピアーノ・ワイン街道)の別名で呼ばれるSS42(国道42号線)を南西方向に進み、アディジェ川を越えてAppiano-Eppan地区へ。独語で醸造協同組合を意味する「Kellerei Genossenschaft(ケラーライ・ゲノッセンシャフト)St.Michael」と壁面に浮彫文字があるサン・ミケーレ・アッピアーノ。イタリア語の名を頼りに醸造所を探しても、通り過ぎてしまうかもしれない

 ボルツァーノ周辺のブドウ生産農家350軒が組合員として加盟する1907年設立のサン・ミケーレ・アッピアーノのほか、歴史あるゲヴェルツトラミネールの原産地、Termenoテルメーノ(独語名:Traminトラミン)で1898年に創業し、現在は290の生産者がいる組合組織「Cantina Termenoカンティーナ・テルメーノ(独語名:Kellerei Traminケラーライ・トラミン)」、200のブドウ農家が加盟する1908年創業の「Cantina Bolzanoカンティーナ・ボルツァーノ(独語名Kellerei-Bozenケラーライ・ボーゼン)」、など、州全体で生産されるワインは75%が協同組合によるものです。

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【Photo】講習会でのフリー試飲コーナーに並んだサンクト・ヴァレンティン・シリーズより。(左から順に)「ゲヴェルツトラミネール2011」、「ピノ・ビアンコ2009」、18℃にキープしたステンレスタンクでの14~21日間の発酵によって澱となった酵母を除去せず、そのままタンクで6~8ヵ月静置するシュール・リー熟成を行う「ソーヴィニヨン・ブラン2011」。素晴らしい天候に恵まれたと醸造家が太鼓判を押した最新2012年ヴィンテージから、総量の12%を大きさの異なる大小のオーク樽熟成を採用。とはいえ、カリフォルニアのようなあざとい樽香は感じず、ラベルデザインの変更とともに、これまでの繊細なクリーンさに複雑味が加わった印象の「ソーヴィニヨン・ブラン2012」

 全生産量の7割が白ワインというサン・ミケーレ・アッピアーノでは、古代ローマ時代まで遡るブドウ栽培の歴史を有する南チロル原産の赤品種「スキアーヴァ」が創業当時の主力でした。これはアルプス以北の冷涼な旧オーストリア領内では、赤ワイン用ブドウの栽培適地がなかったため。オーストリア・ハンガリー帝国の崩壊に伴うイタリアへ編入による世相の混乱で、第一次大戦前の4割までに激減したこの地のブドウ栽培が、徐々に持ち直すのは'50年代に入ってから。オーストリアやスイスなど近隣国向けにバルク売りされていたスキアーヴァに代表される赤ワイン用品種から白ワイン用ブドウへの植え替えが進んだ"80年代に、量から質への大転換がなされたといえます。

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【Photo】講習会試飲アイテムより。醸造所の名にちなんだSt.Michael(大天使聖ミカエル)をあしらったエチケッタにデザインを一新、定番商品化した「ラーン・ソーヴィニヨン2012」は、海抜500m近辺の冷涼な環境を好むこの品種の特徴である青草に加え、完熟によるハチミツやリンゴの風味。リリース後3~5年の熟成が可能(左)。バリック樽だけで樽熟するサンクト・ヴァレンティンとは異なり、18ヵ月の熟成期間は同じながら、樹齢の若いブドウと大樽も70%併用する「ピノ・ネーロ・リゼルヴァ2009」。ポルチーニ茸・生マッシュルームやベリー系のニュアンスも。北イタリアのピノ・ノワールらしい目の込んだベルベットのようなエレガントさが低めの適温でサーヴされたことで際立った。「6~7年の熟成で更に味わいが向上するだろう」とはテルツァー氏の弁(右)

 ボルツァーノのブドウ栽培農家に生まれ、農学校で醸造を学んだテルツァー氏がサン・ミケーレ・アッピアーノで働き始めたのが1977年のこと。350の組合員は、2~3haの畑を所有する専業農家から、わずか0.2ha程度の畑でブドウ栽培を行う兼業農家まで、その営農スタイルはさまざま。総面積が380haに及ぶ組合員の畑で収穫されたブドウのなかでも、より品質が高いブドウを高値で買い取り、組合員の意識向上につなげています。収穫時期の異なるブドウを標高や土壌ごと適地で栽培することで労力の分散をはかり、成熟を見計らいながら収穫がなされます。年産2万ヘクトリットルに上る安定感のある高品質なワインが、イタリア国内のみならず北米や日本などへも輸出されるようになったのは、低温輸送が確立した1990年以降。

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【Photo】ファーストヴィンテージの1995年がまだ熟成途上にあるように、卓越した熟成能力を備えた「サンクト・ヴァレンティン・ピノ・ネーロ2009」。ワイン単体でメディテーション・ワインとしても楽しめる複雑味のある優美なフルボディ。この出来でブルゴーニュ産のピノ・ノワールならば、倍付けの価格となるであろう参考上代4928円はご立派(左)。完熟メロン・洋梨・アップルマンゴーなどのフルーツ系とバタートーストの香り。2年目・3年目のオーク樽と各1/3の割合で使用する新樽由来のバニラ香が嫌みなく溶け込む。素晴らしい資質をグラスの中で垣間見せるのに時間を要するため、"猫の足"と形容される「サンクト・ヴァレンティン・ピノ・グリージオ2010」は、10年以上の熟成が可能(右)

 古代ギリシャ人が「Enotria Tellusエノトリア・テルス」(=ワインの大地)と賞賛したブドウ栽培に適したイタリア。その最北部ながら、豊富な日照のもとでゲルマンの勤勉さと緻密さが出逢うトレンティーノ=アルト・アディジェは、真の理想郷かもしれません。自社ブランドではベーシックラインにあたる青いエチケッタの「クラシック」は年産9,120ヘクトリットル。千円台のお手頃価格で入手可能です。1986年に登場し、サン・ミケーレ・アッピアーノの名声を不動のものとした「サンクト・ヴァレンティン」は年産3,040ヘクトリットル。国内実勢価格が三千円台から五千円ほど。1994年がファーストヴィンテージで、二千円台から三千円と両者の中間にあたる年産3,840ヘクトリットルの「セレクション」が新たに取り扱いアイテムとして加わりました。そのお披露目も兼ねたモンテ物産主催の試飲会には、東北6県すべてから料飲関係者が集結しました。

st.michael-appan_deg.jpg テルツァー氏解説のもとで試飲したアイテムは以下の赤3本白4本の合計7種。
・ メロール・シャルドネ 2012
・ ラーン・ソーヴィニョン 2012
・ ピノ・ネーロ・リゼルヴァ 2009
  (以上:セレクション・シリーズ)
・ サンクト・ヴァレンティン・ソーヴィニョン 2012
・ サンクト・ヴァレンティン・ピノ・グリージョ 2010
・ サンクト・ヴァレンティン・ピノ・ネーロ 2009
・ サンクト・ヴァレンティン・カベルネ・ソーヴィニョン 2006
  (以上:サンクト・ヴァレンティン・シリーズ)

merol_chardonnay.jpg【Photo】初お披露目となった「メロール・シャルドネ2012」。ブドウ畑全体のおよそ7%にあたる10アールの区画「Merolメロール」は海抜420mにあり、土壌は氷河由来の土砂堆積層。380haに及ぶ全区画の中でも暖かい場所ゆえ、完熟には暑さが必要なシャルドネを植えている。こうしたスケールメリットを生かした適地適作も高品質の一要因

 この他サンクト・ヴァレンティン・ゲヴェルツトラミネールなど、モンテ物産取り扱いのサン・ミケーレ・アッピアーノのラインナップほぼ全てが取り揃えられ、思い思いに試飲できました。メロール・シャルドネ2012とラーン・ソーヴィンヨン2012という初お披露目のセレクションシリーズの品質の高さを確認したことは勿論、欧州でも最高のソーヴィニョン・ブランと目されるサンクト・ヴァレンティン・ソーヴィニョンの醸造法を切り替えた2ヴィンテージを比較できたのはとりわけ幸運でした。会場で試飲し尽くしたいずれ劣らぬ試飲アイテムの中で、最も琴線に触れたのが「サンクト・ヴァレンティン・ピノ・グリージョ2010」。美辞麗句を書き連ねても形容しきれない美酒の感想は上記キャプションを参照願います。

 南チロルの清涼な環境のもと、高低差や畑の向きなど変化に富んだ地形を生かして多品種が栽培されるトレンティーノ=アルト・アディジェ。より高みを目指して切磋琢磨する生産者との信頼関係の上に成り立つサン・ミケーレ・アッピアーノのワイン造り。畑とセラーで並外れた手腕を発揮する醸造家の言葉から、風土の個性を感じさせる壮麗なヴィーノが生まれる秘訣を見た思いで講習会場を後にしました。
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【Photo】直営ワインショップ外観
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San Michele Appiano
St.Michael-Eppan

 Via Circonvallazione 17-19
 I-39057 Appiano sulla Strada del Vino
  (BZ) ITALIA
 URL: http://www.stmichael.it/en/


◆醸造所見学:月~金/ 8:00-12:30  14:30-18:30  
         土/ 8:00-12:00 (5月~10月/14:00-17:00)
◆ワインショップ:月~金/ 9:00-13:00  14:30-19:00
          土/ 9:00-13:00 (5月~10月/15:00-18:00)

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2013/03/30

Solo Nebbiolista

Solo Brunellista
Road to ネッビオーロ限定ワイン会
 
ちょっと長~いプロローグ 「ブルネッリスタの会」@弘前 続編


pizzeria_sasino2011.3.11.jpg【Photo】春分の日まで半月ほどとなった桃の節句。まだ昼の明るさが残る17時にネッビオーロ祭りが幕を開けた「Pizzeria DA SASINOピッツエリア・ダ・サスィーノ」。今年の豪雪とは対照的に積雪がないこの1枚は、2時間46分後に起きる事態を知る由もなかった2011年3月11日(金)正午すぎに撮影

 数多くのブドウ品種が存在し、複雑で覚えきれないといわれるイタリアワインを知る上で、ミラノ-ナポリ間を結ぶ高速道路「A1(アウトストラーダ・デル・ソーレ)」のごとくイタリア半島を北から南へと進む道筋で必ず出合うブドウといえば、北部山岳地域を除く全土で栽培されるヴィーノ・ビアンコ(白)用品種の「トレッビアーノ」、そしてヴィーノ・ロッソ(赤)用品種の筆頭格が「Sangioveseサンジョヴェーゼ」であることに異論を挟む余地はありません。

caroline_silvia.jpg 【Photo】アウトストラーダA1での今回の本題とは全く無関係なワンショット。こうもあけっぴろげに女性美を公道上でアピールする文化は、残念ながら日本には存在しない。スイス人モデルCaroline Salviaを起用したイタリアの女性下着ブランドRobertaを展開するPompea社のトラック。♫ いつまでもどこまでも~追尾して走っていたかったが、後ろ髪を引かれつつ抜き去った(笑)

Fonterutoli   Mazzei.png サンジョヴェーゼは、北部アルプス地域とシチリアを除き、ほぼイタリア全土で栽培される品種。アルプス以北の未開の地にブドウ栽培を広めた古代ローマ時代はおろか、紀元前8世紀~3世紀にイタリア半島中部で高度な文明を花開かせた先住民族、エトルリア人の時代まで遡る気の遠くなるような栽培の歴史において、環境に順応したクローン(亜種)が多数存在します。

【Photo】シエナ近郊のCastellina in Chiantiカスッテリーナ・イン・キアンティ南端にある醸造所「カステッロ・ディ・フォンテルートリ」。1435年からマッツェイ家が所有する畑で育つ樹齢20年ほどのサンジョヴェーゼ。例年9月中旬に収穫され、高品質のキアンティ・クラシコとなる

 その持てる美質が最も発揮されるのが、イタリア半島中部トスカーナ州。イタリアワイン法で最上位となるDOCGだけでも、北から順に「Carminagnoカルミニャーノ」、「Chianiキアンティ」、「Chianti Classicoキアンティ・クラシコ」、「Vino Nibile di Montepuicianoヴィーノ・ノビーレ・ディ・モンテプルチアーノ」、「Brunello di Montalcinoブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」、「Morellino di Scansanoモレッリーノ・ディ・スカンサーノ」と、産地により特徴があり、醸造法により若飲みから長期熟成に耐えるものまでタイプは千差万別。

castello@barolo.jpg【Photo】手入れが行き届いたブドウ畑が色づく秋。なだらかな丘がどこまでも続くピエモンテ州ランゲ地方の典型的な風景。ブドウ畑に囲まれたバローロ村のランドマークであるファレッティ城(中央)は、膨大な数のBaroloを取り扱い、試飲と購入が可能な州立の「Enoteca Regionale del Baroloエノテカ・レジョナーレ・デル・バローロ」が設けられている(上写真)
晩秋のランゲ。アルプスから降りてくる北方の寒気と南のリビエラ海岸から入ってくる海洋性の暖気が、ランゲ丘陵一帯で出合うことにより、秋から冬にかけて視界を遮るほどの濃い霧がしばしば発生する(下写真)

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 一方、冷涼な北イタリア・ピエモンテ州南部のLangheランゲ丘陵で、旧来から名高い2つのDOCGである「Baroloバローロ」、「Barbarescoバルバレスコ」を産出するブドウ品種が「Nebbioloネッビオーロ」。例年ブドウ畑が濃いNebbia(霧)に包まれる10月中旬から収穫が始まり、白い粉をふいたような蝋質に覆われた果皮の色合いが似ていることからこの名が付いたとされるネッビオーロの誉れ高き名声は、サンジョヴェーゼに全く引けはとりません。サンジョヴェーゼとの最大の違いは作付け環境に対する適応性の低さ。原産地のトスカーナのみならず、ほぼ全土で栽培されるサンジョヴェーゼとは対照的に、ネッビオーロは栽培地域がごく限られます。

nebbiolo_vendemia.jpg 【Photo】ポー川の支流としてピエモンテ州を流れるターナロ川の北側に位置するロエロ地区のブドウ畑で収穫を間近に控えたネッビオーロ

 ネッビオーロはピエモンテ州南東部ランゲ丘陵のBaroloとBarbarescoを頂点に、バルバレスコの北に位置するロエロ丘陵では、2005年DOCGに昇格した「Roeroロエロ」を産出。ピエモンテ州北部では「Spannaスパンナ」の別称で、2つのDOCG「Gattinaraガッティナーラ」と「Gemmeゲンメ」を産します。スイス・フランス国境と接するイタリアで最小の自治州ヴァッレ・ダオスタでは、「Picotenerピコテネル」ないしは「Picotendreピコテンドレ」と呼称が変化。

 同様にロンバルディア州最北部のヴァルテリーナ渓谷では「Chiavennascaキアヴェンナスカ」と名が変わり、2つのDOCG「Valtellina Superioreヴァルテリーナ・スーペリオーレ」「Sforzato di Valtellinaスフォルツァート・ディ・ヴァルテリーナ」を産出。意外なところでは1861年に統一なったイタリア王国初代国王の座に就いたヴィットリオ・エマヌエレ2世の出身地、サルデーニャ島北部の標高500m前後の冷涼な地域でも、ピエモンテから移植されたネッビオーロからヴィーノが造られます。

【Photo】味わい尽くした垂涎のネッビオーロ。収穫後45年以上を経た`67ヴィンテージのバローロ・リゼルヴァ、'70年代までは地元消費に支えられていたイタリアワインを一躍世界の檜舞台へと押し上げた功労者、GAJAのフラッグシップとなるバレバレスコおよびバローロの雄アルド・コンテルノのリゼルヴァ・グランブッシアは、それぞれ超優良年`90と良作年`00ヴィンテージ。海外需要が見込めない状況に陥った1980年頃、時代の潮流に沿った醸造法を取り入れることで、バローロ復権に大きな役割を果たした「バローロ・ボーイズ」の飲み頃クリュもの、地元ピエモンテでは誰しもが頂点に立つバローロと畏敬の念を抱くジャコモ・コンテルノのバローロ・リゼルヴァ・モンフォルティーノ'95など、マニアにとっては落涙ものの壮観なネッビオーロが揃った(下)
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 ネッビオリスタの会に集ったのは、ピエモンテ州からは極め付きのバローロとバルバレスコ、ランゲ東部のDOC「Monferratoモンフェラート」、ランゲ丘陵域からタナロ川を挟んで北側のロエロ丘陵までの広いエリアを包含するDOC「Langheランゲ」、アルプスが間近かに迫る州北部のDOCG「Ghemmeゲンメ」。そしてバローロにアンデス山地原産の常緑樹キナの樹皮成分キニーネやハーブ類を加え、極甘口に仕上げるデザートワイン「Barolo Chinatoバローロ・キナート」。

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【Photo】笹森シェフが一斉にコルクを抜栓。豪華なラインナップが揃ったネッビオーロフェスタ@弘前は幕を開けた(右)

 変化球として庄イタが持参した隣州ロンバルディア北部ヴァルテリーナ渓谷のDOCG「Sfursat di Valtellina スフルサート・ディ・ヴァルテリーナ」、そしてさらに意表を突いた津軽産ネッビーオーロの「Sasino Nebbioloサスィーノ・ネッビオーロ」。栽培環境をより好みする気難しいこの高貴なブドウ品種の栽培に笹森シェフが挑戦。カリフォルニアや南アフリカでは全く姿を変えてしまうネッビオーロの意外な可能性をうかがわせる一品です。

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【Photo】乾杯の1杯。TAITTINGERテタンジェコント・ド・シャンパーニュ・ブラン・ド・ブラン2000」。コート・デ・ブラン地区から選りすぐりのシャルドネだけを使い、10年近い熟成を経てリリースする同社の最高級品。シードルをエレガントにしたような青リンゴのニュアンスを強く感じたのは、そこが弘前だったから?(上左) ネッビオーロのトップバッターはLe Formicheレ・フォルミシェモンフェラート・キアレット2008」。スプマンテで知られるAstiアスティから南のCanelliカネッリに向かう途中にある Costigliole d'Astiコスティリオーレ・ダスティにある造り手のDOC。一般に骨格がしっかりしたタイプが多いAlbaアルバ地域より「なで肩」の印象に仕上がる傾向のアスティらしいネッビオーロを若飲みに仕上げた気軽なロゼでまずは肩慣らし(上右)

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【Photo】Cascina Chiccoカシーナ・キッコランゲ・ネッビオーロ2010」。白トリュフの町・Albaアルバ北方のロエロ地域は、品質の向上により新たなDOCGゾーンとなった。ロエロ中心部Vezza d'Albaヴェッツァ・ダルバの畑で産するネッビオーロは、タンニンが柔らかくソフトな仕上がり(上左) Domenico Clericoドメニコ・クレリコバローロ・パヤナ2000」。伝統的な大樽熟成のバローロの多くが市場で低迷していた1970年代後半の状況を打破すべく、バリック樽の導入に代表される世界市場を意識した醸造にシフトした「バローロ・ボーイズ」の1人。バローロ地区では最も南に位置するセッラルンガ・ダルバの特徴である力強いスケール感があり、収穫後12年を経てなお若々しい色合い。プラムやダークチェリー系の果実味がぐいぐい押し寄せてくる筋肉質タイプのバローロ(上右)

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【Photo】オフヴィンテージの2本。G.D.Vajraヴァイラバローロ1991」。'90年という偉大なヴィンテージの後、まずまずの作柄となった'93を除き、'94年まで天候に見放されたピエモンテ。にもかかわらず今回登場した顔ぶれの中で敢闘賞を献上したい1本。寒暖の差が大きい海抜400~480mのバローロ村で最も標高が高いVergneヴェルニェ地区の畑。2500~5000ℓ容量のスラヴォニアンオーク樽で42~48カ月熟成し瓶詰め。バリック由来の余計なバニラ香がなく綺麗に熟成した薫り高い伝統的なバローロの素晴らしいエレガンス!!(上左) Roberto Voerzioロベルト・ヴォエルツィオバローロ・チェレクイオ1994」。バローロ地区屈指の完璧を期する几帳面な仕事をする造り手の1人。1本の樹に5房程度を残し摘果する低収量が特徴。よって高価。収穫期に雨が降られたこの年は選果をより厳しくしたとみえて、薄っぺらな印象は皆無。しっとり透明感のある酸味を主調に多様なニュアンスが溶け込んだ液体は、熟成を重ねレンガ色に変化しつつあった(上右)

 「酔って味覚が麻痺する前に飲みましょう」と次に試飲したのが、'90年代前半を代表するグレートヴィンテージ1990年と、米国のワイン評価誌Wine Spectatorが早々に100点のヴィンテージ評価を献上するも、夏の酷暑で品質にばらつきが出た2000年のヴィンテージ違いの同じワイン。作り手は「Gajaガイヤ」と「Aldo Conternoアルド・コンテルノ」。いずれもバルバレスコとバローロを代表する醸造所です。昨年ブルネッリスタの会でソルデーラのブルネッロを提供して下さったオステリア・エノテカ・ダ・サスィーノの常連である村上さんのコレクション。Grazie milleeeeeeeeeeee!!!!

gaja_docg90e00.jpg【Photo】バルバレスコ頂上比較。GAJAガイヤバルバレスコ1990・2000」。黒地に白抜きでGAJAの4文字。名高いこの造り手がワインに注ぐ手間と情熱は比類を見ない。コルクひとつをとっても、最高の品質を求めサルデーニャ産の樫材を使用。材料段階と納品後にブショネ (=コルク臭)の原因となる化合物トリクロロアニゾールの排除や湿度管理などを徹底。ボルドー1級シャトーよりも長い6cmのコルクは、オーダーメードした専用機で充填する。ネッビオリスタの会では、貴重な1990年と10年の時をおいた2000年を比較試飲。'00ヴィンテージ(左)と比べて'90ヴィンテージ(右)はグラスのエッジが明るいレンガ色で時間の経過が見て取れる。偉大な年に偉大な造り手が手掛けた完成度の高いシルクのように優美なバルバレスコのエレガンスに魅了された
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 すでに父ジョバンニの代に地元で一目置かれる存在だった醸造所を4代目の現当主アンジェロ・ガイヤが手伝うようになって8年目の1969年、イタリアでいち早く225ℓ容量のバリック樽を導入。ピエモンテの伝統である大樽との併用は現在も。父祖伝来のバルバレスコの名声を高めるため、市場で高値を呼ぶ畑指定のクリュもの5種を1996年から少量(5%程度)のバルベーラをブレンドし、軒並みDOC「Langhe Nebbiolo」へと変更した結果、唯一のDOCGとなったのが、旗艦としてのバルバレスコ。いささかのほころびすらない'90ヴィンテージの完成度は素晴らしく、さまざまな要素がフルオーケストラのように重なり合い、見事な調和を魅せます。熟成を重ねた今も全く衰えを知らない生き生きとした果実味があり、また10年後にも味わってみたいと思わせ、庄イタ的にはこの夜のNo.1。

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【Photo】クラシック・バローロ頂上比較。Poderi Aldo Conternoアルド・コンテルノバローロ・リゼルヴァ・グランブッシア1990・2000」。誰もが最高のバローロと賞賛する名門「ジャコモ・コンテルノ」の次男、アルド・コンテルノが、しっかりとした骨格をもつ芯の強いタンニンを伴ったネッビオーロとなるMonforte d'Albaモンフォルテ・ダルバで1969年に立ちあげた醸造所。ネッビオーロの個性を失うとしてバリックを嫌い、伝統的な造りを追求した極みが、作柄の良い年のみ造られるこのバローロ・リゼルヴァ・グランブッシア。樹齢50~55年のロミラスコはじめ、チカーラ、コロンネッロの3つのクリュをステンレスタンクで3~5カ月をかけて果皮を果汁に接触させる浸漬(マセレーション)後ブレンド。スラヴォニアン・オークの大樽で36カ月熟成後に瓶詰めし、都合7年をかけて8,000本ほどがリリースされる逸品。粘性の高い偉大な'90ヴィンテージ(上左)は、流通経路での保管に問題があったようで、残念ながら痩せ衰えていた。エチケッタのデザインが変わった'00ヴィンテージ(上右)は、抜栓後1時間ほど経過していたこともあり、非凡なネッビオーロの美質をわずかに垣間見せるが、持てるポテンシャルの全貌を明らかにするには更なる時間を要する未完の大器

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【Photo】Cantine Santa Rita サンタ・リータバローロ・リゼルヴァ1967」。今は存在しない造り手による46年を経たネッビオーロ。古酒ならではの鰹節や落ち葉のニュアンスなど"枯れた魅力"が味わえるクラシックな造り。円熟の極みを過ぎ、時の経過に伴って放物線を描く熟成のピークから下降線に入りかけた印象。'67ヴィンテージは、'60年代では傑出した'61に次ぐ'64と同様の良い年(上左)
Giovanni Accomasso e Figlio ジョヴァンニ・アッコマッソバローロ・ヴィネート・ロッケッテ2005」。直売以外にピエモンテで唯一入手可能なラ・モッラ村直営のエノテカ、Cantina Comunale di La Morra代表を長年務め、今年79歳になるロレンツォ・アッコマッソが、3haの優良畑Rocche dell'Annunziataロッケ・デル・アンヌィツィアータのネッビオーロから3種のバローロ「le mie vigne」「Rocche」「Rocchette」を造る。20~25ユーロという手頃な直売価格が信じられぬほど高品質かつエレガント。マセレーションでの抽出に2カ月近くをかけ、法定熟成期間の3年を越えじっくりと大樽熟成を行う。モダンな造りの生産者よりも市場に出回るのが1年遅い。事務一切を行う2歳上の姉エレーナと二人だけで運営される(上右)

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【Photo】多様なネッビオーロ4本。Cantalupoカンタルーポゲンメ・コッリス・ブレクレマエ2000」 名峰モンテ・ローザ(4,634m)の氷河帯が源流域となり、ピエモンテ北部を流れ、ポー川に合流するセージア川。緑豊かな渓谷域から沖積地層となる中流域は、紀元前7世紀にはブドウ栽培が行われていた。ブレクレマは中世の戦略上の要衝であった村の名前。DOCG「Ghemmeゲンメ」はスパンナ(=ネッビオーロ)以外の品種を25%まで混醸が認められるが、スパンナ100%で醸されるこのヴィーノは15年の熟成が見込める。ネッビオーロ共通の高貴さがあり、キメ細やかなタンニンと長い余韻が心地よい(左上)
Nino Negriニーノ・ネグリスフルサート・ディ・ヴァルテリーナ・チンクエステッレ2002」。さらに北東へ移り、ロンバルディア州最北域ソンドリオ県ヴァルテリーナ渓谷の北風を遮る南向き斜面に拓かれた海抜450m近辺の3つの区画でキアヴェンナスカ(=ネッビオーロ)が育てられている。悪名高き天候不順の2002年ヴィンテージだが、ヴァルテリーナでは健全なブドウが生育し、収穫後に100日間陰干しした最良のブドウから、四半世紀以上に渡って品質の向上が見込める最高の作柄。レーズン・エスプレッソ・チョコレートなどの複雑な香り(左下)

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【Photo】伝統的な造りを貫くGiacomo Conternoジャコモ・コンテルノバローロ・カッシーナ・フランチャ1999」(上段右上)、「バローロ・モンフォルティーノ・リゼルヴァ1995」(下段右下)。誰もが最も偉大なバローロだと口を揃え、畏敬の念を抱く造り手。鉄分の多い土壌から至高のバローロを産出するネッビオーロの聖地、セッラルンガ・ダルバに所有する畑で収穫される最良のネッビオーロを使用。ともに茶色が主調の枯れた色合い。モンフォルティーノは伝統的な熟成バローロの奥底に筋が通った強靭でクリーンな酸があり、通奏低音のように次々と複雑な旨味を呼び起こす

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【Photo】Fattoria Da Sasino ファットリア・ダ・サスィーノサスィーノ・ネッビオーロ2011」。美酒の数々にご満悦の笹森シェフ(写真奥)が、岩木山麓で着手したブドウ栽培&ワイン醸造。栽培環境によって変容しやすいネッビオーロが、冷涼な津軽の風土のもとで、品種の個性をきちんと感じさせる仕上がり。樹齢が上がれば更に向上するはず。火山性土壌の岩木山は日本のランゲ丘陵かっ!!???(左上) Luciano Sandroneルチアーノ・サンドローネバローロ・カンヌビ・ボスキス1998」。あれよあれよと17本を空けた上でも、まだ飲み足りない一部メンバーの求めに応じ、予備のストックから更にもう1本。バローロ・ボーイズを代表するこの造り手のラインナップで最も評価が高いカンヌビ・ボスキス。しかも1998年は素晴らしい仕上がりとなった期待のヴィンテージだけに、溌剌としてまだまだ若々しい。嬉々として抜栓する弘前のレストラン「Point Rougeポワンルージュ」オーナーシェフ猪股誠治さん(右上)

tutti_nebbiolista2.jpg 【Photo】バルバレスコに醸造所を構え、樹齢の高いネッビオーロから非常に長命な素晴らしいバルバレスコとバローロを造るRoagnaロアーニャ渾身のデザートワイン「バローロ・キナートN.V.」も制覇。あまりの美味さと酔いで不覚にも画像を押さえるのを失念m(_ _)m。この1枚を撮影した猪股シェフを含め、一堂に会したネッビオリスタが深遠なるネッビオーロの世界を堪能した。このまま勢い余って全員で二次会に繰り出し、弘前の夜は更けてゆくのだった

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2013/03/17

Solo Brunellista

Road to ネッビオーロ限定ワイン会
 ちょっと長~いプロローグ
「ブルネッリスタの会」@弘前

nebbiorista_1.jpg【Photo】晴天の泉ICから大鰐弘前ICを目指し、東北自動車道を一路北へ。安代JCTから秋田県に入る頃から、路肩の積雪が次第にふえてゆき、青森県境では雪がちらつき始め・・・

 今月初旬、弘前市某所でバローロやバルバレスコに使われるブドウ品種「ネッビオーロ」だけを飲み比べするネッビオリスタの会が開催されました。八甲田山麓の酸ケ湯温泉で日本最深積雪記録となる566cmを観測するなど、豪雪に見舞われた今年の青森。開催日直前で1m30cmという尋常ならざる弘前の積雪量に怖気づき、参加を見送ろうとしたものの、垂涎の試飲ラインナップを知り、あっさり翻意したことをまずは告白せねばなりません(笑)。
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【Photo】ネッビオリスタの会が催されたピッツェリア・ダ・サスィーノ

 忘れもしない震災当日の2011年3月11日(金)、前日から出張で訪れていた青森市から弘前に移動。昼にマルゲリータを食べて以来となる「Pizzeria DA SASINOピッツェリア・ダ・サスィーノ」が今回の試飲会会場でした。

 「食料自給率100%のレストラン」こと弘前の「Osteria Enoteca Da Sasino オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ」オーナーシェフの笹森通彰(みちあき)さんが主催するワイン会に参加するのは今回が2回目。前回は昨年7月に同店で行われたトスカーナで最も高値で取引されるDOCG「Brunello di Montalchinoブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」でも孤高の存在で、入手困難な生産者「Case Basseカーゼ・バッセ」をヴィンテージ違いで垂直試飲するという空前絶後の企画でした。

degstazione_soldera1.jpg ダ・サスィーノのセラーと、店の常連客である村上氏ご提供によるBrunellistaブルネッリスタの会での試飲アイテムは以下の通り。オーナーのジャンフランコ・ソルデーラが、5年のスラヴォニアンオークの大樽熟成と9~12カ月の瓶熟を経てリリースする「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ・リゼルヴァ'96・'01・'03・'04・'05」、1年だけ樽熟期間が短い「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ`99」に加え、この造り手によるVDT「Intistietiインティスティエティ`91」とIGT「Pegasosペガソス'05」の計8アイテム。ブルネッロ以外の2本は、早く飲み頃を迎えたと判断した大樽をDOCGブルネッロではなく、VDTないしはIGTカテゴリーのテーブルワインとしてリリースしたものです。

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【Photo】グラスに注いでしばらくは可憐な香りを放つも、30分を過ぎる頃から次第に酸化が進み、1時間後には儚く散ったVDTインティスティエティ`91。熟成途上の試飲で、若飲みと判断されたこの年のカーゼ・バッセの畑2haからは、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノが生産されなかった。(左上) 素晴らしいブーケが口蓋から鼻腔へと広がり、血筋の良さを感じさせ、親しみやすいスタイルに仕上がったソルデーラ・リゼルヴァ'01。(右上) 夏の低温がブドウの作柄に影響した`05ヴィンテージは、通常より早い32カ月を経た時点で熟成が進んだ樽を瓶詰めした。インティスティエティ同様のコンセプトで造られたこのワインはIGTトスカーナ・ロッソ「ペガソス」としてリリースされたが、5年の大樽熟成を経たリゼルヴァ`05も後に発売された(左下) 素晴らしい天候に恵まれた`99ヴィンテージ。4.5haの単独畑インティスティエティのブドウはリゼルヴァに、熟成期間が1年短い通常のブルネッロとしてリリースされたのが、カーゼ・バッセ区画のブドウ。強靭さと偉大なスケール感を備えた素晴らしい味わいと長い長い余韻。庄イタ的には、この日のNo.1(右下)
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 10名の多彩な顔ぶれが揃っての乾杯は、村上氏がお好きなシャンパーニュの作り手「ドメーヌ・ユリス・コラン」の「ブラン・ド・ノワール・エキストラ・ブリュット」。いわゆる自然派には興味薄な庄イタでも、その名は知っているシャンパーニュの作り手、ジャック・セロスの薫陶を受けたというビオディナミ製法を取り入れた新星が、父から受け継いだ樹齢40年のピノ・ノワールだけで仕込んだ1本です。

IMG_8503.jpg 優しい泡立ちと繊細な果実味はさすがの仕上がりでしたが、我が関心はすでに抜栓してある黒いエチケッタにローマのトリトーネの泉のようなバロック様式の噴水などでよく目にするイルカが描かれたレアものブルネッロへと移行していました。モンタルチーノの頂点に君臨する造り手をヴィンテージ違いで8種類も試飲する贅沢極まりない饗宴の締めくくりには、庄イタが持ち込んだ至高のトスカーナ産デザートワイン「ヴィン・サンジュスト'96」で参加メンバーに昇天してもらおうというシナリオを描いていました。

【Photo】ヴィンテージ違いのソルデーラが並ぶテーブルは壮観の一言に尽きる

 毎年変わる美女が楽しみな「Le Pergole Torte ペルゴーレ・トルテ」にも共通するサンジョヴェーゼのエレガンスを引き出す天才醸造家ジュリオ・ガンベッリとの共同作業で、並外れた嗅覚を持つジャンフランコ・ソルデーラが造り出す官能的なまでに芳しいブルネッロ。小鳥やミツバチが飛び交う畑で、化学肥料や除草剤といった人為的アプローチを排して育てたブドウ「サンジョヴェーゼ・グロッソ」は厳しく選別されます。

bicchieri_soldera.jpg 更なる高みを目指して今回は供出を見送ったセラーで眠る世紀のヴィンテージ、リゼルヴァ1997年や、優良年の'99・'01・'04は勿論、1994年のように天候にそれほど恵まれた年でなくとも、ソルデーラは素晴らしく香るブルネッロを生み出します。これは剪定や摘果などの丹念な畑仕事と、厳しいブドウの選別の結果です。

【Photo】ほとんどの醸造所がブドウの一次発酵で使用する温度管理が容易なステンレスタンクではなく、ソルデーラでは天然酵母と昔ながらの木製の発酵槽で発酵後、7,500ℓと15,000ℓ容量の大樽をもって、40年~50年は輝かしい命脈を保つとオーナーが豪語する伝説のブルネッロが生まれる。いつもながら見事な仕上がりの自家製フォルマッジョ・プロシュット盛り合わせや、ペガソスつながりの馬のビステッカとこの日試飲した(上写真右から順に)'04・'99・'96・'03ヴィンテージのブルネッロ。 綺麗な酸味を主調に調和がとれ、峻厳な一面もある`99ヴィンテージとスタイルは違えど、5年若い優良ヴィンテージ`04はよりソフトな印象(下写真)

degstazione_soldera04.jpg サンジョヴェーゼから誰よりも優美に香るヴィーノを作り出した稀代の醸造家、ジュリオ・ガンベッリが86歳で亡くなったのが昨年1月3日。同年12月2日には、9月に解雇されたことを逆恨みした元従業員が、夜陰に紛れて醸造所へと忍び込み、大樽で熟成中の`07~`12ヴィンテージ626hℓ分すべてを開栓して廃棄する蛮行に及んだ前代未聞の事件が発生しました。瓶熟中だった優良年'06ヴィンテージ以前は無事だったものの、ソルデーラはリリース時点でも2万円前後で流通していた高級品ゆえ、推定被害総額は600~700万ユーロ(6億6,400万~7億7,500万円)。これは文化的損失にほかならず、文字通り"覆水盆に返らず"な出来事でありました。

 ブドウのピュアな甘さを純粋培養し濃縮させた蜜のごときヴィン・サンジュスト'96で夢見心地へと誘われたところでブルネッリスタの会がお開きになり、二次会へと移動するまでの間、笹森シェフとともに殿(しんがり)を買って出た数名の呑み助により、4本のディジェスティーヴォ(=食後酒)が空きました。

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 何でも自作してしまう笹森シェフが満を持してワイン造りに着手、イタリア原産のブドウ数種を岩木山麓で育てています。まだ着色が思うに任せないというサンジョヴェーゼをロゼとして瓶詰めしたチャーミングな「Sasino Rosatoサスィーノ・ロザート`11」、長野の小布施ワイナリーが少量造る純米吟醸原酒「Sogga Nagano Nostalgie ソッガ・ナガノ・ノスタルジー'11」、シチリアの優良生産者「テヌータ・レガレアリ」がシャルドネ100%で作るIGT「Chardonnayシャルドネ'09」、そして地中海に面したトスカーナ州ピオンビーノの造り手、「ポデーレ・サン・ルイージ」がカベルネとカベルネフランを混醸したボルドーブレンドのIGT「Fidensioフィデンシオ'00」のまだ若々しい印象だったお味は、残念ながらうろ覚えですm(_ _)m

 こうしてモンタルチーノの至宝を極めたブルネッリスタの会に続き、12名が集った今回のネッビオリスタの会でも、ピエモンテを代表するブドウ品種ネッビオーロの多彩なラインナップが用意されました。それもイタリアワイン好きなら、泣いて喜ぶ造り手の飲み頃アイテムが顔を揃えていたのです。

その全容は次回ご紹介の「Solo Nebbiolistaソロ・ネッビオリスタ」にて!!

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Azienda Agricola Case Basse di Giancarlo Soldera
醸造所への訪問は事前予約のみで可能
(ジャンフランコは偏屈で知られる人物ゆえ時間の余裕をもって行くべし)
Localita' S. Restituta, Montalcino, Si 53024 Italia
Phone: +39 0577 848567
Mobile Ph: +39 335 7727315
Fax: +39 0577 846135
E-mail: gianfranco.soldera@casebasse.it
URL:http://www.soldera.it/


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2012/11/18

どうせなら真っ当な新酒を

ボージョレ・ソードー掃討作戦2012
淡麗水口ボージョレよりも芳醇旨口の新酒はいかが

 今年もボージョレ・ソードー(⇒騒動)の季節がやって参りました。やれ"100年に一度の出来"だ、やれ"今年も最高の当たり年"だのと毎年喧伝されることから、「地球上で唯一オフヴィンテージが存在しない奇跡のブドウ産地・ボージョレ」と褒め殺しに打って出たのが昨年秋。すべからく世界中を見たわけではありませんが、ニッポンのボージョレ・ヌーボー商戦ほど不自然で異様なものはありません。

primeur_2012.jpg【Photo】さまざまな取引先から回ってくる購入案内にお付き合いで購入したボージョレ・ヌーボーが、ボージョレ・ソードー掃討作戦中の庄イタのデスク上を除いてオフィスに並ぶニッポンの11月第3木曜日。この極めて日本的なお付き合いシステムは、してやったりの産出国フランスよりも多くのボージョレ・ヌーボーを購入している日本の突出ぶりを下支えしている

 たとえば楽天市場のボージョレ・ヌーボー特設サイトLink to Websiteで引用されている「奇跡の雫」なる誇大表現ひとつをとっても、「こりゃ閻魔様に舌を抜かれるぞ」と呆れるような売り文句が並びます。天候いかんにかかわらずグレートヴィンテージを吹聴する酒販業界の動きに俄然闘志をかき立てられる庄イタ。オバマvs ロムニーの米国大統領選で繰り広げられたネガティブキャンペーンほど大仕掛けではないものの、ボージョレ・ソードー掃討作戦を本年も決行します。よろしければご一緒に・・・。Boooo...q(`ε´q)

beaujolais2012.jpg【Photo】ボージョレワイン委員会が作成したポスターが全国の酒販店・百貨店の店頭に貼り出された。こうした巧みな販促活動はフランスのお家芸

 今年の販売解禁日となった11月15日(木)午前零時、仙台市内の大手流通店舗でカウントダウンイベントが実施されました。深夜にもかかわらず約300人が集まり、もはや恒例行事と化したこの催しに参加した40代女性は「毎年買っている」と語り、50代女性は「いつでもある熟成ワインではなく、今しか飲めないフレッシュなボージョレは毎年買っている」のだそう。あくまでワインは嗜好品ゆえ、好みはさまざま。渋味と一般に表現されるタンニンが苦手な方が存在するのは理解できます。ワイン入門編で試してみるのも悪くはないでしょう。

 しかしです。庄イタが仙台駅構内を移動中、店頭でブルゴーニュの名門メゾン「Louis Jadot ルイ・ジャド」の上級ヌーボー「Beaujolais Villages Primeur 2012 ボージョレ・ヴィラージュ・プリムール2012」を試飲販売していました。興味をそそられ、一口だけ試飲してみました。「付き合いで数本購入したけど飲まない」として頂いたLouis Josephなる造り手のヴィラージュ・ヌーボー2008のお粗末さ加減でフラストレーションが溜まる急性ヌーボー中毒になったのが4年前のこと。

primeur_louis_jadot.jpg【Photo】短命なプリムール(ヌーボー)にしては珍しく、平年作ならば3年程度の保存がきくというルイ・ジャドのボージョレ・ヴィラージュ・プリムール。天候不順の今年は酸が立った痩せぎずな印象で、明らかに若飲み向きの仕上がり

 それ以来のヌーボー(=プリムール)でしたが、声望高きこの造り手にしてなお、伝え聞く"100年に1度の厳しい天候"(←どうしてもボージョレにはこうした表現がついて回るのは何故?)を反映してか、線の細さは否めません。ヌーボー特有の未熟なバナナ香とベリー系の酸味が立ち、お世辞にもバランスが良いとは言えず、味の構成の複雑さは感じられません。自然派ワイン愛好者に支持されるフィリップ・パカレのヌーボーも置いてありましたが、ともに4,000円ほどの価格。中身と価格が釣り合っているとは到底思えず、その場を立ち去りました。 

 "ワインの味がするワイン"を多くの人が知っている欧州圏では淘汰され、需要が見込めないワインの水割りのようなお味のボージョレ・ヌーボーを美辞麗句で飾りたて、燃料費高騰の中で決して安くはない空輸運賃や倉庫経費とマージンを上乗せしてワイン文化が根付いて歴史が浅い日本向けボージョレ売らんかな商法。その手に乗ってなるものかと、Viaggio al Mondo の場で「今年も当たり年?」で啓発を始めて4年。いくら皮肉を込めて「手を出すのはおやめになった方が賢明ですよ~」と書き連ねても、一時の異常なブームが去って減少傾向だった売り上げが、過去2年はゾンビのごとく漸増傾向に転じています0rz 。不偏不党を掲げるマスコミも、よせばいいのにボージョレ・ヌーボー解禁ばかりを依然としてニュースで取り上げます0rz 。

languedoc_nouveau2012.jpg【Photo】おフランスの新酒がそんなにお好きなら、こんな選択肢はいかが? 南仏の太陽を浴びたラングドック地方の生産者「Domaine La Tour Boisée ドメーヌ・ラ・トゥール・ボワゼ」が日本向けに造るヌーボー。メルロとシラーの果皮と果汁の接触時間を長くとることで、ボージョレよりも厚みのあるボディと複雑な味わいを実現。ボージョレワイン委員会が目の敵にする低価格ボージョレのようなペットボトル入りでなくても、1,000円前後の良心的な実勢価格。オーストリアの新酒「Heuriger ホイリゲ」同様、11月上旬には店頭に並ぶので、ボージョレを出し抜けるなどいいことずくめ。もっと早く新酒を楽しみたいなら10月に市場に出始めるイタリアの「Novello ノヴェッロ」を。それでも遅いという方は、春に出回る南半球の新酒を!!

 河北新報11月15日(木)付夕刊のコラム「河北抄」は、ヌーボー解禁にちなんだ内容でした。自身を律する意味で一節をご紹介すると、「今夜はフランス人にとって歴史であり、魂でもある飲み物に酔いしれる人が多いだろう」と記されています。そこが未開の地ガリアと呼ばれていた古代ローマ時代、属州となった蛮族の民にブドウ栽培とワイン醸造法を伝えた古代ローマ人のDNAを前世では受け継いでいた私ですが、蛮族の末裔であるプライド高きフランス人のため、以下の真実だけはここで確認しておきます。

 まずはInter Beaujolais(ボージョレワイン委員会)による10月12日付プレスリリースをご覧ください。

 現地の醸造家から発せられる情報では、4月になっても氷点下5度の寒波に見舞われ、深刻な霜害が発生。6月の大規模な降雹と7月末まで雨降りと低温が続いた天候不順のため、平年作の4割程度と史上稀にみるブドウの不作に見舞われた今年のボージョレ地方。そのため収量の確保が極めて困難となりましたが、昨年実績で59,901ヘクトリットル(=750mℓ換算で790万本)と、全ヌーボー輸出量の半数以上を占めるブッチギリの大得意先である日本向けに、新酒を確保せねばならない事情があります。 (備考: 輸入量第2位で3.1億人が暮らす米国が18,524hℓ=同240万本、第3位ドイツ9,901hℓ=同130万本。その一方、自国では日本向けより少ない53,563hℓが消費されるに過ぎない。人口1.2億の日本の尋常ではない突出ぶりが目につく。※データ出典:Iri Secodip 2011
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【Photo】FIFAサッカーワールドカップ2002で仙台をキャンプ地に選んだイタリアナショナルチーム滞在中、選手スタッフのためにパン作りを担当したのが、仙台市若林区のブーランジェリー「ジャンヌダルク・フィスエペール」。のちに数種類のドライフルーツを生地に入れたこの「ワインパン」(⇒食べかけでスミマセンm(_ _)mを考案する際、イメージしたのがボージョレ・ヌーボー(笑)。11月とはいえ、セラーの手持ち在庫にヌーボーなど決して存在しない庄イタが合わせたのは、ピエモンテ州の作り手「Marziano e Enrico Abbona マルツィアーノ・エ・エンリコ・アボナ」のNebbiolo d'Alba Bricco Barone 2006。料理に寄り添うイタリアワインの美質が発揮される鉄板の組み合わせ

 1980年から辻調理師専門学校フランス校が設置されたリヨン郊外の城郭「シャトー・ド・レクレール」にはSicarex Beaujolais(シカレックス・ボージョレ)というボージョレ地区のブドウ栽培を専門に研究する団体が存在します。辻調フランス校講師を兼務する同団体のベルトラン・シャトレ技術主任は、2012ヴィンテージ収穫直前の「9 月最初の10 日間は雨が降らなかった」とプレスリリースで強調、「心地よく、偉大なフィネスのあるワイン」に仕上がったと胸を張ります。果たしてそうでしょうか??

 数十年に及ぶ熟成の過程で、真に偉大なワインのみが備えるフィネス(⇒高貴さ・優美さ)を感じさせる良質なワインが生まれる産地として、フランスで思い浮かぶのが、アルザス、ローヌ、ボルドー、そして名醸地が連なるCôte-d'Orを擁するブルゴーニュ北部。そうした選択肢がある普通の味覚を持つフランス人の多くが、10年以上の熟成に耐えるクリュ・ボージョレは別にして、11月第3木曜日を心待ちにして特殊な製法で促成醸造される軽く平板な飲み口のボージョレ・ヌーボーに酔いしれるとは到底思えません。

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 井の中の蛙でボージョレ地方のブドウ品種「Gamay ガメイ」の軽いワインしか飲んだことがないのでは?と勘ぐりたくなる前出の名言(ここでは「迷」を当てた方が良い)を吐いたシャトレ氏ほか、如水(みずのごとし)な飲み口を受け入れるフランス人がそれなりに存在するんですねぇ。圏域人口が1000万人を超え、40万以上の外国人が暮らす大都市パリのみならず、美食の都リヨン(人口170万)にだって、私とは無縁のMマークのファストフードチェーンがそれぞれ15店舗ずつ存在しますし、味に敏感とされるラテン系民族でも、人の味覚は所詮さまざまですから...。

【Photo】狭隘な「ボージョレ・ヌーボー通」から、もっと豊かなワイン愛好家への扉を開くなら、たとえばこの1本1,200円(税込)で同価格帯のヌーボーより遥かに美味しい「朝日町ワイン ロゼ 中口」は最適の1本 

 モヤモヤがスッキリしたところで、庄イタにとってはネコ跨ぎアイテム以外の何物でもないヌーボー解禁日に購入したのは、過剰在庫を抱えるイタリアワインではなく、日頃はあまり親しむ機会がない国産ワイン。頻繁に物販催事が行われる仙台市役所前の勾当台市民広場で対面販売をしていたのが、1,000円台前半のリーズナブルな価格設定がされた「朝日町ワイン」。試飲した中で、最もコスパに優れると思われた「朝日町ワイン ロゼ 中口2011」(1,200円)を選びました。今年で10回目を迎えた国産ワインのコンクール「Japan Wine Competition 2012」では、この2011ヴィンテージは銅賞でしたが、3倍以上の価格差がある大手酒造会社系列ワイナリーの製品を抑えてロゼ部門最高賞を過去に4度獲得している実力派です。
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【Photo】ボージョレ・ヌーボー商戦真っただ中の11月上旬、酒田で限定発売されたばかりの酒田酒造の生詰「上喜元 翁」とどちらを開けるか迷った挙句、選んだのは同じく地元限定のレア物「〆張鶴しぼりたて生詰原酒」

 運んだばかりで味がまだ荒れているはずの朝日町ワインは少し落ち着かせてから開けるとして、完全スルーのヌーボー解禁日に庄イタが家飲みしたのは、意表を突いて日本酒の新酒。11月9日に蔵出しされたばかりのフレッシュな「〆張鶴しぼりたて生詰原酒」が、ボージョレ解禁で世間が浮かれる宵の相伴となりました。

 典型的な淡麗辛口酒と評される〆張鶴。仙台では一般にプレミア価格で販売されますが、地元の新潟県村上市では、最も廉価なアル添の普通酒「花」(税別1,725円/1.8ℓ)が晩酌用に愛飲されます。この地元限定酒は、村上の名物酒販店「酒道楽 工藤」で入荷当日に入手したもの。さらりとした特別本醸造「雪」や純米吟醸「純」、吟醸「特撰」などとは明らかにタイプが異なる濃厚かつ芳醇旨口な飲み口が印象的。普通酒「花」の原酒ということで加水していないため、表記アルコール度数は20%と高め。冷やまたはオンザロックがお勧めです。

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 炭素濾過もしていないといいますから、世の飲み助が憧れる搾ったばかりの「ふなぐち」に極めて近いトロリとした飲み口。米のうま味たっぷりで、メロンのような風味もあり至福の時が過ごせます。一升瓶で2,240円、四合瓶1,020円(税別)と、ペットボトル入りボージョレ・ヌーボーと同価格帯にして、はるかに飲みごたえ十分。しかもアルコール度数が高いので、すぐに気持ち良くなれる(笑)。吉野家の牛丼じゃありませんが「うまい・安い・早い」と三拍子揃っており、なんとも嬉しい限り。「早い・安くない・うまくない」某新酒の季節が巡ってきたら、日本酒度でいえば+20度以上の超辛口に味付けしてみた今回の内容を思い出して下さいね。

piccolo_pinocchio.jpg 今年のボージョレ・ヌーボーを「偉大なフィネスがあり、アロマの複雑さが見事なワインと」強弁するシカレックス・ボージョレのベルトラン・シャトレ技術主任の鼻が、嘘を重ねたピノッキオみたいにならないことを祈りつつ、庄イタは怒りの鉾を収めます。これにてボージョレ・ソードー掃討作戦2012、任務完了。

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2012/04/30

比類なきエトナ

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【Photo】噴煙を上げるエトナ山

 錦江湾に浮かぶ鹿児島のシンボル・桜島、ハワイ島のキラウエア、あるいはカムチャッカやアイスランドなど極寒の局地で灼熱の溶岩を吹く火の山。これら轟音とともに噴煙やマグマを吹き上げる活発な火山活動が見られる世界の火山の中でも、最も頻繁に噴火を繰り返す火山のひとつとされるのが、イタリア・シチリア島のエトナ山です。

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【Photo】シチリア・タオルミーナにある古代ギリシャ円形劇場は紀元前3世紀にギリシャ人によって屋外劇場として創建され、ローマ人が闘技場に改装。その最上段からの「広大渺茫(びょうぼう)たる一幅の絵」(相良守峯訳「イタリア紀行」岩波文庫より)のような眺望。トーガ姿のギリシャ人・ローマ人を端緒にして、1787年5月6日、この地を訪れ、「これほどの景色を眼前に眺めた者は外にはあるものではない」(同)と感動を記したドイツの文豪ゲーテを筆頭に、大デュマ、オスカー・ワイルド、D.H.ローレンス、ダンヌンツィオといった欧州各国の文人のほか、ブラームス、ワーグナー、マレーネ・ディートリッヒ、グレタ・ガルボら多くの文化人・著名人たちを魅了した

 日本ではポンペイを一昼夜にして火山灰で埋め尽くしたヴェズーヴィオ山(1,281m)のほうが、火山としての知名度は高いかもしれません。しかしながら、今月だけでも1日・12日に続き、23日から24日にかけて活発な噴火活動を繰り広げ、絶えず変動する標高3,300m級のエトナ山は、ヨーロッパ最高峰の活火山でもあります。

Etna@notte1995.maggio.jpg【Photo】1995年8月の深夜、静寂を切り裂く轟音とともに漆黒の闇を照らす真っ赤な溶岩を激しく噴出する典型的なストロンボリ式噴火を繰り広げたエトナ山。タオルミーナやカターニアからは火山観光ツアーが定期的に出ている

 山頂から北東側へおよそ25km離れたタオルミーナの街外れにあるギリシア時代の円形劇場からは、映画グランブルーの舞台となった紺碧のイオニア海と、噴煙をたなびかせながら、なだらかなスロープを描くエトナが一望のもと。

 エトナ南麓にある人口30万を擁するCataniaカターニアは、州都パレルモに次ぐシチリア第二の都市。有史以来幾度となく繰り返されてきたエトナの火山活動でも、特筆されるのが1669年3月11日に始まった噴火でした。

Catania-Cattedrale-Eruzione1669.jpg【Photo】18世紀に創建されたカターニアのドゥオーモ(大聖堂)Cattedrale di Sant'Agataの壁面に描かれた1669年に起きたエトナ噴火のフレスコ画。山腹の火口から流出した溶岩流は、16km離れたカターニアの西側をのみ込んだ。122日間の長きに及んだこの噴火による犠牲者は、当時の人口の2/3にあたる15,000人とも20,000人ともいわれる クリックで拡大

 街の一部と周囲を溶岩で覆い尽くし、港を破壊した噴火から24年後の1693年、今度は大地震がカターニア一帯を襲います。93,000人が命を落としたこの震災で、廃墟と化した街の復興が本格化したのが18世紀。壊滅した街を不死鳥のごとく蘇らせた現在のカターニア市は、アメリカ・フェニックス市と姉妹関係にあります。街のシンボル象の噴水にも見られるカターニア特有の火山性の岩と白大理石を組み合わせたドゥオーモほか、モノトーンの華麗なバロック様式の建築群は、パレルモ出身の建築家ジョヴァンニ・バッティスタ・ヴァッカリーニやフランチェスコ・バッタリアらが設計したもの。

Catania_Basilica_Collegiata.jpg【Photo】1693年の地震で崩壊した聖堂跡に建てられたカターニアのBasilica della Collegiataコッレジャータ聖堂。1768年に完成したこの傑作を手掛けたのはステファノ・イッタール。ジュゼッペ・シューティによるフレスコ画が描かれたヴォールト天井も見逃せないクリックで拡大

 カターニアのほか、震災で廃墟と化した旧街区から移転再生したNotoノート、アラブ支配の痕跡ともいえる迷宮部分と都市計画に基づく整然とした新市街の二つの顔を持つRagusaラグーザなど、バロック様式で再建されたシチリア南東部にある8つの街「Val di Noto ヴァル・ディ・ノート」が世界遺産に登録されたのが2002年。Forza TOHOKUuuuuuuuuu !!

 時として災いを人間にもたらすエトナ山ですが、一方では大いなる恵みも。エトナ周辺一帯は果実栽培に適した火山性の土壌となります。そこは果肉が赤く染まるブラッドオレンジこと「Arancia Rossa アランチャ・ロッサ」、レモン、リンゴのほか、山の南北と東側の三日月状のD.O.C.(=統制原産地呼称)「Etna エトナ」ゾーンでは、紀元前5世紀にはブドウ栽培が行われていました。ワイン生産者組合Consorzio di Tutela dei Vini Etna D.O.C.には、新旧62の作り手が加入しています。

ETNA_FESSINA.jpg【Photo】樹齢100年を超えるであろうエトナ原産のブドウ品種「ネレッロ・マスカレーゼ」の古木の手入れ。高温で乾燥した栽培環境に向くアルベレッロ仕立ては、支柱を立てたブドウの丈を短く太く仕立てるシチリア伝統の手法。機械が使えないため、多くの手間と人手を要する

 19世紀に欧州のブドウを壊滅させたフィロキセラ(ブドウ根アブラムシ)禍は、ギリシャ以来の歴史あるブドウ産地シチリアにも及びましたが、海抜1,000mに迫る高地では、その被害を免れました。そうした畑には、接ぎ木されることなく自根を地中深くまで張った樹齢100年~150年という稀有なブドウすら見られます。

 標高が高くなるにつれ傾斜が増す斜面に開墾された階段状のブドウ畑の仕切りは、ゴロゴロとした真っ黒な火山岩の擁壁。日中は南イタリア特有の灼熱の太陽が照りつける反面、夜間は高地ゆえ気温が下がり、1日の中で大きな寒暖の差が生じます。

nerello_mascalese@etna.jpg【Photo】エトナ北東部Castiglione di Sicilia。この地でブドウ作りが始まってから、一体どれほどの時が流れたのだろう。幹の太さが歴史を物語るエトナ伝統のアルベレッロ仕立てのネレッロ・マスカレーゼ。鳥海山北麓・中島台の樹齢300年ともいわれる奇形ブナのような独特の樹形をした100年を超す古木がここでは珍しくない
 
 今から20年前、質より量を求めていたシチリアでは、仮に国としても世界第7位にあたるイタリア国内最多となる年間90万㎘のワインを生産していました。シチリア南東部原産で、島全域で栽培される在来品種ネロ・ダヴォラから造られていた凝縮感のある色濃い赤ワインは、国内はおろかアルプス以北の有名ワイン産地のブレンド用に、大量にバルク売りされていたのだといいます。

tancredi_donnafugata.jpg【Photo】ネロ・ダヴォラに30%カベルネ・ソーヴィニヨンを加えた1983年設立のDonnafugata ドンナフガータ「Tancredi タンクレディ」。歴史の転換点リソルジメントを生きたシチリア貴族を巨匠ヴィスコンティが映画化した「il Gattopardo(邦題:山猫)」で、赤シャツ隊に参加する青年タンクレディを演じたアラン・ドロンと重なる溌剌さを熟成を待たずに味わうのも一興

 そんな状況に一石を投じたのが、祖父が所有していた荒廃したブドウ畑で古典的なブドウ栽培とワイン醸造の刷新に乗り出したジュゼッペ・ベナンティと、ドンナフガータなどでの経験を買われ全てを託されたカターニア出身の醸造家サルヴァトーレ・フォティの両氏。製薬業で成功し、醸造所「Benanti ベナンティ」を1988年に興した実業家と若き醸造家は、150種以上のブドウについて複雑に入り組んだエトナの土壌との相性を考慮しつつ、区画ごとにブドウの選定を数年かけて行います。

rovitello_benanti.jpg【Photo】淡い色調とエレガントに香り立つ高貴さは、さながら伝統的なバローロやブルゴーニュ。「Rovittello ロヴィテッロ」のエチケッタに描かれる火を吹くエトナ北麓の樹齢90年になるネレッロ・マスカレーゼ80%に色素とタンニンを加える役割を果たすネレッロ・カプッチョ20%をブレンド。D.O.C.エトナ・ロッソ伝統の黄金比率を踏襲

 国際市場をいち早く意識したトスカーナで、カベルネやメルロの導入が目覚ましい成功を収めていた'90年代。伝統を否定するかのようなそうした潮流に抗うように2人のシチリア人が進むべき基軸として選んだのは、いずれもエトナ原産とされる赤ブドウ品種「ネレッロ・マスカレーゼ」、「ネレッロ・カップッチョ」、そして白品種の「カッリカンテ」でした。

passopisciaro_motoxx.jpg 伝統への敬意は払いつつ、更に高みを目指した成果は、顧みられることのなかったEtnaの可能性を世に知らしめます。複雑に入り組んだ多様な火山性土壌ゆえのエキス豊富なミネラル感と、標高1,000mに迫る高度がもたらす温度差が生む綺麗な酸味。またとないエトナの風土のもとでのワイン造りへの新規参入が、ここ10年ほど続いています。

【Photo】エトナ北麓の海抜650m~1,000mの畑で収穫された樹齢60~80年のネレッロ・マスカレーゼだけで造るがゆえ、D.O.C.エトナ・ロッソではなく、村名が名前となったパッソピシャーロ。2008年からは、エトナ一帯で「Contrada」と呼ぶクリュの概念による4種の単一畑が加わった

 名醸地ピエモンテを30年前に覚醒させたバローロ改革の旗手「バローロ・ボーイズ」を率いたMarc de Graziaマルク・デ・グラツィアが2002年に設立した新興ながら、素晴らしい成果を上げる「Terre Nere テッレ・ネレ」。そしてトスカーナの辺境から彗星のごとく現れ、シンデレラストーリーを体現してみせたアンドレア・フランケッティが2000年に購入した「Passopisciaroパッソピシャーロ」。変わり種では'80年代にHolding Back The Yearsなどをヒットさせた英国マンチェスター出身のバンドSimply Redのリーダーだったミック・ハックネルが2001年からオーナーを務める「Il Cantanteイル・カンタンテ」など。

Cantante_bianco.jpg【Photo】「Il Cantante Bianco イル・カンタンテ・ビアンコ」のエチケッタ。標高1,200mという高地にある畑で育つEtna biancoの主力品種「Carricanteカッリカンテ」と土着の「Grecanicoグレカーニコ」、「Minnellaミネッラ」の混醸。2007年ヴィンテージは、Slowfood協会発行のワイン評価本「slow wine2011」で、質の高いワインを指すGrande Vinoの評価。これは紀元前8世紀の詩人ホロメスの叙事詩「オデュッセイア」に登場する一つ目の巨人キュクロプス族のポリュフェモスによって、洞窟に閉じ込められた英雄オデュッセウス(=ユリシーズ)が、巨人にブドウ酒を勧める場面。Piazza Armerina ピアッツァ・アルメリーナ郊外に4世紀に造営された離宮「ヴィッラ・ロマーナ・デル・カサーレ」で20世紀に発見されたモザイク床絵がオリジナル。3,500㎡の遺跡から発見された40以上の色鮮やかなモザイク画は過去50年における考古学上の最も価値ある発見とされ、離宮は1997年世界遺産に登録された (上写真)  背後に雪を頂くエトナが迫るパッソピシャーロ村。気鋭の醸造所Graciでのネレッロ・マスカレーゼの収穫(下写真)

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 オデュッセイアには歌声で船乗りを惑わして船を座礁させる女性の顔と鳥の足と翼を持つ魔物セイレーンが登場します。トロイア戦争から帰還する英雄オデュッセウスは、エトナからほど遠からぬシチリア・メッシーナ海峡近くのセイレーンが棲む島アンテモッサの海域を通ります。美声に興味をもった英雄は、自らをマストに縛りつけ、漕ぎ手には耳栓をさせてそこを通過します。一つ目の巨人ポリュフェモスを酔い潰したブドウ酒は、セイレーンの歌声のようにさぞ甘美だったことでしょう。エトナのブドウ酒が、ホメロスが記した神話の時代から2700年以上の時を経て、改めて多くの人を惹き付けるのは、数々の神話の舞台となった地だからなのかもしれません。

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2011/11/27

トスカーナが呼んでいるぅ~

罪作りで目の毒な本
FINE WINEシリーズ「トスカーナ」

NBCtoscana.jpg 【Photo】トスカーナ州を中心に90人以上の醸造家が美しい写真とともに登場する「FINE WINE シリーズ トスカーナ」。ワインの生産現場にある造り手の顔が見えるだけでなく、ブドウが育つ大地に吹き抜ける風の香りが感じられる一冊(右写真)

 ワインジャーナリズムが発達した英国で最も権威ある評価機関が「The Institute of Masters of Wine(略称:IMW)」。IMWが認定するワインのスペシャリスト「マスター・オブ・ワインには、世界中で299人のみが認定されているに過ぎません。その一人が1940年にLAで生まれ、現在は英国を拠点にワインジャーナリストとして活動するニコラス・ベルフレージ氏です。

 1970年代からイタリアワインの魅力にとりつかれ、英国の著名なワイン評価本「Decanter」誌や、ワイン関連書籍としては世界最多の累計部数を誇る英国きってのワイン評論家・ヒュー・ジョンソン氏の「Pocket Wine Book」で、イタリアワインに関する評価を担当していたこともありました。

NB1_toscana.jpg【Photo】風が吹き抜ける音しか聞こえない典型的なモンタルチーノの風景の中に佇む醸造所「Camiglianoカミリアーノ」。1957年に現オーナーであるゲッツィ家が入手した建物は、中世期には物見台として使われたという。そこは100haにも及ぶ屈指の広大なブドウ畑に囲まれている(「FINE WINE シリーズ トスカーナ」より)

 多種多様なイタリアワインに造詣が深いベルフレージ氏が2009年にロンドンの出版社「Fine Wine Editions」が発行するワインガイド「Finest Wine」のひとつとして出版したのが「The Finest Wines of Tuscany and Central Italy(=トスカーナと中部イタリア極上のワイン)」。いずこを切り取っても絵のように美しいトスカーナの風景や、醸造家たちの姿を写真に納めたのが、英国在住の写真家ジョン・ワイアンド氏です。

 本書はシャンパーニュを代表する造り手「ルイ・ロデレール」が創設した「International Wine Writers'Awards インターナショナル・ワインライター・アワード」9つのジャンルのうち、芸術性の高い仕事に対して贈られる「The Artistry of Wine」を2010年度に受賞しています。その和訳版「FINE WINEシリーズ トスカーナ」が日本で出版されたのが昨年11月。

NB2_toscana.jpg【Photo】歴史ある名酒「ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチアーノ」を産するモンテプルチアーノ郊外に建つサン・ピアージョ教会は、周囲の風景に溶け込むルネサンス様式の美しい聖堂(「FINE WINE シリーズ トスカーナ」より)

 前回の訪問から5年のブランクを置いて、重篤な禁断症状が出ている庄イタのイタリア欠乏症。その対症療法としてトスカーナ州モンテプルチアーノで2番目に古い1,000年近い歴史を刻むカンティーナ「Contucci コントゥッチ」の扉が表紙となったこの本を出版直後に購入しました。以来、あたかも極上のワインを味わうようなワクワク感を、この美しい写真集のようなワインガイドはページをめくるたびに体験させてくれます。

 国内での名声のみならず、ここ数年で国外でもワイン産地として脚光を浴びるようになったトスカーナ。高まる一方の需要と人気を反映するかのように、ここ15年ほどで価格上昇が最も著しいイタリアワインがトスカーナ産赤ワインだと言ってよいでしょう。しかしながら本書では、変貌著しいトスカーナワインの魅力の神髄は、著名な米国のワイン評論家ロバート・パーカーが95点以上の評価をつけて国際市場で引く手あまたとなる高級ワインではなく、多くのイタリア人が日々の糧とともに楽しむ85点前後のワインにこそあることを序説で押さえています。この点に関しては私も意を同じくするところです。

 本書で登場するのは、イタリアで最も著名ながら、1970年代半ばまで横行していた過剰生産の悪弊で、ボルドーやブルゴーニュを至上とするワインスノッブの人々から白眼視されたものの、いまや変貌を遂げたキアンティ・クラシコ、クラシコゾーン以外では最も熟成能力のあるキアンティを産するRufinaルフィーナを含むフィレンツェ東部・西部、シンデレラワインが次々と登場するマレンマなどの海岸地域、バローロと並び称される高級ワインの代名詞ブルネッロを生むモンタルチーノからオルチア渓谷沿いに絵画のような風景が続くモンテプルチャーノ、そして塔の街サン・ジミニャーノなど。
 
NB3_toscana.jpg【Photo】著者ニコラス・ベルフレージも絶賛するイタリアきっての素晴らしいデザートワインである「Vin San Giustoヴィン・サン・ジュスト」。陰干ししたブドウの果汁を6年間の眠りにつかせる樽を前に揃ったマルティーニ・ディ・チガラ兄弟。右から無愛想なフランチェスコ、エリザベッタ、私を快く迎え入れてくれたルカ(「FINE WINE シリーズ トスカーナ」より)

 登場する生産者のヴィーノの多くは日本にも入ってきており、実用書としての役割を十分に果たします。醸造家の言葉と写真が並ぶ本書を眺めているだけで心はトスカーナへとトリップしてゆくかのよう。すでに確固たる地位を築いていたオルネッライアをさらなる高みに引き上げたアクセル・ハインツ氏や、アヴィニョネージと並ぶ珠玉の極甘口ワイン「Vin San Giustoヴィンサンジュスト」を心行くまで試飲させてくれたルカ・マルティーニ・チガラ氏、昨年仙台に来てくれたキアンティ・クラシコ協会会長のマルコ・パッランティ氏ら、お会いしたことがある醸造家たちの懐かしい顔も登場します。

 ヴィーノを飲みながら彼らの言葉を読み返しているうち、醸造所を訪問して肉声を聞いているような錯覚すら覚えます。そんな儚い酔いから醒めた時、思うに任せない籠の鳥のような境遇を恨むとともに、かえって禁断症状が悪化することを承知の上で、手に取らずにはいられなくなる、とっても罪作りな本なのです。

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FINE WINEシリーズ トスカーナ
ニコラス・ベルフレージ(著) 水口 晃 (監修) 佐藤志緒 (翻訳)
出版社: 産調出版 320ページ
本体価格:3,400円(税別)


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2011/11/20

ボジョレー騒動はさておき...

地球上で唯一オフヴィンテージが存在しない奇跡のブドウ産地・ボジョレー
VS 解禁日に飲んだ今年のヴィーノ

※商戦が盛り上がりに欠けた昨年は、怒りの矛先を向けずにスルーしましたが、ユーロ安が追い風となって関係者の鼻息が荒い今年は負けずに行きまっせーっ!!  Boooo...q(`ε´q)

georgesduboeuf.jpg 今月18日、仙台では平年と比べて8日遅く初霜を観測しました。こうして寒さが増してくると本格的な赤ワインシーズンの到来です。そこに巡ってきた11月の第3木曜日。そう、ボジョレー・ヌーボーの解禁日ですね。今年もプロモーションのため、ボジョレー地区最大手のネゴシアン(=酒商)「ジョルジュ・デュブッフ」が、ヌーボー最大の得意先であるニッポンにオーナー自らやって来ました。

【Photo】ボジョレーの帝王ことジョルジュ・デュブッフ氏 (大きな声では言えないが、我がホームグラウンド庄内ではお目にかかれないタイプのアクが強いこの御仁。ブドウを手にほくそ笑む表情からは、畑仕事に精を出す醸造家よりも商売人の印象を受ける。仮面ライダーに登場した悪役・死神博士に似ていると思うのは私だけ?)

 商魂むきだしのボジョレー・ソードー(=騒動)に黙っていられないのが、真っ当に造られた美味しいワインを愛する庄イタなわけで...(笑)。したたかなフランス人に踊らされている日本に警鐘を鳴らすべく、これまで2度ほどViaggio al Mondoで孤独な戦いを繰り広げてきました(2008年9月27日「今年も当たり年? ボジョレー・ソードーは日本固有のお祭り」、同年11月28日「ボジョレー後日談&自然派ワインよもやま話」参照)

 自国の文化や価値観が最も優れていると考える中華思想においては、本家中国と肩を並べるフランス。東京電力福島第一電子力発電所の事故直後、日本では菅首相(当時)が原発推進路線からの転換を表明したのとは対照的に、サルコジ仏首相は自国の重要な産業である原子力発電の推進にご執心です。

lacrima_1morro.jpg【Photo】イタリア・マルケ州の在来ブドウ「ラクリマ・ネラ」を使った「ラクリマ・ディ・モッロ・ダルバ」3種。家族経営による「ジュスティ・ピエルジョヴァンニ」の「ルッビヤーノ」(写真右)「ルイジーノ」(写真左)、マルケ州最大手の「ウマニロンキ」の「フォンテ・デル・レ」(写真中央)

 東大名誉教授の故・木村尚三郎は、米国は "巨大な島国に過ぎず、自国と相いれない文化を決して受け入れようとはしない国家"と評しました。この戦後を代表する西洋史研究家の洞察は、20世紀末に顕在化したイスラム文化圏との衝突や、実態は自国の権益を押し通そうという意図が明白なTPP交渉をみれば、正鵠を射た慧眼であったと納得がゆきます。

 日本の輸出産業に打撃を与えんとする米国主導の円高誘導と、信用不安に端を発したユーロ安を追い風に、今年もJaponで荒稼ぎしようと、フランス食品振興会(SOPEXA)や酒販業界は一丸となって多様な販促活動に躍起です。東京港区白金台にある「八芳園」で、17日の午前零時にブドウジュース もとい、ヌーボーで乾杯する派手な解禁イベントを仕掛けたのは前述のSOPEXA。仙台でも地元プロスポーツチームのスポンサーになっている大手流通が、ベガルタ仙台手倉森監督などをゲストに深夜のカウントダウントークショーを実施するなど、今年も日本各地でお祭り騒ぎが繰り広げられました。

lacrimautumno.jpg【Photo】収穫期を迎えたラクリマ・ネラ

 それにしても喧伝されるボジョレー・ヌーボーの作柄を自画自賛する誇大表現には、ほとほと閉口します。天候による劇的な品質向上など望むべくもない酒質のヌーボーをして、今年も判で押したようなお約束の「グレートヴィンテージ」だそう(デュブッフ社の日本輸入元サイトはコチラ

 ジョルジュ・デュブッフ社サイトでは、2011年のボジョレー・ヌーボーを "Full,Smooth body with a fine,silky harmonious texture and exceptional richness."と表現しています。これはボージョレ地域の主力ブドウ品種「Gamayガメ」以外のブドウで造られるワインは口にしたことがない中華思想の持ち主による評価なのでは??と勘ぐりたくなる内容です。

 ボジョレー・ヌーボーは、普通のワインとは全く異なり、通常で2~5日の極めて短期間の発酵で仕上げる突貫工事のような特殊な製法で醸造されます。私が思うにボジョレー・ヌーボーは、どう転んでも複雑味に欠けるタンニン成分が少ない軽くsmoothとも言う)平板なsilkyとも言う)味わいの酒です。間違ってもジョルジュ・デュブッフ社が言うところのフルボディのワインでは断じてありません。

az.ag.giusti.piergiovanni.jpg【Photo】糖度が上がってくる収穫期に実割れを起こしやすく、栽培が難しいラクリマ・ネラ種から熟成能力の高い素晴らしいヴィーノを生産するジュスティ・ピエルジョヴァンニ醸造所。アンコーナ・ファルコナラ空港近くのアドリア海から2kmほど内陸に入ったそこは、比較的平坦な地形だが、海風による昼夜の気温差がブドウ栽培に適した微気候を生む

 SOPEXAが言うように2011年ヴィンテージが「3年連続のとても偉大な品質〈Link to website〉」だとしても、それは通常の醸造法で醸された「Morgon モルゴン」「Chénas シェナス」「Fleulie フルリ」といった素性が明らかなクリュ・ボジョレーに限った話。2~3ヵ月の寿命しか持ち合わせていないヌーボーに偉大という賛辞を当てはめるのは土台無理な相談でしょう。

 一部のスーパーが競って導入しているペットボトル容器と円高ユーロ安の恩恵で、現地価格(2€~5€)に近い価格で出回っている今年のヌーボー。酒販業界では前年比2%増の60万ケースの売り上げを見込んでいるといいます。お手並み拝見といったところですが、解禁初日の売り場には、ヌーボー目当ての来店客がそれなりに群がっていたように思います。そんな人たちを煽るかのように前例踏襲の各メディアも、ヌーボー解禁を毎年ニュースとして取り上げます。自分がメディアに身を置くゆえに声を大にして言いたいのです。「もうやめませんか、"売らんかな"の片棒担ぎは」と。今年も私の闘いはまだ道半ばであることを思い知らされたのでした。

lacrima_tagawakabu.jpg【Photo】ジュスティ・ピエルジョヴァンニの「ルッビヤーノ・ラクリマ・モッロ・ディ・ダルバ'03」を頂き物の田川カブ甘酢漬とともに。和洋の希少な在来種同士の組み合わせだが、これがまたピタピタと合う

 そんなお寒い状況の中、赤ワインが一層美味しくなる季節となる11月第3木曜日に庄イタが開けたボトルはこれ。古来から中部イタリア・マルケ州アンコーナ県のごく限られた地域に伝わる土着品種「Lacrima Nera ラクリマ・ネラ」を使って「ジュスティ・ピエルジョヴァンニ」という真摯な作り手が仕込んだ「Rubbjano Lacrima di Morro d'Alba 2003 ルッビヤーノ・ラクリマ・モッロ・ディ・ダルバ'03」。

 神聖ローマ皇帝フリードリヒ1世は、拠点となる港湾都市アンコーナ攻略のため、アドリア海から10kmほど内陸側の丘陵地帯にある「Morro d'Alba モッロ・ディ・ダルバ」の要塞に拠点を構えます。そこで出合ったのが、うっとりするようなバラやスミレの顕著な香りがするこのヴィーノ。その特徴的なアロマに魅了されたフリードリヒ1世は、このヴィーノを愛飲したという12世紀の記述が今に残ります。

 霜害のリスクが高い早春に発芽する上、収穫時期の見極めが難しいこの品種。熟した顆粒からあたかもLacrima(=涙)のように果汁がしたたり流れることから、この名が付いたともいわれます。19世紀に欧州のブドウを壊滅させる猛威をふるったフィロキセラ禍以降に導入せざるを得なかった台木との適合性が判明するのに時間を要したことも、このブドウ品種が作付を減らす要因となりました。

giusti_piergiovanni.jpg【Photo】父親が早逝したため、23歳からワイン醸造の世界で独り立ちしたというジョヴァンニ・ジュスティ

 1985年にDOC(統制原産地呼称)指定を受けた際、イタリア各地で栽培される代表的な赤ワイン用品種サンジョヴェーゼと、マルケ州で最良の結果を生む品種モンテプルチアーノを15%までは混醸が認められたラクリマ・モッロ・ディ・ダルバですが、当時ほとんど栽培されなくなっていた品種「Lacrima nera ラクリマ・ネラ」の可能性に着目、一時は幻とまで言われたこの品種の復権と品質向上に携わったのが、1920年代に先々代が興した醸造所を継いだ父ルイジーノの傍らで幼少時代を過ごした現当主のジョヴァンニ・ジュスティでした。

 かつては若飲み向きとされたこのヴィーノ。ジュスティ家では、フローラルに香り立つラクリマ・ネラの美点を活かした体躯のしっかりとした極めて香わしく、数年の熟成に耐えうるヴィーノを他品種との混醸なしで醸します。この日セラーから取り出した2003年は、この希少なブドウとオリーブの畑が連なるなだらかな丘陵地が広がるモッロ・ディ・ダルバや隣町の「Monte San Vito モンテ・サン・ヴィート」などを訪れた思い出深い年。イタリア全土が酷暑に見舞われてブドウが焼けた中、作柄に恵まれた'03vinのマルケ州産ヴィーノはしっかり確保してあります。

 映画「よみがえりのレシピ」庄内公開初日、後藤勝利さんの藤沢カブ畑に伺った帰りに湯田川温泉に立ち寄った折、定宿の「ますや旅館」の女将・中鉢泰子さんから頂いたのが、焼畑で作られた比較的辛味の少ない在来種「田川カブ」のお手製甘酢漬。自家製ならではの心和む自然な味付けの漬物をつまみながら、8年の熟成を経て角が取れたはずのこの作り手のミドルレンジに当たるラクリマ・ネラ100%の年産わずか3,400本しかない「Rubbjano ルッビアーノ'03」を開けました。

rubbjano03_2011.jpg【Photo】かつては若飲みといわれたラクリマ・モッロ・ディ・ダルバ。ジュスティ・ピエルジョヴァンニの手になる瓶詰め後7年を経たルッビヤーノ'03は、快活で魅力的な作り手そのままの生き生きとした素晴らしい香りと風味で楽しませてくれた。フラッグシップとなる「Luigino」は敬愛する父の名を冠した更に熟成能力が高いヴィーノ。我がセラーに眠る3本の'03vinをいつ開けるかが思案のしどころ

 手摘みされたブドウだけを除梗・発酵後、バニラ香の強いバリック新樽を4割使用、10ヵ月の樽熟成と6ヵ月の瓶熟成を経てリリースされます。抜栓直後はその優美な香りが閉じた印象でしたが、1時間を過ぎる頃には蕾が花開いて芳醇な色香を漂わせ始めました。キメ細やかなタッチ、目の詰まったシルキーなタンニン、適度な樽香が溶け込んだインクのようなスモーキーなフレーバーの後、スミレ・バラ・湿った落ち葉の香りが幾重にも重なり、ブラックチェリーやカシスのような澄んだ綺麗な酸が長い余韻を残してゆきます。う~ん、オイシイ。

 前回「よみがえりのレシピ」で述べたように、経済効率とは関係なく、自分が生まれ育った土地固有の資源の価値を大切にしようという思いは世の東西を問いません。ボジョレー・ヌーボーの販促活動に見られるような行き過ぎた商業主義とは無縁の人々とその仕事をこれからもViaggio al Mondo ではご紹介してゆきます。

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Azienda Agraria Giusti Piergiovanni
アジェンダ・アグラリア・ジュスティ・ピエルジョヴァンニ

Via Castellaro, 97
60010 MONTIGNANO
- (AN)
Phone&Fax: +39 071 918031
Fax: +39 071 918031
URL:http://www.lacrimagiusti.it/italiano/home.html


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2011/06/18

Colletta per Giappone (イタリアから届いた義援金)

Gent.mi italiani
Come ben saprete abbiamo subito danni distruttivi a causa del terremoto e dello Tsunami: dove abito nella provincia di Miyaghi, nei paesi vicini all provincia di Iwate e nella stupenda costa della provincia di Fukushima.
Sono passati quasi 3 mesi ma la situazione è ancora molto critica in tutta la zona colpita.
Credo che sarà davvero molto difficile la situazione ancora per molto tempo anche solo per trovare le forze di riprendersi, nonostante molte persone cerchino di sollevare quelle persone che hanno perso un membro della famiglia o che hanno perso la casa e tutto il denaro, o che sono hanno dovuto trasferirsi lontano dalla propria città a causa del problema della centrale nucleare di Fukushima.
In questa situazione così critica, ho avuto la piacevole notizia dalla Sig.ra Mayumi Nakagawara (la quale da giornalista ha pubblicato 2 libri sui vini italiani che amo perchè riesce a comuncare bene il fascino dei vini) di questa intenzione di raccogliere fondi dalle cantine italiane, da giornalisti del settore e da associazioni italiane per cercare di sostenerci.
Come Voi italiani avete ricostruito il vostro Paese dopo la seconda guerra mondiale, anche Noi giapponesi non possiamo arrenderci a questa orribile calamità naturale come ci ricordano le generazioni dei nostri genitori che hanno saputo ricostruire miracolosamente a seguito dei numerosi incendi causati dalle bombe durante la seconda guerra mondiale, oltre alla terribile bomba atomica di Hiroshima, città che oggi si è popolata di 1.000.000 di persone e vanta della presenza della sede centrale dell'azienda di automobili MAZDA, famosa in tutto il mondo.
Noi siamo sicuri di rinascere anche grazie alla vostra cortesia.Mi auguro che potremo fare un brindisi con un calice di vino italiano e con il sorriso grazie a persone preziose che ci stanno aiutando in un periodo così doloroso.
9 Giugno,2011
Hiroto Carlo KIMURA
 

(日本語原文)
親愛なるイタリアの皆様へ
 東日本大震災では、イタリアでも皆さんがご覧になった通り、私が暮らす宮城県と隣接する岩手・福島の美しい沿岸地域は、津波によって壊滅的な被害を受けました。震災発生から3ヶ月を過ぎようとする今もなお、生活基盤の全てが打ち砕かれた被災地では、過酷な状況が続いています。
 津波によって愛する家族を奪われ、家と財産を失い、東京電力福島第一原子力発電所の事故によって住み慣れた故郷を追われた人々にとっては、「生きる希望を持って」と励まされても、再び立ち上がる気力すら持てないのが現実かもしれません。
 瓦礫と化した被災地の状況を前に、私たちが悲しみに打ちひしがれていたとき、私が愛してやまないイタリアワインの魅力を余すところなく伝える著作を2冊著した中川原まゆみさんから、中川原さんが呼びかけて下さったイタリア各地の生産者や生産組合、ジャーナリストの皆さんが義援金を寄せて頂いたことを知ったのです。
 中川原さんからのお申し出は、思いもかけないことでした。
 そう、第二次世界大戦で荒れ果てた国土を復興させたイタリア国民の皆さんと同じように、今回の無慈悲な天災に私たちは負けるわけにはいかないのです。私の父母の世代の日本人もまた、焦土と化した焼け跡から奇跡と言われた復興を成し遂げたのですから。
 エノラゲイによって原子爆弾を投下され広島は、皆さんの中にも乗っていらっしゃる方がおいでかもしれない日本が誇る自動車メーカーMAZDA 本社があり、100万人を超える人口を擁する大都市となりました。
 今回、皆さんからお寄せいただいたご厚意をバネに、私たちは必ずや復活することを皆様にお誓いします。苦しい時を支えてくれる大切な人と囲む食卓に、楽しい語らいと笑顔をくれるイタリアワインで、いつの日か復興の祝杯を挙げる日が来ることを信じています。
 2011年6月9日 木村浩人

イタリアワイン関係者からの義援金

m_nakagawara.jpg【photo】イタリア各地に広がる人脈を生かして義援金を募って下さった中川原まゆみさん〈撮影:渡邉 高士 氏〉

 中部イタリア、エミリア・ロマーニャ州Bologna ボローニャ在住のワインジャーナリスト中川原まゆみさんからメールが届いたのが4月21日。東日本大震災に関するニュースが、連日イタリア国内で報道されていた頃です。被災地の惨状に心を痛めた中川原さんが、ワイン生産者や生産組合、ジャーナリスト仲間らに声を掛けて集めたという総額11,515ユーロの義援金の送り先に関して情報がほしいという内容でした。以前、中川原さんの著作をご紹介したこともあり、何かお役に立つのなら、喜んでお引き受けする旨をお返事しました。

 日本円に換算して130万円ほどの募金を被災したレストランや酒販店に直接届けたいというのが中川原さんのお申し出でした。状況を探るため心当たりに直接打診したほか、被災地の支局に勤務経験のある同僚記者にも動いてもらいました。東北一円を営業エリアとしてカバーするイタリア食材専門のインポーター「モンテ物産」ほか、イタリアワインを多く扱う卸業者にも情報提供を求め、特に被害がひどかった岩手・宮城・福島の3県の候補から、最終的に下記5店に義援金を贈ることにしました。

◆ 「レストランまるみつ」 岩手県宮古市藤の川

 岩手短角牛を用いたハンバーグが人気の宮古湾に面した南欧風レストラン。被災状況はオーナーソムリエ古舘英樹さんのブログで。
 http://ariv.blog.so-net.ne.jp/2011-03-20 

◆ 「Ozio オッツィオ」  宮城県亘理郡山元町山寺

Ozio_yamamoto.jpg 石窯で焼くピザと旬の素材で作る創作パスタ&ドルチェの隠れ家的なイタリアン。海岸から1km と離れておらず、平坦な地形が災いして津波の直撃を受けた店が全壊。店のHPには、シュワルツェネッガー元カリフォルニア州知事のような石川オーナーのメッセージがひと言。「I'll be back ... 」


◆ 「ぱぴハウス2号店・3号店」 宮城県多賀城市および同山元町坂元

papi_house.jpg 社会福祉法人「臥牛三敬会」が、障害をもつ若者の就労支援施設として運営するイタリアンレストラン。両店舗とも津波により大きな被害を受けた。

◆ 「Al Fiore アル・フィオーレ仙台市太白区向山

alfiore_distribuito.jpg 斜め向かいに建っていた「鹿落旅館」の崩壊で店に通じる道路が封鎖され、インフラも戻らず4月末まで休業。その間、目黒浩敬シェフは被災3県の支援が行き渡らない避難所に連日出向き、炊き出しに奔走。店を再開した今も依頼が入るため、取引先から一部食材の提供を受けながら、数百名単位の炊き出しを毎週のように継続中。

◆「Est Est エスト・エスト福島県いわき市平字堂ノ前

 イタリア風居酒屋。建物には大きな被害はなかったが、什器類が損壊。現在は営業を再開。

 食器やワインが割れた、平常営業ができずに売り上げが激減した・・・といった震災の影響は、程度の差こそあれ、ほぼ例外なくあったかと思います。原発事故により立ち入り禁止区域に指定され、いつ店を再開できるのか見通しが全く立たない店舗があることも承知しています。

 ヴェロネリが発行する著名なワイン評価本「I VINI DI VERONELLI 」のテイスターとして知られるジジ・ブロッツォーニ氏など、イタリアワインに関わる方たちから寄せられた思いもかけぬ浄財。

 どこにどう渡るかも知れぬ赤十字経由ではなく、再起を期するイタリアワインのユーザーに直接お渡ししたいという中川原さんの真摯なお気持ちを生かすよう、中川原さんと相談の上で以上のような段取りをとった次第です。

514px-Michelangelo_Caravaggio_007.jpg 冒頭でご紹介した私からの感謝のメッセージに、被災状況を伝える写真を添えてイタリア語への翻訳をお願いした中川原さんにお送りし、今週ボローニャから義援金を送金して頂きました。

 津波による被害は、地震保険の対象外であり、現状では公的な保障もされません。

 そんな中で、自発的に動いてくださった中川原さんと、それに応えてくれた人たちに改めて御礼を申し上げたいと思います。

【photo】ウフィッツィ美術館所蔵のカラヴァッジョ作「Bacchus バッカス」。今回義援金を寄せてくれた「I Giusti & Zanza イ・ジュスティ・エ・ザンツァ」が自社のワイン「Nemorino」のエチケッタに使っている。再起の1杯に

 最後は善意を受け取られた皆さんへの私からのお願いで締めくくるとしましょう。店舗再開の暁には、募金に協力して下さった生産者のワインで祝杯をどうぞ上げて下さい。

 さらには再開した店のワインリストに下記の作り手のワインを加えて頂ければ、被災地で暮らす皆が心優しき生産者のワインを楽しむことができます。イタリアワインを愛する者として、また今回の橋渡し役として、これに勝る幸せはありません。

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募金に協力頂いた主な生産者(括弧は輸入業者)
I Giusti & Zanza / Toscana (中島董商店)
 イ・ジュスティ・エ・ザンツァ / トスカーナ州ピサ県ファウリア
   *URL:http://www.igiustiezanza.it/
Fratelli Serio e Battista Borgogno / Piemonte (中島董商店)
 フラテッリ・セリオ・エ・バッティスタ・ボルゴーニョ / ピエモンテ州クーネオ県バローロ
   *URL:http://www.borgognoseriobattista.it/
Capovilla / Veneto (スリー・リヴァーズ)
 カポヴィッラ蒸留所 / ヴェネト州ヴィチェンツァ県バッサーノ・デル・グラッパ
   *URL:http://www.capovilladistillati.it/
Azienda Vinicola Pietracupa / Campania (ウインターローズ)
 ピエトラクーパ / カンパーニャ州アヴェリーノ県モンテフレッダーネ
   *URL:なし 
Stefano Ferrucci / Emilia-Romagna (アビコ)
 ステファーノ・フェルッチ / エミリア・ロマーニャ州ラヴェンナ県カステル・ボロニェーゼ
   *URL: http://www.stefanoferrucci.it
Bisol / Veneto (パシフィック洋行)
 ビゾル / ヴェネト州トレヴィーゾ県ヴァルドッビアーデネ
   *URL:http://www.bisol.it/
Tenuta San Francesco / Campania (テラヴェール)
 テヌータ・サン・フランチェスコ / カンパーニャ州サレルノ県トラモンティ
   *URL:http://www.vinitenutasanfrancesco.it/
Josephus Mayr / Trentino-Alto Adige (アビコ)
 ジョセフ・マイアー
   / トレンティーノ=アルト・アディジェ州ボルツァーノ県コルネード・アッリザルコ
   *URL:http://www.mayr-unterganzner.it/welcome

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2011/04/24

桔梗が花開く日を信じて

Pasqua パスクア(復活祭)の日に

TorinoUmi.jpg【photo】阿武隈川河口(写真下)と汽水湖「鳥の海」。南側の浜堤部に平坦な防潮林が続く先に見える牛橋河口近くで、宮城県唯一の自家詰めワインが造られていた

 那須岳と連なる旭岳北側に端を発し、福島・宮城を北上した東北第二の大河、阿武隈川が太平洋へと注ぐ海沿いにあるのが、亘理(わたり)郡です。阿武隈山地が北西風を遮り、海洋性の温暖な気候に恵まれ、東北の湘南と形容される山元町も、3月11日の東日本大震災で発生した15mもの高さに達する大津波の惨禍から逃れることはできませんでした。

thedayafter20110311.jpg【photo】海岸線(写真右)から800mほどしか離れていない平坦な地にある「桔梗長兵衛商店」の醸造所(赤いピンマーク)とブドウ畑は、襲い掛かった津波にのみ込まれてしまった

 亘理町から山元町にかけては、ビニールハウスによるイチゴ栽培が盛んで、「仙台いちご」の一大産地として知られています。国道6号線をはさんで海沿いを走る県道38号線には、観光農園が点在し、別名「ストロベリーライン」と呼ばれます。それに対して内陸部を南北に走る道は「アップルライン」と言われる通り、海抜50m~60m前後の亘理丘陵一帯には、リンゴ畑が広がっています。

vini_kikyoya.jpg【photo】店頭で津波にのまれたものの、割れずに残り、汚れを流したエチケット(ラベル)が擦り切れている「桔梗長兵衛ワイン 赤・白」、山元町産のリンゴ紅玉を用いたアップルワイン「紅玉」。松島町「むとう屋」にて

 海浜部ゆえの茫漠たる砂地と沼沢地で、かつては不毛の土地といわれた亘理町浜吉田南部から山元町山下地区にかけて、痩せた土地でも育つブドウ栽培が始まったのが、今を遡ること109年前の1902年(明治35)。昭和30年代までは、県内随一のブドウ産地でしたが、よりブドウ栽培に適した他県の産地に押される形で、ブドウ畑はイチゴのビニールハウスへと姿を変えていったのだといいます。

nama_mutouya.jpg【photo】デラウエアのピュアで爽やかな凝縮した透明感の高い甘味が心地よい「むとう屋生詰めワイン」

 宮城県内唯一のワイナリーが、創業者の名を屋号とする「桔梗長兵衛商店」。醸造免許を取得した1910年(明治43)以降、大正期にはアルコール発酵させない「ぶどう液」の製品化にも成功、ワインと並ぶ特産品として親しまれてきました。見学や試飲ができる施設を造るでもなく、畑仕事に精を出し、ワイン醸造職人に徹した当主の桔梗 幸博さんもまた、花好きだったお母様のよし子さん共々、醸造所を壊滅させた津波で帰らぬ人となりました。享年54歳。心からご冥福をお祈りいたします。

watari_wine.jpg 【photo】桔梗長兵衛商店の「わたり」は、主に生食されるブドウ「キャンベル」を使用した可憐でソフトなワイン。造り手が亡くなった今、エチケットの「わたり」の文字が、哀しみを表すかのように薄墨で書かれている偶然に胸が痛む

 ブドウの個性がストレートに味わえる非加熱・無濾過の酵母入り生詰めワインの製造を持ちかけ、1998年(平成10)から「むとう屋生詰めワイン」として商品化したのが、松島町の酒販店「むとう屋」の佐々木繁社長。東京農大で醸造を学んだ根っからの職人気質の幸博さんに惚れ込み、宮城県唯一の生詰めワインを生むきっかけを作った佐々木社長も道半ばにして逝った醸造家を悼みます。

 むとう屋の佐々木社長は、多くのファンがいた生詰めワインをこうした形で途絶えさせるのは無念だし、かといって他の醸造所に製造を委託するのも忍びないと胸の内を語ります。

 朴訥で飾らない人柄を物語るような"その土地ならではの味がするワイン"を造り続けた幸博さんが情熱を注いだ醸造所は、建屋の残骸が残るのみとなりました。幸博さんと奥様の間には、現在大学で醸造学を学んでいる娘さんがおいでです。

 非業の最期を遂げた家族の後を継いだ女性が素晴らしいワインを造り続けている醸造所は、今日がPasqua パスクア(= イースター・復活祭)にあたるイタリアを例に挙げると、病で急逝した夫の遺志をチンツィア夫人が継いだ「Le Macchiole レ・マッキオレ〈Link to website〉」や、耕作中の事故で命を落とした夫が夢なかばにした醸造所をオルネッラ夫人が継承した「Matteo Correggia マッテオ・コレッジャ〈Link to website〉」があります。

 桔梗の花言葉は「変わらぬ愛」「気品」「誠実」「従順」「変わらぬ心」だそう。全てを失った今は悲しみに打ちひしがれているであろうご家族も、いつの日か、また新たな一歩を踏み出すことを切に願っています。
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■ 桔梗長兵衛商店
宮城県亘理郡山元町山寺字牛橋19

■ むとう屋
宮城県宮城郡松島町松島字普賢堂23
Phone:022-354-3155(代) FAX:022-354-3156
URL: http://www.mutouya.jp
※ 現在店舗2階で仮営業中

2011/04/03

Percarlo per Carlo.

身代わりになったVino

cave_electrolux.jpg【photo】高さ1,735mmの大型ワインセラー上部に取り付けていた転倒防止ポールとあいまって、セラーの扉が開くのを阻止し、大切なセラーアイテムを守ってくれた樹脂製のベルト型開放防止器具。Good job !!!

 3月11日に発生した東日本大震災では、自宅2階に設置しているワインセラーが、扉のロックをしていたにもかかわらず、詰め込んだワインの重さで3台とも全て鍵が押し開けられてしまいました。206本収納できる大型セラーは、念のため取り付けておいたベルト型の開放防止器具が功を奏して無事でしたが、扉が開いた2台の中型セラーは、寝かせていたワインの一部が外に飛び出てしまいました。

broken_percarlo.jpg

 折り重なるように床に散乱したワインの中で、唯一割れてしまったのが、娘のバースデーヴィンテージである'98vin の「ペルカルロ Percarlo / サン・ジュスト・ア・レンテンナーノSan Giusto a Rentennano」。これまでも幾度か触れてきた私が好きなトスカーナ産赤ワインの一つです〈Link to back number〉。

 生まれ年のワインを、いつか人生の節目に開けてもらおうとした当の本人は、中学校で被災しましたが無事でした。その日、私は出張先の弘前市にいました。地震発生時刻は、仙台へと向かう高速バスが震源から遠く離れた青森県碇ヶ関付近を走行中で、乗員乗客は誰一人として地震発生に気付くことすらなかったのです。

 イタリア語では「H」を発音しないため、本名では「iroto」となるため、Carlo(カルロ) と呼んでもらうことにしている私は、割れてしまった'98ヴィンテージのPercarloが、文字通り"per Carlo"(=カルロのために)身代わりになってくれたのだと思っています。

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2011/02/20

Super Shonai(スーペル・ショーナイ)

知る人ぞ知るメルロ100%の逸品

 ブドウ品種の多様性を縮図で見るようにバリエーション豊かな品種のワインが生産されるイタリア。いち早く国際市場を意識したヴィーノ・ロッソを生み出した産地といえば、トスカーナ州西部、Maremmaマレンマ海岸地域にあるBolgheri ボルゲリを忘れるわけにはいきません。700年以上前から名醸地として名を馳せていたChianti Classicoキアンティ・クラシコ、Montepliciano モンテプルチアーノ、19世紀後半から頭角を現したMontalcino モンタルチーノといった内陸の産地とは環境が全く異なるティレニア海沿いの海洋性気候のもとで、世界最高水準にあるワイン群が生まれています。

maremma.jpg

【photo】湿地帯が広がる典型的なマレンマ海岸の風景

 ボルゲリ一帯は、近年までマラリア蚊が発生する湿地帯だったために開発の手が及ばず、イタリア国内ですら、「Maremmano マレンマ馬」の産地としてしか認知されていなかったといいます。そんな辺境の地がワイン産地として世界の檜舞台に突如として登場したのが、1978年のロンドンでのこと。英国の権威あるワイン情報誌「Decanter」が催した試飲会に11ヵ国33本のカベルネ・ソーヴィニヨンが出品され、ヒュー・ジョンソンら名だたる評論家が頂点に選んだのが、名前すら知られていなかった「Sassicaia サッシカイア」'72ヴィンテージでした。

strada_bolgheri.jpg【photo】古代ローマが敷設したピサとローマを結ぶアウレリア街道の名残りを「via Aurelia 」という別名に残す国道1号(Strada Statale 1)をSan Guidoサングイードで内陸側の脇道へ。このBolgheriボルゲリへと伸びる5kmほどの直線道路の両側には、ノーベル文学賞を受賞した19世紀の詩人ジョズエ・カルドゥッチが愛した糸杉の並木が続く

 Sassi(=小石)だらけの土地を意味するそのワインの造り手は、20世紀最高の競走馬として語り継がれる「Ribot リボー」の馬主であったマリオ・インチーザ・デッラ・ロケッタ侯爵が所有する「Tenuta San Guido テヌータ・サン・グイード」。第二次大戦前に旅先で出合ったボルドーワインをえらく気に入った侯爵が、ボルドー原産のブドウ、カベルネ・ソーヴィニヨン(以下CS)とカベルネ・フラン(以下CF)をボルゲリに所有する2,500haもの広大な領地のCastagneto Carducci カスタニェート・カルドゥッチというコムーネの一角に植えたのが1944年。最初は自家消費用に1ha のみを植えたに過ぎませんでした。

vini_bolgheri_98.jpg 【photo】GAJAやAntinori など、国内外から進出が相次ぐボルゲリと南隣りのスヴェレート。成長著しいこの地域でシンデレラ・ストーリーを打ち立てたワインたち。女性醸造家エリザベッタ・ジェペッティが運営するファットリア・レ・プッピレが、ジャコモ・タキスの監修のもとで誕生させたSaffredi サッフレディ'98、伝説の'85vinに匹敵する可能性を秘めるサッシカイア'98、ワインスペクテイター誌が2001年度に世界の頂点に選んだオルネッライア'98、ワインアドヴォケイト誌が100点を献上したレディガッフィ'00。いずれも我がセラーで睡眠中(写真左より) 

 競走馬の生産とオリーブ栽培が主で、趣味の域で始めたブドウ栽培に、次男のニコロとともに1968年から参画したのが、昨年第一線を退いた著名な醸造家ジャコモ・タキス博士でした。二人は当時としては常識外れの1ha当たり30hℓ以下という低収量に抑えたCS85%・CF15%の比率でブドウを混醸、熟成にはそれまで主流であったスロベニアオークの大樽ではなく、フランス産225ℓ容量のバリック樽を導入します。

cantina_orenellaia1.jpg【photo】 無国籍な雰囲気を色濃く漂わせるオルネッライア。当時はGambero Rosso から「インターナショナルだ」と酷評されたものの、7割を国外に輸出するという製品はいずれも高い評価を受ける

 VDT(Vino da tavola=テーブルワイン)からIGT、DOC、頂点のDOCGまでのランクに分けられるイタリアワイン法の規定に捕らわれない品種や醸造法で造られる高品質なVDTを総称する「Super Tuscan スーパー・タスカン(イタリア語では Super Toscana スーペル・トスカーナ)」の象徴として、高まる一方のサッシカイアの名声とともに、後に続いた「 テヌータ・デッラ・オルネッライア」「Le Macchiole レ・マッキオレ」や、20kmほど南にある小村Suveretoスヴェレート近郊の「Tua Rita トゥア・リータ」「Fattoria Le Pupille ファットリア・レ・プッピレ」などの成功により、新興地ボルゲリの国際的な評価は高まるばかり。

ornelloornellaia.jpg【photo】「オルネッライア」の名前の由来となったOrnello(=トネリコ)の大木が、ティレニア海を望むブドウ畑に囲まれてぽつんと立つ

 世界で最も影響力のあるといわれるワイン評論家ロバート・パーカーは、主宰する「Wine Advocate」誌1997年2月号において、'85年ヴィンテージのサッシカイアに対し、イタリアワイン初となる100点満点を献上します。同ヴィンテージは、'96年に非営利法人「Grand Jury Européen グラン・ジュリ・エウロパン」が行ったブラインドテイスティングで、ラトゥール、ラフィット、マルゴーら五大シャトーはおろか、最も高価なボルドーであるペトリュスをも打ち破り、第一位に輝きます。

azienda_ornellaia.jpg 【photo】緩やかな傾斜を描くオルネッライアの畑は、表層部が石灰岩質の鉄分を含んだ粘土質、基底部が水はけの良い砂というブドウにとって理想的な土壌に恵まれている

 大方のニューワールド産ワインには無い複雑味があり、高貴かつ厳格。なれども和食とイタリアン中心の自宅ごはんと共に楽しむには、あまりに重苦しく埃っぽく、時としてカビ臭い(と、私は感じる)ボルドー。かたやボルゲリで生産されるボルドー品種のヴィーノは、母国とは一線を画する明確な個性を持っています。ボルゲリのCS、CFは、熟成を経てなお若々しく親しみやすい優美な香りを備え、ヴィーノ単独で楽しむのは勿論、食事と合わせる場合でも守備範囲の広さが身上です。

cellar_ornellaia.jpg【photo】空調の行き届いた清潔極まりないオルネッライアの熟成庫。フラッグシップのオルネッライアは新樽と一年樽で14-18ヶ月、メルロのマッセトは100%新樽で24ヶ月の熟成

 「Tignanello ティニャネロ」「Solaia ソライア」を生んだ名門「Marchesi Antinori マルケージ・アンティノリ」を率いるピエロを兄に持つロドヴィコ・アンティノリ侯爵が、世界に通用するプレミアムワインを造ろうと醸造所テヌータ・デッラ・オルネッライアを興したのが1980年。そこは母方が姻戚関係にあるテヌータ・サン・グイードに隣接する土地でした。カリフォルニアで多大な業績を残していたロシア人醸造家アンドレア・チェリチェフを招聘、ポムロルの土壌とカリフォルニアの気候に近いボルゲリに適したCS、CF、メルロ(以下M)、ソーヴィニヨン・ブランなど、ボルドー原産品種ばかりを植樹します。'86年に完成した現在の醸造所に伝統的なイタリアらしさが微塵も感じられないのも、目指す先が国際市場であったがゆえでしょう。
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【photo】熟成中のバリック樽から、Masseto 用のメルロをサンプルとして抜き出し、試飲を勧めてくれた才能あるドイツ人醸造家アクセル・ハインツ。その名の通り、彼の起用によって、オルネッライアの品質向上が一段と加速した

 '99年にカリフォルニアの大手ワイナリー「Robert Mondaviロバート・モンダヴィ」が資本参加('05に撤退)、米国の「Wine Spectator」誌が毎年発表するWine of the year で、'98ヴィンテージが2001年に世界の頂点に選ばれた翌年、ロドヴィコが経営から退きました。現在運営に当たるのは、モンダヴィとのジョイント・ヴェンチャーで話題を呼んだ「Luce ルーチェ」を軌道に乗せていたフィレンツェの名門貴族「Marchesi de' Frescobaldi マルケージ・デ・フレスコバルディ」。モンダヴィ撤退後、フレスコバルディ家による単独経営となった'05年にミュンヘン出身の才能ある若き醸造家アクセル・ハインツを迎え入れ、CS55%・M27%・CF13%・Petit Verdotプチヴェルド5%という基本セパージュに落ち着いた近年の「Ornellaiaオルネッライア」の完成度と安定感は特筆すべきものです。
 
 海風により、年間を通して温暖な気候に恵まれ、砂礫交じりの粘土質土壌のボルゲリで、近年最も成功を収めているブドウ品種がメルロです。偉大なワインに共通するフィネスを備えたオルネッライアの「Masseto マセット」、レ・マッキオレの「Messorio メッソリオ」、トゥア・リータの「Redigaffi レディガッフィ」・・・。元祖スーペル・トスカーナといわれるサッシカイアが築いたボルゲリの名声をより一層高めたこれらの立役者たちは、CSよりタンニンが少なくまろやかで早熟なメルロ(以下M)の聖地と考えられてきたジロンド河右岸域Pomerol ポムロル産の希少性ゆえ高値を呼ぶ「Le Pin ル・パン」や「Petrus ペトリュス」の実力に比肩するまでになりました。

masseto_06.jpg【photo】「イタリア版ポムロール」ともいわれるメルロ100%の「Massetoマセット」。天候に恵まれたこの'06ヴィンテージは、ワインアドヴォケイト誌で、ほぼパーフェクトである99点のハイスコアをマーク

 設立当初より特別顧問として迎えられた仏国の著名な醸造コンサルタント、ミシェル・ロランは、当初ブレンド用に植えた7haの区画「Masseto マセット」で収穫されるメルロの品質が目覚しいものであったため、単独でのボトリングを指示します。区画の名を冠したそのワインは、樹齢が上がると共に品質の向上が著しく、初ヴィンテージとなる'87年以降、最新ヴィンテージ'06年がWine Advocate 誌で99点、'04年は97点、Wine Spectator 誌が'01年に100点を付けるなど、非の付けどころのない評価をほしいままにしています。あえて欠点を申すなら、上昇の一途をたどる市場価格ぐらいでしょうか(笑)。そう遠くない将来、ボルゲリとスヴェレート一帯は、メルロの新たな聖地として、ワインラヴァー垂涎の地となることでしょう。

 愛好家なら知らぬ人の無い傑出したヴィーノばかりが登場したところで、話題は急転直下、知る人ぞ知る日本が生んだメルロワインの逸品に移ります。とはいえ、国産最高峰といわれる長野県塩尻市桔梗ヶ原地区の「メルシャン 桔梗ヶ原メルロ」がお題ではなく、タイトルにある通り「Super Shonai(スーペル・ショーナイ)」が今回の主役です。あらかじめお断りしておきますが、このスーペル・ショーナイ、ごく初期のサッシカイアがそうであったように、自家消費用に造られる超・限定の非売品につき、一般には入手不可能である点をお含み下さい。
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【photo】佐久間良一さん・みつさんの畑で実を結んだメルロ

 顆粒が小さいため、醸造用の品種であることが明らかなブドウを山形県東田川郡櫛引町の佐久間 良一さん・みつさんの畑で目にしたのが今から8年前のこと。日々厨房に立ち、料理人としての本分を貫いていた頃のアル・ケッチァーノ奥田シェフに「こちらが契約しているブドウ生産者の畑です」と情報誌「ALPHA」の取材で案内された時のことです《 Link to backnumber 》。

 日本で一般的な棚式栽培で育つ佐久間さんのブドウ畑を改めて訪れた際、みつさんからそのブドウが県内のワイナリーに醸造を委託しているメルロであることを伺いました。醸造用の品種とはいえ、ブドウに変わりはありません。庄内産メルロの味やいかにと、生食用に毎年少量を収穫させて頂いています。山寄りにある旧櫛引町は夜間に海風が対流して吹き降ろすために昼夜の寒暖差が生じ、ブドウ栽培に適した土地です。夏季の日照時間が日本でも屈指の多さである庄内地方は、芽吹きが早いゆえ春先の霜害さえ注意すれば、早熟な品種であるメルロに有利な条件を備えているのです。

 同じ畑で育つ大玉ブドウの果粒と比較すれば、1 / 5 にも満たない大きさでしかなく、種無しにするジベレリン処理も施さないメルロだけに、房からつまんで食べる際に若干せわしないのが文字通り玉にキズですが、そんな些細なことはなんのその。糖分が十分に乗ったメルロは生食しても極めて美味しいブドウです。'98ヴィンテージ生まれの我が娘は、何故かこのメルロがお気に入り。私から受け継ぐDNA がそうさせるのでしょうか??

vina_sakuma.jpg【photo】期待以上のパフォーマンスを発揮した佐久間さんが2006年に収穫したメルロで仕込んだワイン

 本来の用途を伺っていたので、ワインの存在は知っていながら、少量生産ゆえ実際に口にしたのが最近のこと。降雨量が多い我が国では、生食用のブドウは雨除けを施した棚式栽培が主流です。棚式は収量が見込めるため、生産効率からも農家から歓迎されました。

 対してスーペル・トスカーナのように国際市場を意識したワイン醸造用のブドウは、房の数を減らして葉に日光がよく当たるように剪定しながら垣根式で栽培されるのが一般的。イタリアでも棚式栽培と構造が同じPergola ペルゴラ仕立てまたはTendone テンドーネ仕立てで有機栽培するブドウを使い、白ワイン用のTrebbiano トレッビアーノに至っては、今なお足踏みによる破砕を行う、"自然派"などという軽佻なジャンル分けを拒絶するような並外れた「Montepulciano d'Abruzzo モンテプルチァーノ・ダブルッツオ」を作り出す「Emidio Pepe エミディオ・ペペ」のような例外はありますが、今では少数派となりつつあります。

super_shonai_toscana.jpg【photo】スーペル・トスカーナ「マッセト'98(中央)」とスーペル・ショーナイ「佐久間良一さんの秘蔵ワイン'06(右)&'08(左)」

 しかるに棚式栽培のメルロ100%のワインはどうだったのか?「今、'06年はいいカンジになってっからね~」と頂く時に佐久間さんが仰っておられた言葉通り、いや、予想をはるかに上回るその出来には正直驚かされました。リーデルのボルドーグラスから立ち上がる香りは、まさにメルロそのもの。ゆっくりと黒味がかったガーネットの液体をスワリングすると、豊富なミネラル分をうかがわせる筋が幾重にもグラスの内側を垂れてゆきます。青臭さや鋭いエッジのきいた酸味など微塵もなく、しっとりと見事なまとまりを見せてくれます。

 おお、これは素晴らしい! かつてSuper Tuscan なる造語を生んだワインジャーナリストであれば、このメルロに「Super Shonai スーパー・ショーナイ」の称号を与えることでしょう。熟成のピークを過ぎ、枯れ果てたオールドヴィンテージ以外の良いワインほど、抜栓した翌日の2日目、3日目が美味しいことがよくあります。実力を見込んだ佐久間さんのメルロでも過度の酸化を防ぐためバキュバンを施してから、日を改めて頂きました。すると、初日より更に厚みが増し、ましてやフィニッシュが腰砕けになることもなく、長い余韻を残し、「さすがスーペル・ショーナイ」と唸らせる期待通りの変化を見せてくれました。もう一本残っている'08ヴィンテージにも大きな期待が広がります。

 そういえば、このワインのエチケッタ(=ラベル)、どことなくMesseto に似ていませんか?

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2010/08/22

イタリアソムリエ協会式テイスティング 〈後編〉

多様な食とワインの組み合わせの新たな座標軸
 @ ピエモンテフェスティバル presented by 宮城・ローマ倶楽部
 

前編より続き》 
ICT_workshop1.jpg【photo】 AISイタリアソムリエ協会式試飲メソッドによるピエモンテ州のワインと宮城県産食材を用いた料理の組み合わせのコツを学んだワークショップ会場

 1980年代後半以降巻き起こった「イタ飯ブーム」のもと、良質なイタリア料理店が東京・大阪の大都市圏を中心に増殖しました。バブルの余熱を引きずっていた'90年代半ばまで、銀座8丁目の並木通りに面した支社に勤務していた私は、食の分野だけでなく(前世における)母国イタリアの多岐にわたる魅力が急速に日本に浸透してゆく様子を胸のすく思いで目の当たりにしたのです。それから15年あまりを経て、食材に恵まれた地方ならではのアプローチで頑張っているイタリアンが脚光を浴び、日本のイタリア料理シーンは多様化の時代を迎えています。

ICT_workshop2.jpg【photo】 イタリアン・クリナリー・ツアーズ社が窓口となる日本人向けソムリエ研修の責任者で、AIS 認定ソムリエの資格を有するコスタンティーノ・トモポウロス氏(左)による講習のひとこま。右は通訳を務めた同社日本窓口の渾川 駒子さん

 日本のイタリア料理は、世界最高峰のレベルにあるとイタリア人自身が語るほど完成度が高いものです。'90年代以降、イタリアで料理を学ぶ日本人が激増し、繊細な日本人の感覚でイタリア各地の料理が磨き上げられてゆきました。大都市より地方に美味しいリストランテが存在するイタリアでは、いかなる辺鄙な場所であろうと日本人が厨房で働いています。彼らは多くの場合、北から南まで数か所の店で技術を習得します。南北に長いイタリアの食文化は、地方ごとに特色ある料理とワインが表裏一体で結びついています。器用なジャポネーゼとはいえ、時間的制約や言葉の問題もあって、調理技術の習得はできてもヴィーノに関する本格的な勉強までは手が回らないのが実情のようです。

【photo】 第一次大戦後の混乱で経営が行き詰った醸造組合 Ai Vini delle Langhe を買い取ったアルフレード・プルノットが興したカンティーナPrunotto〈Link to website〉。1989年からはトスカーナの著名な Antinori 一族の当主ピエロ・アンティノリの長姉アルビエッラが三代目の経営者として運営にあたっている。透明感のある心地よい香りのロエロ・アルネイス'07
       
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 東京に次々とイタリア料理店が誕生していた当時、イタリアワインに関する広範な知識と料理との組み合わせに関する実践的なノウハウを有する J.S.A.日本ソムリエ協会認定ソムリエは、現在同協会の副会長を務める荒井 基之氏を除いて存在しませんでした。家庭の食卓を含め、カジュアルな店からエレガントな高級路線までイタリア料理がすっかり定着した現在でも、バリエーション豊富で日々の食事をより美味しくしてくれるイタリアワインの魅力が理解されていないのは、輸入ワインに占めるイタリアワインのシェアが2割にも満たない事実からも明らかです。街の規模に比して良質なイタリアワインを扱う店がごく限られる仙台にあって、宮城・ローマ交流倶楽部の主催により実現したのが、今回の催し「宮城の食材とピエモンテ産ワインのマリアージュ」です。

【photo】 自家栽培以外の購入したブドウから造られる Prunotto バルベーラ・ダルバ'07は、2年続きで理想的な収穫が得られた年。前菜から赤身の肉料理、チーズまでと汎用性が高い1本
       ICT_barbera.jpg ICT_barbera2.jpg

 宮城・ローマ交流倶楽部とスローフード宮城の招きで昨年初めて仙台を訪れた【Link to backnumber】イタリアン・クリナリー・ツアーズ社のダニエラ・パトリアルカ代表からピエモンテ料理の歴史と特色について映像を交えながら説明を受けた後、生野菜スティックをアンチョヴィソースで頂く Bagna càuda バーニャ・カウダや牛肉の赤ワイン煮込み料理 Brasato al Barolo ブラザート・アル・バローロなど、ピエモンテ料理の数々に67名が舌鼓を打った「ピエモンテ郷土料理とワインの夕べ」に先立ち行われたワインセミナーには、30名ほどが参加。一般のワイン愛好家に混じってOsteria Cucinetta オステリア・クチネッタ橋本シェフや Osteria da Kurihara オステリア・ダ・クリハラ 栗原シェフらプロの料理人の顔もありました。

 宮城の食材を使った料理とピエモンテ産ヴィーノのAbbinamento アッビナメント(=組み合わせ。日本では通常「マリアージュ」という仏語を使う)を、イタリアソムリエ協会(以下AIS と略)方式に則ったテースティング・ワークショップで披露する講師を務めたのはダニエラさんのパートナーで、AIS ソムリエの資格を持つコスタンティーノ・トモポウルス氏です。ワインと食材の味の特徴を1~10までの間で数値化し、独自のチャート表を用いて相性の良し悪しを判断するAISの手法は非常に興味深いものでした。

【photo】 名醸地 Barbaresco からNeive,Treiso 一帯の土壌はマグネシウム・マンガン・亜鉛を多量に含み、骨格のしっかりした力強いワインを生む。契約農家から購入したブドウを厳選して造るPrunotto バルバレスコ'05 はネッビオーロらしい淡いレンガ色を呈する。Barbaresco 地区で自家栽培するブドウを仕込むクリュワイン Barbaresco Bric Turot も造られる
        ICT_barbaresco.jpg ICT_barbaresco2.jpg

 イタリアではGrongo グロンゴと呼ばれ、ウナギ同様にブツ切りのフリットで食されるアナゴはまだしも、笹かまぼこを口にするのは初めてと明かしたコスタンティーノが試飲用にセレクトしたピエモンテ産ワインは、泡もの1 本・白1 本・赤3 本の計5 本。ブドウ品種は、Moscato bianco モスカート・ビアンコ、Arneis アルネイス(別名:ネッビオーロ・ビアンコ)、Dolcetto ドルチェット、Barbera バルベーラ、Nebbiolo ネッビオーロの5種類。アルト・アディジェ地方やオーストリア国境に接するチロル地方を除き、ほぼ全土で栽培されるモスカート以外はピエモンテ原産のブドウ品種を混醸せず、単一品種から造られたものばかりです。

 最初に分析するのが、グラスに注ぐ際やグラスをスワリング(=回転)させて判断する粘性の高さ・色合い・透明度など視覚から得られる情報です。そこから土壌由来のミネラルや果実エキス成分が多いか、熟成度合いはどうかといった情報を得ることができます。次に香りをかぐことで、その強さと香りの特徴を捉えます。最も大切なのが実際に口に含んで感じる味わいで、AIS式メソッドでは放射状に0~10までの数値で香りの強さ・アルコール・タンニン・酸味・甘味の強弱などを項目ごと表にプロットしてゆきます。

【photo】 Poderi Luigi Einaudi ドルチェット・ディ・ドリアーニ・ヴィーニャ・テック'07。のちにイタリア共和国第2代大統領となる23歳のルイージ青年が、1897年に故郷で自らの名前を冠して興した由緒正しきカンティーナ〈Link to website〉。若飲みに向くドルチェットの最良形が単独のDOCGに近年昇格したDogliani の地で造られる。60年前後の樹齢の古木から造られる粘性の高さが伺えるこのVigna Tecc は複雑味・ボリューム・力強さともに充分。AIS発行の評価本Duemilavini では、'07ヴィンテージは最高点に次ぐ4グラッポリ、前年'06 は最高点 5グラッポリとGambero Rosso でも最高点トレ・ヴィッキエリに輝いた
        ICT_dogliani.jpg ICT_dogliani2.jpg

 次に組み合わせようとする食べ物の特徴を脂肪分の量・多汁性・味の濃さ・スパイシーさ・酸味などの項目別に同じく数値化します。用意された宮城県産食材を用いた料理は、スライスした笹かまぼこにゴルゴンゾーラ・ドルチェとクリームタイプの二種類のチーズがサンドされたミルフィーユ仕立てにした一皿と、歯ごたえを残すようオリーブオイルでマリネしたパプリカ・ズッキーニ・ネギの上に香ばしく白焼きした石巻産穴子が載ったもの。

 仮にヴィーノと食べ物の各項目が全て10点満点だとすると、二つの正三角形が上下逆に対称で重なり合う形となります。料理とヴィーノの相性は、チャートの対極にある特徴を備えたもの同士が合うと判断します。例えば動物性脂肪の多い甘さを感じる料理には、円形のチャート表で反対側に項目が記された酸味がしっかりしたヴィーノか発泡性のあるスパークリングワインを、その度合いに応じて合わせるといった具合。各数値を線で結んで円形に近いほどバランスが取れたヴィーノであり、料理ということになります(⇒一番下の写真を参照願います)

【photo】 Gancia アスティ・スプマンテ NV。ほぼイタリア全土で栽培されるモスカート種から造られる甘口発泡性ワイン。比較的手頃な価格だが、発泡性ワインだけでなく、世界のデザートワインでも珠玉の1本に挙げてよい。デリケートでフローラルな香りが際立つこのスプマンテは、1850年にピエモンテ州アスティ県カネッリで Gancia 社〈Link to website〉を創業したカルロ・ガンチアが1865年に編み出した密閉タンクを用いた特殊製法で造られる
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 壇上のコスタンティーノは、まずはヴィーノを、次に料理のテイスティングをして、用意したAIS方式のチャート表にそれぞれの特徴を数値化し記入してゆきました。コスタンティーノの判断では、チーズ由来の乳脂肪分を7 ポイントと評価した笹かまぼこのミルフィーユには、アルコールの熱さと酸味を感じるバルベーラ・ダルバか、酸味と旨味が7~8ポイント程度としたロエロ・アルネイスが合うだろうという見立てでした。

ICT_workshop4.jpg 【photo】 仙台名産、笹かまぼこのミルフィユ。淡白な白身魚のすり身を使ったかまぼこの間に挟まるゴルゴンゾーラとクリームチーズが脂肪の存在を主張する

 AIS式メソッドで重視する料理とのアッビナメントを実際に試してみると、酸味のあるロエロ・アルネイスではドライトマトとバジルの風味が残ることと、チーズの風味に負けていることが確認され、悪くはないが最良の選択ではないことがわかりました。対してバルベーラ・ダルバでは互いの風味がマッチし、チーズの脂肪が消える一方で、口の中に残るタンニンが心地よく、次の一口を欲する理想的な組み合わせであることが確認できました。会場に感想を求めたコスタンティーノにうなずく一同。

ICT_workshop5.jpg 脂分のない穴子のグリルに関しては、野菜の水気と白焼きによる香ばしさが増していることから、薫り高いヴィーノが合うはずとの見立てがされ、実際に組み合わせを試みました。酸が特徴的なバルベーラ・ダルバではバランスが悪く、アルバ近郊のドリアーニ産ドルチェットでは、土壌由来のミネラル分とタンニンが強く出過ぎてしまいます。そこでベストな選択として残ったのが、プルノット社のバルバレスコでした。作り手によって多様な個性を持つバルバレスコですが、この作り手はバランスを重視したものです。2005年産とまだ若く、グラスにサーブされた直後の固さが取れたバルバレスコと穴子の相性の良さは偉大な品種ネッビオーロとしては意外なほどでした。

【photo】松島産穴子のグリルと夏野菜のマリネ

 通常は複数のカンティーナ訪問なども織り交ぜ、栽培から醸造に至るプロセスなど12 回の講座で学ぶ内容に対して、コスタンティーノにこの日与えられた時間は2時間ほど。Tomopoulos という名から推察するに彼の遠い祖先にあたるであろう古代ギリシャ人が "ブドウの大地" を意味する「エノトリア・テルス」と名付けたほど恵まれた栽培環境にあるイタリア半島で育つ多種多様なブドウを、個性的な作り手が伝統と革新を織り交ぜた手法で造るイタリアワイン。そんな vini italiani の魅力を充分に伝えるのは2時間では impossibile (=無理)だとコスタンティーノは言っていたようですが、いえいえどうして。

ICT_workshop3.jpg 【photo】AIS式試飲メソッドの特徴である料理との相性をみる独自のチャート表で自身のテイスティング結果について解説するコスタンティーノ

 セミナーに参加したJ.S.A.シニアワインアドバイザーでもある仙台市青葉区のチーズ専門店オー・ボン・フェルマン 安達 武彦オーナーは、J.S.A.との違いが鮮明なAIS方式に初めは戸惑いも感じたようですが、次第に「こうした手法もあるのか」と、見識を新たにしたようです。イタリアン・クリナリー・ツアーズ社日本窓口の渾川(にごりかわ)駒子さんによると、AIS方式はJ.S.A.ソムリエから「お客様に接する上で新たな座標を見出すことができる」と総じて好意的に受け入れられているとのこと。

 Vino rosso italiano が全身に流れる私は、あまたのヴィーノの洗礼を受けており、呑むリエの資格は十分すぎるほど。それでも体系立ててアッビナメントについて実演がなされた今回の催しは新たな発見に満ちたもので、探究心が改めてメラメラと燃え上がりました。この上はレストランでの実地研修を含め、6 ヶ月に及ぶ実際の研修をトリノで受けるしかなさそうですが、まずは不撓不屈・堅忍不抜の精神で日々の稽古を怠らず、一意専心の気持ちを忘れず不惜身命を貫く覚悟を固めたのでした。どすこい、どすこい。
今宵もごっつあんです。 (*`´)_Y cin cin!!

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2010/08/15

イタリアソムリエ協会式テイスティング 〈前編〉

多様な食とワインの組み合わせの新たな座標軸
 @ ピエモンテフェスティバル presented by 宮城・ローマ交流倶楽部

 およそ400年前、仙台藩主・伊達政宗は、スペインとの交易を目的に支倉常長ら慶長遣欧使節を欧州に派遣します。帆船サン・ファン・バウティスタで太平洋を渡り、メキシコを経由してスペイン国王フェリペ3世やローマ教皇パウルス5世と常長らが謁見した史実から、宮城県とイタリア・ラツィオ州ローマ県は姉妹県の関係にあります。「宮城・ローマ交流倶楽部」(会長:西井 弘 弘進ゴム株式会社取締役会長)Link to website】は、イタリアとの相互交流を行う民間団体です。daniela_hiroshi_nishii.jpg同倶楽部の主催で先月初旬、仙台国際ホテルを会場に「ピエモンテフェスティバル」が催されました。「宮城の食材とピエモンテ産ワインのマリアージュ」と題するワークショップで披露されたイタリアソムリエ協会Associazione Italiana Sommeliers 以下、略称のAISと表記)式試飲メソッドで、料理とヴィーノが互いを高めあうイタリア食文化の美点を改めて体感してきました。

【photo】イタリアソムリエ協会公認ソムリエ資格取得のための日本人向け研修プログラムの窓口となるイタリアン・クリナリー・ツアーズ社代表のダニエラ・パトリアルカさんから名誉ソムリエの称号を受ける西井 弘 宮城・ローマ交流倶楽部会長

 日本ソムリエ協会(略称 J.S.A.)が認定するソムリエ試験のテイスティング実技は、Degustation デギュスタシオンなる舌を噛みそうな仏語が正式な呼称です。そこでワインの香りや味わいの例えに用いられるのが、鉛筆・コショウ・カカオ・杉・バラ・新樽由来のバニラ香など。こうした馴染みのあるモノはまだしも、完熟した黒スグリ・レッドカラント・キイチゴ・リコリス(スペイン甘草)・熟成による濡れ落ち葉や土の香りとなると、簡単には思い浮かばない方が多いのでは? これはワインを単体で評価するワインジャーナリズムが発達している英国や仏国を規範とする J.S.A.の方針によるものです。

bagna_cauda_rc.jpg【photo】現代の名工、中村 善二 仙台国際ホテル総料理長が監修したピエモンテフェスティバルで供されたバーニャ・カウダのアンチョヴィには石巻産のイワシを使用したという

 夏野菜をたっぷりと使ったカポナータ(=南仏のラタトゥイユでは用いないビネガーと砂糖を加えた南イタリア料理)、スティック状の冬野菜をアンチョビ・ニンニクとオリーブオイルなどから作る温製ディップソースで頂くバーニャ・カウダ、分厚い赤身の牛肉を塩・胡椒でシンプルにグリエしたビステッカ、白身魚をアサリやトマト・ケイパーなどと水煮するアクアパッツァ、そして各種パスタ料理やリゾットなどなど...。こうしたイタリアンに関しては、ヴィーノがないと嚥下(えんげ)機能が著しく低下して咽喉を通らなくなるラテン体質な私は、一介の「呑むリエ」に過ぎません。イタリア人がそうであるように、美酒が食事をより一層美味しくしてくれれば、それで十分。イタリアの片田舎にあるトラットリアでは、地元の人たちがカラフェに入ったその地方産のハウスワインで食事とおしゃべりに興じている光景に出合います。

Mr.nakamura_rc.jpg【photo】ピエモンテならではの贅沢な肉料理「Brasato al Barolo ブラザート・アル・バローロ(=牛肉のバローロ煮込み)」をサーブする中村 善二 仙台国際ホテル総料理長

 一見、無頓着に地元のヴィーノを選んだかのように見えるイタリア人たちの食卓にも、食事とワインのマッチングには、最低限のお約束は存在します。なにせ幼少の頃から水で薄めたヴィーノで舌のトレーニングを積んでいる人たちのこと。体感的に料理の味付けの濃淡とヴィーノのボディをあわせる彼らの鉄則からすれば、魚介や野菜の入った軽やかで繊細な冷製パスタには、強靭なタンニンが口腔を覆うアリアニコ種から造られるTaurasi タウラージなどフルボディの偉大な赤ワインでは釣り合いません。食事とヴィーノの産地を同一地方で合わせる彼らのセオリーからすれば、白トリュフの濃厚な香りに満たされるスクランブルエッグに、南イタリア屈指の高貴な白品種フィアーノ種を持ってきたのではお互いの美点を掛け算で高め合うことはないでしょう。

sommelier_franciacorta.jpg【photo】スローフード協会主催のSalone del gusto サローネ・デル・グストで行われたフランチャコルタのセミナーで参加者にサービスするAIS公認のソムリエ(右)とソムリエール(左)

 Enologia(=ワイン学)とGastronomia(=日本語では美食学と訳されるガストロノミー)を組み合わせた Enogastronomico エノガストロノミコという言葉が存在するイタリアにおいては、ワインと食事は常に一体のものとして考えられてきました。ゆえにイタリアのソムリエ資格試験においては、ワインのみならず食べ物も視覚・嗅覚・味覚を駆使して体系的に特徴を把握します。日本のようにワインを多彩な言葉を用いて表現するのではなく、食事との相性・組み合わせに重点を置くのです。こうしたイタリアソムリエ協会方式は、ワインを本来の食中酒として楽しむ一般のワインラヴァーにとって、極めて使える技能となるはずです。

duemilavini2010.jpg

 ミラノ北西部、モンツァ通りにある日本料理店「木村」【Link to website】(⇒寿司ブームに沸くイタリアでも、中国系移民の経営によるこうした怪しげな日本料理店の何と多いことよ!! この店もサイトのBGMは中国語ゆえ、店名も看板にあるKimura ではなく、Mùcún ムーツンと中国読みするやも? )の向かいに本部があるAISは1965年の創設。4年後に発足した世界ソムリエ協会 Association de la Sommellerie Internationale (略称:A.S.I. 本部:パリ。Moët & Chandon社がスポンサードする同協会は後にイタリア主導のワールドワイド・ソムリエ・アソシエーション Worldwide Sommelier Association 略称:W.S.A. と分裂。現在J.S.A.日本ソムリエ協会はA.S.I.に加盟。45カ国で構成されるA.S.I.会長には、J.S.A.会長でプリンスホテルシェフソムリエの小飼 一至氏が2007年に就任。A.S.I.副会長は'95年に同団体が主催するコンテストで優勝した田崎 真也氏)の立ち上げにも主導的な役割を果たしました。

【photo】毎年50名のソムリエがイタリア全州のヴィーノを試飲、Grappolo (ブドウの房)の数でヴィーノを評価するイタリアソムリエ協会発行のワイン評価本Duemilavini (上写真)

 分派した格好のW.S.A.には日本を含めて英・米・独・露など14カ国が参加しています。AIS には国内20州全てに支部があり、さらに町単位の支部が存在します。日本にも支部があるAISは全世界で40,000人の会員を擁します。主な活動としては、柱となるイタリアワインの啓蒙普及活動とソムリエ育成のほか、2000年以降毎年版を重ねているワイン評価本「Duemilavini ドゥエミッラヴィーニ」の発行が挙げられます。11冊目となる2010年版では、1,792ページに渡って1,592 の醸造所が取り上げられています。AISのソムリエが 2万本以上のヴィーノを試飲、最高位の5 Grappoli チンクエ・グラッポリ(=5つのブドウ房)には279 醸造所の319銘柄が輝いています。

vini_rc7.3.2010.jpg【photo】史上初めてイタリア人と接した日本人、支倉常長の偉業にちなんで発足した「宮城・ローマ交流倶楽部」が主催したピエモンテワイン・ワークショップで試飲したヴィーノ。北イタリアらしい繊細な個性を持ち合わせたこれら5 本については、次回ご紹介

 日本のワイン消費量のおよそ半数はフランスワインで占められます。国内消費が主で海外進出が遅れたイタリアワインはその半分にも満たない2 割弱に過ぎません。2009年のデータでは、世界のワイン総輸出量の21.5%を占めるイタリアが頭一つ抜け脱して第一位。シェア16.5%で2位に食い込んだスペインに続くのがフランスで14.5%。にもかかわらず半数をフランスからの輸入で賄う日本と世界の実情との明確な違いの背景として、同じ目標のために国を挙げて行動するのが不得手なイタリア人特有の資質(笑)のみが災いしているのではないようです。世界的に消費が伸びているカリフォルニアやチリ、オーストラリアといったニューワールド産ワインの市場拡大がさほど進まず、旧態然としたブランド志向が根強い日本人のワイン消費傾向が数字から浮き彫りになってきます。冷涼な気候ゆえに赤ワインの自国生産がほとんど出来ない世界最大のワイン輸入国ドイツや、世界第二位のワイン消費国であるアメリカとフランス語を公用語とするケベック州がある隣国カナダですら、イタリアワインのシェアがフランスワインを上回っているという事実だけを述べておきましょう。
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【photo】多種多様なイタリアワインの概要を知るにはうってつけの中川原まゆみさんの著作2点。主要100品種ガイド土着品種で知るイタリアワイン(左)イタリアワイン・スタンダード110(右)

 急速な経済成長による富裕層の登場で、フランスワインの輸入量に関しては、もはや日本の数字を上回った中国は、ワイン消費のみならずブドウの作付けも右肩上がりで増えています。こうした新興の生産国を含めて世界中で最も栽培されているブドウ品種は赤がカベルネ・ソーヴィニヨン、白はシャルドネです。栽培環境を選ばない汎用性の高いこの二つのブドウ品種は、当然イタリアでも栽培されますが、画一的なニッポンのお米のようにコシヒカリに右倣えでは、個性と多様性の国イタリアらしくありません。万年雪に覆われた北の山岳地帯の斜面からアフリカ大陸にほど近い灼熱のシチリア南端の島々まで、起伏と変化に富んだ地形と気候のもと20州全てでブドウが栽培されます。資料によって数は異なりますが、その種類は400を超え、各地の風土に順応して変異したクローンまで細分化すれば優に2,000はあるともいいます。

 郷土料理の良き伴侶として愛されてきたイタリアワインは、その多様性ゆえに理解することが難しいといわれ、ワイン消費に関しては後発国の日本での普及を妨げる一因となってきました。その上、Barolo・Barbaresco の原料となる北イタリア随一の高貴なブドウ品種Nebbiolo ネッビオーロは、Nebbia (=霧)に霞むランゲ丘陵以外のブドウ畑では、本来の強靭で妖艶な魅力あるワインとなることはありません。Brunello di Montalcino など中部トスカーナで最良の結果を生むSangiovese サンジョヴェーゼは、晩熟型のため、収穫期に気候が安定しない地域ではリスクが高くなります。原産地以外への旅が出来ないイタリア品種は、やはり産地で食事とともに味わってこそ、その魅力が初めて理解できるのでしょう。

m_nakagawara.jpg【photo】美食の都・ボローニャを拠点に、イタリアワインの魅力を紹介する活動を展開する中川原まゆみさん
〈撮影:渡邉 高士 氏〉

 今回のセミナーに登場した5 品種を含め、イタリア固有の主要100品種で作られるヴィーノを紹介する中川原まゆみさんの労作「主要100 品種ガイド 土着品種で知るイタリアワイン」(産調出版刊)は、百花繚乱のイタリアワインを理解する上で格好の一冊です。初出から2年を経て改訂版を出した昨年、中川原さんは州別にヴィーノの特色を表す日本でも入手可能な110本と、その良き伴侶となる郷土料理110種のレシピを紹介した「イタリアワイン・スタンダード110」(インフォレスト刊)を上梓します。

 イタリア料理好きが高じ、東京でレストランを開業するも、さらに高みを目指すため、2001年3月単身イタリアに渡った中川原さんは、イタリアン・クリナリー・ツアーズ社が現在日本での窓口となる AIS ピエモンテとの共催による6カ月のソムリエ研修プログラム【⇒詳細はコチラに参加します。同年9月、日本人女性初のイタリアソムリエ協会公認の上級資格、Sommelier Professionista ソムリエ・プロフェッショニスタを取得。AIS主催のPremio Internazionale del Vino 2008(インターナショナル・ワイン・アワード2008)で最優秀レストラン&ワインリスト賞に輝いた1,800種に及ぶ壮麗なワインが記載された131ページのワインリスト〈clicca qui 〉を備えたエミリア・ロマーニャ州の名リストランテ「Paolo Teverini 」のソムリエールとして活躍、現在は輸出業のかたわら執筆活動を続けています。

 と、ここまで前置きだけで本題のテイスティングまで一向にたどり着かないまま、中川原さんの本でイタリアワインに関する予習をして頂いたところで、当日の模様は後編にて... (^_^; A

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2010/05/30

キアンティ・クラシコ協会会長が来仙

カステッロ・ディ・アーマ試飲会 with 醸造責任者
マルコ・パッランティ氏 @ENOTECA仙台店

 イタリアワインの産地としての知名度にかけては、バローロと双璧をなすであろうキアンティは、生産地域が広大なためにエリアによって持ち味が異なります。エリアの中心に位置し、品質的に高い水準にあるのがChianti classico キアンティ・クラシコです。その生産者組織である「Consorzio Vino Chianti Classico キアンティ・クラシコ協会」には現在597の生産者が加盟しており、このうち350のカンティーナが自社銘柄のヴィーノをリリースしています。同協会の会長を務めるMarco Pallanti マルコ・パッランティ氏が、ワイン専門店「Enoteca エノテカ」の招きで仙台を5月22日(土)に訪れました。

presidente_pallanti.jpg【photo】キアンティ・クラシコ協会会長マルコ・パッランティ氏

 今年3月に満を持して仙台市青葉区の藤崎一番町館1Fにオープンしたエノテカ(=イタリア語でワインショップの意味)仙台藤崎店(藤田 郁 店長)が企画したのは、マルコ・パッランティ氏が醸造責任者を務めるカンティーナ「Castello di Ama カステッロ・ディ・アーマ」の有料試飲会。3年前に宮城・ローマ交流倶楽部がピエモンテ州のワイン生産者を招いて会員向けに交流試飲会を催した例などを除けば、一般のワイン愛好家が生産者の生の声を聞きながら試飲ができる機会は、ほとんど仙台ではなかったと記憶しています。料飲関係者向けセミナーやFoodex のような主に業者を対象とする展示会が頻繁に行われる東京とは違い、仙台のワインラヴァーが、国外の生産者との接点を持つ機会はごく限られているのが実情です。

tutti_ama.jpg 【photo】試飲アイテム6本。左よりAl Poggio アル・ポッジョ'08(サイン入り)、Chianti classico Castello di Ama キアンティ・クラシコ・カステッロ・ディ・アーマ'06、同'00、Chianti classico Vigneto La Casuccia キアンティ・クラシコ・ヴィネート・ラ・カズッチャ'04(サイン入り)、L'Apparita ラッパリータ'05、Vinsanto ヴィンサント'04 の豪華なラインナップ

 キアンティ・クラシコ協会第12代会長の要職にあるマルコ・パッランティ氏は、キアンティ・クラシコでも屈指の醸造家として知られます。イタリアを代表するワイン評価本であるGambero Rosso ガンベロ・ロッソによって最優秀醸造家に選出されたのが2003年。2年後にはカステッロ・ディ・アーマがベストワイナリー・オブ・ジ・イヤーの栄誉にも輝いています。カステッロ・ディ・アーマに関しては、2年前に「グレートヴィンテージ・1990年のキアンティ【Link to back numuber】」で詳しくご紹介しています。よもやイタリア屈指の醸造家と仙台でお会いできるとは思ってもいなかったのが正直なところ。ゆえに今回の催しは何としても見逃すわけにはいきませんでした。miyajima_isao.jpg会場に顔を見せた藤崎のワイン担当庄子さんも、まず仙台には来ない方ですよ!と参加者に力説していました。エノテカさん、あなたは偉い!

【photo】参加者の質問に気軽に応じるマルコ氏(左)とワインジャーナリストの宮嶋 勲氏(右)

 開始予定時刻の10分前に着いたとき、すでにマルコ・パッランティ氏は通訳として同行していたワインジャーナリストの宮嶋 勲氏とともに店においででした。国内消費は3割以下で、7割以上が国外で消費されるというキアンティ・クラシコ。世界をフィールドにビジネスを展開するキアンティ・クラシコ協会会長はイタリア人といえども時間に正確なのでした。1959年(昭和34)、京都に生まれた宮嶋氏は、某新聞社のローマ支局勤務中にイタリアの食文化、特にワインに魅了され現在の道に進んだといいます。帰国後はイタリアの権威あるワイン評価本「Le Guide de l'Espresso エスプレッソ誌」で唯一の日本人テイスターとして活躍する一方で、日本のワイン専門誌「Vinotheque ヴィノテーク」などでイタリアワインに関する紹介を続けています。

Guidoriccio_da_fogliano.jpg【photo】シエナ派の画家シモーネ・マルティニ作とされるグイドリッチョ・ダ・フォリアーノの騎馬像。騎乗の傭兵隊長が向かう先の砦が現在もフレスコ画に描かれた塔の痕跡が残るトスカーナ州グロッセート県のMontemassi モンテマッシ(上写真)
 カステッロ・ディ・アーマのヴィーノには、シエナの英雄グイドリッチョ・ダ・フォリアーノの騎馬像があしらわれる。誇り高き金色の騎士が描かれたのはマルコ氏にサインを頂いたお宝ワイン Chianti classico Vigneto Bellavista キアンティ・クラシコ・ヴィネート・ベラヴィスタ '97(下写真)

Bellavista_97.jpg 30名定員の試飲会に用意されたアイテムは白1本、赤4本、デザートワイン1本の計6本。カステッロ・ディ・アーマのエチケッタには全てシエナ派の画家 Simone Martini シモーネ・マルティニの手になる傭兵隊長グイドリッチョ・ダ・フォリアーノ像が描かれています。キアンティ・クラシコのエリアでも南端にあるガイオーレ・イン・キアンティは世界遺産の街Siena シエナのすぐ北側。13世紀に整備されたカンポ広場に面したPalazzo Pubblico(=市庁舎)の Sala del Mappamondo (=世界地図の間)に描かれたフレスコ画は、1328年にシエナが行ったMontemassi モンテマッシ攻略の功績を称えたものです。シエナの勢力拡大に尽力した英雄を描いたエチケッタには、銘酒キアンティの伝統を受け継ぐアーマの誇りと品質向上にかける決意が見て取れます。

 意気揚々と馬にまたがる傭兵隊長の派手な衣装とは対照的に、シックなissei miyake とyohji yamamoto が好みだというマルコ氏。この日はノーネクタイのホワイトシャツにゆったりとしたシルエットのブラックスーツに身を包んでいました。アルマーニやヴェルサーチェなどの高級イタリアンブランドではなく、日本人デザイナーの服を愛用していることを宮嶋氏に披露されてマルコ氏は苦笑い。私が学生時代に憧れたY'sや三宅一生がお好きだということで、親近感を覚えました。意外なネタばらしで場の雰囲気が和んだところで試飲会の始まりです。冒頭で挨拶に立ったマルコ氏は、カステッロ・ディ・アーマのブドウ畑は海抜500m前後という比較的標高の高い場所にあるため、寒暖の差がもたらすエレガントな酒質を備えていること、常にバランスの良い仕上がりを心がけていると述べました。
alpoggio_08.jpg       【photo】綺麗な印象のアル・ポッジョ'08

 まずはカステッロ・ディ・アーマ唯一の白ワイン、Al Poggio アル・ポッジョ'08から。フランス原産のChardonnay シャルドネを主体にPinot Grigio ピノ・グリージョを手摘みして混醸、24,000本だけがリリースされます。Poggio(=高台)という畑の名前から名付けられたこのヴィーノは、標高が高いTeritorio テリトーリオ(=仏語:テロワール→ブドウが栽培される環境・土壌の意)を感じさせるエレガントなトップノートに熟成で一部使用されるオーク樽由来のバニラ香が幅を与えます。仙台で牛タンを食べたと言うマルコ氏は、トスカーナ料理のボイルした牛タンとこのワインは相性が良いはずだと語りました。

 2本目・3本目はキアンティ地区において最も重要な品種とマルコ氏が語るSangiovese サンジョヴェーゼを80%、残り2割をMalvasia nera マルヴァジア・ネラ, Merlot メルロ, Cabernet Franc カベルネ・フラン 、Pinot Nero ピノ・ネロで構成する基幹アイテムのChianti classico Castello di Ama キアンティ・クラシコ・カステッロ・ディ・アーマの'06と'00。熟成能力の高いワンクラス上のキアンティであるRiserva リセルヴァ表記はないものの、法定熟成期間26ヶ月をクリアするカステッロ・ディ・アーマは、並みいるキアンティ・クラシコの中でも別格のヴィーノです。
castelloama00_06.jpg【photo】収穫された6年の時間的な差異以上に熟成能力に影響するヴィンテージの違いが表れた'00と'06のカステッロ・ディ・アーマ

 ブドウの作柄がダイレクトに味に反映するワインは、収穫年によって熟成能力が異なります。それを如実に感じたのがこの2本でした。'00のトスカーナは収穫期に雨が降ったため、決して恵まれた作柄ではありませんでしたが、収穫後10年を経た今がすでに飲み頃を迎えており、鼻腔を満たす香りが全開。今飲むなら断然'00をお勧めします。かたや'06は'01,'04と並び称される2000年代の優良ヴィンテージ。試飲会の開始時刻にあわせて抜栓した店側の配慮もあり、いくばくかは開花させつつあるものの、'00と比べればまだ十分とはいえません。まだ固く閉じた状態ですが、良質な酸味とビシッと目の詰まったタンニンからは熟成能力の高さがうかがえます。

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【photo】ヴィンテージの違いを如実に感じたChianti classico Castello di Ama キアンティ・クラシコ・カステッロ・ディ・アーマ'00(左)は熟成が進んでいるためオレンジ色を呈し香りも全開。かたや'06(右)はまだガーネットが主調の若い色。味もまだ固さが残る

 理想的な作柄に恵まれた'06ヴィンテージは、フィレンツェ大学で醸造学を学んだ後、キアンティ・クラシコ協会で働いていたマルコ・パッランティ氏がカステッロ・ディ・アーマの醸造責任者として迎え入れられた1982年から数えて25年目にあたります。そのため、特別に25の数字が浮き彫りされたボトルに銀婚式を意味するシルバーのキャップシールが施されています。エチケッタには、4組のオーナー一族の1人で妻のロレンツァさん自筆の 「Grazie Marco per questi 25 anni マルコ、この25年間ありがとう」というメッセージが記された特別なヴィンテージとなりました。

 20世紀最高のヴィンテージと騒がれた'97年以前は、とりわけポテンシャルの高いブドウが収穫される畑指定のブドウを用いた「Bellavista ベッラヴィスタ」と「Casuccia カズッチャ」の二種類のクリュワインが生産されてきました。 '64年から'78年にかけて植えられたブドウの樹齢が上がり、高い品質のワインが生産できると判断した'97以降は、特に優れた作柄の年(→'99・'01・'04・'06 の4つ)にだけ2種類のクリュワインが生産されるようになりました。この日はChianti classico Vigneto La Casuccia キアンティ・クラシコ・ヴィネート・ラ・カズッチャ'04 が試飲できました。

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【photo】グラスから立ち上るなまめかしい香りをお届けできないのが残念! 妖艶な表情で魅了するChianti classico Vigneto La Casuccia キアンティ・クラシコ・ヴィネート・ラ・カズッチャ'04 はキアンティの既成概念を覆す出色の出来(左) 偉大なワインの特徴であるベルベットのようにソフトな口当たりと密度の濃い複雑な構造が同居するL'Apparita ラッパリータ'05(右)

 用意されたリーデルのボルドーグラスをゆっくりとスワリングすると、色気のある芳香が立ち上ってきます。ひと口含んだ粘性の高い液体の何と表情の豊かなこと!! エッジが突出することのない見事な調和を見せながら、さまざまなニュアンスが山びこのように次々と現れてきます。男性的なBellavistaと比べて砂礫の多いCasuccia の区画は柔らかさが身上。サンジョヴェーゼにメルロを15%混醸したこのヴィーノのいつまでも消えることの無い余韻に浸りながら、まるで万華鏡を味わっているようだとマルコさんに感動をお伝えすると、醸造家は嬉しそうに微笑むのでした。

 トスカーナ州では初めて栽培に取り組んだというカステッロ・ディ・アーマのMerot メルロは、骨格を成すサンジョヴェーゼの補助的な役割で植えたにすぎないといいます。高評価の中で争奪戦が巻き起こり価格が高騰するトスカーナ産メルロワイン。その火付け役となったL'Apparita ラッパリータの'05ヴィンテージを赤の4本目に頂きました。何を隠そうイタリアの熟練の技が生む皮革製品に目が無い皮フェチな私。上質ななめし皮に喩えられるラッパリータのシルキーな持ち味は決して良い天候ではなかったこの年も全開です。vinsanto_ama04.jpg寸分の隙すら見せないさすがの出来でした。マルコ氏によれば、キアンティ・クラシコのブレンド用に使用するメルロの栽培区画と、このカルトワイン用の畑を分けているとのこと。

 【photo】淡い琥珀色のVinsanto ヴィンサント'04
 
 最後はデザートワインのVinsanto ヴィンサント'04。収穫した白ブドウMalvasia マルヴァジア とTrebbiano トレッビアーノを陰干しして1/5程度の重量にまで水分を除き、干しブドウ状態となったブドウを5年の長期に渡って温度差の激しい屋根裏部屋で作るトスカーナ伝統のワインです。カステッロ・ディ・アーマのヴィンサントは初めて口にしましたが、マルコ氏の解説通り、甘さを抑えた造りになっていました。トスカーナ料理の饗宴を締めくくる甘いドルチェやハチミツを垂らした羊乳チーズ「Pecorino Toscano ペコリーノ・トスカーノ」などと相性が良さそう。ブドウが持つピュアな甘さを極限まで抽出し、唯一無二の高みに昇華する「Avignonesi アヴィニョネジ」と「San Giusto a Rentennano サン・ジュスト・ア・レンテンナーノ」の二大巨頭が Vinsanto Toscano ヴィンサント・トスカーノの白眉と考えるゆえ、同じヴィンサントでもタイプが異なるものでした。

marco_article.jpg【photo】サイン欲しさに私が持参した「グレートヴィンテージ・1990年のキアンティ」の出力紙に目を通すマルコ・パッランティ氏

 ラ・カスッチャ'04とラッパリータ'05は、現在の価格が2万円前後の高級ワインゆえ、両方ともゲットするには相当の勇気を要します(笑)。イタリアワイン好きの私がここぞと奮発したのは、綺麗な酸味を伴うサンジョヴェーゼらしい珠玉の一本、ラ・カズッチャ'04です。加えて産地を訪れた年のワインは必ず口にするというポリシーに則ってキアンティ・クラシコ・カステッロ・ディ・アーマ'06 のほか、今では稀少なバックヴィンテージの優良年'99を確保、いずれにもしっかりとマルコ氏のサインを頂きました。

 この日のためにプリントアウトした「グレートヴィンテージ・1990年のキアンティ」のブログ記事とともに差し出したのが、自宅のワインセラーから探し出して持参したChianti classico Vigneto Bellavista '97。世紀のヴィンテージ騒動がさめやらぬリリース直後にミラノのPeckで購入し、あまたのセラーアイテムとともに10年以上の眠りについていた一本です。まだ当分は開けるのがもったいないレア物のcon_marco.jpgエチケッタにもこうして作戦通りにサインを加えることができたのでした。

 めでたし、めでたし。
  (⇒ なんだ、セラーのコヤシ自慢かよっ ヽ(`ε´*)

【photo】購入したChianti classico Vigneto La Casuccia キアンティ・クラシコ・ヴィネート・ラ・カズッチャ'04 にもサインを頂き満悦至極の筆者とマルコ・パッランティ氏

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ワインショップ・エノテカ 仙台藤崎店
仙台市青葉区一番町3-4-1 藤崎一番町館1F
Phone:022-265-2303 Fax:022-265-2304
営:10:00~19:00
URL:http://www.enoteca.co.jp/
E-mail:Sendai_shop@enoteca.co.jp

Castello di Ama カステッロ・ディ・アーマ
Località Ama 53013 Gaiole in Chianti - Siena - Italia
URL:http://www.castellodiama.com/

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2010/01/02

ソムリエ from トリノ

スローフード宮城 食談会

 イタリア本国では日本で意味するところの全土にあまねく存在するイタリア料理が存在しないかわりに、質の高い郷土料理が各地に群雄割拠しています。そんなイタリアにあって、ピエモンテ州は屈指の洗練された食文化を誇ります。

tartufi_bianchi2009.jpg 名だたる産地の黒トリュフが寄ってたかっても及ばない唯一無二の強烈な芳香と希少性ゆえに重量あたりの単価が最も高価な食材「Tartufo bianco pregiato タルトゥフォ・ビアンコ・プレジャート(別名:Tuber magnatum Pico トゥベル・マグナトゥム・ピコ)=白トリュフ」。

 その濃厚な香りと霧に包まれる晩秋ともなると、白いダイヤモンドの別名をもつ白トリュフの最高の伴侶となるバローロ・バルバレスコといった高貴なヴィーノと共に味わおうという美食家が世界中から白トリュフの聖地Alba アルバを目指します。

【photo】日本での業務用仕入れ価格がキロ50万円(!)というピエモンテ州アルバ産白トリュフ「Tartufo bianco pregiato タルトゥフォ・ビアンコ・プレジャート」(写真右上) より香りと価格が控えめながら、イタリア中部トスカーナ、エミリア・ロマーニャ、マルケなどではアルバ産の代用品として珍重される「Tartufo Bianchetto タルトゥフォ・ビアンケット」 (別名:Tuber albidum Pico トゥベル・アルビドゥム・ピコ(写真手前))

 イタリア北部ロンバルディア州パヴィーア県Casteggio カステッジョからVarzi ヴァルツィ一帯のポー川沿いからアペニン山脈北端にかけての地域と、エミリア・ロマーニャ州Ravenna ラヴェンナ・ Forlì フォルリ・Bologna ボローニャ周辺、中部イタリア・マルケ州Acqualagna アックアラーニャ、トスカーナ州San Miniato サン・ミニアートなど、良質の亜種を含めた白トリュフの産地はイタリア各地にあります。

 自国のぺリゴール産黒トリュフこそがトリュフの頂点と信奉するフランス人はさておき、世界の美食家がひれ伏すのは、アルバ産白トリュフにとどめを刺します。香りと重量を失わせる大敵である乾燥を避けるため、リストランテではガラス製の蓋で覆われて登場するそれは、形こそゴツゴツとしたジャガイモのよう。カメリエーレがうやうやしく蓋を外すや否や周囲10mに立ち込めるクラクラさせるような強烈な芳香は、人生で一度は体験すべきもの。あの香りに浸れるなら来世はトリュフ犬に生まれ変わってもいいなぁ...。

castello-Costigliole.jpg 【photo】発祥の地トリノから1997年にコスティリオーレ・ダスティに移転。ブドウ畑に囲まれた小高い丘の上に建つ築1000年というCastello di Costigliole コスティリオーレ城にICIFの本部がある。内部は最新設備を備えた研修施設に改装されている

 ピエモンテ州の州都トリノから東へ伸びる高速A21を進むと、モンフェラート丘陵地帯で作られる発泡性ワインの一大産地として知られるAsti アスティ県へと至ります。アスティから10kmほど南下したCostigliole d'Asti コスティリオーレ・ダスティにある「ICIF イチフ(Italian Culinary Institute for Foreigners)【Link to website】」は、外国人のためのイタリア料理研修機関です。

 そこで学ぶ者には、美食の粋が集うピエモンテ州を中心とした一流講師陣による講習や生産現場の見学、提携先のレストランでの研修などのプログラムが用意されます。高品質のイタリア産食品やワインに肌で触れることで理解を深め、イタリア各地の郷土料理が世界に紹介され、真の姿を伝えることを目的に1991年に北イタリア・ピエモンテ州の州都トリノで設立された非営利団体です。

Daniela_ Costantino.jpg【photo】ダニエラ・パトリアルカさん(写真左)とコスタンティーノ・トモポウロスさん(写真右)

 リゾットほかピエモンテ料理を得意とする「OSTERIA Cucinetta オステリア・クチネッタ」橋本 俊シェフや、オーセンティックな正統派を志向する「Piu Sempre ピュ・センプレ」高橋 義久シェフなど、仙台にもICIFでの研修経験のある料理人がいます。

 ICIFの立ち上げに関わったのがDaniela Patriarca ダニエラ・パトリアルカさん。現在は1995年に設立した自身の会社「Italian Culinary Toursイタリアン・クリナリー・ツアーズ【Link to website】」で、イタリア各地を周遊しながら料理を学ぶ独自の研修スタイルを取り入れています。北は万年雪に覆われた4,000m 級のアルプスの峰々、南はアフリカ大陸から吹き付ける夏の季節風シロッコで灼熱の大地と化すシチリアまで南北1,200km、山あり海ありのイタリアは食の万華鏡さながら。同社の研修にはこれまでに600人以上の料理人とソムリエが参加しているといいます。

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 11月末から12月上旬にかけて仙台市青葉区一番町の「Antreffen アントレッフェン」で催された「スローフード宮城 秋の食談会」と同エクセルホテル東急が会場となった「宮城・ローマ交流倶楽部 クリスマスパーティ」のゲストとして、ダニエラさんとパートナーのイタリアソムリエ協会AISAssociazione Italiana Sommelier)公認のソムリエ資格を持つ Costantino Tomopoulos コスタンティーノ・トモポウロスさんのお二人が仙台を初めて訪れました。

【photo】「秋保そば愛好会」の佐藤 栄一会長

 スローフード宮城は、蕎麦をテーマに今年度活動しています。今回の食談会には、仙台市太白区秋保町野尻地区で在来種の「長治そば」を栽培する「秋保そば愛好会」佐藤 栄一会長が参加しておいででした。藩制時代、仙台と山形を最短で結ぶ二口街道の国境警護に当たる足軽集落であった面影を残す中山間地域の野尻地区では、戦前までコメを作らず、蕎麦を主食にしていたそうです。16回目を迎えた「そば祭 in 野尻」が11月3日に町内の集会所で催され、そば打ち体験(1500円/おひとり)のほか、在来種を使った手打ち蕎麦(500円)や、そばがきにあたる「そばねっけ」(350円)が提供されました。

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【photo】二口街道の最深部にある仙台市太白区秋保町野尻地区

 1613年(慶長13)、海外との交易を求めて宮城県石巻市月浦から帆船「サン・ファン・バウティスタ」でアカプルコを経由してローマへと渡航した慶長遣欧使節。その史実をもとに姉妹県となった宮城県とイタリア・ラッツイオ州ローマ県特産の葉物野菜「プンタレッラ」を宮城県丸森町で栽培する宍戸 志津子さんは、「食WEB研究所」のフードライターpuntamamma さんと一緒にお越しでした。宍戸さんのシャキシャキとしたプンタレッラは、この日アンチョビ風味のサラダで頂くことができました。

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【photo】宮城県丸森町でプンタレッラを栽培する宍戸 志津子さんは野菜ソムリエの資格を持つ生産者 

 日本食のイメージが強いそばですが、国内消費の8割近くは中国とアメリカからの輸入で賄っているのが実情です。滋味に乏しい痩せた土地でも栽培が可能で、播種から収穫までの期間が短いソバは、アジアからヨーロッパ、北米にかけて栽培される穀物です。スイス国境に近いイタリア最北部ロンバルディア州Valtellina ヴァルテリーナ渓谷には、トルコからサラセン人がそばをもたらしたといわれます。

 少なくとも17世紀初頭から栽培されているソバ「Grano saraceno グラーノ・サラチェーノ」を石臼で挽いた代表的なパスタ「Pizzoccheri ピッツォッケリ」がこの日は参加者に紹介されました。当Viaggio al Mondoでは、3年前にお年越しの話題として、標高800mを超える山あいの村ソンドリオ県Teglio テーリオが発祥とされるピッツォッケリを取り上げました。〈2008.1拙稿「すったもんだのお年越し」参照〉

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【photo】 中にチーズを詰めたそばがきを揚げたようなヴァルテリーナ地方の郷土料理「sciatt シャットゥ」(右写真)この日アントレッフェンで出されたピッツォッケリもチーズがたっぷりと使われていた(左写真)

luigi_gufanfnti.jpg そば粉と小麦粉を8対2の割合であわせ、平たいパスタ「タリアテッレ」のように形成し、ボイルしたジャガイモとキャベツと共に溶かしバターやチーズで味付けして食べられるピッツォッケリ。トウモロコシの代わりにソバを使う「Polenta taragna ポレンタ・タラーニャ」として食するほか、この地方で1300年以上の歴史を持つ牛乳製チーズ「Valtellina Casera ヴァルテリーナ・カゼーラ」、または「Bitto ビット」をそば粉に混ぜ込んで揚げた団子状の「Sciatt シャットゥ」など、寒冷な気候と痩せた土壌ゆえ小麦の栽培ができないアルプスのヴァルテリーナ地方では欠かせない穀物として珍重されています。

【photo】ルイジ・グファンティ社5代目のGiovanni Guffanti-Fiori ジョヴァンニ・グファンティ・フィオーリ氏。技術革新が成し遂げられた21世紀の今日でも、創業以来の技と伝統を受け継ぐチーズ作りにかける情熱は変わらない

 この日は、ソムリエのコスタンティーノさんがピッツォッケリとあわせる前提でセレクトした日本にはまだ紹介されていないイタリアワインと稀少な北イタリアのチーズを味わえるというので、早々に参加の意思を表明していました。当日はロンバルディア平原がアルプスの峰々と交わる絵ハガキのように美しい風景が広がる湖水地方で、Lago di Como コモ湖と並び称される景勝地Lago Maggiore マッジョーレ湖の南端にある町、Arona アローナで1876年に創業したチーズ工房「Luigi Guffanti ルイージ・グファンティ」社製のチーズ4種類が紹介されました。
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【photo】食談会で登場したチーズ4種。右上から時計回りにチヴィダーレ・フリウリ・ラッテリア、リコッタ・アッフミカータ・カルニカ、ビットヴァッリ・デル・ビット2008、ロビオーラ・ディ・カプラ

Robiola di Capra ロビオーラ・ディ・カプラ(ピエモンテ州ランゲ地方Roccaverano ロッカヴェラーノ村産。放牧されたヤギ乳のみを使用したソフト外皮チーズ。新鮮なうちはヤギ特有の柔らかな酸味と甘みを感じるが、一ヶ月以上熟成させると青草の香りが現れる)

Cividale Friuli Latteria チヴィダーレ・フリウリ・ラッテリア(オーストリア・スロヴェニア国境に近いフリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州産のハードチーズ。「Lo Spadone ロ・スパドーネ」「Latteria del Diavolo ラッテリア・デル・ディアボロ」「Il Goloso イル・ゴローゾ」「Il Cividale イル・チヴィダーレ」などのタイプに分類される。牛の生乳または脱脂乳を使用)
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Bitto valli del bitto 2008 ビットヴァッリ・デル・ビット2008(ロンバルディア州ヴァルテリーナ地方産。Albaredo アルバレード渓谷からGerola ジェローラ渓谷地域にある標高1400m~2000m 級の山で放牧される牛の乳にOrobica オロビカと呼ばれるヤギの乳を10~20%混ぜる。世界でも類を見ない10年にも及ぶ長期熟成が可能だが、この日は2008年産を頂いた。スローフード協会がプレジディオに認定している)

Ricotta affumicata carnica リコッタ・アッフミカータ・カルニカ(フリウリの一部地域で作られる牛の乳清を煮詰めて作る柔らかな味わいが特徴のリコッタチーズを軽くスモークしたもの)

 これらのチーズとピッツォッケリにあわせるためにご主人のコスタンティーノさんが選んだのは、フリウリ地方産の白が1本・赤2本、ウンブリア地方産の赤1本の計4本(下写真)。3本は日本未輸入の作り手によるもので、私が飲んだ経験があるのは、日本におけるイタリア食品商社の草分け「モンテ物産」が扱うイタリア中部ウンブリア州の優良生産者「Colpetrone コルペトローネ」のSagrantino di Montefalco サグランティーノ・ディ・モンテファルコだけ。

vini_sfmiyagi2009.jpg 香りの強いビットとよく合う強靭な体躯を備えたサグランティーノ・ディ・モンテファルコは、ペルージャの南西モンテファルコ周辺で作られ、1992年にイタリアワイン法最上位のDOCG(統制保証原産地呼称)に昇格。タンニンが多い長熟向きの土着品種サグランティーノ種のブドウを陰干しして作られ、最良のものは30年を優に越える熟成にも耐えます。

 イタリア最東北部の港町Triesteトリエステは、随筆家 須賀 敦子の著作にも地名が登場します。通常の州よりも大きな自治権を与えられた特別自治州フリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州の州都になっている人口20万人ほどのこの町は、女帝マリア・テレジアに港湾都市として整備されたハプスブルグ帝国時代の遺構を色濃く残します。

castelvecchio_azienda.jpg【photo】ヴェネツィア・ジューリア地方サグラーノ北方の高台にあるAzienda Agricola Castelvecchio のブドウ畑

 オーストリア領下で参戦した第一次世界大戦の激戦地となったヴェネツィア・ジューリア地域がイタリア領となったのは1918年。今でも歴史的・地理的につながりが深かった国の言語であるドイツ語・スロベニア語がイタリア語と共に飛び交う独特の雰囲気があります。第二次大戦後、ベルリンのように市街地の中をユーゴスラビアとの国境線が通っていた町Gorizia ゴリツィアでは、スラブ文化圏との辺境に来たと実感するに違いありません。

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【photo】ブドウの葉が色付く秋のカステルヴェッキオ醸造所と作り手のテラーネオ一家

 ゴリツィア周辺のCollio Goriziano コッリオ・ゴリツィアーノ地域は世界に冠たる白ワインの産地として、近年急速に名声を高めています。特異な風味で熱烈なファンがいる「Miani ミアーニ」「Radikon ラディコン」などは別としても、水晶のように繊細なワインを生むTerritorioテリトーリオ(=その土地の気候風土に由来する個性。仏語ではテロワール)の特質を感じさせる「Vie di Romans ヴィエ・ディ・ロマンス」「Jermann イエルマン」「Villa Russiz ヴィラ・ルシッツ」「Venica & Venica ヴェニカ&ヴェニカ」などを飲むだけで、理想的な栽培環境に恵まれたこの地域の白ワインがいかに素晴らしいかが、どなたでもお分かりいただけるはずです。

 ワインのほかオリーブオイル・ハチミツも生産する「Azienda Agricola Castelvecchio カステルヴェッキオ」は、ゴリツィアを高速A4方向に向かって南西に15kmほど進んだSagrano サグラーノの町外れでTerraneo テラーネオ家が40haの畑でブドウを栽培しています。

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 この日はトリエステの南、第二次大戦終結前はイタリア領であったイストリア半島地域に伝わるブドウMalvasia Istriana マルヴァジア・イストリアーナ(上写真/左側)が紹介されました。除梗したブドウに最小限の圧力を加えて雑味が出ないようソフトプレスし、ステンレスタンクで発酵させ若飲みに適した味に仕上げるこのワイン。2008年という一番新しいヴィンテージとあって微かに発泡しており、華やかなトロピカルフルーツのようなフローラルで上品な香りが広がります。

cantina_ivan_ragazzi.jpg【photo】Muzic ムージチの当主イヴァン・ジョヴァンニと二人の息子

  Isonzoイソンツォ川を挟んだゴリツィアの北方5kmの高台にあるSan Floriano del Collio サン・フロリアーノ・デル・コッリオの作り手「Muzic ムージチ」は、二度の大戦によって荒廃した16世紀まで遡る畑で1960年からムージチ家がブドウを育ててきました。

 当主Ivan Giovanniイヴァン・ジョヴァンニは醸造を学ぶ二人の息子ともどもワインに全情熱を傾ける生産者です。「Bora ボラ」と呼ばれる大陸からの風が昼夜の温度差を生む温暖な微気候にあるこの地域は、白ワインだけでなく、19世紀にフランスよりもたらされたカベルネやメルロの栽培に適しており、DOC(統制原産地呼称)Friuli Isonzo フリウリ・イソンツォに指定されます。この日紹介されたのがボルドー品種のカベルネ・フラン(上写真/右側)。その個性である植物的なニュアンスがあり、青草の香りがする熟成したロビオーラ・ディ・カプラとの好相性を見せてくれました。

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【photo】ダニエラさんからスローフード宮城に贈られたブォンリコルド協会の絵皿を手にする若生裕俊 同協会会長

 州都トリエステに次ぐ人口10万人の都市Udineウーディネから北西20kmには、繊細でとろけるような味わいの私が大好きな生ハム「Prosciutto di San Daniele プロシュット・ディ・サン・ダニエーレ」の産地として知られる「San Daniele del Friuli サン・ダニエーレ・デル・フリウリ」があります。Principe社のサイトで製造の模様をご覧あれ)

 彼の地ならではの個性を感じさせるヴィーノの作り手「Emilio Bulfon エミリオ・ブルフォン」は、フリウリ地方Pordenone ポルデノーネ県 Valeriano ヴァレリアーノの打ち捨てられた古い畑を再興し、16haの畑で白品種のCividìn・Sciaglìn、赤品種のCjanòrie・Forgiarìn・Cordenossa・Refosco del Peduncolo Rosso などの土着品種だけを栽培しています。

Emilio_bulfon.jpg 当主のエミリオ・ブルフォン(右写真)は、全てのワインに地元の教会に残る13世紀のモザイク画「最後の晩餐」をモチーフに自らデザインしたエチケッタを使用しています。

 この夜コスタンティーノが選んだのは、Piculìt Neri ピコリット・ネーリという土着品種100%のエキゾチックな赤ワイン。生き生きとしたブーケと若々しい味わいが印象的でした。
 
 数多くの日本人を迎え入れてきた親日家でもあるダニエラさんから、スローフード宮城に贈られたのが「Unione Ristoranti Buon Ricordo ブォンリコルド協会」がローマのレストラン用に製作している絵皿でした。

 Buon Ricordo( =伊語で「よき思い出」の意)とは、郷土料理の良さを食べる人に伝えたいという願いを込めて1964年に発足した団体です。およそ400年前、伊達 政宗の命を受けてローマに渡った家臣 支倉 常長の存在や、プンタレッラの特産化に取り組んでいる宮城とイタリアのご縁を意識したダニエラさんの心配りです。

decantare_costantino.jpg【photo】食談会の翌週催された宮城・ローマ交流倶楽部クリスマスパーティの席上、澱が出たオールド・ヴィンテージワインのデキャンタージュを実演するコスタンティーノ

 スローフード宮城の知人にワガママを言って本場の美味しいピッツォッケリを是非とも食べたいと事前に伝えていました。そこでダニエラさんにご用意頂いたのが、スローフード協会が「Cittàslow チッタスロー(スローシティ)」に指定しているソンドリオ県 テーリオで作られるMolino Tudori 製の乾燥パスタです。翌週行われた宮城・ローマ交流倶楽部のパーティでは、デキャンタージュの実演をご披露頂いたコスタンティーノいわく、この製造業者のピッツォッケリは大変美味しいとのこと。

 年越し蕎麦として頂こうかな、とも思いましたが、年末に訪れた鶴岡で、同市田川地区で作られるソバ粉100%の「鬼坂そば」を同小真木(こまぎ)にある「産直こまぎ」で入手、一家総出でご自宅脇のハウスで作業中の平田赤ねぎ生産組合 後藤 博組合長のもとを訪れて譲って頂いた収穫したての平田赤ねぎを薬味に頂きました。ピッツォッケリはそのうちチーズとバターで頂くとしましょう。

 イタリアン・クリナリー・ツアーズでは、これまで培ったプロの料理人やソムリエ対象の研修のノウハウを活かし、一般の日本人観光客がイタリアが誇るアチェート・バルサミコ・トラディツィオナーレやプロシュット類、オリーブオイルから200種以上あるブドウ品種から作られる多種多様なヴィーノなど、さまざまな伝統食材の生産現場を視察できる日帰りツアーやレストランでの料理講習などのイタリア本国で参加できるプログラムを用意し、日本における窓口を東京に設置しました。

pizzoccheri_valtelina.jpg ここぞとばかりにイタリアソムリエ協会AIS認定のソムリエに浴びせるマニアックな質問の内容から、イタリアワインに関する私の傾倒ぶりを見込まれ、コスタンティーノが「Carlo(→私のイタリア名)が次回トリノに来るのはいつだ? オレが車で小規模な素晴らしいカンティーナを案内するから必ず連絡をくれ」と言い出す始末。さて、どうなりますやら...

【photo】発祥地テーリオ製のピッツォッケリ
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Phone & Fax:03-3719-7161
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2009/11/29

オフヴィンテージ考

Podere Salicutti / Brunello di Montalcino Poggiopiano '02
ポデーレ・サリクッティ / ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ'02年
 @エノテカ・イル・チルコロ

 2009年は奇跡の年。 今年のボジョレー・ヌーボーの売り文句です。

 表現は違えど毎年グレートヴィンテージが宣言される唯一無二の産地、ボジョレーの新酒をお飲みになった方は、どんな奇跡を体感なさったのでしょう。商魂たくましい産地関係者が煽るお囃子に合わせ、"踊らにゃ損々"と盛り上がる11月の第3木曜日。一部インポーターや酒販店も加担して解禁日に向けたプロモーションが繰り広げられます。その動きを眉唾モードで受け流すことにしている私の記憶では、2、3年前にも聞いた記憶があるフレーズ、「50年に一度の出来!!」と、派手に持ち上げられても、どこ吹く風。総選挙で自民党が繰り広げたネガティブキャンペーン顔負けの「今年も当たり年? ボジョレー・ソードーは日本固有の祭りLink to back number」で持論を展開したのが昨年のことでした。その甲斐あってか(?)例年通り静観を決め込んだ今年の騒動は、いまひとつ盛り上がりに欠けた感があります。

selezione_hayashi.jpg【photo】イタリアワインを輸入業者に斡旋するエージェント、林 達史(たつし)氏が選んだモトックス社取り扱いのヴィーノが揃った「エノテカ・イル・チルコロ」でのワイン会。日に日に寒さが増してくる11月の3週以降ともなれば、しっかりとしたボディのある上質なヴィーノ・ロッソが一段と美味しく感じられる。どうせならこうした真っ当なワインを楽しみたいもの

 今年の商戦は解禁直前に大手スーパーが火花を散らした値下げ競争と、ペットボトル入りの低価格ヌーボーがトピックスとなりました。ブドウを原料とする醸造酒(→特殊な製法で速成醸造されるボジョレー・ヌーボーは"ワイン未満"であると考えているため、敢えてワインとは呼びません)カテゴリーでは、年間売り上げの重要な山場となるボジョレー商戦の売り上げ確保に躍起となる日本の酒販業界の努力もむなしく、ここ数年その売り上げは減少の一途をたどっています。今年の輸入量は、昨年比で15~20%の減少が見込まれるといいます。Bio (ビオ)だ自然派だと、特に女性を意識した付加価値をつけたところで、到底価格に見合った酒質が伴わない商材を持ち上げるかまびすしい商業主義が駆逐され、真っ当なワイン文化が日本に根付くまで、私の孤独な闘いは続くことでしょう(笑)。

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 前置きはこのぐらいにして、ワインの輸出斡旋業者であるクルティエの林 達史 氏をお招きして仙台市青葉区のイタリアン「エノテカ・イル・チルコロ」で行われたワイン会で出た一本のヴィーノが、今回の話題の中心です。1964年(昭和39)京都に生まれた林氏は、'90年代前半にイタリアワインと出合い、小規模な素晴らしい生産者が日本に紹介されていないことから、生産者と輸入業者の橋渡しを始めます。現在は一年の半分以上をフィレンツェの北隣りにある街Fiesole フィエーゾレに住まい、フィレンツェを拠点に自らの目と舌で選んだ生産者だけを紹介しています。

【photo】多彩なイタリアワインへの深い理解によって生産者から厚い信頼を得ているクルティエ 林 達史 氏

 その日のワイン会は、'95年に林氏がカンティーナ(=醸造所)に足を運んで日本に紹介したトスカーナの「Montevertine モンテヴェルティーネ」など優良生産者の中で、信頼のおけるインポーター「モトックス」が扱うラインナップからセレクトした6本のイタリアワインが出されました。特にヴィーノ・ロッソ(=赤ワイン)は、私が注目しているAzienda アジェンダ(=生産者)のワインを4種類も味わえるというので、万難を排して参加しました。

franciacorta_e_arneis.jpg【photo】スプマンテはロンバルディア州ラ・フェルゲッティーナのフランチャコルタ・サテン04(左)白ワインはピエモンテ州ブルーノ・ジャコーザのロエロ・アルネイス'07(右)ともに産地で品質面のリーダー格と目される生産者といえる

 まずはキメ細やかで持続性の高い泡が立ち昇り、淡いクチナシと明確なアーモンドのニュアンスがあるイタリア北部ロンバルディア州Bresciaブレシア県産のスプマンテ「Franciacorta Saten '04 フランチャコルタ・サテン」から。自家栽培したシャルドネの中から最良の状態のブドウおよそ35%だけを選別してステンレスタンクで一次発酵させ、1割をオーク樽にて熟成。36ヶ月の長期瓶内熟成を経てリリース後、わずか3ヶ月で完売してしまうというこのスプマンテの造り手は、Erbusco エルブスコで優良なDOCG(「統制保障原産地呼称」イタリアワイン法の最高位)Franciacortaを生産する「La Ferghettina ラ・フェルゲッティーナ」。Ca'del Bosco カ・デル・ボスコと並び称されるBellavista ベッラヴィスタで栽培・醸造責任者を20年務めたロベルト・ガッティ氏が'91年に興したカンティーナ(=醸造所)です。

 青リンゴのような香りが後を引くヴィーノ・ビアンコ(=白ワイン)はPiemonte ピエモンテ州の固有品種Arneis アルネイスを復活させた立役者、名醸地として知られるCuneo クーネオ県Neiveネイヴェに醸造所を構える「Bruno Giacosaブルーノ・ジャコーザ」の「Roero Arneis '07 ロエロ・アルネイス」。1929年生まれの現当主ブルーノ氏は、誰よりもLangheランゲ地区の畑を知り尽くしており、ランゲの伝統を重んじる醸造スタイルは、一貫したものです。天候に恵まれない年は、自社ブランドの醸造は行わず、すべてバルク売りしてしまいます。自社畑のほかに一部生産を委託しているブドウ生産者とは、作柄の善し悪しに関わらず、常に一定量を買い取りしており、地元で厚い信頼と尊敬を集める生産者でもあります。吉田シェフの作る有機野菜のパレット仕立てとホワイトアスパラガスの茹で上げ・茹で卵とパプリカのソース掛けとともに、ワイン会は上々のスタートを切りました。

dopoteatoro_e_rosso.jpg【photo】赤ワインはトスカーナ州ポデーレ・サリクッティのカベルネ・ソーヴィニョンをメイン品種とするIGT(=地域特性表示ワイン)ドーポテアトロ'04(左)と、翌'07ヴィンテージから格上のブルネッロ同様、畑名のSorgente が最後に付くようになったロッソ・ディ・モンタルチーノ'06(右)。エチケッタに描かれるのは古代ギリシア・ローマ時代のTeatro (=円形劇場)。いずれも素晴らしい作柄のブドウが収穫された年らしい深みのあるしっとりとした血筋のよさを備えている

 いやが上にも期待が高まるヴィーノ・ロッソは「Podere Salicutti ポデーレ・サリクッティ」の4本。何をおいても参加した私のお目当ては、旗艦となるヴィーノ「Brunello di Montalcino ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」でした。ローマで科学教師をしていたシチリア人のフランチェスコ・レアンツァ氏が、'90年にトスカーナ州最南部の名醸地Montalcino モンタルチーノに土地を購入して移住、Podere(=「農場」の意)にブドウを植えた4年後に誕生したカンティーナは、伝統ある産地モンタルチーノでは新参ながら今では揺るがぬ名声を築いています。19世紀初期の古地図に同じ名が認められるというPodere Salicuttiでは、科学者でもあるフランチェスコが栽培から醸造・ラベリングまで全てを自らの手で行っています。

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【photo】1.5haの区画Piaggione ピアッジョーネは風通しのよい南斜面に1haあたり4,500本の密植度でブルネッロ種ことサンジョヴェーゼ・グロッソ種が栽培される(右写真)  畑に立つオーナー兼醸造家フランチェスコ・レアンツァ(中央写真)  開花期のサンジョヴェーゼ・グロッソ(左写真)

 1967年に発足した「Consorzio del Vino Brunello di Montalcino ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ協会」【Link to website】では、産地全体としての作柄を5段階で自己評価し、毎年☆の数を公式に発表しています。毎年のようにグレートヴィンテージ五つ星を約束され、今年のような自称・奇跡の年に至っては六つ星すら付きかねない地球上唯一の産地ボジョレーとは違い、天候が比較的安定しているトスカーナ南部にあってすら、至極当たり前なことですが、年によっては厳しい天候のもとでブドウを育てなくてはなりません。直径16kmのエリアに24,000ha の耕作面積が広がるトスカーナきっての名醸地モンタルチーノ。協会に加盟する216軒の生産者は、標高や土壌など地域によって微妙に栽培条件が異なるため、brunello_02_03.jpg強靭なタンニンを備えた長期熟成型のヴィーノとなるサンジョヴェーゼ・グロッソ種(ブルネッロ種)だけを原料とするブルネッロ・ディ・モンタルチーノでも、一般的傾向として西側がエレガントで、ブドウの成熟が早い南側ではアルコール度数が高めになるなど、味に微妙な差異が生まれます。

【photo】ポデーレ・サリクッティの名を一躍世に知らしめたのが、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノの生産を始めて2年目、良作年として話題になった'97ヴィンテージ。この夜は水浸しの年と渇水と酷暑が襲った年という違いはあれど、困難な年だったと多くの生産者が振り返る'02ヴィンテージ(左)と'03ヴィンテージ(右)を試飲

 ブドウが熟する過程から収穫期に雨が降り続いた'02年が'92年以来の☆☆二つ星評価で、作り手によっては、最良のグランヴァンにあたるブルネッロの生産を諦め、セカンドクラス Rosso di Montalcino ロッソ・ディ・モンタルチーノに格落ちさせざるを得ませんでした。セカンドクラスはブルネッロの半値程度で販売されるため、その決断は生産者にとって痛手以外の何物でもありません。翌'03年は☆☆☆☆四つ星評価ですが、欧州全体が記録的な猛暑に見舞われ、夏の間に降水が全く無かったイタリア中部以南ではブドウが干しブドウ状になる高温障害が発生。そのため糖度が高くジャミーな(=ジャムのような)ワインに仕上がるケースも散見され、インパクトはあるものの、長期熟成に耐えうる重要な要素となる酸味の乏しいヴィーノも見受けられました。

back_rabel.jpg【photo】権威あるイタリアの有機認証機関「ICEA」からビオ認定を受けているサリクッティのブルネッロは、バックラベルに「Con uva da agricoltura bioligica(=有機栽培のブドウを使用)」と記載される

 近年では'97年・'04年と、まだ法定熟成期間中で未リリースながら'06年・'07年のように最高評価☆☆☆☆☆五つ星の理想的な気候のもとでは、健全に育ったブドウからバランスの良い味わいを備えた偉大なヴィーノが生まれます。生産者によっては、☆☆☆☆四つ星の'99年・'01年にも素晴らしいブルネッロをリリースしました。

vigna_piaggione.jpg【photo】南方50km にある標高1,732m のアミアータ山は、地中海からの海風を遮り、安定した気候をモンタルチーノ周辺にもたらしている。ポデーレ・サリクッティのブドウ畑、Piaggione ピアッジョーネでは、主にブルネッロ用のサンジョヴェーゼ・グロッソが栽培され、例年10月5日ごろに収穫が行われる(上写真)

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 ポデーレ・サリクッティは、モンタルチーノ中心部から標識を頼りに世界遺産の「Val d'Orcia オルチア渓谷」方向に4.5kmほど進んだ高台にあります。すぐ近くにはイタリアで最も美しいといわれるロマネスク様式の修道院「Abbazia di Sant'Antimo サンタンティモ修道院」〈clicca qui〉がブドウ畑と草原に囲まれて建っています。キアンティ・クラシコ地域よりも年間降水量が50mmほど少ないモンタルチーノ特有の乾いた風が吹き抜けてゆくブドウ栽培に適したサリクッティ農場では、4つのブドウ畑のほか、オリーブも栽培しています。農村体験型の宿泊施設「Agriturismo アグリツーリズモ」を併設した建物の南側からは、火山としてはシチリアのMonte Etnaエトナ火山(3,315m)に次ぐ高さのMonte Amiata アミアータ山が遠望されます。

colori_vini.jpg【photo】1 泊から利用できる宿泊施設アグリツーリズモを併設したPodere Salicutti (上写真)
カベルネベースのドーポテアトロ'04(写真右)は、サンジョヴェーゼ・グロッソ100%のブルネッロ'03(写真中)'02(写真左)と比較すると、幾分黒味がかったガーネットをしている

 フランチェスコ・レアンツァ氏は、有機認証を受けた飼料のみで育てられた地元の牛舎から提供される堆肥を通常の1/4程度の使用にとどめ、ブドウの畝で栽培されるマメ科を中心に15種類ほどの草花を緑肥として活用しています。除草剤や化学肥料に依存することなく、自然に対して謙虚さを忘れず、いかなるヴィンテージでも最良の結果へと導くアプローチを忍耐強く探る姿勢を貫いています。欧州でも重要な有機認証機関の一つ「ICEA」からBio (ビオ)認証を受けるブルネッロ・ディ・モンタルチーノのファーストヴィンテージが'96年。米国の権威あるワイン評価誌「ワインスペクテイター」は、軒並み高評価を与えた'97年のブルネッロの中で、最高得点の98点をポデーレ・サリクッティに与えました。それまでほとんど無名であった創業間もない小さなカンティーナは、こうしてイタリア屈指の名醸地モンタルチーノの協会加盟のワイン生産者216軒の頂点として名乗りを上げたのです。

 【photo】ニクヤキスタこと吉田シェフの本領発揮、久慈市山形町産短角牛の肉料理

 プリモピアット「岩手産ホロホロ鶏のラグーソース風味パッパルデッレ」、セコンドピアット「岩手久慈市山形町産 短角牛リブロースの炭焼・同テールの赤ワイン煮込、レバーのソテー」が運ばれると、いよいよ料理とお互いを高めあうイタリアワインの美質を発揮するVini rossi (=赤ワイン・複数形)の登場です。4つの区画では最も標高が高いために成熟が遅く、糖度とポリフェノール成分が幾分少ないブドウとなるSorgente ソルジェンテのブドウを主に用いた「Rosso di Montalcino '06 ロッソ・ディ・モンタルチーノ」、カベルネ・ソーヴィニョンを9割使用し、トスカーナ原産とされるサンジョヴェーゼとキアンティでも補助品種として使用されるカナイオーロを各5%ずつ混醸したIGT「Dopoteatro '04 ドーポテアトロ」、ヴィンテージ違いの「Brunello di Montalcino Piaggione '02と'03 ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ・ピアッジョーネ」という4種のヴィーノ・ロッソが次々とテーブルに並びました。

vigna_sorgente.jpg【photo】標高460~480 m の畑Sorgente ソルジェンテでは、0.8haの区画にサンジョヴェーゼのほかに外来種Cabernet Sauvignon カベルネ・ソーヴィニョンと混醸用に用いられる品種Canaioloカナイオーロが栽培される

 太古は海底であったために貝殻の多い砂礫粘土質土壌のブドウ畑は、4箇所に分かれています。合計4haの畑で栽培するブドウだけを使用するサリクッティのヴィーノは、生産本数が極めて限られます。高い評価を得るブルネッロは、国内外で争奪戦が行われており、これだけの種類を一度に飲む機会はそうありません。マニア垂涎のラインナップが揃ったこの日、ともに最高の天候に恵まれた'04と'06 のヴィーノが期待通りだったのは申すまでもありません。そのなかで最も輝いていたのは、イタリアワイン愛好家の間では天候に恵まれなかった不作年として知られる'02ヴィンテージのBrunello di Montalcino Piaggioneでした。

salvioni_pacenti.jpg【photo】生産本数が限られるため、滅多に市場に出回らないサルヴィオーニとシロ・パチェンティのブルネッロ'01ヴィンテージ(私物。ウフッ)。天候に恵まれなかった翌年は、生産されずにセカンドクラスのロッソ・ディ・モンタルチーノに格下げしてリリースされた

 この年、完璧主義者の「Salvioni サルヴィオーニ」や「Siro Pacenti シロ・パチェンティ」のように高い評価を受ける生産者のいくつかは、ブルネッロの水準に達しないと判断、その生産を見送りました。愛好家を裏切りたくないというその英断は称えられるべきでしょう。一方で、サリクッティのフランチェスコ・レアンツァ氏は水浸しの天候のもと、実に高水準な渾身のブルネッロを作り出していたのです。

 開墾に着手した'94年から'95年にかけての最も早い時期に傾斜20度の南斜面1.5haにブドウの植え付けをした区画、Piaggioneで栽培するSagiovese Grossoサンジョヴェーゼ・グロッソを、一房ごと一粒ずつ手で選別し、アリエ産とスロヴェニア産のオーク樽で3年の熟成を経た後、5,333本だけがリリースされました。雨に祟られた年であることを感じさせないsalicutti_0102.JPG完熟したブドウ由来の加熱したバルサミコのような甘さの後、ベリー系の香りが現れ、ダークチョコレートのようなスパイシーな余韻が続きます。

【photo】エノテカ・イル・チルコロで昨年頂いたポデーレ・サリクッティのブルネッロ・ディ・モンタルチーノ'01。抜栓後、時間と共に開いてゆき、多彩な表情を見せた果ての最後の一杯が一番美味しかった

 シルキーな柔らかさと強靭な体躯を備えた素晴らしい出来映えとなった'01ヴィンテージのサリクッティのブルネッロをエノテカ・イル・チルコロで頂いたことがあります。それと比較すればわずかにボディは細く、柔らかさはあるものの、いささかの破綻もきたさない高い次元で融合したバランスの良さは、見事というしかありません。恵まれた天候のもと、質と量が両立した'01ヴィンテージが9,300本あまりの生産本数だったことを考えれば、いかにブドウの選果が厳格に行われたが分かります。

    tank_salicutti.jpg francesco_leanza.jpg tonaou_salicutti.jpg
【photo】ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ'02 は、ステンレスタンク(左写真)で自然酵母を用いた主発酵後に乳酸菌によるマロラクティック発酵。モストを500ℓ容量のオーク樽に移し、12ヶ月を経た後、4,000ℓ容量のオーク樽(右写真)にて24ヶ月熟成される。仕上がったヴィーノを試飲するフランチェスコ・レアンツァ氏(中央写真)

 降雨状況の把握とカビの発生を抑制するための風通しを確保する細やかな剪定作業の積み重ねによって、過酷な自然を克服せんとした真摯な作り手の努力が詰まった珠玉の作品。それがポデーレ・サリクッティのブルネッロ'02です。中部イタリア以北のアジェンダが、おしなべて困難な年だったと口を揃える'02の翌年、欧州を多数の死者が出るほどの稀に見る猛暑が襲いました。過剰なまでの日照にさらされたブドウの選別は、前年同様に厳しく行われ、2年連続で少量しか確保できなかった健全なブドウから、ブルネッロ'03が生産されました。

con_hayashi.JPG 【photo】ワイン会終了後、モトックスの梶本氏(写真左)ら居残ったメンバーで美味しい料理をご用意頂いた吉田シェフと林氏を囲んで歓談後、感銘を受けたサリクッティのワインボトルを手に記念撮影

 米国の著名なワイン評論家ロバート・パーカー氏は、インパクトのあるワインに高い評価を与える傾向があります。案の定、試飲した'03ヴィンテージのブルネッロ22点に92ポイント以上のハイスコアをつけました。ポデーレ・サリクッティのブルネッロ'03は、93ポイントを獲得しています。(良年の'04年には95ポイントを献上)イタリアワインに造詣が深い林 達史氏は、サリクッティのブルネッロの特徴として、瓶熟による熟成能力の高さを指摘した上で、オーナー兼醸造家のフランチェスコ自身も驚くほどの出来だというしなやかな'02ヴィンテージのほうが、パワフルさを感じる'03ヴィンテージより寿命の長いヴィーノとなるでしょうと語ります。穏やかなタンニンの内に秘めたブドウのポテンシャルの高さは、穏やかで真摯なフランチェスコの人柄を偲ばせるものです。

 意図的に新酒の作柄を美辞麗句で飾り立てる産地がある一方で、☆☆二つ星で自己評価する決してブドウの作柄が良くなかった'02ヴィンテージのブルネッロ。しかしサリクッティのブルネッロ・ディ・モンタルチーノ'02年は、いかなる装飾語を用いるでもなく、たとえ困難な状況にあっても、造り手の情熱はそれを乗り越えるのだ、という真実を物語るかのように長く複雑な余韻を残すのでした。


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Podere Salicutti
Azienda Agricola di Francesco Rosario Leanza
Località Podere Salicutti, 174 - 53024 - Montalcino (Siena)
Phone / Fax:+39 0577 847003
URL: http://www.poderesalicutti.it/
email:leanza@poderesalicutti.it

協力:㈱モトックス
Phone:本社 06-6723-3131  東京オフィス 03-5771-2823
URL: http://www.mottox.co.jp/
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2009/02/11

ルチアーノ・サンドローネ訪問記

記憶を呼び覚ますヴィーノ @Francesca by 非覆面調査員

 私もそうですが、つい飲みすぎてしまったワインで記憶を失った苦い経験ならば事欠かない方も多いのでは? 今回は逆に失った記憶を呼び覚ますワインに関するお話です。酒を呑んで記憶を取り戻すなんて、まるで「ア中」みたいですが、国内外問わずワイン産地や生産者を訪れたことがある方なら、きっと頷いて頂けるはずです。

 シチリアと北部山岳地域を除くイタリア半島のほぼ全域で栽培されるブドウ品種「Sangiovese サンジョヴェーゼ」を主体に、強靭な個性を主張する「Nebbioloネッビオーロ」や汎用性の高い「Dolcetto ドルチェット」など、イタリア原産ブドウ品種からなるセパージュで組成された血液が流れている特異体質ゆえ、免疫のないボジョレー・ヌーボーの摂取によって、急性中毒を発症した《Link to back number 》翌日のこと。カンフル剤となるヴィーノ・ロッソの摂取と口直しを兼ねて仙台市青葉区大町にあるイタリアン「Francesca フランチェスカ」を訪れました。

francesca_antipast2.jpg【photo】 自家仕込みしたフランチェスカのハム各種。奥から順に、コッパ、モルタデッラ、鴨の生ハム、赤ワイン漬けしたプロシュット

 ボジョレーを産する国の大手タイヤメーカーM社が発行するレストラン評価本のうち、アジア圏では初めてとなる同ガイドの東京版が、一昨年発行されて話題を呼びました。M社の行った事前の覆面調査は、3名のフランス人と2名の日本人調査員が担当したのだといいます。ん? Un moment s'il vous plaît!(ウン モメント シル ヴゥ プレ=「ちょっと待って」仏語)パンを主食とする3人のフランス人調査員は、自国ではほとんど栽培されないコメの味が分かるのでしょうか? どちらかといえば淡白な日本食をどれだけ客観評価できるのか、私には甚だ疑問です。自国の文化に絶対的なプライドを持つ「中華思想」にかけては、本家中国と並ぶ彼らが、自分の尺度でいかなる感想を抱こうと構いませんが、それをもとにランク付けした本を日本で発行すること自体が余計なお世話だし、時としてそうした不遜な姿勢は傲慢にすら映ります。

capo_harada_francesca.jpg【photo】 自ら仕込んだ県産ガーリックポークのプロシュットを切り分ける原田シェフ

 いっぽう米国発のレストラン評価本「Zagat Survey ザガット・サーベイ」(1979年創刊)は、一般の利用者によるアンケート結果から、ユーザー個々の嗜好や極端な意見を平均化した上で、専門スタッフが実際に足を運んで評価を検証する手法を取り入れています。最新の東京版では、5,500人超のユーザーが参加したアンケート結果をもとにしているのだといいます。12ヶ月に及ぶ食に関する研修を受けているとはいえ、日本の食に対する理解度にいくばくかの疑問を差し挟みたくなる3人の異邦人を含む5名の調査員による採点に比べれば、こちらのほうが客観性があり、信用度が高いと思うのですが、いかがでしょう。それにもかかわらず日本では後発となる仏国発のガイドのほうが売れているようです【注】。ここにもボジョレーに飛びつくのと同じ日本人特有の「おフランス信仰」が顔をのぞかせているように思えます。いくら日本が仏教国でも、そんなに「仏」を有難がたがらなくてもねぇ・・・(苦笑)

 ワインリストにボルドーやブルゴーニュが(→直接問い正してはいないが、ボジョレーは範疇外のはず)それなりに充実していないと、決して最高評価の☆☆☆を与えないのは、1956年に自国以外では初めて出版され、毎年版を重ねているM社によるガイドのイタリア版でも同様です。パスタやリゾットの命ともいえるアル・デンテが何たるかを、創刊半世紀を経てもなお理解しようとしないエスプリ(「Esprit(仏語)」→日本においては何故か言葉の知名度は高くとも、意味は謎 (゚_。)??ですよね)の国の尺度で語られる赤い装丁のガイドには、ゆえに興味はありません。そもそもが自動車旅行の普及で自社製品が売れることを目的に創刊した発行元のタイヤメーカーの動機を知ってかどうか、同社製のタイヤではなく、かといってイタリアのPIRELLI社製でもなく(→自国製自動車部品に対する自信の無さの表れか?)、米国GOODYEAR社製のEagle F-1 GS-D3を標準装備に選択したalfa romeo 車で東北を駆け巡りながら綴る当Viaggio al Mondo。持ち前の嗅覚で発掘したリストランテを、某ガイドの覆面調査員とは一線を画する以下に述べるような基準で取り上げてきました。

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【photo】 フランチェスカのPasta fresca パスタ・フレスカ(=生パスタ)二種。イノシシのラグー風味のピィチ(左)、ズワイガニのラザニア

 総合点を10点とすれば、その内訳は―― 形だけ取り繕うスタイルの模倣ではなく、こりゃ参った!と唸らせてくれるキラリと光る料理か⇒ 4.5割、ワインの充実度(品揃えだけでなく、実勢価格(≒おおよその仕入れ原価)に管理コストを上乗せしても2倍程度に留めた妥当な価格設定か、グラスの形状やサーヴする際の温度は適正か...etc)⇒ 3割、時として私が投げかけるマニアックな問いかけに、内心では舌打ちしつつも態度には出さず、うろたえた様子など決して見せずにフレンドリーな受け答えをしてくれるか、といった接客ぶり⇒ 2割、Pucara.jpg小物を含めた内・外装のクオリティとセンス(銀座コア7Fに広がるエレガントな「Enoteca Pinchiorri エノテーカ・ピンキオーリ東京店【本店のあるフィレンツェへワープできるWebサイトはコチラ」のようにとは言わないまでも、当然、そこで擬似イタリア体験できるほうが望ましい...)⇒ 0.4割、沈みゆく水の都ヴェネツィアが往時の繁栄を取り戻したかのように輝く黄昏時のラグーナが目に浮かぶアルビノーニマルチェッロのアダージョが、あるいはラテンの情熱を吐露するCore 'ngrato(カタリ・カタリ)などのカンツォーネが、かと思えばイタリアンポップスや早口でまくし立てるナポリのラジオ局のWebストリーミング放送が流れ、勿体ぶった響きでつぶやかれる陰気なシャンソンなどは決して流さないBGMの趣味⇒ 0.1割ぐらいの割合でしょうか。 ...ナンノコトヤラ(゚-゚;)

【photo】 蔵王土鶏と蔵王の裾野にあるボンディファーム
で育った野菜のしみじみとした旨みを味わえるプカラ

 パスタがメインの店は論外として、幾分ホスピタリティに難があるものの、共に正統派イタリアンを提供する「il Destino イル・デスティーノ」(青葉区本町)や「Marco Polo マルコ・ポーロ」(遠田郡涌谷町)、肩の凝らないイタリアのマンマの味を楽しませてくれる「il Golosone イル・ゴロゾ-ネ」(名取市相互台)と「Fiorentina フィオレンティーナ」(青葉区錦町→現在は子育てに専念するため閉店)といった僅かな例外を除いて、"もっと頑張らなきゃ!"というイタリアンレストランには事欠かない食材王国・宮城。街の規模からして、真っ当な店がもっと存在してしかるべきな仙台にも、赤・白・緑のTricolori トリコローリなイタリア国旗を店頭に掲げる店が、この10年でやっとこさ増えましたが、未だ玉石混交の感は否めません。

dolcetto_sandrone_francesca.jpg【photo】ルチアーノ・サンドローネのドルチェット・ダルバ'06

 ナポリ庶民の味を伝えるピッツェリアに関しては、本家本元で育ったナポレターノ、パンツェッタ・ジローラモ氏が「アソコはホンモノのピッツァ。オイシイデスネェ~」と、2001年当時私に太鼓判を押した「Pizzeria de Napule ピッツェリア・デ・ナプレ」を挙げておきましょう。Laura PausiniやEros Ramazzotti などのイタリアンポップスが流れる店は、今も変わらぬピッツェリアそのものですが、オーナー・ピッツアイオーロ(=Pizzaiolo ピッツァ職人)の香坂師匠が健康路線に目覚めた近年、素材をオーガニックに切り替えました。それまで同店が大切にしてきたピッツァの命、本場仕込みのモチモチした生地の食感が、小麦粉を替えたことでいささか変化しています。生地の外周「Cornicione コルニチョーネ」がパンのような点が気にかかりますが、薪の香り漂うナポリピッツァの片鱗には、富谷町富ヶ丘の「薪窯焼ピッツァ屋」こと「Pizzeria del Sol ピッツェリア・デル・ソル」でも出合えることでしょう。

 素材選びに心を砕き、日々料理を提供してくれるプロに対して甚だ不遜な閻魔帳など、実際につけてはいませんが、個々の飲食店に関するネガティブな情報をこの場で書き連ねることは本意ではありません。皆様にもオススメできる美味しい時間を過ごせるお店だけをこれからもご紹介してゆきます。
barolo_la_morra.jpg【photo】 朝霧にかすむランゲの丘。王のワインと例えられる風格あるバローロの中でも、土壌の違いで比較的しなやかな酒質を生むLa Morra ラ・モッラ村付近にて

 そんな店のひとつ、Francescaのオーナー、シニョール鳥山の勧めでその夜選択したのは、開店一周年を記念する「1st Anniversary Dinner」なるプリフィクスコースでした。プロローグは「お味見のひとくち」ことスプーンに載ったオーガニックなブラックオリーブとドライトマトのオイル漬け。アンティパストの「自家製生ハムの盛り合わせ」は、全て一周年に引っ掛けたおよそ12ヵ月の熟成期間を経たコッパ、モルタデッラ、鴨の生ハム、プロシュット赤ワイン漬の盛り合わせ。ガーリックポークの尻から脛にかけての部位を自家加工し、熟成11ヶ月目だというフレッシュな生ハムは、弘前「オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ」【Link to back number】の笹森シェフのもとで肉の加工を仕込まれた原田シェフが切り分けてくれました。「自慢のスープ」は村田町で自然循環農法に取り組むボンディファーム【Link to back number】から届く驚くべき糖度に達する白カボチャのポタージュ。

comune_barolo.jpg【photo】 威容を誇るカステッロ・ディ・ファレッティ城(通称:バローロ城)(写真右)はバローロ村のシンボル。ほまれ高き王のワインBaroloは、現在680人ほどが暮らすこの小さな村の名から付けられた
 

 プリモピアットは手打ちパスタ「Pici ピィチ」をイノシシのラグーソースで、...と、ここまでの料理には、原田シェフの古巣「ダ・サスィーノ」の雰囲気が明らかに感じられます。メインとなるセコンドピアットには、蔵王産土鶏とボンディファームの季節野菜をハーブで蒸し焼きにしたポルトガル料理「Pucara プカラ」を頼んだこともあり、さして強いワインを合わせる必要はありません。そこでワインリストからチョイスしたのが、北イタリアきっての銘醸地、ピエモンテ州Cuneoクーネオ県Baroloバローロ村にあるカンティーナ、「Luciano Sandrone ルチアーノ・サンドローネ」のDOC(統制原産地呼称)ワイン「Dolcetto d'Alba ドルチェット・ダルバ'06 」です。メインの鶏料理との相性には、トリ繋がりの(?)シニョール鳥山も太鼓判を押してくれました。

cantina_sandrone_luciano.jpg【photo】1999年に最新の醸造設備を導入する大規模な改装がなされたルチアーノ・サンドローネのカンティーナ

 産地は同じでも、バローロ、バルバレスコといった偉大なワインを生み出すブドウ「Nebbiolo ネッビオーロ」とは異なり、ニュートラルで幅広い料理に合わせられるヴィーノとなる「Dolcetto ドルチェット」。このブドウはピエモンテで最も栽培が盛んな「Barbera バルベーラ」と同様に、日常の食事の伴侶として飲まれるヴィーノの原料となるブドウです。一般にドルチェットは柔らかなタンニンと華やかな果実の香りが特徴の若飲みに適したヴィーノとなります。作り手のもとを訪れたヴィンテージだったのでオーダーしたサンドローネのドルチェット・ダルバは、前夜に飲んだヌーボーと同じ2千円台後半の小売価格帯のワインでした。
 
 早生種のドルチェットは、ルチアーノ・サンドローネが手掛ける一連のラインナップでは最も早い時期に収穫されます。私がカンティーナで試飲した'05vinは、9月20日から30日にかけて収穫作業が行われ、およそ30,000本がリリースされたそうです。「Dolcetto d'Alba ドルチェット・ダルバ」の醸造では、甘く華やかな香りを持つこの品種の風味を活かすため、ステンレスタンクだけで翌年の7月まで熟成させます。ネッビオーロやバルベーラの熟成には、甘くウッディなバニラ香を適度に付加する目的でピエモンテで伝統的に用いられてきた600ℓサイズの「Fusutoフスト」と呼ばれるオーク樽を使用します。世界的な潮流で一頃はイタリアでも急速に導入が進んだ225ℓサイズのバリック樽は、液面と樽の接触面積が大きくなるために、熟成期間が短縮できる半面、一般に樽香が強くなりがちです。ピエモンテでは第二次大戦期を挟んで2,000ℓ容量以上barbara_sandrone.jpgもの縦に長い楕円形の大きなオーク樽「Botte ボッテ」が普及します。混乱した世相下、略奪を防ぐ意味もあったといいますから、イタリアらしい話です。伝統の大樽熟成では、10年未満では強烈な渋味として感じられるタンニンが落ち着くまでに時間を要するものの、活き活きとしたブドウ本来の持ち味が20年・30年と持続する偉大なヴィーノが造られてきました。

【photo】 ルチアーノに代わって歓迎のご挨拶を頂いた娘のバーバラさん(右)

 ルチアーノ・サンドローネのドルチェットがリリースされるのは、瓶詰めされた2ヶ月後の毎年9月。収穫から一年でリリースされるわけです。カンティーナを訪問した'06年ヴィンテージの中で既にリリースされているドルチェット・ダルバは、若飲み用に一本すでに確保済みです。ドルチェットは、我が家のセラーアイテムとなって久しい「Barolo Cannubi Boschis バローロ・カンヌビ・ボスキス'98年」のように長期熟成向きのヴィーノにはならないため、天候に恵まれグレートヴィンテージの呼び声が高い'06年といえども、そろそろ飲み頃を迎えているはず。フランチェスカでこのヴィンテージのドルチェットを選んだのは、自宅でストックするドルチェットが既に楽しめる状態かどうかを見極める毒見を兼ねていました。

sig_luciano.jpg【photo】醸造所の壁面に描かれたブドウ畑でスクーターに乗るルチアーノの肖像とはご対面(?)が叶った

 私のワイン道楽のひとつに、(イタリアを訪れた年には)" 訪れた土地で収穫されたワインを必ずストックする"という鉄則があります。それは、ワインを通して、自分が一度はそこに身を置いて陽射しや土の香りを感じた濃密な時間を追体験できるからです。ブドウ畑を取り巻く風景や作り手を記憶していれば、時を越えたタイムスリップがいつでも可能です。実際に目にした畑で育ったブドウが収穫され、芳醇なワインとして生まれ変わり、数年後に飲み頃を迎えた時、もはや記憶の彼方へと押しやられた季節の恵みが凝縮された一杯を味わうことは、幸福なワインラヴァーだけの特権でしょう。

 1980年代に押し進められたバローロ改革の主導者の一人でもあるルチアーノ・サンドローネのカンティーナへは、3年前の訪伊メンバーと共に訪れています。ピエモンテ州Langhe ランゲ地方では、秋から冬にかけて頻繁に著しい濃霧が発生するにもかかわらず、抜けるような青空が広がった2006年10月27日の朝。Barbaresco バルバレスコから白トリュフの街として名高い Alba アルバを南西に進むと、両サイドの丘陵一面にブドウ畑が広がってきます。そこはイタリアきっての銘醸地Barolo バローロの心臓部、La Morra ラ・モッラ村とCastiglione Faletto カスティリオーネ・ファレット村の間に伸びる道なのでした。ピエモンテーゼが世界一美しいと自慢する手入れの行き届いた畑が広がる美しい丘陵風景を目にしながら、道沿いに立つBarolo の標識に従って進むと、前方の高台にバローロ村のシンボル「バローロ城」ことstainless_tank.jpg「Castello di Faletti カステッロ・ディ・ファレッティ城」が見えてきます。内部がその地方のワインに関する展示・試飲販売を行う州立の「Enoteca Regionale エノテカ・レジョナーレ」となっている城へは立ち寄らず、手前の枝道を左へ折れた先の明るいイエローの外壁の建物が目指す「Azienda Agricola Sandolone Luciano アジェンダ・アグリコーラ・サンドローネ・ルチアーノ」でした。

【photo】 醸造所の地下一階に並ぶ発酵用ステンレスタンク

 約束の朝10時過ぎに私たちが到着した時、当主のルチアーノは留守でしたが、娘のバーバラさんが一行を出迎えてくれました。バローロを代表する生産者の一人としてサンドローネの名を世界に知らしめることになる「Cannubi Boschis カンヌビ・ボスキス」の畑をルチアーノが取得したのが'76年のこと。日本でも'50年代から'60年代にかけてのバローロをたまに見かける大手醸造所Giacomo Borgogno ジャコモ・ボルゴーニョなどのもとで四半世紀近く醸造の仕事に携わった後に、自ら興した醸造所での初収穫は2年後の'78年からだといいます。醸造施設と貯蔵庫がある地下一階へ降りる階段の手前には、現在とは異なる意匠のSandolone 醸造所'70年代のボトルが床面に埋め込まれたアンモナイトをかたどったガラスケースに納められていました。屋外のテーブルの上に試飲用として用意されていたのは、「Dolcetto d'Alba'05 ドルチェット・ダルバ'05」「Nebbiolo d'Alba'04 ネッビオーロ・ダルバ'04」「Barbera d'Alba'04 バルベーラ・ダルバ'04」「Barolo Le Vigne '02 バローロ・レ・ヴィーニェ'02」の4種。'02年は天候に恵まれず、最も高い評価を受ける単一畑のバローロ 「Cannubi Boschis カンヌビ・ボスキス」が生産されなかった年ゆえ、残念ながらそこで試飲することはできませんでした。

fusto_sandrone.jpg【photo】 空調設備で温度管理がなされた熟成庫に整然と並ぶフスト樽で眠りに着くヴィーノたち

 低温と降り続く雨で厳しい年となった中、所有する3地区の畑からブドウを厳しく選別の上ブレンド、平年の半分にあたる8,800本だけを造ったというレ・ヴィーニェ'02は、高貴なネッビオーロらしい陰影のあるしっとりとエレガントな印象のヴィーノに仕上がっていました。天候に恵まれれば、更に奥行きが増すのでしょうが、厳しい条件下でよくぞこのレベルまで仕上げたと言うべきでしょう。サンドローネでは、除草剤の使用を最小限に留め、有機肥料を積極的に取り入れた畑でブドウを育てています。そんなブドウの持つ可能性を再認識させたのがバルベーラ・ダルバ'04でした。土壌の違いから東のAsti アスティ地区よりも骨格がしっかりとしたヴィーノに仕上がるAlbaアルバに所有する2つの畑で栽培する樹齢30年から40年のバルベーラ種から造られます。このブドウの特徴である酸味だけでなく複雑味も充分で味わいのバランスが取れたもの。目の詰まったキメの細かいタンニンが心地よい余韻を長く残します。バローロ、バルバレスコを生み出すネッビオーロの名声の陰で目立たないバルベーラですが、サンドローネのみならず「Hastaeハスタエ」や「Giacomo Bolognaジャコモ・ボローニャ」などの素晴らしいワインを生み出す生産者の労作を含めて、要チェックのブドウ品種です。恐るべし、イタリアの地方品種。

         dolcetto05sandrone.jpg barbera04.jpg
         valmaggiole_nebbiolo_04.jpg le_vigne_barolo_02.jpg 

【photo】試飲アイテム4種。ヴィーノの若さを表すガーネット色が印象的なドルチェット・ダルバ'05(上左)、凝縮度の高い秀逸な味わいを示すかのような深みのある色合いのバルベーラ・ダルバ'04(上右)、淡い特有の色調を呈するネッビオーロ・ダルバ'04(下左)、豊富なエキス成分由来の高い粘性を伴うバローロ・レ・ヴィーニェ'02(下右)

vini_sandrone.jpg

【photo】試飲テーブルに揃ったサンドローネの逸品

 ワイン単体で光り輝くネッビオーロやバルベーラのように強い自己主張をしないものの、さまざまな素材を拒絶することなく受け入れ、料理を引き立てる名脇役ぶりを発揮するドルチェット。理想的な天候の下で素晴らしい出来のブドウが収穫できたと語っていたサンドローネを訪ねた'06ヴィンテージのドルチェット・ダルバは、フランチェスカでの晩餐で期待に違わぬ役割を果たしてくれました。活き活きとしたベリー系やザクロのような果実味と、落ち着きある口当たりの良さからグラスが進み、セコンド・ピアットが出る頃には残りわずかになっていたのですが、抜栓後1時間あまりを経過し、立体的な複雑味を増してゆきました。ボンディファームのカブやジャガイモ、クリームピーマンなどの野菜たちの優しい旨みが、強めのローズマリーの香りをまとった地鶏のしっかりとした肉に染み込んだその夜の主役の料理を一層引き立て、より美味しく感じさせてくれました。

 満ち足りた時間の中で、前夜のボジョレーがもたらしたモヤモヤは、そうしていつしか雲散霧消していました。あたかも私がカンティーナを訪れた日の澄み渡った秋のすがすがしい青空が、グラスの中から広がってゆくかのように。Gazie gentile Dolcetto.

    
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Azienda Agricola Sandrone Luciano
Via Pugnane,4-12060 Barolo(CN) Piemonte ITALIA
phone:+39 0173 560023
info@sandroneluciano.com
URL / http://www.sandroneluciano.com
カンティーナの見学は要・予約。畑を含めて最低二時間はみる必要あり

Francesca フランチェスカ
仙台市青葉区大町2-5-3 コーポラティブハウス大町202
phone:022-223-8216
営) 11:30-14:00 17:30-22:00 月定休
URL / http://www.francca.jp/
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【注釈】Amazon.co.jp ランキング: 本カテゴリー中 M社のガイド2009年版が2,170位に対して、ザガット・サーベイ2009年版は8,889位に過ぎない。レストラン評価本として内容的には全く遜色がないのだが・・・

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2009/01/12

丑年なVinoでスタートダッシュ

 新たな年も早や12日が過ぎ、今年も残すところ353日となりましたが(?)、皆様いかがお過ごしでしょうか。 私は2009年の幕開けを1,100名あまりの皆さんと共に、新年を迎えるカウントダウンの大合唱の中で迎えました。と申しますのも、東北大学百周年記念会館「川内萩ホール」を会場に、大晦日(独語で「Jilvester ジルベスター」)の深夜に催された「東北大学ジルベスターコンサート2008-2009」の運営に携わったからです。仙台では今回が初開催となった東北大学・河北新報社・TBC東北放送の共催によるこのニューイヤーコンサートは、新装なった東北大学百周年記念会館「川内萩ホール」の世界水準とされる音響のもとで新年を飾るにふさわしいクラシックの名曲を楽しみながら、午前零時のカウントダウンを挟んで新年を迎えようというものです。聴衆としてではなく、仕事だったのはやむを得ませんが、会場を埋める聴衆の皆さんと夢のような時間を共有することができました。
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【photo】2008年秋に新装なった東北大学「川内萩ホール」。世界レベルの音響設計がなされたホール初の有料コンサートとなった「東北大学ジルベスターコンサート」のリハーサルの模様。本番前から熱の入った演奏を聞かせた山下洋輔さんと仙台フィル。本番では更に鬼気迫る熱演を繰り広げ、会場を熱狂の渦に巻き込んだ

 山下一史氏の指揮のもと、オッフェンバックの喜歌劇「天国と地獄」序曲でオープニングを飾った仙台フィルハーモニー管弦楽団とのコラボで、海外で輝かしい成功を収めている圧倒的なパフォーマンスを聴かせてくれたのはソプラノの田村麻子さん。2008年が生誕150周年に当たったイタリア中部トスカーナ州Lucca ルッカで1858年に生まれたジャコモ・プッチーニの歌劇「ジャンニ・スキッキ」のアリア『私のお父さん』を情感豊かに歌い上げました。恋する乙女心を切々と表現する田村さんの美声に聞き惚れるうち、歌詞にも登場するフィレンツェ・アルノ川に架かる「ポンテ・ヴェッキオ」の上へといつしか誘(いざな)われていました。歌劇「トスカ」より『星は光りぬ(←昨年亡くなったディ・ステーファノの冥福を祈って...) 、「トゥーランドット」より『誰も寝てはならぬ』という豪華カップリングで聴衆を魅了したのは、10月に開催された仙台クラシックフェスティバルでもお馴染みのテノール中鉢 聡さん。極めつけは、ガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」を熱のこもったエネルギッシュな演奏で会場の大喝采を浴びたピアノの山下洋輔さん。とまぁ、ソリストといい、演目といい、なんとも贅沢なラインナップなこと!
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【photo】トスカーナ州北西部の城壁に囲まれた古都、Lucca ルッカのプッチーニ生家(背景奥の建物)の前に建つ凛々しい作曲家の銅像

 実はコンサートの進行役を務めたTBCの藤沢智子アナウンサーと舞台裏のスタッフは、時計と睨めっこで時間管理に当たる極度の緊張を強いられていました。演奏中に年をまたぐジルベスターコンサートという特別な日の演出上、予定のプログラム7曲をカウントダウンを始める23時59分頃までには終えなくてはならなかったからです。指揮者の山下さんと仙台フィルのメンバー、3人のソリストが揃ったステージと客席が一体になって新年のカウントダウンが始まると、会場の興奮は最高潮に。ステージの背景に映し出されたカウントダウンの数字がゼロになり、A Happy New Year! の文字が映し出されると、会場は一気に華やいだ雰囲気に染まりました。新年を飾る曲として演奏されたのが、19世紀半ばのイタリア統一運動(Risorgimento リソルジメント)を精神的に支え、今も「イタリアの父」と称えられるジュゼッペ・ヴェルディの歌劇「椿姫」より『乾杯の歌』です。

 ワイングラスを高らかに掲げながらステージに登場した田村さん・中鉢さんのお二人。目にも鮮やかな赤いドレスをまとった田村さんが手にする赤ワインがステージによく映えます。時間を気にする必要が無くなったせいか、こちらもリラックスして二重唱の名曲を楽しむことができました。中鉢さんが「ルネッサーンス!」という髭男爵のギャグを飛ばしてくれなかったのが残念でしたが(笑)、所属する藤原歌劇団でも当たり役の青年貴族アルフレードが「Libiamo ne'lieti calici che la bellezza infiora,(友よいざ飲み明かそう、心ゆくまで)」と歌い出す「乾杯の歌」は、新たな年の幕開けにはぴったりの選曲ですよね。

Vernet-Barricade_Novara.jpg【photo】 街の守護聖人、聖ガウデンツィオを祀るサン・ガウデンツィオ聖堂が描かれたノヴァーラの対オーストリア市街戦を描いた19世紀の絵画

 ラヴェル作曲「ボレロ」の演奏が終わっても鳴り止まぬ拍手の中、アンコールはウィーンフィル恒例のニューイヤーコンサートでもお馴染みの「ラデツキー行進曲」。前世イタリア人にとって、ウィーンの楽友協会大ホールかと錯覚させるかのような客席の手拍子と共に演奏されたこの楽曲には、いささか複雑な思いがよぎります。というのも北イタリアがオーストリア・ハンガリー帝国の支配下にあった1848年3月、独立を勝ち取ろうと現在のピエモンテ州Novara ノヴァーラで決起したサルデーニャ連合軍を主体とする我が同胞は、オーストリア帝国のヨーゼフ・ラデツキー将軍によって殲滅されました。その勝利を称えるためにヨハン・シュトラウスが作曲したのがこの威勢の良い行進曲だからです。こうして私が前世を過ごしたイタリア統一運動(リソルジメント)真っ盛りの時代に活躍した作曲家の作品を中心としたプログラムで、気持ちが高揚したまま深夜1時30分過ぎに家路に着きました。

avignoneseidesiserio1995.jpg【photo】 深みとしなやかさを兼ね備えたアヴィニョネジのVino rosso、「Toro Desiderio トーロ・デジデーリオ」。エチケッタに描かれたキアーナ牛もまた、中身のヴィーノ同様に堂々たる体躯を備えている

 丑年の幕開けを祝うにふさわしいワインは無いかと、静まり返った深夜のリビングルームで一人思案しました。黒い闘牛がボトルに掛かるスペイン・カタルーニャ地方の大手ワイナリー「ミゲル・トーレス」は日本でも有名ですが、イタリアワインにほぼ占拠され、お目当てのヴィーノを探し出すのにひと苦労する(^^;我が家のセラーには、「牛の血」を意味する同社の看板ワイン「Sangre de Toro サングレ・デ・トロ」すらありません。

 イタリアでエチケッタ(=ラベル)に牛が登場するヴィーノといえば、「Avignonesi アヴィニョネジ」の「Toro Desiderio トーロ・デジデーリオ」というヴィーノを真っ先に思い浮かべました。世界最高峰のデザートワインに数えられる「Vin Santo Occhio di Pernice ヴィン・サント・オッキオ・ディ・ペルニーチェ」で名高いこの造り手が、トスカーナ州南部「Val di Chiana ヴァル・ディ・キアーナ(=キアーナ渓谷)」地帯に位置する「Cortonaコルトーナ」近くで栽培するメルローとカベルネ・ソーヴィニヨンを混醸したワインです。幸福無事な一年の願いをかけるにはぴったりな「願望」を意味するイタリア語Desiderio の名が付いたこのヴィーノのエチケッタに描かれた白い雄牛(伊語でToro)はイタリアきってのブランド牛であろう「Chianina キアーナ牛」です。

mucca_chianina.jpg【photo】 オスは体重900kgから1,000kgもの巨漢になる世界最大級の牛、キアーナ牛

 ほとんどの観光ガイドブックに郷土料理として紹介されるほど有名な「Bistecca alla Fiorentina ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ(=フィレンツェ風Tボーンステーキ)」に使われるのがこの牛です。一大観光都市でもあるフィレンツェでは、肉料理の目玉としてレストランのメニューによく登場しますが、月齢24ヶ月以下の雄牛の肉を厚切りにして炭火で「al sangue アル・サングエ」(=レア)に焼く本物のビステッカは稀だといいます。トスカーナ州南東部のキアーナ渓谷周辺で飼育される希少なこの牛は、5月上旬から11月中旬にかけて放牧肥育され、オスの体重は1トンにも及ぶ世界最大級の巨漢牛となりますが、優れた肉質と希少性からスローフード協会によって次代に残すべき食材を守る「味の箱舟」事業の保護(=プレジディオ)指定を受けています。bistecca_fiorentina.jpg以前取り上げた日本短角種のように噛み締めると肉の旨味が口の中一杯に広がる本物のキアーナ牛にありつきたい方は、モンテプルチアーノやコルトーナ周辺まで足を伸ばすことをオススメします。ただし、ほとんどの場合、ビステッカは二人分以上のボリュームがあるので、お一人で完食するのはまず無理でしょう。

【photo】 MontepulcianoにあるリストランテBorgobuioで正真正銘のキアーナ牛を使ったビステッカをオーダー。マダムのエルダさんに「少なめに」と伝えたものの・・・(上写真) ランボルギーニの名に恥じないスーパー・ウンブリアのセカンドヴィンテージとなった「カンポレオーネ'98」(下写真)

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 私が所有するDeseiderioは、トスカーナが理想的な気候のもと作柄に恵まれた'04年ヴィンテージで、まだ飲み頃に達していません。そこで"牛つながり"でセラーから選んだのが、今回ご紹介するイタリア中部ウンブリア州で造られた赤ワイン、「Lamborghini-La Fiorita ランボルギーニ - ラ・フィオリータ」なる造り手の「Campoleone カンポレオーネ」の'98年ヴィンテージ。そう、'70年代のスーパーカーブームで有名になったあのランボルギーニ家が所有するカンティーナです。エミリア・ロマーニャ州Sant'Agata Bolognese サン・アガタ・ボロネーゼに本拠地を置く自動車メーカーのランボルギーニ「Automobili Lamborghini Holdings S.p.A」 (秀逸な「Pronti a correre?(=Ready to ride?)」の問いかけから始まるWebサイト(伊語・英語)こちらは、数度に及ぶオーナーの変遷を経て'99年以降はドイツのAUDI 傘下に入りました。しかしワイナリーは創業者であるランボルギーニ一族によって現在も運営されています。

 ちなみに北イタリアのトレンティーノ・アルト・アディジェ州には「Ferrari フェラーリ」というスプマンテの著名な作り手も存在しますが、車のフェラーリとは全く関係ありません。イタリア伝統のベルカントなハイトーンを奏でながら8,000回転以上まで一気に吹き上がる官能的なエンジンを積んだランボルギーニやフェラーリの名が付いたヴィーノやスプマンテでも、酔いが回るのまで速いわけではありませんのでご安心を(笑)。跳ね馬をシンボルとするフェラーリに対して、ランボルギーニは牡牛座だった創業者にちなんだかどうかは判りませんが、猛々しく突き進むファイティング・ブル(闘牛)をシンボルマークにしています。

lamborghini_logo.jpg【photo】 猪突猛進(→ここでは「牛突猛進」?)するファインティング・ブル(闘牛)はランボルギーニのシンボル

 ランボルギーニ社の創業者であるフェルッチョ・ランボルギーニ(1916-1993)がイタリア最大の湖である「Lago Trasimeno トラジメーノ湖」を訪れた際、湖水を背景になだらかな丘陵が広がるPanicale パニカーレの風景に魅せられます。第一線を退いた'71年に32haの畑を購入し、「Sangiove サンジョヴェーゼ」や「Ciliegiolo チリエジョーロ」といったイタリア固有品種に加え「Merlot メルロー」と「Cabernet Sauvignon カベルネ・ソーヴィニヨン」といったボルドー原産のブドウの栽培を始めます。優秀なメカニックとして、エンツォ・フェラーリも一目置く存在だったフェルッチオは、もともとエミリオ・ロマーニャ州Ferrara フェラーラ近郊にある農家の出身でした。当初は自家消費を目的に楽しみで始めたワイン造りが転機を迎えたのは、'93年に亡くなったフェルッチオの後を'96年から継いだ娘のパトリツィアが「ミスター・メルロー」の異名を持つ有能なオルヴィエート出身の醸造家、リッカルド・コタレッラを醸造コンサルタントに迎えた'97年ヴィンテージから。パトリッツィアがベーシックラインのヴィーノ「Trescone トレスコーネ」について語るVideoはこちら。

   

 同年より赤をイメージカラーとするキャップシールとエチケッタ(ラベル)のコストパフォーマンスが高い「Trescone」と、黄色を基調としたフラッグシップに位置付けられる「Campoleone カンポレオーネ」というイタリアン・スポーツカーのメーカーらしい2種類のヴィーノにラインナップを一新。'03年にはミッドレンジとして「Trami トラミ」も第3のワインとして年産4,000本という少量だけながらリリースされています。それらのヴィーノのエチケッタには、誇らしげにLamborghini のロゴと小さく控えめに猛牛をあしらったシンボルマークが記されています。etichetta_campoleone.jpg著名な米国のワイン評論家ロバート・パーカーJr.が97点(/100点満点)を付けて世のワインラヴァーの注目を集め、ファーストヴィンテージとなった'97年産からカンポレオーネはシンデレラ・ワインとして鮮烈なデビューを飾りました。それはグラスに注いでも全く光を通さないほど真っ黒な色合いを呈する凝縮度の高いサンジョヴェーゼとメルローが50%ずつブレンドされたヴィーノでした。

【photo】 ランボルギーニの紋章、ファイティング・ブルをあしらったCampoleone のエチケッタ。およそ猛牛のイメージとはかけ離れた小柄でチャーミングな女性オーナー、パトリッツィアさんには不似合いかも?

 新年の一杯目として選んだCampoleoneセカンドヴィンテージの'98年は、10年を経てタンニンがこなれてきたものの、抜栓直後はいまだに硬さが残る印象を残します。徐々に妖艶な香りを漂わせるヴィーノをグラスで2杯ほど空けましたが、これはもう少し時間を置いたほうが良さそうだと思う間も無く、猛烈な睡魔が襲って来ました。そういえば紅白歌合戦の小林 幸子と美川憲一のド派手な衣装はどんなだったか? そして紅組・白組の勝敗はどうなったんだろう? という考えが中鉢さんの「Nessun dorma!=誰も寝てはならぬ!」というリフレインと共に脳裏をよぎりましたが、いつしかソファーで深い眠りについていました。Zzz・・・ 飲み残したCampoleone がスーパーカー並みの優れたポテンシャルを見せてくれたのは、優れたワインにはよくあるように翌日元旦と翌々日の2日のことでした。(ちなみにいずれの疑問についても未だにその解答を得ていません)

agri_lamborghini.jpg【photo】 トラジメーノ湖を望む美しい丘陵に建つランボルギーニのカンティーナ(手前) 

 イタリア国家警察が創設152周年を迎えた昨年、ランボルギーニ社から最新型フラッグシップモデル「Gallardo(ガヤルド)LP560-4」が記念に贈呈され、主にスピード違反を取り締まるためのパトカーとして稼動しています。(そりゃそうです、時にF1レーサーまがいのフェラーリやポルシェを追尾するのですから...←(・_・┐)))。メーカーによる特別な講習を受けた30名の警官だけがステアリングを握ることが許されるというのは、時速100kmに達するまでわずか3.7秒、最高巡航速度325kmに達するモンスターばりの性能ゆえ、運転にもそれなりの腕を要するということ。(圧倒的な加速性能を披露する動画はコチラをclick!

 不景気風を吹き飛ばすファイティング・ブルにあやかって上のGallardo LP560-4の動画ばりにホイルスピンをかけて猛烈なスタートダッシュを切るには最適なアイテムとして、皆様にもランボルギーニをオススメします。ちなみに日本ではGallardo LP560-4は一台2,500万円の高嶺の花、Campoleoneは5,000円台のまだしも手の届く価格で入手可能です。...いくら丑年の幕開けだからといって、新年最初の一本が牛ラベルのワインとは、いささか安直な選択だなぁ、と自省しつつ、今年もよろしくお願いします。m(_ _)m

   
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2008/11/28

ボジョレー後日談&自然派ワインよもやま話

 今月20日(木)は「今年も当たり年?」の中で∋━ グサッ(゚ロ゚)━━ (`▼´) ウリャ! とばかりに槍玉に上げたボジョレー・ヌーボーの解禁日でした。ぶっちゃけ本音炸裂の言いたい放題ぶりからして、そして真紅のワインカラーからしても「血祭りに上げた」と表現したほうが的確かもしれない(笑)内容をご覧頂いた方は、よもやヌーボーなどお買いにならなかったと思いますが、いかがでしょう。

 そもそも勿体つけて"この日まで飲んじゃダメ" だなんて、エサを前に「待て!」と飼い主からお預けを喰らうワンコみたいだなぁ。ブツブツ... "飲みたい時が飲める時"を常とする一介の呑ん兵衛として、そんな偉そうな商法は甚だ不愉快。ブツブツブツ... フレッシュとかフルーティなどの常套句でいかに美化しようと、どう贔屓目に見てもその味は水っぽいし。ブツブツブツブツ... まして「飲んでよし!」の一声でありつけたソレが売り文句通りに美味しけりゃ、四の五の言わないんだけどねぇ。ブツブツブツブツブツ...

 立地条件や土壌以外に農作物であるブドウの作柄を左右する要因は、開花から結実して顆粒が熟してゆく過程における日照量と適度な降水量、そして収穫時の天候です。たとえ収穫直前まで生育が順調でも、収穫期に雨が続くと、それまでの苦労が水泡に帰することになります。イタリア人は何につけPassioneパッスィオーネ(情熱)の重要性を口にしますが、ブドウの栽培は自然相手の仕事である以上、作り手の熱い情熱をもってしても乗り越えられない壁は存在します。ヘミングウェイの「老人と海」ではありませんが、過酷な自然の前で人は自らの無力さを思い知らされる宿命にあります。

fiori_uva.jpg【photo】花を咲かせたブドウの幼果

 現地からの情報によると、開花期の5月から太陽の力で糖度を上げてゆく8月末にかけて雨が多かった2008年。ボジョレーではブドウが侵されやすい「べト病」や結実不良が発生、北部ではゴルフボール大の降雹被害もあり、決して天候には恵まれなかったようです。ひと頃のブームが去った今も行われていることに私などは驚きを禁じえない東京での解禁パーティーに登場したボジョレー大手の生産者によれば、「今年のヌーボーは例年にまして凝縮度が高い良い出来だ」といいます。たとえ収穫期は晴れたにせよ、いかに選果を厳しくしたにせよ、前段を知っている以上、額面通りにその言葉を受け取るわけにはゆきません。「ナメとんのかワレ(`Д´*)?!」と、庄内系から関西系に豹変して突っ込みを入れたくなるコメントを吐いたこの生産者は、日本では「ボジョレーの帝王」と呼ばれています。現地価格が2~5ユーロ(240円~600円)程度の安酒の帝王と言われても、なんだか激安王のドン・キホーテみたい・・・。(笑)

 ここ何年か「自然派」という耳障りの良いカテゴリー名で語られるワインが一部の人々の間で持てはやされています。この概念を最初にもたらしたフランスでは「Vin Nature ヴァン・ナチュール」と総称される自然派ワインとは? ごく簡単に言うと、栽培や醸造段階で人工的な要素を排除した主にフランス・ロワール地方やブルゴーニュ地方などの生産者とワインを指します。イタリアにもビオロジカルな栽培法で造られる美味しいヴィーノは山と存在しますが、このようなあざとい表現は使いません。もちろんワインは人が口にするものですから、除草剤を撒いたり化学肥料を多用する疲弊した土壌で、防疫のため薬剤を散布して造られるブドウを原料とするよりは、極力オーガニックな栽培環境のもとで造られるワインのほうが望ましいことは確かです。自然派の中には、有機農法だけでは満足せず、自然界のリズムを重視して天体の動きにあわせて農作業を行う「ビオディナミ」を取り入れる生産者もいます。醸造においては培養した酵母を使わず、無補糖・無清澄・無濾過など、古代ローマ時代さながらのワイン造りも行われています。

 輸送途中での温度変化による変質を避け、長期保存を可能にする殺菌効果や酸化防止効果を得るための最小限の(日本国内で販売されるワインは、食品衛生法で0.35g / ℓ以下と規定)亜硫酸塩すら添加しない場合もある自然派のワインは、雑菌による劣化リスクに加え、輸送や保管段階での環境変化に弱く、品質のバラツキが出やすいのが現実です。通常の飲酒量では亜硫酸塩による健康への影響は無いとされる以上、頭痛を発症するような過度の化学物質過敏症でもない限りは、雰囲気に流されて安易に自然派ワインに手を出さないほうがハズレを掴まされるリスクはずっと少なくて済むはずです。

【photo】葉が色付き収穫を待つばかりのブドウ

uva_autunno_06.jpg 事実、自然派ワインには、自然派を名乗るための生産手段の確立そのものが目的であるかのような、味や品質をなおざりにしたシロモノが少なからず紛れ込んでいます。一般の飲み手にとってワインを飲む目的は、食事をより美味しく楽しむためだったり、作り手がこだわり抜いたワインのみが持つ高貴で深遠な世界を窺い知るためではないでしょうか。自然派だから美味しいという必然性はどこにもありません。"そう名乗れば、「なんとなくカラダに良さそう」と連想させるから、自然派の看板を掲げよう"という作為をそこに感じてしまうのは私だけでしょうか。美味しいワインを生み出す手段として辿り着いた手法がビオやビオディナミであったというのが自然な成り行きですよね。"自然派を標榜しながら不自然"とはこれいかに??

 にも拘らず、目先の目新しさばかり追いかける雑誌や酒販サイトのいくつかが、自然派と称するワインをこぞって持ち上げました。消費低落傾向が顕著なヌーボーに付加価値を付けるには絶好のキーワードだったのか、昨年ぐらいのヌーボー商戦から、「自然派ヌーボー」が登場しています。予想通り今年も作柄の良さを強調する商才に長けた「帝王」氏とは違って、丁寧な仕事ぶりに定評ある自然派の若手リーダーと目され、日本での人気が高いフィリップ・パカレ氏は、今年が厳しい作柄だったことを輸入元のサイトで率直に認めています。

 大方の皆さんがそうであるように、お付き合いで購入したというボジョレー・ヌーボーを「自分では飲みきれないから」という知人から頂いたので、仙台のとある業者が輸入元になっているLouis Joseph なる作り手のヴィラージュ・ヌーボーをものは試しに飲んでみました。私にとっては初めて口にするこの生産者、輸入元によれば「採用基準の厳しい地元ヨーロッパの多くの航空会社をはじめ、日本の航空会社でもビジネスクラス以上でサーブ」されているとのこと。さりとてヌーボーは概して年越しすら叶わない超・若飲みの酒ゆえ、さっさと空けてしまったほうが得策です。「とりわけ品質の優れたヴィラージュ地域から醸し出された逸品」と記されたバックラベルをヤブにらみしながらグラスに注ぐと、エキス成分由来の粘性が皆無な水のようにさらっとした触感が見て取れます。色調は果汁20%程度の加水ジュースかと思わせる薄いガーネット色。グラスをスワリング(撹拌)すると、ヌーボー特有のバナナ香がベリー系の香りに混じって立ち上ってきます。口に含むと、ジャミーで甘酸っぱい痩せた酸味がまずは押し寄せ、アフターに残るのは儚げな尖った酸のみ。日ごろ飲んでいるワインは、グラスの中で時間の経過と共に香りが開いて、味わいの変化を見せてくれるのですが、このヌーボーは酸化の進行が驚くほど早く、味の変化と言ってもワインヴィネガーのように痩せ細ってゆくだけでした。

bojyo-bojyo2008.jpg【photo】 バックラベルには全く非の打ち所がない品質であるかのような期待を抱かせる記載が並ぶ。一口含んで、思わずそれを読み返してしまったボジョレー・ヴィラージュ・ヌーボーの色合い

 人さまから頂いたモノをとやかく言うのは野暮なことは重々承知の上で、敢えて感想を述べれば、「これはブドウから作ったアルコール飲料には違いないものの、果たしてワインと呼べるだろうか?」 というのが正直なところ。軽めの味付けのビーフストロガノフと共に、日頃使うことが多いRiedel 社のワイングラス「ヴィノム・ボルドー」で(→形状が異なる「ヴィノム・ブルゴーニュ」で味の違いを試すまでもないと判断したため)3杯までは飲みましたが、我慢もそこまででした。残りは調理酒としての用途しか無さそうです。もっともこの酒質では劣化が早そうなので、すぐにワインヴィネガーに化けるかもしれませんが...。一応ネットで価格を調べたところ、昨年は2,880円で売られていた商品のようです。ヌーボーのご多分に漏れず、これは明らかに品質と不釣合いな値段と言わざるを得ません。全身を流れる血液がイタリアワインで出来ている私にとっては、4年ぶりに口にした(前回も頂き物だったっけ...)ボジョレー・ヌーボーはどうやら輸血ミスに等しい選択だったようです。ヘモグロビンが欠如した血液のように貧弱なヌーボーの摂取によって、モヤモヤした枯渇感が後遺症として残ってしまいました。

 そんな急性ボジョレー中毒(?)の症状から脱するためには、やはり特効薬として真っ当に造られたヴィーノを服用するのが一番。古来より「酒は百薬の長」というではありませんか。アハハ・・・ と、いうことで、翌日さっそく実行に移された食事療法のレポは次回 !

次回「記憶を呼び覚ますヴィーノ~ルチアーノ・サンドローネ 訪問記」に続く

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2008/09/27

今年も当たり年?

ボジョレー・ソードーは日本固有のお祭り

 恒例行事の観すらあるボジョレー・ヌーボー商戦がヒートアップする季節がそろそろやって来ます。Lyon リヨンの北方、ブルゴーニュ南部のボジョレー地区では、花崗岩土壌に適合したGamey ガメイというブドウの収穫が8月末から9月にかけて行われます。ヌーボーは通常のワインの仕込とは異なり、ブドウを破砕せず密閉したステンレスタンクに入れ、炭酸ガスの作用で促成醸造後、捕糖してアルコール度数を上げ、樽熟せずに瓶詰めする「マセラシオン・ カルボニック」、ないしは「マセラシオン・ボージョレ」という特殊な醸造法で造られます。何事につけイベント好きな日本人の国民性ゆえか、航空便で運ばれたヌーボーを解禁日の11月第三週木曜の午前零時に店を開けて売り捌くスーパーと酒販店、そして真夜中の解禁イベントの様子がニュースに登場したりします。

 ピーク時(2004年)に比べてボジョレー・ヌーボーが売り上げを減らしている近年においても、昨年は輸出総額のうち54%は日本向けでした。第2位の米国が10%強に過ぎませんので、ボジョレーの生産者にとって日本は圧倒的なシェアを占める上得意先です。明らかに日本を意識したサンリオのキャラクター、HELLO KITTY ラベルのヌーボーまで最近では登場しています。日本人にとって、ボジョレー・ヌーボーは季節の風物詩的な特別な酒として崇められてきました。

Beaujolais_Sendai_AP.jpg【photo】 2006年の解禁日を控え、パリから仙台空港にチャーター便で空輸されたボジョレー・ヌーボーを検査する空港の税関職員

 実は日本だけが熱心に輸入しているのに「世界中が待ち焦がれる」とか、毎年の「最高の出来!」はおろか、2、3年おきに「100年に一度の世紀のヴィンテージ!!」などと喧伝されるボジョレー・ヌーボー。私は一連の騒ぎを「またボジョレー・ソードー(騒動)の季節か...」と右から左へ受け流すことにしています() ??。流布される美辞麗句が額面通りとすれば、ボジョレーには天候に恵まれないオフヴィンテージなど存在しないかのようです。ボジョレーに限っては、ネガティブな情報は決して関係者から発信されません。

 しかるに実態は、より上質だとされる「ボジョレー・ヴィラージュ・ヌーボー」ですら、半年はおろか年越しすら叶わない酒質であることは、普通の作り方をした同価格帯ワインの味をご存知の方ならば容易にお分かりになる筈です。そもそも、ヌーボーは天候によって品質が劇的に向上する酒なのでしょうか? 私見では断じてNoです。かつて Mommessin モメサンというボジョレー地区の有力なネゴシアン(酒商)が、同地区にある10のクリュのひとつ、Fleurie フルリで1990年に収穫されたガメイをマセラシオン・ カルボニックではない通常の醸造法で醸した「クリュ・ボジョレー」を飲んだことがあります。瓶詰め後9年を経て、綺麗に熟成が進んだそのボジョレーは、深みのあるフローラルな芳香と程よい体躯を備え、充分に私を満足させるものでした。

 本国では対価を支払って飲むワインとしての需要が見込めないボジョレー地区の新酒を売り込む先として、したたかな政府機関と関係業界が白羽の矢を立てたのが、当時一人当たりの年間ワイン消費量が0.6本程度と、一部の愛好家を除いてまだワインに親しむ素地が無かった極東の島国 Japonでした。"11月第3木曜日以降に解禁すべし"という現在のルールが定められた1985年は、ボジョレー・ヌーボーが日本に本格的な攻勢をかけ始めた年です。「日本は世界で一番早くヌーボーが飲める!」というお馴染みの宣伝文句は、日付変更線のすぐ西側に位置し、日本よりも3時間一日が早く始まるオーストラリア東海岸とニュージーランドの存在を忘れた人々によって広められました。もっとも、20世紀初頭においては、真っ当なワインが世界のどこよりも市場に出回っていた英国からの移民が多いオーストラリアやニュージーランドでは、まともなワインの味を知らなかった日本とは違って、現地では2ユーロ(300円!)からせいぜい5ユーロほどのボジョレー・ヌーボーの解禁に飛び付く現象など起こりようがなかった筈ですが...。

 バナナフレーバーが漂うアセロラジュースのような大方のボジョレー・ヌーボーとは対極にある、長期熟成に耐えうる本格的な赤ワインだけが備える複雑味。その大切な構成要素のひとつである渋味成分の元となるのが良質なタンニンです。日本では、酸味を伴ったタンニンのあるワインは、「酸っぱい」「渋い」からと苦手にする方がおいでです。タンニンを感じさせないヌーボーは、ブドウ由来の甘味が残るスムーズな味が広く受け入れられたようです。世界で唯一ボジョレー・ヌーボーを競うかのように購入する日本人の多くは、ヌーボー以外の赤ワインを自家消費しておらず、年間一人当たりの赤ワイン消費量は、いまだに750mℓ瓶2本程度でしかありません。飲酒人口のおよそ2割は、ワインを日頃ほとんど口にしないにもかかわらず、ボジョレー・ヌーボーだけは買うのだとか。

 1970年代後半にブームとなった1,000円ワインや、その後登場した500円前後の低価格ワインと比べ、航空便ヌーボーの2,000円前後という価格設定は、「安酒ではない」という印象を抱かせるに充分だったでしょう。国名の前に「お」を付けて呼ばれるように、かつて日本に蔓延していた"おフランス"ないしは花の都パリへの漠とした憧れもボジョレーのイメージ向上に寄与したはずです。大方の日本人がワインといっても「赤玉スイートワイン」ぐらいしか飲んだことがなかったであろう1976年(昭和51)、日本にヌーボーを最初に輸入した業者は、"パリと同じ日に乾杯"というクサーいキャッチフレーズを使っていました。

Beaujolais_Aeon.jpg【photo】 午前零時の時報と共に販売が解禁されたヌーボーにおよそ500人もの客が群がった。2005年の解禁日となった11月17日(木)午前零時過ぎ、仙台市内のある大型店で

 今年も11月20日(木)の解禁日に向けてドル箱(⇒ここでは「ユーロ箱」か?)の日本にヌーボーが運ばれて来ることでしょう。流通の過程で倉庫保管料や中間マージンやらが付加され、3ユーロ前後の酒が2,500円以上の値段となって市場に出回ります。相変わらずのユーロ高と燃料代が高騰する今年は(9/27時点)、サーチャージも付加され、需要下落の傾向にあるヌーボーに価値を付加するキーワード、「ヴィラージュ・ヌーボー」や昨今流行の「自然派」の手になるヌーボーは、軽く3,000円を越える値が付いています。そこまで出せば、そこそこ上質なワインを探すことは容易なこと。元来は嗜好品であるワインの味の好みについて、とやかく申し上げる意図は毛頭ありませんが、肌寒さが加わる11月下旬ともなれば、しっかりとした味わいを持ったワインがより美味しく感じる季節です。一本750mℓのブドウジュースに3,000円を支払う余裕のある方はともかく、少しでも費用対効果を求めるのであれば、これまでのように付和雷同してヌーボーに飛びつかなくとも、選択の幅は広く持ったほうが納得の行く買い物ができるはずです。

bojyobojyo2009.jpg【Photo】ボジョレー・ヌーボー解禁日の深夜零時を待って発売された新酒を品定めする律儀かつお祭り好きな(?)ヌーボー愛好家。一方で完全に冷やかし客に過ぎない私は1本たりとも手を出さないのであった。仙台市内のとある大型店にて

 あまりに商業主義が目に付くボジョレー・ヌーボーを巡る日本の現状を見るにつけ、今回はぶっちゃけ本音トーク気味でした(笑)。" フランス・ボジョレー産の酒を口にしないイタリアワイン好きの前世イタリア人が贔屓目でグダグダ文句を付けているんじゃないの? (`-´) "とお感じになった方もおいでかもしれません。誤解の無いように申し上げておきますが、日本におけるボジョレーの成功に続けとばかりに近年出回るようになったイタリアの新酒Novello ノヴェッロとて私にとっては同じこと。多種多様なブドウが栽培されているイタリアワインの個性をあえて殺すようなマセラシオン・ カルボニックで造られるノヴェッロは、一部のワイン生産地で少量造られる程度で、イタリア人が発売を心待ちにするものではありません。伝統に培われた醸造法で仕込めば、ちゃんとしたヴィーノになるブドウのポテンシャルを引き出すことなく、特殊な製法でごく短期間にSucco di uva (ブドウジュース)を水で希釈したような味の飲み物に仕立ててしまうのですから、もったいない話です。

 かようにボジョレーの解禁には全く関心がない私ですが、今月15日に狩りが解禁された北イタリア産白トリュフは、今年質量共に最高の出来が期待される当たり年なのだとか(⇒ボジョレーの当たり年とは違ってこっちは本当ですよ)。重量当たりの値段が世界一高価な食材といわれるイタリア・アルバ産の白トリュフ狩り同行記については、またいずれ。

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2008/08/13

作り手死すとも、ワインは死せず

急逝したアブルッツォの巨星、ジャンニ・マシャレッリが遺したもの

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 来る10月23日から27日にかけての5日間、イタリア・トリノでスローフード協会主催の「Salone del Gusto サローネ・デル・グスト」が行われます。世界中から特色ある優れた食品の生産者と料理人、ジャーナリストが集った前回の開催は今から2年前の2006年。そこでアブルッツォ州の手打ちパスタとワインを紹介するセミナーでお会いしたのが、イタリアワイン界の重鎮、Gianni Masciarelli ジャンニ・マシャレッリ氏でした。《Link to back number
セミナーの席上、自身のワイン造りについて熱弁をふるったマシャレリ氏が、7月31日に滞在先のミュンヘンで脳梗塞のため亡くなりました。スローフード協会が運営するWEBサイト「Sloweb」には、「Addio Gianni(=さようなら、ジャンニ)」と題する8月1日付の記事が掲載されています。

【Photo】2006年10月、サローネ・デル・グストのセミナー会場で。愛妻Marina Cveticの名を付けたワインを手にするジャンニ・マシャレッリ

 もはや神格化されたエドアルド・ヴァレンティーニの例を除いて、かつては、さほど注目されていなかった「Montepulciano モンテプルチアーノ」種という中部イタリア・アドリア海沿い原産の赤ワイン用の固有ブドウ品種を世界レベルのワインに仕立て上げた立役者の一人がマシャレッリ氏でした。1956年生まれで50代に差しかかったばかり。まだまだ醸造家として前途を嘱望されていた彼の突然の死は、地元アブルッツォ州だけでなく、イタリアワイン界全体にとっても大きな損失として捉えられています。今年5月1日に世界中のファンから惜しまれつつ亡くなってしまったグラッパ職人、ロマーノ・レヴィさんに続いて、イタリアでお会いした私の憧れの人が相次いでこの世を去ってしまいました。 あぁ、寂しいなぁ...(TT)


衛星写真を拡大

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【photo】比較的穏やかな山並みが続くアペニン山脈でも、海抜2,912mと標高が高いアマーロ山

 Abruzzo アブルッツォ州は、全体の2/3をアペニン山脈の最高峰Gran Sasso グラン・サッソ山(2,912m)をはじめとする山岳地帯が占め、129kmの海岸線が続くアドリア海沿岸域との狭間に人々が暮らす地方です。ジャンニ・マシャレッリが生まれたChietiキエーティ県San Martino sulla Marrucina サン・マルティーノ・スッラ・マッルチーナは、グラン・サッソ・ディ・イタリア(「イタリアの大きな石」の意)山塊の南側に位置する「Maiella マイエッラ国立公園」の主峰、Monte Amaro アマーロ山(2,793m)の裾野で標高400m、アドリア海から20kmほど内陸にあります。1,000人あまりの住民が暮らすこの地域は、昼夜の寒暖の差が大きく、温度差によって生じる風によってもたらされる乾燥した気候は、ブドウ栽培に適した風土を生んでいます。ジャンニ・マシャレッリは、この土地を世界のワイン生産地でもベスト50に入る理想的な環境だと語り、地元を深く愛していました。
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【photo】丘陵地にあるサン・マルティーノ・スッラ・マッルチーナの町を遠望。アマーロ山などアペニンの山並みが迫る


 日本では生食を主目的としたブドウの枝を棚に這わせ、房を下に垂らす棚式ブドウ栽培が盛んです。シチリア、プーリア、ヴェネト、エミリア・ロマーニャ各州に次ぐイタリア全土で第5位のワイン生産量を生み出すアブルッツォ州では、日本の棚式栽培と基本的な構造は同じ「Tendone テンドーネ式」と呼ばれるブドウの栽培法が伝統的に行われてきました。収量効率が高いアブルッツォのワインは、ワイン生産地の全域がDOC指定を受けています。しかしながら、その大方は廉価ながら、まずまず優れた品質ゆえ、ブレンド用にフランスやドイツにバレル(樽)売りされてきました。

 1978年、ワイン醸造を大学で学んだ23歳のジャンニ青年は、両親からブドウ畑を受け継ぎます。そこにはラッツィオ州南部やシチリア州の一部などを除けば、イタリア国内では珍しいテンドーネ式で育つ白ワイン用のブドウ品種Trebbiano トレッビアーノ種とモンテプルチアーノ種が植えられていました。中でも、樹齢50年を越えるトレッビアーノは、祖父のジョヴァンニが植えたブドウ。後にジャンニが地元キエーティだけでなく、州内のテーラモ県とぺスカーラ県に畑を合計150haにまで拡げ、生産本数が9,000本まで増えた後も、「自分の原点はここにある」とジャンニが語っていた畑です。その畑から1981年に生まれたのが、700本のMontepulciano d'Abruzzoと1,300本のTrebbiano d'Abruzzoでした。
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【photo】マシャレリのブドウ畑

 近年では、ワイン醸造に関するコンサルタントを雇うカンティーナが少なくありません。国内のみならず、国際市場を意識したヴィーノ造りをしている場合はなおさらそうでしょう。イタリアワインがお好きな方ならご存知のカルロ・フェリーニやフランコ・ベルナベーイ、ジャコモ・タキス、ルカ・ダットーマといった優秀なコンサルタントは、各カンティーナから引く手あまたで、いくつもの著名なカンティーナと契約しています。

 かたやマシャレッリでは、醸造責任者にロメーオ・タラボレッリ氏を迎えた後も、ジャンニが畑に立ち、ブドウの栽培から醸造に至るまで、彼が全ての指示を出してきました。自社畑のブドウ以外は使用しないベーシックラインのMasciarelli Classicoの納得がゆく品質もさることながら、マシャレッリの名を一躍有名にした「Montepulciano d'Abruzzo Villa Gemma (ヴィッラ・ジェンマ)」を忘れるわけにはいきません。1984年ヴィンテージから所有する畑から採れる中で最高のモンテプルチアーノを選抜して造った稀代の醸造家渾身の一本は、スローフード協会が運営するワイン評価本「Gambero rossoガンベロ・ロッソ」で最高評価となるTre bicchierri トレ・ヴィッキェーリの常連となります。2001年、ガンベロ・ロッソが最も優れたイタリアワインとして選んだのが、1997年のヴィッラ・ジェンマでした。イタリアの高級ワインを生み出すブドウとして知られるネッビオーロやサンジョヴェーゼ、ましてや国際品種のカベルネ・ソーヴィニョンやメルローでもなく、故郷の風土と伝統が生んだモンテプルチアーノが、イタリアワインの頂点を極めたのです。その特別な一本は、私のセラーで今も眠りについています。
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【photo】イタリアワインの最高峰に輝いたMontepulciano d'Abruzzo Villa Gemma '97

 1991年ヴィンテージから登場したのが、彼の妻であるMarina Cuvetic マリーナ・チベティックの名を付けたヴィーノ。1987年に訪問先のクロアチアの醸造所で化学の研究生だったマリーナと出会ったジャンニは、2年後に結婚し、ミリアム、キアラ、リッカルドの3児に恵まれました。当初から手掛けたトレッビアーノに続き、現在はシャルドネ、モンテプルチアーノ、カベルネ・ソーヴィニョンの4種のラインナップが揃います。ヴィーノ・ビアンコ(白ワイン)では国際品種としての地位を確立しているシャルドネよりも、イタリアでは最もポピュラーな白ワイン用のブドウであるトレッビアーノの完成度に私は強く惹かれます。トロトロの高い粘性を備えた濃い黄金色の液体は、トロピカルフルーツと花や蜂蜜、焦がしバターなどの複雑な香りを立ち上らせながら、高い次元で見事な調和をみせてくれます。口に含むと柔らかな口当たりながら、すぐに只者ではないことを伺わせるこのヴィーノ。イタリア各地でさまざまなクローン(亜種)が存在するとされるトレッビアーノですが、アブルッツォの固有品種Trebbiano d'Abruzzoをかかる高みにまで引き上げたジャンニの情熱の結晶には脱帽せざるを得ません。

 ミュンヘンで急逝したジャンニの葬儀は8月3日に地元サン・マルティーノ・スッラ・マッルチーナの教会で執り行われました。残された家族は、次代の醸造家育成のための基金「Fondazione Gianni Masciarelli」を創設することを発表しました。いつもジャンニがそうだったように、情熱に溢れた未来の醸造家に道半ばにして神のもとに召された彼がワインにかけた夢を託したのです。昨年誕生したばかりの長男リッカルドはまだ8ヶ月。成長した彼がいつの日か父の跡を継ぐ日が来てくれたら・・・。そんな淡い夢をつい抱いてしまうのでした。


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2008/03/23

グレートヴィンテージ・1990年のキアンティ

Castello di Ama の希少なクリュワイン

 無類の旨さとコストパフォーマンスを兼ね備えた庄内・羽黒産「山伏豚」を使った自家製ラグーソースのラザニアを作った週末。"そろそろ飲み頃かな?"とワインセラーから取り出したのがCastello di Ama カステッロ・ディ・アーマ Chianti Classico Vigneto Bellavista キアンティ・クラシコ・ヴィネート・ベッラヴィスタ1990。中部イタリア・トスカーナ州キアンティ・クラシコ地区南東部「Gaiole in Chianti ガイオーレ・イン・キアンティ」産のヴィーノです。1990年はヨーロッパ全域で気候に恵まれ、健全なブドウが収穫されて素晴らしいワインが生まれた年。そのため、世のワインラヴァーたちにとっては、期待度の高いヴィンテージでもあります。

autumnoama.jpg【Photo】標高600m前後の照葉樹が生い茂る丘陵「Collioコッリオ」に覆われたキアンティ・クラシコ南部。その一角の高台にあるCastello di Amaからの眺め。収穫を待つ黄金色のブドウと青緑のオリーブのBellavista(=美しい眺め)


 世界中で最も名が知られたイタリアワインといえば、中部トスカーナ州のChianti キアンティか北イタリア・ピエモンテ州のBarolo バローロを挙げる方が多いかと思われます。多産な白ワインSoave ソアーヴェとともに日本に最も早く紹介されたイタリアワインのひとつが、トウモロコシの皮から作った菰(こも)被りのフィアスコボトルに入ったキアンティでした。1865年にガラス職人のPaolo Caprai パオロ・カプライが生み出したフィアスコボトルをワインにいち早く使用したのは、Adolfo Laborel Melini アドルフォ・ラボレル・メリーニ(1848-1920)が創業したカンティーナ「Melini メリーニ」です。輸送に適したフィアスコボトルで一世を風靡した素朴なキアンティも、今では菰を藁づと状に被せる職人が少なくなったため、観光地の土産物店以外では、イタリアでもほとんど見ることが無くなりました。品質向上の足かせとなっていた「白ブドウを混醸しても良い」という旧時代的な法規が2006年産から撤廃される以前から、villaama.jpgトスカーナ原産とされる「Sangiovese サンジョヴェーゼ」や「Canaiolo カナイオーロ」といった黒ブドウだけで作るしっかりとした体躯を備えたキアンティを作っていた生産者が存在しました。

【Photo】平均海抜480mの丘陵に広がるCastello di Ama のブドウ畑は粘土質と石灰岩・泥炭岩からなる

 一口にキアンティと言っても、リリース時点で1,000円前後の若飲みに向いた軽いものから、1万5,000円以上する長熟タイプのヴィーノまで、酒質はさまざま。その産地 は州北西側のティレニア海に近い平坦なPisa ピサの南「colli Pisane コッリ・ピサーネ」から、フィレンツェの南東側で主にエレガントなタイプのヴィーノを産する「colli Fiorentini コッリ・フィオレンティーニ」と、その北東側アペニン山脈が迫る標高が高い「Rufina ルフィーナ」を経由してArezzo アレッツォの西「colli Aretini コッリ・アレティーニ」、さらに南部Siena シエナ・Montalcino モンタルチーノ・San Gimignano サン・ジミニャーノ周辺の「colli Senesi コッリ・セネージ」などの広大なエリアが含まれます。さらに作り手によっては、26ヶ月以上という長い法定熟成期間を経てリリースする「Riserva リゼルヴァ」を作っており、ヴィンテージによっては20年以上の長期熟成に耐える偉大なヴィーノとなります。
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【Photo】13世紀の建造とされるCastello di Ama のセラーには、仏アリエ産やスロヴェニア産のバリック樽が整然と並ぶ。Chianti Classico Vigneto Bellavista は新樽80%、前年使用した樽を20%の割合で14ヶ月熟成。良年のみの生産

 生産者数が多いだけに多種多様なキアンティにあって、優れた品質のヴィーノを産出することで知られるのが、キアンティ地方の中心部にあたる「Chianti Classico キアンティ・クラシコ」です。樫や栗などの照葉樹が生い茂る標高600m前後の「Collioコッリオ」と呼ばれる丘陵に覆われた「Monti del Chianti(=『キアンティの山々』の意)」西側の内陸一帯およそ7万haがキアンティ・クラシコの産出地となります。北から「Greve in Chianti グレーヴェ・イン・キアンティ」、「Radda in Chianti ラッダ・イン・キアンティ」、「Castellina in Chianti カステッリーナ・イン・キアンティ」、「Gaiole in Chianti ガイオーレ・イン・キアンティ」などに産地が分かれています。これらの銘醸地を訪れると、思いのほか山間地にブドウ畑が広がっていることに軽い驚きを覚えるかもしれません。周辺の野山には野生のCinghiale(=イノシシ)が数多くCINGHIALE.jpg棲息しており、プロシュットに加工されたり、パスタ料理のラグーに使用されたりします。キアンティ・クラシコはそうしたトスカーナ料理と抜群の相性を発揮します。ほとんどが足の便が悪い立地となるカンティーナ(=醸造元)巡りには、何といっても小回りが利く車が一番です。これらのクラシコゾーン以外では、Chianti Rufina で長期熟成に耐える赤ワインが作られています。

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【上Photo】トウモロコシをくわえたイノシシが店頭に立つ土産物屋にはフィアスコボトルのヴィーノがズラリ。Chianti colli Senesi キアンティ・コッリ・セネージに含まれるSan Gimignano サン・ジミニャーノで

【右Photo】Bellavista の区画最上部3.8haほどの一角で栽培されるCastello di Ama のメルロ。1982年に栽培を始めたメルロは、畑(クリュ)指定のキアンティ「La Casuccia ラ・カズッチャ」とクリュ指定ではないキアンティ・クラシコにブレンドされる以外の最良のものが、カルトワイン「Vigna l'Apparita」としてリリースされる

 クラシコゾーンの南に位置するガイオーレ・イン・キアンティは、一般にボディのしっかりしたワインに仕上がります。以前にご紹介した「Capannelle カパネッレ」や「San Giusto a Rentennano サン・ジュースト・ア・レンテナーノ」に加え、「Barone Ricasoli バローネ・リカソリ」、「Badia a Coltibuono バーディア・ア・コルティブオーノ」、「Riecine リエチーネ」などの優良生産者がひしめく地域です。そのひとつが今回開けたChianti Classico Vigneto Bellavista を生産する「Castello di Ama カステッロ・ディ・アーマ」です。1972年、当時は住む人もなく荒廃しきったAma 村に4人のローマ在住の実業家が200haの土地を購入しました。ボルドーのシャトー・ムートン・ロートシルトで醸造責任者を務めたパトリック・レオンを迎え入れ、ブドウとオリーブの栽培を始めたのがカンティーナの始まりです。1982年、二代目エノロゴとしてスカウトされたMarco Pallanti マルコ・パッランティの手腕が世のワインラヴァーを驚かせたのが、'91年に行われたブラインド・テイスティングで、メルロー100%からなる「Vigna l'Apparita ヴィーニャ・ラッパリータ」'87(→オフヴィンテージである)が、ボルドーの最高峰メルロー「ch Petrus シャトー・ペトリュス」の優良ヴィンテージ'88を破ったことでした。後にトスカーナでは、他の作り手が「Redigaffi レディガッフィ」pallantielorenza.jpgや「Masseto マッセト」、「Messorio メッソリオ」といったモンスターメルローを排出することになりますが、カステッロ・ディ・アーマでは、主力のキアンティ・クラシコを補完する品種として植えたに過ぎないといいます。

【Photo】Castello di Ama のエノロゴ、マルコ・パッランティ氏とカンティーナのオーナーの一人で妻のロレンツァ。パッランティ氏は2003年「ガンベロ・ロッソ」の最優秀エノロゴに選ばれ、'06年からはキアンティ・クラシコ協会の第12代会長に就任した

 イタリアの名醸地でも、北のピエモンテではブルゴーニュ同様、畑の区画ごとの特徴を表現した「クリュ」(イタリア語では「Sottozona ソットゾーナ」、ピエモンテ方言で「sorì ソリ」と言う。かのGAJAの名高い畑指定バルバレスコ、sori San Lorenzo,sori Tildin の名に使われている)の概念に基づく畑の名前が付いたバローロやバルバレスコが数多く造られています。しかし、トスカーナを代表する産地のキアンティ・クラシコでは、そういったクリュの名前が付いたワインは前出のMelini が先駆けとされますが、あまり造られていません。カステッロ・ディ・アーマでは、一般的なRiservaは生産せず、作柄の良い年にのみ「Bellavista」と「La Casuccia」のクリュワインを造っています。これはかつて法定熟成期間が36ヶ月とされたRiserva の長い樽熟期間によって、ブドウの個性が失われてしまうリスクを嫌ってのことだそう。多くの場合、同じ生産者でも品質の良いブドウはRiservaとなるか、カベルネ・ソーヴィニョンやメルローなどの国際品種と呼ばれるブドウの混醸比率を高めたり、自由な発想による醸造法を取り入れて国際市場で高い評価を得た「スーパー・トスカーナ」としてリリースされました。70年代に始まった「Tignanello」や「Sassicaia」の成功がその動きを決定付けたのです。確かにそういった一連のワインの登場は、ワイン産地としてのトスカーナの名声を押し上げるのに一役買ったのは事実。しかしCastello di Amaは、カルトワインのVigna l'Apparita を看板にするのではなく、あくまでもトスカーナの風土と伝統に沿ったワインに活路を求めてゆきました。
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【Photo】9612本目の瓶詰ロットであることを表す刻印がなされたChianti Classico Vigneto Bellavista '90 のエチケッタ。DOCG名のChianti classico よりも作り手の名前Castello di Ama と畑の名前が大きく記され、作り手の誇りと自信が伺える

 かつては「Vigneto San Lorenzo サン・ロレンツォ」と「Beltinga ベルティンガ」の二つのクリュワインを造っていたカステッロ・ディ・アーマでは、その区画のサンジョヴェーゼの樹齢が上がってきた'90年にレギュラークラスのChianti classico の醸造用にそのブドウを使うため、後者ふたつのクリュを廃止しました。その結果、サンジョヴェーゼ種にマルヴァジア・ネロ種を15%ブレンドし、スパイシーで収斂性が強い良質なタンニンを備えた「Bellavista ベッラヴィスタ」('78年初リリース)と、メルローを15%ブレンドして鉄分と共に柔らかさを備えた「La Casuccia カズッチャ」('85年初リリース)の二つにクリュを絞りました。bellavistabicherre.jpgその背景には、同じサンジョヴェーゼのクローン種サンジョヴェーゼ・グロッソ(ブルネッロ)種から醸す「Brunello di Montalcino ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」と並んでトスカーナを代表する赤ワイン、キアンティ・クラシコの底上げを図るというアーマの思いがあったのです。その決断から9年を経た'99年産のキアンティ・クラシコが、ガンベロ・ロッソで最高評価のトレ・ヴィッキエーリを獲得したのです。

【Photo】グラスのエッジに熟成による明るさが見て取れるが主調は濃いガーネット。エキス由来の粘性もまだ高いベッラヴィスタ'90

 5年ほど前に飲んだベッラヴィスタ'93に比べてヴィンテージに恵まれた'90もさすがに収穫後18年を経て、抜栓直後から香りが立ちはじめますが、本領発揮は1時間近く経って香りが開いてから。ビシっと目が詰まった密度の高さと高貴さを兼ね備えた充分なボリューム。熟成により丸みを帯びたタンニンが心地よく感じられます。湿った落ち葉や微かな動物香などの複雑味も文句なし。サンジョヴェーゼの美点である果実由来の活き活きとした酸味が芯にしっかりと感じられます。熟成のピークに差し掛かりつつあるものの、まだ10年以上は熟成による向上を維持しそう。抜栓後、バキュバンをして数日に分けて飲みましたが、2-3日後が最もシルキーかつ高い次元で味わいのバランスの良さが感じられ、さすがというポテンシャルの高さを見せてくれました。

 このベッラヴィスタ、1995年からは極端に生産本数を絞り、価格もリリース時点での小売価格が15,000円以上と跳ね上がってしまいました。5,000本程度が良年のみの生産ということもあり、レア度は増すばかり。既にミラノのPECKで入手済みの'97年以降は、'99年・'01年・'04年と生産され'06年も生産予定とのこと。いずれもトスカーナのグレートヴィンテージ。今のうちに一本入手して、何年か後に至高のキアンティ体験をしてみてはいかがですか?

2007/12/13

Vino Azzurro 青ワイン

 「青ワイン」って飲んだことありますか? 赤ワインでもなければ、白ワインでもありません。今回は私がつい最近出合った青ワインの話です。したたか酔っ払って赤ワインが青く見えたのだろうって? いえいえ、そうではありません。ワインラヴァーにはお馴染みの「Terroir テロワール」というフランス語は、特にワインに関して産地の土壌や標高の違いによる気候風土などブドウの生育環境を意味しますが、青ワインは、まさにテロワールの賜物でした。

 仙台の百貨店「藤崎」で、恒例のワールドリカーフェアが12月12日(水)まで催されているというので、出掛けてみました。時節柄、スパークリングワインの出品が多かったのですが、冬場はフルボディの赤ワインが美味しい季節。掘り出し物の赤ワインを狙って、あれもこれもと試飲していると、顔見知りのインポーターさんたちが「やっぱり来たの」と声を掛けてくるし、売り場をうろつく知り合い数人ともバッタリ。いわく「いると思ったよ」。うーむ、行動パターンを読まれているぞ |||(-_-;)|||||| 。

capanelle_03vista_ottobre.jpg 【photo】緩やかに起伏を繰り返す緑豊かなガイオーレ・イン・キアンティ。照葉樹林帯の中にブドウとオリーブの畑が点在する。Capannelle カパンネッレ付近にて

 "タダ酒の試飲ばかりではフードライターの名折れ"とばかりに、会場内にあったENOTECA のワインバーにも立ち寄りました。そこでは、ボルドーのオールド・ヴィンテージや希少なブルゴーニュなどをグラスで有料試飲できるのです。脇目も振らず私が選んだ2本は、イタリア・トスカーナ州キアンティ・クラシコのエリアでは最も南に位置するGaiole in Chianti ガイオーレ・イン・キアンティ地区に畑を所有する優良生産者「Capannelle カパンネッレ《Link to website 》」が、かの有名リストランテ「エノテカ・ピンキオリ」向けに造ったのが始まりだという「Solare ソラーレ'99」。

MAIPOVALLEY.jpg【Photo】カベルネ・ソーヴィニョンにとって理想的な栽培環境とされるチリのマイポヴァレーは、世界の注目を集めるプレミアムワインを生みだすテロワールに恵まれている

 もう1本はチリの「Concha y Toro コンチャイトロ」社とボルドー一級格付けの「Chateau Mouton Rothschild シャトー・ムートン・ロトシルド」がジョイント事業としてサンティエゴ南東部のMaipo Valley マイポ・ヴァレーで造るプレミアムワイン「Almaviva アルマヴィーヴァ'01」。マイポ河が運んだ土砂交じりのPuente Alto プエンテ・アルトの畑は、Cabernet Sauvignon カベルネ・ソーヴィニョンの耕作に適した土壌といわれます。加えて内陸特有の激しい気温差とアンデスの清涼な風が健全なブドウを育てるのです。

 グラスの中で最初は閉じていたSangiovese サンジョヴェーゼが、徐々に開いて複雑さを増してぐんぐん良くなってくるソラーレ。最初からパワー全開、バランスも良く完成度が高いアルマヴィーヴァと、個性が異なるワインを2杯頂いたところで、再び無料試飲へandiamo!(=レッツ ゴー)。

kikusuisetsugorou.jpg【Photo】二番目に印象的だったのは、元禄期の清酒(すみさけ)を再現した越後・菊水の「節五郎元禄酒」

 口直しに新潟新発田市にある菊水酒造のコーナーへ寄り道してみました。創業125周年にあたる昨年、同社が設立した「日本酒文化研究所」が江戸元禄期に飲まれていた清酒(すみさけ)を再現したという「節五郎元禄酒」に興味を持ったからです。安政期に生まれた蔵の創業者・高澤節五郎の名を付けたこの酒。淡い黄金色を呈し、アルコール度数17度のトロリとした濃醇な味わい。90%の精米歩合といいますから、私たちが普通に頂く白米と同じ磨きに留め、お米自体の旨みを感じさせます。同研究所所蔵の浮世絵をもとにデザインしたという江戸情緒溢れるパッケージもあいまって、時代劇に出てくる呑み屋の風情を味わえました。

MANCINI_MARE_CERRO-1.jpg【Photo】アドリア海に面した崖の上に切り開かれたFattoria Mancini のブドウ畑

 そうして古今東西、試飲した中で特に面白かったのが、中部イタリア・マルケ州ペーザロ・ウルビーノ県の県庁所在地、Pesaroペーザロの近郊で造られた「BLU ブル(ー)(=伊語で「青・紺色」の意)」という名の赤ワインでした。「なぁ~んだ、青ワインって単に名前がBLUというワインなのか」と早合点しないで下さいね。おもに北隣りのエミリア・ロマーニャ州で混醸用に栽培される「Ancellotta アンチェロッタ」というブドウと、「Pino Nero ピノ・ネロ」を50%ずつ混醸した珍しいセパージュ(=ブドウの品種構成のこと)のこのワイン。確認されているだけで400種以上のブドウ品種が存在するため、個性的なワインが数多く存在するイタリアですが、このBLU は印象的な特徴を持ちあわせていました。

 原産地のブルゴーニュ地方では「Pinot Noir ピノ・ノワール」種として知られるこのブドウ。イタリアワインにほぼ占拠された我がワインセラーには、ピノ・ノワールのワインは一本もありません。寒冷な気候と乾燥して痩せた土壌に向くピノノワールは、栽培環境の影響を受けやすいブドウ品種です。よって産地のテロワールが明確にワインに現れるブドウといえます。過去にブルゴーニュやカリフォルニアなどのピノ・ノワールから造られたワインをいくつか試してみましたが、エレガントと個性を形容されるこのブドウから造られるワインは、要するに自分の好みではないのです。概して生産量が少ない一方で知名度が高いため、"需要≧供給" な図式にあるブルゴーニュワイン。法外な値段が付くロマネ・コンティは極端にしても、私にはいかんせん割高感が拭いきれません。

MANCINI_VINICLIFF.jpg【Photo】珪藻質の石灰岩でできた崖が続くペーザロ北方のアドリア海沿岸の一角にあるマンチーニ家のブドウ畑。目がくらむような崖っぷちの畑の眼下には、海が広がる

 栽培環境を選ぶ気難しい品種ゆえ、同様に偉大なブドウ品種といわれるピエモンテ原産の「Nebbioloネッビオーロ」ほどでないにせよ、"旅ができないブドウ"といわれるピノ・ノワール。ピノ・ネロからは、中部イタリア以北で優れた赤ワインが造られます。北部イタリアLombardia ロンバルディア州 Franciacorta フランチャコルタでは、フランスのブドウ生産地としては最北部のChampagne シャンパーニュ同様に優秀な発泡ワイン生み出します。オーストリア国境に接するイタリア最北部のAlto Adige アルト・アディジェ地方では、ドイツ語も話される南チロル地方らしく「Blaubrugunder ブラウブルグンダー」とドイツ風の名前で栽培されます。マルケ州へは、19世紀初頭のナポレオン統治時代、ブルゴーニュからペーザロへとピノ・ノワールがもたらされました。

0960.jpgEttore%20Mancini.jpg【Photo】先代・4代目のエットーレ・マンチーニ(左)と現在醸造所を切り盛りする息子のルイージ・マンチーニ(右)

 アドリア海に面したペーザロから世界遺産の街 Urbino ウルビーノにかけては、DOC 「Colli Pesaresi コッリ・ペサレージ」の赤ワインと白ワインが生産されます。海抜201mのサン・バルトロ山周辺は、渡り鳥の楽園としても自然環境が保たれた州立自然公園に指定されています。このエリアで唯一ピノ・ネロを栽培するのは、19世紀中頃からカンティーナ「Fattoria Mancini ファットリア・マンチーニ」を所有するMancini 家です。このカンティーナの主力は、独自の遺伝子を持つクローンのピノ・ネロだけで造られる「IMPERO インペロ」(=帝国・王国、特にナポレオンの第一帝政時代の形容詞でも使われる)という名の赤ワインと白ワイン。先代のエットーレ・マンチーニ氏の努力によって、2000年には単独のDOC「Colli Pesaresi Focara Pinot Nero コッリ・ペサレージ・フォカーラ・ピノ・ネロ」が認められました。現在は高齢のエットーレ氏に代わって息子のLuigi ルイージがカンティーナを運営しています。

          IMG_3121.jpg BACK%20LABEL.jpg
【Photo】この2000年ヴィンテージまでは、アンチェロッタとピノ・ネロが 50%ずつ使用されていた。翌年からはピノ・ネロの割合を減らし、代わってマルケ州で優良な赤ワインを生み出すMontepulciano モンテプルチアーノ種を40%混醸するようになった「BLU」。ノンフィルターでボトリングしているため、澱(オリ)が出ている旨がバックラベルに記載されている

 私が試飲したBLUは、2000年ヴィンテージのものでした。7年を経過しているにもかかわらず、ワインの色調は明らかに色調の淡いピノ・ネロ由来のそれではなく、色の濃いワインに仕上がるアンチェロッタによる黒っぽさを湛(たた)えたものです。1998年に初めてこのワインを仕込もうとした際に、醸造所の床にこぼれた果汁による青いシミが出来たのだそう。それで、このワインはBLUと名付けられたといいます。ちなみに2001年からは、Ancellotta 50%+Montepulciano 40%+Pinot Nero 10% にセパージュが変更されています。
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【Photo】マンチーニ家が受け継いできたピノ・ネロはミラノ大学の分析によって、独自の遺伝子構造を持つクローン(=突然変異)種であることが判った

 ペーザロ旧市街の北側、海岸線から陸地へ500m~1,500m入った海抜100~170mにある珪藻質の石灰岩土壌の畑で栽培されるピノ・ネロとアンチェロッタを手摘みで収穫後、フランス・アリエ産のバリック樽(新樽を50%・一年落ちの樽を50%ずつ使用)で14ヶ月熟成。瓶詰め後、セラーの熟成庫で18ヶ月寝かされた後、リリースされます。しっかりとしたボディを持つこのワインの特徴は、アフターになんと海の香りが残ること。マルケ州の海沿いにある地域特有の風によってアドリア海の潮の香りがブドウの個性となるのでしょう。これぞBLUなアドリア海のTerritorio テリトーリオ(=テロワールの伊語)。

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 興味深いことに、栽培環境の影響を受けやすいピノ・ネロ100%で造られるIMPEROよりも、BLU はよりテロワールを反映したワインに仕上がると5代目を継いだルイジは語ります。BLU は名前だけでなく、青い海のアロマ(=本来は「ブドウに由来する香り」を指す)を感じさせてくれる"青ワイン"なのでした。

【Photo】サン・バルトロ山自然公園は、野鳥と花々の楽園。アドリア海に面して変化に富んだ地形が続く

 こうして、晴れて我がセラーで唯一、Pinot Nero が使われたヴィーノが一本仲間入りしました。ご参考まで、購入価格は4,725円。極端なユーロ高の昨今。酒質からすれば、納得のゆく買物ができました。

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2007/11/01

一匹狼のイタリアワイン商

「イタリアワイン最強ガイド」の著者でワイン商の川頭 義之氏とワイン談義に花を咲かせたEnoteca il Circoloでの一夜。いわゆるラテン系の「はじけた」お人柄ではないものの、ワインへの愛情と情熱の持ち主であることが氏の言葉の端々から伺えました。頂いた名刺に記された社名は「LupoSolitario」。伊語で「一匹狼」を意味するその気概や善し。なんとCOOLで素敵な社名でしょう。

 著書に記載されていた著者プロフィールで、大学の同窓であることは事前に知っていました。そこで大学時代の学籍番号を告げたところ、学部違いで同じ年に入学していた事が判明。あ~ら偶然。Il mondo è piccolo(=世界は狭い)。おまけに川頭氏が名刺を取り出した名刺入れは、私が愛用するショルダーバッグと同じPiero Guidiでした。日本では見かけないものの、イタリアでは人気のブランドのユーザー同士とは、これまた偶然。"Il mondo è molt piccolo(=世界はとっても狭い)"。

 川頭氏は'92年にイギリスで現在の奥様であるジョヴァンナさんと出会い、イタリアワインに本格的に目覚めたといいます。やがて「自分が口にするワインは、どんな場所でどうやって造られているのか」という興味が湧いてきたのだそう。そのため、生産者のもとを訪ね、根掘り葉掘り質問をぶつけたのだそうです。こういった行動に出る思考回路を私も持ち合わせていることを、当ブログの読者の皆様は既にご存知かと。口にするワインのほとんどがイタリアワインであること以外にも、いろいろとシロガネーゼな(?)両者には共通点があるのでした。

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【Photo】シロガネーゼな大学時代はラグビー部に所属、FWとして活躍した川頭 義之氏と奥様のジョヴァンナさん、同校の広告研究会に所属、ただのチャランポランだった筆者。数年を経た今の差は歴然...il||li _| ̄|○ il||li(写真左より)

 陰干ししたブドウで仕込む偉大な赤ワインのひとつにAmarone della Valpolicellaアマローネ・デッラ・ヴェルポリッチェラが挙げられます。川頭氏の奥様ジョヴァンナさんは、その産地に近いイタリア北東部ヴェネト州のVicenzaヴィチェンツァ出身。ヴェネト州はイタリアで3番目の生産量とDOC【注】ワイン生産量全体のおよそ25%を生産する一大ワイン産地です。願ってもない伴侶を得た川頭氏は、さまざまな地方の印象に残ったワインのCantina カンティーナ(=ワイナリー)を訪ね、ブドウ畑や醸造の過程を目にしてきたといいます。そこで実際のワイン造りに関与するEnologoエノロゴ(=醸造家・醸造コンサルタント)やAgronomoアグロノモ(=ブドウ栽培に関する責任者・栽培コンサルタント)の話を聞くうち、ワインは自然風土と密接に結びついた農産物であり、ブドウの世話をする生産者やカンティーナでワイン造りに関わる人々の努力の結晶以外の何物でもないという事実に思い至ったのです。

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【Photo】Enoteca il Circoloでこの夜飲んだヴィーノ。川頭氏が自宅で最も飲む機会が多いと語るシチリアのGulfiという造り手によるRossoibleo、 ピエモンテで最も親しまれているブドウBarberaバルベーラの特徴である酸がキレイなMonchiero CarbonePelisa、白ワイン産地として高い評価を得るフリウリでは、国際品種Merlotも高い品質を備えたものがある。Vie di RomansMaurus もそんなひとつ。Redigaffiで一躍ワイン産地として世界に名を轟かせたトスカーナの南端、スヴェレートのTua Ritaを立ち上げた伝説は余りに有名。天才と呼ばれる醸造コンサルタント、ルカ・ダットマが立ち上げた自身のカンティーナからビオディナミコ農法で栽培したブドウから造られるAltrovino(写真左より)

 出逢った翌年の'93年に結婚したお二人は、川頭氏の実家がある神奈川県藤沢市に居を構えます。イタリア育ちのジョヴァンナさんは、飲みなれたイタリアのヴィーノを地元で探したものの、当時日本に輸入されていたイタリアワインは種類が限られ、あったとしても品質が伴わないものが大方でした。そのため、わざわざ電車で青山や広尾まで出向いてヴィーノを買い求めていたといいます。"日本になければ自分たちで道筋を切り開けば良いではないか"。そうした思いから、それまで勤務していた商社を退職し、生産者とインポーターとの仲介をするフランス語で「Coutier クルティエ」と呼ばれる輸出斡旋を業務とするワイン商として'96年に独立した川頭氏。

 宮城県には駆け出し時代の苦い思い出があるそうです。とある知人の紹介で、宮城に本社があるワイン輸入会社を単身訪問した時のこと。東京を早朝に出発、仙台近郊にあったその会社の事務所で待たされること 1時間。肝心の商談はわずか15分で打ち切られ、何の成果を得ることなく神奈川の自宅へ戻ったとか。これまでも川頭氏が日本に紹介したワインを数種類愛飲してきた私ゆえ、その時の商談相手が私だったら、即・商談成立だったはず。運が悪かったのですよ、川頭さん(笑)。

 川頭ご夫妻は、トスカーナ州のワイン生産地として急速に名声を上げているMaremmaマレンマ地区にある町Montescudàioモンテスクダイオにも家を持っています。そのため日本での事務所兼住居がある東京とイタリアを行き来する生活を送っています。リグーリア海沿いのCècinaチェチナからVolterraヴォルテッラに向かって10キロほど内陸にあるこの町の南、Bolgheriボルゲリには優れたワインを生産するカンティーナが数多く存在します。イタリアワイン界の巨人アンジェロ・ガヤ氏が地元ピエモンテ州以外で新たなワイン造りの可能性を追い求めて畑をボルゲリに購入したのは、1996年のこと。現在のイタリアワイン界で最も注目を集めるエリアと言って差し支えないでしょう。

scriomessorio.jpg【Photo】Enoteca il Circolo吉田シェフ秘蔵のMessorio(右)とScrio(左)イタリアワインファン垂涎のこの二本。セラーの肥やしにせずに、そのうち開ける時は忘れずに声を掛けて下さい。お願いしまーす(^0 ^)

 カベルネ・フランから造られるPaleo,メルロ100%のMessorio,シラーのScrio といったイタリアワインラヴァーなら知らぬ者はいないカルトワインを生産するカンティーナLe Macchioleレ・マッキオレ。その3代目当主エウジェニオ・カンポルミとの出会いが、川頭氏をして「イタリアワイン最強ガイド」を世に問うきっかけになったといいます。2002年に癌のため40歳の若さで夭逝したエウジェニオは、川頭氏の表現を借りれば「勤勉で寡黙」な職人気質の人物だったのだそう。その人柄に惚れ込んだ氏は、私生活でもカンポルミ夫妻と交友を深めていったといいます。販売の手伝いのため藤崎でワイン売り場に立たれた川頭氏の脇には、エウジェニオの遺志を継いで現在ワイン造りに取り組む妻のチンツィアさんの写真が飾られていました。

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【Photo】ジャンフランコ・ガッロ渾身の一本、Vie di Romans Chardonnay。バリックを使用しながらも厚化粧な嫌味がなく、「これがシャルドネ100%のワイン?」と良い意味で先入観を覆してくれる。高価なブルゴーニュの白がお好きな方には目からウロコなはず。果実由来の甘味に続いて上品な香りが鼻腔を心地よくくすぐる。大き目のグラスで冷やしすぎずに香りを楽しみたい

 「ワイン造りの鍵は畑におけるブドウの手入れが全て」と断言するエウジェニオのほか、川頭氏が出会ったエノロゴやアグロノモが本書には登場します。たとえばLe Macchioleのエノロゴを現在も務め、自身のカンティーナDuemaniドゥエマーニをモンテスクダイオの北隣にあるRiparbellaリパルベッラで2000年に興したルカ・ダットマ氏。そしてブルゴーニュの名だたる白ワイン産地にも比肩しうると川頭氏が語る北イタリアのアルトアディジェと並ぶフリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州からはVie di Romansヴィエ・ディ・ロマンスのオーナー、ジャンフランコ・ガッロ氏。そしてピエモンテ州バルバレスコの北、Roeroロエロ地区Canale カナーレにあるMonchiero Carboneのオーナーで、川頭氏が非常に個性的で印象に残る人物と評するマルコ・モンキエロ氏、Poliziano・Lupicaia・Fonterutoli・Brancaia・Brolio などで醸造コンサルタントとしての輝かしい実績を築き、庄イタも愛飲するカルロ・フェッリーニ氏など。

 品質と価格のバランスが取れたイタリアワイン選びに実践的に役立つガイドとしての役割もさることながら、足掛け5年をかけてまとめ上げたこの本の狙いは、ワインを造る人たちにスポットライトを当てることにあったといいます。彼らが本の中で語ったワイン造りにかける情熱の発露ともいえる言葉は説得力に溢れています。そんな作り手が丹精込めて造ったワインは、雄弁に作り手の思いを伝え、造られた地の風土すら窺えると川頭氏は本の中で語っています。

 私が体験したそんな事例をご紹介しましょう。私が好きなヴィーノのひとつにSan Giusto a Rentennanoサン・ジュスト・ア・レンテンナーノのPercarlo ペルカルロがあります。イタリアを代表する赤ワイン用ブドウ品種Sangioveseサンンジョヴェーゼから造られるトスカーナ産の中では最も優れていると川頭氏も太鼓判を押すこのヴィーノ。

 2003年秋にトスカーナ州Sienaシエナを訪れた際、近郊にあるガイオーレ・イン・キアンティ地区にあるカンティーナを訪問し、オーナーであるマルティーニ・ディ・チガラ兄弟の弟、ルカ・マルティーニ・ディ・チガラ氏に畑と醸造施設を案内して頂きました。突然の訪問だったにも係わらず、彼は快く私を受け入れ、熟成中の樽からサンプルを取り出して試飲させては、感想を求めるのでした。最後にセラーで購入したPercarloとメルロから造られるLa Ricorma、そして私がこの日最も感動したデザートワインVin San Giustoに私の名入れでサインをしてくれました。

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【Photo】作柄に恵まれた2001年産Percarlo のバレルサンプルをテイスティング用グラスに注ぐルカ・マルティーニ・ディ・チガラ氏。翌2002年産のバレルサンプルは、厳しかった天候を反映してエレガントな印象。私の反応を見てルカ氏も苦笑い。結局この年はPercarlo ではなくChianti Classico Riserva Le Balòncole として、いわば格下げしてリリースされた

 昨年イタリアを訪れた際は、事前にルカ氏にアポを取って再訪を申し出ていました。その日はLucca ルッカ郊外のエレガントなリストランテ「La Morra ラ・モッラ」での豪奢な昼食に思いのほか時間を割いてしまいました。11月ともなると緯度が高いイタリアは陽が落ちるのが早くなります。「ルッカからルカのもとへ~♪」などと同行した二人の友人とお気楽なギャグを飛ばしていたのも束の間、約束の時間に遅れそうな旨をルカ氏の携帯に入れて道を急ぎました。しかし、夜に別な用事があるため、もはや待てない旨を4回目の電話でルカ氏から告げられたのです。

boccadama.jpg【PHOTO】カンティーナ訪問を果たせなかった日の夜、フィレンツェのワインバーで選んだのは4年前に訪問した際にステンレスタンクで発酵中のモスト(果汁)clicca quiを口にしていたサンジョヴェーセで醸されたPercarlo'03。再会を果たせずに失意に沈む心を穏やかに解きほぐしてくれた。遅れを取り戻そうとブンブン車を飛ばす私の運転も災いしたのか、疲れた表情を浮かべていた友人二人も初めて口にするこのワインによって力が漲ってくるのを感じたという。「凄いワイン。逃した魚は大きかったんだね」の問いに「その通り」と笑うしかなかった

 ステアリングを操る私に代わって電話でルカ氏と連絡を取ってくれたのは、中部イタリアPerugia ペルージャに暮らす私の友人Kissyでした。彼女によれば、電話の向こうでルカ氏は幾度も「Mi dispiace(=残念だけど)」と言っていたのだそう。この表現は、相手の気持ちに同調して自分も残念に思う場合に使うのです。楽しみにしていた訪問が叶わず、失意のうちに急遽予定を変更、フィレンツェに宿泊する事に。「昼をたっぷりと堪能したし、夕食は軽く」とホテルのフロントにいた男性に勧められたサンタ・クローチェ広場に面した「Boccadama ボッカダーマ(=「貴婦人の口」の意)」というワインバーに入りました。

 訪れた年のその産地のワインを入手するのを慣わしにしている私は、ワインリストから前回カンティーナを訪れた年、2003年ヴィンテージのPercarloを迷わずチョイスしました。お店でポテンシャルが高いワインを若いうちに開ける場合は、時間をかけて飲むと時の経過と共にさまざまな表情を見せてくれます。大ぶりなグラスをゆっくりとスワリングしながら、30分ほど経過すると次第に香りが開き、Percarloが秘める高貴さが片鱗を見せ始めてきました。口に含んで瞑目すると、3年前に目に焼き付けたブドウ畑の風景や、思慮深い口調の太い声でヴィーノの説明をしてくれたルカ氏の顔が浮かぶのでした。

 目的を果たせなかった"残念会"の趣で始まったその夜。カメリエーレのお兄さんのサービスで出てきた生ハムやチーズと共にPercarloをボトル半分ほど飲み進めると、先ほどまでドロドロに疲れていた心と体が嘘のようにほぐれてゆくのでした。それは、私に限った事ではなく、初めてこのワインを口にした友人二人も同じだったのです。まるで「今回会えなかったのはMi dispiaceだったけど、またチャンスはあるさ。あなたに会った年に収穫したブドウで仕込んだボクのヴィーノで、せめて今夜は楽しんでほしい」とルカが語りかけてくるかのような不思議な体験でした。

autograph.jpg【PHOTO】" La vita è breve,beviamo solo buon vino"(=人生は短い。美味しいワインだけを飲もう)という警句とともに、著書の表紙裏に川頭夫妻から頂いたサイン。若くして逝ったエウジェニオ・カンポルミのことを想起させる

 Enoteca il Circoloでの楽しい語らいの時間を共に過ごした翌日。藤崎のワインセミナー会場で再会した川頭氏の奥様ジョヴァンナさんから思わぬ素敵なプレゼントを頂きました。私のいでたちを見て「まるでイタリア人みたいですねぇ」とジョヴァンナさん。「いいえ、庄内系イタリア人です」と笑って切り返す私。ヴィーノを中心にイタリアの話で盛り上がった私には、ふさわしいイタリア名が必要だ、ということになったのです。

 そうしてジョヴァンナさんが命名して下さった名前が「Carlo カルロ」でした。大好きなワインPercarlo (「Per」= For の意の伊語+Carlo)とも繋がる素敵な名前ではありませんか。Grazie mille signora Kawazu !
これからは私を「庄内系イタリア人・カルロ」と呼んで下さいね。

【注】1963年に施行された現行のイタリアワイン法では、格付け順にDOCG(統制保証原産地呼称)、DOC(統制原産地呼称)、IGT(典型的生産地表示付・'92から導入)、VDT(テーブルワイン)の四種に大別される。生産エリア・ブドウ品種(混醸の場合は比率も)・栽培法・収穫量・醸造方法・熟成期間・アルコール度数・残糖分・酸度・エキス分などを事細かに規定。加えて国が委嘱する専門試飲委員会による官能検査も義務付けられる。格付け上の頂点にあたるDOCGに最初に指定されたのは、Baroloバローロ,Barbarescoバルバレスコ,Brunello di Montalcinoブルネッロ・ディ・モンタルチーノ,Vino Nobile di Montepulcianoヴィーノ・ノヴィーレ・ディ・モンテプルチアーノの4種。
 品質を追求する生産者は、規定に縛られないブドウ品種を使用したり醸造法を取り入れ、独自の名前を付けたワインを生産し、国際市場から高い評価を受けるようになる。Sassicaiaサッシカイアがその端緒とされる('94年にBolgheriボルゲリDOCへと昇格)。Tignanelloティニャネッロ,Ornellaiaオルネッライアなど、後に「スーパートスカーナ」ともてはやされる銘柄が後に続いた。こうして実際には、IGT・VDTクラスに傑出したワインが数多く存在する。これが大方のワイン愛好家にとってイタリアワインを判りにくくしている要因といえる


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2007/10/25

イタリアフェア雑感

ferdinando_martinotti.jpg 本国から招かれた有名リストランテのシェフや、溜め息が出そうな伝統工芸品のマエストロらが、多彩なイタリア文化の魅力を紹介してくれる百貨店のイタリアフェア。所有欲を呼び起こし、美味に事欠かない国にふさわしく、芸術の秋・食欲の秋に催されるケースが多いようです。仙台では満足できず、目の保養を兼ねて質量ともに充実した在京百貨店に出向く事もあります。

【Photo】2007年春の新宿高島屋イタリアフェアでは、ウンブリア州の銘醸「Lungarotti ルンガロッティ」ワイン博物館所蔵の陶器などが展示されたほか、ミラノの名店Peck 直営のBar でシェフを務めるフェルディナンド・マルティノッティ氏(写真左)による調理セミナーも行われた

 有名リストランテのインショップとはいえ、水も違えば素材の鮮度も違う上、まして仮設の調理設備で本国そのままの味を再現するのは至難の業です。プロ意識が高いカメリエーレが質の高いサービスをしてくれるイタリアとは違い、テーブルセッティングも侘しいしつらえであることは否めません。それでも規模が大きな東京のフェアでは、食のみならず幅広くオールマイティなイタリアの魅力の片鱗に触れることはできます。

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【Photo】2002年10月、新宿伊勢丹のイタリア展に登場した Venezia サン・マルコ広場にあるカフェ・フローリアンのインショップ。現存するイタリア最古のカフェの雰囲気を伝えようと、それなりに手をかけた内装。本店と同じリチャード・ジノリ製の特注カップに入ったカッフェには、獅子の紋章の砂糖が添えられていた。モデルは当時4歳の Mia bambina

 これが地方の百貨店の場合、呼び物は「東京にある人気店の出店」となるのがセオリーでしょうか。2007年春に開催された仙台三越のイタリアフェアには、落合 務シェフのラ・ベットラが出店、ローマ下町のトラットリアのような味付けの料理を提供しました。同年秋に開催された新潟伊勢丹イタリアフェアの呼び物は、鶴岡アル・ケッチァーノのインショップレストランでした。東京の店じゃないだろうですと? 私があの店と出合った頃とは違い、東京に活動の軸足を移した感すらあるゆえ、白羽の矢が立ったのでしょう。

piadina_fujisaki.jpg【Photo】仙台のイタリアフェアより。東京にあるナポリピッツァの頂点ともいわれた中目黒「Savoiサヴォイ」を招聘するも、電気窯では本来の味を出せるわけもなく撃沈。写真はエミリア・ロマーニャ州の気軽な郷土食Piadinaのイートイン

 各界の人たちが店の魅力を綴ったオマージュ「奇蹟のテーブル」に奥田シェフから乞われて寄稿した私の一文にあるとおり、瑞々しいシェフの感性と多彩かつ質の高い庄内の素材たちが出逢って生み出される唯一無二の世界です。「地元のため、生産者のため」の活動は、やがて新奇さを追い求める各メディアの注目を集めるようになります。

 2006年夏にTBS系列のTV番組「情熱大陸」で紹介されて以来、奥田シェフはそれまでのペースをすっかり失ってしまいました。厨房以外の活動が増えて得たものの代償は大きかった...。いち早く紙面に取り上げ、全国区デビューの一端を担い、店の歩みをずっと見てきた者の一人として、メディアの功罪を自問しつつ今そう感じています。私が感動に打ち震えた魔法のような在来作物のフルコースを出してくれた平成16年前後の頃の闊達で自在な姿にあの店が戻る日は来るのでしょうか。

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【Photo】完熟したブドウをパッシート(=陰干し)して、糖分を凝縮させて作る Rupestr ブランドの極甘口デザートワイン「INSUPERABILE」(=至極の・越えることのできない)を手にする荒井基之氏、奥田シェフ、ジョルジョ。新潟伊勢丹にて(写真右より)

 新潟伊勢丹では、たまたま来日中だったピエモンテ・カネッリでアグリツーリズモ Rupestr を経営するジョルジョ・チリオ氏も自家農園のブドウで仕込んだ Moscato d'Asti モスカート・ダスティなどを紹介。ピエモンテワインについて1時間のトークショーでお得意のエンドレスマシンガントークを繰り広げました。ジョルジョを案内して訪れた魅力溢れる鮭の町・新潟村上のご紹介は機会を改めてたっぷりと。そのほか新潟のフェアでは、イタリアワインの魅力を日本にいち早く紹介した日本ソムリエ協会副会長で渋谷ヴィーニ・ディ・アライのオーナー荒井 基之氏や、昨年イタリア・ピエモンテ州 Alba の有名なトリュフ祭り会場でもお見かけした日本人初のAISイタリアソムリエ協会認定のソムリエ資格を取得した林 茂氏らが、イタリアワインのセミナーを行いました。

bettora_mitsukoshi2007.jpg【Photo】2007年春、三越仙台店にイートインで出店した銀座「ラ・ベットラ」落合 務シェフの弟子が作ったメリハリが利いたプリモピアットのパスタ2皿。ジェノヴェーゼ(写真上)& キノコノクリームソース(写真下)は、本店の気取らない味付けとの格差は感じなかった

 先週まで仙台で行われていた藤崎イタリアフェア2007では、「イタリアワイン最強ガイド」(文藝春秋刊)の著者 川頭 義之氏がセミナーを行いました。「闘うワイン商、フランスワインに喧嘩売ります!」のオビに目が留まって書店で手にしたこの本。地域性が強い多様な食と密接に結びついたイタリアワインの魅力を知る私が激しく共感した一冊です。

 「こんな貴方におすすめします」と表紙裏にいわく、★とにかく美味しいワインが飲みたい★イタリアは好きだけど、ワインは種類が多すぎて難しい★そろそろ「ブランド信仰」を卒業したい★フランスワインは不当に高すぎると思う★ロバート・パーカーって胡散臭いと思う★能書きは嫌いだが、ワインの本質を理解したい★ワインの職人に興味がある・・・五項目該当した私は、序文「宣戦布告!」の内容に数回大きく頷きながら読み進み、"こんな本を待っていた"と確信してレジへと向かったのです。

saikyouguide.jpg 本国では見向きすらされない「ボジョレー・ヌーボー」は、初物を尊ぶ日本においては、ビジネスとして成功しています。その経緯を見ても明らかな通り、周到なプロモーションで日本のワイン市場を寡占してきたフランス。イタリアワインを特集したワイン雑誌にすら、ボルドーを紹介するタイアップ記事やフランスワインコンセイエ【注】の資格を持つ販売員がいる酒販店を紹介する冊子が綴じ込まれてきます。こうした国や業界を挙げての販促活動の巧みさは、てんでバラバラなイタリアの到底及ぶところではありません。そんなこんなでイタリアワインが過小評価されている日本の現状を苦々しく見てきた私の積年の溜飲を下げてくれたのが川頭氏の著作だったのです。

 フランスワインこそが地球上で一番だと信じ、相当額の投資をされておられる諸氏には決してこの本をお勧めしません。なぜなら、さまざまな嗜好のテイスターによるフランスワインとイタリアワインの価格帯別ブラインド対決で、次々とイタリアワインがボルドー・ブルゴーニュのワインを打ち破ってゆくのですから。しかも勝利したイタリアワインの日本での値段は、総じて比較されたフランスワインの1/3~2/3程度です。評論家からの高い評価と希少性ゆえに高騰する「スーパートスカーナ」と呼ばれる一部のトスカーナ州産を除き、コストパフォーマンスの高さはイタリアワインの魅力のひとつです(最近はユーロ高も手伝ってそのメリットが失われつつある)

 食卓で一層輝きを増す食事の良き伴侶としての魅力にかけてはピカ一のイタリアワイン。豪州やチリなどのニューワールド産の赤ワインにありがちな後味の甘ったるさが無く、綺麗な酸を備えているため、ワイン単体で飲んでも美味しく感じます。その実力は決してフランスに引けを取らないことを川頭氏の本は証明しています。

bettora_sencondo2007.jpg【Photo】2007年三越仙台店イタリアフェアの「ラ・ベットラ」イートインよりセコンド・ピアット2皿。ズバ抜けてはいないものの、手軽でフツーに美味しいこの店らしい味を提供していた

 フランスの有名シャトーのワインは、収斂(しゅうれん)性が強いタンニンが落ち着き、味わいのバランスが取れてくる飲み頃を迎えるまでに良年作で20年~30年もの長い年月を要します。イタリアにも伝統的な造りをする Barolo バローロや Brunello di Montalcino ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ、Taurasi タウラージといった同様のワインが存在します。しかし大方のイタリアワインは、ボルドーなどに比べて熟成のピークが早く訪れます。

 屋内温度が上がらない石造りのヨーロッパの家に比べ、夏季は高温になりがちな日本の住宅環境で、こうした長熟型のワインを劣化させずに保管・熟成させるには、セラーが欠かせません。予想される飲み頃を記した自作のワインリスト無しには管理不能に陥る400本以上(「異常」と言った方がふさわしいかも?)の自宅ストックを収容するため、200本収容セラーが1台、40本収容セラーが2台ある私のような熱心なワインラヴァー以外は、それ自体が決して安くは無いセラーを備えるのを躊躇することでしょう。

cellar_casa.jpg 【Photo】3台のセラーが稼働する仙台市在住の某イタリアワインラヴァーのセラールーム。収蔵するワインの9割はイタリア各地の熟成能力が高いヴィーノで占められるという

 その点、リリース時点で楽しめる状態になっている場合が多いイタリアワインはオススメです。さらに日本の家庭料理は、素材の味を生かす料理が多く、その点でもイタリアとの共通点があります。ご存知の通りイタリアの食卓にはVinoが欠かせません。日常的にワインに親しむのならば、豊富なブドウ品種のバリエーションを持つイタリアワインは日本の一般家庭の食卓でも活躍できるシーンが多いはずです。飲まず嫌いは人生の損失ですよ。

 東京から火がついたイタリアンブームに遅れることおよそ10年、ようやく仙台にもパスタとピッツァ以外のイタリア料理を提供するレストランが増えつつあります。在仙のイタリアンレストランの中にも、ようやく頑張ってるなぁという店が何軒か出て来てくれました。女性を中心にご自宅でもイタリアンを召し上がる機会は多いのではないでしょうか?

 そうしたイタリア料理の普及度合いと比較して、良き食卓の伴侶たるイタリアワインの存在感は、日本ではまだ希薄と言わざるを得ません。今ではほとんど見かけなくなったフィアスコ・ボトルという藁で覆われた独特の形状の瓶に入った安いキアンティ=イタリアワインというイメージが日本では強かったように思います。

 品質の向上が著しいキアンティ・クラシコも、かつては「白ブドウを15%混醸すべし」という組合が定めた規定に沿って作られた軽めのものが多かったのです。こうした安酒のマイナスイメージは、ようやく海外に目を向け始めたここ10年あまりの生産者の努力によって、現在では払拭されつつあります。それでも酒販店の店頭にあるイタリアワインは若干淋しい品揃えの場合があります。仙台に本社がある大手輸入酒類・食品販売店が、お膝元の店舗で扱うイタリアワインですら、同社が首都圏で展開する店舗のそれと比べて質量ともに見劣りするのが正直な印象です。

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【Photo】店が一段落したところで、Enoteca il Circolo の吉田シェフ(写真右)もワイン談義に加わった。私がプレゼントした宮城の観光情報を一冊にまとめた「宮城通本」(河北新報社発行)を前に熱くワインを語る川頭義之氏とジョヴァンナ夫人

 そんな仙台で、イタリアワインの魅力を一人でも多くの方に知っていただくには最適のキャスティングともいえる川頭氏のワインセミナーが行われるというので、楽しみにしていました。セミナーの前夜、Enoteca il Circolo の吉田シェフとインポーターのモトックスさんのご好意で、川頭氏と個人的にお会いすることができました。氏が自宅でも愛飲するという Vino 数種を傾けながらの"イタリアワインバカ一代"同士の語らいの内容は次回ご報告します。

【注】conseiller コンセイエ(=助言者:仏語)。パリに本部があるフランス食品振興会(通称SOPEXA)が認定するワイン販売員の資格。フランスワインコンセイエについてはこちらを参照http://www.conseiller.jp/index.php?action_conseiller=true

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2007/08/21

ヴェネツィアン・グラス

涼やかなワイングラスで乾杯 

 この夏、仙台では観測史上最高の37.2℃を、そして日本の最高気温記録を74年ぶりに塗り替える40.9℃を埼玉と岐阜で記録しました。ふぅ~、毎日暑い日が続きますが、皆さん夏バテしていませんか? こんな酷暑の季節、ワインラヴァーの方は15℃~18℃が適温とされるタンニンが多いブルボディの赤ワインよりも、白ワインや泡もの(=スパークリングワインの別称)を楽しまれることでしょう。白ワインの場合は8℃~9℃、スパークリングワインなら4℃~8℃の適温まで氷水を入れたワインクーラーで冷すと、より美味しく感じられます。その際、発汗による涸渇感を癒そうと冷凍庫でキンキンに冷しすぎるのはブドウ由来のアロマ(=香り)を封じてしまうので禁物です。

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【Photo】イタリア・ヴェネト州ヴェローナからヴェネツィアに向かう途中にある Illasi イラージ地区clicca qui 産のシャルドネ100%で仕込まれたFrizzanteフリッツァンテ(弱発泡)「Le Vacanzeレ・ヴァカンツェ」(=ヴァカンス)。日本での売価は1,000円前後と非常に手頃なので、その名の通りリラックスしたシーンでよく冷して気軽に楽しみたい

 泡もの=シャンパンと日本では捉えられますが、この「シャンパン」の語源は明らかにフランス・Champagne シャンパーニュ地方産の同名のスパークリングワインの名前からきています。シャンパーニュ産以外の泡ものは Vin Mousseux ヴァン・ムスー(≒泡のワイン)とひと括りで語る誇り高きフランス人の前で混同は慎みましょうね(^ ^;。シャンパーニュがシャンパーニュたる所以(ゆえん)は、
1 : ピノ・ノワール、ピノ・ムニエ、シャルドネの三種のブドウを混醸または単独で使うこと
2 : タンク内で一次発酵を終えたワインを瓶詰めする際、酵母と糖分を加え、「瓶内ニ次発酵」により炭酸ガスとアルコールを発生させ最低15ヶ月熟成させること
3:フランス・シャンパーニュ地方産であること の三点です。

2:の工程で発生する澱を除くために、斜めにして寝かせている瓶を何度かに分けて回し、-20℃ほどの塩化ナトリウム水にボトルの先を浸して凍らせた澱を炭酸ガスの力で飛び出させる作業が伴います。もとよりフランスのブドウ産地としては条件が厳しい最北に位置するシャンパーニュは、こうした手間を要するという理由から、概して価格が高めに設定されるようです。(注1)
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【Photo】イタリア・ロンバルディア州のフランチャコルタでは、「Metodo Classico メトード・クラシコ」ないしは「Metodo Tradizionaleメトード・トラディツィオナーレ」という、シャンパーニュ地方の修道僧ドン・ペリニョンが編み出した瓶内二次発酵を経て、澱抜きをする生産方式と同じ造りをしている

 かたや北イタリア・ロンバルディア州産の「Franciacorta フランチャコルタ」は、ここ20年でイタリア最高の発泡性ワインとして急速に名声を上げています。この辛口の Spumante スプマンテ(=伊産スパークリングワインの総称)は、ピノ・ネロ(ピノ・ノワールの伊名)、ピノ・ビアンコ(仏名ピノ・ブラン)、シャルドネの3種を使い、シャンパーニュよりも長い最低25ヶ月(うち 2:の瓶内二次発酵期間が最低18ヶ月)に及ぶ醸造所での熟成を義務付けられています。にもかかわらず、シャンパーニュと比べて値段が手ごろなのは嬉しいところ。産地は州都ミラノの東方80キロにある Brescia ブレッシャから Lago d'Iseo イゼーオ湖にかけてのエリア。(注2) シャンパーニュと同様の製法(ただし最低熟成期間は9ヶ月以上)で作られる割には高いコストパフォーマンスが魅力のスペイン産 Cava カヴァともども、泡ものの選択肢に加えてみてはいかがでしょう。

brachetto.jpg【Photo】チンクエテッレを経由してたどり着いたポルトヴェーネレのバールでひと休み。そこで飲んだのがこのグスタフ・クリムトが描いたニンフたちが舞うエチケッタが秀逸な「Brachetto d'Acqqci ブラケット・ダックイ」。奥のグラスを見ての通り、濃い目のロゼといった方が正確な色調をしたこのフリッァンテの生産者は、Nizza Monferratoニッツァ・モンフェラートにある Scrimaglio スクリマリオ。同社は FIAT や Alfa Romeo ブランドとのタイアップワインcliccca qui も手掛ける

 手間がかかる瓶内二次発酵を行わなわず、タンク内で二次発酵を行う醸造法が「シャルマ方式」。量産が可能なこの方法で作られる Piemonte ピエモンテ州産の甘口の白 Asti アスティ、同赤 Brachetto d'Acqqci ブラケット・ダックイ、イタリア北東部 Veneto ヴェネト州産の辛口白 Prosecco プロセッコは、おおよそ1,000円台のリーズナブルな価格で売られ普段飲みにピッタリ。瓶内二次発酵をさせる良質なスパークリングワインが持つキメ細やかな持続性の強い泡立ちには及びませんが、適度なボディと細やかな泡立ちを兼ね備えたプロセッコは、食卓のオールラウンドプレーヤーといえましょう。スパークリングワインの炭酸ガスは、ブドウ由来の酸味をより鮮明に浮き出させる働きをすると同時に、キリリとした辛口感を強調してくれます。

 スプマンテはガス圧が3気圧以上と規定されていますが、実際の製品は6気圧前後。「食事中に泡の強いスパークリングはちょっと・・・」という方もおいででしょう。そんな方にはガス圧が1~2.5気圧の弱発泡性ワインを意味する"Frizzante"とエチケッタ(=ラベル)に表記された白ワインはいかがでしょう。きっと涼やかなアペリティーヴォ(=食前酒)代わりにもなってくれます。モスカート(=マスカット)種の繊細な香りを残すためにアルコール度数を低く抑え(約5%)た Moscato d'Asti モスカート・ダスティは、食後のフルーツやドルチェと楽しむのにピッタリ。最良のモスカート・ダスティは特別な食事の最後を締めくくるのにふさわしいものです。

caudorina.jpg【Photo】3代目の現オーナー、ロマーノ・ドリオッティ氏が家族で営むカンティーナ(=造り手)「Caudrina カウドリーナ」のモスカート・ダスティ「La Galeisa」(日本未輸入)。完熟したマスカットのピュアで繊細な甘さ、クリーミーな泡立ちを備えた秀逸なモスカート。甘口のデザートワインが苦手な方でも爽快なモスカート・ダスティは美味しく飲めるはず。ピエモンテ州アスティ県 Isola d'Asti イゾーラ・ダスティのエレガントな☆付きリストランテ兼ホテル「Il Cascinalenuovo イル・カッシナーレヌオヴォ」にて

 スパークリングワインの細やかな泡を目でも楽しむのならば、細長いフルートグラスが一番。指先でグラスの脚を回すと、グラスの底から立ち上る幾筋もの細かな泡が螺旋(らせん)状に立ち上ってきます。ワインの特徴を味わうための機能を追及したワイングラスとしては、オーストリア製の「RIEDEL リーデル」が有名です。ブドウの品種ごとに細分化された幅広いラインナップを揃える同社のグラスは、どれも機能性優先の無機的なフォルムをしています。ひとつのワインをフォルムの異なるグラスで飲んでみると、微妙に味わいが変わって感じられます。赤・白各2種類ずつベーシックな形(クリスタルガラスを使用した主力の「vinumヴィノム」シリーズ 赤ワイン用⇒ボルドー&ブルゴーニュ、白ワイン用⇒シャルドネまたはソービニョン・ブラン&モンラッシェ。泡もの好きの方は前者いずれかとシャンパーニュまたはキュヴェ・プレスティージュ)を揃えれば充分でしょう。ガラスに占める酸化鉛の割合が25%以上のクリスタルガラスは、高い透明度と光の屈折率によって、まばゆい輝きを放ちます。乾杯の際には澄んだ音色と長い余韻をもたらしてくれるでしょう。

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【Photo】ヴェネツィアの中央を逆S字に貫く大運河 Canal Grande カナルグランデに架かる Ponte dell'Accademia アカデミア橋の上からサンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂方向を望むと、カンツォーネを熱唱する歌い手を乗せたゴンドラが数艇横並びで進む映画のワンシーンような光景と出合った。光と水が織り成す多彩な表情を見せる水の都は、このような非日常のドラマチックな場面がよく似合う

 前置きが長くなりましたが、まずはこうした基本を踏まえた上で、今回の主役は機能性を追及するグラスと対極にある装飾性の高いワイングラスです。爽やかな白ワインにぴったりの軽やかで涼しげなこのグラスにまつわる物語の舞台は水の都 Venezia ヴェネツィア。そこはアドリア海の上に築かれた唯一無二の街です。"●●のベニス"という表現をされる都市がほかにいくつかありますが、"アドリア海の真珠"とも称えられる水の都の本家はさすがに格が違います。"北のベニス"ことブルージュやサンクトペテルブルグ、あるいは"東洋のベニス"こと蘇州やバンコクなどのように、数多くの運河や水路が縦横に刻まれているのではなく、街自体が Laguna ラグーナと呼ばれる浅瀬の海の中に木杭を打ち込んだ基礎の上に造られています。つまり海の上に人間が築いた、いわば海から生まれた街なのです。今もヴェネツィア市長には海に指輪を投げ入れて海との結婚を宣言するという、かつては共和国のドージェと呼ばれる元首が行っていた重要な儀式を執り行う役割が課せられます。世界広しといえどもこのような街が他にあるでしょうか。

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【Photo】ガラスの島ムラーノ島で。熱したガラス種を自在に操り、さまざまな表情を持つ製品に仕上げるマエストロの技は見事の一言に尽きる

 外敵の侵入を拒む天然の要害ラグーナの中に築かれたこの街が手に入れたのは、828年にエジプトのアレキサンドリアから二人の商人が持ち帰ったとされる聖マルコの遺骸だけではありません。1498年にヴァスコ・ダ・ガマが喜望峰を発見するまでは、欧州で珍重されたシルクや香辛料などの東方交易を通じて莫大な富を手に入れます。東方商人が去来したヴェネツィアの街は、サン・マルコ寺院のファサードを見ても明らかな通り、ビザンチンと東洋の香りを色濃く漂わせています。

impossibile.jpg【PHOTO】ムラーノ島のガラス工房直営のショップ。レース模様が鮮やかな緑色と交差する脚付きボウル(上段中央)や最もヴェネツィアングラスらしい色といわれる真紅の作品(中段)が目を引いた。ガラス職人が得意な作風によってクラシックなデザインからモダンなものまで店の品揃えの傾向が分かれる。世界的な観光地でもあるヴェネツィアゆえに、ムラーノ島のガラス工房直営店といえども「ベニスの商人」たちの値付けは強気。ヴェネツィア本島の方が概して安かったりするが、ムラーノ製以外(→Made in China )のものもあるので要注意

 15世紀から17世紀にかけてヴェネツィア共和国が欧州で独占したのが、つながりが深かったビザンチンから10世紀頃に伝わったとされるガラス製造の技術。紀元前1世紀のローマ帝国時代に現在のシリアで編み出されたとされる宙吹きガラス製法は、水の都で独自の発展を遂げ、ヴェネツィア共和国の重要な交易品となってゆきます。ガラス職人の組合ができた13世紀にヴェネツィアのガラス工房は本島の北1.5キロにある Isola di Murano ムラーノ島へと集約されます。これによって、火災の危険が伴う火を使う工房を本島から隔離し、高度な技術の流出を免れようとしたのです。以来、ヴェネツィアのみならず、イタリア国内では「ムラーノグラス」と呼ばれるようになりました。15世紀に生まれたエナメルの絵付け装飾を施した彩色ムラーノグラスは、当時の王侯貴族たちから大いにもてはやされます。鉛を用いる技法が生み出されるまでは困難とされた透明のガラス Cristallo クリスタッロの製造にこぎつけたのもこの時代でした。

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【Photo】腕の良いマエストロの手にかかったガラスほど薄くて軽い。ソーダガラスは彩色ガラスに加工しやすい特性がある。最も難しいとされる真紅のグラスは金の溶液を混ぜて、銅とコバルトの化合物を混ぜると青いガラスになる。ワイングラスのステム(=脚)にアップリケ装飾や白鳥・イルカなどの繊細極まりない装飾が施されたワイングラスの数々。便乗値上げが相次ぐ結果を生んだユーロ導入前の今から13年前に一脚2万円以上したこれらのグラス。ワイングラスという実用品よりも、むしろ芸術品の域に達している。日本に持ち帰るには破損のリスクが大きいので、喉から手が出るほど欲しかったが泣く泣く断念した
 
 ムラーノグラスは16世紀に最盛期を迎えます。花や星形の模様が幾つも並ぶ Millefiori ミッレフィオーリcliccca qui という技法や、大理石状に色とりどりのガラスが流紋を描く Marmo マルモ(=マーブル)ガラスclicca qui 、細長い色ガラス(白であることが多い)棒をガラス玉に巻きつけて交差したレース状の文様を付ける Retticello レティチェッロclicca qui、氷の裂け目のような細かいヒビをつけるアイスクラックという技法や、表面にさざなみのような筋をつける技術、金箔をガラス種に付けたまま吹き竿で膨張させて細かな金模様を付ける従来からの技法に加え、金粉を使用する方法など、今日も受け継がれるヴェネツィアン・グラスの伝統技術があらかた出揃いました。

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【Photo】無機的なクリスタルガラスではなく、ソーダガラスを使用したムラーノグラスは口当たりが柔らかい。ワインの色調を目で確認するためには、透明のグラスが好都合。ということで、筆者がムラーノで選択したのはこのワイングラス

 富の独占を目論んだ共和国の為政者は、ガラス職人に高い地位を与えました。ガラス職人の娘が共和国の有力者の子息と結婚するケースもあったとか。しかし職人たちがムラーノ島から外に出ることを決して認めませんでした。そのため親から子へと技は受け継がれてゆきました。華麗なムラーノグラスに対する需要は多く、16世紀以降は密かに島を抜け出して共和国の手が届きにくい英国やオランダなどに渡る職人も増え始めました。そうした職人の手になる製品はフランス語で"ヴェネツィア風の"を意味する「Façon de Venise ファソン・ド・ヴニーズ」と呼ばれたとか。

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【Photo】ゴンドラの漕ぎ手ゴンドリエーレの巧みな櫂捌きによって水面に刻まれる渦巻きを彷彿とさせるムラーノグラス

 刻々と変わる光の具合でさまざまな表情をみせる水に囲まれたヴェネツィアに暮らす人々だからこそ、かくも繊細極まりない芸術品のようなガラス工芸を生み出したのではないでしょうか。光と影が交差する運河の水の面は、ゆらめく万華鏡のよう。海水に浸食され朽ちつつある建物の外壁には、光を写してゆらゆらとうごめく水紋が反射しています。この町に暮らす人たちは、水に囲まれた暮らしの中で、さまざまな表情を持つ水を映し取ったかのようなガラスを作り出したのです。

 さて、今夜のワインはCampania カンパーニャ州の傑出した白ワイン用土着品種 Fiano フィアーノ種を造らせたなら三本の指に入るとの呼び声高い「Guido Marsella グイド・マルセッラ」の手になる「Fiano di Avellino フィアーノ・ディ・アヴェリーノ'04」。カンパーニャ州でも内陸部に位置する街Avellino周辺は、南のバローロともいわれる偉大なワイン「Taurasi タウラージ」の産地でもあります。街の北西、山裾のSummonteスモンテ地区にカンティーナ兼アグリツーリズモ「Marsella」はあります。オーナーのグイド・マルセッラ氏が10ヘクタールの畑でワイン造りを始めたのが1997年から。海抜700mを越える畑で育てられるブドウは、昼夜の寒暖の差が大きな厳しい気候条件のもとで、通常の顆粒より小さく、凝縮した高い品質のブドウとなります。マルセッラ氏が造るのは、フィアーノ・ディ・アヴェリーノのみ。生産1,500ケースだけの希少なこのヴィーノは、ソレント湾を望む南イタリアきっての名リストランテ「Don Alfonso 1890」のワインリストにオンリストを果たしています。

    
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 このヴィーノのために私が選んだのは、金粉装飾が輝く愛用の白ワイン用のヴェネツィアングラスです。ドラマチックに表情を変える劇場都市ヴェネツィアならではの華やかな雰囲気を漂わせる軽やかなムラーノのワイングラス。一方でワインを味わうための機能を極限まで理詰めで追求し、究極の「器具」を目指すゲルマン系のRIEDEL。方向性が全く異なるふたつのグラスを眺めるうち、「こんなところにも国民性が表れるのだなぁ」と、愉快になるのでした。

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【注1】シャンパーニュは、ブドウの自家栽培・自家醸造を行う小規模な Maison メゾン(=生産者)の手になる「レコルタン・マニピュラン」(RMとエチケット〈=ラベル〉に記載)と、買い付けたブドウや原酒も使い生産量も多い大手の「ネゴシアン・マニピュラン」(NMと記載)、日本にはほとんど輸入されない生産者組合の製品「コーペラティブ・マニピュラン」(CMと記載)などに大別される。作り手の個性が直接表れるRMは約4,800軒。かたやNMは280軒ほどだが、ごく最近まではNMが圧倒的に市場を支配していた。生産量全体の8割を占めるノンヴィンテージ(NV)シャンパーニュは、自家栽培以外の複数の原料を混醸し、一定の味を作り上げる場合が多い。作柄の良い年に生産されるヴィンテージ・シャンパーニュで最低3年、大手のNMが造る高級シャンパーニュ(プレステージ・シャンパーニュ)は最低5年の瓶熟を行うが、その分価格も釣り上がる。私見では酒質が値段に見合ったものかどうか、ブランドだけで選ばない方が得策

【注2】ブレッシャはイタリアサッカーファンにとって、史上5人目のセリエA 200ゴールの記録を持ち「イタリアの至宝」といわれたファンタジスタ、ロベルト・バッジョ【click!】が現役最後に所属したクラブの本拠地として記憶されている。バッジョ自身は生まれ故郷のヴェネト産スプマンテProseccoがお気に入りだと言っている。やはりイタリア人の郷土愛は強いようだ

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