あるもの探しの旅

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2016/01/10

苦難を乗り越え、かなえた夢の雫

鼎ヶ浦の美酒「酒也 鼎心(かなえ)

 皆さま、本年も「Viaggio al Mondo~あるもん探しの旅~」をご贔屓に預かりますよう、お願い致します。一陽来復。2016年の幕開けを飾るのは、穏やかな新年を迎えた宮城県気仙沼市本吉町大谷海岸からの初日の出の画像から。

alba-2016@oya.jpg 出合いから5年を経た今も鮮烈に記憶に残っている美酒にまつわる物語を2016年幕開けの話題として今回はご紹介します。発端は2011年に年が改まった日。それは東日本大震災発生が発生する2ヶ月あまり前のことでした。

fukuyoshi-otokoyama-daigin.jpg【Photo】キンキ(吉次)、唐桑産カキ、サンマなど、気仙沼で揚がった鮮度抜群の地物を丹念に火入れ。〝日本一の焼き魚〟を食べさせてくれる海鮮居酒屋「福よし」。ご主人の村上健一さんの筆になる福よしオリジナルラベルの伏見男山純米大吟醸の相伴は、絶品の烏賊腑味噌焼き

 気仙沼の地酒といえば、「金紋両国」・「船尾灯(ともしび)」・「別格」・「福宿(ふくやどり)」などの銘柄を醸す角星(明治39年創業)と、「伏見男山」・「蒼天伝」が二枚看板となる男山本店(大正元年創業)が両雄。

 2011年3月に発生した東日本大震災では、両社とも内陸部にあった酒蔵は大きな被害を免れました。しかしながら、ともに国指定有形登録文化財に指定されていた趣ある本社屋が津波で壊滅。震災発生から5年を迎え、嵩上げや防潮堤工事が進むなか、現地再建に向けてそれぞれ始動しています。

iwao-saya_okoshi.jpg【Photo】津波で店舗兼自宅が流失。現在も大谷小中仮設住宅で暮らしながら、親類宅の敷地に設置したコンテナの仮店舗で業務を続ける大越商店。2013年4月に訪れた店舗の中で宿題をしていた長女の彩弥ちゃん(当時小学3年生)と大越巌さん(当時46歳)。先日会った彩弥ちゃんは、お父さんの胸ぐらいの背丈まで背が伸びていた

 震災直前の5年前、初めて口にしたのが「鼎心かなえ」という気仙沼の酒。同市本吉町大谷(おおや)の酒販店「大越商店」の現当主・大越巌さんが、1993年(平成5)から栽培に取り組み始めた地元のコメと水だけを使い、男山本店に750ℓ容量のタンク1つ分だけ醸造を委託したという極めて稀少な純米吟醸酒でした。

 朱色のラベルは、大越さん自身による墨痕鮮やかな〝酒也 鼎心〟の揮毫。口に含むと完熟メロンに通じる上品な吟醸香が適度にあり、長い余韻を伴った芳醇なコメの旨みがどこまでも広がるのでした。

kanae_hiire.jpg【Photo】もろみを搾った生原酒を湯煎した「純米吟醸 鼎心 火入 無濾ろ過原酒」。大越巌さんの筆によるラベル

 気仙沼市本吉町大谷は、遠浅の海原に面した全幅1kmの砂浜が弧を描く白砂青松の地。「日本の水浴場55選」や「快水浴場100選」として、環境庁から認定を受けた大谷海岸には〝日本一海水浴場に近い駅〟といわれたJR気仙沼線の大谷海岸駅がありました。

 ピンク色のハマナスが浜辺を彩る季節、宮城だけでなく岩手県南や山形内陸から訪れる海水浴客で賑わいました。海沿いを並走するR45には道の駅「はまなすステーション」が併設され、定置網にかかったマンボウが、のんびりと水槽で漂う姿に和んだものです。

 しかしながら、地区の世帯のおよそ半数にあたる1,670棟の家屋が流失する大きな被害を受け、75名が犠牲となった震災を境に、こうした記憶の中の風景は全て過去形で語らざるを得なくなりました。

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【Photo】仙台でガソリンの供給が幾分なりとも改善し、生活物資や食料を積み込んだ車で気仙沼を被災後初めて訪れたのが2011年4月10日。20m超の津波で全壊した道の駅はまなすステーション展望台の最上部から心が折れそうになりながら撮影した1枚。大谷の人々の暮らしが無残に打ち砕かれた爪痕が痛々しい変わり果てた光景。瓦礫を取り除いただけで砂塵が漂うR45とJR気仙沼線の線路が延びる方角に大越商店があった(上写真)。同日撮影した下写真右手の建物が大越さんが地震と遭遇した「はななす海洋館」の一部

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 大谷海岸には9.8mの防潮堤が整備される計画で、黒い土嚢の仮堤防が築かれている現在は、ほとんど美しい海を眺めることができません。R45から大谷漁港に分岐する脇道沿いに、かつて酒類とLPガスを扱う大越商店はありました。

 あの日、大越さんは酒の配達に来ていた大谷海岸に面した「はまなす海洋館」で、体験したことのない強烈な揺れに遭遇します。6mの津波襲来をカーラジオのニュースが告げていたため、車で2分とかからない距離の海抜5m地点に建っていた店舗兼自宅に営業車で急ぎ戻りました。

 家族をワゴン車に乗せて高台に避難させ、業務用の車を移動させようと自宅に再び戻ったところで津波が大越さんを襲います。膝まで水につかりながら、かろうじて動いた車で高台まで避難し、紙一重で難を逃れることができました。

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【Photo】2013年5月。遠目には震災前とさして変わらぬ気仙沼湾を眼下に見渡す標高239mの安波山(あんばさん)山頂からの眺め。震災で発生した火災で焼け野原となった鹿折(ししおり)と南気仙沼は地表が露出している(両端)。外洋に面した沖合いに気仙沼大島があるため、波静かで天然の良港であるこの入江を「鼎ヶ浦」と命名したのは仙台藩学問所「養賢堂」指南役を務めた詩人・書家の油井牧山(ゆいぼくさん 1799-1861)

 千葉での会社勤めを経て家業を継いで間もない大越巌さんが、地元のコメと水だけで地元の蔵人が作った本当の地酒を自身の手で作ろうと一念発起したのが24歳のとき。

 酒造りや酒米に関する書籍をむさぼり読み、県内外の酒米生産者や農協・蔵元を訪問。種籾を手に吟醸酒の醸造に必要な1,500kgの酒造好適米の栽培に協力してくれる農家探しに明け暮れること数ヵ月。

shikomi-mizu_otokoyama.jpg【Photo】鼎心にも使用される男山本店の仕込み水は、北上山地の伏流水が湧出する旧JR大船渡線の上鹿折駅近くにある、この個人宅の井戸を使用している

 ようやく見つけた地元3軒の農家の水田で、支援者とともに気仙地域で初めてとなる酒造好適米「美山錦」を作付けしたのが1993年(平成5)の春。種籾の確保や田植えから始めた大越さんの挑戦に天は味方をしてくれませんでした。外米の緊急輸入に踏み切った「平成の大凶作」にあたったこの年の収穫はわずか360kg。初年度は酒造りを見送り、2軒の生産農家が加わった翌年は、猛暑による水不足と収穫期の長雨と台風の直撃に見舞われました。

 初年度の10倍にあたる3,600kgの美山錦と新たに「亀の尾」を収穫した2年目。男山本店の蔵人から指導を仰ぎ、1基の750ℓタンクに仕込んでから上槽。念願かなって初めて吟醸酒が仕上がったのが1995年3月。自身で本物の地酒を作ろうと思い立ってから4年の歳月が流れていました。

 「理想とは程遠い出来でした」大越さんは笑いながら、そう当時を振り返ります。田植えや稲刈りに参加した支援メンバー15名が考えた150もの候補から、その酒を「鼎心」と名付けます。

【Movie】岩手県境に近い気仙沼市北西部の山あいにある水清らかな廿一(にじゅういち)地区。初年度から酒米の植え付けに協力してきた農家のひとり千葉清幸さんの圃場。当初は信州生まれの酒造好適米「美山錦」を作付けしていたが、現在は平成9年に奨励品種に採用された宮城県古川農業試験場生まれの「蔵の華」を酒米としている

 蜂ヶ崎・神明崎・柏崎という3つの岬に内湾を囲まれた気仙沼湾は、別名「鼎ヶ浦」と呼ばれ、高校の校名にもなっていたほど地元では馴染みある言葉。もともと〝鼎〟は中国最古の王朝「夏」以来、王権の象徴とされた3本足の青銅製炊器の呼称です。鼎心とは栽培農家・蔵元・飲み手が三位一体となって、王位の称号にふさわしい酒を目指そうという気概を込めた名前なのです。

 以来、生産農家と支援者に支えられ、合計90アールの水田に作付を行ってきたコメ作り。理想の味を求め、男山本店の杜氏との二人三脚で鼎心の酒質を高めてきた大越さんにとって、二度目の大きな試練となったのが東日本大震災でした。

 避難所暮らしを続けていた2011年5月、大谷海岸から少し内陸部に入った本吉町寺谷の親類宅の敷地に現在の仮店舗を構えます。

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 不屈の精神で、震災発生の翌年から醸造を再開。一昨年からは、仕込みを大越さんと気心が知れた同級生の杜氏が担当するようになりました。その結果、鼎心の完成度が更に高まった印象があります。

 今醸造年度27BYは11月末に搾りを行いました。今年も納得の仕上がりだという搾りたての「純米吟醸 槽口(ふなぐち)無ろ過生原酒」を、大晦日に伺った仮店舗で購入しました。

 フレッシュな飲み口を堪能できる搾りたてを楽しむもよし。しばらくは冷蔵し、まろやかさが加わった円熟の味を堪能するもよし。

 今年7月には5年あまりを過ごした仮設住宅を出る予定という大越さん。その再出発のお祝いを兼ね、震災から5年を経る3月11日以降、貴重な新酒を開けるつもりです。

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okoshi-shoten_2013.jpg大越商店
・仮店舗住所:宮城県気仙沼市本吉町寺谷88-13
・Phone:0226-44-2701
・F a x :0226-44-2212
純米吟醸 酒也 鼎心(かなえ)
 1800mℓ 税込3,085円 / 720mℓ 税込1,644円


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2012/11/18

どうせなら真っ当な新酒を

ボージョレ・ソードー掃討作戦2012
淡麗水口ボージョレよりも芳醇旨口の新酒はいかが

 今年もボージョレ・ソードー(⇒騒動)の季節がやって参りました。やれ"100年に一度の出来"だ、やれ"今年も最高の当たり年"だのと毎年喧伝されることから、「地球上で唯一オフヴィンテージが存在しない奇跡のブドウ産地・ボージョレ」と褒め殺しに打って出たのが昨年秋。すべからく世界中を見たわけではありませんが、ニッポンのボージョレ・ヌーボー商戦ほど不自然で異様なものはありません。

primeur_2012.jpg【Photo】さまざまな取引先から回ってくる購入案内にお付き合いで購入したボージョレ・ヌーボーが、ボージョレ・ソードー掃討作戦中の庄イタのデスク上を除いてオフィスに並ぶニッポンの11月第3木曜日。この極めて日本的なお付き合いシステムは、してやったりの産出国フランスよりも多くのボージョレ・ヌーボーを購入している日本の突出ぶりを下支えしている

 たとえば楽天市場のボージョレ・ヌーボー特設サイトLink to Websiteで引用されている「奇跡の雫」なる誇大表現ひとつをとっても、「こりゃ閻魔様に舌を抜かれるぞ」と呆れるような売り文句が並びます。天候いかんにかかわらずグレートヴィンテージを吹聴する酒販業界の動きに俄然闘志をかき立てられる庄イタ。オバマvs ロムニーの米国大統領選で繰り広げられたネガティブキャンペーンほど大仕掛けではないものの、ボージョレ・ソードー掃討作戦を本年も決行します。よろしければご一緒に・・・。Boooo...q(`ε´q)

beaujolais2012.jpg【Photo】ボージョレワイン委員会が作成したポスターが全国の酒販店・百貨店の店頭に貼り出された。こうした巧みな販促活動はフランスのお家芸

 今年の販売解禁日となった11月15日(木)午前零時、仙台市内の大手流通店舗でカウントダウンイベントが実施されました。深夜にもかかわらず約300人が集まり、もはや恒例行事と化したこの催しに参加した40代女性は「毎年買っている」と語り、50代女性は「いつでもある熟成ワインではなく、今しか飲めないフレッシュなボージョレは毎年買っている」のだそう。あくまでワインは嗜好品ゆえ、好みはさまざま。渋味と一般に表現されるタンニンが苦手な方が存在するのは理解できます。ワイン入門編で試してみるのも悪くはないでしょう。

 しかしです。庄イタが仙台駅構内を移動中、店頭でブルゴーニュの名門メゾン「Louis Jadot ルイ・ジャド」の上級ヌーボー「Beaujolais Villages Primeur 2012 ボージョレ・ヴィラージュ・プリムール2012」を試飲販売していました。興味をそそられ、一口だけ試飲してみました。「付き合いで数本購入したけど飲まない」として頂いたLouis Josephなる造り手のヴィラージュ・ヌーボー2008のお粗末さ加減でフラストレーションが溜まる急性ヌーボー中毒になったのが4年前のこと。

primeur_louis_jadot.jpg【Photo】短命なプリムール(ヌーボー)にしては珍しく、平年作ならば3年程度の保存がきくというルイ・ジャドのボージョレ・ヴィラージュ・プリムール。天候不順の今年は酸が立った痩せぎずな印象で、明らかに若飲み向きの仕上がり

 それ以来のヌーボー(=プリムール)でしたが、声望高きこの造り手にしてなお、伝え聞く"100年に1度の厳しい天候"(←どうしてもボージョレにはこうした表現がついて回るのは何故?)を反映してか、線の細さは否めません。ヌーボー特有の未熟なバナナ香とベリー系の酸味が立ち、お世辞にもバランスが良いとは言えず、味の構成の複雑さは感じられません。自然派ワイン愛好者に支持されるフィリップ・パカレのヌーボーも置いてありましたが、ともに4,000円ほどの価格。中身と価格が釣り合っているとは到底思えず、その場を立ち去りました。 

 "ワインの味がするワイン"を多くの人が知っている欧州圏では淘汰され、需要が見込めないワインの水割りのようなお味のボージョレ・ヌーボーを美辞麗句で飾りたて、燃料費高騰の中で決して安くはない空輸運賃や倉庫経費とマージンを上乗せしてワイン文化が根付いて歴史が浅い日本向けボージョレ売らんかな商法。その手に乗ってなるものかと、Viaggio al Mondo の場で「今年も当たり年?」で啓発を始めて4年。いくら皮肉を込めて「手を出すのはおやめになった方が賢明ですよ~」と書き連ねても、一時の異常なブームが去って減少傾向だった売り上げが、過去2年はゾンビのごとく漸増傾向に転じています0rz 。不偏不党を掲げるマスコミも、よせばいいのにボージョレ・ヌーボー解禁ばかりを依然としてニュースで取り上げます0rz 。

languedoc_nouveau2012.jpg【Photo】おフランスの新酒がそんなにお好きなら、こんな選択肢はいかが? 南仏の太陽を浴びたラングドック地方の生産者「Domaine La Tour Boisée ドメーヌ・ラ・トゥール・ボワゼ」が日本向けに造るヌーボー。メルロとシラーの果皮と果汁の接触時間を長くとることで、ボージョレよりも厚みのあるボディと複雑な味わいを実現。ボージョレワイン委員会が目の敵にする低価格ボージョレのようなペットボトル入りでなくても、1,000円前後の良心的な実勢価格。オーストリアの新酒「Heuriger ホイリゲ」同様、11月上旬には店頭に並ぶので、ボージョレを出し抜けるなどいいことずくめ。もっと早く新酒を楽しみたいなら10月に市場に出始めるイタリアの「Novello ノヴェッロ」を。それでも遅いという方は、春に出回る南半球の新酒を!!

 河北新報11月15日(木)付夕刊のコラム「河北抄」は、ヌーボー解禁にちなんだ内容でした。自身を律する意味で一節をご紹介すると、「今夜はフランス人にとって歴史であり、魂でもある飲み物に酔いしれる人が多いだろう」と記されています。そこが未開の地ガリアと呼ばれていた古代ローマ時代、属州となった蛮族の民にブドウ栽培とワイン醸造法を伝えた古代ローマ人のDNAを前世では受け継いでいた私ですが、蛮族の末裔であるプライド高きフランス人のため、以下の真実だけはここで確認しておきます。

 まずはInter Beaujolais(ボージョレワイン委員会)による10月12日付プレスリリースをご覧ください。

 現地の醸造家から発せられる情報では、4月になっても氷点下5度の寒波に見舞われ、深刻な霜害が発生。6月の大規模な降雹と7月末まで雨降りと低温が続いた天候不順のため、平年作の4割程度と史上稀にみるブドウの不作に見舞われた今年のボージョレ地方。そのため収量の確保が極めて困難となりましたが、昨年実績で59,901ヘクトリットル(=750mℓ換算で790万本)と、全ヌーボー輸出量の半数以上を占めるブッチギリの大得意先である日本向けに、新酒を確保せねばならない事情があります。 (備考: 輸入量第2位で3.1億人が暮らす米国が18,524hℓ=同240万本、第3位ドイツ9,901hℓ=同130万本。その一方、自国では日本向けより少ない53,563hℓが消費されるに過ぎない。人口1.2億の日本の尋常ではない突出ぶりが目につく。※データ出典:Iri Secodip 2011
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【Photo】FIFAサッカーワールドカップ2002で仙台をキャンプ地に選んだイタリアナショナルチーム滞在中、選手スタッフのためにパン作りを担当したのが、仙台市若林区のブーランジェリー「ジャンヌダルク・フィスエペール」。のちに数種類のドライフルーツを生地に入れたこの「ワインパン」(⇒食べかけでスミマセンm(_ _)mを考案する際、イメージしたのがボージョレ・ヌーボー(笑)。11月とはいえ、セラーの手持ち在庫にヌーボーなど決して存在しない庄イタが合わせたのは、ピエモンテ州の作り手「Marziano e Enrico Abbona マルツィアーノ・エ・エンリコ・アボナ」のNebbiolo d'Alba Bricco Barone 2006。料理に寄り添うイタリアワインの美質が発揮される鉄板の組み合わせ

 1980年から辻調理師専門学校フランス校が設置されたリヨン郊外の城郭「シャトー・ド・レクレール」にはSicarex Beaujolais(シカレックス・ボージョレ)というボージョレ地区のブドウ栽培を専門に研究する団体が存在します。辻調フランス校講師を兼務する同団体のベルトラン・シャトレ技術主任は、2012ヴィンテージ収穫直前の「9 月最初の10 日間は雨が降らなかった」とプレスリリースで強調、「心地よく、偉大なフィネスのあるワイン」に仕上がったと胸を張ります。果たしてそうでしょうか??

 数十年に及ぶ熟成の過程で、真に偉大なワインのみが備えるフィネス(⇒高貴さ・優美さ)を感じさせる良質なワインが生まれる産地として、フランスで思い浮かぶのが、アルザス、ローヌ、ボルドー、そして名醸地が連なるCôte-d'Orを擁するブルゴーニュ北部。そうした選択肢がある普通の味覚を持つフランス人の多くが、10年以上の熟成に耐えるクリュ・ボージョレは別にして、11月第3木曜日を心待ちにして特殊な製法で促成醸造される軽く平板な飲み口のボージョレ・ヌーボーに酔いしれるとは到底思えません。

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 井の中の蛙でボージョレ地方のブドウ品種「Gamay ガメイ」の軽いワインしか飲んだことがないのでは?と勘ぐりたくなる前出の名言(ここでは「迷」を当てた方が良い)を吐いたシャトレ氏ほか、如水(みずのごとし)な飲み口を受け入れるフランス人がそれなりに存在するんですねぇ。圏域人口が1000万人を超え、40万以上の外国人が暮らす大都市パリのみならず、美食の都リヨン(人口170万)にだって、私とは無縁のMマークのファストフードチェーンがそれぞれ15店舗ずつ存在しますし、味に敏感とされるラテン系民族でも、人の味覚は所詮さまざまですから...。

【Photo】狭隘な「ボージョレ・ヌーボー通」から、もっと豊かなワイン愛好家への扉を開くなら、たとえばこの1本1,200円(税込)で同価格帯のヌーボーより遥かに美味しい「朝日町ワイン ロゼ 中口」は最適の1本 

 モヤモヤがスッキリしたところで、庄イタにとってはネコ跨ぎアイテム以外の何物でもないヌーボー解禁日に購入したのは、過剰在庫を抱えるイタリアワインではなく、日頃はあまり親しむ機会がない国産ワイン。頻繁に物販催事が行われる仙台市役所前の勾当台市民広場で対面販売をしていたのが、1,000円台前半のリーズナブルな価格設定がされた「朝日町ワイン」。試飲した中で、最もコスパに優れると思われた「朝日町ワイン ロゼ 中口2011」(1,200円)を選びました。今年で10回目を迎えた国産ワインのコンクール「Japan Wine Competition 2012」では、この2011ヴィンテージは銅賞でしたが、3倍以上の価格差がある大手酒造会社系列ワイナリーの製品を抑えてロゼ部門最高賞を過去に4度獲得している実力派です。
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【Photo】ボージョレ・ヌーボー商戦真っただ中の11月上旬、酒田で限定発売されたばかりの酒田酒造の生詰「上喜元 翁」とどちらを開けるか迷った挙句、選んだのは同じく地元限定のレア物「〆張鶴しぼりたて生詰原酒」

 運んだばかりで味がまだ荒れているはずの朝日町ワインは少し落ち着かせてから開けるとして、完全スルーのヌーボー解禁日に庄イタが家飲みしたのは、意表を突いて日本酒の新酒。11月9日に蔵出しされたばかりのフレッシュな「〆張鶴しぼりたて生詰原酒」が、ボージョレ解禁で世間が浮かれる宵の相伴となりました。

 典型的な淡麗辛口酒と評される〆張鶴。仙台では一般にプレミア価格で販売されますが、地元の新潟県村上市では、最も廉価なアル添の普通酒「花」(税別1,725円/1.8ℓ)が晩酌用に愛飲されます。この地元限定酒は、村上の名物酒販店「酒道楽 工藤」で入荷当日に入手したもの。さらりとした特別本醸造「雪」や純米吟醸「純」、吟醸「特撰」などとは明らかにタイプが異なる濃厚かつ芳醇旨口な飲み口が印象的。普通酒「花」の原酒ということで加水していないため、表記アルコール度数は20%と高め。冷やまたはオンザロックがお勧めです。

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 炭素濾過もしていないといいますから、世の飲み助が憧れる搾ったばかりの「ふなぐち」に極めて近いトロリとした飲み口。米のうま味たっぷりで、メロンのような風味もあり至福の時が過ごせます。一升瓶で2,240円、四合瓶1,020円(税別)と、ペットボトル入りボージョレ・ヌーボーと同価格帯にして、はるかに飲みごたえ十分。しかもアルコール度数が高いので、すぐに気持ち良くなれる(笑)。吉野家の牛丼じゃありませんが「うまい・安い・早い」と三拍子揃っており、なんとも嬉しい限り。「早い・安くない・うまくない」某新酒の季節が巡ってきたら、日本酒度でいえば+20度以上の超辛口に味付けしてみた今回の内容を思い出して下さいね。

piccolo_pinocchio.jpg 今年のボージョレ・ヌーボーを「偉大なフィネスがあり、アロマの複雑さが見事なワインと」強弁するシカレックス・ボージョレのベルトラン・シャトレ技術主任の鼻が、嘘を重ねたピノッキオみたいにならないことを祈りつつ、庄イタは怒りの鉾を収めます。これにてボージョレ・ソードー掃討作戦2012、任務完了。

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2012/08/19

甘党も左党も納得

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しっかり田酒なジェラート
by イタリア料理アデッソ@青森市油川

 今年は青森づいている庄イタ。間もなく去ろうとしている夏の発見のひとつが、青森市油川のイタリア料理店「Adesso アデッソ」で出合ったこのジェラート。

 某所で開催された空前絶後のレアもの垂直試飲ワイン会でお会いした田酒で知られる西田酒造店の西田司社長から教えて頂いたイタリアンレストランを翌日訪れ、お持ち帰りしました。

 近所に蔵を構える西田社長御用達だというこの店。青森市街地から西へ向かった郊外にあるアデッソ訪問は、今回が初めてでしたが、アンティパスト2皿・自家製手打ちパスタ料理のプリモピアット、本来は肉料理のところを魚料理にチェンジをお願いしたセコンドピアット、ドルチェ、コーヒー or 紅茶(エキストラチャージでエスプレッソに変更可)からなるCランチ(2,520円)を頂きました。

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【Photo】アデッソのCランチ(2520円)より。陸奥湾のタコ・自家製モルタデッラ・キッシュなどのアンティパストミスト(左上) ミョウガのぺペロンチーノ風味自家製キタッラ(右上) 津軽海峡産マダイのソテー・温野菜添え(左下) イチジクのタルト・ティラミス・キウイのジェラート(右下)

 11時30分から始まるランチタイムの一番乗りを果たした私が通されたのは、手動のパスタマシン「トルキオ」の目の前の席。通行量が多いバイパス沿いではなく旧道の松前海道沿いの町外れにあるにもかかわらず、次々と来店客があり、正午前には満席に。地元の支持が高いことを窺わせますが、不意打ちを狙った(笑)西田社長は残念ながら姿を現しませんでした。

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 「この料理ならまた来てみたい」と思わせてくれるイタリアンと出合えた喜びを増幅させてくれたのが、濃厚なナポリスタイルのエスプレッソ。スプーン2杯の砂糖を加えてカッフェをさっと引っかけ支払いを済ませようと向かったレジ脇にサンプルが置いてあったのが、店の自家製ジェラート。何種類かある中で私がビビッと来たのが、この田酒酒粕ジェラートでした。同じ発酵食品である乳製品と酒粕の相性の良さはすぐに想像がつきました。

【Photo】W氏が推奨する青森市内の某日本酒BARで夢見心地へと誘ってくれた津軽の美酒双璧。今年が豊盃倶楽部最後の蔵出しとなる純米吟醸と田酒 純米吟醸 百四拾

 その前月に出張で青森市を訪れた折には、青森県庁に勤める一方で食道楽の道を驀進するW氏推奨の日本酒BARで「田酒 純米吟醸 百四拾」の上品でふくよかな旨さに悶絶したばかり。この日は青森駅近くの某酒販店で目当ての「豊盃」や「六根」を手に入れましたが、地元とはいえ、田酒については特別純米酒が間もなく出荷されるというそのタイミングでは、高額な贈答用の四合瓶セットがあるだけで手が出ませんでした。

denshu_gelato2.jpg【Photo】カップの蓋を開けると、ほんのり日本酒の芳香が漂う。酒粕だけでなく田酒そのものも少量入っているというものの、アルコール感はゼロ。甘党のみならず左党もまっしぐらな田酒酒粕ジェラート

 仙台でも店によっては田酒の酒粕を置いていますが、ジェラートとの組み合わせは試したことがありません。まして田酒を醸す西田酒造店の地元・油川を訪れて手ぶらで帰ったのでは画竜点睛を欠くというもの。この日は仙台まで車で戻らなければなりませんでしたが、かくなる事態もあろうかと保冷バッグを持参していた上、バラ売りOKとのことで購入を即断しました。

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 容量は120gと食べきりサイズの田酒酒粕ジェラート。スプーンから伝わるシャリ感のある感触は、乳脂肪分少なめのジェラートそのもの。口に含むと、ほのかな日本酒の香りが鼻腔を満たし、それを追いかけるようにしっかりとしたミルキーな風味が幾重にも重なってえも言われぬ幸せな余韻を残します。

 容量の1割を占める酒粕由来の旨味・香りと牛乳のコクのある甘さとが渾然一体となった田酒酒粕ジェラート。これならジェラートの本場イタリアでもOttimo(サイコーッ!!)、Buonissimo(ウマ過ぎ!!)と受けること間違いなし!
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Trattoria Adesso トラットリア・アデッソ
住:青森市油川字大浜1-1
Phone:017-788-0417
E-Mail:info@adesso-k.com
URL:http://www.adesso-k.com/
営: 11:30~14:00(L.O.)  18:00~21:00(L.O.)
定休:日曜日  P有り

お取り寄せはコチラから
http://www.adesso-k.com/SHOP/698287/list.html


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アデッソイタリアン / 油川駅
昼総合点★★★☆☆ 3.5

2012/07/15

禁酒のかめ

霊験あらたか。参詣めされや、酒で悩める善男善女

 後漢書に登場する薬売りに姿を変えた仙人・壺公(ここう)が夜な夜な壺の中に入って楽しんだ「壺中天」のごとき美酒との出合いが続いている庄イタ。久しぶりの地元・庄内ネタでご紹介する世にも稀なる神通力を頼って壺中にある百薬の長を遠ざける気など微塵もありません。

★・.。*†*。.・☆・.。*†*。.・☆★・゜†.゜*。・゜★・.。*†*。.・☆・.。*†*。.・★・.。*†*。.・☆・.。*†*。.・☆★・.。*†*。.・☆・.。*†*。((((゚∀゚о).

kinbou_1.jpg【Photo】金峯神社の表参道となる青龍寺口に建つ「一の鳥居」。険しい山道をひたすら登る滝沢口、湯田川口、高坂口のいずれをとっても修験者には山全体が修行の場であった

 鶴岡の地にあって古来より修験の伝統が息づく金峰山。白河天皇治世下の承暦年間に金峰山と改称する以前は、蓬華峯ないしは八葉山と呼ばれていました。標高458mの頂きに本殿(国指定重要文化財)がある金峯神社の社伝では、修験道の開祖である役小角(えんのおづぬ、後の役行者)が、670年(天智9)に吉野の金峯山と同じ金剛蔵王権現を本尊として開山したとされます。

kinbou_honden.jpg【Photo】中の宮から急峻な山道を進むと、40分で金峰山頂に至る。そこに建つ国指定重要文化財の金峯神社本殿は慶長様式を色濃く残す特徴的な造り。正面に架かる銅製の金峯神社の銘板は、旧庄内藩主酒井家16代当主・伯爵の酒井忠良の揮毫によるもの

 入母屋造りの屋根の下に向唐破風(むこうからはふ)の裳階(もこし)を備えた特徴的な現在の本殿は、1608年(慶長13 )に最上義光の命で建立されたもの。この地を治めた奥州藤原氏、最上家、酒井家の治世下で造営・改修が繰り返されてきました。直近では大正末期に大規模な補修が行われましたが、中腹に建つ金峯山博物館と本殿は2年続きの大雪で損傷を受けたため、浄財提供の呼びかけが行われています。

kinbou_fontana_akai.jpg【Photo】日照りでも枯れることのない「閼伽井(あかい)の清水」。閼伽井とは神仏に供える尊い水のこと。金峰山から湯田川一帯には良い湧水が点在する

 社務所の前に湧き出でる「閼伽井(あかい)の清水」を山登りに備えて汲んだなら、頂きを目指しましょう。来し方を樹間から垣間見る八景台の眺望で一息ついてから先は、かつては女人禁制とされた聖域。中の宮こと如意輪観音堂から、およそ40分を要する山頂の北側斜面に開けた一望台からは、庄内平野の大パノラマを見はるかすことができます。その絶景に登坂の疲れも吹き飛ぶはずです。

kinbou_vista.jpg【Photo】金峰山頂、一望台からの眺望。眼下の湯田川から白山だだちゃ発祥の地・白山、酒造りの町・大山と視線を送る先が、朝日山塊の北の果てとなる高館山。新潟・山北地域からの変化に富んだ険しい岩礁の海岸線は、湯野浜より北側は、砂丘メロンの産地となる白砂青松(実際にはクロマツ)の砂浜。それが鳥海山の伏流水が育む絶品岩ガキの産地・吹浦まで続く(上写真) 水平線からなだらかな稜線を描く単独峰の鳥海山から連なる山塊の東端が月山。その水の恵みが手前に広がる豊饒の大地・庄内を支える(下写真) ※Photoクリックで拡大

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 視界の西方には高館山の先に湯野浜が控え、北に延びる砂丘が形成する海岸線はるか先の洋上には飛島が望めます。島内中村地区の小物忌(おものいみ)神社や鳥海山頂の大物忌神社など5ヵ所で同時にご神火を焚き、互いの場所からの神火の見え方で五穀豊穣や豊漁を占う「火合わせ神事(別名:御浜出(おはまいで)神事)」が毎年7月14日夜に行われます。今年のご託宣はどう出たのでしょうか。豊饒なる恵みをもたらす庄内平野を取り囲むのは、なだらかな稜線を描く鳥海山を北の果てに見て、羽黒山・月山・母狩山・鎧ヶ峰へと連なる山々。

kinbou_nakanomiya.jpg【Photo】天台宗第三世座主、円仁慈覚大師の開基とされる金峯神社中の宮。山頂の本殿へはここから徒歩で向かう

 神社門前の集落、青龍寺(しょうりゅうじ)を抜けると、ご神域との結界となる一の鳥居から先が参道となります。杉の大木に絡まる推定樹齢400 年の大フジ(県指定天然記念物)の先には、神仏分離以降に神社から独立した真言宗の古刹・青龍寺と、粟島・六所・八坂・皇大の4つの小さな社殿が対峙します。中腹にある中の宮までは、およそ2kmの急坂を5分足らずで登る自動車道路が整備されています。

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【Photo】主祭神である事代主神(左)と大国主神(右)が中の宮で出迎えてくれる

 少彦名神・大国主神(大黒様)・事代主神(恵比寿様)・安閑天皇を主祭神とする金峯神社は、良縁成就・稼業繁栄・所願成就といった願いを聞き届けてきました。ここで私が参詣の道筋としてお勧めするのは、趣き深い古来よりの旧参道。巨木が歴史を刻む杉並木のもとに点在する石碑や苔むした墓碑が立ち並ぶこの道を、一体どれほどの数の修験者や善男善女が歩んできたのでしょうか。

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【Photo】推定樹齢400年の杉林の中に多くの石碑・墓碑(下写真)が並ぶ霊気みなぎる金峯神社参道(左写真)。中の宮までは40分の道のり。参道入口に鎮座する「禁酒のかめ」(右写真)
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 その登り口にあるのが、酒にまつわる悩みを抱える人々の信仰を集める「禁酒のかめ」。世にも珍しいご神体は古びた石造りの酒甕と大杯。その高さ1.2m、直径は0.9mほど。うやうやしく注連縄が張られた禁酒のかめは、緑濃い木立ちの中にひっそりと鎮座しています。酒造りは神事と縁が深いだけに、酒封じのご神体は、ほかに例を見ないものです。

 宮司の説明によると、1847年(弘化4)に酒造りに関係する商いを営む人々からなる「猩々講(しょうじょうこう)」が、商売繁盛を願って神社に奉納したもの。渡部庄右門・渡部多吉・小林喜次郎・豊嶋屋幸之助・・・。甕には寄進した善男善女の名が刻まれています。現在の場所には、後世移されたのだといいます。猩々とは酒を好む空想上の生き物で、観世流や宝生流の演目として能舞台にも登場します。

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 幕府直轄の天領である酒造りの町・大山Link to bacnumberを擁する鶴岡だけに、小原庄助のような飲兵衛には事欠かなかったのでしょう(笑)。いつの頃からか、この酒甕と大杯は、本来の意味を離れ、アルコール依存症、酒乱癖といった深刻な酒禍から、飲み過ぎによる怠惰の戒めなど、広く酒にまつわる悩みを抱える人の拠りどころへと変わったのです。

 金峯の神通力にすがるには、まずは災い封じの祈祷を受けます。すると御札と志願成就の御朱印がついた大きな白紙が下賜されます。石作りの大杯を隙間なく覆う大きさの白紙で酒を封印するのです。息が詰まらないよう、紙の中心には小さな穴を開けるのを忘れないのも心優しい金峯の神様。

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 これまでは地元だけでなく遠方からの依頼を含め、毎月数件の祈祷を行っていたそうです。「3年続けて禁酒のかめに願をかければ大酒呑みが直る」と近郊の湯田川温泉で話を聞いたことがあります。3年という長さは、顔を隠した「化け物」が沿道の人々に無言で酒を振舞う奇祭「鶴岡天神祭」で、化け物に扮して人に素性を知られなければ願いが叶うとされる年数と奇しくも同じ。石の上にも3年とは申しますが、なかには数年にわたって祈祷を受け続ける例もあるそうで、よほど深刻な事情がありそうですね。
(⇒3台のワインセラーのストックを絶やさない私の家人だったりして...。)

 震災後は月に1件の禁酒の依頼があるかどうかなのだそう。「こんなところにも不景気の影響が出ているのでしょうか」と宮司は苦笑いするのでした。

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◆各種祈祷の申し込みは―
 金峯神社 社務所
 TELまたはFAXで: 0235-23-7863
 URL:http://www.kinbou.net/moushikomi.htm
 住: 鶴岡市大字青龍寺字金峯1

 禁酒祈祷料:5,000円~

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2012/03/18

ありったけの竹の露 =後篇=

Whole lotta ♥ HAKURO-SUISHU.
「鶴岡食文化女性リポーター」オフ会打ち上げ @手打ちそばしげ庵

shigean_2012.2.jpg【Photo】鶴岡市街中心部から羽黒山方面へと向かう羽黒街道を東進、赤川に架かる羽黒橋を渡り、3つ目の信号が黒瀬交差点。「手打ちそば しげ庵」は、旧藤島町渡前方向に左折し、黒瀬川を背に右手に建つ

 4杯の日本酒カクテルで幕を開けた「大山新酒・酒蔵まつり」Link to Backnumberの日。2つの蔵元で搾りたての新酒を味見した後、純米大吟醸の原酒ばかりを舐めつくした竹の露酒造場で3時から2時間半をかけて仕込み現場をひと通り見学。不肖 庄イタを含め、蔵元の説明を聞いてか聞かずか、恍惚の表情を時おり浮かべて試飲を続ける鶴岡食文化女性リポーターの皆さん。その脇で、ずーっと呑まずにいた女将の相沢こづえさんが運転する車で、すぐ近くにある「手打ちそば しげ庵」に移動しました。
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【Photo】鼠ヶ関の岩ノリ採取体験をしたメンバーからなる鶴岡食文化女性リポーターオフ会は、竹の露酒造場からほど近い「手打ちそば しげ庵」に会場を移し、蔵元の相沢政男・こづえ夫妻を囲んで和やかに第二幕が開けた。さぁー呑むぞっ!と臨戦態勢の女将(奥左から2人目)の脇で甲斐甲斐しくお燗の準備に余念がない蔵元

 羽黒街道は頻繁に通るゆえ、かねてより店の存在は認識していましたが、訪れるのはこの日が初めて。庄内系に突然変異して以来、蕎麦屋とラーメン店ばかりが目立つ山形内陸をスルー、食の都・庄内を訪れると、内陸地域でほとんど食べ尽した蕎麦とはどうしても違う系統に足が向くのですLink to Backnumber。ゆえに濃密な庄内での食遍歴で、蕎麦を食したのは10回にも満たないはず。旧櫛引町時代の「宝谷そば」、鶴岡「大松庵」、酒田生石「大松屋」など、訪れた蕎麦屋は6~7軒がせいぜい。

 「そば街道」と称し、板蕎麦を観光の売り物にしている村山地域と境を接しているため"山形イコール蕎麦どころ"と擦り込まれている仙台では、私が庄内の食事情に明るいと知った方から「庄内で美味しい蕎麦屋はどこ?」とよく訊かれます。海・里・山の美味に溢れた庄内に足を延ばしてまで、元来は山間地などの土地が痩せた地域の食糧であった蕎麦を食するのは、もったいないと思っていました。つい最近までは...。

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【Photo】冬季限定・300本限定醸造の「白露垂珠 無濾過純米 超にごり活性微発泡23BY」(上左写真)口に含むと炭酸ガスの刺激を感じ、タンクの醪(もろみ)をそのまま呑み干す気分(上右写真)

 新潟県境にほど近い旧朝日村大鳥は、1193年(建久4)に伊豆から落ち延びた武将・工藤大学の末裔が暮らす落人の里Link to Backnumber 。その地の出身だという工藤姓のご主人が営む手打ちそば しげ庵。蕎麦&山海のおかずバイキングという画期的なシステムで、食い倒れ寸前になること必定の鶴岡市山王町の旅館山王荘の主人が蕎麦を打つ「野房 そばの木」同様、"もっと早くこの店に来ればよかったのに" と後悔するまで、さして時間を要しませんでした。

shigean2012.2_2.jpg【Photo】蕎麦屋とはいえ、豊かな山海の幸を味わうことができる小鉢が並ぶのは食の都・庄内ならでは。これら地元の直材は、地の米・地の水で醸す白露垂珠の絶好の肴となる

 "こんな四股名の力士がいたっけか?"と、どうでもいい考えが浮かぶ酒造好適米「出羽の里」を精米歩合77%に留めた冬季限定「白露垂珠 無濾過純米 超にごり活性微発泡」で、まずは乾杯。火入れをしておらず酵母が生きており、瓶内でも発酵を続けるために発生する炭酸ガスで、下手をすれば中身を噴出させる憂き目に遭うこの酒。冷温状態でも必ず噴き出る酒、田酒を醸す青森・西田酒造店の地元向け銘柄「外ヶ濱 吟醸生にごり FLOWER SNOW」ほどでないにせよ、取扱いには注意を要します。

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【Photo】うっすらとした澱が漂う「純米吟醸 雪ほのか 無濾過本生 出羽の里初しぼり」は、醪を搾ったままで濾過せずに瓶詰めされる。料理を引き立てるまろやかな味わいは冷やで楽しみたい(右写真) 蔵元が燗をつけた「はくろすいしゅ 純米吟醸無濾過原酒 生詰 亀ノ尾」は、しっかりした香りとうま味が際立ち、食中酒としての実力を遺憾なく発揮(左写真)

 やっと参加できた大山新酒・酒蔵まつりの打ち上げに、F1レースの表彰式ばりにシャンパンシャワーならぬ"超にごり酒シャワー"も悪くないなぁ(*゚゚)ノλ*・'゚'・*、などと思ってみたり(笑)。そんな邪念を抱く若干1名が潜り込んでいることを知るはずもない蔵元は、一滴も噴出させることなく開栓してしまいました。(⇒こんな言い回しは不謹慎極まりない)鼠ヶ関で岩ノリ採取を体験した女性リポーターの皆さんにとっても、岩ノリの板海苔が出来上がったお祝いにもなったのに。・・・うーん、残念!?

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【Photo】一昨年の12月に購入した「白露垂珠 無濾過純米 超にごり活性微発泡 21BY」。うめっけのぅ~。(左写真) 天然マイタケとゼンマイの和え物、蕎麦切りの唐揚げ(右写真)

 精米歩合77%の出羽の里で仕込んだ300本の最後だというこの1本は、にごり酒なれど日本酒度+4という辛口。鶴岡銀座にある酒販店で一昨年12月末に購入したオレンジ色ラベルの白露垂珠 無濾過純米 超にごり活性微発泡21BYが、精米歩合65%で日本酒度+-0だったのとは異なる仕上がりです。ベタつかず綺麗に後味が引いてゆくのはこの蔵らしいところ。きりっと冷えた芳醇なにごりならではのトロリとした旨さが沁みわたります。

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【Photo】香ばしくカラっと揚った天ぷら(左写真)は、しっかりとした旨味を感じる「はくろすいしゅ 純米吟醸原酒 生詰 改良信交」(右写真)とも好相性

 相沢さんが持ち込んだ白露垂珠は合計9種類。「古い酒米から呑んでゆきましょう」という蔵元自ら、燗をつけて下さったのが「はくろすいしゅ 純米吟醸無濾過原酒 生詰 亀ノ尾」。竹の露では、醪(もろみ)を搾ったままの純米吟醸クラスの原酒は平仮名書きで「はくろすいしゅ」、特撰純米などの吟醸以外が漢字の「白露垂珠」。その酒が一番旨いと蔵人が感じるまで加水したのが白ラベル。原酒のラベルは酒米の種類別に色分けされているので、選ぶ際の目安にしやすいかと。

shigean2012.2_9.jpg【Photo】蕎麦がき入り鴨鍋。醤油ベースのつけだれに練り粕ペーストを加えると、より一層のコクが加わる

 燗と冷やの両方で頂いた「白露垂珠 無濾過純米原酒 生詰 京ノ華」とも合った天然物のマイタケやゼンマイの和え物、「ひろっこ」または「きもど」と庄内では呼ばれるアサツキとイカの酢味噌和えなどの小鉢料理も美味しかったのですが、蕎麦がきの入った鴨鍋と燗酒との相性は抜群。ここで相沢さんが取り出したのが、白露垂珠の酒粕をペースト状に加工したオリジナルの練り粕でした。

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【Photo】 藤島川沿いの笹川扇状地の田んぼで蔵元が育てる「京ノ華」は、昭和初期に鶴岡で生まれた酒造好適米。「白露垂珠 無濾過純米原酒 生詰 京ノ華」(左写真) 酒どころゆえ、練り粕を用いた食文化が根付く庄内地方。我が家の常備品、はくろすいしゅ吟醸粕と、この日お土産に頂いた練り粕ペースト(写真右)

 水と米を庄内の生産者から直接調達する我が家では、酒粕食文化が発達した鶴岡に見習えと、山伏豚ロースのブロックハムを漬け込んだり、自家製の鵜渡川原キュウリLink to Backnumber 粕漬けを仕込むため、「はくろすいしゅ吟醸練り粕」を常備しています。この日お土産としても相沢ご夫妻から頂いた練り粕は、はくろすいしゅ吟醸練り粕よりも白色度が高く、より滑らか。タンパク質・各種ビタミン・アミノ酸など、うま味成分と栄養素の塊とも言うべき酒粕を醤油ベースの漬け汁に加えた鴨鍋は、具材から滲みだした風味に更なる深みが加わります。

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【Photo】「白露垂珠 生詰 純米吟醸 美山錦」を‐3℃で2年間氷温貯蔵した「21BY瓶囲ゐ」(右写真)と「23BY寒造り」(左写真)。ふっくらとした味わいの熟成酒と、溌剌とした新酒それぞれに良さがある

 おりがらみ「雪ほのか 純米吟醸 初しぼり 出羽の里」に続いて開けたのは、「はくろすいしゅ 純米吟醸原酒 生詰 改良信交」。生まれ故郷の秋田より、誕生して50年を経た現在では、山形と新潟のごく限られた蔵元が使う酒造好適米「改良信交」で仕込んだ酒です。丈が長いために倒伏しやすく、秋田ではほとんど姿を消していますが、持ち味であるふっくらとした味わいに魅せられた一部の蔵元によって、吟醸クラスの酒に用いられます。「白露垂珠 純米吟醸 生詰 美山錦 瓶囲ゐ」は、‐3℃で氷温貯蔵した平成21年醸造年度の1本。今年搾ったばかりでフレッシュな香りがはじける「寒造り」との対比では、寝かせた日本酒のしみじみとした旨さが冴えわたるのでした。

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【Photo】 芳醇淡麗なこの蔵らしさが極まった綺麗な仕上がりが素晴らしい「はくろすいしゅ純米大吟醸 生詰 出羽燦々」(左写真) 燗上がりする「白露垂珠 生詰 無濾過純米 ミラクル77 出羽の里」(右写真)

 2009年4月、162の蔵元が359銘柄の酒を出品し、ロンドンで開催された「IWCインターナショナルワインチャレンジ」「sake部門」純米吟醸・純米大吟醸のカテゴリーで、最高賞であるGold prizeを受賞した「はくろすいしゅ 純米大吟醸 生詰 出羽燦々」までが登場した頃、トドメの蕎麦が出て来ました。ダシが効いた辛めのタレで頂く二八だという香り高く咽喉ごしの良いこの蕎麦、庄内で食べた蕎麦では間違いなく指折りの旨さ。んめものの宝庫、食の都・庄内で、また行きたい店のバリエーションが広がったのは収穫でした。

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【Photo】 蕎麦はコシのある二八(左写真) デザートのバニラアイスには蕎麦の実が入る(右写真)
 
 蔵元ご夫妻を交え、女子会ならではの和やかな雰囲気のもと、話に花が咲いたオフ会も23時前にはお開きとなりました。雪の降りが一層強くなる中、宿の部屋に入るや、胸一杯になるまで杯を重ねた白露垂珠の心地よい酔いが回り、Whole Lotta Love (邦題:胸いっぱいの愛を) by Led Zeppelin が頭の中を駆け巡り、ほぼ12時間に渡って日本酒を堪能しきった長~い1日を反芻するうちに、やがて意識が混濁し、zzzzzz...。

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手打ちそば しげ庵そば(蕎麦) / 鶴岡)
夜総合点★★★★ 4.0

2012/03/10

ありったけの竹の露 =前篇=

Whole lotta ♥ HAKURO-SUISHU.
「竹の露酒造」再訪 in 「鶴岡食文化女性リポーター」オフ会 潜入レポ

 「鶴岡食文化女性リポーター」オフ会に混ぜてもらうお膳立てをして下さった山菜卸問屋「遠藤商店Link to Website」の遠藤初子さんから、竹の露酒造場に3時集合とのお達しがあり、酒蔵めぐりスタンプラリーを切り上げて大山を立ったのが2時前。

TAKE2012._1.jpg【Photo】2年続きの大雪となった羽黒の冬。搾り作業真っ最中の「竹の露酒造場」で私たちをまず出迎えてくれたのは、この蔵を代表する銘柄「白露垂珠」・「はくろすいしゅ」の数々

 鶴岡食文化女性リポーターは、ユネスコ食文化都市の登録を目指す鶴岡市が、季節ごと多彩な表情を見せる山・海・里をフィールドとするフードツーリズムを創出しようという社会実証実験です。食に関する宝庫・鶴岡の海の幸・山の幸、特色ある在来作物や旬の郷土料理などを単にPRするだけでなく、現場に出向いて生産者や料理人から来歴や背景を聞き出し、その背景の物語を共有しようというもの。市民目線で鶴岡の食文化の魅力をブログやFacebook・Twitterなどソーシャルメディアを通じて発信しています。

TAKE2012.2_2.jpg【Photo】試飲用に用意された「白露垂珠」の大方は、割り水で調整していない新酒鑑評会仕様の純米大吟醸。含んだ酒を吐き出す容器が用意されたのも鑑評会と同様。その容器には目もくれず、真剣な表情で原酒を呑み干してゆくタフなメンバー揃いなのだった

 「Viaggio al Mondo~あるもん探しの旅」のキモである"足もとの地域資源に光を当て、輝きを放たせよう"というコンセプトとの親和性を感じるこの取り組み。事業が始まった2011年度は、藤沢カブの生産者・後藤勝利さんのお姉様であり、映画「よみがえりのレシピ」に登場した田川カブ生産者で田川赤かぶ漬グループ代表の武田彦恵さんを昨年10月に、厳冬期に採取の旬を迎える天然岩ノリの漁場である鼠ヶ関の漁師・佐藤準さんと同地域協議会の五十嵐一彦さんのもとを今年1月に訪れています。

take_hikitsuna.jpg 鼠ヶ関の反省会を兼ねるというこの日のオフ会。乗せて頂いた遠藤さんが運転する大型の商用バンは、「雪の降るまちを」の舞台となった鶴岡市街でリポーターメンバー4名を順次ピックアップしながら、つい10日ほど前にも水を汲みに来た「竹の露酒造場」へと到着しました。ほどなく佐藤・五十嵐のお2人も鼠ヶ関から加わり、オフ会メンバー7名+庄イタで計8名が勢揃いです。

【Photo】屋根の積雪はゆうに1mを超える。雪景の中に佇む竹の露酒造場。合掌部に掛けられた「引縄」は、羽黒山神社で大晦日に行われる「松例祭」の大松明引きで使われた引綱を組み直し、家の魔除けとして奉納される

 1858年(安政5)創業というこの蔵。代表社員の相沢政男・こづえ夫妻の"習うより舐めろ"というご厚意で、清酒鑑評会の出品仕様の加水していない白露垂珠の試飲から。卓上にズラリと並ぶは、鑑評会への出品番号タグが付いただけでラベルレスな純米大吟醸の無加水原酒ばかり6本、通常出荷向け加水調整済み4本からなるヨダレものの計10本の一升瓶。壮観なラインナップを前に、早くもアドレナリンが分泌されてきました(笑)。和らぎ水は仕込み水を瓶詰めで商品化した「月山深層天然波動水」。

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【Photo】明治から大正にかけて庄内の先人が生んだ品種「亀ノ尾」(左)と「京之華」(右)(左写真) 70年前に誕生した「京之華」(左)と心白部の大きさなどの見た目はさして変わらない「出羽の里」(右)(右写真)竹の露では蔵元・蔵人自らコメ作りも行う

 思い思いに試飲を始めた私たちに、相沢さんは庄内で誕生した酒米の説明からまず始めました。

 ササニシキ・コシヒカリ・ひとめぼれ・あきたこまち・つや姫など、近代日本が生んだ優良うるち米のルーツにあたり、酒米として近年価値が見直されている「亀ノ尾」。東北が大冷害に襲われた1893年(明治26年)秋、東田川郡立谷沢村(現庄内町)中村地区の青立ちした早生種「惣兵衛早生」の中で3本だけ黄金色の穂を垂れた稲をもとにLink to Backnumber阿部亀治(1868~1928)が育成した品種です。

dewa_33.jpg【Photo】コンピューター制御による精米技術が進んだ今日では、かつては成しえなかった精米率10%台前半という、コメの心白部を欠損させることなく表層部から9割近くまで削り落とすことも可能になった。竹の露酒造場では、酒米の品質向上をはかることで、7割程度の精米歩合をもって、酒造りに適した特性を持つ心白部だけを残し、頂点を狙える酒造りを行っている。精米前(左)と精米率33%(右)の出羽燦々

 西田川郡京田村(現鶴岡市中野京田)の育種家・工藤吉郎兵衛(1860~1945)は、亀ノ尾の直系品種として生み出した2つの品種「亀白」と「京錦1号」から1924年(大正13)に人工交配した東北初の酒造好適米「酒之華」を創出。翌年には兵庫から取り寄せた「山田錦」の先祖である「新山田穂」と酒之華の交配に着手、1931年(昭和6)に新品種「京之華(竹の露では「京ノ華」と表記)」と命名。1940年(昭和15)には、京之華を1921年(大正10)に秋田県国立農事試験場陸羽(りくう)支場で我が国初の人工交配で育成された「陸羽132号」と交配した酒造好適米「国之華」を生み出します。

take2012.2_5.jpg【Photo】加圧して醪(もろみ)を搾る一般的な方法ではなく、布袋に醪を詰め、竹竿に吊るした袋から自然に滴り落ちる贅沢な造りが雫酒。杜氏が育てた「出羽燦々」を精米率40%まで磨き、仕込みタンクから1升瓶換算で100本~150本程度しか造れない「純米大吟醸 白露垂珠 吊雫原酒 出羽燦々20BY」。低温貯蔵によって適度に練れた旨みが後を引く

 独自に編み出した人工交配技術で、38もの新品種を編み出した吉郎兵衛。そのひとつで戦後の食糧難の時代に多収性から重宝された「日の丸」は、農事試験場の技師で同郷の加藤茂苞(しげもと)を介して入手した一大穀倉地帯の北イタリアから取り寄せた稲との交配により吉郎兵衛が育成した日本初の外国品種との交配種です。この日試飲した6本にも使われ、山形での作付が近年増加している酒造好適米「出羽燦々」を育成した山形県農業試験場のような官主導ではなく、こうした民間育種が盛んだった背景には、「沈潜の風」を尊しとする勤勉な庄内人気質があるように思います。

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【Photo】種籾を選抜してゆく中で、吸水が遅く、35%以上に磨き上げても破砕しにくい理想的な酒造好適米に進化したという自家栽培の出羽燦々。精米率33%の出羽燦々から醸した逸品2種。相沢さん、正直に申し上げます。あまりに旨さが沁みわたるので、3杯ずつ呑み干してしまいました m(_ _)m

 次に蔵元が触れたのは仕込み水のこと。3年前の秋に実施した「食の都・庄内 豊かな実りと癒しのツアー Link to Backnumber」で詳細に触れているのでここでは割愛しますが、このph7.7の弱アルカリ性、硬度19mg/ℓの無菌超軟水は、シリカ(SiO2・微粒二酸化ケイ素)成分を39mg/ℓ 含みます。これは粘土層に上下を挟まれたケイ素からなる石英質の砂礫層から汲み上げているため。美容液で使われる成分だけに、肌の保湿効果や、コラーゲンの再生・維持が期待できるのだといいます。

take2012.2_8.jpg【Photo】上水道の水源が美味しいと評判だった地下水から月山ダムを水源とする塩素消毒した水に切り替わるのを契機に井戸を掘削。地下300mの水晶地層帯で遭遇したのが、この月山水系の伏流水。22℃と水温が高いため、1週間をかけて冷却・濾過するタンク。貯蔵後半になると、タンクの中には、あたかも水が存在しないかのように透明度が増してくる

 水道の蛇口からこの水が出てくるという羨ましい蔵元のお顔は、男性ながらスベスベのもち肌。女将のこづえさんのお肌もぷるんぷるん。"使用後"のお二方の美肌ぶりに、いやがおうでも説得力が高まるというもの。「肌が滑らかになるので手にとって擦り込んでみて」という蔵元の言葉に促された女性メンバーは、歓声を上げながらその効果を実感。呑んでよし、肌磨きに用いてよし。めでたしめでたし。

take2012.2_10.jpg 全国新酒鑑評会で山田錦以外の酒米を使った酒を審査する第1部に於いて、6年連続金賞受賞という記録を打ち立てたこの蔵。精米率33%まで磨き上げた出羽燦々を丹念に仕上げた吟醸麹と卓越した匠の技で仕込んだ鑑評会仕様の白露垂珠が備えた芳醇淡麗な旨さは、もはや必然の成り行きかと。

【Photo】高温過乾燥状態のもとで麹を狙い通りの突破精(つきはぜ)状態に仕上げる杉材で造られた麹室(上写真)。1升分の蒸米が入る柾目の杉製「麹蓋(こうじぶた)」を用い、蔵座敷に泊まりがけで蔵人が二昼夜付ききりの世話をする。コメの表面のみならず内部にも菌糸が多く繁殖し、旺盛な糖化力で低温下にある酒母の発酵を促し、旨味と引き(キレ)が相まった白露垂珠ならではの個性が生まれる
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 説明で興味を引いたのが、精米歩合がわずか77%の白露垂珠。2005年(平成14)に純米酒の精米歩合規定が規制緩和で撤廃されて以降、それまで軽んじられてきた精米率70%に満たない普通酒の一角に、米を磨く割合を2割程度に留めた精米率80%前後の「低精白酒」と呼ばれる清酒が登場しています。酒造りにおいて雑味の元となる米の表層部分を2割程度しか除去しないことを意味する精白率33%(=精米率77%)の「無濾過純米 白露垂珠 ミラクル77 2009BY」は、昨年8月にスローフードジャパンと酒文化研究所の主催で行われた「第3回燗酒コンテスト」に出品した全国158蔵元の254銘柄のうち、720mℓ1,000円以下の部で金賞に輝いた36銘柄のひとつに選ばれました。燗をつけた白露垂珠の実食レポートは次回ご報告。

【Photo】後味がスッキリした辛口ゆえ、食中酒に適した「無濾過純米 白露垂珠 ミラクル77こく辛 出羽の里 2010BY」は、燗映えのする酒。地元の契約農家が、特別栽培で育てた原料米を2割強しか磨かず、白露垂珠でありながら1,800mℓ 2,100円(税込)というリーズナブルさ(上写真)  醪を搾ったばかりの原酒が流れ出る圧搾機を前に、思わずヨダレも流れ出る(下右写真)醸造所内には神棚と魔除けの引縄が奉られ、酒袋を吊る雫酒タンクには注連縄も(下左写真)

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 仕込み水を濾過して適温に下げる6基の貯蔵タンクと酒米を蒸し上げる大型ベルト式横型連続蒸米機について説明を受けた後、2階にある麹室と蔵人が仕込中に寝食を共にする蔵座敷を見学。階下に戻って蛇腹状のろ過布に醪(もろみ)を送り込んで清酒を圧搾する圧搾機では、瑞々しい新酒が搾られるさまに一同目が釘付けに。

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【Photo】羽黒山神社に奉納する御神酒は、古式に倣って醪に焼酎を加える「柱造り」。出羽三山の神々に柏手を打ってから、発酵中の酒母をすくい上げる相沢政男さん(左写真)発酵が進行中のため、ピリっとした炭酸ガスの刺激が醪の香りを際立たせる(右写真)

 蔵見学の最後は、酒母(もと)が入った発酵タンクへと移動です。そこには1基だけ注連縄を張られたタンクがありました。それは羽黒山神社から発注を受けたお神酒を仕込むタンクなのでした。一同柏手を打った上で、蔵元がタンクからすくい上げた酵母の作用で発酵中の醪を味わうという、山伏見習いとしては願ってもない幸運に恵まれました。

take2012.2_15.jpg【Photo】蔵元が汲み上げた御神酒に群がる女性リポーターの皆さん

 コメ作りから蔵人が行う「地の酒」にこだわる酒造りの現場を見学した仕上げは、竹の露フルコース食事会場へと移動です。4杯のカクテルから始まったこの日、最終的に何種類の酒を味わったのか記憶が定かではありませんが(笑)、失速せずラストスパートをかけてゆきます。


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2012/02/25

大山新酒・酒蔵まつり part.2

これぞハシゴ酒の醍醐味!! 酒蔵めぐりスタンプラリー

大山新酒・酒蔵まつり part.1 日本酒カクテルのパラダイス@鶴岡市大山コミセン続き

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【Photo】4つの蔵元と「漬物処 本長」、休憩所「どまんなか商店街」、野鳥観察会を実施する「おうら愛鳥館」のうち4カ所以上を回るとハズレなしの抽選会に参加できる

 まだ昼前だというのに4杯のカクテルを頂き、着物女子の皆さんのお話を伺っているうち、時刻は正午になろうとしていました。この催しの存在を知ってから足かけ9年、12時から始まるという酒蔵巡りに満を持して出発です。

mappa_oyama.jpg【Photo】大山新酒・酒蔵まつり実行委が用意するこのマップ(クリックで拡大)を手に酒蔵めぐりへと繰り出す

 天領地として独自の気風が育まれた大山にある4つの酒蔵のうち、酒造りの歴史に関する資料を網羅した出羽ノ雪酒造資料館を併設する渡會本店(出羽ノ雪)は4年前に訪れたことがあります。新酒が仕上がる日本海寒鱈まつり〈2008.1拙稿「寒中に寒鱈で乾杯 庄内の美味を堪能する会《前編》」参照〉の時季限定で出回る生原酒「和田来 純米吟醸 美山錦」を気に入ったのがきっかけでした。昔の酒造りで使われた道具や資料類を見学した後は、利き酒コーナーで故事に倣った「壺中之天」と「祇王祇女」という純米大吟醸2本を買い求めたのでした。

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 今回も発売してすぐに売り切れたという500円のスタンプラリー前売券は、100枚だけが当日券として1,000円で売り出されます。そのプレミアチケットまでご用意いただいた上は、4ヵ所以上回れば参加できるという大抽選会にも挑戦したかったのですが、この日は15時までに鶴岡市羽黒町へと移動、竹の露酒造場での「鶴岡食文化女性リポーター」オフ会に混ぜて頂くことになっていたのです。

【Photo】13代当主・加藤有慶社長(写真右)が出迎えに立つ冨士酒造は安永年間の創業。今年で234年目の歴史を刻む現在の蔵は築108年。雪で厚化粧をした落ち着いた大山の町並みにしっとりと溶け込む
 
 いかに徒歩圏にあるとはいえ、4つの蔵全てを2時間あまりで制覇するのは難しそう。ここはまだ訪れたことのない蔵元から回るのが得策です。そこで向かった先は、栄光冨士の銘柄で知られる「冨士酒造」。新酒が仕上がったばかりであることを示す青々とした酒林が軒に掲げられた趣ある蔵には、既に100人ほどが列をなしていました。

 この日の鶴岡は、時折日差しがのぞくものの、正午でも気温は氷点下2℃。アペリティフのカクテル4杯でちょっぴり温まっていても、行列している間に底冷えがしてきました。1778年(安永7)創業の冨士酒造。創業者の加藤専之助有恒は、虎退治で知られる肥後(熊本)の武将・加藤清正の嫡男・加藤忠廣が改易で現在の鶴岡市丸岡に流され、そこでもうけた一男一女の女子の血筋だといいます。

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【Photo】3代前となる冨三郎の時代であった昭和初期の額(左) 昭和30年代に「栄光冨士」と酒銘を変更する前は「冨士」と名乗っていた歴代の銘柄をあしらった銀屏風(右)

 1904年(明治37)に10代目冨三郎が建てたという現在の蔵。入口では13代目当主・加藤有慶氏にお出迎え頂きました。冨三郎が1928年(昭和3)の昭和天皇即位の礼で用命を受け、全国清酒鑑評会で優等賞を受領した折の額や、加藤清正公の家紋「桔梗」と「蛇の目」が染め抜かれた暖簾、代々の銘柄を散りばめた銀屏風など、由緒正しきこの蔵の歴史を物語る品々が目を引きます。

 奥行きある蔵をゾロゾロと列をなして進みながら、蔵人が注いでくれる酒を小さなプラスチック製のお猪口で試飲してゆきます。後方から次々と行列が進んでくるので、1ヵ所に留まって2杯目をお願いするのは、よほど強心臓の持ち主か、すっかり出来上がったヨッパライでなければ無理でしょう(笑)。なかにはマイお猪口を持参する常連と思しき人たちも。な~るほど、この手があった。ヨシ、次回はマイ1合枡を持参、ダメもとで蔵人に差し出してみよう...。

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【Photo】純米吟醸「心鍵」は辛口のすっきりした淡麗タイプ(上左) 大吟醸「古酒屋のひとりよがり」はこの蔵の看板銘柄。庄内砂丘名産のマスクメロンのような芳醇な香りと豊かな味わいの逸品。「お代わり下さい」の一言が言いだせない小心者の庄イタなのだった(上右)
「しぼりたて仙龍」はこの時期限定のフレッシュでいきいきとした生酒(下)

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 華やかな吟醸香と深くまろやかな旨味に魅了される「大吟醸 古酒屋のひとりよがり」までも試飲でき、上々のスタートを切った酒蔵巡り。新酒瓶詰め体験コーナーで販売していた、この季節限定の本醸造しぼりたて「仙龍」1本だけを買い求めました。お気に入りの酒を箱買いする人たちも少なからず見受けましたが、蔵巡りの出だしから欲を出しては、この先荷が重くなります。

kahachiro1.jpg【Photo】午後1時を過ぎた頃、2軒目で訪れた蔵元が大山で現存する4つの蔵元では新参ながら最も石高が多い「大山」銘柄の「加藤嘉八郎酒造」。その前にも長ーーーーーい行列

 とはいうものの時刻は間もなく13時。1時間ちょっとで鶴岡駅前まで戻らねばならない身としては、それから行けるにしてもせいぜい1軒。

 冨士酒造から一番近くにあり、その親戚筋にあたる初代・加藤有元が1872年(明治5)に創業以来、「大山」銘柄の酒を醸す「加藤嘉八郎酒造」が次の訪問先で決まりです。

kahachiro2.jpg【Photo】新酒の旬ならではの青々とした酒林と注連縄が架かる加藤嘉八郎酒造の正面入口

 4代目の加藤有造氏が当主を務める加藤嘉八郎酒造。温度管理などモロミの状態を自動制御で櫂入れを行う「OS式タンク」と、麹菌を理想的な環境で培養できる「OKS自動製麹装置」を1970年代に自社で開発。杜氏や蔵人の熟練の技を活かすべきところは活かしつつ、伝統を踏まえつつ進取の気質のでより高い品質を目指すこの蔵の姿勢は、当時の酒造業界では異端児と評されたこともあったそうです。たゆまぬ工夫と努力の甲斐あって、全国清酒鑑評会で立て続けに金賞を獲得しているこの蔵の実力は確かなもの。

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 加藤嘉八郎酒造に並ぶ列の最後尾につくと、見覚えのある横顔がすぐ前に。声をかけると鶴岡在住で私の呑み友達であるTさんでした。フードアナリスト仲間と、ご自身の郷里・仙台のご友人ら数名を酒蔵めぐりに案内しており、ここが2軒目なのだとか。酒蔵めぐりに参加することはFacebookを通じて知っていましたが、延べ3,000人以上が繰り出すこの催しで出くわす奇遇に驚きつつも、類は友を呼ぶといいます。こうして出会うのも必然なのかも...(笑)。

【Photo】揃いのタグゆえパックツアー客と思いきや「日本酒 命」??

 「ご一緒しませんか」と、お誘い頂いたのですが、ほんの一瞬だけ逡巡しました。何故なら、その御一行様は"日本酒 命"という揃いのお手製タグを付けており、行列の中でも異彩を放っていたのです ( ̄▽ ̄;)。それでもあまりに日本酒命チームが楽しそうなので、心の動揺を悟られてはならずと間髪をおかずに笑顔でお仲間に加えて頂きました。

 蔵に入ると、すぐにホッカホカの湯豆腐の振る舞いがありました。ダシのコクが効いて美味しいなぁ、と感心していると、奥の方で鰹節を削って使っているのが見えました。ちょうど小腹が空いてきたところに嬉しいサービスであるばかりでなく、こうしたところも手を抜かないこの蔵の姿勢が垣間見え、一気に好感度アップです。

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【Photo】注文を受けると、写真奥に見える充填機で新酒を瓶詰めし、客の目の前でラベルを貼る本醸造無ろ過生原酒「大山槽前」(写真左) 唯一の欠点は非売品であることぐらい。湯煎された大山の甘酒は、酒米の旨さが凝縮した左党にとっても堪らない美味しさ(写真右)

 その日の朝に醪(もろみ)を槽(ふね)で搾ったばかりだという本醸造無ろ過生原酒「大山槽前(ふなまえ)」は、キレのある鮮烈な味わいが印象的。先ほど試飲した栄光冨士の搾りたてよりも辛口なのはこの蔵らしいところ。ともにアルコール度数が18~19%と高め。すぐに気持ち良くなれそうなので(笑)、こちらも購入しました。

kihachiro7.jpg【Photo】酒造りの最後の工程で、もろみを圧搾して清酒を搾ったた後の副産物・板粕は、タンパク質・ペプチド・各種アミノ酸・ビタミンB群などの栄養素の宝庫。もはやカス呼ばわりは出来なくなる酒粕を熱した焼粕のサービスコーナー

 試飲コーナーの先では板粕を電気コンロとホットプレートで焼き目をつけた焼粕と、この日に合わせて仕上げたという甘酒が振舞われていました。湯煎して燗をつけた温かい甘酒は、麹と米だけで醸し出される上質な甘さと香りに満たされヤミツキになりそう。なれどこの甘酒は非売品。かくなる上は、さきほどの冨士酒造で、古酒屋のひとりよがりを注いでくれた蔵人に対して言えなかった一言を発するしかありません。

 「あんまり美味しいので、すみません、もう一杯下さい!

 笑顔で応えていただいた2杯目の甘酒を満喫したところでタイムアップ。「鶴岡食文化女性リポーター」オフ会に潜り込ませてもらう羽黒町「竹の露酒造場」へと移動する時間となりました。3軒目の蔵めぐりへと勇んで出発したツワモノ揃いのチーム日本酒命とはここでお別れです。

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 9年越しの念願叶って参加できた大山新酒・酒蔵まつり。訪れた2つの蔵元で、それぞれ搾りたて新酒(上写真)を入手することができました。しかし、大山最古の1592年(文禄元年)創業「羽根田酒造(羽前白梅)」と前述の「渡會本店(出羽ノ雪)」の訪問は断念し、スタンプラリーを途中離脱。ゆえに"めでたさも中ぐらいなり おらが冬"、といった小林一茶の諦念と、"I shall return" というダグラス・マッカーサーの再びここに戻って来るぜィ!!という再訪を誓う熱い思いを大山に残して来たのでした。

To be continued.


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2012/02/19

大山新酒・酒蔵まつり part.1

日本酒カクテルのパラダイス
    @鶴岡市大山コミュニティセンター

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 最上・村山・置賜・庄内の山形4地域をくまなく回る中で、人と風土の奥深い魅力に惹かれたのが庄内地方であったことは、これまで幾度となく触れてきました。足かけ9年の間、心惹かれながらも都合がつかず参加せずにいた催しが、寒造りで搾ったばかりの新酒を蔵元で味わえる「大山新酒・酒蔵まつり」です。

 酒造りに欠かせない良質のコメと水に恵まれた庄内地方にあって、鶴岡市大山地区は、450年以上もの長い酒造りの歴史を刻んできました。藩制時代は天領として幕府直轄のもとに置かれた大山。

 最盛期の明治時代には40軒以上の造り酒屋が軒を連ねていたといいます。

honcho_oyama2.JPG【Photo】歴史を感じさせる大山の佇まい。酒林を掲げる栄光冨士醸造元の「冨士酒造」(上写真) 酒粕を使った粕漬が数多いのは大山ならでは。漬物どころ「本長」(右写真)

 朝日連峰の北西端に位置する高館山を背景とする大山は、戦国時代、この一帯を支配した武藤氏が大宝寺から居城を移して発展。羽州浜街道の宿場として、また航海の安全や大漁を願う全国の漁師が信仰する龍神を祀る善宝寺の門前としての機能を大山は担うことになります。由良や酒田の港から北前船で上方へと送られた統一呼称「大山酒」は、あまねく知られるところとなり、灘・伏見に次ぐ酒どころとしての名声を築きました。

 太古に噴火を繰り返した海底火山の火山灰が幾重にも堆積した凝灰質の頁岩(けつがん)層を形成後、隆起したのが大山周辺から金峰山にかけての土壌となります。頁岩が長い時間をかけて変性して赤土となり、その地層で磨かれた朝日水系の伏流水は、上質な酒造りに適した弱アルカリ性。大山地区には1592年(文禄元年)創業の羽根田酒造など4つの蔵元があり、それぞれに培われた伝統の技で酒造りを行っています。

benvenuti_a_oyama.jpg【Photo】鶴岡市街地からR112加茂街道を人面魚でも知られる善宝寺、展示数世界一のクラゲで知られる加茂水族館方向に向かい、山形自動車道の高架を抜けた先の二叉路には、庄内弁で歓迎の意を表する看板が立つ。沿岸部の庄内は、内陸と比べてあまり積雪が多くないのが普通だが、2年続きで積雪量が多い冬となった今年は、その看板もほとんど埋もれそう

 徒歩圏内に4つの蔵元があるというのも大山の魅力。まろやかで芳醇な旨味に魅了される綿屋を醸す「金の井酒造」のすぐ近くにある宮城県栗原市一迫の「金龍蔵」、趣ある木造の雪よけアーケード「こみせ」で繋がった青森県黒石市の「中村亀吉(玉垂)」と「鳴海酒造店(菊乃井)」とを除き、1661年(寛文元年)創業と宮城最古の歴史を刻む「内ヶ崎酒造店」にしろ、石高が多い「一ノ蔵」と「佐浦(浦霞)」にしろ、庄内では「東北銘醸(初孫)」や「竹の露酒造」、「鯉川酒造」にしても、これまで東北各地で見学した蔵元は、徒歩で移動できるような近くには他の酒蔵がないことが普通です。

comucen_oyama.jpg【Photo】建国を祝う休日とはいえ、この日ばかりは寝坊厳禁。午前10時から午後1時まで日本酒カクテルのパーティ会場となった大山コミュニティセンター。スクリーンにジャズ演奏の映像が流れ、レーザー光線の照明が美しい彩りのグラスを照らし出す。事前に完売した300枚限定のチケットで日本酒ベースのオリジナルカクテル4種を楽しめた

 酒蔵巡りをしながら、伝統ある酒造りの現場で仕上がったばかりの新酒が蔵人から振舞われるという呑兵衛にはたまらない趣向の大山新酒・酒蔵まつり。今年で17回目を迎えるこの催しには、地元のみならず全国各地から日本酒ファンが訪れます。そのため、近年では事前に発売される各種チケットは、すぐに完売してしまうほど。昨年12月12日に発売が始まった今回の前売チケットも、年末の忙しさにかまけているうち、すぐに売り切れたとの情報にため息をついていたのでした。

coktail2_oyama.jpg【Photo】大山にある4つの酒蔵が色違いの法被姿で酒造りの町をアピール。目の前でシェーカーを振るバーテンダーの鮮やかな手さばきも雰囲気を盛り上げる

 ところが捨てる神あれば拾う神あり。大山在住だという実行委員の方と今月上旬に知り合う機会があり、ぜひ足を運んでほしいとお誘いを受けたのです。これは昨年秋に山伏修行で滝に打たれた功徳、月山大権現のお導きに違いないと勝手に解釈(笑)。今年の開催日となった建国記念日の2月11日(土)、冷え込みは厳しいものの、運だけでなく懸念した天候にも恵まれて月山越えも難なくクリア、例年になく積雪が多い鶴岡ゆえ、長靴に履き換えてJR羽越線に乗り、勇んで大山へと乗り込みました。

 JR羽越本線の羽前大山駅は、普段は乗降客が多くはない駅ですが、大山新酒・酒蔵まつりが行われる日は特急いなほが臨時停車するのです。まず目指すは午前10時から先陣を切って催しが始まる大山コミュニティセンター。11時をまわって到着した会場の大ホールは照明が落とされ、ジャズ演奏の映像が流れていました。そこは日差しが射すものの肌寒い外とは打って変わった夜の大人の雰囲気。そこでは前売りの300枚がすぐ完売したというチケット(500円)でカクテル4種が楽しめました。

coktail_oyama.jpg【Photo】昨年に続き、日本バーテンダー協会庄内支部に所属するバーテンダーたちが、大山の日本酒をベースにした新作カクテルを考案した。こちらはシェーカーに大山30mℓ+リンゴのリキュール・アップルバレル15mℓ+りんごジュース同量+ティースプーン1杯のレモンジュースを加え、グラスの縁をグラニュー糖で飾った創作カクテル「雪月華(下写真右側)

 昨年の新酒・酒蔵まつりから、日本バーテンダー協会庄内支部の協力のもと、鶴岡市内のバーテンダーたちが、大山で仕込まれた酒をベースにしたオリジナルカクテルを披露しています。「冨士酒造(栄光冨士)」・「加藤嘉八郎酒造(大山)」・「渡會本店(出羽ノ雪)」・「羽根田酒造(羽前白梅)」それぞれの個性や持ち味を残しつつ、果物や植物などのリキュール類をブレンドした色とりどりの新作オリジナルカクテルが並んでいました。

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【Photo】「宵ノハナ」...出羽ノ雪30mℓ+巨峰リキュール15mℓ+スミレのリキュール・パルフェタムール5mℓ+レモンジュース10mℓ(上写真左側) 「フリージア」...栄光冨士20mℓ+リンドウの根から作るリキュール・スーズ10mℓ+オレンジジュース30mℓ+ティースプーン1杯のレモンジュース(下写真左側) 「なでしこ」...羽前白梅25mℓ+桃のリキュール・ピーチツリー15mℓ+クランベリージュース20mℓ+ティースプーン1杯のレモンジュース(下写真右側)

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 造り手の持ち味を生かしながら、日本酒の新たな楽しみ方を提案しようという2年目の創作カクテルは、大山「雪月華」、出羽ノ雪(渡會本店)「宵ノハナ」、羽前白梅(羽田酒造)「なでしこ」、栄光冨士(加藤嘉八郎酒造)「フリージア」という名前が付けられていました。これらのカクテルは、協会庄内支部加盟の各お店で提供するほか、お気に入りのカクテルは自宅でも楽しめるようにと、レシピが公開されていました。

 ほんのりとしたお酒の甘い香りが漂う会場には、地元選出の大物代議士も顔をのぞかせていましたが、何といっても女性の姿が目立ちました。その中でも目を引いたのが、「庄内着物女子〈Link to Website〉」の皆さん。鶴岡の奥座敷・湯田川温泉「甚内旅館」の大塚せつ子女将を中心に、京文化の影響を受けた庄内の伝統に根ざした和装の楽しみ・魅力を共有しようという女性たちで組織されます。踏み固められた雪で足元が滑りやすいこの日も、メンバー5人が綺麗な色合いのカクテルのようにあでやかな着物姿を披露、会場を一層華やいだものにしていました。

donnakimono_oyama.jpg【Photo】カクテルパーティー会場でお会いした庄内着物女子の皆さん。さまざまな催しに着物姿で出かけてゆくというアクティブかつしなやかな女性たちです。湯田川梅林公園で開催される「梅まつり」や、商家・武家の往時の繁栄ぶりが偲ばれる江戸・明治期の時代雛が華を競う「庄内ひな街道」でも、場にふさわしい着物姿をみせてくれるとのこと。左から佐竹 優子さん、小野寺 博美さん、諏訪部 夕子さん、佐藤 裕子さん、齋藤 三代さん

 会場に流れるジャズも上の空、いささか季節はずれな矢沢栄吉の名曲「時間よ止まれ」が頭の中で流れ始めた大山コミセンでの美酒と美女に囲まれた美味しい時間。名残惜しくはありますが、各蔵元を回りながら搾りたての新酒を楽しむ酒蔵スタンプラリーに出発する時刻となりました。

 呑み友達との予期せぬ接近遭遇のハプニングもあった酒蔵巡りについては次回part.2で。その日ダブルヘッダーで庄イタが潜入した「鶴岡食文化女性リポーター」オフ会となる女子会になだれ込んだ長ーく濃ゆ~い一日の模様はpart.3で!!

To be continued.

大山新酒・酒蔵まつりについては―
  鶴岡市観光連盟サイト
 http://www.tsuruokakanko.com/season/fuyu/sake.html
 または 鶴岡冬まつり実行委事務局(鶴岡市観光物産課)TEL0235-25-2111へ

◆ ご紹介したカクテルが楽しめる店は以下の8店
 ・ラウンジ志津  鶴岡市本町1-7-18 Phone:0235-24-8246
 ・vitto dining  鶴岡市本町1-8-20 Phone:0235-22-7758
 ・Rock Bar OVER DRIVE  鶴岡市本町1-8-16 Phone0235-25-1607
 ・BAR COCOLO  鶴岡市本町1-8-41 Phone:0235-22-3374
 ・High noon  鶴岡市末広町15-19 Phone:0235-25-0081
 ・華包  鶴岡市東原町24-2 Phone:0235-26-2433
 ・BAR ChiC  鶴岡市本町1-8-44 Phone:0235-22-4958
 ・lounge bar BRUT  鶴岡市昭和町12-61昭和ビル2F Phone:0235-24-8389


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2009/11/03

酔って候

食の都・庄内 豊かな実りと癒しのツアー 第2幕
 @竹の露酒造場 月山伏流仕込水

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【photo】蔵の敷地奥や孟宗筍の産地である高寺地区一帯まで広がる竹林が蔵名の由来となった竹の露酒造場

 稲刈りを終えた田んぼに囲まれた鶴岡市羽黒町猪俣新田にある「竹の露酒造場」【Link to Website 】では、代表社員の相沢 政男さんにお出迎え頂きました。蔵の敷地に最近整備された水飲み場には、地下300mから汲み上げている仕込み水が引かれています。月山山系のブナ原生林が水源となり、世界的にも珍しい火山性の石英質砂礫地層を通ったこの伏流水は、温泉法の定める25℃未満ギリギリの22-23℃と水温が高いのだそう。そういえば蔵から500mほどの距離に日帰り入浴施設「やまぶし温泉ゆぽか」があります。クリスタル地層でろ過された弱アルカリ性ph7.7、硬度19mg / ℓの超軟水は、一旦6基の貯水タンクで冷却ろ過した上で仕込みに使用しているそうです。

aizawa_kuramoto.jpgshikomimizu_takenotsuyu.jpg【photo】
ご案内頂いた竹の露酒造場 代表社員の相沢 政男さん(左写真) 蔵敷地内に湧く無菌超軟水の仕込み水。蔵元の話に耳を傾けながらもそのまろやかな味を確かめる参加者(右写真)

 蔵の中に取水口がついた導水管があり、声を掛けてから水を汲ませて頂く機会が多い竹の露酒造場の仕込み水は、湯田川の岩清水と並んで、鶴岡近辺では私が好きな湧水のひとつです。味の透明感が高く甘く柔らかなその水は、吟醸クラスではない例えば「特撰純米酒 白露垂珠」がそうであるように、精米歩合55%まで磨いた地元羽黒の米「出羽の里」と出合って酒として醸されると、より一層柔らかさが増すから不思議。sakamai_takenotsuyu.jpg口腔に広がる透明感のある柔らかな香り高い酒は、スッと綺麗に咽喉へと吸い込まれてゆきます。その元となる弱アルカリ性で健康増進と美肌効果も期待できるという水を皆さん美味しそうに味わっておいででした。

【photo】蔵には竹の露の酒造りで使用される地元の酒米が展示される

 民間育種が盛んであった庄内地方では、記録が残っているだけでこれまでに60人以上の育種家によって160種ものコメ品種が生まれています。一地域でこれほど多くの新品種を民間人が育種した例は他になく、研究熱心で進取の気風に富んだ庄内の一面を物語ります。その代表格が、近代日本が生んだ優良食用米の祖にあたり、近年では酒米として復活している「亀ノ尾」を創選した阿部 亀治の存在です。食する物の背景を知るのが目的である今回のツアーでは、竹の露で試飲用に亀ノ尾の酒をご用意頂き、亀ノ尾の原種となった3本の稲穂が発見された羽黒山の東、庄内町立谷沢の熊谷神社を二日目に訪れることになっていました。

daiginjyo_hakurosuishu.jpg【photo】IWCインターナショナルワインチャレンジ2009で金賞を受賞した「純米大吟醸 はくろすいしゅ」

 1858年(安政5)創業の歴史ある蔵では、自家栽培する亀ノ尾・京ノ華・改良信交・出羽燦々・出羽の里・美山錦の酒造好適米6種を始め、全て地元羽黒の米を使用した「地の酒」造りを行っています。同じ酒米でも作り手によって最適な水の浸漬が異なるため、仕込みはそれぞれ専用のタンクで行う徹底ぶりが、山田錦以外の酒米で競われる全国新酒鑑評会第一部で6年連続金賞受賞という輝かしい結果を生んでいます。今年の4月に162蔵元が359銘柄の酒を出品してロンドンで開催された「IWCインターナショナルワインチャレンジ2009」の

degstazion_takenotsuyu.jpg「sake部門」純米吟醸・純米大吟醸のカテゴリーで、最高賞のGold prize 金賞 全8銘柄のひとつに竹の露酒造「純米大吟醸 はくろすいしゅ」が選ばれました。精米歩合を40%まで高めた酒米の出羽燦々を蔵のお膝元で栽培したのは羽黒杜氏の本木 勝美氏。地の米・地の水が、地の技によって比類なき味わいを生み出します。

【photo】「こりゃ美味いわ」、「こっちは飲み口が柔らかいぞ」と熱気渦巻く試飲タイム

 待ちかねた試飲には、IWC金賞受賞酒の「出羽燦々 純米大吟醸 はくろすいしゅ」・「同 大吟醸 白露垂珠」・地元限定の「亀ノ尾 氷温三年熟成 純米吟醸 かすか」・「同 純米吟醸はくろすいしゅ」・県が独自に定めた基準に基づき、歴史風土を反映した優れた製品に与えられる戦略ブランド「山形セレクション」選定酒「出羽の里 純米吟醸 はくろすいしゅ」・現在では山形だけで栽培される酒米「改良信交 純米吟醸 はくろすいしゅ」・栽培地としては最北の「鶴岡山田錦 純米吟醸 はくろすいしゅ」・大正期に庄内で育種された「京の華 無濾過純米 白露垂珠」・出羽燦々の祖先に当たる「美山錦 純米吟醸 白露垂珠」の9種類の酒が用意されました。酸の立ち方や含み香などに酒米ごとの個性が表現されますが、いずれもこの蔵の特徴である芳醇端麗なキレの良さを持ち合わせているのが印象的でした。

tutti_takenotsuyu.jpg【photo】
食WEB研究所のフードライターとしても活躍中の女性利酒師、早坂久美さんもツアーに参加。地元以外では入手困難な「亀ノ尾 氷温三年熟成 純米吟醸 かすか」など、この日試飲した全アイテムを前にご満悦

 正直に白状すると、いつものように自分が運転する立場ではないのをいいことに、もはや試飲の域を超えてしまったワタクシ。居並ぶ美酒を前にしてほとんど仕事を忘れそうになる自分を葛藤の末にやっとの思いで引き戻し、再びラッシャー木村ばりのマイクパフォーマンス(?)を繰り広げながら向かったのは旧藤島町(現鶴岡市)が循環型農業の実践などを通して実現を目指すエコタウン構想の旗振り役であった相馬 一廣さんがおいでの「月山パイロットファーム」です。

 その夜、太田 政宏グランシェフ自ら解説付きでフランス風郷土料理の神髄を魅せて頂いた「レストラン欅」と、オプショナルツアーで訪れた"生ける伝説のバーテンダー"井山 計一さんの店「喫茶・バー ケルン」での一部始終はまた次回。

食の都・庄内 豊かな実りと癒しのバスツアー 第3幕 美味な名匠三重奏 に続く
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2008/08/24

涼やかな夏の酒あれこれ

2008年、夏に出合った酒コレクション

 伝統の竹飾りに街が彩られる仙台七夕まつり期間中を除いて、いまひとつ天気がハッキリしなかった今年。8月の仙台の日照量は平年比で4割以下しかなかったそうですが、皆さんいかがお過ごしでしたか? 空を灰色の雲に覆われた冷夏がお好きだという、前世がシロクマだったのかもしれない北方系の方にとっては、涼しい仙台の夏はパラダイスかもしれません。かたや根っからラテン系で、前世はイタリア人だった私にとっては欠くことができない真夏のジリジリと肌を焦がす♪ O sole mio(≒私の太陽)が一向に顔を見せない今年、小麦価格の高騰でパスタは値上がりするわ、ユーロ高でヴィーノも高値安定だわ、燃費がさして良くない我がイタ車が消費するガソリンの価格は高騰するわという四重苦で、不快指数は上昇する一方。なのに相も変わらず涼しい顔のフクダさん、お願いしますよっ!\(`o´") ええぃ、こうなりゃヤケ酒だっ!! ・・・と、いうことで、ストック済みのヴィーノと地産地消な日本酒に触手を伸ばした今年の夏。爽やかな夏向きのお酒をサラっとレポートします。

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【photo】小ぶりなブルーのボトルが涼しげな「氷清 田酒」

 まずは、青森の銘酒「田酒」で知られる西田酒造店が「ロックで飲(や)る」のキャッチフレーズのもと、2004年から夏季限定で出している「氷清 田酒」から。オン・ザ・ロックで日本酒を飲むという新たなスタイルに挑戦した同社の西田 司社長の思いは、のちに岩手「南部美人」、秋田「白瀑(しらたき)」、山形「出羽桜」や「鳩正宗」といった賛同者を得ました。現在では各蔵元が「氷清」ブランドの小ぶりなブルーのボトルに入った酒を出しています。その第一号となる氷清 田酒は出張のおりに立ち寄った宮城県北のとある酒販店で発見しました。そこは、今年の春先には人気の「綿屋」や「伯楽星」に混じって、田酒が冬季限定で少量のみ醸すレア物「びん燗 田酒」も置いていた小さいながら侮れない店です。田酒マニアによってあっという間に蒸発してしまっても困るため、申し訳ありませんがここでは入手した店の名は伏せさせて頂きますm(-_-)m

 青森産の酒造好適米「華吹雪」を精米歩合55%まで磨いたこの特別純米原酒は、アルコール度数がおよそ18.5%。冷でもイケますが、やはりここは小ぶりなグラスに氷を浮かべて芳醇な味わいをチビチビと楽しみたいところ。通常より高めのアルコール度数が、氷が溶け出すと、いい塩梅になるという仕掛けです。田酒らしいコメの旨みをしっかりと感じさせる飲み応えのあるこの酒、180ml入りというサイズのため、水で薄まる前に飲み切ってしまいました。加水していない純米原酒に浮かべるのがフツーの水道水から作った氷じゃ、杜氏に失礼ですよね。浮かべる氷の元が田酒の仕込み水!! ならば理想的ですが、仕込み水だけを目的とする青森出撃は、ガソリン高騰の折、キビシイため断念。代わりに使ったのは、先日塩引き鮭を買いに行った新潟村上の喜っ川で汲ませて頂いた井戸水でした。先々代までは造り酒屋だったという喜っ川では、かつて仕込み用に使われたこの水を甕(かめ)で冷やして来店客に出しています。

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【photo】今年デビューした発泡清酒の中から、涼夏(すずか・手前)と出泡羽酒(しゅっぽうしゅ・

 お次は地域資源(=「あるもん」のコトですね)を活かした新規事業を支援しようという経済産業省の平成19年度地域資源活用型研究開発事業に採択されて誕生したお酒をば。(財)山形県産業技術振興機構が取り組む「山形県産酒造米『出羽の里』を用いたコクのある発泡清酒の開発」事業には、山形県下9つの蔵元が名乗りを上げました。耐圧式の冷却機能がついたサーマルタンクで二次発酵させ、スパークリングワインのような果実味と透明感を両立させた新たな日本酒を造ろうという試みです。その成果となる「Sparkling sake」が今年初めてリリースされました。音楽とシンクロする仕掛け花火が眼前で見事なSparkling 絵巻を展開させる赤川花火大会の折に鶴岡で買い求めたのが、鶴岡市大山で創業以来、370年の歴史を誇る「出羽ノ雪」銘柄で知られる造り酒屋、渡會本店が手掛けたサイダー風の外見が目を引く「出泡羽酒(しゅっぽうしゅ)」と、酒田市中心部の日吉町に蔵を構える「上喜元」銘柄の酒田酒造による爽やかな青を基調としたラベルの「涼夏(すずか)」という、日本酒らしからぬパッケージの2本です。この事業に参画した浮世絵の美人画が描かれた「くどき上手」で知られる鶴岡市羽黒町の蔵、亀の井酒造の発泡清酒「おしゅん」も目にしましたが、ついルックス重視で選んでしまいました。

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 日本酒の新たな市場を開拓しようと、1998年(平成10)から発泡性の「すず音」を世に問うた一ノ蔵をはじめ、夏場に発泡性のうす濁り酒を手がける蔵元が近年増えています。こうした低アルコールの発泡性うす濁り酒は、酸味を伴った甘口に仕上がる傾向があるため、食中酒としては不向きだったり、若干しつこさを覚えると仰る左党もおいででしょう。一方で辛口のスパークリングワインは、料理との相性が幅広いことは良く知られています。グラスの中で立ち上る細やかな泡はいかにも涼しげです。アペリティーヴォ(食前酒)としてのみならず、夏の食卓を彩るサッパリとした発泡性の日本酒があってもいいはずです。
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【photo】細やかな泡がフルートグラスの中で立ち上る涼夏(上写真)  試験醸造 発泡純米 試験販売之酒とラベルに記された出泡羽酒。「酒」の一文字がなければ、地サイダーと見間違うかも(右写真)

 そこで白羽の矢を立てたのが、低タンパクゆえのスッキリした味わいを持つ酒米・出羽の里で醸した酒を、苦味とコク成分を生み出すという山形県工業技術センターが開発し、特許を取得している「チロソール酵母」で二次発酵させるという手法でした。立ち香は甘さが勝りながらも、口に含むと苦味が入り混じる独特の味が面白い涼夏は9%、一方でキレのよいさっぱりとした甘さを主調としつつ、全くしつこさを感じさせない出泡羽酒は13.5%という、共に低めのアルコール度数。実際に味わったのが、頻繁に出没する庄内で入手した2本だけだったため、地域的に偏りが出てしまいましたが、置賜地域から本プロジェクトに参画した「まほろばの里」高畠町の後藤酒造店が出した「BENTEN」、同町米鶴酒造の「MAHOROBA」ともども、"暑い季節に日本酒なんて・・・"と敬遠していた方にこそお試し頂きたい一本です。
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【photo】米沢と金沢から参加したボランティアの面々

 最後にご紹介するのは、夏季限定ではないものの、以前ご紹介した「鳴子の米プロジェクト」で昨年収穫された鬼首産「ゆきむすび」で仕込んだ「鬼首ロッジのどぶろく」。8月16日(土)・17日(日)の両日、宮城県大崎市鬼首の吹上高原キャンプ場で、ハンデを持った方でも気軽に森林浴が楽しめる間伐材を利用した木道を整備して、森のバリアフリー化を進めようという「宮城・オニコウベやさしい木道(こみち)づくりキャンペーン」のオープニングセレモニーが行われました。岩手・宮城内陸地震で被害を受けた栗駒山の緑を蘇らせようという願いも込めたこのキャンペーンには、同じく地震で大きな被害を受けた旧山古志村能登・輪島の方たちからも復興に向けた応援メッセージが記されたボード材が贈られました。実行委の一人として14日から現地に泊りがけで入り、地元鬼首をはじめ、遠く金沢や輪島、米沢から駆けつけたボランティアの方たちと木道の基礎作りに汗を流しました。そこで夜な夜な「きくゥ~」と言いながら呑んだのが、奥山料理長お手製のどぶろくでした。
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 上澄みだけでなく、しっかりと全体を撹拌すべし、という税務署の指導のもと出されるため、どぶろくには醪(もろみ)がたっぷりと入っています。飲み込むというよりは噛み締めると言ったほうがぴったりのこの酒、発酵しているため、きりっつと冷やした酒器の中でもぶくぶくと泡が出てきます。爽やかな酸味と甘味、そしてビリっとくる芳醇で濃厚な飲み口は、クセになりそう。一枚1,000円で購入頂く善意の木道用のボード板には、趣旨に賛同いただいた方のメッセージやイラストが書き込まれます。私が描いた一枚にはメッセージとともに「どぶろくサイコッー」と小さく書いてあります。木道の整備に協賛頂ける方で、オニコウベ吹上高原にお越しの際は、ぜひ探してみて下さいね。
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【photo】 「ゆきむすび」のどぶろくは、降る雪のような白さ(上写真) 去ろうとしている庄内の夏を萬吉ナスと出泡羽酒で今一度味わった(左写真) 

 冷たい雨がそぼ降る今夜は、鶴岡市湯田川のたった一軒の農家、小田家に代々伝えられてきた在来作物「萬吉ナス」の浅漬けとともに最後の出泡羽酒を頂きました。鶴岡市日枝字小真木に今月オープンしたばかりの「産直こまぎ」で昨日入手した萬吉ナスは、一昨年までは自家消費のみで、いわば門外不出のナスだったといいます。屋号の萬吉からとった名を与えられたこのナスは、特有のアクや癖がなく食味に優れているため、揚げびたしや焼きナスなどさまざまな調理に向きそうです。そういえば産直こまぎでは、サイダー風のラベルと商品名をこまぎオリジナルのものに変えた出泡羽酒が売られていました。バックラベルの記載内容が共通なことから、事の真偽を蔵元に問合せましたが、やはり中身は同じ酒とのこと。

 こうしてまたひとつ、食材の宝庫・庄内の魅力が増したこの夏。華吹雪をオン・ザ・ロックで飲る氷清 田酒、細やかな泡が涼を誘うSparkling sake 出泡羽酒と涼夏、ゆきむすびで仕込んだどぶろくと、涼しげな酒で美味しく楽しく夏を乗り切り、いよいよ食欲の秋・実りの秋に突入です(^¬^)

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2008/03/30

春の雪

「わた雪」は春の淡雪さながら

 東京ではソメイヨシノが満開だという便りが伝わる弥生3月も残すところあと僅かとなりました。とはいえ仙台では冬の名残りの寒い日がここ数日続いています。そんな三寒四温の季節にふさわしい酒を頂きました。

 旧奥州街道を仙台から北に向かって二つ目の宿場町が「富谷宿」。1618年(元和4年)の開宿以降、宿場町の事務・治安管理を任された町役人「検断」を代々勤めたのが内ヶ崎家です。1661年(寛文元年)に内ヶ崎作右衛門が創業したのが「内ヶ崎酒造店」。今年で347年目を迎える宮城県内随一の長い歴史を刻む蔵元です。本家筋の儀左衛門は代々造り酒屋を営んできました。

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 酒の仕込みが行われる季節限定でほんの僅かの本数だけ作られている酒が純米吟醸 鳳陽「わた雪」です。"作られている"と言ってはみたものの、正確には、この酒は作ろうという意図のもとで確実に醸せる酒ではありません。吟醸クラス以上の高級酒用に磨いた酒米を仕込んだ醪(もろみ)を酒粕と酒に分離させる上槽の際、槽(ふね)で搾ったばかりの新酒にはわずかに濁り成分が含まれます。酵母が分解した米と酵母の残滓からなる澱(おり)は、やがてタンク内に沈殿してゆきます。澱の量は搾ってみなければわからず、ほとんどオリが出ない場合もあるのだといいます。そのため、もともと希少な吟醸用タンクから四合瓶で10本もとれないことがほとんどで、極めて希少な酒といえるでしょう。

 今回は、蔵元の妹・内ヶ崎みちさんのご好意で、希少な酒を2本確保できました。バックラベルには精米率45%とあるので、大吟醸クラスの醪から搾ったものです。一本は"袖の下"として店に寄贈した上で、美味しい料理と共にせっかくの美酒を楽しもうと友人と画策。そんなワガママを聞いてくれたのが、仙台のイタリアン「Francesca フランチェスカ」のオーナー鳥山さんでした。パスタとピッツァだけではない良質なイタリア料理の真髄を豊富なラインナップのワインと共に提供していた「Vino il Salotto ヴィーノ・イル・サロット」を一旦閉店。充電期間を経て昨年10月に開店したフランチェスカでは、仙台から青森・津軽までのおよそ310km もの移動を全く厭わせない本場と見まごう完成度のFormaggio(=チーズ)やProsciutto(=生ハム)をはじめとする絶品の"自給自足イタリアン"を食べさせてくれる弘前の「Osteria Enoteca Da Sasino オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ」笹森シェフのもとで修行した原田シェフが腕を揮っています。

 魚介中心に料理はお任せ。繊細な味付けのイタリア料理と鳳陽 わた雪を共に楽しみました。蔵元では、わた雪を「うすにごり」と規定していますが、ワインクーラーで冷やしたわた雪の瓶を静かに揺らしてみると、にごりが思いのほか強いように映ります。火入れ前で酵母が生きているため、watayukibiccheri.jpg 瓶詰め後10日以内に飲み切らなければならないという点も春の淡雪を連想させますね。口に含むと、まず軽く炭酸ガスを感じます。大吟醸もろみの繊細な透き通った甘さが口腔に広がり、ピチピチとした発泡感とともに心地よい余韻を残します。それが消え行くさまは、まさしく春の雪。

 その夜、自宅に持ち帰ったグラス一杯分のわた雪を飲み直しました。日持ちがしない淡雪のような酒だけに、早く飲み切ったほうが良いはずと、ほろ酔いの頭で考えたからです。ヴェネツィアン・グラスの明かりにわた雪をかざしながら改めて一口。
「うまっ!」と、思わずつぶやくのでした。


純米吟醸 鳳陽「わた雪」 
※期間限定・電話注文のみ
問:合資会社 内ヶ崎酒造店 TEL022-358-2026

  http://uchigasaki.com/H20feb.html

 

 

2008/02/25

桶仕込み醪の味わい

隠し蔵「金龍蔵」訪問記

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 2月16日(土)、「みやぎの酒女性応援団」の催しが行われました。"宮城の郷土料理には宮城の地酒を"という、食と酒の地産地消の推進を目的に昨年6月に発足したこの会。Cucina(=食)とVino(=ワイン)が一心同体のイタリアでは共通言語となる「Cucina locale(=地方料理)」の素晴らしさを知る者の一人として、emblem_kinryuu.jpg旗揚げの会【Link to back number】に参加して以来、不本意ながら幽霊会員と化していました。今回は一般に開放していない酒蔵「金龍蔵」を訪れるというので、風邪気味の体をおしてマスク姿で参加しました。

【PHOTO】金龍蔵 純米吟醸のタグに描かれた仕込蔵(右)壁面には「金龍」の印がくっきり(左)軒先に下がる青々とした酒琳が新酒の仕上がりを告げる金龍蔵の門構え(下)。中央奥が仕込蔵、右手奥に土蔵

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 前身となる「糀屋酒造店」の創業が1862年(文久2年)。146年の歴史をもつこの小さな蔵は、岩手・秋田県境とほど近い宮城県内陸北部の栗原市一迫(いちはざま)にあります。栗駒山系の良質な地下水脈に恵まれ、「金龍」銘柄の佳酒を代々生み出してきました。後継者難のために縁戚関係にあった一ノ蔵の傘下となり、「金龍蔵」として再出発したのが1991年(平成3年)9月。2005年(平成17年)からは伊達藩の御用酒蔵だった仙台の勝山酒造で46年間杜氏を勤め、幾多の受賞歴を持つ南部杜氏 照井 丸實(てるいまるみ)氏を迎えて現在に至っています。ちなみにご主人を亡くされた後、4年間蔵を守った佐藤 洋子さんは、姉が嫁いだ一ノ蔵に託した蔵の真向かいで金龍蔵の小売部、糀屋酒造店として現在も金龍蔵の酒を扱っています。

【PHOTO】なまこ壁が見事な土蔵は貯蔵庫として使われている(下)

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 金龍蔵を訪ねたのは、時折にごり酒のように目の前が真っ白になる地吹雪が襲う寒さの厳しい日でした。ご案内頂いた ㈱一ノ蔵の三浦 博光取締役が運転する車は、東北自動車道を築館ICで下車。白銀の世界と化した田園風景の中を流れる一迫川を右手に見ながら走ることしばし、新酒が出来たばかりであることを示す青々とした酒琳(さかばやし/ 杉玉)が下がる門構えの金龍蔵に到着しました。雪が舞う鬱蒼とした杉林に覆われた山を背景に建つ蔵の佇まいは一幅の絵画のよう。

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 かつての文庫蔵で、現在は貯蔵庫として使われている土蔵の破風に描かれた優美な白鶴となまこ壁。切妻の大屋根の仕込蔵の漆喰の軒には黒丸に白抜きで「金龍」の筆文字。平成5年に稼動した近代的な一ノ蔵の本社蔵とは対照的に、金龍蔵は昔ながらの造り酒屋の面影を今に伝えています。

【PHOTO】寒仕込みの時期に訪れた金龍蔵の仕込蔵。およそ二日間、蔵人が寝ずの番をする麹作りに用いる麹蓋が右側に山積みされている。煉瓦の煙突はいまだ現役。すぐ背後には山が迫る

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 農閑期となる毎年11月から4月にかけて南部流の老練な蔵人6人が一つ屋根の下で同じ釜の飯を食べながら酒造りに取り組む金龍蔵。門の右手には、蔵人たちが寝泊りする木造の宿舎が建っています。そこに架かる看板には「伝統の技と心 手づくりの酒」と書かれていました。柔和な笑顔で私たち一行を出迎えて下さったのは、1941年生まれの今年で67歳になる照井杜氏でした。仙台市内の勝山から金龍蔵に移って3年目の杜氏は、「ここは寒いところで・・・」と切り出しました。なんでも仕込蔵の中で氷が張ることもあるのだとか。南西方向を山に囲まれた仕込蔵の内部に下がる温度計は摂氏5度を示していました。

【PHOTO】仕込んで2日目の醪は「蔵の華」の米粒がびっしり(上)隣りあうタンクで同じ精米度合の「美山錦」でも、10日目(左)と12日目(右)では、発酵の進み具合が明らかに異なる

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 居並ぶ仕込みタンクには木製の足場が組まれ、発酵中の醪(もろみ)を上から目にすることができました。盛んに炭酸ガスを発生させる醪からは、呑ん兵衛には堪らない芳香が立ち上ってきます。仕込み作業の経過日数によって、醪の状態が明らかに異なるのが判ります。ササニシキを生んだ宮城県古川農業試験場による初の酒造好適米「蔵の華」の醪は仕込んで2日目。発酵作用によるボコボコとした泡で波立った表面には、55%まで磨かれた米粒の存在がはっきりと確認できます。精米率50%の「美山錦」を仕込んで10日目の醪の表面は、発生する旺盛な泡で凹凸に波打っています。同じ酒米を使って2日仕込が早いタンクの醪は、表面が滑らかに変化し、既に「どぶろく」の趣を湛えていました。「山田錦」を35%まで磨き上げた大吟醸「玄昌」の醪の旨さといったら! その醪が入ったホーロー製のタンクは、この日ご一緒した会の座長を務める外崎 浩子県議と同年齢の私とも同い年。同期生(?)として「Good job!」とエールを送りました。

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【PHOTO】仕込み木桶と醪を見つめる照井杜氏

 伝統的な日本酒造りの現場で使われてきた木桶に替わって、ホーロー製のタンクが日本中の造り酒屋に普及したのは昭和30年代のこと。現在では、ホーローに起こりがちな割れや欠けのリスクが無いエポキシ樹脂やガラス繊維で表面をコーティング(=ライニング)した仕込みタンクやステンレス製が主流になりつつあります。そんな時流の変化のなかで、異彩を放つひとつのタンク、いえ仕込み桶が私の目に留まりました。それはかつて酒造りで使われていた木製の桶でした。無機質のタンクが席巻した今日、酒造用の木桶造りを手掛ける職人は我が国でも数えるほどになりました。そんな希少な木製の仕込み桶が、この山あいにある小さな蔵で使われていました。

【PHOTO】足場が組まれた仕込蔵の内部。ここから美酒が生まれる

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 味噌・醤油・日本酒など、日本の伝統的な発酵食品文化を醸成した立役者は木桶に他なりません。さまざまな微生物が発酵に及ぼす働き。米のデンプン質を糖に変える麹。糖をアルコールに変える酵母。先人は自然界に存在するこうした微生物を上手に活用する術(すべ)を長い歴史の中で見出してきたのです。素材自体が呼吸する木製の桶の内部には、麹や酵母のほかにさまざまな微生物が棲み着きます。その存在が、年ごとに異なる気候や産地の気候風土による微妙な味わいの差異を生んできました。現在も熟成にオーク樽を用いるワイン造りにおける「ヴィンテージ」の概念に近いものだといえば理解しやすいでしょう。こうした人智を超えた発酵の神秘を知るからこそ、日本酒造りの現場では、古来より神を祀ってきたのです。

【PHOTO】日本の発酵食文化を支えてきた木桶。忘れ去られようとしていた木桶に新たな価値を吹き込んだセーラ・マリ・カミングスさん

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 ここ数年、造り手の個性が反映された木桶仕込みの日本酒の良さが見直され、一部の蔵元で桶仕込みの酒が再び作られるようになりました。扱いやすいホーロータンクの登場で駆逐された木桶を使った酒造りの復活には、一人の米国人女性が関わっていました。セーラ・マリ・カミングス。1968年、アメリカ東部ペンシルバニア州生まれの彼女は、1991年からの1年間を交換留学生として関西で過ごします。そこで日本の伝統文化に触れた彼女は、'94年に長野県小布施市の栗菓子製造会社「(株)小布施堂」に就職します。当時、同社の関連会社「桝一市村酒造場」はジリ貧状態にあったといいます。'96年に日本人以外で初の利酒師の資格を取得した彼女が取り組んだのが、伝統的な日本酒造りの原点、木桶仕込みによる酒造りだったのです。古来より木の文化を大切にしてきた日本で途絶えて久しい木桶仕込み。半世紀前に木桶仕込みの経験があった杜氏 遠山 隆吉氏(当時78歳)に働きかけ、'98年から酒造りに取り掛かります。

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 仕込用の木桶は地元で調達ができなかったため、2000年に新潟の桶職人 清水 作治氏(当時70歳)に発注。その酒「白金」を2000年10月に2,000本限定で売り出したところ、たちまち評判を呼び完売。傾きかけていた250年の歴史を持つ蔵は再興への足掛かりを得たのです。セーラさんの情熱に打たれた清水さんは、2000年から一年に一つずつ木桶を仕上げますが、5年後に帰らぬ人となりました。

【PHOTO】職人の手仕事で造られるウッドワーク社の木桶は、近年その需要が高まっている(右)手前が木桶仕込みの醪、奥が「玄昌」の醪。あまりの旨さに一同感激(下)

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 '98年に同社の取締役となったセーラさんは、伝統的な木桶仕込みの酒の復興のため、'02年に「桶仕込み保存会」を立ち上げます。現在では一ノ蔵と「浦霞」銘柄で知られる宮城の「佐浦」を含む全国14都県20の蔵元と食品関連企業、桶屋などが法人会員として参加しています。46年のキャリアを持つ照井杜氏をしても、勝山酒造で醸造責任者を永年務めた父・圓五郎氏の跡を継いだ駆け出しの頃に仕込みの仕上げ段階で木桶を扱ったことがある程度だったといいます。桶仕込み保存会に加盟する酒どころ灘・伏見のお膝元、大阪府堺市にある「(株)ウッドワーク」社製の桶を使って照井杜氏が醸す醪は、ほのかな木の香りが漂い、ほんのりとした酸味と柔らかな甘さが響きあうふくよかな厚みを備えています。円熟の技が冴える造り手の名前通り、"丸み"のある味わい。桶仕込みに挑戦して3回目の醸造年度を迎えたこの冬、既に充分美味しいこの醪がどんな仕上がりになるのか新たな楽しみができました。

【PHOTO】金龍蔵の伏流水は硬度が高いため、タンクで三重にろ過して仕込みに使う

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 "杜氏が好きな食べ物を聞けば、その酒に合う肴がわかるから"と、一行を引率された「仙台の酒屋 浅野」店主・浅野 康城氏が照井杜氏に尋ねると、「刺身」がお好きだとのこと。刺身の薬味にする山葵(ワサビ)が春になると採れるという近場の沢のことや、山菜採りで遭遇した熊を撃退した武勇伝など、お人柄を偲ばせる楽しい話を伺いました。蔵の仕込み水で淹れた日本茶を頂いた後で、その仕込み水を分けてもらえることに。ウッシッシ・・・、これぞ期待通りの展開。硬度が高い強い水ゆえに、仕込み用には、3段階のろ過をかけた上で使用するのだといいます。

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 私を含めペットボトルを持参しなかったメンバーは、洗浄済みの一升瓶に水を詰めて車に積み込みました。風邪気味だったため、仕込み水で打った蕎麦を肴に金龍蔵の酒を楽しもうという夜の部の懇親会は残念ながら不参加。再び三浦取締役の車でJR仙台駅前まで送って頂きましたが、水の入った「一ノ蔵無鑑査」の一升瓶を片手に抱えて地下鉄に乗るハメとなり、呑ん兵衛オヤジさながらの風体で肩身の狭い思いをしなくてはならなかったのでした。
あ~ぁ。

【PHOTO】蔵人によって「一ノ蔵無鑑査」の一升瓶に注がれる仕込み水。口に含むと豊富なミネラルを感じる(右上)

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【PHOTO】佐藤 洋子さんが暖簾を守る「糀屋酒造店」で買い求めた「金龍蔵 純米吟醸」(左上)には照井杜氏の手書きメッセージのタグ(右上)が掛かり、バックラベルでは杜氏がにこやかに笑いかける。

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 糀屋酒造店では、地元栗原市だけで売られ、かつ新酒を仕込むこの時期限定だという「金龍 しぼりたて原酒」も入手しました。「限定」という売り文句には弱い呑ん兵衛心理を見透かされた格好ですね(笑)。照井杜氏が柄杓(ひしゃく)ですくって飲ませてくれた醪のように微量の炭酸ガスを含むこのにごり酒を味わっているうち、不思議と照井杜氏の顔が浮かんでくるのでした。
 また遊びに行きますよ、おんつぁん。
◆糀屋酒造店 : 宮城県栗原市一迫川口字中町5 営:8:30~17:30 不定休 TEL:0228-54-2262 

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2008/02/08

「亀の尾」の故郷の酒

庄内の美味を堪能する会 《中編》

庄内の美味を堪能する会 《前編》 寒中に寒鱈で乾杯 より続き

 大寒の前日1月20日(日)に決行された「庄内の美味を堪能する会」もいよいよ佳境。次なる目的地は、私が密かに仕込んだツアーの隠しテーマ「燗酒と寒鱈のマリアージュ」に向けた伏線となる「鯉川酒造」です。目指すは、田園風景が広がる庄内平野のほぼ中央、山形県東田川郡庄内町。sigkameji.jpg 2005年7月に旧余目町と旧立川町が合併して誕生した町です。そこは私たちが日頃食べているササニシキ・ひとめぼれ・コシヒカリといった優良銘柄米のルーツとなった米「亀ノ尾」の生みの親、阿部 亀治(1868~1928)が生まれた地でもあります。亀治の生家がある同町小出新田から目と鼻の先では、8基の風力発電用の巨大な風車が「日本三大悪風」に数えられる強い局地風「清川ダシ」を受けて回っていました。この一帯は春から秋にかけて、新庄盆地から最上峡を抜けて吹き抜ける寒冷な強風のために、たびたび稲作への深刻な被害を受けてきました。冬場には地吹雪に見舞われるこの地に暮らす人々は、過酷な自然と向き合わねばならなかったのです。

swan.jpg【Photo】近代のコメ作りに偉大な足跡を残した阿部亀治(上写真)一面の雪原と化した庄内平野。この旧藤島地区から旧余目地区にかけては、地吹雪が頻発する地帯。最上川河口から飛来して羽根を休めるオオハクチョウ(下写真)

 その地が冷害に襲われた1893年(明治26年)、青立ちの穂波の中で黄金色の実をつける3本の稲穂をたまたま目にした亀治は、「耐冷性に優れた個体ではないか」と直感し、その稲をもらい受けます。試行錯誤の育種を重ねた4年後に再び襲った冷害の中、亀治の稲は見事に実を結びました。その米は育種に成功した発見者の名をとって亀ノ尾と名付けられます。亀治は評判を聞きつけて籾を求める人々に無償で種籾を分け与えたといいます。

 1905年(明治38年)、東北の太平洋側は天保飢饉以来の大凶作となり、大量の種籾の注文が亀治のもとに寄せられました。亀治は、厳選した種籾一斗分(約18ℓ)を宮城県庁あてに寄贈したのです。優れた耐寒性と早収性、食味から亀ノ尾は東北の主力品種として広く普及してゆきます。現在では日本の穀倉地帯としての役割を担う東北地方も、明治・大正期には、単位あたり収量で16位の山形、20位台後半の宮城・福島以外、青森・秋田・岩手の北東北三県は全国でも最低レベル。凶作時には口減らしをせざるを得なかった東北のコメ作りの歴史は、ひとえに寒さとの闘いであったのです。

KiichiAbe.jpg【Photo】風ぬるむ5月中旬。残雪を頂く鳥海山(右奥)を望む先祖伝来の田に亀の尾を手植えする亀治の曾孫、阿部 喜一さん(左)と奥様のひろ子さん(右)

 その構図を劇的に変えたのが、耐冷性に秀でた亀ノ尾でした。このコメは大正末期の1920年代には19万haあまりに作付け面積を増やし、大正期から昭和十年代にかけて、東北・北陸はおろか、朝鮮半島や台湾にまで普及してゆきます。やがて戦後生まれの耐病性に優れ収量も多い品種に押されて飯米としての作付けが減り、一時は幻の米と言われた亀ノ尾。 漫画「夏子の酒」のモデルとなり、近年では酒米として復権しつつあります。

 その発祥の地・庄内町で1725年(享保10年)に創業した鯉川酒造は、現在も自ら所有する水田で亀の尾(※注)を育て、地元の米にこだわった酒造りを続ける蔵です。年産850石(=153,000ℓ)を醸すこの蔵の11代目となる佐藤 一良社長が目指すのは、米の旨みが凝縮し、適度に熟成した純米の酒。アルコール添加の本醸造酒も需要があるために若干は造るものの、主力はあくまで純米酒。冷やで香りが立つ淡麗な生酒ではなく、理想は複雑な味わいが楽しめる「ぬる燗」で食事を通して楽しめる酒だといいます。 (※注:現在では「亀の尾」と表記する)
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【Photo】鯉川酒造では、蔵に隣接する水田に井戸水を引いて亀の尾を育てている。無農薬栽培のため雑草に覆われた畦に立つ佐藤社長

 鯉川酒造の先代、佐藤 淳一氏が亀治の曾孫にあたる阿部 喜一氏から亀の尾の原種籾を譲り受けたのが1979年(昭和54年)の冬。"亀治爺さんの遺言だから"と、喜一氏は毎年水田の10平米ほどの狭い一角で亀の尾を細々と造り続けてきたのです。その場には後に稼業を継ぐ長男の一良氏も立ち会ったのだそう。蔵の近隣で米作りをしていた当時の杜氏 佐藤 隆氏とともに栽培を始めたのが翌1980年春のこと。初年度の秋は全て種籾用に収穫されました。穂丈が長く倒伏しやすいうえ、化学肥料や農薬が導入される以前の品種だけに、現代の一般的なコメ造りとは異なる亀の尾の栽培には、苦心を重ねたようです。

 無農薬による栽培を軌道に乗せた1981年の翌年2月には亀の尾を混醸した純米酒を世に出します。その年の秋に収穫した亀の尾だけで仕込んだ純米酒が作られたのは、翌1982年春のことでした。その歩みには亀の尾を生んだ郷土の蔵元として、忘れられた米・亀の尾復活にかけた淳一氏の使命感と矜持があったように思えます。こうして地域の伝統に根ざした特色ある酒造りをしていた淳一氏が1993年に急逝します。落胆する間もなく蔵を継いだのが一良氏です。それは氏が前年7月にそれまで11年間勤めた協和発酵工業㈱から実家に戻った矢先のことでした。

2006.7.1attico.jpg【Photo】梅雨期に訪れた鯉川酒造の亀の尾栽培田。冷立稲の中から亀治が発見した3本の稲のDNAを受け継ぐ直系の稲が育つ。「無農薬田の土の色を覚えておいてください」とは社長の弁

 協和発酵在職中にワインアドバイザーの資格を取った一良氏は、ワインの買い付けと営業を担当しました。商談で訪れた欧州のワイナリーで目にしたのが、土壌や気候といった産地のテロワール(≒風土)を反映した結晶ともいうべきブドウへの徹底したこだわりでした。s-2006.7.1jyunmaidaiginjyou.jpg Enologist エノロジスト・Enologo エノロゴ(=醸造家)の技量もさることながら、常に畑でブドウと向き合う Agronomo アグロノモ(=栽培家)の存在が、醸造酒であるワインの品質を決めるのです。いかに腕の良い醸造家でも、品質が悪いブドウから良いワインは造れないのが道理。それは氏が酒造りと表裏一体になった農業の大切さを認識する契機となりました。造り酒屋の跡取りとして、原料となる米に及ぼす土や水の力、いわばテロワールの重要性を肌で感じたのです。かつて清川ダシに苦しめられた農民たちを救ったコメ発祥の地で酒造りをする以上、亀の尾は避けて通れない道筋。契約農家を含め蔵に隣接した自家所有の水田で無農薬で亀の尾を栽培する佐藤社長は、将来的には原料米も全て地元産にしたいと夢を語ります。

【Photo】亀の尾を40%まで磨く贅沢な造りをする「純米大吟醸生原酒 阿部亀治」。繊細な香りを活かすため、中硬度の自家井戸水ではなく鳥海山系の軟水を仕込み水に用いる。郷土の偉人、阿部 亀治に捧げた酒。墨痕鮮やかな揮毫は亀治の曾孫、阿部 喜一氏の手になるもの

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【Photo】仕込みを待つ米は、ほとんどが地元産。庄内町に4町歩以上の契約栽培田がある。中央にうずたかく積まれたのが亀の尾。手前は蒸した米を平らに伸ばした上に麹種をかけた状態。この後、麹室に入れられる

 
 バスで一面雪に覆われた庄内町を走ることしばし。ほどなく黒塀とこんもりとした木立に囲まれた鯉川酒造に到着しました。佐藤社長には、冷たい風のなか、わざわざ蔵の外で迎えて頂きました。築100有余年の歴史と風格を漂わせるお屋敷の座敷で社長のお話を伺いながら、奥様に蔵の仕込み水となる井戸水で点(た)てた抹茶とお茶菓子でおもてなし頂きました。こちらの蔵では、いつもこうして仕込み水の味を確認してもらおうと抹茶とお茶菓子でおもてなし頂きます。凛とした空気が漂う仕込み蔵に移り、契約農家から納められる酒米の90%以上が地元産という米蔵を見せていただきました。酒造好適米として広く高い評価を受ける「山田錦」や、kamijikoujitsu.jpg熟成に耐えるバランスの良さで近年注目を集める秋田生まれの「美郷錦」に加え、特Aランクの優れた食味を持つ「はえぬき」や高級酒用に開発された「出羽燦々」、そして「亀の尾」など地元山形ならではのコメが仕込みを待ち受けています。この冬から杜氏を勤めるという高松 誠吾 製造部長の解説のもと、亀の尾で仕込んだ純米吟醸「亀治好日」を試飲させていただきました。通常は火入れをして味を落ち着かせてから出荷される酒ですが、このしぼりたての生酒は亀の尾特有のほのかな酸味と甘味が入り混じり、炊き立てのご飯のような米の香りが含み香として残ります。燗をつけた食中酒としての旨さをかつて私に知らしめてくれたこの酒、ぜひぬる燗でお試し下さい。

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【Photo】火入れ前のしぼりたて「亀治好日」を試飲。「まだ味が落ち着いていませんが・・」というものの、精米歩合55%の活き活きとした亀の尾の香りが後を引く(上写真)      裸電球の熱で発酵を促すと語る杜氏の高松 誠吾 製造部長。櫂棒(かいぼう)で醪(もろみ)を攪拌すると底に溜まった炭酸ガスがボコボコと抜けてくる(左写真)

 温度管理に細心の注意を払うという発酵中の大吟醸の酒母からは、すでに良い香りが立ち上がってきます。発酵を均一に進めるため、日に2~3回の攪拌は欠かせないといいます。蔵限定の火入れ前の亀治好日を味わえただけでなく、手をかけた造りをする日本酒の奥深い世界を窺い知ることができ、一同感激した面持ちでした。大吟醸特有の華やかな吟醸香を楽しむだけではなく、数年寝かせてから燗にして複雑な味わいを楽しんでほしいというこの蔵では、純米大吟醸のバックヴィンテージをいくつか抱えているようです。この日の夜、食卓を共にした佐藤社長が持参されたのは、まさにそんな秘蔵の一本でした。

 仕込み蔵から再び座敷に戻った私たちを待っていたのは、ぬる燗をつけた「鉄人うすにごり」なる純米吟醸でした。2005年3月に劇場公開された映画、実写版「鉄人28号」の監督、冨樫 森 氏は佐藤社長の高校時代の同級生。1960年代にアニメ放映された横山 光輝原作の「鉄人28号」tetsujinusunigori.jpgのリメイク映画を友人が手掛けるとあって、佐藤社長が一肌脱いで造った酒です。通常は庄内町の契約農家が栽培する酒米「五百万石」から造る酒ですが、私たちが頂いた平成18BYの酒は、五百万石が不作だったため、「出羽燦々」で醸したのだそう。かつて社長も胸躍らせたであろう鉄人の名を冠した酒は無敵の旨さ。淡い粉雪のような濁りはさほど強くはなく、43度の適温に燗をつけた酒は、さらりとした飲み心地。佐藤社長によれば、人間の体温に近いぬる燗の酒は、アルコール吸収のストレスがなく、肝臓が効率的に働くのだそう。仕込み水をチェイサーにすれば、二日酔いなど決してしないのが純米酒の良さでもあるとも断言。世の呑ん兵衛諸氏、純米酒を愛飲しましょうね。(笑)

【Photo】細やかなもろみの粒子が溶け込んだ「鉄人うすにごり」。和風モダンなラベルともども、音楽を愛し、自作した「出羽燦々」のPRソングを持ち前の美声で歌い上げる蔵元の遊び心ある一本

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 蔵元が座敷の障子を開くと、雪に埋もれたお屋敷の庭が目に入ります。重ねる盃は淡い白雪のような「うすにごり」。飲み心地の良さも手伝って、つい長居をしてしまいそうでしたが、ツアーの仕上げとなる「燗酒と寒鱈のマリアージュ」を皆さんに体感いただく時間が迫っていました。とっぷりと日が暮れ、ツルツルのアイスバーンと化した「庄内こばえちゃライン」を時速30キロで向かった先は、鶴岡市のアル・ケッチァーノ。奥田シェフには「寒鱈尽くしで一行を昇天させてね」と頼んでありました。佐藤社長を交えて始まった寒鱈と燗酒の宴はいかなるものだったか? "細工は流々、仕上げを御覧じろ" ということで、詳報は次回庄内の美味を堪能する会 《後編》 「燗酒と寒鱈で乾杯」! (引っ張るなぁ、今回は・・・)  つづく

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2007/06/14

女性酒応援団を応援しよう

旨し食の伴侶に旨し酒あり。

食中酒は食事の楽しさを倍増させてくれます。
イタリアやフランス、中国、そして日本。これら世界に冠たる食文化を持つ国で
ワインや紹興酒・日本酒などの食中酒文化が発達した背景には、
単に空腹を満たすだけではなく、「食事を楽みたい」という人間の英知の積極的な関与がありました。

このほど、宮城県内で日本酒造りに携わっている女性や愛好家らによる
「みやぎの酒女性応援団」が発足するというので、友人からの誘いで、
その応援団の応援に(?)駆けつけました。
とはいえ、開始時間にすっかり遅れてしまったので、そそくさと空いていた
席に潜り込み、隣席の方にあたふたと名刺を差し出すと・・・あれ?
なぁーんだ、食Web研究所の「3人ごはんBlog」の常連客でとしても活躍中
の福田沙織さんじゃありませんか?
ハハハ・・・フードライター同士、行動パターンがどこかで被ってくるんですね。

会の設立趣旨や「酒と食の地産地消」を推し進めるための活動を繰り広げる
という方針の説明は、とうに終わったみたい。
そのため、私にとっては、ただの異業種交流会となった次第。しかも女性だらけ
L(@^▽^@)

素材の味を活かす繊細な味付けがされる日本食には、やはり日本酒が
ピタピタと合います。宮城の郷土の味の再発見。まさに「あるもん探し」。
これからの活動に期待したいですね。

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【PHOTO】蔵の酒を手にする蔵元三人娘(⇒勝手に命名)。
写真右から、㈱佐浦 内海 尚子さん、はさまや酒造店 泉 薫子さん、まるや天賞㈱ 蕪城 文子さん

同会の発起人・浅野酒店店主、浅野康城さんや、会の座長に選ばれた
外崎浩子県議らと連れ立っての飲み直しは、行きつけのEnoteca il Circoloへ。

日本酒応援団の締めだというのに、最後はイタリアワインとなるのだった・・・

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