河北新報

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2006年9月25日

【ネット活用】

著作権切れ

 夏目漱石の「切り抜き帖より」(明治44年、春陽堂)に「好悪と優劣」という文章があります。文学作品に対する評論活動について述べ「好悪」による評価と「優劣」による評価に分けています。「好悪」に基づく評論を「彼の胸に宿った主観的の感じに過ぎない」と断じるなど、骨っぽい文章を味わえます。

 手元に書籍があるわけではありません。国立国会図書館がネットで提供している「近代デジタルライブラリー」を利用しました。キーワード「夏目漱石」で検索するだけで作品一覧が表示されます。作品一覧の中から「切り抜き帖より」を選び「目次情報」を手掛かりに「本文」を読んだのです。「近代デジタルライブラリー」には著作権保護期間が終了した明治期の文学作品など12万7千冊が収容されています。作品そのものを1ページ1ページ画像として保存してあります。コンピューターのディスプレーで実際に本を読む感じで利用できます。画像データを印刷すれば作品から複写したのと同じことになります。

 著作権保護期間の切れた作品をネットで公開している例としては「青空文庫」が有名です。「青空文庫」については、600人ものボランティアが入力と校正作業を続けている点を特筆しなければなりません。著作権保護期間の切れた作品は、ややもすると再出版の機会がないままに埋もれていく可能性があります。「近代デジタルライブラリー」も「青空文庫」も、生まれた背景や仕組みは異なるものの、日本人の貴重な文化資産に光を当て続ける試みです。目立たないけれども長く利用されている商品の売り上げ合計が、爆発的に売れている一部のヒット商品の売上高よりも多いという「ロングテール」現象を文化芸術の分野で実現する仕掛けといえばいいでしょうか。

 一方、最近の著作権論議の中で文学作品などの保護期間を50年から70年に延ばす動きがあります。欧米では「70年」が主流になりつつあるためだそうです。古い作品群が無条件に公開されると、プライバシーの侵害などが懸念される場合も考えられるので、その危険性をなるべく減らす狙いもあるようです。

 「青空文庫」の富田倫生さんは「全書籍電子化計画と著作権保護期間の行方」という文章の中で「『作者の死語50年で著作権を切る』という、著作権法が用意した仕組みに生命を吹き込んでくださった皆さんに、心からのお礼を、あらためて申し上げたい」と書いています。著作権の保護期間が50年から70年になると「青空文庫」で公開済みの作品が公開できなくなる可能性があります。

 法律の範囲の中で進められてきた先駆的な取り組みを無視すべきではありません。「近代デジタルライブラリー」の収容作品数にも、大きな影響を及ぼす問題でもあります。欧米との横並びを安易に考えるのではなく、保護期間を延長してまで守るべき利益が具体的にどのようなものなのか、個別対応は本当に難しいのかどうかなど、幅広い議論を進めてほしいものです。

投稿者 yoyu : 2006年9月25日 15:19