河北新報

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2011年6月14日

【ソーシャル, 新聞&ネット】

災害FM局「あおぞら」 宮城県亘理町

aozora01.jpg 宮城県亘理町が運営している災害臨時FM局「あおぞら」を訪問しました。東日本大震災を機にスタートした臨時のFM局の一つです。電気やネットが断絶しても携帯用のラジオなら電池さえあれば使えます。暗闇の中でも使える端末として、そのリテラシー障壁の低さをあらためて認識すべきです。地方に由来する新聞社のネット部門からラジオとネットの連携を考えたい。ひいては新聞、ネット、ラジオを意識的に組み合わせた情報ネットワークづくりにつながらないか。そんなことを考えながら訪問した「あおぞら」の現場は、十分に示唆的で刺激的でした。

 4月22日現在、災害FM局は東北地方に23局、宮城県には11局あります。「あおぞらは」亘理町長が放送局長になって開局している自治体営です。3月24日の開局以来、12人の市民ボランティアが連日、交代で、被災者の立場に立った情報提供を続けています。情報提供の時間帯は午前8時、10時、正午、午後2時、4時、6時の6回。役場広報からのお知らせや町内放送で流す緊急放送を同じ内容で流す重要な役割もあります。「あおぞら」の取材スタッフが独自に取材して流す情報も多く、地域に根差している感じが強く伝わってきます。

 「あおぞら」を運営しているグループの女性代表、吉田圭さんらは全員がボランティアで、放送に携わった経験はないそうです。放送機材は新潟県の市民FM局から借りました。

 「隣町の山元町に災害FM局『りんご』が3月21日に開局しました。それを3日間手伝ってみて、わたしたちの町にも被災者のためになる放送局が必要だと思いました。『りんご』の人たちが応援してくれたこともあって、3月23日に町長に提案し、翌24日には開局しました」

 「あおぞら」は救援物資の提供や町内の飲食店の開店情報、イベントなど、被災者の暮らしに直接かかわる情報を提供し続けています。大きなメディアの守備範囲からは、ややもすると漏れてしまいかねない情報ですが、地元の被災者にとってはひとつひとつが暮らしに直接かかわります。重要なのは必要な情報なら何回でも読み上げられること。「一度取材した」「新聞で既に同じような話題を取り上げた」などの理由で、ニュースバリューが落ちることもありません。

 亘理町では役場庁舎が地震のために利用できなくなりました。「あおぞら」のスタジオは庁舎前に作られた仮設のプレハブ庁舎の一角にあります。スタジオスペースはおとな3人がやっと動けるほど。小なりといえども、電波で情報を広く提供するマスメディアですが、視聴者=住民との距離が限りなく近いメディアであることは確かです。

 たとえば、地震から3カ月たった6月11日には、主要メディアが一斉に特別の編成となりました。その報道が解説的、俯瞰的、総括的になる中で、「あおぞら」は「月命日」の悲しみに静かに向き合っているように見えました。

 「きょうは月命日なので、亡くなった方のお名前を一人ひとり読み上げます。午後1時半からですよ」。地震から3カ月たった6月11日、苫米地サトロさんがマイクの向こうにいる大勢の被災者に語りかけていました。

 町内の福祉施設職員である苫米地さんはシンガーソングライターでもあります。ステージで観客に語りかけるノリといったら失礼になるでしょうか。放送用の原稿をあらかじめ作ることはせずに、多方面から寄せられた資料を手にしながら、ゆっくり読み上げる姿が印象的でした。

 プロのアナウンサーではないところが逆に親しみやすい調子を生み出していました。アナウンスの合間にかける音楽も、被災者の気持ちを理解している人ならではの優しさと、静かな悲しみに満ちた曲が多いように思えました。

 被災体験を共有できていれば、6月11日が3月11日の「月命日」であることは普通に分かることでもあります。「命日」にはどんな放送が必要なのでしょう。簡単に結論は出ないテーマですが、ひたすら犠牲者の名前を読み上げる報道には地域に向き合う心と必然性を感じました。

 吉田さんは「最初は不安でした。FM局を立ち上げても、そのことを町内の誰も知らないところから始めるわけですから。でも不思議なことに、実際にやってみると、次第に広がっていくんです」と話しています。「PRのためにインターネットも活用しています。ネットの場合は、助けてほしいとか、必要なものがあると書くと、それらを持っている人たちが直接連絡してくれます」

 ラジオが必要だとアピールすると、ラジオを大量に寄付してくれる企業が現れ、必要な人に無料で渡すことができました。「あおぞら」のスタジオには今でも住民が訪れ、ラジオを受け取っていきます。「あおぞら」のスタッフはその人の被災体験をじっくり聞き取り、何か困っていることはないかと確認しています。

 「あおぞら」は地域にこだわる小さなサイズの放送ではありますが、地域しか見えない閉鎖的な取り組みではありません。スタート当初から先輩FM局のサポートがあったように、市民FMの世界ならではの共感に基づく、外部とのネットワークが前提になっています。インターネットも効果的に使い、外に開きながらの地域展開である点が重要です。「あおぞら」同様、地域に由来するメディアとして、地方新聞社そのネットワークに連なるとしたら、果たしてどのような形がありえるのでしょうか。

投稿者 yoyu : 2011年6月14日 11:35