河北新報

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2012年7月 6日

【ソーシャル, 新聞&ネット】

NY・タイムズ東京支局長の新聞論 「『本当のこと』を伝えない日本の新聞」

japan_paper.jpg 「『本当のこと』を伝えない日本の新聞」(双葉新書)は、日本での取材経験12年の米国人ジャーナリスト、マーティン・ファクラーさん=ニューヨーク・タイムズ東京支局長=が本音で語る、日本の新聞への問題提起だ。ファクラーさんの日本の新聞を思う気持ちといらだちは、東日本大震災の取材を通してますます強固に、かつ厳しくなったように見える。本書に示されている論点の数々は、日本の地方新聞社で育ち、東日本大震災をネット分野の責任者として迎えた立場では、読み通すのが困難なほどに苦くて重い。同時に地域に由来するメディアの可能性を新聞のありようとして位置付ける視点には心を動かされる。この種の提案が外からの視線で語られてしまうことに内心忸怩たるものを感じるのも確かだが、まずは自らの現場でできることを探すことが重要だ。

 ファクラーさんは米アイオワ州出身。ブルームバーグ東京支局、AP通信社ニューヨーク本社、北京支局などを経て2005年からニューヨーク・タイムズ東京支局で活動している。

 2011年3月11日の東日本大震災発生当時、東京・有楽町にいたファクラーさんは支給されていたイリジウム衛星携帯電話で「東京で非常に強い地震が起きて首都は大混乱している」とニューヨークの本社に送信した。翌12日朝には被災地に車で向かい、13日夜には仙台市内の避難所や役所で取材、送信している。

 ファクラーさんの日本の新聞に対する批判は、日本での長いジャーナリスト体験に裏付けられている。いずれも具体的なもので、「第2章 情報寡占組織・記者クラブ」「第3章 かくもおかしい新聞」「第4章 ジャーナリストがいない国」に詳しい。最終章「日本の新聞 生き残りの道」では、ソーシャルメディアとジャーナリズムの関係や米国の新聞社のネット戦略について解説したうえで「生き残り」のためのポイントとして「信頼性とニュースバリュー」を上げ、以下のように述べている。

 「3・11の原発事故後、日本の既存メディアの報道に危機感を抱いた人々は、ネットを使ってニューヨーク・タイムズなど海外メディアの情報を収集した。その情報は、ツイッターなどのソーシャルメディアによりどんどん拡散していった。日本のメディアを取り巻く現状を端的に示した出来事だったように思う。記者クラブメディアは信用できないが、かといって信頼に値するブランドをもったネットメディアは(まだ)ない。原発事故の恐怖のなか、藁にもすがる思いで情報を得ようとした結果、海外メディアのサイトにたどり着いたのだろう」(かっこ内は筆者)

 ファクラーさんはまた、3・11後、「脱原発」を掲げた報道で知られる東京新聞に「オンリーワンメディアとしての可能性」を見出し、独自の視点、独自の切り口で調査報道に取り組む「地方紙にこそ大きなチャンスがある」と強調している。「河北新報や琉球新報はその地方のニュースに重点を置き、東京に拠点を置く東京新聞が政治のニュースに力を入れるといった大胆な棲み分けをしてもいい。ストレートニュースは、共同通信や時事通信のような通信社に任せてしまう。全国紙が手掛けない長期にわたる調査記事を地方紙が書き、新しいネットメディアを通じて全国に発信すれば、他の地域に住む新たな読者が生まれるはずだ」

 蛇足として付け加えれば、ファクラーさんは東日本大震災における河北新報社の報道について、新聞、ネット、出版各分野の取り組みをバランスよく紹介してくれている。とりわけ長い間、担当してきたネット分野の試行錯誤を単なるネット分野の議論ではなく、日本の新聞のあるべき論にきっちり位置づけている点はうれしい。ファクラーさん同様に、現場なりの確信はある。本音を言えば、本格的な新聞論の形で先に提示された悔しさは残る。やや長くなるが、自戒をこめて引用する。

 「(河北新報は)3・11をめぐる報道では地元住民の息遣いが聞こえてくるニュースを数多く発信し、いくつもの素晴らしい調査報道記事を載せて全国的にその存在感を示した」

 「河北新報はネットの活用に実に積極的だ。5年前から市民参加の地域SNS『ふらっと』を運営し、地域情報の発信やコミュニティづくりに力をいれている。過去記事のデータベース検索も個人から企業向けまで充実している。また、3・11を経験し、フェイスブックに『つむぐ 震災を超えて』を立ち上げたり、iPadやスマートフォン、携帯向けに編集された月額制ニュース配信『震災前へ』を始めるなど、意欲が見える」

 「日本にはまだ信頼とブランド力のある新聞社のウェブサイトが存在しない。人々がニュースを見るのは、ヤフーなどのポータルサイトが中心だ。ブログやソーシャルメディアも、発展の過渡期だ。はっきりした答えがないいまだからこそ、地方紙にとって大きなチャンスが訪れている」

投稿者 yoyu : 2012年7月 6日 11:44