河北新報

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2012年8月20日

【ソーシャル, 新聞&ネット】

「災害弱者と情報弱者」 震災報道3カ月の分析

jouho_jakusha.jpg.JPG 東日本大震災の報道に関する分析がさまざまに試みられるようになってきました。「災害弱者と情報弱者」(筑摩選書)は、新聞メディア(全国紙)とウェブメディア(ヤフートピックス、ブログ、ツイッターなど)が震災後3カ月の間に報道した内容を詳細に分析し、主に「多様性」の観点から評価しています。早稲田大学大学院政治学研究科准教授の田中幹人さん、総合研究大学院大学先導科学研究科助教標葉隆馬さん、(株)キャリアブレイン勤務丸山紀一朗さんの共著です。

 第3章「震災後3カ月間の情報多様性」では、それぞれのメディアにおいて「震災・津波といった震災そのものに関連した情報を扱う割合」が時間の経過とともにどう変化していったかが述べられています。それによると、新聞の場合、震災発生直後は、震災報道が全報道の87%を占め、3カ月たっても65%を占めていました。それに対して、ウェブメディアは発生直後1カ月は、新聞と同等の割合でしたが、その後急速に低下し、3カ月過ぎて20%前後になっています。

 震災報道の低下傾向はすべてのメディアに言える現象だった点に注意が必要です。特にウェブメディアは「震災および原発事故を『忘れやすく』、早く日常に戻ろうとする傾向」がうかがえました。

 一般的に「ウェブ上には(伝統的メディアよりも)多様な言論が存在した」と言われることがありますが、震災報道に関する今回の定量分析では「取り上げられたトピックスのレベルでは必ずしも多様ではなく、むしろ新聞のほうが概ね多様であった」そうです。以下、関連部分を引用します。

 もっとも注目すべきことは、一般に「未加工」や「無編集」ゆえに「多様性が高い」と捉えられがちなソーシャルメディアは、それ単体では多様でなく、むしろそれら市井の声を整理し、編集したと考えられる新聞の情報が、(たとえばトピックなどのレベルでは)多様である場合の方は多かった点です。自然状態に近いツイッターやトゥギャッターの多様性が、新聞などを上回ることは、基本的にありませんでした。
 ウェブの中でもヤフートピックス、ブログ、トゥギャッター、ツイッターの順に概ね多様でした。このことからは、メディアの中で「私たちはいま、何を議論すべきか」というメタな視点に基づいた、ジャーナリズム的な情報の編集行為が一定程度介在したほうが、多様になり得る可能性を示していると言えます。

 調査対象となっている新聞が全国紙に限られていること、報道内容の分析にとどまり、受け手の側に関する分析が含まれていないこと-など、今後の研究に期待したい部分はあります。全体として東日本大震災に関する報道の全容、多様なメディアがそれぞれに果たした役割がよく浮き彫りになっています。

 終章の「私たちが持つべき視点」の獲得に向けて、も参考になりました。震災報道の定量分析で浮かび上がったメディア特性を正確に認識しながら、メディア論、ジャーナリズム論を次の局面に進めたいというのが、田中さんらのメッセージです。震災被災地の新聞社でネット報道の現場を担ってきた経験でも、社会全体が危機に陥るような大災害で「情報弱者」を出さないためには、メディアとしての特色をいたずらに強調するのではなく、多様な特性を生かした、異なるメディアの連携に向かうべきです。その意味で、最終章で田中さんらが強調する観点の一つ「いま議論すべきこと」は誰が決める?-議題設定と議題構築」はメディア関係者が参照すべき、重要な基礎テキストといっていいと思います。

投稿者 yoyu : 2012年8月20日 11:50