河北新報

« 被災地と学生を結ぶインターン/地域メディアの役割を模索 | メイン | あらためてソーシャルメディア »

2012年9月 5日

【ソーシャル, 新聞&ネット】

アーカイブの新しい展開/「311情報学」

johogaku.jpg 「311情報学 メディアは何を伝えたか」(岩波書店)は、東日本大震災に際して、テレビや新聞、ネットなどによって大量に生み出され、消費された情報を実証的に分析し、全体像を理解するための見取り図を提案しています。報道の成果であり、メディア各社の収益源と位置づけられているアーカイブ(データベース)のありようも含めた画期的なメディア論になっています。特に地域に由来するメディアの今後の地域戦略を考えるうえで、非常に新鮮で可能性に満ちた視点が注目されます。

 「311情報学」は国立情報学研究所教授で「連想情報学」を提唱している高野明彦さんを代表者に、東大大学院情報学環教授の吉見俊哉さん(社会学・文化研究、メディア研究)、独立行政法人防災科学技術研究所客員研究員の三浦伸也さん(社会学・社会情報学)が執筆しています。

 「第1章 311情報学序説」で吉見さんは日常生活圏、マスメディア圏、インターネット圏、専門家圏、行政機構圏-の5つの情報圏を提示、各情報圏から出力される情報を全体として把握し、理解・活用可能な環境として「アーカイブ」の重要性を強調しています。

 アーカイブはこれまでは各メディアが独自・閉鎖的な仕組みとして運用してきました。メディア間の連携もないに等しい状況です。「311」では地域的な情報の偏在が指摘されました。特に原発事故では、東京電力、政府など原子力関連組織の、事実上の情報隠しがあったうえ、メディアに登場する専門家の意見があまりに多様で、何が正しい情報なのかをめぐる混乱が生じました。報道の責任が問われてもいます。

 そうした経緯を踏まえながらアーカイブを社会的な「共通知」として位置付け、緊急時の社会的理解をサポートする環境として充実させられないかというのが「311情報学」のポイントの一つです。報道機関としての新聞社の活動は、取材を入口として執筆、新聞やウェブでの出版と続きます。アーカイブは報道活動の成果として位置づけられ、デジタル化以前の新聞記事や写真資料は新聞社がすべて管理しています。データベースビジネスとしての展開もあります。個人や団体の権利との調整という、大きな問題にも配慮する必要があります。

 この点について高野さんは注目すべき発言をしています。以下に引用します。

 守るべき権利があるとすれば、むしろコミュニティにあるはずです。コミュニティの記憶はコミュニティに返す。(NHKの)「のど自慢大会」はその地域に返す。サービスはユビキタスでどこまでも展開できるので、「のど自慢」大会はNHK放送センターではなくてその地域コミュニティに行けば見られるようにするのがまっとうだと思います。記録されている記憶は、もともと発生した場所に返していくようにデザインし直すと、コミュニティの記憶庫になります。そこに自由に出入りすることで、正しい記憶の回復につながります。

 吉見さんも「5つの情報圏」が相互に作用し合うことで生まれた大量の情報や「百年、千年の単位で過去に向かう時間軸」は、単なる歴史資料の保存の観点ではなく、「むしろ東北沿岸の町々の次世代による再生に向けての地域づくりや人づくりという集団的な実践のなかでこそ構想されていかなければならない」と強調しています。

 高野さんらのアーカイブ論は、広く地域に由来するメディアとしての地域戦略に関連すると思われます。長い間、地域とともに歩んできた地域メディアに対して、地域との協働の場面を新たに提案しています。ブログやSNS、ツイッター、フェイスブックなどのソーシャルメディアを活用しながら地域との関係の再構築に取り掛かっている実務の現場にとっても刺激になるはずです。

 「記録されている記憶」を「もともと発生した場所に返していくようにデザインし直す」とはどういうことなのか。現場に携わってきた一人としてさまざまなアイデアが浮かぶところです。高野氏は「NHKアーカイブスとか『河北新報』の記事などをコミュニティが共有するスキームができるといいですね」と踏み込み、国の仕事である「震災のデジタル・アーカイブ事業とそれらをシームレスにつなげて、同じフレームに入れていくこと」が、これからの公共的な記憶術」と述べています。

 「311情報学」には、311関連のテレビ報道に関する詳細な分析が盛り込まれています。ニュース報道の時系列の推移、情報の偏在について分析しています。分析には国立情報学研究所の「テレビアーカイブシステム」を利用しています。「テレビアーカイブシステム」は、テレビ番組でアナウンサーやゲストの発言を文字情報として蓄積・保存、検索可能にしてあります。三浦さんが分析を担当しています。 これも必見です。

投稿者 yoyu : 2012年9月 5日 10:43