河北新報

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2012年9月28日

【ソーシャル, 新聞&ネット】

地方新聞社SNSの事例分析

ronbun02.jpg 地方新聞社7社のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)についての論文を読む機会がありました。「『地域ジャーナリズム』という事業-SNSに取り組んだ地方紙7社への調査から」です。東京大学大学院学際情報学府の畑中哲雄さんと同大学大学院情報学環教授の林香里さんが執筆しています。国立民族学博物館の調査報告「情報化時代のローカルコミュニティ-ICTを活用した地域ネットワークの構築-」(杉本星子編)に収められています。畑仲さんらの問題意識は、地方新聞社が何のためにSNSを導入し、「地域ジャーナリズム」との関連で何を目標としているか-にあります。新聞社がITあるいはICTを活用する動きは、インターネット以前のパソコン通信時代からあるわけですが、畑仲さんらが提起するポイントでは、目立った成果はありません。オンラインやインターネットが持つ本質的な意味をジャーナリズムのありようと関連付ける努力が決定的に欠けていました。ICT時代における日本の新聞界最大のウィークポイントと言ってもいいでしょう。

 畑仲さんらは「構造的不況下にある日本の地方新聞社が運営するSNSの全体像」を把握することを目指しています。前例のない貴重な調査で、各社の実務現場にかかわっている者の視界を広げてくれます。調査は2010年4月上旬から中旬にかけて行われました。日本の新聞社がツイッターやフェイスブックを本格導入する直前です。その後に起きた東日本大震災の影響も合わせて、新聞社のソーシャル展開前夜の状況をとらえた研究でもあります。

 調査対象のSNSは「ひびのコミュニティ」(佐賀新聞社)、「ふらっと」(河北新報社)、「あめかご.net」(新潟日報社)、「みんなで子育て応援団」(四国新聞社)、「みかん」(紀伊民報社)、「commit」(秋田魁新報社)、「カナココ」(神奈川新聞社)です。一部、運営を休止している事例もあります。

 畑仲さんらは「ジャーナリズム」と「コミュニティ」を対比的に用いながら、地方紙のSNS現場に迫っています。その結果、「担当者の多くが『ジャーナリズム』よりも『コミュニティの活性化』に重点を置き、自らの役割を権力監視者watchdogではなく、コミュニケーションを通じて人の暮らしを手助けするgood neighborと認識していることが確認できた」と結論づけています。地方新聞社のSNS運営は試行錯誤が続いているのであり、「ジャーナリズム」か「コミュニティ」かをいきなり問われるのは、正直、つらいものがあります。

 その前提を置いて言えば、重要なのは明らかにジャーナリズムです。「コミュニティ」だけを意識した情報サービスの類は、インターネット以前、パソコン通信時代に日本の多くの新聞社が手掛け、失敗しています。新聞発行以外の収益の道を確保する意味では、古くて新しい問題です。しかし、ブログ、SNSから始まりフェイスブックまでたどりついたソーシャルメディアは、個人や組織のありようを根底から変えようとしているのであり、その伸長に対応するにはICTを利用する上での根幹部分の議論が必要です。新聞社ならジャーナリズムや報道理念との関連を抜きにしては進めません。

 畑仲さんらは地方紙のSNSについて以下のような問いを投げ掛けています。(その後の状況を考慮すれば、ここで言う「SNS」を「ソーシャルメディア」に読み替えるのが妥当だと思います)

 「(SNSを利用するのは)いったいどういう理由からであろうか」
 「SNSを通じて何を達成しようとしているのであろうか」
 「それらはジャーナリズムにどのようなイノベーションをもたらしうるのであろうか」
 「こうした試みをすることによって、各地方紙は『地域ジャーナリズム』という役割や自己定義についてなんらかの変更や修正を加えているのだろうか」

 以上のような問いを設定したうえで、畑仲さんらは仮説を提示しています。アカデミズム特有の「速度違反」的な論理展開のような気もしますが、少なくとも河北新報のソーシャルメディア展開の目標とは合致しているので、最後に紹介します。

 「対象新聞社はコミュニカティブなジャーナリズムを志向しているのではないか」

【河北新報の地域SNS「ふらっと」の場合】

 畑仲さんらも分析の中で触れているように、河北新報のSNS「ふらっと」に他の事例との違いがあるとすれば、新しい形の「ジャーナリズム」を強く意識してきた点にあります。少なくとも、地方新聞社のICT活用から「ジャーナリズム」の要素を捨て去ることに意義があるとは思えません。

 一方、マスメディア的な流儀のジャーナリズムだけでは思うにまかせなくなっています。特に河北新報社のような地域に由来する新聞社が、これからも「地域」に由来するスタイルを維持しようと思うなら、ICT時代の「コミュニティ」への接近は不可欠です。インターネットが社会的な環境として急速に広がる中で、マスメディアと個人あるいは社会との関係が根底から変わりつつあります。ICT時代のコミュニティーへの接近は、その変容をしっかりキャッチし、ソーシャルメディアを含めたICT時代のジャーナリズムの形を模索する上で必須の取り組みです。

 SNSといういささか大がかりすぎる仕組みは既に反省期に入っています。必要な改修は始まっています。ソーシャルメディアの世界も、現状が続くとは思えません。まだまだ変化することでしょう。ツールやシステムの変化に右往左往しないためには、ICT時代の根幹部分を支える芯が必要です。河北新報社のような地域に由来する新聞社の場合、それこそがコミュニティーへの接近であり、新しい環境の新しいジャーナリズムを模索する試みです。

 マスメディア的な流儀しか知らないわれわれが、初めから有効な対応策を打ち出せるとは思いません。ただ、変化しつつある個人、社会との関係の再構築に向けて、新聞社の側からチャンネルづくり、ネットワークづくりに乗り出すことは必要条件でしょう。SNSの運営には、従来型のマスメディア的流儀を単純に適応できないので、手間がかかるし、迷いも多いのですが、ICTの特徴を最大限に生かしたチャンネルづくり、ネットワークづくりのために、新聞社の仕事に携わる者がどう動けばいいのかを、少しずつ教えてくれます。その試行錯誤の先には、個人、社会との関係の再構築、ひいては地域に由来する新聞社の役割=ジャーナリズムの担い手としての新しいスタイルがあるのだと思うのです。

投稿者 yoyu : 2012年9月28日 12:01