河北新報

« 地方新聞社SNSの事例分析 | メイン | ハイパーローカル始めました »

2012年12月 3日

【ソーシャル, 新聞&ネット】

「デジタル・ストーリーテリング」の現場

media03.jpg 東大大学院情報学環の水越伸教授らのグループが「デジタル・ストーリーテリング」という名の活動に取り組んでいます。「デジタル」という言葉から、いわゆるマルチメディア系の動画やソーシャルメディアなどを活用した最新の取り組みを想像しましたが、「デジタル・ストーリーテリング」は、静止画(普通の写真)と音声を組み合わせて2分程度の作品を作るという、実に簡単なものでした。仕掛けは簡単ながら、仕事や暮らしの中で日々生まれる多様な価値観や行動の記録を情報として引き出し、情報の受け手との間に親密なコミュニケーション空間を作り上げるパワーを秘めています。

 「デジタル・ストーリーテリング」は、愛知淑徳大学メディアプロデュース学部准教授の小川明子さんが中心になって取り組んでいる「メディア・コンテ」というプロジェクトの中で行われています。小川さんや全国の大学の関係者らがチームを組んで、パートナーとなり、高齢者や子どもたち、学生、在日外国人が暮らしの中で感じた事柄を約2分間のショート―スーリーにするのをサポートする活動です。

 「メディア・コンテ」のウェブサイトはこちら

 2012年12月1日、宮城県名取市にある尚絅学院大学で開かれた「メディア・コンテ」に参加、取材しました。この日は、福島県いわき市にある東日本国際大の学生が東日本大震災後に作成した作品と、尚絅学院大の学生が作った作品を上映し、相互に評価し合いました。

 学生たちが作った作品は、それぞれ一人あるいは二人のパートナーのサポートを受けて作られました。「デジタル・ストーリーテリング」の知識・経験のある研究者が学生と話をしながら作品のテーマやストーリーの組み立て、使用する素材などを決めます。静止画10枚程度をつなぎ合わせ、音声を重ねます。

 学生たちの作品は想像以上に多彩でした。作り手の個性がストレートに表れるのは当然ですが、本人の肉声で語られる事情や関心が、若者らしい(あるいは若者らしくない)、一筋縄ではいかない調子で語られていました。大人の目で見るからか、突っ込みどころ満載で、作り手と話をしてみたい衝動にかられる作品も数多くありました。

 ある作品では、震災の津波で家を失い、今は避難先で暮らしている学生が、慣れない土地に戸惑いながらも、「『元の土地に帰りたい、帰ろう』という声があるけれども、自分は第2の家がある、この新しい土地で暮らす」と決意していました。

 「被災して深刻な状態にある人の苦しみを、自分が分かるとは言わない。分かるはずがない」と告白する作品では「でも、震災で受けたわたしの痛みは、誰にも分からないと思う。分かってほしくない」と言い放つのでした。

 大好きな国、韓国への旅行を間近にして、領土に絡む日韓問題が起き、大幅に予定を変更しなければならなかった学生の作品。「だいぶ不安だったけれど、行ってみればみんな優しかった。ホームステーステイでもよくしてもらえた。メディアのせいで揺らいだわたしの気持ち。本当にばかだったなあ」と言い切っています。

 学生たちとパートナーを務めた大学の関係者らのやりとりを見ていると、わずか2分の作品ではあるけれども、それを作り上げるためにパートナーとの間で行われるやりとりが非常に重要です。パートナーはインタビュアー、編集者、技術面のサポーターとして、幅広い役割を果たすようです。情報発信者である学生にとっては、表現にかかわる基礎的な知識や表現者としての立場の作り方、ストーリー展開など、身に着けることは多いはずです。
media02.jpg
 「デジタル・ストーリーテリング」がさらに重要なのは、情報を発信する人と、その作品を見る人たち=情報の受け手との間、あるいは受け手同士のコミュニケーションの契機になる点です。わずか2分の作品ですが、コミュニケーションの場づくりがおそらく無限に広がりそうです。

 仮に新聞記者が地域に入り込んで「パートナー」の役割を果たすとしたらどんな形がありえるでしょうか。ソーシャルメディアをうまく使いながら「パートナー」の役割を果たすことで、取材のレベルが上がるかもしれません。報道機関の役割として伝統的に期待されてきた議題設定機能やフォーラムの運営などに結び付く可能性があるように思います。

 たとえば2分間でニュースや記者の考えを伝えるコンテンツを写真と音声だけで作り上げるとしたら、どうでしょうか。何かとハードルの高いマルチメディア対応をもっと身近にするかもしれません。

 「デジタル・ストーリーテリング」の現場で起きる事柄は、マスメディア的に情報を発信する振る舞いと、どのあたりから違ってくるのでしょう。ものごと、できごとを多様な素材や逸話を使いながら伝えていく「ストーリーテリング(お話、語りもの)」の力は、本来、報道に携わる人にとっても必要なはずです。新聞社も関心を示すようになってきたソーシャルメディアを活用したメディア展開との接点もどこかにありそうな予感がします。あまり急ぎすぎてはいけないので、じっくり考えることにしましょう。

 小川明子准教授の話 「現在名古屋では障がい者のかたとの2回目の実践を行っています。とっても楽しくて、私自身がものすごく変わりました。物語を交わすというのは、情報を交わすのと違う、深くて、楽しい試みだと思っています」
 

投稿者 yoyu : 2012年12月 3日 15:00