短歌(7/12掲載)

【佐藤 成晃 選】

===

玄関に夏・夏・夏を歌う靴不揃いだけど家族っていいな   多賀城市八幡/佐藤久嘉

【評】玄関の土間に転がっている家族の色とりどりの靴を見ながら作者の胸に去来した心情はどんなことだっただろうか。「行儀が悪い」などと言うことではなかったはず。「家族の良さ」だった。結句で「家族っていいな」と作者が答えを言ってしまったので作品の深さが失われてしまったことが惜しい。家族みんなの元気な靴を見ての感想は、読者の方で間違いなく読んでくれるはず。「家族とりどりに」くらいで止めてしまってもいいのではないだろうか。

===

稜線に居並ぶ風車ろうろうと原発論を下に見ながら   石巻市恵み野/木村譲

【評】三陸道の東松島市から石巻市方面を見ると上品上空を風車が占めている眺めが迫ってくる。「自然の力を利用した発電だろう。一方、巷(ちまた)では原子力発電論が熱を帯びてきた。3.11で運転中止に追い込まれた日本中の原発の再稼働の時期が迫ってきているからだ。風車が「ろうろうと」原発論を下に見ながらに作者の考えがあるのだろうか。巷の原発論が政治的な経済中心の発言に成りやすいことを危惧しての発言なのかも知れない。

===

今しばし短歌(うた)に縋りて生きなんと寂光のため海を呼びおり   石巻市駅前北通り/津田 調作

【評】「ぜんまいののの字ばかりの寂光土」(川端茅舎)を想像しながら鑑賞を試みたい。下の句がやや難しい。見渡す限り一面のゼンマイを前にしての一句だろう。そこはまるで極楽浄土に見えたのかも知れない。作者は今上品山ののどかな眺めに感動しながらも、そこへ若い日の海をもって来たかったのだろうか。それでこそ作者の浄土が完成するのだとでも言いたいのだろうかなどと想像しながら読んでみた。が別解を何度でも試みたい魅力ある作品だ。

===

小鳥メに先駆け摘まむブルーベリー露けき小藪に今朝二十粒   石巻市向陽町/後藤信子

【評】露にしとどに濡れながらブルーベリーを摘んだ作者の動きの見える作品だ。すがすがしい紫の玉。「二十」などの具体的な数字を示した分、作品の内容が具体的に迫ってくるような気がしてならない。

===

くちびるに含むぐい呑み甘辛し新酒の香り貫入浮かぶ   石巻市門脇/佐々木一夫

手の甲に大河のごとく動脈が生きてる証し誇示するような   石巻市不動町/新沼勝夫

メンテナンスしつつ今年で八十四(歳)栄養過多か小太りの我   石巻市羽黒町/松村千枝子

三密を見張りて玄関に鎮座する監視のアルコール門番なりや   東松島市赤井/茄子川保弘

友がらと会う喜びを絶つコロナマスク外して畦道に立つ   石巻市桃生/千葉小夜子

上品山に群をなしつつ牛たちは我が子育てる若草の中   東松島市矢本/奥田和衛

夏至来たり変らぬ太陽昇り来て部分が食まれぬ日暮れとなりて   東松島市矢本/川崎淑子

同級生の友の絵手紙紫陽花の花青々と咲(ひら)ける葉書   石巻市桃生/三浦多喜夫

縁側に大風呂敷を広げおり香りただよう蕗のすじ取り   石巻市大門町/三條順子

ベビーカーの三度目となるおさんぽに人目に会える通り選びぬ   石巻市大門町/三條順子

誰か背を押すよな日々の遠くなり週に一度の締め切りの箍(たが)   石巻市開北/星ゆき

早朝に洗面に使う手ぬぐいの乾くことなく梅雨は更けゆく   女川町/阿部重夫

自分よりひどき身体の人もおり自己憐憫の我を戒む   東松島市野蒜/山崎清美

才たけて暇もてあそぶシニアにはAIが命ツギノシジマチ   石巻市桃生/佐藤俊幸

子らからは何も届かず父の日は朝から酒を浴びほど呑む   石巻市三股/浮津文好

まばらなる白髪して虫歯なき八十路の妹踵(きびす)のやさし   石巻市蛇田/千葉冨士枝