短歌(7/26掲載)

【佐藤 成晃 選】

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北海道ときどき映る天気図の帯広あたり二歳の曾孫(ひまご)   石巻市恵み野/木村譲

【評】天気図の隅っこに映る北海道の釧路の町。そこに可愛い曾孫がいるのだ。この作品で目を引くのは「曾孫が可愛い」とは書かないことだ。「ときどきの天気図」と言い「釧路の町」でもって曾孫の可愛いさを言おうとして計算されているのだろうか。作者が「曾孫が可愛い」などと自分から言うのであれば読者はそっぽを向いてしまうことを作者は十分に知った上でのことである。肉親への愛情表現は難しい。自分の心情を隠すことからはじめなければならないからだ。

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八月は子、孫、曾孫の生まれ月何故に重なる夫逝きし月   石巻市中央/千葉とみ子

【評】八月は家族の誕生が重なるめでたい「月」だ。紅い印のついた「誕生」お祝いが続くカレンダーの中に、不吉なことでもあるかのごとく黒か青で夫の命日の印が残っていたのだろうか。「誕生」と「逝去」では家族の心情としては真逆のことではあるが我々読者からすると自然の取り合わせでもあるのだ。先祖があっての子孫繁栄の面でも家族にとっては十分な話題の源でもあるし、ぜひこの際おじいさんのことを話題にしてほしいものだ。作者の狙いはここにあったのかも知れない。

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行き過ぎて次の信号右折すれば異次元のごとき世界広がる   石巻市流留/大槻洋子

【評】「右折」は好みではないが、知らない街で信号を見落としてしまって不本意ながら次の信号で右折することが何回かはあったような気がする。運転手には経験上頭の中にそれなりの地図があっての右折だったが、一旦曲がってしまうと、「異次元のごとき世界」と言いたいほど、予想外の町が展開したりするものだ。そこが団地などでなく、昔の地形が残っている古い町だったりするとこのような体験をしてしまうのではないだろうか。歌にしにくい場面をよく作品化したことに拍手を送りたいし、読者の大半が「俺にも経験がある」と声を出しているのではないか。

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梅雨空に彩(いろど)り弾む子らの傘通りの紫陽花(あじさい)競うがごとくに   石巻市蛇田/菅野勇

再開せし捕鯨船団の遠い灯は金華山あたりかしけの海行く   女川町/阿部重夫

緑濃くヨシ群生の追波川遠くに浮かぶシジミ漁船   石巻市水押/佐藤洋子

今日もまた妻の料理に飲みながらコップ片手に茜を送る   石巻市駅前北通り/津田調作

琴線(きんせん)に触れる言葉の優しさに何度も何度も読み返す手紙(ふみ)   石巻市丸井戸/高橋栄子

主役降り脇役端役(はやく)観客と楽しみ幕ひく叔父に喝采   東松島市赤井/佐々木スヅ子

九十九大学(つくもだいがく)開講式に集まれどマスクと無言の92分   石巻市南中里/中山くに子

なにがなし後に生まれて先に逝く順番通りゆかぬ現(うつつ)は   石巻市駅前北通り/庄司邦生

深緑のうぐいす聴くやあしひきの山里ちかき庵の裏山   石巻市三股/浮津文好

菩提寺を福島に置き義理の息子(こ)は十年にしてここを本籍とす   石巻市開北/星のり子

水槽のあまたのグッピー真夜中はそれぞれの位置で動かず眠る   石巻市渡波町/小林照子

残鶯の鳴き声耳に柔らかしやさしき磯波(なみ)が大洋(うみ)にいざなふ   東松島市矢本/川崎淑子

少しなら飲んでもよいと医師は言う一緒に飲もうと写真の夫に   石巻市高木/鶴岡敏子

ふるさとの小ぶりな枇杷の十個ほど含めば酸味が口中走る   仙台市青葉区/岩渕節子

滴れる欅の葉群そよぐたび小さな赤い鳥居隠れる   石巻市桃生/佐藤国代